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特許7564965情報処理装置、情報処理方法、情報処理システム及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、情報処理システム及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20241002BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20241002BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H02J7/00 Y
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023552529
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012825
(87)【国際公開番号】W WO2023175962
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(72)【発明者】
【氏名】丸地 康平
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸洋
(72)【発明者】
【氏名】波田野 寿昭
【審査官】滝谷 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-194468(JP,A)
【文献】特開2020-119712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H01M 10/42
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象蓄電池における複数の充電量と複数の電圧値とを含む計測データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の範囲に関する第1特徴量と、前記充電量に対する前記電圧値の変化に関する第2特徴量とを算出する特徴量算出部と、
前記第1特徴量と前記第2特徴量とに基づき、前記対象蓄電池の状態を推定する推定部と、
を備えた情報処理装置。
【請求項2】
前記第1特徴量は、前記計測データにおける第1の充電量範囲に含まれる前記電圧値の標準偏差を含む
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記複数の電圧値は、充電電圧値又は放電電圧値を表し、
前記特徴量算出部は、前記計測データに基づき第2の充電量範囲における前記充電電圧値と前記放電電圧値とを取得し、前記充電電圧値に基づく第1電圧値と、前記放電電圧値に基づく第2電圧値との差分を計算し、前記差分は、前記第1特徴量である
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記特徴量算出部は、前記計測データに基づきOCV曲線を生成し、前記OCV曲線の傾きを前記第2特徴量とする
請求項1~3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記特徴量算出部は、前記計測データに基づき前記充電量によって前記電圧値を回帰する回帰関数を生成し、前記回帰関数の傾きを前記第2特徴量とする
請求項1~3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記計測データは時刻をさらに含み、
複数の蓄電池の前記計測データと、前記複数の蓄電池の状態及び時刻を含む状態データとに基づき、前記第1特徴量と前記第2特徴量を入力変数とし、前記蓄電池の状態を出力変数とする推定モデルを生成するモデル生成部を備え、
前記推定部は、前記推定モデルに基づき、前記対象蓄電池の状態を推定する
請求項1~5のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記特徴量算出部は、少なくとも1つの前記第1特徴量と少なくとも1つの前記第2特徴量を算出し、
前記推定部は、前記計測データが、少なくとも1つの前記第1特徴量と少なくとも1つの前記第2特徴量とのうちの少なくとも1つの特徴量である第3特徴量を算出するための条件を満たさない場合、前記第3特徴量に対応する入力変数を前記推定モデルから除去する
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記条件は、前記計測データのデータ数が前記第3特徴量を算出するために必要なデータ数以上であることである
請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記推定部は、複数の対象時刻における前記対象蓄電池の状態を推定し、
前記対象蓄電池に対して推定された前記状態の推移を示すデータを出力する出力部をさらに備えた
請求項6~8のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記出力部は、前記対象蓄電池の状態の推定に用いた前記第1特徴量の推移を示すデータと、前記対象蓄電池の状態の推定に用いた前記第2特徴量の推移を示すデータとをさらに出力する
請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記計測データは、充電又は放電の終了に近い終了時間帯で電流が相対的に小さくなる第1方式に基づき充電又は放電が行われたときに計測されたデータであり、
前記特徴量算出部は、第1の期間の前記計測データにおける前記終了時間帯のデータに基づき、前記第1特徴量及び前記第2特徴量を算出し、前記推定部は、算出された前記第1特徴量及び前記第2特徴量に基づき、前記第1の期間に対応する前記対象蓄電池の状態を推定し、
前記特徴量算出部は、第2の期間の前記計測データにおける前記終了時間帯のデータに基づき、前記第1特徴量及び前記第2特徴量を算出し、前記推定部は、算出された前記第1特徴量及び前記第2特徴量に基づき、前記第2の期間に対応する前記対象蓄電池の状態を推定し、
前記第1の期間に対応する前記対象蓄電池の状態の推定値と、前記第2の期間に対応する前記対象蓄電池の状態の推定値との差分に基づき、前記対象蓄電池の貯蔵劣化に起因する前記状態の変化を算出する
請求項1~10のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記計測データは、充電又は放電の終了に近い終了時間帯で電流が相対的に小さくなる第1方式に基づき充電又は放電が行われたときに計測された第1計測データと、前記第1方式と異なる第2方式に基づき充電又は放電が行われたときに計測された第2計測データと、を含み、
前記特徴量算出部は、前記第1計測データにおける前記終了時間帯のデータに基づき、前記第1特徴量及び前記第2特徴量を算出し、前記推定部は、算出された前記第1特徴量及び前記第2特徴量に基づき、前記対象蓄電池の状態を推定し、
前記特徴量算出部は、前記第2計測データに基づき、前記第1特徴量及び前記第2特徴量を算出し、前記推定部は、算出された前記第1特徴量及び前記第2特徴量に基づき、前記対象蓄電池の状態を推定し、
前記第2方式に基づく前記対象蓄電池の状態の推定値と、前記第1方式に基づく前記対象蓄電池の状態の推定値との差分を算出し、算出した前記差分に基づき、前記対象蓄電池のサイクル劣化に起因する前記状態の変化を算出する
請求項1~10のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項13】
前記第1方式は、定電流定電圧充電であり、
前記第2方式は、定電力充電、定電力放電、定電流充電、定電流放電、定電圧充電及び定電圧放電のうちの1つである
請求項12に記載の情報処理装置。
【請求項14】
前記複数の蓄電池は前記対象蓄電池を含み、
前記特徴量算出部は、前記推定モデルの生成用に前記対象蓄電池の第1データ部分を用い、前記対象蓄電池の状態の推定用に前記第1データ部分と異なる第2データ部分を用いる
請求項6~10のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項15】
前記対象蓄電池の状態は、前記対象蓄電池のSoHである
請求項1~14のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項16】
前記SoHは、前記対象蓄電池の基準電池容量に対する前記対象蓄電池の電池容量の比である
請求項15に記載の情報処理装置。
【請求項17】
前記SoHは、前記対象蓄電池の内部抵抗値である
請求項15に記載の情報処理装置。
【請求項18】
対象蓄電池における複数の充電量と複数の電圧値とを含む計測データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の範囲に関する第1特徴量を算出し、
前記計測データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の変化に関する第2特徴量を算出し、
前記第1特徴量と前記第2特徴量とに基づき、前記対象蓄電池の状態を推定する
情報処理方法。
【請求項19】
対象蓄電池における複数の充電量と複数の電圧値とを含む計測データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の範囲に関する第1特徴量を算出するステップと、
前記計測データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の変化に関する第2特徴量を算出するステップと、
前記第1特徴量と前記第2特徴量とに基づき、前記対象蓄電池の状態を推定するステップと
をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項20】
蓄電池と、
前記蓄電池における複数の充電量と複数の電圧値とを含む計測データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の範囲に関する第1特徴量と、前記充電量に対する前記電圧値の変化に関する第2特徴量とを算出する特徴量算出部と、
前記第1特徴量と前記第2特徴量とに基づき、前記蓄電池の状態を推定する推定部と、
を備えた情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、情報処理装置、情報処理方法、情報処理システム及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
脱炭素化に向けて電力系統を安定化させ、また排気ガスを削減する目的などから蓄電池を利用するケースが増えている。蓄電池は正常に動作していても、使用頻度又は使用時間に応じ徐々に劣化が進行していく。蓄電池が突然故障することを回避するために、蓄電池の状態として、劣化の進行度合い(健全度)を監視しておく必要がある。
【0003】
蓄電池の健全度を判定する手法として、特殊な充放電パターンで蓄電池を充放電したときに得られる蓄電池のデータ(例えば電圧、充電量など)を用いる手法がある。また、蓄電池に対してこれまで行われた充放電サイクル回数などから近似式(アレニウス近似式)により蓄電池の健全度を算出する手法がある。さらに、蓄電池が通常運転されているときに蓄電池から得られるデータ(例えば電圧、充電量など)から蓄電池の健全度を判定する手法もある。
【0004】
いずれの手法も、サイクル劣化又は貯蔵劣化のように特定の種類の劣化に適した手法である。しかしながら、蓄電池の使用態様によっては複数種類の劣化が複合的に生じ得る。この場合、上述した手法では、いずれも蓄電池の健全度を正しく評価できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2021/044635号
【文献】特許第6313502号公報
【文献】特開2020-119712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、蓄電池の状態を評価する情報処理装置、情報処理方法、情報処理システム及びコンピュータプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る情報処理装置は、対象蓄電池における複数の充電量と複数の電圧値とを含む計測データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の変化に関する第1特徴量と、前記充電量に対する前記電圧値の範囲に関する第2特徴量とを算出する特徴量算出部と、前記第1特徴量と前記第2特徴量とに基づき、前記対象蓄電池の状態を推定する推定部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る情報処理装置である蓄電池評価装置の一例のブロック図。
図2】蓄電池の一形態として蓄電システムの構成例を示す図。
図3】1つのモジュールの構成例を示す図。
図4】稼働DBの一例を示す図。
図5】健全度DBの一例を示す図。
図6】稼働データから健全度(SoH)を算出する例を示す図。
図7】学習DBの一例を示す図。
図8】電圧分布に関する特徴量を計算する例を示す図。
図9】OCV曲線を算出する例を示す図。
図10】SoHの推定結果の一例を示す図。
図11】電圧分布に関する特徴量及び電圧傾きに関する特徴量の推移を同時に表示した例を示す図。
図12】本実施形態に係る蓄電池評価装置における学習モードの動作の一例を示すフローチャート。
図13】本実施形態に係る蓄電池評価装置における推定モードの動作の一例を示すフローチャート。
図14】本発明の実施形態に係る蓄電池評価装置のハードウェア構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る情報処理装置である蓄電池評価装置100の一例のブロック図である。図1の蓄電池評価装置は、複数の種類の劣化を受け得る蓄電池の状態を高い精度で推定することを実現する。蓄電池は2次電池とも呼ばれ、充放電を繰り返し可能な電池である。蓄電池における劣化には複数の種類がある。劣化の種類の例として、サイクル劣化及び貯蔵劣化等がある。サイクル劣化は、充電と放電が繰り返されることで、電池内部の材料の化学変化によって引き起こされる劣化である。サイクル劣化では劣化の進行に応じ内部抵抗が増加する。内部抵抗が大きくなった場合、充電時に上限電圧に早く到達し、放電時には下限電圧に早く到達する。このため、内部抵抗の増加により、実質的に、蓄電池の容量が低下する。一方、貯蔵劣化は、蓄電池の保存状態に起因して引き起こされる劣化である。例えば、温度の高い場所での保存、満充電又は満充電に近い状態での保存、完全放電又は完全放電に近い状態での蓄電池を放置すると、容量の低下が早く進行する。なお、蓄電池の保存時に蓄電池に電位を与えない場合、及び蓄電池に電位を与え続ける場合のいずれも有り得る。蓄電池に電位を与え続ける場合の劣化は特にフロート劣化とも呼ばれる。
【0011】
本実施形態における蓄電池について説明する。蓄電池は、充放電可能な電池である。蓄電池は、放電のみ可能な一次電池に対して、二次電池とも呼称されるが、以下では蓄電池に呼び方を統一する。本実施形態において充放電と称するときは充電及び放電の少なくとも一方を含む。
【0012】
蓄電池は、一例として電気自動車(EV)、電気バス、電車、次世代型路面電車システム(LRT)、バス高速輸送システム(BRT)、無人搬送車(AGV)、飛行機又は船など電気エネルギーを動力源として動作する移動体に搭載された電池である。あるいは、蓄電池は、電機機器(スマートフォン、パーソナルコンピュータなど)に搭載された蓄電池、又はデマンドレスポンス用に電力貯蔵する蓄電池などでもよい。あるいは蓄電池は、電力系統において周波数変動抑制用に用いられてもよい。蓄電池は、その他の用途の蓄電池でもよい。蓄電池は単一の用途の他、複数の用途に用いられてもよい。例えば蓄電池が周波数変動抑制用に用いられた後、リユースによりEV等の動力源又はデマンドレスポンスの電力貯蔵用として用いられてもよい。
【0013】
図2は、蓄電池の一形態として蓄電システム201の構成例を示す。蓄電システム201は、電池盤1、2、・・・Nを備える。用途に応じ所望の出力を得られるように、複数の電池盤が直列、並列、又は直列かつ並列に接続されている。各電池盤は、複数のモジュールを備えている。電池盤1はモジュール1-1~1-M、電池盤2はモジュール2-1~2-M、電池盤NはモジュールN-1~N-Mを備えている。各電池盤における複数のモジュールは直列、並列、又は直列かつ並列に接続されている。本例では各電池盤が備えるモジュール数は同じ個数であるが、同じである必要はない。
【0014】
図3は、1つのモジュールの構成例を示す。モジュールは、複数の電池セルを含む。複数の電池セルは、直列、並列、又は直列かつ並列に接続されている。一例として、2つ以上の電池セルが直接に接続されたものが複数並列に接続されている。
【0015】
本実施形態における評価対象となる蓄電池(対象蓄電池)は、セル、モジュール、電池盤、及び蓄電システムのいずれでもよい。
【0016】
図1の稼働DB101は、1つ又は複数の蓄電池から取得された稼働データを記憶している。稼働データは、蓄電池を実際の用途で使用している場合に稼働中の蓄電池から取得されたものでもよいし、実験により取得されたものでもよい。稼働データの取得単位は、セル、モジュール、電池盤、及び複数の電池盤の組(蓄電システム)のいずれでも構わないし、複数の取得単位でそれぞれ稼働データを取得してもよい。以下の説明では稼働DB101には複数の蓄電池から同じ取得単位(例えばセル、モジュール、電池盤、又は、蓄電システム)で取得された稼働データが格納された場合を想定する。
【0017】
図4は稼働DB101の一例を示す。稼働データは、蓄電池に関する計測データを含む。より詳細には、稼働データは、電池ID、時刻(計測時刻)、電圧値、電力値、SoC(State of Charge)、及び温度を含む。稼働データには他の情報が含まれていてもよい。例えば放電及び充電のいずれを行っているかを示す充放電識別子が含まれていてもよい。蓄電池の用途、湿度又は天気など、その他の情報が稼働データに含まれていてもよい。
【0018】
図4の例では稼働データが1秒間隔で取得されているが、取得間隔は1分、5分、1時間など別の値でもよい。また取得間隔は一定時間間隔でなく、例えば時間帯に応じて又は蓄電池の使用形態等に応じて、取得間隔が異なってもよい。電圧値は、充電時の場合に測定された電圧の場合は充電電圧値、又放電時に測定された電圧の場合は放電電圧値である。電力値の代わりに、電流値を取得し、電流値と電圧値との積算により電力値を算出してもよい。SoCは、電池の充電量を示す指標である。蓄電池に蓄積されている電力量(電荷量)を、蓄電池のスペック容量で除算することでSoCを算出してもよい。また、電流値を積分することによりSoCを算出してもよい。
【0019】
健全度DB102は、図1の稼働DB101に稼働データが記憶されている複数の蓄電池のうちの少なくとも一部の蓄電池について計測された蓄電池の状態を含む状態データを記憶している。具体的には、蓄電池の状態として、健全度(SoH)あるいは劣化状態を記憶している。例えば電池IDが1の蓄電池(“電池1”と記載する。他のIDの電池も同様の記載に準じて表す)について、単位期間ごとに計測されたSoHを記憶している。単位期間は、1日、1週間、1月など任意に定めることができる。蓄電池ごとに単位期間の長さが異なってもよい。健全度DB102に記憶されている蓄電池の状態データを健全度データと呼称する。
【0020】
図5は、健全度DB102の一例を示す。電池1~Nを含む複数の蓄電池について1日ごとにSoHが格納されている。SoHは、蓄電池の状態を示す指標である。本実施形態において健全度は、特定の条件の下で計測された電池容量とスペック容量との比(%)である。但し、他の手法によりSoHを計測又は算出してもよい。また、複数の手法で計測した複数のSoHを健全度DB102に格納してもよい。
【0021】
健全度DB102におけるSoHは、稼働中の蓄電池でSoHが計測される場合は蓄電池から取得されたSoHでもよい。また、SoHを計測する計測装置で別途、稼働データからSoHを算出する場合は、健全度DB102におけるSoHは、計測装置から取得されたSoHでもよい。
【0022】
SoHの計測方法は、充放電(充電/放電)の種類ごとに変えてもよい。充電・放電の種類には、定電力充電/放電、定電流充電/放電、定電圧充電/放電、CCCV(Constant Current-Constant Voltage:定電流定電圧)充電/放電がある。例えば、1Cの定電流充電、2Cの定電流充電、3Cの定電流充電、1Cの定電流放電、2Cの定電流放電、3Cの定電流放電ごとにSoHの計測方法を変えてもよい。さらに、充電容量/放電容量、及び充電/放電レート(1C,2C,3Cなど)の少なくとも一方に応じて、SoHの計測方法を変えてもよい。なお、1Cとは蓄電池を1時間で満充電又は完全放電にするために必要な電流の大きさである。また蓄電池を複数の温度で計測し、複数のSoHを取得してもよい。
【0023】
図6は、蓄電池の稼働データからSoHを算出する例を示す。完放電状態を表す下限電圧から、満充電状態を表す上限電圧まで、電圧が単調増加しているデータ群を蓄電池の稼働データから特定する。下限電圧から上限電圧まで達する期間は容量計測期間Pに対応する。検出したデータ群を、容量計測に用いる対象データとする。対象データの検出を行う前に、稼働データにおける電圧値をスムージング処理してもよい。スムージング処理の例として、時間的に前後の電圧値を用いて電圧値を平均化処理することで、ノイズ又は特異値を低減してもよい。対象データに基づき、容量計測期間P中の電流値を積算することで、容量計測期間Pに充電された電荷量(AH)を計算する。計算した電荷量を蓄電池のスペック容量(スペック値)で除算することで、健全度(SoH)を得ることができる。
【0024】
入力部103は、稼働DB101から稼働データを取得し、健全度DB102から健全度データを取得する。入力部103は、データ登録部104からの指示データに基づき、稼働データ及び健全度データの取得を行ってもよい。入力部103は、取得した稼働データ及び健全度データをデータ登録部104に提供する。データ登録部104に稼働データ及び健全度データを提供する動作は、学習DB105に推定モデル生成用の学習データを格納する場合に行われる。また、入力部103は、健全度推定部112からの指示データに基づき、稼働DB101から稼働データを取得し、取得した稼働データを健全度推定部112に提供する。健全度推定部112に稼働データを提供する動作は、推定モデルに基づき、評価対象となる蓄電池の状態(SoH)を推定する場合に行われる。
【0025】
データ登録部104は、入力部103を介して、稼働DB101から稼働データを取得し、健全度DB102から健全度データを取得する。データ登録部104は、稼働データに健全度データに含まれるSoHを対応づけ、SoHが対応づけられた稼働データ(学習データと呼称する)を、学習DB105に格納する。SoHを稼働データに対応付ける方法として、SoHの計測日時と、稼働データの日時との関係に基づいて行う。例えば、SoHを、SoHの計測日と同じ日の稼働データに対応づけてもよい。あるいは、SoHの計測日時を基準として一定範囲内(例えば24時間内)に時刻が含まれる稼働データにSoHを対応づけてもよい。一定範囲は24時間に限定されず、3日、一週間、又は1ヶ月などでもよい。
【0026】
学習データを登録する際、各蓄電池の稼働データの電圧等の取得単位が異なる場合に、特定の取得単位に合わせて、電圧等の値を統一してもよい。例えば、各蓄電池の稼働データの電圧及び電流の値を、セル単位の電圧及び電流の値に統一してもよい。例えばモジュール単位の電圧値等を、セル単位の電圧値等に変換する場合は、モジュールにおけるセルの接続構造(図3参照)に基づき、変換後の電圧値等を算出することができる。
【0027】
図7は、学習DB105の一例を示す。図5に示すSoHが、図4に示す稼働データにおける同じ日のデータに対応づけられている。例えば、電池1の場合、2018/3/10のデータにはすべて、2018/3/10 11:00:00に計測されたSoHの90.3が対応づけられている。
【0028】
モデル生成部109は、学習DB105における学習データ(稼働データとSoH)に基づき、蓄電池の状態であるSoHを推定するモデルを生成する。モデルの種類、及びモデルの入力変数(説明変数)として用いる特徴量の種類は予め指定されていてもよい。あるいは、モデル生成部109が、学習データに基づき、モデルの種類及び特徴量の種類の少なくとも一方を予め決められたアルゴリズムで決定してもよい。あるいは、本装置のユーザが、モデルの種類及び特徴量の種類の少なくとも一方を、入力インタフェースを用いて、モデル生成部109に指示する指示データを入力してもよい。この場合、モデル生成部109は、指示データに基づき、モデルの種類及び特徴量の種類の少なくとも一方を決定してもよい。
【0029】
モデル生成部109は、特徴量算出部106を用いて、学習データにおける稼働データに基づき、蓄電池ごとに、複数の特徴量を算出する。本例では、複数の特徴量として、充電量(SoC)に対する電圧値の範囲(電圧範囲)に関する特徴量、及び、充電量(SoC)に対する電圧値の変化(電圧変化)に関する特徴量を算出する。SoCに対する電圧値の範囲に関する特徴量(電圧範囲特徴量)の例として、SoCに対する電圧値の分布又は電圧値の広がりがある。また、SoCに対する電圧値の変化に関する特徴量(電圧変化特徴量)としてSoCに対する電圧値の傾き(電圧傾き)がある。特徴量算出部106は、SoCに対する電圧値の範囲に関する特徴量(第1特徴量)を算出する電圧範囲算出部107と、電圧値の変化に関する特徴量(第2特徴量)を算出する電圧変化算出部108とを含む。
【0030】
(電圧範囲に関する特徴量の算出方法)
一例として、電圧範囲に関する特徴量は、稼働データの電圧値とSoCとを縦軸が電圧、横軸がSoCの座標系にプロットした場合に、特定のSoC範囲における、電圧値の範囲である。具体的には、特定のSoC範囲における電圧値の標準偏差(ばらつき)である。SoCの範囲を複数指定し、指定した範囲ごとに電圧値の標準偏差を算出してもよい。すなわち、電圧範囲に関する特徴量を複数算出してもよい。
【0031】
電圧範囲に関する特徴量の他の例として、充電時の電圧と放電時の電圧との差がある。電圧差を算出するSoC又はSoC範囲が予め指定されており、SoC又はSoC範囲での充電時の電圧の代表値と、当該SoCでの放電時の電圧の代表値との差を算出してもよい。代表値は、例えば、平均値、最大値、最小値、中央値等である。SoC又はSoC範囲を複数指定し、SoC又はSoC範囲ごとに特徴量を算出してもよい。すなわち、電圧範囲に関する特徴量を複数算出してもよい。蓄電池を搭載した装置において回生ブレーキ等の電力の回生が行われる場合の回生時の電圧を、放電時の電圧の代わりに用いてもよい。また放電時の電圧の代わりに稼働時の電圧を用いてもよい。
【0032】
図8は、電圧範囲に関する特徴量を計算する例を示す図である。この例で用いる稼働データでは、SoCが0付近から充電が開始され、SoCが0.8付近になるまで充電される。この後、放電が開始され、SoCが0付近で放電が停止される。グラフ231は、このときの充電電圧の推移を表し、グラフ232は、放電電圧の推移を表す。横軸はSoC、縦軸は電圧である。同じSoCにおける充電電圧と放電電圧との差233が電圧分布に関する特徴量の一例である。他の例として、SoC範囲(区間)234に含まれる電圧値の標準偏差がある。さらに他の例として、SoC範囲234に含まれる充電電圧値に基づく第1電圧値(充電電圧の代表値。例えば、平均値等)と、SoCの範囲234に含まれる放電電圧値に基づく第2電圧値(例えば放電電圧の代表値。例えば、平均値等)との差がある。SoCの範囲を複数設定し、範囲ごとに特徴量を算出してもよい。
【0033】
(電圧変化に関する特徴量の算出方法)
一例として、稼働データに基づき、SoCから電圧を線形回帰することでSoCに対する電圧値の傾き(電圧傾き)を求めることができる。
【0034】
稼働データの全てではなく、線形回帰に用いるデータを選択し、選択したデータを用いて、電圧値の変化に関する特徴量(電圧傾き等)を算出してもよい。データを選択する方法として、充電時のデータ、放電時のデータ、又は稼働時のデータ(例えば電力回生等を行っている場合の電力回生時のデータ)を選択してもよい。また、特定のSoC又は特定のSoC範囲におけるデータを選択してもよい。
【0035】
また、稼働データの全て、又は選択したデータに基づき、OCV曲線を生成して、OCV曲線の傾きを、電圧値の変化に関する特徴量としてもよい。OCVとは開放電圧(蓄電池の出力端に何も接続していないときの出力端の電圧)のことである。
【0036】
図9は、OCV曲線を算出する例を示す。OCV曲線221は、SoCに対する開放電圧の推移を示す。充電曲線222は、稼働データに基づき、充電時の充電電圧をプロットした点群を模式的に示したものである。充電曲線222はOCV曲線221の上側に位置する。放電曲線223は、稼働データに基づき、放電時の充電電圧をプロットした点群を模式的に示したものである。放電曲線223は、OCV曲線221の下側に位置する。OCV曲線全体を近似する直線(例えばOCV曲線との2乗誤差を最小にする直線)の傾き、又はSoC範囲234におけるOCVの傾き(例えば範囲内のOCV部分を近似する直線の傾き)を特徴量としてもよい。特徴量を算出する対象となるSoCの範囲は、複数のSoCを含むことに限られず、1つのSoCを含んでもよい。
【0037】
OCV曲線の推定方法は稼働データに基づく限り、任意の方法でよい。例えば、充電時の充電電圧をプロットした点群と放電時の放電電圧をプロットした点群とを近似する線を算出し、算出した線をOCV曲線としてもよい。あるいは、稼働データにおける(SoC値、電圧値)をSoCの昇順にソートし、ソートしたデータに基づき、SoCに対して、電圧の移動平均を算出する。SoCに対する電圧値の移動平均のデータを、OCVの推定データ(OCV曲線)としてもよい。あるいは、SoCの範囲によっては、OCVとSoCとの関係がほぼ線形になる性質を利用し、この範囲で線形回帰を行って、回帰関数を生成する。生成した回帰関数をOCV曲線とする。
【0038】
電圧範囲の場合と同様、電圧変化に関する複数の特徴量を算出してもよい。例えば、充電時のデータ、放電時のデータ、又は稼働時のデータ(例えば電力回生等を行っている場合の電力回生時のデータ)から2又は3種類のデータを選択し、種類ごとに特徴量を算出してもよい。またSoC範囲を複数選択し、選択した範囲ごとに特徴量を算出してもよい。
【0039】
モデル生成部109は、算出した特徴量をそれぞれ説明変数とし、学習データにおけるSoHを目的変数(出力変数)として設定する。例えば特徴量を1日単位で算出する場合、各蓄電池について日ごとに特徴量を算出し(1日分の稼働データから特徴量を算出する)、算出した特徴量を説明変数として設定する。また、モデル生成部109は、特徴量の算出に用いた稼働データと同じ日のSoHを目的変数として設定する。
【0040】
図7の例では、電池2について、2017/1/1の全稼働データから上記の2つの特徴量を算出し、説明変数として設定する。2017/1/1のSoH(図7の例では81.3)を目的変数として設定する(2017/1/1の全稼働データには同じSoHの値が対応づいている)。電池2に関して、他の日についても同様にして説明変数、及び目的変数を設定する。
【0041】
モデル生成部109は、このように蓄電池ごとに複数の日について設定した説明変数と目的変数とに基づき、説明変数から目的変数を推定するモデルを生成する。なお、特徴量の算出に用いる稼働データに対応づいたSoHのうち少なくとも一部のSoHの値が他のSoHと異なる場合は、SoHの平均値、中央値、最大値、最小値等の統計値を用いればよい。
【0042】
例えば、目的変数となるSoHをOSoH、1つ目の説明変数となる電圧範囲に関する特徴量(例えば標準偏差)をVspread、2つ目の説明変数となる電圧変化に関する特徴量(例えば電圧傾き)をVslopeとする。このとき、モデルは、以下の式(1)で表すことができる。モデルは、例えば基準時刻から一定期間後の対象時刻における蓄電池の状態を算出する。一定期間は、例えば1週間後、1ヶ月後、1年後などである。基準時刻は、特徴量の算出に用いた稼働データの時刻(日)でもよいし、稼働データが複数の日を含む場合は、これらの日のうち最も早い日でもよい。a,b,cは係数である。このモデルは、線形モデルであるが、モデルは線形に限られない。線形回帰、非線形回帰、機械学習(ニューラルネット、ランダムフォレスト、SVRなど)など、回帰モデルを生成する手法であれば、学習手法は問わない。
【数1】
【0043】
電圧範囲及び電圧変化(電圧傾き)について、それぞれ複数の特徴量を算出する場合、モデルは以下の式(2)で表すことができる。このモデルは、線形モデルであるが、非線形モデルを生成してもよい。a1,a2,・・・,b1,b2,・・・,c1は係数である。
【0044】
【数2】
【0045】
電圧範囲及び電圧変化について、それぞれ複数の特徴量を用いる場合、ステップワイズ手法などにより、それぞれについて最適な特徴量を選択してもよい。あるいは、スパースモデリング手法などにより、説明変数の選択を含むモデルを生成してもよい。具体的には、例えば、LASSOにより、L1正則化項又はL2正則化項などを含むモデルを生成してもよい。
【0046】
また、SoHと電圧範囲・電圧変化との関係は、蓄電池の温度及び蓄電池の稼働時の電力値の少なくとも一方に依存する。モデル生成部109は、温度及び電力値の少なくとも一方がそれぞれ一定の範囲内にある学習データのみを用いてモデルを生成してもよい。
【0047】
また、温度及び電力値の少なくとも一方に関する特徴量を表す説明変数をモデルに追加してもよい。温度に関する特徴量又は電力値に関する特徴量としては、平均、標準偏差、最大値又は最小値等の統計量を算出してもよい。特徴量を、充電モード時、放電モード時又は稼働モード時などの電池の動作モード別に分けて算出してもよい。充電モード時の温度と稼働モード時の温度との差分、又は充電モード時の電力値と稼働モード時の電力値との差分など、異なるモード間での温度又は電力値の演算値を特徴量として用いてもよい。
【0048】
充電モードは、一例として一定時間以上又は一定容量以上継続して充電を行うモード(例えば蓄電池を上限容量まで充電(満充電)する場合)である。放電モードは、一例として一定時間以上又は一定容量以上継続して放電を行うモード(例えば蓄電池を下限容量まで放電する場合)である。稼働モードはその他の動作を行うモードであり、例えば一定時間未満の充電と放電とが繰り返されるモードである。回生動作が行われている状態を稼働モードとしてもよい。
【0049】
モデルDB110は、モデル生成部109によって生成されたモデルの情報(例えばモデルの式)を記憶する。具体的には、例えば、モデルの情報は、モデルの型、各係数の値、及び各説明変数が表す特徴量を識別する情報を含む。
【0050】
健全度推定部112は、入力部103を介して、稼働DB101から評価対象となる蓄電池(対象蓄電池)の稼働データを取得する。一例として、健全度推定部112は、評価対象となる蓄電池の評価対象となる日の稼働データを取得する。評価対象となる蓄電池は、モデルの生成に用いた稼働データの蓄電池とは異なる蓄電池でもよいし、同じ蓄電池でもよい。同じ蓄電池の場合、蓄電池の評価に用いる稼働データは、稼働データのうちモデルの生成に用いたデータ部分(第1データ部分)とは異なる期間のデータ部分(第2データ部分)であるとする。但し、モデルの生成に用いた稼働データと同じ期間の稼働データの使用を排除するものではない。
【0051】
健全度推定部112は、取得した稼働データに基づき、特徴量算出部106を用いて、電圧範囲(電圧広がり)に関する特徴量と、電圧変化(例えば電圧傾き)に関する特徴量とを算出する。健全度推定部112は、取得した稼働データを特徴量算出部106に提供する。
【0052】
特徴量算出部106における電圧範囲算出部107は、健全度推定部112から提供された稼働データに基づき、電圧範囲に関する特徴量を算出する。算出する特徴量は、使用するモデルで説明変数として用いられる特徴量と同じである。電圧範囲に関する特徴量の算出方法は、モデルの生成の説明で記載した方法と同じでよい。
【0053】
電圧変化算出部108は、健全度推定部112から提供された稼働データに基づき、電圧変化に関する特徴量を算出する。電圧範囲に関する特徴量の算出方法は、モデルの生成の説明で記載した方法と同じでよい。
【0054】
決定部111は、電圧範囲算出部107及び電圧変化算出部108によって、モデルで説明変数として用いられる特徴量がすべて算出されたかを判断する。電圧範囲に関する特徴量及び電圧変化に関する特徴量のうちの少なくとも1つの特徴量(第3特徴量)が算出されなかった場合は、当該第3特徴量を表す説明変数をモデルから除外することを決定する。もしくは、今回の稼働データからSoH推定を行うことはできないことを決定する。特徴量が算出されなかった場合とは、稼働データが特徴量算出のための条件を満たしていない場合である。例えば、SoCが95%以上かつ100%以下の範囲に対応する特徴量を算出する必要がある場合に、稼働データに、SoC95%以上かつ100%以下の範囲のデータが含まれない場合がある。また特徴量の算出に一定数以上のデータが必要な場合において、データ数が一定数に満たない場合もあり得る。
【0055】
健全度推定部112は、電圧範囲算出部107及び電圧変化算出部108によってそれぞれ算出された特徴量と、モデルDB110におけるモデルとに基づき、健全度(SoH)を推定する。より詳細には、健全度推定部112は、電圧範囲に関する特徴量、電圧変化に関する特徴量を、モデルにおいて該当する説明変数に割り当て、モデルの目的変数を計算する。計算された目的変数の値が、蓄電池の推定されたSoHを表す。
【0056】
複数種類のSoHが学習データに含まれており、SoHの種類ごとにモデルを生成した場合は、種類ごとにSoHを推定してもよい。
【0057】
CCCV充電/放電では、充電又は放電の終了の近くにおける時間帯(終了時間帯と呼ぶ)において電流が極めて小さくなる。このような充放電方式(第1方式)を用いた場合に、電流が極めて小さくなる終了時間帯のデータから算出されたSoH(CCCV_SoHと記載する)には、抵抗劣化、またはサイクル劣化等に起因する抵抗劣化によるSoHの減少がほとんど反映していない。そこで、蓄電池の第1の期間(例えば初期(使用開始時))に計測された計測データの終了時間帯のデータに基づき各種特徴量を算出して、算出した特徴量に基づきCCCV_SoHを推定する。蓄電池の第2の期間(評価対象期間)に計測された計測データの終了時間帯のデータに基づき各種特徴量を算出して、算出した特徴量に基づきCCCV_SoHを推定する。第1の期間に対応するCCCV_SoHと、第2の期間に対応するCCCV_SoHとの差を、貯蔵劣化による状態の変化としてもよい。すなわち、当該差を貯蔵劣化によるSoHの減少とみなしてもよい。なお、サイクル充放電により内部抵抗が大きくなった場合、充電時に上限電圧に早く到達し、放電時には下限電圧に早く到達する。このため、内部抵抗の増加により、実質、蓄電池の容量は低下する。すなわちサイクル劣化によって内部抵抗の増加のみならず、蓄電池の容量も低下する。終了時間帯は、時間によって特定しても、SoC範囲によって特定してもよい。
【0058】
また、CCCV以外の他の方式(第2方式)で充放電された計測データに基づき算出したSoHと、第1方式で充放電された計測データの終了時間帯のデータに基づき算出されたSoH(CCCV_SoH)との差を算出し、算出した差をサイクル劣化による状態の変化としてもよい。例えば、蓄電池の第1の期間に第1方式で充放電された際の計測データの終了時間帯のデータに基づき各種特徴量を算出して、算出した特徴量に基づきCCCV_SoHを推定する。蓄電池の第2の期間(評価対象期間)に第2方式で充放電された際の計測データに基づき各種特徴量を算出して、算出した特徴量に基づきSoHを推定する。第1の期間に対応するCCCV_SoHと、第2の期間に対応するSoHとの差を、サイクル劣化(内部抵抗の増加)の進行による状態の変化とみなしてもよい。すなわち、当該差を、サイクル劣化(内部抵抗の増加)によるSoHの減少とみなしてもよい。第2方式は、一例として定電力充電、定電力放電、定電流充電、定電流放電、定電圧充電及び定電圧放電のうちの1つである。
【0059】
出力DB113は、健全度推定部112により推定されたSoHを示す情報を、評価対象となる蓄電池を識別するIDに対応づけて記憶する。複数の蓄電池を評価対象としてそれぞれ複数の日についてSoH推定を行うことで、蓄電池毎にSoHの推定結果の履歴が記憶される。
【0060】
出力部114は、出力DB113に記憶されている情報に基づき、蓄電池に関するSoHの情報を出力する。出力部114は、情報を画面に表示する表示装置、又は、情報を他の装置に有線又は無線で送信する送信装置等である。情報の送信先となる他の装置は、評価対象となる蓄電池の管理者等のユーザが保持する端末装置でもよいし、評価対象となる蓄電池を遠隔監視するサーバでもよいし、評価対象となる蓄電池を搭載する装置でもよい。
【0061】
図10は、SoHの推定結果の一例である。この例ではある蓄電システムにおける電池盤1~3をそれぞれ評価対象となる蓄電池として、SoHを月単位で推定した結果の履歴が示される。電池盤1~3のSoHの推定値が時系列に推移するデータが表示されている。横軸は評価対象となった日付(月)であり、縦軸はSoHである。“19/1”は、2019年1月のことである。横軸は、日付でなく、電力量又は等価サイクル回数などでもよい。等価サイクル回数は、蓄電池がこれまで充放電された電力量の総量を電池の容量の定格値で割った値である。
【0062】
図11は、推定されたSoHに加えて、特徴量として電圧範囲(ここでは標準偏差)及び電圧変化(ここでは電圧傾き)の推移も同時に表示した例である。電圧範囲に関する特徴量のデータ及び電圧変化に関する特徴量のデータも同時に出力することで、進んでいる劣化の種類も確認できる。例えば、電圧範囲に関する特徴量(標準偏差)が増加している場合はサイクル劣化、電圧変化に関する特徴量(電圧傾き)が増加している場合は貯蔵劣化が進んでいることが確認できる。図11の例では、電池盤3のSoHが低下していると同時に、電圧範囲に関する特徴量(標準偏差)が増加しておいる。電圧傾きは緩やかに低下している。よって、電池盤3では、サイクル劣化が進んでいると判断できる。
【0063】
図12は、本実施形態に係る蓄電池評価装置における学習モードの動作の一例を示すフローチャートである。
【0064】
ステップS11において、入力部103は、稼働DB101から複数の蓄電池の稼働データを取得し、健全度DB102から複数の蓄電池の健全度データを取得し、稼働データ及び健全度データをデータ登録部104に提供する。データ登録部104は、稼働データに健全度データを対応づけて学習データを生成し、学習データを学習DB105に格納する。
【0065】
ステップS12において、電圧範囲算出部107は、モデル生成部109の制御の下、学習DB105における学習データの稼働データに基づき、電圧範囲に関する特徴量を1つ又は複数算出する。
【0066】
ステップS13において、電圧変化算出部108は、モデル生成部109の制御の下、学習DB105における学習データの稼働データに基づき、電圧変化に関する特徴量を1つ又は複数算出する。
【0067】
ステップS14において、モデル生成部109は、電圧範囲に関する特徴量と、電圧変化に関する特徴量と、学習データにおける健全度データとに基づき、SoHの推定モデルを生成する。より詳細には、電圧範囲に関する特徴量と、電圧変化に関する特徴量とをそれぞれ説明変数(入力変数)とし、SoHを目的変数(出力変数)とするモデルを生成する。モデル生成部109は、生成したモデルをモデルDB110に格納する。
【0068】
図13は、本実施形態に係る蓄電池評価装置100における推定モードの動作の一例を示すフローチャートである。
【0069】
ステップS21において、入力部103は、稼働DB101から評価対象となる蓄電池の稼働データを取得し、稼働データを健全度推定部112に提供する。評価対象となる蓄電池は1つでも、複数でもよい。
【0070】
ステップS22において、電圧範囲算出部107は、健全度推定部112の制御の下、評価対象となる蓄電池の稼働データに基づき、電圧範囲に関する特徴量を1つ又は複数算出する。算出する特徴量の種類は、モデルに入力変数として用いられている電圧範囲に関する特徴量と同じでよい。
【0071】
ステップS23において、電圧変化算出部108は、健全度推定部112の制御の下、評価対象となる蓄電池の稼働データに基づき、電圧変化に関する特徴量を1つ又は複数算出する。算出する特徴量の種類は、モデルに入力変数として用いられている電圧変化に関する特徴量と同じでよい。
【0072】
ステップS24において、決定部111は、モデルで入力変数として用いられている特徴量のすべてがステップS22及びステップS23で算出されたかを判断する。少なくとも一部の特徴量が稼働データの不足等により算出されなかった場合は、算出されなかった特徴量を含む項をモデルから削除してもよい。これにより、当該算出されなかった特徴量を用いずにSoHの推定を行うことを許容してもよい。あるいは、少なくとも一部の特徴量が算出されなかった場合は、今回SoHの推定を行うことはできないと判断して、本処理を終了してもよい。あるいは、算出されなかった特徴量の種類に応じて、当該特徴量を含む項を削除するか、SoHの推定を行うことはできないと判断するかを切り替えてもよい。
【0073】
ステップS25において、健全度推定部112は、ステップS22及びステップS23で算出された特徴量と、モデルDB110におけるモデルとに基づいて、評価対象となる蓄電池のSoHを推定する。より詳細には、ステップS22及びステップS23で算出された特徴量をモデルの説明変数に割り当て、モデルの目的変数を算出する。健全度推定部112は、算出した目的変数の値、すなわち、推定したSoHを出力DB113に格納する。SoHの推定を、稼働データにおける一定の時間(例えば1時間、1日、1週、1月など)ごとに行うことで、一定の時間ごとのSoHの推定値を、SoHの推定履歴として出力DB113に格納してもよい。
【0074】
ステップS26において、出力部114は、出力DB113におけるSoHの推定値を出力する。例えば、出力部114は、SoHの推定値を、評価対象となる蓄電池の情報とともに画面に表示する。出力部114は、1つ又は複数の蓄電池ごとに、SoHの推定値を示すグラフを画面に表示してもよい。また出力部114は、1つ又は複数の蓄電池ごとに、電圧範囲に関する特徴量の推移を示すグラフ、電圧変化に関する特徴量の推移を示すグラフを画面に表示してもよい。
【0075】
図13に示した推定モードの動作は、図12に示した学習モードの後に行われてもよいし、両モードの動作が同時並行的に行われてもよい。但し、ステップS24又はステップS25の前に学習モードの動作が完了している必要がある。
【0076】
以上、本実施形態によれば、稼働中の蓄電池から取得した稼働データに基づき電圧範囲に関する特徴量と電圧変化に関する特徴量との両方を算出し、SoHの推定を行う。これにより、蓄電池の稼働を停止させることなく、かつ、蓄電池で進んでいる劣化の種類に拘わらず、精度の高いSoHの推定が可能となる。すなわち、貯蔵劣化による容量低下と、サイクル劣化等による容量低下(及び内部抵抗の増加)との両方の性質を考慮できる。蓄電池の劣化条件に依存しない、高い精度のSoHの推定を実現することができる。本効果についてより詳細に説明すると以下の通りである。
【0077】
背景技術の欄に記載した特許文献1の手法では、蓄電池に特殊な充放電を行ったときのデータから蓄電池のSoHを計測するため、蓄電池の稼働を停止せざるを得ない。
【0078】
一方、背景技術の欄に記載した特許文献2の手法では、蓄電池の通常稼働時のデータから蓄電池のSoHを計測するため蓄電池を停止させる必要はない。本手法では、稼働中の電圧の分布(広がり)を定量化し、SoHを算出する。電圧の分布の程度(広がりの程度)は、電池の内部抵抗の増加に起因するため、内部抵抗の増加分に基づくSoHを本手法では推定している。特許文献2の手法は、サイクル劣化のように内部抵抗の増加とSoH間に相関のある劣化状態の推定に適した手法であるが、貯蔵劣化が進行した場合等では電位ずれ等による容量低下が大きく生じる。このため、内部抵抗の増加とSoH間の相関が崩れることがある。このようなケースでは、SoHの推定に誤差が生じる。
【0079】
特許文献3の手法では、蓄電池の稼働時に取得された稼働データから模擬的なOCV(Open Circuit Voltage)を生成し、蓄電池の初期(使用開始時)からのOCVの推移に基づき、SoHを定量的に評価する。本手法は電位ずれの影響(貯蔵劣化)が評価に反映させられるため、貯蔵劣化が主に生じるケースに適した手法である。しかしながら、内部抵抗の増加の劣化を反映させることができない。
【0080】
蓄電池の用途によっては、サイクル劣化及び貯蔵劣化のどちらも生じ得る。例えば、蓄電池が電力系統において周波数変動抑制用途として用いられ、その後、リユースにより、電源用途として用いられる場合は、サイクル劣化及び貯蔵劣化の両方が生じ得る。したがって、蓄電池の劣化条件に依存せずにSoHを推定する必要、すなわち、貯蔵劣化及びサイクル劣化の双方による容量の低下を考慮してSoHを推定する必要がある。
【0081】
本実施形態では、貯蔵劣化に起因する容量の低下に相関する電圧変化に関する特徴量と、サイクル劣化等に起因する内部抵抗の増加(実質的に容量の低下)に相関する電圧範囲に関する特徴量とにSoHを推定することで、両方の劣化を考慮して、精度高い推定を実現できる。
【0082】
(ハードウェア構成)
図14は、本発明の実施形態に係る蓄電池評価装置100のハードウェア構成例を示す。このハードウェア構成は、前述した各実施形態に係る蓄電池評価装置100に用いることができる。図14のハードウェア構成はコンピュータ150として構成される。コンピュータ150は、CPU151、入力インタフェース152、表示装置153、通信装置154、主記憶装置155、外部記憶装置156を備え、これらはバス157により相互に通信可能に接続される。
【0083】
入力インタフェース152は、蓄電池の計測データを、配線等を介して取得する。入力インタフェース152は、ユーザが本装置に指示を与える操作手段でもよい。操作手段の例は、キーボード、マウス、タッチパネルを含む。通信装置154は、無線又は有線の通信手段を含み、EV200と有線又は無線の通信を行う。通信装置154を介して、計測データを取得してもよい。入力インタフェース152及び通信装置154は、それぞれ別個の集積回路等の回路で構成されていてもよいし、単一の集積回路等の回路で構成されてもよい。表示装置153は、例えば液晶表示装置、有機EL表示装置、CRT表示装置等である。表示装置153は、図1の出力部114に対応する。
【0084】
外部記憶装置156は、例えば、HDD、SSD、メモリ装置、CD-R、CD-RW、DVD-RAM、DVD-R等の記憶媒体等を含む。外部記憶装置156は、蓄電池評価装置100の各処理部の機能を、プロセッサであるCPU151に実行させるためのプログラムを記憶している。また、蓄電池評価装置100が備える各DBも、外部記憶装置156に含まれる。ここでは、外部記憶装置156を1つのみ示しているが、複数存在しても構わない。
【0085】
主記憶装置155は、CPU151による制御の下で、外部記憶装置156に記憶された制御プログラムを展開し、当該プログラムの実行時に必要なデータ、当該プログラムの実行により生じたデータ等を記憶する。主記憶装置155は、例えば揮発性メモリ(DRAM、SRAM等)又は不揮発性メモリ(NANDフラッシュメモリ、MRAM等)など、任意のメモリ又は記憶部を含む。主記憶装置155に展開された制御プログラムがCPU151により実行されることで、蓄電池評価装置100の各処理部の機能が実行される。蓄電池評価装置100が備える各DBも、主記憶装置155に含まれてもよい。
【0086】
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって種々の発明を形成できる。また例えば、各実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除した構成も考えられる。さらに、異なる実施形態に記載した構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0087】
100 蓄電池評価装置
101 稼働DB
102 健全度DB
103 入力部
104 データ登録部
105 学習DB
106 特徴量算出部
107 電圧範囲算出部
108 電圧変化算出部
109 モデル生成部
110 モデルDB
113 出力DB
111 決定部
112 健全度推定部
114 出力部
150 コンピュータ
152 入力インタフェース
153 表示装置
154 通信装置
155 主記憶装置
156 外部記憶装置
157 バス
201 蓄電池(蓄電システム)
221 OCV曲線
222 充電曲線
223 放電曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14