IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コーキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-煙突 図1
  • 特許-煙突 図2
  • 特許-煙突 図3
  • 特許-煙突 図4
  • 特許-煙突 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】煙突
(51)【国際特許分類】
   F23J 13/08 20060101AFI20241003BHJP
   F23L 17/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F23J13/08 A
F23L17/02 602E
F23L17/02 602Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022195905
(22)【出願日】2022-12-07
(65)【公開番号】P2024082150
(43)【公開日】2024-06-19
【審査請求日】2022-12-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503304360
【氏名又は名称】コーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082083
【弁理士】
【氏名又は名称】玉田 修三
(72)【発明者】
【氏名】小林 公博
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-280229(JP,A)
【文献】米国特許第06926600(US,B1)
【文献】特開昭58-047913(JP,A)
【文献】特開昭59-038526(JP,A)
【文献】実開昭57-108537(JP,U)
【文献】特開2020-012445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23J 13/08
F23L 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の煙突本体の放出口の上方に、空間を隔てて、雨水が煙突本体に降り込んで流入することを抑制する作用を発揮する覆板が配備されてなる煙突であって、
覆板が外下がり勾配を有する傘形に形成されていると共に、この覆板の中央部に、上端に排気流逃がし口を有して上記空間を内部流路を経て外気中に開放する筒体が立ち上げられることにより、煙突本体の放出口から出た排気流が上記空間を経て曲がらずに上昇して覆板の中央部の筒体の排気流逃がし口から上方へストレートに放出される経路が形成され、
煙突本体の上記放出口と覆板との間の上記空間が、排気流を外側方へ放出し得る排気性能を備えたルーバーでなる枠体によって取り囲まれることにより、煙突本体の放出口から出た排気流が前記ルーバーでなる枠体によって取り囲まれた空間を経て枠体の外側方へ曲がって放出される経路が形成され、
覆板の環状の下端縁が煙突本体の放出口の口縁よりも外側に配備され、
上記筒体は、上記排気流逃がし口に垂直線に対して45度よりも大きい傾斜角で振り込んだ雨水が当該筒体の内面に衝突し得る立上り高さを有していて、上記排気流逃がし口の開口面積が煙突本体の上記放出口の開口面積よりも小さいことを特徴とする煙突。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙突、特に、煙突本体への降雨時の雨水の流入を抑制しつつ高速排気流を処理するのに適する煙突に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は煙突の従来例を示した概略構成図である。この煙突100は、筒形の煙突本体10の頂部に備わっている放出口11の上方に空間Sを隔てて覆板20が配備されていると共に、上記空間Sが、ルーバーでなる枠体50によって取り囲まれている。このような構成を備える煙突100において、覆板20は、煙突本体10の放出口11の全体を上方で覆っていて、降雨に伴う雨水が煙突本体10の立上り煙道12に降り込んで流入することを抑制する作用を発揮する。また、ルーバーでなる枠体50は、煙突本体10の放出口11から放出されて覆板20によって遮られる排気流を矢印F1のように外側方へ放出する作用や、鳥などが煙突本体10の放出口11を経て立上り煙道12に侵入すること防ぐ作用を発揮する。
【0003】
このような従来例に対し、先行例1(特許文献1)には、煙突の排気口の上方に排気空間を隔てて天板を配置し、この天板の上方又は排気空間内に内筒を配置してなる煙突用排気トップについての記述がなされている。この煙突用排気トップによると、内筒によって煙突への雨水の流入が遮られる、旨の説明がなされている。また、他の先行例2(特許文献2)には、円筒基体の先端に截頭円錐状の2つの整流傘を上下2層に亘って取り付け、この整流傘の上に防風傘を取り付けてなる煙突先端の防風装置についての記述がなされている。そして、先行例1に示されている天板は煙突の排気口の上方を覆い、先行例2に示されている防風傘は、円筒基体の頂部の上方を覆っている。
【0004】
ところで、煙突には、煙道を流れる排気流の速度に応じて、低速排気流に見合う性能を備えた「低速排気煙突」や、高速排気流に見合う性能を備えた「高速排気煙突」がある。そして、低速排気煙突では5~15m/秒の流速の排気流に対応し得る性能を備えているものが知られ、高速排気煙突では25~40m/秒の流速の排気流に対応し得る性能を備えているものが知られている。一方、低速排気煙突であっても高速排気煙突であっても、放出口から排気流を放出させる煙突では、降雨時に雨水が煙突本体10の立上り煙道12に降り込んで流入することを抑制することのできる対策を講じておくことが望ましい。そこで、従来より、図5に示した従来例のように、煙突本体10の放出口11の上方を覆板20により覆って、雨水が煙突本体10の立上り煙道12に降り込むことを抑制することが行われている。上掲の先行例1に示されている天板や、先行例2に示されている防風傘についても、図5に示した従来例の覆板20と同様の作用を発揮するものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-68551号公報(図1図4、0032、0044)
【文献】特開2005-69659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ビルの非常用発電システムなどに使用される煙突において、図5に示した従来例のように、煙突本体10の放出口11の上方に覆板20を配備してその放出口11の全体を覆ってしまうと、煙突本体10の立上り煙道12に雨水が降り込むことを抑制することが可能にはなるけれども、その一方で、煙突本体10の放出口11から放出された排気流の上向きの流れが覆板20によって遮られてしまう。その結果、排気流が、ルーバーでなる枠体50の機能により図5の矢印F1のように外側方へ放出されるとしても、煙突100による全体的な排気性能が低下し、十分な排気効率が得られなくなるおそれがある。先行例1や先行例2に示されている煙突についても同様のことが云える。
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、煙突本体の放出口の上方に配備された覆板20によって煙突本体に雨水が降り込んで流入することを抑制し得るものでありながら、煙突本体の放出口から放出された排気流の上向きの流れが覆板によって遮られてしまうことを制限することのできる対策を講じることによって、覆板を設けることによる排気性能の低下を最少限度に留めて満足のいく排気効率を得ることのできる煙突を提供することを目的とする。したがって、本発明は、特に、上記した高速排気煙突での排気効率の低下を抑制することのできる煙突を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る煙突は、筒状の煙突本体の放出口の上方に空間を隔てて覆板が配備されてなる。そして、覆板が外下がり勾配を有する傘形に形成されていると共に、この覆板の中央部に、上端に排気流逃がし口を有して上記空間を内部流路を経て外気中に開放する筒体が立ち上げられていることにより、煙突本体の放出口から出た排気流が上記空間を経て曲がらずに上昇して覆板の中央部の筒体の排気流逃がし口から上方へストレートに放出される経路が形成され、というものである。
【0009】
この構成を備える煙突によれば、煙突本体の放出口に雨水が降り込んで流入することが覆板によって抑制される。また、覆板に立ち上げられている筒体が、その内部流路を経て、煙突本体の放出口から放出された排気流の上向きの流れを外気中に逃がすことに役立つので、排気流の上向きの流れが覆板によって遮られてしまうという状況が制限されることになり、覆板を設けることによる排気性能(排気効率)の低下が最少限度に留められる。さらに、覆板が外下がり勾配を有する傘形に形成されていることにより、煙突本体の放出口の上方の空間に放出された排気流が覆板に沿って筒体の内部流路に流入しやすくなる。このため、排気流の上向きの流れが筒体を通じて外気中に円滑に逃がされるだけでなく、筒体の内部流路に雨水が降り込んだとしても、その雨水が筒体や覆板の内面に衝突した後、それらの内面を伝い落ちるようになって煙突本体の内部に流入しにくくなる。
【0010】
本発明では、上記排気流逃がし口の開口面積が煙突本体の上記放出口の開口面積よりも小さいことが望ましい。この構成を採用することにより、煙突本体の放出口に雨水が降り込むことを抑制する作用と覆板が排気流を遮ることによる排気効率の低下を抑制する作用との両方をバランスよく発揮させることが容易になる。
【0011】
本発明では、覆板の環状の下端縁が煙突本体の放出口の口縁よりも外側に配備されていることが望ましい。これによれば、筒体の内部流路に雨水が降り込んだとしても、その雨水が筒体や覆板の内面に衝突した後、それらの内面を伝い落ちて煙突本体の放出口の外側に落下する。
【0012】
本発明では、煙突本体の上記放出口と覆板との間の上記空間が、排気流を外側方へ放出し得る排気性能を備えたルーバーでなる枠体によって取り囲まれていることにより、煙突本体の放出口から出た排気流が前記ルーバーでなる枠体によって取り囲まれた空間を経て枠体の外側方へ曲がって放出される経路が形成され、という構成を採用することが可能である。これによれば、ルーバーでなる枠体の作用によって、煙突本体の上放出口から放出された排気流が外側方に向けて放出されるだけでなく、鳥などが上記空間に侵入することが防止される。
【0013】
本発明において、上記筒体は、上記排気流逃がし口に垂直線に対して45度よりも大きい傾斜角で降り込んだ雨水が当該筒体の内面に衝突し得る立上り高さを有することが望ましい。この構成を採用しておくと、垂直線に対して45度より大きい角度で筒体の内部流路に雨水が降り込んだとしても、その雨水が筒体の内面に衝突した後、筒体の内面や覆板の内面を伝い落ちる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明に係る煙突によれば、煙突本体の放出口の上方に配備された覆板によって煙突本体への降雨時の雨水の流入が抑制されるものでありながら、煙突本体の放出口から放出された排気流の上向きの流れが覆板によって遮られてしまうことが制限される。このため、煙突本体への雨水の流入を抑制しつつ、覆板を設けることによる排気性能(排気効率)の低下を最少限度に留めることができるようになり、特に、冒頭で説明した高速排気煙突での排気効率の低下を抑制する上で有益な煙突を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る煙突の概略構成図である。
図2】覆板の平面図である。
図3】変形例による覆板の平面図である。
図4】煙突における各部の良好な寸法関係を説明するための概略構成図である。
図5】煙突の従来例を示した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の実施形態に係る煙突の概略構成図である。この煙突100は、筒形の煙突本体10の頂部に備わっている放出口11の上方に空間Sを隔てて覆板20が配備されていると共に、上記空間Sがルーバーでなる枠体50によって取り囲まれている。このような構成を備える煙突100において、覆板20は、煙突本体10の放出口11を上方で覆っていて、降雨時に雨水が煙突本体10の立上り煙道12に降り込んで流入することを抑制する作用を発揮する。また、ルーバーでなる枠体50は、煙突本体10の放出口11から放出されて覆板20によって遮られる排気流を矢印F1のように外側方へ放出する作用や、鳥などが上記空間Sに侵入することを防ぐ作用を発揮する。
【0017】
この煙突100において、覆板20は外下がり勾配を有する傘形に形成されている。覆板20の中央部には筒体21が立ち上げられている。この筒体21には、上端の排気流逃がし口22と内部流路23とが備わっていて、これらの内部流路23及び排気流逃がし口22を経て上記空間Sが外気中に開放されている。このため、煙突本体10の立上り煙道12を経て放出口11の上方の空間Sに放出された排気流のうち、枠体50の外側方へ放出されない排気流が矢印F2のように覆板20に沿って筒体21の内部流路23に円滑に流入し、排気流逃がし口22から外気中に放出される。この作用により、覆板20を設けることによる排気性能の低下が抑制される。また、筒体21の内部流路23には降雨時に雨水が降り込むことがあるけれども、仮に雨水が降り込んだとしても、その雨水が筒体21や覆板20の内面に衝突してそれらの内面を伝い落ちるために、煙突本体10の内部に落下して流入する雨水の量は軽減されることになる。また、排気流が排気流逃がし口22からも外気中に放出されることで、空間Sを小さくすることが可能である。具体的には、
放出口11と覆板20との距離を小さくすることが可能であり、これより空間Sを取り囲むルーバーでなる枠体50の部品点数を少なくすることができる。
【0018】
覆板20に設けられている筒体21の排気流逃がし口22の開口面積は、煙突本体10の放出口11の開口面積よりも小さくなっている。排気流逃がし口22の開口面積が大きすぎると、降雨時に雨水が覆板20の内部に降り込みやすくなり、排気流逃がし口22の開口面積が小さすぎると、排気流逃がし口22から外気中に放出される排気量が少なくなり過ぎて排気性能の低下を抑制する作用が発揮されにくくなる。これらのことから、排気流逃がし口22の開口面積は、煙突本体10の放出口11の開口面積を基準にして適切に定めるべきである。
【0019】
覆板20の下端縁24は、煙突本体10の放出口11の口縁よりも外側に設けられている。この構成により、筒体21の内部流路23に矢印W1のように降り込んだ雨水が、筒体21や覆板20の内面に衝突した後、それらの内面を矢印W2のように伝い落ちて煙突本体10の放出口11の外側に落下することになるので、煙突本体10の内部に流入する降雨時の雨水の量が顕著に少なくなる。
【0020】
この実施形態において、筒体21は、排気流逃がし口22に垂直線に対して45度よりも大きい傾斜角で降り込んだ雨水が当該筒体21の内面に衝突し得る立上り高さを有している。このため、図1に示した雨水の降り込み角度θ1が45度よりも大きい状況下では、降り込んだ雨水のほとんど全部が筒体21の内面に衝突した後、筒体21の内面や覆板20の内面を伝い落ちることになる。これに対し、雨水の降り込み角度θ1が45度よりも小さい状況下では、雨水の一部だけが筒体21の内面に衝突した後、筒体21の内面や覆板20の内面を伝い落ちることになる。
【0021】
図2は覆板20の平面図、図3は変形例による覆板20の平面図である。図2に示した覆板20は、平面視円形の傘形に形成されていて、筒体21が円筒体でなる。この覆板20は、円筒形の煙突本体10に組み合わせることに適している。これに対し、図3に示した覆板20は、平面視四角形の傘形に形成されていて、筒体21が四角筒体でなる。この覆板20は、四角筒形の煙突本体10に組み合わせることに適している。
【0022】
図4図1に示した構成の煙突100における煙突本体10の口径Dなどの各部の好ましい寸法関係を説明するための概略構成図である。同図の煙突100は、流速が25~40m/秒の排気流に対応し得る性能を備える高速排気煙突を対象としていて、以下では、円筒形の煙突本体10の口径Dを1000mmとした場合の各部の良好な寸法関係の具体例を説明する。
【0023】
高速排気煙突において、覆板20に設けられている筒体21の排気流逃がし口22の開口面積は、煙突本体10の放出口11の口径Dの開口面積の10~15%が望ましく、このことから筒体21の排気流逃がし口22の口径D1は350mmに定めてある。
【0024】
高速排気煙突において、ルーバーでなる枠体50の高さH1は500mm程度が適切である。これは、枠体50の高さH1が煙突本体10の口径Dの半分程度であると、煙突本体10の放出口11から放出されて覆板20によって部分的に遮られる排気流を外側方へ放出する作用が良好に発揮されることによる。また、覆板20の傘形部分の高さH2は、この実施の形態においては200~800mm程度が適切である。傘形の覆板20には外下がり勾配が備わっていて、この外下がり勾配の傾斜角θ2は45度よりも大きい角度であることが望ましい。傾斜角θ2を45度よりも大きい角度にしておくと、覆板20の内部に降り込んだ雨水が覆板20の内面を伝い落ちやすくなり、伝い落ちる途中で雨水が内面から剥離して落下するという状況を極力生じさせないようにすることに役立つ。しかしながら、傾斜角θ2をいたずらに大きくすると、覆板20の傘形部分の高さH2が高くなり過ぎて意匠面での不都合を生じることがある。なお、傾斜角θ2は45度よりも大きい角度であることは必ずしも必要ではなく、覆板20の意匠を重視するような場合には、傾斜角θ2を45度よりも小さい角度にすることも可能である。
【0025】
覆板20の中央部に設けられている筒体21の立上り高さH3は、上記したように、排気流逃がし口22に垂直線に対して45度よりも大きい傾斜角θ1(図1参照)で降り込んだ雨水が当該筒体21の内面に衝突し得る立上り高さを有していることが望ましい。このため、筒体21の排気流逃がし口22の口径D1と同一に定められている。具体的には、筒体21の立上り高さH3を350mmに定めてある。こうしておくと、筒体21の排気流逃がし口22に傾斜角θ1(図1参照)が45度で降り込んだ雨水のほとんど全部が筒体21の内面に衝突した後、筒体21の内面から覆板20の内面を伝い落ちることになる。排気流逃がし口22の口径D1は、図2に示した円筒形の筒体21では排気流逃がし口22の直径に相当し、図3に示した四角筒形の筒体21では排気流逃がし口22の対角間長さに相当する。また、降雨時の雨水の流入の抑制を重視したい場合には、筒体21の立上り高さH3を筒体21の排気流逃がし口22の口径D1よりも大きくすればよい。なお、覆板20の意匠を重視するような場合には、筒体21の立上り高さH3を筒体21の排気流逃がし口22の口径D1よりも小さくしてもよい。
【符号の説明】
【0026】
10 煙突本体
11 放出口
20 覆板
21 筒体
22 排気流逃がし口
23 内部流路
24 覆板の下端縁
50 枠体
100 煙突
S 空間
H3 筒体の立上り高さ
θ1 雨水の降り込み角度
図1
図2
図3
図4
図5