(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ワーク保持装置
(51)【国際特許分類】
B23B 31/12 20060101AFI20241002BHJP
B23Q 3/06 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B23B31/12 E
B23Q3/06 303G
(21)【出願番号】P 2022512290
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2020045472
(87)【国際公開番号】W WO2022123625
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591206120
【氏名又は名称】TPR工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 晃二
(72)【発明者】
【氏名】鮎澤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】奥山 浩二
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-102708(JP,U)
【文献】米国特許第05970829(US,A)
【文献】特開平09-066401(JP,A)
【文献】特開2000-142558(JP,A)
【文献】実開昭62-159209(JP,U)
【文献】特開平07-156005(JP,A)
【文献】実公昭53-014453(JP,Y2)
【文献】中国実用新案第209407460(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B31/02
B23B31/12
B23Q 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のワークの軸方向端部における被保持部を保持する装置であって、
前記ワークの前記被保持部の内周面に当接する円形の中子部材と、
前記ワークの前記被保持部の外周面を径方向内側に向け押圧する押圧部材と、
該押圧部材による押圧力が作用した際に当該押圧力の大きさと向きに応じて前記中子部材が径方向に移動するのを許容する調心部材と、
前記中子部材を当該ワーク保持装置の所定位置に取り付けるための取付用ボルトと、
を備え
ていて、
前記調心部材は、前記押圧部材による押圧力の大きさと向きに応じて変形する弾性部材で構成され、
前記取付用ボルトの周囲に配置したスリーブ状の弾性部材が前記調心部材として用いられている、ワーク保持装置。
【請求項2】
前記スリーブ状の弾性部材は、樹脂製、ゴム製あるいはシリコーン製である、請求項
1に記載のワーク保持装置。
【請求項3】
前記取付用ボルトは、前記中子部材に設けられた透孔に差し込まれる段付きのボルトであり、前記弾性部材は、当該透孔と前記取付用ボルトとの隙間形状に合わせて形成されている、請求項
2に記載のワーク保持装置。
【請求項4】
前記押圧部材として、複数の部材が周方向において等間隔に配置されている、請求項1から
3のいずれか一項に記載のワーク保持装置。
【請求項5】
前記押圧部材は、前記ワークの前記被保持部との間における摩擦力を向上させるグリッパー部を備える、請求項
4に記載のワーク保持装置。
【請求項6】
前記中子部材の周面のうち前記ワークの内周面と当接する部分がテーパ状である、請求項1から
5のいずれか一項に記載のワーク保持装置。
【請求項7】
前記ワークの前記被保持部は最終製品となる部分を除く部分であって、当該被保持部の内周面に前記中子部材のテーパ状の周面に合わせたテーパ部が前加工されたワークを保持対象とする、請求項
6に記載のワーク保持装置。
【請求項8】
前記ワークを軸方向に引き込む装置と、該引き込み装置による引き込みに伴い前記押圧部材に前記ワークの径方向内側に向かう分力を作用させる傾斜壁面と、をさらに備える、請求項
6または
7に記載のワーク保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどにおいてピストンに堆積した硬質カーボンを掻き落とすための機能部品として、エンジン内のシリンダライナ上部(ピストントップランド上死点位置)に装着され、ピストン上昇時に硬質カーボンを掻き落とすカーボンスクレーパリングが利用されている。このように機能するカーボンスクレーパリングは、薄肉であることが要求されることがある。
【0003】
このようなカーボンスクレーパリングをはじめとする薄肉の金属製リング状部材を生産するにあたっては種々の装置が提案されており(特許文献1,2など参照)、たとえば、薄肉の円筒状ワークの端部をチャックして片持ち支持し、支持されていない側(製品部)を突っ切り加工などで順次切断してたとえば10~20本のリングにするための装置が利用されている。このような装置においては、とくに、ワークにひずみを生じさせずにチャックすること、加工時にビビリを生じさせないこと、などが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-066401号公報
【文献】特許第4522108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、実際には、パイプ材など特に薄肉材料をチャックした際、ワークにひずみが生じてしまうことがあり、そのことが加工後におけるリングの真円度に影響を及ぼすことがある。これは、とくにワークが薄肉である場合に顕在化しやすい。また、片持ちされるワークのオーバーハング量が大きいと加工時にビビリが発生しやすく、加工精度の確保が困難になりがちである。一方で、専用チャックを製作するとすれば非常に複雑な構造となって高価になる可能性がある。
【0006】
これらの問題に対処するための一手法として加工の工程を分ける(一度のチャッキング(ワンチャック)でワークから所定数のリングを切り出すのではなく、たとえば、(1)外径加工→内径加工→切断→片方面取加工→他方面取り加工の計5回のチャッキング、あるいは(2)切断→外径加工→内径加工→片方面取加工→他方面取加工の計5回のチャッキングといったように、チャッキングを繰り返す)ことが考えられる。ところが、加工工程を分けた場合、チャックの精度の影響により、内面取り、内外径同軸度、真円度などの精度を確保することが困難な場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、薄肉の円筒ワークをより精度よく加工することを可能とするワーク保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、円筒状のワークの軸方向端部における被保持部を保持する装置であって、
ワークの被保持部の内周面に当接する円形の中子部材と、
ワークの被保持部の外周面を径方向内側に向け押圧する押圧部材と、
該押圧部材による押圧力が作用した際に当該押圧力の大きさと向きに応じて中子部材が径方向に移動するのを許容する調心部材と、
を備える、ワーク保持装置である。
【0009】
ワークの軸方向端部の外周面と内周面をそれぞれ押圧部材と中子部材とで押圧してチャックし片持ち支持するワーク保持装置においては、ワークが真円でなかったり、厚みが均一でなかったりすると加工精度に影響を受けることがあり、これはワークが薄肉であればあるほど尚更である。この点、上記のごとき態様のワーク保持装置においては、押圧部材による外側からの押圧力の大きさと向きに応じて中子部材が径方向に移動することによりイコライズ(各部材およびワークが同心円状となるための位置補正、押圧力の分布の均一化・均質化)し、チャック時のワーク変形と加工時のビビリを抑制する。これによれば、薄肉の円筒ワークをより精度よく加工することが可能となる。
【0010】
また、上記態様のワーク保持装置によれば、加工の工程を分けることなくワンチャックでワークのすべてを精度よく加工することができることから、チャッキングのたびに起こりうる影響(ワークの振れ、ズレなど)による精度低下とは無縁である。
【0011】
上記のごとき態様のワーク保持装置において、調心部材は、押圧部材による押圧力の大きさと向きに応じて変形する弾性部材で構成されていてもよい。
【0012】
上記のごとき態様のワーク保持装置は、中子部材を当該ワーク保持装置の所定位置に取り付けるための取付用ボルトをさらに備えており、該取付用ボルトの周囲に配置したスリーブ状の弾性部材が調心部材として用いられているものであってもよい。
【0013】
上記のごとき態様のワーク保持装置におけるスリーブ状の弾性部材は、樹脂製、ゴム製あるいはシリコーン製であってもよい。
【0014】
上記のごとき態様のワーク保持装置における取付用ボルトは、中子部材に設けられた透孔に差し込まれる段付きのボルトであり、弾性部材は、当該透孔と取付用ボルトとの隙間形状に合わせて形成されていてもよい。
【0015】
上記のごとき態様のワーク保持装置における押圧部材として、複数の部材が周方向において等間隔に配置されていてもよい。
【0016】
上記のごとき態様のワーク保持装置において、押圧部材は、ワークの被保持部との間における摩擦力を向上させるグリッパー部を備えていてもよい。
【0017】
上記のごとき態様のワーク保持装置において、中子部材の周面のうちワークの内周面と当接する部分がテーパ状であってもよい。
【0018】
上記のごとき態様のワーク保持装置において、ワークの被保持部は最終製品となる部分を除く部分であって、当該被保持部の内周面に中子部材のテーパ状の周面に合わせたテーパ部が前加工されたワークを保持対象としていてもよい。
【0019】
上記のごとき態様のワーク保持装置は、ワークを軸方向に引き込む装置と、該引き込み装置による引き込みに伴い押圧部材にワークの径方向内側に向かう分力を作用させる傾斜壁面と、をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、薄肉の円筒ワークをより精度よく加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ワーク保持装置の一実施形態を示す横断面図である。
【
図2】ワーク保持装置のチャック部および該チャック部にて保持されたワークをワークの先端部側から見た図である。
【
図3】ワークを保持した状態のワーク保持装置のチャック部を示す縦断面図であって、
図2中のIII-III線における断面図に相当する図面である。
【
図4】
図3に示したワーク保持装置のチャック部の爪部材の周辺を拡大して示す図である。
【
図5】爪部材によるチャックを開放した状態のワーク保持装置のチャック部を示す縦断面図である。
【
図6】
図5に示したワーク保持装置のチャック部の爪部材の周辺を拡大して示す図である。
【
図7】ワークを保持した状態であって、かつ中子部材が径方向に移動した状態のワーク保持装置のチャック部を示す縦断面図である。
【
図8】
図7に示したワーク保持装置のチャック部の爪部材および弾性部材(調心部材)の周辺を拡大して示す図である。
【
図9】
図8中の一部(符号Aを付した円で囲んだ部分)を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する(
図1~
図9参照)。
【0023】
図1等に示すワーク保持装置10は、ワーク100の基端部102における被保持部110を保持する装置である。この装置によって保持されるワーク100は円筒状の薄肉ワークであり、保持された状態でその製品部(加工されて製品とされる部分)120を先端部101側から順次切り出され、カーボンスクレーパリングといった薄肉の金属製リング状部材200(
図1等において破線で示す)に加工される。なお、便宜上、本明細書では、ワーク保持装置10に保持されたワーク100の軸方向に沿って先端部101の側を「先端側」、基端部102の側を「基端側」という(
図1等参照)。また、ワーク保持装置10によってワーク100を保持したときの仮想中心軸を符号Cで示す(
図1等参照)。
【0024】
本実施形態のワーク保持装置10は、装置本体部20と、チャック部30とで構成されている(
図1等参照)。装置本体部20はチャック部30をワーク100の軸方向に沿って基端側(装置本体部20がある側)へパイプ24を介して引き込む例えば油圧式の引き込み装置(
図1において符号21で示す)を備えている。このような引き込み装置21としては、従前から利用されている公知の装置(本明細書ではその詳細についての説明は省く)を適用することができる。なお、符号23は、ワーク100を加工する際、当該ワーク100の内周の切粉を流し出すための切削液を先端側に向けて流し供給する液供給用のパイプである(
図1等参照)。
【0025】
装置本体部20には、チャック部30の一部が当接する傾斜壁面22が形成されている(
図1等参照)。この傾斜壁面22は、基端側ほど窄んで径が小さくなるたとえばテーパ状の面で構成されている。
【0026】
チャック部30は、ワーク100をチャックして保持し、かつ、引き込み装置21によって基端側に向け引き込み可能に設けられている。本実施形態のワーク保持装置10におけるチャック部30は、ベース部材31、中子部材32、爪部材33、ワークグリッパー34、中間部材35、ストッパー36、取付用ボルト42、弾性部材44などを備えている(
図2、
図3等参照)。
【0027】
ベース部材31は、装置本体部20に対し特に図示してはいないボルトで取り付けられて固定されている(
図1等参照)。ベース部材31には、中子部材32が、当該ベース部材31に対し相対的に径方向(仮想中心軸Cに垂直な方向)に移動できる状態で取り付けられている。
【0028】
中子部材32は、ワーク100の被保持部110の内周面に当接する、軸方向から見て円形の部材である。本実施形態では、中子部材32の周面32Pのうちワーク100の内周面と当接する部分を、基端側に向かうほど大径のテーパ形状としたテーパ中子を採用している(
図1等参照)。このように周面がテーパ状である中子部材32によれば、均一径の周面である嵌め合い中子に比べ、ワーク100の当該中子部材32に対する着脱が容易である。なお、ワーク100として、被保持部110の内周面に、中子部材32のテーパ状の周面32Pに合わせたテーパ部100tが前加工されたものを採用してもよい(
図8等参照)。本実施形態のごとく引き込み装置21と傾斜壁面22の楔作用を利用することで、チャック時に中子部材32とテーパ部100tとを確実に接触させることが可能である。中子部材32には、取付用ボルト42を通す透孔32Hが設けられている(
図5等参照)。
【0029】
爪部材33は、ワーク100の被保持部110の外周面を径方向内側に向け押圧する押圧部材として機能する部材であり、複数(たとえば3つ)が周方向において等間隔(120°おき)に配置される(
図2参照)。各々の爪部材33は、中間部材35に形成された爪ガイド(図示省略)によって径方向に移動可能に設けられている(
図2等参照)。これら爪部材33のそれぞれは中間部材35と連動するように設けられており(
図2、
図3等参照)、引き込み装置21によってチャック部30が装置本体部20側に引き込まれるにつれ、傾斜壁面22の楔作用により径方向内側に向かう分力を受け、ワーク100をより大きな力で押圧する(
図4等参照)。
【0030】
なお、本実施形態では爪が二股形状である爪部材33を採用していることから、
図7等の縦断面図においては爪部材33の取付用ボルト33Aやこの取付用ボルト33Aを通すための孔部33Bが図中に表れ、爪部材33がワーク100の外周面に当接している部分が図示されていないため理解しづらいが、実際には孔部33Bの周方向両隣の部分で爪部材33がワーク100の外周面に当接している。
【0031】
ワークグリッパー(グリッパー部)34は、チャック部30におけるワーク100の保持力を向上させる部材である。本実施形態では、爪部材33の内部あるいはその近傍に設けた超硬スパイクを径方向内側に移動させ、その端部をワーク100の外周面に押し当てることで摩擦力を高め、回転時のスリップを抑制しうる構成としたワークグリッパー34を採用している(
図1等参照)。
【0032】
中間部材35は、上記したごとく、引き込み装置21によってチャック部30が装置本体部20側に引き込まれるにつれ、傾斜壁面22の楔作用により径方向内側に向かう分力を爪部材33に作用させる部材である(
図4等参照)。
【0033】
ストッパー36は、ワーク100の基端部102側の縁部102Eが突き当たる位置に設けられた部材で、中子部材32と爪部材33との間にワーク100の基端部102をはめ込む際の当該ワーク100の軸方向位置を規定する。本実施形態では、スプリングや当接板などで構成される付勢装置(図示省略)によってワーク100のたとえば先端部101を基端部102に向けて付勢し、チャック部30によってチャックされていない状態のワーク100の縁部102Eをストッパー36に接触させ、当該ワーク100の軸方向位置を規定してその姿勢を保つようにしている。なお、ストッパー36によってワーク100の軸方向位置が規定された状態でチャック部30を基端側(装置本体部20がある側)に引き込み、楔作用を利用して爪部材33と中子部材32とでワーク100をチャックすると、ストッパー36が基端側に移動し、縁部102Eがストッパー36から離れた状態となる(
図3、
図4参照)。また、ワーク100を取り外すためにチャック部30を先端側に移動させ、楔作用によるチャック力を緩める動作の途中では、ストッパー36が縁部102Eに突き当たり先端側へ押し出す場合がある(
図5、
図6参照)。
【0034】
取付用ボルト42は、中子部材32をベース部材31に取り付けるために用いられるボルトである。本実施形態では、複数(たとえば3つ)の取付用ボルト42およびこれらを通すための透孔32Hを、周方向において等間隔(120°おき)に、かつ、爪部材33と重ならないよう各爪部材33に対して等間隔(各爪部材33に対して60°おき)となる位置に配置している(
図2、
図5参照)。取付用ボルト42として段付きボルトを採用してもよい。本実施形態では、ねじ部42aがベース部材31のねじ孔31Hに螺合し、段部42bがベース部材31のねじ孔31H周辺の端面に突き当たる段付きボルトを取付用ボルト42として用いている(
図1、
図7~
図9参照)。このような取付用ボルト42によれば、当該ボルトの取付深さや締付けトルクなどを均質化しやすい。
【0035】
中子部材32の透孔32Hは、取付用ボルト42のねじ部42aを通し、軸部42cや頭部42dを収容する孔として設けられている。本実施形態では、透孔32Hを、取付用ボルト42の軸部42cおよび頭部42dの形状に合わせた段付き形状であって、かつ、これら軸部42cおよび頭部42dよりもある程度大きな内径の孔で形成し、取付用ボルト42と透孔32Hとの間に所定の隙間ができるようにしている(
図9等参照)。この隙間には、弾性部材44が設けられている。
【0036】
弾性部材44は、爪部材33でワーク100の被保持部110に外周側から押圧力を作用させた際、当該押圧力の大きさと向きに応じて中子部材32が径方向に移動するのを許容する変形可能な調心部材の一例として設けられている。本実施形態の弾性部材44はスリーブ状に形成され、取付用ボルト42の周囲に配置されている。また、取付用ボルト42および透孔32Hが段付き形状であることに対応し、本実施形態では、径の異なる2種類のスリーブ状の弾性部材を取付用ボルト42の周囲に配置している(
図9等参照)。これら2種類のスリーブ状の弾性部材のうちの一方は、透孔32Hの段部と取付用ボルト42の頭部42dとの間に挟まれて座のように機能する(
図9参照)。
【0037】
上記のごとき弾性変形可能であり可撓性を有する弾性部材44の機能により、本実施形態のワーク保持装置10においては以下のごとき調心機能が実現される。すなわち、引き込み装置21によりチャック部30を引き込むと、傾斜壁面22による楔効果で爪部材33からワーク100の外周から押圧力が作用し、当該爪部材33と中子部材32とでワーク100の被保持部110がチャックされる(
図4等参照)。このとき、爪部材33と中子部材32との間で作用するワーク100に対する押圧力が均等であれば大きな影響はないが、ワーク100の加工精度差などといった理由で押圧力が均等でない場合、均等でないことに応じて中子部材32に対して径方向への力が作用する。このとき、このワーク保持装置10においては、当該力によって弾性部材44が弾性変形し、当該力の大きさと向きに応じて中子部材32が補正量a(
図8参照)の分、径方向に移動することにより所謂イコライズ(各部材およびワークが同心円状となるための位置補正、押圧力の分布の均一化・均質化)機能が発揮される(
図7~
図9参照)。本実施形態のごとくワーク100の端部(基端部102)を爪部材33と中子部材32とでチャックし片持ち支持するワーク保持装置10においては、ワーク100が真円でなかったり厚みが均一でなかったりした場合に加工精度に影響が及ぶことがあるが、この点、上記のごときイコライズ機能を備えたワーク保持装置10によれば、このような影響を極力排除し、チャック時のワーク100の変形や加工時のビビリを抑制することができる。また、片持ち支持の場合、加工時のビビリ発生やワーク外れのリスクを抑えようとすればチャック力(押圧力)やワーク剛性を上げる必要があるが、中子部材32を備える本実施形態のワーク保持装置10によれば、チャック力を上げてもワーク100の変形が抑えられ、またワーク100が強固に保持され、ビビリが発生しない。以上によれば、薄肉の円筒ワークをより精度よく加工することが可能となる。また、薄肉の円筒ワークをより精度よく加工するための従前の手法として、加工工程を分ける(一度のチャッキングでワークから所定数のリングを切り出すのではなく、チャッキングとリング切り出しとを繰り返す)というものがあるが、本実施形態のワーク保持装置10によればこの手法のように加工工程を分けなくてもワンチャックのみで薄肉の円筒ワークを精度よく加工することができる。
【0038】
また、上記のごとく構成された本実施形態のごときワーク保持装置10によれば、(i)薄肉円筒ワーク100をより精度よく加工することを可能としたことから、ワーク加工により製造されるカーボンスクレーパリングといった金属製リング状部材200の変形を抑止して真円度を確保することができ、(ii)チャック時のワーク100の変形や加工時のビビリを抑制することが可能であるため、従前よりも全長が長いひとつのワーク100から金属製リング状部材200を効率よく多数切り出すことができ、(iii)引き込み装置21を軸方向に作動させることにより、これに応じて傾斜壁面22の傾斜に従い斜めに動く機構の爪部材33を利用してワーク100の自動着脱をすることができる。
【0039】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では、調心部材の例として取付用ボルト42の周囲に設けた弾性部材44を示したが上記した弾性部材44は形状、材料、構造とも好適な一例にすぎず、同様の機能を果たすその他の部材、たとえばゴム製あるいはシリコーン製の部材などを適用しうることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ロボットにおけるワーク保持装置、NCやローダーを含むものをはじめとする各種ワーク保持装置に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0041】
10…ワーク保持装置
20…装置本体部
21…引き込み装置
22…傾斜壁面
23…液供給用のパイプ
24…パイプ
30…チャック部
31…ベース部材
31H…取付用ボルトが螺合するねじ孔
32…中子部材
32H…取付用ボルトが通る透孔
32P…周面
33…爪部材(押圧部材)
33A…取付用ボルト
33B…孔部
34…ワークグリッパー(グリッパー部)
35…中間部材
36…ストッパー
42…取付用ボルト
42a…ねじ部
42b…段部
42c…軸部
42d…頭部
44…弾性部材(調心部材)
100…ワーク
101…先端部
102…基端部
102E…基端部側の縁部
100t…テーパ部
110…被保持部
120…製品部
200…カーボンスクレーパリング(最終製品たる金属製リング状部材)
a…補正量
C…中心軸