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特許7565040光電気工学および光電気化学装置用のエナミン基を含む正孔輸送有機分子
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  • 特許-光電気工学および光電気化学装置用のエナミン基を含む正孔輸送有機分子 図1
  • 特許-光電気工学および光電気化学装置用のエナミン基を含む正孔輸送有機分子 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】光電気工学および光電気化学装置用のエナミン基を含む正孔輸送有機分子
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/88 20060101AFI20241003BHJP
   C07C 217/60 20060101ALI20241003BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20241003BHJP
   C09B 23/16 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C07D209/88
C07C217/60
H10K30/50
C09B23/16 CSP
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019536347
(86)(22)【出願日】2017-09-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 IB2017055587
(87)【国際公開番号】W WO2018051278
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-06-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】LT2016-515
(32)【優先日】2016-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LT
(73)【特許権者】
【識別番号】519097951
【氏名又は名称】カウノ テハノロギヨス ウニヴェルシテタス
(73)【特許権者】
【識別番号】516041704
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル ド ローザンヌ (エペエフエル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ゲタウティス,ヴィータウタス
(72)【発明者】
【氏名】ダスケヴィツィエネ,マリーテ
(72)【発明者】
【氏名】マリナウスカス,タダス
(72)【発明者】
【氏名】ナゼルディン,ムハンマド カジャ
(72)【発明者】
【氏名】パク,サンヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ラクスティス,カスパラス
【合議体】
【審判長】瀬良 聡機
【審判官】木村 敏康
【審判官】小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-255716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D209/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示されるカルバゾール系化合物及びフルオレン系化合物であって:
【化1】

上記式(I)において、
nは、1、2、3、4、5、6、7または8であり、
Qは、少なくとも1対の共役二重結合(-C=C-C=C-)を含む多環式システムであり、当該多環式システムは、縮合芳香環、または、Nヘテロ原子との共有結合または複素芳香族システムによって共に結合した単環式芳香環を含み、
上記多環式システムは、水素、ハロゲン、シアノ基、C1~C20シアノアルキル基、C1~C20アルキル、C1~C20アルコキシ基、C1~C20アルコキシアルキル、C1~C20ハロアルキル基、C1~C20ハロアルコキシアルキル、C4~C20アリール、C4~C20アルキルアリール、C4~C20アルコキシアリール、C4~C20アルケニルアリールアルキル、C4~C20アルコキシアリールアルケニル、またはC4~C20ビスアルコキシアリールアルケニロ基によって置換されており、それらが3個以上の炭素を含む場合、直鎖状、分岐状または環状であってよく、ハロゲンはCl、F、BrまたはIから選択され、
Rは、それぞれの存在において、置換基であり、C1~C20アルキル、C2~C20アルケニル、C4~C20アリールアルケニル、C4~C20アリール基から同一にまたは異なって選択され、上記アリールおよびアリールアルケニル基は、C1~C20アルキルまたはC1~C20アルコキシ基で置換されていても、置換されていなくてもよく、それらが3個以上の炭素を含む場合、直鎖状、分岐状または環状であってもよく、
およびは互いに独立しており、水素、ハロゲン、シアノ、C1~C20シアノアルキル、C1~C20アルキル、C1~C20アルコキシ、C1~C20アルコキシアルキル、C1~C20ハロアルキル、C1~C20ハロアルコキシアルキル基から選択され、 およびR は互いに独立しており、ハロゲン、シアノ、C1~C20シアノアルキル、C1~C20アルキル、C1~C20アルコキシアルキル、C1~C20ハロアルキル、C1~C20ハロアルコキシアルキル基から選択され、それらが3個以上の炭素を含む場合、直鎖状、分岐状または環状であってもよく、ハロゲンはCl、F、BrまたはIから選択され;
以下の化合物(1)~(7)のいずれか1つから選択される化合物:
9-エチル-3-{N,N-ビス[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9H-カルバゾール(1);
9-ブチル-3-{N,N-ビス[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9H-カルバゾール(2);
9-ヘキシル-3-{N,N-ビス[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9H-カルバゾール(3);
9-(2-エチルヘキシル)-3-{N,N-ビス[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9H-カルバゾール(4);
9-ブチル-6-(-ブチル)-3-{N,N-[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9H-カルバゾール(5);
9-ブチル-3,6-ビス{N3,N3,N6,N6-テトラキス(2,2-ビス[4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9H-カルバゾール(6);
9-(2-エチルヘキシル)-3,6-ビス{N3,N3,N6,N6-テトラキス(2,2-ビス[4-メトキシフェニル)ビニル]-アミノ}-9H-カルバゾール(7)。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物(1)~(7)のいずれか1つから選択される少なくとも1つの小分子正孔輸送材料を含む、正孔輸送材料。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物(1)~(7)のいずれか1つを含む、光起電装置。
【請求項4】
正孔輸送材料を含み、当該正孔輸送材料が化合物(1)~(7)のいずれか1つを含む、請求項3に記載の光起電装置。
【請求項5】
有機光起電装置、光起電力固形装置、p-nヘテロ接合、有機太陽電池、色素増感太陽電池、および固体太陽電池から選択される、請求項3又は4に記載の光起電装置。
【請求項6】
層の形態の増感剤として有機-無機ペロブスカイトを含む固体太陽電池である、請求項4又は5に記載の光起電装置。
【請求項7】
層の形態である請求項1に記載の化合物(1)~(7)のいずれか1つによって被覆された、層の形態の増感剤として有機-無機ペロブスカイトを含む固体太陽電池である、請求項4~6のいずれか1項に記載の光起電装置。
【請求項8】
上記有機-無機ペロブスカイト層材料は、式(II)のペロブスカイト構造を含む、請求項6に記載の光起電装置:
【化2】

上記式(II)において、
Aは、アンモニウムイオンまたはホルムアミジウムイオンであり、1つ以上の水素がアルキル基またはアシル基で置換されており、上記アンモニウムイオンは、モノ、ジ、トリおよびテトラアルキルアンモニウムイオンを含み、1個以上の水素がアルキル基で置換されており、上記アンモニウムイオンは、アミジニウム、N-アルキルアミジニウムおよびイミジニウムイオンを含み、1個以上の水素がアルキル基で置換されており、上記有機カチオンA中の水素原子は、F、Cl、IおよびBrからなる群より選択されるハロゲンで置換されているか、または該ハロゲンで置換されておらず、
Mは、Cu2+、Ni2+、Co2+、Fe2+、Mn2+、Cr2+、Pd2+、Cd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Eu2+、またはYb2+からなる群より選択される二価金属カチオンであり、
Xは、Cl、Br、I、NCS、CN、およびNCOからなる群より独立して選択される一価アニオンである。
【請求項9】
上記有機-無機ペロブスカイト層材料は、以下の化学式(III)の複合ペロブスカイト構造を含む、請求項6に記載の光起電装置:
【化3】

上記式(III)において、
~Aは、Aについて上記で定義した有機一価カチオンであり、
~Xは、Cl、Br、I、NCS、CNおよびNCOからなる群より選択される同一または異なる一価アニオンであってもよく、
yは、0.1~0.9の範囲であり、
zは、0.2~2の範囲である。
【請求項10】
請求項3~9のいずれか1項に記載の光起電装置における正孔輸送材料としての、請求項1に記載の化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、エナミン部分を含む正孔輸送化合物、有機正孔導体および、そのような化合物を含む正孔輸送材料に関し、これらは、正孔輸送材料か正孔輸送複合体を含んだ光電気工学・光電気化学装置のためのものであり、光電気工学・光電気化学装置は特に、光起電装置、有機-無機ペロブスカイト膜または層の光起電装置、p-nヘテロ接合、色素増感太陽電池、有機太陽電池、固体状態太陽電池などである。
【0002】
(従来技術および本発明の課題)
ここ数十年間、再生可能エネルギー源と、その中で最も潜在能力のあるもの、すなわち太陽に強い関心が寄せられている。我々の地球は、毎時、我々の文明による年間消費に等しいエネルギー量を受け取る(G.Tamulaitis, G.Juska, Energy saving semiconducting technologies. Vilnius: Progretus, 2008, p.116-121. ISBN 978995578114)。従って、光起電(PV)の分野における技術的進歩は、現在のエネルギー需要を潜在的に解決することができる。薄膜第3世代太陽電池を用いた太陽エネルギーの電流への変換は、過去20年間にわたって広く研究されている。有機/無機光捕集体、酸化還元電解質/固形正孔導体、および対電極を有するメソ多孔性光アノードからなるサンドイッチ/モノリシック型PV装置は、それらの製造の容易さ、材料の選択における柔軟性、および低コストでの効率的な生産のため、大きな関心を得ている。
【0003】
有機-無機ペロブスカイトは19世紀から知られているが、現在、それらは光起電および光電気工学の分野において実質的な注目を集めている(B.SaparovおよびD.B.Mitzi. Chem. Rev, 2016, 116, 4558-4596)。最近5年間で、ハイブリッド有機-無機ペロブスカイトを含むPV装置の効率は急速に上昇し、20%を超える値に達し(C.Zuo, H.J.Bolink, H.Han, J.Huang, D.Cahen, およびL.Ding. Adv. Sci. 2016, 3, 1500324。M.Saliba, S,Orlandi, T,Matsui, S.Aghazada, M.Cavazzini, J.P.Correa-Baena, P.Gao, R.Scopelliti, E.Mosconi, K.H.Dahmen, F.De Angelis, A.Abate, A.Hagfeldt, G.Pozzi, M.Graetzel, M.K.Nazeeruddin, Nat. Energy 2016, 1, 15017)、また、ペロブスカイト含有PV装置性能の最高記録は、現在、22.1%である(www.nrel.gov/ncpv/images/efficiency_chart.jpg、2017年12月5日にアクセス)。
【0004】
正孔輸送材料は、効率的なPV装置に必要とされる本質的な構成要素の1つである。これらの材料は、吸収体から電極に向かう光生成キャリアの輸送に関与する。正孔輸送材料は、十分な電荷輸送特性、十分なエネルギーレベル、特にHOMOレベルおよび良好な熱安定性を示すべきである(Y.Shi, K.Hou, Y.Wang, K.Wang, H.C.Ren, M.Y.Pang, F.Chen, S.Zhang, J.Mater, Chem.A, 2016, 4, 5415-5422)。そして、これらの材料は、PV装置全体において弱い領域である。新しい正孔輸送材料の開発に向けられた重要な研究努力にもかかわらず、この分野は、有機正孔輸送材料(HTM)であるSpiro-OMeTAD(2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン)によって、依然として支配されている。現在、固形正孔導体を有する色素増感太陽電池における最良の効率は、化合物Spiro-MeOTADを用いて得られる。残念ながら、このHTMの合成手順は、高価なPd触媒、感受性(n-ブチルリチウム、グリニャード試薬)、反応性(Br)試薬、および低温(-78℃)の使用を必要とする、長く複雑な手順である(T.P.I.Saragi, T.Spehr, A.Siebert, T.Fuhrmann-Lieker, J.Salbeck, Chem. Rev., 2007, 107, 1011-1065)。さらに、最大の性能を確実にするために、Spiro-MeOTADは昇華によって精製されなければならず、必然的に材料のコストを上昇させる。
【0005】
Spiro-MeOTADを置換するために行われた合成研究は、PV装置において良好な電荷移動度および匹敵する性能を示すいくつかの群のHTM分子を生じさせたが(WO 2015161989、EP 2937399、D.Bi, B.Xub, P.Gao, L.Sun, M.Gratzel, A.Hagfeldt. Nano Energy, 2016, 23, 138-144)、これらの誘導体の大多数は依然として高価な触媒および多段階合成手順を必要とする。
【0006】
可能な代替物の1つは、ポリピロール、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、カルバゾール系重合体、ポリアニリン、ポリ(4-ウンデシル-2,2’-ビチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(トリフェニルジアミン)およびポリ(N-ビニルカルバゾール)などの高移動性有機重合体であり得る。残念ながら、調査された重合体の大部分の性能は、Spiro-MeOTADの性能に満たない。これまでに知られている唯一の良好に機能する材料は、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](W.S.Yang, J.H.Noh, N.J.Jeon, Y.C.Kim, S.Ryu, J.Seo, S.I.Seok, Science, 2015, 348, 1234)であり、その実用化は、高コストおよび再現性の問題によって妨げられている。
【0007】
正孔輸送材料の合成プロセスは、市販されていない高価な出発材料化合物、非常に低温の反応工程、複雑さ、反応性のある試薬、および多数の工程(例えば、Spiro-OMetTAD合成のための5工程)を含む。従って、合成プロセスは長く、時間がかかり、高価であり、無視できない環境影響を引き起こす。本発明は効率的な方法で迅速に調製することができ、容易に入手可能な材料または低コストの材料を使用し、工業的に既知の製造工程に基づく短い製造手順を使用し、材料コストおよび環境への材料影響が非常に低く保たれる、効率的な太陽電池を提供することを追求する。
【0008】
(発明の概要)
本発明の目的は、適切なエネルギーレベルを有し、Spiro-OMeTADの合成の場合のようにその合成後のその精製中に昇華の工程を必要とせず、合成が容易な新規な正孔輸送有機化合物を提供することである。
【0009】
本発明はまた、増感剤または光吸収材料としてペロブスカイトまたは有機もしくは有機金属染料を含む光起電装置に、より高い電力転換率(PCE)を提供する、新しい正孔輸送材料を提供すること、ならびに、さらなる光電気工学装置である有機発光ダイオード(OLED)、電界効果トランジスタ(FET)を提供することを追求する。
【0010】
上記目的は、請求項1~13に示される特徴の全体によって達成される。
【0011】
本発明の主な目的は、本発明に係る式(I)のエナミン基を有する新規化合物である:
【0012】
【化1】
【0013】
上記式(I)において、
nは、1、2、3、4、5、6、7または8である;
Qは、少なくとも1対の共役二重結合(-C=C-C=C-)を含む単環式または多環式システムであり、当該多環式システムは、N、O、S、Se、Siヘテロ原子との共有結合または複素芳香族システムによって共に結合した縮合芳香環または単環式芳香環を含む。上記単環式または多環式システムは、水素、ハロゲン、シアノ基、C1~C20シアノアルキル基、C1~C20アルキル、C1~C20アルコキシ基、C1~C20アルコキシアルキル、C1~C20ハロアルキル基、C1~C20ハロアルコキシアルキルであって、上記シアノアルキル、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ハロアルキル、ハロアルコキシアルキル、C4~C20アリール、C4~C20アルキルアリール、C4~C20アルコキシアリール、C4~C20アルケニルアリールアルキル、C4~C20アルコキシアリールアルケニル、C4~C20ビスアルコキシアリールアルケニル基によって置換されている。
【0014】
それらが3個以上の炭素を含む場合、直鎖状、分岐状または環状であってよく、ハロゲンはCl、F、BrまたはIから選択される;
Rは、それぞれの存在において、置換基であり、C1~C20アルキル、C2~C20アルケニル、C4~C20アリールアルケニル、C4~C20アリール基から同一にまたは異なって選択される。上記アリールおよびアリールアルケニル基は、C1~C20アルキル基またはC1~C20アルコキシ基で置換されていても、置換されていなくてもよく、それらが3個以上の炭素を含む場合、直鎖状、分岐状または環状であってもよい;
、R、R、Rは互いに独立しており、ハロゲン、シアノ、C1~C20シアノアルキル、C1~C20アルキル、C1~C20アルコキシ、C1~C20アルコキシアルキル、C1~C20ハロアルキル、C1~C20ハロアルコキシアルキル基から選択される。それらが3個以上の炭素を含む場合、直鎖状、分岐状または環状であってよく、ハロゲンはCl、F、BrまたはIから選択される。
【0015】
さらなる実施形態によれば、本発明に係る式(I)のエナミン基を有する正孔輸送化合物は、式(1)~(44)のいずれか1つの化合物から選択されるが、これらに限定されない:
【0016】
【化2】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
さらなる態様において、本発明は、正孔輸送特性を有する少なくとも1つの分子と、式(I)の化合物から選択される2つ以上の上記のものの組み合わせとを含む正孔輸送材料を提供する。一般式(I)の上記化合物は、有機非ポリマー半導体として使用するためのものである。
【0024】
より詳細には、本発明は、一般式(I)の少なくとも1つの化合物から選択される正孔輸送材料を提供する。
【0025】
本発明はまた、さらなる態様において、式(I)の本発明の化合物を含む光電気工学および/または光電気化学装置を提供する。
【0026】
本発明の光電気工学および/または光電気化学装置は正孔輸送材料を含み、上記正孔輸送材料は式(I)の化合物を含む。
【0027】
本発明の光電気工学装置および/または光電気化学装置は、有機光起電装置、光起電固形装置、p-nヘテロ接合、有機太陽電池、色素増感太陽電池、固太陽電池、光トランジスタ、LED(発光ダイオード)またはOLED(有機発光ダイオード)から選択される。

【0028】
一実施形態によれば、本発明の光電気工学および/または光電気化学装置、特に光起電固体状態置は、導電性支持層、表面増加スキャフォールド構造、増感剤または増感剤層、正孔輸送層、ならびに対極および/または金属層を含む。
【0029】
さらなる実施形態において、本発明の光電子および/または光電気化学装置は、層の形態の増感剤として有機-無機ペロブスカイトを含む固体太陽電池である光起電力固体装置である。
【0030】
一実施形態によれば、本発明の光電気工学および/または光電気化学装置は、有機太陽電池、色素増感太陽電池、または固体状態装置から選択される太陽電池である。
【0031】
一実施形態では、光電気工学および/または光電気化学装置、特に光起電固体状態装置の正孔輸送層は、式(I)の化合物から選択される少なくとも1つの小分子正孔輸送材料を含む、本発明の正孔輸送材料から作製される。特に、正孔輸送材料は、式(I)の少なくとも1つの化合物を含む。
【0032】
別の実施形態によれば、光電気工学および/または光電気化学装置、特に光起電固体状態装置は、本発明の正孔輸送物質を含む正孔捕集層と、導電層と、電子遮断層と、増感剤層と、電流捕集層とを含み、当該正孔捕集層は導電層によって被膜され、当該電子遮断層は、導電層と増感剤層との間にあり、金属板または導体である電流捕集層と接する。
【0033】
さらなる実施形態によれば、導電性材料は、1以上の導電性ポリマーまたは1以上の正孔輸送材料から選択され、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルフォネート)(PEDOT:PSS)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルフォネート):グラフェムナノ複合体(PEDOT:PSS:グラフェン)、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)、およびスルホン化ポリ(ジフェニルアミン)(SPDPA)から選択されてもよく、好ましくはPEDOT:PSS、PEDOT:PSS:グラフェンおよびPVKから選択され、より好ましくはPEDOT:PSSである。導電性ポリマーはまた、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリベンゼン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリプロピレンジオキシチオフェン、ポリアセチレン、および上記の2つ以上の組み合わせを含むポリマーから、例えば選択されてもよい。
【0034】
導電性支持層は、好ましくは実質的に透明である。「透明」とは、可視光の少なくとも一部、好ましくは大部分に対して透過性という意味である。好ましくは、導電性支持層が、全ての波長またはあるタイプの可視光に対して実質的に透明である。さらに、例えば、導電性支持層は紫外線および赤外線などの非可視光に対して透明であり得る。
【0035】
導電性支持層は、好ましくは、光起電性固体装置から得られる電流を集める集電体として機能する、および/または、集電体を含む。導電性支持層は、インジウムドープ酸化スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、ZnO-Ga、ZnO-Al、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、SrGeOおよび酸化亜鉛から選択される材料を含むことができ、好ましくはプラスチックまたはガラスなどの透明基板上に被膜される。
【0036】
この場合、プラスチックまたはガラスが層の支持構造を提供し、上述した導電性材料が導電性を提供する。このような支持層は、導電性ガラスおよび導電性プラスチックとしてそれぞれ一般に知られており、従って、本発明による好ましい導電性支持層である。一実施形態によれば、導電性支持層は、導電性ガラスおよび導電性プラスチックから選択することができる導電性透明層を含む。
【0037】
本発明の太陽電池およびヘテロ接合の実施形態によれば、表面増加スキャフォールド構造は、ナノ構造および/またはナノ多孔質である。従って、スキャフォールド構造は、好ましくはナノスケールで構造化される。上記スキャフォールド構造は、導電性支持体の表面と比較して有効表面を増加させる。
【0038】
一実施形態によれば、上記スキャフォールド構造は、金属酸化物から形成され、および/または金属酸化物を含む。例えば、スキャフォールド構造の材料は、Si、TiO、SnO、Fe、ZnO、WO、Nb、CdS、ZnS、PbS、Bi、CdSe、CdTe、SrTiO、GaP、InP、GaAs、CuInS、CuInSeおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0039】
一実施形態によれば、光起電力固体状態装置の増感剤は、有機、無機、有機金属および有機-無機顔料、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの顔料を含む。増感剤は、好ましくは光吸収化合物または材料である。好ましくは、増感剤は顔料であり、最も好ましくは、増感剤は有機-無機顔料である。
【0040】
増感剤層は、有機金属増感化合物(テロシアニン誘導化合物、ポルフィリン誘導化合物)、金属を含まない有機増感化合物(ジケトピロロピロール(DPP)ベース増感剤)、量子ドットなどの無機増感化合物、Sb(アンチモニスルフィド、例えば、薄膜の形態)、有機顔料の凝集体、ナノ複合体、特に有機-無機ペロブスカイト、および上記の組み合わせからなる群の1つ以上の顔料を含み得る。本発明の目的のために、原則として、異なるタイプの染料または同じタイプの異なる染料の組み合わせを含む、任意の種類の染料または増感剤を使用することが可能である。
【0041】
一実施形態によれば、本発明の光起電力固体状態装置の増感剤層は、式(I)の化合物を含む層によって被膜される。好ましくは、上記増感剤層は有機-無機ペロブスカイトを含む。
【0042】
一実施形態によれば、増感剤または増感剤層は、有機-無機ペロブスカイトを含むか、からなるか、または、から形成される。上記有機-無機ペロブスカイトは、1つのペロブスカイト顔料もしくは混合されたペロブスカイト顔料、またはさらなる染料もしくは増感剤と混合されたペロブスカイト顔料の層の下に提供される。
【0043】
さらなる実施形態によれば、増感剤層は、有機-無機ペロブスカイト顔料に加えてさらなる顔料を含み、上記さらなる顔料は、有機顔料、有機金属顔料または無機顔料から選択される。
【0044】
別の実施形態によれば、本発明の光電気工学および/または光電気化学装置は、正孔輸送物質としての式(I)の化合物と、以下に示すような、有機顔料、有機金属顔料または無機顔料またはそれらの組み合わせから選択される増感剤としての顔料とを含む色素増感太陽電池(DSC)である。
【0045】
有機金属増感剤(染料または顔料)は、例えば、EP 0613466、EP 0758337、EP 0983282、EP 1622178、WO 2006/038823、WO 2009/107100、WO 2010/055471、WO 2011/039715に開示されており、また、ポルフィリンベースの化合物がPCT/IB2014/066581および欧州特許出願番号EP 13197269.7に開示されている。例示的な有機染料(または顔料)は、例えばWO 2009/098643、EP 1990373、WO 2007/100033に開示されているものである。ヨーロッパ特許出願番号EP 11161954.0およびPCT/IB2011/054628においても、有機染料が使用された。金属を含まない有機増感剤(顔料または染料)(例えば、DPPベースの化合物)は、PCT/IB2013/056648および欧州特許出願番号EP 12182817.2に開示されている。
【0046】
本明細書において、「ペロブスカイト」という用語は「ペロブスカイト構造」を指し、ペロブスカイト物質CaTiOを特定するものではない。本明細書において、「ペロブスカイト」は、カルシウムチタン酸化物と同じ種類の結晶組織を有する物質、および二価カチオンが二つの別個の一価カチオンによって置き換えられた物質を包含し、好ましくはそれらに関連する。ペロブスカイト構造は、一般的な化学量論AMXを有し、ここで「A」および「M」はカチオンであり、「X」はアニオンである。「A」および「M」のカチオンは様々な電荷を有することができ、元のペロブスカイト鉱物(CaTiO)では、Aのカチオンは2価であり、Mのカチオンは4価である。
【0047】
光電気工学および/または光電気化学装置のさらなる実施形態において、有機-無機ペロブスカイト層材料は、次式(II)のペロブスカイト構造を含む:
【0048】
【化3】
【0049】
上記式(II)において、
Aはアルカリ金属イオン、好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs;アンモニウムまたはホルムアミジウムイオンであり、ここで、1つ以上の水素は、アルキル基またはアシル基によって置換されている。上記アンモニウムイオンは、モノ、ジ、トリおよびテトラアルキルアンモニウムイオンを含み、1個以上の水素がアルキル基で置換されている。好ましくは、置換基は、C1~C6から独立して選択されるアルキル基であり、好ましくはメチル基またはエチル基である。上記アンモニウムイオンは、アミジニウム、N-アルキルアミジニウムおよびイミジニウムイオンを含み、1個以上の水素がアルキル基で置換されている。好ましくは、アミジニウムまたはイミジニウムイオンは、C1~C6カルボキサミド基から選択され、好ましくはホルムアミジウムまたはアセトアミジウム基である。有機カチオンであるA中の水素原子は、F、Cl、IおよびBrから選択されるハロゲン、好ましくはFまたはClで置換されていてもよい。
【0050】
好ましくは、AはCsまたはメチルアンモニウムイオン(MA)、またはホルムアミジウムイオン(FA)である。
【0051】
Mは、Cu2+、Ni2+、Co2+、Fe2+、Mn2+、Cr2+、Pd2+、Cd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Eu2+、またはYb2+からなる群より選択され、好ましくはPb2+、Sn2+である二価金属カチオンである。
【0052】
Xは、一価アニオンであり、Cl、Br、I、NCS、CN、およびNCOからなる群より独立して選択され、好ましくは、Cl、Br、Iである。Xは、同一であっても異なっていてもよい。
【0053】
好ましい実施形態において、有機-無機ペロブスカイトの実施例は以下の通りである:メチルアンモニウム鉛ハロゲン化物、例えば、ヨウ化メチルアンモニウム鉛(CHNHPbI);メチルアンモニウム鉛混合ハロゲン化物、例えば、CHNHPbClI;ホルムアミジウム鉛ハロゲン化物、例えば、HC(NHPbI、HC(NHPbBrまたはHC(NHPbClI;ヨウ化セシウム鉛(CsPbI)、ヨウ化セシウムスズ(CsSnI)。
【0054】
光電気工学および/または光電気化学装置のさらなる実施形態において、有機-無機ペロブスカイト層材料は、混合ペロブスカイト構造を含み、ここで、Aは上記で定義された2つ以上のカチオンの混合物であり、Xは、上記で定義された2つ以上のアニオンの混合物である。好ましくは、Aは2つのカチオンの混合物であり、MはPbであり、Xは2つのアニオンの混合物である。式(II)は、下記式(III)で表してもよい:
【0055】
【化4】
【0056】
上記式(III)において、
~Aは、Aについて上記で定義したような有機一価カチオンである;
~Xは、Cl、Br、I、NCS、CNおよびNCOからなる群より選択される同一または異なる一価アニオンであってもよい;
yは、0.1~0.9の間隔である;
zは、0.2~2の間隔である。
【0057】
(図面の簡単な説明)
図1は、太陽電池の電流-電圧曲線を示し、化合物(1)に対応する化合物V-950およびSpiro-OMeTADを正孔輸送材料として調査したものである。
【0058】
図2は、太陽電池の入射光子対電流効率(IPCE)曲線を示し、化合物(1)に対応する化合物V-950およびSpiro-OMeTADを正孔輸送材料として調査したものである。
【0059】
(発明の詳細な説明)
<一般式(I)の化合物の合成スキームの概略>
一般式(I)に対応するエナミン基(-N-C=C)を含む正孔輸送化合物は、トルエン還流下において、触媒である(+/-)10-カンファースルホン酸(CSA)の存在下で、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)アセトアルデヒド(T.Kodera, K.Torizuka(三菱製紙(株))、日本国公開特許公報JP 11043458,1999)と、第一に3-アミノ-9-エチル-9H-カルバゾール(Sigma-Aldrich)と、例えば、もしくは第二に複素環アミンとの間の縮合反応を通して合成した(図1)。Dean-Stark装置を、反応時間を短縮するために用い、これは、文献(Synthetic Metals、第158巻、2008年、993頁)に記載されている方法と上記方法の主な違いである。化合物1~5をこの方法(スキーム1)に従って合成した。
【0060】
【化5】
【0061】
エナミン基を含み、一般式(I)に対応する正孔輸送化合物6を、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)アセトアルデヒドと芳香族アミン、例えば、4-アミノトリフェニルアミン(TCIヨーロッパN.V.)との間の縮合により、例えば触媒(+/-)10-カンファースルホン酸(CSA)の存在下で、Dean-Stark装置を用いて合成した(スキーム2)。
【0062】
【化6】
【0063】
π共役系のサイズの増加が、より良好な電荷輸送特性をもたらすことはよく知られており、従って、モノエナミン1~6に加えて、拡大されたπ共役系を有するジアミン7および8も、3,6-ジアミノ-9H-ブチルカルバゾールおよび3,6-ジアミノ-9H-(2-エチルヘキシル)カルバゾールから、すなわちいくつかのアミノ基を有する9-アルキル-9H-カルバゾールから合成した(スキーム3)。
【0064】
【化7】
【0065】
(発明を実施するための形態)
実際の実施の例の情報を以下に示し、本発明の化合物(1~8)の調製方法とその特性について説明する。この情報は例示のために提供されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0066】
<実施例1:9-エチル-3-{N,N-ビス[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9H-カルバゾール(スキーム1、化合物1またはV-950参照)>
【0067】
【化8】
【0068】
3-アミノ-9-エチルカルバゾール(250mg、1.19mmol)をトルエン(5ml+Dean-Stark装置の体積)に溶解させ、(+/-)10-カンファースルホン酸(276mg、1.19mmol)を加え、反応混合物を20分間還流させた。次に、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)アセトアルデヒド(915mg、3.57mmol)を添加し、反応をDean-Stark装置を用いてさらに2時間続けた。反応終了後、(TLC、アセトン:n-ヘキサン/体積:体積、1:4)反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、濾過し、有機溶媒を減圧下で除去した。温めたエタノールに残渣を溶解させた。形成した結晶を濾過し、冷たいエタノールで洗浄し、トルエン:エタノール(1:2)の混合物から再結晶化させた。得られた結晶を真空下40℃で乾燥させて、化合物1を黄色結晶(590mg、64%)として得た;融点226~228℃。
【0069】
HNMR(700MHz、DMSO-d、δ):8.15(d、J=7.8Hz,1H,5-H、Ht),7.80(s,1H,4-H、Ht),7.58-7.54(m,2H,1,2-H、Ht),7.44-7.40(m,1H,6-H、Ht),7.24(d、J=7.0Hz,1H,8-H、Ht),7.11-7.08(m,1H,7-H、Ht),6.96(d、J=8.8Hz, 4H, p-Ph),6.88(d、J=9.0Hz,4H、p-Ph),6.67(d、J=9.0Hz,4H、p-Ph),6.44(d,J=8.8Hz,4H、p-Ph),5.79(s,2H,NCH)、4.42(kv、J=7.0Hz、2H、NCH)、3.79(s、6H、OCH)、3.70(s、6H、OCH)、1.31(t、J=7.0Hz、3H、CH)。
【0070】
13CNMR(176MHz、DMSO-d、δ):159.1, 139.1、136.4、134.5、132.6、132.3、130.7、129.3、128.7、127.6、126.3、123.43、122.33、121.37、118.76、117.16、114.35、114.24、113.53、110.14、109.47、108.72、55.1(OCH)、55.51(OCH)、37.46(CH)、14.15(CH)。
【0071】
元素分析:計算値、%: C 80.44,H 6.16,N 4.08. C4642。検出値、%: C 80.17,H 6.02,N 3.91。
【0072】
<実施例2:9-ブチル-3-{N,N-ビス[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9H-カルバゾール(スキーム1、化合物2またはV-1013参照)>
【0073】
【化9】
【0074】
3-アミノ-9-ブチルカルバゾール(1g、4.2mmol)をトルエン(18ml)に溶解させ、(+/-)10-カンファースルホン酸(1g、4.3mmol)を加え、反応混合物を20分間還流させた。次いで、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)アセトアルデヒド(2.69g、10.5mmol)を添加し、反応をDean-Stark装置を用いてさらに1時間続けた。反応終了後、(TLC、アセトン:n-ヘキサン/体積:体積、1:4)反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、濾過し、有機溶媒を減圧下で除去した。残渣を、THF:n-ヘキサン/体積:体積、1:49を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製し、エタノールから再結晶化させた。得られた結晶を、40℃、真空下で乾燥させ、化合物2を黄色結晶(1.65g、55%)として得た。
【0075】
HNMR(400MHz、CDCl、δ):8.05(d、J=8.9Hz、1H、5‐H、Ht)、7.81(s、1H、4‐H、Ht)、7.44(t、J=7.2Hz、1H、6‐H、Ht)、7.39~7.33(m、1H、8‐H、Ht)、7.33(t、J=7.5Hz、2H、1,2‐H、Ht)、7.17(t、J=7.4Hz、1H、7‐H、Ht)、7.07(d、J=8.7Hz、4H、p-Ph)、6.83(d、J=8.7Hz、4H、p-Ph)、6.67(d、J=8.7Hz、8Hz、4H、p-Ph)、6.54(d、J=8.7Hz、4H、p-Ph)、5.89(s、2H、NCH)、4.30(t、J=7.2Hz、2H、NCH)、3.85(s、6H、OCH)、3.77(s、6H、OCH)、1.88~1.82(m、2H、NCH)、1.55(s、2H、NCHCH)、1.44~1.39(m、2H、NCHCHCH)、0.96(t、J=7.2Hz、3H、CH)。
【0076】
13CNMR(75MHz、CDCl、δ):159.0、158.7、141.2、139.2、136.9、134.9、133.2、130.8、129.8、128.9、127.9、125.9、123.7、122.6、120.9、118.5、116.9、114.6、114、113.2、109.1、108.8、55.6(OCH)、55.4(OCH)、43.1(CH)、31.4(CH)、20.7(CH)、14.1(CH)。
【0077】
元素分析:計算値、%: C 80.64,H 6.49,N 3.92. C4846。検出値、%: C 80.44,H 6.29,N 3.72。
【0078】
<実施例3:9-ヘキシル-3-{N,N-ビス[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9H-カルバゾール(スキーム1、化合物3またはV-1001参照)>
【0079】
【化10】
【0080】
3-アミノ-9-ヘキシルカルバゾール(1g、3.8mmol)をトルエン(18ml)に溶解させ、(+/-)10-カンファースルホン酸(1g、4.3mmol)を加え、反応混合物を20分間還流させた。次いで、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)アセトアルデヒド(2.41g、9.4mmol)を添加し、反応をDean-Stark装置を用いてさらに1時間続けた。反応終了後、(TLC、アセトン:n-ヘキサン/体積:体積、1:4)反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、濾過し、有機溶媒を減圧下で除去した。残渣をアセトン:n-ヘキサン/体積:体積1:49を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、エタノールから再結晶化させた。得られた結晶を真空下40℃で乾燥させ、化合物3を黄色結晶(1.56g、55%)として得た。
【0081】
HNMR(400MHz、CDCl、δ):8.07(d、J=7.7Hz、1H、5-H、Ht)、7.8(s、1H、4-H、Ht)、7.38(d、1H、J=8.2Hz、1H、7-H、Ht)、7.33(t、J=3.6Hz、2H、6-H、Ht)、7.12-7.19(m、1H、8-H、Ht)、7.07(t、J=5.7Hz、4H、p-Ph)、6.84(t、J=5.8Hz、4H、p-Ph)、6.65~6.68(m、4H、p-Ph)、6.53~6.56(m、4H、p-Ph)、5.89(s、2H、NCH)、4.8(t、J=7.2Hz、2H、NCH)、3.84(s、6H、OCH)、3.77(s、6H、OCH)、1.85~1.89(m、2H、NCHCH)、1.37~1.41(m、2H、NCHCHCH)、1.29~1.33(m、4H、NCHCHCHCHCH)、0.88(t、J=7.0Hz、3H、CH)。
【0082】
13CNMR(100MHz、CDCl、δ):159.0、158.7、141.2、139.2、136.2、134.9、133.2、130.8、129.8、128.9、127.9、125.9、123.7、122.6、120.9、118.6、116.9、114.6、114.0、113.2、109.1、108.7、55.6(OCH)、55.4(OCH)、43.4(CH)、31.8(CH)、29.1(CH)、27.1(CH)、22.7(CH)、14.2(CH)。
【0083】
元素分析:計算値、%: C 80.83,H 6.78,N 3.77. C5050。検出値、%: C 80. 63,H 6.68,N 3.57。
【0084】
<実施例4:9-(2-エチルヘキシル)-3-{N,N-ビス[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9H-カルバゾール(スキーム1、化合物4またはV-1000参照)>
【0085】
【化11】
【0086】
3-アミノ-9-(2-エチルヘキシル)カルバゾール(1g、3.4mmol)をトルエン(17ml)に溶解させ、(+/-)10-カンファースルホン酸(1g、4.3mmol)を加え、反応混合物を20分間還流させた。次いで、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)アセトアルデヒド(2.18g、8.5mmol)を添加し、反応をDean-Stark装置を用いてさらに1時間続けた。反応終了後、(TLC、アセトン:n-ヘキサン/体積:体積、1:4)反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、濾過し、有機溶媒を減圧下で除去した。残渣をアセトン: n-ヘキサン/体積:体積、1:49を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、エタノールから再結晶化させた。得られた結晶を40℃で真空乾燥させ、化合物4を黄色結晶(1.45g、57%)として得た。
【0087】
HNMR(400MHz、CDCl、δ):8.06(d、J=7.8Hz,1H,5-H、Ht)、7.81(s,1H,4-H、Ht)、7.7(t、J=7.7Hz,1H,6-H、Ht)、7.36~7.34(m,1H,8-H、Ht)、7.33~7.31(m,2H,1,2-H、Ht)、7.17(t、J=7.4Hz,1H,7-H、Ht)、7.07(d、J=8.4Hz,4H、p-Ph)、6.84(d、J=8.4Hz,4H、p-Ph)、6.67(d、J=8.4Hz,4H、p-Ph)、6.54(d、J=8.4Hz、4H、p-Ph)、5.89(s、2H、NCH)、4.18~4.11(m、2H、NCH)、3.85(s、6H、OCH)、3.77(s、6H、OCH)、2.08~2.05(m、1H、NCHCH)、1.44~1.32(m、6H、NCH(CH)、1.32~1.27(m、2H、NCHCHCH)、0.93(t、J=7.3Hz、3H、CHCH)、0.89(t、J=7.3Hz、3H、CHCH
13CNMR(100MHz、CDCl、δ):159.0、158.7、141.7、139.2、137.4、134.9、133.2、130.8、129.8、128.9、127.9、125.8、123.6、122.6、120.9、118.6、116.9、114.6、114.0、113.2、109.4、109.1、108.7、55.6(OCH)、55.4(OCH)、47.7(CH)、39.7(CH)、31.2(CH)、29.0(CH)、24.5(CH)、23.2(CH)、14.2(CH)、11.1(CH)。
【0088】
元素分析:計算値、%: C 81.01,H 7.06,N 3.63. C5254。検出値、%: C 80.81,H 6.84,N 3.43。
【0089】
<実施例5:9-ブチル-6-(tert-ブチル)-3-{N,N-[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9Hカルバゾール(スキーム1、化合物5またはV-1004参照)>
【0090】
【化12】
【0091】
3-アミノ-6-(tert-ブチル)-9-ブチルカルバゾール(1g、3.4mmol)をトルエン(17ml)に溶解させ、(+/-)10-カンファースルホン酸(1g、4.3mmol)を加え、反応混合物を20分間還流させた。次いで、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)アセトアルデヒド(2.18g、8.5mmol)を添加し、反応をDean-Stark装置を用いてさらに30分間続けた。反応終了後、(TLC、アセトン:n-ヘキサン/体積:体積、1:4)反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、濾過し、有機溶媒を減圧下で除去した。残渣を、THF:n-ヘキサン/体積:体積、1:24を用いるカラムクロマトグラフィーによって精製し、THF中の20%水溶液から20倍過剰のメタノールに沈殿させた。得られた物質を真空下40℃で乾燥させ、化合物5を黄色の非晶質粉末(1.45g、57%)として得た。
【0092】
HNMR(400MHz、CDCl、δ):8.09(d、J=1.7Hz、1H、5-H、Ht)、7.81(s、1H、4-H、Ht)、7.54~7.50(m、1H、6-H、Ht)、7.33~7.27(m、3H、Ht)、7.26(s、1H、7-H、Ht)、7.08(d、J=8.8Hz、4H、p-Ph)、6.84(d、J=8.8Hz、4H、p-Ph)、6.68(d、J=8.8Hz、4H、p-Ph)、6.55(d、J=8.8Hz、4H、p-Ph)、5.90(s、2H、NCH)、4.27(t、J=7.0Hz、2H、NCH)、3.85(s、6H、OCH)、3.78(s、6H、OCH)、1.43(s、9H、C(CH)、1.47~1.39(m、2H、CH)、0.96(t、J=7.3Hz、3H、CH)。
【0093】
13CNMR(100MHz、CDCl、δ):159.0、158.7、141.7、139.5、139.4、138.9、137.4、134.9、133.2、130.8、129.6、129.5、128.9、128.1、123.8、122.3、117.2、116.6、114.0、113.2、109.0、108.7、108.2、55.6(OCH)、55.4(OCH)、43.1(CH)、34.9(CH)、32.2(CH)、31.5(CH)、23.8(CH)、20.8(CH)、14.1(CH)。
【0094】
元素分析:計算値、%: C 81.01,H 7.06,N 3.63. C5254。検出値、%: C 80.81,H 6.86,N 3.43。
【0095】
<実施例6:4-{N,N-ビス[2,2-ビス(4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}トリフェニルアミン(スキーム2、化合物6またはV-1012参照)>
【0096】
【化13】
【0097】
4-アミノトリフェニルアミン(1g、3.8mmol)をトルエン(18ml)に溶解させ、(+/-)10-カンファースルホン酸(1g、4.3mmol)を加え、反応混合物を20分間還流させ。次いで、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)アセトアルデヒド(2.46g、9.6mmol)を添加し、反応をDean-Stark装置を用いてさらに30分間続けた。反応終了後、(TLC、THF:n-ヘキサン/体積:体積、1:4)反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、濾過し、有機溶媒を減圧下で除去した。残渣をTHF:n-ヘキサン/体積:体積、1:24を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製し、THF中の20%水溶液から20倍過剰のメタノールに沈殿させた。得られた物質を40℃、真空下で乾燥させ、化合物6を黄色の非晶質粉末(1.6g、58%)として得た。
【0098】
HNMR(400MHz、CDCl、δ):7.31~7.22(m、4H、Ar)、7.15~6.93(m、14H、Ar)、6.88(d、J=8.3Hz、4H、p-Ph)、6.67(d、J=8.3Hz、4H、p-Ph)、6.53(d、J=8.3Hz、4H、p-Ph)、5.83(pl.s、2H、NCH)、3.89(s、6H、OCH)、3.78(s、6H、OCH)。
【0099】
13CNMR(100MHz、CDCl、δ):158.9、158.6、148.1、141.8、134.4、132.7、136.7、130.2、129.1、128.8、126.4、123.2、122.0、117.9、114.4、113.8、113.0、99.9、55.4(OCH)、55.2(OCH)。
【0100】
元素分析:計算値、%: C 81.50,H 6.02,N 3.80. C5044。検出値、%: C 81.20,H 5.82,N 3.48。
【0101】
<実施例7:9-ブチル-3,6-ビス{N,N,N,N-テトラキス(2,2-ビス[4-メトキシフェニル)ビニル]アミノ}-9Hカルバゾール(スキーム3、化合物7またはV-1020参照)>
【0102】
【化14】
【0103】
9-ブチルカルバゾール-3,6-ジアミン(1g、4.8mmol)をトルエン(21ml)に溶解させ、(+/-)10-カンファースルホン酸(1g、4.3mmol)を加え、反応混合物を20分間還流させた。次いで、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)アセトアルデヒド(5.04g、19.7mmol)を添加し、反応をDean-Stark装置を用いてさらに1時間続けた。反応終了後、(TLC、アセトン:n-ヘキサン/体積:体積、1:4)反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、濾過し、有機溶媒を減圧下で除去した。残渣をアセトン:n-ヘキサン/体積:体積、3:22を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、THF20%水溶液中から20倍過剰のメタノールに沈殿させた。得られた物質を40℃、真空下で乾燥させ、化合物7を黄色の非晶質粉末(3.2g、55%)として得た。
【0104】
HNMR(400MHz、CDCl、δ):7.76(s、2H、4,5-H、Ht)、7.35~7.26(m、4H、1,2,7,8-H、Ht)、7.06(d、J=8.7Hz、8H、p-Ph)、6.82(d、J=8.2Hz、8H、p-Ph)、6.63(d、J=8.2Hz、8H、p-Ph)、6.49(d、J=8.7Hz、8H、p-Ph)、5.86(s、4H、=CH)、4.27(s、2H、NCH)、3.84~3.81(m、12H、OCH)、3.77~3.74(m、12H、OCH)、1.87~1.83(m、2H、NCHCH)、1.44~1.39(m、2H、NCHCHCH)、0.96(t、J=7.3Hz、3H、CH)。
【0105】
13CNMR(100MHz、CDCl、δ):158.9、158.6、147.9、143.7、134.9、133.2、130.8、128.9、126.7、117.6、113.9、113.1、111.5、109.0、89.6、84.5、55.6(OCH)、55.4(OCH)、23.0(CH)、20.7(CH)、16.7(CH)、14.1(CH)。
【0106】
元素分析:計算値、%: C 79.64,H 6.27,N 3.48. C8075。検出値、%: C 79.44,H 6.07,N 3.28。
【0107】
<実施例8:9-(2-エチルヘキシル)-3,6-ビス{N,N,N,N-テトラキス(2,2-ビス[4-メトキシフェニル)ビニル]-アミノ}-9Hカルバゾール(スキーム3、化合物8またはV-1021参照)>
【0108】
【化15】
【0109】
9-(2-エチルヘキシル)カルバゾール-3,6-ジアミン(1g、3.2mmol)をトルエン(17ml)に溶解させ、(+/-)10-カンファースルホン酸(1g、4.3mmol)を加え、反応混合物を20分間還流させた。次いで、2,2-ビス(4-メトキシフェニル)アセトアルデヒド(4.1g、16mmol)を添加し、反応をDean-Stark装置を用いてさらに1.5時間続けた。反応終了後、(TLC、アセトン:n-ヘキサン/体積:体積、1:4)反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、濾過し、有機溶媒を減圧下で除去した。残渣をアセトン:n-ヘキサン/体積:体積、3:22を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、THF20%水溶液中から20倍過剰のメタノールへ沈殿させた。得られた物質を40℃、真空下で乾燥させ、化合物8を黄色の非晶質粉末(2g、49%)として得た。
【0110】
HNMR(400MHz、CDCl、δ):7.76(s、2H、4、5-H、Ht)、7.35~7.26(m、4H、1、2、7、8-H、Ht)、7.06(d、J=8.6Hz、8H、p-Ph)、6.82(d、J=8.3Hz、8H、p-Ph)、6.67~6.60(m、8H、p-Ph)、6.49(d、J=8.6Hz、8H、p-Ph)、5.86(s、4H、=CH)、4.11(d、J=8.3Hz、2H、NCH)、3.84(s、12H、OCH)、3.74(s、12H、OCH)、2.04(s、1H、NCHCH)、1.45~1.26(m、8H、NCHCH(CH)、0.91(m、6H、(CH)。
【0111】
13CNMR(100MHz、CDCl、δ):158.9、158.6、144.2、143.6、140.6、134.9、133.2、130.9、129.6、128.9、128.0、123.2、119.7、117.7、117.6、115.1、114.6、113.9、113.1、109.3、89.5、55.6(OCH)、55.4(OCH)、47.7(CH)、39.6(CH)、32.8(CH)、31.1(CH)、29.0(CH)、23.3(CH)、14.3(CH)、11.0(CH)。
【0112】
元素分析:計算値、%: C 79.91,H 6.63,N 3.33. C8483。検出値、%: C 79.71,H 6.43,N 3.13。
【0113】
<実施例9:イオン化電位測定>
式(1)~(8)の化合物の層の固体イオン化ポテンシャル(I)を、空気中での電子光放出法によって測定した(E.Miyamoto, Y.Yamaguchi, M.Masaaki, Electrophotography, 1989, vol.28, pp.364)。イオン化ポテンシャル測定のための試料は、材料をTHFに溶解することによって調製し、厚さ約0.5μmのメチルメタクリレートおよびメタクリル酸コポリマー接着層を、Al板上に予め被膜した。移動物質層の膜厚は0.5-1μmであった。光放出実験は真空中で行い、高真空がこれらの測定の主要な要件の1つであった。真空が十分に高くない場合、試料表面の酸化およびガス吸着が測定結果に影響を及ぼす。しかし、本発明の場合、調査した有機材料は酸素に対して十分に安定であり、測定は空気中で行うことができる。試料に、重水素ランプを有する石英モノクロメーターからの単色光を照射した。入射光線の電源は(2~5)・10-8Wであった。サンプリング基板に-300Vの負電位を供給した。照明用4.5×15mmスリットを有する対向電極を試料面から8mm離して配置した。対向電極は光電流測定のために、開入力レジームで作動するBK2-16型電位計の入力に接続した。10-15~10-12Aの強い光電流が照射中、回路に流れていた。光電流Iは、入射光子エネルギーhνに強く依存する。I0.5=f(hν)依存性をプロットした。通常、入射光量子エネルギーに対する光電流の依存性は、しきい値付近のI0.5とhνとの間の線形関係によって十分に記述される。この依存性の線形部分をhν軸に外挿し、I値を遮断点における光子エネルギーとして決定した。Iの結果を表1に示す。
【0114】
<実施例10:正孔ドリフト移動度測定>
正孔移動度測定用の試料は、合成化合物1~8の水溶液を、導電性Al層を有するポリエステルフィルム上にスピンコーティングすることによって調製した。THFを化合物1~6に、クロロベンゼンとして化合物7および8にも使用した。層の厚さは5~10μmの範囲であった。正孔ドリフト移動度は、ゼログラフィック飛行時間技術(XTOF)(Vaezi-Nejad, S.M., Int. J. Electronics, 1987, 62, No.3, 361-384)によって測定した。電場は、正のコロナ帯電によって作り出された。電荷キャリアは、窒素レーザーのパルス(パルス持続時間は2ns、波長337nm)による照射によって層表面で発生させた。パルス照明の結果としての層表面電位の低下は、照明前の初期電位の最大1~5%であった。広周波数帯域電位計に接続されたキャパシタンスプローブは、表面電位の減少速度dU/dtを測定した。通過時間tは、dU/dt過渡の曲線上のキンク(kink)によって二重対数スケールで決定した。ドリフト移動度は、式μ=d/U(式中、dは層厚U-照射時の表面ポテンシャル)によって計算した。μの結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【0117】
【0118】
すべての合成化合物の推定I値は4.93eV~5.11eVであり、Spiro-OMeTAD(5.0eV)の値に非常に近い。合成された化合物1~6および8の測定された電荷移動度の値はまた、Spiro-OMeTADについて測定された値に匹敵し、一方、化合物7(V-1020)の電荷移動度は、弱い電界において、約1桁(μ=1.2×10-4cm-1-1)分増大する。
【0119】
<実施例11:化合物V-950に対応する式(1)の化合物の光起電力特性>
正孔輸送体V-950の性能は、文献(T.J.Jacobsson, J.P.Correa-Baena, M.Pazoki, M.Saliba, K.Schenk, M.GratzelとA.HagfeldtらのEnergy EnvironSci., 2016, 9, 1706-1724)に記載されている手順に従って、多孔質TiO光陽極およびAu陰極(FTO/微粒子TiO/多孔質微粒子TiO/ミックスペロブスカイト/V-950/Au)を使用して混合ペロブスカイト系太陽電池において試験される。カチオン(メチルアンモニア(MA)、ホルムアミジニウム(FA))およびアニオン(I、Br)の混合物を混合ペロブスカイトの調製に使用した。
【0120】
得られた装置は、AM1.5G照射下で17.8%の最大PCEを示す。測定されたフィルファクタは0.74であり、電流密度(JSC)は22.5mA/cmであり、開回路電圧(VOC)は1.07Vであることがわかる(図1)。高いJSCは光生成電荷キャリアが効率的に抽出されること、および、高いVOCが、V-950のペロブスカイト価電子帯とHOMOとの間の、可能性のある良好なエネルギーレベルアラインメントを明らかにしたことを示している。この高いVOCはまた、ペロブスカイト保持層またはTiOのいずれかからの、注入された正孔と電子との間のゆっくりとした再結合を示す。化合物(1)に対応する化合物V-950およびSpiro-OMeTADの電流密度-電圧(J-V)特性を図1に示す。波長の関数としての、装置の入射光子対電流効率(IPCE)(図2)は、HTMとしてV950を有する装置が全可視領域をカバーする400nmから700nmまで90%を超えるIPCEを示すことを示す。
【0121】
装置特性は、調べたHTMの性能がSpiro‐OMeTADに匹敵することを実証した。
【図面の簡単な説明】
【0122】
図1】太陽電池の電流-電圧曲線を示し、化合物(1)に対応する化合物V-950およびSpiro-OMeTADを正孔輸送材料として調査したものである。
図2】太陽電池の入射光子対電流効率(IPCE)曲線を示し、化合物(1)に対応する化合物V-950およびSpiro-OMeTADが正孔輸送材料として表現される。
図1
図2