(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/30 20060101AFI20241002BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20241002BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20241002BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20241002BHJP
【FI】
H01M10/30 Z
H01M50/434
H01M12/08 K
H01M50/446
(21)【出願番号】P 2023508457
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043179
(87)【国際公開番号】W WO2022201638
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2021054418
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴士
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/049901(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/049902(WO,A1)
【文献】特開平6-96796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/04
H01M10/06-10/34
H01M 4/00- 4/62
H01M12/00-16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極板、
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質を含む負極板と、
前記正極板及び前記負極板を水酸化物イオン伝導可能に隔離する水酸化物イオン伝導セパレータと、
電解液と、
を含む単位セルを備えた、亜鉛二次電池であって、前記亜鉛二次電池に対して充放電サイクル試験を以下の条件:
‐ 電流密度:12.5mA/cm
2
‐ 温度:25℃
‐ 充放電レート:0.5C
‐ 放電深度(DOD):70%
‐ 充電:定電流(CC)充電(カットオフ電圧1.9V)及びそれに続く定電圧(CV)充電
‐ 放電:定電流(CC)放電(カットオフ電圧1.4V)
‐ 充放電切り替え時の休止時間:5分
‐ サイクル数:40回以上
で行った場合に、
サイクル数が割り当てられたx軸、及びサイクル数に応じた前記負極板の残存面積率(%)が割り当てられたy軸からなる座標系において、前記充放電サイクル試験の結果が、
y≧-
0.05x+100、及び
y≦-
0.03x+100
を満たす領域の範囲内に入る、亜鉛二次電池。
【請求項2】
前記水酸化物イオン伝導セパレータが、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物を含むLDHセパレータである、請求項
1に記載の亜鉛二次電池。
【請求項3】
前記LDHセパレータが、多孔質基材を更に含み、前記LDH及び/又はLDH様化合物が前記多孔質基材の孔に充填された形態で前記多孔質基材と複合化されている、請求項
2に記載の亜鉛二次電池。
【請求項4】
前記多孔質基材が高分子材料製である、請求項
3に記載の亜鉛二次電池。
【請求項5】
前記正極板が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより前記亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなす、請求項1~
4のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項6】
前記正極板が空気極であり、それにより前記亜鉛二次電池が空気亜鉛二次電池をなす、請求項1~
5のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項7】
前記単位セルを複数個有し、それにより複数個の前記単位セルが全体として多層セルをなしている、請求項1~
6のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている(例えば、特許文献1(国際公開第2016/076047号)、特許文献2(国際公開第2019/124270号)参照)。また、LDHとは呼べないもののそれに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物としてLDH様化合物が知られており、LDHとともに水酸化物イオン伝導層状化合物と総称できる程に類似した水酸化物イオン伝導特性を呈する。例えば、特許文献3(国際公開第2020/255856号)には、多孔質基材と、前記多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)様化合物とを含む、水酸化物イオン伝導セパレータが開示されている。
【0004】
ところで、亜鉛二次電池の短寿命化を招く別の要因として、負極活物質である亜鉛の形態変化(シェイプチェンジ)が挙げられる。すなわち、充放電の繰り返しにより亜鉛が溶解及び析出を繰り返すにつれて、負極が形態変化して、気孔の閉塞による高抵抗化、孤立亜鉛の蓄積による充電活物質の減少等を生じ、その結果、充放電が困難になるとの問題がある。この問題に対処すべく、特許文献4(国際公開第2020/049902号)には、ZnO粒子と、(i)所定粒径の金属Zn粒子、(ii)所定の金属元素及び(iii)ヒドロキシル基を有するバインダー樹脂から選択される少なくとも2つとを組み合わせて負極に用いることが提案されている。この負極によれば、亜鉛二次電池において、充放電の繰り返しに伴う負極の劣化を抑制して耐久性を向上し、それによりサイクル寿命を長くすることができるとされている。
【0005】
また、特許文献5(特許第6190101号公報)には、金属Zn、ZnO等の負極活物質と、芳香族基含有ポリマー、エーテル基含有ポリマー、水酸基含有ポリマー等のポリマーと、導電助剤とを含む、負極合材が開示されており、電極活物質のシェイプチェンジやデンドライトといった電極活物質の形態変化、溶解、腐食や不動態形成を抑制したうえで、高いサイクル特性、レート特性、クーロン効率等の電池性能を発現する蓄電池の形成に適することが記載されている。
【0006】
さらに、特許文献6(国際公開第2020/049901号)には、電解液が、Znと錯形成可能なタンパク質並びに/又はその誘導体及び/若しくは分解物、又はZnと錯形成可能なポリフェノール並びに/又はその誘導体及び/若しくは分解物をさらに含む亜鉛二次電池が開示されており、そのような物質の好ましい例として、カゼイン、ロイシン、及びタンニン酸が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/076047号
【文献】国際公開第2019/124270号
【文献】国際公開第2020/255856号
【文献】国際公開第2020/049902号
【文献】特許第6190101号公報
【文献】国際公開第2020/049901号
【発明の概要】
【0008】
しかしながら、既存の亜鉛二次電池の充放電サイクル性能は必ずしも十分なものとはいえず、充放電サイクル性能の更なる改善が求められている。
【0009】
本発明者らは、今般、サイクル数が割り当てられたx軸、及びサイクル数に応じた負極板の残存面積率(%)が割り当てられたy軸からなる座標系において、所定の充放電サイクル試験の結果が、y≧-0.10x+100及びy≦-0.01x+100を満たす領域の範囲内に収まるように亜鉛二次電池を構成することで、充放電サイクル性能が改善するとの知見を得た。
【0010】
したがって、本発明の目的は、改善した充放電サイクル性能を呈する亜鉛二次電池を提供することにある。
【0011】
本発明の一態様によれば、
正極活物質を含む正極板、
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質を含む負極板と、
前記正極板及び前記負極板を水酸化物イオン伝導可能に隔離する水酸化物イオン伝導セパレータと、
電解液と、
を含む単位セルを備えた、亜鉛二次電池であって、前記亜鉛二次電池に対して充放電サイクル試験を以下の条件:
‐ 電流密度:12.5mA/cm2
‐ 温度:25℃
‐ 充放電レート:0.5C
‐ 放電深度(DOD):70%
‐ 充電:定電流(CC)充電(カットオフ電圧1.9V)及びそれに続く定電圧(CV)充電
‐ 放電:定電流(CC)放電(カットオフ電圧1.4V)
‐ 充放電切り替え時の休止時間:5分
‐ サイクル数:40回以上
で行った場合に、
サイクル数が割り当てられたx軸、及びサイクル数に応じた前記負極板の残存面積率(%)が割り当てられたy軸からなる座標系において、前記充放電サイクル試験の結果が、
y≧-0.10x+100、及び
y≦-0.01x+100
を満たす領域の範囲内に入る、亜鉛二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明によるニッケル亜鉛二次電池の一例を示す模式断面図である。
【
図2】
図1に示されるニッケル亜鉛二次電池のA-A’線断面の一例を模式的に示す図である。
【
図3】例1~85において得られた、各サイクル数における負極の残留面積率をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
亜鉛二次電池
本発明の亜鉛二次電池は、亜鉛を負極として用い、かつ、アルカリ電解液(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)を用いた二次電池であれば特に限定されない。したがって、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池、その他各種のアルカリ亜鉛二次電池であることができる。例えば、正極板が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなすのが好ましい。あるいは、正極板が空気極層であり、それにより亜鉛二次電池が空気亜鉛二次電池をなしてもよい。
【0014】
図1及び2に本発明による亜鉛二次電池の一態様を示す。
図1及び2に示される亜鉛二次電池10は、電池要素11を密閉容器20中に備えたものであり、電池要素11は、正極板12と、負極板14と、水酸化物イオン伝導セパレータ16と、電解液18とを含む単位セル10aを備える。正極板12は、正極活物質を含む。負極板14は、負極活物質を含み、負極活物質は、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質を含む。水酸化物イオン伝導セパレータ16は、正極板12及び負極板14を水酸化物イオン伝導可能に隔離する。そして、この亜鉛二次電池10は、亜鉛二次電池10に対して充放電サイクル試験を以下の条件:
‐ 電流密度:12.5mA/cm
2
‐ 温度:25℃
‐ 充放電レート:0.5C
‐ 放電深度(DOD):70%
‐ 充電:定電流(CC)充電(カットオフ電圧1.9V)及びそれに続く定電圧(CV)充電
‐ 放電:定電流(CC)放電(カットオフ電圧1.4V)
‐ 充放電切り替え時の休止時間:5分
‐ サイクル数:40回以上
で行った場合に、サイクル数が割り当てられたx軸、及びサイクル数に応じた負極板の残存面積率(%)が割り当てられたy軸からなる座標系において、充放電サイクル試験の結果が、y≧-0.10x+100及びy≦-0.01x+100を満たす領域の範囲内に入るものである。
【0015】
このように、上記領域の範囲内に収まるように亜鉛二次電池を構成することで、充放電サイクル性能が改善する。かかるパラメータないし指標を用いることで、充放電サイクル性能に優れた亜鉛二次電池を好都合に見極めることができる。例えば、本発明によれば、所望の仕様の亜鉛二次電池を構成するにあたり、上記領域の範囲内を満たすか否かを(例えば40回、100回、150回、200回といったような)比較的少ない回数での充放電サイクル試験で確認するだけで、当該亜鉛二次電池のサイクル性能のサイクル寿命等の長期的性能を比較的正確に予測することができる。
【0016】
y≧-0.10x+100は上記領域の下限を規定する式であるが、より好ましくはy≧-0.09x+100であり、さらに好ましくはy≧-0.05x+100である。一方、y≦-0.01x+100は上記領域の上限を規定する式であるが、好ましい上限はy≦-0.02x+100であり、より好ましくはy≦-0.03x+100である。すなわち、好ましい領域はy≧-0.09x+100及びy≦-0.02x+100を満たす領域であり、より好ましくはy≧-0.05x+100及びy≦-0.03x+100を満たす領域である。これらの好ましい領域においては、より一層改善した充放電サイクル性能を呈する亜鉛二次電池を提供することができる。なお、上記領域は(サイクル回数40回以上の条件があるため)x≧40を満たすのはいうまでもないが、上限は特に限定されない。もっとも、上記範囲は、典型的にはx≦1200、x≦1000、x≦800、x≦600、x≦400、x≦200、x≦150、又はx≦100を満たす範囲である。
【0017】
上記領域の範囲内に収まるように亜鉛二次電池を構成するためには、負極板14及び/又は電解液18に、負極シェイプチェンジの抑制効果を有する添加剤を加えるのが好ましい。
【0018】
負極板14に添加する好ましい添加剤としては、ノニオン性吸水ポリマーが挙げられる。ノニオン性吸水ポリマーの好ましい例としては、ポリアルキレンオキサイド系吸水性樹脂、ポリビニルアセトアミド系吸水性樹脂、ポリビニルアルコール(PVA樹脂)、及びポリビニルブチラール(PVB樹脂)が挙げられ、より好ましくはポリアルキレンオキサイド系吸水性樹脂である。ポリアルキレンオキサイド系吸水性樹脂としては市販のものが使用可能である。ノニオン性吸水ポリマーには、親水性のエーテル基、水酸基、アミド基、及びアセトアミド基から選択される少なくとも1種が含まれていてもよい。これら官能基の存在により、より電池反応に好ましい吸放水性機能を得ることができる。ノニオン性吸水ポリマーは、負極内で粒子のまま存在してもよいし、活物質を覆っていてもよい。活物質をノニオン性吸水ポリマーで覆う場合、ノニオン性吸水ポリマーをスラリー状にして添加する方法や、製造時にノニオン性吸水ポリマーを加熱して溶融させる方法が考えられる。後者の場合、ノニオン性吸水ポリマーの融点は、好ましくは45℃~350℃、より好ましくは45℃~200℃、さらに好ましくは50℃~100℃である。負極板14におけるノニオン性吸水ポリマーの含有量は、ZnO粒子の含有量を100重量部とした場合に、固形分で0.01~6.0重量部であるのが好ましく、より好ましくは0.01~5.5重量部、さらに好ましくは0.05~5.0重量部、特に好ましくは0.07~4.0重量部である。また、ノニオン性吸水ポリマーは、粒子状であるのが好ましい。この場合、ノニオン性吸水ポリマーの粒径は、10~200μmが好ましく、より好ましくは15~180μm、さらに好ましくは20~160μm、特に好ましくは30~150μmである。ノニオン性吸水ポリマーの粒子は全てが上記数値範囲内に入っている必要はなく、平均粒径D50が上記数値範囲内に収まるものであればよい。
【0019】
電解液18に添加する好ましい添加剤としては、Znと錯形成可能なタンパク質並びに/又はその誘導体及び/若しくは分解物、又はZnと錯形成可能なポリフェノール並びに/又はその誘導体及び/若しくは分解物が挙げられる(特許文献6を参照)。すなわち、電解液は、Znと錯形成可能なタンパク質を含みうるが、タンパク質の一部又は全部がその誘導体及び/又は分解物(例えばペプチドやアミノ酸)として存在しうる。あるいは、電解液は、Znと錯形成可能なポリフェノールを含みうるが、その一部又は全部がポリフェノールの誘導体及び/又は分解物として存在しうる。添加剤としてのタンパク質は、Znと錯形成可能なものであれば特に限定されない。そのようなタンパク質の例としては、カゼイン、ゼラチン等が挙げられ、特に好ましくはカゼインである。カゼイン等のタンパク質は電解液中でミセルを形成していてもよい。カゼイン等のタンパク質の誘導体は、官能基の導入ないし置換、酸化、還元、原子の置換等により、タンパク質の構造や性質を大幅に変えない程度の改変がなされた化合物であれば特に限定されず、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩が挙げられる。カゼイン等のタンパク質の分解物の例としては、ポリペプチド、トリペプチド、ジペプチド、並びにグルタミン酸、アスパラギン酸、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、メチオニン、グリシン、プロリン、チロシン、リシン等のアミノ酸が挙げられる。サイクル寿命を長くする観点から、好ましいアミノ酸の例としては、アスパラギン酸、メチオニン、グリシン、ロイシン、イソロイシンが挙げられ、より好ましくはグリシン、ロイシン、及びイソロイシン、特に好ましくはロイシン及びイソロイシン、最も好ましくはロイシンが挙げられる。添加剤としてのポリフェノールは、Znと錯形成可能なものであれば特に限定されない。そのようなポリフェノールの例としては、加水分解型(ピロガロール型)タンニン類及び縮合型(カテコール系)タンニン類が挙げられ、好ましくは加水分解型(ピロガロール型)タンニン類であり、さらに好ましくは加水分解型(ピロガロール型)タンニン類の一つであるタンニン酸である。タンニン酸等のポリフェノールの誘導体は、官能基の導入ないし置換、酸化、還元、原子の置換等により、ポリフェノールの構造や性質を大幅に変えない程度の改変がなされた化合物であれば特に限定されない。タンニン酸の誘導体の例としては、タンニン酸分子中に含まれるヒドロキシル基の少なくとも一部がアルキルエーテル基又はアルキルエステル基等で置換された分子構造を有する化合物等が挙げられる。タンニン酸の分解物の例としては、タンニン酸分子中のエステル結合の少なくとも一部が加水分解されて生成された化合物等が挙げられる。
【0020】
上述した添加剤以外にも、以下の表1に示される様々な添加剤が、前述した領域の範囲内に収まるように亜鉛二次電池を構成するために使用可能である。これらの添加剤はいずれも公知のものであり、負極シェイプチェンジの抑制に効果があると考えられる。
【0021】
【0022】
正極板12は、正極活物質を含む。正極活物質は、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む。典型的には、正極板12は正極集電体(図示せず)をさらに含んでおり、正極集電体は正極板12の端部(例えば上端)から延出する正極集電タブ13を有するのが好ましい。正極集電体の好ましい例としては、発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板が挙げられる。この場合、例えば、ニッケル製多孔質基板上に水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを均一に塗布して乾燥させることにより正極/正極集電体からなる正極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の正極板(すなわち正極/正極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。なお、
図2に示される正極板12は正極集電体(例えば発泡ニッケル)を含むものであるが図示されていない。これは、ニッケル亜鉛二次電池の場合、正極集電体が正極活物質と渾然一体化しているため、正極集電体を個別に描出できないためである。ニッケル亜鉛二次電池10は、正極集電タブ13の先端に接続する正極集電板をさらに備えるのが好ましく、より好ましくは複数枚の正極集電タブ13が1つの正極集電板に接続される。こうすることで簡素な構成でスペース効率良く集電を行えるとともに、正極端子26への接続もしやすくなる。また、正極集電板自体を正極端子26として用いてもよい。
【0023】
正極板12は、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種である添加剤を含んでいてもよく、これにより自己放電反応により発生する水素ガスを吸収する正極反応を促進することができる。また、正極板12は、コバルトをさらに含んでいてもよい。コバルトは、オキシ水酸化コバルトの形態で正極板12に含まれるのが好ましい。正極板12において、コバルトは導電助剤として機能することで、充放電容量の向上に寄与する。
【0024】
負極板14は負極活物質を含む。負極活物質は、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。亜鉛は、負極に適した電気化学的活性を有するものであれば、亜鉛金属、亜鉛化合物及び亜鉛合金のいずれの形態で含まれていてもよい。負極材料の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。負極活物質はゲル状に構成してもよいし、電解液18と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0025】
亜鉛合金として、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。例えば、インジウムを0.01~0.1質量%、ビスマスを0.005~0.02質量%、アルミニウムを0.0035~0.015質量%を含む亜鉛合金が水素ガス発生の抑制効果があるので好ましい。とりわけ、インジウムやビスマスは放電性能を向上させる点で有利である。亜鉛合金の負極への使用は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くすることで、水素ガス発生を抑制して安全性を向上できる。
【0026】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。好ましい負極材料の平均粒径は、亜鉛合金の場合、短径で3~100μmの範囲であり、この範囲内であると表面積が大きいことから大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0027】
好ましくは、負極板14は負極集電体15をさらに含み、負極集電体15は負極板14の端部(例えば上端)から延出する負極集電タブ15aを有する。負極集電タブ15aは、正極集電タブ13と重ならない位置に設けられるのが好ましい。亜鉛二次電池10は、負極集電タブ15aの先端に接続する負極集電板をさらに備えるのが好ましく、より好ましくは複数枚の負極集電タブ15aが1つの負極集電板に接続される。こうすることで簡素な構成でスペース効率良く集電を行えるとともに、負極端子28への接続もしやすくなる。また、負極集電板自体を負極端子28として用いてもよい。
【0028】
負極集電体15の好ましい例としては、銅箔、銅エキスパンドメタル、銅パンチングメタルが挙げられるが、より好ましくは銅エキスパンドメタルである。この場合、例えば、銅エキスパンドメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極/負極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0029】
亜鉛二次電池10は、正極板12及び/又は負極板14に接触する保液部材17を更に備えていてもよい。例えば、正極板12及び負極板14の間に、水酸化物イオン伝導セパレータ16のみならず、保液部材17が介在されているのが好ましい。そして、
図2に示されるように、正極板12及び/又は負極板14が保液部材17で覆われる又は包み込まれているのが好ましい。もっとも、正極板12又は負極板14の一面側に保液部材17が配置するシンプルな構成であってもよい。いずれにしても、保液部材17を介在させることで、正極板12及び/負極板14と水酸化物イオン伝導セパレータ16の間に電解液18を万遍なく存在させることができ、正極板12及び/負極板14と水酸化物イオン伝導セパレータ16との間における水酸化物イオンの授受を効率良く行うことができる。保液部材17は電解液18を保持可能な部材であれば特に限定されないが、シート状の部材であるのが好ましい。保液部材17の好ましい例としては不織布、吸水性樹脂、保液性樹脂、多孔シート、各種スペーサが挙げられるが、特に好ましくは、低コストで性能の良い負極構造体を作製できる点で不織布である。保液部材17ないし不織布は10~200μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは20~200μmであり、さらに好ましくは20~150μmであり、特に好ましくは20~100μmであり、最も好ましくは20~60μmである。上記範囲内の厚さであると、正極構造体及び/又は負極構造体の全体サイズを無駄無くコンパクトに抑えながら、保液部材17内に十分な量の電解液18を保持させることができる。
【0030】
水酸化物イオン伝導セパレータ16は、正極板12及び負極板14を水酸化物イオン伝導可能に隔離するように設けられる。例えば、
図2に示されるように、負極板14が、水酸化物イオン伝導セパレータ16で覆われ又は包み込まれる構成としてもよい。こうすることで、水酸化物イオン伝導セパレータ16と電池容器との煩雑な封止接合を不要にして、亜鉛デンドライト伸展を防止可能なニッケル亜鉛二次電池(特にその積層電池)を極めて簡便にかつ高い生産性で作製することが可能となる。もっとも、正極板12又は負極板14の一面側に水酸化物イオン伝導セパレータ16が配置されるシンプルな構成であってもよい。
【0031】
水酸化物イオン伝導セパレータ16は、正極板12及び負極板14を水酸化物イオン伝導可能に隔離可能なセパレータであれば特に限定されないが、典型的には、水酸化物イオン伝導固体電解質を含み、専ら水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すセパレータである。好ましい水酸化物イオン伝導固体電解質は、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である。したがって、水酸化物イオン伝導セパレータ16はLDHセパレータであるのが好ましい。本明細書において「LDHセパレータ」は、LDH及び/又はLDH様化合物を含むセパレータであって、専らLDH及び/又はLDH様化合物の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。本明細書において「LDH様化合物」は、LDHとは呼べないかもしれないがLDHに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDHの均等物といえるものである。もっとも、広義の定義として、「LDH」はLDHのみならずLDH様化合物を包含するものとして解釈することも可能である。LDHセパレータは多孔質基材と複合化されているのが好ましい。したがって、LDHセパレータは、多孔質基材を更に含み、LDH及び/又はLDH様化合物が多孔質基材の孔に充填された形態で多孔質基材と複合化されているのが好ましい。すなわち、好ましいLDHセパレータは、水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDHセパレータとして機能するように)LDH及び/又はLDH様化合物が多孔質基材の孔を塞いでいる。多孔質基材は高分子材料製であるのが好ましく、LDHは高分子材料製多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。例えば、特許文献1~4に開示されるような公知のLDHセパレータが使用可能である。LDHセパレータの厚さは、5~100μmが好ましく、より好ましくは5~80μm、さらに好ましくは5~60μm、特に好ましくは5~40μmである。
【0032】
正極板12及び/又は負極板14が、保液部材17及び/又はセパレータ16で覆われる又は包み込まれる場合、それらの外縁が(正極集電タブ13や負極集電タブ15aが延出される辺を除いて)閉じられているのが好ましい。この場合、保液部材17及び/又はセパレータ16の外縁の閉じられた辺が、保液部材17及び/又はセパレータ16の折り曲げや、保液部材17同士及び/又はセパレータ16同士の封止により実現されているのが好ましい。封止手法の好ましい例としては、接着剤、熱溶着、超音波溶着、接着テープ、封止テープ、及びそれらの組合せが挙げられる。特に、高分子材料製の多孔質基材を含むLDHセパレータはフレキシブル性を有するが故に折り曲げやすいとの利点を有するため、LDHセパレータを長尺状に形成してそれを折り曲げることで、外縁の1辺が閉じた状態を形成するのが好ましい。熱溶着及び超音波溶着は市販のヒートシーラー等を用いて行えばよいが、LDHセパレータ同士の封止の場合、外周部分を構成するLDHセパレータの間に保液部材17の外周部分を挟み込むようにして熱溶着及び超音波溶着を行うのが、より効果的な封止を行える点で好ましい。一方、接着剤、接着テープ及び封止テープは市販品を用いればよいが、アルカリ電解液中での劣化を防ぐため、耐アルカリ性を有する樹脂を含むものが好ましい。かかる観点から、好ましい接着剤の例としては、エポキシ樹脂系接着剤、天然樹脂系接着剤、変性オレフィン樹脂系接着剤、及び変成シリコーン樹脂系接着剤が挙げられ、中でもエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点でより好ましい。エポキシ樹脂系接着剤の製品例としては、エポキシ接着剤Hysol(登録商標)(Henkel製)が挙げられる。
【0033】
セパレータ16の上端となる1辺の外縁は開放されているのが好ましい。この上部開放型の構成はニッケル亜鉛電池等における過充電時の問題への対処を可能とするものである。すなわち、ニッケル亜鉛電池等において過充電されると正極板12で酸素(O2)が発生しうるが、LDHセパレータは水酸化物イオンしか実質的に通さないといった高度な緻密性を有するが故に、O2を通さない。この点、上部開放型の構成によれば、密閉容器20内において、O2を正極板12の上方に逃がして上部開放部を介して負極板14側へと送り込むことができ、それによってO2で負極活物質のZnを酸化してZnOへと戻すことができる。このような酸素反応サイクルを経ることで、上部開放型の電池要素11を密閉型ニッケル亜鉛二次電池に用いることで過充電耐性を向上させることができる。なお、セパレータ16や保液部材17の上端となる1辺の外縁が閉じられている場合であっても、閉じられた外縁の一部に通気孔を設けることで上記開放型の構成と同様の効果が期待できる。例えば、LDHセパレータの上端となる1辺の外縁を封止した後に通気孔を開けてもよいし、封止の際、通気孔が形成されるように上記外縁の一部を非封止としてもよい。
【0034】
電解液18はアルカリ金属水酸化物水溶液を含むのが好ましい。
図2において電解液18は局所的にしか図示されていないが、これは正極板12及び負極板14の全体に行き渡っているためである。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛及び/又は酸化亜鉛の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、電解液は正極活物質及び/又は負極活物質と混合させて正極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【0035】
電池要素11は、
図2に示されるように、複数枚の正極板12と、複数枚の負極板14、複数枚のセパレータ16を備え、正極板12/セパレータ16/負極板14の単位が繰り返されるように積層された正負極積層体の形態とされるのが好ましい。すなわち、亜鉛二次電池10は、単位セル10aを複数個有し、それにより複数個の単位セル10aが全体として多層セルをなしているのが好ましい。これはいわゆる組電池ないし積層電池の構成であり、高電圧や大電流が得られる点で有利である。
【0036】
密閉容器20は樹脂製であるのが好ましい。密閉容器20を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂又は変性ポリフェニレンエーテルである。密閉容器20は上蓋20aを有する。密閉容器20(例えば上蓋20a)はガスを放出するための放圧弁を有していてもよい。また、2以上の密閉容器20が配列されたケース群を外枠内に収容して、電池モジュールの構成としてもよい。
【0037】
LDH様化合物
本発明の好ましい態様によれば、LDHセパレータは、LDH様化合物を含むものであることができる。LDH様化合物の定義は前述したとおりである。好ましいLDH様化合物は、
(a)Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である、又は
(b)(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)In、Bi、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種である添加元素Mとを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である、又は
(c)Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、該(c)において前記LDH様化合物がIn(OH)3との混合物の形態で存在する。
【0038】
本発明の好ましい態様(a)によれば、LDH様化合物は、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物でありうる。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、所望によりY及び所望によりAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。例えば、LDH様化合物は、Zn及び/又はKをさらに含むものであってもよい。こうすることで、LDHセパレータのイオン伝導率をより一層向上することができる。
【0039】
LDH様化合物はX線回折により同定することができる。具体的には、LDHセパレータは、その表面に対してX線回折を行った場合、典型的には5°≦2θ≦10°の範囲に、より典型的には7°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出される。前述のとおり、LDHは積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びH2Oが存在する交互積層構造を有する物質である。この点、LDHをX線回折法により測定した場合、本来的には2θ=11~12°の位置にLDHの結晶構造に起因したピーク(すなわちLDHの(003)ピーク)が検出される。これに対して、LDH様化合物をX線回折法により測定した場合、典型的にはLDHの上記ピーク位置よりも低角側にシフトした上述の範囲でピークが検出される。また、X線回折におけるLDH様化合物に由来するピークに対応する2θを用いてBraggの式により、層状結晶構造の層間距離を決定することができる。こうして決定されるLDH様化合物を構成する層状結晶構造の層間距離は0.883~1.8nmであるのが典型的であり、より典型的には0.883~1.3nmである。
【0040】
上記態様(a)によるLDHセパレータは、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるMg/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比が0.03~0.25であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.2である。また、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0.40~0.97であるのが好ましく、より好ましくは0.47~0.94である。さらに、LDH様化合物におけるY/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.45であるのが好ましく、より好ましくは0~0.37である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.03である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0041】
本発明の別の好ましい態様(b)によれば、LDH様化合物は、(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)添加元素Mとを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物でありうる。したがって、典型的なLDH様化合物は、Ti、Y、添加元素M、所望によりAl及び所望によりMgの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。添加元素Mは、In、Bi、Ca、Sr、Ba又はそれらの組合せである。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。
【0042】
上記態様(b)によるLDHセパレータは、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比が0.50~0.85であるのが好ましく、より好ましくは0.56~0.81である。LDH様化合物におけるY/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0.03~0.20であるのが好ましく、より好ましくは0.07~0.15である。LDH様化合物におけるM/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0.03~0.35であるのが好ましく、より好ましくは0.03~0.32である。LDH様化合物におけるMg/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0~0.10であるのが好ましく、より好ましくは0~0.02である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.04である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0043】
本発明の更に別の好ましい態様(c)によれば、LDH様化合物は、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDH様化合物がIn(OH)3との混合物の形態で存在するものでありうる。この態様のLDH様化合物は、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、Y、所望によりAl、及び所望によりInの、複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。なお、LDH様化合物に含まれうるInは、LDH様化合物中に意図的に添加されたもののみならず、In(OH)3の形成等に由来してLDH様化合物中に不可避的に混入したものであってもよい。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。
【0044】
上記態様(c)による混合物はLDH様化合物のみならずIn(OH)3をも含む(典型的にはLDH様化合物及びIn(OH)3で構成される)。In(OH)3の含有により、LDHセパレータにおける耐アルカリ性及びデンドライト耐性を効果的に向上することができる。混合物におけるIn(OH)3の含有割合は、LDHセパレータの水酸化物イオン伝導性を殆ど損なわずに耐アルカリ性及びデンドライト耐性を向上できる量であるのが好ましく、特に限定されない。In(OH)3はキューブ状の結晶構造を有するものであってもよく、In(OH)3の結晶がLDH様化合物で取り囲まれている構成であってもよい。In(OH)3はX線回折により同定することができる。
【実施例】
【0045】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0046】
例1~75
以下の手順で様々な仕様のニッケル亜鉛二次電池の簡易セルを作製して、充放電サイクル試験を行った。
【0047】
(1)正極の用意
ペースト式水酸化ニッケル正極(容量密度:約700mAh/cm3)を用意した。
【0048】
(2)負極の作製
以下に示される各種原料を用意した。
<負極活物質>
・ZnO粉末(正同化学工業株式会社製、JIS規格1種グレード、平均粒径D50:0.2μm)
・金属Zn粉末(DOWAエレクトロニクス株式会社製、Bi及びInがドープされたもの、Bi:70重量ppm、In:200重量ppm、平均粒径D50:120μm)
<添加剤1>
・ミルドカーボンファイバー(製品名:ドナカーボ・ミルト、大阪ガスケミカル社製)
・アセチレンブラック(製品名:デンカブラック、デンカ株式会社製)
・カーボンナノチューブ(製品名:VGCF、昭和電工株式会社製)
・S-100/g(製品名:ケミQ S-100、株式会社ケミック社製)
・粉末PTFE(製品名:ルブロン、ダイキン工業株式会社製製)
・In2O3粉末(製品名:酸化インジウム、株式会社高南無機社製)
<添加剤2>
・プロピレングリコール(PG)(製品名:プロピレングリコール、関東化学株式会社製)
<添加剤3>
・ポリビニルアルコール(PVA)(製品名:ポリビニルアルコール、富士フイルム和光純薬株式会社製)
・ポリオレフィン水性ディスパージョン(製品名:ケミパールS100、三井化学株式会社製)
・ポリオレフィン水性ディスパージョン(製品名:ケミパールS650、三井化学株式会社製)
<添加剤4>
・PTFE(製品名:ポリフロンPTFE Fシリーズ、ダイキン工業株式会社製)
【0049】
表2A及び2Bに示される配合割合に従い、ZnO粉末に、金属Zn粉末、及び各種添加剤を添加して混練した。得られた混練物をロールプレスで圧延して、負極活物質シートを得た。負極活物質シートを、錫メッキが施された銅エキスパンドメタルに圧着して、負極を得た。こうして表2A及び2Bに示される21種類の負極板を作成した。
【0050】
(3)電解液の作製
48%水酸化カリウム水溶液(関東化学株式会社製、特級)にイオン交換水を加えてKOH濃度を5.4mol%に調整した後、酸化亜鉛を0.42mol/L加熱攪拌により溶解させて、電解液を得た。なお、例30~32においては、この電解液にカゼインを2.0/50CCの量で添加した。
【0051】
(4)評価セルの作製
表3~8に示されるように様々な負極を用いて以下の手順でセルを作製した。まず、正極と負極の各々を不織布で包むとともに、電流取り出し端子を溶接した。こうして準備された正極及び負極を、Mg-Al-Ti-Y-LDHセパレータを介して対向させ、電流取り出し口が設けられたラミネートフィルムに挟んで、ラミネートフィルムの3辺を熱融着した。こうして得られた上部開放されたセル容器に電解液を加え、真空引き等により電解液を十分に正極及び負極に浸透させた。その後、ラミネートフィルムの残りの1辺も熱融着して、簡易密閉セルとした。
【0052】
(5)充放電サイクル試験
充放電装置(東洋システム株式会社製、TOSCAT3100)を用いて、簡易密閉セルに対し、25℃で充放電サイクル試験を実施した。このサイクル試験は、放電レート0.5C(電流密度12.5mA/cm2)で電池電圧が1.9Vになるまで定電流(CC)充電し、引き続き1.9Vの電圧で正極の搭載容量に対して63%になるまで定電圧(CV)充電し、5分間の充電休止時間を置いた後、充電レート0.5C(電流密度12.5mA/cm2)で放電深度(DOD)が70%になるまでカットオフ電圧1.4Vで定電流(CC)放電して、5分間の放電休止時間を置くことを含む充放電サイクルを表3~8に示される回数実施することにより行った。
【0053】
充放電サイクル試験を終えた電池における負極板を平面視した画像を撮影し、得られた画像を解析することにより、負極板の残存面積率(%)を算出した。具体的には、負極板の残存面積率は、サイクル試験後の負極板において負極活物質(ZnO)が残留している部分(黒く視認される)の面積を、サイクル試験前の負極板において負極活物質(ZnO)で覆われていた領域(黒く視認される)の面積で割って、100を乗じた値である。結果は、表3~8及び
図3に示されるとおりであった。
【表2A】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
例76~85
以下の手順で様々な仕様のニッケル亜鉛二次電池の簡易セルを作製して、充放電サイクル試験を行った。
【0062】
(1)正極の用意
ペースト式水酸化ニッケル正極(容量密度:約700mAh/cm3)を用意した。
【0063】
(2)負極の作製
以下に示される各種原料を用意した。
<負極活物質>
・ZnO粉末(正同化学工業株式会社製、JIS規格1種グレード、平均粒径D50:0.2μm)
・金属Zn粉末(DOWAエレクトロニクス株式会社製、Bi及びInがドープされたもの、Bi:70重量ppm、In:200重量ppm、平均粒径D50:120μm)
<添加剤>
・ノニオン性吸水ポリマー(ポリアクリル酸ナトリウム、製品名:アクアコークC-PF、住友精化株式会社製)
・In2O3粉末(製品名:酸化インジウム、株式会社高南無機社製)
・プロピレングリコール(PG)(製品名:プロピレングリコール、関東化学株式会社製)
・PTFE(製品名:ポリフロンPTFE Fシリーズ、ダイキン工業株式会社製)
【0064】
表9及び10に示される配合割合に従い、ZnO粉末に、金属Zn粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、並びに場合によりその他の添加剤を添加し、プロピレングリコールと共に混練した。得られた混練物をロールプレスで圧延して、負極活物質シートを得た。負極活物質シートを、錫メッキが施された銅エキスパンドメタルに圧着して、負極を得た。こうして各種の負極板を作成した。
【0065】
(3)電解液の作製
48%水酸化カリウム水溶液(関東化学株式会社製、特級)にイオン交換水を加えてKOH濃度を5.4mol%に調整した後、酸化亜鉛を0.42mol/L加熱攪拌により溶解させて、電解液を得た。
【0066】
(4)評価セルの作製
表9及び10に示されるように様々な負極を用いて以下の手順でセルを作製した。まず、正極2枚と負極1枚の各々を不織布で包むとともに、電流取り出し端子を溶接した。こうして準備された2枚の正極及び1枚の負極を、Mg-Al-Ti-Y-LDHセパレータを介在させながら正極/負極/正極の順で積層して、電流取り出し口が設けられたラミネートフィルムに挟んで、ラミネートフィルムの3辺を熱融着した。こうして得られた上部開放されたセル容器に電解液を加え、真空引き等により電解液を十分に正極及び負極に浸透させた。その後、ラミネートフィルムの残りの1辺も熱融着して、簡易密閉セルとした。
【0067】
(5)充放電サイクル試験
例1~75と同様にして充放電サイクル試験を行い、負極板の残存面積率(%)を測定した。結果は、表9及び10並びに
図3に示されるとおりであった。
【0068】
【0069】
【0070】
結果
図3は、サイクル数が割り当てられたx軸、及びサイクル数に応じた前記負極板の残存面積率(%)が割り当てられたy軸からなる座標系において、例1~85の各結果をプロットしたグラフである。
図3から、所定の充放電サイクル試験で評価した場合に、y≧-0.10x+100(好ましくはy≧-0.09x+100、より好ましくはy≧-0.05x+100)及びy≦-0.01x+100(好ましくはy≦-0.02x+100、より好ましくはy≦-0.03x+100)を満たす領域の範囲内に入るように構成した亜鉛二次電池は、改善したサイクル特性を示す(サイクル寿命が長くなる)ことが分かる。