(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】止血弁付き留置針と留置針用ディスク弁
(51)【国際特許分類】
A61M 5/158 20060101AFI20241003BHJP
A61M 39/06 20060101ALI20241003BHJP
A61M 25/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61M5/158 500H
A61M39/06 110
A61M39/06 120
A61M25/06 500
(21)【出願番号】P 2020173946
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】阪本 慎吾
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0151088(US,A1)
【文献】国際公開第2012/020633(WO,A1)
【文献】特表2012-517326(JP,A)
【文献】特表2014-528329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/158
A61M 39/06
A61M 25/06
A61M 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空とされた外針の基端側に筒状の外針ハブが設けられて、該外針ハブにはディスク弁が配されている止血弁付き留置針において、
前記外針ハブの内腔における前記ディスク弁よりも先端側の第1領域を該ディスク弁よりも基端側の第2領域に連通する通気路が設けられており、
該通気路には長さ方向で部分的に断面積が大きくされた血液貯留部が該第1領域から離れた位置に設けられている
と共に、
前記ディスク弁を前記外針ハブとの間で挟んで該外針ハブに対して位置決めする弁支持部材が該外針ハブの前記内腔に固定的に配されており、
前記通気路が該外針ハブの内面と該ディスク弁の外面及び該弁支持部材の外面との間に形成されている止血弁付き留置針。
【請求項2】
前記通気路における前記血液貯留部よりも基端側には該血液貯留部よりも断面積が小さい狭窄部が設けられている請求項1に記載の止血弁付き留置針。
【請求項3】
中空とされた外針の基端側に筒状の外針ハブが設けられて、該外針ハブにはディスク弁が配されている止血弁付き留置針において、
前記ディスク弁が、前記外針ハブの内周面に押し当てられて径方向に圧縮される嵌合部と、該外針ハブの内周面から離れて対向する離間部とを有し、
該ディスク弁の該嵌合部の外周面と該外針ハブの内周面との重ね合わせ面間を延びる微小通路が周方向で部分的に形成され、該離間部と該外針ハブの間には全周にわたって微小隙間が形成されて、該微小通路と該微小隙間が相互に連通されており、
該外針ハブの内腔における該ディスク弁よりも先端側の第1領域を該ディスク弁よりも基端側の第2領域に連通する通気路が、該微小通路と該微小隙間を含んで構成されている
と共に、
前記ディスク弁を前記外針ハブとの間で挟んで該外針ハブに対して位置決めする弁支持部材が該外針ハブの前記内腔に固定的に配されており、
前記通気路が該外針ハブの内面と該ディスク弁の外面及び該弁支持部材の外面との間に形成されている止血弁付き留置針。
【請求項4】
前記ディスク弁の前記嵌合部が前記離間部よりも大径とされて、該嵌合部の外周面に開口する細溝が形成されており、該細溝の外周開口部が前記外針ハブで覆われることによって前記微小通路が形成されている請求項
3に記載の止血弁付き留置針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外針が患者の血管に穿刺されて留置された状態において血液の漏出を防ぐ止血弁を備える止血弁付き留置針と、止血弁付き留置針に用いられる留置針用ディスク弁とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者に輸液を行ったり、患者の血液を採取したりする際に、留置針が用いられている。留置針は、例えば特表2012-517326号(特許文献1)に示されたカテーテルアセンブリのように、中空のカテーテル(外針)の基端側に筒状のカテーテルアダプタ(外針ハブ)が設けられた構造を有している。
【0003】
特許文献1のカテーテルアセンブリは、カテーテルアダプタの内周に隔壁(ディスク弁)を備えており、カテーテルの血管への穿刺時にカテーテルアダプタを通じた血液の漏出が、隔壁によって防止される。また、血管に穿刺された状態で留置されたカテーテルアセンブリに輸液ラインやシリンジ等が接続される際に、隔壁が開放されて、輸液の血管への供給や血管からの血液採取などが可能となる。
【0004】
ところで、特許文献1のカテーテルアセンブリは、隔壁とカテーテルアダプタの内表面との間に通気路が設けられており、カテーテルハブの内腔において弁体よりも先端側と基端側が通気路を通じて相互に連通されている。これにより、カテーテルの血管への穿刺に際して、血管からカテーテルアダプタへの血液の流入が、隔壁よりも先端側において許容されている。そして、カテーテルの血管への穿刺をフラッシュバックによって確認可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような通気路を備える構造では、通気路を通じた隔壁の基端側への血液の漏れ出しが問題となる場合があった。即ち、通気路は、十分に狭窄された微小な通路とされており、血液が浸入し難くなっているが、毛管現象などによって血液が通気路へ徐々に浸入して基端側へ漏出するリークを完全に防ぐことは難しい。それゆえ、カテーテルアダプタの基端開口に輸液ラインやシリンジ等を接続するよりも先に、血液がカテーテルアダプタにおける隔壁よりも基端側へ漏れ出すおそれがあった。
【0007】
本発明の解決課題は、フラッシュバックを許容しつつ、血液の漏出を遅延させることができる、新規な構造の止血弁付き留置針を提供することにある。
【0008】
また、本発明は、止血弁付き留置針に用いられて、フラッシュバックを許容しつつ、血液の漏出を遅延させることができる、新規な構造の留置針用ディスク弁を提供することも、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0010】
第一の態様は、中空とされた外針の基端側に筒状の外針ハブが設けられて、該外針ハブにはディスク弁が配されている止血弁付き留置針において、前記外針ハブの内腔における前記ディスク弁よりも先端側の第1領域を該ディスク弁よりも基端側の第2領域に連通する通気路が設けられており、該通気路には長さ方向で部分的に断面積が大きくされた血液貯留部が該第1領域から離れた位置に設けられているものである。
【0011】
本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、通気路が設けられていることにより、外針ハブの内腔が閉じたディスク弁によって遮断されていても、外針ハブの内腔における第1領域と第2領域が通気路を通じて相互に連通されている。それゆえ、血管へ穿刺された外針を通じて血液が第1領域へ流入する際に、第1領域の空気が通気路を通じて第2領域へ排出されて、第1領域への血液の流入が空気ばねによって阻害されることなく許容される。これにより、例えば、外針の内腔や外針ハブの第1領域に対する血液の流入(フラッシュバック)によって、外針が血管に対して適切に穿刺されていることを目視で確認することができる。
【0012】
通気路は血液が浸入し難いサイズや形状で形成されるが、第1領域に血液が浸入すると、時間経過とともに血液が通気路へ徐々に浸入し得る。そこで、通気路において第1領域から離れた位置には、部分的に断面積が大きくされた血液貯留部が設けられている。通気路に先端側から浸入した血液は、血液貯留部に溜まることから、血液貯留部よりも基端側への血液の進行を遅らせることができる。それゆえ、外針ハブの基端側に輸液ラインやシリンジ等の医療機器が接続されるまでの間、血液が通気路の基端側へ漏れ出すのを防ぐことができて、血液の漏出による汚染や弁機構の作動不良等が回避される。
【0013】
第二の態様は、第一の態様に記載された止血弁付き留置針において、前記通気路における前記血液貯留部よりも基端側には該血液貯留部よりも断面積が小さい狭窄部が設けられているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、血液貯留部よりも基端側に設けられる狭窄部によって、血液が血液貯留部から基端側へ漏出するのを抑えることができて、血液の基端側への漏出までに要する時間をより長く設定することができる。
【0015】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された止血弁付き留置針において、前記ディスク弁を前記外針ハブとの間で挟んで該外針ハブに対して位置決めする弁支持部材が該外針ハブの前記内腔に配されており、前記通気路が該外針ハブの内面と該ディスク弁の外面及び該弁支持部材の外面との間に形成されているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、通気路がディスク弁と外針ハブの間だけでなく弁支持部材と外針ハブの間にも延びて形成されていることによって、通気路の通路長をより長く設定することができて、血液の漏出までの時間をより長く設定することができる。
【0017】
また、弁支持部材は、ディスク弁を外針ハブに対して位置決めする部材であり、外針ハブに対して固定的に設けられることから、外針ハブと弁支持部材の間に形成される通気路の通路形状の安定化も図られる。
【0018】
第四の態様は、第三の態様に記載された止血弁付き留置針において、前記外針ハブの内周面には、周方向に延びる凹所が前記ディスク弁よりも基端側に設けられ、前記弁支持部材の外周面には、周方向の複数箇所で突出する突出部が該ディスク弁よりも基端側に設けられて、該突出部が該凹所に嵌め合わされることによって該弁支持部材が該外針ハブの内面に固定されており、複数の該突出部の周方向間において前記血液貯留部が該凹所を含んで構成されているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、弁支持部材の突出部を外針ハブの凹所へ嵌め合せることによって、弁支持部材を外針ハブに簡単に固定することができる。また、血液貯留部が外針ハブの内周面に設けられる弁支持部材を固定するための凹所を利用して形成されることにより、血液貯留部の容積を大きく確保し易い。
【0020】
第五の態様は、第三又は第四の態様に記載された止血弁付き留置針において、前記外針ハブの内周面に突出して前記ディスク弁の先端面に重ね合わされる当接部が設けられ、該当接部の内径寸法が前記弁支持部材の先端部分の外径寸法よりも小さくされて、該ディスク弁が該当接部と該弁支持部材の間で軸方向に挟まれて該外針ハブに対して位置決めされているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、ディスク弁が外針ハブの当接部と弁支持部材の先端との間で軸方向に挟まれることにより、ディスク弁が外針ハブに対して位置決めされる。これにより、外針ハブの内周面とディスク弁の外周面との間に通気路が設けられる構造において、ディスク弁の外周面を外針ハブの内周面に対して過度に強く押し当てることなく、ディスク弁を外針ハブに対して位置決めすることができて、通気路の変形などを防止することができる。
【0022】
第六の態様は、第三~第五の何れか1つの態様に記載された止血弁付き留置針において、前記外針ハブの前記内腔には、前記ディスク弁を押し開く押し子が配されており、前記弁支持部材は、該押し子が該ディスク弁を押し開く際に該押し子の移動を案内するガイド部材とされているものである。
【0023】
本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、ディスク弁を外針ハブに対して位置決めする弁支持部材が、押し子の移動を案内するガイド部材を兼ねることにより、部品点数を少なくすることができる。外針ハブに対して固定的に設けられて押し子の移動を案内するガイド部材によって通気路の一部が構成されることにより、通気路の一部が押し子のような外針ハブに対して移動する部材で構成される場合に比して、通気路の形状安定性が高められる。
【0024】
第七の態様は、中空とされた外針の基端側に筒状の外針ハブが設けられて、該外針ハブにはディスク弁が配されている止血弁付き留置針において、前記ディスク弁が、前記外針ハブの内周面に押し当てられて径方向に圧縮される嵌合部と、該外針ハブの内周面から離れて対向する離間部とを有し、該ディスク弁の該嵌合部の外周面と該外針ハブの内周面との重ね合わせ面間を延びる微小通路が周方向で部分的に形成され、該離間部と該外針ハブの間には全周にわたって微小隙間が形成されて、該微小通路と該微小隙間が相互に連通されており、該外針ハブの内腔における該ディスク弁よりも先端側の第1領域を該ディスク弁よりも基端側の第2領域に連通する通気路が、該微小通路と該微小隙間を含んで構成されているものである。
【0025】
特表2012-517326号公報の
図5Bに示されているように、ディスク弁の軸方向の全長にわたって外周面に開口する溝を形成して、当該溝を外針ハブによって覆うことで微小通路状の通気路を形成する構造では、ディスク弁の変形等に起因する通気路の断面積や断面形状の変化が通気路の流動特性に影響し易い。通気路がディスク弁の軸方向全体にわたる長い領域において微小通路状であることから、ディスク弁の変形等に起因する通気路の断面積や断面形状の変化が大きくなり、例えばディスク弁の変形によって通気路が塞がれてしまう事態も発生し得る。
【0026】
そこで、本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針では、通気路において外針ハブの内周面とディスク弁の外周面との重ね合わせ面間に設けられる部分が、周方向で部分的に設けられる細い微小通路と、全周にわたって設けられる微小隙間との組み合わせによって構成されている。それゆえ、通気路において微小通路によって構成される部分の長さが短くなって、例えばディスク弁の変形や製造誤差などに起因する通気路の流動特性の変化が抑えられ、通気路が閉塞されるのを防ぐことができる。
【0027】
第八の態様は、第七の態様に記載された止血弁付き留置針において、前記ディスク弁の前記嵌合部が前記離間部よりも大径とされて、該嵌合部の外周面に開口する細溝が形成されており、該細溝の外周開口部が前記外針ハブで覆われることによって前記微小通路が形成されているものである。
【0028】
本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、ディスク弁の嵌合部が外針ハブの内周面に嵌め合わされることにより、ディスク弁の嵌合部に形成される細溝の開口が外針ハブによって覆われて、微小通路が簡単に形成される。微小通路が短くされていることにより、微小通路がディスク弁の外周面に開口する細溝によって構成されていても、微小通路の変形による通気路の流動特性への影響が抑えられると共に、微小通路の閉塞が生じ難くなって、通気路において第1領域からの排気と血液の漏出制限が安定して実現される。
【0029】
第九の態様は、第七又は第八の態様に記載された止血弁付き留置針において、前記ディスク弁を前記外針ハブとの間で挟んで該外針ハブに対して位置決めする弁支持部材が該外針ハブの前記内腔に配されており、前記通気路が該外針ハブの内面と該ディスク弁の外面及び該弁支持部材の外面との間に形成されているものである。本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、第三の態様と同様の効果を得ることができる。
【0030】
第十の態様は、第九の態様に記載された止血弁付き留置針において、前記外針ハブの内周面に突出して前記ディスク弁の先端面に重ね合わされる当接部が設けられ、該当接部の内径寸法が前記弁支持部材の先端部分の外径寸法よりも小さくされて、該ディスク弁が該当接部と該弁支持部材の間で軸方向に挟まれて該外針ハブに対して位置決めされているものである。本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、第五の態様と同様の効果を得ることができる。
【0031】
第十一の態様は、第九又は第十の態様に記載された止血弁付き留置針において、前記外針ハブの前記内腔には、前記ディスク弁を押し開く押し子が配されており、前記弁支持部材は、該押し子が該ディスク弁を押し開く際に該押し子の移動を案内するガイド部材によって構成されているものである。本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、第六の態様と同様の効果を得ることができる。
【0032】
第十二の態様は、第七~第十一の何れか1つの態様に記載された止血弁付き留置針において、前記ディスク弁は、前記外針ハブの前記内腔を塞いで配されてスリットを備える弁本体と、該弁本体の外周部分から基端側へ向けて延び出す筒状保持部とを備えており、該弁本体を含む該ディスク弁の先端部分が前記嵌合部とされ、該筒状保持部を含む該ディスク弁の基端部分が前記離間部とされているものである。
【0033】
本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、弁本体が外針ハブに嵌め合わされる嵌合部に設けられていることにより、ディスク弁が弁本体において外針ハブに保持されると共に、嵌合部の径方向の圧縮によって弁本体を貫通するスリットが締め込まれて、外針ハブの内腔がディスク弁によって遮断される。離間部が弁本体から基端へ延び出した筒状保持部を含んで構成されることにより、離間部が弁本体の外針ハブに対する位置決めに影響し難く、ディスク弁が外針ハブによって安定して保持される。
【0034】
第十三の態様は、第七~第十二の何れか1つの態様に記載された止血弁付き留置針において、前記通気路には長さ方向で部分的に断面積が大きくされた血液貯留部が前記第1領域から離れた位置に設けられているものである。本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、第一の態様と同様の効果を得ることができる。
【0035】
第十四の態様は、第十三の態様に記載された止血弁付き留置針において、前記通気路における前記血液貯留部よりも基端側には該血液貯留部よりも断面積が小さい狭窄部が設けられているものである。本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、第二の態様と同様の効果を得ることができる。
【0036】
第十五の態様は、第十三又は第十四の態様に記載された止血弁付き留置針において、前記ディスク弁を前記外針ハブとの間で挟んで該外針ハブに対して位置決めする弁支持部材が該外針ハブの前記内腔に配されており、該外針ハブの内周面には、周方向に延びる凹所が該ディスク弁よりも基端側で開口し、該弁支持部材の外周面には、周方向の複数箇所で突出する突出部が該ディスク弁よりも基端側に設けられて、該突出部が該凹所に嵌め合わされることによって該弁支持部材が該外針ハブの内面に固定されており、複数の該突出部の周方向間において前記血液貯留部が該凹所を含んで構成されているものである。本態様に従う構造とされた止血弁付き留置針によれば、第四の態様と同様の効果を得ることができる。
【0037】
第十六の態様は、外針ハブの内腔に配されて、該内腔を連通状態と遮断状態に切り替える留置針用ディスク弁であって、前記外針ハブに嵌合されて支持される大径の嵌合部と、該嵌合部よりも小径とされて該外針ハブの内周面に対して離間する離間部とを、軸方向に連続して備えており、該嵌合部には外周面に開口する細溝が形成されて、該細溝の端部開口が該離間部の外周へ向けて開放されているものである。
【0038】
本態様に従う構造とされた留置針用ディスク弁によれば、ディスク弁の嵌合部が外針ハブの内周面に嵌め合わされることにより、ディスク弁の嵌合部に形成される細溝の開口が外針ハブによって覆われて、微小通路が簡単に形成される。嵌合部の細溝によってディスク弁と外針ハブとの間に形成される微小通路と、離間部によってディスク弁と外針ハブとの間に形成される微小隙間とを含んで構成される通気路は、ディスク弁に離間部が設けられていることによって、微小通路で構成される部分が短くされる。それゆえ、微小通路がディスク弁の外周面に形成された細溝によって構成されていても、微小通路の変形による通気路の流動特性への影響が抑えられると共に、微小通路の閉塞が生じ難くなって、通気路において安定した排気と血液の漏出制限とが実現される。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、止血弁付き留置針において、フラッシュバックを許容しつつ、血液の漏出を遅延させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の第1実施形態としての止血弁付き留置針を示す斜視図
【
図2】
図1に示す止血弁付き留置針の断面図であって、
図6のII-II断面に相当する図
【
図3】
図1に示す止血弁付き留置針の断面図であって、
図6のIII-III断面に相当する図
【
図4】
図1に示す止血弁付き留置針を構成するディスク弁の斜視図
【
図5】
図1に示す止血弁付き留置針を構成する押し子ガイドの斜視図
【
図8】
図1の止血弁付き留置針にオスコネクタが接続された状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0042】
図1~
図3には、本発明の第1実施形態としての止血弁付き留置針(以下、留置針)10が示されている。留置針10は、外針12の基端側に外針ハブ14が設けられており、外針ハブ14に留置針用ディスク弁(以下、ディスク弁)16が収容された構造を有している。以下の説明において、原則として、先端側とは
図2中の左側を、基端側とは
図2中の右側を、それぞれ言う。
【0043】
外針12は、血管等の体内管腔への挿入が可能な程度に小径とされた中空の管状とされている。外針12の先端部分は、外周面がテーパ形状とされて、先端に向けて小径となっている。外針12は、金属製であってもよいが、好適には合成樹脂製とされて、可撓性を有している。
【0044】
外針ハブ14は、外針12よりも大径の略円筒形状とされている。外針ハブ14は、先端部分が基端部分よりも小径とされており、先端部分において外針12が外針ハブ14の内腔18に挿入されている。本実施形態の外針12は、
図2,
図3に示すように、外針ハブ14と外針ハブ14に内嵌される漏斗状の固定ピン20との間に挟まれることにより、外針ハブ14に固定されているが、外針12と外針ハブ14は、例えば、超音波溶着等の手段によって固定されていてもよい。外針ハブ14は、大径とされた基端部分の内周面が、基端側に向けて拡径するルアーテーパとされており、外周面にルアーテーパを備えた後述するオスコネクタ78が嵌合によって接続可能とされている。外針ハブ14の基端部には、外周へ突出する雄ねじ部22が設けられており、オスコネクタ78を備える図示しない輸液ラインやシリンジ等に設けられたロック部が螺合されることにより、輸液ラインやシリンジ等の外針ハブ14からの抜けが防止される。
【0045】
外針ハブ14は、固定ピン20よりも基端側において内周面に突出する当接部24を備えている。当接部24の基端面は、軸直角方向に広がる円環状の当接面26とされている。
【0046】
外針ハブ14の内周面には、凹溝28が形成されている。凹溝28は、外針ハブ14の全周にわたって連続して形成されている。凹溝28は、軸方向両側の側面が内周へ向けて軸方向外側へ傾斜する傾斜面とされており、開口部分の軸方向幅寸法が底部の軸方向幅寸法よりも大きくされている。本実施形態の凹溝28は、略一定の断面形状で周方向に延びているが、断面形状は周方向で変化していてもよい。凹溝28は、外針12が固着される外針ハブ14の先端部分よりも大径とされた基端側に設けられている。凹溝28は、当接部24に対して基端側へ離れた位置に設けられている。
【0047】
外針ハブ14の内腔18の軸方向中間部分には、ディスク弁16が配されている。ディスク弁16は、ゴム状弾性を呈するゴムや樹脂エラストマ等によって形成されている。ディスク弁16は、
図2~
図4に示すように、略円板形状の弁本体30と、弁本体30の外周端部から基端側へ向けて延び出す筒状保持部32とを、一体的に備えた構造とされている。
【0048】
弁本体30は、中央部分を軸方向に貫通するスリット34を備えている。本実施形態のスリット34は、
図4に示すように、中央から放射状に3方向へ延びる形状とされているが、例えば、一文字や十文字等であってもよいし、放射状に延びる各部がそれぞれ径方向外側に向けて周方向に傾斜していたり、貫通方向が軸方向に対して傾斜していたりしてもよい。弁本体30は、中央部分が外周端部よりも基端側へ突出しており、外周端部が中央部分よりも軸方向(
図2中の左右方向)において薄肉とされている。
【0049】
筒状保持部32は、薄肉とされた弁本体30の外周端部から基端側へ延び出している。弁本体30につながる筒状保持部32の先端部分は、厚肉とされた弁本体30の中央部分に対して外周に離れて位置しており、それら筒状保持部32の先端部分と弁本体30の中央部分との間には、基端へ向けて開口する環状の周溝36が形成されている。周溝36の内周側の側壁面は、基端側へ向けて内周へ傾斜して小径となるテーパ面とされている。
【0050】
ディスク弁16は、弁本体30を含む先端部分が、筒状保持部32の基端部を含む基端部分よりも外径寸法が大きくされており、大径の先端部分が嵌合部38とされていると共に、小径の基端部分が離間部40とされている。本実施形態の嵌合部38は、弁本体30だけでなく、筒状保持部32の先端部を含んで構成されている。嵌合部38と離間部40は、軸方向に連続して設けられている。
【0051】
ディスク弁16の嵌合部38には、細溝42が形成されている。細溝42は、嵌合部38の軸方向全長にわたって外周面に開口していると共に、先端部が弁本体30の外周端部の先端面に開口している。要するに、細溝42は、ディスク弁16の外周端部の先端面から嵌合部38の外周面の基端にわたって連続的に設けられている。細溝42の基端は、嵌合部38と離間部40の外径寸法の差によって形成される段差面44に開口しており、離間部40の外周側へ開放されている。
【0052】
ディスク弁16は、外針ハブ14に対して基端側から挿入されて、
図2,
図3に示すように、外針ハブ14の内面に突出する環状の当接部24に対して先端面の外周端部が当接することにより、外針ハブ14に対して軸方向で位置決めされている。また、ディスク弁16は、嵌合部38の外径寸法が嵌合部38を収容する外針ハブ14の内径寸法よりも僅かに小さくされており、嵌合部38が外針ハブ14の内面に嵌め合わされることによって、ディスク弁16が外針ハブ14に対して位置決めされている。
【0053】
ディスク弁16の弁本体30は、外針ハブ14に内嵌されることによって、径方向で締め込まれて圧縮されており、弁本体30を貫通するスリット34の内面が相互に押し付けられることで、スリット34が閉じられている。これにより、ディスク弁16は、外針ハブ14への装着状態において、外針ハブ14の内腔18を遮断状態とする閉状態とされている。ディスク弁16が閉状態で外針ハブ14の内腔18に配されることにより、外針ハブ14の内腔18は、ディスク弁16の弁本体30に対して先端側の第1領域46と、弁本体30に対して基端側の第2領域48とに2分されている。
【0054】
ディスク弁16は、弁支持部材50によっても外針ハブ14に対して位置決めされている。弁支持部材50は、合成樹脂などによって形成される硬質の部材であって、
図5にも示すように、全体として略円筒形状とされている。弁支持部材50は、先端部分の外径寸法が基端部分よりも小さくされていると共に、先端部には外周へ向けて突出する押え突起52が全周にわたって設けられている。弁支持部材50は、先端部の内周面が先端に向けて外周へ傾斜して大径となるテーパ面とされており、先端部の内周面がディスク弁16における周溝36の内周側面と対応するテーパ形状とされている。
【0055】
弁支持部材50の基端部分には、周方向の複数箇所において外周へ向けて開口する凹所状の小径部54が設けられている。本実施形態では、周方向に4つの小径部54が設けられている。そして、弁支持部材50の基端部分における小径部54よりも基端側には、小径部54の外周面よりも径方向外側に突出する環状のフランジ状部56が設けられている。弁支持部材50の基端部分における4つの小径部54の周方向間には、小径部54の外周面よりも径方向外側に突出するリブ状部58が軸方向に延びて設けられている。本実施形態では、フランジ状部56とリブ状部58の小径部54からの突出高さが略同じとされており、フランジ状部56の突出先端面とリブ状部58の突出先端面が段差なくスムーズに連続して設けられている。弁支持部材50の基端部には、内周へ向けて突出する内フランジ状部60が設けられている。内フランジ状部60が設けられた弁支持部材50の基端部は、内径寸法が基端へ向けて次第に大きくなるテーパ状の内周面を備えている。
【0056】
小径部54の周方向間に設けられたリブ状部58には、外周へ向けて更に突出する突出部62が設けられている。突出部62は、周方向視において略台形とされており、軸方向の中間部分において両端部分よりも突出高さ寸法が大きくされている。全ての突出部62の先端面が位置する仮想的な円筒面は、外針ハブ14の内周面に開口する凹溝28の底面よりも大径とされている。突出部62は、軸方向に延びるリブ状部58の先端部分に設けられている。突出部62は、リブ状部58よりも軸方向において短くされており、弁支持部材50の基端までは達しない範囲に形成されている。小径部54と突出部62は、周方向で交互に並んで設けられている。小径部54は、突出部62よりも周方向の幅寸法が大きくされている。
【0057】
弁支持部材50は、外針ハブ14の内腔18に対して、ディスク弁16よりも基端側から挿入されている。そして、弁支持部材50の突出部62が、ディスク弁16を基端側へ外れた位置において、外針ハブ14の凹溝28に嵌合されることにより、弁支持部材50が外針ハブ14に固定されている。外針ハブ14に固定された弁支持部材50は、
図2に示すように、フランジ状部56及びリブ状部58が外針ハブ14の内周面に対して僅かに離れた状態とされている。
【0058】
外針ハブ14に固定された弁支持部材50は、小径とされた先端部分が、ディスク弁16の筒状保持部32の内周面に重ね合わされている。そして、弁支持部材50の先端部がディスク弁16の周溝36に嵌め入れられている。これにより、ディスク弁16の嵌合部38において、筒状保持部32が外針ハブ14と弁支持部材50の先端部分との間で径方向に挟持されており、ディスク弁16が弁支持部材50によって外針ハブ14に対して位置決めされている。
【0059】
弁支持部材50の先端部に設けられた押え突起52の外径寸法Rは、外針ハブ14に設けられた当接部24(当接面26)の内径寸法rよりも大きくされており、押え突起52の先端面と当接部24の基端面である当接面26とが、軸方向で対向している。そして、ディスク弁16における周溝36の底部が押え突起52と当接部24の間で軸方向に挟持されており、ディスク弁16が弁支持部材50によっても外針ハブ14に対して位置決めされている。このように、外針ハブ14と弁支持部材50とによってディスク弁16が軸方向で挟持されることにより、ディスク弁16が外針ハブ14に対して径方向に強く締め込まれた状態で嵌合されていなくても、ディスク弁16を外針ハブ14に対して有効に位置決めすることができる。
【0060】
弁支持部材50の内周には、押し子64が挿入されている。押し子64は、全体として円筒状とされている。押し子64の先端部分は、先端側へ向けて次第に小径となるテーパ形状とされている。押し子64は、テーパ形状とされた先端部分よりも基端側が、先端部分の基端よりも外径寸法を小さくされている。これにより、先端部分の基端部が、外周へ突出する環状の係合部66とされており、係合部66の基端の外径寸法が、弁支持部材50に設けられた内フランジ状部60の先端の内径寸法よりも大きくされている。
【0061】
押し子64は、弁支持部材50に対して基端側から挿入される。押し子64は、係合部66が弁支持部材50の内フランジ状部60を乗り越えて、係合部66が内フランジ状部60よりも先端側に位置するまで、弁支持部材50に挿入されている。押し子64は、先端面がディスク弁16における弁本体30の基端面に当接していると共に、係合部66の基端面が弁支持部材50の内フランジ状部60の先端面に重ね合わされることによって、外針ハブ14に対して軸方向で位置決めされている。
【0062】
このような構造とされた留置針10は、図示しない内針が外針12に挿通された状態で、外針12が内針とともに患者の血管へ穿刺される。その後、内針が引き抜かれて、外針12が血管に穿刺された状態で留置される。留置された留置針10は、外針12の血管からの抜けや外針ハブ14の不要な移動を防ぐために、例えば、外針12や外針ハブ14が医療用の粘着テープによって患者の体表面に固定されてもよい。
【0063】
血管に外針12が穿刺されると、血液が血管から外針12を通じて外針ハブ14の内腔18へ流入する。外針ハブ14に流入した血液は、ディスク弁16によって基端側への移動を阻止されて、ディスク弁16よりも先端側の第1領域46に溜まる。外針ハブ14は透明又は半透明とされており、第1領域46への血液の流入(フラッシュバック)を目視で確認することにより、外針12が血管へ適切に穿刺されていることを確認することができる。なお、例えば、外針12の内腔を流れる血液を目視で確認することによって、外針12の血管への適切な穿刺を確認することもでき、外針12の内腔に対する血液の流入をもってフラッシュバックとしてもよい。
【0064】
血液が第1領域46へ流入する際に、第1領域46内の空気は、通気路68を通じて第2領域48へ排出される。通気路68は、
図3に示すように、外針ハブ14とディスク弁16及び弁支持部材50との間に形成されており、第1領域46と第2領域48を相互に連通している。
【0065】
より詳細には、通気路68は、先端部分が外針ハブ14とディスク弁16の重ね合わせ面間に設けられている。
図3,
図6に示すように、ディスク弁16の嵌合部38に設けられた細溝42の開口部分が外針ハブ14によって覆われることにより、微小通路70が周方向で部分的に形成されている。また、ディスク弁16の離間部40の外周面が外針ハブ14の内周面に対して径方向で僅かに離隔して対向していることにより、外針ハブ14と離間部40の間に全周にわたって微小隙間72が形成されている。そして、微小通路70と微小隙間72が相互に連通されており、それら微小通路70と微小隙間72によって通気路68の先端部分が構成されている。弁本体30の先端面に開口する細溝42の先端側の端部は、外針ハブ14の当接部24よりも内周まで延び出しており、当接部24よりも内周において第1領域46に開放されている。
【0066】
ディスク弁16の筒状保持部32よりも基端側に位置する弁支持部材50の基端部分は、外針ハブ14に嵌合された突出部62を外れた部分において、
図3,
図7に示すように、外針ハブ14の内周面に対して内周側に離れている。これにより、外針ハブ14と弁支持部材50の径方向間には、通気路68の基端部分が設けられている。外針ハブ14と弁支持部材50の間に設けられた通気路68の基端部分は、外針ハブ14と弁支持部材50のフランジ状部56との径方向間を通じて第2領域48に連通されている。
【0067】
そして、外針ハブ14の内腔18における第1領域46と第2領域48を相互に連通する通気路68は、外針ハブ14とディスク弁16の間に設けられた先端部分と、外針ハブ14と弁支持部材50の間に設けられた基端部分とが相互に連通されることによって形成されている。通気路68が外針ハブ14とディスク弁16の間だけでなく、外針ハブ14と弁支持部材50の間にまで延びて形成されていることにより、通気路68の通路長を長く設定することが可能であり、後述する通気路68を通じた血液のリークを遅らせることができる。また、硬質の外針ハブ14と弁支持部材50の間に通気路68の基端部分を形成することにより、通気路68の形状安定性を高めて、通気路68における空気や血液の流通抵抗等を高度に設定することができる。
【0068】
通気路68は、長さ方向の一部が部分的に断面積を大きくされた血液貯留部74とされている。即ち、弁支持部材50の基端部分における小径部54は、外針ハブ14からの径方向の離間距離が、微小通路70及び微小隙間72における外針ハブ14とディスク弁16の径方向の離間距離よりも大きくされている。これにより、通気路68は、弁支持部材50の小径部54と外針ハブ14との径方向間において、他の部分よりも通路長さに直交する方向の通路断面積が大きくされた血液貯留部74が設けられている。血液貯留部74の径方向の幅寸法は、微小通路70及び微小隙間72の径方向幅寸法、更には外針ハブ14とリブ状部58及びフランジ状部56との径方向の対向面間距離よりも大きくされている。本実施形態の血液貯留部74は、外針ハブ14の凹溝28を利用して形成される部分を含んでおり、血液貯留部74の容積が凹溝28によって大きく確保されている。
【0069】
通気路68における血液貯留部74の先端側には、微小通路70と微小隙間72からなる断面積の小さい先端側狭窄部が設けられている。通気路68における血液貯留部74の基端側には、弁支持部材50のフランジ状部56と外針ハブ14の間で狭窄された狭窄部としての基端側狭窄部76が設けられている。先端側狭窄部と基端側狭窄部76は、何れも血液貯留部74よりも断面積が小さくされており、特に径方向の内法寸法が小さくされている。血液貯留部74は、第1領域46と第2領域48の何れからも離れた位置に設けられている。本実施形態では、弁支持部材50のリブ状部58と外針ハブ14が離隔しており、周方向に複数設けられた血液貯留部74がリブ状部58と外針ハブ14の径方向間を通じて相互に連通されている。
【0070】
通気路68の先端側狭窄部(微小通路70及び微小隙間72)におけるディスク弁16と外針ハブ14の対向間距離は、空気の排出を許容し且つ血液の浸入を制限し得るように設定されており、例えば5μm以上且つ500μm以下とされることが望ましい。本実施形態では、通気路68の形成部分において、ディスク弁16の先端面と外針ハブ14の当接面26との対向間距離が、ディスク弁16の外周面と外針ハブ14の内周面との対向間距離よりも大きくされている。要するに、通気路68の先端部分を構成する細溝42は、ディスク弁16の先端面に開口する部分の深さ寸法が、ディスク弁16の外周面に開口する部分の深さ寸法よりも大きくされている。これにより、第1領域46から通気路68への空気の効率的な導入が実現されると共に、血液が先端側狭窄部を容易に通過しないように十分に大きな流動抵抗が設定される。もっとも、通気路68の形成部分におけるディスク弁16と外針ハブ14の対向間距離は、長さ方向において一定であってもよい。
【0071】
同様に、通気路68の基端側狭窄部76における弁支持部材50と外針ハブ14の対向間距離は、例えば5μm以上且つ500μm以下とされることが望ましい。また、基端側狭窄部76における弁支持部材50と外針ハブ14の対向間距離は、長さ方向で変化していてもよい。
【0072】
通気路68における血液貯留部74の先端側に先端側狭窄部が設けられていることにより、血液貯留部74が外針ハブ14の内腔18の第1領域46から基端側へ離れて設けられており、第1領域46から血液貯留部74への血液の流入が制限されている。
【0073】
先端側狭窄部は、先端部分である微小通路70が嵌合部38の外周面に開口する細溝42によって構成されており、ディスク弁16の外針ハブ14への嵌合によって細溝42の外周開口部が外針ハブ14で覆われることにより形成されている。これにより、通路断面積の小さい微小通路70が、ディスク弁16を外針ハブ14に組み付けるだけの簡単な態様によって構成される。
【0074】
細溝42によって構成された微小通路70の通路形状は、嵌合部38が外針ハブ14への嵌合によって径方向に圧縮される際に、微小通路70の通路長が長いほど嵌合部38の締込みによる影響を受け易くなる。そこで、ディスク弁16と外針ハブ14の間に形成される通気路68の先端部分(先端側狭窄部)は、微小通路70と微小隙間72の組み合わせによって構成されており、ディスク弁16の軸方向全長にわたって微小通路70を設ける場合に比して、微小通路70の通路長が短くされている。これにより、嵌合部38が外針ハブ14への嵌合によって径方向で圧縮されたとしても、部分的な寸法誤差等による実質的な遮断のリスクや、過圧縮による微小通路70の流動抵抗の増大による実質的な遮断のリスクを低減することができて、微小通路70の通路形状の安定化が図られる。
【0075】
通気路68における血液貯留部74の基端側に基端側狭窄部76が設けられていることにより、血液貯留部74に溜まった血液が第2領域48へ直ちに流れ出すことがなく、血液の第2領域48への漏出が抑えられる。特に、基端側狭窄部76が設けられていることにより、穿刺時の留置針10の向きに関わらず血液の第2領域48への漏出が制限される。
【0076】
このような通気路68が設けられていることにより、第1領域46に血液が流入する際に、第1領域46内の空気が通気路68を通じて第2領域48へ移動する。第2領域48は、外針ハブ14の基端開口を通じて外部空間に開放されていることから、空気が外部空間へ排出される。
【0077】
通気路68は、血液が浸入し難いように通路の形状やサイズが設定されているが、第1領域46へ流入した血液は、時間経過によって次第に通気路68へ浸入する。通気路68へ浸入した血液が血液貯留部74に到達すると、血液貯留部74を満たすまでの間は圧力低下によって血液の基端側への進行が抑制されることから、血液の通気路68を通じた基端側への漏出が所定の時間にわたって防止される。血液が基端側へ漏出するまでに要する時間は、例えば、血液貯留部74の容積によって適宜に設定することが可能であり、外針12の血管への穿刺から外針ハブ14に輸液ラインやシリンジ等を接続するまでに要する時間を考慮して設定される。本実施形態では、血液貯留部74が外針ハブ14の内周面に開口する凹溝28を含んで構成されていることから、血液貯留部74の容積の設定自由度が大きくされており、例えば血液の基端側への漏出までに要する時間をより長く設定することも可能とされている。なお、先端側狭窄部70,72と基端側狭窄部76との間における血液貯留部74の容積は、例えば0.1mm3以上且つ100mm3以下とされることが望ましい。
【0078】
このように、血液の通気路68を通じた基端側(第2領域48)への漏出が制限されていることにより、漏出した血液が押し子64に付着して凝固することで押し子64の作動を妨げたり、外針ハブ14から基端へ漏出した血液が使用者や患者、他の医療器具などに付着して汚染が生じたりするのを、防ぐことができる。
【0079】
図8に示すように、外針ハブ14の基端側に輸液ラインやシリンジ等に設けられたオスコネクタ78が挿入されて接続されると、押し子64がオスコネクタ78によって先端側へ押し込まれる。オスコネクタ78によって押し込まれた押し子64は、ディスク弁16のスリット34を押し広げてスリット34に挿入される。これにより、ディスク弁16のスリット34が開放されて、弁本体30の軸方向両側に位置する第1領域46と第2領域48がスリット34に挿通された押し子64を通じて相互に連通され、ディスク弁16が外針ハブ14の内腔18を連通状態とする開状態とされる。そして、外針ハブ14の内腔18における第1領域46が、筒状の押し子64を通じてオスコネクタ78に接続されて、オスコネクタ78を備える図示しない輸液ラインやシリンジ等の内腔が、押し子64と外針ハブ14と外針12とを介して血管に連通される。押し子64は、オスコネクタ78によって先端側へ押し込まれる際に、弁支持部材50に対して摺動することによって先端側への移動を案内される。このように、弁支持部材50は、ディスク弁16を外針ハブ14に対して位置決めする機能に加えて、押し子64の外針ハブ14に対する先端側への移動を案内するガイド部材としての機能も備えている。なお、オスコネクタ78は、ディスク弁16が開状態となる前に押し子64に接続されることから、第1領域46は、スリット34に挿通された押し子64を通じて、第2領域48内に挿入されたオスコネクタ78の内腔に連通される。
【0080】
外針ハブ14に輸液ラインやシリンジ等のオスコネクタ78が接続された状態では、外針ハブ14の基端開口がオスコネクタ78によって塞がれることから、第2領域48が略密閉状態となって、血液の通気路68を通じた第2領域48への浸入が防止される。また、
図8に示すように、押し子64によって押し開かれて弾性変形したディスク弁16が、通気路68の第1領域46への開口部分を覆うことにより、血液や薬液の第1領域46から通気路68への浸入が防止されて、通気路68を通じた基端側への漏出が防止される。
【0081】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ディスク弁16において筒状保持部32はなくてもよく、例えば、ディスク弁16の全体が略円板形状の弁本体30によって構成されていてもよい。
【0082】
前記実施形態では、通気路68が外針ハブ14の内面とディスク弁16の外面及び弁支持部材50の外面との間に形成される例を示したが、例えば、通気路68は、外針ハブ14の内面とディスク弁16の外面との間だけに設けられていてもよい。また、通気路68は、ディスク弁16及び弁支持部材50以外の他の部材と外針ハブ14との間に設けられていてもよい。また、外針ハブ14の内面とディスク弁16の外面との間に設けられる微小通路70及び微小隙間72は、ディスク弁16の外形によって形成されるようになっていたが、例えば、外針ハブ14の内面に溝や拡径部分を設けることにより、外針ハブ14の内形によって形成することもできる。この場合には、ディスク弁16において、嵌合部38の細溝42や嵌合部38よりも小径の離間部40は設けられなくてもよい。
【0083】
前記実施形態では、外針ハブ14とディスク弁16の間に形成される通気路68の先端部分が、微小通路70と微小隙間72を備えている構造を例示したが、例えば、通気路68の先端部分の全体が、周方向で部分的に設けられる微小通路70によって構成されていてもよい。通気路68は、外針ハブ14とディスク弁16の間のように2つの部品の重ね合わせ面間を延びるように設けられることが望ましいが、例えば、ディスク弁16を貫通する貫通孔を含んで構成することも可能である。通気路68の通路断面は、血液貯留部74を除く部分において通路長方向で略一定とされていてもよい。
【0084】
血液貯留部74は、通気路68の長さ方向において複数箇所に設けられていてもよい。この場合に、複数の血液貯留部74は、互いに異なる形状や容積であってもよいし、互いに同じ形状や容積であってもよい。
【0085】
通気路68の通路上に空気の通過を許容し且つ液体の通過を制限する通気性フィルタを設けることにより、通気路68を通じた基端側への血液等の漏れ出しをより長時間にわたって防止することもできる。
【0086】
基端側狭窄部76は必須ではなく、血液貯留部74は第2領域48に開放されていてもよい。この場合、止血弁付き留置針10は、血液貯留部74に溜まる血液が第2領域48へ直ちに漏出しないように、外針ハブ14の基端側が鉛直上側(斜め上側を含む)に向くように使用される。
【符号の説明】
【0087】
10 止血弁付き留置針
12 外針
14 外針ハブ
16 留置針用ディスク弁
18 内腔
20 固定ピン
22 雄ねじ部
24 当接部
26 当接面
28 凹溝
30 弁本体
32 筒状保持部
34 スリット
36 周溝
38 嵌合部
40 離間部
42 細溝
44 段差面
46 第1領域
48 第2領域
50 弁支持部材(ガイド部材)
52 押え突起
54 小径部
56 フランジ状部
58 リブ状部
60 内フランジ状部
62 突出部
64 押し子
66 係合部
68 通気路
70 微小通路
72 微小隙間
74 血液貯留部
76 基端側狭窄部(狭窄部)
78 オスコネクタ