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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】インクジェット印刷用シート
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B41M5/52 100
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022573861
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2021000368
(87)【国際公開番号】W WO2022149242
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 菜那
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169844(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/031817(WO,A1)
【文献】特開2014-071354(JP,A)
【文献】特開平10-138630(JP,A)
【文献】特開2001-225548(JP,A)
【文献】特開平11-219116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00- 5/52
B32B 1/00-43/00
B44C 1/16- 1/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク受理層、基材、粘着剤層、及び剥離ライナーをこの順で備える積層構造を有し、前記剥離ライナーは、前記粘着剤層との接触面に、シリコーン系剥離剤層を有し、前記インク受理層は、樹脂及びシリコーン系レベリング剤を含有するインク受理層形成用組成物から形成され、前記シリコーン系レベリング剤の含有量が、前記樹脂100質量部に対して、0.005質量部以上0.30質量部未満である、ラテックスインクを用いたインクジェット印刷用シート。
【請求項2】
前記シリコーン系レベリング剤が、ポリエーテル変性シリコーンオイルである、請求項1に記載のラテックスインクを用いたインクジェット印刷用シート。
【請求項3】
ロール状に巻き回した巻回体又は芯材に巻き付けた巻付体である、請求項1又は2に記載のラテックスインクを用いたインクジェット印刷用シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のラテックスインクを用いたインクジェット印刷用シートのインク受理層上に、インクジェット印刷用ラテックスインクを用いて、印刷部を形成するために、前記ラテックスインクを用いたインクジェット印刷用シートを使用する、使用方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のラテックスインクを用いたインクジェット印刷用シートのインク受理層上に、インクジェット印刷用ラテックスインクを用いて、印刷部を形成する工程を含む、印刷物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のラテックスインクを用いたインクジェット印刷用シートのインク受理層上に、インクジェット印刷用ラテックスインクによる印刷部を有する、印刷物。
【請求項7】
前記インク受理層形成用組成物は、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)及び架橋剤を含有する樹脂組成物を含有し、
前記架橋剤は、イソシアヌレート化合物及びイソシアヌレート化合物の変性体を含み、
前記イソシアヌレート化合物は、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体であり、
前記イソシアヌレート化合物の変性体は、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体であって、且つ1以上の3級アミノ基を有する、
請求項1に記載のラテックスインクを用いたインクジェット印刷用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの液滴を吐出し、インクジェット印刷用のメディア上にインクを付着させることによってドットを形成し、記録を行う方式である。インクジェット記録方式は、高画質のフルカラー画像が容易に得られること、高速化が容易なこと、ランニングコストが低いこと等の利点により、急速に普及しつつある。
また、インクジェット記録方式の普及に伴い、インクジェット印刷用のメディアについても種々提案されている。例えば、インク受理層、基材、粘着剤層、及び剥離ライナーをこの順で備える積層構造を有し、各種部材に貼り付けてラベル等として用いることのできるインクジェット印刷用シートも提案されている。
【0003】
なお、本明細書において、「インク受理層」とは、インクジェット印刷用インクが付与される部位であり、付与されたインクジェット印刷用インクによる印刷部を定着させる機能を有する層を意味する。
【0004】
近年、様々なインク受理層が提案されている。例えば、塩化ビニル系樹脂・酢酸ビニル系樹脂を含むインク受理層(特許文献1等を参照)、ポリビニルブチラールを含むインク受理層(特許文献2等を参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-172877号公報
【文献】特開2007-130776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、インク受理層に関する研究・開発を進める中で、印刷むらの問題に突き当たった。具体的には、インクジェット記録方式でインク受理層上にインクの液滴を吐出し、ドットを形成した際、インク受理層面内の一部の領域において、ドットの濡れ性が低下しドット同士が適切に干渉せず、インク受理層面内においてドット同士の干渉ばらつきが生じて、当該一部の領域における印刷が通常よりも淡くなってしまい、インク受理層上に形成された印刷部全体を観察した際に、印刷むらが視認されてしまうことがあるという問題に突き当たった。
【0007】
本発明は、かかる問題を解決するためになされた発明であって、インク受理層面内におけるドット同士の干渉のばらつきを抑制して、印刷むらを抑制することのできるインクジェット印刷シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、インク受理層を形成するためのインク受理層形成用組成物中に、シリコーン系レベリング剤を極僅かに配合することによって、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記[1]~[6]に関する。
[1] インク受理層、基材、粘着剤層、及び剥離ライナーをこの順で備える積層構造を有し、
前記剥離ライナーは、前記粘着剤層との接触面に、シリコーン系剥離剤層を有し、
前記インク受理層は、樹脂及びシリコーン系レベリング剤を含有するインク受理層形成用組成物から形成され、
前記シリコーン系レベリング剤の含有量が、前記樹脂100質量部に対して、0.005質量部以上0.30質量部未満である、インクジェット印刷用シート。
[2] 前記シリコーン系レベリング剤が、ポリエーテル変性シリコーンオイルである、上記[1]に記載のインクジェット印刷用シート。
[3] ロール状に巻き回した巻回体又は芯材に巻き付けた巻付体である、上記[1]又は[2]に記載のインクジェット印刷用シート。
[4] 上記[1]~[3]のいずれかに記載のインクジェット印刷用シートのインク受理層(A)上に、インクジェット印刷用インクを用いて、印刷部を形成するために、前記インクジェット印刷用シートを使用する、使用方法。
[5] 上記[1]~[3]のいずれかに記載のインクジェット印刷用シートのインク受理層(A)上に、インクジェット印刷用インクを用いて、印刷部を形成する工程を含む、印刷物の製造方法。
[6] 上記[1]~[3]のいずれかに記載のインクジェット印刷用シートのインク受理層(A)上に、インクジェット印刷用インクによる印刷部を有する、印刷物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インク受理層面内におけるドット同士の干渉のばらつきを抑制して、印刷むらを抑制することのできるインクジェット印刷シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様のインクジェット印刷用シートの一例を示す概略断面図である。
図2】実施例において、各種評価を行う前に実施した前処理における、2つのインクジェット印刷用シートの積層状態を示す概略断面図である。
図3】比較例I-1におけるインクジェット印刷用シートのインク受理層表面の全体写真(図面代用写真)である。
図4】比較例I-1におけるインクジェット印刷用シートのインク受理層表面において生じた濃部と淡部の光学顕微鏡観察結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「有効成分(固形分)」とは、対象となる組成物に含まれる成分のうち、水や有機溶媒等の希釈溶媒を除いた成分を指す。
本明細書において(メタ)アクリレートは、メタアクリレート及びアクリレートの双方を意味し、他の類似する用語についても同様である。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0013】
[本発明のインクジェット印刷用シートの態様]
本発明のインクジェット印刷用シートは、インク受理層、基材、粘着剤層、及び剥離ライナーをこの順で備える積層構造を有し、前記剥離ライナーは、前記粘着剤層との接触面に、シリコーン系剥離剤層を有し、前記インク受理層は、樹脂及びシリコーン系レベリング剤を含有するインク受理層形成用組成物から形成される。
そして、本発明のインクジェット印刷用シートは、前記シリコーン系レベリング剤の含有量が、前記樹脂100質量部に対して、0.005質量部以上0.30質量部未満である。
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、シリコーン系レベリング剤をインク受理層に極僅かに配合することによって、インク受理層面内におけるドット同士の干渉のばらつきを抑制して、印刷むらを抑制することができることを見出した。
本発明の効果が奏されるメカニズムは明確にはなっていないが、以下のように推察される。
すなわち、上記積層構造を有するインクジェット印刷用シートを巻回体や巻付体とすることで、インク受理層と剥離ライナー背面とが接触したときに、極微量のシリコーン成分がインク受理層表面に移行する。その結果、インク受理層表面において、部分的に表面自由エネルギーの変動が起こる。そして、部分的に表面自由エネルギーの変動が起こっている領域においては、表面自由エネルギーの変動が起こっていない領域と比較して、インク受理層に対するドットの濡れ性が低下して、ドット同士の干渉が通常よりも少なくなる。この現象により、本来生じるべきドット同士の適切な干渉が阻害されて印刷部が淡くなってしまい、印刷むらが視認されるものと推察される。そして、当該印刷むらは、シリコーン系レベリング剤をインク受理層に極僅かに配合することによって、インク受理層面内におけるドット同士の干渉のばらつきを抑制することで、抑制される。
【0015】
以下、本発明のインクジェット印刷用シートについて、インクジェット印刷用シートの構成、インクジェット印刷用シートを構成するインク受理層、基材、粘着剤層、及び剥離ライナー、インクジェット印刷用シートの製造方法、並びにインクジェット印刷用シートの用途について、詳細に説明する。
【0016】
[インクジェット印刷用シートの構成]
本発明のインクジェット印刷用シートは、インク受理層、基材、粘着剤層、及び剥離ライナーをこの順で備える積層構造を有する。
図1に、本発明のインクジェット印刷用シートの一態様の断面模式図を示す。図1に示すインクジェット印刷用シート1は、インク受理層2、基材3、粘着剤層4、及び剥離ライナー5をこの順で備える積層構造を有する。また、剥離ライナー5は、シリコーン系剥離剤層5a及び支持体5bを有し、シリコーン系剥離剤層5aが粘着剤層4に接する。
なお、図1に示すインクジェット印刷用シート1は、インク受理層2、基材3、粘着剤層4、及び剥離ライナー5が、他の層を介することなく、直接積層されている。したがって、図1に示すインクジェット印刷用シート1は、インク受理層2、基材3、粘着剤層4、及び剥離ライナー5のみから構成されている。
但し、インクジェット印刷用シート1は、このような形態には必ずしも限定されない。例えば、インク受理層2と基材3との間、基材3と粘着剤層4との間の少なくともいずれかに、必要に応じて他の層が設けられていてもよい。当該他の層としては、例えば易接着層が挙げられる。
また、シリコーン系剥離剤層5a及び支持体5bは、図1に示すように、直接積層されていてもよいが、シリコーン系剥離剤層5aと支持体5bとの間に、必要に応じて他の層が設けられていてもよい。当該他の層としては、例えば、目止め層等が挙げられる。
【0017】
<インク受理層>
インク受理層は、樹脂及びシリコーン系レベリング剤を含有するインク受理層形成用組成物から形成される。インク受理層が、シリコーン系レベリング剤を極僅かに含有することで、インク受理層面内におけるドット同士の干渉のばらつきが抑制され、印刷むらが抑制される。
【0018】
<<樹脂>>
インク受理層及びインク受理層形成用組成物は、樹脂を含有する。
樹脂としては、インク受理層の主剤として用いられる一般的な樹脂を、特に制限なく使用することができる。
なお、本明細書において、「主剤」とは、インク受理層形成用組成物中の有効成分(固形分)のうち、最も多く含まれている成分を意味する。具体的には、当該主剤の含有量は、インク受理層形成用組成物の有効成分(固形分)の全量基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。また、通常、99質量%以下である。
【0019】
なお、インク受理層は、エネルギー線硬化型のインク受理層であってもよく、熱硬化型のインク受理層であってもよく、架橋構造を有するインク受理層であってもよい。インク受理層の主剤として用いられる樹脂は、例えば、インク受理層が、これらのいずれかのタイプのインク受理層となるように適宜選択される。
本明細書において、「エネルギー線」とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味する。エネルギー線の例としては、紫外線、放射線、電子線等が挙げられる。紫外線は、例えば、紫外線源として高圧水銀ランプ、ヒュージョンランプ、キセノンランプ、ブラックライト又はLEDランプ等を用いることで照射できる。電子線は、電子線加速器等によって発生させたものを照射できる。本発明の一態様では、「エネルギー線」は紫外線であることが好ましい。
【0020】
本発明の一態様において、インク受理層の主剤として用いられる樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、及びウレタン系樹脂等が挙げられる。
セルロース系樹脂としては、変性セルロースが好ましい。なお、変性セルロースとは、セルロース分子の水酸基の少なくとも一部を他の基に置換したものである。置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基;ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基等が挙げられる。変性セルロースの具体例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等が挙げられる。
ウレタン系樹脂としては、水系ウレタンポリマー又は溶剤系ウレタンポリマーであることが好ましく、水系ウレタンポリマーがより好ましい。水系ウレタンポリマーとしては、例えば、ポリカーボネート系ウレタンポリマー、ポリカプロラクトン系ウレタンポリマー、及びポリエステル系ウレタンポリマーが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
なお、本発明の一態様では、環境的理由から、樹脂として、塩化ビニル系樹脂の含有量が少ないことが好ましい。
具体的には、塩化ビニル系樹脂の含有量は、インク受理層形成用組成物の有効成分(固形分)の全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは塩化ビニル系樹脂を含有しないことである。
【0022】
ここで、本発明の一態様において、インク受理層の主剤として用いられる樹脂としては、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、架橋性官能基を有する樹脂が好ましく、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)がより好ましい。
すなわち、本発明の一態様において、インク受理層は、下記(I)又は(II)の態様であることが好ましく、下記(II)の態様であることがより好ましい。
(I)架橋性官能基を有する樹脂と、シリコーン系レベリング剤とを含有し、架橋構造を有するインク受理層
(II)架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)とシリコーン系レベリング剤とを含有し、架橋構造を有するインク受理層
以下、より好適な態様として挙げた上記(II)の態様について、樹脂と、当該樹脂と組み合わせて用いられる添加剤も含め、詳細に説明する。
【0023】
「(II)架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)とシリコーン系レベリング剤とを含有し、架橋構造を有するインク受理層」は、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)と、架橋剤と、シリコーン系レベリング剤とを含有するインク受理層形成用組成物を用いて形成される。
なお、当該インク受理層及び当該インク受理層形成用組成物は、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)、シリコーン系レベリング剤、及び架橋剤以外の他の成分を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。
【0024】
(架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A))
架橋性官能基を有するアクリル系樹脂としては、架橋性官能基含有モノマー(a1’)(以下、モノマー(a1’)ともいう)に由来する構成単位(a1)を有するアクリル系樹脂(A1)が好ましい。
【0025】
モノマー(a1’)が有する架橋性官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、及びエポキシ基等から選択される1種以上が挙げられる。
つまり、モノマー(a1’)としては、例えば、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、及びエポキシ基含有モノマー等が挙げられる。また、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、及びエポキシ基等から選択される2種以上の架橋性官能基を含有するモノマーも挙げられる。
これらのモノマー(a1’)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、モノマー(a1’)としては、水酸基含有モノマー及びカルボキシ基含有モノマーが好ましい。
【0026】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;N-メチロール化アクリルアミド;ε-カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート;カーボネート変性(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;既述の水酸基含有モノマーの末端水酸基を、無水コハク酸及び無水グルタル酸等から選択される1種以上の脂肪族ジカルボン酸等の酸無水物と反応させて得られる化合物等が挙げられる。
【0028】
ここで、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)は、架橋性官能基含有モノマー(a1’)と共に、アルキル(メタ)アクリレート(a2’)(以下、「モノマー(a2’)」ともいう)に由来する構成単位(a2)を有するアクリル系共重合体(A2)であってもよい。
【0029】
モノマー(a2’)が有するアルキル基の炭素数は、好ましくは1~24である。なお、アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)を適切な範囲に調整して本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、アルキル基の炭素数は、好ましくは2~20である。
なお、モノマー(a2’)が有するアルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
【0030】
モノマー(a2’)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらのモノマー(a2’)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
構成単位(a2)を含むアクリル系共重合体(A2)において、構成単位(a2)の含有量は、アクリル系共重合体(A2)の全量基準で、好ましくは1~99質量%、より好ましくは5~95質量%、更に好ましくは10~90質量%である。
【0032】
アクリル系樹脂(A1)及びアクリル系共重合体(A2)は、さらにモノマー(a1’)及び(a2’)以外の他のモノマー(a3’)に由来の構成単位(a3)を有するアクリル系共重合体(A3)であってもよい。
【0033】
モノマー(a3’)としては、例えば、エチレン、プロピレン、及びイソブチレン等のオレフィン類;塩化ビニル及びビニリデンクロリド等のハロゲン化オレフィン類;ブタジエン、イソプレン、及びクロロプレン等のジエン系モノマー類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイミド(メタ)アクリレート等の環状構造を有する(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリロイルモルホリン、及びN-ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0034】
構成単位(a3)を含むアクリル系共重合体(A3)において、構成単位(a3)の含有量は、アクリル系共重合体(A3)の全量基準で、好ましくは1~99質量%、より好ましくは5~95質量%、更に好ましくは10~90質量%である。
【0035】
架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)の分子量は、特に限定されないが、数平均分子量が3,000~100,000であることが好ましい。
なお、当該数平均分子量は、示差屈折率計検出を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による、ポリスチレン換算値である。
【0036】
ここで、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)の水酸基価は、好ましくは5.0mgKOH/g~25.0mgKOH/g、より好ましくは6.0mgKOH/g~24.0mgKOH/g、更に好ましくは7.0mgKOH/g~23.0mgKOH/gである。
架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)の水酸基価が上記下限値以上であると、インク受理層とインク受理層上に形成された印刷部との密着性(インク密着性)を向上させやすい。また、インク受理層の安定性を向上させやすい。
架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)の水酸基価が上記上限値以下であると、インク受理層を形成する際に用いる塗工液の安定性を向上させやすい。また、架橋が密になることにより生じるインク受理層の硬化収縮に起因する収縮カールを抑制しやすい。
なお、本明細書において、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)の水酸基価は、JIS K0070:1992に準拠して測定された値を意味する。
【0037】
架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)の酸価は、好ましくは10.0mgKOH/g以下、より好ましくは1.0mgKOH/g~9.0mgKOH/g、更に好ましくは2.0mgKOH/g~8.0mgKOH/gである。
なお、本明細書において、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)の酸価は、JIS K0070:1992に準拠して測定された値を意味する。
【0038】
架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、インク受理層と印刷部との密着性(インク密着性)をより向上させやすくする観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下である。特に、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が、インクの硬化温度よりも低いと、インク受理層と印刷部との密着性(インク密着性)を更に向上させやすい。
また、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、耐ブロッキング性向上の観点から、通常30℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上である。
なお、本明細書において、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121:1987に準拠し、示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、製品名「DSC Q2000」)を用いて、昇温速度20℃/分にて測定した値を意味する。
【0039】
架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)の含有量は、本発明の効果が発揮される限り、特に限定されないが、インク受理層形成用組成物の有効成分(固形分)の全量基準で、好ましくは85質量%~98質量%、より好ましくは87質量%~97質量%、更に好ましくは88質量%~96質量%である。
【0040】
架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(架橋剤)
樹脂として架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)を含有するインク受理層は、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)と共に、架橋剤を含有する。
【0042】
架橋剤は、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)が有する架橋性官能基と架橋反応可能な架橋剤であれば特に制限なく使用することができるが、インク受理層と基材との密着性を良好なものとしやすくする観点からは、イソシアヌレート化合物が好ましく、イソシアヌレート化合物及びイソシアヌレート化合物の変性体を組み合わせて用いることがより好ましい。イソシアヌレート化合物及びイソシアヌレート化合物の変性体を組み合わせた架橋剤は、特にポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂を含む基材との密着性に優れる。
【0043】
((イソシアヌレート化合物))
イソシアヌレート化合物は、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体であり、具体的には下記式(1)の化合物である。
【化1】

【0044】
((イソシアヌレート化合物の変性体))
イソシアヌレート化合物の変性体は、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体であって、且つ1以上の3級アミノ基を有する。
【0045】
1以上の3級アミノ基を、上記式(1)の化合物に導入して変性体とする方法としては、例えば、水酸基及び3級アミノ基を有する変性剤を、上記式(1)の化合物と反応させる方法が、挙げられる。
このような変性剤としては、例えば、N,N-ジメチルアミノヘキサノール(例えば、花王株式会社製、カオーライザーNo.25)、N,N-ジメチルアミノエトキシエトキシエタノール(例えば、花王株式会社製、カオーライザーNo.23NP)、N,N-ジメチルアミノエトキシエタノール(例えば、花王株式会社製、カオーライザーNo.26)、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン(例えば、東ソー株式会社製、TOYOCAT RX5)、2-[[3-(ジメチルアミノ)プロピル]メチルアミノ]エタノール(例えば、Evоnik社製、POLYCAT 17)、N,N-ジメチルエタノールアミン(例えば、Huntsman社製、JEFFCAT DMEA)等が挙げられる。
なお、変性剤は、環構造を有していてもよいが、環構造を有していない、既述のような化合物であることが好ましい。また、変性剤は、金属元素を有していない、既述のような有機非金属化合物であることが好ましい。すなわち、変性剤は、水酸基及び3級アミノ基を有する、非環式有機非金属化合物であることが好ましい。
【0046】
上記式(1)の化合物と変性剤との反応は、例えば、窒素置換された反応容器中に上記式(1)の化合物と変性剤とを投入し、反応温度60℃~100℃にて、1時間~5時間撹拌することにより行うことが好ましい。
【0047】
((イソシアヌレート化合物及びイソシアヌレート化合物の変性体を含む架橋剤の調製))
イソシアヌレート化合物及びイソシアヌレート化合物の変性体を含む架橋剤は、例えば、既述した上記式(1)の化合物と変性剤との反応を行う際に、上記式(1)の化合物と変性剤との反応容器への投入量比を適宜調整することで、調製することができる。
上記式(1)の化合物に対する変性剤の投入割合は、上記式(1)の化合物100質量部に対し、変性剤の含有量が0.01~10質量部であることが好ましく、0.05質量部~5質量部であることがより好ましい。これにより、多数の上記式(1)の化合物のうち、一部の化合物のみが1以上の3級アミノ基を有する化合物となるため、イソシアヌレート化合物及びイソシアヌレート化合物の変性体を含む架橋剤を調製することができる。
なお、イソシアヌレート化合物の変性体の含有量は、イソシアヌレート化合物及びイソシアヌレート化合物の変性体の合計量に対し、好ましくは0.5モル%~10モル%、より好ましくは1モル%~5モル%である。
【0048】
ここで、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)100質量部に対する、架橋剤の含有量は、インク受理層と印刷部との密着性(インク密着性)をより向上させる観点から、好ましくは4.0質量部以上、より好ましくは4.4質量部以上、更に好ましくは5.0質量部以上、より更に好ましくは6.0質量部以上、更になお好ましくは7.0質量部以上である。また、好ましくは14.0質量部以下、より好ましくは13.0質量部以下である。
【0049】
架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
<<シリコーン系レベリング剤>>
インク受理層及びインク受理層形成用組成物は、シリコーン系レベリング剤を含有する。
インク受理層及びインク受理層形成用組成物が、シリコーン系レベリング剤を極僅かに含有することで、インク受理層面内におけるドット同士の干渉のばらつきが抑制され、印刷むらが抑制される。
シリコーン系レベリング剤は、剥離ライナー背面からインク受理層に移行したシリコーン成分に起因する、インク受理層表面の部分的な表面自由エネルギーの乱れを抑制し、インク受理層面内での表面自由エネルギーを均一化して、インク受理層面内におけるドット同士の干渉のばらつきを抑制する作用があるものと推定される。当該作用により、印刷むらが抑制されるものと考えられる。
【0051】
シリコーン系レベリング剤とは、シロキサン骨格を有する化合物であり、具体的には、シロキサン骨格と有機官能基とを有する化合物、び、シロキサン骨格と有機変性基とを有する化合物等から選択される1種以上が挙げられる。なお、有機変性基とは、有機官能基の一部が他の基で置換された基を意味する。
シリコーン系レベリング剤を具体的に例示すると、DOWSIL(登録商標) BY16-036 Fluid、同 SH28 Paint Additive、同 SF8428 Fluid、同 501W Additive、同 L-7001 Fluid、同 FZ-2104 Fluid、同 L-7002 Fluid、同 SF8427 Fluid等のポリエーテル変性シリコーンオイル(ダウ・東レ株式会社製);DOWSIL(登録商標) SF8416 Fluid、同 BY16-846 Fluid、同 SH203 Fluid、同 56 Additive等のアルキル変性シリコーンオイル(ダウ・東レ株式会社製);DOWSIL(登録商標) BY-16-880、同 BY16-750 Fluid等のカルボキシル変性シリコーンオイル;XIAMETER(登録商標) OFX-8417 Fluid、DOWSIL(登録商標) BY-16-849 Fluid、同 FZ-3785 Fluid、同 16-872 Fluid、同 16-853U Fluid等のアミノ変性シリコーンオイル;DOWSIL(登録商標) SF8413 Fluid、同 SF8411 Fluid、同 BY16-839 Fluid、同 FZ-3736 Fluid、同 SF8421 EG Fluid、同 BY16-870 Fluid、同 BY16-876 Fluid、同 BY16-869 Fluid、同 BY16-760 Fluid等のエポキシ変性シリコーンオイル;等が挙げられる。
これらの中でも、ポリエーテル変性シリコーンオイルがより好ましい。
シリコーン系レベリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
本発明において、シリコーン系レベリング剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.005質量部以上0.30質量部未満であることを要する。
シリコーン系レベリング剤の含有量が、樹脂100質量部に対して、0.005質量部未満である場合、インク受理層面内の一部の領域におけるドットの濡れ性の低下が見られ、インク受理層面内でドット同士の干渉ばらつきが生じ、印刷むらが発生する。
また、シリコーン系レベリング剤の含有量が、樹脂100質量部に対して、0.30質量部以上であると、インクはじきに起因するインク抜け等が発生する恐れがある。また、インク受理層と当該インク受理層上に形成された印刷部との密着性(インク密着性)も不良となる。
ここで、印刷むらの発生をより効果的に抑制しやすくする観点から、シリコーン系レベリング剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.01質量部超、更に好ましくは0.02質量部以上である。
また、インクはじきをより効果的に抑制しやすくする観点、インク受理層と当該インク受理層上に形成された印刷部との密着性(インク密着性)を向上させやすくする観点、シリコーン系レベリング剤の使用量を抑えつつも印刷むらの発生を抑制するから、シリコーン系レベリング剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.25質量部以下、より好ましくは0.20質量部以下、更に好ましくは0.15質量部以下である。
【0053】
<<他の添加剤>>
本発明の一態様において、インク受理層及びインク受理層形成用組成物は、架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)、シリコーンレベリング剤、及び架橋剤以外の、他の添加剤を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。
【0054】
<<インク受理層のSi量>>
本発明の一態様において、インクジェット印刷用シートに備えられているインク受理層表面のSi比率は、印刷むらを抑制しやすくする観点から、好ましくは0.24原子%以上、より好ましくは0.30原子%以上、更に好ましくは0.32原子%以上である。
また、インクはじき及びインク受理層と当該インク受理層上に形成された印刷部との密着性(インク密着性)を良好なものとしやすくする観点から、前記Si比率は、好ましくは2.4原子%未満、より好ましくは2.2原子%以下、更に好ましくは2.1原子%以下である。
Si比率は、X線光電子分光分析法(XPS)によって測定されるケイ素原子(Si2p)、炭素原子(C1s)、窒素原子(N1s)、及び酸素原子(O1s)のカウント数に基づき、下記の式により算出することができる。
Si比率(原子%)=[(Si2pカウント数)/{(C1sカウント数)+(N1sカウント数)(O1sカウント数)+(Si2pカウント数)}]×100
【0055】
<基材>
本発明のインクジェット印刷用シートは、基材を有する。
基材は、インクジェット印刷用シートを支持すると共に、インク受理層上に形成される印刷部を支持する支持体としての機能を有する。
【0056】
基材は、特に限定されないが、樹脂シートであることが好ましい。基材が樹脂シートであることにより、インクジェット印刷用シートの剛性及び可撓性等を良好なものとし、インクジェット印刷用シートの取扱性を良好なものとできる。また、インクジェット印刷用シートの生産コストの低減及び軽量化の観点からも有利である。
【0057】
樹脂シートを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体;三酢酸セルロース;ポリカーボネート;ポリウレタン及びアクリル変性ポリウレタン等のウレタン樹脂;ポリメチルペンテン;ポリスルホン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルスルホン;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルイミド、ポリイミド等のポリイミド系樹脂;ポリアミド系樹脂;アクリル樹脂;フッ素系樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、インク受理層との密着性を向上させやすくする観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましく、ポリエステル系樹脂であることがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートであることが更に好ましい。
【0058】
樹脂シートは、1種の樹脂のみから構成されたものであってもよく、2種以上の樹脂から構成されたものであってもよい。樹脂シートが2種以上の樹脂から構成されている場合、樹脂シートは複層体であることが好ましい。また、複層体の最上層(インク受理層に接する層)は、インク受理層との密着性を向上させやすくする観点から、ポリエステル系樹脂であることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートであることがより好ましい。
また、樹脂シートは、未延伸でもよいし、縦又は横等の一軸方向あるいは二軸方向に延伸されていてもよい。
【0059】
加えて、樹脂シートは、これらの樹脂と共に、表面調整剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、及び着色剤等の、基材用添加剤を含有していてもよい。
基材用添加剤の含有量は、基材の全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0060】
基材の厚さは、特に限定されないが、好ましくは15μm~300μm、より好ましくは30μm~200μmである。
【0061】
<粘着剤層>
本発明のインクジェット印刷用シートは、粘着剤層を有する。
本発明のインクジェット印刷用シートが粘着剤層を有することで、インクジェット印刷用シートを、粘着シートとして好適に用いることができる。
【0062】
粘着剤層を構成する粘着剤は、特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤等が挙げられる。インクジェット印刷用シートをウィンドウディスプレイの用途等に用いる場合には、耐候性等の観点からアクリル系粘着剤から形成された粘着剤層であってもよい。また、被着体から再剥離することが要求される場合には、ウレタン系粘着剤ら形成された粘着剤層であってもよい。
粘着剤層には、必要に応じて、紫外線吸収剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、シランカップリング剤、充填剤等のその他の成分が配合されていてもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
粘着剤層の厚さは、特に限定されないが、インクジェット印刷用シートを、粘着シートとして用いる際の取扱性の向上の観点から、好ましくは5μm~100μm、より好ましくは10μm~70μm、更に好ましくは15μm~50μmである。
【0064】
<剥離ライナー>
本発明のインクジェット印刷用シートは、剥離ライナーを有する。
本発明のインクジェット印刷用シートが有する粘着剤層の粘着表面が剥離ライナーで覆われていることで、インクジェット印刷用シートの搬送時や保管時において粘着剤層の粘着表面を好適に保護することができる。
【0065】
ここで、本発明のインクジェット印刷用シートにおいて、剥離ライナーは、シリコーン系剥離剤層を有する。当該剥離ライナーは、巻回体又は巻付体とされた際に、シリコーン成分が極僅かに剥離ライナー背面に移行することがある。したがって、上記積層構造を有するインクジェット印刷用シートを巻回体又は巻付体とした際に、剥離ライナー背面に極僅かに存在するシリコーン成分が、インク受理層に移行することがある。
剥離ライナー背面からインク受理層に移行したシリコーン成分は、インク受理層表面の部分的な表面自由エネルギーの乱れを引き起こす。その結果として、インク受理層面内におけるドット同士の干渉のばらつきが生じて、印刷むらが発生する。しかし、本発明によれば、インク受理層及びインク受理層形成用組成物に、シリコーン系レベリング剤を極僅かに積極的に配合することによって、インク受理層表面の部分的な表面自由エネルギーの乱れを抑制して、インク受理層表面の表面自由エネルギーを均一化し、インク受理層面内におけるドット同士の干渉のばらつきを抑制して、印刷むらを抑制することができる。
【0066】
剥離ライナーを構成するシリコーン系剥離剤層としては、剥離ライナーに一般的に用いられるものを特に制限なく用いることができる。
【0067】
剥離ライナーを構成する支持体としては、剥離ライナーに一般的に用いられるシート基材又は紙基材が挙げられる。
シート基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
紙基材としては、例えば、上質紙、クラフト紙、及びグラシン紙等の紙類が挙げられる。
【0068】
剥離ライナーの厚さは、特に限定されないが、好ましくは10μm~150μm、より好ましくは20μm~130μm、更に好ましくは30μm~120μmである。
【0069】
[インクジェット印刷用シートの製造方法]
本発明のインクジェット印刷用シートの製造方法としては、特に制限はなく、インクジェット印刷用シートの構成によって適宜選択される。
【0070】
インク受理層の形成方法としては、基材の一方の面に、インク受理層形成用組成物を塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥させた後、硬化させることが好ましい。
なお、基材への塗布の作業性を向上させるために、インク受理層形成用組成物は、更に希釈溶媒で希釈して、溶液の形態とすることが好ましい。
【0071】
希釈溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、トルエン、キシレン、n-プロパノール、及びイソプロパノール等の有機溶剤が挙げられる。
インク受理層形成用組成物の溶液の有効成分(固形分)濃度としては、好ましくは10質量~50質量%である。
【0072】
インク受理層形成用組成物の溶液の塗布方法としては、例えば、マイヤーバーコート法、グラビヤコート法、ロールコート法、ナイフコート法、ダイコート法等が挙げられる。
【0073】
塗膜を乾燥させる際の加熱条件としては、例えば、乾燥温度60℃~120℃、乾燥時間30秒間~3分間である。
【0074】
塗膜の硬化条件については、インク受理層の種類に応じて、適切な条件が適宜採用される。
例えば、インク受理層が架橋構造を有するインク受理層である場合、架橋条件は特に限定されないが、例えば、通常環境(例えば23℃、相対湿度50℃)に1日以上14日以下放置して架橋させてもよいし、40℃~60℃の環境下に1日~3日間放置して架橋させてもよい。また、乾燥工程と架橋工程を一括して行うようにしてもよい。
【0075】
本発明の一態様のインクジェット印刷用シートが有する粘着剤層は、インク受理層が形成されていない、基材の他方の面に形成される。
粘着剤層は、例えば、基材の他方の面に、粘着剤層を形成するための組成物(粘着剤層形成用組成物)を塗布することにより形成され、当該粘着剤層上に剥離ライナーが積層される。あるいは、剥離ライナーの剥離面(シリコーン系剥離剤層の表面)に粘着剤層形成用組成物を塗布して粘着剤層を形成し、これを基材の他方の面に貼り合わせるようにしてもよい。
粘着剤層形成用組成物の塗布方法は、インク受理層形成用組成物の塗布方法として既述したものと同じである。
【0076】
<インクジェット印刷用インク>
インクジェット印刷用インクとしては、紫外線硬化性インク、ラテックスインク、及び溶剤インク等が挙げられる。本発明のインクジェット印刷用シートは、これらのインクジェット印刷用インクの中でも、インク受理層への浸み込みが起こらないか又は起こり難い、紫外線硬化性インク又はラテックスインクを用いたインクジェット印刷において、印刷むらを抑えるために有効であり、ラテックスインクを用いたインクジェット印刷において、印刷むらを抑えるために特に有効である。
【0077】
<<紫外線硬化性インク>>
紫外線硬化性インクは、有機溶剤を実質的に含有せず、紫外線の照射により硬化するインクである。紫外線硬化性インクは、光重合性モノマーと、顔料又は染料である着色剤と、重合反応を開始させる光重合開始剤とを含有する。
本発明の一態様において、上記のようなアクリル系樹脂を含むインク受理層を用いる場合には、インク受理層と印刷部との密着性をより向上させる観点から、紫外線硬化性インクは、アクリル系モノマーを含有することが好ましい。
【0078】
(光重合性モノマー)
光重合性モノマーとしては、例えば、単官能アクリレート、二官能アクリレート、多官能アクリレート及びこれらの混合物を挙げることができる。なお、光重合性モノマーとしては、これら各種アクリレートを一つ又は複数組み合せたアクリルモノマーを用いてもよい。
単官能アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、フェノールEO変性(n=2)アクリレート、2-エチルヘキシルEO変性(n=2)アクリレート、2-ヒドロキシー3-フェノキシプロピルアクリレート、イソボルニルアクリレート(IBXA)、アクリロイルモルホリン(ACMO)等を挙げることができる。
二官能アクリレートとしては、例えば、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート(MANDA)、ビスフェノールA EO変性(n=4)ジアクリレート(A-BPE4)等を挙げることができる。
多官能アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、トリメチロールプロパンPO変性(n=3)トリアクリレート(TMPPOA)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)等を挙げることができる。
【0079】
(着色剤)
紫外線硬化性インクは、通常、着色剤を含んでいる。
着色剤としては、各種染料、各種顔料等を用いることができる。
【0080】
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、一般的に、紫外線(UV)照射により重合反応を開始させるものである。このような光重合開始剤としては、例えば、一剤又は複数の混合剤である光重合開始剤を用いてもよく、光重合開始剤と光増感剤とを組み合せたものを用いてもよい。例えば、励起波長の異なる複数の光重合開始剤を組み合せたものや、これに光増感剤を添加したものであってもよい。
【0081】
(その他成分)
その他成分として、例えば、各種の分散剤、安定剤、界面活性剤等の従来公知のものを必要に応じてさらに配合することができる。
【0082】
<<ラテックスインク>>
ラテックスインクは、液状の分散媒と、当該分散媒中に分散(乳濁および/または懸濁)している、少なくとも樹脂を含む材料で構成された分散質を含有する。
【0083】
(樹脂)
ラテックスインクに含まれる樹脂は、特に限定されないが、例えば、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アルキッド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等、およびこれらの変性樹脂(例えば、水溶性に変性された変性樹脂)等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の一態様のインクジェット印刷用シートにおいて用いられるラテックスインクは、上記のようなアクリル系樹脂を含むインク受理層を用いる場合には、インク受理層と印刷部との密着性をより向上させる観点から、アクリル系樹脂を含むラテックスインクであることが好ましい。
【0084】
(分散媒)
ラテックスインクは、分散媒として水を含む。
【0085】
(着色剤)
ラテックスインクは、通常、着色剤を含んでいる。
着色剤としては、各種染料、各種顔料等を用いることができる。
【0086】
(その他の成分)
ラテックスインクは、既述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
このような成分としては、例えば、分散剤、防黴剤、防錆剤、pH調整剤、界面活性剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。
【0087】
(印刷部の形成方法)
インクジェット印刷用インクによる印刷部は、インクジェット印刷用シートのインク受理層上に、インクジェット法によりインクジェット印刷用インクを付与することにより形成される。
インクジェットの方式としては、例えば、ピエゾ方式、サーマルジェット方式等が挙げられる。
インクジェット印刷用インクとして紫外線硬化性インクを付与する際の、紫外線硬化性インクへの紫外線照射量としては、特に限定されないが、好ましくは40J/m2~400J/m2である。
インクジェット印刷用インクとしてラテックスインクを付与する際の、ラテックスインクの加熱温度は、特に限定されないが、好ましくは40℃~90℃である。
以上の方法により、インクジェット印刷用シートのインク受理層上にインクジェット印刷用インクによる、印刷むらが抑制された印刷部を有する印刷物が得られる。
なお、本発明のインクジェット印刷用シートは、特にインク量を低下させたインクジェット印刷においても、印刷むらを抑えることができる。具体的には、インク量が10%超~70%(好ましくは15%~60%、より好ましくは20%~50%)の場合であっても、印刷むらのない印刷部を形成することができる。
【0088】
[インクジェット印刷用シートの用途等]
本発明のインクジェット印刷用シートは、インクジェット印刷用インクを使用した印刷に用いられる。
したがって、本発明によれば、前記インクジェット印刷用シートのインク受理層上に、インクジェット印刷用インクを用いて、印刷部を形成するために、前記インクジェット印刷用シートを使用する、使用方法が提供される。
また、本発明によれば、前記インクジェット印刷用シートのインク受理層上に、インクジェット印刷用インクを用いて、印刷部を形成する工程を含む、印刷物の製造方法が提供される。
さらに、本発明によれば、前記インクジェット印刷用シートのインク受理層上に、インクジェット印刷用インクによる印刷部を有する、印刷物が提供される。
【0089】
なお、本発明の一態様の使用方法、印刷物の製造方法、及び印刷物において、インクジェット印刷用インクは、紫外線硬化性インク、ラテックスインク、及び溶剤インク等が挙げられる。
ここで、本発明の一態様の使用方法、印刷物の製造方法、及び印刷物においては、紫外線硬化性インク又はラテックスインクを用いたインクジェット印刷を採用することが好ましい。本発明の使用方法、印刷物の製造方法、及び印刷物では、本発明の上記インクジェット印刷用シートを用いるため、これらのインクジェット印刷用インクの中でも、インク受理層への浸み込みが起こらないか又は起こり難い、紫外線硬化性インク又はラテックスインクを用いたインクジェット印刷においても、印刷むらを抑えることができるからである。
紫外線硬化性インク及びラテックスインクの中では、特にラテックスインクを好適に用いることができる。
【0090】
また、本発明の一態様の使用方法、印刷物の製造方法、及び印刷物において、インクジェット印刷の際のインク量は、好ましくは10%超~70%、より好ましくは15%~60%、更に好ましくは20%~50%である。
本発明の一態様の使用方法、印刷物の製造方法、及び印刷物によれば、上記インク量において、印刷むらが十分に抑制される。そのため、濃淡やグラデーション表現がある印刷を行う際に特に有用である。
【実施例
【0091】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[実施例I]
架橋性官能基を有するアクリル系樹脂(A)とシリコーン系レベリング剤とを含有するインク受理層を備えるインクジェット印刷用シートの評価を行った。
【0093】
<実施例I-1~I-10、比較例I-1~I-2>
実施例I-1~I-10、比較例I-1~I-2のインクジェット印刷用シートを以下の手順で作製した。
【0094】
(インク受理層形成用組成物の調製)
表1に示す組成を有するインク受理層形成用組成物I-1a~I-10a、I-1b~I-2bを調製した。
使用した原料の詳細を以下に示す。
・「樹脂」:架橋性官能基を有するアクリル系樹脂、水酸基価11.0mgKOH/g、酸価3.9mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)90℃
・「シリコーン系レベリング剤」:ダウ・東レ株式会社製、製品名「DOWSIL(登録商標) SH28 Paint Additive」、ポリエーテル変性シリコーンオイル
・「架橋剤」:イソシアヌレート化合物の一部変性品(上述したイソシアヌレート化合物とイソシアヌレート化合物の変性体とを含む架橋剤に相当。)
・「その他添加剤」:スズ系触媒
表1に示す組成を有するインク受理層形成用組成物I-1a~I-10a、I-1b~I-2bを、それぞれ希釈溶媒(酢酸エチル)で希釈し、有効成分濃度10質量%とした塗液とし、インクジェット印刷用シートの作製に供した。
【0095】
【表1】
【0096】
(インクジェット印刷用シートの作製)
基材として、易接着層付きポリエチレンテレフタレートシート(厚さ:50μm)を準備した。
また、ポリエチレンテレフタレートシートの片面にシリコーン系剥離剤層が設けられている剥離ライナー(厚さ:50μm)を準備した。
【0097】
次いで、インク受理層形成用組成物I-1a~I-10a、I-1b~I-2bの塗液を、前記基材の易接着層側に、マイヤーバーを用いて、乾燥後の膜厚が1μmとなるように塗布した。
次に、熱風乾燥装置を用いて、90℃、1分間の条件で加熱することにより、基材に塗布した塗液に含まれる溶剤を除去し、さらに23℃、相対湿度50%の環境下に7日間放置することにより、架橋させた。
次に、剥離ライナーのシリコーン系剥離剤層側に、アクリル系粘着剤を乾燥後の膜厚が20μmとなるように塗布し、熱風乾燥装置を用いて、90℃、1分間加熱し塗液に含まれる溶剤を除去し、アクリル系粘着剤層を形成した。
その後、剥離ライナー上に形成したアクリル系粘着剤層と前記基材のインク受理層とは反対の面とを貼り合わせ、インクジェット印刷用シートを得た。
【0098】
<XPSによるSi比率の測定>
インクジェット印刷用シートのインク受理層表面について、X線光電子分光分析法(XPS)によって測定されるケイ素原子(Si2p)、炭素原子(C1s)、窒素原子(N1s)、及び酸素原子(O1s)のカウント数に基づき、下記の式により算出されるSi比率(原子%)を算出した。
Si比率(原子%)=[(Si2pカウント数)/{(C1sカウント数)+(N1sカウント数)(O1sカウント数)+(Si2pカウント数)}]×100
なお、表2に示すSi比率は、インク受理層表面の任意の2点で測定した結果の平均値とした。
【0099】
<評価>
下記(1)~(3)に説明する評価を行った。
なお、当該評価を行うに際し、インクジェット印刷用シートの巻き回しによる剥離ライナー背面とインク受理層との接触を想定し、以下に説明する前処理を行った。すなわち、同一のインクジェット印刷用シートを2つ準備し、図2に示すように、一方のインクジェット印刷用シート1xのインク受理層2xの表面と、他方のインクジェット印刷用シート1yの剥離ライナー5yの背面とが接触するように積層し、温度70℃の環境下で、20kg/cmの圧力をかけた状態で、12時間静置した。
【0100】
(1)印刷むらの評価
インクジェット印刷用シートのインク受理層(A)の表面に、ラテックスインク(ヒューレット・パッカード社製、HP886、インクカラー:W)を用いて、インクジェット印刷機(ヒューレット・パッカード社製、HP Latex R2000)でインクジェット法により、印刷部(印刷層)を形成した。
ラテックスインクのインク量は30%とした。
印刷条件は、600dpi、17passとした。
印刷終了後、印刷面全体を目視で観察し、以下の基準で評価した。
・評価A:印刷面全体において、全く印刷むらが見られない。
・評価B:印刷面の一部において、極僅かに印刷むらが見られるものの、印刷品質として大きな問題はない。
・評価C:印刷面全体において、濃淡が目立ち、印刷むらが大きい。
【0101】
(2)インクはじきの評価
「(1)印刷むらの評価」と同様の装置及び条件で、インクジェット印刷用シートのインク受理層の表面に、印刷部(印刷層)を形成した。
印刷終了後、印刷面全体を目視で観察し、以下の基準で評価した。
・評価A:印刷面全体において、インク抜けが見られず、インクはじきが全く生じていない。
・評価B:極僅かにインク抜けが見られ、極僅かにインクはじきが生じている。
・評価C:明らかなインク抜けが見られ、インクはじきが生じている。
【0102】
(3)インク密着性の評価
インクジェット印刷用シートのインク受理層の表面に、ラテックスインク1(ヒューレット・パッカード社製、HP882、インクカラー:CMYK)、ラテックスインク2(ヒューレット・パッカード社製、HP886、インクカラー:W)を用いて、インクジェット印刷機(ヒューレット・パッカード社製、HP Latex R2000)で2層(下層(インク受理層側の層):ラテックスインク1で形成、上層:ラテックスインク2で形成)のベタ塗りのパターンを同時に印刷した。
印刷条件は、600dpi、31passとした。
次いで、セロハンテープ(ニチバン(株)製、セロテープ(登録商標)CT405AP)の粘着面を印刷面に指で貼り付け、セロハンテープの一端を指でつまんで一気に剥がし、インク剥がれが起こるか否かを検討し、インク剥がれが起こらなかった試料はインク密着性が良好であると判断し、「評価A」とした。また、インク剥がれが少しでも起こった試料はインク密着性が不良であると判断し、「評価C」とした。
【0103】
評価結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に示す結果から、樹脂100質量部に対するシリコーン系レベリング剤の含有量が0.005質量部以上0.30質量部未満であるインクジェット印刷用シートを用いた実施例I-1~I-10は、印刷むらが抑制され、インクはじきも抑制されており、しかもインク密着性も良好であることがわかる。特に、実施例I-3~I-10のように、樹脂100質量部に対するシリコーン系レベリング剤の含有量が0.02質量部以上であると、印刷むらが完全に抑制されていることがわかる。
これに対し、樹脂100質量部に対するシリコーン系レベリング剤の含有量が0質量部であるインクジェット印刷用シートを用いた比較例I-1は、印刷むらが発生することがわかる。
また、樹脂100質量部に対するシリコーン系レベリング剤の含有量が0.30質量部であるインクジェット印刷用シートを用いた比較例I-2は、インクはじきが発生し、インク密着性も不良になることがわかる。
【0106】
なお、実施例I-2と比較例I-1のSi比率(原子%)を比較すると、ほとんど大差がみられなかった。したがって、XPSの測定結果から算出されるSi比率において大差が見られないような、極微量のシリコーン系レベリング剤を含有することで、印刷むらを抑制できる効果が発揮されることがわかる。
【0107】
ここで、印刷むらが発生した比較例I-1について、印刷後のインクジェット印刷用シートの全体写真を、図面代用写真として図3に示す。また、図3に示す全体写真において、点線で囲まれた、印刷むらが発生した部位について、濃部と淡部の光学顕微鏡写真を、図面代用写真として図4に示す。
図4に示す濃部の顕微鏡写真では、インク受理層に対するドットの濡れ性の低下は特に見られず、インクのドット同士が適切に干渉している。これに対し、図4に示す淡部の顕微鏡写真では、インク受理層に対するドットの濡れ性の低下により、インクのドット同士の干渉が少なくなっている。印刷条件は印刷面全面で同一であるにもかかわらず、このような違いが生じているのは、インク受理層と剥離ライナー背面とが接触したときに、極微量のシリコーン成分がインク受理層表面に移行し、インク受理層表面の一部において表面自由エネルギーの変動が生じ、その結果として、インク受理層に対するドットの濡れ性が低下し、ドット同士の干渉が少なくなる領域が発生して、インク受理層面内においてドット同士の干渉ばらつきが生じ、当該領域が淡く視認される結果、印刷むらが生じるものと推察される。
【符号の説明】
【0108】
1 インクジェット印刷用シート
2 インク受理層
3 基材
4 粘着剤層
5 剥離ライナー
5a シリコーン系剥離剤層
5b 支持体

図1
図2
図3
図4