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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】射出成形カニューレシステム
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/142 20060101AFI20241002BHJP
   A61M 39/04 20060101ALI20241002BHJP
   A61M 39/12 20060101ALI20241002BHJP
   A61M 5/158 20060101ALI20241002BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
A61M5/142
A61M39/04
A61M39/12
A61M5/158 500H
A61M25/00 530
A61M25/00 520
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022500659
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2020069550
(87)【国際公開番号】W WO2021005207
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】19185482.7
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】フライターク,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ラスムッセン,マッズ・ビヨルン
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-144448(JP,U)
【文献】国際公開第2018/100072(WO,A1)
【文献】特表2008-504929(JP,A)
【文献】特開2017-086566(JP,A)
【文献】国際公開第2018/033614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/142
A61M 39/04
A61M 39/12
A61M 5/158
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ユニットおよび圧縮ユニットを有するカニューレシステムを製造するための方法であって、
取付け構造を含む本体ユニットを設けるステップであって、前記本体ユニットが成形コアピン上に取り付けられ、ステップと、
前記本体ユニットの前記取付け構造に軟質カニューレを通すステップと、
前記軟質カニューレ、および前記本体ユニットの少なくとも一部に前記圧縮ユニットを射出成形するステップであって、前記圧縮ユニットが、前記取付け構造、前記軟質カニューレの少なくとも一部、および前記本体ユニットの少なくとも一部を円周方向に取り囲む、ステップと、
前記圧縮ユニットを冷却し、これにより、前記圧縮ユニットの内部材料張力を提供するステップと、
前記成形コアピンを取り外すステップと、
を含み、
前記軟質カニューレの遠位端領域のみが、前記本体ユニットの前記取付け構造に通され、
前記遠位端領域には、前記軟質カニューレと前記圧縮ユニットとの間にフォームロックおよび/または接着結合を確立するためのロック構造が設けられており、
前記軟質カニューレを前記本体ユニットの前記取付け構造に通す前に、前記軟質カニューレの前記遠位端領域に前記ロック構造が生成され、
前記ロック構造は、少なくとも1つの穴を含む、
方法。
【請求項2】
前記圧縮ユニットが前記軟質カニューレの前記遠位端領域のみを円周方向に取り囲む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの穴は、貫通孔もしくは止まり穴を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記軟質カニューレが前記取付け構造に通される前に、前記軟質カニューレの前記遠位端領域が、前記軟質カニューレの残りの部分よりも直径が大きい、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記圧縮ユニットの前記内部材料張力が径方向内側に向けられた圧縮力を加え、および/または、前記圧縮ユニットの前記内部材料張力が前記軟質カニューレを圧縮する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記本体ユニットと前記圧縮ユニットとが、および/または、前記圧縮ユニットと前記軟質カニューレとが、前記圧縮ユニットの射出成形中に結合接続を形成する、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
軟質カニューレ(10)、および前記軟質カニューレ(10)を保持するためのカニューレユニットを備えるカニューレシステム(1)であって、前記カニューレユニットが圧縮ユニット(20)および本体ユニット(30)を含み、前記本体ユニット(30)が取付け構造(31)、およびセプタムを保持するためのキャビティ(32)を含み、前記軟質カニューレ(10)が前記取付け構造(31)に通され、前記圧縮ユニット(20)が前記取付け構造(31)、および前記本体ユニット(30)の少なくとも一部を円周方向に取り囲み、前記圧縮ユニット(20)が前記軟質カニューレ(10)および前記取付け構造(31)に圧縮力を加えるための内部材料張力を含み、
前記軟質カニューレ(10)の遠位端領域(11)のみが、前記取付け構造(31)に通され、
前記軟質カニューレ(10)の前記遠位端領域(11)が前記軟質カニューレ(10)と前記圧縮ユニット(20)との間にフォームロックおよび/または接着結合を提供するロック構造を備え、
前記ロック構造は、少なくとも1つの穴(12a)を含む、
カニューレシステム(1)
【請求項8】
前記圧縮ユニット(20)が前記軟質カニューレ(10)の前記遠位端領域(11)を円周方向に取り囲む、請求項7に記載のカニューレシステム(1)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの穴(12a)は、貫通孔もしくは止まり穴を含む、請求項7または8に記載のカニューレシステム(1)
【請求項10】
前記軟質カニューレ(10)の前記遠位端領域(11)が前記軟質カニューレ(10)の残りの部分よりも直径が大きい、請求項7から9のいずれか1項に記載のカニューレシステム(1)
【請求項11】
前記圧縮ユニット(20)が前記軟質カニューレ(10)の少なくとも前記遠位端領域(11)を圧縮し、および/または、前記本体ユニット(30)と前記圧縮ユニット(20)とが結合接続によって接続され、および/または、前記軟質カニューレ(10)と前記圧縮ユニット(20)とが結合接続によって接続されている、請求項7から10のいずれか1項に記載のカニューレシステム(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液技術の分野に関する。より詳細には、本発明は、輸液部位インタフェースおよび輸液ポンプ、ならびに、輸液部位インタフェースのためのカニューレシステムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
輸液ポンプは、長期間にわたって液状薬剤を患者に非経口的に投与するために使用される。今日、患者が身体に着けて運ぶことができる非常に寸法の小さな輸液ポンプが利用可能である。そのような小型で携帯型の輸液ポンプは、糖尿病の治療のためのインスリンまたは疼痛治療のための鎮痛剤といった、カニューレを通して患者の組織内に運ばれる少量の高度に効果的な液状薬剤を調量するために特に有用である。
【0003】
1つの手法では、身体のどこかに着けて運ばれる、例えばベルトに装着された輸液ポンプは、患者の身体に装着された挿入ヘッドとも呼ばれる輸液部位インタフェースに可撓性チューブを介して流体接続されている。輸液部位インタフェースは、身体組織に挿入されるカニューレと、ハウジングと、カニューレを上流の輸液ポンプに接続された可撓性チューブと流体接続するためのコネクタ手段と、を有するカニューレシステムを構成する。チューブは、輸液部位インタフェースに繰り返し接続することができ、またそこから外すことができる。コネクタ手段は、例えば、カニューレおよびハウジングの流体システムを密閉するセプタム(septum)を備えることができる。流体接続を可逆的に確立するために、セプタムには、中空針が貫入することができる。カニューレは、好ましくは可撓性材料で作製され、したがって軟質カニューレである。このようなカニューレは、そのユーザーにとって、特に身体を動かす際により快適である。可撓性カニューレを組織に直接挿入することができないため、例えば、金属製の硬質穿孔針の形態のさらなる穿孔素子が、可撓性カニューレの内部に配置されている。穿孔素子の尖端部は、間質液に向かって開くカニューレの近位端から突出している。穿孔素子および安定化されたカニューレを身体組織に挿入した後、硬質穿孔素子は、可撓性カニューレから取り外される。カニューレは、身体組織内に残ったままである。概して、穿孔針は、セプタムに貫入するように配置され、セプタムは、穿孔針を引き抜いた後、今開いたカニューレ流路の遠位端を密閉する。
【0004】
別の手法では、輸液ポンプ素子が輸液部位インタフェースに直接流体接続されている。ポンプとカニューレとの間の流体接続は、ポンプの中空コネクタ針によって確立され、中空コネクタ針は、カニューレ流路の遠位端を密閉するカニューレユニットのセプタムに可逆的に貫入する。有利なことに、ポンプは、繰り返し輸液部位インタフェースに接続することができ、またそこから外すことができる。
【0005】
軟質の可撓性カニューレを有する輸液部位インタフェースを製造するための一般的な方法では、製造プロセス中に可撓性カニューレの取り扱いを簡素化するために、第1のステップで、安定化ピンが可撓性カニューレ内に導入される。このように準備された一時的な構造ユニットが、前もって製造されたハウジングに挿入され、可撓性カニューレとハウジングとが、例えば、熱プロセスによって恒久的に接続される。安定化ピンは、その後、可撓性カニューレから引き出され、実際の穿孔素子と置換される。穿孔素子の挿入によって、時として、可撓性カニューレが損傷し、製造中の不良率がかなり高くなる。
【0006】
国際公開第2018033614(A1)号は、ハウジングおよび可撓性カニューレを備えるカニューレユニットを開示する。可撓性カニューレには、可撓性カニューレの残りの部分の形状から外れた端部領域が設けられている。可撓性カニューレの端部領域は、例えば、漏斗に似た形状またはフランジの形状を有する。さらに、ハウジングは、2つの部分を備え、この2つの部分間で、可撓性カニューレの端部領域が、クランピングによってハウジングに確実にロックされる。ハウジングの2つの部分は、最終的に、溶接、特にレーザー溶接によって接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018033614号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在の技術水準において知られているカニューレユニットおよびシステムは、幾つかの欠点に悩まされている。例えば、カニューレユニットが、別々に生産されて、その後製造プロセス中に接続されるだけの2つの部分を有するハウジングを備える場合、或る特定の制限が課される。第一に、材料は、2つのハウジング部分が接続されるように、溶接または接着に適していければならない。第二に、接続ステップは、追加的なステップであり、製造時間および生産コストを増大させる。第三に、ハウジングの2つの部分は、互いに対して厳密に相補的でなければならず、したがって、別のやり方では漏れが問題になるため、わずかな材料公差のみ許容される。これは、非相補的なハウジング部分に起因する欠陥製品の量が著しく多いため、現在の技術水準において深刻な問題である。
【0009】
したがって、液状薬物の輸液の観点からカニューレシステムの設計および使用に関する現在の技術水準を改善し、これにより、好ましくは、従来技術の欠点を完全にまたは部分的に回避することが本発明の全体の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
有利な実施形態において、漏れの発生が回避されるかまたは少なくとも大幅に低減されるカニューレユニットが提供される。
【0011】
さらなる好ましい実施形態において、時間およびコスト効率的なやり方で製造することができるカニューレユニットが提供される。
【0012】
さらなる好ましい実施形態において、製造プロセス中の欠陥製品の量、したがって不良率が低減される。
【0013】
本発明の第1の目的によれば、全体の目的は、本体ユニットおよび圧縮ユニットを有するカニューレシステムを製造するための方法によって実現される。本方法は、取付け構造を含む本体ユニットを設けることを含み、本体ユニットが成形コアピン上に取り付けられる。その後、軟質カニューレが本体ユニットの取付け構造に通される。以下のステップにおいて、圧縮ユニットは、軟質カニューレと、本体ユニットの少なくとも一部とに射出成形される。圧縮ユニットは、取付け構造、軟質カニューレの少なくとも一部、および本体ユニットの少なくとも一部を円周方向に取り囲む。さらに、射出成形された圧縮ユニットは冷却され、これにより、圧縮ユニットの内部材料張力が提供される。典型的に、冷却には圧縮ユニットの収縮が伴う。さらに、成形コアピンが取り外される。圧縮ユニットの射出成形直後に、すなわち圧縮ユニットの冷却前に、圧縮ユニットの冷却後に、または、圧縮ユニットの冷却中にさえも成形コアピンを取り外すことができることが当業者には理解される。
【0014】
任意に、本体ユニットも、好ましくは射出成形によって製造される。例えば、本体ユニットは、成形コアピン上に射出成形することによって提供することができる。しかしながら、本体ユニットを、別の適切な方法によって製造することもできる。特に、本体ユニットが射出成形によって製造される場合、2つの射出成形ステップを、2つの別個の射出成形ステップとして行うことができる。
【0015】
圧縮ユニット、および任意に本体ユニットの製造に射出成形技術を使用することには、必要とするツールの数が少なくなるという利点がある。さらに、溶接または接着等の追加の接続ステップは必要とされない。さらに、圧縮ユニットが、本体ユニットおよびカニューレに射出成形され、その後冷却されるため、収縮によって内部材料張力が誘発され、これによりカニューレシステム内での軟質カニューレの固定性が大幅に向上する。冷却がモールド内で行われる場合、収縮および関連する内部材料張力を増大させることができる。さらに、本体ユニットおよび圧縮ユニットの両方の射出成形は、2つの部分が必然的に互いに相補的であるため材料欠損部分の量が大幅に減少するという利点を有する。
【0016】
「円周方向に(circumferentially)」という用語は、取付け構造、カニューレ、および/または本体ユニットが、丸断面および/または円筒形状を有することを必ずしも必要としないことを理解されたい。これらの構成要素は、互いに独立して、丸断面、楕円断面、または角断面を含み、さらに、輸液セットに適する任意の形状を有することができる。
【0017】
幾つかの実施形態において、圧縮ユニットは、本体ユニットの外表面の少なくとも1/3、好ましくは1/2を円周方向に取り囲むように射出成形され、これにより、本体ユニットと圧縮ユニットとの間の特定の密で確実な接続が提供される。
【0018】
さらなる実施形態において、軟質カニューレの遠位端領域のみが、本体ユニットの取付け構造に通される。圧縮ユニットは、好ましくは、軟質カニューレの遠位端領域のみを円周方向に取り囲む。当業者には理解されるように、遠位端領域は、稼働状態において患者とは反対向きである。そのため、遠位端領域は、近位端領域よりも本体ユニットに近い。したがって、患者の組織に挿入されると、近位端領域が最初に組織に挿入される。
【0019】
他の実施形態において、遠位端領域には、軟質カニューレ、特に遠位端領域と圧縮ユニットとの間の確実なロック(フォームクロージャ)および/または接着結合(adhesive bond)を確立するためのロック構造(locking structure)が設けられている。フォームロック(form lock)を確立するロック構造は、軟質カニューレへの圧縮ユニットの射出成形中に、材料がロック構造の中および/または周りに供給され、これにより、カニューレシステムが皮膚から引き抜かれたときにカニューレが圧縮ユニットおよび本体ユニットから分離することを回避するためにカニューレがしっかりとロックされる改善されたカニューレシステムを提供するため、有利である。改善されたカニューレシステムは、カニューレシステムの密封性を改善し、したがって輸液流体の漏れの発生を回避する。
【0020】
さらなる実施形態において、本体ユニットの取付け構造に軟質カニューレを通す前に、軟質カニューレの遠位端領域にロック構造が生成される。ロック構造は、遠位端領域に接着されてもよく、またはドリルによって貫通孔が生成されてもよい。あるいは、ニップルなどの突出したロック構造が、軟質カニューレの遠位端領域に接着または溶接されてもよい。
【0021】
幾つかの実施形態において、ロック構造は、遠位端領域から突出する少なくとも1つの突出部を含む。例えば、ロック構造は、軟質カニューレの遠位端領域から延びるカラーであってもよい。好ましくは、カラーは、遠位端領域の最遠位部に配置され、すなわち、カラーは、フランジであってもよい。また、突出部は、ニップル、フック、バーブ(barb)であってもよい。さらに、または代わりに、ロック構造は、少なくとも1つの穴であってもよい。好ましくは、穴は、貫通孔または止まり穴である。
【0022】
さらなる実施形態において、カニューレが取付け構造に通される前に、軟質カニューレの遠位端領域が、カニューレの残りの部分よりも直径が大きい。そのため、カニューレは、取付け構造上へと押し込まれると、横方向に拡張せず、またはわずかに拡張するだけであり、材料クリープ(material creep)が全く起こらず、またはあまり起こらず、潜在的に漏れが少なくなる。
【0023】
さらなる実施形態において、圧縮ユニットの内部材料張力は、径方向内側に向けられた圧縮力を加える。そのような力は、カニューレと取付け構造との間および/またはカニューレと圧縮ユニットとの間の漏れのリスクをさらに下げるため、特に有利である。
【0024】
幾つかの実施形態において、圧縮ユニットの内部材料張力は、取付け構造に通された軟質カニューレの部分を圧縮する。このような実施形態では、圧縮ユニットによって円周方向に取り囲まれた少なくともカニューレの一部、好ましくは遠位端領域が圧縮される。そのため、この部分のカニューレの肉厚は、圧縮ユニットによって円周方向に取り囲まれていないカニューレの残りの部分の肉厚より薄い。
【0025】
さらなる実施形態において、本体ユニットと圧縮ユニットとが、および/または、圧縮ユニットと軟質カニューレとが、圧縮ユニットの射出成形中に結合接続(bonded connection)を形成する。
【0026】
幾つかの実施形態において、本方法は、2つの別個の射出成形ステップからなり、これにより、必要な製造ステップの量、ならびに全体の製造時間およびコストをさらに削減する。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、全体の目的は、軟質カニューレと、軟質カニューレを保持するためのカニューレユニットと、を備えるカニューレシステムによって実現される。カニューレユニットは、圧縮ユニットおよび本体ユニットを含み、または代わりに、圧縮ユニットおよび本体ユニットで構成されてもよく、本体ユニットは、取付け構造、およびセプタムを保持するためのキャビティを含む。軟質カニューレは、本体ユニットの取付け構造に通される。さらに、圧縮ユニットは、取付け構造、および本体ユニットの少なくとも一部を円周方向に取り囲む。圧縮ユニットは、軟質カニューレおよび取付け構造に圧縮力を加えるための内部材料張力も含む。
【0028】
例えば、このようなカニューレシステムは、本明細書に記載されるような方法によって製造することができる。さらに、本体ユニットおよび/または圧縮ユニットは、典型的には射出成形される。
【0029】
幾つかの実施形態において、取付け構造は、突起部、特に、円筒状または立方体の突起部であってもよい。
【0030】
さらなる実施形態において、軟質カニューレの遠位端領域のみが取付け構造に通され、圧縮ユニットは、軟質カニューレの遠位端領域を円周方向に取り囲む。
【0031】
幾つかの実施形態では、軟質カニューレの遠位端領域は、軟質カニューレと圧縮ユニットとの間の確実なロックおよび/または接着結合を提供するロック構造を備える。軟質カニューレと圧縮ユニットとの間のフォームロックおよび/または接着結合の両方が、圧縮ユニットと軟質カニューレとの締まりばめを提供し、これにより漏れの発生が回避される。軟質カニューレと圧縮ユニットとの間に確実なロック(フォームクロージャ)を確立するためのロック構造は、突出したロック構造または凹んだロック構造であってもよい。接着結合は、例えば、外部接着剤、例えば糊を付着させることで行うことができる。本発明のこのようなカニューレシステムは、カニューレシステムが皮膚から引き抜かれたときにカニューレが圧縮ユニットおよび本体ユニットから分離しないように、カニューレがしっかりと固定される、改善されたカニューレシステムを提供する。改善されたカニューレシステムは、カニューレシステムの密封性も改善し、したがって輸液流体の漏れの発生を回避する。
【0032】
さらなる実施形態において、ロック構造は、遠位端領域から突出する少なくとも1つの突出部を含む。例えば、ロック構造は、軟質カニューレの遠位端領域から延びるカラーであってもよい。好ましくは、カラーは、遠位端領域の最遠位部に配置され、すなわち、カラーは、フランジであってもよい。また、突出部は、ニップル、フック、バーブであってもよい。さらに、または代わりに、ロック構造は、穴等の少なくとも1つの凹んだロック構造であってもよい。好ましくは、穴は、貫通孔または止まり穴である。ロック構造はまた、軟質カニューレの壁によって、特に波形または段付き壁によって形成されてもよい。
【0033】
幾つかの実施形態において、軟質カニューレの遠位端領域は、軟質カニューレの残りの部分よりも直径が大きい。そのため、これらの実施形態では、遠位端領域全体が、軟質カニューレの残りの部分よりも直径が大きい。
【0034】
典型的には、軟質カニューレの遠位端領域には内部材料張力が存在しない。
【0035】
幾つかの実施形態において、軟質カニューレの遠位端領域の肉厚は、軟質カニューレの残りの部分の肉厚よりも薄い。
【0036】
他の実施形態において、圧縮ユニットは、少なくとも軟質カニューレの遠位端領域を圧縮する。これらの実施形態では、特定の液密システムが実現され、漏れのリスクが低減される。
【0037】
さらなる実施形態において、本体ユニットと圧縮ユニットとは、結合接続によって接続され、および/または、軟質カニューレと圧縮ユニットとは、結合接続によって接続されている。
【0038】
このような結合接続は、典型的には、本体ユニット、圧縮ユニット、および/または軟質カニューレ自体によって形成されるだけであることを理解されたい。そのため、軟質カニューレと圧縮ユニットとの間が例えば糊によって接着結合が行われている場合を除いて、外部接着剤、例えば糊は、必要ではなく、存在もしない。
【0039】
幾つかの実施形態において、カニューレシステムは、例えばバーブ、ニップル、スナップフィット等の、圧縮ユニットと本体ユニットとを結合および/または接続するための、追加の接続手段、特にフォームロック手段を含んでいない。また、カニューレシステムは、カニューレユニットおよび/または軟質カニューレおよび/または本体ユニットの一体部品ではない追加のハウジング部品またはアダプタを含まなくてもよい。そのため、好ましいカニューレシステムは、本体ユニットおよび圧縮ユニットによってのみ所定の位置に保持され、その結果、本体ユニットまたは圧縮ユニットに一体化されていない追加の構成要素によっては保持されない軟質カニューレを含むことができる。これにより、不良品率および生産労力およびコストが削減される。
【0040】
さらなる実施形態において、本体ユニットは、セプタムを保持するためのキャビティ内にセプタムを含むことができる。セプタムは、圧着によって固定されてもよい。このようなセプタムは、典型的には、絶えず閉じられており、すなわち、穿孔針の挿入前にはスリットが存在しない。特に、このようなセプタムは、セプタムの横方向と縦方向の両方の穿孔方向に細長いスリットを含まなくてもよい。
【0041】
本発明の別の態様によれば、全体の目的は、輸液セットにおいて、本明細書に記載される実施形態のいずれかによるカニューレシステムの使用によって実現される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の一実施形態によるカニューレシステムの断面図である。
図2a】本発明の一実施形態によるカニューレシステムの製造方法の概略図である。
図2b】本発明の一実施形態によるカニューレシステムの製造方法の概略図である。
図2c】本発明の一実施形態によるカニューレシステムの製造方法の概略図である。
図3】本発明の別の実施形態によるカニューレシステムの断面図である。
図4】本発明の別の実施形態によるカニューレシステムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は、本発明によるカニューレシステム1の有利な実施形態を示す。カニューレシステム1は、軟質カニューレ10、および軟質カニューレ10を保持するためのカニューレユニットを備える。カニューレユニットは、圧縮ユニット20および本体ユニット30を含む。本体ユニット30は、取付け構造31、およびセプタムを収納するためのキャビティ32をさらに備える。軟質カニューレ10の遠位部11は、取付け構造31に通されている。軟質カニューレ10の遠位端領域11の直径は、軟質カニューレの残りの部分の直径よりも大きい。圧縮ユニット20は、軟質カニューレ10の遠位端領域11、取付け構造31、および本体ユニット30の追加の部分を円周方向に取り囲む。図1に示すように、本体ユニットの外表面の1/3よりも大きい表面が圧縮ユニット20によって円周方向に取り囲まれている。
【0044】
矢印で示すように、圧縮ユニット20は、内部材料張力を有し、これにより、径方向内側に向けられた圧縮力を、軟質カニューレの遠位端領域および取付け構造に加える。結果として、軟質カニューレ10と、取付け構造31と、圧縮ユニット20との間の特定の密な接続が実現される。さらに、図1に容易に見ることができるように、軟質カニューレ10の遠位端領域11の肉厚は、軟質カニューレ10の残りの部分の肉厚よりも薄い。さらに、矢印で示すように、軟質カニューレ10の遠位端領域11は、圧縮ユニット20によって加えられる圧縮力によって圧縮されている。圧縮ユニット20と本体ユニット30は、それらの接触領域において結合接続によって接続されている。結果として、信頼性が高く、密封性の高い接続が形成される。
【0045】
図2a~図2cは、本発明の有利な実施形態による、カニューレシステムを製造する方法の或る特定のステップを示す。図2aに示すように、取付け構造31を有する本体ユニット30は、成形コアピン40(モールドは図示せず)上に射出成形される。以下のステップにおいて、軟質カニューレ10の遠位端領域11が、取付け構造31に通される(図2b)。その後、圧縮ユニット20が、軟質カニューレの遠位端領域、取付け構造、および本体ユニット30のさらなる部分にも射出成形される(図2c、モールドは図示せず)。圧縮ユニットは、本体ユニット30上に少なくとも一部射出成形されているため、圧縮ユニットが、本体ユニット30のそれらの部分と必然的に相補的になるため、本体ユニットの近位面の製造上の不精確さは、あまり問題とならない。圧縮ユニットが射出成形されると、成形コアピン40を取り外して、圧縮ユニットを冷却することができ、この冷却により、内部材料張力が確立され、これにより、軟質カニューレ10の遠位端領域11および取付け構造31に力が加えられる。一般に、冷却は、モールド内で行うことができ、および/または、冷却は、能動冷却によって実現することができる。そのため、圧縮ユニットは、それ自体で室温まで冷却されるのではなく、特に冷却媒体を使用することによって能動的に冷却される。そのような迅速な冷却は、内部材料張力を高める。2ステップによる射出成形シーケンスは、現在の技術水準で知られているカニューレユニットを製造するための方法よりも大幅に速く実行することができる。
【0046】
図3は、本発明によるカニューレシステム1の別の有利な実施形態を示す。カニューレシステム1は、軟質カニューレ10と、圧縮ユニット20および本体ユニット30を含むカニューレユニットと、を備える。本体ユニット30は、軟質カニューレ10の遠位端領域11が通される取付け構造31を含む。図示する特定の実施形態では、遠位端領域11は、貫通孔として設けられたロック構造としての2つの穴12aを備える。穴12aの寸法は、例示のみを目的として誇張して描かれている。図3には圧縮力を示す矢印は示されていないが(図1参照)、穴12aを有する本実施形態においても、圧縮ユニットによって軟質カニューレ10に圧縮力が加えられる。見て分かるように、圧縮ユニット20の一部は、射出成形中に穴12aに入り込んでいる。圧縮ユニットが冷却された後、圧縮ユニット20と軟質カニューレ10との間のより密な密封性が実現される。さらに、薄いカニューレシステム内での軟質カニューレ10の固定性が向上する。
【0047】
図4は、カニューレシステム1の別の実施形態を示し、カニューレシステム1は、軟質カニューレ10と、圧縮ユニット20および本体ユニット30を含むカニューレユニットと、を有し、本体ユニット30が取付け構造31を有する。一般に、取付け構造は、ニップルなどの本体ユニットの突出部であってもよい。軟質カニューレ10の遠位端領域11は、軟質カニューレ10と圧縮ユニット20との間のフォームロックを確立するロック構造としてのカラー12bを含む。カラー12bは、遠位端領域11の最遠位部に円周方向に配置されている。圧縮ユニット20の射出成形中、材料は、カラー12bの周りに供給される。結果として、軟質カニューレ11は、圧縮ユニット20内に固定され、これにより、カニューレシステム内でのカニューレの固定性およびカニューレと圧縮ユニットとの間の密封性の両方が向上する。
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4