(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】活性酸素消去剤、コラーゲン産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、シワ改善剤、医薬品又は内用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20241003BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241003BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20241003BHJP
A61K 36/65 20060101ALI20241003BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241003BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K36/65
A61P17/00
A61P43/00 111
C12N15/12 ZNA
C12N15/54
(21)【出願番号】P 2019225423
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀場 大生
(72)【発明者】
【氏名】足立 浩章
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160181(JP,A)
【文献】特開平11-279167(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0027851(KR,A)
【文献】特開2002-241299(JP,A)
【文献】特開2019-014709(JP,A)
【文献】Flower color diversity revealed by differential expression of flavonoid biosynthetic genes and flavonoid accumulation in herbaceous peony,Mol Biol Rep,2012年,Vol.39,pp.11263-11275
【文献】Degradative Action of Reactive Oxygen Species on Hyaluronan,Biomacromolecules,2006年,Vol.7,pp.659-668
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K36/00-36/05
A61K36/07-36/9068
A61P 1/00-43/00
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャクヤクの蕾部のエタノール抽出物を含有することを特徴とする、フリーラジカル捕捉除去作用による活性酸素消去剤。
【請求項2】
シャクヤクの蕾部の熱水又は水-エタノールの混合極性溶媒による抽出物を含有することを特徴とするI型コラーゲン産生促進剤。
【請求項3】
シャクヤクの蕾部の熱水又は水-エタノールの混合極性溶媒による抽出物を含有することを特徴とする、ヒアルロン酸合成酵素2の発現促進によるヒアルロン酸産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素消去作用、コラーゲン産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用に優れた新規な皮膚外用剤又は内用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は生体の最外層に位置し、紫外線等の影響により活性酸素が発生しやすい臓器であり、絶えずその酸素ストレスに曝されている。一方、皮膚細胞内には活性酸素消去酵素が存在しており、その能力を超える活性酸素が発生しないかぎり活性酸素の傷害から皮膚細胞を防衛している。ところが、皮膚細胞内の活性酸素消去酵素の活性は加齢と共に低下することが知られており、活性酸素による傷害がその防御反応を凌駕したとき、皮膚は酸化され、細胞機能が劣化して老化が進行すると考えられる。又、皮膚以外の臓器においても、その活性酸素消去能を越える活性酸素に曝されたとき、機能低下が起こり老化したり、ガンや心筋梗塞等様々な生活習慣病が発症したりすると考えられる。
【0003】
近年、生体内における活性酸素の生成とそれによって起こる様々な影響が報告されている。一般的に、この活性酸素はActivated oxygensと呼ばれ、O2
-、H2O2、・OH、1O2の4種に大別され、いずれも強力な殺菌作用を有し、生体の自己防衛に関与する重要な物質と捉えられている。例えば、細菌・ウイルス、異物等、抗原となるものが生体内に侵入すると、まず血液中の食細胞である好中球・単球・マクロファージが貪食作用を開始し、次に、食細胞の胞体中に貪食された異物類を溶解するために活性酸素が生産される。そして、生産された活性酸素は貪食物の溶解にあたる他、一方では、直接的に細菌・ウイルスや異物等の外敵に対して殺菌作用を及ぼし、外敵から防御する役割を果たしている。
【0004】
しかしながら、この自己防衛のための活性酸素も過剰に生産されると、正常な細胞までも刺激を受けることとなり、様々な傷害反応をもたらしてしまう。最近では、活性酸素によって誘発される疾患も数多く報告されている。そこで、活性酸素による傷害からの防御を目的として活性酸素消去剤や抗酸化剤が検討され、SODやカタラーゼ等の活性酸素消去酵素、SOD様活性物質等の活性酸素消去剤や抗酸化剤を含有した食品、化粧品、医薬部外品及び医薬品等が開発されている(特許文献1、2)。
【0005】
又、皮膚は紫外線の他にも、乾燥、寒冷、熱、薬物等の様々な物理的及び化学的ストレスに日々曝されている。その結果、皮膚の機能低下が引き起こされ、様々な皮膚の老化現象が顕在化する。皮膚の老化現象の一つにシワがある。シワには、表皮性のシワと、真皮性のシワの二種類が存在することが知られている。表皮性のシワは小ジワと呼ばれ、皮膚の乾燥により、表皮角質中の水分量が低下することによって一時的に生じるシワである。一方、真皮性のシワは、太陽光線に含まれる紫外線や加齢によって形成されるシワである。その形成メカニズムとしては、紫外線や加齢による真皮線維芽細胞におけるコラーゲン合成能の低下や、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の増加によるコラーゲンの分解促進が挙げられる。
【0006】
乾燥に起因する表皮性のシワと真皮性のシワでは、組織学的形態、発症メカニズム、治療方法が異なり、紫外線や加齢により生じる真皮性のシワは、保湿効果を有する化粧品の使用によって改善することは困難である。
【0007】
これまでに、紫外線によって生じる真皮性のシワを改善することを目的として、加水分解アーモンドを有効成分とする皮膚のシワ形成防止・改善剤(特許文献3)、ジョチョウケイ、テンキシ及びキセンウの抽出物を有効成分とする紫外線照射に起因するシワの改善剤(特許文献4)が報告されている。
【0008】
又、真皮には線維芽細胞やコラーゲンが存在し、I型コラーゲンが全体の80%を占める。I型コラーゲンの他には、III、V、XII及びXIV型コラーゲンの存在が知られている。シワやたるみの原因の一つとして、I型コラーゲンの減少が挙げられる。従って、I型コラーゲンの産生を促進させることがシワ・たるみの予防・改善に有効であると考えられる。又、I型コラーゲンの産生促進は皮膚の創傷治癒の改善にも有効である。
【0009】
又、線維芽細胞はコラーゲン等のタンパク質及びヒアルロン酸等のグリコサミノグリカンを産生して真皮結合組織を形成し、皮膚のハリを保っている。この結合組織が収縮力を失い、さらに弾力性を失う結果として皮膚のシワやたるみが発生すると考えられている。
【0010】
特にヒアルロン酸は結合組織に広く分布する高分子多糖体として知られており、真皮中でゲル状の形態を呈し、肌の弾力を維持している。従って、ヒアルロン酸の変質や減少が皮膚老化において重要であると考えられている。又、ヒアルロン酸は高分子であるため、それを含有した化粧料を皮膚に直接塗布しても吸収されにくいという問題があった。そこで、これまで、線維芽細胞を活性化することで、細胞自らのコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進させることができる皮膚外用剤が模索されてきた(特許文献6)。又、ヒアルロン酸は、関節にも存在しており、関節の荷重の衝撃を和らげたり、関節の動きを滑らかにしたりする機能を果たしていることが知られている。変形性関節炎、慢性関節リウマチ、化膿性関節炎、痛風性関節炎、外傷性関節炎及び骨関節炎等の関節疾患の場合は、関節液中のヒアルロン酸量が低下したり、加齢によって低下したりすることが知られている。このような関節疾患において、潤滑機能の改善、関節軟骨の被覆や保護、痛みの抑制及び病的関節液の改善もしくは正常化のために、関節液中のヒアルロン酸量を増加させることが有効であると考えられる。例えば、慢性関節リウマチ、外傷性関節炎、骨関節炎及び変形性関節炎の患者にヒアルロン酸ナトリウムの関節注入法を行うと上記症状の改善が認められることが知られている。しかし、これらの治療は長期にわたる。従って、日常生活の中で手軽に予防や治療などができるように、ヒアルロン酸産生促進剤を含有させた食品や医薬品が望まれている。
【0011】
飛蚊症とは、視界内に糸くずや蚊のように見える薄い影が現れる症状で、目の内部を満たす硝子体内の混濁が網膜上に影を落とすことで発生する。飛蚊症は大きく2種類に分けることができ、加齢や紫外線、活性酸素等の影響で発症する生理的飛蚊症と網膜剥離、網膜裂孔、硝子体出血、ぶどう膜炎等の疾患の一症状として現れる病的飛蚊症がある。生理的飛蚊症は、硝子体の主要成分であるヒアルロン酸の減少による液状化と、それに伴うコラーゲン線維の分解で硝子体内が混濁することで生じる。治療法として、硝子体切除手術やレーザー治療があるが、これらの施術は安全性の観点から日本ではあまり行われていないという実情があり、外国で治療を行うには多額の費用が必要となる。そのため、生理的飛蚊症を予防改善するためには日常的に利用可能なヒアルロン酸産生促進剤を含有させた食品や医薬品が望まれている。
【0012】
ボタン科ボタン属のシャクヤク(Paeonia lactiflora及びP.albiflora)は、その根部の抽出物がレプチン産生抑制作用を有すること(特許文献7)やコラーゲン産生促進作用を有すること(特許文献8)やヒアルロン酸産生促進作用を有すること(特許文献9)、その植物体の抽出物が近赤外線ダメージ抑制作用を有し皮膚外用剤に適用されること(特許文献10)、その花部の抽出物が抗糖化作用を有すること(特許文献11)や、活性酸素消去作用、エラスターゼ活性抑制作用、MMP-1阻害作用及びゼラチナーゼ活性抑制作用を有すること(特許文献12)が知られている。
【0013】
既にシャクヤクの花部の抽出物は、活性酸素消去作用を有することが知られている。しかしながら、シャクヤクの蕾部が花部よりも優れた活性酸素消去作用を有することは知られていなかった。又、シャクヤクの蕾部が、優れたコラーゲン産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用を有することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平9-118630号公報
【文献】特開平9-208484号公報
【文献】特開2000-119125号公報
【文献】特開2006-199611号公報
【文献】特開平3-44331号公報
【文献】特開2007-1924号公報
【文献】特開2005-126349号公報
【文献】特開2008-105984号公報
【文献】特開2008-105985号公報
【文献】特開2015-86183号公報
【文献】特開2017-88553号公報
【文献】特開2012-87112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
安全で安定性に優れ、活性酸素消去作用、コラーゲン産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用に優れた素材が望まれているが、未だ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような事情により、本発明者らは鋭意検討した結果、シャクヤクの蕾部の抽出物が花部の抽出物よりも優れた活性酸素消去作用、コラーゲン産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用を持ち、安定性・効率性においても優れていることを見出した。さらに、その抽出物を含有する外用剤又は内用剤が安全で安定であり、且つ活性酸素消去作用、コラーゲン産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用に優れており、多機能性美容・健康用素材・医薬品と成り得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1のシャクヤクの蕾部の抽出物の製造において、製造に使用したシャクヤクの蕾部(直径4cmの球形、雄蕊や雌蕊は見えないもの)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に用いるシャクヤクは、中国原産の多年生植物で、中国、韓国、日本等で栽培されている。草丈は50cm~80cmくらいになり、細長い紡錘形の多数の根をつける。初夏から晩夏にかけて、赤色や白色等の大型の花を咲かせる。
【0019】
本発明におけるシャクヤクの蕾部の抽出物とは、ボタン科ボタン属のシャクヤク(学名:P.lactiflora及びP.albiflora)の蕾部から抽出したものである。シャクヤクの蕾部は、未熟なものは球形をしており、成長とともに花弁や咢が開いてくる。本発明においては、花柄方向の上部からみて、直径が1cm~5cmの範囲のもので、未熟なものから、開花に近づいた状態のものまで、いずれの時期のものも使用できるが、直径が3cm~4cmの範囲のもので、花弁や雄蕊、雌蕊が完全に包まれていて外部からは見えない状態のものを使用するのが好ましい。特に好ましいのは直径が3cm~4cmのもので且つ球形である。その抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであってもよいし、常温抽出したものであってもよい。又、抽出には、蕾部をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0020】
抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、又は水と有機溶媒の混合溶媒を用い、撹拌又はカラム抽出する方法等により行うことができる。抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒がよく、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールがよい。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いてもよい。特に好ましい抽出溶媒としては、水、又は水-エタノール系の混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えばシャクヤクの蕾部(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。又、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類や抽出時の圧力等によって適宜選択できる。
【0021】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0022】
本発明は、上記抽出物をそのまま使用してもよく、抽出物の効果を損なわない範囲内で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は食品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤、甘味料、酸味料等の成分が含有されていてもよい。
【0023】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品、食品のいずれにも用いることができ、その剤形としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、錠菓、カプセル剤、チョコレート、ガム、飴、飲料、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、坐剤、注射用溶液等が挙げられる。
【0024】
外用の場合、本発明に用いる上記抽出物の含有量は、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001重量%~10重量%がより好ましい。さらに、0.01重量%~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を越えると、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0025】
内用の場合、摂取量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なる。通常、成人1人当たりの1日の摂取量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。さらに、20mg~2gが最も好ましい。
【0026】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、実験例及び処方例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。製造例に示す%とは重量%を、処方例に示す含有量の部とは重量部を示す。
【実施例1】
【0027】
シャクヤクの蕾部(直径4cmの球形、雄蕊や雌蕊は見えないもの(
図1))の抽出物の製造例
シャクヤクの蕾部の抽出物を以下の製造例1~4のとおり製造した。比較製造例1~4においては、抽出材料にはシャクヤクの花部を用いた。
【0028】
(製造例1)シャクヤクの蕾部の熱水抽出物の調製
シャクヤクの蕾部の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してシャクヤクの蕾部の熱水抽出物を3.6g得た。
【0029】
(比較製造例1)シャクヤクの花部の熱水抽出物の調製
製造例1において、シャクヤクの蕾部をシャクヤクの花部(完全に開いたもので雄蕊と雌蕊が見えるもの)に置き換えて得られた熱水抽出物を、シャクヤクの花部の熱水抽出物とした。
【0030】
(製造例2)シャクヤクの蕾部の50%エタノール抽出物の調製
シャクヤクの蕾部の乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してシャクヤクの蕾部の50%エタノール抽出物を3.0g得た。
【0031】
(比較製造例2)シャクヤクの花部の50%エタノール抽出物の調製
製造例2において、シャクヤクの蕾部をシャクヤクの花部に置き換えて得られた50%エタノール抽出物を、シャクヤクの花部の50%エタノール抽出物とした。
【0032】
(製造例3)シャクヤクの蕾部のエタノール抽出物の調製
シャクヤクの蕾部の乾燥物10gを200mLのエタノールに室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してシャクヤクの蕾部のエタノール抽出物を0.5g得た。
【0033】
(比較製造例3)シャクヤクの花部のエタノール抽出物の調製
製造例3において、シャクヤクの蕾部をシャクヤクの花部に置き換えて得られたエタノール抽出物を、シャクヤクの花部のエタノール抽出物とした。
【0034】
(製造例4)シャクヤクの蕾部の1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
シャクヤクの蕾部の乾燥物10gを200mLの1,3-ブチレングリコールに室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過してシャクヤクの蕾部の1,3-ブチレングリコール抽出物を189g得た。
【0035】
(比較製造例4)シャクヤクの花部の1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
製造例4において、シャクヤクの蕾部をシャクヤクの花部に置き換えて得られた1,3-ブチレングリコール抽出物を、シャクヤクの花部の1,3-ブチレングリコール抽出物とした。
【実施例2】
【0036】
(処方例1) 化粧水
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部の熱水抽出物(製造例1) 2.0
2.1,3-ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~6及び11と、成分7~10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0037】
(比較処方例1) 従来の化粧水
処方例1において、シャクヤクの蕾部の熱水抽出物を精製水に置き換えたものを、従来の化粧水とした。
【0038】
(処方例2) クリーム
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部の50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12.1,3-ブチレングリコール 8.5
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び11~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0039】
(比較処方例2) 従来のクリーム
処方例2において、シャクヤクの蕾部の50%エタノール抽出物を精製水に置き換えたものを、従来のクリームとした。
【0040】
(処方例3) 乳液
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部のエタノール抽出物(製造例3) 0.01
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分10~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分9を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0041】
(処方例4) ゲル剤
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部の1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4)1.0
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 適量
6.1,3-ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~5と、成分1及び6~11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0042】
(処方例5) パック
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部の熱水抽出物(製造例1) 1.0
2.シャクヤクの蕾部の1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4)5.0
3.ポリビニルアルコール 12.0
4.エタノール 5.0
5.1,3-ブチレングリコール 8.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
7.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
8.クエン酸 0.1
9.クエン酸ナトリウム 0.3
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~11を均一に溶解し製品とする。
【0043】
(処方例6) ファンデーション
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部の50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.ステアリン酸 2.4
3.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.) 1.0
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0
5.セタノール 1.0
6.液状ラノリン 2.0
7.流動パラフィン 3.0
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
9.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
10.ベントナイト 0.5
11.プロピレングリコール 4.0
12.トリエタノールアミン 1.1
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.二酸化チタン 8.0
15.タルク 4.0
16.ベンガラ 1.0
17.黄酸化鉄 2.0
18.香料 適量
19.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~8を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分19に成分9をよく膨潤させ、続いて、成分1及び10~13を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した成分14~17を加え、ホモミキサーで撹拌し75℃に保ち水相とする。油相に水相をかき混ぜながら加え、乳化する。その後、冷却し、45℃で成分18を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0044】
(処方例7) 浴用剤
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部のエタノール抽出物(製造例3) 1.0
2.炭酸水素ナトリウム 50.0
3.黄色202号(1) 適量
4.香料 適量
5.硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製造方法]成分1~5を均一に混合し製品とする。
【0045】
(処方例8) 軟膏
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部の熱水抽出物(製造例1) 5.0
2.シャクヤクの蕾部の1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4)1.0
3.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0
4.モノステアリン酸グリセリン 10.0
5.流動パラフィン 5.0
6.セタノール 6.0
7.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
8.プロピレングリコール 10.0
9.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分3~6を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1、2及び7~9を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0046】
(処方例9) 散剤
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部の熱水抽出物(製造例1) 1.0
2.乾燥コーンスターチ 39.0
3.微結晶セルロース 60.0
[製造方法]成分1~3を混合し、散剤とする。
【0047】
(処方例10) 錠剤
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部のエタノール抽出物(製造例3) 5.0
2.乾燥コーンスターチ 25.0
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20.0
4.微結晶セルロース 40.0
5.ポリビニルピロリドン 7.0
6.タルク 3.0
[製造方法]成分1~4を混合し、次いで成分5の水溶液を結合剤として加えて顆粒成型する。成型した顆粒に成分6を加えて打錠する。1錠0.52gとする。
【0048】
(処方例11) 錠菓
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部のエタノール抽出物(製造例3) 2.0
2.乾燥コーンスターチ 49.8
3.エリスリトール 40.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
6.香料 0.1
7.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~4及び7を混合し、顆粒成型する。成型した顆粒に成分5及び6を加えて打錠する。1粒1.0gとする。
【0049】
(処方例12) 飲料
処方 含有量(部)
1.シャクヤクの蕾部の熱水抽出物(製造例1) 0.05
2.ステビア 0.05
3.リンゴ酸 5.0
4.香料 0.1
5.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2及び3を少量の水に溶解する。次いで、成分1、4及び5を加えて混合する。
【0050】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【実施例3】
【0051】
実験例1 活性酸素消去作用
フリーラジカル捕捉除去作用の評価を行った。フリーラジカルのモデルとしては、安定なフリーラジカルであるα,α-ジフェニル-β-ピクリルヒドラジル(以下DPPHとする)を用い、試料と一定の割合で一定時間反応させ、減少するラジカルの量を波長517nmの吸光度の減少量から測定した。
【0052】
フリーラジカル捕捉除去作用の測定方法
各試料を、終濃度1~15μg/mLとなるように加えた1.0M酢酸緩衝液(pH5.5)2mLに無水エタノール2mL及び0.5mM DPPH無水エタノール溶液1mLを加えて反応液とした。又、油溶性の試料の場合は無水エタノール2mLに試料を加えて反応液とした。その後、37℃で30分間反応させ、水を対照として波長517nmの吸光度(A)を測定した。又、ブランクとして試料の代わりに精製水を用いて吸光度(B)を測定した。フリーラジカル捕捉除去率は、以下に示す式より算出した。
フリーラジカル捕捉除去率(%)=(1-A/B)×100
【0053】
各試料の試験結果から、50%のフリーラジカル捕捉除去に必要とされる濃度(以下IC
50とする)を算出した。より低いIC
50値が、より強力な活性酸素消去剤に対応する。これらの試験結果を表1に示した。本発明のシャクヤクの蕾部のエタノール抽出物(製造例3)は、安定で優れたフリーラジカル捕捉除去作用を有した。又、シャクヤクの花部のエタノール抽出物(比較製造例3)と比較して、2倍以上も優れたフリーラジカル捕捉除去作用を有していることが認められた。
【表1】
【0054】
実験例2 I型コラーゲン(COL1A1)及びヒアルロン酸合成酵素2(HAS2) mRNA発現量の測定
ヒト線維芽細胞NB1RGBを60mm dishに1×105個播種し、コンフルエントになった時点で、終濃度が1μg/mLになるように試料を添加した。コントロールには、試料を希釈した溶媒を添加した。24時間培養後、総RNAの抽出を行った。細胞からの総RNAの抽出はRNAiso Plus(タカラバイオ)を用いて行い、総RNA量は分光光度計(NanoDrop)を用いて260nmにおける吸光度により求めた。mRNA発現量の測定は、細胞から抽出した総RNAを基にしてリアルタイムRT-PCR法により行った。リアルタイムRT-PCR法には、High Capacity RNA-to-cDNA Kit(アプライドバイオシステムズ)及びSYBR Select Master Mix(ライフテクノロジーズ)を用いた。すなわち、500ngの総RNAを逆転写反応後、PCR反応(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を行った。その他の操作は定められた方法に従い、COL1A1及びHAS2 mRNAの発現量を、内部標準であるGAPDH mRNAの発現量に対する割合として求めた。COL1A1発現率は、コントロールのCOL1A1 mRNAの発現量に対する試料添加群のCOL1A1 mRNAの発現量の比率として算出した。HAS2発現率についても、同様に算出した。尚、各遺伝子の発現量の測定に使用したプライマーは次の通りである。
【0055】
COL1A1用のプライマーセット
AGGACAAGAGGCATGTCTGGTT(配列番号1)
TTGCAGTGGTAGGTGATGTTCTG(配列番号2)
HAS2用のプライマーセット
TGGATGACCTACGAAGCGATTA(配列番号3)
GCTGGATTACTGTGGCAATGAG(配列番号4)
GAPDH用のプライマーセット
TGCACCACCAACTGCTTAGC(配列番号5)
TCTTCTGGGTGGCAGTGATG(配列番号6)
【0056】
これらの実験結果を表2~3に示した。その結果、本発明のシャクヤクの蕾部の抽出物には、優れたCOL1A1発現促進効果(コラーゲン産生促進作用)及びHAS2発現促進効果(ヒアルロン酸産生促進作用)が認められた。又、シャクヤクの花部の抽出物(比較製造例1~2)と比較して、顕著に優れたコラーゲン産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用を有していることが認められた。
【0057】
【0058】
【0059】
実験例2 使用試験
処方例1の化粧水及び比較処方例1の従来の化粧水を用いて、シワ、たるみがある5人(25~65才)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。使用後、シワ、たるみの程度をアンケートにより判定した。
【0060】
その結果、本発明の抽出物を含有する皮膚外用剤により、シワ、たるみが軽減した。尚、試験期間中、皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題なかった。又、処方成分の劣化についても問題なかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のことから、本発明のシャクヤクの蕾部の抽出物は、優れた活性酸素消去作用、コラーゲン産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用を有し、安定性にも優れていた。よって、本発明のシャクヤクの蕾部の抽出物は、皮膚の老化といった美容分野だけでなく、老化による機能低下の抑制といった医療分野にも利用でき、食品、化粧品、医薬部外品及び医薬品等への応用が期待される。
【配列表】