(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】車室音響調整装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/175 20060101AFI20241003BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20241003BHJP
【FI】
G10K11/175
B60K35/23
(21)【出願番号】P 2021008050
(22)【出願日】2021-01-21
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 晋
(72)【発明者】
【氏名】樫村 茂雄
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-024627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/00-37/20
B60R 9/00-11/06
G10K 11/00-13/00
H04R 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室内に設けられる補機の動作音が前記車室内の乗員に聞こえることを抑制可能とするように構成される車室音響調整装置であって、
前記車室内に向けて音を出力可能とするように構成される音出力部と、
前記補機の動作音をマスキングするためのマスキング音を生成可能とするように構成されるマスキング音生成部と、
前記車両の起動時に発せられる起動音を生成可能とするように構成される起動音生成部と、
前記起動音生成部により生成される起動音を前記音出力部から出力させるように構成される制御部と
を備え、
前記起動音生成部が、第1の音から成る第1の起動音と、前記第1の音よりも高音である第2の音、及び前記マスキング音生成部により生成される前記マスキング音から成る第2の起動音とを生成可能に構成され、
前記制御部は、前記補機が前記動作音を発する動作を行わないように設定された状態では、前記起動音生成部により生成される前記第1の起動音を前記音出力部から出力させ、かつ前記補機が前記動作音を発する動作を行うように設定された状態では、前記起動音生成部により生成される前記第2の起動音を前記音出力部から出力させるように構成されている、車室音響調整装置。
【請求項2】
前記マスキング音生成部は、前記補機の累積動作回数に応じて、前記マスキング音の音圧レベルのピークにおける周波数を補正するように構成される、請求項1に記載の車室音響調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の補機の動作音が車室内の乗員に聞こえることを抑制可能とするように構成される車室音響調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内には、モータ、ギア等の駆動に基づいて動作するように構成された駆動機構を有する補機が設置されることがある。補機としては、例えば、HUD(ヘッドアップディスプレイ)機器等が挙げられる。HUD機器は、LCD(液晶ディスプレイ)から発せられる可視光を反射鏡によって反射させ、その後、反射した可視光を、車室内の乗員が可視光を画像として視認できるようにHUD機器の表示パネル、HUD機器外部のウインドシールド等に投影する。このようなHUD機器は、反射鏡、表示パネル等を駆動するように構成される駆動機構を有している。
【0003】
上記HUD機器等のような補機においては、駆動機構の動作音が、車室内の乗員に不快感及び違和感を与えることがある。例えば、乗員に不快感及び違和感を与え得る駆動機構の動作音としては、モータ音、ギアの噛み合い音等が挙げられる。そのため、このような駆動機構の動作音が乗員に聞こえることを抑制するために、様々な車室音響調整装置が提案されている。このような車室音響調整装置の一例としては、ヘルムホルツ共振器を有するHUD機器が挙げられる。(例えば、特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記車室音響調整装置の一例にて用いられるヘルムホルツ共振器は、予め定められた一定の共振周波数に表れる音圧レベルのピークを有する補機の動作音を抑制できるに過ぎない。これに対して、HUD機器等のような補機にて発生する動作音の共振周波数は、補機の周囲の温度環境、補機の経年劣化等に起因して変化することがある。そのため、上記車室音響調整装置の一例においては、補機の動作音が変化する場合等に、補機の動作音が乗員に聞こえることを効率的に抑制できない。
【0006】
このような実情を鑑みると、車室音響調整装置において、乗員が不快感及び違和感を感ずることを抑制可能としながら、補機の動作音が乗員に聞こえることを効率的に抑制可能とすることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するために、一態様に係る車室音響調整装置は、車両の車室内に設けられる補機の動作音が前記車室内の乗員に聞こえることを抑制可能とするように構成される車室音響調整装置であって、前記車室内に向けて音を出力可能とするように構成される音出力部と、前記補機の動作音をマスキングするためのマスキング音を生成可能とするように構成されるマスキング音生成部と、前記車両の起動時に発せられる起動音を生成可能とするように構成される起動音生成部と、前記起動音生成部により生成される起動音を前記音出力部から出力させるように構成される制御部とを備え、前記起動音生成部が、第1の音から成る第1の起動音と、前記第1の音よりも高音である第2の音、及び前記マスキング音生成部により生成される前記マスキング音から成る第2の起動音とを生成可能に構成され、前記制御部は、前記補機が前記動作音を発する動作を行わないように設定された状態では、前記起動音生成部により生成される前記第1の起動音を前記音出力部から出力させ、かつ前記補機が前記動作音を発する動作を行うように設定された状態では、前記起動音生成部により生成される前記第2の起動音を前記音出力部から出力させるように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
一態様に係る車室音響調整装置においては、乗員が不快感及び違和感を感ずることを抑制可能としながら、補機の動作音が乗員に聞こえることを効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る車室音響調整装置を有する車両を模式的に示す構成図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る車両を、車室の上方部分を省略した状態で概略的に示す平面図である。
【
図4】
図4は、第1の音、第2の音、マスキング音、及び補機の音域を説明するためのグラフである。
【
図5】
図5は、一実施形態に係る車室音響調整装置において第1の起動音を出力する場合のタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る車室音響調整装置において第2の起動音を出力する場合のタイミングチャートである。
【
図7】
図7は、一実施形態に係る車室音響調整装置による音響調整方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一実施形態に係る車室音響調整装置について、それを搭載した車両と共に説明する。本実施形態に係る車室音響調整装置を搭載した車両は、車室空間を有する自動車となっている。しかしながら、かかる車両は、車室空間を有する自動車以外の車両とすることもできる。
【0011】
本明細書中の説明に用いられる
図2及び
図3においては、車両1を基準とした方向を次のように示す。
図2及び
図3においては、車両前方及び車両後方を、それぞれ片側矢印F及び片側矢印Bによって示す。
図2においては、車両前方を向いた場合の左方及び右方を、それぞれ片側矢印L及び片側矢印Rによって示す。車両幅方向は、片側矢印L及び片側矢印Rによって示される。さらに、
図3においては、車両上方及び車両下方を、それぞれ片側矢印U及び片側矢印Dによって示す。なお、以下においては、単に「前方」、「後方」、「左方」、「右方」、「上方」、「下方」、「前後方向」、「幅方向」、及び「上下方向」と呼ぶ方向は、車両1を基準とした方向を指すものとする。
【0012】
「車室音響調整装置及び車両の概略」
図1~
図6を参照して、本実施形態に係る車室音響調整装置10及び車両1の概略について説明する。すなわち、本実施形態に係る車室音響調整装置10及び車両1は、概略的には次のように構成される。
図1~
図3を参照すると、車室音響調整装置10は、車両1の車室2に設けられる補機20の動作音が車室2内の乗員に聞こえることを抑制可能とするように構成される。
【0013】
図1及び
図3を参照すると、本実施形態に係る車両1の車室2に設けられる補機20は、モータ、ギア等の駆動に基づいて動作するように構成された駆動機構21を有するものとなっている。本実施形態においては、補機20は、一例として、HUD(ヘッドアップディスプレイ)機器20となっている。しかしながら、補機は、HUD機器に限定されない。例えば、補機は、電動チルトテレスコピックステアリング、電動パワーシート、駆動可能ディスプレイ付きカーナビゲーションシステム等とすることもできる。
【0014】
図1及び
図2に示すように、車室音響調整装置10は、車室2内に向けて音を出力可能とするように構成される音出力部11を有する。
図1に示すように、車室音響調整装置10は、HUD機器20の動作音をマスキングするためのマスキング音を生成可能とするように構成されるマスキング音生成部12を有する。車室音響調整装置10は、車両1の起動時に発せられる起動音を生成可能とするように構成される起動音生成部13を有する。車室音響調整装置10は、起動音生成部13により生成される起動音を音出力部11から出力させるように構成される制御部14を有する。
【0015】
図4に示すように、このような車室音響調整装置10において、起動音生成部13は、第1の起動音と第2の起動音とを生成可能とするように構成される。第1の起動音は、第1の音から成る。第2の起動音は、第1の音よりも高音である第2の音と、マスキング音生成部12により生成されるマスキング音とから成る。
【0016】
なお、
図4において、横軸Xは音域又は周波数(kHz)を示す。第1の音の音域、すなわち、第1の音にて他の周波数領域よりも音圧レベル(dB)が高くなる周波数帯域を両側矢印P1により示す。第2の音の音域、すなわち、第2の音にて他の周波数領域よりも音圧レベルが高くなる周波数帯域を両側矢印P2により示す。マスキング音の音域、すなわち、マスキング音にて他の周波数領域よりも音圧レベルが高くなる周波数帯域を両側矢印Qにより示す。HUD機器20の動作音の音域、すなわち、HUD機器20の動作音にて他の周波数領域よりも音圧レベルが高くなる周波数帯域を両側矢印Mにより示す。
【0017】
図5に示すように、制御部14は、HUD機器20が動作音を発する動作を行わないように設定された状態(以下、必要に応じて「非動作設定状態」という)では、起動音生成部13により生成される第1の起動音を音出力部11から出力させるように構成される。
図6に示すように制御部14はまた、HUD機器20が動作音を発する動作を行うように設定された状態(以下、必要に応じて「動作設定状態」という)では、起動音生成部13により生成される第2の起動音を音出力部11から出力させるように構成される。
【0018】
さらに、車室音響調整装置10において、マスキング音生成部12は、HUD機器20の累積動作回数に応じて、マスキング音の音圧レベルのピークにおける周波数を補正するように構成することができる。
【0019】
「車両の詳細」
図2を参照すると、車両1は、詳細には次のように構成することができる。車両1は、その車室2の前方寄りに配置されるインストルメントパネル3を有する。車両1は、インストルメントパネル3に対して後方に配置される運転席4a及び助手席4bを有する。運転席4a及び助手席4bは、車両幅方向に並んで配置される。運転席4a及び助手席4bは、前列シート群4を成す。
【0020】
車両1は、前列シート群4に対して後方に配置される少なくとも1つの後列シート群5を有する。後列シート群5は、複数の後部座席5a,5bから成る。
図2おいては、車両1は、2つの後部座席5a,5bから成る1つの後列シート群5を有する。しかしながら、車両は、3つ以上の後部座席から成る1つの後列シート群を有することもできる。車両は、複数の後部座席から成り、かつ前後方向に互いに間隔を空けた2つ以上の後列シート群から成ることもできる。
【0021】
車両1のドライバ(図示せず)は、運転席4aに着座する。車両1のドライバ以外の乗員(図示せず)は、助手席4b及び複数の後部座席5a,5bのいずれかに着座する。車両1は、この車両1を起動させるためのイグニッションスイッチ(以下、必要に応じて「IGスイッチ」という)6を有する。ドライバ等の乗員がIGスイッチ6をオン状態にすると、エンジン、走行駆動モータ等の駆動源等が起動する。また、ドライバ等の乗員がIGスイッチ6をオフ状態にすると、駆動源等が停止する。
【0022】
「HUD機器の詳細」
図1~
図3を参照すると、HUD機器20は、詳細には次のように構成することができる。
図2に示すように、HUD機器20は、インストルメントパネル3の上面部3aにて、車両幅方向の運転席4a寄りに配置される。
図1及び
図3に示すように、HUD機器20は、展開状態と格納状態との間で上下方向に移動可能に構成される表示パネル22を有する。なお、
図3においては、展開状態の表示パネル22を実線により示し、かつ格納状態の表示パネル22を仮想線により示す。
【0023】
図3に示すように、表示パネル22は、光を透過可能としながら光を反射可能とするように構成される。展開状態の表示パネル22は、前後方向にて運転席4aと対向するように配置される。ドライバは、展開状態の表示パネル22に対して後方に位置する景色を視認しながら、展開状態の表示パネル22に投影される表示を視認することができる。
【0024】
HUD機器20は、表示パネル22に投影される表示を映し出すことができるように構成されるLCD(液晶ディスプレイ)23を有する。HUD機器20は、LCD23からの表示を表示パネル22に向けて反射するように構成される反射鏡24を有する。このようなHUD機器20においては、LCD23から反射鏡24を経て表示パネル22に向かる投影経路(
図3にて片側矢印Kにより示す)が形成される。
【0025】
HUD機器20は、格納状態の表示パネル22と、LCD23と、反射鏡24とを収容する筐体25を有する。筐体25は、表示パネル22及び投影経路が通過可能となるように筐体25の上部に形成される開口25aを有する。
【0026】
HUD機器20の駆動機構21は、モータ21aと、このモータ21aの駆動により旋回可能なリードスクリュー21bとを有する。表示パネル22は、リードスクリュー21bの旋回に応じて、両側矢印H(
図3に示す)により示すように、展開状態と格納状態との間で上下方向に移動するようになっている。
【0027】
HUD機器20の動作音は、駆動機構21のモータ21aの駆動、駆動機構21のリードスクリュー21bの旋回等によって生ずることとなる。なお、駆動機構は、モータ、ギア等によって反射鏡の反射角を調節可能とするように構成することができ、この場合、反射鏡の反射角を調節するときに、動作音が生じ得ることとなる。
【0028】
HUD機器20の動作は、表示パネル22を格納状態から展開状態に移動させる展開動作である。HUD機器20は、非動作設定状態と動作設定状態とを切り替え可能とするように構成される動作切替部27を有する。HUD機器20は、動作設定状態で、IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられたと同時、又はこの切替から所定の時間経過後に、動作音を発する動作を開始する。
【0029】
具体的には、HUD機器20は、動作設定状態で、IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられたと同時、又はこの切替から所定の時間経過後に、表示パネル22の展開動作を開始する。HUD機器20は、表示パネル22が展開状態になると、展開動作を終了させる。しかしながら、HUD機器は、IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられた後に、ドライバ等の乗員が動作切替部を非動作設定状態から動作設定状態に切り替えるように操作すると同時に、表示パネルの展開動作を開始することもできる。
【0030】
「車室音響調整装置10の詳細」
図1、
図2、及び
図4~
図6を参照すると、本実施形態に係る車室音響調整装置10は、詳細には次のように構成することができる。
図1及び
図2に示すように、車室音響調整装置10の音出力部11は、複数のスピーカ11a,11b,11c,11dを含む。
【0031】
図2に示すように、具体的には、音出力部11は、運転席4aに対して車両幅方向の外方に位置する第1スピーカ11aを含むことができる。音出力部11は、助手席4bに対して車両幅方向の外方に位置する第2スピーカ11bを含むことができる。音出力部11は、後列シート群5に対して車両幅方向の一方に位置する第3スピーカ11cを含むことができる。音出力部11は、後列シート群5に対して車両幅方向の他方に位置する第4スピーカ11dを含むことができる。
【0032】
車室音響調整装置10のマスキング音生成部12、起動音生成部13、及び制御部14は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、入力インターフェース、出力インターフェース等の電子部品と、かかる電子部品を配置した電気回路とを含むように構成することができる。ROMは、各種制御定数、各種マップ、各種制御を実行するためのプログラム等を記憶することができる。
【0033】
図1に示すように、例えば、1つのECU(Electric Control Unit)15が、車室音響調整装置10のマスキング音生成部12、起動音生成部13、及び制御部14を含むことができる。しかしながら、マスキング音生成部、起動音生成部、及び制御部は、これに限定されない。マスキング音生成部、起動音生成部、及び制御部が、互いに異なるECUに含まれることもできる。マスキング音生成部、起動音生成部、及び制御部の1つが、これらの残りとは別のECUに含まれることもできる。
【0034】
マスキング音生成部12は、HUD機器20の累積動作回数をカウント可能に構成される。マスキング音生成部12は、HUD機器20の累積動作回数を記憶可能に構成される。マスキング音生成部12は、HUD機器20の動作時に、前回の動作時に記憶されたHUD機器20の累積動作回数Nに1を加えるようにHUD機器20の累積動作回数をカウントかつ記憶し、かつこのようなカウント及び記憶を繰り返すように構成される。
【0035】
図4を参照すると、起動音生成部13は、第2の音から成る第2の予備起動音を生成可能とするように構成される。起動音生成部13により生成される第1の起動音における第1の音と、起動音生成部13により生成される第2の起動音における第2の音との間における関係について、第2の音の音域は、第1の音の音域よりも高くなっている。そのため、ドライバ等の乗員にとって、第2の音は第1の音よりも耳につき易くなる。また、第2の音の音域における音圧レベルは、第1の音の音域における音圧レベルよりも大きくなっているとよい。
【0036】
HUD機器20の動作音の音域は、マスキング音の音域と略等しくなっている。第2の音の音域は、HUD機器20の動作音の音域と、マスキング音の音域とを包含する。言い換えれば、HUD機器20の動作音の音域と、マスキング音の音域とは、第2の音の音域内にある。マスキング音の音域における音圧レベルは、HUD機器20の動作音の音域における音圧レベルよりも大きくなっているとよい。
【0037】
第1及び第2の音のそれぞれは、音楽とすることができる。すなわち、第1の音は、第1の音楽とすることができ、かつ第2の音は、第2の音楽とすることができる。ここでは、音楽は、リズム、メロディー、及びハーモニーを有するものと定義する。
【0038】
図1、
図5、及び
図6を参照すると、制御部14は、IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられたか否かを判定可能に構成される。制御部14は、IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられた場合、HUD機器20が動作設定状態にあるか否かを判定可能に構成される。制御部14は、HUD機器20が動作設定状態にない場合、すなわち、HUD機器20が非動作設定状態にある場合、IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられると同時、又はこの切替から所定の時間経過後に、音出力部11から第1の起動音を出力させるように構成される。
【0039】
制御部14は、HUD機器20が動作設定状態にある場合、IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられた後にHUD機器20が動作音を発するように動作している状態で、音出力部11から第2の起動音を出力させるように構成される。制御部14は、HUD機器20の動作の終了、特に、表示パネル22の展開動作の終了と同時、又はこの終了から所定の時間経過後に、音出力部11からの第2の起動音の出力を終了するように構成される。
【0040】
制御部14はまた、IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられたタイミングから、HUD機器20の動作を開始するタイミングまでの間で、音出力部11から第2の予備起動音を出力することができる。制御部14はまた、HUD機器20の動作の終了、特に、表示パネル22の展開動作の終了から所定の時間経過するまでの間に、音出力部11から第2の予備起動音を出力することができる。
【0041】
「車室音響調整装置による音響調整方法」
図7を参照して、本実施形態に係る車室音響調整装置10による音響調整方法について説明する。最初に、IGスイッチ6がオフ状態にある(ステップS1)。IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられたか否かを判定する(ステップS2)。IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられていない場合(NO)、ステップS2を再び実行する。
【0042】
IGスイッチ6がオフ状態からオン状態に切り替えられた場合(YES)、HUD機器20が動作設定状態にあるか否かを判定する(ステップS3)。HUD機器20が動作設定状態にない場合、すなわち、HUD機器20が非動作設定状態にある場合(NO)、音出力部11から第1の起動音を出力する(ステップS4)。
【0043】
HUD機器20が動作設定状態にある場合(YES)、前回のHUD機器20の動作時に記憶されたHUD機器20の累積動作回数Nに1を加え、これによって、最新のHUD機器20の累積動作回数(N+1)を得る(ステップS5)。最新のHUD機器20の累積動作回数(N+1)に応じて、マスキング音の音圧レベルのピークにおける周波数を変更するようにマスキング音を補正する(ステップS6)。
【0044】
このとき、マスキング音の補正は、HUD機器20の累積動作回数の増加に伴う経年劣化に対応するように行われる。HUD機器20の累積動作回数の増加と経年劣化との関係は、実験、使用実績、シミュレーション等によって予め定めることができる。その後、第1の音よりも高音である第2の音と、ステップS5にて補正されたマスキング音とから成る第2の起動音を音出力部11から出力する(ステップS7)。
【0045】
以上、本実施形態に係る車室音響調整装置10は、車両1の車室2内に設けられる補機20の動作音が前記車室2内の乗員に聞こえることを抑制可能とするように構成される車室音響調整装置10であって、前記車室2内に向けて音を出力可能とするように構成される音出力部11と、前記補機20の動作音をマスキングするためのマスキング音を生成可能とするように構成されるマスキング音生成部12と、前記車両1の起動時に発せられる起動音を生成可能とするように構成される起動音生成部13と、前記起動音生成部13により生成される起動音を前記音出力部11から出力させるように構成される制御部14とを備え、前記起動音生成部13が、第1の音から成る第1の起動音と、前記第1の音よりも高音である第2の音、及び前記マスキング音生成部12により生成される前記マスキング音から成る第2の起動音とを生成可能に構成され、前記制御部14は、前記補機20が前記動作音を発する動作を行わないように設定された状態では、前記起動音生成部13により生成される前記第1の起動音を前記音出力部11から出力させ、かつ前記補機20が前記動作音を発する動作を行うように設定された状態では、前記起動音生成部13により生成される前記第2の起動音を前記音出力部11から出力させるように構成されている。
【0046】
一般的に、補機、特に、HUD機器は、車両の起動時に車室内の乗員にとって不快となる動作音を発する傾向にある。これに対して、本実施形態に係る車室音響調整装置10においては、特に、車両1の起動時に音出力部11から常時出力される起動音として、補機20が動作音を発するように動作していない状態で、第1の音から成る第1の起動音を用いることができ、かつ補機20が動作音を発するように動作している状態で、第2の音及びマスキング音から成る第2の起動音を用いることができる。そのため、補機20が動作音を発するように動作している状態で、乗員が、常時出力される起動音としての第2の起動音に違和感を感ずることを防ぎながら、この第2の起動音のマスキング音によって、補機20の動作音が乗員に聞こえることを効率的に抑制できる。
【0047】
また、第2の起動音の第2の音は、第1の起動音の第1の音よりも高音である。そのため、第2の起動音においては、HUD機器20の動作音と第2の起動音との間における音の周波数の差が無くなることで、HUD機器20の動作音が鳴る周波数の領域における音を乗員が聞き取り難くなるカクテルパーティー効果によって、マスキング音に対する乗員の不快感及び違和感を抑制することができる。よって、乗員が不快感及び違和感を感ずることを抑制可能としながら、補機20の動作音が乗員に聞こえることを効率的に抑制することができる。
【0048】
本実施形態に係る車室音響調整装置10においては、前記マスキング音生成部12が、前記補機20の累積動作回数に応じて、前記マスキング音の音圧レベルのピークにおける周波数を補正するように構成される。そのため、補機20の経年劣化に起因して補機20の動作音が変化する場合であっても補機20の動作音が乗員に聞こえることを効率的に抑制することができる。
【0049】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…車両、2…車室
10…車室音響調整装置、11…音出力部、12…マスキング音生成部、13…起動音生成部、14…制御部
20…補機、HUD機器