(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ステッピングモータの駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 8/12 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H02P8/12
(21)【出願番号】P 2022160687
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2020152888の分割
【原出願日】2020-09-11
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】596069542
【氏名又は名称】株式会社旭エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【氏名又は名称】中村 智廣
(74)【代理人】
【識別番号】100108925
【氏名又は名称】青谷 一雄
(74)【代理人】
【識別番号】100186026
【氏名又は名称】三原 研自
(72)【発明者】
【氏名】大内 正之
(72)【発明者】
【氏名】田村 強
(72)【発明者】
【氏名】山口 政典
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/132115(WO,A1)
【文献】特開平06-335292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指令情報に基づいて
ステッピングモータを駆動する励磁シーケンスを生成し、前記励磁シーケンスに基づいて前記ステッピングモータの複数の巻線に励磁電流として通電して駆動
するステッピングモータの駆動装置において、
前記励磁シーケンスを規格化された値として生成する励磁シーケンス生成手段と、
前記励磁シーケンス生成手段が生成する
規格化された前記励磁シーケンスが一方に入力され、他方に入力される信号であって前記励磁電流の電流設定値を決定する信号と乗算処理を行う乗算部と、
前記乗算部から出力される乗算処理後の前記励磁シーケンスに応じて前記ステッピングモータの各巻線に通電する励磁電流を制御する手段であって、出力端子毎に2つの
電流制御素子を有する出力部と、前記2つの
電流制御素子を駆動する駆動回路と、前記出力部から前記ステッピングモータの各巻線に流れる
前記励磁電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部の検出信号に基づいて前記ステッピングモータの各巻線に通電される
前記励磁電流の電流値が前記乗算部から
出力される乗算処理後の前記励磁シーケンスと等しくなるよう前記駆動回路を制御する電流制御回路とを有する電流制御出力手段と、
負荷の駆動に必要な必要トルクが一定の条件下で前記ステッピングモータを一定の励磁電流で駆動したとき、予め定められた回転数以下では出力トルクが前記必要トルクを上回
るのを抑制して前記出力トルクを一定に維持するように、前記励磁電流の電流設定値を決定する信号を前記ステッピングモータの回転数に応じて変更する変更手段と、
を備えるステッピングモータの駆動装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記励磁電流の
電流設定値を一定として前記ステッピングモータの回転数を変化させた場合における前記ステッピングモータのトルク変動に基づいて前記ステッピングモータの回転数に対する前記励磁電流の
電流設定値が決定される請求項1に記載のステッピングモータの駆動装置。
【請求項3】
前記変更手段は、前記ステッピングモータの駆動時における前記励磁電流の
電流設定値を停止時と同じ値か停止時よりも大きな値に変更する請求項2に記載のステッピングモータの駆動装置。
【請求項4】
前記変更手段は、前記ステッピングモータの回転数に対する前記励磁電流の
電流設定値の関係を予め記憶したテーブルを有する請求項1に記載のステッピングモータの駆動装置。
【請求項5】
前記指令情報に基づいて前記ステッピングモータの指令回転数を検出する検出手段を備える請求項1に記載のステッピングモータの駆動装置。
【請求項6】
前記変更手段は、前記検出手段の検出結果に基づいて前記励磁電流の
電流設定値を変更する請求項5に記載のステッピングモータの駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッピングモータの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステッピングモータは、精密・光学計測機器分野、半導体製造装置機器分野、OA・コンピュータ周辺機器分野、航空宇宙機器分野、バイオ・医療機器分野、FA機器分野、レーザー通信機器分野、環境機器分野など幅広い分野で使用されている。
【0003】
これらの技術分野の中でも特に、ステッピングモータは、分析装置や半導体製造装置などの高精度な位置制御が求められる機器の駆動源として用いられる。高精度な位置制御が求められる機器である分析装置の一例では、試料を搭載した試料テーブルをX方向、Y方向及びZ方向へ三次元的に移動させ、更には試料テーブルを回転や傾斜させて、試料テーブルに載置された試料に電磁波(光)を照射し、試料が反射、透過、吸収する際、波の強さが変化したり、あるいは別の電磁波(光)を発する時に検出器で検出することで目的の機能が実現可能となる。
かかる分析装置は、ステッピングモータの回転軸をボールネジ等からなるネジ機構部を介して試料テーブルに連結し、ステッピングモータを回転駆動させることにより試料テーブルをX方向、Y方向及びZ方向などに移動させると共に、所望の停止位置を保持するよう構成されている。
【0004】
従来、分析装置や半導体製造装置に適用されるステッピングモータの駆動装置は、ステッピングモータの停止時における発熱を抑制するため、当該ステッピングモータの励磁電流を駆動時と停止時で異ならせ且つ停止時の電流値を駆動時の電流値より減少させる所謂“停止時カレントダウン機能”を備えている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、ステッピングモータの励磁電流を駆動時と停止時で異ならせた場合には、ステッピングモータの駆動時における発熱量と停止時における発熱量が異なり、停止後のステッピングモータの温度が駆動時の温度に対して変動(低下)する。そのため、ステッピングモータによりネジ機構部を介して試料テーブルを移動させて位置決めを行う分析装置などの高精度な位置制御が求められる機器では、ステッピングモータの停止中に当該ステッピングモータの温度変化に起因したネジ機構部等の熱収縮により試料を載置した試料テーブルの位置がずれる、所謂試料ドリフト(specimen drift)が発生するという技術的課題を有していた。
また、従来、ステッピングモータの駆動装置は、ステッピングモータの回転数にかかわらず、ステッピングモータに通電する励磁電流の電流値を一定に設定して当該ステッピングモータを回転駆動するよう構成されている。
しかしながら、ステッピングモータの励磁電流の値を一定に設定して当該ステッピングモータを回転駆動すると、
図12に示されるように、ステッピングモータの回転数に応じて出力トルクが変動する(特許文献2)。
このように、従来のステッピングモータの駆動装置では、ステッピングモータの回転数に応じて発生トルクが変動するが、当然のことながら、ステッピングモータの励磁電流の値は、当該ステッピングモータに要求される出力トルクを上回るよう設定される。そのため、ステッピングモータに要求される出力トルクを上回る励磁電流が無駄に費消され、ステッピングモータの不本位な温度上昇等を招くという技術的課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-111684号公報([0004])
【文献】特開2007-185052号公報([
図2]等))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ステッピングモータの励磁電流を一定値とした場合に比較して、励磁電流が無駄に費消されるのを抑制するとともに、ステッピングモータの出力トルクを一定に維持することが可能なステッピングモータの駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明は、指令情報に基づいてステッピングモータを駆動する励磁シーケンスを生成し、前記励磁シーケンスに基づいて前記ステッピングモータの複数の巻線に励磁電流として通電して駆動するステッピングモータの駆動装置において、
前記励磁シーケンスを規格化された値として生成する励磁シーケンス生成手段と、
前記励磁シーケンス生成手段が生成する規格化された前記励磁シーケンスが一方に入力され、他方に入力される信号であって前記励磁電流の電流設定値を決定する信号と乗算処理を行う乗算部と、
前記乗算部から出力される乗算処理後の前記励磁シーケンスに応じて前記ステッピングモータの各巻線に通電する励磁電流を制御する手段であって、出力端子毎に2つの電流制御素子を有する出力部と、前記2つの電流制御素子を駆動する駆動回路と、前記出力部から前記ステッピングモータの各巻線に流れる前記励磁電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部の検出信号に基づいて前記ステッピングモータの各巻線に通電される前記励磁電流の電流値が前記乗算部から出力される乗算処理後の前記励磁シーケンスと等しくなるよう前記駆動回路を制御する電流制御回路とを有する電流制御出力手段と、
負荷の駆動に必要な必要トルクが一定の条件下で前記ステッピングモータを一定の励磁電流で駆動したとき、予め定められた回転数以下では出力トルクが前記必要トルクを上回るのを抑制して前記出力トルクを一定に維持するように、前記励磁電流の電流設定値を決定する信号を前記ステッピングモータの回転数に応じて変更する変更手段と、
を備えるステッピングモータの駆動装置である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、前記変更手段は、前記励磁電流の電流設定値を一定として前記ステッピングモータの回転数を変化させた場合における前記ステッピングモータのトルク変動に基づいて前記ステッピングモータの回転数に対する前記励磁電流の電流設定値が決定される請求項1に記載のステッピングモータの駆動装置である。
【0010】
請求項3に記載された発明は、前記変更手段は、前記ステッピングモータの駆動時における前記励磁電流の電流設定値を停止時と同じ値か停止時よりも大きな値に変更する請求項2に記載のステッピングモータの駆動装置である。
【0011】
請求項4に記載された発明は、前記変更手段は、前記ステッピングモータの回転数に対する前記励磁電流の電流設定値の関係を予め記憶したテーブルを有する請求項1に記載のステッピングモータの駆動装置である。
【0012】
請求項5に記載された発明は、前記指令情報に基づいて前記ステッピングモータの指令回転数を検出する検出手段を備える請求項1に記載のステッピングモータの駆動装置である。
【0013】
請求項6に記載された発明は、前記変更手段は、前記検出手段の検出結果に基づいて前記励磁電流の電流設定値を変更する請求項5に記載のステッピングモータの駆動装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ステッピングモータの励磁電流を一定値とした場合に比較して、励磁電流が無駄に費消されるのを抑制するとともに、ステッピングモータの出力トルクを一定に維持することが可能なステッピングモータの駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の参考実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置を示すブロック図である。
【
図2】本発明の参考実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【
図3】本発明の参考実施の形態1に係る励磁電流生成部が生成するステッピングモータの励磁電流のシーケンスを示すグラフである。
【
図4】ステッピングモータを一定の励磁電流で駆動した場合における発熱量を示すグラフである。
【
図5】本発明の参考実施の形態1に係るステッピングモータの巻線を示す等価回路図である。
【
図6】本発明の参考実施の形態1に係るステッピングモータの励磁電流を駆動回転数に応じて設定するテーブルを示す図表である。
【
図7】本発明の参考実施の形態1に係るステッピングモータの励磁電流のシーケンスを駆動回転数に応じて変化させた状態を示すグラフである。
【
図8】本発明の参考実施の形態1に係るステッピングモータの回転数に対する励磁電流を示すグラフである。
【
図9】本発明の参考実施の形態1に係るステッピングモータの回転数と温度上昇との関係を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置を示すブロック図である。
【
図12】従来のステッピングモータの駆動装置におけるステッピングモータの回転数と発生トルクとの関係を示すグラフである。
【
図13】本発明の実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置におけるステッピングモータの回転数と励磁電流との関係を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置におけるステッピングモータの回転数と出力トルクとの関係を示すグラフである。
【
図16】本発明の実施の形態1に係るステッピングモータの回転数に対する励磁電流を示すグラフである。
【
図17】本発明の実施の形態1に係るステッピングモータの回転数と出力トルクとの関係を示すグラフである。
【
図18】本発明の実施の形態1に係るステッピングモータの励磁電流を設定するテーブルを示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
[参考実施の形態1]
図1は、本参考実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置を示すブロック図である。
【0018】
本参考実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1は、指令周波数弁別電流設定機能を備えたバイポーラ定電流方式の駆動装置(ドライバ)である。すなわち、このステッピングモータの駆動装置1は、ステッピングモータ2を回転駆動する指令信号の周波数を弁別して当該指令周波数に応じてステッピングモータ2を駆動する励磁電流を個別に設定(変更)する機能を備えている。
【0019】
制御対象としてのステッピングモータ2は、ハイブリッド型やバリアブルレラクタンス型(VR型)、あるいは永久磁石型(PM型)などいずれの方式のものであっても良い。ステッピングモータ2は、用途に応じて、2相巻線型や3相巻線型、あるいは6相巻線型など種々の相数の巻線を備えたものを採用することができる。例えば、5相巻線型のステッピングモータ2は、2相巻線型のステッピングモータ2と比較して、駆動装置1の構成がやや複雑となるものの、1パルス当たりの回転角である分解能を大幅に高く設定することが可能である。
【0020】
ステッピングモータ2は、例えば、ボールネジ等からなるネジ機構部(駆動力伝達機構)を介して駆動対象である試料テーブルに連結され、当該試料テーブルをX方向、Y方向及びZ方向へ三次元的に移動させ、更には試料テーブルを回転や傾斜させて位置決めを行う分析装置や半導体製造装置など高精度な位置制御が要求される機器の駆動源として使用される。ただし、ステッピングモータ2の用途は、分析装置や半導体製造装置などに限定されるものではなく、他の種々の機器に適用することができることは勿論である。本実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1は、特に、ステッピングモータ2の発熱に伴う熱的な影響が問題となる機器に対して好適に使用される。
【0021】
ところで、5相巻線のステッピングモータ2を駆動する本実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置(ドライバ)1は、
図1に示されるように、大別して、入力部10と、励磁シーケンス生成部20と、電流制御及び出力部30を備えている。
【0022】
図1は、ステッピングモータの駆動装置1を示すブロック図である。ステッピングモータの駆動装置1は、単一又は複数のIC(Integrated Circuit)やLSI(Large-scale Integration)、あるいはこれらと論理回路やA/D変換器等の組み合わせなどによって構成することができる。
【0023】
ステッピングモータの駆動装置1は、例えば、入力部10と励磁シーケンス生成部20が1つの駆動ICで構成され、残りの電流制御及び出力部30が他の1つの駆動ICで構成される。
【0024】
また、ステッピングモータの駆動装置1は、入力部10と、励磁シーケンス生成部20と、電流制御及び出力部30のすべてが1つの駆動ICで構成される。
【0025】
入力回路11には、ステッピングモータ2によって駆動される対象となる機器である駆動対象機器の制御装置であるコントローラ40から出力される指令情報の一例としての指令パルス12が入力される。指令パルス12は、例えば、ステッピングモータ2を時計回り方向(CW)に回転駆動(正転)させる第1の指令パルス12aと、ステッピングモータ2を反時計回り方向(CCW)に回転駆動(逆転)させる第2の指令パルス12bからなる。指令パルス12は、回転方向及び回転速度を含む第1及び第2の指令パルス12a,12bの代わりに、回転速度を示す指令パルスと回転方向を示す指令レベル信号の組み合わせや、第1及び第2の指令パルス12a,12b以外に、励磁シーケンスを設定する信号やリセット信号など他の種々の信号を含んでも良い。
【0026】
指令パルス12からなる速度指令は、例えば、コントローラ40から停止状態にあるステッピングモータ2を起動した後、所望の周期からなる指令パルス12により所要の回転方向に所要の回転速度で回転駆動して回転速度(回転数)を徐々に加速(増加)させると共に回転速度が所要の値に達すると当該回転速度を維持(定速駆動)し、更に回転速度を徐々に減速(低下)させると共に回転速度が所要の値まで低下するとステッピングモータ2を停止させ当該停止状態を維持するよう出力される。その際、ステッピングモータ2の回転速度は、指令パルス12の周期(周波数)に基づいて増減される。なお、指令パルス12からなる速度指令は、任意であり、定速駆動を経由することなく減速又は増速等を行っても良いことは勿論である。また、指令パルス12からなる速度指令は、ステッピングモータ2の回転速度を直線状に変化させるものに限らず、曲線状に加速又は減速するものであっても良い。
【0027】
入力回路11は、コントローラ40から入力される第1の指令パルス12a及び第2の指令パルス12bを波形整形した後、波形整形された第1の指令パルス12a及び第2の指令パルス12bを励磁シーケンス生成部20に出力する。入力回路11は、例えば、複数のフリップフロップ回路や、AND回路、インバータ回路、NAND回路などから構成される。
【0028】
励磁シーケンス生成部20は、
図1に示されるように、例えば、マイクロコンピュータから構成されている。マイクロコンピュータから構成される励磁シーケンス生成部20は、入力インターフェイス201と、CPU(Central Processing Unit)202と、ROM(Read Only Memory)203と、RAM(Random Access Memory)204と、出力インターフェイス205と、これらを互いに接続するバス206を備えている。
【0029】
CPU202は、ROM203に予め記憶されたプログラムに基づいてRAM204に随時記憶されるパラメータ等を参照しつつステッピングモータ2の回転駆動を制御する。
【0030】
図2はマイクロコンピュータから構成される励磁シーケンス生成部20及び電流制御及び出力部30を機能毎のブロックに分割して示したブロック図である。
【0031】
励磁シーケンス生成部20は、大別して、アップダウンカウンタ21と、生成手段の一例としての励磁電流生成部22と、検出手段の一例としての入力周波数計測カウンタ23と、変更手段の一例としてのテーブル参照部24と、乗算部25とを備えている。
【0032】
アップダウンカウンタ21は、第1の指令パルス12a及び第2の指令パルス12bをカウント(計数)するカウンタである。アップダウンカウンタ21は、例えば、カウントの最大値で“0”にリセットされるリングカウンタから構成される。いま、基本ステップ角が0.72degのステッピングモータ2をフルステップ(0.72deg/ステップ)で駆動する場合には、アップダウンカウンタ21の最小値は“0”で、最大値は“9”に設定される。この場合、ステッピングモータ2は、500パルス(0.72deg×500=360deg)で1回転だけ駆動される。すなわち、アップダウンカウンタ21は、500/10=50回(周期)だけリセットされることになる。
【0033】
同じく基本ステップ角が0.72degのステッピングモータ2を100,000パルス/回転(100,000/500=200)でマイクロステップ駆動する場合には、アップダウンカウンタ21の最小値は“0”で、最大値は“1,999”に設定される。この場合、ステッピングモータ2は、100,000パルス(0.0036deg×100,000=360deg)で1回転だけ駆動される。すなわち、アップダウンカウンタ21は、100,000/2000=50回(周期)だけリセットされることになる。
【0034】
アップダウンカウンタ21は、ステッピングモータ2に求められる所定の分解能に応じてその最大値を任意に設定出来るプリセット式のものである。本実施の形態1では、例えば、ステッピングモータ2を500パルスで1回転だけ駆動させる場合は、アップダウンカウンタの最大値を9とし、ステッピングモータ2を高分解能(例えば、100,000パルスで1回転)で駆動したい場合は、アップダウンカウンタの最大値を1,999に変更することにより実現出来る。
【0035】
アップダウンカウンタ21は、第1の指令パルス12aをカウントアップし、第2の指令パルス12bをカウントダウンする。アップダウンカウンタ21は、カウントアップ又はカウントダウンの結果であるカウント値を励磁電流生成部22に出力する。
【0036】
励磁電流生成部22は、アップダウンカウンタ21のカウント値に対応して
図3に示されるようなステッピングモータ2の各相の巻線に通電する励磁電流データからなる駆動信号の一例としての励磁シーケンス70
1,70
2,70
3・・・70
5を生成する。
図3はアップダウンカウンタ21の最小値が“0”で、最大値が“1,999”に設定された場合において励磁電流生成部22が生成する励磁シーケンスを示すタイミングチャートである。
【0037】
各相の励磁シーケンス70
1,70
2,70
3・・・70
5は、
図3に示されるように、ステッピングモータ2をマイクロステップ駆動するよう当該ステッピングモータ2の第1相から第5相の各巻線に通電する電流データを最大値及び最小値が“+1”及び“-1”となるよう規格化したものである。
図3に示される各相の励磁シーケンスは、例えば、予めROM203に記憶されており、ステッピングモータ2を駆動する際にROM203から読み出されてRAM204に一時的に記憶される。
【0038】
なお、各相の励磁シーケンス70
1,70
2,70
3・・・70
5としては、
図3に示されるように、台形波に限定されるものではなく、正弦波や矩形波などから構成しても良い。
【0039】
励磁電流生成部22から出力された励磁シーケンス70
1,70
2,70
3・・・70
5は、
図2に示されるように、乗算部25を介して
図7に示される励磁シーケンス80
1,80
2,80
3・・・80
5となって第1相乃至第5相に対応した各相の電流制御及び出力部30に入力される。
【0040】
各相の電流制御及び出力部30は、ステッピングモータ2の各相の巻線に対応して複数(図示例では、5つ)設けられている。各相の電流制御及び出力回路30は、例えば、定電流制御回路として構成されている。各相の電流制御及び出力回路30は、D/Aコンバータ31と、電流制御回路32と、トランジスタ駆動回路33と、直列に接続された2つのトランジスタからなるハーフブリッジ回路34と、電流検出抵抗35と、電流検出アンプ36を備える。
【0041】
D/Aコンバータ31は、励磁シーケンス生成部20の励磁電流生成部22から乗算部25を介して出力される励磁シーケンス801,802,803・・・805をアナログ信号に変換する。
【0042】
電流制御回路32は、D/Aコンバータ31によってアナログ信号に変換された励磁シーケンス801,802,803・・・805に基づいて、ステッピングモータ2の各相の巻線に通電する励磁電流Iの電流値が所要の値となるよう2つの電流制御素子としての第1及び第2のトランジスタTr1,Tr2からなるハーフブリッジ回路34を制御する信号を出力する。
【0043】
トランジスタ駆動回路33は、電流制御回路32から出力される制御信号に基づいて第1及び第2のトランジスタTr1,Tr2からなるハーフブリッジ回路34を相補的に駆動する信号を出力する。つまり、トランジスタ駆動回路33は、第1のトランジスタTr1をオン状態とする場合、第2のトランジスタTr2をオフ状態とし、第1のトランジスタTr1をオフ状態とする場合、第2のトランジスタTr2をオン状態とするよう第1及び第2のトランジスタTr1,Tr2からなるハーフブリッジ回路34をオンオフ駆動する。
【0044】
第1のトランジスタTr1のコレクタは、例えば、24Vの直流電源からなる正極のモータ電源+に接続されている。一方の第2のトランジスタTr2のエミッタは、接地電位(0V)に設定された負極のモータ電源-に接続されている。
【0045】
ハーフブリッジ回路34の第1のトランジスタTr1のエミッタと第2のトランジスタTr2のコレクタの接続点は、電流検出抵抗35を介してステッピングモータ2の対応する巻線にそれぞれ接続されている。
【0046】
電流検出抵抗35の両端の電位差によって検出された励磁電流の電流値は、電流検出アンプ36によって検出され、アナログ値として電流制御回路32に入力される。
【0047】
電流制御回路32は、電流検出アンプ36からの検出信号に基づいて、ステッピングモータ2の対応する巻線に通電される励磁電流の電流値がD/Aコンバータ31によってアナログ信号に変換された励磁シーケンス801,802,803・・・805で指定された値と等しくなるようトランジスタ駆動回路33に出力する制御信号の値を制御する。
【0048】
ところで、上記のごとく構成されるステッピングモータの駆動装置1によって駆動されるステッピングモータ2は、
図4に示されるように、各相の巻線に流れる励磁電流Iの電流値を一定に制御すると、従来のステッピングモータの駆動装置と同様であり、当該ステッピングモータ2によって駆動される負荷が一定の場合であっても、ステッピングモータ2の単位時間あたりの回転数に応じて発熱量が変化する。
【0049】
ステッピングモータ2の停止時は、
図5のステッピングモータ2の等価回路に示されるように、ステッピングモータ2の巻線に流れる電流に起因した抵抗成分Rによる発熱(銅損)のみである。これに対して、ステッピングモータ2は、回転を開始すると(回転時)、励磁電流Iによる磁気変化に起因した巻線のインダクタンス成分Lによる発熱(鉄損)が加わりトータルの発熱量は増加する傾向がある。また、ステッピングモータ2は、回転数が所要の回転数より高くなると、巻線のインピーダンス(ωL)が増加して電流が減少する。そのため、ステッピングモータ2の発熱量は、回転数が所要の回転数より高くなると、電流の減少に伴って銅損による発熱も鉄損による発熱も共に少なくなり、発熱量が低下する。
【0050】
このように、ステッピングモータ2は、負荷が一定であっても、一定の励磁電流で駆動すると、停止時と駆動時とでステッピングモータ2の発熱量が変化する。また、ステッピングモータ2は、停止時の発熱量を抑制するため、停止時の電流値を駆動時と異ならせる(減少させる)と、ステッピングモータ2の停止時の発熱量と駆動時の発熱量の差が更に大きくなり、停止後のステッピングモータ2の温度が駆動時の温度に比較して大幅に低下する。そのため、ステッピングモータ2によりネジ機構部を介して試料テーブルを移動させて試料の位置決めを行う分析装置などの機器では、ステッピングモータ2の停止中に当該ステッピングモータ2の温度変化に起因した熱収縮により試料を載置した試料テーブルの位置ずれる所謂試料ドリフト(specimen drift)が発生する。
【0051】
そこで、本参考実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1は、
図2に示されるように、生成手段としての励磁電流生成部22が生成する励磁電流をステッピングモータ2の発熱量が変動するのを抑制するよう少なくともステッピングモータ2の回転数に応じて変更する変更手段を備えるように構成されている。
【0052】
すなわち、本参考実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1は、
図2に示されるように、指令パルス12に基づいてステッピングモータ2の回転数を検出する検出手段の一例としての入力周波数計測カウンタ23と、入力周波数計測カウンタ23によって計測されたステッピングモータ2を回転駆動させる指令パルス12の周波数(回転数)に基づいてステッピングモータ2に通電する励磁電流の電流値を変更する変更手段の一例としてのテーブル参照部24及び乗算部25を備えている。
【0053】
入力周波数計測カウンタ23は、入力回路11から出力される指令パルス12に基づいて、当該指令パルス12の入力周波数を計測する。入力周波数計測カウンタ23は、入力回路11から出力される指令パルス12を一定時間(例えば、1msec)だけカウントすることにより、指令パルス12の周波数を計測する。
【0054】
いま、入力周波数計測カウンタ23は、一定時間として1msecあたりの指令パルス12のカウント数を“100”とすると、1secあたりの指令パルス12のカウント数は、100,000となる。
【0055】
本参考実施の形態1では、ステッピングモータ2をマイクロステップ駆動により低速駆動する場合、ステッピングモータ2は、100,000パルスの指令パルス12によって1回転することになる。つまり、当該指令パルス12によるステッピングモータ2の回転数は、1(rps)となる。同様に、入力周波数計測カウンタ23の1msecあたりの指令パルス12のカウント数を“200”とすると、当該指令パルス12によるステッピングモータ2の回転数は、2(rps)となる。
【0056】
テーブル参照部24は、
図6に示されるように、入力周波数計測カウンタ23から出力される指令パルス12の入力周波数に基づいて、ROM203等に予め記憶された指令パルス12の入力周波数に応じた回転数と電流設定値の関係を示すテーブルを参照して、励磁電流の電流設定値を決定して当該電流設定値に対応した信号を乗算部25に出力する。
【0057】
本参考実施の形態1では、励磁電流生成部22から出力される励磁シーケンスの電流値が1に規格化されている。そのため、テーブル参照部24は、
図6に示されるように、入力周波数計測カウンタ23から出力される指令パルス12の入力周波数に対応した目標とする電流値をそのまま出力するよう設定されている。
【0058】
乗算部25は、励磁電流生成部22から出力される励磁シーケンス701,702,703・・・705に対して、テーブル参照部24で参照された励磁電流の電流設定値を乗算して各相の電流制御及び出力部30に出力する。
【0059】
テーブル参照部24は、
図4に示されるように、ステッピングモータ2の負荷が一定の条件下で、ステッピングモータ2を駆動する励磁電流Iの電流値を一定として当該ステッピングモータ2の回転数を変化させた場合の発熱量特性に基づいて、励磁電流Iの電流値を決定している。
【0060】
更に説明すると、本参考実施の形態1では、後述するように、負荷が一定の条件下において、ステッピングモータ2を一定の励磁電流Iで回転駆動した際における当該ステッピングモータ2の発熱量を実験により測定している。そして、ステッピングモータ2の発熱量が一定となるよう当該ステッピングモータ2に通電する励磁電流Iの電流値を決定している。
【0061】
ここで、ステッピングモータ2の発熱量が一定であるとは、停止時を含めステッピングモータ2の発熱量が回転数にかかわらず完全に一定の値となることを意味するものではなく、ステッピングモータ2の発熱量が目標とする発熱量に対して予め定められた所定の範囲内にあれば良いことをいう。所定の範囲内としては、例えば、ステッピングモータ2の発熱量が目標とする発熱量に対して上下10%の範囲(温度にして±2deg)内に入る場合である。
【0062】
<ステッピングモータ駆動装置の動作>
本参考実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1は、次のようにして、停止時を含めステッピングモータ2の回転数が変化した場合であっても、ステッピングモータ2の発熱量が変動するのを抑制することが可能となっている。
【0063】
すなわち、本参考実施の形態1に係るステッピングモータ駆動装置1は、
図2に示されるように、コントローラ40から入力回路11に第1又は第2の指令パルス12a,12bが入力されると、入力回路11は、第1又は第2の指令パルス12a,12bを整形したパルス信号を励磁シーケンス生成部20のアップダウンカウンタ21に出力する。
【0064】
アップダウンカウンタ21は、入力回路11から出力される第1又は第2の指令パルス12a,12bをアップカウント又はダウンカウントする。アップダウンカウンタ21のカウント値は、励磁電流生成部22へと出力される。
【0065】
励磁電流生成部22は、
図3に示されるように、アップダウンカウンタ21のカウント値に基づいて、励磁シーケンス70
1,70
2,70
3・・・70
5を生成して出力する。
【0066】
励磁電流生成部22から出力される励磁シーケンス701,702,703・・・705は、乗算部25に入力される。
【0067】
一方、入力回路11から出力される第1又は第2の指令パルス12a,12bを整形したパルス信号は、入力周波数計数カウンタ23に入力される。入力周波数計数カウンタ23は、入力回路11から出力される第1又は第2の指令パルス12a,12bの単位時間当たりの数(周波数)を計測してステッピングモータ2の回転数を求める。
【0068】
CPU202は、入力周波数計数カウンタ23によって計測された第1又は第2の指令パルス12a,12bの単位時間当たりの数である周波数(回転数)に基づいて、テーブル参照部24によってROM203等に記憶されたテーブル(
図6)を参照し、第1又は第2の指令パルス12a,12bの周波数(回転数)に対応した励磁電流Iを決定する。
【0069】
CPU202は、励磁電流生成部22から出力される励磁シーケンス70
1,70
2,70
3・・・70
5と入力周波数に基づきテーブルを参照して決定した指令電流の値を乗算部25に入力する。乗算部25では、その2つの値を乗算し、乗算した結果の値は、
図7に示されるように、各相の電流制御回路30に電流指令値としてそれぞれ出力する。
【0070】
各相の電流制御及び出力部30は、
図2に示されるように、D/Aコンバータ31によって励磁シーケンス生成部20の励磁電流生成部22から乗算部25を介して出力される
図7に示される励磁シーケンス80
1,80
2,80
3・・・80
5をアナログ信号に変換する。
【0071】
電流制御回路32は、D/Aコンバータ31によってアナログ信号に変換された励磁シーケンス801,802,803・・・805に基づいて、ステッピングモータ2の各相の巻線に通電する励磁電流Iの電流値が所要の値となるよう2つのスイッチング素子としての第1及び第2のトランジスタTr1,Tr2からなるハーフブリッジ回路34を制御する信号を出力する。
【0072】
トランジスタ駆動回路33は、電流制御回路32から出力される制御信号に基づいて第1及び第2のトランジスタTr1,Tr2からなるハーフブリッジ回路34を補完的に制御させるような信号を出力し、ステッピングモータ2の各相の巻線に流れる励磁電流Iの電流値を、ステッピングモータ2の回転数が変化すると励磁電流Iの電流値を増減するよう制御する。
【0073】
そのため、本参考実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1では、ステッピングモータ2の回転数に応じて当該ステッピングモータ2の巻線に通電する励磁電流Iの電流値を制御することで、停止時を含めステッピングモータ2の回転数が変化した場合であっても、ステッピングモータ2の発熱量(温度)が変動するのを抑制することが可能となる。
【0074】
<実験例1及び比較例1>
図9は本発明の参考実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1において励磁電流値を
図8のように変化させた場合にステッピングモータ2の発熱量の変化に伴って当該ステッピングモータ2の温度がどのように変化するかを確認する実験例1及び比較例1の結果を示すグラフである。
【0075】
実験例1では、
図10に示されるように、内部の温度が一定に維持される恒温槽50内に断熱材51を介してステッピングモータ2を固定した状態で配置した。ステッピングモータ2には、リード線9
1~9
5を介して恒温槽50の外部に配置された本実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1が接続されている。また、ステッピングモータ2のケーシングには、当該ステッピングモータ2の温度を検知する熱電対52が接触するよう配置されている。熱電対52は、恒温槽50の外部に配置された温度測定器53に接続されている。さらに、本実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1には、電源54及びモータ動作指令発生用パルス発生器55が接続されている。
【0076】
そして、本実験例1では、ステッピングモータ2に所定の励磁電流を通電して停止させたときの温度と、モータ動作指令発生用パルス発生器55によって所定の周波数のパルスを発生させてステッピングモータ2を指定された回転速度で回転駆動させて当該ステッピングモータ2の温度が飽和した時点で恒温槽50内の温度とステッピングモータ2のケーシングの温度との差をモータの温度上昇として熱電対52により測定した。
【0077】
図9は上記実験例1及び比較例1の測定結果を示すグラフである。
【0078】
この
図9から明らかなように、比較例1として、ステッピングモータ2(定格電流0.4A)を駆動装置1で一定の励磁電流である定格電流0.4Aで駆動した場合の各回転数における温度上昇は、破線の通りである。
【0079】
ステッピングモータ2の停止時は、非通電時からの温度上昇が3.3degであるのに対して、ステッピングモータ2を5rpsの回転速度で駆動した場合は、温度上昇が7.6degであり、回転速度の増加に伴って温度が2倍以上に上昇していることが判る。
【0080】
これに対して、本実験例1の場合は、
図8に示されるように、ステッピングモータ2を駆動する励磁電流の電流値を当該ステッピングモータ2の回転数に応じて変更し、ステッピングモータ2の回転数が0以上、1(rps)以下である場合は、0.400A、ステッピングモータ2の回転数が1を超え、2(rps)以下である場合は、0.350A、ステッピングモータ2の回転数が2を超え、3(rps)以下である場合は、0.300A、ステッピングモータ2の回転数が3を超え、4(rps)以下である場合は、0.250A、ステッピングモータ2の回転数が4を超え、5(rps)以下である場合は、0.200Aにそれぞれ設定した。
【0081】
このように、本実験例1では、ステッピングモータ2の駆動時における励磁電流を停止時に比較して、ステッピングモータ2の回転数の増加とともに20%を超えて0.200A(50%)まで低下させている。
【0082】
そして、本実験例1では、
図9に示されるように、ステッピングモータ2の停止時は、非通電時からの温度上昇が3.3degであるのに対して、ステッピングモータ2を5rpsの回転速度で回転駆動した場合は、温度上昇が4.3degであり、回転速度の増加に伴う温度上昇が約1degと大幅に抑制されて平準化が達成されていることが判る。
【0083】
ここで、ステッピングモータ2の熱容量をC、ステッピングモータ2の発熱量をΔQ、ステッピングモータの温度変化をΔtとすると、
Δt=ΔQ/C
と表すことができる。
【0084】
したがって、ステッピングモータ2の温度変化Δtは、ステッピングモータ2の熱容量Cが一定であるから当該ステッピングモータ2の発熱量ΔQに比例する。
【0085】
このように、本参考実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1では、ステッピングモータ2の回転数に応じて各相の巻線に通電される励磁電流Iの電流値を制御することにより、停止時を含めステッピングモータ2の回転数が変化した場合であっても、ステッピングモータ2の発熱量(温度)が変動するのを抑制できることが判った。
【0086】
[実施の形態1]
図11は、実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置を示すブロック図である。
【0087】
従来、ステッピングモータの駆動装置1は、ステッピングモータ2の回転数にかかわらず、ステッピングモータ2に通電する励磁電流Iの電流値を一定に設定して当該ステッピングモータ2を回転駆動するよう構成されている。
【0088】
しかしながら、ステッピングモータ2の励磁電流Iの値を一定に設定して当該ステッピングモータを回転駆動すると、
図12に示されるように、ステッピングモータ2の回転数に応じて出力トルクが変動する(特開2007-185052号公報([
図2]等))。
【0089】
このように、従来のステッピングモータの駆動装置では、ステッピングモータ2の回転数に応じて発生トルクが変動するが、当然のことながら、ステッピングモータ2の励磁電流の値は、当該ステッピングモータ2に要求される出力トルクT1を上回るよう設定される。そのため、ステッピングモータ2に要求される出力トルクT1を上回る励磁電流が無駄に費消され、ステッピングモータ2の不本位な温度上昇等を招くという技術的課題を有している。
【0090】
そこで、本実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1は、ステッピングモータ2の励磁電流を一定値とした場合に比較して、ステッピングモータ2の出力トルクが変動するのを抑制することが可能なステッピングモータの駆動装置を提供することを目的としている。
【0091】
そして、本実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1は、ステッピングモータを駆動する駆動信号を生成する生成手段と、ステッピングモータのトルクが変動するのを抑制するよう生成手段が生成する励磁電流を少なくともステッピングモータの回転数に応じて変更する変更手段とを備えるよう構成されている。
【0092】
すなわち、本実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1は、
図11に示されるように、ステッピングモータ2のトルクが変動するのを抑制するよう励磁電流生成部22が生成する励磁電流の電流値をステッピングモータ2の回転数に応じて変更する変更手段の一例としてのテーブル参照部24を備えている。
【0093】
テーブル参照部24は、
図12に示されるように、ステッピングモータ2の負荷が一定の条件下で、ステッピングモータ2を駆動する励磁電流Iの電流値を一定として当該ステッピングモータ2の回転数を変化させた場合の出力トルク特性に基づいて、励磁電流Iの電流値を決定している。
【0094】
更に説明すると、本実施の形態1では、
図12に示されるように、負荷が一定の条件下において、ステッピングモータ2を一定の励磁電流Iで回転駆動した際における当該ステッピングモータ2の出力トルクを実験により測定している。そして、
図14に示されるように、ステッピングモータ2のトルクが一定となるよう当該ステッピングモータ2に通電する励磁電流Iの電流値を
図13に示すように決定している。
【0095】
本実施の形態1では、
図11に示されるように、テーブル参照部24として機能するCPU202がROM203に予め記憶されたステッピングモータ2の回転数と励磁電流の電流値との関係を示すテーブル(
図18)を参照して、ステッピングモータ2に通電する励磁電流Iの電流値を決定する。
【0096】
<実験例2>
図17は本発明の本実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1において励磁電流値を
図16に示すように変化させた場合にステッピングモータ2の出力トルクがどのように変化するかを確認した実験例2の結果を示すグラフである。
【0097】
実験例2では、
図15に示されるように、ステッピングモータ2の回転軸5にプーリ61を取り付ける。一端が固定されたスプリング秤62の計測部に糸63を接続する。糸63をプーリ61に巻き付けて糸63がプーリ61に対してスリップしないよう摩擦力を作用させて、ステッピングモータ2の出力トルクを測定した。
【0098】
糸63を下方に引っ張る力fが過大とならないように設定すると、ステッピングモータ2の出力トルクTは、
T=(スプリング秤の読み)×(プーリの半径)
によって与えられる。
【0099】
最初は、プーリ61に摩擦力を掛けない状態でステッピングモータ2を測定する回転数で回転駆動させる。
【0100】
次に、プーリ61に摩擦力を掛けない無負荷状態から糸63を下方に引っ張ることによりプーリ61に摩擦力を加えていき、ステッピングモータ2が指定回転数に同期して回転しなくなるときの荷重をスプリング秤62から読み取る。
【0101】
スプリング秤62から読み取った値を上述した式に当てはめたときの値Tがその回転数におけるステッピングモータ2の出力トルク(脱出トルク)となる。
【0102】
【0103】
この
図17から明らかなように、ステッピングモータ2(定格電流6A)を従来のステッピングモータの駆動装置によって定格電流6Aで駆動した場合の各回転数における出力トルクは、図のXに示す通りである。
【0104】
負荷の駆動に必要なトルクを2Nmとした場合、
図17から明らかなように、ステッピングモータ2の回転数が10(rps)以下では、当該ステッピングモータ2の発生トルクが負荷の駆動に必要なトルクである2Nmを大幅に上回り過剰となる。
【0105】
これに対して、本実験例2に係るステッピングモータの駆動装置1では、
図17のYに示されるように、ステッピングモータ2の回転数に応じて励磁電流の電流値を
図16に示されるよう変更することにより、ステッピングモータ2の回転数が10(rps)以下における当該ステッピングモータ2の出力トルクを略2Nmで一定に維持することができることが判る。
【0106】
このように、本実施の形態1に係るステッピングモータの駆動装置1は、ステッピングモータ2の励磁電流を一定値とした場合に比較して、ステッピングモータ2の出力トルクが変動するのを抑制することができる。
【0107】
そのため、従来のステッピングモータの駆動装置のように、ステッピングモータ2を比較的遅い速度で回転駆動していた場合など、当該ステッピングモータ2によって駆動される装置においてテーブル等の被駆動対象物に過大なトルクが作用する虞れをトルク制限装置やストッパー等の装置を用いることなく回避することが可能となる。
【0108】
その他の構成及び作用は、前記参考実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0109】
なお、前記実施の形態では、ステッピングモータを分析装置や半導体製造装置などに適用した場合について説明したが、ステッピングモータの用途としては、分析装置や半導体製造装置に限定されるものではなく、光学機器や医療機器など他の種々の機器に適用することができることは勿論である。
【0110】
また、前記実施の形態では、ステッピングモータとして5相巻線型のステッピングモータについて説明したが、ステッピングモータは5相巻線型のものに限定されるものではなく、2相巻線型や3相巻線型などにも同様に適用することができることは勿論である。
【0111】
また、前記実施の形態では、バイポーラ型の巻線を備えたステッピングモータについて説明したが、ユニポーラ型の巻線を備えたステッピングモータであっても同様に適用することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0112】
1…ステッピングモータの駆動装置
2…ステッピングモータ
11…入力回路
21…アップダウンカウンタ
22…励磁電流生成部
30…電流制御及び出力部
23…入力周波数計測カウンタ
24…テーブル参照部
25…乗算部