(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】水性樹脂エマルション及び塗装品
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241003BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20241003BHJP
C08F 265/00 20060101ALI20241003BHJP
C08F 2/24 20060101ALI20241003BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241003BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20241003BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241003BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20241003BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20241003BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241003BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L101/02
C08F265/00
C08F2/24
C09D5/02
C09D133/04
C09D5/00 D
C09K23/52
C09K3/10 E
B32B27/30 A
B32B5/18
(21)【出願番号】P 2024031593
(22)【出願日】2024-03-01
【審査請求日】2024-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】小野田 涼子
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-077707(JP,A)
【文献】特開2004-307544(JP,A)
【文献】特開2021-155649(JP,A)
【文献】特開2006-316097(JP,A)
【文献】特開2022-077708(JP,A)
【文献】特開2020-085492(JP,A)
【文献】国際公開第2020/085263(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079539(WO,A1)
【文献】特開2006-335831(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114316301(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0187723(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0077982(KR,A)
【文献】特開2004-352846(JP,A)
【文献】特開平7-278463(JP,A)
【文献】特開2019-94458(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142766(WO,A1)
【文献】特開2006-342221(JP,A)
【文献】特開2020-117668(JP,A)
【文献】特開2018-59094(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079315(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00
C08L 101/02
C08F 265/00
C08F 2/24
C09D 5/02
C09D 133/04
C09D 5/00
C09K 23/52
C09K 3/10
B32B 27/30
B32B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と、前記内層を取り囲んだ保護層とを含む樹脂粒子を含有する水性樹脂エマルションであって、
前記内層は、重合性単量体(a1)と、架橋性単量体(a2)とを構成単位として含む共重合体(A)を含み、
前記保護層は、重合性単量体(b1)と、カルボキシ基含有重合性単量体(b2)とを構成単位として含む共重合体(B)と、連鎖移動剤とを少なくとも含み、
前記重合性単量体(a1)と前記重合性単量体(b1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、水酸基含有不飽和単量体、アミド基含有不飽和単量体、及びピペリジル基含有不飽和単量体の少なくとも1つを含み、
前記共重合体(A)は、前記共重合体(A)を構成する全単量体の100重量%中に前記架橋性単量体(a2)を0.1~15重量%で含有し、
前記共重合体(B)は、前記共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%中に前記カルボキシ基含有重合性単量体(b2)を5~20重量%で含有し、
前記共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が3000~20000であり、
前記共重合体(A)の平均粒子径D
Aと前記樹脂粒子の平均粒子径D
Bとの比(D
A/D
B)が、0よりも大きく0.70以下であり、
ここで、平均粒子径D
Aはレーザー回析・散乱法によって測定され、平均粒子径D
Bは動的光散乱法によって測定される、
水性樹脂エマルション。
【請求項2】
前記共重合体(B)は、架橋性単量体(b3)を構成単位として更に含み、
前記架橋性単量体(b3)と前記架橋性単量体(a2)は、多官能性単量体及びシランカップリング剤の少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の水性樹脂エマルション。
【請求項3】
前記共重合体(B)は、前記共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%に対して前記連鎖移動剤を0.1~15.0重量%で含有する、
請求項1に記載の水性樹脂エマルション。
【請求項4】
前記共重合体(A)は、前記共重合体(A)を構成する全単量体の100重量%中に前記重合性単量体(a1)を85~99.9重量%で含有し、
前記共重合体(B)は、前記共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%中に前記重合性単量体(b1)を80~95重量%で含有する、
請求項3に記載の水性樹脂エマルション。
【請求項5】
前記共重合体(B)のpHが7.0~10.5である、
請求項1に記載の水性樹脂エマルション。
【請求項6】
前記共重合体(B)のヘイズが0~25%である、
請求項1に記載の水性樹脂エマルション。
【請求項7】
前記共重合体(A)と前記共重合体(B)の重量比(B/A)は、25/75~75/25である、
請求項1に記載の水性樹脂エマルション。
【請求項8】
前記平均粒子径D
Bが50~300nmである、
請求項1に記載の水性樹脂エマルション。
【請求項9】
シーラー用途及びプライマー用途の両方を有する、
請求項1に記載の水性樹脂エマルション。
【請求項10】
前記共重合体(A)は、前記共重合体(A)を構成する全単量体の100重量%中に前記重合性単量体(a1)としてスチレン系単量体を15重量%以下で含有し、及び/又は
前記共重合体(B)は、前記共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%中に前記重合性単量体(b1)としてスチレン系単量体を15重量%以下で含有する、
請求項1から9のいずれか一項に記載の水性樹脂エマルション。
【請求項11】
基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に設けられる、請求項1に記載の水性樹脂エマルションで形成された塗膜と、を備える、
塗装品。
【請求項12】
前記塗膜のゲル分率が50~100%である、
請求項11に記載の塗装品。
【請求項13】
前記基材は、無機多孔質基材を含む、
請求項11に記載の塗装品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂エマルション及び塗装品に関する。
【背景技術】
【0002】
建築現場では、年々補修用途の要望が増えてきている。現在、洋瓦、経年劣化スレート屋根、各種窯業系屋根素材、及び旧塗膜等への高付着性、脆弱表面補強効果、及び上塗り塗膜との密着性を両立した補修下塗り材(以下、シーラーと呼ぶ)として弱溶剤可溶アクリルラッカー型NAD樹脂塗料が汎用的に使用されている。近年、環境への配慮から、上塗り塗料のみならず、シーラーに関しても溶剤型から水性への転換が図られており、水性補修用シーラーが多く開発されている。
【0003】
しかしながら、溶剤型シーラーに比べて、水性補修用シーラーでは各種基材及び旧塗膜への濡れ及び浸透性が悪く、基材密着性が低い。また、水性補修用シーラーの乾燥も遅いことから、常温乾燥では造膜不良を起こし、耐水性及び上塗り塗料との密着性が悪化するなどの問題が多くある。
【0004】
そこで、特許文献1、2は、芳香族ビニルモノマー(例えば、スチレン、α-メチルスチレン等)を重合する事によって緻密な塗膜を形成し、耐透水性及び密着性を向上させた水性エマルションを提案している。
【0005】
また、特許文献3、4は、アクリル酸又はメタクリル酸エステル、及びカルボキシ基含有不飽和単量体を含む共重合体をアルカリ中和する事によって水分散媒への溶解を可能にした、水溶性樹脂もしくは、疎水性樹脂を含有した水溶性樹脂エマルションを提案している。これにより、基材に対する濡れ及び浸透性を向上させ、基材密着性及び補強効果を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-181605号公報
【文献】特開2015-166428号公報
【文献】特開平11-217559号公報
【文献】特開2006-241427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2では、水性エマルションの製造工程で芳香族ビニルモノマーを多く使用しているため、水性エマルションからなる塗膜が硬く、かつ脆弱となる。よって、特許文献1、2の水性エマルションでは十分な基材との密着性及び基材の補強効果が得られないことがある。
【0008】
また、特許文献3、4では、カルボキシ基含有不飽和単量体の量が多く、常温から寒冷地などの低い温度では塗膜の乾燥が遅く、耐水性及び上塗り塗料との密着性が十分ではない。また、特許文献4では、樹脂粒子の平均粒子径を小さくする事により(50nm以下)、塗膜の耐水性を向上させているが、貯蔵安定性が十分ではない。
【0009】
そこで、本発明は、基材及び上塗り塗料との密着性、速乾性、耐水性、及び貯蔵安定性に優れる水性樹脂エマルションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的を達成するために、本発明は以下の構成を備える。すなわち、内層と、前記内層を取り囲んだ保護層とを含む樹脂粒子を含有する水性樹脂エマルションであって、前記内層は、重合性単量体(a1)と、架橋性単量体(a2)とを構成単位として含む共重合体(A)を含み、前記保護層は、重合性単量体(b1)と、カルボキシ基含有重合性単量体(b2)とを構成単位として含む共重合体(B)と、連鎖移動剤とを少なくとも含み、前記重合性単量体(a1)と前記重合性単量体(b1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、水酸基含有不飽和単量体、アミド基含有不飽和単量体、及びピペリジル基含有不飽和単量体の少なくとも1つを含み、前記共重合体(A)は、前記共重合体(A)を構成する全単量体の100重量%中に前記架橋性単量体(a2)を0.1~15重量%で含有し、前記共重合体(B)は、前記共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%中に前記カルボキシ基含有重合性単量体(b2)を5~20重量%で含有し、前記共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が3000~20000であり、前記共重合体(A)の平均粒子径DAと前記樹脂粒子の平均粒子径DBとの比(DA/DB)が、0よりも大きく0.70以下であり、ここで、平均粒子径DAはレーザー回析・散乱法によって測定され、平均粒子径DBは動的光散乱法によって測定される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材及び上塗り塗料との密着性、速乾性、耐水性、及び貯蔵安定性に優れる水性樹脂エマルションを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】D
A/D
B=0の場合の樹脂粒子エマルションが基材に浸透する様子を説明する図。
【
図3】D
A/D
B=0.7の場合の樹脂粒子エマルションが基材に浸透する様子を説明する図。
【
図4】D
A/D
B=0.7よりも大きい場合の樹脂粒子エマルションが基材に浸透する様子を説明する図。
【
図5】D
A/D
B=0の場合の樹脂粒子エマルションが基材上に残留する様子を説明する図。
【
図6】D
A/D
B=0.7の場合の樹脂粒子エマルションが基材上に残留する様子を説明する図。
【
図7】D
A/D
B=0.7よりも大きい場合の樹脂粒子エマルションが基材上に残留する様子を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0014】
本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含むものとする。
【0015】
本明細書において「(メタ)アクリル」との文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。また、同様に、「(メタ)アクリレート」との文言には、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、並びに、(メタ)アクリル酸等を挙げることができ、(メタ)アクリル酸は塩であってもよい。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸を用いることがより好ましく、(メタ)アクリル酸エステルを用いることがさらに好ましい。
【0016】
<水性樹脂エマルション>
水性樹脂エマルションは、内層と、内層を取り囲んだ保護層とを含む樹脂粒子を含む。このような水性樹脂エマルションを、保護コロイド型エマルションとも呼ぶことができる。内層は、共重合体(A)で形成される。保護層は、共重合体(B)で形成される。ここで、
図1は、樹脂粒子の概要を説明する図である。
【0017】
樹脂粒子100は、内層110と、内層110を取り囲んだ保護層120とを含む。なお、
図1は、説明の容易化のため、1つの樹脂粒子100のみを示すが、複数の樹脂粒子100が分散媒(例えば、水)中に存在する。内層110(共重合体(A))は、分散媒(水)に不溶の高分子量ポリマーである。保護層120(共重合体(B))は、塩基性化合物で中和された水溶性樹脂である。保護層120は、分散安定化剤として機能することができる。平均粒子径130は、内層110の平均粒子径であり、後述の平均粒子径D
Aに相当する。平均粒子径140は、内層110を取り囲んだ保護層120を含む樹脂粒子100の平均粒子径であり、後述の平均粒子径D
Bに相当する。なお、本明細書において「平均粒子径D
B」は、内層110を取り囲んでいない状態の保護層120単独の平均粒子径を表すものではないことに留意されたい。
【0018】
共重合体(A)と共重合体(B)の重量比(B/A)は、25/75~75/25である。ここで、重量比(B/A)が、上記所定の比率の範囲にあることで、後述のDA/DB比を所定の比率に制御することができる。一方で、重量比(B/A)が、上記所定の比率の範囲に無い場合、DA/DB比が所定の比率にならず、水性樹脂エマルションに要求される性能のうち一部のみしか実現できなくなる。
【0019】
共重合体(A)の平均粒子径D
Aと樹脂粒子の平均粒子径D
Bとの比(D
A/D
B)が、0よりも大きく0.70以下である。ここで、平均粒子径D
Aはレーザー回析・散乱法によって測定され、平均粒子径D
Bは動的光散乱法によって測定される。水性樹脂エマルションの樹脂粒子100を、レーザー回析・散乱法によって測定した平均粒子径D
Aと、動的光散乱法によって測定した平均粒子径D
Bとの比であるD
A/D
Bを測定する事によって保護層120の厚みを判定できる。D
A/D
B比が0.70以下の条件を満たす保護層120の厚みがあれば、内層110の粒子を安定に分散する事が出来るため、水性樹脂エマルションの貯蔵安定性が優れる。以下、
図2~4を参照しつつ、D
A/D
B比がそれぞれ異なる樹脂粒子100が無機多孔質基材(一例としてケイカル板)に対して浸透する様子を説明する。なお、「ケイカル板」とは、ケイ酸カルシウムの板を省略した表記である。
【0020】
図2(a)は、D
A/D
B=0の場合の樹脂粒子エマルションを基材に塗布する前の状態を示す。D
A/D
B=0の場合、樹脂粒子100は保護層120のみを有する。樹脂粒子100を基材200に塗布する。基材200は、例えば、ケイカル板である。
図2(b)は、樹脂粒子100が基材200に対して浸透した後の様子を示す図である。基材200の中に保護層120のみが存在する。これにより、基材200の補強及び密着性には優れるが、基材200上に塗膜が無いため、上塗り塗料との密着性及び耐水性が悪くなる。
【0021】
図3(a)は、D
A/D
B=0.7の場合の樹脂粒子エマルションを基材に塗布する前の状態を示す。D
A/D
B=0.7の場合、樹脂粒子100は内層110と保護層120の両方を有する。樹脂粒子100を基材200に塗布する。
図3(b)は、樹脂粒子100が基材200に対して浸透した後の様子を示す図である。基材200の上に内層110が存在するとともに、基材200の中に保護層120が隙間を空けずに存在する。
図3(c)に示すように、内層110(高分子量ポリマー)の粒子間の隙間が無い一様な膜が形成される。これにより、保護層120が基材200中に均一に浸透することによって基材200の補強及び密着性に優れるとともに、基材200上の内層100で形成される一様な膜によって上塗り塗料との密着性及び耐水性が良好となる。
【0022】
図4(a)は、D
A/D
B=0.7よりも大きい場合の樹脂粒子エマルションを基材に塗布する前の状態を示す。D
A/D
B=0.7よりも大きい場合、樹脂粒子100は内層110と保護層120の両方を有する。樹脂粒子100を基材200に塗布する。
図4(b)は、樹脂粒子100が基材200に対して浸透した後の様子を示す図である。基材200の上に内層110が存在するとともに、基材200の中に保護層120が存在する。しかし、内層110の平均粒子径D
Aが大きくなったため、基材200の中で複数の保護層120を均一に配置することが出来ず、保護層120間に隙間が出来てしまっている。これにより、基材200の補強及び密着性が低下してしまうが、上塗り塗料との密着性及び耐水性のみが良好となる。
【0023】
<保護層>
保護層は、重合性単量体(b1)と、カルボキシ基含有重合性単量体(b2)とを構成単位として含む共重合体(B)と、連鎖移動剤とを少なくとも含む。
【0024】
(共重合体(B))
共重合体(B)は、共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%中にカルボキシ基含有重合性単量体(b2)を5~20重量%で含有する。ここで、酸量(カルボキシ基含有重合性単量体の配合量)も共重合体(B)を構成する全てのモノマーを100重量%とした時に、酸量は5~20重量%の範囲である必要がある。例えば、酸量が5重量%よりも少ない場合、共重合体(B)が水溶性樹脂にならない。一方で、酸量が20重量%よりも多い場合、塗膜の乾燥が遅くなり、基材との密着性が低下する。
【0025】
(重合性単量体(b1))
共重合体(B)は、共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%中に重合性単量体(b1)を80~95重量%で含有する。
【0026】
共重合体(B)は、共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%中に重合性単量体(b1)としてスチレン系単量体を0~15重量%で含有することができる。スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、メチルスチレン、t-ブチルスチレンが挙げられる。ここで、15重量%よりも多いスチレン系単量体を用いて共重合体(B)を製造した場合、共重合体(B)の疎水性が強くなるため、共重合体(B)を中和した水溶性樹脂が水に溶解しづらくなる(つまり、保護層の分散安定機能が低下する)。そのため、重合性単量体(b1)としてスチレン系単量体を使用する場合は、15重量%以下での使用が好ましい。すなわち、共重合体(B)は、共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%中に重合性単量体(b1)としてスチレン系単量体を15重量%以下で含有することができる。
【0027】
重合性単量体(b1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、水酸基含有不飽和単量体、アミド基含有不飽和単量体、及びピペリジル基含有不飽和単量体の少なくとも1つを含む。
【0028】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;並びにシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の脂環式の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を挙げることができる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、炭素原子数が1~18(より好ましくは1~12)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0029】
他の(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリルレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;2-クロロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、及びパーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、及び3-(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;カルボキシエチル(メタ)アクリレート、及びカルボキシペンチル(メタ)アクリレート等のカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体;2-スルホエチル(メタ)アクリレート、及び3-スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート;2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレート;メトキシポリエチエレングリコール(メタ)アクリレート、及びフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキル基又はアリール基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
水酸基含有不飽和単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、及び(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
アミド基含有不飽和単量体としては、例えば、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のシアノ基を有する不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-[2-ジメチルアミノエチル](メタ)アクリルアミド、N-[3-ジメチルアミノプロピル](メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、4-アクリロイルモルホリン、及び4-メタクリロイルモルホリン等のアクリルアミド系単量体等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
ピペリジル基含有不飽和単量体としては、例えば、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレートなどを挙げることができ、これらの群から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0033】
(カルボキシ基含有重合性単量体(b2))
カルボキシ基含有重合性単量体(b2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、及びシトラコン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸の無水物;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、及びイタコン酸モノブチルエステル等の不飽和カルボン酸のモノエステルを挙げることができる。これらの不飽和カルボン酸系単量体のうちの1種又は2種以上を用いることがより好ましい。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸がさらに好ましい。
【0034】
(架橋性単量体(b3))
共重合体(B)は、架橋性単量体(b3)を構成単位として更に含むことができる。架橋性単量体(b3)は任意成分であり、例えば、共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%中に0~5重量%で含むことができる。架橋性単量体(b3)は、多官能性単量体及びシランカップリング剤の少なくとも1つを含む。
【0035】
多官能性単量体としては、重合性不飽和結合を2以上有する単量体を用いることができる。多官能性単量体としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレ-ト、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びグリセリンジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;並びにジアリルフタレート等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0036】
また、架橋性単量体としては、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を挙げることもでき、それらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0037】
架橋性単量体は、反応性基の種類に合わせて適宜選択して用いることもできる。例えば、反応性基がカルボニル基である場合には、多官能ヒドラジド化合物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がカルボキシ基である場合には、多官能エポキシ化合物、多官能カルボジイミド化合物、メチロールメラミンなどのメラミン系架橋剤、多官能オキサゾリン化合物、多価金属などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がリン酸基又はリン酸エステル基である場合には、水酸基を多く有する化合物を架橋剤として用いることが好ましい。反応性基が水酸基である場合には、多官能イソシアネート化合物、そのブロック化イソシアネート、酸無水物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がグリシジル基である場合には、多官能カルボキシ基含有化合物、ポリアミン、酸無水物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がイソシアネート基又はブロック化イソシアネート基である場合には、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸化合物などを架橋剤として用いることが好ましい。これらの反応性基のうちの1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
反応性基としてカルボニル基を有する重合性単量体としては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、及びアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0039】
反応性基としてカルボキシ基を有する重合性単量体、すなわち、カルボキシ基含有重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、及びシトラコン酸等の不飽和カルボン酸;並びにマレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、及びイタコン酸モノブチルエステル等の不飽和カルボン酸のモノエステル;を挙げることができる。また、カルボキシ基含有重合性単量体としては、水に溶解した際にカルボキシ基を生じるものでもよく、例えば、無水マレイン酸、及びイタコン酸無水物等の不飽和カルボン酸の無水物も挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
反応性基としてリン酸基又はリン酸エステル基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
反応性基として水酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、及び[4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
反応性基としてイソシアネート基又はブロック化イソシアネート基を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル、及び2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアナート等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0043】
反応性基としてグリシジル基を有する重合性単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0044】
(連鎖移動剤)
共重合体(B)は、共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%に対して連鎖移動剤を0.1~15.0重量%で含有する。また、上記所定量の連鎖移動剤を共重合体(B)に含有させることで、共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)を3000~20000に制御することが出来るため、基材への含浸性を高めることができる。連鎖移動剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ヘキシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、及び、t-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類等から1種または2種以上を用いることができる。
【0045】
(親水性溶剤)
親水性溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、tert-アミルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ダイアセトンアロコールなどのケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類から1種または2種以上を用いることができる。なお、重合性単量体(b1)等の重合反応中に親水性溶剤を使用する事によって、共重合体(B)の分子量調整及び分子鎖に入り込む効果が生じるため、共重合体(B)の水溶化を補助することができる。
【0046】
(共重合体(B)の物性)
共重合体(B)のpHが7.0~10.5である。ここで、共重合体(B)を水溶性樹脂にする為に、重合終了30分後に塩基性化合物によって共重合体(B)は中和される。共重合体(B)のpHを7.0~10.5の範囲にする事によって、共重合体(B)の粒子を水溶性樹脂化する。ここで、しっかり共重合体(B)を水溶性樹脂にしないと、共重合体(A)を内包出来ないため、上塗り塗料との密着性等を発揮できない。
【0047】
共重合体(B)のヘイズが0~25%である。ここで、共重合体(B)の水溶性樹脂化の目安として、共重合体(B)の中和後のヘイズ(イオン交換水を標準:0とする)が、0~25%の範囲に入っていれば、共重合体(B)が保護層として機能する。
【0048】
共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が3000~20000である。ここで、共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が上記数値範囲にあることにより、共重合体(B)の基材への含浸性を高めることができる。共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が3000よりも小さい場合、保護層の機能が低下するため、最終生成物の水性樹脂粒子エマルションを形成できない。一方で、共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が20000よりも大きい場合、共重合体(B)が水に溶解しづらくなるため、水溶性樹脂になりにくく、基材への含浸性が低下する。仮に、高分子量の共重合体(B)が水に溶解した水溶性樹脂が基材に含浸した場合、共重合体(B)の凝集力が高いため、基材材破を引き起こす。このように、共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が20000よりも大きい場合、基材密着性が低下するといった問題がある。
【0049】
平均粒子径DBが50~300nmである。平均粒子径DBが、50nmよりも小さい場合、DA/DBが0より大きく0.70以下の範囲ではコア部(内層)に対して保護層が少なくなり、内層の粒子が分散出来ない。より具体的には、上記の場合では50℃貯蔵安定性試験にて凝集、沈降が見られる。一方で、平均粒子径DBが、300nmよりも大きい場合、DA/DBが0より大きく0.70以下の範囲ではコア部(内層)の粒子径が最大で210nm以上となる為、水性シーラーが浸透する基材では耐水性が悪化してしまう。保護層は浸透する基材に対して浸透する為、特に問題はないが、基材上で膜となるコア部(内層)の粒子径が210nmより大きいと粒子間スポットが大きくなりすぎて、耐水性に悪影響を及ぼしてしまう。
【0050】
(共重合体(B)の製造方法)
共重合体(B)は、水系分散媒に、重合性単量体(b1)~架橋性単量体(b3)の任意の組み合わせを乳化・分散させることで製造される。乳化・分散させる方法としては、例えば、公知の乳化重合を挙げることができる。
【0051】
(水系分散媒)
水系分散媒としては、例えば、水、水にアルコール(例えば、メタノール、エタノールなど)を混合した混合溶媒、アルコールやグリコールエーテル類などの水溶性溶剤を挙げることができ、これらの群から選ばれる1種以上を使用することができる。
【0052】
(乳化剤)
重合性単量体(b1)等を重合する際に、乳化剤として界面活性剤を用いることができる。使用する乳化剤は、特に限定されるものではないが、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。本発明においては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を用いることが好ましく、アニオン性界面活性剤を用いることがより好ましい。
【0053】
(重合開始剤、重合促進剤)
重合性単量体(b1)等を重合する際に、重合開始剤を使用することができる。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、及び、過酸化水素等の過酸化物、並びに、アゾ化合物等を挙げることができ、1種又は2種以上を用いることができる。また、過酸化物と併用したレドックス重合開始剤や、重合促進剤として、1種又は2種以上の還元剤を用いることもできる。
【0054】
過硫酸塩の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウム等を挙げることができる。有機過酸化物の具体例としては、過酸化ベンゾイル及びジラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t-ブチルクミルパーオキサイド及びジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシラウレート及びt-ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド及びt-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等を挙げることができる。アゾ化合物の具体例としては、2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩及び4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等を挙げることができる。
【0055】
重合促進剤としての還元剤は、特に限定されるものではないが、例えば、アスコルビン酸及びその塩、エリソルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、亜硫酸及びその塩、重亜硫酸及びその塩、チオ硫酸及びその塩、並びに鉄(II)塩等を挙げることができる。
【0056】
(塩基性化合物)
カルボキシル基含有重合性単量体(b2)由来のカルボキシ基を中和する際に使用される塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びジメチルアミノエタノール等のアミン類;1‐アミノ-2-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、N,N-ジメチルアミノエタノールなどのアミノアルコール類;および、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物;などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0057】
(その他の添加剤)
共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が3000~20000の範囲であれば、必要に応じて架橋剤を使用しても良い。架橋剤の使用により、水性樹脂エマルションの基材密着性及び耐水性を向上できる。
【0058】
<内層>
内層は、重合性単量体(a1)と、架橋性単量体(a2)とを構成単位として含む共重合体(A)を含む。ここで、架橋剤(架橋性単量体(a2))を共重合体(A)に含有させる事によって共重合体(A)が疎水化するため、基材上の塗膜が耐水性と、上塗り塗料との密着性を有することができる。また、共重合体(A)が、親水性が強い保護層(共重合体(B))により内包されるといった効果も生じる。
【0059】
(共重合体(A))
共重合体(A)は、共重合体(A)を構成する全単量体の100重量%中に重合性単量体(a1)を85~99.9重量%で、架橋性単量体(a2)を0.1~15重量%で含有する。
【0060】
(重合性単量体(a1))
共重合体(A)は、共重合体(A)を構成する全単量体の100重量%中に重合性単量体(a1)としてスチレン系単量体を0~15重量%で含有することができる。スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、メチルスチレン、t-ブチルスチレンが挙げられる。ここで、15重量%よりも多いスチレン系単量体を用いて共重合体(A)を製造した場合、共重合体(A)の構造的な強度は増すが、塗膜が硬くなりすぎて、基材密着性の低下(基材材破)を引き起こすことがある。そのため、重合性単量体(a1)としてスチレン系単量体を使用する場合は、15重量%以下での使用が好ましい。すなわち、共重合体(A)は、共重合体(A)を構成する全単量体の100重量%中に重合性単量体(a1)としてスチレン系単量体を15重量%以下で含有することができる。
【0061】
重合性単量体(a1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、水酸基含有不飽和単量体、アミド基含有不飽和単量体、及びピペリジル基含有不飽和単量体の少なくとも1つを含む。
【0062】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;並びにシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の脂環式の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を挙げることができる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、炭素原子数が1~18(より好ましくは1~12)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0063】
他の(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリルレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;2-クロロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、及びパーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、及び3-(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;カルボキシエチル(メタ)アクリレート、及びカルボキシペンチル(メタ)アクリレート等のカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体;2-スルホエチル(メタ)アクリレート、及び3-スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート;2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレート;メトキシポリエチエレングリコール(メタ)アクリレート、及びフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキル基又はアリール基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0064】
水酸基含有不飽和単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、及び(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0065】
アミド基含有不飽和単量体としては、例えば、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のシアノ基を有する不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-[2-ジメチルアミノエチル](メタ)アクリルアミド、N-[3-ジメチルアミノプロピル](メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、4-アクリロイルモルホリン、及び4-メタクリロイルモルホリン等のアクリルアミド系単量体等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0066】
ピペリジル基含有不飽和単量体としては、例えば、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレートなどを挙げることができ、これらの群から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0067】
(架橋性単量体(a2))
架橋性単量体(a2)は、多官能性単量体及びシランカップリング剤の少なくとも1つを含む。
【0068】
多官能性単量体としては、重合性不飽和結合を2以上有する単量体を用いることができる。多官能性単量体としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレ-ト、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びグリセリンジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;並びにジアリルフタレート等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0069】
また、架橋性単量体(a2)としては、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を挙げることもでき、それらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0070】
架橋性単量体(a2)は、反応性基の種類に合わせて適宜選択して用いることもできる。例えば、反応性基がカルボニル基である場合には、多官能ヒドラジド化合物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がカルボキシ基である場合には、多官能エポキシ化合物、多官能カルボジイミド化合物、メチロールメラミンなどのメラミン系架橋剤、多官能オキサゾリン化合物、多価金属などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がリン酸基又はリン酸エステル基である場合には、水酸基を多く有する化合物を架橋剤として用いることが好ましい。反応性基が水酸基である場合には、多官能イソシアネート化合物、そのブロック化イソシアネート、酸無水物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がグリシジル基である場合には、多官能カルボキシ基含有化合物、ポリアミン、酸無水物などを架橋剤として用いることが好ましい。反応性基がイソシアネート基又はブロック化イソシアネート基である場合には、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸化合物などを架橋剤として用いることが好ましい。これらの反応性基のうちの1種又は2種以上を用いることができる。
【0071】
反応性基としてカルボニル基を有する重合性単量体としては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、及びアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0072】
反応性基としてカルボキシ基を有する重合性単量体、すなわち、カルボキシ基含有重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、及びシトラコン酸等の不飽和カルボン酸;並びにマレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、及びイタコン酸モノブチルエステル等の不飽和カルボン酸のモノエステル;を挙げることができる。また、カルボキシ基含有重合性単量体としては、水に溶解した際にカルボキシ基を生じるものでもよく、例えば、無水マレイン酸、及びイタコン酸無水物等の不飽和カルボン酸の無水物も挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0073】
反応性基としてリン酸基又はリン酸エステル基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0074】
反応性基として水酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、及び[4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0075】
反応性基としてイソシアネート基又はブロック化イソシアネート基を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル、及び2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアナート等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0076】
反応性基としてグリシジル基を有する重合性単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0077】
(共重合体(A)の製造方法)
共重合体(A)は、水系分散媒に、重合性単量体(a1)及び架橋性単量体(a2)を乳化・分散させることで製造される。乳化・分散させる方法としては、例えば、公知の乳化重合を挙げることができる。
【0078】
(水系分散媒)
水系分散媒としては、例えば、水、水にアルコール(例えば、メタノール、エタノールなど)を混合した混合溶媒、アルコールやグリコールエーテル類などの水溶性溶剤を挙げることができ、これらの群から選ばれる1種以上を使用することができる。
【0079】
(乳化剤)
重合性単量体(a1)等を重合する際に、乳化剤として界面活性剤を用いることができる。使用する乳化剤は、特に限定されるものではないが、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。本発明においては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を用いることが好ましく、アニオン性界面活性剤を用いることがより好ましい。
【0080】
(重合開始剤、重合促進剤)
重合性単量体(a1)等を重合する際に、重合開始剤を使用することができる。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、及び、過酸化水素等の過酸化物、並びに、アゾ化合物等を挙げることができ、1種又は2種以上を用いることができる。また、過酸化物と併用したレドックス重合開始剤や、重合促進剤として、1種又は2種以上の還元剤を用いることもできる。
【0081】
過硫酸塩の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウム等を挙げることができる。有機過酸化物の具体例としては、過酸化ベンゾイル及びジラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t-ブチルクミルパーオキサイド及びジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシラウレート及びt-ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド及びt-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等を挙げることができる。アゾ化合物の具体例としては、2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩及び4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等を挙げることができる。
【0082】
重合促進剤としての還元剤は、特に限定されるものではないが、例えば、アスコルビン酸及びその塩、エリソルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、亜硫酸及びその塩、重亜硫酸及びその塩、チオ硫酸及びその塩、並びに鉄(II)塩等を挙げることができる。
【0083】
<水性樹脂エマルションの用途>
水性樹脂エマルションは、シーラー用途及びプライマー用途の両方を有する。水性樹脂エマルションは、例えば、水性シーラー用途(洋瓦、ケイカル板、経年劣化スレート屋根、各種窯業系屋根素材、旧塗膜等の無機建材に対する)及びプライマー用途の両方で使用され得る。
【0084】
従来の水性シーラーは、シーラー用途(含浸基材補強及び基材密着(アンカー効果)用途のこと)、又は、プライマー用途(上塗り塗料の吸い込み抑制、上塗りとの密着性向上用途)の一方しか有していなかった。つまり、ユーザーは、シーラー用途の水性シーラーとプライマー用途の水性シーラーを準備するとともに、これらのシーラーを使い分けながら補修作業に従事しなければならなかった。このように、シーラーの管理及び作業負荷が増える点でユーザーは煩わしいと感じていた。また、水性シーラーを塗布する基材は、一般的に無機多孔質基材であるが、無機多孔質基材の空隙の数(多い、少ない)によってシーラーの浸透性が異なる。つまり、無機多孔質基材の種類(例えば、空隙の大きさ及び数)が変わると、従来の水性シーラーは十分なシール性能を発揮できない、あるいは全くシール性能を発揮できないケースがあった。
【0085】
一方で、本発明の水性樹脂エマルションは、シーラー用途とプライマー用途を両立したシーラーであるため、ユーザーのシーラーの管理及び作業時の負担を軽減することができる。また、水性シーラーを塗布する無機多孔質基材の種類が変わっても、十分なシール性能を発揮できるように本発明の水性樹脂エマルションは以下の特徴を備える。すなわち、水性樹脂エマルションは、保護コロイド型エマルションの形態を取ることで、様々な空隙を有する無機多孔質基材に対するシール及び補強を十分に行うことができる。保護コロイド型エマルションとは、高酸価なエマルションを中和した水溶性樹脂(1層目の保護層)と、この中に形成した水に不溶の高分子量ポリマー(2層目の内層)とを含む樹脂粒子エマルションのことをいう。
【0086】
本発明の水性樹脂エマルションが無機多孔質基材の一例としてケイカル板(水性シーラーが浸透しやすい基材)に浸透するメカニズムについては
図2~4を用いて説明したが、補足説明する。
【0087】
まず、1層目の水溶性樹脂がケイカル板に含浸する事によって、ケイカル板が補強され、ケイカル板との密着性が高まる。このように、水溶性樹脂がシーラー効果を発揮する。次に、ケイカル板に含浸せずに残った2層目の高分子量ポリマーがプライマー効果を発揮することで、上塗り塗料との密着性を高める。
【0088】
一方で、本発明の水性樹脂エマルションが無機多孔質基材の一例としてのスレート板(水性シーラーが浸透しにくい、あるいは浸透しない基材)上で塗膜を形成するメカニズムを
図5~
図7を参照しながら説明する。
【0089】
まず、
図5(a)は、D
A/D
B=0の場合の樹脂粒子エマルションを基材に塗布する前の状態を示す。D
A/D
B=0の場合、樹脂粒子100は保護層120のみを有する。樹脂粒子100を基材300に塗布する。基材300は、例えば、スレート板である。
図5(b)は、樹脂粒子100が基材300上に残留する様子を示す図である。樹脂粒子100が基材300に浸透しないため、基材300上に保護層120のみが存在する。
図5(b)の状態では、保護層120(水溶性樹脂)が乾燥せず、保水性が強い保護層120が水を吸収してしまう。これにより、
図5の樹脂粒子エマルションを浸透しにくい、あるいは浸透しない基材に塗布した場合、造膜性、上塗り塗料との密着性、及び耐水性が悪い。
【0090】
図6(a)は、D
A/D
B=0.7の場合の樹脂粒子エマルションを基材に塗布する前の状態を示す。D
A/D
B=0.7の場合、樹脂粒子100は内層110と保護層120の両方を有する。樹脂粒子100を基材300に塗布する。
図6(b)は、樹脂粒子100が基材300上に残留する様子を示す図である。
【0091】
1層目の保護層120(水溶性樹脂)は基材300(スレート板)に殆ど含浸せずに2層目の内層110(高分子量ポリマー)と共に、基材300(スレート板)上に残る。しかし、水溶性樹脂が高い保水性を有し、かつ粒子形態を取らないため、2層目の共重合体(A)、すなわち高分子量ポリマーの粒子融着の補助の働きをする。これにより、
図6(c)に示すように、内層110(高分子量ポリマー)の粒子間の隙間が無い一様な膜が形成される為、耐水性、上塗り塗料との密着性、及び塗装品(スレート板)の美観性に優れる。
【0092】
図7(a)は、D
A/D
B=0.7よりも大きい場合の樹脂粒子エマルションを基材に塗布する前の状態を示す。D
A/D
B=0.7よりも大きい場合、樹脂粒子100は内層110と保護層120の両方を有する。樹脂粒子100を基材300に塗布する。
図7(b)は、樹脂粒子100が基材300上に残留する様子を示す図である。ここで、
図7(b)の樹脂粒子100は、
図6の樹脂粒子100と比較して、平均粒子径130が大きい内層110と、厚さが薄く、かつ所定量よりも少ない保護層120とを有する。そのため、保護層120(水溶性樹脂)が、内層110の粒子融着を促進することができず、基材300上に内層110間の隙間が無い一様な膜を形成しづらい。これにより、
図7の樹脂粒子エマルションを浸透しにくい、あるいは浸透しない基材に塗布した場合、造膜性、上塗り塗料との密着性、及び耐水性が悪い。
【0093】
この様に、本発明の水性樹脂エマルションは、浸透性が異なる様々な無機多孔質基材に対してシーラー用途及び/又はプライマー用途の効果を十分に発揮する事が出来る。よって、本発明の水性樹脂エマルションは、シーラー用途とプライマー用途の2つの役割を担えるといった優れた効果を有する。
【0094】
<塗装品>
塗装品は、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられる水性樹脂エマルションで形成された塗膜と、を備える。なお、水性樹脂エマルションは上記で説明した水性樹脂エマルションを適用するものとする。
【0095】
塗膜のゲル分率が50~100%である。ここで、水性樹脂エマルションの塗膜(水性樹脂エマルションが乾燥して形成された皮膜)を作製し、塗膜のゲル分率を測定する事によって、耐水性のレベルを判定できる。塗膜のゲル分率が50%未満である場合、塗膜の耐水性が悪く、塗膜のフクレ及びハガレなどにより基材との密着性が低下する。
【0096】
(基材)
基材は、無機多孔質基材を含む。基材としては、例えば、ケイ酸カルシウム板、木片セメント板、パルプセメント板、サイディングボード、劣化した旧塗膜(劣化瓦、劣化コロニアル(登録商標)等)などの水性樹脂エマルションが浸透しやすい基材、及び、スレート板(フレキシブル板)、瓦、トタンなどの水性樹脂エマルションが浸透しづらい基材を挙げることができる。
【0097】
<水性樹脂エマルションの製造方法>
水性樹脂エマルションの製造方法は、少なくとも以下の3つの工程、すなわち、水性媒体中で、界面活性剤、重合開始剤、及び連鎖移動剤の存在下、重合性単量体(b1)80~95重量%と、カルボキシ基含有重合性単量体(b2)5~20重量%とを重合することで共重合体(B)を生成する工程と、共重合体(B)を塩基性化合物で中和する工程と、中和された共重合体(B)の水溶液中で、重合性単量体(a1)85~99.9重量%と、架橋性単量体(a2)0.1~15重量%とを重合することで共重合体(A)を生成する工程と、を含む。重合性単量体(a1)と重合性単量体(b1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、水酸基含有不飽和単量体、アミド基含有不飽和単量体、及びピペリジル基含有不飽和単量体の少なくとも1つを含む。共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が3000~20000である。共重合体(A)の平均粒子径DAと樹脂粒子の平均粒子径DBとの比(DA/DB)が、0よりも大きく0.70以下である。ここで、平均粒子径DAはレーザー回析・散乱法によって測定され、平均粒子径DBは動的光散乱法によって測定される。なお、水性樹脂エマルションの具体的な構成及び特性については上記で説明しているため、詳細な説明は省略する。
【0098】
以下、水性樹脂エマルションの製造方法について説明する。表1は、実施例1~7の原料配合及び物性値を示す。表2は、実施例8~14の原料配合及び物性値を示す。表3は、実施例15~17及び比較例1~4の原料配合及び物性値を示す。表4は、比較例5~11の原料配合及び物性値を示す。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
(実施例1:共重合体(B)の製造方法)
イオン交換水21.8部、乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製、商品名:ラテムルE-118B)2.0部と共に、重合性単量体(b1)としてシクロヘキシルメタクリレート6.5部とメチルメタクリレート15部、カルボキシ基含有重合性単量体(b2)として、メタクリル酸(100%)3.5部、親水性溶剤としてISO-プロピルアルコール1.5部、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタン1.5部を秤量して撹拌した。これにより、共重合体(B)を構成する単量体を混合した乳化混合液(1)を調製した。
【0104】
撹拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置、及び窒素ガス導入管を備えた2Lの3つ口丸底フラスコに、イオン交換水52.5部及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製、商品名:ラテムルE-118B)0.3部を仕込み、フラスコ内の空気を窒素ガスに置換した後、撹拌しながらフラスコの内温を80℃に加温した。ついで、フラスコ内に5%過硫酸アンモニウム水溶液(三菱ガス化学社製、商品名:過硫酸アンモニウム)4.0部を添加した後、直ちに先に調製した乳化混合液(1)と5%過硫酸アンモニウム水溶液1.0部を1.0時間かけて滴下した。そして30分後、トリエタノールアミンを4.4部添加した後、80℃にて30分間放置し、共重合体(B)を得た。
【0105】
(実施例1:共重合体(A)の製造方法)
イオン交換水41.7部、乳化剤としてポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸アンモニウム塩(第一工業製薬社製、商品名:アクアロンKH‐10)2.5部と共に、重合性単量体(a1)として2‐エチルヘキシルアクリレート34.5部、シクロヘキシルメタクリレート19部、及びメチルメタクリレート21部、架橋性単量体(a2)としてトリメチロールプロパントリメタクリレート0.5部を秤量して撹拌した。これにより、共重合体(A)を構成する単量体を混合した乳化混合液(2)を調製した。
【0106】
(実施例1:水性樹脂エマルションの製造方法)
そして、乳化混合液(1)の滴下終了60分後に、調製した乳化混合液(2)と5%過硫酸アンモニウム3.0部を3.0時間かけてフラスコ内に滴下した。そして、フラスコの内温を80℃に保ちながら、更に3.0時間後反応を行った後、内温を室温まで冷却し、アンモニア(25%)と水でpH8.5前後、固形分を35.0%に調製後、凝集物を除去する目的で濾過した。これにより、保護層(共重合体(B))が内層(共重合体(A))を取り囲んだ樹脂粒子を含む実施例1の水性樹脂エマルションを得た。水性樹脂エマルションの物性分析結果として、粘度:10mPa・s/25℃、固形分:35.0%、pH:8.5、及び動的光散乱法による平均粒子径DB:62nmが得られた。ここで、共重合体(A/B)、水性樹脂エマルションの物性分析方法について説明する。
【0107】
(共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)の測定)
以下の測定条件に基づき、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)を用いて共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)を測定した。
測定条件
・分析装置:東ソー社製、HLC‐8120GPC
・カラム:Shodex KF-G(ガードカラム)+KF‐806M×2
・カラム温度:40℃
・流量:1.0ml/min
・注入量:100μl
・移動相:テトラヒドロフラン(THF)
・検出器:示差屈折検出器(RI)
・標準試料:ポリスチレン
【0108】
(共重合体(B)のヘイズの測定)
以下の測定方法及び計算方法で、共重合体(B)のヘイズを測定した。
・ヘーズメーター:日本電色工業株式会社製、NDH4000型
・ヘイズ(拡散透過率/全光線透過率×100%)
【0109】
(レーザー回析・散乱法による共重合体(A)の平均粒子径DAの測定)
水性樹脂エマルションにおける樹脂粒子のレーザー回析・散乱法による平均粒子径DA(nm)を測定した。具体的には、レーザー回析・散乱法を利用した粒度分布測定装置(島津製作所製、商品名「レーザー回析式ナノ粒子径分布測定装置 SALD-7100」)を用いて、屈折率が1.35-0.05iのときの体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50)を平均粒子径DAとして測定した。
【0110】
(動的光散乱法による樹脂粒子の平均粒子径DBの測定)
水性樹脂エマルションにおける動的光散乱法による樹脂粒子の平均粒子径DB(nm)を測定した。具体的には、動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置(大塚電子製、商品名「濃厚系粒径アナライザー FPER-1000」)及び濃厚系プローブを用いて、キュムラント法解析による平均粒子径DBを測定した。平均粒子径DA及びDBの各測定値を用いて、それらの比であるDA/DBを算出した。
【0111】
(製造安定性)
水性樹脂エマルションを製造する際に生成する凝集物を以下の基準により評価した。
〇:凝集物の生成はほとんどみられない。
△:少量の凝集物が生成。
×:多量の凝集物が生成。
【0112】
(保存安定性)
水性樹脂エマルションをガラス製のバイアル瓶に入れ、50℃にて静置した。静置一週間後の内容物の状態を沈降物の有無により目視評価した。
〇:沈降物がみられない。
×:沈降物がみられる。
【0113】
(ゲル分率)
水性樹脂エマルションを130℃で30分間乾燥させ、樹脂皮膜を形成させた後、樹脂皮膜を剥がして、測定試料を得た。そして、測定試料を0.5g秤量し、23℃のテトラヒドロフラン100ml中に浸漬し、23℃に1日間放置した。その後、上記のテトラヒドロフラン溶液を200メッシュの金網にて濾過し、金網上に残った不溶解分を130℃で1時間乾燥させ、23℃に戻してからその重量を測定した。そして、下記の式にてゲル分率(%)を求めた。
ゲル分率(%)=不溶解分/浸漬前の重量×100
【0114】
(実施例2~17:水性樹脂エマルションの製造方法)
実施例1における重合性単量体(a1)、重合性単量体(b1)、架橋性単量体(a2、b3)、カルボキシ基含有重合性単量体(b2)、親水性溶剤、連鎖移動剤を、表1に記載の配合量に変更したこと以外は、実施例1と同様であり、実施例1と同様の製造工程で実施例2~17の水性樹脂エマルションを製造した。ただし、多段乳化重合を使用するため単量体比率に応じて、重合開始剤及び界面活性剤の配合量を各々分割して用いた。なお、実施例2~17の水性樹脂エマルションの固形分及びpHは、実施例1とほぼ同等となるように調整した。
【0115】
(比較例1~11:水性樹脂エマルションの製造方法)
実施例1における重合性単量体(a1)、重合性単量体(b1)、架橋性単量体(a2、b3)、カルボキシ基含有単量体(b2)、親水性溶剤、連鎖移動剤を、表1に記載の配合量に変更したこと以外は、実施例1と同様であり、実施例1と同様の製造工程で比較例1~11の水性樹脂エマルションを製造した。ただし、多段乳化重合を使用するため単量体比率に応じて、重合開始剤及び界面活性剤量を各々分割して用いた。
【0116】
<試験用サンプル1の製造方法>
実施例1~17及び比較例1~11にて作製した水性樹脂エマルションを用い、造膜助剤(ブチルグリコール)、濡れ剤(日信化学工業社製、商品名:オルフィンE1010)、消泡剤(ADEKA社製、商品名:アデカネートB-187)、増粘剤(ADEKA社製、商品名:アデカノールUH-420)を配合し、水で固形分28%に調整し、試験用サンプル1を製造した。試験用サンプル1を試験前に水で10%希釈を行い、後述する評価試験「乾燥性試験、耐水性試験、密着性試験(初期・没水後)」を行った。なお、比較例7は、水性樹脂エマルション重合中にゲル化を起こした為、以降の全ての評価試験を行う事が出来なかった。
【0117】
(乾燥性試験)
試験用サンプル1をスレート板(TP技研社製、商品名:フレキシブル板)の表面に、200g/m2となるように刷毛で塗装した後、23℃×50%の雰囲気化で1時間乾燥し、指触にて膜の乾燥性を評価した。
(評価基準)
〇:乾燥していて指先が汚れない状態。
×:半乾燥、または、乾燥せず指先に付着し汚れてしまう状態。
【0118】
(耐水性試験)
試験用サンプル1をスレート板(TP技研社製、商品名:フレキシブル板)の表面に、200g/m2となるように刷毛で塗装した後、23℃×50%の雰囲気化で1時間乾燥し、23℃の水に1日間浸漬し、取り出した後、白化具合を目視にて評価した。
(評価基準)
〇:白化がほとんどみられない。
×:白化している。
【0119】
(初期密着性試験:クロスカット法)
[試験用サンプル2、3、4、5の作製]
実施例1~17及び比較例1~11にて作製した水性樹脂エマルションを用い、各種無機基材または各種旧塗膜に塗装し、更に上塗り塗料を塗装して試験用サンプル2~5をそれぞれ作製した。試験用サンプル2~5を用い、クロスカット法により、形成された塗膜の付着性を評価した。
【0120】
(23℃の無機基材上の塗膜の密着性を評価する試験用サンプル2の作製)
23℃の各種無機基材及び上塗り塗料に対する水性樹脂エマルションの塗膜の密着性を評価する為に試験用サンプル2を作製した。上記で調製した実施例および比較例の水性樹脂エマルションを用い、スレート板、ケイカル板それぞれの表面に、200g/m2となるように刷毛で塗装した後、23℃×50%の雰囲気化で36時間乾燥した。乾燥後、上塗り塗料として1液水性シリコン樹脂(エスケー化研社製、商品名:水性ヤネフレッシュシリコン)を、300g/m2(塗装回数2回)となるように刷毛で塗装した後、23℃×50%の雰囲気下で3日間乾燥して塗膜を形成し、試験用サンプル2を得た。
【0121】
(10℃の無機基材上の塗膜の密着性を評価する試験用サンプル3の作製)
なお、寒冷地を想定し、より乾燥が厳しい条件として、板温を10℃に下げた状態(無機基材を10℃に設定した恒温器にて3時間放置し、表面温度計にて10℃になっている事を確認)での試験用サンプル3を作製した。無機基材の板温を10℃にした事以外は、試験用サンプル2と同じ作製条件に基づき、水性樹脂エマルション、上塗り塗料の順に塗装し塗膜を形成した。これにより、試験用サンプル3を得た。
【0122】
(23℃の旧塗膜上の塗膜の密着性を評価する試験用サンプル4の作製)
23℃の旧塗膜に対する水性樹脂エマルションの塗膜の密着性を評価する為に試験用サンプル4を作製した。スレート板(TP技研社製、商品名:フレキシブル板)に2液弱溶剤型シーラー(エスケー化研社製、商品名:マイルドシーラーEPO)200g/m2となるように刷毛で塗装した後、23℃×50%の雰囲気化で3日間乾燥を行って下地処理した。次に、(1)、(2)の各塗料を、以下の各塗工量で塗工し、23℃×50%の雰囲気化で3日間乾燥を行った。
(1)1液水性フッ素樹脂(エスケー化研社製、商品名:水性ヤネフレッシュフッソ)を、塗工量が300g/m2(塗装回数2回)となるように刷毛で塗装した。
(2)2液弱溶剤型樹脂(エスケー化社製、商品名:クールタイトSi)を、塗工量が300g/m2(塗装回数2回)となるように刷毛で塗装した。
【0123】
乾燥後、スーパーキセノンウェザーメーター(スガ試験機社製)にて1000サイクル(JIS K 5600-7-7 サイクルAに準拠:サイクル1照射102分(放射照度:60W/m2、ブラックパネル温度:63℃、湿度:50%)、サイクル2照射+純水シャワー18分(放射照度:60W/m2、室内温度:38℃、湿度:95%、合計120分を1サイクルとする。)かけて、スレート板上に旧塗膜をそれぞれ形成した。
【0124】
次に、上記の各種の塗料からなる旧塗膜が形成された各スレート板を用い、旧塗膜の上に、調製した実施例および比較例の水性樹脂エマルションをそれぞれ200g/m2となる様に塗装し、23℃×50%の雰囲気化で36時間乾燥した。乾燥後、上塗り塗料として1液水性シリコン樹脂(エスケー化研社製、商品名:水性ヤネフレッシュシリコン)を、300g/m2(塗装回数2回)となるように刷毛で塗装した後、23℃×50%の雰囲気化で3日間乾燥して塗膜を形成し、試験用サンプル4を得た。
【0125】
(10℃の旧塗膜上の塗膜の密着性を評価する試験用サンプル5の作製)
なお、寒冷地を想定し、より乾燥が厳しい条件として、各旧塗膜の板温を10℃に下げた状態(各旧塗膜を10℃に設定した恒温器にて3時間放置し、表面温度計にて10℃になっている事を確認)で塗工して試料を作製した。各旧塗膜の板温を10℃にした事以外は、試験用サンプル4と同じ作製条件に基づき、水性樹脂エマルション、上塗り塗料の順に塗装し塗膜を形成した。これにより、試験用サンプル5を得た。
【0126】
(クロスカット法による初期密着性の評価)
上記で作製した試験用サンプル2~5を用い、無機基材あるいは旧塗膜、また上塗り塗料に対する密着性評価を、JIS K5600-5-6(付着性クロスカット法)に準拠して5mm幅クロスカット行い、目視にて、下記の分類0~5の6段階の基準を用いて評価した。分類0、1は合格を示し、分類2~5は不合格を示す。
(評価基準)
分類0(合格):どの格子にも剥がれが無い
分類1(合格):カットの交差点の塗膜の小さな剥がれ、クロスカット部分の剥がれは、5%以下
分類2(不合格):塗膜がカットの縁に沿って、および/又は交差点で剥がれ、クロスカット部分の剥がれは、5%超15%以下である。
分類3(不合格):塗膜がカットの縁に沿って、全面的に大剥がれを生じ、クロスカット部分の剥がれは、15%超35%以下である。
分類4(不合格):塗膜がカットの縁に沿って、全面的に大剥がれを生じ、クロスカット部分の剥がれは、35%超65%以下である。
分類5(不合格):分類4以上の剥がれの場合
【0127】
(没水後密着性試験)
初期密着性試験で用いた試験用サンプル2~5と同じ試験用サンプル2~5を1セット作製し、試験用サンプル2~5を用いて、没水後の密着性の評価を行った。試験用サンプル2~5を、23℃×50%の雰囲気化で水に7日間浸漬し、取り出し後、30分乾燥した。そして、乾燥後の試験用サンプル2~5を用いて、初期密着性試験と同様の方法で没水後密着性評価を行った。以下の評価基準は、初期密着性試験の評価基準と同じである。
(評価基準)
分類0(合格):どの格子にも剥がれが無い
分類1(合格):カットの交差点の塗膜の小さな剥がれ、クロスカット部分の剥がれは、5%以下
分類2(不合格):塗膜がカットの縁に沿って、および/又は交差点で剥がれ、クロスカット部分の剥がれは、5%超15%以下である。
分類3(不合格):塗膜がカットの縁に沿って、全面的に大剥がれを生じ、クロスカット部分の剥がれは、15%超35%以下である。
分類4(不合格):塗膜がカットの縁に沿って、全面的に大剥がれを生じ、クロスカット部分の剥がれは、35%超65%以下である。
分類5(不合格):分類4以上の剥がれの場合
【0128】
(試験結果)
表5は、実施例1~14の試験結果を示す。表6は、実施例15~17及び比較例1~11の試験結果を示す。
【0129】
【0130】
【0131】
(実施例1~17の試験結果)
表5~6によれば、実施例1~17は、乾燥性、耐水性、初期密着性、没水後密着性の全てにおいて優れた特性を有する。
【0132】
(比較例1~11の試験結果)
一方で、比較例2、3、8、9に関しては重合時に多量の凝集物が生成した。以下、比較例2、3、8、9で凝集物が生成した理由について説明する。また、比較例7で水溶性樹脂エマルションが作製出来なかった理由についても説明する。
【0133】
比較例2は、共重合体(B)のを製造工程で、重合性単量体(b1)等の重合30分後に添加する塩基性化合物の添加量が少なく、中和溶解出来ず保護層の機能が低下した為、水性樹脂エマルションの安定性が低下したと考えられる。
【0134】
比較例3は、酸量(カルボキシ含有重合性単量体(b2)の量)が少なかった為、保護層の機能が低下し、水性樹脂エマルションの安定性が低下したと考えられる。
【0135】
比較例8は、重合性単量体(b1)等の混合液中の連鎖移動剤量が多く、共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が低かった為、保護層の機能が低下し、水性樹脂エマルションの安定性が低下したと考えられる。
【0136】
比較例9は、共重合体(B)の配合割合(20部)が少ないため、保護層の機能が低下し、水性樹脂エマルションの安定性が低下したと考えられる。
【0137】
比較例7は、重合性単量体(b1)等の混合液に連鎖移動剤を添加しなかった為、共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が高くなり、共重合体(B)が水に溶解しなかった。その為、共重合体(B)の重合液の粘度が非常に高くなり、粒子径が過大となり水性樹脂エマルションを作製する事が出来なかった。
【0138】
以上の通り、本発明の水性樹脂エマルションは、基材及び上塗り塗料との密着性、速乾性、耐水性、及び貯蔵安定性に優れるといった顕著な効果を有する。
【0139】
また、本発明は、環境に優しく、人体への安全性が高い水性樹脂エマルションを提供することができるため、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「つくる責任 つかう責任」に貢献することが可能である。
【0140】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0141】
100 樹脂粒子
110 内層
120 保護層
130 平均粒子径
140 平均粒子径
200 基材
300 基材
【要約】
【課題】本発明は、基材及び上塗り塗料との密着性、速乾性、耐水性、及び貯蔵安定性に優れる水性樹脂エマルションを提供することを目的とする。
【解決手段】
内層と、前記内層を取り囲んだ保護層とを含む樹脂粒子を含有する水性樹脂エマルションであって、前記内層は、重合性単量体(a1)と、架橋性単量体(a2)とを構成単位として含む共重合体(A)を含み、前記保護層は、重合性単量体(b1)と、カルボキシ基含有重合性単量体(b2)とを構成単位として含む共重合体(B)と、連鎖移動剤とを少なくとも含み、前記共重合体(A)は、前記共重合体(A)を構成する全単量体の100重量%中に前記架橋性単量体(a2)を0.1~15重量%で含有し、前記共重合体(B)は、前記共重合体(B)を構成する全単量体の100重量%中に前記カルボキシ基含有重合性単量体(b2)を5~20重量%で含有する。
【選択図】
図1