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▶ エーセー・ホールディング・オサケユフティオの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】昆虫飼育方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/033 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A01K67/033 502
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022564567
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 FI2020050273
(87)【国際公開番号】W WO2021214375
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】523108739
【氏名又は名称】エーセー・ホールディング・オサケユフティオ
【氏名又は名称原語表記】EC Holding Oy
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ,ヨハンネス
(72)【発明者】
【氏名】エルッコネン,ヨハンネス
(72)【発明者】
【氏名】キュッロネン,ティーウ
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-154763(JP,U)
【文献】特開昭48-090865(JP,A)
【文献】特開2005-272353(JP,A)
【文献】特開2002-300824(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157640(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02839738(EP,A1)
【文献】米国特許第10306875(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0281799(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫を飼育するための飼育用マトリックスであって、
前記飼育用マトリックスは、
昆虫飼育用の生息面を形成するための飼育マトリックスシートであって、前記シートが格子状構造を形成するよう前記シートを貫通する切込みのパターンを有する細長いシートである、飼育マトリックスシートと、
複数の平行なスポークを有する飼育マトリックスラックと、
を備え、
前記飼育マトリックスシートは、前記飼育マトリックスラックの前記スポーク上に折り畳まれて、複数の重なり合う垂れ下がったひだを形成する、
飼育用マトリックス。
【請求項2】
その中で昆虫を飼育するための飼育容器、を備え、
前記飼育容器は、請求項1に記載の飼育用マトリックスを含む、
飼育システム。
【請求項3】
さらに、前記飼育マトリックスシートから昆虫を取り除くためのスイーパー装置、を備え、
前記スイーパー装置は、その間に前記飼育マトリックスシートを受け、前記飼育用マトリックスがブラシの間に搬送される間に、前記飼育用マトリックスから昆虫を遠ざけるおよび/または取り除くよう構成された、少なくとも2つの対向するスイーパーロール、を備える、
請求項2に記載の飼育システム。
【請求項4】
前記飼育容器は、前記飼育容器の内部に少なくとも1つの吸入口を備え、前記吸入口は、吸引ラインに接続可能である、
請求項2または3に記載の飼育システム。
【請求項5】
さらに、分離スペースと前記分離スペースの下の分離面とを有する分離配置、を備え、
前記分離スペースは、前記吸引ラインから気流により運ばれた昆虫を受けて、昆虫が前記分離面に落下するよう前記昆虫を気流から分離し、
前記分離面は、生きているコオロギがそこから降りて排出口に落下できるよう構成されている、
請求項4に記載の飼育システム。
【請求項6】
さらに、
前記飼育容器内の昆虫に液体を供給するよう構成された液体ディスペンサーと、
前記液体ディスペンサーからの液体消費量を検出するセンサーと、
前記飼育容器内の昆虫に飼料を供給するよう構成された自動飼料ディスペンサーと、
前記自動飼料ディスペンサーを制御する制御システムであって、検出された液体消費量に基づいて飼料の供給量を制御するよう構成された制御システムと、
を備える、
請求項2からのいずれか1項に記載の飼育システム。
【請求項7】
昆虫を飼育するための方法であって、
飼育マトリックスシートと飼育マトリックスラックとを有する飼育容器を提供するステップであって、前記飼育マトリックスシートは前記シートが格子状構造を形成するよう前記シートを貫通する切込みのパターンを有する細長いシートであり、前記飼育マトリックスラックは複数の平行なスポークを有する、ステップと、
前記飼育マトリックスシートの一部を前記飼育マトリックスラックのスポークの上に折り畳んで、複数の重なり合う、垂れ下がったひだを形成するステップと、
を含む、
方法。
【請求項8】
さらに、
その間に前記飼育マトリックスシートを受け、飼育用マトリックスがブラシの間に搬送される間に、前記飼育マトリックスから昆虫を遠ざけるおよび/または取り除くよう構成された、少なくとも2つの対向するスイーパーロールを備えるスイーパー装置で、前記飼育容器の前記飼育用マトリックスから昆虫を取り除くステップ、
を含む、
請求項に記載の方法。
【請求項9】
さらに、
液体ディスペンサーで前記飼育容器内の昆虫に液体を供給するステップと、
前記液体ディスペンサーからの液体消費量を検出するステップと、
自動飼料ディスペンサーで前記飼育容器内の昆虫に飼料を供給するステップと、
を含み、
飼料の供給量は、検出された液体の消費量に基づく、
請求項7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用昆虫の飼育に関し、特に飼育容器でのコオロギの飼育に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有史以前から今日に至るまで、ある種の昆虫の卵、幼虫、蛹、成虫は人類によって食されてきたが、こうした昆虫を商業消費のために、少なくとも大規模に飼育することは、比較的新しいことである。飼育の工程は、今でも手作業に大きく依存しているのが一般的である。例えば、飼料や水の供給は、まだ手動で行われることがある。さらに、収穫のたびに手作業で飼育環境を整えることもある。例えば、昆虫の生息環境は、新しい昆虫が生まれるたびに卵パック(egg cartons)から手作業で組み立てられることがある。労働集約的ではないがコストがかかる(costlier)アプローチが、ボトル仕切(bottle dividers)(複数のボトルを保持する厚紙の台紙(matrices))を生息環境として利用することである。少なくとも手作業がより手ごろな価格である場合には、ローテク・アプローチはまだ有効な選択肢と考えられ得る。しかし、昆虫製品の需要が高まるにつれ、飼育プロセスの競争力がますます重要となってきている。同時に、昆虫飼育に関連する法律や規制を整備することで、飼育のための追加の制約や品質基準を設定している。これらの点から、飼育プロセスの改善に向けた新たな要件が設定された。
【0003】
業界の発展に伴い、飼育のより自動化されたアプローチが利用可能になりつつある。これらのアプローチを大規模にスケールアップするには、問題がないわけではない。例えば、自動化された大規模な飼育プロセスにおいて、十分な衛生レベルを維持することは非常に困難な場合がある。不十分な衛生状態により、最終製品(食品および飼料として使用される昆虫)または飼育器具への細菌(bacterial)、真菌(fungal)、またはウイルスによる汚染のリスクが高まる可能性がある。さらに、現在の大規模な飼育システムでは、不要な昆虫種および害虫の監視および制御が困難な作業である場合がある。さらに、最適でない環境パラメータは、昆虫集団の死亡率の増加または昆虫の共食い行動の増加につながる可能性がある。これらの課題を解決するためには、コストのかかる技術的実装が必要になる場合がある。そのため、大規模な飼育を経済的に実現することは難しいかもしれない。
【発明の概要】
【0004】
本開示の目的は、上記の欠点を緩和するように、方法およびその方法を実施するためのシステムを提供することである。本開示の目的は、独立請求項に記載されていることを特徴とする方法およびシステムによって達成される。本開示の好ましい実施形態は、従属請求項に開示されている。
【0005】
本開示による飼育システムにおいて、食用昆虫、特にコオロギを飼育容器(a rearing container or containers)で飼育できる。好ましくは、容器は、ラック上で複数の重なり合う層に折り畳まれた延性材料の長いシートから形成された飼育用マトリックスを含む。層は、複数の重なり合って垂れ下がるループを形成する。シートは、シートを貫通する切込みのパターンでミシン目が入っている。
【0006】
このような飼育用マトリックスは、昆虫にとって望ましいいくつかの特徴を備えている。例えば、動きやすさおよび多くの隠れ場所を提供する。飼育マトリックスの構造上、供給された飼料は構造全体に移動するため、飼料へのアクセスが容易になる。飼育マトリックスシートは、厚紙のように非常に安価な材料で形成することができる。さらに、飼育マトリックスシートは飼育容器から1枚の連続したシートまたはリボンとして抽出されてもよい。これにより、収穫の自動化が容易になる。飼育用マトリックスおよび飼育容器は、飼料の供給量および/または割合を制御する自動給餌システムとともに使用されてもよい。自動給餌システムは、昆虫集団の推定サイズおよび年齢、および/または昆虫を飼育する温度に応じて飼料の供給を制御することができる。昆虫集団による水の消費量は、集団規模を推定するために使用することができ、その推定値は自動給餌により使用されることがある。このようにして、人的介入を減らして給餌プロセスを管理でき、過剰給餌による飼料の浪費のリスクが低くなる。
【0007】
以下の段落では、添付の図面を参照して、好ましい実施形態によって本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1a】本開示による飼育用マトリックスの簡略化した例を示す図
図1b】本開示による飼育用マトリックスの簡略化した例を示す図
図1c】本開示による飼育用マトリックスの簡略化した例を示す図
図1d】本開示による飼育用マトリックスの簡略化した例を示す図
図1e】本開示による飼育用マトリックスの簡略化した例を示す図
図2a】本開示による昆虫収集配置(insect-gathering arrangement)の一例を示す図
図2b】本開示による昆虫収集配置の一例を示す図
図2c】本開示による昆虫収集配置の一例を示す図
図3a】本開示による分離配置の一例を示す図
図3b】本開示による分離配置の一例を示す図
図3c】本開示による分離配置の一例を示す図
図4】本開示による自動給餌を備えた飼育システムの例示的に示すブロック図
図5】本開示による方法の簡略化したフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は食用昆虫を飼育する飼育システムについて説明している。カブトムシ、シロアリ、アリ、コオロギなどの節足動物とそのさまざまなライフステージが食用昆虫の一例である。また、コオロギ、イナゴ、カブトムシ、蜂蜜蛾など、さまざまな種類の昆虫も、世界中でペットフードや魚の餌として利用されている。コオロギは、そのタンパク質含有量により、人間が消費するための栄養源として特に重要である。何百種類もあるコオロギの中でも、イエコオロギ(Acheta domesticus)は食用として最もよく使用される種類の一つである。世界の多くの地域で、コオロギは乾燥させたり、焼いたり、味付けして食べられている。コオロギはまた、ペットおよび農業用家畜のための動物飼料用に飼育されている。
【0010】
昆虫は通常、手作業による給餌(新鮮な飼料または食品産業の副産物由来の資源を利用することのできる乾燥粒状食品の配布による)、水やり、取り扱い、収穫、洗浄、繁殖の補助を必要とする。本開示によるシステムは、これらすべての態様を提供するために使用することができる。
【0011】
システムは、直翅目(コオロギ、キリギリス、バッタなど)およびコオロギ目(ゴキブリなど)の不完全変態の這う昆虫の飼育に特に適している。本開示は主にコオロギに関連して飼育システムを議論しているが、システムを他の昆虫の飼育にも使用することができる。コオロギは、好ましくは、比較的高温(およそ30℃)の可動式または固定式の飼育容器または飼育領域に収容され、シェルターとなるような生息環境構造を提供することが好ましいとされている。本開示による飼育システムは、産業規模に拡張可能である。システムは、小規模飼育(例えば、0.1~1m単位)から大規模飼育(例えば、10~100m単位)まで対応可能である。本開示の文脈では、飼育ユニットは可動式または固定式の飼育容器または飼育領域/空間であってもよい。
【0012】
本開示による飼育システムは、好ましくは飼育容器を含む。このような容器の大きさおよび形状は、用途によって異なってもよい。好ましくは、容器は本質的に箱型(直方体)であり、または少なくとも矩形の上面を有する。このように、本開示による飼育マトリックスシートは、飼育容器の中にきちんと収まる飼育用マトリックスに折り畳むことができる。容器の内容積は、例えば、0.1~100mの範囲であってもよい。好ましくは、容積は0.5~1mの範囲である。容積がこの範囲にあると、飼育の自動化はより簡単になる。さらに、この範囲の容積であれば、容器を新たに追加するなどして飼育規模を容易に調整できる。容器の長さ(length)、幅(width)、および高さ(height)は、例えば、0.25~5mであってもよい。本開示の文脈では、容器の「高さ」は飼育容器の使用時の重力方向と平行であり、「幅」および「長さ」は「高さ」に対して垂直である。寸法の「幅」と「長さ」は互いに対して垂直であり、水平面を定義する。飼育容器は、開放容器(open container)または密閉容器(closed container)であってもよい。飼育容器の材料は、昆虫に対して無毒でありながら、大きく折れたりほつれたりすることなく昆虫刺傷に耐えられるような特徴を有する。材料は、消毒が容易であることが好ましい。飼育容器は、例えば、蓋が着脱可能なプラスチック製の箱であってもよい。
【0013】
本開示による飼育システムにおいて、飼育容器は、昆虫用シェルターを設けた生息環境構造として作用する飼育用マトリックスを含む。本開示の文脈では、「生息環境構造」という用語は、食用昆虫の集団のための生息環境として作用するように構成された構造物を指す。この生息環境構造に昆虫が住み着き、育つ。生息環境構造の形状や構造が飼育システムの機能に大きな影響を与える可能性がある。
【0014】
したがって、飼育システムの態様は本開示による飼育用マトリックスである。以下の段落では、飼育用マトリックスのさまざまな例示的な特徴を示す図1a~図1eに関連して、飼育用マトリックスについて説明する。本開示の文脈では、飼育用マトリックスは、少なくとも飼育マトリックスシートと飼育マトリックスラックを含む生息環境構造である。ラックは、例えば、水平な梯子状の構造であってもよい。飼育マトリックスシートは、昆虫を飼育するための生息面(habitat surface)を形成することを目的とし、飼育マトリックスラックは飼育マトリックスシートを支持することを目的としている。図1aおよび図1bは、本開示による飼育用マトリックスの簡略化した例を示す。図1aに、飼育容器14の斜視図を示す。容器14の正面に面する2つの側面は、透明であることが示されている。容器14は、飼育マトリックスラック12のスポーク上に、2つのスタック(stacks)15に配置された、互いに隣り合う2つの飼育マトリックスシート10を含む飼育用マトリックスを有する。本開示の図面全体を通じて、図面中に同一の要素が複数示されている場合、1つの要素のみに参照符号を付す。図1bは、本開示による飼育用マトリックスを簡略化した断面図である。図1aおよび図1bにおいて、飼育マトリックスシート10は、飼育マトリックスラックのスポーク12の上に置かれている。シート10とラックとがともに、飼育用マトリックスを形成する。飼育用マトリックスは、例えば、飼育容器14の内部に配置してもよい。飼育マトリックスラックは、一列に配置された複数のスポークを含んでもよい。ある実施の形態において、スポークは水平面に一列に並んでいる。図1aおよび図1bにおいて、5本の丸いスポーク12が示されている。それらは、水平面に縦一列に並んでいる。スポーク12は、幅方向(すなわち、図1aの方向Wおよび図1bの視線方向に平行な方向)に延在する。また、飼育マトリックスシート(またはシート)10を飼育マトリックスラック上で複数の層に折り畳み、複数の重なり合う垂れ下がったひだ(folds)を形成し、それにより、飼育用マトリックスを形成してもよい。図1bにおいて、飼育マトリックスシート10は、飼育マトリックスラックのスポーク12の上に6つの層102に折り畳まれている。スポーク12間の層102の一部104は、垂れ下がったひだ106を形成するように配置される。垂れ下がったひだ106を、異なる長さを有するように配置してもよい。上の垂れ下がったひだは下の垂れ下がったひだよりも短くてもよい。このようにして、図1bにも示すように、垂れ下がった層106の間に隙間が形成される。これにより、飼育用マトリックスの構造に汎用性がもたらされ、飼育用マトリックスが形成する生息環境の大きさが拡大する。飼育マトリックスシート10の折り畳み(folding)は、飼育容器14から単一の連続した細長いシートまたはリボンとして抽出され得るように構成されてもよい。例えば、図1bに示すように、シート10は、端部ひだ108が両端部140および142に交互に形成されるよう、容器14の第1端部140から容器14の第2端部142まで往復してラックの上のスポーク12に置かれてもよい。
【0015】
図1aおよび図1bにおいて、飼育マトリックスラックのスポーク12は、水平面に対して一定の間隔で配置される。しかし、スポークの上で飼育マトリックスシートを重なり合うひだに折り畳むことができる構成である限り、本開示による飼育用マトリックスにおいて他の構成が可能である。例えば、スポークは異なる間隔にあってもよいし、および/または異なる高さにあってもよい。また、スポークの数は、飼育容器の大きさや折り畳み構成により異なっていてもよい。飼育マトリックスラックは、1つの飼育マトリックスシートまたは複数の飼育マトリックスシートをラックのスポーク上に平行に支持するように適合させることができる。図1aでは、2つの別々の飼育マトリックスシートを示しているが、1つの飼育マトリックスシートで代用してもよい。例えば、飼育マトリックスラック上の垂れ下がったひだの複数のスタックに、長い飼育マトリックスシートを配置してもよい。図1aにおいて、2つのスタック15は、単一の飼育マトリックスシートから形成されてもよい。あるいは、飼育用マトリックスを、一部だけ互いに重なり合う互い違いの層に折り畳んで、互い違いの層により形成される広がったスタックが飼育マトリックスシートのスポークを完全にまたはほとんど覆うようにしてもよい。例えば、図1aにおいて、飼育マトリックスシート自体の幅が飼育容器13の幅Wより小さい場合でも、飼育容器14の幅W全体を覆うように、飼育マトリックスシートを部分的に重なり合う互い違いの層に配置してもよい。
【0016】
収穫時に取り外す際に、飼育マトリックスシートが破れるリスクを最小限にするために、スポークは滑らかな表面を有することが好ましい。あるいは、またはそれに加えて、スポークは、飼育用マトリックスを取り外すときに自由に回転するロールの形態であってもよい。いくつかの実施の形態において、飼育マトリックスラックは飼育容器の内部に挿入可能な別々の構造である。あるいは、飼育マトリックスラックは飼育容器の内壁に一体化されてもよい。飼育マトリックスシートと飼育マトリックスラックの幅は、飼育容器の内部空間の幅に基づいて選択できる。幅は、例えば、40~150cmであってもよい。好ましくは、幅は60~100cmである。
【0017】
本開示による飼育マトリックスシートは、シートが格子状の構造を形成するように、シートを貫通する切込みのパターンを有する細長いシートの形態であってもよい。切込みは、飼育マトリックスシートを介した昆虫のアクセスを提供するよう形成してもよい。図1c~図1dは、本開示による飼育マトリックスシートの例示的な詳細を示す図である。図1cにおいて、飼育マトリックスシート10の一部の上面を示す。シート10には、シート10を一面から反対の面まで貫通する複数の切込み101が設けられている。飼育マトリックスシートの文脈では、「細長い(elongated)」という用語は、シートがその幅よりもその長さが著しく大きい長方形であってもよく、例えば、シートの長さがシートの幅の少なくとも3倍、好ましくは少なくとも10倍であることを意味することが意図される。飼育マトリックスシート10の長さLは、飼育マトリックスシート10が昆虫の収穫で集められるときに、飼育マトリックスシート10が引っ張られる方向に沿った寸法である。飼育マトリックスシートの幅Wは、長さLに垂直な方向の寸法である。長さおよび幅は、シート10の2辺に平行な平面に沿って延びている。シート10の厚さは、長さLと幅Wとに垂直である。
【0018】
上述したように、本開示による飼育マトリックスシートは、シートを貫通して延びる切込みのパターンを含んでもよい。図1cは、切込みの好ましいパターンの一つを示したものである。図1cにおいて、切込み101は、長さLに沿ったマトリックスシート10の引張強度を十分に確保できるように、飼育マトリックスシート10の長さLに沿った線状の切込みである。切込み101の構造は、例えば、規則的な格子状のパターンを形成してもよい。図1cは、適切な切込みパターンの好ましい一例を示す。図1cにおいて、切込み101は、互い違いの列で一対の平行な切込みのパターンに配置される。一対の切込み間の距離は、例えば5~15mmの範囲内であってもよい。図1cのパターンは、飼育マトリックスシート10の2つの辺の他の点では平坦な表面トポロジーの1つの好ましい変形を可能にする。図1dは、この変形の斜視図を示す。簡単のために、図1dにおいて、飼育マトリックスシートは厚みのないシートとして可視化されている。図1dにおいて、一対の切込みは、シート10へのブリッジ(bridges)16を画定する。ブリッジは、その中央部161においてシート10からの残部から分離されているが、その端部162によってシートに接続されている直線ストリップ(straight strips)の形態であってもよい。ブリッジは飼育マトリックスシート10への開口部を形成する。これらの開口部は、飼育用マトリックス10を介した昆虫のアクセスを可能にする。
【0019】
飼育マトリックスシートの複数の重なり合うひだへの折り畳みを容易にするために、材料および/または飼育マトリックスシートの表面構造は延性である。さらに、飼育マトリックスシートの材料が延性である場合、図1dに示す形状に容易に変形させることができる。シートは長方形で、その長さがその幅よりかなり大きくてもよい。飼育マトリックスシートは、例えば段ボールにより形成されてもよい。段ボールは、幅方向に小さな波状の畝(corrugations)を有する層を含んでもよい。図1eは、飼育マトリックスシート18が段ボールで形成された場合の簡略化した縦断面を示す図である。図1eの飼育マトリックスシート構造は、例えば、図1a~図1dの実施の形態で使用することができる。図1eにおいて、段ボールの飼育マトリックスシート18は、波形の中間層181と、中間層181の両側の平坦な外層182とを含む。中間層181は、シート18の長さに沿って延びる波状を形成する。これに対応して、段ボールのそれぞれの畝(すなわち、波の山および谷のそれぞれ)は、飼育マトリックスシート18の幅に沿って延びる。畝の大きさは、例えば、シート18の厚さ方向に数ミリメートル(3~8mm)であってもよい。段ボールの表面にある小さな畝は、小さな昆虫(例えばピンヘッド期(pinhead stage)のコオロギの幼虫)にとって、さらなるシェルターを提供する。段ボール製の飼育マトリックスシートは非常に安価で、使用後の廃棄も簡単である。段ボールの表面は、昆虫が登れるようになっている。さらに、図1eの中間層181の畝の配向のために、飼育用マトリックス18は、その幅に沿ってよりもその長さに沿ってはるかに延性がある。その結果、飼育マトリックスシート18は飼育マトリックスラックのスポークに簡単に折り畳むことができる。同時に、シート18は、その幅に沿って少なくとも半剛性であり、それにより、その展開および除去を容易にする。図1eには、飼育マトリックスシート18の2つのより大きな波状構造183も示されている。波状構造183は、図1dに関連して説明したようなブリッジの形態であってもよい。切込みのパターンを、厚紙のシートに機械で形成することもできる。段ボールでできた長い飼育マトリックスシートは、使用前に、その長さに沿ってロール状に丸めたり、束に折り畳んだりして保管することができる。
【0020】
図1eの例は、本開示による飼育マトリックスシートの一実施の形態を示す。ただし、飼育マトリックスシートは他の種類の構造を持っていてもよいし、別の材料で形成することもできる。例えば、飼育マトリックスシートは、波形層と、波形層の片面のみに平坦な外層とを有する厚紙から形成されてもよい。あるいは、飼育用マトリックスは、単一の平坦な厚紙層により形成されてもよい。さらに、厚紙以外の材料を使用することもできる。例えば、ポリマー系の材料を飼育マトリックスシートに使用することもできる。
【0021】
本開示による飼育用マトリックスは、多くの利点を提供する。例えば、飼育用マトリックスは非常に早く組み立てることができる。飼育マトリックスシートは飼育マトリックスラックの上に数分で広げることができる(例えば、卵パックベースの生息環境の準備にはより多くの時間を要する)。さらに、飼育マトリックスシートが単一の連続したシート状であると、昆虫を非常に素早く収穫できる。本開示による飼育用マトリックスのアプローチは、小規模な飼育システムにおいても非常に安価で、衛生的でもある。
【0022】
本開示による飼育用マトリックスも、動きやすさ、隠れやすさ、摂食性など、昆虫にとって好ましい特徴を多く備えている。少なくとも飼育する昆虫がコオロギの場合、動きやすいことが望ましい。ピンヘッド期のコオロギの幼虫は、収穫可能なコオロギよりも100倍小さいことがある。コオロギの幼虫は道に迷いやすいし、またはその生息環境で立ち往生することもある。したがって、本開示によるアクセスが容易な飼育用マトリックスは、コオロギの幼虫の生存率を向上させる。隠れ家を見つけやすくすることで、共食いや大きさのばらつきを低減することができるかもしれない。例えば、コオロギが外骨格を脱ぐと、古い外骨格を脱いだ後の数時間は新しい外骨格がとても柔らかいため、シェルターを見つけなければならない。柔らかい外骨格を持つコオロギは、他のコオロギの共食い行動の犠牲になるリスクが高くなる。本開示によるマトリックスは、さまざまな大きさの昆虫のためのシェルターを提供する。また、マトリックス内のコオロギの居場所(熱源に近い、飼料に近い、など)に応じて、コオロギに複数の異なる微気候を与えることができる。飼育用マトリックスは、重力や昆虫の動きによって、飼育マトリックスシートの重なり合う層の切込みを介して、飼料が下方に横切るように構成することもできる。このように、与えられた飼料は飼育用マトリックスの中でより広い領域に分布する。その結果、飼料の方が昆虫に活用されるようになる。さらに、優占する昆虫個体による飼料供給の制御がより難しくなるため、収穫時の昆虫の大きさがより均一になる。
【0023】
図1a~図1eの例示的な実施の形態は、好適な構造、切込みパターン、および材料のほんの一例である。ただし、他の構造、切込みパターン、および材料も、本開示による飼育用マトリックスで使用することができる。また、上記実施例では、主に飼育マトリックスラックで形成される飼育マトリックスについて述べたが、本開示による飼育用マトリックスは、飼育マトリックスラックがなくても形成することができる。本開示による飼育マトリックスシートは、例えば飼育容器の底で飼育用マトリックスに折り畳まれていてもよい。この飼育用マトリックスには、垂れ下がったひだがなくてもよい。垂れ下がったひだは本開示による飼育用マトリックスの構造に汎用性を提供するという利点があるが、飼育用マトリックスはそれらを使わずに形成することもできる。垂れ下がったひだのない飼育用マトリックスには、独自の利点がある。垂れ下がったひだがなければ、飼育用マトリックスの密度がより高いかもしれない。垂れ下がったひだを有する飼育用マトリックスよりも開口部および隙間が小さい可能性があるため、小さなおよび/または幼虫の昆虫に適している可能性がある。用途によっては、昆虫の幼虫をまず垂れ下がったひだのない飼育用マトリックスで飼育し、一定の平均サイズに達したところで、異なる飼育用マトリックス(例えば、垂れ下がったひだのある飼育用マトリックス)に移動させてもよい。
【0024】
本開示による飼育システムの別の態様は、収穫のしやすさである。そのため、本開示では飼育容器の飼育用マトリックスから昆虫を取り除くために使用することができるスイーパー装置を記載している。本開示はまた、飼育容器の昆虫収集配置(insect-gathering arrangement)も記載している。図2a~図2cは、本開示によるスイーパー装置22と昆虫収集配置24の例示的な特徴を示す図である。図2aは、スイーパー装置および昆虫収集配置を例示的に示す斜視図であり、図2bは、スイーパー22と昆虫収集配置24の簡略化した縦断面を示す図である。図2cは、昆虫収集配置24の詳細を示す斜視図である。
【0025】
本開示によるスイーパー装置は、ロールの表面から延びる複数の柔軟で細長い部材(例えば、剛毛(bristles)、フラップ、翼)を有する少なくとも2つの対向する回転スイーパーロールを含んでもよい。図2aおよび図2bは、スイーパー装置22が2つのスイーパーロール221を含む実施の形態を示す図である。なお、スイーパー装置22は、例えば、着脱可能な蓋222に取り付けられていてもよい。蓋222は、収穫を容易にするために、本開示による飼育容器の上に取り付けるように構成されてもよい。このように、飼育容器にスイーパー装置を取り付けることもできる。図2aおよび図2bにおいて、スイーパー装置22は本開示による飼育容器14に取り付けられている。図2aおよび図2bにおいて、それぞれのロール223は、ロール221の反対側に配置された2つの翼223を含む。スイーパーロール221は、お互いとの間に狭いスロット224を有する。スイーパー装置22は、スイーパーロールの間を通過するように、スロットを通して飼育マトリックスシートを受け取るように構成されている。図2bは、ロール221を通過する飼育マトリックスシート10を示す図である。スイーパーロール221は、飼育マトリックスシートがスイーパーロールの間を搬送される間に、飼育マトリックスシートから昆虫を遠ざけるおよび/または取り除くよう構成されている。例えば、ロール221は、翼223(または他の細長い部材)でシート10を叩いて揺らし、昆虫を怖がらせるように構成されてもよく、および/またはロールは、その回転によるスイーパー運動によってシート10から昆虫を払い落すように構成されてもよい。昆虫はスイーパーロール221を通り抜けることができず、飼育容器の底に落ちる。スイーパーロール221の回転は、例えば電気モータアセンブリによって駆動されてもよい。電気モータアセンブリ(図2aから図2cには図示せず)は、例えば、蓋222に取り付けられてもよい。
【0026】
図2aおよび2bに示すように、スイーパー装置22は、スイーパーロール221の上に支持スポーク226を有するフレーム225をさらに備えてもよい。図2aおよび図2bでは、フレームは透明なプラスチックで形成されている。支持スポーク226の中心軸をスイーパーロール221の軸と平行になるように整列させてもよく、スイーパーロール221を介して飼育マトリックスシート10を上向きに引っ張る引張力が、上向きの引張力から水平方向の引張力に変化するように、支持スポークはスイーパーロール間の隙間の上に配置されてもよい。このようにして、人が飼育マトリックスシートを引っ張りやすくなる。あるいは、またはそれに加えて、飼育マトリックスシート10の第1端部がスイーパー装置に供給されると、自動的にスイーパー動作を継続してもよい。いくつかの実施の形態において、スイーパー装置は、飼育マトリックスシート全体を単一の連続したリボンとして安定してラックから引っ張るためのけん引装置(ニップローラー(nip roller)など)を含んでいてもよい。このようにして、昆虫を信頼できる方法で迅速に収穫できる。さらに、飼育マトリックスシートから昆虫を少ない粉塵で取り除くことができる(例えば、シートを振って昆虫を取り除く場合と比較して)。
【0027】
上記のように、飼育容器はまた、本開示による昆虫収集配置を備えてもよい。昆虫収集配置の1つの主要な機能として、飼育マトリックスシートのクリアリング時やクリアリング後の飼育容器の底からの昆虫の採集のしやすさを向上させることが挙げられる。このため、昆虫収集配置は、少なくとも1つの吸入口(suction inlet)を含んでもよい。この文脈において、吸入口は、容器から吸引ラインへの容器から昆虫が吸い出される可能性のある入り口点(entry point)である。図2a~図2cは、本開示による昆虫収集配置の一例を示した図である。図2a~図2cにおいて、飼育容器14の内壁には、着脱可能な昆虫収集配置24が配置されている。図2aは、昆虫収集配置24のうち、蓋22の下方に延在する部分を破線で示した図である。
【0028】
図2a~図2cにおける昆虫収集配置24は、吸入口242とダークカバー(dark cover)244の2つの部分を含むユニットである。吸入口242(または、実施の形態によっては、インレット(inlet))は、昆虫が容易にアクセスできるように、容器14の底部付近に配置されてもよい。例えば、吸入口242の中心は、飼育容器14の内壁に、容器14の底面から15cm以下の高さで配置されていてもよい。吸入口242は、吸入口242が安全な隠れ家であるという印象を昆虫に与えるように、少なくとも一部が暗い色のカバー244で覆われていてもよい。図2a~図2cにおいて、カバー244は、吸入口242に固定され、L字型の外形を有する。したがって、カバー244は、吸入口242とカバー244とにより形成されるユニットのスタンドとして機能し、ユニットが倒れることなく、容器14の側壁で飼育容器14の底面にユニットを容易に位置させることができる。例えば、スイーパー装置22を使用して飼育用マトリックス10から昆虫を追い払い、および/または強制的に取り除く場合、昆虫は本能的にシェルターを探す。暗い色のカバー244は、吸入口242の近隣にそのようなシェルターのような外観を与えるので、昆虫はそれを目指して殺到し、吸入口に侵入する。虫が入口242に入ると(または十分に近づくと)、吸引力により昆虫を吸引ラインに引き込む。
【0029】
図2a~図2cで説明した昆虫収集配置24は、収穫時のみ使用するように着脱可能なユニットであるよう適合されてもよい。このように、次に収穫する予定の飼育容器に対して昆虫収集配置24を挿入してもよい。したがって、吸引を行う装置は一度に1つだけでよい(より複雑な吸引ラインのネットワークは必要ない)。図2aおよび図2bに示すように、スイーパー装置22の蓋222は、収穫時にスイーパー装置と昆虫収集配置24とを同時に使用できるように、スロット(slot)を備えてもよい。
【0030】
生きている昆虫だけが積極的に吸入口に向かって移動するので、前述の実施の形態は、昆虫の収集手段であることに加え、昆虫の生死を分ける第1段階としても有効に作用するという利点がある。生きた昆虫と死んだ昆虫の分別は、少なくとも昆虫が人の食用を意図されている場合には、一般的に重要である。図2a~図2cに示す昆虫収集配置の着脱可能な実施の形態は、可能な実施の一例に過ぎない。あるいは、吸入口(カバー付き)は飼育容器の内壁に一体化されてもよい。
【0031】
本開示による飼育システムは、さらに、分離配置を含んでいてもよい。分離配置は、少なくとも1つの吸引ラインが昆虫を吸引する分離スペースと、分離スペースの下方にある分離面とを含んでもよい。分離スペースは、吸引ラインの気流から昆虫を分離するために使用される。昆虫は、分離スペースから下の分離面へ落下する。図3a~図3cは、分離配置の簡略化した例を示す図である。図3aにおいて、2つのチャンバー32、34が互いの上部に配置されている。両チャンバー32、34は、円錐形の断面を有し、それにより、2つの下向きのじょうご(funnnels)が積み重なって形成される。これらのじょうごは、例えば、円形じょうごや長方形じょうごであってもよい。図3aにおいて、昆虫の通り道を破線矢印で示す。
【0032】
上室(upper chamber)32は、流入する気流から昆虫を分離するサイクロン室(cyclone chamber)という形態で分離スペースとして作用する。上室は、チャンバー32の上部に昆虫入口322と吸込口(suction outlet)324を有し、チャンバー32の下部に昆虫出口326を有している。吸入口(suction inlet)324は、吸引を発生させる機械に接続され、それにより、上室32内の気圧を下げることができる。いくつかの実施の形態において、この機械は例えば掃除機であってもよい。
【0033】
上室32の内部の気圧が下がることで、昆虫入口322への吸引が発生する。昆虫入口322は、本開示による飼育容器に接続されていてもよい。例えば、昆虫入口322を図2a~図2cによる飼育容器に接続してもよい。吸引によって昆虫が飼育容器から吸引され、気流によって上室32に向かって運ばれる。昆虫が上室32に入ると、(重力により補助されて)下方に落下して、気流から分離されるよう、吸引と気流とを選択することができる。同時に、粉塵および他の小さいごみなどの軽い物体は、吸入口324に吸引されることがある。上室32の断面が円錐形であるため、昆虫は上室32の昆虫出口326に滑り込む。上室の内壁は、昆虫が壁に付着しにくいような加工や処理を施してもよい。
【0034】
上室32の昆虫出口326は、下室34に通じるように構成されている。下室34は、分離室として作用する。下室は、上室32の昆虫出口から昆虫が落下する分離トレイ36の形態の分離面を含む。下室34はまた、排出口(outlet)344を含む。下室34および分離トレイ36は、飼育容器の底部から吸引ラインに吸い込まれた昆虫および残りのごみ(食べ残しの飼料および/または昆虫のフラス(frass)等)が重力に補助されて分離トレイ36に落下するように構成されてもよい。分離トレイ36は、生きているコオロギがそこから降りて排出口344に落下することができるように構成されている。図3aにおいて、トレイ36は、トレイ36の中央の平面構造361と、トレイ36の周縁部の平面構造361の両側の管状構造362とを含む。管状構造362の上面側の内側部分364は、昆虫が登れるように構成または処理されてもよく、一方で、管状構造362の上面側の外側部分366は、外側部分が滑りやすく、昆虫がそこから落下するように構成または処理されてもよい。シェルターを求める本能と、トレイ36上に落下している他の昆虫の接近により、トレイ36から生きている昆虫を追い出し、トレイ36上には死んだ昆虫のみが残るようにする。さらに、分離トレイ36は、可能性のあるごみがシフターグリッド(shifter grid)を通過してリザーバ(reservoir)に落下し、リザーバ内に残るように構成されてもよい。これにより、第2段階の分離が提供される。図3aにおいて、平面構造はふるい(sift)であってもよく、その下にはリザーバ368が配置される。図3bは、下室34内のトレイ36の斜視図(チャンバの手前側を切り取った状態)である。図3bにおいて、2つの管状構造362は、ふるい361の両側にある。その上面で、両管状構造とも、昆虫が登ることができる内側部分364と、昆虫にとって滑りやすい外側部分と、を有する。図3bには、ふるい361を通過してごみが落下するリザーバ368も示されている。いくつかの実施の形態において、分離トレイ全体(リザーバを有する)を下室から取り出して洗浄することができる。また、ふるいはトレイから取り外し可能であってもよい。例えば、下室に水平スリットを設け、そこから平面ふるいを取り外し、再び設置できるようにしてもよい。このようにして、トレイ36は、トレイ全体を取り外さずに洗浄することができる。下室34の排出口344は、昆虫を凍結するユニットおよび/または昆虫をさらに処理する他のユニットにつながっていてもよい。図3bには、直方円錐形状(rectangular conical shape)の分離室が示されているが、本開示による分離配置のチャンバーは、このような形状に限定されるものではない。例えば、いくつかの実施の形態において、チャンバーが円錐形状を有していてもよい。いくつかの実施の形態において、リザーバの代わりに、下室は、下室のじょうご形状の内部に別のじょうごを形成する第2の円錐形状を含んでいてもよい。図3cは、じょうご形状の下室35が分離トレイ37の直下に配置された第2の内側じょうご378を含む実施の形態を示す図である。分離トレイ37のふるい371を通過したごみは、内側じょうご378の口の中に落下する。内側じょうご378は、ふるいを通過して落下するごみを、例えば、より大きなリザーバに導くことができる。図3aの実施の形態と同様に、昆虫は図3cの分離トレイ37の管状構造372を乗り越えることができる。管状構造372を乗り越えると、内側じょうご378を囲む排出口354に落下する。
【0035】
飼育環境の構造および特徴に加え、飼料と水の量が環境中で飼育された昆虫集団の成長速度に大きく影響する。昆虫に十分な飼料が供給されなければ、昆虫の集団は最適な速度で成長することはできない。同時に、飼料の過剰供給は、飼料の廃棄物や衛生状態の問題につながるかもしれない。したがって、実際の飼料の消費量に基づいて、飼育容器で利用できる飼料の量を制御することが好ましい。したがって、本開示による飼育システムのさらに別の態様は、自動給餌である。このため、本開示による飼育システムは、飼育容器内の昆虫に液体を供給するように構成された液体ディスペンサーと、飼育容器内の昆虫に飼料を供給するように構成された自動飼料ディスペンサーと、をさらに含んでもよい。また、システムは、自動飼料ディスペンサーを制御するように構成された制御システムを含んでもよい。飼育容器内の昆虫集団の規模の推定に応じて、飼料の量(または供給速度)を制御してもよい。
【0036】
昆虫集団の規模の推定は、例えば、収集した過去のデータに基づいて行うことができる。異なる成長段階における昆虫集団の(成長サイクルの)モデルを形成してもよく、制御システムは、このモデルに基づいて、昆虫に供給される飼料の量および/または速度を適応させるように構成されてもよい。水の消費量は、昆虫集団の規模について信頼できるフィードバックを提供するために使用されてもよい。したがって、システムは、液体ディスペンサーからの液体消費量を検出するためのセンサーをさらに含んでもよく、制御システムは、検出された液体消費量に基づいて供給される飼料の量を制御するように構成されてもよい。図4は、本開示による自動給餌を有する飼育システムを例示的に示すブロック図である。図4において、飼育システムは、本開示による飼育容器42(例えば、図1a、1b、2a、および2bに示すような)と、容器42内の昆虫に水を供給するウォーターディスペンサー44と、昆虫に飼料を供給する飼料ディスペンサー46と、を含む。ウォーターディスペンサー44は、ウォーターディスペンサー44が供給する水の消費量を測定するセンサー441を含む。飼料ディスペンサー46は、制御信号に応答して飼料ポーションの大きさおよび/または放出される速度を制御する調整ユニット462(例えば、電気制御バルブ)を含む。飼育システムは、さらに、センサー441から測定データを入力として受信するコントローラ48を備える。そして、コントローラ48は、測定データに基づいて供給される飼料の適正な量/速度を決定し、決定した適切な飼料の量/速度に基づいて調整ユニット862を制御する制御信号を生成してもよい。
【0037】
適切な量は、さまざまな方法で決定できる。いくつかの実施の形態において、昆虫集団の現在の規模の正確な推定を作成する際に、検出された液体消費量を昆虫集団のモデルとともに使用してもよい。この推定に基づいて、供給される飼料の量(または飼料の供給速度)を調整してもよい。いくつかの実施の形態において、システムは、昆虫集団の規模の推定に、温度測定値および/または換気量などの他のデータセットも利用してもよい。あるいは、いくつかの実施の形態において、検出した水の消費量に基づいて、飼料の量や供給速度を単に直接適応させるだけでもよい。水の消費量および/または推定個体数(estimated population)は、監視目的で使用されてもよい。例えば、水の消費量または推定個体数が突然低下する、または期待値から乖離する場合、アラームを発して人員に問題を認識させることができる。
【0038】
以下では、本開示による飼育システムの2つの例示的な実施の形態を提示する。第1の実施の形態において、飼育環境は、開放気候(open-climate)の飼育容器の形態である。「開放気候の飼育容器」という表現は、独自に独立して制御可能な気候を持たない飼育容器として理解されることを意図している。容器は、例えば図1aおよび図1bに示すものと類似のまたは同様のものであってもよい。複数の容器が列をなして配置されていてもよい。飼料は、飼育容器(または複数の容器)に手動で供給してもよいし、例えば移動するディスペンサーロボットで供給してもよい。水は中央の散水システムで供給してもよいし、それぞれの飼育容器に、独自に独立して制御可能なウォーターディスペンサーを設けてもよい。後者の場合、ウォーターディスペンサーに水の消費量のセンサーを搭載し、昆虫集団の規模をフィードバックさせることも可能である。このフィードバックは、例えば上の自動給餌との関連で述べたように、飼育プロセスの給餌の調整および/または進捗状況の監視に利用できる。飼育容器は開放気候容器であるため、それぞれの飼育容器内の気候は周囲の気候に伴って変化する。最適な飼育のための気候パラメータを最適化するために、飼育容器は気候制御された(climate-controlled)施設内に設置されていてもよい。手作業がより手ごろな価格である場合、および/または飼育容器/容器を気候制御された施設に置くことが経済的に合理的な場合、このようなアプローチが好ましいことがある。
【0039】
本開示による飼育システムの第2の実施の形態において、閉鎖気候の(closed-climate)飼育容器が使用されている。この文脈において、「閉鎖気候の飼育容器」という表現は、独自に独立して制御可能な気候を持つ飼育容器と理解されることを意図している。そのために、飼育容器の内容積が周囲の気候から(例えば蓋で)密閉される。飼育システムは、飼育用マトリックスを有する少なくとも1つの飼育容器を含んでもよい。飼育容器および飼育用マトリックスは、例えば、第1の実施の形態(および図1aおよび図1b)で説明したものと類似のまたは同様のものであってもよい。飼育容器には、自動飼料ディスペンサーとウォーターディスペンサーとが設けられている。好ましくは、飼育システムは、複数のこのような飼育容器を含む。
【0040】
第2の実施の形態における飼育容器には、飼育容器の内部の少なくとも1つの気候パラメータ(温度および/または湿度など)を制御する気候制御配置が設けられていてもよい。気候制御は、飼育容器の壁面に給気口(ventilation inlet)と排気口(ventilation outlet)とを含んでもよい。気候制御は、さらに容器内にヒーターを備えてもよく、飼育容器に入る空気を容器外で暖めてもよい。第2の実施の形態における飼育システムは、それぞれの飼育容器が分離した独立型ユニットとなるように構成できる。飼育容器はコンパクトで積み重ね可能な形態に構成されてもよく、飼育プロセスを維持するために必要な機械は、容器内の意図する集団の大きさに最適化されてもよい。
【0041】
それぞれの飼育容器はコンテナ内の飼育プロセスを維持するためのすべての機械を含むため、飼育容器の使用数を簡単に減らしたり増やしたりでき、飼育プロセスの能力を調整することも可能である。また、それぞれの飼育容器内の飼育プロセスを個別に制御することも可能である。異なる飼育容器の昆虫を互いに分けているので、全体の衛生管理がしやすく、病気や害虫の蔓延を防ぐことができる。
【0042】
さらに、飼育容器内の気候は周囲の気候と異なることがあるため、飼育容器外の気候を人間にとってより許容できるレベルに調整できる。例えば、コオロギの飼育では、コオロギの飼育に好まれる32℃という比較的高い温度に人員が耐える必要はない。さらに、隔離することで、昆虫の生息環境から発生する粉塵および他の微粒子の人員への曝露を最小限に抑えることができる。これにより、(例えば、長時間の曝露による)アレルギー反応の発症リスクを最小限に抑えることができる。
【0043】
以上、飼育容器での飼育に関連して自動給餌について説明したが、本開示による自動給餌は、大型施設内の広い飼育スペースおよびエリアなど、他の種類の飼育環境にも適用可能である。さらに、上の段落では、自動給餌に関連する集団の大きさの推定について述べているが、集団の大きさの推定は、飼育システムにおける他の変数の最適化に利用することが可能である。さらに、上述の給餌システムは、ほとんど本開示による飼育用マトリックスに関連して議論されているが、給餌システムは、従来の卵パックベースおよびボトル仕切ベースの構造を含む他の種類の生息環境構造と併用することも可能である。
【0044】
昆虫の飼育プロセスを最適化する上で重要な役割を果たすと思われるさらに別の態様は、繁殖(すなわち、産卵(egg-laying)、抱卵(incubation)、孵化(hatching)など)である。例えば、コオロギは世代ごとに10倍も比較的容易に繁殖する。条件がよければ、50倍、最適な環境では世代ごとに200倍もの繁殖が可能である。しかし、繁殖の一貫性および子孫の質の高さも、飼育プロセスの成功において重要な役割を果たす。本開示によると飼育システムにおいて、繁殖は別ユニットで行われてもよい。このユニットは、例えば、上の本開示による飼育システムの第2の実施の形態に関連して述べたように、本開示による飼育容器の気候制御したバージョンであってもよい。このように、環境パラメータを抱卵および孵化のためのレベルに制御してもよい。例えば、最良の結果を得るために、抱卵および孵化の間、湿度を好ましくは高いレベルに保ってもよい。さらに、抱卵/孵化ユニットが分離されているため、好ましくない侵略的外来昆虫種(例えば、ハエやクモなど)およびその他の害虫の量を容易に制御できる。卵から孵化した幼虫を飼育容器にセットし、その後飼育プロセスを開始してもよい。幼虫の一部(例えば、2~10%)は、新しい世代の卵の繁殖に使用できる。
【0045】
新生幼虫の数を最大にするために、昆虫に特に専用の繁殖環境を提供してもよい。繁殖環境として従来から使用されている材料に、ココナッツ繊維(coconut fibre)およびコケ(moss)がある。これらの材料は天然材料であるため、繁殖プロセスに独自の生物学的課題をもたらす。例えば、天然材料はそれぞれ独自の微生物を保有していることがある。さらに、これらの材料の中から卵を見つけ、材料から卵を分離することは、非常に困難な場合がある。したがって、本開示は、本開示による繁殖環境をも記述している。繁殖環境は、昆虫が卵を産み付ける可能性のあるマイクロファイバー布を含む。好ましくは、マイクロファイバー布は、マイクロファイバーシェニール布(microfiber chenille cloth)である。マイクロファイバーシェニール布は、布表面から伸びる管状の外観のマイクロファイバー構造の多数の小塊(nodules)の形態であってもよい。構造は、例えば、約2~5cmの長さであってもよい。シェニール布は、産卵に適した生息環境を提供する。卵は布の上に見えるので、その数を簡単に推定できる。さらに、卵を布から簡単に剥がすことができる。卵を収穫する時期になると、布が容器内の液体(例えば、水)に浸され、小塊を膨張させることがある。その結果、卵は小塊から落下し、容器の底に漂う。天然材料と異なり、マイクロファイバー布から卵以外の材料はほとんど剥がれない。卵を収集した後、布を消毒(sanitized)または滅菌(sterilized)して再利用してもよい。本開示による上述の繁殖環境は、繁殖環境からの卵の分離を非常に迅速かつ清潔に行うことができる。繁殖環境は、特にコオロギに適している。
【0046】
本開示にはまた、本開示による飼育システムの上述の態様を使用する飼育方法が記載されている。飼育方法は、特に食用コオロギの飼育に適している。図5は、方法の簡略化したフロー図を示す。方法は、増殖、飼育、収穫、および後処理の4つの主要な段階に分けることができる。図5において、これらの段階をセクション50、52、54、および56として示している。
【0047】
第1段階50は、産卵、抱卵、および孵化に関する段階を含んでいてもよい。図5において、ステップ502、504、および506でこれらの態様をカバーしている。例えば、飼育用の新しい幼虫を準備するために、本開示による方法は、本開示の以前の段落で述べたように、産卵面としてマイクロファイバー布を提供することを含んでもよい。
【0048】
図5の第2段階52において、収穫するために昆虫を飼育している。また、第2段階52は、飼育環境の準備に関連するステップを含んでいてもよい。図5において、これをステップ522として示している。本開示による飼育用マトリックスは、好ましくは第2段階52で使用される。飼育用マトリックスは、本開示による飼育容器内にあることが好ましい。以前の段落で述べたように、飼育マトリックスシートは、細長いシートが格子状の構造を形成するように、細長いシートを貫通する切込みのパターンを有する細長いシートであってもよい。次に、方法は、飼育マトリックスシートを飼育マトリックスラックの上に折り畳んで、複数の重なり合う、垂れ下がったひだを形成することを含んでもよい。飼育マトリックスラックは、前の段落で述べたように、水平面に一列に配置された複数の平行なスポークを含んでもよい。
【0049】
第2段階52は、飼育容器内の昆虫に液体ディスペンサーで液体を供給し、液体ディスペンサーからの液体消費量を検出し、および、飼育容器内の昆虫に自動飼料ディスペンサーで飼料を供給することをさらに含んでいてもよい。前の段落で述べたように、供給される飼料の量は、検出された液体消費量に基づいてもよい。飼料と水の供給制御は、図5のステップ524として示されている。水の消費量は昆虫集団の規模の推定に使用してもよく、例えば、飼料の供給量はこの推定に基づいてもよい。さらに、前述したように、水の消費量は監視目的でも使用できる。この監視を図5のステップ526として示す。図5に示すように、第2段階5は、飼育容器の内部の気候を制御するステップ528を含んでいてもよい。
【0050】
昆虫が十分に大きくなると、方法は第3段階54に移行することができ、昆虫が収穫される。例えば、方法の第3段階54は、飼育容器の飼育用マトリックスからスイーパー装置で昆虫を取り除くことを含んでもよい。図5は、段階54における昆虫のスイーピングのステップ542を示している。前に述べたように、スイーパー装置は、飼育用マトリックスをそれらの間に受け、飼育用マトリックスがブラシの間に搬送される間に飼育用マトリックスから昆虫を遠ざけるおよび/または取り除くように構成された少なくとも二つの対向する回転ブラシを含んでもよい。その結果、昆虫は飼育容器の底に落下する。前述のように、飼育容器には、暗い色のカバーで少なくとも部分的に覆われた吸引ラインの入口が設けられていてもよい。このカバーは、パイプの入口が安全な隠れ家であるという印象を昆虫に与える。そして、入口に近づいた昆虫を飼育容器から吸引ラインのある分離室に吸引できる。手順のこの部分は、図5のステップ544として示されている。分離室は、昆虫が吸い込まれる分離スペースと、分離スペースの下の分離面とを画定してもよい。分離スペースと分離トレイとは、昆虫が重力に補助されて分離面に落下するように構成され、分離トレイは生きているコオロギがそこから降りて排出口に落下するように構成されてもよい。
【0051】
排出口からは、例えば、昆虫をさらに処理および/または冷凍するために移送してもよい。図5において、これを第4段階56のステップ562、564として示している。ただし、収穫した昆虫の一部は繁殖に利用してもよい。したがって、図5には、第3段階54の終了時点のステップ844から第1段階50の開始時点に戻るフローパスが示されている。
【0052】
本開示では、主にコオロギに関連して昆虫の飼育を論じているが、本開示による方法およびシステムは、他の種類の食用昆虫の飼育にも使用することが可能である。方法およびシステムを様々な方法で実施できることは、当業者にとって自明である。本発明およびその実施の形態は、上述した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で変更可能である。
図1a
図1b
図1c-1d】
図1e
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4
図5