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特許7565055ディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導剤組成物、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品、飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導剤組成物、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品、飲料
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20241003BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20241003BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241003BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241003BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20241003BHJP
【FI】
A61K36/899
A61P43/00 107
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/00
A61K8/9794
A23L33/10
A23L2/00 F
C12Q1/686 Z ZNA
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019172109
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021050142
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】397066856
【氏名又は名称】秋田銘醸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大友 理宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英晃
(72)【発明者】
【氏名】溝浦 佑風
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佳
(72)【発明者】
【氏名】三浦 温子
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-158563(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0016030(KR,A)
【文献】特開2001-058953(JP,A)
【文献】特開2005-325100(JP,A)
【文献】特開2009-292785(JP,A)
【文献】特開平10-146166(JP,A)
【文献】J. Brew. Soc. Japan,2008年,Vol.103, No.9,pp.724-729
【文献】醸協,2015年,Vol.110, No.4,pp.198-206
【文献】日豚会誌,2013年,Vol.50, No.2,pp.46-50
【文献】Eur. J. Immunol.,2008年,Vol.38, No.5,pp.1287-1296
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 36/00-36/9068
A61K 8/00- 8/99
A23L 33/00-33/29
A23L 2/00- 2/84
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
秋田銘醸が醸造した本醸造酒、普通酒又は純米酒由来の酒かすを含む酒かす又は秋田銘醸が醸造した本醸造酒、普通酒又は純米酒由来の酒かす粉末を含む酒かす粉末を有効成分とし、乳酸菌の個数が30個/g以下であり、
前記酒かす又は前記酒かす粉末は、終濃度が0.1~1.0mg/mLとなるようにPBSで調整されているだけであり、アルカリ抽出、熱水抽出、エタノール抽出及び水抽出を含む抽出処理がされていない、ヒトβ-ディフェンシン-2及びヒトインターロイキン-12の産生誘導剤組成物。
【請求項2】
秋田銘醸が醸造した本醸造酒、普通酒又は純米酒由来の酒かすを含む酒かすをPBSに溶かして凍結乾燥し粉末化した粉末、又は前記秋田銘醸が醸造した本醸造酒、普通酒又は純米酒由来の酒かすを含む酒かすを100~150℃で乾燥機により加熱乾燥し粉末化した粉末を有効成分とし、アルコール度数が1.0%以下で前記乳酸菌の個数が30個/g以下である、請求項1に記載のヒトβディフェンシン-2及びヒトインターロイキン-12の産生誘導剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の産生誘導剤組成物を含有する、ヒトβ-ディフェンシン-2及びヒトインターロイキン-12の産生誘導用の医薬品、医薬部外品、化粧料、食品又は飲料。
【請求項4】
抗感染症用、がん抑制用、又は免疫不全症改善用である、請求項に記載の医薬品、医薬部外品、化粧料、食品又は飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導剤組成物、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品、飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含めた哺乳類、植物、昆虫、両性類等の生物に生来備わっている生体防御機構(自然免疫)の1つとして、生体内の抗菌物質、特に抗菌ペプチドの存在が知られている。哺乳類における抗菌ペプチドは、ディフェンシンと総称され、真性細菌、真菌類、ウィルス等に対して抗菌活性を有している。哺乳類のディフェンシンは、α-ディフェンシン、β-ディフェンシン、θ-ディフェンシンの3つのファミリーからなる。この中でも皮膚、肺、器官、腎臓、生殖器当の粘膜上皮に発現するβ-ディフェンシンは、感染防御や獲得免疫に関与するだけでなく、腫瘍免疫を誘導して、抗腫瘍効果を発揮することやがん細胞の増殖抑制作用があることも解明されている。
【0003】
また、感染や疾患に対する身体の自然な反応を改善する物質として、サイトカイン(生物学的反応修飾物質)が知られている。サイトカインの一種であるインターロイキンは、腫瘍細胞を攻撃する免疫系の機能を高める作用があるほか、腫瘍への血流を妨げる可能性もある。この種のサイトカインは通常は体内で作られている。このインターロイキンの中でも、インターロイキン-12(IL-12)は、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)を活性化してIFN-γの産生を促進するとともに、Th1細胞の分化を誘導することから、感染防御や抗がん療法、免疫不全症の改善における臨床応用が期待されている。
【0004】
免疫の仕組みとしては、まず、ディフェンシンが、鼻や口、腸などの粘膜から病原体が体内に侵入するのを抑制する。病原体が体内に侵入した場合には、インターロイキンが誘導され、病原体を攻撃する。したがって、ディフェンシンやサイトカインの直接的な抗菌活性や免疫機能を強化し、さらには抗腫瘍効果やがん細胞の増殖抑制作用をより強化するべく、生体内でのディフェンシンやサイトカインの産生を促進することができる技術の開発が切望されている。
【0005】
ところで、甘酒の抽出物、焼酎醪、米抽出物の発酵物等を有効成分とする組成物を用いてヒトβ-ディフェンシンの産生を促進する技術が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、乳酸菌を用いてインターロイキンの産生を促進する技術が開示されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-270117号公報
【文献】再表2005/077349号公報
【文献】特開2006-028047号公報
【文献】特開2018-113892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術は、ディフェンシン又はインターロイキンの何れか一方の産生を促進する技術であり、双方の産生を促進する技術は未だ開示がなく、抗腫瘍効果やがん細胞の増殖抑制作用において、必ずしも満足し得るものではなかった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、ディフェンシン及びインターロイキンの産生を、より効果的に誘導することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、ヒト由来の上皮細胞に酒かすを添加することで、ディフェンシン及びインターロイキン、特にヒトβ-ディフェンシン-2及びヒトインターロイキン-12の産生を誘導できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、次の(1)~(4)に示す通りである。
(1)酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物を有効成分とする、ディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導剤組成物。
(2)ディフェンシンが、ヒトβ-ディフェンシン-2であり、インターロイキンがヒトインターロイキン-12である、前記(1)に記載のディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導剤組成物。
(3)酒かす、酒かす粉末又は抽出物が、加熱殺菌されたものである、前記(1)又は(2)に記載の産生誘導剤組成物。
(4)前記(1)~(3)のいずれかに記載の産生誘導剤組成物を含有する、ディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導用の医薬品、医薬部外品、化粧料、食品又は飲料。
(5)がん抑制用、抗感染症用、又は免疫不全改善用である、前記(4)に記載の医薬品、医薬部外品、化粧料、食品又は飲料化粧料。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物によって、ディフェンシンmRNA及びインターロイキンmRNAの発現が誘導される。その結果、ディフェンシン及びインターロイキンの産生を、より効果的に誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で、酒かす1~7により刺激した、ヒト小腸上皮細胞におけるヒトインターロイキン-12の産生誘導効果を示すグラフである。
図2】実施例1で、酒かす1~7により刺激した、ヒト小腸上皮細胞におけるヒトβ-ディフェンシン-2の産生誘導効果を示すグラフである。
図3】実施例2で、酒かす粉末I、IIにより刺激した、ヒト小腸上皮細胞におけるヒトインターロイキン-12の産生誘導効果を示すグラフである。
図4】実施例2で、酒かす粉末I、IIにより刺激した、ヒト小腸上皮細胞におけるヒトβ-ディフェンシン-2の産生誘導効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、詳細に説明する。本実施の形態であるディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導剤組成物は、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物を有効成分とする。また、本実施の形態であるディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導用の医薬品、医薬部外品、化粧料、食品又は飲料は、本実施の形態である産生誘導剤組成物を含有する。
【0014】
酒かす(酒粕、酒糟)とは、米、麹、水を発酵させた日本酒などの醪、又は米、麹、水で発酵させた醪に対して、醸造アルコール、糖類酸味料などを添加した後、圧搾機などで搾った後の残渣であり、本明細書では、水分を含んでウェットな状態のものをいう。このような酒かすとしては、醪を圧搾した後に残る固形物(板かす)であってもよいし、醪を袋絞りした後に残る液体物であってもよい。
【0015】
酒かすは、水分及びアルコール分(液体成分)を含有している。液体成分の含有量としては、固形物(板粕)の場合は、例えば30%~60%であり、液体物の場合は、例えば50%~80%であるが、この範囲に限定されることはない。酒かすのアルコール度数は、日本酒の造り方や蔵元によって異なり、一般的には6%~14%(6度~14度)であるが、この範囲に限定されることはない。酒かすには、水分、アルコール分のほかに、炭水化物、蛋白質、脂質、灰分、ペプチド、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、酵母などの各種栄養素が含有されている。なお、日本酒の醸造工程で、微量の乳酸菌が混入する場合があるが、ほとんどはアルコール分で死滅するため、酒かす中には乳酸菌は殆ど含有されない。通常の酒かす中の乳酸菌の含有量は、300個/g以下が好ましく、30個/g以下がより好ましい。これに対して、いわゆる「生もと造り」、「山廃造り」のような伝統的な方法で造られた日本酒では、雑菌を除去すべく、蔵付乳酸菌を増殖させた造りや乳酸菌を添加した造りをしていることから、その酒かすには乳酸菌が比較的多く含まれている。本実施の形態では、「生もと造り」、「山廃造り」の酒かすを用いてもよいが、これらの方法ではない、通常の方法で作られた日本酒(吟醸酒、純米酒、醸造酒等)の酒かすを好適に用いることができる。「純米酒」は、白米、米こうじ及び水のみを原料として製造した清酒である。「醸造酒」は、純米酒に醸造アルコールを加えて製造した清酒である。「吟醸酒」は、純米酒及び醸造酒の中で、米を60%以下に精米して低温発酵する吟醸造りという手法で製造した清酒である。「普通酒」は、純米酒、本醸造酒、吟醸酒等の特定名称酒以外の清酒である。
【0016】
酒かす粉末(酒かすパウダー)は、酒かすを各乾燥装置(スプレードライ、フリーズドライ、ダブルドラム)を用いて、適切な温度(-30℃から150℃)で乾燥させた乾燥物であり、本乾燥物を微粉砕した粉末である。酒かす粉末の水分量は、10.0%以下が好ましく、5.0%以下がより好ましいが、この範囲に限定されることはない。また、酒かす粉末のアルコール度数は、1.0%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましいが、この範囲に限定されることはない。また、酒かす粉末の製造に使用する酒かすは、普通酒、純米酒、本醸造酒、吟醸酒等の種類に限定されることはなく、いずれを使用してもよい。
【0017】
酒かす又は酒かす粉末の抽出物としては、例えば、酒化し又は酒かす粉末を、精製水に懸濁し、遠心することによって得られる上清(抽出液)、又はその分画等が挙げられるが、これに限定されることはない。また、上記酒かす、酒かす粉末、抽出物は、非加熱であってもよいし、加熱殺菌されたものであってもよい。加熱殺菌されたものでは、経口摂取する製品、特に食品や飲料に好適に用いることができる。また、加熱殺菌されたものでは、アルコールがほぼ除去されるとともに、乳酸菌等がほぼ死滅する。このため、本実施形態の産生誘導剤組成物によるディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導効果に、乳酸菌が影響することはない。
【0018】
ディフェンシンとしては、特に限定されることはなく、α-ディフェンシン、β-ディフェンシン、θ-ディフェンシンのいずれのファミリーに属するものであってもよい。この中でも、本実施の形態は、ヒトβ-ディフェンシンの産生の誘導、及びヒトβディフェンシンmRNAの発現の誘導に特に好適であり、更にはヒトβ-ディフェンシン-2の産生の誘導、及びヒトディフェンシン-2mRNAの発現の誘導に最適である。
【0019】
インターロイキンとしては、特に限定されることはないが、本実施の形態は、NK細胞を活性化してIFN-γの産生を促進し、かつナイーブT細胞のTh1細胞への分化を誘導することで、感染防御や抗がん療法、免疫不全症の改善における臨床応用に期待されることから、ヒトインターロイキン-12の産生の誘導、及びヒトインターロイキン-12mRNAの発現の誘導に特に好適である。
【0020】
また、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物を主成分とする産生誘導剤組成物によって刺激される細胞としては、特に限定されることはなく、ディフェンシン及びインターロイキンを分泌する細胞であればよい。より具体的には、例えば、ヒト上皮細胞が好ましく、この中でも、免疫細胞が多く存在し、免疫において極めて重要な機能を有している点で、ヒト小腸上皮細胞を刺激することがより好ましい。この場合、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物を、終濃度0.1~1.0mg/mLとなるように5%FBS(ウシ胎児血清:Fetal Bovine Serum)等で調整し、その調整物を細胞に添加することが好ましい。
【0021】
本実施の形態におけるディフェンシン及びインターロイキンの発現レベルを定量するため、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物を添加する細胞として、培養細胞を用いることができる。このような培養細胞は、ATCCなどの細胞バンクに保管されている既知の培養細胞又はその突然変異株を用いることができる。また、培養細胞として、例えば、ヒト大腸がん細胞であるCaco2を培養し、分化させることによって作製したヒト小腸上皮細胞を好適に用いることができる。
【0022】
本実施の形態においては、上記のような培養細胞に、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物を添加し、ディフェンシン及びインターロイキンの発現レベルの変化を、RT-PCR法によって測定することで、ディフェンシンmRNA及びインターロイキンmRNAの発現が、効果的に誘導されているか否かを検出することができる。
【0023】
また、本実施の形態の医薬品、医薬部外品、化粧料、食品又は飲料は、上述した本実施の形態のディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導剤組成物を含有し、ディフェンシン及びインターロイキンの産生を効果的に誘導する。このような優れた効果を奏することで、抗感染症用、がん抑制用、又は免疫不全症改善用の医薬品、医薬部外品、化粧料、食品、飲料として特に好適である。
【0024】
本実施の形態の医薬品、医薬部外品、化粧料、食品、飲料は、経口用(内用)又は非経口用(外用)の両形態をとることができる。経口用の医薬品、医薬部外品としては、例えば、産生誘導剤組成物以外にも、各種担体や添加剤、他の薬効成分等を含有してもよく、錠剤、散剤、顆粒剤、乳剤、シロップ剤、ドリンク剤、ハード又はソフトカプセル剤等の形態をとることができる。また、経口用の食品、飲料としては、例えば、産生誘導剤組成物に加え、他の食品原料や添加剤等を含有するチョコレート菓子、クッキー等の焼菓子、キャンディー、ドロップ、錠菓、チューイングガム、カプセル、清涼飲料水、ドリンク、スープ等の形態をとることができる。また、非経口用の医薬品、医薬部外品、化粧料の場合には、例えば、液体状、ジェル状、クリーム状、軟膏等の形態をとることができる。これら医薬品、医薬部外品、化粧料、食品、飲料への産生誘導剤組成物の配合量としては、特に限定されることはなく、ディフェンシン及びインターロイキンの産生誘導効果を奏する範囲内で含有させればよい。
【0025】
以上、本実施の形態によれば、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物を有効成分とすることで、ディフェンシン及びインターロイキンの産生を効果的に誘導可能な産生誘導剤組成物、この産生誘導剤組成物を含有する医薬品、医薬部外品、化粧料、食品又は飲料を提供することができる。また、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物が、加熱殺菌されたものであれば、乳酸菌等を除去し、これらによる影響を抑制できる。また、加熱殺菌により、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品、飲料に好適に用いられ、経口用のこれらにより好適に用いられ、食品、飲料に特に好適に用いられる。
【0026】
また、本実施の形態の産生誘導剤組成物は、ディフェンシンmRNA及びインターロイキンmRNAの発現誘導方法に適用できる。この発現誘導方法の工程としては、例えば、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物を培養細胞に添加する工程を有してなる。この発現誘導方法により、ディフェンシンmRNA及びインターロイキンmRNAの発現を効果的に誘導可能な方法を提供することができる。この結果、ディフェンシン及びインターロイキンの産生を効果的に誘導することができる。
【0027】
また、本実施の形態の産生誘導剤組成物は、ヒトβ-ディフェンシン-2及びヒトインターロイキン-12の産生の誘導及びこれらのmRNAの発現の誘導に最適である。この結果、感染予防だけでなく、優れた抗腫瘍効果やがん細胞の増殖抑制作用を得ることが可能となり、感染防御や抗がん療法、免疫不全症の改善における臨床への応用が可能となる。また、本実施の形態の産生誘導剤組成物を含有することで、感染防御効果に優れる抗感染症用、がん細胞の増殖抑制等の効果に優れるがん治抑制用、免疫不全症の改善効果に優れる免疫不全症改善用の医薬品、医薬部外品、化粧料、食品、飲料を提供することができる。
【0028】
また、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物を、ヒト小腸上皮細胞に添加することで、ヒト小腸上皮細胞におけるディフェンシンmRNA及びインターロイキンmRNAの発現を効果的に誘導することができる。この結果、ディフェンシン及びインターロイキンの産生を効果的に誘導することができ、小腸からの病原体等の侵入の防御、がん細胞の増殖抑制など、生体防御機構を高めることができる。
【実施例
【0029】
本発明を、実施例(実験例)によってさらに詳細に説明するが、本実施例は発明の具体的な説明のためのものであって、本発明が実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
<ヒト小腸上皮細胞の調製>
1.6×106cell/mlのCaco2細胞(ヒト大腸がん細胞)を、5%FBS(ウシ胎児血清:Fetal Bovine Serum)を含むDMEM培地に懸濁し、37℃で24時間、5%CO2雰囲気下で培養を行った。さらに、培地を5mMの酪酸を添加したDMEM培地に交換して、37℃で4日間、培養し、ヒト小腸上皮細胞に分化させた。分化終了後、5%FBSを含むDMEM培地に交換した。
【0030】
<酒かすサンプルの添加>
この実施例1(実施例1-1~1-7)では、酒かすサンプルとして、下記表1に示す酒かす1~7を、それぞれPBSに溶かして凍結乾燥し、粉末にしたものを使用した。なお、下記酒かす1~7の乳酸菌含有量は、300個/g以下であった。酒かす2~5として、出願人である秋田銘醸が醸造した普通酒の中から、ロットが異なる(つまり、製造時期、製造環境等が異なる)4つの普通酒1~4由来の酒かすを使用した。同様に酒かす6、7として、ロットの異なる2つの純米酒1、2由来の酒かすを使用した。
【0031】
【表1】
【0032】
上記凍結乾燥し粉末化した酒かす1~7のサンプルを、終濃度0.1mg/mLになるように、PBSで調整した。調整した酒かす1~7の各サンプルを、上記<ヒト小腸上皮細胞の調製>で調整したヒト小腸上皮細胞に添加して、37℃で3時間、5%CO2雰囲気下で培養した。また、同量のPBSをヒト小腸上皮細胞に添加し、コントロール(比較例)とした。
【0033】
<RNA回収>
各サンプルの培地から、培養したヒト小腸上皮細胞を回収し、回収したヒト小腸上皮細胞からRNeasy Mini Kit(QUIAGEN社製)を用いてトータルRNA(総RNA)を抽出した。次いで、Oligo-dtcelluloseカラムを用いて、mRNAを抽出した。トータルRNAの抽出の詳細な手順を、以下に示す。
【0034】
(a)培地を除去後、トリプシンを500μl加えて洗浄
(b)再びトリプシンを500μl加えて37℃で5分培養
(c)培養物を、2,000rpmで3分間遠心してヒト小腸上皮細胞を回収
(d)回収したヒト小腸上皮細胞にRTL bufferを600μl加えて懸濁
(e)21Gシリンジで10回ストローク
(f)70%エタノールを600μl加えてパイペティング
(g)RNeasyスピンカラムに、(f)のサンプルを600μl加えて、10,000rpmで15秒遠心
(h)濾液を除去後、残っているサンプル600μlをRNeasyスピンカラムに加えて、10,000rpmで15秒遠心
(i)濾液を除去後、RW1 buffer700μlをRNeasyスピンカラムに加えて同様に遠心
(j)濾液を除去後、RPE buffer500μlをRNeasyスピンカラムに加えて同様に遠心
(k)濾液を除去後、RPE buffer500μlをRNeasyスピンカラムに加えて10,000rpmで2分遠心
(l)新しいコレクトチューブにRNeasyスピンカラムを移し、15,000rpmで1分遠心
(m)1.5mlのコレクトチューブにRNeasyスピンカラムを移し、Rnase free water を30μl加えて10,000rpmで1分遠心してRNAを溶出
(n)-30℃のフリーザーで保存
【0035】
<cDNAへの変換>
Super Script III First strand kit(Invitrogen社製)を用いて、上記で抽出したmRNAからcDNAを合成した。詳細な手順を以下に示す。
【0036】
(a)下記表2に示す組成で溶液を調製
【表2】
トータルで10μLになるようDEPC-treated waterで上記溶液をメスアップした。
(b)65℃で5分培養
(c)4℃で1分培養
(d)下記表2に示す組成の溶液を添加
【表3】
(e)以下の条件でPCRを実行
(e-1)50℃、50分
(e-2)85℃、5分
(e-3)4℃、1分
(f)PCR終了後、氷上に移し、RNase Hを1μL加えて、37℃で20分培養
【0037】
<cDNAの増幅>
上記で合成したcDNAを、下記表4に示す組成でPCRチューブに調整する。
【表4】
【0038】
ヒトインターロイキン-12(IL-12 p40)、β-アクチン(β-actin)及びヒトβ-ディフェンシン-2(hBD-2)の各々の遺伝子プライマー(Fw:フォワード、Rv:リバース)の塩基配列及びバンドサイズは、以下のとおりである。
・IL-12 p40
IL-12 p40 Fwプライマー:ACCTGACCCACCCAAGAACTT(配列番号1)
IL-12 p40 Rvプライマー:TGGACCTGAACGCAGAA(配列番号2)
バンドサイズ:132bp
・β-actin
β-actin Fwプライマー:GCTCGTCGTCGACAACGGCTC(配列番号3)
β-actin Rvプライマー:CAAACATGATCTGGGTCATCTTCTC(配列番号4)
バンドサイズ:320bp
・hBD-2
hBD-2 Fwプライマー:TGATGAGGGAGCCCTTTCTG(配列番号5)
hBD-2 Rvプライマー:TGATGCCTCTTCCAGGTGTT(配列番号6)
バンドサイズ:206bp
【0039】
以下で説明するPCR条件で、RT-PCRを行った。IL-12 p40及びβ-actinは、逆転写反応を94℃で15秒、60℃で30秒、72℃で30秒の条件で、37サイクル行った。hBD-2は、逆転写反応を95℃で30秒、61℃で30秒、72℃で30秒の条件で、40サイクル行った。
【0040】
RT-PCR終了後、各サンプルの反応液に、6×SBをそれぞれ4μLずつ加え、よく懸濁した。その後、1%アガロースゲルを用いて、100V、15μL/wellで電気泳動を行った。電気泳動を行った後、UV照射下で観察し、Image Jで解析を行った。
【0041】
<結果>
図1は、酒かす1~7により刺激した、ヒト小腸上皮細胞におけるヒトインターロイキン-12の産生誘導効果を示すグラフである。このグラフは、酒かす1~7により刺激したヒト小腸上皮細胞におけるIL-12をUV照射下で観察し、得られた蛍光を、β-actinを基準として数値化したものである。左から順に、PBS、酒かす1、酒かす2、酒かす3、酒かす4、酒かす5、酒かす6、酒かす7の数値を示す。
【0042】
この図1のグラフによれば、コントロール(比較例)であるPBSと比較して、実施例1-1~1-7の酒かす1~7のサンプルを添加したヒト小腸上皮細胞はIL-12のmRNAの発現レベルが大きく、IL-12の産生が誘導されていることがわかる。図1及び後述の図2図4中の「*」は、t検定(有意水準5%以下)の結果、コントロールと比較して非常に有意差(p<0.01)があった旨を示し、「**」は、コントロールと比較して有意差(p<0.05)があった旨を示す。
【0043】
図2は、酒かす1~7により刺激した、ヒト小腸上皮細胞におけるヒトβ-ディフェンシン-2の産生誘導効果を示すグラフである。このグラフもIL-12の場合と同様に、酒かす1~7により刺激したヒト小腸上皮細胞におけるhBD-2をUV照射下で観察し、得られた蛍光を、β-actinを基準として数値化したものである。左から順に、PBS、酒かす1、酒かす2、酒かす3、酒かす4、酒かす5、酒かす6、酒かす7の数値を示す。
【0044】
この図2のグラフによれば、コントロール(比較例)であるPBSと比較して、実施例1-1~1-7の酒かす1~7のサンプルを添加したヒト小腸上皮細胞はhBD-2のmRNAの発現レベルが著しく大きく、hBD-2の産生が誘導されていることがわかる。
【0045】
(実施例2)
<ヒト小腸上皮細胞の調製>
上記実施例1と同様の手順で、ヒト小腸上皮細胞を調整した。
【0046】
<酒かすサンプルの添加>
下記の表5に、実施例2(実施例2-1、2-2)で使用した製造ロットの異なる酒かす粉末のサンプルを示した。なお、実施例2(実施例2-1、2-2)で使用する酒かす粉末I、IIのサンプルは、普通酒の酒かす80%、賦形剤20%を配合し、加熱乾燥機(温度100-150℃)で加熱乾燥し粉末化した粉末(酒かす含有量80%)である。さらに、下記酒かす粉末I、IIの乳酸菌含有量は0個/gであった。
【0047】
【表5】
【0048】
上記の加熱乾燥機で粉末化した製造ロットの異なる酒かす粉末I,IIのサンプルを、終濃度0.125mg/mL(酒かす粉末の酒粕含有量80%から実施例1の添加終濃度に対して1.25倍の濃度を添加量とした。)になるように、PBSで調整した。調整した酒かす粉末I、IIの各サンプルを、ヒト小腸上皮細胞に添加して、37℃で3時間、5%CO2雰囲気下で培養した。また、同量のPBSをヒト小腸上皮細胞に添加し、コントロール(比較例)とした。
【0049】
<RNA回収>
上記実施例1と同様の手順で、各ヒト小腸上皮細胞からRNAを回収(抽出)した。
<cDNAへの変換>
上記実施例1と同様の手順で、上記で抽出したmRNAからcDNAを合成した。
<cDNAの増幅>
上記実施例1と同様の手順で、上記で合成したcDNAを増幅した。
【0050】
RT-PCR終了後、実施例1と同様に、各サンプルの反応液に、6×SBをそれぞれ4μLずつ加え、よく懸濁した。その後、1%アガロースゲルを用いて、100V、15μL/wellで電気泳動を行った。電気泳動を行った後、UV照射下で観察し、Image Jで解析を行った。
【0051】
<結果>
図3は、酒かす粉末I、IIにより刺激した、ヒト小腸上皮細胞におけるヒトインターロイキン-12の産生誘導効果を示すグラフである。このグラフは、酒かすI、IIにより刺激したヒト小腸上皮細胞におけるIL-12をUV照射下で観察し、得られた蛍光を、β-actinを基準として数値化したものである。左から順に、PBS、酒かす粉末I、酒かす粉末IIの数値を示す。
【0052】
この図3のグラフによれば、コントロールで(比較例)であるPBSと比較して、実施例2-1、2-2の酒かすI、IIのサンプルを添加したヒト小腸上皮細胞はIL-12のmRNAの発現レベルが大きく、IL-12の産生が誘導されていることがわかる。
【0053】
図4は、酒かす粉末I、IIにより刺激した、ヒト小腸上皮細胞におけるヒトβ-ディフェンシン-2の産生誘導効果を示すグラフである。このグラフもIL-12の場合と同様に、酒かす粉末I、IIにより刺激したヒト小腸上皮細胞におけるhBD-2をUV照射下で観察し、得られた蛍光を、β-actinを基準として数値化したものである。左から順に、PBS、酒かすI、酒かすIIの数値を示す。
【0054】
この図4のグラフによれば、コントロール(比較例)であるPBSと比較して、実施例2-1、2-2の酒かす粉末I、IIのサンプルを添加したヒト小腸上皮細胞はhBD-2のmRNAの発現レベルが著しく大きく、hBD-2の産生が誘導されていることがわかる。また、酒かす粉末I、IIは、加熱乾燥機で加熱乾燥し粉末化することで乳酸菌を除去したものであるため、図4図5に示すIL-12の産生誘導効果及びhBD-2の産生誘導効果への乳酸菌の影響によるものではないことは明らかである。
【0055】
以上、本発明の実施形態及び実施例を詳述してきたが、上記各実施形態及び実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記各実施形態及び実施例の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、酒かす、酒かす粉末又はこれらの抽出物を用いることで、ディフェンシン及びインターロイキンの産生を効果的に誘導することができるため、一般の飲食品や飲料品、健康食品、保健機能食品、保健機能飲料、栄養補助食品、栄養補助飲料、医薬部外品、医薬品等に適用することができる。また、感染防御や抗がん療法、免疫不全症の改善における臨床への応用が期待できる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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