(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】車両用空調装置の制御方法および車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/32 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B60H1/32 625B
B60H1/32 623K
(21)【出願番号】P 2021084040
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2024-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 勝哉
【審査官】葛原 怜士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-101582(JP,A)
【文献】特開2011-213164(JP,A)
【文献】特開2003-182347(JP,A)
【文献】特開平05-319085(JP,A)
【文献】中国実用新案第201255099(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00- 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機の動力がクラッチ部を介して伝達されるコンプレッサを備えた車両用空調装置の制御方法において、
前記駆動機の回転数を検出するとともに、該回転数に対応した前記コンプレッサの圧縮圧力を検出し、
該検出した前記駆動機の回転数の変化と前記コンプレッサの圧縮圧力の変化とを基に、前記クラッチ部で固着が発生しているか否かを判定し、
前記クラッチ部の固着発生を判定した場合、前記コンプレッサを停止させる指示が与えられた後であっても、前記駆動機で発生するトルクが、前記コンプレッサの前記クラッチ部が遮断された状態に対応して設定される基準トルクよりも大きくなるように、前記駆動機の回転数を制御することを特徴とする車両用空調装置の制御方法。
【請求項2】
前記クラッチ部で固着が発生しているか否かの判定は、前記コンプレッサを停止させる指示が与えられた後に、前記駆動機の回転数の増加に従い前記コンプレッサの圧縮圧力が上昇する場合、または、前記駆動機の回転数の減少に従い前記コンプレッサの圧縮圧力が低下する場合に、前記クラッチ部で固着が発生していると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項3】
前記クラッチ部で固着が発生しているか否かの判定は、
前記コンプレッサを停止させる指示が与えられた後の時刻t1に検出した前記駆動機の回転数をNe(t1)とし、
前記時刻t1に検出した前記コンプレッサの圧縮圧力をPd(t1)とし、
前記時刻t1から所定時間Δtが経過した後の時刻t2に検出した前記駆動機の回転数をNe(t2)とし、
前記時刻t2に検出した前記コンプレッサの圧縮圧力をPd(t2)として、次式の関係、
(Pd(t2)-Pd(t1))/(Ne(t2)-Ne(t1))>0
を満たした場合に、前記クラッチ部が固着していると判定することを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項4】
前記クラッチ部の固着発生を判定した後に、所定の時間間隔で、前記クラッチ部の固着が解消されているか否かを判定し、
前記クラッチ部の固着が解消されていると判定するまでの間、前記駆動機で発生するトルクが徐々に増加するように、前記駆動機の回転数を制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項5】
駆動機の動力がクラッチ部を介して伝達されるコンプレッサを備えた車両用空調装置において、
前記駆動機の回転数を検出するとともに、該回転数に対応した前記コンプレッサの圧縮圧力を検出する検出部と、
前記検出部で検出される前記駆動機の回転数の変化と前記コンプレッサの圧縮圧力の変化とを基に、前記クラッチ部で固着が発生しているか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記クラッチ部の固着発生が判定された場合、前記コンプレッサを停止させる指示が与えられた後であっても、前記駆動機で発生するトルクが、前記コンプレッサの前記クラッチ部が遮断された状態に対応して設定される基準トルクよりも大きくなるように、前記駆動機の回転数を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置の制御方法および車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に用いられる空調装置には、エンジンやモータ等の駆動機の動力がクラッチを介して伝達されるコンプレッサが備えられている。このような車両用空調装置では、クラッチのオンオフや駆動機の回転数などを制御することによりコンプレッサの駆動状態が調整される。また、クラッチの固着によるコンプレッサの故障を診断する技術も知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されているコンプレッサの故障診断方法では、エンジン回転数を検出し、コンプレッサの作動中に第1のエンジン回転数の低下状態を検出したときに、コンプレッサの作動を停止し、このコンプレッサの作動停止から第1所定時間の経過後に、コンプレッサを再作動する。そして、このコンプレッサの再作動から第2所定時間内に、第2のエンジン回転数の低下状態を検出したときに、コンプレッサの故障を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような車両用空調装置の制御に関連した従来技術については、クラッチの固着によるコンプレッサの故障を判定することまでは可能であるが、当該故障からの復帰が期されていないという課題がある。コンプレッサの故障判定にとどまりクラッチが固着した状態で空調装置の制御が継続された場合、エンジンやモータなどの駆動機が過負荷状態になって停止(エンスト等)してしまう虞があり、改善の余地があった。
【0006】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、クラッチの固着によるコンプレッサの故障を判定可能であり、かつ、該クラッチの固着の解消を図ることで駆動機の停止を防ぐことができる、車両用空調装置の制御方法および車両用空調装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため本発明の一態様は、駆動機の動力がクラッチ部を介して伝達されるコンプレッサを備えた車両用空調装置の制御方法を提供する。この制御方法は、前記駆動機の回転数を検出するとともに、該回転数に対応した前記コンプレッサの圧縮圧力を検出し、該検出した前記駆動機の回転数の変化と前記コンプレッサの圧縮圧力の変化とを基に、前記クラッチ部で固着が発生しているか否かを判定し、前記クラッチ部の固着発生を判定した場合、前記コンプレッサを停止させる指示が与えられた後であっても、前記駆動機で発生するトルクが、前記コンプレッサの前記クラッチ部が遮断された状態に対応して設定される基準トルクよりも大きくなるように、前記駆動機の回転数を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両用空調装置の制御方法によれば、クラッチ部の固着を簡易に判定することができ、駆動機の過負荷状態による停止に陥る前に、起動機で発生するトルクを増大させることができる。これにより、クラッチ部の固着を解消してコンプレッサの異常状態が続くことを回避することができ、駆動機の停止を防ぐことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用空調装置の概略構成を示す概念図である。
【
図2】上記実施形態におけるコンプレッサの一例を示す斜視図である。
【
図3】
図2のA-A線断面図(電磁クラッチの切断状態)である。
【
図4】
図2のA-A線断面図(電磁クラッチの接続状態)である。
【
図5】上記実施形態における制御動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用空調装置の概略構成を示す概念図である。
図1において、車両用空調装置1は、例えば、自動車等の車両におけるエンジンやモータ等のパワーユニットが搭載されるパワーユニット搭載ルームE内にコンプレッサ3を備えている。以下では、パワーユニットとしてエンジン2が搭載されている車両の一例を説明する。コンプレッサ3は、エンジン2から伝達される動力によって作動し、内部に封入されている冷媒を圧縮して吐出する。
【0011】
エンジン2からコンプレッサ3への動力の伝達は、ベルト4および電磁クラッチ5を介して行われる。ベルト4は、エンジン2に設けられたプーリ2aと、コンプレッサ3に設けられたプーリ3aとに架け渡されている。電磁クラッチ5は、コンプレッサ3側に設けられており、コンプレッサ3の駆動時にプーリ3aと電気的に接続され、エンジン2からの動力をコンプレッサ3に伝達する。電磁クラッチ5の状態(接続または切断)は、電子制御ユニット(ECU)21から出力される制御信号に従って制御される。本実施形態では、エンジン2が本発明の「駆動機」に相当し、電磁クラッチ5が本発明の「クラッチ部」に相当し、電子制御ユニット21が本発明の「判定部」および「制御部」に相当する。
【0012】
コンプレッサ3で圧縮された冷媒は、吐出側ホース6を通してコンデンサ7に送られる。コンデンサ7は、コンプレッサ3で圧縮された冷媒(気体)を冷却して液化させる。コンデンサ7には、ファン8によって外気が引き込まれており、冷媒の冷却が外気を利用して行われる。コンデンサ7で冷却された冷媒(液体)は、液パイプ9の中を通ってカーエアコン(HVAC)10に送られる。
【0013】
カーエアコン10は、車室R側に配置されており、膨張弁11とエバポレータ12とを有している。膨張弁11は、コンデンサ7で液化された冷媒を小さなノズル穴から噴射し、気化し易い霧状となった冷媒をエバポレータ12内へ送る。エバポレータ12では、霧状の冷媒が周囲の熱を奪って気化する。これによりエバポレータ12が冷やされ、エバポレータ12の周辺に図示を省略したブロワファン等からの風を送ることで冷風が生成される。エバポレータ12で気化された冷媒は、膨張弁11および吸入側ホース13を経由してコンプレッサ3に戻され、再び圧縮される。
【0014】
図2は、上記コンプレッサ3の一例を示す斜視図である。また、
図3および
図4は、
図2のA-A線断面図である。
図3には、電磁クラッチ5を切断したときのコンプレッサ3の状態が示され、
図4には、電磁クラッチ5を接続したときのコンプレッサ3の状態が示されている。
図2~
図4に示すように、コンプレッサ3の軸方向の一端部には、ベルト4を掛けるプーリ3aが設けられている。プーリ3aは、ベアリング3bにより回転自由に支持されており、ベルト4を介して伝達されるエンジン2からの動力を受ける。プーリ3aには、電磁クラッチ5およびハブ3cを介してシャフト3dが接続される。
【0015】
電磁クラッチ5は、
図3および
図4に示すように、コンプレッサ3のプーリ3aに対して軸方向外側に配置されるアーマチュア5aを有している。アーマチュア5aは、板バネやゴム等の弾性部材3eによりハブ3cと嵌合しており、プーリ3a側へ移動可能に構成されている。ハブ3cには、シャフト3dの軸方向の一端部がボルト3fで締結されている。図示を省略するが、シャフト3dの他端部には斜板およびピストンが接続されており、シャフト3dの回転によりピストンが軸方向に移動することでシリンダ内の冷媒が圧縮される。
【0016】
アーマチュア5aのプーリ3aを挟んだ反対側には、電磁コイル5bが配置されている。電磁コイル5bには、図示しないバッテリー等の車両電源からの電力がリレー5cおよび温度ヒューズ5dを介して供給される。リレー5cは、コイル部および接点部を有し、電子制御ユニット21からの制御信号に従って、コイル部に繋がる端子T1への印加電圧が制御されることにより、接点部が開閉動作する。接点部に繋がる端子T2には車両電源の出力電圧が印加されており、接点部が閉成してリレー5cがオン状態になると、当該電圧が温度ヒューズ5dを介して電磁コイル5bに印加されて、電磁コイル5bが通電状態になる。
【0017】
電磁コイル5bの通電時には、該電磁コイル5bで発生する磁力によって、アーマチュア5aが電磁コイル5b側に引き寄せられ、プーリ3aの軸方向外側に位置する端面にアーマチュア5aが当接して吸着される。
図4の太線は、電磁コイル5bの通電時におけるアーマチュア5aとプーリ3aとの吸着面Fを示している。プーリ3aに吸着したアーマチュア5aは、エンジン2のプーリ2aからベルト4、コンプレッサ3のプーリ3aの順に伝達された動力により回転する。このアーマチュア5aの回転により、弾性部材3eおよびハブ3cを介してアーマチュア5aに接続するシャフト3dも回転して、冷媒の圧縮が行われる。
【0018】
リレー5cがオフ状態になるか、または温度ヒューズ5dが作動して、電磁コイル5bが非通電状態になると、アーマチュア5aのプーリ3aへの吸着が解除される。電磁コイル5bの非通電状態において、アーマチュア5aとプーリ3aとの間には、
図3に示すようにエアギャップGが形成される。このエアギャップGは、例えば0.5mm程度である。
【0019】
ただし、電磁クラッチ5の固着が発生している場合には、電子制御ユニット21からの制御信号に従ってリレー5cの端子T1に電圧が印加されていない状態であっても、アーマチュア5aがプーリ3aに吸着し続ける。この場合、アーマチュア5aとプーリ3aとの間のエアギャップGは形成されなくなる。本実施形態における電磁クラッチ5の固着とは、アーマチュア5aおよびプーリ3aの金属面同士が面荒れによって凝着している状態(アーマチュア5aとプーリ3aの固着)と、リレー5cにおけるコイル部の端子T1に電圧が印加されていないのに接点部が閉成している状態(リレー5cの接点部の固着)とを含んでいる。本実施形態による車両用空調装置1では、このような電磁クラッチ5の固着の解消を図る制御が電子制御ユニット21によって実行される。
【0020】
電子制御ユニット21は、電磁クラッチ5を介してコンプレッサ3を作動(オン)または停止(オフ)させる制御を行うとともに、コンプレッサ3の駆動状態に応じてエンジン2の回転数を調整する制御を行うことが可能である。具体的に、電子制御ユニット21は、CPU等のプロセッサ、フラッシュROM等の不揮発性メモリ、RAM等の揮発性メモリ、外部機器との入出力インターフェース、およびこれらを相互に通信可能に接続するバスを有する周知のマイクロコンピュータを備えている。電子制御ユニット21は、車両の図示を省略したイグニッションスイッチがオンされて車両電源に接続されることにより起動される。電子制御ユニット21には、圧力センサ(PS)22および回転数センサ(RS)23等から出力される各信号がそれぞれ入力される。
【0021】
圧力センサ22は、コンプレッサ3で圧縮された冷媒の圧力を計測する。本実施形態において圧力センサ22は、例えば、コンプレッサ3の吐出側で液パイプ9上に配置されている。圧力センサ22は、コンデンサ7を通過し液パイプ9内を膨張弁11に向けて流れる冷媒の圧力を計測して、その計測結果を示す信号を電子制御ユニット21に出力する。なお圧力センサ22の配置は上記一例に限定されない。
【0022】
回転数センサ23は、例えば、角度検出デバイス等を用いてエンジン2側のプーリ2aのクランク角度を計測し、その計測値からエンジン2の回転数を測定する。回転数センサ23は、測定したエンジン2の回転数を示す信号を電子制御ユニット21に出力する。なお、本実施形態では、圧力センサ22および回転数センサ23が本発明の「検出部」に相当する。
【0023】
次に、本実施形態による車両用空調装置1の制御動作について、
図5に示すフローチャートを参照しながら詳しく説明する。
上述したような構成の車両用空調装置1では、
図5のステップS10において、車両のイグニッションスイッチがオンされることで、電子制御ユニット21等の各部が起動されるとともに、エンジン2が始動して車両の走行機能がオン状態になる。
【0024】
そして、ステップS20では、車室R内の計器盤周辺に配置された空調操作パネルのエアコンスイッチ(図示省略)がオンされると、該エアコンスイッチから電子制御ユニット21にコンプレッサ3を作動させる指示が与えられる。なお、オートエアコンの機能が有効とされている場合には、エアコン設定温度と車室内温度との関係に応じて、コンプレッサ3を作動(または停止)させる指示が自動的に電子制御ユニット21へ与えられる。
【0025】
コンプレッサ3を作動させる指示を受けた電子制御ユニット21は、電磁クラッチ5を接続してコンプレッサ3を作動させる制御を行うとともに、コンプレッサ3の作動に伴う負荷の増加に応じてエンジン2の回転数を上昇させる制御を行う。これにより、カーエアコン10の冷房機能が始動してエアコン制御がオンになる。
【0026】
続くステップS30では、電子制御ユニット21が、回転数センサ23からの出力信号によって示されるエンジン2の回転数を検出するとともに、圧力センサ22からの出力信号によって示されるコンプレッサ3の圧縮圧力を検出する。この電子制御ユニット21によるエンジン2の回転数およびコンプレッサ3の圧縮圧力の検出は、エアコン制御がオン状態にある間、所定の周期pで繰り返し実行される。これにより、電子制御ユニット21において、エンジン2の回転数に対応したコンプレッサ3の圧縮圧力の時間的な変化に関するデータが取得され記憶される。
【0027】
次のステップS40では、電子制御ユニット21において、コンプレッサ3を停止させる指示が与えられたか否かの判定が行われる。コンプレッサ3の停止指示は、前述したエアコンスイッチをオフに切り替える操作が行われた時、或いは、オートエアコンの機能が有効とされている場合に車室内温度がエアコン設定温度を下回るなどして冷房を中断する時に与えられる。コンプレッサ3の停止指示が電子制御ユニット21に与えられると(YES)、次のステップS50に進む。
【0028】
ステップS50では、電子制御ユニット21が、電磁クラッチ5を切断してコンプレッサ3を停止させる制御を行う。具体的には、リレー5cのコイル部に繋がる端子T1への印加電圧をオフにする制御信号が電子制御ユニット21から電磁クラッチ5に出力される。この制御信号を受けた電磁クラッチ5では、リレー5cの接点部が開成して電磁コイル5bが非通電状態となり、アーマチュア5aのプーリ3aへの吸着が解除される。このとき、前述した電磁クラッチ5の固着、すなわち、アーマチュア5aとプーリ3aの固着、或いはリレー5cの接点部の固着が発生していると、リレー5cのコイル部の端子T1に電圧が印加されていないにも拘らず、アーマチュア5aがプーリ3aに吸着し続けて電磁クラッチ5が切断されない異常状態となる。
【0029】
そこで、続くステップS60では、電子制御ユニット21が、回転数センサ23からの出力信号を用いて検出したエンジン2の回転数の変化と、圧力センサ22からの出力信号を用いて検出したコンプレッサ3の圧縮圧力の変化とを基に、電磁クラッチ5で固着が発生しているか否かを判定する。
【0030】
この電磁クラッチ5における固着発生の有無の判定は、コンプレッサ3を停止させる指示が与えられた後に(上記ステップS40のYES以降)、エンジン2の回転数の増加に従いコンプレッサ3の圧縮圧力が上昇する場合、または、エンジン2の回転数の減少に従いコンプレッサ3の圧縮圧力が低下する場合に、電磁クラッチ5で固着が発生していると判定し、それ以外の場合は、電磁クラッチ5で固着が発生していないと判定する。つまり、コンプレッサ3の停止指示後において、電磁クラッチ5が正常な状態にあれば、エンジン2からの動力がコンプレッサ3に伝達されなくなるので、エンジン2の回転数の変化(増減)に連動することなく、コンプレッサ3の圧縮圧力が変化するか若しくは一定になる。一方、電磁クラッチ5で固着が発生していれば、コンプレッサ3の停止指示以降も、エンジン2からの動力がコンプレッサ3に伝達され続けるため、エンジン2の回転数の変化に連動してコンプレッサ3の圧縮圧力も変化する。電子制御ユニット21は、上記のようなエンジン2の回転数およびコンプレッサ3の圧縮圧力の時間的な変化の関係に着目して、電磁クラッチ5で固着が発生しているか否かを判定している。
【0031】
具体的に、本実施形態における電子制御ユニット21は、例えば、以下に示すような関係式を用いて電磁クラッチ5で固着が発生しているか否かを判定している。すなわち、ここでは、コンプレッサ3を停止させる指示が与えられた後の時刻t1に検出されるエンジン2の回転数をNe(t1)とし、該時刻t1に検出されるコンプレッサ3の圧縮圧力をPd(t1)とする。また、上記時刻t1から所定時間Δtが経過した後の時刻t2に検出されるエンジン2の回転数をNe(t2)とし、該時刻t2に検出されるコンプレッサ3の圧縮圧力をPd(t2)とする。なお、所定時間Δtは、回転数および圧縮圧力の検出周期pに対応させて設定される(Δt∝p)。そして、これらのパラメータNe(t1)、Pd(t1)、Ne(t2)およびPd(t2)を用いて表される次の(1)式の関係を満たす場合に、電子制御ユニット21は、電磁クラッチ5で固着が発生していることを判定する。
(Pd(t2)-Pd(t1))/(Ne(t2)-Ne(t1))>0 …(1)
【0032】
つまり、電子制御ユニット21は、上記(1)式の左辺の値、すなわち、所定時間Δtにおけるエンジン2の回転数の変化量に対するコンプレッサ3の圧縮圧力の変化量の割合が0よりも大きくなっているとき、電磁クラッチ5の固着発生を判定している。具体的に説明すると、所定時間Δtでエンジン2の回転数が増加している場合、その変化量(Ne(t2)-Ne(t1))は正の値となる。このとき、電磁クラッチ5で固着が発生していると、エンジン2の回転数が増加に連動してコンプレッサ3の圧縮圧力も上昇し、その変化量(Pd(t2)-Pd(t1))も正の値となる。したがって、電磁クラッチ5で固着が発生している場合、上記(1)式の左辺の値は0よりも大きくなる。一方、電磁クラッチ5が正常な状態にあれば、エンジン2の回転数が増加してもコンプレッサ3の圧縮圧力は上昇しないため、圧縮圧力の変化量は0または負の値となる。したがって、電磁クラッチ5で固着が発生していない場合、上記(1)式の左辺の値は0以下となる。
【0033】
また、所定時間Δtでエンジン2の回転数が減少している場合、その変化量(Ne(t2)-Ne(t1))は負の値となる。このとき、電磁クラッチ5で固着が発生していると、エンジン2の回転数が減少に連動してコンプレッサ3の圧縮圧力も低下し、その変化量(Pd(t2)-Pd(t1))も負の値となる。したがって、電磁クラッチ5で固着が発生している場合、上記(1)式の左辺の値は0よりも大きくなる。一方、電磁クラッチ5が正常な状態にあれば、エンジン2の回転数が減少してもコンプレッサ3の圧縮圧力は低下しないため、圧縮圧力の変化量は0または正の値となる。したがって、電磁クラッチ5で固着が発生していない場合、上記(1)式の左辺の値は0以下となる。
【0034】
上記のようにして電子制御ユニット21において電磁クラッチ5の固着発生が判定された場合には(ステップS60のYES)、次のステップS70に進む。一方、電磁クラッチ5で固着が発生していないことが判定された場合には(ステップS60のNO)、ステップS100に移る。
【0035】
ステップS70では、電子制御ユニット21により、エンジン2で発生するトルクが、コンプレッサ3の電磁クラッチ5が遮断された状態に対応して設定される基準トルクよりも大きくなるように、エンジン2の回転数が制御される。通常、コンプレッサ3の停止指示に従って電磁クラッチ5が切断されると、コンプレッサ3の停止に伴ってエンジン2にかかる負荷が軽減されるため、エンジン2で発生するトルクが予め設定した基準トルクとなるようにエンジン2の回転数を減少させる制御が行われる。しかし、電磁クラッチ5で固着が発生している状況下において、上記のようなコンプレッサ3の電磁クラッチ5が遮断された状態に対応したエンジン2の制御により回転数が減少すると、エンジン2が過負荷状態になってエンストが発生する可能性がある。
【0036】
そこで、本実施形態による電子制御ユニット21では、エンストの発生を回避しつつ、電磁クラッチ5の固着の解消を図るために、コンプレッサ3の停止指示が与えられた後であっても、エンジン2において基準トルクよりも大きなトルクが発生するようにエンジン2の回転数を制御する制御信号が生成される。なお、エンジン2の回転数は、当該エンジン2の性能を表すトルクカーブ等を参照して設定することが可能である。本実施形態では、コンプレッサ3の停止指示後も、それ以前のコンプレッサ3の作動時と同様のトルクが発生するようにエンジン2の回転数が制御されるようにしている。
【0037】
電子制御ユニット21からの制御信号に従ってエンジン2の回転数が調整され、基準トルクよりも大きなトルクがエンジン2で発生するようになると、当該トルクがベルト4を介してコンプレッサ3のプーリ3aに伝達され、アーマチュア5aとプーリ3aの吸着面Fで滑りを発生させる力が作用する。特に、本実施形態では、コンプレッサ3の作動時と同様なトルクがエンジン2で発生するようにエンジン2の回転数が制御されているので、吸着面Fでの滑りが発生しやすくなっている。このような吸着面Fでの滑りが継続することによって、アーマチュア5aとプーリ3aとの固着(凝着)が発生している場合には、該固着を剥がすことが可能になる。また、リレー5cの接点部の固着が発生している場合には、吸着面Fでの滑りによって熱が発生し、その熱によって温度ヒューズ5dが作動して電磁コイル5bへの通電を遮断することが可能になる。
【0038】
次のステップS80では、電子制御ユニット21が、所定の時間間隔で、電磁クラッチ5の固着が解消されているか否かを判定する。この電子制御ユニット21による電磁クラッチ5の固着解消の判定は、エンジン2の回転数およびコンプレッサ3の圧縮圧力の時間的な変化が、前述した(1)式の関係を満たさなくなることによって行われる。つまり、(1)式における左辺の値(所定時間Δtにおけるエンジン2の回転数の変化量に対するコンプレッサ3の圧縮圧力の変化量の割合)が0以下になっているときに、電磁クラッチ5の固着が解消されていることを判定する。換言すると、エンジン2の回転数の変化(増減)に連動することなく、コンプレッサ3の圧縮圧力が変化するか若しくは一定になる場合に、電磁クラッチ5の固着解消が判定される。
【0039】
上記ステップS80で電磁クラッチ5の固着が解消されていないと判定された場合には(NO)、次のステップS90に進む。ステップS90では、電子制御ユニット21により、エンジン2で発生するトルクが更に増加するようにエンジン2の回転数が制御され、ステップS80に戻る。このステップS90によるエンジン2の回転数の制御は、ステップS80で電磁クラッチ5の固着解消が判定されるまで繰り返し行われる。つまり、電磁クラッチ5の固着解消が判定されるまでの間、エンジン2で発生するトルクが徐々に増加するように、エンジン2の回転数が電子制御ユニット21により制御される。
【0040】
そして、電磁クラッチ5の固着解消が判定されるようになると(ステップS80のYES)、ステップS100において、電子制御ユニット21により、エンジン2で発生するトルクが前述した基準トルクとなるようにエンジン2の回転数が制御され、前述したステップS20に戻る。
【0041】
なお、電磁クラッチ5の固着が判定されている間、当該車両の乗員にエアコンの異常を知らせる警告が、車室R内の計器盤やその周辺に配置されたモニタ等に表示されるようにするのがよい。また、電磁クラッチ5の固着判定が一定時間継続した場合には、電磁クラッチ5の故障が判定され、乗員にエアコンの故障を知らせる警告や、販売店等での調査を促す警告などが表示されるようにしてもよい。
【0042】
上記のようなステップS10~S100の一連の処理が電子制御ユニット21により実行されることによって、本実施形態の車両用空調装置1は、簡易な構成で電磁クラッチ5の固着を判定することができ、エンジン2の過負荷状態による停止(エンスト)に陥る前に、エンジン2で発生するトルクを増大させることができる。このようなエンジン2のトルク増大によって、アーマチュア5aとプーリ3aの吸着面Fで滑りが生じやすくなる。この吸着面Fでの滑りにより、アーマチュア5aとプーリ3aとの固着(凝着)が発生している場合には、該固着を剥がして電磁クラッチ5を切断することが可能になる。また、リレー5cの接点部の固着が発生している場合には、温度ヒューズ5dを作動させ電磁コイル5bへの通電を遮断して電磁クラッチ5を切断することが可能になる。したがって、本実施形態の車両用空調装置1によれば、電磁クラッチ5の固着によるコンプレッサ3の異常状態が続くことを回避することができ、エンストが発生するのを防ぐことが可能になる。
【0043】
また、本実施形態の車両用空調装置1では、電子制御ユニット21において、コンプレッサ3の停止指示後に、エンジン2の回転数の増加に従いコンプレッサ3の圧縮圧力が上昇する場合、または、エンジン2の回転数の減少に従いコンプレッサ3の圧縮圧力が低下する場合に、電磁クラッチ5で固着が発生していることが判定される。これにより、電磁クラッチ5における固着発生の有無を正確に判別することができる。特に、上述した(1)式の関係を用いて判定を行うようにすれば、固着発生の有無をより正確に判別することができるようになり、エンジン2の回転数を的確に制御することが可能になる。よって、電磁クラッチ5の固着に起因したエンストの発生を効果的に防止することができる。
【0044】
さらに、本実施形態の車両用空調装置1では、電磁クラッチ5の固着発生を判定した後に、所定の時間間隔で、電磁クラッチ5の固着が解消されているか否かを判定し、電磁クラッチ5の固着が解消されていると判定するまでの間、エンジン2で発生するトルクが徐々に増加するように、エンジン2の回転数が制御される。これにより、アーマチュア5aとプーリ3aとの固着(凝着)を確実に剥がす、或いは、温度ヒューズ5dを確実に作動させて電磁コイル5bへの通電を遮断して、電磁クラッチ5を切断することが可能になる。よって、電磁クラッチ5の固着に起因したエンストの発生を更に効果的に防止することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、既述の実施形態では、コンプレッサ3の駆動機としてエンジン2が用いられる一例を説明したが、モータ等を駆動機とすることも勿論可能である。
【0046】
また、既述の実施形態では、電磁クラッチ5(クラッチ部)の構成として、リレー5cおよび温度ヒューズ5dを介して電磁コイル5bを通電状態とし、該電磁コイル5bで発生する磁力によりアーマチュア5aをコンプレッサ3のプーリ3aに吸着させる一例を示したが、クラッチ部の構成は上記一例に限定されず、駆動機からコンプレッサへの動力の伝達に使用可能な任意のクラッチに対して本発明は有効である。
【0047】
さらに、既述の実施形態では、電子制御ユニット21がコンプレッサ3のオンオフとエンジン2の回転数とを制御する一例を説明したが、車両用空調装置1に備えられた多様な空調機能が電子制御ユニット21により制御されるようにしてもよい。例えば、オートエアコンの機能が有効とされている場合に、吹き出し温度やファン段数、内気循環の切替えなどを電子制御ユニット21により自動制御することで、より快適な空調制御を実現することが可能になる。
【符号の説明】
【0048】
1…車両用空調装置
2…エンジン
2a…プーリ
3…コンプレッサ
3a…プーリ
3b…ベアリング
3c…ハブ
3d…シャフト
4…ベルト
5…電磁クラッチ
5a…アーマチュア
5b…電磁コイル
5c…リレー
5d…温度ヒューズ
6…吐出側ホース
7…コンデンサ
8…ファン
9…液パイプ
10…カーエアコン(HVAC)
11…膨張弁
12…エバポレータ
13…吸入側ホース
21…電子制御ユニット(ECU)
22…圧力センサ(PS)
23…回転数センサ(RS)
E…パワーユニット搭載ルーム
F…吸着面
G…ギャップ
R…車室