IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の前部車体構造 図1
  • 特許-車両の前部車体構造 図2
  • 特許-車両の前部車体構造 図3
  • 特許-車両の前部車体構造 図4
  • 特許-車両の前部車体構造 図5
  • 特許-車両の前部車体構造 図6
  • 特許-車両の前部車体構造 図7
  • 特許-車両の前部車体構造 図8
  • 特許-車両の前部車体構造 図9
  • 特許-車両の前部車体構造 図10
  • 特許-車両の前部車体構造 図11
  • 特許-車両の前部車体構造 図12
  • 特許-車両の前部車体構造 図13
  • 特許-車両の前部車体構造 図14
  • 特許-車両の前部車体構造 図15
  • 特許-車両の前部車体構造 図16
  • 特許-車両の前部車体構造 図17
  • 特許-車両の前部車体構造 図18
  • 特許-車両の前部車体構造 図19
  • 特許-車両の前部車体構造 図20
  • 特許-車両の前部車体構造 図21
  • 特許-車両の前部車体構造 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】車両の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20241003BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B62D25/08 E
B62D25/20 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021030069
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131228
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】西田 健二
(72)【発明者】
【氏名】河村 力
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-023618(JP,A)
【文献】特開2019-177830(JP,A)
【文献】特開2020-079015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延びて車室とエンジンルームとを区画するダッシュ部材と、このダッシュ部材の左右両端側部分から車体前後方向前方に延びる左右1対のフロントサイドフレームと、これら1対のフロントサイドフレームに固定された左右1対のサスペンションタワー部材であってサスペンション装置のダンパの上部を支持するために上方に突出するように夫々形成された左右1対のサスペンションタワー部材とを備えた車両の前部車体構造において、
前記ダッシュ部材と前記サスペンションタワー部材とを連結する第1連結部材を設け、
前記第1連結部材は繊維間に合成樹脂材料を含侵させた繊維強化樹脂製の強化層部分を有すると共に、上方に突出して車幅方向に延びる屈曲部を備え、
前記強化層部分の繊維は、長手方向に延びる繊維が長手方向以外の方向に延びる繊維よりも多くなるように配向されたことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
車幅方向に延びて車室とエンジンルームとを区画するダッシュ部材と、このダッシュ部材の左右両端側部分から車体前後方向前方に延びる左右1対のフロントサイドフレームと、これら1対のフロントサイドフレームに固定された左右1対のサスペンションタワー部材であってサスペンション装置のダンパの上部を支持するために上方に突出するように夫々形成された左右1対のサスペンションタワー部材とを備えた車両の前部車体構造において、
前記ダッシュ部材と前記1対のサスペンションタワー部材とを夫々連結する左右1対の第1連結部材と、
前記1対の第1連結部材の後端部間を連結する第2連結部材と、
前記1対の第1連結部材の前端部を前記1対のサスペンションタワー部材に夫々固定する左右1対の前側固定部材と、
前記1対の第1連結部材の後端部と前記第2連結部材の側端部を接続すると共にこれら接続部分を前記ダッシュ部材に固定する左右1対の後側固定部材とを有し、
前記第1,第2連結部材は、平面視にて略U字状に形成され
前記第1連結部材は繊維間に合成樹脂材料を含侵させた繊維強化樹脂製の強化層部分を有し、
前記強化層部分の繊維は、長手方向に延びる繊維が長手方向以外の方向に延びる繊維よりも多くなるように配向されたことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項3】
前記第1,第2連結部材は、断面略コ字状のアウタ部材に断面略コ字状のインナ部材を嵌合させて前記長手方向に延びる閉断面を構成することを特徴とする請求項2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
前記閉断面は、長手方向直交断面において断面中心線に対して非対称に構成されたことを特徴とする請求項3に記載の車両の前部車体構造
【請求項5】
前記第1,第2連結部材に占める前記強化層部分の体積割合が80%以上に設定されていることを特徴とする請求項2~4の何れか1項に記載の車両の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッシュ部材とサスペンションタワー部材とを繊維間に合成樹脂材料を含侵させた繊維強化樹脂製連結部材によって連結した車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車体に設けられたサスペンションタワー部材の上側頂部(以下、サスタワー頂部と表す)は、車両のサスペンション装置のダンパ機構を支持しているため、車体が、ダンパ機構を介した大きな荷重の入力により撓み変形することが知られている。
特に、車両旋回走行時、サスタワー頂部が上下変位することに起因して車体捩りモードが生じることから、車両の操安性や乗員の乗り心地が低下する虞がある。
【0003】
特許文献1の車両の前部車体構造は、サスタワー頂部の上下変位を抑制することを目的として、車室とエンジンルームとを区画するダッシュパネルと、このダッシュパネルに設置されたカウル部材と、ダッシュパネルの左右両端側部分から車体前後方向前方に延びる左右1対のフロントサイドフレームと、これら1対のフロントサイドフレームの車幅方向外側部分に夫々接合されると共にサスペンション装置のダンパの上部を支持するために上方に突出するように夫々形成された左右1対のサスペンションタワー部材とを備え、カウル部材とサスペンションタワー部材とを連結する左右1対の金属製サスタワーバーを設けている。
【0004】
近年、繊維強化樹脂、例えば、炭素繊維が含侵された炭素繊維強化樹脂(Carbon-Fiber-Reinforced-Plastic: CFRP)は、高比強度(強度/比重)と高比剛性(剛性/比重)、所謂軽さと強度・剛性とを併せ持つ物質的性質を有するため、航空機や車両等の構造材料として広く使用に供されている。この炭素繊維強化樹脂は、炭素繊維が強度等の力学的特性を分担し、母材樹脂(マトリックス)が炭素繊維間の応力伝達機能と繊維の保護機能を分担しているため、繊維が延びる繊維方向と非繊維方向(所謂、負荷の掛かる方向)によって物性が大きく異なる異方性材料を構成する。
【0005】
車体剛性と軽量化を両立させるため、繊維強化樹脂を用いる技術が提案されている。
特許文献2のサスタワーバーは、左右1対のサスペンションタワー部材のサスタワー頂部同士、或いは1対のサスタワー頂部とダッシュ部材(例えば、カウル部材)とを連結するサスタワーバーを設け、このサスタワーバーの本体部が繊維強化樹脂製板材で形成され、この繊維強化樹脂製板材は、繊維配向角度が0°/90°のFRPシートと45°/-45°のFRPシートが交互に積層するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-029162号公報
【文献】特開2010-173546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
荒れた路面走行時、サスペンションタワー部材が内倒れすると共にカウル部材が弓形に上下変位するため、サスタワー頂部とカウル部材を含むダッシュ部材との間には捩れ変位が生じる。このサスタワー頂部とダッシュ部材間の捩れ変位に起因してフロアパネル等のパネル部材に膜振動モードが生じることから、車両の走行騒音性能が悪化する虞がある。
このような場合、サスペンションタワー部材の取付剛性を高める、或いはカウル部材を含むダッシュ部材の板厚を厚くする等の方法でパネル部材の膜振動モードを抑制することも可能であるものの、必然的に車体重量の増加を招くことが懸念される。
【0008】
特許文献1,2の技術のように、1対のサスペンションタワー部材のサスタワー頂部とカウル部材とを強固に連結するサスタワーバーを設けることにより、サスタワー頂部の上下変位を低減することができる。つまり、車体捩りモードをサスタワーバーの曲げ剛性を用いて抑制することができるため、乗り心地改善を図ることが可能である。
しかし、サスペンションタワー部材とカウル部材とを連結するサスタワーバーでは、車体捩りモードを抑制することができても膜振動モードを抑制することはできない。
即ち、車体重量増加を招くことなく、サスタワー頂部の上下変位及びサスタワー頂部とダッシュ部材間の捩れ変位を同時に低減することは容易ではない。
【0009】
本発明の目的は、車体重量増加を招くことなく、サスペンションタワー頂部の上下変位の低減及びサスペンションタワー頂部とダッシュ部材間の捩れ方向の振動減衰が可能な車両の前部車体構造等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、車幅方向に延びて車室とエンジンルームとを区画するダッシュ部材と、このダッシュ部材の左右両端側部分から車体前後方向前方に延びる左右1対のフロントサイドフレームと、これら1対のフロントサイドフレームに固定された左右1対のサスペンションタワー部材であってサスペンション装置のダンパの上部を支持するために上方に突出するように夫々形成された左右1対のサスペンションタワー部材とを備えた車両の前部車体構造において、前記ダッシュ部材と前記サスペンションタワー部材とを連結する第1連結部材を設け、前記第1連結部材は繊維間に合成樹脂材料を含侵させた繊維強化樹脂製の強化層部分を有すると共に、上方に突出して車幅方向に延びる屈曲部を備え、前記強化層部分の繊維は、長手方向に延びる繊維が長手方向以外の方向に延びる繊維よりも多くなるように配向されたことを特徴としている。
【0011】
この構成によれば、前記ダッシュ部材とサスペンションタワー部材とを連結する第1連結部材を設けたため、サスペンション頂部の上下変位を低減することができ、車体捩りモードを第1連結部材の曲げ剛性を用いて抑制することができる。
前記第1連結部材は繊維間に合成樹脂材料を含侵させた繊維強化樹脂製の強化層部分を有し、前記強化層部分の繊維は、長手方向に延びる繊維が長手方向以外の方向に延びる繊維よりも多くなるように配向されているため、サスペンションタワー部材上部とダッシュ部材間の捩れ変位を第1連結部材の捩れ変位に変換することができ、車両の振動減衰能を増加して膜振動モードを抑制している。また、第1連結部材は上方に突出して車幅方向に延びる屈曲部を備えているので、車両の正面衝突時、第1連結部材の破断部分を後側上方に誘導することができ、エンジン周りに配置された配管等の部品と破断部分との干渉を回避することができる。
【0012】
請求項2の発明は、車幅方向に延びて車室とエンジンルームとを区画するダッシュ部材と、このダッシュ部材の左右両端側部分から車体前後方向前方に延びる左右1対のフロントサイドフレームと、これら1対のフロントサイドフレームに固定された左右1対のサスペンションタワー部材であってサスペンション装置のダンパの上部を支持するために上方に突出するように夫々形成された左右1対のサスペンションタワー部材とを備えた車両の前部車体構造において、前記ダッシュ部材と前記1対のサスペンションタワー部材とを夫々連結する左右1対の第1連結部材と、前記1対の第1連結部材の後端部間を連結する第2連結部材と、前記1対の第1連結部材の前端部を前記1対のサスペンションタワー部材に夫々固定する左右1対の前側固定部材と、前記1対の第1連結部材の後端部と前記第2連結部材の側端部を接続すると共にこれら接続部分を前記ダッシュ部材に固定する左右1対の後側固定部材とを有し、前記第1,第2連結部材は、平面視にて略U字状に形成され、前記第1連結部材は繊維間に合成樹脂材料を含侵させた繊維強化樹脂製の強化層部分を有し、前記強化層部分の繊維は、長手方向に延びる繊維が長手方向以外の方向に延びる繊維よりも多くなるように配向されたことを特徴としている。
【0013】
この構成によれば、前記ダッシュ部材とサスペンションタワー部材とを連結する第1連結部材を設けたため、サスペンション頂部の上下変位を低減することができ、車体捩りモードを第1連結部材の曲げ剛性を用いて抑制することができる。
前記第1連結部材は繊維間に合成樹脂材料を含侵させた繊維強化樹脂製の強化層部分を有し、前記強化層部分の繊維は、長手方向に延びる繊維が長手方向以外の方向に延びる繊維よりも多くなるように配向されているため、サスペンションタワー部材上部とダッシュ部材間の捩れ変位を第1連結部材の捩れ変位に変換することができ、車両の振動減衰能を増加して膜振動モードを抑制している。その上、左右1対の第1連結部材を単一部品として構成することができ、取扱容易性を向上することができる。また、各連結部材を直線状に長く形成することができ、連結部材の異方性傾向を高くすることができる。
【0014】
請求項の発明は、請求項の発明において、前記第1,第2連結部材は、断面略コ字状のアウタ部材に断面略コ字状のインナ部材を嵌合させて前記長手方向に延びる閉断面を構成することを特徴としている。この構成によれば、アウタ部材とインナ部材が協働して形成した閉断面により第1,第2連結部材の曲げ剛性を増加しつつ、アウタ部材とインナ部材のうち一方の部材が形成した開断面により第1,第2連結部材の捩り剛性をコントロールすることができる。
【0015】
請求項の発明は、請求項の発明において、前記閉断面は、長手方向直交断面において断面中心線に対して非対称に構成されたことを特徴としている。この構成によれば、第1,第2連結部材に曲げ荷重が入力された場合であっても、第1,第2連結部材の捩れ変位に容易に変換することができる。
【0016】
請求項の発明は、請求項2~4の何れか1項の発明において、前記第1,第2連結部材に占める前記強化層部分の体積割合が80%以上に設定されていることを特徴としている。この構成によれば、車体捩りモード及び膜振動モードの抑制効果と実用性とを両立することができる。強化層部分の体積割合が80%未満では、車体捩りモード及び膜振動モードの抑制効果が十分ではなく、強化層部分の体積割合が80%以上の場合、第1,第2連結部材の電蝕対策を行いつつ、車体挙動モードを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両の前部車体構造によれば、サスペンションタワー頂部とダッシュ部材間に異方性材料である繊維強化樹脂製連結部材を設置することにより、車体重量増加を招くことなく、サスペンションタワー頂部の上下変位の低減及びサスペンションタワー頂部とダッシュ部材間の捩れ方向の振動を減衰することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1に係る車両を斜め上方から視た図である。
図2】前部車体構造の斜視図である。
図3】前部車体構造の平面図である。
図4図3のIV-IV線断面図である。
図5】車体モードの説明図であって、(a)は、車体捩りモード、(b)は、膜振動モードの説明図である。
図6】ストラットタワーバーの斜視図である。
図7】ストラットタワーバーの平面図である。
図8】第1連結部材アウタの斜視図である。
図9】第1連結部材インナの斜視図である。
図10】前側固定部材アウタの斜視図である。
図11】前側固定部材インナの斜視図である。
図12】後側固定部材アウタの斜視図である。
図13】後側固定部材インナの斜視図である。
図14図7のXIV-XIV線断面図である。
図15図7のXV-XV線断面図である。
図16図7のXVI-XVI線断面図である。
図17図7のXVII-XVII線断面図である。
図18】第1連結部材アウタの断面拡大図である。
図19】第1連結部材及び前側固定部材の分解斜視図である。
図20】曲げ剛性の比較検証結果を示すグラフである。
図21】振動減衰性の比較検証結果を示すグラフである。
図22】車両衝突時の第1連結部材の挙動説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明は、本発明を車両の下部車体構造に適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例1について図1図22に基づいて説明する。
まず、車両Vの全体構成について説明する。
図1図4に示すように、車両Vは、モノコック式ボディで構成され、車室Rの底面を形成するフロアパネルと、このフロアパネルの前端部から上方へ立ち上がるように形成され且つエンジンルームEと車室Rとを車幅方向に仕切るダッシュパネル1と、このダッシュパネル1の前面から前方に延びる左右1対のフロントサイドフレーム2と、フロアパネルの後端側部分から後方に延びる左右1対のリヤサイドフレーム(図示略)とを備えている。
【0021】
また、この車両Vは、ダッシュパネル1の上部に形成されると共に車幅方向に延びるカウル部材3と、エンジンルームE内に膨出するように形成された左右1対のストラットタワー4(サスペンションタワー部材)等を備えている。尚、この車両Vは、独立懸架タイプのストラット式サスペンションが搭載されている。以下、矢印F方向を前方とし、矢印L方向を左方とし、矢印U方向を上方として説明する。
【0022】
カウル部材3は、鋼板をプレス成形することにより桶状に形成されている。
このカウル部材3は、カウルパネル5と、このカウルパネル5の前端部から前方に張り出すと共にカウルパネル5と協働して桶状構造体を構成するカウルメンバ6と、カウルパネル5とカウルメンバ6の上部を部分的に覆うカウルグリル7とを主な構成要素としている。
【0023】
図4に示すように、カウルメンバ6の前壁部の左右両端側部分には、前方に張り出した左右1対の取付ブラケット8が配設されている。これら1対の取付ブラケット8は、平面視にて略部分楕円状に形成され、その上面から鉛直上方に延びるスタッドボルト9が夫々設けられている。尚、カウルメンバ6は、ダッシュパネル1と一体的に形成可能であるため、ダッシュパネル1とカウルメンバ6とが本発明のダッシュ部材に相当している。
【0024】
図1図4に示すように、1対のストラットタワー4は、上方に突出するように夫々形成されている。具体的には、ストラットタワー4は、前後に延びるエプロンレインフォースメント10とフロントサイドフレーム2との間に掛け渡されたホイールエプロン(図示略)からエンジンルームE内に膨出するように形成されている。この車両Vの構成は、略左右対称構造であるため、以下、右側部材及び右側構造について主に説明する。
【0025】
ストラットタワー4は、後側程上方に移行する軸心を有する中空状の円筒部4aと、この円筒部4aの上端部を塞ぐ円環状の頂部4bとを備えている。頂部4bには、上方に延びる複数のスタッドボルト11が立設されている。このストラットタワー4には、フロントサスペンション装置(図示略)のダンパ機構(ダンパ、スプリング等)の上部が部分的に収容されている。ダンパ機構の上端部分に結合されたスプリングシートが、マウントラバーを介して複数の締結部材により頂部4bに締結固定されている(何れも図示略)。
【0026】
次に、ストラットタワーバー20について説明する。
図1図4に示すように、この車両Vには、1対のストラットタワー4とカウルメンバ6とを複数の締結部材を介して構造的に連結するストラットタワーバー20が設けられている。このストラットタワーバー20は、平面視にて略U字状に形成され、乗り心地に影響を与える車体の挙動モード(車体捩れモード、膜振動モード)を抑制可能に構成されている。
【0027】
ここで、車体の挙動モードについて説明する。
車体捩れモードは、車両旋回走行時の挙動モードである。
図5(a)の矢印に示すように、車両旋回走行時、ダンパ機構の伸縮動作に伴いストラットタワー4の頂部4bが上下方向に変位する。この頂部4bの上下変位に起因して車体中心軸回りの車体捩りモードが生じ、操縦安定性が悪化する要因になっている。
【0028】
膜振動モードは、荒れた路面走行時の挙動モードである。
図5(b)の矢印に示すように、荒れた路面走行時、ストラットタワー4が車幅方向内側に内倒れする一方、カウル部材3が弓形に上下方向に変位する。この頂部4bとカウル部材3間の捩れ変位に起因してパネル部材、特に面積が大きいフロアパネルに膜振動モードが生じ、乗り心地が悪化する要因になっている。
【0029】
ストラットタワーバー20の説明に戻る。
図6図7に示すように、ストラットタワーバー20は、後側程車幅方向内側に移行する左右1対の第1連結部材30と、車幅方向に延びて1対の第1連結部材30の後端部間を連結する第2連結部材40と、1対の第1連結部材30の前端部を1対のストラットタワー4の頂部4bから立設されたスタッドボルト11に締結部材23を介して夫々固定する左右1対の前側固定部材50と、1対の第1連結部材30の後端部と第2連結部材40の左右両端部を夫々接続すると共にこれら接続部分をスタッドボルト9と締結部材(図示略)を介して取付ブラケット8に締結固定する左右1対の後側固定部材60とを主な構成要素としている。
【0030】
第1,第2連結部材30,40は、強化材、例えば、炭素繊維に合成樹脂、例えば、熱硬化性エポキシ系合成樹脂を含侵させた炭素繊維強化樹脂(CFRP)を主な材料としている。
炭素繊維は、第1,第2連結部材30,40の長手方向の一端から他端に亙って連続して一様に延びる単繊維が所定数束ねられた繊維束(トウ)で構成されている。
前側固定部材50及び後側固定部材60は、アルミニウム合金材料にて構成されている。
それ故、前側固定部材50及び後側固定部材60は、第1,第2連結部材30,40よりも曲げ剛性及び捩り剛性が共に大きくなるように構成されている。
【0031】
第1,第2連結部材30,40の板材は、3種類の層部分によって構成されている。
図18に示すように、第1,第2連結部材30,40は、厚さ方向中央部に配置された中央層部分L1と、この中央層部分L1を挟み込むように配置された本体層部分L2と、この本体層部分L2の表面を覆う表面層部分L3によって構成されている。表面層部分L3は、耐食性(電蝕性)確保のために設けられている。
【0032】
中央層部分L1は、炭素繊維が長手直交方向に延びるように配列された配向90°の繊維強化樹脂層である。本体層部分L2は、前述した炭素繊維が長手方向に延びるように配列された配向0°の繊維強化樹脂層である。表面層部分L3は、織り込まれたガラス繊維に合成樹脂を含侵させたガラス繊維強化樹脂(GFRP)層である。各層の体積割合は、例えば、L1:L2:L3=7:80:13に設定されている。
【0033】
次に、第1連結部材30について説明する。
図8図9図14図15に示すように、第1連結部材30は、長手方向直交断面略コ字状の第1連結部材アウタ31と、第1連結部材アウタ31と協働して長手方向中間部分に長手方向に延びる閉断面C1を形成する断面略コ字状の第1連結部材インナ32とを備えている。第1連結部材アウタ31は、長手方向両端部分に開断面を有している。閉断面C1は、長手方向直交断面において断面中心線Cに対して非対称に構成されている。これにより、第1連結部材30に曲げ荷重が入力された場合、第1連結部材30の捩れ変位に変換している。
【0034】
第1連結部材アウタ31は、上壁部31sと、上壁部31sの長手方向に平行な両端部から下方に延びる1対の側壁部31tとを備えている。
側壁部31tのうち長手方向前側部分と後側部分とは、中間部分よりも幅(上下寸法)が大きくなるように設定されている。1対の側壁部31tの前側部分には、前から順に開口部31a,31bが夫々形成され、1対の側壁部31tの後側部分には、前から順に開口部31c,31dが夫々形成されている。上壁部31sの前側部分には、開口部31aに対応した位置に開口部pが形成され、上壁部31sの後側部分には、開口部31dに対応した位置に開口部31qが形成されている。上壁部31sの後側途中部には、上方に突出して左右方向に延びる屈曲部31xが形成されている。
【0035】
第1連結部材インナ32は、第1連結部材アウタ31よりも長手方向寸法が短く構成されている。第1連結部材インナ32は、上壁部32sと、上壁部32sの長手方向に平行な両端部から下方に延びる1対の側壁部32tとを備えている。
側壁部32tのうち長手方向前側部分と後側部分とは、中間部分よりも幅が大きくなるように設定されている。1対の側壁部32tの前側部分には、開口部31bに対応した位置に開口部32bが夫々形成され、1対の側壁部32tの後側部分には、開口部31cに対応した位置に開口部32cが夫々形成されている。上壁部32sの後側途中部には、屈曲部31xに対応した位置に上方に突出して左右方向に延びる屈曲部32xが形成されている。第1連結部材インナ32の長手方向両端部には、断面略コ字状の調整部材21が夫々配設されている。
【0036】
次に、第2連結部材40について説明する。
図16図17に示すように、第2連結部材40は、第1連結部材30と同様の材料で構成され、長手方向直交断面略コ字状の第2連結部材アウタ41と、第2連結部材アウタ41と協働して長手方向中間部分に長手方向に延びる閉断面C2を形成する断面略コ字状の第2連結部材インナ42とを備えている。第2連結部材アウタ41は、長手方向両端部分に開断面を有している。閉断面C2は、長手方向直交断面において断面中心線に対して対称且つ略台形状に構成されている。これにより、第2連結部材40の曲げ剛性を高くしている。
【0037】
第2連結部材アウタ41は、上壁部41sと、上壁部41sの長手方向に平行な両端部から下方に延びる1対の側壁部41tとを備えている。
側壁部41tのうち長手方向左側部分と右側部分とは、中間部分よりも幅が大きくなるように設定されている。1対の側壁部41tの右側部分及び左側部分には、車幅方向外側開口部41a及び車幅方向内側開口部41bが夫々形成され、上壁部41sの右端部分及び左端部分には、開口部41aに対応した位置に開口部41pが夫々形成されている(図6参照)。
【0038】
図17に示すように、第2連結部材インナ42は、第2連結部材アウタ41よりも長手方向寸法が短く構成されている。第2連結部材インナ42は、上壁部42sと、上壁部42sの長手方向に平行な両端部から下方に延びる1対の側壁部42tとを備えている。側壁部のうち長手方向前側部分と後側部分とは、中間部分よりも幅が大きくなるように設定されている。1対の側壁部の前側部分には、開口部41bに対応した位置に開口部42bが夫々形成されている(図6参照)。第2連結部材インナ42の長手方向両端部には、断面略コ字状の調整部材22が夫々配設されている。
【0039】
次に、前側固定部材50について説明する。
図10図11図15に示すように、前側固定部材50は、長手方向直交断面略ハット状の前側固定部材アウタ51と、前側固定部材アウタ51と協働して長手方向前側部分に長手方向に延びる閉断面を形成する断面略コ字状の前側固定部材インナ52とを備えている。前側固定部材アウタ51は、前側固定部材インナ52よりも長手方向寸法が短く構成されている。前側固定部材50の閉断面は、第1連結部材30の開断面領域S1bに対応するように配置され、前側固定部材50の開断面は、第1連結部材30の閉断面領域S1aが対応するように配置されている。
【0040】
前側固定部材アウタ51は、上壁部51sと、上壁部51sの軸心に平行な両端部から下方に延びた後で軸心から離隔方向に延びる1対の側壁部51tとを備えている。
側壁部51tのうち閉断面構成壁部に相当する鉛直部分には、前から順に開口部51m,51aが夫々形成され、フランジ部に相当する水平部分には、開口部51eが夫々形成されている。上壁部51sには、開口部51m,51aに対応した位置に開口部51n,51pが夫々形成されている。尚、開口部51eには、スタッドボルト11が挿通される。
【0041】
前側固定部材インナ52は、上壁部52sと、上壁部52sの長手方向に平行な両端部から下方に延びる1対の側壁部52tとを備えている。側壁部52tには、開口部51mに対応した位置に開口部52m、開口部51aに対応した位置に開口部52a、この開口部52aの後側位置で且つ開口部31b(開口部32b)に対応した位置に開口部52bが夫々形成されている。上壁部52sの前側部分には、開口部51nに対応した位置に開口部52nが形成されている。
【0042】
次に、後側固定部材60について説明する。
図12図13図15図17に示すように、後側固定部材60は、長手方向直交断面略コ字状の後側固定部材アウタ61と、後側固定部材アウタ61と協働して長手方向に延びる閉断面を形成する断面略コ字状の後側固定部材インナ62とを備えている。後側固定部材アウタ61は、後側固定部材インナ62よりも長手方向寸法が短く構成されている。後側固定部材60の閉断面の車幅方向外側部分は、第1連結部材30の開断面領域S1bに対応するように配置され、後側固定部材60の閉断面の車幅方向内側部分は、第2連結部材40の開断面領域S2bに対応するように配置されている。
また、後側固定部材60の車幅方向外側開断面は、第1連結部材30の閉断面領域S1aに対応するように配置され、後側固定部材60の車幅方向内側開断面は、第2連結部材40の閉断面領域S2aに対応するように配置されている。
【0043】
後側固定部材アウタ61は、上壁部61sと、上壁部61sの長手方向に平行な両端部から下方に延びる1対の側壁部61tとを備えている。
側壁部61tには、車幅方向外側に開口部31dに対応した開口部61d、車幅方向内側に開口部41aに対応した開口部61aが夫々形成されている。
上壁部61sには、開口部31qに対応した開口部61qと、開口部41pに対応した開口部61pと、途中部に配置されたスタッド穴61rが夫々形成されている。
【0044】
後側固定部材インナ62は、上壁部62sと、上壁部62sの長手方向に平行な両端部から下方に延びる1対の側壁部62tとを備えている。側壁部62tには、車幅方向外側から順に、開口部31cに対応した開口部62c、開口部31dに対応した開口部62d、開口部41aに対応した開口部62a、開口部41bに対応した開口部62bが夫々形成されている。上壁部62sには、スタッド穴61rに対応したスタッド穴62rが設けられている。尚、開口部61r,62rには、スタッドボルト9が挿通される。
【0045】
図12図13に示すように、後側固定部材アウタ61の車幅方向内側端部と後側固定部材インナ62の車幅方向内側端部は、平面視にて略平行になるように形成されている。
図17に示すように、後側固定部材アウタ61の車幅方向内側端部と第2連結部材アウタ41との境界部B1は、後側固定部材インナ62の車幅方向内側端部と第2連結部材インナ42との境界部B2よりも平面視にて車幅方向外側に配設されている。
【0046】
図7に示すように、左右1対の境界部B1(B2)は、傾斜状に形成されている。
ストラットタワーバー20を車体に取り付けた状態でカウル部材3が弓形に上下方向に変位したとき、中立軸Aに対して境界部B1(B2)は、所定角度θで交差するように設定されている。1対の境界部B1(B2)の境界部間距離は、カウル部材3に最も近接した後側境界部間距離D1が最も短く、カウル部材3から最も離隔した前側境界部間距離D2が最も長くなるように形成されている。尚、中立軸Aは、第2連結部材40の中立面と長手方向直交断面が交差する線である。
【0047】
次に、ストラットタワーバー20の組立工程について説明する。
図19に示すように、第1連結部材30は、開口部31b,31cと開口部32b,32cを夫々位置合わせした後、第1連結部材アウタ31に第1連結部材インナ32を接着剤を用いて閉断面C1を形成するように嵌合固着されている。第1連結部材インナ32の長手方向一端側及び他端側には、1対の調整部材21が夫々配置される。調整部材21の上壁部には開口部21p、側壁部には21aが夫々形成されている。
1対の調整部材21は、第1連結部材アウタ31の開口部31a,31dに開口部21aが対応し、開口部31p,31qに開口部21pが対応するように位置決めされる。
【0048】
第2連結部材40についても、第2連結部材アウタ41と第2連結部材インナ42が略同様の手順で閉断面C2を形成するように嵌合固着されている。
第2連結部材インナ42の長手方向一端側及び他端側には、1対の調整部材22が夫々配置される。調整部材22の上壁部には開口部22p、側壁部には22aが夫々形成されている。1対の調整部材22は、第2連結部材アウタ41の開口部41aに開口部22aが対応し、開口部41pに開口部22pが対応するように位置決めされる。
【0049】
前側固定部材アウタ51は、第1連結部材アウタ31の端部を上方から覆い、前側固定部材インナ52は、調整部材21と第1連結部材インナ32を下方から覆うことで、前側固定部材アウタ51と前側固定部材インナ52は、閉断面と開断面とを形成している。
前側固定部材50は、第1連結部材30を外周から囲繞しているため、第1連結部材30よりも断面積が大きく、断面二次モーメント及び断面二次極モーメントが大きくなるように構成されている。
【0050】
このとき、開口部51nと開口部52n、開口部51mと開口部52mが夫々一致している。前側固定部材アウタ51の開口部51a,51p及び前側固定部材インナ52の開口部52a,52bは、ビス(図示略)等を介して第1連結部材30に固定されるため、固定部に相当している。
【0051】
図15に示すように、ストラットタワーバー20は、第1連結部材30の長手方向途中部では、第1連結部材アウタ31と第1連結部材インナ32の2枚、これより前側部分では、第1連結部材アウタ31と第1連結部材インナ32と前側固定部材インナ52の3枚、更に前側部分では、前側固定部材アウタ51と第1連結部材アウタ31と第1連結部材インナ32と前側固定部材インナ52の4枚の板厚を有している。
更に前側部分では、ストラットタワーバー20は、前側固定部材アウタ51と第1連結部材アウタ31と調整部材21と前側固定部材インナ52の4枚、更に前側部分では、前側固定部材アウタ51と第1連結部材アウタ31と前側固定部材インナ52の3枚、更に前側部分では、前側固定部材アウタ51と前側固定部材インナ52の2枚の板厚を有している。
【0052】
後側固定部材アウタ61は、第1連結部材アウタ31の端部を上方から覆い、後側固定部材インナ62は、調整部材25と第1連結部材インナ32を下方から覆うことで、後側固定部材アウタ61と後側固定部材インナ62は、閉断面と開断面とを形成している。
後側固定部材60は、第1連結部材30を外周から囲繞しているため、第1連結部材30よりも断面積が大きく、断面二次モーメント及び断面二次極モーメントも大きくなるように構成されている。後側固定部材アウタ61の開口部61d,61q及び後側固定部材インナ62の開口部62c,62dは、ビス(図示略)等を介して第1連結部材30に固定されるため、固定部に相当している。
【0053】
図15に示すように、ストラットタワーバー20は、第1連結部材30の長手方向途中部では、第1連結部材アウタ31と第1連結部材インナ32の2枚、これより後側部分では、第1連結部材アウタ31と第1連結部材インナ32と後側固定部材インナ62の3枚、更に後側部分では、後側固定部材アウタ61と第1連結部材アウタ31と調整部材25と後側固定部材インナ62の4枚の板厚を有している。
更に後側部分では、ストラットタワーバー20は、後側固定部材アウタ61と第1連結部材アウタ31と後側固定部材インナ62の3枚、更に後側部分では、後側固定部材アウタ61と後側固定部材インナ62の2枚の板厚を有している。
【0054】
また、後側固定部材アウタ61は、第2連結部材アウタ41の端部を上方から覆い、後側固定部材インナ62は、調整部材22と第2連結部材インナ42を下方から覆うことで、後側固定部材アウタ61と後側固定部材インナ62は、閉断面と開断面とを形成している。後側固定部材60は、第2連結部材40を外周から囲繞しているため、第2連結部材40よりも断面積が大きく、断面二次モーメント及び断面二次極モーメントも大きくなるように構成されている。後側固定部材アウタ61の開口部61a,61p及び後側固定部材インナ62の開口部62a,62bは、ビス(図示略)等を介して第2連結部材40に固定されるため、固定部に相当している。
【0055】
図17に示すように、ストラットタワーバー20は、第2連結部材40の長手方向途中部では、第2連結部材アウタ41と第2連結部材インナ42の2枚、これより車幅方向外側部分では、第2連結部材アウタ41と第2連結部材インナ42と後側固定部材インナ62の3枚、更に車幅方向外側部分では、後側固定部材アウタ61と第1連結部材アウタ31と第2連結部材インナ42と後側固定部材インナ62の4枚の板厚を有している。更に車幅方向外側部分では、ストラットタワーバー20は、後側固定部材アウタ61と第1連結部材アウタ31と調整部材27と後側固定部材インナ62の4枚、更に車幅方向外側部分では、後側固定部材アウタ61と第1連結部材アウタ31と後側固定部材インナ62の3枚、更に車幅方向外側部分では、後側固定部材アウタ61と後側固定部材インナ62の2枚の板厚を有している。
【0056】
以上により、ストラットタワーバー20は、長手方向に沿って板厚の変化を視たとき、2枚以上変化することがない。換言すれば、ストラットタワーバー20は、長手方向に沿った部材の剛性変化を抑制しているため、車体挙動モードに起因した局所変位の発生を抑制することができる。
【0057】
次に、本実施例の車両Vの前部車体構造における作用、効果について説明する。
作用、効果の説明に当り、膜振動モードにおける車両Vの変形挙動についてCAE(Computer Aided Engineering)による解析を行った。
【0058】
まず、この解析の基本的な考え方について説明する。
25×250×2.0(mm)の炭素繊維強化樹脂板材の構造解析モデルを3種類設定し、曲げ剛性と振動減衰性とを夫々比較検証した。
モデルM1は、全て配向0°の炭素繊維強化樹脂層で構成されている。モデルM2は、配向0°の炭素繊維強化樹脂層が87%、この配向0°の炭素繊維強化樹脂層の表面に13%のガラス繊維強化樹脂層が配設されている。モデルM3は、本実施形態と同様に、中心部分に配向90°の炭素繊維強化樹脂層が7%、この配向90°の炭素繊維強化樹脂層の表面に配向0°の炭素繊維強化樹脂層を80%、この配向0°の炭素繊維強化樹脂層の表面に13%のガラス繊維強化樹脂層が配設されている。
【0059】
図20に、曲げ剛性の検証結果を示す。尚、共振周波数が高い程、曲げ剛性は高くなる。
図20に示すように、モデルM2は、モデルM1よりも曲げ剛性が低くなるものの、電蝕対策は、実施時、信頼性確保上必須構成である。モデルM3は、モデルM2と略同等の曲げ剛性であることに加え、大荷重/耐久疲労性を確保することができる。
【0060】
図21に、振動減衰性の検証結果を示す。尚、モード減衰比が高い程、歪エネルギーの蓄積量が大きく、振動減衰効果が高い。
図21に示すように、モデルM2は、モデルM1よりも振動減衰性が低くなるものの、電蝕対策は必須である。モデルM3は、モデルM2と略同等の振動減衰性であることに加え、大荷重/耐久疲労性を確保することができる。以上により、車体捩りモード及び膜振動モードの抑制効果と実用性とを両立することが確認された。
【0061】
この車両Vの前部車体構造によれば、カウルメンバ6とストラットタワー4とを連結する第1連結部材30を設けたため、ストラットタワー4の頂部4bの上下変位を低減することができ、車体捩りモードを第1連結部材30の曲げ剛性を用いて抑制することができる。第1連結部材30は繊維間に合成樹脂材料を含侵させた繊維強化樹脂製の強化層部分を有し、強化層部分の繊維は、長手方向に延びる繊維が長手方向以外の方向に延びる繊維よりも多くなるように配向されているため、ストラットタワー4の上部とカウルメンバ6間の捩れ変位を第1連結部材30の捩れ変位に変換することができ、車両Vの振動減衰能を増加して膜振動モードを抑制している。第1連結部材30による捩れ変位は、歪エネルギーと運動エネルギーに変換され、この歪エネルギーは第1連結部材30の合成樹脂材料に剪断歪として一旦蓄えられる。その後、蓄積された歪エネルギー(剪断歪)は、運動エネルギーに再び変換され、その一部が熱エネルギーとして散逸される。
【0062】
カウルメンバ6と1対のストラットタワー4とを夫々連結する左右1対の第1連結部材30と、1対の第1連結部材30の後端部間を連結する第2連結部材40と、1対の第1連結部材30の前端部を1対のストラットタワー4に夫々固定する左右1対の前側固定部材50と、1対の第1連結部材30の後端部と第2連結部材40の側端部を接続すると共にこれら接続部分をカウルメンバ6に固定する左右1対の後側固定部材60とを有し、第1,第2連結部材30,40は、平面視にて略U字状に形成されている。
これにより、左右1対の第1連結部材30を単一部品として構成することができ、取扱容易性を向上することができる。また、各連結部材21,22を直線状に長く形成することができ、連結部材21,22の異方性傾向を高くすることができる。
【0063】
図22の2点鎖線に示すように、第1連結部材30は上方に突出して車幅方向に延びる屈曲部31x(32x)を備えているため、車両Vの正面衝突時、第1連結部材30の破断部分を後側上方に誘導することができ、エンジン周りに配置された部品(燃料配管等)と破断部分との干渉を回避することができる。尚、図中、実線が衝突前の状態、二点鎖線が衝突後の状態を示している。
【0064】
第1,第2連結部材30,40は、断面略コ字状のアウタ部材21a,22aに断面略コ字状のインナ部材21b,22bを嵌合させて長手方向に延びる閉断面C1を構成するため、アウタ部材とインナ部材が協働して形成した閉断面C1により第1,第2連結部材30,40の曲げ剛性を増加しつつ、アウタ部材21a,22aとインナ部材21b,22bのうち一方の部材が形成した開断面により第1,第2連結部材30,40の捩り剛性をコントロールすることができる。
【0065】
閉断面C1は、長手方向直交断面において断面中心線Cに対して非対称に構成されているため、第1連結部材30に曲げ荷重が入力された場合であっても、第1連結部材30の捩れ変位に容易に変換することができる。
【0066】
第1,第2連結部材30,40に占める強化層部分の体積割合が80%以上に設定されているため、車体捩りモード及び膜振動モードの抑制効果と実用性とを両立することができる。強化層部分の体積割合が80%未満では、車体捩りモード及び膜振動モードの抑制効果が十分ではなく、強化層部分の体積割合が80%以上の場合、第1,第2連結部材30,40の電蝕対策を行いつつ、車体挙動モードを抑制することができる。
【0067】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、炭素繊維強化樹脂製第1,第2連結部材30,40の例を説明したが、少なくとも長手方向に延びる繊維が長手方向以外の方向に延びる繊維よりも多くなるように配向されていれば良く、炭素繊維に限られるものではない。
また、長手方向に延びる繊維による強化層部分の体積割合が80%の例を説明したが、少なくとも強化層部分の体積割合が80%以上であれば本発明の効果を奏することができる。
【0068】
2〕前記実施形態においては、第2連結部材40の長手直交断面(閉断面C2)形状が断面中心線に対して対称且つ略台形状に形成された例を説明したが、断面中心線に対して非対称に形成することで、振動減衰性を更に増加することができる。
【0069】
3〕前記実施形態においては、ストラット式サスペンションの例を説明したが、少なくとも、上方に突出した円筒状のタワー部材を有していれば良く、スイングアーム式或いはマルチリンク式サスペンションを備えた車両に適用しても良い。
【0070】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0071】
1 ダッシュパネル
2 フロントサイドフレーム
4 ストラットタワー
6 カウルメンバ
20 ストラットタワーバー
30 第1連結部材
31 第1連結部材アウタ
31x 屈曲部
32 第1連結部材インナ
32x 屈曲部
40 第2連結部材
41 第2連結部材アウタ
42 第2連結部材インナ
50 前側固定部材
60 後側固定部材
V 車両
R 車室
E エンジンルーム
L1 (配向90°)繊維強化樹脂層
L2 (配向0°)繊維強化樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22