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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】正極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20241002BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241002BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20241002BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241002BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/62 Z
B05D5/12 B
B05D7/24 303B
B05D7/24 303G
B05D1/36 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022069619
(22)【出願日】2022-04-20
(65)【公開番号】P2023159728
(43)【公開日】2023-11-01
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 尚也
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-055890(JP,A)
【文献】特開2008-198596(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100620(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/186017(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第113725399(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
B05D 5/12
B05D 7/24
B05D 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電部材の表面上に正極合材層を有する正極板の製造方法において、
第1カーボンナノチューブ、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む第1正極ペーストを準備する第1正極ペースト準備工程と、
第2カーボンナノチューブ、前記正極活物質粒子、及び、前記溶媒を含む第2正極ペーストを準備する第2正極ペースト準備工程と、
前記第1正極ペーストを前記集電部材の前記表面上に塗工して、前記集電部材の前記表面上に第1正極ペースト層を形成する第1塗工工程と、
前記第1正極ペースト層の表面上に、前記第2正極ペーストを塗工して、第2正極ペースト層を形成する第2塗工工程と、
前記第2塗工工程の後に、前記第1正極ペースト層を前記第2正極ペースト層と共に乾燥させて前記正極合材層を形成する乾燥工程と
前記正極合材層を厚み方向にプレスして圧縮するプレス工程と、を備え、
前記第1カーボンナノチューブの平均長さは、前記第2カーボンナノチューブの平均長さよりも長い
正極板の製造方法。
【請求項2】
集電部材の表面上に正極合材層を有する正極板の製造方法において、
第1カーボンナノチューブ、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む第1正極ペーストを準備する第1正極ペースト準備工程と、
第2カーボンナノチューブ、前記正極活物質粒子、及び、前記溶媒を含む第2正極ペーストを準備する第2正極ペースト準備工程と、
前記第1正極ペーストを前記集電部材の前記表面上に塗工して、前記集電部材の前記表面上に第1正極ペースト層を形成する第1塗工工程と、
記第1正極ペースト層を乾燥させて第1正極合材層とする第1乾燥を行う第1乾燥工程と、
前記第1正極合材層の表面上に、前記第2正極ペーストを塗工して、第2正極ペースト層を形成する第2塗工工程と、
記第2正極ペースト層を乾燥させて前記正極合材層を形成する第2乾燥を行う第2乾燥工程と、
前記正極合材層を厚み方向にプレスして圧縮するプレス工程と、を備え、
前記第1カーボンナノチューブの平均長さは、前記第2カーボンナノチューブの平均長さよりも長い
正極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、集電部材の表面上に正極合材層を有する正極板の製造方法が開示されている。具体的には、この製造方法は、カーボンナノチューブ、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む正極ペーストを準備する正極ペースト準備工程と、前記正極ペーストを前記集電部材の表面上に塗工して、前記集電部材の前記表面上に正極ペースト層を形成する塗工工程と、前記正極ペースト層を乾燥させて前記正極合材層を形成する乾燥工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-184490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カーボンナノチューブ、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む正極ペーストを集電部材の表面上に塗工して、正極ペースト層を形成し、これを乾燥したとき、正極ペースト層内において集電部材側に配置されていたカーボンナノチューブのうちの一部が、溶媒と共に正極ペースト層の表面側(集電部材から遠ざかる側)へ移動して、集電部材側のカーボンナノチューブが少なくなることがあった。カーボンナノチューブは、正極活物質粒子に比べて軽量であるため、蒸発しようとする溶媒と共に正極ペースト層の表面側へ移動するのである。このため、正極ペースト層を乾燥させた正極合材層内において、集電部材側の導電パスが少なくなることで、正極板の厚み方向の電気抵抗率が大きくなり、正極板の集電性が低下することがあった。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、厚み方向の電気抵抗率が小さい正極板を製造することができる正極板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、集電部材の表面上に正極合材層を有する正極板の製造方法において、第1カーボンナノチューブ、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む第1正極ペーストを準備する第1正極ペースト準備工程と、第2カーボンナノチューブ、前記正極活物質粒子、及び、前記溶媒を含む第2正極ペーストを準備する第2正極ペースト準備工程と、前記第1正極ペーストを前記集電部材の前記表面上に塗工して、前記集電部材の前記表面上に第1正極ペースト層を形成する第1塗工工程と、前記第1正極ペースト層の表面上に、または、前記第1正極ペースト層を乾燥させた第1正極合材層の表面上に、前記第2正極ペーストを塗工して、第2正極ペースト層を形成する第2塗工工程と、前記第2塗工工程の後に、前記第1正極ペースト層を前記第2正極ペースト層と共に乾燥させて前記正極合材層を形成する乾燥工程、または、前記第2塗工工程の前に前記第1正極ペースト層を乾燥させて前記第1正極合材層とする第1乾燥、及び、前記第1正極合材層の表面上に塗工した前記第2正極ペースト層を乾燥させて前記正極合材層を形成する第2乾燥、を有する乾燥工程と、前記正極合材層を厚み方向にプレスして圧縮するプレス工程と、を備え、前記第1カーボンナノチューブの平均長さは、前記第2カーボンナノチューブの平均長さよりも長い正極板の製造方法である。
【0007】
上述の製造方法では、下記の(a)または(b)の処理を行う。(a)第1塗工工程において、第1正極ペーストを集電部材の表面上に塗工して集電部材の表面上に第1正極ペースト層を形成した後、第2塗工工程において、第1正極ペースト層の表面上に第2正極ペーストを塗工して第2正極ペースト層を形成する。その後、乾燥工程において、第1正極ペースト層を第2正極ペースト層と共に乾燥させる。
【0008】
(b)第1塗工工程において、第1正極ペーストを集電部材の表面上に塗工して集電部材の表面上に第1正極ペースト層を形成した後、第1正極ペースト層を乾燥させて第1正極合材層とする第1乾燥を行う。その後、第2塗工工程において、第1正極合材層の表面上に第2正極ペーストを塗工して第2正極ペースト層を形成した後、この第2正極ペースト層を乾燥させる第2乾燥を行う。
【0009】
但し、上述の製造方法では、第1正極ペーストに含まれる第1カーボンナノチューブの平均長さを、第2正極ペーストに含まれる第2カーボンナノチューブの平均長さよりも長くしている。これより、第1正極ペースト層を乾燥させたとき、第1正極ペースト層内において集電部材側に配置されている第1カーボンナノチューブが、溶媒と共に表面側(集電部材から遠ざかる側)へ移動し難くなるので、集電部材側に位置する(特に、集電部材に接触している)カーボンナノチューブが減少し難くなる。
【0010】
その理由は、第1正極ペースト層を乾燥させたとき、第1正極ペースト層内の第1カーボンナノチューブは、蒸発しようとする溶媒と共に表面側へ移動しようとするが、第1カーボンナノチューブの長さが長いことで、正極活物質粒子に引っかかり易くなり、正極活物質粒子に引っかかることで表面側へ移動し難くなるからである。従って、上述の製造方法によれば、厚み方向の電気抵抗率(Ω・cm)が小さい正極板を製造することができる。
【0011】
(2)さらに、前記(1)の正極板の製造方法であって、前記第2塗工工程は、前記第1正極ペースト層の表面上に、前記第2正極ペーストを塗工して前記第2正極ペースト層を形成し、前記乾燥工程は、前記第1正極ペースト層を前記第2正極ペースト層と共に乾燥させる正極板の製造方法とすると良い。
【0012】
上述の製造方法では、第2塗工工程において、乾燥前の第1正極ペースト層の表面上に第2正極ペーストを塗工し、その後、乾燥工程において、第1正極ペースト層と共に第2正極ペースト層を乾燥させる。これにより、「第2正極ペーストを塗工する前に第1正極ペースト層を乾燥させて第1正極合材層を形成し、その後、第1正極合材層の表面上に塗工した第2正極ペースト層を乾燥させる」場合に比べて、より一層、正極板の厚み方向の電気抵抗率を小さくすることができる。
【0013】
その理由は、以下の通りである。後者の製造方法では、第2正極ペースト層を乾燥させたとき、第2正極ペースト層の集電部材側に位置する第2カーボンナノチューブの一部が溶媒と共に表面側へ移動して、第2正極ペースト層内において集電部材側の第2カーボンナノチューブの数が少なくなり得る。なお、後者の製造方法では、第2正極ペースト層を乾燥させるとき、既に、第1正極ペースト層は乾燥して第1正極合材層になっているので、第1正極合材層内の第1カーボンナノチューブは第2正極ペースト層内へ移動しない。
【0014】
これに対し、前者の製造方法では、第1正極ペースト層と共に第2正極ペースト層を乾燥させるので、これらを乾燥させたとき、第2正極ペースト層の集電部材側に位置する第2カーボンナノチューブの一部が溶媒と共に表面側へ移動して、第2正極ペースト層内において集電部材側の第2カーボンナノチューブが減少し得るが、第1正極ペースト層の表面側に位置する第1カーボンナノチューブの一部が溶媒と共に表面側へ移動して、第2正極ペースト層の集電部材側に配置され得る。あるいは、第1正極ペースト層の表面側と第2正極ペースト層の集電部材側との間を跨ぐように一部の第1カーボンナノチューブが配置され得る。これにより、第2正極ペースト層の集電部材側にも適切にカーボンナノチューブが配置され、正極板の厚み方向の電気抵抗率をより一層小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1にかかる正極板の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図2】実施例1,2にかかる第1正極ペースト準備工程を説明する図である。
図3】実施例1,2にかかる第2正極ペースト準備工程を説明する図である。
図4】実施例1,2にかかる第1塗工工程を説明する図である。
図5】実施例1にかかる第2塗工工程を説明する図である。
図6】実施例1にかかる乾燥工程を説明する図である。
図7】実施例1にかかる正極板の断面略図である。
図8】実施例2にかかる正極板の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図9】実施例2にかかる乾燥工程の第1乾燥を説明する図である。
図10】実施例2にかかる第2塗工工程を説明する図である。
図11】実施例2にかかる乾燥工程の第2乾燥を説明する図である。
図12】実施例2にかかる正極板の断面略図である。
図13】正極板の厚み方向の電気抵抗率を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施例1>
次に、実施例1にかかる正極板の製造方法について説明する。図1は、実施例1にかかる正極板1の製造方法の流れを示すフローチャートである。まず、ステップS1(第1正極ペースト準備工程)において、第1カーボンナノチューブ11、正極活物質粒子15、バインダ(図示省略)及び、溶媒17を含む第1正極ペースト41を準備する(図2参照)。なお、第1正極ペースト41は、カーボンナノチューブとして第1カーボンナノチューブ11のみを含有する。また、ステップS2(第2正極ペースト準備工程)において、第2カーボンナノチューブ12、正極活物質粒子15、バインダ(図示省略)及び、溶媒17を含む第2正極ペースト42を準備する(図3参照)。なお、第2正極ペースト42は、カーボンナノチューブとして第2カーボンナノチューブ12のみを含有する。
【0017】
また、第1カーボンナノチューブ11の平均長さは、第2カーボンナノチューブ12の平均長さよりも長い。具体的には、第1カーボンナノチューブ11の平均長さは1.3μmであり、第2カーボンナノチューブ12の平均長さは0.6μmである。詳細には、第1カーボンナノチューブ11の長さは、1.0μm以上3.0μm以下の範囲内とされている。一方、第2カーボンナノチューブ12の長さは、0.3μm以上0.8μm以下の範囲内とされている。
【0018】
次に、ステップS3(第1塗工工程)において、第1正極ペースト41を集電部材10の第1表面10b上に塗工して、集電部材10の第1表面10b上に第1正極ペースト層51を形成する(図4参照)。なお、本実施例1では、集電部材10として、第1表面10b及び第2表面10cを有するアルミニウム箔を用いている。次いで、ステップS4(第2塗工工程)に進み、第1正極ペースト層51の表面51b上に第2正極ペースト42を塗工して、第2正極ペースト層52を形成する(図5参照)。これにより、集電部材10の第1表面10b上に第1正極ペースト層51を有し、さらに、第1正極ペースト層51の表面51b上に第2正極ペースト層52を有する乾燥対象物TD1を作製する。
【0019】
その後、ステップS5(乾燥工程)において、第1正極ペースト層51を第2正極ペースト層52と共に乾燥させて、正極合材層20を形成する。具体的には、図6に示すように、上方に位置する複数の熱風吹出部81と、下方に位置する複数の搬送ロール85と、を備える乾燥炉80によって、乾燥対象物TD1の第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52を乾燥させる。より具体的には、第2正極ペースト層52を上方に位置する熱風吹出部81側に向けて、乾燥対象物TD1を搬送ロール85によって搬送方向DMに搬送しつつ、熱風吹出部81から吹き出す熱風HAによって、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52を乾燥させる。
【0020】
このとき、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52に含まれる溶媒17は、第2正極ペースト層52の表面52bへ移動して蒸発する。これにより、第1正極ペースト層51が第1正極合材層21になると共に、第2正極ペースト層52が第2正極合材層22となり、集電部材10の第1表面10b上に、第1正極合材層21及び第2正極合材層22からなる正極合材層20が形成される。
【0021】
その後、集電部材10の第2表面10c上にも、第1正極合材層21及び第2正極合材層22からなる正極合材層20を形成する。具体的には、ステップS6(第1塗工工程)において、第1正極ペースト41を集電部材10の第2表面10c上に塗工して、集電部材10の第2表面10c上に第1正極ペースト層51を形成する。次いで、ステップS7(第2塗工工程)に進み、第1正極ペースト層51の表面51b上に第2正極ペースト42を塗工して、第2正極ペースト層52を形成する。
【0022】
その後、ステップS8(乾燥工程)において、乾燥炉80によって、第1正極ペースト層51を第2正極ペースト層52と共に乾燥させて、正極合材層20を形成する。このとき、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52に含まれる溶媒17は、第2正極ペースト層52の表面52bへ移動して蒸発する。これにより、第1正極ペースト層51が第1正極合材層21になると共に、第2正極ペースト層52が第2正極合材層22となり、集電部材10の第2表面10c上にも、第1正極合材層21及び第2正極合材層22からなる正極合材層20が形成される(図7参照)。これにより、集電部材10の両面(第1表面10bと第2表面10c)に正極合材層20を有する正極板1(プレス前の正極板1)が得られる。その後、ステップS9(プレス工程)において、正極板1を厚み方向DTにプレスして、正極合材層20を厚み方向DTに圧縮することで、正極板1が完成する(図7参照)。
【0023】
ところで、従来、カーボンナノチューブ、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む正極ペーストを集電部材の表面上に塗工して、正極ペースト層を形成し、これを乾燥したとき、正極ペースト層内において集電部材側に配置されていたカーボンナノチューブのうちの一部が、溶媒と共に正極ペースト層の表面側(集電部材から遠ざかる側)へ移動して、集電部材側のカーボンナノチューブが少なくなることがあった。カーボンナノチューブは、正極活物質粒子に比べて軽量であるため、蒸発しようとする溶媒と共に正極ペースト層の表面側へ移動するのである。このため、正極ペースト層を乾燥させた正極合材層内において、集電部材側の導電パスが少なくなることで、正極板の厚み方向の電気抵抗率が大きくなり、正極板の集電性が低下することがあった。
【0024】
これに対し、本実施例1では、第1正極ペースト41に含まれる第1カーボンナノチューブ11の平均長さを、第2正極ペースト42に含まれる第2カーボンナノチューブ12の平均長さよりも長くしている。これより、ステップS5及びS8(乾燥工程)において、第1正極ペースト層51を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51内において集電部材10側に配置されている第1カーボンナノチューブ11が、溶媒17と共に表面51b側(集電部材10から遠ざかる側、図6において上方)へ移動し難くなるので、集電部材10側に位置する(特に、集電部材10に接触している)第1カーボンナノチューブ11が減少し難くなる。
【0025】
その理由は、第1正極ペースト層51を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51内の第1カーボンナノチューブ11は、蒸発しようとする溶媒17と共に表面51b,52b側へ移動しようとするが、第1カーボンナノチューブ11の長さが長いことで、正極活物質粒子15に引っかかり易くなり、正極活物質粒子15に引っかかることで表面51b,52b側へ移動し難くなるからである。
【0026】
また、本実施例1では、第1正極ペースト41の粘度を、第2正極ペースト42の粘度よりも高くしている。これにより、ステップS5及びS8(乾燥工程)において、第1正極ペースト層51を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51内において集電部材10側に配置されている第1カーボンナノチューブ11が、より一層、表面51b側(集電部材10から遠ざかる側、図6において上方)へ移動し難くなる。
【0027】
従って、本実施例1の製造方法によれば、第1正極ペースト層51を乾燥させた第1正極合材層21内において、集電部材10側の導電パスが少なくなることを防止できる。これにより、正極板1の厚み方向DTの電気抵抗率が大きくなることを防止することができ、正極板1の集電性が低下することを防止できる。従って、本実施例1の製造方法によれば、厚み方向DTの電気抵抗率(Ω・cm)が小さい正極板1を製造することが可能となる。
【0028】
<実施例2>
実施例2の製造方法は、実施例1の製造方法と比較して、第1正極ペースト層151を乾燥させて第1正極合材層121を形成した後に、第1正極合材層121の表面121b上に第2正極ペースト42を塗工する点が異なり、その他は同様である。以下、実施例2にかかる正極板の製造方法について説明する。図8は、実施例2にかかる正極板101の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0029】
まず、ステップT1(第1正極ペースト準備工程)において、実施例1と同等の第1正極ペースト41を準備する(図2参照)。また、ステップT2(第2正極ペースト準備工程)において、実施例1と同等の第2正極ペースト42を準備する(図3参照)。次に、ステップT3(第1塗工工程)において、第1正極ペースト41を集電部材10の第1表面10b上に塗工して、集電部材10の第1表面10b上に第1正極ペースト層151を形成する(図4参照)。次いで、ステップT4(第1乾燥)に進み、乾燥炉80を用いて第1正極ペースト層151を乾燥させて、第1正極合材層121を形成する(図9参照)。
【0030】
その後、ステップT5(第2塗工工程)において、第1正極合材層121の表面121b上に第2正極ペースト42を塗工して、第2正極ペースト層152を形成する(図10参照)。次いで、ステップT6(第2乾燥)に進み、乾燥炉80を用いて第2正極ペースト層152を乾燥させて、第2正極合材層122を形成する。これにより、集電部材10の第1表面10b上に、第1正極合材層121及び第2正極合材層122からなる正極合材層120が形成される(図11参照)。
【0031】
その後、集電部材10の第2表面10c上にも、第1正極合材層121及び第2正極合材層122からなる正極合材層20を形成する。具体的には、ステップT7(第1塗工工程)において、集電部材10の第2表面10c上に、第1正極ペースト41を塗工して第1正極ペースト層151を形成する。次いで、ステップT8(第1乾燥)に進み、第1正極ペースト層151を乾燥させて第1正極合材層121を形成する。その後、ステップT9(第2塗工工程)において、第1正極合材層121の表面121b上に、第2正極ペースト42を塗工して第2正極ペースト層152を形成する。
【0032】
次に、ステップTA(第2乾燥)に進み、第2正極ペースト層152を乾燥させて第2正極合材層122を形成する。これにより、集電部材10の第2表面10c上にも、第1正極合材層121及び第2正極合材層122からなる正極合材層120が形成される(図12参照)。これにより、集電部材10の両面(第1表面10bと第2表面10c)に正極合材層120を有する正極板101(プレス前の正極板101)が得られる。その後、ステップTB(プレス工程)において、正極板101を厚み方向DTにプレスして、正極合材層120を厚み方向DTに圧縮することで、正極板101が完成する(図12参照)。なお、本実施例2のステップT4(第1乾燥)、ステップT6(第2乾燥)、ステップT8(第1乾燥)、及びステップTA(第2乾燥)が、乾燥工程に相当する。
【0033】
本実施例2でも、実施例1と同様に、第1正極ペースト41に含まれる第1カーボンナノチューブ11の平均長さを、第2正極ペースト42に含まれる第2カーボンナノチューブ12の平均長さよりも長くしている。これより、ステップT4及びT8(第1乾燥)において、第1正極ペースト層151を乾燥させたとき、第1正極ペースト層151内において集電部材10側に配置されている第1カーボンナノチューブ11が、溶媒17と共に表面151b側(集電部材10から遠ざかる側、図9において上方)へ移動し難くなるので、集電部材10側に位置する(特に、集電部材10に接触している)第1カーボンナノチューブ11が減少し難くなる。
【0034】
また、本実施例2でも、第1正極ペースト41の粘度を、第2正極ペースト42の粘度よりも高くしている。これにより、ステップT4及びT8(第1乾燥)において、第1正極ペースト層151を乾燥させたとき、第1正極ペースト層151内において集電部材10側に配置されている第1カーボンナノチューブ11が、より一層、表面151b側(集電部材10から遠ざかる側)へ移動し難くなる。
【0035】
従って、本実施例2の製造方法によれば、第1正極ペースト層151を乾燥させた第1正極合材層121内において、集電部材10側の導電パスが少なくなることを防止できる。これにより、正極板101の厚み方向DTの電気抵抗率が大きくなることを防止することができ、正極板101の集電性が低下することを防止できる。従って、本実施例2の製造方法によれば、厚み方向DTの電気抵抗率(Ω・cm)が小さい正極板101を製造することが可能となる。
【0036】
<正極板の厚み方向の電気抵抗率の比較>
次に、実施例1,2の正極板1,101について、厚み方向DTの電気抵抗率(Ω・cm)を測定した。なお、本測定では、正極板1,101に対して厚み方向DTに3.5kNの荷重を掛けた状態で、公知の手法によって、正極板1,101の厚み方向DTについて電気抵抗率を測定している。これらの結果を、図13に比較して示す。また、比較例1として、集電部材10の第1表面10b及び第2表面10cに第2正極合材層122のみを有する正極板を作製した。すなわち、比較例1では、集電部材10の第1表面10b及び第2表面10cに、平均長さの短い第2カーボンナノチューブ12を含む第2正極ペースト42のみを塗工して、正極板を製造している。
【0037】
また、比較例2として、集電部材10の第1表面10b及び第2表面10cに第2正極合材層122を有し、第2正極合材層122上に第1正極合材層121を有する正極板を作製した。この比較例2では、実施例2とは反対に、集電部材10の第1表面10b及び第2表面10cに、平均長さの短い第2カーボンナノチューブ12を含む第2正極ペースト42を塗工して、これを乾燥させて第2正極合材層122を形成した後、第2正極合材層122の表面に第1正極ペースト41を塗工して、これを乾燥させて第1正極合材層121を形成している。この比較例1,2の正極板についても、実施例1,2の正極板1,101と同様にして、厚み方向の電気抵抗率を測定した。これらの結果も、図13に比較して示す。
【0038】
図13に示すように、実施例1,2は、比較例1,2に比べて、正極板の厚み方向の電気抵抗率が小さくなった。その理由は、実施例1,2では、比較例1,2とは異なり、カーボンナノチューブとして第2カーボンナノチューブ12に比べて平均長さの長い第1カーボンナノチューブ11のみを含む第1正極ペースト41を、集電部材10の第1表面10b及び第2表面10cに塗工しているからである。これより、第1正極ペースト41からなる第1正極ペースト層51,151を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51,151内において集電部材10側に配置されている第1カーボンナノチューブ11が、溶媒17と共に表面51b,151b側へ移動し難くなり、集電部材10側に位置する(特に、集電部材10に接触している)第1カーボンナノチューブ11が減少し難くなるからである。
【0039】
より具体的には、第1正極ペースト層51,151を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51,151内の第1カーボンナノチューブ11は、蒸発しようとする溶媒17と共に表面51b,151b側へ移動しようとするが、第1カーボンナノチューブ11の長さが長いことで、正極活物質粒子15に引っかかり易くなり、正極活物質粒子15に引っかかることで表面51b,151b側へ移動し難くなるからである。これにより、集電部材10側のカーボンナノチューブが少なくなることを抑制できたと考えられる。このため、正極合材層20,120内において集電部材10側の導電パスが良好に形成され、正極板1,101の厚み方向の電気抵抗率を小さくすることができたと考えられる。
【0040】
一方、比較例1,2では、カーボンナノチューブとして第1カーボンナノチューブ11に比べて平均長さの短い第2カーボンナノチューブ12のみを含む第2正極ペースト42を、集電部材10の第1表面10b及び第2表面10cに塗工している。このため、第2正極ペースト42からなる第2正極ペースト層を乾燥させたとき、第2正極ペースト層内において集電部材10側に配置されている第2カーボンナノチューブ12が、溶媒17と共に表面側へ移動し易くなり、集電部材10側に位置する(特に、集電部材10に接触している)第2カーボンナノチューブ12が減少し易かったと考えられる。このため、正極合材層内において集電部材10側の導電パスが少なくなり、正極板の厚み方向の電気抵抗率が大きくなったと考えられる。
【0041】
さらに、実施例1と実施例2の結果を比較すると、実施例2よりも実施例1のほうが、厚み方向DTの電気抵抗率が小さくなった(図13参照)。その理由は、以下のように考えられる。実施例1では、第2塗工工程(ステップS4)において、乾燥前の第1正極ペースト層51の表面51b上に第2正極ペースト42を塗工し、その後、乾燥工程(ステップS5)において、第1正極ペースト層51と共に第2正極ペースト層52を乾燥させている。一方、実施例2では、第2正極ペースト42を塗工する前に第1正極ペースト層151を乾燥させて第1正極合材層121を形成し、その後、第1正極合材層121の表面121b上に塗工した第2正極ペースト層152を乾燥させているからである。
【0042】
具体的に説明すると、実施例1及び実施例2では、第2正極ペースト層52,152を乾燥させたとき、第2正極ペースト層52,152の集電部材10側に位置する第2カーボンナノチューブ12の一部が、溶媒17と共に表面52b,152b側へ移動して、第2正極ペースト層52,152内において集電部材10側の第2カーボンナノチューブ12の数が少なくなる。
【0043】
しかしながら、実施例1では、第1正極ペースト層51と共に第2正極ペースト層52を乾燥させるので、これらを乾燥させているとき、第1正極ペースト層51の表面51b側に位置する第1カーボンナノチューブ11の一部が溶媒17と共に表面52b側へ移動して、第2正極ペースト層52の集電部材10側に配置される。また、第1正極ペースト層51の表面51b側と第2正極ペースト層52の集電部材10側との間を跨ぐように一部の第1カーボンナノチューブ11が配置される。このように、第2正極ペースト層52内の集電部材10側において、第2カーボンナノチューブ12の減少分の少なくとも一部を補うように、第1カーボンナノチューブ11が配置される。これにより、実施例1では、第2正極ペースト層52の集電部材10側においても、適切にカーボンナノチューブが配置され、正極板1の厚み方向DTの電気抵抗率が小さくなる。
【0044】
一方、実施例2では、第2正極ペースト層152を乾燥させるとき、既に、第1正極ペースト層151は乾燥して第1正極合材層121になっているので、第1正極合材層121内の第1カーボンナノチューブ11は第2正極ペースト層152内へ移動しない。このため、第2正極ペースト層152を乾燥させたとき、第2正極ペースト層152の集電部材10側に位置する第2カーボンナノチューブ12が表面152b側へ移動した分だけ、第2正極ペースト層152内の集電部材10側においてカーボンナノチューブが減少する。
【0045】
以上説明したように、実施例2の製造方法よりも実施例1の製造方法のほうが、より一層、正極板の厚み方向の電気抵抗率を小さくすることができるといえる。従って、「第2塗工工程では、第1正極ペースト層の表面上に第2正極ペーストを塗工して第2正極ペースト層を形成し、乾燥工程では、第1正極ペースト層を第2正極ペースト層と共に乾燥させる」正極板の製造方法が、より好ましいといえる。
【0046】
以上において、本発明を実施形態(実施例1,2)に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1,101 正極板
10 集電部材
11 第1カーボンナノチューブ
12 第2カーボンナノチューブ
15 正極活物質粒子
17 溶媒
20,120 正極合材層
21,121 第1正極合材層
22,122 第2正極合材層
41 第1正極ペースト
42 第2正極ペースト
51,151 第1正極ペースト層
52,152 第2正極ペースト層
80 乾燥炉
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
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図11
図12
図13