(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】切断割れ抵抗性に優れた耐摩耗鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241002BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20241002BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C22C38/00 301H
C22C38/58
C21D8/02 A
(21)【出願番号】P 2022537685
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 KR2020018392
(87)【国際公開番号】W WO2021125763
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】10-2019-0170859
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ, スン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ゾ, ナム-ヨン
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-505094(JP,A)
【文献】特表2016-534230(JP,A)
【文献】特開平08-041535(JP,A)
【文献】特開2012-214890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 7/00- 8/10
B21B 1/00- 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.25~0.50%、シリコン(Si):0.15~0.5%、マンガン(Mn):0.6~1.6%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~1.5%、モリブデン(Mo):0.1~0.8%、ニオブ(Nb):0.08%以下(0は除く)、バナジウム(V):0.05~0.5%、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)を含み、追加的に、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)及びカルシウム(Ca):2~100ppmからなる群から選択された1種以上をさらに含み、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、
下記関係式1を満たし、微細組織は面積分率で、90%以上のテンパードマルテンサイト、10%以下のベイナイト及び2%以下のマルテンサイトを含み、ブリネル硬度が360~440HBの範囲であることを特徴とする耐摩耗鋼材。
[関係式1]
([V]×[Nb])/[Mo]≧6×10
-3
(前記関係式1において、前記[V]は鋼材内のVの平均重量%含量を示し、前記[Nb]は鋼材内のNbの平均重量%含量を示し、前記[Mo]は鋼材内のMoの平均重量%含量を示す。)
【請求項2】
前記鋼材は、微細組織として面積%で、テンパードマルテンサイトを90%以上98%以下、ベイナイトを2%以上10%以下、マルテンサイトを2%以下(0%含む)含むことを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は、厚さが60mm以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗鋼材。
【請求項4】
耐摩耗鋼材の製造方法であって、
重量%で、炭素(C):0.25~0.50%、シリコン(Si):0.15~0.5%、マンガン(Mn):0.6~1.6%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~1.5%、モリブデン(Mo):0.1~0.8%、ニオブ(Nb):0.08%以下(0は除く)、バナジウム(V):0.05~0.5%、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)を含み、追加的に、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)及びカルシウム(Ca):2~100ppmからなる群から選択された1種以上をさらに含み、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、
下記関係式1を満たす合金組成を有する鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、
前
記加熱された鋼スラブを950~1050℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを得る段階と、
前記粗圧延バーを850~950℃の温度範囲で熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板をMs-50℃以下の冷却終了温度まで3℃/s以上の平均冷却速度で冷却する段階と、
前記冷却された鋼板を450~650℃の温度で15分以上熱処理する段階と、を含
み、
前記耐摩耗鋼材の微細組織は面積分率で、90%以上のテンパードマルテンサイト、10%以下のベイナイト及び2%以下のマルテンサイトを含み、ブリネル硬度が360~440HBの範囲であることを特徴とする耐摩耗鋼材の製造方法。
[関係式1]
(V×Nb)/Mo≧6×10
-3
【請求項5】
前記熱処理する段階は、15分以上50分以下の間行うことを特徴とする請求項4に記載の耐摩耗鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理する段階は、489~600℃の温度で行うことを特徴とする請求項4に記載の耐摩耗鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断割れ抵抗性に優れた耐摩耗鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、ガス等の方法により切断した後にも割れが発生しない耐摩耗鋼材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設、土木、鉱業、セメント産業など、多くの産業分野に使用される建設機械、産業機械の場合、作業時の摩擦による摩耗がひどく発生するため、耐摩耗の特性を示す素材の適用が必要である。一般的に、厚鋼板の耐摩耗性と硬度は互いに相関があるため、摩耗が懸念される厚鋼板では硬度を高める必要があり、通常このような厚鋼板を耐摩耗鋼と呼ぶ。
【0003】
硬度の高い耐摩耗鋼は、一般的に、熱間圧延後Ac3以上の温度に再加熱してから急冷する方法で製造される。このような過程を経て製造された耐摩耗鋼は、マルテンサイトという微細組織を有するようになり、これは、相変態を通じて得られる鉄鋼固有の特徴である。このようなマルテンサイトを主組織として有する耐摩耗鋼の場合、内部に多量の炭素と合金元素を含有しており、実際には、素材を所望の大きさや形状に切断してから割れが生じやすいという問題がある。
【0004】
切断後に発生する割れは、切断時に素材の内部に浸透した水素に起因するものであり、このような水素脆性に対する抵抗性を高めた場合にのみ素材の信頼性を確保することができる。このためには、通常、切断前の厚さに応じて多少の差があるが、100℃以上に素材を予熱する作業が必ず必要である。しかし、このように素材を予熱するには相当な時間がかかり、均一な温度を確保及び維持することは非常に難しい。その他、切断割れを防止するために、切断面に予熱と同様に後熱作業を行うこともあるが、作業性の面では効率的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0179009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、硬度が高く且つ切断割れ抵抗性に優れた耐摩耗鋼材及びその製造方法を提供するものである。
【0007】
本発明の課題は、上述の内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全体にわたる内容から本発明の更なる課題を理解する上で困難はない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の耐摩耗鋼材は、重量%で、炭素(C):0.25~0.50%、シリコン(Si):0.15~0.5%、マンガン(Mn):0.6~1.6%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~1.5%、モリブデン(Mo):0.1~0.8%、ニオブ(Nb):0.08%以下(0は除く)、バナジウム(V):0.05~0.5%、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)を含み、追加的に、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)及びカルシウム(Ca):2~100ppmからなる群から選択された1種以上をさらに含み、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1を満たし、微細組織は面積分率で、90%以上のテンパードマルテンサイト、10%以下のベイナイト及び2%以下のマルテンサイトを含み、ブリネル硬度が360~440HBの範囲であることを特徴とする。
【0009】
[関係式1]
([V]×[Nb])/[Mo]≧6×10-3
(前記関係式1において、前記[V]は鋼材内のVの平均重量%含量を示し、前記[Nb]は鋼材内のNbの平均重量%含量を示し、前記[Mo]は鋼材内のMoの平均重量%含量を示す。)
【0010】
また、本発明の耐摩耗鋼材の製造方法は、上述の合金組成を有する鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、前記再加熱された鋼スラブを950~1050℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを得る段階と、前記粗圧延バーを850~950℃の温度範囲で熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、前記熱延鋼板をMs-50℃以下の冷却終了温度まで平均3℃/s以上の冷却速度で冷却する段階と、前記冷却された鋼板を450~650℃の温度で15分以上熱処理する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、硬度が高く且つ切断割れ抵抗性に優れた耐摩耗鋼材及びその製造方法を提供することができる。特に、本発明によると、厚さ60mm以上の厚物鋼材に対しても高硬度及び切断割れ抵抗性に優れた耐摩耗鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一側面の耐摩耗鋼材は、重量%で、炭素(C):0.25~0.50%、シリコン(Si):0.15~0.5%、マンガン(Mn):0.6~1.6%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~1.5%、モリブデン(Mo):0.1~0.8%、ニオブ(Nb):0.08%以下(0は除く)、バナジウム(V):0.05~0.5%、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)を含み、追加的に、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)及びカルシウム(Ca):2~100ppmからなる群から選択された1種以上をさらに含み、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1を満たし、微細組織は面積分率で、90%以上のテンパードマルテンサイト、10%以下のベイナイト及び2%以下のマルテンサイトを含み、ブリネル硬度が360~440HBの範囲である。
【0013】
[関係式1]
(V×Nb)/Mo≧6×10-3
(関係式1において、[V]は鋼材内のVの平均重量%含量を示し、[Nb]は鋼材内のNbの平均重量%含量を示し、[Mo]は鋼材内のMoの平均重量%含量を示す。)
【0014】
以下では、本発明で提供する切断割れ抵抗性に優れた耐摩耗鋼材の合金組成を上述のように限定する理由について詳細に説明する。なお、本発明において、特に断りのない限り、各元素の含量は重量%を基準とする。
【0015】
炭素(C):0.25~0.50%
炭素(C)は、マルテンサイトを主組織とする鋼において、硬度を増加させるのに効果的であり、硬化能の向上に有効な元素である。上述した効果を十分に確保するためには、0.25%以上添加することが好ましく、もし、その含量が0.50%を超えると、厚板製造工程のうち、再加熱段階においてスラブ加熱炉内で破断する危険性が高くなる。したがって、本発明では、Cの含量を0.25~0.50%に制御することが好ましい。一方、C含量の下限は0.26%であることがより好ましく、0.28%であることがさらに好ましく、0.29%であることが最も好ましい。C含量の上限は0.49%であることがより好ましく、0.48%であることがさらに好ましく、0.47%であることが最も好ましい。
【0016】
シリコン(Si):0.15~0.5%
シリコン(Si)は、脱酸と固溶強化による強度の向上に有効な元素である。上述のような効果を有効に得るためには、0.15%以上添加することが好ましい。しかし、その含量が0.5%を超えると、熱間圧延時にスケールが過剰に生成される可能性があり、好ましくない。したがって、本発明では、Siの含量を0.15~0.5%に制御することが好ましい。Si含量の下限は0.16%であることがより好ましく、0.18%であることがさらに好ましく、0.20%であることが最も好ましい。Si含量の上限は0.48%であることがより好ましく、0.46%であることがさらに好ましく、0.45%であることが最も好ましい。
【0017】
マンガン(Mn):0.6~1.6%
マンガン(Mn)は、フェライトの生成を抑制し、Ar3温度を下げることにより、焼入れ性を効果的に上昇させ、鋼の強度及び靭性を向上させる元素である。上述のような効果を有効に得るためには、0.6%以上添加することが好ましい。しかし、Mn含量が1.6%を超えると、厚さ中心部にMnS偏析帯が生じやすく、これにより、クラックが発生しやすいという問題がある。したがって、本発明では、Mnの含量を1.6%以下に制御することが好ましい。Mn含量の下限は、0.63%であることがより好ましく、0.65%であることがさらに好ましく、0.70%であることが最も好ましい。Mn含量の上限は1.58%であることがより好ましく、1.55%であることがさらに好ましく、1.50%であることが最も好ましい。
【0018】
リン(P):0.05%以下(0は除く)
リン(P)は、鋼中に不可避に含有される元素であるとともに、鋼の靭性を阻害する元素である。したがって、Pの含量を可能な限り低くして0.05%以下に制御することが好ましく、より好ましくは、P含量の上限は0.03%であってもよく、最も好ましくは0.015%であってもよい。但し、不可避に含有されるレベルを考慮して、P含量として0%は除くことができ、あるいはP含量の下限は0.001%とすることができる。
【0019】
硫黄(S):0.02%以下(0は除く)
硫黄(S)は、鋼中にMnS介在物を形成して鋼の靭性を阻害する元素である。したがって、Sの含量を可能な限り低くして0.02%以下に制御することが好ましく、より好ましくは、S含量の上限は0.009%であってもよい。但し、不可避に含有されるレベルを考慮して、S含量として0%は除くことができ、あるいはS含量の下限は0.0005%とすることができる。
【0020】
アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)
アルミニウム(Al)は、鋼の脱酸剤として溶鋼中の酸素含量を下げるのに効果的な元素である。但し、Alの含量が0.07%を超えると、鋼の清浄性が阻害されるという問題があるため、好ましくない。したがって、本発明では、Alの含量を0.07%以下に制御することが好ましく、より好ましくは、Al含量の上限は0.06%であってもよく、さらに好ましくは、Al含量の上限は0.05%であってもよく、最も好ましくは、Al含量の上限は0.04%であってもよい。但し、製鋼工程時の負荷、製造コストの上昇等を考慮して、Al含量として0%は除くことができ、あるいはAl含量の下限は0.005%とすることができる。
【0021】
クロム(Cr):0.1~1.5%
クロム(Cr)は、焼入れ性を増加させて鋼の強度を増加させ、硬度の確保にも有利な元素である。上述した効果を得るためには、0.1%以上にしてCrを添加することが好ましいが、その含量が1.5%を超えると、硬化能が過度に大きくなり、連鋳(Casting)中の鋳片の表面にクラックが発生する確率が高くなる。したがって、本発明では、Crの含量を0.1~1.5%に制御することが好ましい。Cr含量の下限は0.12%であることがより好ましく、0.15%であることがさらに好ましく、0.20%であることが最も好ましい。Cr含量の上限は1.4%であることがより好ましく、1.3%であることがさらに好ましく、1.2%であることが最も好ましい。
【0022】
モリブデン(Mo):0.1~0.8%
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を増加させ、高温で微細な炭化物(Mo2C)を形成させることにより、500℃以上の高温で強度を確保するのに非常に有用な元素である。上述した効果を十分に得るためには、Moを0.1%以上添加することが好ましい。しかし、Moの場合、多少高価な元素であって、その含量が0.8%を超えると、製造コストが上昇するという問題がある。したがって、本発明では、Moの含量を0.1~0.8%に制御することが好ましい。あるいは、Mo含量は、より好ましくは0.2%以上であってもよく、さらに好ましくは0.3%であってもよい。また、Mo含量は、より好ましくは0.7%以下であってもよく、さらに好ましくは0.63%であってもよい。
【0023】
ニオブ(Nb):0.08%以下(0は除く)
ニオブ(Nb)は、オーステナイトに固溶してオーステナイトの硬化能を増大させ、高温でNb(C、N)などの炭窒化物を形成して鋼の強度を増加させ、及びオーステナイト結晶粒の成長を抑制する。但し、Nbの含量が0.08%を超えると、粗大な析出物が形成され、これは脆性破壊の起点となって靭性を阻害するという問題がある。したがって、本発明では、Nbの含量を0.08%以下に制御することが好ましい。あるいは、Nb含量は、より好ましくは0.07%以下であってもよく、さらに好ましくは0.06%以下であってもよく、最も好ましくは0.05%以下であってもよい。
【0024】
一方、本発明は、Nbの添加により上述した効果の確保が可能であるため、Nb含量は0%を除く(すなわち、0%超過)ことができる。但し、より好ましくは、Nb含量は0.001%以上であってもよく、さらに好ましくは0.005%以上であってもよく、最も好ましくは0.01%以上であってもよい。
【0025】
バナジウム(V):0.05~0.5%
バナジウム(V)は、熱間圧延後の再加熱時にVC炭化物を形成することにより、オーステナイト結晶粒の成長を抑制し、鋼の焼入れ性を向上させて強度を確保するのに有利な元素である。上述した結果を十分に得るためには、Vを0.05%以上添加することが好ましい。しかし、Vの場合、やや高価な元素であって、その含量が0.5%を超えると、製造コストが上昇するという問題がある。したがって、本発明では、Vを添加する際、その含量を0.5%以下に制御することが好ましい。一方、Mo含量の下限は0.06%であることがより好ましく、0.07%であることがさらに好ましく、0.08%であることが最も好ましい。V含量の上限は0.4%以下であることがより好ましく、0.35%以下であることがさらに好ましく、0.3%以下であることが最も好ましい。
【0026】
ボロン(B):50ppm以下(0は除く)
ボロン(B)は、少量の添加でも鋼の焼入れ性を有効に上昇させ、強度を向上させるのに有効な元素である。Bは、少量の添加でも、上述した効果が発揮されるため、B含量として0%は除く(すなわち、0%超過)ことができ、より好ましくは、B含量の下限は0.0005%とすることができる。但し、B含量が過度になると、むしろ鋼の靭性及び溶接性を阻害するという問題があるため、その含量を50ppm以下(0.005%以下)に制御することが好ましい。したがって、Bの含量は50ppm以下(0は除く)であることが好ましい。B含量は40ppm以下であることがより好ましく、35ppm以下であることがさらに好ましく、30ppm以下であることが最も好ましい。
【0027】
一方、本発明の一側面による耐摩耗鋼材は、上述した元素の他にも、以下の元素のうち、追加的に選択された1種以上の元素をさらに含むことができる。
【0028】
チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)
チタン(Ti)は、鋼の焼入れ性の向上に有効な元素であるBの効果を最大化する元素である。具体的に、Tiは、窒素(N)と結合してTiN析出物を形成させてBNの形成を抑制することにより、固溶Bを増加させて焼入れ性の向上を極大化することができる。上述した効果を確保するために、Ti含量として0%を除くことができ、より好ましくは、Ti含量の下限は0.005%とすることができる。但し、Tiの含量が0.02%を超えると、粗大なTiN析出物が形成され、鋼の靭性が劣るという問題がある。したがって、本発明では、Tiの含量を0.02%以下に制御することが好ましい。あるいは、より好ましくは、Ti含量は0.017%以下であってもよく、さらに好ましくは0.015%であってもよく、最も好ましくは0.012%であってもよい。
【0029】
ニッケル(Ni):0.5%以下(0は除く)
ニッケル(Ni)は、一般的に鋼の強度と共に靭性を向上させるのに有効な元素である。したがって、上述した効果を確保するために、Ni含量として0%を除くことができ、より好ましくは、Ni含量の下限は0.01%とすることができる。但し、Niは高価な元素であって、その含量が0.5%を超えると、製造コストを上昇させる原因となる。したがって、本発明では、Niの上限は0.5%に制御することが好ましく、より好ましくはNi含量は0.47%以下であってもよく、さらに好ましくは0.45%以下であってもよく、最も好ましくは0.42%以下であってもよい。
【0030】
銅(Cu):0.5%以下(0は除く)
銅(Cu)は、固溶強化により鋼の強度及び硬度を向上させる元素である。また、Niと共に靭性を向上させるのに有効な元素である。上述した効果を確保するために、Cu含量として0%を除くことができ、より好ましくは、Cu含量の下限は0.01%とすることができる。但し、このようなCuの含量が0.5%を超えると、熱間圧延前の高温加熱時にスラブの表面欠陥を発生させ、熱間加工性を阻害するという問題があるため、Cuを添加する場合は0.5%以下にして添加することが好ましい。あるいは、Cu含量の上限は、より好ましくは0.4%であってもよく、さらに好ましくは0.35%であってもよく、最も好ましくは0.3%であってもよい。
【0031】
カルシウム(Ca):2~100ppm
カルシウム(Ca)は、Sとの結合力に優れており、CaSを生成することにより、鋼材の厚さ中心部に偏析するMnSの生成を抑制する効果がある。結果的に、Caの添加は、素材の機械的異方性(anisotropy)を低減する役割を果たす。上述した効果を得るためには、Caを2ppm以上添加することが好ましいが、その含量が100ppmを超えると、製鋼操業時にノズル詰まり等を誘発するという問題がある。したがって、本発明では、Caの含量を2~100ppm(すなわち、0.0002~0.01%)に制御することが好ましい。Ca含量の下限は2.5ppmであることがより好ましく、3ppmであることがさらに好ましく、3.5ppmであることが最も好ましい。Ca含量の上限は80ppmであることがより好ましく、60ppmであることがさらに好ましく、40ppmであることが最も好ましい。
【0032】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容について特に言及しない。
【0033】
また、本発明の一側面によると、鋼材は、下記関係式1を満たす。本発明による鋼材は、必須成分としてV、Nb及びMoを含み、これらの成分のいずれも含まない場合には、本発明の目的とする効果を得ることができない。さらに、本発明による鋼材の組成が下記関係式1を満たすことにより、本発明で目的とする優れた切断割れ抵抗性の効果を発揮することができる。
【0034】
[関係式1]
([V]×[Nb])/[Mo]≧6×10-3
(関係式1において、[V]は鋼材内のVの平均重量%含量を示し、[Nb]は鋼材内のNbの平均重量%含量を示し、[Mo]は鋼材内のMoの平均重量%含量を示す。)
【0035】
一方、本発明の一側面によると、上述した切断割れ抵抗性をより改善しようとする観点から、より好ましくは、下記関係式1に定義された([V]×[Nb])/[Mo]の値が0.008以上0.025以下であってもよい。このとき、下記関係式1は、経験的に得られる値であるため、別途に単位を定めなくてもよく、本明細書において、下記[V]、[Nb]及び[Mo]の各単位(すなわち、重量%)を満たせばよい。
【0036】
本発明の一実施形態によると、鋼材の微細組織は、テンパードマルテンサイトを主組織として含む(すなわち、面積%で、テンパードマルテンサイトを50%以上含み、より好ましくは90%以上含む。)ことが好ましい。これにより、本発明の鋼材は、高い硬度を確保すると同時に、ガス等の方法により切断した後に、割れが発生しない切断割れ抵抗性を確保することができ、特に60mm以上の厚物鋼材においても、高い硬度及び優れた切断割れ抵抗性を確保することができる。
【0037】
すなわち、切断割れは通常、厚さの薄い耐摩耗鋼では相対的に発生する確率が低く、従来は焼戻し工程を行っていなかった。ところが、このような耐摩耗鋼の厚さが60mm以上に厚くなると、切断割れの発生がより起こりやすくなるが、従来は、このように厚さが60mm以上と厚い厚物鋼材において予熱又は後熱作業なしで優れた硬度及び切断割れ抵抗性の効果を両立することは存在しなかった。そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、上述した合金組成を満たすとともに、微細組織を制御することにより、厚さの厚い厚物鋼材においても優れた硬度及び切断割れ抵抗性を確保できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0038】
本発明の一実施形態によると、テンパードマルテンサイト組織の分率は、製造操業上、素材の厚さにより急速冷却中に不可避に一部の領域でベイナイト組織が形成されることがあるため、本発明では、ベイナイト組織の分率上限を10%に制御する。すなわち、本発明の微細組織は面積分率で、90%以上のテンパードマルテンサイト、10%以下のベイナイト及び2%以下のマルテンサイトを含むことが好ましい。
【0039】
もし、テンパードマルテンサイトの分率が90面積%未満であると、ガス切断後に割れ抵抗性を十分に確保し難くなるという問題があり、テンパードマルテンサイト分率の下限は92面積%以上であることがより好ましく、95面積%以上であることがさらに好ましい。また、ベイナイトの分率は、8面積%以下であることがより好ましく、5面積%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
一方、本発明の一側面によると、テンパードマルテンサイト組織は面積分率で、90%以上98%以下であることがより好ましく、ベイナイト組織は2%以上10%以下であることが好ましい。
【0041】
また、本発明の一側面によると、鋼材は、微細組織として面積%で、90%以上のテンパードマルテンサイト及び10%以下のベイナイトを含み、これ以外、その他の相として残部のマルテンサイトをさらに含むことができる。
【0042】
したがって、本発明の一側面によると、鋼材は、微細組織として面積%で、テンパードマルテンサイトを90%以上98%以下、ベイナイトを2%以上10%以下、マルテンサイトを2%以下(0%を含む)含むことができる。
【0043】
一方、本発明の一側面によると、本発明の鋼材は微細炭化物を含むことができ、このような微細炭化物は、鋼の強度と共に水素脆性抵抗性を同時に向上させることができる。すなわち、ガス切断によって素材の内部に流入した水素は通常24~48時間の一定の潜伏期を経る遅れ破壊を引き起こすが、微細炭化物はこのような遅れ破壊抵抗性を高める。
【0044】
より詳しくは、微細炭化物が直接または間接的に水素のトラッピングサイト(trapping site)として作用するものであり、Nb、Ti、V、Moなどの炭化物がテンパードマルテンサイトを基地組織として有する鋼材において水素脆性抵抗性を増加させる上で効果的である。ちなみに、上述した微細炭化物の大きさは数~数十nmのサイズを有し、添加元素によってその大きさは多少異なる。
【0045】
また、本発明の一側面によると、微細炭化物としてはNb、V系列の微細炭化物を有することが好ましい。
【0046】
本発明の一側面によると、耐摩耗鋼材のブリネル硬度は360~440HB程度のグレードを有するものであり、耐摩耗鋼材として目的する硬度範囲であるブリネル硬度360~440HBの範囲を満たすことにより、本発明で意図する優れた硬度及び割れ抵抗性の効果が両立する鋼材を得ることができる。
【0047】
本発明の他の実施形態は、上述の合金組成を有する鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、再加熱された鋼スラブを950~1050℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを得る段階と、粗圧延バーを850~950℃の温度範囲で熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、熱延鋼板をMs-50℃以下まで3℃/s以上の平均冷却速度で冷却する段階と、冷却された鋼板を450~650℃の温度で15分以上熱処理する段階と、を含む、耐摩耗鋼材の製造方法を提供する。
【0048】
以下、本発明の切断割れ抵抗性に優れた高硬度耐摩耗鋼材の製造方法について具体的に説明する。
【0049】
まず、上述した合金組成を満たす鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する。スラブ加熱温度が1050℃未満であると、Nb等の再固溶が十分でなく、一方、1250℃を超えると、オーステナイト結晶粒が粗大化して不均一な組織が形成されるおそれがある。したがって、本発明では、鋼スラブの加熱温度が1050~1250℃の範囲を有することが好ましい。鋼スラブの加熱温度の下限は1065℃であることがより好ましく、1080℃であることがさらに好ましく、1100℃であることが最も好ましい。鋼スラブの加熱温度の上限は1220℃であることがより好ましく、1200℃であることがさらに好ましく、1180℃であることが最も好ましい。
【0050】
再加熱された鋼スラブを950~1050℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バー(bar)を得る。粗圧延時に、その温度が950℃未満であると、圧延荷重が増加して相対的に弱圧下されることにより、スラブの厚さ方向の中心まで変形が十分に伝達されず、空隙のような欠陥が除去されないおそれがある。一方、その温度が1050℃を超えると、圧延と同時に再結晶が起こった後に粒子が成長するようになり、初期のオーステナイト粒子が過度に粗大になるおそれがある。したがって、本発明では、粗圧延温度は950~1050℃であることが好ましい。粗圧延温度の下限は960℃であることがより好ましく、970℃であることがさらに好ましく、980℃であることが最も好ましい。粗圧延温度の上限は1045℃であることがより好ましく、1040℃であることがさらに好ましく、1035℃であることが最も好ましい。
【0051】
粗圧延バーを850~950℃の温度範囲で熱間圧延して熱延鋼板を得る。熱間圧延温度が850℃未満であると、二相域圧延となって微細組織中にフェライトが生成されるおそれがあり、一方、熱間圧延温度が950℃を超えると、空冷中にも相対的に速い冷却速度によりベイナイトが過剰に生成されるおそれがある。したがって、本発明では、熱間圧延温度は850~950℃であることが好ましい。一方、熱間圧延温度の下限は860℃であることがより好ましく、870℃であることがさらに好ましく、880℃であることが最も好ましい。熱間圧延温度の上限は940℃であることがより好ましく、930℃であることがさらに好ましく、920℃であることが最も好ましい。
【0052】
本発明の一側面によると、熱間圧延から得られた熱延鋼板を空冷する段階をさらに含むことができる。次いで、熱延鋼板の表面温度を基準に、Ac+30℃以上の温度に(より好ましくは、890~920℃の範囲)再加熱する段階を含むことができる。このとき、再加熱の在炉時間は100~160分の範囲(より好ましくは、106~151分)であってもよい。
【0053】
その後、熱延鋼板の表面温度を基準に、(Ac3+30℃以上の冷却開始温度で)Ms-50℃以下の冷却終了温度まで3℃/s以上の平均冷却速度で(好ましくは3~20℃/s、より好ましくは3.2~10.1℃/s)冷却する。このとき、冷却は、30℃以下の水を使用した急速冷却であることが好ましい。
【0054】
冷却時に、平均冷却速度が3℃/s未満であるか、又は冷却終了温度がMs-50℃を超えるようになると、冷却中にフェライト相が形成されたり、ベイナイト相が過剰に形成されたりするおそれがある。したがって、冷却は、3℃/s以上の平均冷却速度でMs-50℃以下まで行うことが好ましい。冷却速度は速ければ速いほど、本発明で得ようとする微細組織の形成に有利であるが、厚さが60mm以上に厚くなると、素材の内部の冷却速度は物理的に減少するしかない。一方、本発明では、冷却速度の上限について特に限定しておらず、通常の技術者であれば、設備の限界を考慮して好適に設定することができる。
【0055】
なお、特に限定するものではないが、本発明の一側面によると、冷却時に、より好ましくは、冷却終了温度はMs-80℃以下(さらに好ましくはMs-100℃以下、最も好ましくはMs-150℃以下)であってもよい。
【0056】
急速冷却熱処理された熱延鋼板は、最終目標とする硬度及び切断割れ抵抗性を確保するために、450~650℃で後続熱処理を行う。すなわち、通常、焼戻し(Tempering)と呼ばれる後続熱処理により、目標とする360~440HBの硬度を確保することができる。
【0057】
具体的に、後続熱処理前に急速冷却された熱延鋼板は、高い炭素含量のため、本発明で目標とする硬度の上限値である440HBを上回るようになり、切断割れ抵抗性も確保できなくなる。そこで、本発明では、焼戻し熱処理によって素材の内部の転位密度を減少させることで硬度を下向き調整し、さらに微量添加されたNb及びVのような合金元素の微細炭化物を析出させることで切断割れ抵抗性の確保が可能となる。
【0058】
したがって、後続熱処理は450~650℃で行うことが好ましい。後続熱処理温度は、微細炭化物の析出のために460℃以上であることがより好ましく、480℃以上であることがさらに好ましく、489℃以上であることが最も好ましい。
【0059】
また、後続熱処理温度は640℃以下であることがより好ましく、620℃以下であることがさらに好ましく、600℃以下であることが最も好ましい。
【0060】
本発明の一側面によると、後続熱処理時に在炉時間は15分以上であることが好ましい。もし、在炉時間が15分未満であると、素材の厚さを勘案したとき、中心部まで十分に温度が上がらず、転位密度の減少及び微細炭化物の析出効果が不足し、在炉時間が50分を超えると、硬度の低下が著しく発生し、目標レベルを満たすことができない。
【0061】
したがって、後続熱処理の在炉時間は15~50分とすることが好ましい。一方、在炉時間は16分以上であることがより好ましく、17分以上であることがさらに好ましく、19分以上であることが最も好ましい。また、在炉時間は48分以下であることがより好ましく、45分以下であることがさらに好ましく、41分以下であることが最も好ましい。
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものであるからである。
【0063】
〔実施例〕
下記表1及び2の合金組成を有する鋼スラブを準備した後、鋼スラブに対して、下記表3の条件で鋼スラブ加熱-粗圧延-熱間圧延-冷却(常温;空冷)-再加熱-冷却-後続熱処理を施して熱延鋼板を製造した。熱延鋼板に対して微細組織及び機械的物性を測定した後、下記表4に示した。
【0064】
このとき、微細組織は、任意の大きさに試験片を切断して鏡面を作製した後、ナイタルエッチング液を用いて腐食させてから光学顕微鏡と電子走査顕微鏡を活用して厚さの中心である1/2tの位置で観察した。
【0065】
硬度はブリネル硬度試験機(荷重3000kgf、10mmのタングステン圧入口)を用いて測定し、板の表面を厚さ方向に2mmミーリング加工して脱炭層を十分に除去した後、3回測定したものの平均値を使用した。
【0066】
一方、切断割れの発生の有無は、下記表1、2に記載の合金組成を有し、下記表3に記載の厚さを有する熱延鋼板を準備した後、無予熱(予熱なし)条件で、酸素ガスを使用する通常のガス切断を行い、切断素材を常温で48時間放置した。これは、切断時に切断部に流入した水素により、切断直後には観察されない遅れ破壊の発生の有無を確認するためである。切断クラックの有無は、目視で切断面をまず確認した後、光学顕微鏡を介して微細クラックを再確認する方法で評価し、その結果を表4に示した。
【0067】
【0068】
【0069】
【表3】
*Ac
3=910-203×C
1/2-15.2×Ni+44.7×Si+104×V+31.5×Mo+13.1×
W
*Ms=539-423×C-30.4×Mn-17.7×Ni-12.1×Cr-7.5×Mo
ここで、C、Ni、Si、V、Mo、W、Mn、及びCrは各元素の重量%である。
【0070】
【0071】
上記表1~4に示すように、本発明で規定する合金組成及び製造条件のうちいずれも満たしていない比較例1~15の場合、表面硬度が本発明で目的とする範囲であるブリネル硬度360~440HBを外れており、本発明で意図するグレード(grade)の硬度を有する鋼材を得ることができないか、及び/又は切断割れが発生した。これに対し、本発明で規定する合金組成及び製造条件を全て満たしている発明例1~9の場合は、いずれも本発明で目的とする硬度範囲であるブリネル硬度360~440HBを満たすとともに、切断割れが発生しなかった。したがって、本発明で規定する合金組成及び製造条件を全て満たす場合には、厚さが60mm以上である厚い厚物鋼材においても、目的とする優れた硬度特性を有するとともに、優れた切断割れ抵抗性の特性が両立できることを確認した。