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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】Ta合金部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20241003BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20241003BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20241003BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241003BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241003BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20241003BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20241003BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B22F1/00 R
B22F10/34
B22F10/64
B33Y10/00
B33Y70/00
C22C27/02 103
C22F1/18 G
C22F1/00 604
C22F1/00 621
C22F1/00 628
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 650A
C22F1/00 651Z
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024055306
(22)【出願日】2024-03-29
【審査請求日】2024-03-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520322509
【氏名又は名称】株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・ザムテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】蘇亜拉図
(72)【発明者】
【氏名】酒井 仁史
(72)【発明者】
【氏名】樋口 官男
(72)【発明者】
【氏名】荒河 一渡
(72)【発明者】
【氏名】若林 英輝
(72)【発明者】
【氏名】稲田 将人
(72)【発明者】
【氏名】東田 悠瑚
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106334793(CN,A)
【文献】特表2018-522136(JP,A)
【文献】特表2021-515105(JP,A)
【文献】特表2019-529709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
C22C 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Wを2.0~4.5質量%含有し、残部がTaおよび不可避的不純物からなるTa合金の合金粉末を準備する工程と、
前記合金粉末を付加製造技術により積層して造形物を形成する付加製造工程と、
前記造形物を1400℃以上、2000℃以下で熱処理する安定化工程とを有し、
前記付加製造工程が選択的レーザー溶融法を用いて実施される、
Ta合金部材の製造方法。
【請求項2】
Wを2.0~4.5質量%、Reを0.5~1.2質量%、Hfを0.5~1.0質量%、Cを0.005~0.045質量%含有し、残部がTaおよび不可避的不純物からなるTa合金の合金粉末を準備する工程と、
前記合金粉末を付加製造技術により積層して造形物を形成する付加製造工程と、
前記造形物を1400℃以上、2000℃以下で熱処理する安定化工程と、
を有するTa合金部材の製造方法。
【請求項3】
前記安定化工程により、Hfの酸化物とTaの炭化物を析出させる、
請求項2に記載のTa合金部材の製造方法。
【請求項4】
前記付加製造工程の後に、前記造形物を1100℃以上、1300℃以下で熱処理する残留応力除去工程をさらに有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のTa合金部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙用途に適用可能な耐火Ta合金部材を、付加製造および熱処理によって製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Taは耐食性や耐熱性に優れることから、純金属や合金がコンデンサ、化学プラント、医療用材料など様々な用途に用いられている。また、耐熱性が高いことに着目して、耐火Ta合金の宇宙用途、特にスラスタ(エンジン)ノズルへの適用が期待されている。
【0003】
ロケットや人工衛星のスラスタには、高温に晒される部分にNb合金部材が用いられている。これをTa合金部材で代替できれば、燃料をより高温で燃焼させて、スラスタの推進力を上げることができる。非特許文献2には、宇宙航空用途を想定したTa-10W合金の酸化防止コーティングの耐酸化性試験を1800℃で行うことが記載されている。
【0004】
実用化されているNb合金部材は、一般に鋳塊や鍛造された棒材を切削加工して造形されるが、多くの場合、素材から最終製品までに90%以上が削り取られることになり、コスト面で課題があった。これに対して、粉体材料から複雑な形状を造形できる付加製造法による耐火Nb合金部材の作製が盛んに研究、開発されている。例えば、特許文献1には、付加製造および熱処理によって耐火Nb合金部材を製造する方法が開示されている。資源的に希少なTaはNbよりさらに高価なため、Ta合金部材の製造には、鋳造や鍛造によるのではなく、付加製造法を採用することがさらに強く求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第7412867号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】野瀬勝弘、『シリーズ「金属素描」No.19タンタル』、まてりあ、日本金属学会、2021年、第60巻、第11号、685頁
【文献】Z. Caiら、"Microstructure and oxidation resistance of a YSZ modified silicide coating for Ta-W alloy at 1800C(1800℃におけるTa-W合金のYSZ改質ケイ化物コーティングの微細構造と耐酸化性)"、Corrosion Science、Elsevier B.V.、2018、vol.143、pp.116-128
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
付加製造による造形物は、原料が粉末であることや急速な加熱・冷却を伴うことから、同じ合金であっても鋳造材や鍛造材とは特性が異なり、付加製造による宇宙用部材の製造に適したTa合金の組成は知られていなかった。また、高温での機械的強度の測定は試験を実施すること自体が容易でないこともあって、Ta合金を宇宙用途に適用可能とするための熱処理方法も知られていなかった。
【0008】
本発明は上記を考慮してなされたものであり、付加製造を利用して、宇宙用途に適用可能なTa合金部材を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のTa合金部材の製造方法は、Wを2.0~4.5質量%含有し、残部がTaおよび不可避的不純物からなるTa合金の合金粉末を準備する工程と、前記合金粉末を付加製造技術により積層して造形物を形成する付加製造工程と、前記造形物を1400℃以上、2000℃以下で熱処理する安定化工程とを有する。
【0010】
本発明の他のTa合金部材の製造方法は、Wを2.0~4.5質量%、Reを0.5~1.2質量%、Hfを0.5~1.0質量%、Cを0.005~0.045質量%含有し、残部がTaおよび不可避的不純物からなるTa合金の合金粉末を準備する工程と、前記合金粉末を付加製造技術により積層して造形物を形成する付加製造工程と、前記造形物を1400℃以上、2000℃以下で熱処理する安定化工程とを有する。好ましくは、前記安定化工程により、Hfの酸化物とTaの炭化物を析出させる。
【0011】
好ましくは、上記いずれかのTa合金部材の製造方法は、前記付加製造工程の後に、前記造形物を1100℃以上、1300℃以下で熱処理する残留応力除去工程をさらに有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のTa合金部材の製造方法によれば、付加製造を利用して、スラスタノズルなどの宇宙用途に適用可能なTa合金部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態のTa合金部材の製造方法の工程フロー図である。
図2】造形まま材の室温引張試験の結果である。
図3】A~C:造形まま材および熱処理材の室温引張試験の結果である。
図4】Ta純金属部材の結晶粒界を示すEBSD図である。
図5】比較例および実施例のTa合金部材の結晶粒界を示すEBSD図である。
図6】比較例および実施例のTa合金部材の結晶粒界を示すEBSD図である。
図7】比較例および実施例のTa合金部材の結晶粒界を示すEBSD図である。
図8】比較例のTa合金部材の結晶粒界を示すEBSD図である。
図9】A~D:一部の試料の析出物を示すためのSEM像である。
図10】A、B:熱処理材の500~1000℃での引張試験の結果である。
図11】熱処理材の1400~1600℃での引張試験の結果である。
図12】異なる付加製造を用いた試料の室温引張試験の結果である。
図13】1400~1600℃での引張試験の試験片の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のTa合金部材の製造方法の一実施形態を、図1の工程フローに沿って説明する。
【0015】
本実施形態で用いるTa合金粉末は、Taを主成分とし、少量のWを含む。Wは固溶強化によってTa合金の強度を向上させる。
【0016】
このようなTa合金の一例は、質量基準での代表組成が「Ta-2.5W」で表され、Wを2.0~3.5質量%含有し、残部がTaおよび不可避的不純物からなる合金である。なお、本明細書において、代表組成中の合金元素の前の数字は質量%による含有量を示している。米国試験材料協会(ASTM)と自動車技術者協会(SAE)による合金の統一番号システム(UNS)のR05252には、代表組成をTa-2.5Wとして、Wを2.0~3.5質量%含有し、残部がTaおよび不可避的不純物からなる合金が規定されている。同規格では不純物の最大値は、質量基準で、Nb:0.50%、Fe:0.010%、Ti:0.010%、Mo:0.020%、Si:0.005%、Ni:0.010%、C:0.010%、O:0.015%、N:0.010%、H:0.0015%とされている。本実施形態で用いるTa合金粉末には、代表的な不可避的不純物としてここに挙げられた元素を含む。付加製造に用いる粉末原料では、表面積が大きいことから、非金属不純物の含有量が同規格の最大値を超えることがあり、特に、酸素(O)についてはほとんどの場合に同規格の最大値を不可避的に超える。
【0017】
Ta合金の他の例は、質量基準での代表組成が「Ta-4W-1Re-0.7Hf-0.025C」で表され、Wを2.0~4.5質量%、Reを0.5~1.2質量%、Hfを0.5~1.0質量%、Cを0.005~0.045質量%含有し、残部がTaおよび不可避的不純物からなる合金である。この合金は、1960年代に米国で鋳造用に開発されたASTAR-811C(代表組成:Ta-8W-1Re-0.7Hf-0.025C)を元に、付加製造材の残留応力の影響を考慮して設計したものである。付加製造材は鋳造材と比べて残留応力が大きく、後述する実験結果において、Ta-13W合金材が長時間の研磨でひび割れを生じたため、付加製造用にはW含有量を減らすことが必要と考え、ASTAR-811CのWを4質量%に減らした。Ta-2.5Wと同様に、付加製造に用いる粉末原料では、鋳造品と比べて非金属不純物の含有量が多くなる。また、この合金の炭素(C)は不純物ではなく炭化物形成による析出硬化を意図して加えられた合金元素であるが、後述する実施例で用いた粉末では、Cの含有量も約0.04%でASTAR-811Cより多かった。なお、この合金には、酸化物形成による析出硬化のために0.05~0.15質量%のZrを添加してもよい。
【0018】
合金粉末の粒度は、レーザー回折・散乱法によって測定された粒径の体積基準のメジアン値(d50)が好ましくは10~100μm、より好ましくは20~60μmである。また、付加製造用の原料粉末としては、薄層を形成する際の充填率を高められるようにある程度広い粒度分布を有していることが好ましい。粒径の分布幅の目安として、好ましくは(d90-d10)がd50の0.5~1.5倍である。なお、d10、d50、d90は、全体積を100%としたときの累積カーブがそれぞれ10%、50%、90%となる点の粒子径を表す。
【0019】
上記合金粉末を用いて、付加製造技術により部材を造形する。付加製造の方式としては、好ましくは選択的レーザー溶融法(SLM法)を用いる。SLM法は粉末床溶融結合方式の一種で、原料となる合金粉末を造形ステージに敷き詰めて均一な薄層を形成し、薄層の所定位置にレーザー光を走査しながら照射して合金粉末を溶融・凝固させることを繰り返すことで、合金層を積層して、所望の形状に造形する。
【0020】
SLM法で造形された造形物は、その造形方法に起因して、合金の積層方向に延びる柱状晶を多く含む。そのため、積層方向とそれに垂直な方向とで引張強度などの機械的特性が異なることとなる。以下において、造形時の積層方向をZ方向、積層方向に垂直な方向をXY方向という。なお、SLM法ではレーザー光の走査方向の偏りの影響を抑えるために、1層毎に走査方向を所定角度ずつ回転させて積層が行われるので、造形物の組織はZ方向に垂直な面内では等方的である。本明細書においても、XY方向とはZ方向に垂直であることのみを意味し、Z方向に垂直な面内での特定の方向を意味するものではない。
【0021】
次に、付加製造で得られた造形物は残留応力を除去するために熱処理される。Ta合金のような高融点の金属の付加製造では、融解した粉末が急速に凝固するため造形後の残留応力が特に大きい。残留応力を除去することで、後述する組織の安定化等のための熱処理や、製品の仕上げのための加工処理などの際に造形物が割れることを防止できる。
【0022】
残留応力除去処理は、1100℃以上、1300℃以下の温度で行うことが好ましい。処理温度が低すぎると残留応力が十分に除去されない。一方、処理温度が高すぎるとその処理温度まで昇温する途中で造形物が割れる恐れがある。造形物を上記処理温度に保持する時間は、好ましくは30分以上、5時間以下である。保持時間が短すぎると、造形物の形状によっては、内部の温度が設定温度まで上がりきらないことがある。一方、保持時間をこれ以上に長くしても特に効果はなく、生産性が低下する。
【0023】
なお、残留応力除去のための熱処理と、次に述べる組織の安定化等のための熱処理を区別するため、以下において、前者を「残留応力除去処理」、後者を「安定化処理」または単に「熱処理」ということがある。
【0024】
残留応力を除去した造形物は、組織の安定化等のためにさらに高温で熱処理される。この熱処理の目的は、造形物に延性を与えることと、組織を安定させることである。この安定化処理によって転位密度を減らすことで造形物の延性が向上する。安定化処理温度は、1400℃以上、好ましくは1600℃以上とする。これにより、十分な延性が得られ、組織も安定する。また、温度が高いほど組織の安定化の進行が速い。一方、安定化処理温度は、2000℃以下、より好ましくは1800℃以下とする。処理温度をこれ以上に高くしても特に効果はなく、処理コストが高くなる。
【0025】
安定化処理によって溶質原子は均一に固溶するが、本実施形態における安定化処理は、析出硬化型の合金に対する溶体化処理とは異なる。析出硬化型の合金では、溶質原子を均一に固溶するための溶体化処理と、その後に析出物を析出させるための時効処理が実施される。溶体化処理は、溶体化した組織の状態を保つために、水冷や空冷により多少急冷ぎみに冷却が行われる。これに対して、Ta-2.5WはWによる固溶強化型の合金であるため溶体化処理は不要である。ASTAR-811Cでは炭化物の析出による析出硬化の効果も発現すると言われており、Ta-4W-1Re-0.7Hf-0.025C合金では、時効処理を行ってもよいが、本実施形態では熱処理後の時効処理は行わない。また、本実施形態の安定化処理では急冷は不要である。
【0026】
以上の付加製造、残留応力除去、安定化処理によって、本実施形態のTa合金部材が得られる。得られたTa合金部材は、この後、必要に応じて切削、研磨、洗浄、乾燥、酸化抑制のための保護コーティングなどの処理を経て、最終製品となる。
【実施例
【0027】
本実施形態のTa合金部材の製造方法を、実験結果に基づいてさらに詳細に説明する。
【0028】
組成の異なる4種類のTa合金粉末および純Ta粉末を用い、SLM法により付加製造を行い、残留応力除去処理および安定化処理の有無および条件を変えて、実施例および比較例のTa合金部材およびTa純金属部材を作製した。
【0029】
付加製造は、Ybファイバレーザ(出力200W、ビーム径40μm)を備えた粉末積層造形システム(EOS GmbH、M100)を用いて行った。一部の合金組成については、より大型の粉末積層造形システム(EOS GmbH、M290、Ybファイバレーザ出力400W、ビーム径80μm)でも造形を行った。
【0030】
残留応力除去処理は、造形物を電気炉に入れ、900~1200℃で1~4時間加熱処理して行った。安定化処理は、残留応力除去処理後に電気炉をさらに昇温し、1400~1600℃で1~4時間加熱処理して行い、1200℃まで200℃/h、1200℃から400℃まで10℃/minで冷却し、その後炉冷した。なお、残留応力除去処理と安定化処理を連続して行わず、残留応力除去処理後に一旦冷却してから、再度昇温して安定化処理を行ってもよい。
【0031】
部材の組織は、試料断面を光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分析(EDS)により観察した。また、結晶粒の大きさおよび結晶方位を、後方散乱電子回折(EBSD)により測定した。
【0032】
部材の機械的特性は、引張試験を行い、0.2%耐力、引張強さおよび破断伸びによって評価した。室温、空気中での引張試験は、ASTM E8-21規格に準拠して行った。試験速度は、0.2%耐力までは応力増加速度9MPa/s、それ以降はひずみ速度20%/minとした。500~1600℃、Ar雰囲気中での引張試験は、MTS808型材料試験機により、ASTM E21-20規格に準拠して行った。試験片を50℃/minで昇温して、試験温度に達した後30min保持した後に、試験を開始した。試験速度は、0.2%耐力まではひずみ速度0.5%/min、それ以降はひずみ速度5%/minとした。-170℃、空気中での引張試験は、MTS810型材料試験機により、ASTM E8―21規格を参考にして行った。試験片を-170℃まで冷却し、試験温度に達した後30min保持した後に、試験を開始した。試験速度は、0.2%耐力までは応力増加速度9MPa/s、それ以降はひずみ速度20%/minとした。なお以下において、0.2%耐力と引張強さを併せて「強度」、破断伸びを単に「伸び」という。
【0033】
室温および500~1000℃での引張試験では、直線部の直径が3mm、長さが15mmの丸型試験片を用いた。積層方向(Z方向)への引張試験片は、6×6×46mmの直方体を長辺方向に積層造形し、切削加工して作製した。積層方向と垂直な方向(XY方向)への引張試験片は、同じ直方体を短辺方向に積層造形し、切削加工して作製した。一方、1400~1600℃の引張試験では、図13に示す平型試験片を用いた。Z方向への引張試験片は、厚さ3mmの長方形板を長辺方向に積層造形し、切削加工して作製した。XY方向への引張試験片は、厚さ3mmの長方形板を短辺方向に積層造形し、切削加工して作製した。いずれの試験片も、研磨紙を用いて表面の算術平均粗さRaが0.8μmになるように研磨した。また、1400℃~1600℃の引張試験では、Ta-3W合金の付加製造により作製したチャックを用いた。
【0034】
表1に使用した粉末の組成および粒度を示す。表2に部材の作製条件を示す。表1および2において、「CPTa」は商業用純Taである。「Ta2.5W」と「Ta3W」はいずれも代表組成Ta-2.5Wで表される合金である。「Ta4W+」は代表組成Ta-4W-1Re-0.7Hf-0.025Cで表される合金である。Ta4W+の合金粉末は、C含有量の目標を0.025質量%として製造されたものであったが、分析結果ではC含有量は約0.04質量%であった。「Ta13W」はTa-13W合金である。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
光学顕微鏡で積層方向に垂直な断面を確認したところ、Ta13Wでは、造形まま材と、残留応力除去処理および1600℃×1hの安定化処理を行った試料の両方で、粒界に多数のクラックが見られた。このクラックは、断面観察のための研磨中に生成したものと思われる。このことから、Ta13Wでは付加製造材の残留応力が極めて高いことと、1600℃での安定化処理でも再結晶化が起こらなかったことが分かる。なお、Ta13W以外の試料では、そのようなクラックは観察されなかった。
【0038】
表3に室温での引張試験結果を示す。
【0039】
【表3】
【0040】
図2に造形まま材の室温での引張試験結果を示す。Ta2.5Wについては、他の組成と同じ装置(M100)で造形されたもののデータを示した。装置の違いによる影響については後述する。表3と図2の結果から、CPTaからTa4W+までの試料では、W含有量が増えるに従って強度が上がり、伸びが低下する傾向が確認できた。Ta4W+は非常に高い強度を示したが、延性に乏しく伸びが小さかった。Ta13Wは、強度、伸びともに低く、おそらくは試験片が微小なクラックを含んでいたものと考えられる。
【0041】
図3に造形まま材(AS)および熱処理材の室温での引張試験結果を示す。Ta2.5Wについては、他の組成と同じ装置(M100)で造形されたもののデータを示した。表3と図3の結果から、CPTaでは、残留応力除去処理、安定化処理によって強度がわずかに低下し、伸びが大きくなった。Ta2.5WおよびTa3Wでは、安定化処理によって強度、伸びともに上がる傾向が見られた。Ta4W+では、安定化処理によって強度が低下し、伸びが大きくなった。Ta13Wでは、安定化処理によっても十分な伸びが得られなかった。Ta13Wの残留応力によるひび割れは熱処理によって改善するものではないので、延性が得られなかったと考えられる。
【0042】
宇宙用途では、室温での強度は特に問題にされないが、発射時の振動に耐えるため、ある程度の伸びが求められ、伸びが約5%以上あることが好ましい。この点に関して、CPTa、Ta2.5W、Ta3Wでは、まま材でも十分な伸びを示していた。Ta4W+では、造形まま材では伸びが小さかったが、1500℃の熱処理で伸びが5%を超え、1600℃の熱処理でZ方向、XY方向ともに同程度の良好な伸びを示した。このことからTa4W+に対する熱処理温度は1500℃以上であることが好ましく、1600℃以上であることがさらに好ましいことが分かった。
【0043】
熱処理による組織の変化をEBSDによって調査した。図4~8にEBSDで得られた結晶粒界を示す。図は、積層方向に平行な断面の700×1750μmの範囲を示しており、結晶方位のずれが15度以上である部分を結晶粒の境界としている。図4~8からは、いずれの組成でも、熱処理によって結晶粒の大きさはあまり変化していないように見える。
【0044】
表4に、図4~8において結晶粒を挟む2本の平行線間の距離の平均と標準偏差を示す。表4中のHは図4~8の横方向、Vは図4~8の縦方向(積層方向Z)での値である。以下において、この距離を「断面における粒径」という。切断面は各結晶粒の粒径が最大の部分を通るわけではないので、断面における粒径は実際の結晶粒径より小さく、ばらつきも大きくなるが、結晶粒の大きさの定量的な指標を与える。表4から、断面における粒径は熱処理によって多少増大するようにも見えるが大きな変化ではなく、組織が再結晶化していないことからも、誤差範囲と考えられる。
【0045】
【表4】
【0046】
また、図示しないが、EBSDによれば、図4~8の試料では各結晶粒の結晶方位はばらついており、熱処理によってもその傾向に変化は見られなかった。後述するように、M290で造形したTa2.5Wでは、Z方向に体心立方の<001>方向が揃っていたが、やはり造形まま材と熱処理材で違いは見られなかった。
【0047】
以上の結果から、熱処理によって、結晶粒の大きさはほとんど変化せず、結晶粒内の転位密度が減少することによって延性が増し、それ以後は組織が安定していると考えられる。ただし、Ta13Wでは内部にひび割れが存在し、熱処理によっても改善しなかった。
【0048】
さらに、SEMとEDSによって、酸素(O)および炭素(C)の影響について検討した。図9に、Ta4W+の造形まま材および熱処理材、Ta2.5Wの熱処理材のSEM像を示す。図9は下部のバーの長さが1μmである。Ta4W+造形まま材(図9A)では析出物は観察されなかった。これに対してTa4W+の1500℃熱処理材(図9B)および1600℃熱処理材(図9C)では粒界に析出物が観察された。図9B図9Cでは顕著な違いはなかった。また、ReやHfを含まないTa2.5Wの熱処理材(図9D)では析出物が見られなかった。
【0049】
EDSでの元素分布(図示せず)によって、Ta4W+熱処理材の比較的大きい析出物は炭化物であり、小さい析出物は酸化物であることを確認した。さらに、酸化物はHfの酸化物であることを確認した。酸化物はおそらくHfOと思われる。また、炭化物はTaの炭化物であることを確認した。Ta-C二元系状態図によれば、炭化物はTaCと考えられる。Ta2.5Wの熱処理材(図9D)では、Hfを含まないために酸化物を析出せず、C含有量が少ないために炭化物を析出しなかったと考えられる。
【0050】
以上の結果から、Ta4W+では付加製造後の急冷によって、造形まま材ではOなどの不純物や、Cと金属元素W、Re、HfがTaマトリクス相に過飽和に固溶しているため延性に乏しく、安定化処理によってOがHfの酸化物、CがTaの炭化物として粒界に析出することで延性が回復したと考えられる。また、形成する酸化物および炭化物は安定であり、したがって、高温での安定化処理後の組織は安定であり、冷却速度によって変化しないものと推測される。
【0051】
表5に熱処理材の高温および低温での引張試験結果を示す。図10に500~1000℃での試験結果、図11に1400~1600℃での試験結果を示す。
【0052】
【表5】
【0053】
表5と図10~11の結果を室温での引張試験結果(表3および図3)と比較すると、いずれの試料でも強度が低下しており、試験温度が高くなるにつれて強度が漸減している。また、CPTaでは試験温度が高くなるにつれて伸びも明らかに低下している。
【0054】
表5と図11から、Ta2.5Wを1500℃または1600℃で安定化した試料では、Nb合金の耐熱温度より高い1600℃でも十分な強度が得られた。さらに、Ta4W+を1600℃で熱処理した試料は、XY方向で、1600℃で208MPaという極めて大きな引張強さを示した。同試料のZ方向については1600℃での引張試験結果がないが、室温での引張試験において(表3および図3)、Z方向、XY方向ともに同程度の強度および伸びを示していることから、1600℃でのZ方向の強度および伸びもXY方向と同程度の値を示すと考えられる。Ta13Wは、1600℃での引張試験でも伸びが小さかった。
【0055】
室温での引張試験結果の説明でも述べたとおり、Ta4W+の造形まま材では、付加製造後の急冷によって、Oなどの不純物やCと金属元素W、Re、HfがTaマトリクス相に過飽和に固溶しているため延性に乏しく、安定化処理によってOが酸化物として、Cが炭化物として粒界に析出することで延性が回復したと考えられる。さらに、粒界に析出した酸化物と炭化物は再結晶化を抑制し、組織が安定化するとともに、高温での引張強度の向上に寄与したものと思われる。
【0056】
宇宙用途では、高温での強度および伸びの両方が重視される。この点に関して、Ta2.5W、Ta4W+では1600℃での引張試験で十分な強度と伸びを示しており、宇宙用途への適用が可能であることが分かった。
【0057】
表5から、Ta3Wを1200℃で残留応力除去し、1500℃で安定化処理した試料は、-170℃での引張試験でも低温脆性がないことを確認した。
【0058】
次に装置の違いによる影響について述べる。本実施例の付加製造で主に使用したM100は研究開発や小型部品の生産に用いられる小型の装置で、M290はより大型の部材の生産に用いられる大型の装置である。
【0059】
表6および図12にTa2.5WについてM100およびM290で造形した試料の引張試験結果を示す。表6と図12から、室温での引張試験では、M100を用いて造形した試料の方が、引張強度が高かった。これは、表4に示したようにM100の方がM290より造形材の結晶粒が小さかったために、強度が高かったものと考えられる。結晶粒径はレーザーのビーム径や出力に依存することが知られている。一方、伸びについては両者に顕著な差はない。EBSDによる結晶方位の測定では、M100による造形材では結晶方位はばらばらで、M290による造形材ではZ方向に体心立方の<001>方向が揃っていた。この結晶方位の違いは、付加製造装置の特性の違い、おそらくは凝固時の熱流の方向の違いによるものと考えられる。このように、M100とM290では、造形した部材の組織や特性に多少の違いはあるものの、引張試験の強度や伸びは同程度であり、M100で得られた知見は、M290を用いる場合でも成立すると考えられる。
【0060】
【表6】
【0061】
従来宇宙用途のTa合金としてはW含有量の多いもの、例えばTa-10W、ASTAR-811Cなどが検討されることが多かった。しかし、上記比較例のTa13Wでは、熱処理によっても十分な伸びは得られなかった。このことから、付加製造による宇宙用部材の製造に適したTa合金では、Wの含有量をある程度少なく抑えたものが適していることが分かった。
【0062】
1600℃での引張試験の結果から、Ta2.5WおよびTa4W+では、1500℃以上の安定化処理によって、十分な強度と伸びが得られることが分かった。付加製造されたTa2.5Wの安定化処理材は、化学プラントなどの他用途は言うまでもなく、宇宙用途にも適用可能であることが確認できた。さらに、Ta4W+の安定化処理材は、1600℃で非常に高い強度を示し、本実施例の中で、最も宇宙用途に適した合金であった。Ta2.5WとTa3Wで室温での引張試験結果にほとんど差がなかったことから、Ta4W+のW含有量が4.0±0.5質量%の範囲であればほぼ同等の結果が得られたものと考えられる。
【0063】
本発明は、上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【要約】
【課題】付加製造を利用して、宇宙用途に適用可能なTa合金部材を製造する方法を提供する。
【解決手段】Wを2.0~4.5質量%含有し、残部がTaおよび不可避的不純物からなるTa合金の合金粉末を準備する工程と、前記合金粉末を付加製造技術により積層して造形物を形成する付加製造工程と、前記造形物を1400℃以上、2000℃以下で熱処理する安定化工程とを有するTa合金部材の製造方法。
【選択図】図1
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