(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物、ポリエステル系射出成形体、ポリエステル系押し出し成形体、ポリエステル系発泡体、ポリエステル系容器、ポリエステル系ボトル、ポリエステル系食器、及びポリエステル系哺乳瓶
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20241003BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20241003BHJP
C08G 63/672 20060101ALI20241003BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20241003BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20241003BHJP
B29C 48/00 20190101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K5/29
C08G63/672
B65D1/00 110
B29C45/00
B29C48/00
(21)【出願番号】P 2021516152
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2020017304
(87)【国際公開番号】W WO2020218324
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2019084202
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】田桑 謙
(72)【発明者】
【氏名】永井 雅之
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105873(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0073474(KR,A)
【文献】特開2003-193330(JP,A)
【文献】特表平11-506487(JP,A)
【文献】特開平07-292229(JP,A)
【文献】特開2018-184509(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110273(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104497290(CN,A)
【文献】国際公開第2017/146949(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08G
C08L
B65D
C08J
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)97.0質量%以上99.9質量%以下と、ポリカルボジイミド(B)0.1質量%以上3.0質量%以下と、を含むポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位が、テレフタル酸単位及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸単位を含み、
前記ポリエステル樹脂(A)中のジオール構成単位の5モル%以上90モル%以下が、下記式(1)又は式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、かつ、当該ジオール構成単位の0モル%以上90モル%以下が脂環式ジオールに由来する単位であり、
前記ポリカルボジイミド(B)が、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有する、ポリエステル樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3以上10以下の脂環式基、又は炭素数が6以上10以下の芳香族基を表す。)
【化2】
(式(2)中、R
1は前記と同様であり、R
3は炭素数が1以上10以下の脂肪族基、炭素数が3以上10以下の脂環式基、又は炭素数が6以上10以下の芳香族基を表す。)
【請求項2】
前記環状アセタール骨格を有するジオールが、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンである、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂環式ジオールが、1,4-シクロヘキサンジメタノールである、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系射出成形体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系押し出し成形体。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系発泡体。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系容器。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系ボトル。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系食器。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系哺乳瓶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物、ポリエステル系射出成形体、ポリエステル系押し出し成形体、ポリエステル系発泡体、ポリエステル系容器、ポリエステル系ボトル、ポリエステル系食器、及びポリエステル系哺乳瓶に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族系飽和ポリエステル樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある。)は、機械的性能、耐溶剤性、保香性、耐候性、リサイクル性等にバランスのとれた樹脂であり、ボトルやフィルムなどの用途を中心に幅広く用いられている。しかしながら、PETには結晶性、耐熱性に関して欠点が存在する。すなわち、結晶性に関しては、PETは結晶性が高いため、厚みのある成形体やシートを製造しようとすると、結晶化により白化し、透明性が損なわれてしまう。また、耐熱性に関しては、PETのガラス転移温度は80℃程度であるため、自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う食品包装材、加熱殺菌処理を行う哺乳瓶や食器等高い耐熱性、透明性が要求される用途には不向きといえる。
【0003】
このため、従来、透明性を必要とする用途には、1,4-シクロヘキサンジメタノールで一部共重合された変性PETやイソフタル酸で一部変性された変性PETといった低結晶性ポリエステル樹脂も用いられている。しかし、1,4-シクロヘキサンジメタノールで一部共重合された変性PETやイソフタル酸で一部変性された変性PETは、それぞれ、透明性はPETに対して改善されるものの、これらの樹脂のガラス転移温度は80℃前後であり、耐熱性に劣る。
【0004】
また、耐熱性の要求される分野に関しては、ガラス転移温度の高い、ポリエチレン2,6-ナフタレート(以下「PEN」ということがある。)やポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)等のポリエステル樹脂が用いられてきた。しかしながら、PENやポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)も耐熱性は改善されるものの、結晶性が高く透明性に劣る。
【0005】
一方、高い透明性を持ちながらPETやPENの耐熱性を改善したポリエステル樹脂として、環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂が提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかるポリエステル樹脂は、透明性と耐熱性が要求される用途での利用が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のポリエステル樹脂によれば、オーブンや熱水により長時間熱を加えた際、形状を維持できるほどの耐熱性は有しているものの、脆化が生じる問題があり、熱処理後も高い耐衝撃性が要求される用途を考慮すると、依然として改善の余地がある。
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐熱性、透明性、耐衝撃性に優れ、且つ熱処理後の脆化が生じにくいポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定の組成を有するポリエステル樹脂と、所定量のポリカルボジイミドを含むポリエステル樹脂組成物が、耐熱性、透明性、耐衝撃性に優れ、且つ熱処理後の脆化が生じにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]
ポリエステル樹脂(A)97.0質量%以上99.9質量%以下と、ポリカルボジイミド(B)0.1質量%以上3.0質量%以下と、を含むポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位が、テレフタル酸単位及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸単位を含み、
前記ポリエステル樹脂(A)中のジオール構成単位の5モル%以上90モル%以下が、下記式(1)又は式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、かつ、当該ジオール構成単位の0モル%以上90モル%以下が脂環式ジオールに由来する単位であり、
前記ポリカルボジイミド(B)が、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有する、ポリエステル樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3以上10以下の脂環式基、又は炭素数が6以上10以下の芳香族基を表す。)
【化2】
(式(2)中、R
1は前記と同様であり、R
3は炭素数が1以上10以下の脂肪族基、炭素数が3以上10以下の脂環式基、又は炭素数が6以上10以下の芳香族基を表す。)
[2]
前記環状アセタール骨格を有するジオールが、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンである、[1]に記載のポリエステル樹脂組成物。
[3]
前記脂環式ジオールが、1,4-シクロヘキサンジメタノールである、[1]に記載のポリエステル樹脂組成物。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系射出成形体。
[5]
[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系押し出し成形体。
[6]
[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系発泡体。
[7]
[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系容器。
[8]
[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系ボトル。
[9]
[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系食器。
[10]
[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、ポリエステル系哺乳瓶。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、耐熱性、透明性、耐衝撃性の保持に優れ、且つ熱処理後の脆化が生じにくい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0012】
<ポリエステル樹脂組成物>
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)97.0質量%以上99.9質量%以下と、ポリカルボジイミド(B)0.1質量%以上3.0質量%以下と、を含むポリエステル樹脂組成物であって、前記ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位が、テレフタル酸単位及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸単位を含み、前記ポリエステル樹脂(A)中のジオール構成単位の5モル%以上90モル%以下が、下記式(1)又は式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、かつ、当該ジオール構成単位の0モル%以上90モル%以下が脂環式ジオールに由来する単位であり、前記ポリカルボジイミド(B)が、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有する。
【化3】
(式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3以上10以下の脂環式基、又は炭素数が6以上10以下の芳香族基を表す。)
【化4】
(式(2)中、R
1は前記と同様であり、R
3は炭素数が1以上10以下の脂肪族基、炭素数が3以上10以下の脂環式基、又は炭素数が6以上10以下の芳香族基を表す。)
【0013】
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、上記のように構成されているため、耐熱性、透明性、耐衝撃性の保持に優れ、且つ熱処理後の脆化が生じにくいものとなる。したがって、自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う食品包装材、加熱殺菌処理を行う哺乳瓶や食器等の容器、高い耐熱性が要求される用途等に好適に用いることができる。
以下、本実施形態のポリエステル樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0014】
[ポリエステル樹脂(A)]
ポリエステル樹脂(A)は、上述のとおり、所定のジカルボン酸構成単位及びジオール構成単位を有するものであり、ポリエステル樹脂組成物100質量%に対して97.0質量%以上99.9質量%以下含まれる。
【0015】
(ジオール構成単位)
ポリエステル樹脂(A)中のジオール構成単位は、上記式(1)又は式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位を、当該ジオール構成単位100モル%に対し、5モル%以上90モル%以下含み、かつ、脂環式ジオールに由来する単位を0モル%以上90モル%以下含むものである。このように、本実施形態における脂環式ジオールに由来する単位は、ポリエステル樹脂(A)に含まれていなくてもよい任意の構成単位である。
【0016】
(環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位)
上記式(1)と(2)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の脂肪族基、炭素数が3以上10以下の脂環式基、又は炭素数が6以上10以下の芳香族基であり、好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基を表す。R3は炭素数が1以上10以下の脂肪族基、炭素数が3以上10以下の脂環式基、又は炭素数が6以上10以下の芳香族基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピル基、イソブチル基を表す。上記式(1)で表される環状アセタール骨格を有するジオールとしては、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンが特に好ましく、上記式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールとしては、5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサンが特に好ましい。
【0017】
(脂環式ジオールに由来する単位)
ポリエステル樹脂(A)のジオール構成単位中の脂環式ジオール単位は特に限定されるものではないが、例えば、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6-デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7-デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルネンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等のジオールに由来する単位が挙げられ、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する単位、ノルボルネンジメタノールに由来する単位、トリシクロデカンジメタノールに由来する単位、2,6-デカヒドロナフタレンジメタノールに由来する単位が好ましく、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する単位が特に好ましい。
【0018】
(他のジオール構成単位)
本実施形態のジオール構成単位には、環状アセタール骨格を有するジオール単位及び脂環式ジオール単位以外の他のジオール構成単位を含んでもよい。他のジオール構成単位の含有量としては、ジオール構成単位100モル%に対し、0モル%以上95モル%以下とすることができる。他のジオール構成単位としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;4,4’-(1-メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’-スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;前記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び前記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等のジオールに由来する単位が例示できる。ポリエステル樹脂の機械強度、耐熱性、入手の容易さを考慮すると、他のジオール構成単位が含まれる場合はエチレングリコールに由来する単位であることが好ましい。
【0019】
(ジカルボン酸構成単位)
ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位はテレフタル酸単位及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸単位を含むものである。なお、テレフタル酸単位はテレフタル酸に由来する単位を意味し、2,6-ナフタレンジカルボン酸単位は2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する単位を意味する。また、ジカルボン酸構成単位は、本実施形態の目的を損なわない範囲で、他のジカルボン酸構成単位を含んでいてもよい。他のジカルボン酸構成単位としては、以下に限定されないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-カルボキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5-カルボキシ-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-カルボキシエチル)-1,3-ジオキサン等の脂肪族ジカルボン酸に由来する単位;イソフタル酸、フタル酸、2-メチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸に由来する単位が挙げられる。本実施形態において、ポリエステル樹脂(A)の透明性、耐熱性、耐衝撃性及び機械強度等の物性バランスを十分に高める観点から、ジカルボン酸構成単位100モル%に対し、テレフタル酸単位及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸単位が80モル%以上100モル%以下含まれることが好ましく、90モル%以上100モル%以下含まれることがより好ましく、100モル%含まれることが特に好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)は、上記の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位を全ジオール構成単位100モル%に対して5モル%以上90モル%以下含むため、結晶性が低下し、ガラス転移温度が高くなるため、結果として高い透明性を有すると共に高い耐熱性を有するものとなる。ポリエステル樹脂(A)は、例えば、ジオール構成単位の100モル%をエチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する単位としたポリエステル樹脂や、PET、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等の他のポリエステル樹脂に比べても、透明性及び耐熱性のバランスが良好なものとなる。同様の観点から、ポリエステル樹脂(A)は、好ましくは15モル%以上80モル%以下、より好ましくは20モル%以上70モル%以下の割合で上記の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位を有する。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)は、上記の脂環族ジオールに由来する単位を全ジオール構成単位100モル%に対して0モル%以上90モル%以下含むものである。本実施形態において、ポリエステル樹脂(A)の耐衝撃性をより向上させる観点から、脂環族ジオールに由来する単位を10モル%以上90モル%以下含むことが好ましく、15モル%以上90モル%以下含むことがより好ましい。
【0022】
本実施形態において、耐衝撃性の観点から、ポリエステル樹脂(A)中のジオール構成単位の15モル%以上50モル%以下が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、15モル%以上85モル%以下が脂環式ジオールに由来する単位であるポリエステル樹脂が挙げられる。
【0023】
本実施形態において、特に透明性、耐熱性、耐衝撃性、機械強度等のバランスを考慮すると、ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位の100モル%がテレフタル酸単位及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸であり、かつ、ジオール構成単位の5モル%以上90モル%以下が3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来する単位であり、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する単位が0モル%以上90モル%以下であり、エチレングリコールに由来する単位が0モル%以上90モル%以下であることが好ましい。同様の観点から、ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位の100モル%がテレフタル酸単位及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸単位であり、かつ、ジオール構成単位の15モル%以上50モル%以下が3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来する単位であり、15モル%以上85モル%以下が1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する単位であり、0モル%以上70モル%以下がエチレングリコールに由来する単位であることが特に好ましい。
【0024】
(他の構成単位)
ポリエステル樹脂(A)には、本実施形態の目的を損なわない範囲でブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコールなどのモノアルコール単位やトリメチロールプロパン、グリセリン、1,3,5-ペンタントリオール、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコール単位、安息香酸、プロピオン酸、酪酸などのモノカルボン酸単位、トリメリット酸、ピロメリット酸など多価カルボン酸単位、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸単位を含んでもよい。
【0025】
本実施形態のポリエステル樹脂を製造する方法は特に限定されず、従来公知の方法を適用することができる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、又は溶液重合法等を挙げることができる。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来既知のものを用いることができる。
【0026】
[ポリカルボジイミド(B)]
本実施形態におけるポリカルボジイミド(B)は、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するものであれば特に限定されず、種々公知のものを用いることができる。例えば、後述する芳香族ポリカルボジイミドや脂肪族ポリカルボジイミドが挙げられる。
【0027】
芳香族ポリカルボジイミドは、カルボジイミド基が芳香族環に直接結合している化合物であり、特に限定されないが、例えば、有機リン系化合物や有機金属化合物等のカルボジイミド化触媒を用いた、ジイソシアネートの脱炭酸縮合反応により合成することができる。前記ジイソシアネートの具体例としては、以下に限定されないが、1,5-ナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、3,3’,5,5’-テトライソプロピルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、1,3,5-トリイソプロピルベンゼン-2,4-ジイソシアネート等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、安定性の観点から、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3,5-トリイソプロピルベンゼン-2,4-ジイソシアネートが好ましい。
【0028】
脂肪族ポリカルボジイミドは、カルボジイミド基が芳香族環以外の炭素原子に結合している化合物であり、特に限定されないが、同様に、有機リン系化合物や有機金属化合物等のカルボジイミド化触媒を用いた、ジイソシアネートの脱炭酸縮合反応により合成することができる。前記ジイソシアネートの具体例としては、以下に限定されないが、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、安定性の観点から、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0029】
芳香族ポリカルボジイミド又は脂肪族ポリカルボジイミドは、合成に用いられるジイソシアネート末端のイソシアネート基と反応性を有する単官能の化合物と反応させることにより封止し、重合度を調整することができる。このような化合物の具体例としては、以下に限定されないが、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、イソプロピルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート等のモノイソシアネート;メタノール、イソプロピルアルコール、フェノール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール;ブチルアミン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン等のアミン;プロピオン酸、安息香酸等のカルボン酸等が挙げられる。
【0030】
ポリカルボジイミド(B)の重合度は、ポリエステル樹脂組成物の耐衝撃性向上及び熱処理後の脆化抑制の観点から、2以上50以下であることが好ましく、より好ましくは5以上30以下である。ポリエステル樹脂組成物の耐衝撃性をより向上させ、熱処理後の脆化抑制をより高める観点から、重合度5以上30以下の4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートからなる脂肪族ポリカルボジイミドをポリカルボジイミド(B)として用いることがとりわけ好ましい。
【0031】
ポリカルボジイミド(B)は、芳香族ポリカルボジイミドと脂肪族ポリカルボジイミドのうち、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。本実施形態において、安定性やカルボジイミド基の反応性の観点からは脂肪族ポリカルボジイミドを用いることが好ましい。
【0032】
(作用機序)
ここでは、本実施形態のポリエステル樹脂組成物に係る作用機序について説明するが、当該説明は推測によるものであり、以下の作用機序に限定する趣旨ではない。
すなわち、ポリエステル樹脂(A)は、前述のとおり、耐熱性、透明性及び耐衝撃性において優れた性能を発揮するものであるが、本実施形態のポリエステル樹脂組成物においては、ポリカルボジイミド(B)が、ポリエステル樹脂(A)の分子鎖を延長または分岐させることにより、耐熱性、透明性及び耐衝撃性の良好な物性バランスが得られるだけでなく、当該物性バランスをとりわけ良好なものとすることができる。すなわち、ポリカルボジイミド(B)の作用が、ポリエステル樹脂(A)の性能と相俟って、良好な耐熱性及び透明性を確保しつつ、特に耐衝撃性が向上すると共に、熱処理後の脆化が格段に抑制されるという効果が奏される。上記観点より、ポリエステル樹脂組成物100質量%に対するポリエステル樹脂(A)の含有量を97.0質量%以上かつポリカルボジイミド(B)の含有量を3.0質量%以下とする。ポリエステル樹脂(A)の含有量が97.0質量%未満であると、耐熱性、透明性及び耐衝撃性のバランスを確保しづらくなる。ポリカルボジイミド(B)の含有量が3.0質量%超であると、ポリカルボジイミド(B)に起因する凝集物、劣化物、ゲル化物等により耐衝撃性が不十分となり、熱処理後の脆化が極端に進行しやすくなる。したがって、本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)を97.0質量%以上99.9質量%以下含み、かつ、ポリカルボジイミド(B)を0.1質量%以上3.0質量%以下含むことが重要となる。上述した観点から、ポリエステル樹脂組成物中のポリエステル樹脂(A)の含有量は、98.0質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、99.0質量%以上99.9質量%以下であることがより好ましい。同様に、ポリエステル樹脂組成物中のポリカルボジイミド(B)の含有量は、0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上1.0質量%以下である。
【0033】
ポリエステル樹脂(A)にポリカルボジイミド(B)及び後述する任意成分を添加する方法は特に限定されないが、押出機による溶融混練が好ましい。その際、高濃度のポリカルボジイミドを溶融混練してマスターバッチを作製し、成形時に所定濃度となるよう薄めて使用してもよい。
【0034】
[任意成分]
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)及びポリカルボジイミド(B)以外の任意成分を更に含んでいてもよい。かかる任意成分としては、以下に限定されないが、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、増量剤、艶消し剤、乾燥調節剤、帯電防止剤、沈降防止剤、界面活性剤、流れ改良剤、乾燥油、ワックス類、フィラー、着色剤、補強剤、表面平滑剤、レベリング剤、硬化反応促進剤などの各種添加剤、成形助剤を添加することができる。また、任意成分として、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリイミド樹脂、AS樹脂等の樹脂、オリゴマーを含んでいてもよい。任意成分の含有量としては、特に限定されないが、良好な耐熱性及び透明性を確保しつつ、耐衝撃性を向上させると共に、熱処理後の脆化を効果的に抑制する観点から、ポリエステル樹脂組成物100質量%に対して2.9質量%以下とすることが好ましく、1.0質量%以下とすることがより好ましく、0.5質量%以下であることがとりわけ好ましい。
【0035】
[物性]
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は95℃以上であることが好ましく、より好ましくは110℃以上であり、更に好ましくは130℃以上である。ガラス転移温度が上記範囲内にある場合、本実施形態のポリエステル樹脂組成物はより耐熱性に優れる傾向にある。したがって、従来のPETや1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸で一部共重合された変性PETでは使用できなかった高い耐熱性が要求される用途での使用が可能になる。例えば、自動車内や赤道を通過する船倉(70~80℃に達するといわれる)での使用が可能となるので、自動車の内装、自動車内で使用する芳香剤、目薬などの容器、ブリスターパックなど輸出入に用いる包装材に好適に用いることができる。また、電子レンジ加熱やレトルト処理を行う食品包装材、加熱殺菌処理を行う哺乳瓶や食器等の容器など、高温処理を行う用途にも好適に用いることができる。上記ガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。また、当該ガラス転移温度は、例えば、ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを前述した好ましい態様に基づいて適宜選択すること等により上述した好ましい範囲に調整することができる。
【0036】
また、ポリエステル樹脂(A)の降温時結晶化発熱ピークの熱量は5J/g以下であることが好ましく、より好ましくは3J/g以下である。降温時結晶化発熱ピークが上記範囲内にある場合、本実施形態のポリエステル樹脂組成物は結晶性がより低くなる傾向にあり、高い透明性が要求される用途の好適に用いることができる。上記降温時結晶化ピークの熱量は、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。また、当該降温時結晶化ピークの熱量は、例えば、ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを前述した好ましい態様に基づいて適宜選択すること等により上述した好ましい範囲に調整することができる。
【0037】
本実施形態のポリエステル樹脂組成物を射出成形して得られる厚さ3.2mmの試験片のヘイズは4%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下である。ヘイズが上記範囲にある場合、本実施形態のポリエステル樹脂組成物はより高い透明性を示す傾向にある。上記ヘイズは、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。また、当該ヘイズは、例えば、ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを前述した好ましい態様に基づいて適宜選択すること等により上述した好ましい範囲に調整することができる。
【0038】
本実施形態のポリエステル樹脂組成物を射出成形して得られる長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm、ノッチなしの試験片10本を、50~100℃の熱水に24時間浸漬した後、容量4Jのハンマーを用いて実施したアイゾット試験における試験片の破断本数は、2本以下であることが好ましく、より好ましくは1本以下である。破断本数が上記範囲にある場合、本実施形態のポリエステル樹脂組成物は多くの用途で実用上十分な耐衝撃性を示す傾向にある。上記破断本数は、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。また、当該破断本数は、例えば、ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを前述した好ましい態様に基づいて適宜選択すること等により上述した好ましい範囲に調整することができる。
【0039】
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位における2,6-ナフタレンジカルボン酸単位を適当な割合とすることにより、更にUVバリア性を付与することができる。具体的には、ジカルボン酸構成単位の0.1モル%以上100モル%以下が2,6-ナフタレンジカルボン酸単位である場合、本実施形態のポリエステル樹脂組成物はUVバリア性が良好なものとなる傾向にある。同様の観点から、ポリエステル樹脂(A)中のジカルボン酸構成単位の90モル%以上100モル%以下が2,6-ナフタレンジカルボン酸単位であることがとりわけ好ましい。
【0040】
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、目的を阻害しない範囲内で、ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂を更に含むこともできる。この場合も、ポリエステル樹脂(A)、ポリカルボジイミド(B)及び当該熱可塑性樹脂とを溶融混練することでポリエステル樹脂組成物を調製することができる。
【0041】
<ポリエステル樹脂組成物の用途>
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、種々の用途に用いることができる。例えば、射出成形体、シート、フィルム、パイプ等の押し出し成形体、ボトル、発泡体、粘着材、接着剤、塗料等に用いることができる。より詳細には、射出成形体はインサート成形でも二色成形でもよい。シートは単層でも多層でもよく、フィルムも単層でも多層でもよく、また未延伸のものでも、一方向、又は二方向に延伸されたものでもよく、鋼板などに積層してもよい。フィルムはインフレーション成形でもよい。ボトルはダイレクトブローボトルでもインジェクションブローボトルでもよく、射出成型されたものでもよい。発泡体は、ビーズ発泡体でも押し出し発泡体でもよい。特に自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う食品包装材、加熱殺菌処理を行う哺乳瓶や食器等の容器など、高い耐熱性が要求される用途に好適に用いることができる。またUVバリア性が求められる容器などの包装材等に好適に用いることができる。すなわち、本実施形態のポリエステル系射出成形体、ポリエステル系押し出し成形体、ポリエステル系発泡体、ポリエステル系容器、ポリエステル系ボトル、ポリエステル系食器、ポリエステル系哺乳瓶は、それぞれ、本実施形態のポリエステル樹脂組成物を含むものということができる。これらは、本実施形態のポリエステル樹脂組成物を含むものであれば特に限定されず、各々の用途に沿った種々公知の形態とすることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を挙げて本実施形態を更に詳しく説明するが、本実施形態はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0043】
〔評価方法〕
本実施例中のポリエステル樹脂及びポリエステル樹脂組成物の評価方法は以下のとおりとした。
(1)環状アセタール骨格を有するジオール単位、脂環式ジオール単位の割合
ポリエステル樹脂中の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位及び脂環式ジオールに由来する単位の割合は、1H-NMR測定にて算出した。測定装置はBruker BioSpin K.K.製、AscendTM500で測定した。溶媒には重クロロホルムを用いた。
(2)ガラス転移温度及び降温時結晶化発熱ピーク
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tgm)は、(株)島津製作所製、示査走査型熱量計(型式:DSC/TA-50WS)を使用し、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30mL/min)気流中昇温速度20℃/minで測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。降温時結晶化発熱ピークは上記ガラス転移温度を測定後、280℃で1分間保持した後、10℃/分間の降温速度で降温した際に現れる発熱ピークの面積から測定した。
(3)ヘイズ
ヘイズは、JIS-K-7105、ASTM D1003に準じて測定した。すなわち、ポリエステル樹脂組成物の射出成形で得られた直径50mm、厚さ3.2mmの円盤を48時間調湿後、23℃、相対湿度50%の雰囲気下で測定した。測定装置としては、日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH-300A)を使用した。
(4)耐衝撃性
耐衝撃性は、JIS K7110に準ずるアイゾット試験により評価した。すなわち、ポリエステル樹脂組成物の射出成形で得られた長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm、ノッチなしの試験片10本を50℃、60℃又は100℃の熱水に24時間浸漬した後、容量4Jのハンマーを用いて23℃、相対湿度50%の雰囲気下で試験し、破断本数を計測した。試験機としては、(株)上島製作所製のアイゾット衝撃試験機を使用した。
【0044】
〔製造例1~3〕
〔ポリエステル樹脂(PEs-1、PEs-2及びPEs-3)の合成〕
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えた、容量30Lのポリエステル製造装置に対して、表1に記載の原料モノマーを仕込み、ジカルボン酸成分に対しテトラ-n-ブトキシチタン0.005モル%、酢酸カリウム0.02モル%を加え、窒素雰囲気下で225℃迄昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を90%以上とした後、ジカルボン酸成分に対して、二酸化ゲルマニウム0.025モル%、トリエチルホスフェート0.05モル%を加え、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に280℃、0.1kPa以下で重縮合を行った。適度な溶融粘度になった時点で反応を終了し、ポリエステル樹脂PEs-1、PEs-2及びPEs-3を各々合成した。
【0045】
【0046】
なお、表1中の略記の意味は下記のとおりである。
DMT:ジメチルテレフタレート
NDCM:2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル
EG:エチレングリコール
SPG:3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン
CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール
【0047】
〔ポリカルボジイミド〕
ポリカルボジイミドとして、日清紡ケミカル(株)製のカルボジライトHMV-15CA(4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートからなる脂肪族ポリカルボジイミド、重合度15)を使用した。
【0048】
[実施例1]
(混練ペレットの作製)
二軸混練押出機(東芝機械(株)製、型式:TEM26SX、スクリュー径:26mmφ、L/D:48)を用い、製造例1で合成したポリエステル樹脂とポリカルボジイミドを99.9/0.1質量%の比率でドライブレンドしてホッパーから投入した。シリンダー温度180~260℃、ダイス温度260℃、スクリュー回転数75rpm、吐出量15kg/hの条件でストランドを押出し、水冷後にペレタイズしてポリエステル樹脂/ポリカルボジイミド混練ペレットを得た。
【0049】
(混練ペレットの射出成形)
次いで、得られた混練ペレットの射出成形を行った。射出成形には(株)日本製鋼所製、型式:J85ADの射出成形機を用い、シリンダー温度245~280℃、金型温度15~50℃の条件で成形した。成形した試験片を用いてヘイズ測定と、100℃の熱水に24h浸漬後のアイゾット試験を実施した。結果を表2に示す。
【0050】
[実施例2~10]
使用したポリエステル樹脂、ポリカルボジイミドとの混練比率、熱水浸漬温度を表2に示したように変更したこと以外は実施例1と同様にして試験片を製造し、その評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
[比較例1~6]
使用したポリエステル樹脂、ポリカルボジイミドとの混練比率、熱水浸漬温度を表3に示したように変更したこと以外は実施例1と同様にして試験片を製造し、その評価を行った。結果を表3に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
実施例1~10に係るポリエステル樹脂組成物は、比較例1~6に係るポリエステル樹脂組成物と比較して熱水浸漬後の耐衝撃性が大きく改善した。
【0055】
本出願は、2019年4月25日出願の日本国特許出願(特願2019-084202号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、耐熱性、透明性、耐衝撃性の保持に優れ、自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う食品包装材、加熱殺菌処理を行う哺乳瓶や食器等の容器、高い耐熱性が要求される用途等に好適に用いることができ、本発明の工業的意義は大きい。