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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】培養液循環装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021171186
(22)【出願日】2021-10-19
(65)【公開番号】P2023061281
(43)【公開日】2023-05-01
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】597095957
【氏名又は名称】株式会社アクアテック
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125221
【弁理士】
【氏名又は名称】水田 愼一
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛士
(72)【発明者】
【氏名】中本 浩
(72)【発明者】
【氏名】井上 広昭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 誠
(72)【発明者】
【氏名】亀井 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】今村 聡
(72)【発明者】
【氏名】吉川 あゆみ
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0055283(US,A1)
【文献】国際公開第2021/166227(WO,A1)
【文献】特表2006-524322(JP,A)
【文献】特表2022-501003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 - 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルが設けられたマルチウェルプレートにおいて、各々のウェルを密閉する密閉蓋と、
ウェルの密閉性を維持した状態で前記密閉蓋を貫通して設けられ、複数のウェル間で培養液を直列ループ状に循環させるための流路と、
前記流路の途中に設けられ培養液の吸い上げと送液する1つの送液ポンプと、を備えたことを特徴とする培養液循環装置。
【請求項2】
前記密閉蓋は、円盤状に形成された円盤部と、前記円盤部の上端に設けられたフランジと、前記円盤部に周回され弾性部材から成るOリングと、を有し、
前記フランジがウェルの上縁に当接するまで前記円盤部をウェルに嵌め込んだときに、前記Oリングが弾性変形してウェルの内壁に密着することで、ウェルの密閉性が確保されることを特徴とする請求項1に記載の培養液循環装置。
【請求項3】
前記密閉蓋は、前記円盤部が拡がる方向に直交して設けられた複数の貫通孔を有し、前記円盤部の上面を介して流路形成体に溶着され、
前記流路形成体は、共に平板状に形成された上方流路形成体及び下方流路形成体を互いに溶着して構成され、
前記下方流路形成体は、前記上方流路形成体に対向する面に前記貫通孔と連通した溝を有し、
前記流路は、前記貫通孔及び溝により構成されていることを特徴とする請求項2に記載の培養液循環装置。
【請求項4】
ウェル内にセルカルチャーインサートを更に有し、
前記密閉蓋は、ウェル及びセルカルチャーインサートの両方を密閉し、
前記流路は、ウェル及びセルカルチャーインサートの各々に対して独立に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の培養液循環装置。
【請求項5】
前記密閉蓋は、ウェルを塞ぐようにしてウェルの上縁に固着された板材により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の培養液循環装置。
【請求項6】
前記流路は、前記密閉蓋を貫通して固着されたパイプと、前記パイプの上端に接続されたチューブと、により構成されていることを特徴とする請求項に記載の培養液循環装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のウェルが設けられたマルチウェルプレートにおいて、ウェル間で培養液を循環させる培養液循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、培養した細胞や組織を基にした創薬研究が盛んになってきている。特に、iPS細胞が創出されてからは組織や臓器の細胞が比較的容易に作製できるようになり、これらの組織や臓器を用いて薬剤等の効果や副作用が検証されている。従来、このような検証は、1つの組織や臓器を対象として行われてきたが、組織や臓器は、生体内において単独で機能しているのではなく、他の組織や臓器とコミュニケーションを取りながら機能している。そのため、1つの組織や臓器を検証対象とするだけでは、生体全体に対する影響を十分に理解することはできない。
【0003】
そのため、最近では、マイクロ流体デバイスを使用した「organ on a chip」と呼ばれるチップ上に複数の組織や臓器を配置して、これら組織や臓器間でのコミュニケーションを可能とした上で薬剤等の効果を検証する技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-505214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したようなチップでは、組織や臓器の組み合わせ変更や流路変更の際、その都度マイクロチップの設計変更及び作製が必要となる。そのため、チップの汎用性が低く、高コスト化を引き起こし得る。
【0006】
また、組織や臓器を培養するための培養液は、二酸化炭素(CO)を放出しやすい性質を有しており、外気と接触するとCOを放出してアルカリ性化する。このような培養液のアルカリ性化は、組織や臓器の性状変化や死滅を引き起こしうる。そのため、組織や臓器の培養は、通常、CO濃度が5%に維持されたCOインキュベータやグローブボックス内においてCOを強制添加した状態で行う必要があり、これにより、実験操作に大きな制限がかかり、操作性が良いとは言えない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであって、複数の組織や臓器間でのコミュニケーションを検証するにあたって、高い汎用性と低コスト化を実現すると共に、COインキュベータやグローブボックスを不要として操作性を向上させることができる培養液循環装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の培養液循環装置は、複数のウェルが設けられたマルチウェルプレートにおいて、各々のウェルを密閉する密閉蓋と、ウェルの密閉性を維持した状態で前記密閉蓋を貫通して設けられ、複数のウェル間で培養液を直列ループ状に循環させるための流路と、前記流路の途中に設けられ培養液の吸い上げと送液する1つの送液ポンプと、を備えたことを特徴とする。
【0009】
前記密閉蓋は、円盤状に形成された円盤部と、前記円盤部の上端に設けられたフランジと、前記円盤部に周回され弾性部材から成るOリングと、を有し、前記フランジがウェルの上縁に当接するまで前記円盤部をウェルに嵌め込んだときに、前記Oリングが弾性変形してウェルの内壁に密着することで、ウェルの密閉性が確保されることが好ましい。
【0010】
前記密閉蓋は、前記円盤部が拡がる方向に直交して設けられた複数の貫通孔を有し、前記円盤部の上面を介して流路形成体に溶着され、前記流路形成体は、共に平板状に形成された上方流路形成体及び下方流路形成体を互いに溶着して構成され、前記下方流路形成体は、前記上方流路形成体に対向する面に前記貫通孔と連通した溝を有し、前記流路は、前記貫通孔及び溝により構成されていることが好ましい。
【0012】
本発明の培養液循環装置は、ウェル内にセルカルチャーインサートを更に有し、前記密閉蓋は、ウェル及びセルカルチャーインサートの両方を密閉し、前記流路は、ウェル及びセルカルチャーインサートの各々に対して独立に形成されていることが好ましい。
【0013】
前記密閉蓋は、ウェルを塞ぐようにしてウェルの上縁に固着された板材により構成されていることが好ましい。
【0014】
前記流路は、前記密着蓋を貫通して固着されたパイプと、前記パイプの上端に接続されたチューブと、により構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の培養液循環装置によれば、複数の組織や臓器間でのコミュニケーションを検証するにあたって、特殊なチップ等を必要とせず、市販のマルチウェルプレートを利用することができるので、高い汎用性と低コスト化を実現することができる。また、ウェルを密閉蓋により密閉することで、外気と接触することによる培養液からのCO放出が抑制されるので、COインキュベータやグローブボックスを不要として操作性を向上させることができる。また、ウェル内の培養液の蒸発を抑制することができ、更に、複数サンプル間のコンタミネーションを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る培養液循環装置の側断面図。
図2】上記培養液循環装置において更にセルカルチャーインサートを設置したウェルの側断面図。
図3】本発明の第1実施例に係る培養液循環装置の側断面図。
図4】本発明の第2実施例に係る培養液循環装置を利用した密閉型細胞実験装置の斜視図。
図5】上記第2実施例に係る培養液循環装置の分解斜視図。
図6】(a)は、上記第2実施例に係る培養液循環装置の側断面図、(b)は、(a)のI-I線断面図。
図7】(a)は、上記第2実施例に係る培養液循環装置を構成する密閉蓋の分解斜視図、(b)は、同密閉蓋の斜視図、(c)は、同密閉蓋の変形例を示す斜視図。
図8】(a)(b)は、上記密閉蓋のウェルへの取り付けを示す側断面図。
図9】上記第2実施例に係る培養液循環装置を構成する送液ポンプの分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る培養液循環装置について図1及び図2を参照して説明する。図1に示すように、培養液循環装置1は、複数のウェルWが設けられたマルチウェルプレートPにおいて、各々のウェルWを密閉する密閉蓋2と、ウェルWの密閉性を維持した状態で密閉蓋2を貫通して設けられ複数のウェルW間で培養液Mを直列ループ状に循環させるための流路3と、流路3の途中に設けられ培養液Mを送液する1つの送液ポンプ4と、を備える。流路3及び送液ポンプ4は、共に高い密閉性及びガスバリア性を有し、培養液Mが外気と接触しないように構成されている。
【0018】
また、図例では、培養液循環装置1は、マルチウェルプレートPと送液ポンプ4との間の流路3に、培養液Mのリザーバ5を更に備える。リザーバ5は、ウェルWよりも大容量の培養液Mを貯留することができる試薬瓶等により構成され、密閉蓋51により密閉される。流路3は、リザーバ5の密閉性を維持した状態で、密閉蓋51を貫通して設けられている。個々のウェルWは、例えば、有底の略円筒形状の容器であり、上面開口に密閉蓋2が装着される。
【0019】
密閉蓋2は、透明な材料により構成され、密閉蓋2をウェルWに取り付けることで密閉蓋2とウェルWの内壁とにより囲まれた気密層Aが形成される。ウェルWは図例では4つ設けられ、以下の説明では図1の左側から順にウェルW1、W2、W3、W4とする。流路3は、培養液Mが流通可能な管状に形成され、ウェルW1、W2を互いに接続する流路3aと、ウェルW2、W3を互いに接続する流路3bと、ウェルW3、W4を互いに接続する流路3cと、ウェルW4とリザーバ5とを互いに接続する流路3dと、送液ポンプ4を介してリザーバ5とウェルW1とを互いに接続する流路3eと、により構成されている。
【0020】
流路3aは、一端にウェルW1から培養液Mを排出するためのアウトレット31を有し、他端にウェルW2に培養液Mを供給するためのインレット32を有する。流路3b、3cも、流路3aと同様に構成されている。流路3dは、一端にウェルW4から培養液Mを排出するためのアウトレット31を有し、他端にリザーバ5に培養液Mを供給するためのインレット32を有する。流路3eは、一端にリザーバ5から培養液Mを排出するためのアウトレット31を有し、他端にウェルW1に培養液Mを供給するためのインレット32を有する。アウトレット31は、インレット32よりも下方に配置されている。送液ポンプ4は、一方向に培養液Mを送液し、図例ではリザーバ5からウェルW1に向かう方向に培養液Mを送液する。
【0021】
次に、培養液循環装置1の使用方法について説明する。ウェルW1-W4にはそれぞれ互いに異なる細胞を含んだ培養液Mが接種され、例えば、ウェルW1には小腸細胞、ウェルW2には肝細胞、ウェルW3には心筋細胞、ウェルW4には脳細胞を含んだ培養液Mが接種される。培養液Mを接種した後、各々のウェルWは、密閉蓋2により密閉される。また、リザーバ5には細胞を含まない培養液M(培地)が加えられ、密閉蓋51により密閉される。このとき、各ウェルW及びリザーバ5において、アウトレット31が培養液Mに浸るようにすることが好ましい。
【0022】
この状態で送液ポンプ4を動作させると、まず、送液ポンプ4が流路3eのアウトレット31からリザーバ5の培養液Mを吸い上げ、リザーバ5の培養液Mの量が減る。そうすると、リザーバ5は密閉蓋51により密閉されているのでリザーバ5の内圧が低下し、この内圧の低下を補うためにウェルW4の培養液Mが流路3dを介してリザーバ5に流れ込む。そうすると今度は、ウェルW4の培養液Mの量が減ることによって、密閉蓋2により密閉されたウェルW4の内圧が低下し、この内圧の低下を補うためにウェルW3の培養液Mが流路3cを介してウェルW4に流れ込む。以下、同様にして、ウェルW3にウェルW2の培養液Mが流路3bを介して流れ込み、ウェルW2にウェルW1の培養液Mが流路3aを介して流れ込む。ウェルW1には、リザーバ5から吸い上げた培養液Mが、流路3eを介して送液ポンプ4により送液されて流れ込む。
【0023】
このように、各々のウェルW及びリザーバ5を密閉状態とすることで、送液ポンプ4からの吸引圧力が各ウェルW及びリザーバ5に伝達され、直列ループ状に接続されたウェルWとリザーバ5に均等な吸引圧が生まれる。これにより、送液ポンプ4から送液された培養液Mは、ウェルW1-W4及びリザーバ5を介して送液ポンプ4に戻って循環することになる。このとき、ウェルW1-W4及びリザーバ5において培養液Mの液面レベルは、アウトレット31の高さに維持される。
【0024】
このように培養液Mを循環させることで、例えば、ウェルW1に薬剤を加えたとすると、その薬剤は他のウェルW2-W4にも行き渡り、全てのウェルW1-W4において薬剤の影響を調べることができる。このとき、仮に薬剤に応答して特定のウェルWの細胞からホルモンや生理活性物質が分泌されたとすると、そのようなホルモンや生理活性物質も他のウェルWに広がることになるので、生体内における異なる組織や臓器間のコミュニケーションを模倣することができる。
【0025】
上記のように構成された培養液循環装置1によれば、複数の組織や臓器間でのコミュニケーションを検証するにあたって、市販のマルチウェルプレートPを利用することができる。そのため、特殊なマイクロ流体デバイスチップや特別設計のマルチウェルプレート等を用意する必要が無く、高い汎用性及び低コスト化を実現することができる。また、1つの送液ポンプ4を用いて培養液Mを循環させるので、例えば、ウェル毎に送液ポンプを配置した従来技術に比べて構成が簡単になり、設置及びメンテナンスが容易になる。更に、密閉蓋2が透明な材料により構成されているので、密閉蓋2を通して上方から細胞を顕微鏡観察することができる。
【0026】
また、ウェルWを密閉蓋2により密閉し、流路3及び送液ポンプ4も培養液Mが外気と接触しないように構成されているので、外気と接触することによる培養液MからのCO放出が抑制される。そのため、培養液Mのアルカリ性化が抑えられるので、COインキュベータやグローブボックスを用いた培養液MへのCOの強制添加が不要となる。これにより、通常大気中で細胞を培養しても培養液Mのアルカリ性化が起こらないと共に、密閉により培養液の蒸発を抑制できるので、実験の正確性と操作性を大きく向上させることができる。
【0027】
なお、図2に示すように、ウェルW内に更にセルカルチャーインサート(内ウェル)Cを設けてもよい。セルカルチャーインサートCは、例えば、半透膜により構成された底面C1と、プラスチックにより構成された周壁C2と、を有し、上方が開放したコップ状に形成される。底面C1は、例えば、細胞は通過させないが、薬剤、ホルモン、生理活性物質等の小分子は通過させる大きさの孔を有する。
【0028】
セルカルチャーインサートCを設けた場合、密閉蓋2は、ウェルW及びセルカルチャーインサートCの両方を密閉する。これにより、密閉蓋2とウェルWの内壁とセルカルチャーインサートCの外壁とにより囲まれた第1気密層A1と、密閉蓋2とセルカルチャーインサートCの内壁とにより囲まれた第2気密層A2と、が形成される。流路3は、図1で説明したものと同様のものが、ウェルW及びセルカルチャーインサートCの各々に対して独立に形成される。
【0029】
このようなセルカルチャーインサートCを設けることで、例えば、第1気密層A1と第2気密層A2にそれぞれ異なる細胞を接種し、それら細胞間のコミュニケーションを可能としながら培養液Mを循環させることができる。
【0030】
次に、本発明の第1実施例に係る培養液循環装置について図3を参照して説明する。培養液循環装置1aは、上述した培養液循環装置1において密閉蓋2及び流路3を具現化したものである。
【0031】
培養液循環装置1aの密閉蓋2は、複数のウェルWを一括して塞ぐようにしてウェルWの上縁に固着された透明な板材により構成され、例えば、ウェルWの上縁に両面テープで固着された透明アクリル板により構成される。また、流路3は、密着蓋2を上下方向に貫通して固着されたパイプ33と、パイプ33の上端に接続されたチューブ34と、により構成されている。パイプ33及びチューブ34は、例えば、それぞれ銅パイプ及びPTFEチューブにより構成される。パイプ33は、例えば、紫外線硬化接着剤により密着蓋2に固着される。
【0032】
次に、本発明の第2実施例に係る培養液循環装置について図4乃至図9を参照して説明する。図4に示す密閉型細胞実験装置において、培養液循環装置1bは、複数の密閉蓋2、流路3及び送液ポンプ4のペリスタポンプ(登録商標)41が一体化されたモジュール構造となっている。図例では、4行6列の24穴プレートPにおいて、行毎に1つの培養液循環装置1bが配置され、合計4つまでの培養液循環装置1bが同時に配置可能となっている。
【0033】
24穴プレートPは、透明ガラスによって矩形平板状に形成された基盤6の上に載置されている。基盤6は、例えば、透明ガラスヒータ(不図示)を内蔵し、24穴プレートPを37度の恒温状態に保つ。これにより、恒温槽を不要とすることができると共に、下方から倒立顕微鏡等による細胞のモニタ観測が可能となる。
【0034】
基盤6の側方には、ペリスタポンプ41を駆動するための駆動部42が配置されている。駆動部42は、ペリスタポンプ41と容易に分離可能とされ、図例では、24穴プレートPの1、3行目に配置される培養液循環装置1bの駆動部42が24穴プレートPの左側に配置され、24穴プレートPの2、4行目に配置される培養液循環装置1bの駆動部42が24穴プレートPの右側に配置されている。駆動部42がペリスタポンプ41と分離可能となっているので、分離培養液循環装置1bのディスポーザブル性を高めることができる。
【0035】
図5及び図6に示すように、培養液循環装置1bは、24穴プレートPの1行を成すウェルW毎に設けられた複数の密閉蓋2と、これら密閉蓋2を一括して保持すると共に流路が形成された流路形成体7と、流路形成体7の流路とペリスタポンプ41とを互いに接続する接続管8と、を備える。接続管8は、流路形成体7の流路からペリスタポンプ41へと培養液を送液するための帰液管81と、ペリスタポンプ41から流路形成体7の流路へと培養液を送液するための出液管82と、により構成されている。
【0036】
図7及び図8に示すように、密閉蓋2は、円盤状に形成された第1円盤部21と、第1円盤部21の上端に設けられたフランジ22と、第1円盤部22に周回され弾性部材から成るOリング23と、を有する。また、密閉蓋2は、第1円盤部21と同軸で第1円盤部21の下面に取り付けられた第2円盤部24と、第2円盤部24に周回され弾性部材から成るOリング25と、を有する。
【0037】
第2円盤部24の直径は、第1円盤部21の直径よりも小さく、有底円筒状に形成されたセルカルチャーインサートCの内径と略等しくなるように構成されている。第2円盤部24をセルカルチャーインサートCの上部開口に嵌め込むようにして密閉蓋2をセルカルチャーインサートCに取り付けると、Oリング25が弾性変形してセルカルチャーインサートCの内壁に密着する。これにより、密着蓋2がセルカルチャーインサートCに対して着脱可能に取り付けられると共に、セルカルチャーインサートCの密閉性が確保されて第2気密層A2が形成される(図8(b)参照)。
【0038】
また、密閉蓋2は、第1円盤部21が拡がる方向に直交して設けられ第1円盤部21のみを貫通した一対の第1貫通孔26a、26bと、第1貫通孔26a、26bと同方向に伸び第1円盤部21及び第2円盤部24の両方を貫通した一対の第2貫通孔27a、27bと、を有する。これら貫通孔26a、26b、27a、27bは、後述するように流路3の一部を成し、貫通孔26a、27aの下端がインレット32として機能し、貫通孔26b、27bの下端がアウトレット31として機能する。
【0039】
更に、密閉蓋2は、第1貫通孔26a、26bと連続して第1円盤部21の上面から円筒状に突出した第1円筒部28a、28bと、第2貫通孔27a、27bと連続して第1円盤部21の上面から円筒状に突出した第2円筒部29a、29bと、を有する。なお、セルカルチャーインサートCを利用しない場合には、第1貫通孔26a、26b及び第1円筒部28a、28bのみを設け、第2貫通孔27a、27b及び第2円筒部29a、29bを設けない密閉蓋2としてもよい(図7(c)参照)。
【0040】
第1円盤部21の直径は、嵌め合うためにウェルWの内径より、少し小さくなっている(図8(a)(b)参照)。密閉蓋2をウェルWに取り付けるには、フランジ22がウェルWの上縁に当接するまで第1円盤部21及び第2円盤部24をウェルWに嵌め込む。そうすると、Oリング23が弾性変形してウェルWの内壁に密着することで、密着蓋2がウェルWに対して着脱可能に取り付けられると共に、ウェルWの密閉性が確保されて第1気密層A1が形成される(図8(b)参照)。なお、図例では第2円盤部24にセルカルチャーインサートCが取り付けられているが、セルカルチャーインサートCが取り付けられていない場合も、密着蓋2のウェルWへの取り付け操作は同じである。
【0041】
上記のように構成された密閉蓋2は、図5及び図6に示したように、24穴プレートPにおいて2行目の左から1-4番目及び6番目のウェルWに取り付けられるように5つ設けられる。なお、ここでは、左から順に密閉蓋2a、2b、2c、2d、2eとする。密閉蓋2a、2b、2c、2eは、それぞれ第1円筒部28a、28bのみを有し、密閉蓋2dは、第1円筒部28a、28b及び第2円筒部29a、29bの両方を有する(図5参照)。
【0042】
流路形成体7は、密閉蓋2a-2eの並びに沿って伸びる長尺な矩形平板状に形成され、共に平板状に形成された上方流路形成体71及び下方流路形成体72により構成されている。上方流路形成体71は、帰液管81の流路形成体7側の端部81aが嵌まり込み上下方向に上方流路形成体71を貫通した孔71aと、出液管82の流路形成体7側の端部82aが嵌まり込み上下方向に上方流路形成体71を貫通した孔71bと、を有する。帰液管81のペリスタポンプ41側の端部81bは、流路形成体7の流路からペリスタポンプ41に培養液を帰液するための帰液口43に接続され、出液管82のペリスタポンプ41側の端部82bは、ペリスタポンプ41から流路形成体7の流路に培養液を出液するための出液口44に接続されている。
【0043】
下方流路形成体72は、密着蓋2aの第1円筒部28a、28bが嵌まり込み上下方向に下方流路形成体72を貫通した孔72a、72bを有する。同様に、下方流路形成体72は、密着蓋2bの第1円筒部28a、28bが嵌まり込む孔72c、72dと、密着蓋2cの第1円筒部28a、28bが嵌まり込む孔72e、72fと、密着蓋2dの第1円筒部28a、28b及び第2円筒部29a、29bが嵌まり込む孔72g、72h、72i、72jと、密着蓋2eの第1円筒部28a、28bが嵌まり込む孔72k、72lと、を有する。
【0044】
また、下方流路形成体72は、上方流路形成体71に対向する面(図例では上面)に、所定のパターンで孔73a-73lを互いに接続する溝73を有する。溝73は、図例では孔72b、72cを互いに接続する溝73aと、孔72d、72eを互いに接続する溝73bと、孔72f、72gを互いに接続する溝73cと、孔72hから上方流路形成体71の孔71aの直下位置72mまで伸びる溝73dと、上方流路形成体71の孔71bの直下位置72nから孔72aまで伸びる溝73eと、により構成されている。孔72i-lは、図例では溝73の形成に関与していない。
【0045】
密閉蓋2a-2eは、各々の第1円筒部28a、28b及び第2円筒部29a、29bが孔73a-lに嵌まり込んだ状態で、第1円盤部21の上面を介して下方流路形成体72の下面に密閉溶着される。また、上方流路形成体71と下方流路形成体72とは、溝73を埋めないようにして互いに密閉溶着されることで、溝73は、その上方を上方流路形成体71により塞がれた管状となる。これらの溶着により、密閉蓋2a-2eの第1円筒部28a、28bと溝73とは、互いに連通して流路3を構成する。なお、このような密閉溶着は、例えば、高周波溶着(高周波誘電加熱方式)により行われる。
【0046】
高周波溶着は、電子レンジに使用される波長に近い電磁波(40MHz)を電極間に印加する事で、誘電率の高い材料が加熱される現象を利用した溶着方法である。電極間に電界と磁界が速い周期で交番しながら伝わると、電極間に挟まれた物質(誘電体)内部で電気的な平衡状態がひずみ、電荷の分離が起こる。高周波による早い周期になると、それぞれの分極が電界の変化に追いつけない異常分散という急激な変化が起こり、誘電体を構成する各分子が回転、衝突、振動、摩擦等の激しい運動を起こして、そのエネルギーが熱となり、誘電体の内部発熱が起こる。この現象を利用して、被溶着材料の間に誘電率の高い材料をバインダーとして挟み、電極間で溶着物に対して、圧力を加えて挟んだ状態で高周波を印加して発熱溶解させ、その後、圧力を加えたまま高周波を停止して冷却を行なうことで、バインダーが固着し、溶着が完了する。この高周波溶着によれば、溝73をバインダーで塞ぐこと無く、上方流路形成体71と下方流路形成体72とを接合することができる。
【0047】
上記のように構成することで、送液ポンプ4の駆動により培養液が、送液ポンプ4-出液管82-溝73e-密閉蓋2aの第1貫通孔26a-密閉蓋2aの第1貫通孔26b-溝73a-密閉蓋2bの第1貫通孔26a-密閉蓋2bの第1貫通孔26b-溝73b-密閉蓋2cの第1貫通孔26a-密閉蓋2cの第1貫通孔26b-溝73c-密閉蓋2dの第1貫通孔26a-密閉蓋2dの第1貫通孔26b-溝73d-帰液管81を経て送液ポンプ4に戻って循環する。
【0048】
図9に示すように、送液ポンプ4は、磁力により回転駆動されるペリスタポンプ41と、ペリスタポンプ41を非接触で回転駆動するための磁石を有する駆動部42と、ペリスタポンプ41を構成する軟質性チューブ(不図示)を覆って軟質性チューブを外気から遮断する外殻体45と、を有する。外殻体45は、例えば、ガスバリア性の高い樹脂により構成され、溶着に依ってペリスタポンプ41が構成される。
【0049】
このような外殻体45を設けることで、軟質性チューブのガスバリア性が低い場合であっても、軟質性チューブを流れる培養液と外気との接触を抑制し、培養液からのCO放出を抑えることができる。なお、外殻体45とペリスタポンプ41との間の隙間は、外気の混入を更に抑制するために真空とされてもよいし、窒素やアルゴン等の不活性ガス又は液体で満たされてもよい。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限らず、種々の変形が可能である。上記の第1実施例及び第2実施例は、いずれも市販のマルチウェルプレートPを利用することができ、第2実施例では、流路形成体7を専用品として用いているが、1つのマルチウェルプレートPにおいて、第1実施例と第2実施例とを両方用いることもできる。また、図2に示した密閉蓋2をより具体化したものが、図7に示した密閉蓋2であり、図1に示した培養液循環装置1の構成例において、より具体化された密閉蓋2が適用され得ることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
1、1a、1b 培養液循環装置
2、2a-2e 密閉蓋
21 (第1)円盤部
22 フランジ
23 Oリング
26a、26b (第1)貫通孔
27a、27b (第2)貫通孔
3、3a-3e 流路
33 パイプ
34 チューブ
4 送液ポンプ
41 ペリスタポンプ
45 外殻体
7 流路形成体
71 上方流路形成体
72 下方流路形成体
73、73a-73e 溝
C セルカルチャーインサート
P マルチウェルプレート
W、W1-W4 ウェル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9