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特許7565126炭素繊維前駆体用処理剤および炭素繊維前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体用処理剤および炭素繊維前駆体
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/148 20060101AFI20241003BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20241003BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20241003BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20241003BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D06M13/148
D06M13/17
D06M13/224
D06M15/53
D06M15/643
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024072725
(22)【出願日】2024-04-26
【審査請求日】2024-04-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】西村 玲音
(72)【発明者】
【氏名】小坂 将太
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-160547(JP,A)
【文献】国際公開第2022/138688(WO,A1)
【文献】特許第6745564(JP,B1)
【文献】特開2015-045095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/148
D06M 13/17
D06M 13/224
D06M 15/53
D06M 15/643
D06M 101/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類(A)と、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン界面活性剤(B)と、基剤(C)と、を含有し、
前記糖類(A)が、
アルジトール(A1)と、
アルジトールの分子内脱水物、アルジトールの分子間脱水物、ならびに、アルジトールの分子内および分子間の脱水物、からなる群から選択される少なくとも一つの脱水物であって、分子構造中にエポキシ基を有さないアルジトール脱水物(A2)と、
二糖(A3)と、
からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、
前記基剤(C)がアミノ変性シリコーンを含むことを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項2】
一分子当たり四つ以上の炭素原子を含む糖類(A)と、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン界面活性剤(B)と、基剤(C)と、を含有し、
前記糖類(A)が、
アルジトール(A1)と、
アルジトールの分子内脱水物、アルジトールの分子間脱水物、ならびに、アルジトールの分子内および分子間の脱水物、からなる群から選択される少なくとも一つの脱水物であって、分子構造中にエポキシ基を有さないアルジトール脱水物(A2)と、
二糖(A3)と、
からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、
前記基剤(C)が、
シリコーン化合物(C1)と、
エステル化合物(C2)と、
炭化水素油(C3)と、
からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項3】
糖類(A)と、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン界面活性剤(B)と、基剤(C)と、を含有し、
前記糖類(A)が、
アルジトールの分子内脱水物、アルジトールの分子間脱水物、ならびに、アルジトールの分子内および分子間の脱水物、からなる群から選択される少なくとも一つの脱水物であって、分子構造中にエポキシ基を有さないアルジトール脱水物(A2)と、
二糖(A3)と、
からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、
前記基剤(C)が、
シリコーン化合物(C1)と、
エステル化合物(C2)と、
炭化水素油(C3)と、
からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項4】
不揮発分に占める前記糖類(A)の割合が0.3質量%以上30質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項5】
前記ノニオン界面活性剤(B)が、分岐鎖状かつ炭素数が6以上24以下の炭化水素基を有する請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項6】
不揮発分に占める、
前記糖類(A)の割合が0.01質量%以上50質量%以下であり、
前記ノニオン界面活性剤(B)の割合が5質量%以上70質量%以下であり、かつ、
前記基剤(C)の割合が1質量%以上90質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が繊維材料に付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体用処理剤および炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の製造方法として、繊維状の材料を紡糸した後に当該材料を焼成する、という手法が汎用されており、この繊維状の材料を炭素繊維前駆体という。炭素繊維前駆体としては、高分子等の繊維材料の表面に炭素繊維前駆体用処理剤が付着したものが使用される場合がある。かかる処理剤は、炭素繊維を製造する際の諸工程における炭素繊維前駆体の取り扱い性を向上する等の目的で用いられる。
【0003】
特開平11-152626号公報(特許文献1)には、ホウ素化合物を含有するプリカーサー(炭素繊維前駆体)を焼成するに際して多価アルコールを付与することを特徴とする炭素繊維の製造方法に係る発明が開示されている。特許文献1に記載された発明によれば、多価アルコールの付与によってプリカーサーの表層耐熱性が向上し、炭素繊維の表層欠陥を防止できるので、高強度の炭素繊維が得られる。
【0004】
国際公開第2024/057740号(特許文献2)には、アミノ変性シリコーンと、硫黄原子と窒素原子とを含む五員環構造を有する化合物および/またはその誘導体と、を含むアクリル繊維用処理剤に係る発明が開示されている。特許文献2に記載された発明によれば、炭素繊維製造用アクリル繊維の耐炎化工程における集束性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-152626号公報
【文献】国際公開第2024/057740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2記載された発明は、炭素繊維前駆体を製造する際に生じる毛羽立ちを抑制する点で改善の余地があった。毛羽立ちを抑制できれば、炭素繊維前駆体を製造する際の操業性および炭素繊維前駆体の品質の向上が期待される。また、特許文献1および特許文献2記載された発明は、炭素繊維前駆体用処理剤のエマルションの安定性についても改善の余地があった。エマルションの安定性が高い炭素繊維前駆体用処理剤を用いれば、炭素繊維前駆体を製造する際の操業性の向上が期待される。
【0007】
そこで、毛羽抑制性およびエマルション安定性に優れる炭素繊維前駆体用処理剤、および、かかる炭素繊維前駆体用処理剤が付着した炭素繊維前駆体の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る第一の炭素繊維前駆体用処理剤は、糖類(A)と、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン界面活性剤(B)と、基剤(C)と、を含有し、前記糖類(A)が、アルジトール(A1)と、アルジトールの分子内脱水物、アルジトールの分子間脱水物、ならびに、アルジトールの分子内および分子間の脱水物、からなる群から選択される少なくとも一つの脱水物であって、分子構造中にエポキシ基を有さないアルジトール脱水物(A2)と、二糖(A3)と、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、前記基剤(C)がアミノ変性シリコーンを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る第二の炭素繊維前駆体用処理剤は、一分子当たり四つ以上の炭素原子を含む糖類(A)と、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン界面活性剤(B)と、基剤(C)と、を含有し、前記糖類(A)が、アルジトール(A1)と、アルジトールの分子内脱水物、アルジトールの分子間脱水物、ならびに、アルジトールの分子内および分子間の脱水物、からなる群から選択される少なくとも一つの脱水物であって、分子構造中にエポキシ基を有さないアルジトール脱水物(A2)と、二糖(A3)と、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、前記基剤(C)が、シリコーン化合物(C1)と、エステル化合物(C2)と、炭化水素油(C3)と、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る第三の炭素繊維前駆体用処理剤は、糖類(A)と、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン界面活性剤(B)と、基剤(C)と、を含有し、前記糖類(A)が、アルジトールの分子内脱水物、アルジトールの分子間脱水物、ならびに、アルジトールの分子内および分子間の脱水物、からなる群から選択される少なくとも一つの脱水物であって、分子構造中にエポキシ基を有さないアルジトール脱水物(A2)と、二糖(A3)と、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、前記基剤(C)が、シリコーン化合物(C1)と、エステル化合物(C2)と、炭化水素油(C3)と、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る炭素繊維前駆体は、上記のいずれかの炭素繊維前駆体用処理剤が繊維材料に付着していることを特徴とする。
【0012】
上記の構成に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、これを炭素繊維前駆体の製造に用いた場合に毛羽立ちを抑制できるとともに、エマルションとしての安定性が高い。そのため、炭素繊維前駆体の製造の連続操業性を高めることができる。また、上記の構成に係る炭素繊維前駆体は毛羽が少ない。
【0013】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0014】
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、一態様として、不揮発分に占める前記糖類(A)の割合が0.3質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、毛羽抑制性とエマルション安定性とを高い水準で両立しうる。
【0016】
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、一態様として、前記ノニオン界面活性剤(B)が、分岐鎖状かつ炭素数が6以上24以下の炭化水素基を有することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、炭素繊維前駆体用処理剤がエマルションとして特に安定になりやすい。
【0018】
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、一態様として、不揮発分に占める、前記糖類(A)の割合が0.01質量%以上50質量%以下であり、前記ノニオン界面活性剤(B)の割合が5質量%以上70質量%以下であり、かつ、前記基剤(C)の割合が1質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、毛羽抑制性とエマルション安定性とを高い水準で両立しうる。
【0020】
本発明のさらなる特徴と利点は、以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤および炭素繊維前駆体の実施形態について説明する。
【0022】
〔炭素繊維前駆体用処理剤の構成〕
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、糖類(A)と、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン界面活性剤(B)と、基剤(C)と、を含有する。
【0023】
(糖類)
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤が含有する糖類(A)は、アルジトール(A1)、アルジトール脱水物(A2)、および二糖(A3)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である。糖類(A)が、アルジトール脱水物(A2)および二糖(A3)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むと、炭素繊維前駆体の毛羽立ちを特に抑制しやすいため好ましい。
【0024】
アルジトール(A1)は、アルドースのアルデヒド基が還元されてヒドロキシメチル基に変換された分子構造を有する糖類である。アルジトール(A1)は、たとえば、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、グリセリンなどでありうるが、これらに限定されない。アルジトール(A1)は、単一の化合物であってもよいし、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0025】
アルジトール脱水物(A2)は、アルジトールの分子内脱水物、アルジトールの分子間脱水物、ならびに、アルジトールの分子内および分子間の脱水物、からなる群から選択される少なくとも一つの脱水物である。アルジトールの定義は、アルジトール(A1)について述べた通りである。アルジトールの分子内脱水物として、ソルビトールの分子内脱水物であるソルビタン、イソソルバイドが例示される。アルジトールの分子間脱水物として、グリセリンの分子間脱水物であるポリグリセリンおよびジグリセリンが例示される。アルジトールの分子内および分子間の脱水物として、ソルビタンとソルビトールとの分子間脱水物や、ソルビタン同士の分子間脱水物(ソルビトールの分子内および分子間脱水物)などが例示される。なお、これらのいずれの例示も、本実施形態に係るアルジトール脱水物(A2)を限定しない。アルジトール脱水物(A2)は、単一の化合物であってもよいし、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0026】
アルジトール脱水物(A2)は、分子構造中にエポキシ基を有さないものである。本発明者らは、分子構造中にエポキシ基を有さないアルジトール脱水物(A2)を含有する炭素繊維前駆体用処理剤を用いる場合に、分子構造中にエポキシ基を有するアルジトール脱水物を含有する炭素繊維前駆体用処理剤を用いる場合に比べて、炭素繊維前駆体の毛羽立ちを抑制できることを見出した。
【0027】
二糖(A3)は、二分子の単糖が脱水縮合した分子構造を有する糖類である。二糖(A3)は、たとえば、ショ糖(スクロース)、乳糖(ラクトース)、麦芽糖(マルトース)などでありうるが、これらに限定されない。二糖(A3)は、単一の化合物であってもよいし、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0028】
糖類(A)が一分子当たり四つ以上の炭素原子を含む化合物であると、炭素繊維前駆体の毛羽立ちを特に抑制しやすいため好ましい。糖類(A)が複数の化合物を含む場合は、少なくとも一つの化合物が一分子当たり四つ以上の炭素原子を含む化合物であることが好ましい。ソルビトール、マンニトール、およびエリスリトールは、一分子当たり四つ以上の炭素原子を含むアルジトール(A1)の例である。ソルビタン、ポリグリセリン、およびジグリセリンは、一分子当たり四つ以上の炭素原子を含むアルジトール脱水物(A2)の例である。なお、二糖(A3)に該当する化合物はいずれも一分子当たり四つ以上の炭素原子を含む。
【0029】
糖類(A)は、分子中にポリオキシアルキレン基を有さない化合物であることが好ましい。糖類(A)が複数の化合物を含む場合は、少なくとも一つの化合物が分子中にポリオキシアルキレン基を有さない化合物であることが好ましく、全ての化合物が分子中にポリオキシアルキレン基を有さない化合物であることがより好ましい。
【0030】
糖類(A)は、分子量が1500以下の化合物であることが好ましく、分子量が750以下の化合物であることがより好ましい。糖類(A)が単離可能な化合物またはその混合物である場合は、分子構造に基づいて分子量を特定できる。糖類(A)が異なる分子量の化合物の混合物である場合(糖類(A)がオリゴマーまたはポリマーである場合など)は、分子量ごとに単離した糖類(A)を用いることで糖類(A)の分子量を制御できる。たとえばアルジトール脱水物(A2)の一例であるポリグリセリンについて、質量平均分子量が異なる製品が市販されている。
【0031】
(ノニオン界面活性剤)
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤が含有するノニオン界面活性剤(B)は、当技術分野において通常使用される任意のノニオン界面活性剤(非イオン性界面活性剤)であって、ポリオキシアルキレン基を有するものでありうる。ノニオン界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0032】
ノニオン界面活性剤(B)は、たとえばヒドロキシ基を有する化合物のアルキレンオキサイド付加体、またはその誘導体(エステル化体などである。)でありうる。ヒドロキシ基を有する化合物としては、イソトリデカノール、イソヘキサノール、イソヘキサデカノール、2-エチルヘキサノール、2-ドデカノール、2-トリデカノール、1-ヘキサノール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、硬化ヒマシ油、ヤシ油アルキルアミン、グリセリン、ポリプロピレングリコール、およびポリエチレングリコールが例示されるが、これらに限定されない。
【0033】
ノニオン界面活性剤(B)は、分岐鎖状かつ炭素数が6以上24以下の炭化水素基を有する化合物であることが好ましい。なお、ノニオン界面活性剤(B)が複数の化合物を含む場合は、少なくとも一つの化合物が分岐鎖状かつ炭素数が6以上24以下の炭化水素基を有する化合物であることが好ましい。ノニオン界面活性剤(B)が上記の条件を満たすものであると、炭素繊維前駆体用処理剤がエマルションとして特に安定になりやすい。上記の炭化水素基の炭素数は、10以上14以下であることがより好ましい。
【0034】
ノニオン界面活性剤(B)を構成するアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが例示されるが、これらに限定されない。ノニオン界面活性剤(B)は、単一のアルキレンオキサイドに由来する一種類のオキシアルキレン基を有する化合物であってもよいし、複数のアルキレンオキサイドに由来する複数種類のオキシアルキレン基を有する化合物であってもよい。また、複数種類のオキシアルキレン基は、ブロック状に存在していてもよいし、ランダムに存在していてもよい。ノニオン界面活性剤(B)におけるアルキレンオキサイドの付加数は特に限定されないが、一分子あたり2以上40以下であることが好ましく、3以上15以下であることがより好ましい。
【0035】
(基剤)
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤が含有する基剤(C)は、シリコーン化合物(C1)、エステル化合物(C2)、および炭化水素油(C3)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である。
【0036】
シリコーン化合物(C1)は、変性または非変性のシリコーン化合物であってよい。シリコーン化合物(C1)の非限定的な例として、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ジメチルシリコーンなどが挙げられるが、これらに限定されない。シリコーン化合物(C1)の動粘度は特に限定されないが、たとえば50mm/s以上40000mm/s以下(25℃における値である。)でありうる。シリコーン化合物(C1)がアミノ変性シリコーンを含む場合において、アミノ変性シリコーンのアミノ当量は限定されないが、たとえば500g/mol以上20000g/mol以下でありうる。シリコーン化合物(C1)がポリエーテル変性シリコーンを含む場合において、ポリエーテル変性シリコーンのシリコーン残基とポリエーテル残基との比率およびポリエーテル残基の構造は限定されない。シリコーン化合物(C1)は、単一の化合物であってもよいし、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0037】
エステル化合物(C2)は、任意の酸化合物と任意のアルコール化合物とのエステル化合物でありうる。酸化合物の非限定的な例として、ラウリン酸、チオジプロピオン酸、トリメリット酸、オレイン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。アルコール化合物の非限定的な例として、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体、2-ヘキシル-1-デカノール、ステアリルアルコール、ソルビタン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどが挙げられるが、これらに限定されない。エステル化合物(C2)は、単一の化合物であってもよいし、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0038】
炭化水素油(C3)は、任意の炭化水素油でありうる。炭化水素油(C3)の動粘度は限定されないが、たとえば3.0mm/s以上40mm/s以下(40℃における値である。)でありうる。
【0039】
(各成分の含有量)
炭素繊維前駆体用処理剤の不揮発分に占める糖類(A)の割合は、0.3質量%以上30質量%以下であることが好ましい。糖類(A)の割合が0.3質量%以上であると、炭素繊維前駆体の毛羽立ちを特に抑制しやすい。糖類(A)の割合が30質量%以下であると、炭素繊維前駆体用処理剤がエマルションとして特に安定になりやすい。不揮発分に占める糖類(A)の割合は、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。なお、炭素繊維前駆体用処理剤の不揮発分とは、炭素繊維前駆体用処理剤を105℃で2時間、熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいう。また、糖類(A)が複数の化合物を含む場合は、当該複数の化合物が不揮発分に占める割合の合計を糖類(A)の割合とする。
【0040】
炭素繊維前駆体用処理剤の不揮発分に占める、糖類(A)の割合が0.01質量%以上50質量%以下であり、ノニオン界面活性剤(B)の割合が5質量%以上70質量%以下であり、かつ、基剤(C)の割合が1質量%以上90質量%以下であることが好ましい。糖類(A)、ノニオン界面活性剤(B)、および基剤(C)の割合が上記の条件を満たすとき、炭素繊維前駆体の毛羽立ちを特に抑制しやすく、かつ、炭素繊維前駆体用処理剤がエマルションとして特に安定になりやすい。なお、糖類(A)、ノニオン界面活性剤(B)、および基剤(C)のうちの一つまたは複数の成分が複数の化合物を含む場合は、各区分に該当する複数の化合物が不揮発分に占める割合の合計を当該区分の成分の割合とする。
【0041】
(その他の成分)
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、糖類(A)、ノニオン界面活性剤(B)、および基剤(C)以外の成分(その他の成分)を含みうる。かかるその他の成分としては、防腐剤、界面活性剤(陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤(B)に該当しないノニオン界面活性剤)、樹脂、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤などが例示されるが、これらに限定されない。
【0042】
また、炭素繊維前駆体用処理剤が炭素繊維前駆体の処理に供される場合の典型的な態様として、糖類(A)、ノニオン界面活性剤(B)、および基剤(C)、ならびに任意に加えられるその他の成分を、希釈剤で希釈した態様が例示される。かかる希釈剤も、他の成分の一例である。希釈剤としては、水(水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水など)、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサンなどが例示されるが、これらに限定されない。なお、不揮発分を希釈剤で希釈した態様の炭素繊維前駆体用処理剤における不揮発分の濃度は特に限定されないが、たとえば1質量%以上60質量%以下でありうる。前述の通り炭素繊維前駆体用処理剤の不揮発分とは、処理剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残る成分をいい、その濃度とは、炭素繊維前駆体用処理剤の質量に対する当該処理剤中の不揮発分の質量の割合をいう。
【0043】
(炭素繊維前駆体用処理剤の効果)
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、これを炭素繊維前駆体の製造に用いた場合に毛羽立ちを抑制できるとともに、エマルションとしての安定性が高いため、炭素繊維前駆体の製造の連続操業性を高めることができる点で有利である。
【0044】
また、後述する実施例に示すように、糖類(A)、ノニオン界面活性剤(B)、および基剤(C)をすべて含有する炭素繊維前駆体用処理剤が、糖類(A)およびノニオン界面活性剤(B)の一方を欠く炭素繊維前駆体用処理剤に比べて、毛羽抑制性およびエマルション安定性の双方において優れる傾向が見られた。このことから、毛羽抑制性に対する糖類(A)の寄与およびエマルション安定性に対するノニオン界面活性剤(B)の寄与に加えて、双方の性能に対する糖類(A)とノニオン界面活性剤(B)との相乗効果の寄与が存在すると考えられる。
【0045】
〔炭素繊維前駆体用処理剤の製造方法〕
本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤は、糖類(A)、ノニオン界面活性剤(B)、および基剤(C)、ならびに任意に加えられるその他の成分を公知の方法で混合することによって得られうる。たとえば糖類(A)、ノニオン界面活性剤(B)、および基剤(C)、ならびに任意に加えられるその他の成分を10℃から90℃の間で撹拌しながら5時間かけて水を添加することで製造しうる。
【0046】
〔炭素繊維前駆体〕
本実施形態に係る炭素繊維前駆体は、炭素繊維前駆体として一般に用いられる繊維材料に、本実施形態に係る炭素繊維前駆体用処理剤が付着した態様である。ここでいう繊維材料とは、焼成工程を経て炭素繊維となる繊維状の材料であり、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、セルロース系繊維、リグニン系繊維、フェノール樹脂、およびピッチ等、またはこれらの組合せでありうる。
【0047】
繊維材料に炭素繊維前駆体用処理剤を付着させる方法としては、当分野において繊維材料にこの種の処理剤を付着させる際に通常用いられる方法を適用できる。すなわち、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、およびガイド給油法などが採用されうる。なお、それぞれの方法を適用するにあたり、炭素繊維前駆体用処理剤が水等の溶媒で適宜希釈されうる。
【0048】
本実施形態に係る炭素繊維前駆体において、炭素繊維前駆体用処理剤の付着量は特に限定されない。たとえば、炭素繊維前駆体用処理剤が付着した炭素繊維前駆体全体に対して炭素繊維前駆体用処理剤が0.3質量%以上3質量%以下付着していることが好ましい。
【0049】
〔その他の実施形態〕
本発明は、糖類(A)と、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン界面活性剤(B)と、基剤(C)と、を含有し、前記糖類(A)が、アルジトール(A1)と、アルジトールの分子内脱水物、アルジトールの分子間脱水物、ならびに、アルジトールの分子内および分子間の脱水物、からなる群から選択される少なくとも一つの脱水物であって、分子構造中にエポキシ基を有さないアルジトール脱水物(A2)と、二糖(A3)と、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、前記基剤(C)が、シリコーン化合物(C1)と、エステル化合物(C2)と、炭化水素油(C3)と、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤でありうる。この構成に係る炭素繊維前駆体用処理剤によれば、これを炭素繊維前駆体の製造に用いた場合に毛羽立ちを抑制できるとともに、エマルションとしての安定性が高い。そのため、炭素繊維前駆体の製造の連続操業性を高めることができる。また、上記の構成に係る炭素繊維前駆体は毛羽が少ない。
【0050】
上記の炭素繊維前駆体用処理剤は、一態様として、前記糖類(A)が一分子当たり四つ以上の炭素原子を含むことが好ましい。この構成によれば、炭素繊維前駆体の毛羽立ちを特に抑制しやすい
【0051】
上記の炭素繊維前駆体用処理剤は、一態様として、前記糖類(A)が前記アルジトール脱水物(A2)および前記二糖(A3)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。この構成によれば、炭素繊維前駆体の毛羽立ちを特に抑制しやすい。
【0052】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0053】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0054】
〔炭素繊維前駆体用処理剤の調製〕
以下の方法で、後掲する表1~表3に示す実施例1~20および比較例1~7の炭素繊維前駆体用処理剤を得た。
【0055】
(1)試薬
(1-1)糖類(A)
糖類(A)として、以下の11種類の化合物を用いた。各化合物には、アルジトール(A1)、アルジトール脱水物(A2)、および二糖(A3)の区分を示すA1~A3の符号と、11種類の化合物に順に付した1~11の通し番号と、の組合せからなる化合物番号を付している。
【0056】
以下の六種の糖類(A)は、アルジトール脱水物(A2)の例である。
A2-1:ソルビタン
A2-2:ポリグリセリン#750(阪本薬品工業株式会社製)(質量平均分子量750のポリグリセリンである。)
A2-3:ポリグリセリン#500(阪本薬品工業株式会社製)(質量平均分子量500のポリグリセリンである。)
A2-4:ポリグリセリン#310(阪本薬品工業株式会社製)(質量平均分子量310のポリグリセリンである。)
A2-5:R-PG(阪本薬品工業株式会社製)(質量平均分子量240のポリグリセリンである。)
A2-6:ジグリセリン
【0057】
以下の一種の糖類(A)は、二糖(A3)の例である。
A3-7:ショ糖
【0058】
以下の四種の糖類(A)は、アルジトール(A1)の例である。
A1-8:ソルビトール
A1-9:マンニトール
A1-10:エリスリトール
A1-11:グリセリン
【0059】
(1-2)ノニオン界面活性剤(B)
ノニオン界面活性剤(B)として、以下の22種類の化合物を用いた。各化合物には、ノニオン界面活性剤(B)を示すBの符号と、22種類の化合物に順に付した1~22の通し番号と、の組合せからなる化合物番号を付している。ノニオン界面活性剤B-1~B-9は、分岐鎖状かつ炭素数が6以上24以下の炭化水素基を有する化合物であり、ノニオン界面活性剤B-10~B-22は、この条件を満たさない化合物である。なお、ノニオン界面活性剤(B)の製造方法を示している場合について、各製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該ノニオン界面活性剤(B)が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
【0060】
(ノニオン界面活性剤B-1)
イソトリデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、イソトリデカノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-1を得た。
【0061】
(ノニオン界面活性剤B-2)
イソトリデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、イソトリデカノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-2を得た。
【0062】
(ノニオン界面活性剤B-3)
イソトリデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、イソトリデカノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-3を得た。
【0063】
(ノニオン界面活性剤B-4)
イソヘキサノールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、イソヘキサノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-4を得た。
【0064】
(ノニオン界面活性剤B-5)
イソヘキサデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、イソヘキサデカノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-5を得た。
【0065】
(ノニオン界面活性剤B-6)
イソトリデカノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:5:6で一段階で反応させて、イソトリデカノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体であるノニオン界面活性剤B-6を得た。
【0066】
(ノニオン界面活性剤B-7)
イソトリデカノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:5:6で、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの順で段階的に反応させて、イソトリデカノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドブロック付加体であるノニオン界面活性剤B-7を得た。
【0067】
(ノニオン界面活性剤B-8)
イソヘキサノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:5:6で、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの順で段階的に反応させて、イソヘキサノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドブロック付加体であるノニオン界面活性剤B-8を得た。
【0068】
(ノニオン界面活性剤B-9)
2-エチルヘキサノールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、2-エチルヘキサノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-9を得た。
【0069】
(ノニオン界面活性剤B-10)
2-ドデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、2-ドデカノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-10を得た。
【0070】
(ノニオン界面活性剤B-11)
2-トリデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、2-トリデカノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-11を得た。
【0071】
(ノニオン界面活性剤B-12)
2-トリデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、2-トリデカノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-12を得た。
【0072】
(ノニオン界面活性剤B-13)
2-トリデカノールとエチレンオキサイドとをモル比1:15モルで反応させて、2-トリデカノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-13を得た。
【0073】
(ノニオン界面活性剤B-14)
2-ドデカノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:5:6モルで一段階で反応させて、2-ドデカノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体であるノニオン界面活性剤B-14を得た。
【0074】
(ノニオン界面活性剤B-15)
2-ドデカノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:5:6で、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの順で段階的に反応させて、2-ドデカノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドブロック付加体であるノニオン界面活性剤B-15を得た。
【0075】
(ノニオン界面活性剤B-16)
1-ヘキサノールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、1-ヘキサノールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-16を得た。
【0076】
(ノニオン界面活性剤B-17)
ラウリルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、ラウリルアルコールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-17を得た。
【0077】
(ノニオン界面活性剤B-18)
オレイルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、オレイルアルコールのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-18を得た。
【0078】
(ノニオン界面活性剤B-19)
硬化ヒマシ油とエチレンオキサイドとをモル比1:20で反応させて、硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-19を得た。
【0079】
(ノニオン界面活性剤B-20)
ヤシ油アルキルアミンとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、ヤシ油アルキルアミンのエチレンオキサイド付加体であるノニオン界面活性剤B-20を得た。
【0080】
(ノニオン界面活性剤B-21)
グリセリンとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとを1:20:20で、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイドの順で段階的に反応させて、グリセリンのプロピレンオキサイド・エチレンオキサイドブロック付加体であるノニオン界面活性剤B-21を得た。
【0081】
(ノニオン界面活性剤B-22)
質量平均分子量1000のポリプロピレングリコールブロックの両末端に質量平均分子量400のポリエチレングリコールブロックが結合しているプルロニック(登録商標)型界面活性剤を、ノニオン界面活性剤B-22とした。
【0082】
(1-3)基剤(C)
基剤(C)として、以下の22種類の化合物を用いた。各化合物には、シリコーン化合物(C1)、エステル化合物(C2)、および炭化水素油(C3)の区分を示すC1~C3の符号と、22種類の化合物に順に付した1~22の通し番号と、の組合せからなる化合物番号を付している。
【0083】
以下の十種の基剤(C)は、シリコーン化合物(C1)の一例であるアミノ変性シリコーンの例である。なお、シリコーン化合物(C1)の動粘度は、25℃における値である。
C1-1:WACKER(登録商標)FINISH WR300(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)(動粘度600mm/s、アミノ当量3300g/mol)
C1-2:WACKER(登録商標)FINISH WR1100(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)(動粘度5000mm/s、アミノ当量7000g/mol)
C1-3:WACKER(登録商標)FINISH WR1200(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)(動粘度7000mm/s、アミノ当量4000g/mol)
C1-4:WACKER(登録商標)FINISH WR1300(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)(動粘度1000mm/s、アミノ当量3300g/mol)
C1-5:WACKER(登録商標)FINISH WR1600(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)(動粘度1000mm/s、アミノ当量1700g/mol)
C1-6:TSF4702(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)(動粘度500mm/s、アミノ当量1600g/mol)
C1-7:TSF4704(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)(動粘度40000mm/s、アミノ当量20000g/mol)
C1-8:TSF4706(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)(動粘度50mm/s、アミノ当量2100g/mol)
C1-9:TSF4708(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)(動粘度1000mm/s、アミノ当量2800g/mol)
C1-10:TSF4709(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)(動粘度2000mm/s、アミノ当量10000g/mol)
【0084】
以下の二種の基剤(C)は、アミノ変性シリコーン以外のシリコーン化合物(C1)の例である。なお、シリコーン化合物(C1)の動粘度は、25℃における値である。
C1-11:ポリエーテル変性シリコーン(動粘度500mm/s、シリコーン鎖/ポリエーテル=50/50(質量比)、ポリエーテル部分のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比))
C1-12:KF-96-100CS(信越化学工業株式会社製)(動粘度100mm/sのジメチルシリコーン)
【0085】
次に示す二種の基剤(C)は、エステル化合物(C2)の例である。これらの化合物については製造方法を示すが、各製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該エステル化合物(C2)が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
【0086】
(エステル化合物C2-13)
ビスフェノールAとエチレンオキサイドとをモル比1:2で反応させて、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を得た。続いて、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物とラウリン酸とをモル比1:2で反応させて、エステル化合物C2-13を得た。
【0087】
(エステル化合物C2-14)
チオジプロピオン酸と2-ヘキシル-1-デカノールとをモル比1:2で反応させて、エステル化合物C2-14を得た。
【0088】
次に示す二種の基剤(C)は、エステル化合物(C2)の例である。
C2-15:トリメリット酸トリイソステアラート
C2-16:ソルビタンモノオレート
【0089】
次に示す六種の基剤(C)は、炭化水素油(C3)の例である。なお、炭化水素油(C3)の動粘度は、40℃における値である。
C3-17:Shell(登録商標)GTL Solvent GS-310(シェルルブリカンツジャパン株式会社製)(動粘度5.9mm/s)
C3-18:ISANE(登録商標)BIOLIFE 1518(トタルエナジーズ・ルブリカンツ・ジャパン株式会社製)(動粘度3.4mm/s)
C3-19:ISANE(登録商標)BIOLIFE 58(トタルエナジーズ・ルブリカンツ・ジャパン株式会社製)(動粘度3mm/s)
C3-20:ISANE(登録商標)BIOLIFE 78(トタルエナジーズ・ルブリカンツ・ジャパン株式会社製)(動粘度3.9mm/s)
C3-21:Synfluid(登録商標)PAO 4cSt(シェブロンフィリップス化学株式会社製)(動粘度16.8mm/s)
C3-22:Synfluid(登録商標)PAO 6cSt(シェブロンフィリップス化学株式会社製)(動粘度30.5mm/s)
【0090】
(1-4)その他の成分(D)
糖類(A)、ノニオン界面活性剤(B)、および基剤(C)のいずれにも該当しないその他の成分(D)として、以下の11種類の化合物を用いた。各化合物には、その他の成分(D)を示すDの符号と、11種類の化合物に順に付した1~11の通し番号と、の組合せからなる化合物番号を付している。化合物D-4~D-10は防腐剤の例である。
D-1:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
D-2:2-エチルヘキシルリン酸エステルカリウム
D-3:ポリエチレングリコール(質量平均分子量600)
D-4:パーマケム(登録商標)OM-17(株式会社パーマケムアジア製)
D-5:パーマケム(登録商標)OM-27(株式会社パーマケムアジア製)
D-6:パーマケム(登録商標)OM-30(株式会社パーマケムアジア製)
D-7:ACTICIDE(登録商標)LA(ソー・ジャパン株式会社製)
D-8:ACTICIDE(登録商標)LA2011(ソー・ジャパン株式会社製)
D-9:ACTICIDE(登録商標)MBS(ソー・ジャパン株式会社製)
D-10:PROXEL(登録商標)GXL(ロンザジャパン株式会社製)
D-11:ポリグリセロールポリグルシジルエーテル
【0091】
(2)炭素繊維前駆体用処理剤の調製
(実施例1の調製)
各成分を以下に示す質量比で秤量した。
糖類A2-1 1質量%
ノニオン界面活性剤B-1 10質量%
ノニオン界面活性剤B-3 10質量%
ノニオン界面活性剤B-12 9質量%
基剤C1-1 35質量%
基剤C1―3 30質量%
基剤C1-7 5質量%
秤量した各成分をビーカーに投入してよく混合した後、これを撹拌しながらイオン交換水を徐々に添加して不揮発分濃度3質量%とし、実施例1の炭素繊維前駆体用処理剤を調製した。
【0092】
(他の実施例および比較例の調製)
混合対象とする試薬の種類および割合を変更した他は、実施例1と同様の方法で各例の炭素繊維前駆体用処理剤を調製した。実施例1を含む全ての例の調製条件を、後掲の表1~表3に示す。
【0093】
〔炭素繊維前駆体用処理剤の評価〕
(1)毛羽の評価
アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解し、ポリマー濃度が21.0質量%であり、60℃における粘度が500ポイズである紡糸原液を作成した。紡糸原液を、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランドを作成した。
【0094】
作成したアクリル繊維ストランドに対して、実施例および比較例の各例の炭素繊維前駆体用処理剤の3%イオン交換水溶液を、浸漬法にて、処理剤の付着量が1質量%(溶媒を含まない。)となるように給油した。その後、炭素繊維前駆体用処理剤が付着したアクリル繊維ストランドに対して150℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、さらに170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に、糸管に巻き取って炭素繊維前駆体を得た。
【0095】
得られた炭素繊維前駆体を100m巻き返して毛羽の発生箇所を目視で観察し、以下の四水準で評価した。なお、Aが最も優れる水準であり、Dが最も劣る水準である。
A:目立った毛羽が見られない(0~1箇所)。
B:ごくわずかに毛羽が認められる(2~3箇所)。
C:わずかに毛羽が認められる(4~5箇所)。
D:毛羽が多数認められる(6箇所以上)。
【0096】
(2)エマルション安定性
実施例および比較例の各例の炭素繊維前駆体用処理剤の10%イオン交換水溶液を給油浴においてポンプで循環させ、水溶液の状態を目視で観察した。観察結果に応じて、以下の四水準に区分した。なお、Aが最も優れる水準であり、Dが最も劣る水準である。
A:7日間経過後にゲルの発生が見られず、スムーズな連続操業が可能であった。
B:7日間経過後に微量のゲルの発生が見られたが、ポンプによる循環に支障が見られなかった。
C:7日間経過後にゲルの発生が見られ、ポンプによる循環が可能だった。
D:7日間経過後に多くのゲルが発生し、ポンプによる循環が不安定だった。
【0097】
〔結果〕
実施例および比較例の各例の原料構成および各評価の結果を表1~表3に示す。
【0098】
表1:実施例1~実施例10
【表1】
【0099】
表2:実施例11~実施例20
【表2】
【0100】
表3:比較例1~比較例7
【表3】
【0101】
実施例および比較例の各例の比較により、糖類(A)と、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン界面活性剤(B)と、基剤(C)と、を含有する炭素繊維前駆体用処理剤を用いた場合に、炭素繊維前駆体の毛羽が少なく、かつ、炭素繊維前駆体用処理剤のエマルションの安定性が高かった。
【0102】
糖類(A)をノニオン界面活性剤(B)とともに含む実施例1および実施例11は、同種の糖類(A)を含みノニオン界面活性剤(B)を含まない比較例2に比べて高い毛羽抑制性を示した。これらの実施例と比較例との対比から、糖類(A)とノニオン界面活性剤(B)との相乗効果によって毛羽抑制性が高められることが示唆される。
【0103】
また、ノニオン界面活性剤(B)の種類および割合が同じ実施例1、比較例5、および比較例6を比べると、糖類(A)を含む実施例1が糖類(A)を含まない比較例5および比較例6より高いエマルション安定性を示した。これらの実施例と比較例との対比から、糖類(A)とノニオン界面活性剤(B)との相乗効果によってエマルション安定性が高められることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、たとえば炭素繊維前駆体の製造に利用できる。

【要約】
【課題】毛羽抑制性およびエマルション安定性に優れる炭素繊維前駆体用処理剤、および、かかる炭素繊維前駆体用処理剤が付着した炭素繊維前駆体を実現する。
【解決手段】糖類(A)と、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン界面活性剤(B)と、基剤(C)と、を含有し、糖類(A)が、アルジトール(A1)と、アルジトールの分子内脱水物、アルジトールの分子間脱水物、ならびに、アルジトールの分子内および分子間の脱水物、からなる群から選択される少なくとも一つの脱水物であって、分子構造中にエポキシ基を有さないアルジトール脱水物(A2)と、二糖(A3)と、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、基剤(C)が、シリコーン化合物(C1)と、エステル化合物(C2)と、炭化水素油(C3)と、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である。
【選択図】なし