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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】摩耗量計測方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20241002BHJP
   G01B 11/16 20060101ALI20241002BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B23Q17/09 C
G01B11/16 Z
B23Q17/24 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023217079
(22)【出願日】2023-12-22
(62)【分割の表示】P 2019050732の分割
【原出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2024026482
(43)【公開日】2024-02-28
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 千恵
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 俊行
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-114694(JP,A)
【文献】実開昭61-020250(JP,U)
【文献】特開昭50-155250(JP,A)
【文献】特開平08-219999(JP,A)
【文献】特開昭52-129545(JP,A)
【文献】特開2012-013698(JP,A)
【文献】米国特許第05361308(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/09
B23Q 17/24
G01B 11/00-30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩耗面を有した被測定物に光源からの光を照射し、前記被測定物を撮像し、撮像によって得られた画像から、前記被測定物の前記摩耗面を特定して摩耗量を算出する摩耗量計測方法であって、
前記被測定物に対する前記光源の見込み角は、見込み角調整部を用いて減少させる調整が可能であり、
摩耗面を有したダミー被測定物を配置して、前記見込み角を最大値にし、前記ダミー被測定物の前記摩耗面が明るく撮像されるように、光の照射方向と撮像方向とを調整し、前記見込み角を次第に減少させながらその調整を繰り返し、前記見込み角の最小値まで減少させたらその調整を終了し、このときの光の照射方向と撮像方向を、前記ダミー被測定物の前記摩耗面に対して光の照射方向と撮像方向が正反射となる関係であると特定する正反射特定工程と、
前記正反射特定工程の後、光の照射方向と撮像方向は保持したまま、前記ダミー被測定物を前記被測定物に入れ替え、前記被測定物の位置と姿勢は前記ダミー被測定物と同様に設定し、前記見込み角を最大にして前記被測定物を撮像し、前記摩耗面を特定する摩耗面特定工程と、
を有する摩耗量計測方法。
【請求項2】
摩耗面を有した被測定物に光源からの光を照射し、前記被測定物を撮像し、撮像によって得られた画像から、前記被測定物の前記摩耗面を特定して摩耗量を算出する摩耗量計測方法であって、
前記被測定物に対する前記光源の見込み角は、見込み角調整部を用いて減少させる調整が可能であり、
摩耗面を有したダミー被測定物を配置して、前記見込み角を最大値にし、前記ダミー被測定物の前記摩耗面が明るく撮像されるように、光の照射方向と撮像方向とを調整し、前記見込み角を次第に減少させながらその調整を繰り返し、前記見込み角を最小値まで減少させたらその調整を終了し、このときの光の照射方向と撮像方向を、前記ダミー被測定物の前記摩耗面に対して光の照射方向と撮像方向が正反射となる関係であると特定する正反射特定工程と、
前記正反射特定工程の後、光の照射方向と撮像方向は保持したまま、前記ダミー被測定物を前記被測定物に入れ替え、前記被測定物の位置と姿勢は前記ダミー被測定物と同様に設定し、前記被測定物を撮像して仮摩耗面を特定し、前記見込み角を次第に大きくしながら前記被測定物を撮像して前記仮摩耗面の変化を算出し、前記仮摩耗面が一定となったときの前記仮摩耗面を前記摩耗面として特定する摩耗面特定工程と、
を有する摩耗量計測方法。
【請求項3】
前記見込み角調整部は、前記光源の発光面よりも直径の小さな開口を有する円筒である、請求項1または請求項2に記載の摩耗量計測方法。
【請求項4】
前記見込み角の最大値は、5°以上15°以下である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の摩耗量計測方法。
【請求項5】
前記見込み角の最小値は、2°以下である、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の摩耗量計測方法。
【請求項6】
前記被測定物の前記摩耗面内の輝度分布から、前記被測定物の前記摩耗面の表面状態を計測する工程をさらに有する、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の摩耗量計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗量計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
研削工具などの刃先の摩耗量を計測する方法として、刃先を撮像し、その画像データを解析することにより摩耗量を算出する方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、カメラを刃先に対して正対する位置に配置し、同軸落射方式や小型リングライトにより刃先の照明を行い、この状態で刃先を撮像し、撮像した画像データから摩耗量を計測することが記載されている。また、摩耗量の計測は、画像データを2値化、または多値化して切れ刃の逃げ面の摩耗幅を求めることにより行うと記載されている。
【0004】
特許文献2には、工具の刃先を撮像した画像から、摩耗量を計測する際の基準となる刃先部輪郭線を抽出する方法が記載されている。具体的には以下のようにして抽出している。まず、工具の刃先を撮像した画像から、刃先方向に交差する3本以上の取り出し線を抽出する。次に、その取り出し線上の線画素データを微分して工具刃先部と背景部との境界候補点を求め、各境界候補点の組み合わせから最も直線上にある点の組み合わせを選択し、刃先部のガイド直線とする。次に、工具の刃先を撮像した画像の微分画像を求める。微分方向は刃先方向である。つぎに、ガイド直線付近において、微分画像の微分値の大きな画素を抽出し、その画素を結ぶことで、刃先部輪郭線を抽出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-257876号公報
【文献】特開平11-351835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、摩耗面が正常面よりも暗く写り、摩耗面のみを選択的に検出することは困難である。そのため、特許文献1の方法では摩耗量を自動計測することは容易でない。
【0007】
また、特許文献2において摩耗量を自動計測したい場合、工具刃先の画像において摩耗面が正常面よりもわずかに暗く写ることから、それにより摩耗量を検出することが考えられる。しかし、摩耗面と正常面との境界が明確でなく、摩耗量を計測するための基準となる刃先部輪郭線が必ずしも見つかるとは限らない。そのため、摩耗量を精度よく検出することが困難である。
【0008】
そこで本発明の目的は、工具の刃先の摩耗量を精度よく自動計測可能な摩耗量計測装置および摩耗量計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
摩耗面を有した被測定物に光源からの光を照射し、前記被測定物を撮像し、撮像によって得られた画像から、前記被測定物の前記摩耗面を特定して摩耗量を算出する摩耗量計測方法であって、
前記被測定物に対する前記光源の見込み角は、見込み角調整部を用いて減少させる調整が可能であり、
摩耗面を有したダミー被測定物を配置して、前記見込み角を最大値にし、前記ダミー被測定物の前記摩耗面が明るく撮像されるように、光の照射方向と撮像方向とを調整し、前記見込み角を次第に減少させながらその調整を繰り返し、前記見込み角の最小値まで減少させたらその調整を終了し、このときの光の照射方向と撮像方向を、前記ダミー被測定物の前記摩耗面に対して光の照射方向と撮像方向が正反射となる関係であると特定する正反射特定工程と、
前記正反射位置特定工程の後、光の照射方向と撮像方向は保持したまま、前記ダミー被測定物を前記被測定物に入れ替え、前記被測定物の位置と姿勢は前記ダミー被測定物と同様に設定し、前記見込み角を最大にして前記被測定物を撮像し、前記摩耗面を特定する摩耗面特定工程と、
を有する摩耗量計測方法にある。
【0010】
本発明の他態様は、
摩耗面を有した被測定物に光源からの光を照射し、前記被測定物を撮像し、撮像によって得られた画像から、前記被測定物の前記摩耗面を特定して摩耗量を算出する摩耗量計測方法であって、
前記被測定物に対する前記光源の見込み角は、見込み角調整部を用いて減少させる調整が可能であり、
摩耗面を有したダミー被測定物を配置して、前記見込み角を最大値にし、前記ダミー被測定物の前記摩耗面が明るく撮像されるように、光の照射方向と撮像方向とを調整し、前記見込み角を次第に減少させながらその調整を繰り返し、前記見込み角を最小値まで減少させたらその調整を終了し、このときの光の照射方向と撮像方向を、前記ダミー被測定物の前記摩耗面に対して光の照射方向と撮像方向が正反射となる関係であると特定する正反射特定工程と、
前記正反射位置特定工程の後、光の照射方向と撮像方向は保持したまま、前記ダミー被測定物を前記被測定物に入れ替え、前記被測定物の位置と姿勢は前記ダミー被測定物と同様に設定し、前記被測定物を撮像して仮摩耗面を特定し、前記見込み角を次第に大きくしながら前記被測定物を撮像して前記仮摩耗面の変化を算出し、前記仮摩耗面が一定となったときの前記仮摩耗面を前記摩耗面として特定する摩耗面特定工程と、
を有する摩耗量計測方法にある。
【0011】
見込み角調整部は、光源の発光面よりも直径の小さな開口を有する円筒であってもよい。
【0012】
見込み角の最大値は、5°以上15°以下であってもよい。
【0013】
見込み角の最小値は、2°以下であってもよい。
【0014】
摩耗面内の輝度分布から摩耗面の表面状態を計測する工程をさらに有していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被測定物の摩耗面を精度よく特定して摩耗量を自動計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の摩耗量計測装置の構成を示した図。
図2】見込み角調整部6の構成を示した図。
図3】光源1、カメラ2、ダミー工具7の配置関係を示した図。
図4】摩耗した工具4の一例を示した図。
図5】摩耗したエンドミルの刃先を撮像した写真。
図6】実施例2の摩耗量計測装置の構成を示した図。
図7】摩耗したホブカッターの刃先を撮像した際の摩耗面近傍の状態を模式的に示した図。
図8】見込み角の定義を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限るものではない。
【実施例1】
【0018】
図1は、実施例1の摩耗量計測装置の構成を示した図である。実施例1の摩耗量計測装置は、工具4の刃先の摩耗量を計測する装置である。図1のように、実施例1の摩耗量計測装置は、光源1と、カメラ2と、演算部3と、を有している。光源1は本発明の光照射部に相当し、カメラ2は本発明の撮像部に相当する。また、被測定物である工具4は、ステージ5上に配置され、回転、直動可能に工具4を支持している。ステージ5により工具4の位置、姿勢(角度)を調整することで、工具4の刃先に光源1からの光が当たるように調整している。
【0019】
図4は、工具4の刃先が摩耗した状態を示した一例である。図4のように、刃先の摩耗によって摩耗面4aが生じている。図4において、点線は摩耗前の刃先稜線を示している。摩耗面4aは、刃先を構成する他の面、たとえば逃げ面やすくい面とは異なる角度を有している。実施例1の摩耗量計測装置では、この摩耗面4aの範囲を画像処理によって特定することで摩耗量を算出する。なお、本明細書に言う摩耗は、工具4の刃先がすり減ることにより生じるものだけでなく、チッピング(欠け)や変形などにより生じるものも含むこととし、元の形状とは異なる形状となった状態を意味するものとする。
【0020】
光源1は、工具4の刃先に光を照射する装置である。光源1の光の波長は、工具4により反射され、かつ、カメラ2により撮像可能な波長帯であれば任意である。また、光源1の光は、発光面8が適度な大きさを持つものを用いる。たとえば、光源1の見込み角が5°以上15°以下の光源を用いる。見込み角がこの範囲であれば、工具4の摩耗量の計測をより精度よく行うことができる。ここで工具4に対する光源1の見込み角は、図8のように、光源1の発光面8の中心軸をL1、L1と工具4の交点をP、発光面8の端部と点Pとを結ぶ直線をL2として、L1とL2の成す角度として定義する。後述のダミー工具7に対する光源1の見込み角も同様に定義する。
【0021】
光源1の光放射側近傍には、見込み角調整部6が設けられている。見込み角調整部6は、光源1から放射される光の工具4およびダミー工具7に対する見込み角を減少させる制御を行う装置である。見込み角調整部6は、後述の光源1、カメラ2、および工具4の位置関係の調整に用いるものである。
【0022】
見込み角調整部6は、たとえば図2のように、発光面より直径の小さな開口部を持つ円筒11を用い、光源1の突出部を円筒11により覆うことにより、見込み角を調整する装置である。また、見込み角調整部6は、絞りであってもよい。
【0023】
見込み角調整部6によって光源1の見込み角の最小値を2°以下に設定可能とすることが好ましい。後述の光源1、カメラ2、および工具4の位置関係の調整が容易となる。
【0024】
カメラ2は、工具4の刃先からの反射光をレンズによって集光した後、CCDなどの撮像素子を用いて撮像し、デジタル画像データを取得する装置である。
【0025】
光源1、カメラ2、および工具4の位置関係は、工具4に替えてダミー工具7を配置した際に、ダミー工具7の摩耗面7aに対して、光源1とカメラ2の配置が正反射の関係となるように設定されている(図3参照)。つまり、光源1とカメラ2は、摩耗面7aに対して光源1からの光の照射方向が成す角と、摩耗面7aに対してカメラ2の撮像方向が成す角とが等しくなるように配置されている。ここでダミー工具7は、工具4と同一種の工具を実際に使用するなどの方法によって刃先を摩耗させた工具であり、摩耗面7aの位置、範囲、角度が既知のものである。摩耗面7aは、刃先の摩耗により生じた面であり、刃先を構成する他の面(たとえばすくい面や逃げ面)とは異なる角度を有した面である。
【0026】
なお、ダミー工具7の摩耗面7aに対して、光源1とカメラ2の配置が厳密に正反射の関係である必要はなく、工具4の摩耗面4aを十分に精度よく特定できる範囲であれば正反射の関係からの多少のずれは許容される。たとえば、摩耗面7aに対して光源1からの光の放射方向が成す角をθ1、摩耗面7aに対してカメラ2の受光方向が成す角をθ2として、0.9≦(θ2/θ1)≦1.1であってもよい。
【0027】
また、ダミー工具7の摩耗面7aに角度のばらつきがある場合、ダミー工具7の摩耗面7aに対して光源1とカメラ2の配置が正反射となる関係は、一意には決められない。このような場合には、摩耗面7aのうち一部領域について正反射となる関係であればよい。特に、正反射となる領域がなるべく広くなるように設定するとよい。
【0028】
光源1、カメラ2、およびダミー工具7の位置関係が上記のように設定されているため、光源1、カメラ2、および工具4の位置関係については、工具4の摩耗面4aに対して、光源1とカメラ2の配置が正反射の関係か、それに近い関係に設定される。たとえば、ダミー工具7の摩耗面7aに対して、光源1とカメラ2の配置が正反射の関係となるように設定されている場合の摩耗面7aの光強度に対して、工具4の摩耗面4aからの光強度が90%以上となるように、光源1、カメラ2、および工具4の位置関係が設定されている。
【0029】
演算部3は、カメラ2に接続されており、カメラ2により撮像した工具4の刃先のデジタル画像データが演算部3に入力される。演算部3は、その画像データから摩耗量を算出する装置である。演算部3は、たとえばコンピュータにインストールされたアプリケーションプログラムにより実現される。摩耗量は、たとえば、摩耗前の刃先稜線に直交する方向における摩耗面の幅の最大値として定義する。あるいは、摩耗により減少した体積や質量を摩耗量と定義してもよい。
【0030】
次に、実施例1の摩耗量計測装置を用いた工具4の刃先の摩耗量の算出方法について説明する。
【0031】
工具4の摩耗量計測の事前準備として、工具4に替えてダミー工具7をステージ5に配置し、光源1の配置を調整する。まず、カメラ2の位置、姿勢を固定し、ダミー工具7の位置、姿勢をステージ5により調整して、カメラ2の受光方向にダミー工具7の刃先が位置するように調整する。後工程における工具4の刃先稜線の推定が容易となるように、刃先稜線を含む面(たとえばすくい面)とカメラ2の受光方向が平行となるように、カメラ2の姿勢を固定するとよい。次に、光源1の光をダミー工具7の刃先に照射する。光源1の光の見込み角は、最大にしておく。つまり、見込み角調整部6による見込み角の調整をしない状態とする。そして、カメラ2によってダミー工具7の刃先を撮像する。ここで、ダミー工具7の刃先の摩耗面7aが刃先を構成する他の面よりも明るくなるように、光源1の位置や姿勢を大まかに決める。
【0032】
次に、見込み角調整部6によって光源1の光の見込み角を少し小さくする。そして、カメラ2によってダミー工具7の刃先を撮像する。ダミー工具7の刃先の摩耗面が他の面よりも明るくなるように、光源1の位置や姿勢を再度調整する。
【0033】
光源1の光の見込み角を見込み角調整部6によって次第に小さくしていきながら、上記の光源1の位置、姿勢の調整を繰り返し、最終的には光源1の見込み角を見込み角調整部6によって最も小さくした状態で光源1の位置、姿勢を調整する。これにより、ダミー工具7の摩耗面7aに対する光源1とカメラ2の配置関係が、ダミー工具7の摩耗面7aに対して正反射の関係となるように、容易に設定することができる。
【0034】
なお、実施例1では、カメラ2の位置、姿勢は固定し、光源1の位置、姿勢のみを調整しているが、逆に光源1の位置、角度を固定し、カメラ2の位置、角度のみを調整してもよい。また、光源1とカメラ2の両方の位置、角度を調整してもよい。
【0035】
また、必ずしも上記のように見込み角調整部6を用いて光源1、カメラ2、およびダミー工具7の配置関係を調整する必要はなく、ダミー工具7の摩耗面7aに対する光源1とカメラ2の配置関係が、ダミー工具7の摩耗面7aに対して正反射の関係となるのであれば、任意の方法で配置関係を調整してよい。
【0036】
次に、ダミー工具7をステージ5から取り外し、実際に摩耗量を計測する工具4をステージ5に配置する。このとき、工具4の位置、姿勢をダミー工具7と同様に設定する。また、光源1、カメラ2の位置、姿勢は変更しない。そのため、光源1とカメラ2の配置関係は、工具4の摩耗面4aに対しても正反射の関係、あるいはそれに近い関係となっている。
【0037】
光源1の見込み角は、見込み角調整部6によって適宜調整する。通常、工具4の摩耗面4aには角度のばらつきがあり、光源1の見込み角を最小とした状態では摩耗面4aの範囲を実際の範囲よりも狭く算出してしまい、摩耗面4aの範囲を十分に特定できないおそれがある。そのような場合に、見込み角調整部6によって光源1の見込み角を適宜調整することで、摩耗面4aの範囲を十分に特定可能となる。見込み角調整部6による見込み角の制御を行わずに最大の見込み角(光源1自体の見込み角)としてもよい。
【0038】
次に、工具4の刃先をカメラ2によって撮像し、その画像データを演算部3で画像処理することにより摩耗面4aを算出する。
【0039】
ここで、光源1、カメラ2、およびダミー工具7の位置関係が、ダミー工具7の摩耗面7aに対して光源1とカメラ2の配置が正反射の関係となるように設定されていたため、光源1、カメラ2、および工具4の位置関係についても、工具4の摩耗面4aに対して光源1とカメラ2の配置が正反射かそれに近い関係となっている。
【0040】
そのため、光源1からの光の大部分は工具4の摩耗面4aにより反射されてカメラ2に入射し、工具4の摩耗面4aは明るく撮像される。一方、工具4の刃先を構成する他の面(摩耗していない面、たとえばすくい面や逃げ面)により反射された光は、カメラ2に入射せず、他の面は暗く撮像される。よって、工具4の摩耗面4aは他の面に比べて十分に明るく撮像される。
【0041】
したがって、平易な画像処理によって画像データ上の明るさの違いを抽出することで工具4の摩耗面4aを特定することができ、摩耗量を自動計測することができる。
【0042】
たとえば、微分などの画像処理によって明るさの違いの境界線を抽出することで摩耗面4aの境界線を特定することができ、これにより摩耗面4aを特定することができる。そして、直線によるフィッティングによって摩耗前の刃先稜線を推定し、刃先稜線に直交する方向における摩耗面4aの幅の最大値として、摩耗量を算出することができる。また、摩耗面4a内の輝度分布などを計測することで、摩耗面4aの表面状態を計測することも可能である。
【0043】
なお、光源1の見込み角を見込み角調整部6によって小さくしている場合、摩耗面4aの角度ばらつきによって摩耗面4aの範囲が実際の範囲よりも小さく特定されてしまう場合がある。そこで、見込み角調整部6により光源1の見込み角を次第に大きくして摩耗面4aの範囲の変化を算出し、摩耗面4aの変化が一定となったときの摩耗面4aを工具4の実際の摩耗面4aの範囲として特定してもよい。
【0044】
以上、実施例1の摩耗量計測装置によれば、工具4の刃先の摩耗により生じた摩耗面4aを、他の面よりも明るくなるように撮像することができ、平易な画像処理によって摩耗面4aを特定することができる。よって、工具4の摩耗量を精度よく簡易に自動計測することができる。
【0045】
次に、実施例1の摩耗量計測装置を用いて工具4の摩耗部分を撮像した結果を説明する。工具4、ダミー工具7はエンドミルとした。
【0046】
図5は、摩耗した工具4の摩耗面4aを撮像した写真である。図5(a)は、実施例1の摩耗量計測装置を用い、光源1、カメラ2、ダミー工具7を正反射の配置として工具4の摩耗面4aを撮像した場合、図5(b)は、光源1、カメラ2、ダミー工具7を正反射ではない配置として工具4の摩耗面4aを撮像した場合である。
【0047】
図5(a)のように、工具4の摩耗面4aに対して光源1、カメラ2が正反射あるいは正反射に近い位置関係にあるため、摩耗面4aが刃先を構成する他の面に比べて明るく撮像されていた。そのため、平易な画像処理によって摩耗面4aの範囲を特定することができ、摩耗量の自動計測を実現可能である。
【0048】
一方、図5(b)は、工具4の摩耗面4aに対して光源1とカメラ2の配置が正反射でないため、刃先を構成する他の面が摩耗面4aよりも明るく撮像されており、摩耗面4aを特定することが困難であった。
【実施例2】
【0049】
図6は、実施例2の摩耗量計測装置の構成を示した図である。実施例2の摩耗量計測装置は、図6のように、実施例1の摩耗量計測装置における光源1を2つ設けたものであり、2つの光源それぞれの光照射側近傍に見込み角調整部6を設けたものである。他の構成は実施例1の摩耗量計測装置と同様である。以下、2つの光源1を光源1A、1Bとする。
【0050】
光源1A、1B、カメラ2、工具4の配置関係は、光源1A、1Bそれぞれについて、実施例1と同様の関係となるように設定されている。つまり、光源1A、カメラ2、工具4の配置関係は、工具4に替えてダミー工具7を配置した際に、ダミー工具7の摩耗面7aに対して、光源1Aとカメラ2の配置が正反射の関係となるように設定されている。また、光源1B、カメラ2、工具4の配置関係は、工具4に替えてダミー工具7を配置した際に、ダミー工具7の摩耗面7aに対して、光源1Aとカメラ2の配置が正反射の関係となるように設定されている。さらに、ダミー工具7の摩耗面7aに対する光源1Aからの光の入射角と、光源1Bからの光の入射角とが異なるように配置されている。あるいは入射面が異なるように配置されていてもよい。
【0051】
実施例2の摩耗量計測装置によれば、実施例1の摩耗量計測装置と同様に、平易な画像処理によって工具4の摩耗面4aを特定することができ、工具4の摩耗量を精度よく簡易に自動計測することができる。さらに、ダミー工具7の摩耗面7aに対する光源1Aからの光の入射角と、光源1Bからの光の入射角とが異なるため、工具4の摩耗面4aが角度の異なる複数の面で構成されている場合でも、摩耗面4aの範囲を精度よく測定することができる。
【0052】
なお、実施例2の摩耗量計測装置では光源1の数を2つとしているが、3つ以上としてもよい。この場合、ダミー工具7の摩耗面7aに対する各光源1からの光の入射角が互いに異なるように配置されていればよい。ただし、光源1の数をあまり多くすると工具4の摩耗面4aを他の面よりも十分に明るく撮像することが難しくなるおそれがある。そのため、光源1の数は3以下が好ましい。
【0053】
次に、実施例2の摩耗量計測装置を用いて工具4の摩耗部分を撮像した結果を説明する。工具4、ダミー工具7はホブカッターとした。
【0054】
図7は、摩耗した工具4の摩耗面4aを撮像した際の摩耗面4a近傍の状態を模式的に示した図である。図7(a)は、実施例2の摩耗量計測装置を用い、2つの光源1のうち左側の光源1から光を照射し、右側の光源1からは光を照射せずに撮像した場合の模式図である。図7(b)は、図7(a)とは逆に、右側の光源1から光を照射し、左側の光源1からは光を照射せずに撮像した場合の模式図である。図7(c)は、2つの光源1の両方から光を照射して撮像した場合の模式図である。図7 (d)は、2つの光源1に替えて、同軸リング照明を用いて光を照射し撮像した場合の模式図である。
【0055】
図7(a)のように、左側の光源1からの光のみを照射した場合、工具4の摩耗面4aのうち左側の領域は他の面よりも明るく撮像されているが、工具4の摩耗面4aのうち右側の領域は暗く、摩耗面4aを精度よく特定できないことがわかった。
【0056】
また、図7(b)のように、右側の光源1からの光のみを照射した場合、工具4の摩耗面4aのうち右側の領域は他の面よりも明るく撮像されているが、工具4の摩耗面4aのうち左側の領域は暗く、摩耗面4aを精度よく特定できないことがわかった。
【0057】
また、図7(c)のように、左右両方の光源1から光を照射した場合、摩耗面4aの全域が明るく撮像されており、刃先の他の面は暗く撮像されていた。そのため、平易な画像処理によって摩耗面4a全域を精度よく特定することができ、摩耗量の自動計測を実現可能である。
【0058】
また、図7(d)のように、同軸リング照明を用いた場合は工具4の摩耗面4aは暗く撮像され、前逃げ面が明るく撮像されていた。そのため、摩耗面4aを特定することは困難であった。これは、光源として同軸リング照明を用いた場合、工具4の摩耗面4aに対して、光源とカメラ2の配置が正反射の関係とならないためである。
【0059】
なお、実施例では、被測定物は工具としているが、任意の工具でよく、たとえば、旋削加工、ギヤスカイビング加工、面取り加工、穴あけ加工を行う工具などの摩耗量を計測するために本発明を利用できる。また、本発明は工具の磨耗量の計測に限らず、摩耗する任意の物の摩耗量を計測することができる。たとえば金型の摩耗量などを測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の摩耗量計測装置は、工具の摩耗量の予測や、工具の取り替え時期の判断、工具の摩耗面の表面状態の観察などに利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1:光源
2:カメラ
3:演算部
4:工具
5:ステージ
6:見込み角調整部
7:ダミー工具
図1
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図8