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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】導電性ペースト及び導電膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H01B1/22 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022547595
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2021032755
(87)【国際公開番号】W WO2022054774
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2020152421
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166683
【氏名又は名称】互応化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 哲平
(72)【発明者】
【氏名】濱田 亘人
(72)【発明者】
【氏名】田中 信也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 静雄
(72)【発明者】
【氏名】古賀 慎也
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-531810(JP,A)
【文献】特開平05-135619(JP,A)
【文献】特開平06-215631(JP,A)
【文献】特開2016-008337(JP,A)
【文献】特開平10-074661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ンニン酸誘導体(A)と、銅粉(B)と、熱硬化性樹脂(C)と、溶剤(D)とを含有し、
前記タンニン酸誘導体(A)がタンニン酸の一部のフェノール性水酸基中の水素原子が置換基で置換されたものであり、その置換率が10%以上65%以下である導電性ペースト。
【請求項2】
タンニン酸誘導体(A)と、銅粉(B)と、熱硬化性樹脂(C)と、溶剤(D)とを含有し、
前記タンニン酸誘導体(A)がタンニン酸の一部又は全部のフェノール性水酸基がイソシアネート基を有する化合物との反応によりウレタン結合を形成したものである導電性ペースト。
【請求項3】
ホウ酸をさらに含有する請求項1又は2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記溶剤(D)がアルコール性水酸基を有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂(C)がフェノール性水酸基を有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の導電性ペーストの硬化物を含む導電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性ペースト及び導電膜に関し、詳しくは、タンニン酸及びタンニン酸誘導体の少なくとも一方(A)と、銅粉(B)と、熱硬化性樹脂(C)と、溶剤(D)とを含有する導電性ペースト、及びこの導電性ペーストの硬化物を含む導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストを各種基材に印刷することで配線を形成する技術が用いられている。従来の導電性ペーストとしては、主に銀ペースト、銅ペーストが知られている。銀ペーストは導電性が良好であるが、高価であり、高湿下でマイグレーションが生じやすく、それによって起こるショートが問題となっている。そのため、銀ペーストの代わりに銅ペーストを使用することが検討されているが、銅ペーストは銀ペーストと比べて酸化されやすく、そのため、比抵抗値が経時的に上昇し、導電性が低下しやすいという問題があった。
【0003】
このような銅ペーストの酸化を抑制する方法として、予め銅粉の表面を有機物で処理する方法や、銅粉が含まれる組成物中に銅の酸化を抑制する添加剤を混在させる方法が提案されている。
【0004】
特許文献1には、有機酸を含有する水系表面処理剤で金属微粒子を予め処理することにより、易酸化性金属粒子表面に形成された酸化膜を効果的に除去し、さらに処理された銅粉が含まれる組成物中に銅の酸化を抑制する添加剤として有機カルボン酸を添加する方法が開示されている。特許文献2には、銅粉を含む導電性銅ペースト中、有機カルボン酸化合物を添加することにより、銅粉表面の酸化膜に対して、プロトンを供与し、溶出させることにより、銅粉の酸化を抑制する方法が開示されている。
【0005】
銅粉を有機酸で処理する方法は、原料として用いる銅粉にすでに存在する酸化銅被膜を除去する効果が認められ、初期の導電性を発現する面では有効であるが、経時的な酸化を抑制するには十分ではない。また、有機カルボン酸化合物を添加する方法は、銅粉の酸化を抑制するには十分ではない。そのため、銅粉に対してさらに効果的な還元力を発現する材料が求められており、銅本来の導電性を初期に発現できると共に、さらにその導電性を長期間維持して製品の信頼性を確保できることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-011006号公報
【文献】特開2008-130301号公報
【発明の概要】
【0007】
本開示の課題は、初期の導電性に優れ、この優れた導電性を長期にわたって維持できる導電性ペースト、及び導電膜を提供することにある。
【0008】
本開示の一態様に係る導電性ペーストは、タンニン酸及びタンニン酸誘導体の少なくとも一方(A)と、銅粉(B)と、熱硬化性樹脂(C)と、溶剤(D)とを含有する。
【0009】
本開示の一態様に係る導電膜は、前記導電性ペーストの硬化物を含む。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<導電性ペースト>
本実施形態の導電性ペースト(以下、導電性ペースト(X)ともいう)は、タンニン酸及びタンニン酸誘導体の少なくとも一方(A)(以下、成分(A)ともいう)と、銅粉(B)と、熱硬化性樹脂(C)と、溶剤(D)とを含有する。導電性ペースト(X)は、熱硬化して導電膜を形成するために好適に用いることができる。
【0011】
本発明者らは、金属粉として銅粉を用いる導電性ペーストにおいて、タンニン酸又はその誘導体を用いることにより、初期の導電性に優れ、かつ優れた導電性を長期にわたって維持することが可能となることを見出した。すなわち、導電性ペースト(X)は、初期の低比抵抗値化を実現でき、かつ湿熱試験などで評価されるように、経時的に酸化を抑制することができ、その結果、長期にわたって導電性を維持することができる。その理由は必ずしも明確ではないが、例えばタンニン酸及びタンニン酸誘導体は、銅粉(B)の導電性ペースト(X)中における分散性を高めることができると共に、その還元性により、銅粉(B)の酸化を抑制し、かつ銅の酸化により生じた酸化銅を元の銅に還元して導電性を回復させることができるためであると推察することができる。特に、成分(A)は、熱硬化性樹脂(C)を熱硬化させる時に高い還元力を発揮すると考えられ、導電性ペースト(X)は、高い初期の導電性を発揮することができ、加えてこの高い導電性は、成分(A)の還元力により、長期にわたって維持することができると考えられる。このように、導電性ペースト(X)は、初期の導電性に優れ、この優れた導電性を長期にわたって維持することができる。
【0012】
[成分(A)]
成分(A)は、タンニン酸及びタンニン酸誘導体の少なくとも一方である。「タンニン酸」とは、広義のタンニン酸と、狭義のタンニン酸であるm-ガロイル没食子酸の両方を含む。広義のタンニン酸とは、多数のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物の総称であり、例えばフラバノールの誘導体である縮合型タンニンや、1個以上の没食子酸と糖(通常グルコース)がエステル結合した加水分解型タンニンなどが挙げられる。タンニン酸1分子中のフェノール性水酸基の数は、通常3以上100以下であり、10以上50以下であることが好ましく、20以上30以下であることがより好ましい。タンニン酸の分子量は、通常300以上15000以下であり、500以上5000以下であることが好ましく、1000以上2500以下であることがより好ましい。
【0013】
「タンニン酸誘導体」とは、例えばタンニン酸のフェノール性水酸基中の一部又は全部の水素原子を置換基(以下、置換基(S)ともいう)で置換したものをいう。タンニン酸誘導体は、タンニン酸を疎水化したものである。
【0014】
成分(A)は、タンニン酸誘導体を含むことが好ましい。成分(A)として、タンニン酸を疎水化したタンニン酸誘導体を用いることにより、導電性ペースト(X)は、経時的に酸化を抑制する効果がより大きくなり、特に、耐湿熱性試験(例えば85℃、85%RH、100Hrなど)において、比抵抗値の上昇をより抑制することができる。
【0015】
タンニン酸誘導体は、タンニン酸の一部又は全部のフェノール性水酸基がイソシアネートを有する化合物との反応によりウレタン結合を形成したものを含むことが好ましい。タンニン酸誘導体にウレタン結合を導入することにより、導電性ペースト(X)から形成した導電膜の柔軟性がより高くなるため、フィルム基材等のフレキシブル基材への適用が期待される。
【0016】
また、タンニン酸誘導体は、タンニン酸のフェノール性水酸基の一部又は全部が、シランカップリング剤との反応により-Si-O-結合を形成したものであることが好ましい。タンニン酸誘導体に-Si-O-結合を導入することにより、銅粉(B)の分散性のさらなる向上、及び導電性ペースト(X)から形成される導電膜と基材との密着性の向上が期待される。
【0017】
置換基(S)としては、例えばメチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基などの炭化水素基;この炭化水素基の水素原子の一部又は全部を他の置換基で置換した基;-CONHR(Rは、炭素数1~20の1価の有機基である);-Si(OR’)R”(R’は炭素数1~10の1価の炭化水素基、R”は炭素数1~20の1価の有機基である)などが挙げられる。「有機基」とは、少なくとも1個の炭素原子を含む基をいう。
【0018】
置換基(S)は、重合性基を有する基を含むことが好ましい。この場合、導電性ペースト(X)の熱硬化時の硬化収縮をより大きくすることができ、その結果、導電性をより向上させることができる。重合性基としては、例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、グリシジル基、アミノ基、メルカプト基等が挙げられる。
【0019】
置換基(S)としての-CONHRは、タンニン酸にイソシアネート基を有する化合物を反応させることにより形成される。Rで表される有機基としては、例えば置換又は非置換のブチル基等の1価の炭化水素基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、グリシジル基等の重合性基を含む基などが挙げられる。Rを重合性基を含む基とすることにより、導電性ペースト(X)の熱硬化時の硬化収縮をより大きくし、導電性をより向上させることができる。
【0020】
置換基(S)としての-Si(OR’)R”は、タンニン酸にシランカップリング剤を反応させることにより形成される。R’で表される炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基等のアルキル基などが挙げられる。R”で表される有機基としては、例えば置換又は非置換の1価の炭化水素基、グリシジル基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基等の重合性基を含む基などが挙げられる。R”を重合性基を含む基とすることにより、導電性ペースト(X)の熱硬化時の硬化収縮をより大きくし、導電性をより向上させることができる。
【0021】
タンニン酸誘導体における置換率(置換前のタンニン酸1分子中のフェノール性水酸基の数に対するタンニン酸誘導体1分子中の置換基(S)の数の比率)は、10%以上であることが好ましい。この場合、導電性ペースト(X)の耐湿熱性をより効果的に向上させることができる。置換率は15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、30%以上であることが特に好ましい。タンニン酸誘導体における置換率は、65%以下であることが好ましい。この場合、導電性ペースト(X)における酸化抑制効果をより高めることができる。置換率は60%以下であることがより好ましく、55%以下であることがさらに好ましく、50%以下であることが特に好ましい。
【0022】
成分(A)の割合は、銅粉(B)100質量部に対して、0.05質量部以上5.0質量部以下であることが好ましい。この場合、導電性ペースト(X)の導電性及びその継続性をより向上させることができる。成分(A)の割合は、銅粉(B)100質量部に対して、0.1質量部以上3.0質量部以下であることがより好ましく、0.4質量部以上2.0質量部以下であることがさらに好ましく、0.5質量部以上1.2質量部以下であることが特に好ましい。
【0023】
成分(A)の割合は、導電性ペースト(X)に対して、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましく、0.4質量%以上1.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0024】
[銅粉(B)]
銅粉(B)は、銅を主成分とする金属粒子であり、粒子表面に銅が露出しているものである。
【0025】
銅粉(B)の形状としては、例えば球形、扁平形(鱗片形)、樹枝形、不定形等が挙げられる。銅粉(B)は、これらの形状を2種以上組み合わせたものであってもよい。導電性ペースト(X)の優れた導電性と酸化耐性は、成分(A)の銅に対する優れた還元力に起因するものであり、銅粉(B)の形状及び粒子径は特に限定されない。
【0026】
銅粉(B)の平均粒子径は、印刷適正の観点から、0.1μm以上30μm以下であることが好ましく、0.5μm以上20μm以下であることがより好ましく、1μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径とは、メジアン径であって、銅粉(B)の粒度分布(体積基準)を計測し、その累積分布50体積%における粒径を示す。
【0027】
銅粉(B)の割合は、導電性ペースト(X)に対して、50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、60質量%以上98質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上95質量%以下であることがさらに好ましく、80質量%以上90質量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
[熱硬化性樹脂(C)]
導電性ペースト(X)は、熱硬化性樹脂(C)を含有する。これにより、加熱により、導電性ペースト(X)を硬化させ、導電膜を形成することができる。
【0029】
熱硬化性樹脂(C)としては、例えばアミノ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、アクリル樹脂;ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂(C)には、タンニン酸及びタンニン酸誘導体は含まれない。
【0030】
熱硬化性樹脂(C)は、フェノール性水酸基を有するものを含むことが好ましい。この場合、熱硬化性樹脂(C)の熱硬化による硬化収縮をより大きくすることができ、その結果、導電性ペースト(X)の導電性をより向上させることができる。フェノール性水酸基を有する熱硬化性樹脂(C)としては、例えばフェノール樹脂等が挙げられる。
【0031】
熱硬化性樹脂(C)の割合は、導電性ペースト(X)に対して、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
また、導電性ペースト(X)は、熱硬化性樹脂(C)の硬化を促進させるため、例えば硬化剤、硬化促進剤などを含有していてもよい。
【0033】
硬化剤としては、熱硬化性樹脂(C)を硬化させることができるものであれば用いることができ、例えばノボラック樹脂;ジシアンジアミド、イミダゾール、BF-アミン錯体、グアニジン誘導体等の潜在性アミン系硬化剤;メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族アミン類;シクロホスファゼンオリゴマー等の窒素原子を含有する硬化剤;ポリアミド樹脂、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物系硬化剤などが挙げられる。硬化剤の割合は、熱硬化性樹脂(C)に対して、通常0.1質量%以上10質量%以下であり、0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0034】
硬化促進剤としては、例えばベンジルジメチルアミン等の第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。硬化促進剤の割合は、熱硬化性樹脂(C)に対して、通常0.01質量%以上10質量%以下であり、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0035】
[溶剤(D)]
導電性ペースト(X)は、溶剤(D)を含有する。これにより、導電性ペースト(X)は、粘度をより適度に調整することができ、スクリーン印刷等に好適に用いることができる。
【0036】
溶剤(D)としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のジオール、グリセリン等のトリオールなどの多価アルコール類;糖アルコール類;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール類;1-メチル-1-メトキシブタノール;エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル(iso-プロピルセロソルブ)、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(n-ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル(t-ブチルセロソルブ)等のセロソルブ類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル(n-プロピルカルビトール)、ジエチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル(iso-プロピルカルビトール)、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(n-ブチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル(t-ブチルカルビトール)等のカルビトール類;トリエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルトリグリコール)等のトリグリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル等のプロピレングリコールモノエーテル類;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル等のジプロピレングリコールモノエーテル類;トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のトリプロピレングリコールモノエーテル類などのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブカルボキシレート類などのグリコールエーテルカルボキシレート類;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類などが挙げられる。
【0037】
溶剤(D)は、アルコール性水酸基を有するものを含むことが好ましい。この場合、溶媒(D)は、成分(A)を良好に溶解することができ、その結果、成分(A)による酸化抑制効果をより向上させることができる。また、アルコール性水酸基を有する溶剤(D)は、加熱硬化時に還元性を示すため、成分(A)による酸化抑制効果をさらに向上させることができる。
【0038】
溶剤(D)は、タンニン酸の溶解性、印刷適正等の観点から、低級アルコール類及びグリコールエーテル類からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、メタノール、エタノール及びエチルカルビトールからなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0039】
溶剤(D)の割合は、導電性ペースト(X)の粘度をより適度に調整する観点から、導電性ペースト(X)に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上7質量%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
[ホウ酸]
ホウ酸としては、オルトホウ酸(HBO)以外にも、この縮合物であるメタホウ酸、四ホウ酸等も含まれる。導電性ペースト(X)は、ホウ酸を含有することが好ましい。これにより、導電性ペースト(X)のさらなる低比抵抗値化を実現できる。また、熱硬化性樹脂(C)が水酸基を有する場合、その水酸基とホウ酸とが水素結合を形成することにより、さらなる低比抵抗値化を実現することができる。また、ホウ酸は、成分(A)のフェノール性水酸基とも水素結合を形成するため、熱硬化性樹脂(C)-ホウ酸-タンニン酸のネットワークが形成されることにより、さらに良好な導電性を実現することができる。
【0041】
ホウ酸の割合は、成分(A)及び熱硬化性樹脂(C)(硬化剤及び硬化促進剤を含む)の合計に対して、1.0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、2質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
ホウ酸の割合は、導電性ペースト(X)に対して、0.1質量%以上4質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
[その他の成分]
導電性ペースト(X)は、その他の成分として、例えば防錆剤、酸化防止剤、密着性付与剤、分散剤、キレート剤、レベリング剤、チクソ調整剤、消泡剤などを含有していてもよい。その他の成分の割合は、導電性ペースト(X)に対して、例えば2質量%以下である。
【0044】
(粘度)
導電性ペースト(X)の25℃における粘度は、5.0Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましい。この場合、導電性ペースト(X)は、印刷しやすく、スクリーン印刷の作業性を損なうことがなく、また、良好なパターンを有する配線が形成されやすい。導電性ペースト(X)のチクソ比(Ti値)は、1.0以上3.0以下であることが好ましい。この場合、導電性ペースト(X)は、スクリーン印刷の作業性を損なうことがなく、また、良好なパターンを有する配線が形成されやすい。チクソ比は、25℃、0.5rpmでの粘度と、25℃、5rpmでの粘度との比率で表される(チクソ比=(25℃、0.5rpmでの粘度)/(25℃、5rpmでの粘度))。
【0045】
<導電膜>
本実施形態の導電膜は、前述の導電性ペースト(X)の硬化物を含む。本実施形態の導電膜は、導電性ペースト(X)から形成されるので、初期の導電性に優れ、かつ優れた導電性を長期にわたって維持することができる。また、導電性ペースト(X)がホウ酸を含有し、かつタンニン酸誘導体がウレタン結合を有する場合、導電膜は、耐折り曲げ性にも優れている。
【0046】
本実施形態の導電膜は、例えばスクリーン印刷法などにより、ガラス板、PETフィルム等の基材上に塗布した後、加熱して硬化させることにより形成される。加熱温度及び加熱時間は、熱硬化性樹脂(C)の種類等に応じて適宜選択されるが、加熱温度は、通常100℃以上250℃以下であり、130℃以上200℃以下であることが好ましい。加熱時間は、通常1分以上5時間以下であり、10分以上1時間以下であることが好ましい。導電膜の形状は、特に限定されず、回路パターン等の平面視線形状又は帯形状の他、円形、四角形等の平面視面形状などが挙げられる。導電膜の厚さは、例えば1μm以上1mm以下であり、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【実施例
【0047】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。
【0048】
<タンニン酸誘導体の合成>
還流冷却器、温度計、窒素導入管、及び撹拌機を取り付けた四ツ口フラスコに、タンニン酸(富士化学工業社製、商品名:「タンニン酸」、タンニン酸1分子中の水酸基の総数は25個である)100g、及びメチルエチルケトン100gを入れて混合し溶解させた。得られた溶液にイソシアネート化合物としてのアクリル酸イソシアネートエチル(昭和電工社製、商品名「カレンズAOI」)82gを混合し、60℃で5時間反応させた。得られた溶液からメチルエチルケトンを蒸発、乾燥させ、タンニン酸誘導体(1)を得た。
【0049】
同様にして、イソシアネート化合物141gを反応させてタンニン酸誘導体(2)を得、イソシアネート化合物24gを反応させてタンニン酸誘導体(3)を得、イソシアネート化合物160gを反応させてタンニン酸誘導体(4)を得、イソシアネート化合物としてのイソシアン酸ブチル65gを反応させてタンニン酸誘導体(5)を得、シランカップリング剤(東レ・ダウ社製、商品名「Xiameter OFS-6040 Silane」、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)36gを反応させてタンニン酸誘導体(6)を得た。得られたタンニン酸誘導体の重量平均分子量を、下記に示すGPC測定法により測定した。
【0050】
(重量平均分子量の測定)
重量平均分子量は、GPC法により標準ポリスチレン換算で求めた。測定条件を以下に示す。
・装置:島津製作所社製、「Prominence LC-20AD」
・カラム:昭和電工社製、「GPC KF-801,GPC KF-803,GPC KF-805」計3本
・ガードカラム:昭和電工社製、「GPC-KF-G 4A」
・サンプル濃度:タンニン酸又はタンニン酸誘導体の濃度が0.5質量%になるようにテトラヒドロフランで希釈した。
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・流量:1.0mL/分
・カラム温度:40℃
【0051】
下記表1に、合成したタンニン酸誘導体及びタンニン酸の重量平均分子量、タンニン酸誘導体におけるフェノール性水酸基の水素原子の置換率を合わせて示す。
【0052】
【表1】
【0053】
<導電性ペーストの調製>
(実施例1)
タンニン酸誘導体(1)0.40g、エポキシ樹脂(DIC社製、EPICLON EXA4816)4.6g、硬化促進剤(四国化成社製、キュアゾール2PHZ-PW)0.02g、及びホウ酸0.5gを配合して、溶剤エチルカルビトール3.0gに溶解させた。得られた樹脂溶液に、銅粒子(福田金属箔粉工業社製、商品名「Cu-HWF-4」)48.0gを配合し、ハイブリッドミキサーで混合した後、ロールミルにより混錬を行い、導電性ペースト1(DP-1)を得た。
【0054】
(実施例2)
ホウ酸を配合しないこと以外は、実施例1と同様にして導電性ペースト2(DP-2)を得た。
【0055】
(実施例3)
タンニン酸誘導体(1)の代わりに、タンニン酸を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性ペースト3(DP-3)を得た。
【0056】
(実施例4)
タンニン酸誘導体(6)を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性ペースト4(DP-4)を得た。
【0057】
(実施例5)
熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂及び硬化促進剤に代えて、レゾール型フェノール樹脂(明和化成社製、商品名:「MWF-2620」、固形分70質量%)を用いた以外は、実施例2と同様にして導電性ペースト5(DP-5)を得た。
【0058】
(実施例6)
タンニン酸誘導体(2)を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性ペースト6(DP-6)を得た。
【0059】
(実施例7)
溶剤をエチルカルビトールアセテートに代えた以外は、実施例1と同様にして導電性ペースト7(DP-7)を得た。
【0060】
(実施例8)
タンニン酸誘導体(3)を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性ペースト8(DP-8)を得た。
【0061】
(実施例9)
タンニン酸誘導体(4)を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性ペースト9(DP-9)を得た。
【0062】
(実施例10)
タンニン酸誘導体(5)を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性ペースト10(DP-10)を得た。
【0063】
(比較例1)
タンニン酸及びタンニン酸誘導体を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして導電性ペースト11(DP-11)を得た。
【0064】
[導電性ペーストの評価]
(粘度、Ti値の測定)
実施例1~9及び比較例1で得られた各導電性ペーストの25℃における粘度(5rpm及び0.5rpm)をコーンプレート型粘度計(東機産業社製)にて測定した。また、これらの測定値から、Ti値(=0.5rpmでの粘度/5rpmでの粘度)を求めた。
【0065】
(銅粉の分散性評価)
得られた導電性ペースト中の銅粉の分散性を評価するため、グラインドゲージ(太佑機材社製、「GM-7470」、0~25μm)を用いて、JIS K5600-2-5(分散度)を参照して、粗粒の確認を行った。
【0066】
粗粒の確認結果から、銅粉の分散性を以下の基準で評価した。
A:グラインドゲージ判定結果が7.5μm以下であった。
B:グラインドゲージ判定結果が10.0μmであった。
C:グラインドゲージ判定結果が12.5μm以上であった。
【0067】
下記表2に、ペースト粘度(Pa・s)(5rpm、0.5rpm)の測定値及びTi値、並びに銅粉の分散性の評価結果について合わせて示す。
【0068】
【表2】
【0069】
<導電膜の形成>
前記得られた導電性ペースト1~11(DP-1~DP-11)をそれぞれ、スクリーン印刷法により、PETフィルム上に、幅1mm、長さ50mm、厚さ20μmの帯状の配線形状に塗布した後、150℃で30分間加熱して硬化させ、導電膜1~11(DM-1~11)を有する導電膜付き基材1~11を得た。
【0070】
[導電膜の評価]
(導電膜の抵抗値の測定)
得られた導電膜1~11(DM-1~DM-11)の抵抗値(Ω)を、四探針抵抗測定値計(日置社製、RESISTANCE METER RM3544-01)を用いて測定した。
【0071】
(耐久性試験)
導電膜付き基材1~11について、高温高湿の環境下での耐久性試験を行った。すなわち、導電膜1~11(DM-1~DM-11)付き基材を、85℃、85%RHの高温高湿とした槽内で100時間保持した後、導電膜1~11(DM-1~DM-11)の抵抗値を測定し、耐久性試験後比抵抗値を算出した。
【0072】
(耐折り曲げ性評価)
得られた導電膜1~11(DM-1~DM-11)を、折り曲げ試験機を用い、2mmΦの鉄芯に巻き付けて折り曲げ、折り曲げを戻した後に、比抵抗値を測定した。耐折り曲げ性を、以下の基準により評価した。
S:折り曲げ前後の比抵抗値の上昇率が20%以下である。
A:折り曲げ前後の比抵抗値の上昇率が20%超40%以下である。
B:折り曲げ前後の比抵抗値の上昇率が40%超100%以下である。
C:折り曲げ前後の比抵抗値の上昇率が100%超である。
【0073】
下記表3に、導電膜の抵抗値(Ω)、導電膜の膜厚(μm)、抵抗値と膜厚から算出される比抵抗値(体積抵抗率)(μΩ・cm)、耐久性試験後比抵抗値(μΩ・cm)、耐久性試験変化率(=(耐久性試験後比抵抗値/耐久性試験前比抵抗値-1)×100(%))、及び耐折り曲げ性の評価結果について合わせて示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表2及び表3の結果から分かるように、実施例の導電性ペーストによれば、形成した導電膜が、初期の導電性に優れ、かつ優れた導電性を長期にわたって維持することができる。特に、実施例1~5の導電性ペーストは銅粉の分散性に優れ、実施例1、3、4及び5においては特に、約100μΩ・cm程度の低い比抵抗値を有し、かつ優れた導電膜を得ることができる。さらに、置換率10~65%のタンニン酸誘導体を使用した実施例1、2、4、5、6、7、8及び10においては耐久性に優れた導電膜を得ることができる。比較例1の導電性ペーストは銅粉の分散性が悪く、導電膜の比抵抗値が初期から高く、導電性ペースト調製の工程で酸化されていると考えられ、また、耐湿試験でも比抵抗値が上昇している。
【0076】
また、表3の結果から分かるように、ウレタン結合を有するタンニン酸誘導体とホウ酸とを組み合わせた導電性ペーストから形成された実施例1、6、7、9及び10の導電膜は、耐折り曲げ性が良好である。
【0077】
フェノール性水酸基の水素原子の置換率が一定値を超えるタンニン酸誘導体を使用した実施例9の導電性ペーストは、初期の比抵抗値が上昇し、銅粉の分散性の低下及び耐久性試験後の比抵抗値の上昇率が高くなっていることから、タンニン酸誘導体の効果が低下していると考えられる。実施例7の導電性ペーストは、水酸基を有する溶剤を使用していないため、ペースト作成時のタンニン酸誘導体の防錆効果が低下していると考えられる。
【0078】
(まとめ)
以上から明らかなように、本開示に係る第一の態様の導電性ペーストは、タンニン酸及びタンニン酸誘導体の少なくとも一方(A)と、銅粉(B)と、熱硬化性樹脂(C)と、溶剤(D)とを含有する。
【0079】
第一の態様によれば、導電性ペーストは、初期の導電性に優れ、この優れた導電性を長期にわたって維持することができる。
【0080】
第二の態様の導電性ペーストは、第一の態様において、前記(A)成分がタンニン酸誘導体を含み、前記タンニン酸誘導体がタンニン酸の一部のフェノール性水酸基中の水素原子が置換基で置換されたものであり、その置換率が10%以上65%以下である。
【0081】
第二の態様によれば、導電性ペーストの経時的に酸化を抑制する効果をより高めることができ、特に、耐湿熱性試験において、比抵抗性の上昇をより抑制することができ、耐湿熱性をより効果的に向上させることができる。
【0082】
第三の態様の導電性ペーストは、第一の態様において、前記(A)成分がタンニン酸誘導体を含み、前記タンニン酸誘導体がタンニン酸の一部又は全部のフェノール性水酸基がイソシアネート基を有する化合物との反応によりウレタン結合を形成したものである。
【0083】
第三の態様によれば、経時的に酸化を抑制する効果がより大きくなり、特に、耐湿熱性試験において、比抵抗性の上昇をより抑制することができ、また、タンニン酸誘導体にウレタン結合を導入することにより、導電性ペーストから形成した導電膜の柔軟性がより高くなるため、フィルム基材等のフレキシブル基材への適用が期待される。
【0084】
第四の態様の導電性ペーストは、第一から第三のいずれか一つの態様において、ホウ酸をさらに含有する。
【0085】
第四の態様によれば、導電性ペーストのさらなる低比抵抗値化を実現できる。また、熱硬化性樹脂(C)が水酸基を有する場合、その水酸基とホウ酸とが水素結合を形成することにより、さらなる低比抵抗値化を実現することができる。また、ホウ酸は、成分(A)のフェノール性水酸基とも水素結合を形成するため、熱硬化性樹脂(C)-ホウ酸-タンニン酸のネットワークが形成されることにより、さらに良好な導電性を実現することができる。
【0086】
第五の態様の導電性ペーストは、第一から第四のいずれか一つの態様において、前記溶剤(D)がアルコール性水酸基を有する。
【0087】
第五の態様によれば、溶剤(D)が成分(A)を良好に溶解することができるので、成分(A)による酸化抑制効果をより向上させることができる。また、アルコール性水酸基を有する溶剤(D)は、加熱硬化時に還元性を示すため、成分(A)による酸化抑制効果をさらに向上させることができる。
【0088】
第六の態様の導電性ペーストは、第一から第五のいずれか一つの態様において、前記熱硬化性樹脂(C)がフェノール性水酸基を有する。
【0089】
第六の態様によれば、熱硬化性樹脂(C)の熱硬化による硬化収縮をより大きくすることができ、その結果、導電性ペーストの導電性をより向上させることができる。
【0090】
第七の態様の導電膜は、第一から第六のいずれか一つの態様の導電性ペーストの硬化物を含む。
【0091】
第七の態様によれば、導電膜は、初期の導電性に優れ、かつ優れた導電性を長期にわたって維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示に係る導電性ペーストによれば、不活性ガス等を必要とする特別な設備を用いることを要せずに、熱硬化により、初期の導電性に優れ、耐湿性に優れ、かつ長期にわたってこの優れた導電性を維持することが可能な導電膜を形成することが可能となる。