(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】溶接線検出方法およびこれを使用する自動溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/127 20060101AFI20241002BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B23K9/127 508B
G01B11/00 H
(21)【出願番号】P 2021145074
(22)【出願日】2021-09-07
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 光亮
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 要輔
(72)【発明者】
【氏名】中谷 光良
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-277844(JP,A)
【文献】特開2000-24777(JP,A)
【文献】特開平2-21202(JP,A)
【文献】特開平10-80768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1母材の面および第2母材の面から形成される角部に、少なくとも初めの溶接ビードおよび次の溶接ビードを有する、一層または多層盛りの隅肉溶接を施工する際に、溶接線を検出する溶接線検出方法であって、
前記角部を撮影する撮影工程と、
前記撮影で得られた画像の輝度に基づいて、前記溶接線を仮検出する仮検出工程と、
前記仮検出された溶接線から、前記初めの溶接ビードから次の溶接ビードにずれる方向であるY軸方向に設定された範囲と、当該Y軸方向の反対方向に設定された範囲とで本検出範囲を設定する本検出範囲設定工程と、
前記本検出範囲において、前記溶接線を本検出する本検出工程とを備え、
前記本検出範囲設定工程が、
[1]前記溶接線に沿って形成する溶接ビードが隅肉溶接における各層の初めのものである各層初ビードの場合、前記仮検出された溶接線から、前記Y軸方向よりもY軸方向の反対方向に短い範囲を本検出範囲として設定し、
[2]前記溶接線に沿って形成する溶接ビードが隅肉溶接における各層初ビード以外の場合、前記仮検出された溶接線から、前記Y軸方向よりもY軸方向の反対方向に長い範囲を本検出範囲として設定し、
前記本検出工程が、
[1]前記溶接線に沿って形成する溶接ビードが各層初ビードの場合、前記本検出範囲において、前記輝度がY軸方向に一次微分された値の最大値となる箇所を溶接線として本検出し、
[2]前記溶接線に沿って形成する溶接ビードが各層初ビード以外の場合、前記本検出範囲において、前記輝度がY軸方向に一次微分された値の最小値となる箇所を溶接線として本検出する工程であることを特徴とする溶接線検出方法。
【請求項2】
仮検出工程が、
想定される溶接線から、Y軸方向に設定された範囲と、当該Y軸方向の反対方向に設定された範囲とで仮検出範囲を設定し、
前記仮検出範囲において、輝度の最小値となる箇所を溶接線として仮検出する工程であることを特徴とする請求項1に記載の溶接線検出方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の溶接線検出方法と、
溶接ビードを形成する装置から溶接線検出方法で検出された溶接線までの距離を算出する移動距離算出工程と、
前記移動距離算出工程で算出された距離に基づいて、前記溶接ビードを形成する装置を溶接線まで移動させる移動工程と、
前記移動工程で溶接線まで移動した溶接ビードを形成する装置により、自動で溶接ビードを形成する自動溶接工程とを備えることを特徴とする自動溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の溶接ビードを重ねる隅肉溶接を施工する際の溶接線検出方法およびこれを使用する自動溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動溶接方法では、溶接ビードを形成しようとする位置、つまり溶接線を検出する必要がある。溶接線を検出する装置として、母材を撮影し、撮影された母材における画像の明暗から溶接線を検出する溶接線検出装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。当該特許文献1に記載の溶接線検出装置では、検出した溶接線を適切に補正することで、精度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1に記載の溶接線検出装置は、当該特許文献1の第1図および第2図から明らかなように、溶接ビードが形成されていない母材を前提とし、すなわち、既に溶接ビードが形成された母材を前提としていない。このため、前記特許文献1に記載の溶接線検出装置は、既に溶接ビードが形成された母材に使用されれば、既に形成された溶接ビードの影響により、精度の低い溶接線を検出するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、複数の溶接ビードを形成する隅肉溶接においても、高精度に溶接線を検出し得る溶接線検出方法およびこれを使用する自動溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、第1の発明に係る溶接線検出方法は、第1母材の面および第2母材の面から形成される角部に、少なくとも初めの溶接ビードおよび次の溶接ビードを有する、一層または多層盛りの隅肉溶接を施工する際に、溶接線を検出する溶接線検出方法であって、
前記角部を撮影する撮影工程と、
前記撮影で得られた画像の輝度に基づいて、前記溶接線を仮検出する仮検出工程と、
前記仮検出された溶接線から、前記初めの溶接ビードから次の溶接ビードにずれる方向であるY軸方向に設定された範囲と、当該Y軸方向の反対方向に設定された範囲とで本検出範囲を設定する本検出範囲設定工程と、
前記本検出範囲において、前記溶接線を本検出する本検出工程とを備え、
前記本検出範囲設定工程が、
[1]前記溶接線に沿って形成する溶接ビードが隅肉溶接における各層の初めのものである各層初ビードの場合、前記仮検出された溶接線から、前記Y軸方向よりもY軸方向の反対方向に短い範囲を本検出範囲として設定し、
[2]前記溶接線に沿って形成する溶接ビードが隅肉溶接における各層初ビード以外の場合、前記仮検出された溶接線から、前記Y軸方向よりもY軸方向の反対方向に長い範囲を本検出範囲として設定し、
前記本検出工程が、
[1]前記溶接線に沿って形成する溶接ビードが各層初ビードの場合、前記本検出範囲において、前記輝度がY軸方向に一次微分された値の最大値となる箇所を溶接線として本検出し、
[2]前記溶接線に沿って形成する溶接ビードが各層初ビード以外の場合、前記本検出範囲において、前記輝度がY軸方向に一次微分された値の最小値となる箇所を溶接線として本検出する工程である。
【0007】
また、第2の発明に係る溶接線検出方法は、第1の発明に係る溶接線検出方法における仮検出工程が、
想定される溶接線から、Y軸方向に設定された範囲と、当該Y軸方向の反対方向に設定された範囲とで仮検出範囲を設定し、
前記仮検出範囲において、輝度の最小値となる箇所を溶接線として仮検出する工程である。
【0008】
さらに、第3の発明に係る自動溶接方法は、第1または第2の発明に係る溶接線検出方法と、
溶接ビードを形成する装置から溶接線検出方法で検出された溶接線までの距離を算出する移動距離算出工程と、
前記移動距離算出工程で算出された距離に基づいて、前記溶接ビードを形成する装置を溶接線まで移動させる移動工程と、
前記移動工程で溶接線まで移動した溶接ビードを形成する装置により、自動で溶接ビードを形成する自動溶接工程とを備える方法である。
【発明の効果】
【0009】
前記溶接線検出方法によると、複数の溶接ビードを形成する隅肉溶接においても、高精度に溶接線を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る溶接線検出方法で使用する溶接ロボットと当該溶接ロボットにより隅肉溶接が施工される角部との概略斜視図である。
【
図2】溶接ロボットおよび角部の側面図であり、角部に形成される溶接ビードを破線で示す。
【
図3】初めの溶接ビードが形成される前の角部を溶接ロボットのデジタルカメラで撮影した画像を示す写真である。
【
図4】初めの溶接ビードが形成された角部を溶接ロボットのデジタルカメラで撮影した画像を示す写真である。
【
図5】上段が
図3の画像から切り抜かれた領域、中段が当該領域の輝度を示すグラフ、および、下段が輝度の一次微分を示すグラフである。
【
図6】上段が
図4の画像から切り抜かれた領域、中段が当該領域の輝度を示すグラフ、および、下段が輝度の一次微分を示すグラフである。
【
図7】第1ビードおよび第5ビードについての輝度の一次微分を説明するためのグラフである。
【
図8】第2ビードおよび第6ビードについての輝度の一次微分を説明するためのグラフである。
【
図10】溶接ロボットおよび角部の位置関係を示す側面図である。
【
図11】自動溶接方法で使用される自動溶接システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る溶接線検出方法について説明し、その後、当該溶接線検出方法を使用する自動溶接方法について図面に基づき説明する。
【0012】
まず、前記溶接線検出方法が使用される前提について説明する。
【0013】
図1に示すように、前記溶接線検出方法は、例えば、重ねて配置された筒身1(第1母材の一例)および当板2(第2母材の一例)に隅肉溶接を施工する際に使用される。前記隅肉溶接の施工には、例えば、入力された指示に従って溶接ビードを形成していく溶接ロボット40が使用される。なお、以下では、前記筒身1から当板2への板厚方向をY軸方向として説明する。このY軸方向は、初めの溶接ビードから次の溶接ビードにずれる方向となる。
【0014】
前記溶接ロボット40は、溶接トーチ41と、当該溶接トーチ41に取り付けられたデジタルカメラ43とを有する。前記溶接トーチ41は、溶接ワイヤ42を送出しながら溶融させることで、溶接ビードを形成するものである。前記デジタルカメラ43は、レンズ44を有する。また、前記デジタルカメラ43は、撮影により電子的に画像を得るカメラであれば特に制限されないが、CMOSカメラまたはCCDカメラなどであり、費用の面からCMOSカメラが好ましい。
【0015】
図2に示すように、前記隅肉溶接が施工される場所は、具体的に、前記筒身1の外面10と、当該筒身1の外面10に重ねられた当板2の端面20とから形成される、角部10,20である。以下、前記当板2の端面20において、前記筒身1側のエッジを内側エッジ21と言い、前記筒身1とは反対側のエッジを外側エッジ22と言う。前記隅肉溶接の施工として、前記溶接トーチ41により形成される溶接ビードは、複数重ねられる。
図2に示す例では、前記隅肉溶接の施工として、13本の溶接ビードが
図2で付された数字の順に形成される。以下、N番目に形成される溶接ビードを第Nビードと称する。第1ビード(初めの溶接ビード)から第2ビード(次の溶接ビード)の方向は、前記Y軸方向となる。前記隅肉溶接は、一層盛りでもよく、多層盛りでもよく、
図2に示す例だと6層盛りL1~L6である。
図2に示す例では、第1ビード~第4ビードが第1層L1を構成し、第5ビード~第7ビードが第2層L2を構成し、第8ビードおよび第9ビードが第3層L3を構成し、第10ビードおよび第11ビードが第4層L4を構成し、第12ビードが第5層L5を構成し、第13ビードが第6層L6を構成する。以下、各層の初めの溶接ビードを、各層初ビードと称する。
図2に示す例だと、各層初ビードは、第1層L1での初めの溶接ビードである第1ビード、第2層L2での初めの溶接ビードである第5ビード、第3層L3での初めの溶接ビードである第8ビード、第4層L4での初めの溶接ビードである第10ビード、第5層L5での初めの溶接ビードである第12ビード、第6層L6での初めの溶接ビードである第13ビードである。
【0016】
図2に示すように、前記第1層L1での各層初ビード(第1ビード)を形成するための溶接線は、前記筒身1と当板2との内側エッジ21,W1である。前記第1層L1での各層初ビード以外の溶接ビード(第2ビード~第4ビード)を形成するための溶接線は、それぞれ直前の溶接ビード(第1ビード~第3ビード)と当板2との境界W2~W4である。前記第1層L1以外での各層初ビード(第5ビード、第8ビード、第10ビード、第12ビードおよび第13ビード)を形成するための溶接線は、前記筒身1と非直前の溶接ビード(第1ビード、第5ビード、第8ビード、第10ビードおよび第12ビード)との境界W5,W8,W10,W12,W13である。前記第1層L1以外での各層初ビード以外の溶接ビード(第6ビード、第7ビード、第9ビードおよび第11ビード)を形成するための溶接線は、それぞれ直前の溶接ビード(第5ビード、第6ビード、第8ビードおよび第10ビード)と非直前の溶接ビード(第2ビード、第3ビード、第6ビードおよび第9ビード)との境界W6,W7,W9,W11である。
[溶接線検出方法]
【0017】
以下、前記溶接線検出方法について詳細に説明する。
【0018】
前記溶接線検出方法は、前記角部10,20(筒身1の外面10および当板2の端面20)を撮影する撮影工程を備える。当該撮影工程による撮影は、例えば、前記デジタルカメラ43により行われる。ここで、
図3は、第1ビードの溶接線を検出するための撮影で得られた画像である。
図3に示される画像から明らかなように、前記当板2の端面20には、溶接ビードが形成されていない。一方で、
図4は、第2ビードの溶接線を検出するための撮影で得られた画像である。
図4に示される画像から明らかなように、前記当板2の端面20には、既に第1ビード11が形成されている。
図3および
図4に示すように、前記撮影で得られた画像は、前記当板2の端面20における内側エッジ21および外側エッジ22が含まれる領域30で切り抜かれる。なお、
図3および
図4に示すY軸は、
図1および
図2に示すY軸をデジタルカメラ43で撮影したものであるから、
図1および
図2に示すY軸を斜め上から見下ろしたものとなる。
【0019】
前記溶接線検出方法は、さらに、前記撮影で得られた画像の輝度に基づいて、前記溶接線を仮検出する仮検出工程を備える。具体的には、
図3および
図4で切り抜かれた領域30の画像を、紙面に垂直な軸を中心にして90°反時計回りに回転させる(
図5および
図6の各上段に示す画像を参照)。このため、
図3および
図4では、内側エッジ21が紙面上側かつ外側エッジ22が紙面下側となるのに対し、
図5および
図6の各上段では、内側エッジ21が紙面左側かつ外側エッジ22が紙面右側となる。
図5および
図6の各上段に示す画像の各白矢印(Y軸に平行)における輝度を、
図5および
図6の各中段のグラフで示す。
【0020】
図5および
図6の各中段に示すグラフは、
図5および
図6の各上段に示す画像の各白矢印における輝度の生データをそのまま用いてもよく、当該生データをノイズ処理してから用いてもよい。当該ノイズ処理の例としては、Y軸方向に複数点(例えば3点)の移動平均などが挙げられる。
図5および
図6の各中段に示すグラフから溶接線を仮検出するには、Y軸方向において仮検出範囲4,5を設定する。当該仮検出範囲4,5は、想定される溶接線31からYが大きくなる方向でのプラス側仮検出範囲4と、前記想定される溶接線31からYが小さくなる方向へのマイナス側仮検出範囲5とからなる。前記想定される溶接線31は、各層初ビード(例えば第1ビード)が対象の場合、
図5に示すように、前記当板2の端面20における内側エッジ21であり、各層初ビード以外(例えば第2ビード)が対象の場合、
図6に示すように、直前の溶接ビード(例えば第1ビード)の溶接線32に対象となる溶接ビード(例えば第2ビード)の脚長33をY軸方向に加えた位置である。前記仮検出範囲4,5は、各層初ビード(例えば第1ビード)が対象の場合、
図5に示すように、プラス側仮検出範囲4をマイナス側仮検出範囲5以下に設定することが好ましい。また、前記仮検出範囲4,5は、各層初ビード以外(例えば第2ビード)が対象の場合、
図6に示すように、プラス側仮検出範囲4をマイナス側仮検出範囲5以上に設定することが好ましい。前記仮検出工程では、
図5および
図6の各中段に示すように、設定された仮検出範囲4,5において、輝度が最も小さくなる箇所を溶接線として仮検出する。なお、前記仮検出範囲4,5は、対象となる溶接ビードの幅に比例させることが好ましい。一例として、
図5および
図6に示すプラス側仮検出範囲4およびマイナス側仮検出範囲5のうち、長い方(
図5だとマイナス側仮検出範囲5、
図6だとプラス側仮検出範囲4)の具体的な範囲が、対象となる溶接ビードの幅の30%以上70%以下(より好ましくは、40%以上60%以下)、短い方(
図5だとプラス側仮検出範囲4、
図6だとマイナス側仮検出範囲5)の具体的な範囲が、対象となる溶接ビードの幅の10%以上長い方の範囲以下(より好ましくは、20%以上長い方の範囲以下)である。また、他の例として、例えば対象となる溶接ビードの幅が80ピクセルの場合、長い方の具体的な範囲の例が30ピクセル以上50ピクセル以下、短い方の具体的な範囲の例が15ピクセル以上40ピクセル以下である。
【0021】
前記溶接線検出方法は、さらに、前記溶接線を本検出するための範囲、つまり、本検出範囲6,7を設定する本検出範囲6,7設定工程を備える。当該本検出範囲6,7は、前記仮検出された溶接線からYが大きくなる方向へのプラス側本検出範囲6と、前記仮検出された溶接線からYが小さくなる方向へのマイナス側本検出範囲7とからなる。また、前記本検出範囲6,7は、各層初ビード(例えば第1ビード)が対象の場合、
図5に示すように、プラス側本検出範囲6をマイナス側本検出範囲7超に設定し、各層初ビード以外(例えば第2ビード)が対象の場合、
図6に示すように、プラス側本検出範囲6をマイナス側本検出範囲7未満に設定する。
図5および
図6に示すように、前記本検出範囲6,7は、前記仮検出範囲4,5よりも狭く設定される。なお、前記本検出範囲6,7は、対象となる溶接ビードの幅に比例させることが好ましい。一例として、
図5および
図6に示すプラス側仮検出範囲6およびマイナス側仮検出範囲7のうち、長い方(
図5だとマイナス側仮検出範囲6、
図6だとプラス側仮検出範囲7)の具体的な範囲が、対象となる溶接ビードの幅の15%以上50%以下(より好ましくは、20%以上40%以下)、短い方(
図5だとプラス側仮検出範囲7、
図6だとマイナス側仮検出範囲6)の具体的な範囲が、対象となる溶接ビードの幅の5%以上長い方の範囲以下(より好ましくは、5%以上20%以下)である。また、他の例として、例えば対象となる溶接ビードの幅が80ピクセルの場合、
図5および
図6に示すプラス側本検出範囲6およびマイナス側本検出範囲7のうち、長い方の具体的な範囲の例が15ピクセル以上30ピクセル以下、短い方の具体的な範囲の例が5ピクセル以上15ピクセル以下である。
【0022】
図5および
図6の各中段に示すグラフの輝度をYで一次微分したもの(以下、輝度の一次微分という)を、
図5および
図6の各下段にグラフで示す。前記溶接線検出方法では、設定された本検出範囲6,7において、各層初ビード(例えば1ビード)が対象の場合であれば、
図5の下段に示すように、輝度の一次微分が最も大きくなる箇所を溶接線として本検出する。一方で、前記溶接線検出方法では、設定された本検出範囲6,7において、各層初ビード以外(例えば第2ビード)が対象の場合であれば、
図6の下段に示すように、輝度の一次微分が最も小さくなる箇所を溶接線として本検出する。
【0023】
ところで、
図5に示すように、第1ビードが対象の場合、当板2の端面20における外側エッジ22を仮検出するためのエッジ用仮検出範囲8を設定する。
図5の中段に示すように、設定されたエッジ用仮検出範囲8において、輝度が最も大きくなる箇所を外側エッジ22として仮検出する。仮検出された外側エッジ22から、Yが大きくなる方向および小さくなる方向へのエッジ用仮検出範囲9を設定する。当該エッジ用仮検出範囲9は、前記エッジ用仮検出範囲8よりも狭く設定される。設定されたエッジ用仮検出範囲9において、輝度の一次微分が最も小さくなる箇所を外側エッジ22として本検出する。外側エッジ22の位置は不変なので、第2ビード以降が対象の場合、改めて外側エッジ22を仮検出した後に本検出することなく、既に第1ビードが対象の場合で本検出された外側エッジ22を使用する。
【0024】
ここで、輝度の一次微分から溶接線を本検出する箇所が、各層初ビードが対象の場合と、各層初ビード以外が対象の場合とで異なるとして説明したが、その理由を以下に説明する。
【0025】
図7および
図8に示すように、輝度は、小さい方から順に、ギャップ(筒身1と当板2との隙間)、母材(筒身1または当板2)、非直前ビード(対象とする溶接ビードの直前より前の溶接ビード)、および、直前ビード(対象とする溶接ビードの直前の溶接ビード)となる。
【0026】
まず、
図2および
図7に示すように、各層初ビードのうち第1ビードが対象の場合、溶接線W1をY軸方向に横切ると、ギャップから輝度のより大きい母材(正確には当板2の端面20)に至る。このため、各層初ビードのうち第1ビードが対象の場合、溶接線W1でのY軸方向における輝度の変化は上昇(つまり正の傾き)となるので、輝度の一次微分も正になる。また、各層初ビードのうち第1ビード以外(例えば第5ビード)が対象の場合、溶接線W5をY軸方向に横切ると、母材(正確には筒身1の外面10)から輝度のより大きい非直前ビード(例えば第1ビード)に至る。このため、各層初ビードのうち第1ビード以外(例えば第5ビード)が対象の場合、溶接線W5でのY軸方向における輝度の変化は上昇(つまり正の傾き)となるので、輝度の一次微分も正になる。したがって、各層初ビードが対象の場合、設定された本検出範囲6,7において、輝度の一次微分が最も大きくなる箇所を溶接線として本検出する。
【0027】
次に、
図2および
図8に示すように、各層初ビード以外のうち第1層L1の溶接ビード(例えば第2ビード)が対象の場合、溶接線W2をY軸方向に横切ると、直前ビード(例えば第1ビード)から輝度のより小さい母材(正確には当板2の端面20)に至る。このため、各層初ビード以外のうち第1層L1の溶接ビード(例えば第2ビード)が対象の場合、溶接線W2でのY軸方向における輝度の変化は下降(つまり負の傾き)となるので、輝度の一次微分も負になる。また、各層初ビード以外のうち第1層L1以外の溶接ビード(例えば第6ビード)が対象の場合、溶接線W6をY軸方向に横切ると、直前ビード(例えば第5ビード)から輝度のより小さい非直前ビード(例えば第2ビード)に至る。このため、各層初ビード以外のうち第1層L1以外の溶接ビード(例えば第6ビード)が対象の場合、溶接線W6でのY軸方向における輝度の変化は下降(つまり負の傾き)となるので、輝度の一次微分も負になる。したがって、各層初ビード以外が対象の場合、設定された本検出範囲6,7において、輝度の一次微分が最も小さくなる箇所を溶接線として本検出する。
【0028】
このように、前記溶接線検出方法によると、溶接線を仮検出した後に、対象とする溶接ビードを各層初ビードと各層初ビード以外とに場合分けして、本検出範囲6,7の設定および溶接線の本検出をするので、複数の溶接ビードを形成する隅肉溶接においても、高精度に溶接線を検出することができる。
[自動溶接方法]
【0029】
以下、前記溶接線検出方法を使用する自動溶接方法について詳細に説明する。
【0030】
図9に示すように、前記自動溶接方法101は、前記溶接線検出方法51と、移動距離算出工程61と、移動工程71と、自動溶接工程72とを備える。
【0031】
前記移動距離算出工程61は、前記溶接トーチ41(溶接線を形成する装置)から溶接線までの必要な移動距離(以下、必要移動距離という)を算出する工程である。前記移動工程71は、算出された必要移動距離に基づいて、前記溶接トーチ41を溶接線まで移動させる工程である。前記自動溶接工程72は、前記溶接線まで移動した溶接トーチ41により、自動で溶接ビードを形成する工程である。
【0032】
図10に示すように、前記移動距離算出工程61で算出される必要移動距離は、前記デジタルカメラ43から溶接線W1までの距離D1+D2(以下、第1距離D1+D2)と、前記溶接トーチ41からデジタルカメラ43までの距離d1+d2(以下、第2距離d1+d2)とからなる。このため、前記移動距離算出工程61では、前記第1距離D1+D2を算出してから、既知である第2距離d1+d2に加算する。
【0033】
前記第1距離D1+D2は、前記デジタルカメラ43の撮影軸A方向の距離である奥行距離D1と、当該撮影軸A方向に直交する距離である平面距離D2とからなる。前記奥行距離D1および平面距離D2は、それぞれ次の式(1)および式(2)から算出される。
D1=(F・T1・P)/(S・Pt)・・・・・(1)
D2=(D1・S・Pd2)/(F・P)・・・・・(2)
【0034】
ここで、前記式(1)および式(2)のF,T1,P,S,PtおよびPd2は、次の通りである。
F:デジタルカメラ43が有するレンズ44の焦点距離
T1:デジタルカメラ43から視た当板2の板厚Tにおける実寸
P:平面距離D2に平行な方向でのデジタルカメラ43の画素数
S:平面距離D2に平行な方向でのデジタルカメラ43のセンササイズ
Pt:デジタルカメラ43から視た当板2の板厚Tにおける画素数
Pd2:デジタルカメラ43から視た平面距離D2における画素数
【0035】
なお、F(デジタルカメラ43が有するレンズ44の焦点距離)、P(平面距離D2に平行な方向でのデジタルカメラ43の画素数)、および、S(平面距離D2に平行な方向でのデジタルカメラ43のセンササイズ)は、デジタルカメラ43およびレンズ44の仕様から得られる。T1(デジタルカメラ43から視た当板2の板厚Tにおける実寸)は、当板2の板厚T、および、当板2の端面20とデジタルカメラ43の撮影軸Aとの角度θから、三角関数により算出される。Pt(デジタルカメラ43から視た当板2の板厚Tにおける画素数)は、本検出された溶接線W1(第1ビードが対象)と外側エッジ22との間の画素数から得られる。Pd2(デジタルカメラ43から視た平面距離D2における画素数)は、撮影により得られた画像の中心(撮影軸A)と本検出された溶接線との間の画素数から得られる。前記式(1)および式(2)において、F,T1,S,D1およびD2は、同じ単位(例えば[mm])である。
【0036】
次に、前記自動溶接方法101を使用する自動溶接システムについて説明する。
【0037】
図11に示すように、前記自動溶接システム100は、前記溶接線検出方法51を使用する装置として、前記デジタルカメラ43および溶接トーチ41を有する溶接ロボット40と、前記撮影により得られた画像から溶接線を検出するパーソナルコンピュータ50とを備える。また、前記自動溶接システム100は、前記必要移動距離を算出するPLC60(プログラマブルロジックコントローラ)と、前記必要移動距離に基づいて溶接ロボット40に溶接トーチ41を溶接線まで移動させるロボット制御盤70とを備える。
【0038】
以下、前記自動溶接システム100の動作について説明する。
【0039】
図11に示すように、前記溶接ロボット40のデジタルカメラ43が、前記筒身1の外面10および当板2の端面20を撮影する。当該撮影により得られた画像が、データとしてパーソナルコンピュータ50に送信される。
【0040】
当該パーソナルコンピュータ50では、前記画像から溶接線が仮検出の後に本検出される。また、前記パーソナルコンピュータ50では、第1ビードが対象の場合、外側エッジ22も仮検出の後に本検出される。
【0041】
前記PLC60には、前記式(1)および(2)に必要な情報がパーソナルコンピュータ50から入力される。前記必要な情報、つまり、前記パーソナルコンピュータ50からPLC60に入力される情報は、具体的に、前記デジタルカメラ43およびレンズ44の仕様、当板2の板厚T、当板2の端面20とデジタルカメラ43の撮影軸Aとの角度θ、本検出された溶接線W1(第1ビードが対象)と外側エッジ22との間の画素数、画像の中心(撮影軸A)と本検出された溶接線W1(第1ビードが対象)との間の画素数、および、第2距離d1+d2である。そして、前記PLC60は、前記式(1)および式(2)により、前記第1距離D1+D2を算出し、当該第1距離D1+D2を第2距離d1+d2に加えることで、必要移動距離を算出する。
【0042】
前記ロボット制御盤70は、前記必要移動距離に基づいて溶接ロボット40に溶接トーチ41を溶接線まで移動させた後、溶接ロボット40に溶接ビードを形成させる。
【0043】
以下、前記自動溶接方法101を
図12に示すフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0044】
図12に示すように、デジタルカメラ43による撮影に適した位置(以下、撮影位置)まで、溶接ロボット40のデジタルカメラ43および溶接トーチ41を移動させる(S1)。撮影位置は、ロボット制御盤70に予め入力された筒身1および当板2の3D-CADデータに基づいて決定される。
【0045】
次に、デジタルカメラ43により、筒身1の外面10および当板2の端面20が撮影される。当該撮影により得られた画像は、データとしてパーソナルコンピュータ50(PC)に送信される(S2)。
【0046】
撮影の予定数は予め決められており、今回の撮影で予定数に達したか否かが判断される(S3)。今回の撮影で予定数に達していなければ、今回の撮影位置に隣接する撮影位置まで、再び溶接ロボット40のデジタルカメラ43および溶接トーチ41を移動させる(S1)。一方で、今回の撮影で予定数に達していれば、パーソナルコンピュータ50(PC)により、撮影で得られた画像から溶接線が仮検出の後に本検出される(S4)。
【0047】
パーソナルコンピュータ50で溶接線が本検出されると、当該溶接線を含めた、前記式(1)および(2)に必要な情報がパーソナルコンピュータ50からPLC60に入力される(S5)。PLC60では、前記式(1)および(2)から第1距離D1+D2を算出し、当該第1距離D1+D2を第2距離d1+d2に加えることで、必要移動距離を算出する(S6)。
【0048】
前記ロボット制御盤70は、前記必要移動距離に基づいて溶接ロボット40に溶接トーチ41を溶接線まで移動させる(S7)。溶接トーチ41が溶接線まで移動した後、前記ロボット制御盤70は、溶接線に沿って溶接ロボット40に溶接ビードを形成させていく(S8)。
【0049】
隅肉溶接のための溶接ビードの本数は予め決められており、今回の溶接ビードが予め決められた本数に達したか否かが判断される(S9)。今回の溶接ビードが予め決められた本数に達していなければ、次の溶接ビードを対象とする溶接線の検出が必要になる。このため、当該溶接線を検出するために、撮影に適した位置まで、再び溶接ロボット40のデジタルカメラ43および溶接トーチ41を移動させる(S1)。一方で、今回の溶接ビードが予め決められた本数に達していれば、終了となる。
【0050】
このように、前記自動溶接方法101によると、高精度に検出された溶接線まで溶接トーチ41を移動させるので、複数の溶接ビードを形成する隅肉溶接においても、高精度に施工することができる。
【0051】
また、前記自動溶接システム100の構成を用いることで、前記デジタルカメラ43および溶接トーチ41を有する溶接ロボット40による溶接で、照明、レーザ光および距離センサなどを用いることなく、自動溶接を高精度に施工することができる。
【0052】
ところで、前記実施の形態では、溶接線(または外側エッジ22)の誤検出について説明しなかったが、好ましくは、パーソナルコンピュータ50で、外れ値(誤検出)であるかを判断し、外れ値であると判断されれば当該外れ値を是正処理する。当該是正処理としては、当板2の端面20が平面の位置において、隣接する複数の撮影位置での溶接線(または外側エッジ22)の平均値を用いる方法がある。隣接する撮影位置の間隔は、例えば2~8mmであり、5mmが好ましい。また、平均値を用いるための撮影位置の数は、複数であればよいが、例えば4~8個であり、6個が好ましい。判断の対象となる撮影位置での溶接線が、隣接する撮影位置での溶接線の平均値から大きく(例えば、28ピクセル以上または2mm以上)外れた場合、外れ値(誤検出)と判断される。この場合、判断の対象とした撮影位置での溶接線が、隣接する撮影位置での溶接線の平均値と一致するように是正される。他の是正処理としては、同一の層における直前の溶接ビードと対象とする溶接ビードとの両溶接線との間隔(以下、溶接線間隔)を用いる方法がある。判断の対象となる撮影位置での溶接線間隔が、隣接する撮影位置での溶接線間隔の中央値から大きく(例えば、28ピクセル以上または2mm以上)外れた場合、外れ値(誤検出)と判断される。この場合、判断の対象とした撮影位置での溶接線間隔が隣接する撮影位置での溶接線間隔の中央値に一致するように、判断の対象とした撮影位置での溶接線が是正される。なお、溶接線間隔を用いる方法は、当板2の端面20が平面の位置だけでなく、当板2の端面20が曲面の位置にも使用できる。
【0053】
また、前記実施の形態では、前記隅肉溶接が施工される場所を、前記筒身1の外面10および当板2の端面20から形成される角部10,20として説明したが、2つの母材から形成される角部であればよい。
【0054】
さらに、前記実施の形態では、前記溶接線検出方法51で外側エッジ22を本検出するとして説明したが、前記溶接線検出方法51から独立した方法で外側エッジ22を本検出してもよい。
【0055】
加えて、前記実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、前述した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。前記発明を実施するための形態で説明した構成うち、「課題を解決するための手段」での第1の発明として記載した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
A 撮影軸
1 筒身
2 当板
4,5 仮検出範囲
6,7 本検出範囲
10 外面
20 端面
40 溶接ロボット
41 溶接トーチ
42 溶接ワイヤ
43 デジタルカメラ
44 レンズ
50 パーソナルコンピュータ
60 PLC
70 ロボット制御盤