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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】大動脈内圧の予測
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/00 20180101AFI20241002BHJP
   A61B 5/0215 20060101ALI20241002BHJP
   A61M 60/585 20210101ALI20241002BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20241002BHJP
【FI】
G16H50/00
A61B5/0215 C
A61B5/0215 D
A61M60/585
G06N20/00
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021570777
(86)(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 US2020070103
(87)【国際公開番号】W WO2020243756
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】62/855,389
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】592233750
【氏名又は名称】ノースイースタン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】カテルジ アーマッド エル
(72)【発明者】
【氏名】クローカー エリク
(72)【発明者】
【氏名】ジョートバーグ エリーゼ
(72)【発明者】
【氏名】ユ ローズ
(72)【発明者】
【氏名】ワン ルイ
【審査官】今井 悠太
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-506964(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0078159(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0353667(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
A61B 5/0215
A61M 60/585
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターと圧力センサーとを具備する経弁マイクロ軸流心臓ポンプと;
該経弁マイクロ軸流心臓ポンプが患者の心臓内に少なくとも部分的に位置しているある期間中に該圧力センサーによって測定された圧力値に対応する大動脈内圧測定結果のセットを取得すること、
該期間中のモーターの回転スピードに対応するモータースピード測定結果のセットを取得すること、
トレーニングされた機械学習モデルを用いて、該大動脈内圧測定結果のセットおよび該モータースピード測定結果のセットに基づき、患者の大動脈内圧を予測すること、ならびに
該患者の該予測された大動脈内圧に基づいて、該モーターのスピード設定を自動的に調整すること
を行うよう構成された、1つまたは複数のプロセッサと
を具備するシステム。
【請求項2】
前記1つまたは複数のプロセッサが、前記期間中のモーターのエネルギー取込みに対応する電流測定結果のセットを取得するようさらに構成され、かつ、前記予測が該電流測定結果のセットにさらに基づく、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記経弁マイクロ軸流心臓ポンプが、
チューブと;
1つまたは複数の開口部であってそれを通って血液がモーターによって該チューブ内に吸い込まれてもよい該開口部を有する、インレットエリアと;
1つまたは複数の開口部であってそれを通って血液が該モーターによって該チューブから吐出されてもよい該開口部を有する、アウトレットエリアと
をさらに具備し、かつ、前記圧力センサーが該アウトレットエリアに連結されている、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記経弁マイクロ軸流心臓ポンプが、前記インレットエリアに連結された追加的な圧力センサーをさらに具備し、
前記1つまたは複数のプロセッサが、前記期間中に該追加的な圧力センサーによって測定された圧力値に対応する左室圧測定結果のセットを取得するようさらに構成され、かつ、
前記予測が該左室圧測定結果のセットにさらに基づく、
請求項3記載のシステム。
【請求項5】
前記機械学習モデルが深層学習モデルである、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記深層学習モデルが、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデル、ディープニューラルネットワーク(DNN)モデル、再帰型シーケンスツーシーケンス(Recurrent Sequence to Sequence)モデル、アテンション付き再帰型シーケンスツーシーケンスモデル、トランスフォーマー(Transformer)モデル、時間畳み込みニューラルネットワーク(TCN)モデル、または畳み込みニューラルピラミッド(Convolutional Neural Pyramid)モデルである、請求項5記載のシステム。
【請求項7】
前記深層学習モデルが、Legendreメモリユニット(LMU)を伴う再帰型シーケンスツーシーケンスモデルである、請求項5記載のシステム。
【請求項8】
前記機械学習モデルが、増加シーケンスと、減少シーケンスと、定常シーケンスとを含むデータセット上でトレーニングされ、かつ、
各シーケンスが大動脈内圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む、
請求項1記載のシステム。
【請求項9】
シーケンス内の前記大動脈内圧測定結果が既定の閾値を上回って増加しているならばそのシーケンスは増加しており、シーケンス内の前記大動脈内圧測定結果が該既定の閾値を上回って減少しているならばそのシーケンスは減少しており、シーケンス内の前記大動脈内圧測定結果が該既定の閾値を上回って増加も減少もしていないならばそのシーケンスは定常である、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記既定の閾値が10 mmHgである、請求項9記載のシステム。
【請求項11】
各シーケンスが、既定の数の大動脈圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む、請求項8記載のシステム。
【請求項12】
各シーケンスが、リアルタイム(RT)の大動脈内圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む、請求項8記載のシステム。
【請求項13】
各シーケンスが、平均時間(AT)の大動脈内圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む、請求項8記載のシステム。
【請求項14】
前記機械学習モデルが、増加シーケンスおよび減少シーケンスのみを含むデータセット上でトレーニングされ、かつ、
各シーケンスが大動脈内圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む、
請求項1記載のシステム。
【請求項15】
シーケンス内の前記大動脈内圧測定結果が既定の閾値を上回って増加しているならばそのシーケンスは増加しており、シーケンス内の前記大動脈内圧測定結果が該既定の閾値を上回って減少しているならばそのシーケンスは減少している、請求項14記載のシステム。
【請求項16】
前記患者の前記予測された大動脈内圧に基づいて、前記モーターの前記スピード設定を自動的に調整することが、
該患者の該予測された大動脈内圧が該患者の最新の大動脈内圧よりも既定量を上回って小さい時に、該モーターの該スピード設定を一時的に増大させること
を含む、請求項1記載のシステム。
【請求項17】
モーターと圧力センサーとを具備する経弁マイクロ軸流心臓ポンプと;
該経弁マイクロ軸流心臓ポンプが患者の心臓内に少なくとも部分的に位置しているある期間中に該圧力センサーによって測定された圧力値に対応する大動脈内圧測定結果のセットを取得すること、
該期間中のモーターの回転スピードに対応するモータースピード測定結果のセットを取得すること、ならびに
トレーニングされた機械学習モデルを用いて、該大動脈内圧測定結果のセットおよび該モータースピード測定結果のセットに基づき、該患者の大動脈内圧を予測すること
を行うよう構成された、1つまたは複数のプロセッサと;
該患者の該予測された大動脈内圧を表示するよう構成されたディスプレイと
を具備するシステム。
【請求項18】
前記ディスプレイが、前記患者の前記予測された大動脈内圧を該患者の最新の大動脈内圧およびモーターの最新のスピード設定と同時に表示するよう構成される、請求項17記載のシステム。
【請求項19】
前記ディスプレイが、前記患者の前記予測された大動脈内圧が該患者の最新の大動脈内圧よりも既定量を上回って小さい時にアラートを表示するようさらに構成される、請求項17記載のシステム。
【請求項20】
前記ディスプレイが、前記患者の前記予測された大動脈内圧をグラフの一部として表示するよう構成される、請求項17記載のシステム。
【請求項21】
1つまたは複数のプロセッサによって実行される方法であって、以下の段階を含む、該方法:
前記1つまたは複数のプロセッサによって、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ患者の心臓内に少なくとも部分的に位置しているある期間中に該経弁マイクロ軸流心臓ポンプ上に位置する圧力センサーによって測定された圧力値に対応する大動脈内圧測定結果のセットを取得する段階;
前記1つまたは複数のプロセッサによって、該期間中の該経弁マイクロ軸流心臓ポンプのモーターの回転スピードに対応するモータースピード測定結果のセットを取得する段階;
前記1つまたは複数のプロセッサによって、トレーニングされた機械学習モデルを用いて、該大動脈内圧測定結果のセットおよび該モータースピード測定結果のセットに基づき、該患者の大動脈内圧を予測する段階;ならびに
前記1つまたは複数のプロセッサによって、該患者の該予測された大動脈内圧に基づいて、該モーターのスピード設定を自動的に調整する段階。
【請求項22】
前記1つまたは複数のプロセッサによって、前記期間中のモーターのエネルギー取込みに対応する電流測定結果のセットを取得する段階をさらに含み前記予測が該電流測定結果のセットにさらに基づく、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記経弁マイクロ軸流心臓ポンプが、
チューブと;
1つまたは複数の開口部であってそれを通って血液がモーターによって該チューブ内に吸い込まれてもよい該開口部を有する、インレットエリアと;
1つまたは複数の開口部であってそれを通って血液が該モーターによって該チューブから吐出されてもよい該開口部を有する、アウトレットエリアと
をさらに具備し、かつ、前記圧力センサーが該アウトレットエリアに連結されている、請求項21記載の方法。
【請求項24】
前記経弁マイクロ軸流心臓ポンプが、前記インレットエリアに連結された追加的な圧力センサーをさらに具備し、
前記方法が、前記1つまたは複数のプロセッサによって、前記期間中に該追加的な圧力センサーによって測定された圧力値に対応する左室圧測定結果のセットを取得する段階をさらに含み
前記予測が該左室圧測定結果のセットにさらに基づく、
請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記1つまたは複数のプロセッサによって、前記大動脈内圧が増大すると予測されるならばモータースピードを低減させる段階をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項26】
前記1つまたは複数のプロセッサによって、前記大動脈内圧が低減すると予測されるならばモータースピードを増大させる段階をさらに含む、請求項21記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年5月31日に提出されかつ参照により本明細書に組み入れられる米国特許仮出願第62/855,389号の恩典を主張する。
【0002】
技術分野
本技術は、経弁マイクロ軸流心臓ポンプから血行力学的支持を受けている患者の大動脈内圧を予測するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
機械学習は、コンピュータビジョン、自然言語処理、音声認識、および臨床ヘルスケアなど、さまざまに異なる技術分野において、予測を提供するために適用され、成功している。機械学習アルゴリズムの例には、ベイズのアルゴリズム、クラスター化アルゴリズム、決定木アルゴリズム、次元低減アルゴリズム、インスタンスベースアルゴリズム、深層学習アルゴリズム、回帰アルゴリズム、正則化アルゴリズム、およびルールベース機械学習アルゴリズムが含まれる。臨床ヘルスケアにおいて、機械学習アルゴリズムは、死亡リスクのモデル化、在院期間の予想、生理学的衰退の検出、および表現型の分類に用いられている。例えばHarutyunyan et al., Multitask learning and benchmarking with clinical time series data, Scientific Data, doi: 10.1038/s41597-019-0103-9, 2017(非特許文献1); Purushothama et al., Benchmarking deep learning models on large healthcare datasets, Journal of Biomedical Informatics 83, 112-134, 2018(非特許文献2)を参照されたい。しかし、疾患と治療に対する患者の応答とを医師がリアルタイムで早期に検出することを助けうる、生理学的応答を予測するためのシステムおよび方法に対するニーズが依然として存在している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Harutyunyan et al., Multitask learning and benchmarking with clinical time series data, Scientific Data, doi: 10.1038/s41597-019-0103-9, 2017
【文献】Purushothama et al., Benchmarking deep learning models on large healthcare datasets, Journal of Biomedical Informatics 83, 112-134, 2018
【発明の概要】
【0005】
概要
これまで、機械学習アルゴリズムは、血行力学的支持を受けている患者の大動脈内圧(例えば、最新の大動脈内圧、平均大動脈内圧、大動脈内圧の中央値、大動脈内圧の最大値、大動脈内圧の最小値、大動脈内圧の範囲、収縮期の大動脈内圧、拡張期の大動脈内圧など) を予測するためには用いられてこなかった。患者の大動脈内圧を予想することは難しく、それには、大動脈内血圧の高周波時系列が現在のところ公的に利用可能ではないことも部分的な理由である。さらに、大動脈内血圧の時系列は、ノイズが多くかつ非定常性が高い可能性がある。さらに、長期的な予想については予想誤差および不確実性が劇的に増大する。
【0006】
患者の大動脈内圧を予測できることは、患者のコンディションを予想する臨床従事者の能力を大きく高めると考えられる。例えば、急性非代償性心不全(ADHF)は過剰な合併症発生率および死亡率と関連する複雑な臨床事象であり、一般的に急速な血圧低下によって指し示され、心拍数の増大と関連する。ADHFの難しい点は、症状の低減と臨床アウトカムの向上とを両方とももたらす有効な処置に欠けることである。既存のガイドラインの推奨事項は専門家の意見に基づく部分が大きい。例えばGivertz et al., Acute Decompensated Heart Failure: Update on New and Emerging Evidence and Directions for Future Research, Journal of Cardiac Failure, Vol. 19, No. 6, 2013を参照されたい。ゆえに、患者の大動脈内圧の軌跡を予測できることは、医療従事者が患者のADHFリスクを評価しそして虚脱前に介入することをより容易にすると考えられる。加えて、大動脈内圧を予想することは、健康状態が向上するにつれて患者を支持から離脱させる助けとなるガイダンスを提供すると考えられる。
【0007】
本開示の諸局面において、経弁マイクロ軸流心臓ポンプから血行力学的支持を受けている患者の大動脈内圧を予測するためのシステムおよび方法を説明する。いくつかの実施形態において、経弁マイクロ軸流心臓ポンプの圧力センサーの測定結果から大動脈内圧の時系列が導出され、かつ、経弁マイクロ軸流心臓ポンプのモーターの逆起電力(EMF)の測定結果からモータースピードの時系列が導出される。さらに、いくつかの実施形態において、患者の大動脈内圧を正確に予測するため、深層学習などの機械学習アルゴリズムが大動脈内圧およびモータースピードの時系列に適用される。いくつかの実施形態において、予測は短期的(例えば約5分先)である。
【0008】
本開示の1つの局面は、経弁マイクロ軸流心臓ポンプと、1つまたは複数のプロセッサとを含むシステムに関する。経弁マイクロ軸流心臓ポンプはモーターと圧力センサーとを含む。前記1つまたは複数のプロセッサは以下を行うよう構成される:
経弁マイクロ軸流ポンプが患者の心臓内に少なくとも部分的に位置しているある期間中に圧力センサーによって測定された圧力値に対応する大動脈内圧測定結果のセットを取得すること、
前記期間中のモーターの回転スピードに対応するモータースピード測定結果のセットを取得すること、
トレーニングされた機械学習モデルを用いて、大動脈内圧測定結果のセットとモータースピード測定結果のセットとに基づき、患者の大動脈内圧を予測すること、および、
患者の予測大動脈内圧に基づいて、モーターのスピード設定を自動的に調整すること。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記1つまたは複数のプロセッサは、前記期間中のモーターのエネルギー取込みに対応する電流測定結果のセットを取得するようさらに構成され、かつ、前記予測はその電流測定結果のセットにさらに基づく。
【0010】
いくつかの実施形態において、経弁マイクロ軸流心臓ポンプは、チューブと;1つまたは複数の開口部であってそれを通って血液がモーターによってチューブ内に吸い込まれてもよい開口部を有する、インレットエリアと;1つまたは複数の開口部であってそれを通って血液がモーターによってチューブから吐出されてもよい開口部を有する、アウトレットエリアとをさらに含み、かつ、圧力センサーはアウトレットエリアに連結されている。いくつかの実施形態において、経弁マイクロ軸流心臓ポンプは、インレットエリアに連結された追加的な圧力センサーをさらに含み;前記1つまたは複数のプロセッサは、前記期間中にその追加的な圧力センサーによって測定された圧力値に対応する左室圧測定結果のセットを取得するようさらに構成され;かつ、前記予測はその左室圧測定結果のセットにさらに基づく。
【0011】
いくつかの実施形態において、機械学習モデルは深層学習モデルである。いくつかの実施形態において、深層学習モデルは、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデル、ディープニューラルネットワーク(DNN)モデル、再帰型シーケンスツーシーケンス(Recurrent Sequence to Sequence)モデル、アテンション付き再帰型シーケンスツーシーケンスモデル、トランスフォーマー(Transformer)モデル、時間畳み込みニューラルネットワーク(TCN)モデル、または畳み込みニューラルピラミッド(Convolutional Neural Pyramid)モデルである。いくつかの実施形態において、深層学習モデルは、Legendreメモリユニット(LMU)を伴う再帰型シーケンスツーシーケンスモデルである。
【0012】
いくつかの実施形態において、機械学習モデルは、増加シーケンスと、減少シーケンスと、定常シーケンスとを有するデータセット上でトレーニングされ、各シーケンスは大動脈内圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む。いくつかの実施形態において、シーケンス内の大動脈内圧測定結果が既定の閾値を上回って増加しているならばそのシーケンスは増加しており、シーケンス内の大動脈内圧測定結果が既定の閾値を上回って減少しているならばそのシーケンスは減少しており、シーケンス内の大動脈内圧測定結果が既定の閾値を上回って増加も減少もしていないならばそのシーケンスは定常である。いくつかの実施形態において、既定の閾値は10 mmHgである。いくつかの実施形態において、各シーケンスは、既定の数の大動脈圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む。いくつかの実施形態において、各シーケンスは、リアルタイム(RT)の大動脈内圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む。いくつかの実施形態において、各シーケンスは、平均時間(AT)の大動脈内圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、機械学習モデルは、増加シーケンスおよび減少シーケンスのみを有するデータセット上でトレーニングされ、各シーケンスは大動脈内圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む。いくつかの実施形態において、シーケンス内の大動脈内圧測定結果が既定の閾値を上回って増加しているならばそのシーケンスは増加しており、シーケンス内の大動脈内圧測定結果が既定の閾値を上回って減少しているならばそのシーケンスは減少している。いくつかの実施形態において、既定の閾値は10 mmHgである。いくつかの実施形態において、各シーケンスは、既定の数の大動脈圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む。いくつかの実施形態において、各シーケンスは、リアルタイム(RT)の大動脈内圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む。いくつかの実施形態において、各シーケンスは、平均時間(AT)の大動脈内圧測定結果およびモータースピード測定結果を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、患者の予測大動脈内圧に基づいて、モーターのスピード設定を自動的に調整することは、患者の予測大動脈内圧が患者の最新の大動脈内圧よりも既定量を上回って小さい時にモーターのスピード設定を一時的に増大させることを含む。
【0015】
本開示の別の局面は、経弁マイクロ軸流心臓ポンプと、1つまたは複数のプロセッサと、ディスプレイとを含むシステムに関する。経弁マイクロ軸流心臓ポンプはモーターと圧力センサーとを含む。前記1つまたは複数のプロセッサは以下を行うよう構成される:
経弁マイクロ軸流ポンプが患者の心臓内に少なくとも部分的に位置しているある期間中に圧力センサーによって測定された圧力値に対応する大動脈内圧測定結果のセットを取得すること、
前記期間中のモーターの回転スピードに対応するモータースピード測定結果のセットを取得すること、および、
トレーニングされた機械学習モデルを用いて、大動脈内圧測定結果のセットとモータースピード測定結果のセットとに基づき、患者の大動脈内圧を予測すること。
ディスプレイは患者の予測大動脈内圧を表示するよう構成される。
【0016】
いくつかの実施形態において、ディスプレイは、患者の予測大動脈内圧を患者の最新の大動脈内圧およびモーターの最新のスピード設定と同時に表示するよう構成される。いくつかの実施形態において、ディスプレイは、患者の予測大動脈内圧が患者の最新の大動脈内圧よりも既定量を上回って小さい時にアラートを表示するようさらに構成される。いくつかの実施形態において、ディスプレイは、患者の予測大動脈内圧をグラフの一部として表示するよう構成される。
【0017】
本開示のまた別の局面は、患者体内に受け入れられた経弁マイクロ軸流心臓ポンプで患者を処置するための方法に関する。同方法は以下の段階を含む:
経弁マイクロ軸流心臓ポンプを患者の体内に挿入する段階;
経弁マイクロ軸流ポンプが患者の心臓内に少なくとも部分的に位置しているある期間中に経弁マイクロ軸流心臓ポンプ上に位置する圧力センサーによって測定された圧力値に対応する大動脈内圧測定結果のセットを取得する段階;
前記期間中のモーターの回転スピードに対応するモータースピード測定結果のセットを取得する段階;
トレーニングされた機械学習モデルを用いて、大動脈内圧測定結果のセットとモータースピード測定結果のセットとに基づき、患者の大動脈内圧を予測する段階;および、
患者の予測大動脈内圧に基づいて、モーターのスピード設定を自動的に調整する段階。
【0018】
いくつかの実施形態において、同方法は、前記期間中のモーターのエネルギー取込みに対応する電流測定結果のセットを取得する段階をさらに含み、かつ、前記予測はその電流測定結果のセットにさらに基づく。
【0019】
いくつかの実施形態において、経弁マイクロ軸流心臓ポンプは、チューブと;1つまたは複数の開口部であってそれを通って血液がモーターによってチューブ内に吸い込まれてもよい開口部を有する、インレットエリアと;1つまたは複数の開口部であってそれを通って血液がモーターによってチューブから吐出されてもよい開口部を有する、アウトレットエリアとをさらに含み、かつ、圧力センサーはアウトレットエリアに連結されている。いくつかの実施形態において、経弁マイクロ軸流心臓ポンプは、インレットエリアに連結された追加的な圧力センサーをさらに含み;方法は、前記期間中にその追加的な圧力センサーによって測定された圧力値に対応する左室圧測定結果のセットを取得する段階をさらに含み;かつ、前記予測はその左室圧測定結果のセットにさらに基づく。
【0020】
いくつかの実施形態において、方法は、患者に提供される薬物の量を予測大動脈内圧に基づいて調整する段階をさらに含む。いくつかの実施形態において、方法は、大動脈内圧が増大すると予測されるならばモータースピードを低減させる段階をさらに含む。いくつかの実施形態において、方法は、大動脈内圧が低減すると予測されるならばモータースピードを増大させる段階をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1a】経弁マイクロ軸流心臓ポンプを図示する。
図1b】患者の心臓内にポジショニングされた図1(a)の経弁マイクロ軸流心臓ポンプを図示する。
図1c】心室支持システムを図示する。
図2a】ホーム画面上に表示されてもよい情報を図示する。
図2b】留置画面上に表示されてもよい情報を図示する。
図2c】パージ画面上に表示されてもよい情報を図示する。
図2d】注入履歴画面上に表示されてもよい情報を図示する。
図2e】ホーム画面上に表示されてもよい情報を図示する。
図2f】留置画面上に表示されてもよい情報を図示する。
図2g】留置画面上に表示されてもよい情報を図示する。
図2h】留置画面上に表示されてもよい情報を図示する。
図3】経弁マイクロ軸流心臓ポンプなど複数の医療デバイスをモニターおよび/または制御するためのシステムを図示する。
図4】心臓周期の等容性弛緩期、駆出期、等容性弛緩期、および充満期を図示する。
図5】大動脈内圧(AoP)、左室圧(LVP)、差圧(dP)、ポンプ流量、およびモーター電流の規則的な波形、ならびにそれらと収縮および拡張との関係を図示する。
図6】再帰型シーケンスツーシーケンスモデルの全体的な構造を図示する。
図7】トランスフォーマーモデルの全体的な構造を図示する。
図8】時間畳み込みニューラルネットワークの全体的な構造を図示する。
図9】時間畳み込みニューラルピラミッドの全体的な構造を図示する。
図10】10秒間 25HZ(RT)の大動脈内圧、モータースピード、およびモーター電流の時系列を図示する。
図11】20分間 0.1HZ(AT)の平均大動脈内圧の時系列を図示する。
図12】選択したモデルの二乗平均平方根誤差を図示する。
図13】24時間の経過にわたる単一の記録について、2つの深層学習モデルのMAP予想をグランドトゥルースと対照させて図示する。
図14】増加シーケンス、減少シーケンス、および定常シーケンスによる2つの深層学習モデルのMAP予想を図示する
図15】選択したモデルの二乗平均平方根誤差を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
本開示の実施形態を、図面を参照しながら詳しく説明する;図面において、類似する符番は同様または同一の要素を指す。理解されるべき点として、本開示の実施形態は本開示の例にすぎず、さまざまな形態で具現化されうる。不必要な詳細によって本開示を不明瞭にすることを回避するため、周知の機能または構築様式を詳細には説明しない。したがって、本明細書に開示する構造的および機能的な具体的詳細は、限定的なものとして解釈されるべきでなく、特許請求の範囲のための根拠として、および、妥当に詳細な構造であれば事実上任意の構造において本開示をさまざまに利用できるよう当業者に教示するための代表的な根拠としてのみ、解釈されるべきである。
【0023】
患者の末梢血圧をさまざまな機械学習モデルおよび統計的方法によって予測するための努力がなされている。例えばAbbasi et al., Long-term Prediction of Blood Pressure Time Series Using Multiple Fuzzy Functions, 21st Iranian Conference on Biomedical Engineering, ICBME, 2014; Peng et al., Long-term Blood Pressure Prediction with Deep Recurrent Neural Networks, arXiv:1705.04524v3, 2018を参照されたい。
【0024】
患者が急性低血圧エピソード(AHE)をきたす可能性が高いかをさまざまな機械学習モデルおよび統計的方法によって予測するための努力がなされている。例えばHenriques & Rocha, Prediction of Acute Hypotensive Episodes Using Neural Network Multi-models, Computers in Cardiology 36:549552, 2009; Moody & Lehman, Predicting Acute Hypotensive Episodes: The 10th Annual PhysioNet/Computers in Cardiology Challenge, Comput. Cardiol., 36(5445351): 541-544, 2009; Johnson et al., MIMIC-III, a freely accessible critical care database, Scientific Data, DOI: 10.1038/sdata.2016.35, 2016; Hatib et al., Machine-learning Algorithm to Predict Hypotension Based on High-Fidelity Arterial Pressure Waveform Analysis, Anesthesiology, 129(4):663-674, 2018を参照されたい。
【0025】
急性非代償性心不全(ADHF)をさまざまな機械学習モデルおよび統計的方法によって予測するための努力がなされている。例えばKenney et al., Early Detection of Heart Failure Using Electronic Health Records, Circ. Cardiovasc. Qual. Outcomes, 9:649-658, 2016; Deo & Nallamothu, Learning About Machine Learning: The Promise and Pitfalls of Big Data and the Electronic Health Record, Circ. Cardiovasc. Qual. Outcomes, 9:618-620, 2016; Passantino et al., Predicting mortality in patients with acute heart failure: Role of risk scores, World J. Cardiol., 7(12): 902911, 2015; Thorvaldsen et al., Predicting Risk in Patients Hospitalized for Acute Decompensated Heart Failure and Preserved Ejection Fraction, Circ. Heart Fail., 10:e003992, 2017を参照されたい。
【0026】
しかし、上記に引用した研究のいずれも、血行力学的支持を受けている患者の大動脈内圧を予測するためのシステムまたは方法は説明していない。引用した研究のいくつかは、患者の末梢血圧を予測するためのシステムまたは方法を説明している。しかし、末梢血圧が患者の心機能の間接的な指標を提供するのに対し、大動脈内圧は患者の心機能の直接的な指標を提供する。末梢血圧が、例えば患者の肢の周りに巻かれた血圧カフ(例えばアームカフまたは手首カフ)を用いて取得される可能性があるのに対し、大動脈内圧は例えば経弁マイクロ軸流心臓ポンプを用いて取得される可能性がある。結果として、末梢血圧は大動脈内圧より患者のコンディションについての情報が少ない。
【0027】
加えて、上記に引用した研究で説明されているこれらアプローチのいくつかは、非常に多数の入力変数を必要とするので、少なくとも臨床的見地からは実際的でない。さらに、上記に引用した研究で用いられている変数のいくつかは容易に測定できない。さらに、上記に引用した研究で提唱されているモデルのいくつかは、長期死亡率の評価にしか適さない。それら研究は、ADHFなどの疾患のリアルタイム早期検出について医師を助けることができない。
【0028】
重度の多血管冠動脈疾患(CAD)がある患者、非保護左主冠動脈の狭窄がある患者、残存血管が最後の1本である患者、および/または左室(LV)駆出率(EF)が重度に低下した患者は、心臓手術を断られることが多く、そして高リスク経皮的冠動脈インターベンション(HR-PCI)の紹介を受けることが増えている。血行力学的不安定性を防ぎかつ臨床アウトカムを向上させるため、Abiomed, Inc., Danvers, MAによるImpella 5.0(登録商標)など、図1(a)に示す経弁マイクロ軸流心臓ポンプがHR-PCI中に用いられることが増えている。例えばRusso et al., Hemodynamics and its predictors during transvalvular-micro-axial-heart-pump-protected PCI in high risk patients with reduced ejection fraction, Int. J. Cardiol. 274:221-225, 2019; Dixon et al., A prospective feasibility trial investigating the use of the transvalvular micro-axial heart pump system in patients undergoing high-risk percutaneous coronary intervention (The Transvalvular Micro-axial Heart Pump Trial): initial U.S. experience, JACC Cardiovasc. Interv. 2 (2) 91-96, 2009; O’Neill et al., A prospective, randomized clinical trial of hemodynamic support with transvalvular micro-axial heart pump versus intra-aortic balloon pump in patients undergoing high-risk percutaneous coronary intervention: the transvalvular micro-axial heart pump study, Circulation 126 (14) 1717-1727, 2012を参照されたい。
【0029】
経弁マイクロ軸流心臓ポンプは、患者の心臓に血行力学的支持を提供する経皮的なカテーテル式デバイスである。図1(a)に示すように、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110は、ピッグテール111、インレットエリア112、カニューレ113、圧力センサー114、アウトレットエリア115、モーターハウジング116、および/またはカテーテルチューブ117を含んでもよい。ピッグテール111は経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110を患者の心臓内で安定化させることを補助してもよい。作動中、モーターハウジング116内に配されたモーター(図示せず)によって、血液がインレットエリア112の1つまたは複数の開口部内に引かれ、カニューレ113を通して流され、そしてアウトレットエリア115の1つまたは複数の開口部を通って吐出されてもよい。いくつかの実施形態において、圧力センサー114が、カニューレ113内に一体化された可撓性膜を含んでもよい。圧力センサー114の一方の側がカニューレ113の外側の血圧にさらされてもよく、かつ他方の側がカニューレ113の内側の血液の圧力にさらされてもよい。そうしたいくつかの実施形態において、圧力センサー114が、カニューレ113の外側の圧力とカニューレ113の内側の圧力との差に比例する電気信号を生成してもよい。いくつかの実施形態において、圧力センサー114によって測定される圧力差が、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110を患者の心臓内にポジショニングするために用いられてもよい。いくつかの実施形態において、圧力センサー114は光学式圧力センサーである。カテーテルチューブ117が、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110と、心室支持システムのより多くのデバイスまたはより多くの他のデバイスとの間に、1つもしくは複数の流体接続および/または電気接続を提供してもよい。
【0030】
図1(b)に示すように、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110は患者の心臓120内にポジショニングされてもよい。図に示すように、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110が、例えば、大腿動脈122を介して経皮的に挿入されて上行大動脈124内に入り、大動脈弁126をまたぎ、そして左心室128内に入ってもよい。他の実施形態において、経弁マイクロ軸流心臓ポンプが、例えば、腋窩動脈123を介して経皮的に挿入されて上行大動脈124内に入り、大動脈弁126をまたぎ、そして左心室128内に入ってもよい。他の実施形態において、経弁マイクロ軸流心臓ポンプが、例えば、直接的に挿入されて上行大動脈124内に入り、大動脈弁126をまたぎ、そして左心室128内に入ってもよい。作動中、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110は血液を左心室128から同伴(entrain)し、そして血液を上行大動脈124内に吐出する。結果として、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110は、通常は患者の心臓120によってなされる仕事の一部を行う。経弁マイクロ軸流心臓ポンプの血行力学的効果には、心拍出量の増大および冠血流の改善が含まれ、それはLV拡張終期圧、肺毛細管楔入圧、心筋仕事量、および酸素消費量の低下をもたらす。例えばBurkhoff & Naidu, The science behind percutaneous hemodynamic support: a review and comparison of support strategies, Catheter Cardiovasc. Interv. 80:816-29, 2012を参照されたい。
【0031】
図1(c)に示すように、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110は心室支持システム100に組み込まれてもよい。心室支持システム100は、コントローラ130(例えばAbiomed, Inc., Danvers, MAによるAutomated Impella Controller(登録商標))、ディスプレイ140、パージ用サブシステム150、コネクタケーブル160、プラグ170、および再ポジショニングユニット180もまた含む。図に示すように、コントローラ130はディスプレイ140を含む。コントローラ130は経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110をモニターおよび制御する。作動中、血液がモーターハウジング116内のモーター(図示せず)に入ることを防ぐため、パージ用サブシステム150がカテーテルチューブ117を通して経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110までパージ用流体を送達する。いくつかの実施形態において、パージ用流体はデキストロース溶液(例えば25または50 IU/mLのヘパリンを含有する5%デキストロース水溶液)である。コネクタケーブル160は経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110とコントローラ130との間に電気接続を提供する。プラグ170は、カテーテルチューブ117と、パージ用サブシステム150と、コネクタケーブル160とを接続する。いくつかの実施形態において、プラグ170は、患者を別のコントローラに移す必要が生じた場合に備えて作動パラメータを格納するためのメモリを含む。再ポジショニングユニット180は経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110を再ポジショニングするために用いられてもよい。
【0032】
図に示すように、パージ用サブシステム150は、容器151と、供給ライン152と、パージカセット153と、パージディスク154と、パージチュービング155と、逆止弁156と、圧力リザーバー157と、注入フィルター158と、サイドアーム159とを含む。容器151は、例えばバッグまたはボトルであってもよい。パージ用流体は容器151内に格納される。供給ライン152は容器151とパージカセット153との間に流体接続を提供する。パージカセット153は、容器151内のパージ用流体がどのように経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110に送達されるかを制御してもよい。例えば、パージカセット153は、パージ用流体の圧力および/または流量を制御するための1つまたは複数の弁を含んでもよい。パージディスク154は、パージ用流体の圧力および/または流量を測定するための1つまたは複数の圧力センサーおよび/もしくはフローセンサーを含む。図に示すように、コントローラ130はパージカセット153とパージディスク154とを含む。パージチュービング155はパージディスク154と逆止弁156との間に流体接続を提供する。圧力リザーバー157はパージ用流体の変化中に追加的な充填体積(filling volume)を提供する。いくつかの実施形態において、圧力リザーバー157は、膨張室の手段によって追加的な充填体積を提供する、可撓性ゴムの隔膜を含む。注入フィルター158は、細菌汚染および空気がカテーテルチューブ117に入らないよう防ぐことを助ける。サイドアーム159は注入フィルター158とプラグ170との間に流体接続を提供する。
【0033】
作動中、コントローラ130は圧力センサー114とパージディスク154とから測定結果を受け取り、かつモーターハウジング116内のモーター(図示せず)とパージカセット153とを制御する。上述したように、コントローラ130は、パージカセット153とパージディスク154とを介してパージ用流体の圧力および/または流量を制御しかつ測定する。作動中、パージ用流体は、サイドアーム159を通ってパージ用サブシステム150から出た後、カテーテルチューブ117内およびプラグ170内のパージ用管腔(図示せず)を通して流される。カテーテルチューブ117内、コネクタケーブル160内、およびプラグ170内のセンサーケーブル(図示せず)が、圧力センサー114とコントローラ130との間に電気接続を提供する。カテーテルチューブ117内、コネクタケーブル160内、およびプラグ170内のモーターケーブル(図示せず)が、モーターハウジング116内のモーターとコントローラ130との間に電気接続を提供する。作動中、コントローラ130は、センサーケーブルを通して圧力センサー114から測定結果を受け取り、かつモーターケーブルを通してモーターハウジング116内のモーターに送達される電力を制御する。コントローラ130は、モーターハウジング116内のモーターに送達される電力を制御することによって、モーターハウジング116内のモーターのスピードを制御できる。
【0034】
心室支持システム100およびその1つまたは複数のコンポーネントに対して、さまざまな改変が行われてもよい。例えば、参照により本明細書に組み入れられるAbiomed, Impella(登録商標)Ventricular Support Systems for Use During Cardiogenic Shock and High-Risk PCI: Instructions for Use and Clinical Reference Manual, Document No. 0042-9028 rG (Apr. 2020) に詳述されているように、心室支持システム100は、Impella 2.5(登録商標)カテーテル、Impella LD(登録商標)カテーテル、およびImpella CP(登録商標)カテーテルなど、他のタイプの経弁マイクロ軸流心臓ポンプを収容するよう改変されてもよい。別の例として、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ100に1つまたは複数のセンサーが追加されてもよい。例えば、本明細書に組み入れられる、2019年3月14日に提出された米国特許出願第16/353,132号「Blood Flow Rate Measurement System」に説明されているように、モーターハウジング116内のモーターの回転スピードの指標となる信号を生成するため、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ100に信号生成器が追加されてもよい。別の例として、左心室の血圧を測定するよう構成された第二の圧力センサーが、インレットエリア112の近くで経弁マイクロ軸流心臓ポンプ100に追加されてもよい。そうした実施形態において、前記1つまたは複数の追加的センサーとコントローラ130との間に電気接続を提供するため、カテーテルチューブ117内、コネクタケーブル160内、およびプラグ170内に追加的なセンサーケーブルが配されてもよい。また別の例として、心室支持システム100の1つまたは複数のコンポーネントが分離されてもよい。例えば、ディスプレイ140が、(例えば無線でまたは1つもしくは複数の電気ケーブルを通して)コントローラ130と通信している別のデバイスに組み込まれてもよい。
【0035】
図2(a)~(h)に、ディスプレイ140によって表示されてもよい異なる画面を図示する。例えば図2(a)は、心臓ポンプのタイプ211(例えば「Impella 5.0」)と、心臓ポンプのシリアルナンバー212(例えば「171000」)と、日付および時刻214(例えば「2019-08-21 15:56」)と、ソフトウェアのバージョン番号216(例えば「IC4048 V8.1」)と、電源アイコン218(例えばバッテリーインジケータ)と、ボタンラベル221、222、224、226、および228(例えば「アラーム消音」、「フロー制御」、「表示」、「パージメニュー」、および「メニュー」)と、心臓ポンプの目下のスピード(パフォーマンス)設定230(例えば「P-4」)と、心臓ポンプのフロー測定結果242と、パージシステムの測定結果244と、状態インジケータ251(例えば「ImpellaポジションOK」)と、線図261と、通知エリア270とを含むホーム画面202を図示している。心臓ポンプの目下のスピード(パフォーマンス)設定230は、モーターハウジング116内のモーターが作動しているスピードに対応する。例えば、「P-4」は、モーターハウジング116内のモーターが約22,000 rpmで作動していることを指し示してもよい。心臓ポンプのフロー測定結果242は、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ100を通る血液の平均流量(例えば「1.6 L/分」)と、最小流量(例えば「1.1 L/分」)と、最大流量(例えば「2.1 L/分」)とを含む。心臓ポンプのフロー測定結果242は、圧力センサー114によって取得された測定結果および/またはモーターハウジング116内のモーターのエネルギー取込みから導出されてもよい。パージシステムの測定結果244は、パージ用サブシステム150を通るパージ用流体の現在流量(例えば「10.2 ml/時」)と現在圧力(例えば「99 mmHg」)とを含む。パージシステムの測定結果244は、パージディスク154によって取得された測定結果から導出されてもよい。線図161は、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110が患者の心臓内にどのようにポジショニングされるべきかを図示する。図2(a)において、通知エリア270は通知271、272、および273を含む。
【0036】
通知271、272、および273の各々はヘッダーと指示のセットとを含む。例えば通知271は、「パージシステム開」のヘッダーと、「1. 開放接続部または漏出についてパージシステムチュービングをチェックする」および「2. パージメニュー(Purge Menu)のソフトキーを押し、次に「カセット&バッグの変更」を選択する」の指示とを含む。通知272は、「サクション」のヘッダーと、「1. Pレベルを下げる」、「2. 充填状態および容積状態をチェックする」、および「3. Impellaポジションをチェックする」の指示とを含む。通知273は、「フライトモード有効」のヘッダーと、「1. 空輸中はコントローラをグラウンドに接続する」、「2. Impella Connectが装備されている場合はモジュール上のフライトモードを有効にする」、および「3. 受け入れ病院の到着時にメニューでフライトモードを無効にする」の指示とを含む。他の実施形態において、通知エリア270内に表示される通知が、異なった構造であってもよい。例えば、ヘッダーと指示とが、2つの異なるボックス内ではなく単一のボックス内に含有されてもよい。別の例として、通知がヘッダーを含まなくてもよい。また別の例として、指示が、説明文など、異なるタイプの情報に置き換えられてもよい。例えば、通知がアラートとして役立ってもよく、かつアラートの原因を説明する記述を含んでもよい。
【0037】
図2(b)~(d)に、それぞれ留置画面204、パージ画面206、および注入履歴画面208を図示する。ユーザーは、ボタンラベル221、222、224、226、および228の横にポジショニングされたボタンを用いてこれら画面を切り替えてもよい。他の実施形態において、異なるユーザー入力デバイスが用いられてもよい。例えばいくつかの実施形態において、ディスプレイ140がタッチスクリーンであってもよく、かつ、ユーザーがボタンラベル221、222、224、226、および228をタップすることによって画面を切り替えてもよい。別の例として、いくつかの実施形態において、ユーザーがマウスまたはキーボードなど別個の入力デバイスを用いて画面を切り替えてもよい。
【0038】
状態インジケータ251、線図261、ならびに通知271、272、および273を除いて、ホーム画面202にあるすべてのデータフィールドが、留置画面204、パージ画面206、および注入履歴画面208にも含まれる。他の実施形態において、追加的なデータフィールドがこれら画面に追加または除去されてもよい。例えばいくつかの実施形態において、心臓ポンプのタイプ211および心臓ポンプのシリアルナンバー212がメイン画面202にのみ現れてもよい。
【0039】
留置画面204、パージ画面206、および注入履歴画面208は、追加的な情報もまた含む。例えば、図2(b)に示すように、留置画面204は、留置信号グラフ252、留置信号測定結果262、モーター電流グラフ253、およびモーター電流測定結果263を含む。留置信号グラフ252は、ある期間(例えば「10秒間(10 sec)」)にわたって圧力センサー114によって取得された測定結果から導出された圧力値を図示する。留置信号測定結果262は、その期間にわたって圧力センサー114によって取得された測定結果から導出された、平均圧力値(例えば「9 mmHg」)、最小圧力値(例えば「-17 mmHg」)、および最大圧力値(例えば「76 mmHg」)を含む。モーター電流グラフ253は、ある期間(例えば「10秒間」)にわたってモーターハウジング116内のモーターに提供された電流値を図示する。モーター電流測定結果263は、その期間にわたってモーターハウジング116内のモーターに提供された、平均電流(例えば「535 mA」)、最小電流(例えば「525 mA」)、および最大電流(例えば「556 mA」)を含む。留置信号グラフ252、留置信号測定結果262、モーター電流グラフ253、およびモーター電流測定結果263は、集合的に、患者の心臓内における経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110のポジションを決定するために有用である。
【0040】
図2(c)に示すように、パージ画面206は、パージフローグラフ254、パージフロー測定結果264、パージ圧グラフ255、およびパージ圧測定結果265を追加的に含む。パージフローグラフ254は、ある期間(例えば「1時間(1 hr)」)にわたってパージ用サブシステム150を通ったパージ用流体の流量を図示する。パージフロー測定結果264は、パージ用サブシステム150を通るパージ用流体の現在流量(例えば「17.9 ml/時(17.9 ml/hr)」)を含む。パージ圧グラフ255は、ある期間(例えば「1時間」)にわたるパージ用サブシステム150内のパージ用流体の圧力を図示する。パージ圧測定結果265は、パージ用サブシステム150内のパージ用流体の現在圧力(例えば「559 mmHg」)を含む。パージフローグラフ254、パージフロー測定結果264、パージ圧グラフ255、およびパージ圧測定結果265は、集合的に、患者管理を補助できる。
【0041】
図2(d)に示すように、注入履歴画面208は、注入履歴表256、デキストロース注入測定結果266、およびヘパリン注入測定結果267を追加的に含む。注入履歴表256は、複数期間の各々(例えば「10:00 - 11:00」、「11:00 - 12:00」、「12:00 - 13:00」、「13:00 - 14:00」、「14:00 - 15:00」、および「15:00 - 15:08」)にわたって患者に送達された、パージ用流体、ヘパリン、およびデキストロースの量の概要を提供する。デキストロース注入測定結果266は、デキストロースが患者に送達されている最新のレート(例えば「935 mg/時」)を含む。ヘパリン注入測定結果267は、ヘパリンが患者に送達されている最新のレート(例えば「935 IU/時」)を含む。注入履歴表256、デキストロース注入測定結果266、およびヘパリン注入測定結果267もまた、集合的に、患者管理を補助できる。
【0042】
図2(e)~(h)に、異なるタイプのアラートがディスプレイ140を通じてユーザーにどのように提示されてもよいかを図示する。例えば、患者が有する自己心室機能が低く、かつ患者の心臓内における経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110のポジションをコントローラ130が決定できない時に、ホーム画面202が図2(e)に示す様式に更新されてもよい。より具体的には、状態インジケータ251が「Impellaポジション不明」を提示するよう更新されてもよく、かつ通知エリア270に通知274が追加されてもよい。別の例として、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110が完全に患者の心室内または大動脈にある時に、留置画面204が図2(f)に示す様式に更新されてもよい。より具体的には、通知エリア270に通知275が追加されてもよい。また別の例として、アウトレットエリア115が患者の大動脈弁上またはその近くにポジショニングされている時に、留置画面204が図2(g)に示す様式に更新されてもよい。より具体的には、通知エリア270に通知276が追加されてもよい。また別の例として、圧力センサー114が故障しかつコントローラ130が心臓ポンプのフロー測定結果242を計算できない時に、留置画面204が図2(h)に示す様式に更新されてもよい。より具体的には、心臓ポンプのフロー測定結果242が、推定フローおよび対応するMAPの表に置き換えられてもよく、かつ通知エリア270に通知277が追加されてもよい。
【0043】
図3に、コントローラ130など複数の医療デバイスコントローラをモニターおよび/または制御するためのシステム300を図示する。システム300は、医療デバイスコントローラ312、314、316、および318、コンピュータネットワーク322、ローカルエリアネットワーク(LAN)324、遠隔リンクモジュール332、ルーター334、無線アクセスポイント336、基地局338、サーバー342、データ格納部344、OCRエンジン346、ならびに/またはモニタリングステーション352および354を含んでもよい。コンピュータネットワーク322は、有線および/または無線の、セグメントおよび/またはネットワークを含んでもよい。例えば、コンピュータネットワーク322は、無線アクセスポイント336によって表されている、IEEE 802.11x標準に準拠した無線ネットワーク(例えば一般に「Wi-Fi」と呼ばれる無線ローカルエリアネットワーク(WLAN))、および/または、基地局338によって表されているセルラーネットワークを含んでもよい。別の例として、コンピュータネットワーク322は、LAN 324などのプライベートおよび/もしくはパブリックなネットワーク、メトロポリタンエリアネットワーク(MAN)、ならびに/または、インターネット(図示せず)などの広域ネットワーク(WAN)を含んでもよい。
【0044】
システム300は、医療デバイスコントローラがコンピュータネットワーク322に接続されうるいくつかの異なる方式を図示している。例えば医療デバイスコントローラ312はコンピュータネットワーク322に直接接続される。別の例として、医療デバイスコントローラ314は、任意で遠隔リンクモジュール332を通してコンピュータネットワーク322に接続される。また別の例として、医療デバイスコントローラ316は、LAN 324およびルーター334を通してコンピュータネットワーク322に接続される。また別の例として、医療デバイスコントローラ318は、LAN 324、ルーター334、および無線アクセスポイント336を通してコンピュータネットワーク322に接続される。医療デバイスコントローラ318はまた、基地局338を通してコンピュータネットワーク322に接続される。他の実施形態において、医療デバイスコントローラがシステム300に追加および/または除去されてもよい。さらに、複数の医療デバイスコントローラが同様の様式でコンピュータネットワーク322に接続されてもよい。例えば、複数の医療デバイスコントローラが、医療デバイスコントローラ312とほぼ同様にコンピュータネットワーク322に直接接続されてもよい。
【0045】
サーバー342は、コンピュータネットワーク322を通して医療デバイスコントローラ312、314、316、および318からの状態情報を要求するよう構成されてもよい。いくつかの実施形態において、サーバー342は自動的および/または反復的に状態情報を要求する。いくつかの実施形態において、状態情報は、医療デバイスコントローラ312、314、316、および/または318に関連したディスプレイによって表示される画面の内容の画像を含む。例えば、状態情報は、図2(a)~(h)に図示したいずれか1つの画面の画像に類似していてもよい。画像は、ビデオフレームとしてまたはビデオフレームのシーケンスとしてエンコードされた1つまたは複数のメッセージとして送られてもよい。さらに、ビデオフレームは、例えば画像のピクセル化コピー(pixelated copy)を含有してもよい。いくつかの実施形態において、状態情報は、医療デバイスコントローラ312、314、316、および/または318に関連したディスプレイによって表示されるデータフィールドのうち1つまたは複数に由来する情報を含む。例えば、状態情報は、心臓ポンプのタイプ211、心臓ポンプのシリアルナンバー212、日付および時刻214、心臓ポンプの目下のスピード(パフォーマンス)設定230、心臓ポンプのフロー測定結果242、パージシステムの測定結果244、状態インジケータ251、ならびに/または通知エリア270と同様のデータフィールドのうち、1つまたは複数に由来する情報を含んでもよい。
【0046】
サーバー342はまた、受け取った状態情報を処理するよう構成されてもよい。例えば、サーバー342が、医療デバイスコントローラ312、314、316、および/または318に関連したディスプレイによって表示される画面の内容の画像を受け取った時、サーバー342は、画像をパースしてもよく、かつ画像の部分を光学式文字認識(OCR)することによってテキスト情報を抽出してもよい。いくつかの実施形態において、抽出されるテキスト情報は、医療デバイスコントローラ312、314、316、および/または318に関連したディスプレイによって表示されるデータフィールドのうち、1つまたは複数に由来する情報を含む。いくつかの実施形態において、サーバー342は、画像をパースしかつテキスト情報を抽出するためのOCRエンジンを含む。いくつかの実施形態において、サーバー342は、画像をパースしかつテキスト情報を抽出するため、OCRエンジン346などの外部OCRエンジンと通信する。
【0047】
データ格納部344は、未処理および/または処理済みの状態情報を格納するよう構成されてもよい。例えば、データ格納部344は、医療デバイスコントローラ312、314、316、および/もしくは318に関連したディスプレイによって表示される画面の内容の画像、ならびに/または、サーバー342および/もしくはOCRエンジン346によって画像から抽出されたテキスト情報を格納してもよい。データ格納部344はまた、要求された時に未処理および/または処理済みの状態情報の少なくとも一部をモニタリングステーション352および354に提供するよう構成されてもよい。モニタリングステーション352および354は、例えば、電話、タブレット、および/またはコンピュータであってもよい。いくつかの実施形態において、モニタリングステーション352および354は、未処理および/または処理済みの状態情報の少なくとも一部を関連するディスプレイ上にセキュアかつ遠隔的に表示するため、クラウド式の技術を用いてもよい。例えば、モニタリングステーション352および354は、未処理および/または処理済みの状態情報の少なくとも一部をセキュアかつ遠隔的に表示するため、Abiomed, Inc., Danvers, MAによるImpella Connect(登録商標)などのオンラインデバイス管理システムを用いてもよい。
【0048】
いくつかの実施形態において、サーバー342、ならびに/または、モニタリングステーション352および/もしくは354はまた、システム300内の1つまたは複数の医療デバイスコントローラ(例えば医療デバイスコントローラ312、314、316、および/または318)に遠隔的にコマンドを送るよう構成されてもよい。例えば、コントローラ130がシステム300に追加されているならば、サーバー342、ならびに/または、モニタリングステーション352および/もしくは354は、コントローラ130に遠隔的にコマンドを送ることによって、モーターハウジング116内のモーターに送達される電力、パージ用サブシステム150を通るパージ用流体の流量、および/またはパージ用サブシステム150内のパージ用流体の圧力を、遠隔的に調整するよう構成されてもよい。いくつかの実施形態において、システム300内の1つまたは複数の医療デバイスコントローラ(例えば医療デバイスコントローラ312、314、316、および/または318)が、1つまたは複数の算出処理を、サーバー342、ならびに/または、モニタリングステーション352および/もしくは354にオフロードしてもよい。例えば、コントローラ130がシステム300に追加されているならば、コントローラ130が複雑な計算(例えば機械学習アルゴリズム)をサーバー342、ならびに/または、モニタリングステーション352および/もしくは354にオフロードしてもよい。待ち時間を低減するため、コントローラ130はまた、そうした計算を同じLAN上の別のコンピューティングデバイス(図示せず)にオフロードしてもよい。
【0049】
図4に示すように、心臓周期は、等容性収縮期410、駆出期420、等容性弛緩期430、および充満期440という4つのフェーズを含有している。心臓周期中、心腔内の心筋の収縮と弛緩とが、僧帽弁452および大動脈弁454という2つの弁を圧力差によって開閉させる。等容性収縮期410中は、僧帽弁452および大動脈弁454が閉じ、そしてチャンバー456内の圧力が、大動脈弁454が開くだけの高さになるまで増大する。駆出期420中は、僧帽弁452が閉じ、大動脈弁454が開いて、血液がチャンバー456から出て大動脈内に流入する。等容性弛緩期430中は、僧帽弁452および大動脈弁454が閉じ、そしてチャンバー456内の圧力が、僧帽弁452が開くだけの低さになるまで低減する。充満期440中は、僧帽弁452が開き、大動脈弁454が閉じて、血液がチャンバー456内に流入する。最初の2つのフェーズは収縮期として公知であり、最後の2つのフェーズは拡張期として公知である。
【0050】
図5に、大動脈内圧(AoP)、左室圧(LVP)、差圧(dP)、ポンプ流量、およびモーター電流の規則的な波形、ならびにそれらと収縮および拡張との関係を図示する。AoP波形は患者の上行大動脈(例えば上行大動脈124)内の圧力に対応する。LVP波形は患者の左心室(例えば左心室128)内の圧力に対応する。dP波形は患者の上行大動脈と左心室との間の差圧に対応する。ポンプ流量波形は、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ(例えば経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110)によって血液が左心室から上行大動脈内に引かれるレートに対応する。モーター電流波形は、経弁マイクロ軸流心臓ポンプのモーター(例えばモーターハウジング116内のモーター)に提供される電流に対応する。
【0051】
一定した平均大動脈内圧(MAP)を維持することは、適切な臓器灌流を確保するためにきわめて重要である。例えばChemla et al., Mean aortic pressure is the geometric mean of systolic and diastolic aortic pressure in resting humans, Journal of Applied Physiology 99:6, 2278-2284, 2005を参照されたい。研究が示すところによれば、65 mmHgというMAP閾値を下回って経過する時間が長くなることは、死亡または臓器機能不全のリスクなど、患者アウトカムの悪化と関連性がある。例えばVarpula et al., Hemodynamic variables related to outcome in septic shock, Intensive Care Med. 31:1066-1071, 2005; Dunser et al., Arterial blood pressure during early sepsis and outcome, Intensive Care Med. 35:1225-1233, 2009; Dunser et al., Association of arterial blood pressure and vasopressor load with septic shock mortality: a post hoc analysis of a multicenter trial, Crit. Care Lond. Engl. 13:R181, 2009を参照されたい。図5に示すように、経弁マイクロ軸流心臓ポンプなどのカテーテル式血行力学的支持デバイスを用いて取得される生理学的波形は、血行力学情報の豊富な情報源となりうる。しかし、そうしたデバイスを用いたMAPの予想時系列に基づいて、患者状態に関する事前警告が行われることはまれである。
【0052】
本開示の諸局面は、経弁マイクロ軸流心臓ポンプから血行力学的支持を受けている患者の大動脈内圧を予測するためのシステムおよび方法を説明する。大動脈内圧(例えばMAP)における差し迫った変化を前もって警告することは、たとえその警告がわずか5~15分前になされるのであっても、血行力学が全面的に崩壊する前に患者の迅速な管理を支援する可能性がある。例えば、患者の大動脈内圧が増大するかまたは安定したままであると予測されるならば、臨床従事者が経皮的冠動脈インターベンション(PCI)手技を開始するかまたは続けてもよい。同様に、患者の大動脈内圧が低減すると予測されるならば、臨床従事者がPCI手技を遅らせるかまたは終わらせてもよい。概して、患者の予測大動脈内圧の著明な低減(例えば少なくとも10 mmHgの低減)は、患者のコンディションが悪化していることを指し示す。しかし、持続的な増大もまた、患者のコンディションが低下していることを指し示す可能性がある。
【0053】
大動脈内圧において安定的な傾向が予想されることもまた、患者を経弁マイクロ軸流心臓ポンプから離脱させるための信号として役立つ。同様に、見積もられた大動脈内圧が、離脱プロセス中に患者に提供される支持のレベルを割り当てるために用いられてもよい。例えば、臨床従事者が、患者に提供される薬理学的支持を予測大動脈内圧に基づいて(例えば、患者に提供される昇圧剤または強心剤などの薬物の量を調整するなどによって)調整してもよい。別の例として、モータースピード設定(例えば、心臓ポンプの目下のスピード(パフォーマンス)設定230)が、見積もられた大動脈内圧に基づいて、臨床従事者によって手動で調整されてもよく、かつ/または、接続された医療デバイスコントローラ(例えばコントローラ130)によって自動的に調整されてもよい。例えばいくつかの実施形態において、医療デバイスコントローラは、モータースピード設定を経時的に自動的かつ徐々に低減させることによって患者を支持から離脱させるよう構成されてもよい。そうした実施形態において、医療デバイスは例えば、患者のコンディションが悪化すると予測されるならば(例えば患者の大動脈内圧が著明に低減すると予測されるならば)、モータースピード設定を一時的に増大させてもよい。
【0054】
いくつかの実施形態において、経弁マイクロ軸流心臓ポンプに関連したディスプレイ(例えばディスプレイ140)が、臨床従事者がそれに従って反応できるように予測大動脈内圧を表示するよう構成されてもよい。例えば、図2(a)~(h)に図示した画面に関して、心臓ポンプのフロー測定結果242および/またはパージシステムの測定結果244と並んで予測大動脈内圧が表示されてもよい。別の例として、大動脈内圧における著明な変化(例えば+/-10 mmHg)が、通知エリア270内における通知の表示または状態インジケータ251の更新を引き起こしてもよい。また別の例として、留置信号グラフ252とほぼ同様の、経時的な予測大動脈内圧のグラフを含む、大動脈内圧予想画面が表示されてもよい。また別の例として、経時的な予測大動脈内圧のグラフが、ホーム画面202、留置画面204、パージ画面206、および/もしくは注入履歴画面208に追加されてもよく、かつ/または、これら画面のうち1つにおけるデータフィールド(例えば留置信号グラフ252、モーター電流グラフ253、パージフローグラフ254、および/もしくはパージ圧グラフ255)を置き換えてもよい。
【0055】
上述したように、経弁マイクロ軸流心臓ポンプは、血行力学的支持を提供し、ゆえに自己心機能回復を支援するのみならず、例えば、測定結果を末梢ではなく起源で捕捉するための1つまたは複数のセンサー(例えば圧力センサー114)も装備している。経弁マイクロ軸流心臓ポンプの前記1つまたは複数のセンサーから取得された測定結果と、経弁マイクロ軸流心臓ポンプのモーター(例えばモーターハウジング116内のモーター)の作動特性とは、集合的に、患者の大動脈内圧を予測するために機械学習アルゴリズムを適用できる豊富なデータのセットを提供することができる。例えば、大動脈内圧、モーター電流、モータースピード、および/またはモータースピード設定(例えば、Abiomed, Inc., Danvers, MAによるImpella Catheterの場合は、P-0、P-1、P-2、P-3、P-4、P-5など)を含む特徴のセットに、機械学習アルゴリズムが適用されてもよい。大動脈内圧は、経弁マイクロ軸流心臓ポンプの圧力センサーによって取得された測定結果から導出されてもよい。モーター電流は、経弁マイクロ軸流心臓ポンプのモーターのエネルギー取込みから導出されてもよい。モータースピードは、経弁マイクロ軸流心臓ポンプの信号生成器によって取得された測定結果から導出されてもよい。モータースピードはまた、経弁マイクロ軸流心臓ポンプのモーターの逆起電力(EMF)から導出されてもよい。いくつかの実施形態において、経弁マイクロ軸流心臓ポンプのモーターは3つまたはそれ以上のモーター巻線を含む。そうした実施形態において、逆EMFは、例えば、電源から接続解除されたモーター巻線をまたいで測定された電圧から導出されてもよい。いくつかの実施形態において、電源は、接続された医療デバイスコントローラ(例えばコントローラ130)内にあってもよい。
【0056】
患者の大動脈内圧を予測するため、ベイズのアルゴリズム、クラスター化アルゴリズム、決定木アルゴリズム、次元低減アルゴリズム、インスタンスベースアルゴリズム、深層学習アルゴリズム、回帰アルゴリズム、正則化アルゴリズム、およびルールベース機械学習アルゴリズムなど、異なるさまざまな機械学習アルゴリズムが、経弁マイクロ軸流心臓ポンプからの測定結果に適用されてもよい。深層学習アルゴリズムのいくつかの例には、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデル、ディープニューラルネットワーク(DNN)モデル、再帰型シーケンスツーシーケンスモデル、アテンション付き再帰型シーケンスツーシーケンスモデル、トランスフォーマーモデル、時間畳み込みニューラルネットワーク(TCN)モデル、および畳み込みニューラルピラミッドモデルが含まれる。いくつかの実施形態において、これらの機械学習アルゴリズムは、経弁マイクロ軸流心臓ポンプに接続された医療デバイスコントローラ(例えばコントローラ130)によって実施されてもよい。他の実施形態において、この処理の一部または全部が、コンピュータネットワーク上の別のデバイス(例えばサーバー342)にオフロードされてもよい。
【0057】
ARIMAモデルは時系列予想用の普及した統計的方法である。同モデルの構成要素は、自己回帰(Autoregression)(AR)、和分(Integrated)、および移動平均(Moving Average)(MA)である。結果として、このモデルは、(a)観測値といくつかの遅延観測値との間の依存関係、(b)時系列を定常的にするための、生観測値の差分(観測値を、その前の時間ステップにおける観測値から減算すること)、および(c)観測値と、遅延観測値に適用された移動平均モデルによる残差との間の依存性、を用いる。ARIMAモデルに関する追加情報は、参照により本明細書に組み入れられるHyndman & Athanasopoulos, Forecasting: principles and practice, 2nd edition, Chapter 8 ARIMA models, OTexts: Melbourne, Australia, OTexts.com/fpp2, 2018に記載されている。
【0058】
フィードフォワード・ディープニューラルネットワーク(DNN)は、1つの入力層と、複数の隠れ層と、1つの出力層とによって形成されうる。DNNが自己回帰の様式で用いられてもよい。そうした実施形態において、DNNが、1ステップ先の予想を行うため、かつ、複数ステップ先の予想のために予測を帰納的にフィードバックし続けるため、出力層内に単一ユニットを備えて作り上げられてもよい。DNNモデルに関する追加情報は、参照により本明細書に組み入れられるSchmidhuber, Deep Learning in Neural Networks: An Overview, arXiv:1404.7828v4, 2014に記載されている。
【0059】
再帰型シーケンスツーシーケンスモデルは、1つのエンコーダを用いて入力シーケンスを固定サイズベクトルにマッピングし、そして次にそのベクトルをデコーダでターゲットシーケンスにマッピングする。再帰型シーケンスツーシーケンスモデルに関する追加情報は、参照により本明細書に組み入れられるSutskever et al., Sequence to Sequence Learning with Neural Networks, NeurIPS 2014に記載されている。再帰型ニューラルネットワーク(RNN)モデルは、共有重みを通して処理された情報をその隠れ層が記憶できるので、時系列内の時間情報を保持するために用いられてもよい。エンコーダについては、順方向および逆方向の両方でデータを処理できるよう、双方向RNNモデルが用いられてもよい。いくつかの実施形態において、2つの別個の隠れ層が用いられてもよく、そして次に同じ出力層にマージされてもよい。デコーダについては、ターゲットシーケンスを隠れ状態からデコードするためにRNNモデルが用いられてもよい。しかしRNNモデルは、勾配消失のゆえに、長期依存性を学習することが難しい。長・短期記憶(LSTM)ユニットは、勾配消失の問題を記憶セルの状態によって軽減できる。LSTMユニットを伴う再帰型シーケンスツーシーケンスモデルの全体的な構造600を図6に図示する。LSTMに関する追加情報は、参照により本明細書に組み入れられるHochreiter & Schmidhuber, Long Short-Term Memory, Neural Computation, Volume 9 Issue 8, 1997に記載されている。本開示の残りの部分において、LSTMユニットを伴う再帰型シーケンスツーシーケンスモデルを単に「LSTM」という。
【0060】
再帰型シーケンスツーシーケンスモデルは、出力の各時間ステップを1つの固定長ベクトルからデコードするため、入力のうちすべての必要な情報を1つの固定長ベクトルに圧縮する必要がある。結果として、すべての有用な情報をエンコーダ‐デコーダネットワークが学習することが困難になる可能性がある。この問題を軽減するためにアテンション機構が適用されてもよい。アテンション機構は、デコーダによって用いられるコンテキストベクトルのためにエンコーダの中間状態を利用することによって、局所情報を学習することができる。ゆえに、コンテキストベクトルと全ソース入力との間にショートカットを作り出すことによって固定長コンテキストベクトルの欠点を克服するために、関数ではなくアテンション機構が用いられてもよい。アテンション機構に関する追加情報は、参照により本明細書に組み入れられるLuong et al., Effective Approaches to Attention-based Neural Machine Translation, arXiv:1508.04025, 2015に記載されている。
【0061】
Legendreメモリユニット(LMU)は、連続時間信号を直交するd次元に投影するために、第一原理から導出されるセル構造を用いることによって、RNNのトレーニングに一般に関連する勾配消失および勾配爆発の問題にさらに対処する。LMUは、たとえ離散時間ステップΔtがゼロに近づいても、長距離依存性を学習するための理論的保証を提供する。このことは、内部特徴表現の連続的な履歴にわたって勾配がフローすることを可能にする。LMUは、エネルギー効率を確保しながら最先端のメモリキャパシティを実現する近年の革新であり、医療領域におけるカオス的な時系列予測タスクに特に適した手法となっている。LMUに関する追加情報は、参照により本明細書に組み入れられるVoelker et al., Legendre Memory Units: Continuous-Time Representation in Recurrent Neural Networks, NeurIPS 2019に記載されている。
【0062】
トランスフォーマーモデルは、シーケンス整列したRNNまたは畳み込みを用いずに入力および出力の表現を算出するためにセルフアテンションに全面的に頼る(ここでのアテンションは前述のものと異なることに留意されたい)、トランスダクションモデルである。エンコード用コンポーネントおよびデコード用コンポーネントは両方とも、同一の層のスタックであり、その各々が、1つのマルチヘッドアテンション層と1つのフル接続層という2つの下層で組成される。デコーダはそれらの層を両方とも有するが、それらの間には、デコーダがエンコーダスタックの出力にフォーカスすることを助けるアテンション層がある。トランスフォーマーモデルは、単一のスケールド・ドット-プロダクト・アテンション(scaled dot-product attention)を用いる代わりに、クエリQ、キーK、および値Vを以下のように出力に投影する:
アテンション関数は並列で行われる。いくつかの実施形態において、パフォーマンスを向上させるため、トランスフォーマーモデルにおいて残差接続およびドロップアウトが用いられてもよい。本開示の文脈において、トランスフォーマーモデルは数値時系列に適用されているので、位置情報の埋め込み(positional embedding)の代わりに入力の絶対ポジションが用いられてもよい。トランスフォーマーモデルの全体的な構造700を図7に図示する。図に示すように、エンコーダは、1つのマルチヘッドアテンション層と、1つのフル接続層とを含有し;デコーダは、1つのマスクされたマルチヘッドアテンション層と、1つのマルチヘッドアテンション層と、1つのフル接続層とを含有する。トランスフォーマーモデルに関する追加情報は、参照により本明細書に組み入れられるVaswani et al., Attention Is All You Need, arXiv:1706.03762v5, 2017に記載されている。
【0063】
TCNモデルは、一次元シーケンス上で作動する畳み込み隠れ層(convolutional hidden layer)を有する。畳み込みニューラルネットワークは入力シーケンスに関する階層表現を作り出し、その際に、近い入力要素はより低層で相互作用し、遠い要素はより高層で相互作用する。これにより、再帰型ネットワークによってモデル化される鎖状構造と比較して、長距離依存性を捕捉するための経路がより短くなる。いくつかの実施形態において、TCNモデルの全体的な構造は複数の畳み込みブロックを含み、平坦化層と、複数のフル接続層とがそれに続く。いくつかの実施形態において、モデルに秩序の感覚をもたせるため、入力要素の絶対ポジションが埋め込まれてもよい。いくつかの実施形態において、「デッドrelu(dead relu)」問題を回避するため、TCNモデルの各層に漏洩relu活性化関数が適用されてもよい。いくつかの実施形態において、オーバーフィッティングを回避するためにドロップアウトが用いられてもよい。いくつかの実施形態において、TCNモデルのパフォーマンスを向上させるために残差接続が用いられてもよい。TCNモデルの全体的な構造800を図8に図示する。図に示すように、TCNモデルは複数の畳み込み層を含み、平坦化層と、残差接続を伴う複数のフル接続層とがそれに続く。TCNモデルに関する追加情報は、参照により本明細書に組み入れられるBai et al., An Empirical Evaluation of Generic Convolutional and Recurrent Networks for Sequence Modeling, arXiv:1803.01271v2, 2018に記載されている。
【0064】
有利な点として、TCNモデルはトレーニングのためのメモリ要件が低い。表1に、LMUモデル、LSTMモデル、DNNモデル、ピラミッドモデル、TCNモデル、およびトランスフォーマーモデルの1層あたりの複雑性を示す。表1において、nは入力長、dはモデルの隠れサイズ、そしてkはカーネルサイズである。5分間のリアルタイム(RT)入力シーケンス(例えば7500サンプルを有する)など、長いシーケンスの場合、LSTMモデルはすべての利用可能なメモリを容易に使い果たして勾配消失問題を生じてしまう可能性がある。さらに、トランスフォーマーは、入力長がモデルの隠れサイズより大きい時に非常に非効率である。対照的に、TCNモデルは高周波データを効率的にエンコードできる。
【0065】
(表1)
【0066】
畳み込みニューラルピラミッドモデルでは、特徴のカスケードが2つのストリームで学習される。異なるピラミッドレベルをまたぐ第一のストリームは、受容野を拡大させる。第二のストリームは各ピラミッドレベルにおける情報を学習し、そして最後にそれをマージして最終結果をもたらす。図9に示すように、畳み込みニューラルピラミッドモデルの構造900は1からNまでのレベルを含み、Nはレベルの数である。これらのレベルを Li として表し、ここで i ∈ {1, ..., N} である。異なるスケールの内容(different-scale content)が各レベル Li にエンコードされる。特徴抽出および再構築の演算がそれぞれ各レベルに適用される。Li への入力は、ダウンサンプリング後の、L(i-1) から抽出された特徴である。レベル Li において、2i個の畳み込み層が特徴抽出に用いられる。次に、再構築演算が、隣り合う2つのレベルからの情報を融合させる。例えば Li および Li+1 の場合、Li+1 の出力がアップサンプリングされ、そして次に Li からの出力と融合される。いくつかの実施形態において、ダウンサンプリング演算は最大プーリング層として実施され、アップサンプリング演算はデコンボリューション層として実施される。畳み込みニューラルピラミッドモデルに関する追加情報は、参照により本明細書に組み入れられるShen et al., Convolutional Neural Pyramid for Image Processing, arXiv:1704.02071v1 [cs.CV], 2017に記載されている。
【0067】
大動脈内圧を予測するうえでの、上述の深層学習アルゴリズムのうちいくつかの有効性をテストするため、経弁マイクロ軸流心臓ポンプの67症例による患者データを取得した。これら症例のうち57例はHR-PCIのために適応となった(待機例41例、緊急例16例)。残りの10例は急性心筋梗塞(AMI)による心原性ショック(CGS)のために適応となった。加えて、パフォーマンスをデータ量に関して比較するため、経弁マイクロ軸流心臓ポンプの17症例による別のバッチを用いた。
【0068】
これら症例からのデータは、25HZの大動脈内圧と、25HZのモーター電流と、25HZのモータースピードと、これら3つの信号から導出された他の波形(例えばモータースピード設定、左室圧、および心拍数)とを含んでいた。データは、経弁マイクロ軸流心臓ポンプ(例えば経弁マイクロ軸流心臓ポンプ110)に接続された医療デバイスコントローラ(例えばコントローラ130)によって捕捉された。本明細書において、25HZの時系列をリアルタイム(RT)データという。平均化時間(AT)データは、250個ごとのRTデータポイントを平均化することによってRTデータから導出された。他の実施形態において、ATデータを取得するために、異なる数量のRTデータポイントが一緒に平均化されてもよい。いくつかの実施形態において、RTデータポイントの数量は、予測の望ましい時間スケールに基づいて選択されてもよい。図10に、25HZ RTの大動脈内圧およびモータースピードの時系列の10秒間サンプルを図示する。図11に、0.1HZ ATの大動脈内圧の時系列の20分間サンプルを図示する。図に示すように、平均大動脈内圧の波形は非定常的であり、かつ、大動脈内圧と患者の身体コンディションとの長期的傾向を指し示すことができる。
【0069】
モータースピード設定、左室圧、および心拍数などの特徴をモータースピードおよび大動脈内圧から導出できるので、上述の深層学習アルゴリズムのうちいくつかの有効性をテストするうえでモータースピードおよび大動脈内圧のみを用いた。モーター電流においては、平均的なシーケンスが含有する変動がモータースピードおよび大動脈内圧より少ないので、モーター電流もまた特徴として含めなかった。しかし、他の実施形態において、これらデータセットのいずれかが、モータースピードおよび/もしくは大動脈内圧とともに、またはその代わりに、用いられてもよい。
【0070】
15,000サンプル(10分間)のシーケンスを生成するためにスライディングウィンドウを用いた。センサーアーチファクトが生理学的なMAPの反映でない(すなわち50 mmHg未満、200 mmHg超)シーケンスは除去した。大動脈内圧における10 mmHg超の変化を有意と考えた。これらの時系列を、増加シーケンス(I)、減少シーケンス(D)、および定常シーケンス(S)という3つのタイプに類別した。増加シーケンスおよび減少シーケンスの全体的な変化は10 mmHg超であり、定常シーケンスの全体的な変化は10 mmHg未満であった。最終的に、50,705件の増加RTシーケンスと、50,577件の減少RTシーケンスと、419,559件の定常RTシーケンスとが集められた。これらシーケンスのすべてを、長さ60の0.1HZ ATシーケンスにも変換した。
【0071】
5分先の平均大動脈内圧(MAP)を予測するため、10種の深層学習アルゴリズム(すなわち、平均化時間(AT)入力によるARIMA、AT入力によるDNN、AT入力によるLMU、AT入力によるLSTM、AT入力によるアテンション付きLSTM、リアルタイム(RT)入力によるTCN、AT入力によるTCN、AT入力によるトランスフォーマー、AT入力によるピラミッド、およびRT入力によるピラミッド)をトレーニングした。他の実施形態において予想ウインドウが増大または低減されてもよい。例えば、他の実施形態において予想ウインドウが10分間または15分間に増大されてもよい。10種の深層学習アルゴリズムはまた、RMS伝搬オプティマイザー、および0.8の学習率減衰も用いてトレーニングした。60%-20%-20%のトレーニング用‐バリデーション用‐テスト用分割(training-validation-test split)を用いた。ハイパーパラメータの可能な組み合わせは多数あるので、10%のホールドアウトデータセットでハイパーパラメータのランダムグリッド探索を行った。例えばBergstra & Bengio, Random Search for Hyper-Parameter Optimization, Journal of Machine Learning Research 13 281-305, 2012を参照されたい。ハイパーパラメータの探索レンジを表2に記載する。二乗平均平方根誤差(RMSE)を評価尺度として用いた。検証用セットで算出されたRMSEの移動平均を早期打ち切り基準として用いた。すべてのテストについて、同じバッチサイズ64を用いた。
【0072】
(表2)
【0073】
図12に、テストした深層学習アルゴリズムのうちいくつかによって実現された平均RMSEの比較を提示する。各バープロットは、左から右に、AT入力によるLMU、AT入力によるLSTM、AT入力によるアテンション付きLSTM、AT入力によるDNN、AT入力によるTCN、AT入力によるトランスフォーマー、およびAT入力によるピラミッドによって実現された平均RMSEを提示している。図に示すように、増加(I)のみのデータセット、減少(D)のみのデータセット、定常(S)のみのデータセット、およびI-D-Sデータセットで各モデルをテストした。I-D-Sデータセットは、3タイプすべてのシーケンスを等しい割合で含有していた。I、D、およびSデータセットにはサンプルのシーケンス50,000件が含まれていた。I-D-Sデータセットにはサンプルのシーケンス150,000件が含まれていた。モデルのすべてをI-D-Sデータセットでトレーニングした。全体として、LMUモデルが、I-D-Sデータセットでの平均RMSE 1.837 mmHgを含めて、一貫して最良の平均RMSEスコアを実現した。
【0074】
図13および14に、パフォーマンスが最上位であった2つのモデルである、AT入力によるLMUと、AT入力によるアテンション付きLSTMとによって生成された、MAP予想を図示する。図13は、24時間の経過にわたる単一の記録について、MAP予想をグランドトゥルース(例えば真の大動脈内圧)と対照させて図示している。黒線はグランドトゥルースであり、色付きの線はモデルの予測である。図14は、増加シーケンス、減少シーケンス、および定常シーケンスによるMAP予想を図示している。破線はグランドトゥルースであり、実線はモデルの予測である。大動脈内圧およびモータースピードの、先行する5分間は、予測大動脈内圧値を生成するための入力である。図に示すように、両モデルともグランドトゥルースに密接に従っている。
【0075】
表3に、増加‐減少‐定常(I, D, S)データセットの順列でトレーニングした各モデルについて、コホートごとのすべてのRMSE値(mmHg)を示す。各エントリー内の上部の数字は、組み合わせたコホートのRMSE結果である。括弧内の3つの値は、増加、減少、および定常シーケンスのみをそれぞれ含有する3つの各テストセットでのRMSEである。結果はすべて5回のランの平均である。I-D-Sトレーニングセットは3タイプすべてのシーケンスを等しい割合で含有していた。I-Dのみのトレーニングセットは増加シーケンスと減少シーケンスとを等しい割合で含有していた。I-Sのみのトレーニングセットは増加シーケンスと定常シーケンスとを等しい割合で含有していた。D-Sのみのトレーニングセットは減少シーケンスと定常シーケンスとを等しい割合で含有していた。
【0076】
図15に、テストした深層学習アルゴリズムのうちいくつかによって実現された平均RMSEの比較を提示する。各バープロットは、左から右に、AT入力によるLMU、AT入力によるLSTM、AT入力によるアテンション付きLSTM、AT入力によるDNN、AT入力によるTCN、AT入力によるトランスフォーマー、およびAT入力によるピラミッドによって実現された平均RMSEを提示している。トレーニング用およびテスト用の異なるデータセットをこれらモデルとともに用いた。各バーの薄灰色部分は、当初の患者コホート(N=20)と最新の患者コホート(N=67)との間の予測パフォーマンスの向上分を表す。表3に関して上述したように、各モデルを増加‐減少‐定常(I, D, S)データセットの順列でトレーニングした。さらに、図12に関して上述したように、増加(I)のみのデータセット、減少(D)のみのデータセット、定常(S)のみのデータセット、およびI-D-Sデータセットで各モデルをテストした。トレーニングセット中に定常シーケンスがなくても、すべてのモデルが、定常シーケンスの予測について、比較可能かまたはより良好ですらあるパフォーマンスを実現できる。さらに、各バーの上方に図示されている向上分は、将来、より多くのデータが収集されるにしたがって、モデルパフォーマンスがさらに良好になる潜在可能性を例証している。
【0077】
(表3)
【0078】
全体として、これらのテスト結果は、上述のシステムおよび方法が患者の大動脈内圧を正確に予測するために使用できることを例証している。患者の大動脈内圧における差し迫った変化を前もって警告することは、たとえその警告がわずか5~15分前になされるのであっても、臨床アウトカムを大きく高める可能性がある。例えばWijnberge et al., Effect of a Machine Learning-Derived Early Warning System for Intraoperative Hypotension vs Standard Care on Depth and Duration of Intraoperative Hypotension During Elective Noncardiac Surgery: The HYPE Randomized Clinical Trial, JAMA, Caring for the Critically Ill Patient, doi: 10.1001/jama.2020.0592, 2020の著者らが観察したところによれば、低血圧の可能性について臨床従事者に知らせるために機械学習警告システムが用いられた時は、手術中に低血糖事象で経過した時間が有意に短かった。大動脈内圧における著明な変化(例えば+/-10 mmHg)を予想しそしてケア提供者に通知できることは、血行力学的な不安定性が生じる前に妥当に介入するための時間を臨床従事者に与える。加えて、大動脈内圧を予想することは、自己心の回復後に患者を機械的循環支持から離脱させることを支援できる。経弁ポンプのモータースピードを変化させることによって血行力学的支持のレベルを変動させることができるので、MAPを前もって予想することは血行力学的支持の維持/上昇もまた支援できる。
【0079】
以上の記述とさまざまな図面への参照とから、当業者には、本開示の範囲から逸脱することなくある一定の改変が本開示に行われうることが認識されるであろう。図面には本開示のいくつかの実施形態が示されているが、本開示がそれに限定されることは意図されていない;本開示は当技術分野が許容する限り広い範囲のものであること、そして本明細書がそのように読まれることが意図されているからである。したがって、以上の説明は限定的なものとしてではなく、特定の実施形態の例示としてのみ、みなされるべきである。当業者には、添付の特許請求の範囲および精神のうちで他の改変も想像されるであろう。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図2g
図2h
図3
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