IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ノーベルファーマ株式会社の特許一覧 ▶ 祐徳薬品工業株式会社の特許一覧

特許7565034薬物の生体への吸収性に優れ、且つ、化学的安定性にも優れる医薬組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】薬物の生体への吸収性に優れ、且つ、化学的安定性にも優れる医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/46 20060101AFI20241003BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K31/46
A61P1/02
A61P11/00
A61K9/70 401
A61K47/32
A61K47/34
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021507198
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009575
(87)【国際公開番号】W WO2020189323
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019050914
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504237832
【氏名又は名称】ノーベルファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390000929
【氏名又は名称】祐徳薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 孝行
(72)【発明者】
【氏名】西村 健太
(72)【発明者】
【氏名】上野 洋明
(72)【発明者】
【氏名】谷 悠平
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1994307(CN,A)
【文献】特開平09-048726(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101669917(CN,A)
【文献】特開平01-203320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スコポラミンの塩及び/又はその水和物、ポリビニルピロリドン及び塩基を含有し、前記塩基が、ドデシルアミン、ジエチルアミン及びメタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミン化合物である医薬組成物。
【請求項2】
前記スコポラミンの塩及び/又はその水和物が、スコポラミン臭化水素酸塩及び/又はスコポラミン臭化水素酸塩水和物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記スコポラミンの塩及び/又はその水和物の含有量が、前記医薬組成物全体の質量に対して0.5~10質量%である、請求項1~2の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ポリビニルピロリドンの含有量が、前記医薬組成物全体の質量に対して0.3~12質量%である、請求項1~3の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記塩基の含有量が、前記医薬組成物全体の質量に対して0.3~10質量%である、請求項1~の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記アミン化合物が、メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体である請求項1~5の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
支持体、薬物含有粘着剤層及び剥離ライナーからなるマトリックスタイプの貼付剤であって、前記薬物含有粘着剤層は、請求項1~6の何れかに記載の医薬組成物を含有する貼付剤。
【請求項8】
前記薬物含有粘着剤層の基剤成分が、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤及びシリコーン系粘着剤より選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載の貼付剤。
【請求項9】
前記薬物含有粘着剤層の基剤成分が、アクリル系粘着剤である請求項7~8の何れかに記載の貼付剤。
【請求項10】
前記アクリル系粘着剤が、ヒドロキシル基含有型及び無極性型より選ばれる少なくとも1種である請求項8または9に記載の貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてスコポラミンの塩及び/又はその水和物を含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スコポラミンは、抗コリン薬として広く知られており、口腔内・気道内分泌の抑制、有害な副交感神経反射の予防等の効果を有する薬物である。これまでに、スコポラミンを有効成分として含有する医薬品が開発されてきており、例えば、国内ではスコポラミンの塩であるスコポラミン臭化水素酸塩水和物を有効成分として含有する注射剤である「ハイスコ(登録商標)皮下注、杏林製薬」が、海外ではスコポラミン遊離塩基を有効成分として含有する貼付剤である「Transderm Scop(登録商標)、Novartis」が製造販売されている。
【0003】
広く知られているように、細胞の周囲には脂質二重層が存在し、細胞内外の物質の透過性を制限するバリアの役割を果たしており、当然のことながら、水溶性の物質は脂質二重層を透過しにくく、脂溶性の物質は脂質二重層を透過しやすい。そのため、脂質二重層を持つ粘膜や表皮といった生体のバリア機能を回避可能な注射剤を除き、一般的に、薬物は水溶性の高い薬物よりも脂溶性の高い薬物の方が細胞内に吸収され血中に移行しやすい。スコポラミンの塩であるスコポラミン臭化水素酸塩水和物は水溶性が高く、細胞内に移行するためには、脂溶性の高い遊離塩基とする必要がある。しかし、通常、薬物は取扱いや化学的安定性の面からは塩の状態であることが好ましい。なお、本明細書において、化学的安定性という語句は化合物の分解に関する安定性を示すものであり、物理的安定性という語句は化合物の結晶析出に関する安定性を示すものである。
【0004】
本発明者らが、スコポラミンの塩であるスコポラミン臭化水素酸塩水和物を含有する医薬組成物の製造を試みたところ、化学的安定性には優れるが生体への吸収性が低い医薬組成物が得られ、一方、製造中或いは医薬組成物中においてスコポラミン臭化水素酸塩水和物を遊離塩基とした医薬組成物の製造を試みたところ、生体への吸収性には優れるが化学的安定性が低い医薬組成物が得られることを見出した。さらに、本発明者らが検討を重ねた結果、医薬組成物中でのスコポラミンの分解においては、スコポラミンの光学異性体及びアポスコポラミンが主たる分解生成物であることを明らかにした。
【0005】
スコポラミンの生体への吸収性や化学的安定性に関する技術については、例えば、特許文献1では、酸を触媒とする分解反応を起こす化合物を含有する組成物について、酸以外の吸収促進剤を用いることにより化学的安定性を悪化させることなく生体への吸収性を向上させる方法を示している。しかし、酸以外の要因による化学的安定性の悪化を解決する方法については述べられていない。
【0006】
特許文献2では、酢酸ビニル及び極性成分を含まない組成物とすることにより、スコポラミンの化学的安定性及び物理的安定性を悪化させることなく生体への吸収性を向上させる方法を示しているが、極性成分を含む組成物での化学的安定性の悪化を解決する方法については述べられていない。取扱いや化学的安定性の面からスコポラミンの塩を使用する場合、スコポラミンの生体への吸収性に優れる医薬組成物を得るために、製造中或いは医薬組成物中においてスコポラミンの塩をスコポラミン遊離塩基とすることを目的として極性成分である塩基を含有させる必要があることから、該特許の方法は適用できない。
【0007】
特許文献3、特許文献4及び特許文献5では、スコポラミンの物理的安定性を向上させて生体への吸収性を維持又は改善する方法を示しているが、化学的安定性を向上させる方法については示唆もしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4081139号
【文献】特表2009-528357
【文献】米国特許第4832953号
【文献】特許第4466977号
【文献】特許第5695562号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高いスコポラミンの生体への吸収性を有し、且つ、スコポラミンの化学的安定性にも優れるスコポラミンの塩及び/又はその水和物を含有する医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らが検討を重ねた結果、製造中或いは医薬組成物中においてスコポラミンの塩及び/又はその水和物を遊離塩基とした医薬組成物中にポリビニルピロリドンを含有させることにより、高いスコポラミンの生体への吸収性を維持すると共に、化学的安定性が向上することを明らかにした。前記特許文献5に記載されているように、ポリビニルピロリドンはスコポラミンの物理的安定性を向上させる。一般的に、溶解状態及びアモルファス状態は、結晶状態と比較して化学的に不安定な状態である。そのため、医薬組成物中にポリビニルピロリドンを含有させることは、スコポラミンの化学的安定性の面では不利になると考えられる。実際に、前記特許文献5に記載の、ポリビニルピロリドンと同様にスコポラミンの物理的安定性を向上させることが知られているヒドロキシプロピルセルロースについては、医薬組成物中に含有させることによるスコポラミンの化学的安定性の向上効果はなく、逆にスコポラミンの化学的安定性が低下した。しかし、驚くべきことに、医薬組成物中にポリビニルピロリドンを含有させた場合にはスコポラミンの化学的安定性が向上し、主たる分解物であるスコポラミンの光学異性体及びアポスコポラミンの両方の生成を抑制した。さらに、本発明者らは、製造中或いは医薬組成物中においてスコポラミンの塩及び/又はその水和物を遊離塩基とするための塩基としてアミン化合物を使用することにより、スコポラミンの化学的安定性がより向上することを明らかにした。すなわち、スコポラミンの塩及び/又はその水和物を含有する組成物中にポリビニルピロリドンを含有させること及びスコポラミンの塩及び/又はその水和物を遊離塩基とするための塩基としてアミン化合物を使用することにより、高いスコポラミンの生体への吸収性を有し、且つ、スコポラミンの化学的安定性を向上させた医薬組成物を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0011】
本発明の医薬組成物(以下、「本発明組成物」という)は、高いスコポラミンの生体への吸収性を有し、且つ、スコポラミンの分解が有効に抑制されるため、スコポラミンの薬理効果を有効且つ持続的に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明組成物は、有効成分であるスコポラミン((-)‐(S)‐3‐ヒドロキシ‐2‐フェニルプロピオン酸(1R,2R,4S,7S,9S)‐9‐メチル‐3‐オキサ‐9‐アザトリシクロ[3.3.1.02,4]ノン‐7‐イルエステル)の塩及び/又はその水和物、ポリビニルピロリドン及び塩基を含有する医薬組成物である。
【0013】
本発明組成物に用いられるスコポラミンの塩としては、例えば、無機酸又は有機酸との酸付加塩が挙げられ、具体的には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、桂皮酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩(メシレート)、フタル酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、パモ酸塩、p‐トルエンスルホン酸塩(トシレート)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明組成物では、スコポラミン臭化水素酸塩及び/又はスコポラミン臭化水素酸塩水和物を用いることが好ましい。
【0014】
本発明組成物は、治療有効量のスコポラミンの塩及び/又はその水和物を含有していればよく、その状態は特に限定されないが、生体への吸収性の観点から溶解状態、アモルファス状態が好ましい。治療に有効な量の有効成分を患者へ投与させるため、組成物中に、ある一定量の有効成分を含有させることが重要である。本発明組成物におけるスコポラミンの塩及び/又はその水和物の含有量は、組成物全体に対して0.5~10質量%、好ましくは1~8質量%、より好ましくは3~6質量%である。0.5質量%未満では治療効果が十分でない恐れがあり、一方、10質量%を超える量では経済的に不利になることがある。
【0015】
本発明組成物は、スコポラミンの化学的安定性を向上させるためにポリビニルピロリドンを含有する。一般的に用いられるポリビニルピロリドンは重量平均分子量が数千から数百万のものが存在するが、本発明組成物において用いられるポリビニルピロリドンの重量平均分子量は特に限定されない。これらのポリビニルピロリドンは1種類以上を用いることができる。
【0016】
本発明組成物におけるポリビニルピロリドンの含有量は、組成物全体に対して0.3~12質量%、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~8質量%の範囲である。0.3質量%未満では十分な化学的安定性向上効果が得られない可能性があり、一方、12質量%を超える量では組成物の物性に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくないことがある。また、スコポラミンの塩及び/又はその水和物に対するポリビニルピロリドンの質量比が2以上では組成物の均一性に悪影響を及ぼす可能性があることから、スコポラミンの塩及び/又はその水和物に対するポリビニルピロリドンの質量比は2未満が好ましい。
【0017】
本発明組成物は、スコポラミンの塩及び/又はその水和物を遊離塩基とするために塩基を含有する。塩基の種類は特に限定されず、例えば、アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。これら塩基の中でも、化学的安定性の面でアミン化合物が好ましい。
【0018】
アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンの何れでもよく、第一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、ドデシルアミン等が挙げられ、第二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N‐メチルエタンアミン等が挙げられ、第三級アミンとしては、N,N‐ジエチルメチルアミン,トリブチルアミン、N,N‐ジメチル‐p‐トルイジン、N,N‐ジエチル‐p‐トルイジン、メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのアミン化合物は少なくとも1種を用いることができる。また、これらアミン化合物の中でもメタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体が好ましい。また、アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明組成物における塩基の含有量は、組成物全体に対して0.3~10質量%、好ましくは0.5~8.5質量%、より好ましくは0.9~7.5質量%の範囲である。0.3質量%未満では、十分な生体への吸収性が得られない可能性があり、一方、10質量%を超える量では化学的安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0020】
本発明組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上記必須成分を撹拌して混合すればよい。また、必要に応じて酢酸エチル、メタノール等の溶媒を添加してもよい。
【0021】
以上説明した本発明組成物は、従来の医薬組成物の有効成分等に代えて配合することができる。本発明組成物の剤形としては、経口剤、注射剤、外用剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの剤形の中でも、投与が簡便である外用剤が好ましい。
【0022】
外用剤としては、撒布粉剤、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤、スプレー剤、液剤、貼付剤、エアゾール剤、肛門坐剤、点耳剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、拭き取りや投与量調節等の煩雑な操作を行う必要がなく、有効成分の血中濃度を安定して保つことができるため効果時間が長く、有害事象発現時に剥離することで投与の中断を簡便に行えることから、貼付剤が好ましい。
【0023】
貼付剤としては、マトリックスタイプ、リザーバータイプが挙げられる。本発明組成物は、マトリックスタイプ或いはリザーバータイプのどちらでもよいが、製剤設計が容易であり、製造時のコストを低減することができるため、マトリックスタイプが好ましい。
【0024】
マトリックスタイプの貼付剤は、支持体、薬物含有粘着剤層、剥離ライナーからなる(以下、これを「本発明貼付剤」という)。
【0025】
薬物含有粘着剤層は、本発明組成物を含有すればよいが、更に基剤成分を含有することが好ましい。この薬物含有粘着剤層に用いられる基剤成分は、特に限定されないが、ゴム系粘着成分、アクリル系粘着成分、シリコーン系粘着成分等の一般的に貼付剤に使用されている粘着成分が好ましく、特にアクリル系粘着成分が好ましく、無極性型のアクリル系粘着成分及びヒドロキシル基含有型のアクリル系粘着成分がより好ましい。これら基剤成分は少なくとも一種を用いることができる。
【0026】
アクリル系粘着成分とは、(メタ)アクリル酸エステルを少なくとも一種含有する重合体又は共重合体である。
【0027】
無極性タイプのアクリル系粘着成分は、モノマー構成単位中の側鎖に官能基を有さないものであり、例えば、(メタ)アクリル酸アルキル重合体又は共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、具体的には、アクリル酸‐2‐エチルへキシル・メタクリル酸‐2‐エチルへキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体、アクリル酸‐2‐エチルヘキシル・酢酸ビニル共重合体、メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
ヒドロキシル基含有タイプのアクリル系粘着成分は、モノマー構成単位中の側鎖に遊離ヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一種を構成モノマーとする重合体又は共重合体であり、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルを含む共重合体等が挙げられ、具体的には、アクリル酸‐2‐エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸‐2‐エチルヘキシル・ビニルピロリドン・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸‐2‐エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸‐2‐エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・アクリル酸グリシジル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸‐2‐エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸‐2‐ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸‐2‐エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸‐2‐ヒドロキシエチル・メタクリル酸グリシジル共重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
薬物含有粘着剤層中における基剤成分の含有量は、薬物含有粘着剤層の形成及び十分な薬物放出性を考慮して、薬物含有粘着剤層全体に対して60~98.9質量%、好ましくは63~98質量%、より好ましくは66~96質量%である。60質量%未満では、投錨性等の貼付剤としての物理的特性が低下することがあり、また、98.9%を超える量では、有効成分及びその他の添加剤を十分に配合することができず、好ましくないことがある。
【0030】
薬物含有粘着剤層には、必要に応じて、吸収促進剤を含有させてもよい。吸収促進剤としては、従来経皮投与での吸収促進作用が認められている化合物のいずれでもよいが、例えば、ラウリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、グリセリンオレイン酸モノエステル、イソステアリン酸ヘキシルデシル等の脂肪酸及びそのエステル類、オレイルアルコール、プロピレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール等のアルコール及びそのエステル類もしくはエーテル類、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン等のソルビタンエステル類又はエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のフェノールエーテル類、ヒマシ油又は硬化ヒマシ油、オレオイルサルコシン、ラウリンジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリル硫酸ナトリウム等のイオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等の非イオン性界面活性剤、ジメチルスルホキサイド、デシルメチルスルホキサイド等のアルキルメチルスルホキサイド、1-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、1-ゲラニルアザシクロヘプタン-2-オン等のアザシクロアルカン類、ポリビニルピロリドンを除くピロリドン類等が挙げられる。
【0031】
本発明貼付剤に用いられる支持体は、特に限定されないが、例えば、薬物不透過性で伸縮性又は非伸縮性の支持体を使用することができる。支持体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ナイロン、ポリウレタン等の合成樹脂フィルム又はシート或いはこれらの積層体、多孔質体、発泡体、紙、織布、不織布等が挙げられる。
【0032】
本発明貼付剤に用いられる剥離ライナーは、特に限定されないが、例えば、薬物不透過性の剥離ライナーを使用することができる。剥離ライナーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の高分子材料で作られたフィルム、フィルムにアルミニウムを蒸着させたもの、紙の上にシリコーンオイル等を塗布したもの等が挙げられる。中でも、有効成分の透過がなく、加工性や低コスト等の面でポリエステルフィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが特に好ましい。さらに、剥離ライナーは、複数の材料を貼り合せたラミネートフィルム等を使用してもよい。
【0033】
本発明貼付剤は、使用するまで、包装材料中に保存される。本発明貼付剤に用いられる包装材料は、特に限定されないが、プラスチックフィルム、金属(アルミニウム等)積層プラスチックフィルム、金属蒸着プラスチックフィルム、セラミックス(酸化ケイ素等)蒸着プラスチックフィルム、アルミニウム箔等の金属箔、ステンレス等の金属、ガラス等が挙げられる。中でも、製造コスト等の面で、金属積層プラスチックフィルム、金属蒸着プラスチックフィルム等を使用することが好ましい。
【0034】
本発明貼付剤には、さらに必要に応じ、有効成分の経皮吸収をコントロールするために、薬物含有粘着剤層の皮膚貼付側に放出制御膜や、皮膚へ貼付させるために粘着層を追加してもよい。
【0035】
以上説明した本発明貼付剤は、支持体、薬物含有粘着剤層及び剥離ライナーからなるものであるが、支持体は1~1000μm、好ましくは10~700μm、薬物含有粘着剤層は10~200μm、好ましくは30~150μm、剥離ライナーは1~500μm、好ましくは10~200μmの厚さである。
【0036】
本発明貼付剤は、公知の貼付剤の製造方法に従って製造することができる。本発明貼付剤の好ましい製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
<方法1>
有効成分であるスコポラミンの塩及び/又はその水和物、塩基、ポリビニルピロリドン、基剤成分、さらに必要に応じて吸収促進剤等を、例えば、酢酸エチル、メタノール等の有機溶媒又はそれらの混合溶媒に溶解させた溶解物を剥離ライナー又は支持体上に展延し、溶解物中の有機溶媒を蒸発させ薬物含有粘着剤層を形成した後、支持体又は剥離ライナーを貼り合わせることによって貼付剤を得る。
<方法2>
有効成分であるスコポラミンの塩及び/又はその水和物、塩基、ポリビニルピロリドン、基剤成分、さらに必要に応じて吸収促進剤等を加熱溶解させ、この溶融物を剥離ライナー又は支持体上に展延し、薬物含有粘着剤層を形成した後、支持体又は剥離ライナーを貼り合わせることによって貼付剤を得る。
【実施例
【0037】
以下、製造例等を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製造例等に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0038】
製造例1
表1に記載の配合比に従って、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、ミリスチン酸イソプロピル、ドデシルアミンを酢酸エチル/メタノール混液に溶解させ、アクリル系粘着成分(商品名:DURO-TAK 87-4287、ヘンケル製)を加えて混合撹拌し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて、乾燥後の厚さが100μmになるように剥離フィルムに展延し、乾燥して薬物含有粘着剤層を形成した後、支持体を貼り合わせた。それから、所望の大きさに裁断して貼付剤を得た。
【0039】
製造例2
表1に記載の配合比に従って、スコポラミン遊離塩基の量が製造例1と等量となるように、ドデシルアミンの代わりにジエチルアミンを配合したことを除き、製造例1と同様として貼付剤を得た。
【0040】
製造例3
表1に記載の配合比に従って、スコポラミン遊離塩基の量が製造例1と等量となるように、ドデシルアミンの代わりにメタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体(商品名:オイドラギットEPO、エボニック製)を配合したことを除き、製造例1と同様として貼付剤を得た。
【0041】
製造例4
表1に記載の配合比に従って、スコポラミン遊離塩基の量が製造例1と等量となるように、ドデシルアミンの代わりに水酸化ナトリウムを配合し、さらにポリビニルピロリドン(商品名:Kollidon30、BASF SE製)を配合したことを除き、製造例1と同様として貼付剤を得た。
【0042】
製造例5
表1に記載の配合比に従って、スコポラミン遊離塩基の量が製造例1と等量となるように、ドデシルアミンの代わりにオイドラギットEPOを配合し、さらにポリビニルピロリドンを配合したことを除き、製造例1と同様として貼付剤を得た。
【0043】
製造例6
表1に記載の配合比に従って、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、オイドラギットEPO、ポリビニルピロリドンを酢酸エチル/メタノール混液に溶解させ、DURO-TAK 87-4287を加えて混合撹拌し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて、乾燥後の厚さが100μmになるように剥離フィルムに展延し、乾燥して薬物含有粘着剤層を形成した後、支持体を貼り合わせた。それから、所望の大きさに裁断して貼付剤を得た。
【0044】
製造例7
表1に記載の配合比に従って、ポリビニルピロリドンの配合量を増量したことを除き、製造例6と同様として貼付剤を得た。
【0045】
製造例8
表1に記載の配合比に従って、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、ミリスチン酸イソプロピル、オイドラギットEPO、ポリビニルピロリドンを酢酸エチル/メタノール混液に溶解させ、DURO-TAK 87-4287を加えて混合撹拌し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて、乾燥後の厚さが100μmになるように剥離フィルムに展延し、乾燥して薬物含有粘着剤層を形成した後、支持体を貼り合わせた。それから、所望の大きさに裁断して貼付剤を得た。
【0046】
製造例9
表1に記載の配合比に従って、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、ミリスチン酸イソプロピル、オイドラギットEPO、ポリビニルピロリドンを酢酸エチル/メタノール混液に溶解させ、DURO-TAK 87-4287を加えて混合撹拌し、均一な溶解物を得た。次にこの溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて、乾燥後の厚さが50μmになるように剥離フィルムに展延し、乾燥して薬物含有粘着剤層を形成した後、支持体を貼り合わせた。それから、所望の大きさに裁断して貼付剤を得た。
【0047】
製造例10
表1に記載の配合比に従って、ミリスチン酸イソプロピルの配合量を増量したことを除き、製造例9と同様として貼付剤を得た。
【0048】
製造例11
表1に記載の配合比に従って、スコポラミン遊離塩基の量が製造例1と等量となるように、ドデシルアミンの代わりに水酸化ナトリウムを配合したことを除き、製造例1と同様として貼付剤を得た。
【0049】
製造例12
表1に記載の配合比に従って、ポリビニルピロリドンを配合しなかったことを除き、製造例6と同様として貼付剤を得た。
【0050】
製造例13
表1に記載の配合比に従って、ドデシルアミンを配合しなかったことを除き、製造例1と同様として貼付剤を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
試験例1(化学的安定性試験1)
製造例1~13にて得られた各貼付剤について、複合フィルム(最内層ヒートシールPETのアルミラミネートフィルム、メイワパックス製)の袋に充填し、恒温恒湿器(温度:60℃、CSH-110、タバイエスペック製)で3日間又は28日間保存し、主要な分解物である光学異性体の量を測定した。各貼付剤3枚について、ライナーを除き、10mL遠心沈殿管に取り、テトラヒドロフラン1mL及びメタノール0.5mLを加え、10分間振とうし、膏体を完全に溶解させた。この液に水1mLを加え、10分間振とうし、完全に粘着基剤成分を凝集、沈殿させた。この上澄液を試料溶液とし、高速液体クロマトグラフィー(測定波長:210nm)で定量した。該方法により測定した保存後の光学異性体の量を表2及び表3に示す。
【0053】
試験例2(化学的安定性試験2)
製造例1~13にて得られた各貼付剤について、複合フィルム(最内層ヒートシールPETのアルミラミネートフィルム、メイワパックス製)の袋に充填し、恒温恒湿器(温度:60℃、CSH-110、タバイエスペック製)で3日間又は28日間保存し、主要な分解物であるアポスコポラミンの量を測定した。各貼付剤3枚について、ライナーを除き、10mL遠心沈殿管に取り、テトラヒドロフラン1mL及びメタノール0.5mLを加え、10分間振とうし、膏体を完全に溶解させた。この液に水1mLを加え、10分間振とうし、完全に粘着基剤成分を凝集、沈殿させた。この上澄液を試料溶液とし、高速液体クロマトグラフィー(測定波長:220nm)で定量した。該方法により測定した保存後のアポスコポラミンの量を表2及び表3に示す。
【0054】
試験例3(放出試験)
製造例5、製造例8、製造例9、製造例10及び製造例13にて得られた各貼付剤について、貼付剤からのスコポラミンの放出率を測定した。各貼付剤を直径15mmの皮ポンチで裁断し、ろ紙に貼付し、その上にカバー用テープを貼付し、試験片が中心となるように直径23mmの皮ポンチを用いて裁断し、経皮吸収試験装置(TRANS VIEW C12、コスメディ製薬製)を用いて放出試験を実施した。経皮吸収試験装置の操作は、拡散セル内にスターラーを入れ、試験片と拡散セル穴を合わせてセットし、その上からカラー及びキャップを装着し、拡散セルのレシーバー槽中に32℃に保温した試験液(リン酸二水素カリウム3.40g及び無水リン酸水素二ナトリウム3.55gを水1000mLに溶かしたもの)を注入し、拡散セルをヒートブロック恒温槽(温度:32±2℃)に入れ、24時間後の試料溶液をサンプリングし、高速液体クロマトグラフィー(測定波長:210nm)で定量した。該方法により測定した各貼付剤におけるスコポラミンの24時間後の放出率を表4に示す。
【0055】
試験例4(配合試験)
スコポラミン遊離塩基とポリビニルピロリドンの配合比が1:0、2:1、1:1、1:2となるように配合した薬物溶液を調製した(製造例14~17)。得られた各薬物溶液について、10mL遠心沈殿管に取り、熱風乾燥器(温度:70℃、LC-110、タバイエスペック製)で1日間保存し、保存後における光学異性体及びアポスコポラミンの量を高速液体クロマトグラフィー(測定波長:210nm及び220nm)で定量した。該方法により測定した保存後の光学異性体及びアポスコポラミンの量を表5に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
製造例11(水酸化ナトリウムを用いて遊離塩基化)と比較して、スコポラミンを遊離塩基とするための塩基としてアミン化合物を用いた製造例1(ドデシルアミンを用いて遊離塩基化)、製造例2(ジエチルアミンを用いて遊離塩基化)、製造例3(オイドラギットEPOを用いて遊離塩基化)では光学異性体及びアポスコポラミンの量が少ない。以上の結果から、スコポラミンの塩及び/又はその水和物を遊離塩基とするための塩基としてアミン化合物を使用することは、スコポラミンの化学的安定性の向上に有効であることが明らかになった。
【0061】
配合試験において、ポリビニルピロリドンを配合することにより(製造例15~17)、ポリビニルピロリドンを配合しない場合(製造例14)と比べて、光学異性体及びアポスコポラミンの量が減少した。また、スコポラミン遊離塩基に対するポリビニルピロリドンの配合比が増加するに従い、光学異性体及びアポスポラミンの量が減少した。以上の結果から、ポリビニルピロリドンの配合は、スコポラミンの化学的安定性の向上に有効であることが明らかになった。
【0062】
製造例11と比較して、ポリビニルピロリドンを配合した製造例4では光学異性体及びアポスコポラミンの量が少ない。また、製造例3と比較して、ポリビニルピロリドンを配合した製造例5では光学異性体及びアポスコポラミンの量が少ない。さらに、製造例12と比較して、ポリビニルピロリドンを配合した製造例6及び製造例7では光学異性体及びアポスコポラミンの量が少ない。以上の結果から、剤形を貼付剤とした場合においても、ポリビニルピロリドンの配合は、スコポラミンの化学的安定性の向上に有効であることが明らかになった。
【0063】
製造例8は、スコポラミン遊離塩基の量が製造例12の2倍となるようにオイドラギットEPOを増量し、化学的安定性について製造例12よりも苛酷な条件とした処方である。又、製造例9及び製造例10は、スコポラミン遊離塩基の量が製造例12の4.7倍となるようにスコポラミン臭化水素酸塩水和物及びオイドラギットEPOを増量し、化学的安定性について製造例12よりも苛酷な条件とした処方である。この条件において、製造例12と比較して、ポリビニルピロリドンの配合は光学異性体の量の増加を抑制できなかったが、アポスコポラミンの量は減少し、分解物の量の合計についても減少した。以上の結果から、ポリビニルピロリドンの配合は、化学的安定性について過酷な条件であってもスコポラミンの化学的安定性の向上に有効であることが明らかになった。
【0064】
製造例13と比較して、製造例5、製造例6、製造例7、製造例8、製造例9及び製造例10では24時間後の放出率が高い。以上の結果から、塩基としてアミン化合物を用いてスコポラミン臭化水素酸塩を遊離塩基とすることは、生体への吸収性の向上に有効であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上述したように、本発明組成物は、スコポラミンの塩及び/又はその水和物を含有する組成物中にポリビニルピロリドン及び塩基を含有させることにより製造される医薬組成物であり、高い生体への吸収性を持ち、且つ、スコポラミンの化学的安定性に優れる新規の医薬組成物である。本発明組成物は、スコポラミンの薬理効果を有効且つ持続的に利用することができる。