(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】温度センサー機能付き無線タグ
(51)【国際特許分類】
G01K 1/08 20210101AFI20241003BHJP
【FI】
G01K1/08 C
(21)【出願番号】P 2024108386
(22)【出願日】2024-07-04
【審査請求日】2024-08-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597096161
【氏名又は名称】株式会社朝日ラバー
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平栗 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】菅野 文男
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-208168(JP,A)
【文献】特開2002-236903(JP,A)
【文献】実開平5-077738(JP,U)
【文献】特開2016-115126(JP,A)
【文献】特開2018-186488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサーを備えた半導体素子を具備する無線タグであって、
前記無線タグの外方のリーダーからの無線指示を受信又は前記リーダーへの無線を発信するアンテナと、前記アンテナが受信した前記リーダーからの無線指示により前記温度センサーで測定した温度データを前記アンテナから前記リーダーに無線送信する前記半導体素子と、前記半導体素子及び前記アンテナを電気的に接続する導電パターンとが内包されており、
前記無線タグに太陽光が照射されたとき、前記太陽光を反射して少なくとも前記温度センサーの内包部分の温度の上昇を抑制できるように、前記温度センサーの内包部分の外周面が白色粉末を含有する白色樹脂層で覆われていることを特徴とする温度センサー機能付き無線タグ。
【請求項2】
前記白色粉末が、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及び炭酸カルシウムから選ばれた一種又は二種以上のものであることを特徴とする請求項1に記載の温度センサー機能付き無線タグ。
【請求項3】
前記白色樹脂層の厚さが、200μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の温度センサー機能付き無線タグ。
【請求項4】
前記白色粉末が、重量平均法で測定した平均粒径が0.1~10μmであることを特徴とする請求項1に記載の温度センサー機能付き無線タグ。
【請求項5】
前記白色粉末が、前記白色樹脂層を形成する樹脂に対して1~30質量部であることを特徴とする請求項1に記載の温度センサー機能付き無線タグ。
【請求項6】
前記白色樹脂層が、照射された前記太陽光のうち波長300~800nmの光を80%以上反射することを特徴とする請求項1に記載の温度センサー機能付き無線タグ。
【請求項7】
前記白色樹脂層を形成する樹脂が、シリコーンゴムであることを特徴とする請求項1に記載の温度センサー機能付き無線タグ。
【請求項8】
前記無線タグの外周面の全面が前記白色樹脂層で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の温度センサー機能付き無線タグ。
【請求項9】
前記白色樹脂層の外周面が、親水性被膜で覆われていることを特徴とする請求項1に記載の温度センサー機能付き無線タグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温度センサー機能を備えた半導体素子が設けられた温度センサー機能付き無線タグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
果物等の植物栽培がなされる圃場は広く、温度、湿度等の栽培環境はバラツキが存在し、一か所での栽培環境の測定では圃場全体の栽培環境を把握できない。このため、下記特許文献1のように、圃場に複数の無線タグを用いて複数個所で栽培環境を測定して圃場の栽培環境を把握できるようにしている。
無線タグは、温度、湿度等を測定する環境測定センサーを具備しており、無線タグの外方のリーダーからの無線指示で環境測定センサーにより測定した環境データをリーダーに無線送信できるものである。無線タグは小型で軽量であり、圃場の複数個所に設置できるから、圃場全体の環境をそのバラツキを含めて把握でき、植物の栽培に役立たせることができる。
【0003】
しかし、本発明者等の検討によれば、太陽光が照射される屋外の圃場に設置された温度センサー機能付き無線タグでは、日陰に設置された場合でも、周囲温度よりも高い温度の測定データを送信していたことが判明した。特に、太陽光が照射される日向に設置された温度センサーを備えた無線タグの場合、温度センサーを内包する部分の温度が上昇して周囲温度よりもかなり高温の測定データを送信していたことが判明した。ビニールハウスが設置された圃場でも、同様であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、太陽光が照射される日向に設置された場合でも、少なくとも温度センサーの内包部分の温度の上昇を抑制できる温度センサー機能付き無線タグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するためになされた温度センサー機能付き無線タグは、温度センサーを備えた半導体素子を具備する無線タグであって、前記無線タグの外方のリーダーからの無線指示を受信又は前記リーダーへの無線を発信するアンテナと、前記アンテナが受信した前記リーダーからの無線指示により前記温度センサーで測定した温度データを前記アンテナから前記リーダーに無線送信する前記半導体素子と、前記半導体素子及び前記アンテナを電気的に接続する導電パターンとが内包されており、前記無線タグに太陽光が照射されたとき、前記太陽光を反射して少なくとも前記温度センサーの内包部分の温度の上昇を抑制できるように、前記温度センサーの内包部分の外周面が白色粉末を含有する白色樹脂層で覆われていることを特徴とする。
【0007】
前記白色粉末が、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及び炭酸カルシウムから選ばれた一種又は二種以上のものであることが好ましい。
【0008】
前記白色樹脂層の厚さが、200μm以上であることが好ましい。
【0009】
前記白色粉末が、重量平均法で測定した平均粒径が0.1~10μmであることが好ましい。
【0010】
前記白色粉末が、前記白色樹脂層を形成する樹脂に対して1~30質量部であることが好ましい。
【0011】
前記白色樹脂層が、照射された前記太陽光のうち波長300~800nmの光を80%以上反射するものであることが好ましい。
【0012】
前記白色樹脂層を形成する樹脂が、シリコーンゴムであることが好ましい。
【0013】
前記無線タグの外周面の全面が前記白色樹脂層で被覆されていることが好ましい。
【0014】
前記白色樹脂層の外周面が、親水性被膜で覆われていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る温度センサー機能付き無線タグによれば、少なくとも温度センサーの内包部分の外周面が白色粉末を含有する白色樹脂層で覆われていることにより、太陽光が照射される日向に設置された場合でも、少なくとも温度センサーの内包部分の上昇を抑制でき、周囲温度に可及的に近い温度データを無線送信できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(a)は本発明に係る温度センサー機能付き無線タグの部分断面正面図であり、
図1(b)は
図1(a)のA-A面での断面図である。
【
図2】
図2は
図1に示す温度センサー付きの無線タグの製造方法を説明する断面図である。
【
図3】
図3は種々の着色シリコーンゴム板の反射率を紫外・可視・赤外分光光度計により測定した結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は種々の着色シリコーンゴム板の透過率、吸収率を紫外・可視・赤外分光光度計により測定した結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は種々の白色粉末を配合した白色シリコーンゴム板の反射率、透過率、吸収率を紫外・可視・赤外分光光度計により測定した結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は本発明に係る温度センサー機能付き無線タグの他の例を説明するための断面図である。
【
図7】
図7は本発明に係る温度センサー機能付き無線タグの他の例を説明するための断面図である。
【
図8】
図8は本発明に係る温度センサー機能付き無線タグの他の例を説明するための断面図である。
【
図9】
図9は本発明に係る温度センサー機能付き無線タグをマンゴーの栽培に用いた例を説明する説明図である。
【
図10】
図10は本発明に係る温度センサー機能付き無線タグを親水性被膜で被覆した状態を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る温度センサー機能付き無線タグの部分断面正面図を
図1(a)に示し、そのA-A面での断面図を
図1(b)に示す。
図1に示す温度センサー機能付き無線タグ10(以下、無線タグ10という)には、その内方部分として、紙、PET、PVC等で形成された柔軟な基板11と、基板11の上面に熱電対等の接触式の温度センサーを備える半導体素子12と、無線タグ10の外方のリーダー(後述)からの無線指示を受信又はリーダーへの無線を発信するアンテナ14と、半導体素子12及びアンテナ14とを電気的に接続する導電パターン16と、半導体素子12、アンテナ14及び導電パターン16を粘着層18bを介して被覆するポリエチレンテレフタレート等の樹脂からなる保護層18aと、基板11の下面側に設けられた粘着層28cとを内包するインレット部20が形成されている。更に、インレット部20は、その下側が下部保護層24aの凹部内に挿入されて保護され、その上側が上部保護層24bの凹部内に挿入されて保護されている。
図1に示す無線タグ10では、
図1(b)に示すように、アンテナ14と導電パターン16とが半導体素子12の両側に設けられている。このような無線タグ10の一端縁には、孔26が形成されており、無線タグ10を所定位置に吊るす紐等が挿通される。
【0018】
図1に示す無線タグ10では、下部保護層24a及び上部保護層24bが白色樹脂で形成されている白色樹脂層である。白色樹脂には、太陽光を反射する白色粉末24pが含有されており、無線タグ10に太陽光が照射されたとき、無線タグ10を形成するインレット部20の温度の上昇を可及的に抑制できる。このような白色樹脂に配合される白色粉末24pとしては、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及び炭酸カルシウムから選ばれた一種又は二種以上のものを用いることができる。その形状は、粒状や棒状であるものであるものが好ましく、酸化チタンとしては棒状形状のものが好ましい。粒径としては、重量平均で測定した平均粒径がした平均粒径が0.1~10μmであるものが好ましく、更に一層好ましいのは棒状形状の短軸が0.2~1.0μm、長軸が1~10μmであるものである。また、白色粉末24pが、樹脂100質量部に対して1~30質量部であることが好ましい。
【0019】
白色樹脂を形成する樹脂としては、耐光性を有し且つ柔軟性を有するものが好ましく、シリコーンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ポリウレタン、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等を挙げることができる。特に、シリコーンゴムが好ましい。
【0020】
無線タグ10の白色樹脂から成る下部保護層24a及び上部保護層24bの形成は、任意の方法で作成することができる。金型を用いた圧縮成形や射出成型にて成形した下部保護層24aの凹部と上部保護層24bの凹部との間に、
図2に示すようにインレット部20を挟み込み、インレット部20の下側を下部保護層24aの凹部内に挿入して、インレット部20の粘着層28cにより下部保護層24aの凹部の底面に固着し、インレット部20の上側は上部保護層24bの凹部内に挿入する。下部保護層24aと上部保護層24bとは、両者の端面を分子接着等により接着することにより、
図1に示す無線タグ10を形成できる。
【0021】
このように白色樹脂層が、太陽光を十分に反射できることを調査した結果を
図3に示す。
図3は、種々の着色シリコーンゴム板(厚さ0.8mm)の反射率を紫外・可視・赤外分光光度計(島津製作所株式会社製のUV-3600Plus)により測定した結果を示す。
図2に示す着色シリコーンゴム板は以下に示すものである。
「白色」:シリコーンゴムに対して、白色顔料である平均粒径(重量平均法)0.1~10μmの酸化チタンが2質量部配合されている白色シリコーンゴム板。
「黄色」:シリコーンゴムに対して、黄色顔料であるクロム酸鉛が2質量部配合されている黄色シリコーンゴム板。
「緑色」:シリコーンゴムに対して、緑色顔料である銅炭酸塩が2質量部配合されている緑色シリコーンゴム板。
「グレー」:シリコーンゴムに対して、白色顔料である酸化チタンが0.3質量部配合および黒色顔料であるカーボンブラックが0.1重量部配合されているグレーシリコーンゴム板。
「ピンク」:シリコーンゴムに対して、ピンク顔料であるアゾ系が2質量部配合されているピンクシリコーンゴム板。
【0022】
図3から明らかなように、白色シリコーンゴム板は、他の色のシリコーンゴム板よりも太陽光の反射率が高く、特に太陽光の地表に届く波長領域である波長300~800nm領域の反射率が80%以上と高い。
【0023】
図3に示す種々の着色シリコーンゴム板について、上記の紫外・可視・赤外分光光度計を用いて、太陽光の透過率を調査した結果を
図4(a)に示し、太陽光の吸収率を調査した結果を
図4(b)に示す。
【0024】
図4(a)に示すように、波長300~800nm領域の白色シリコーンゴム板の透過率は、グレーシリコーンゴム板の透過率よりも、やや高いものの、ピンクシリコーンゴム板、黄色シリコーンゴム板、緑色シリコーンゴム板の透過率よりも低い。同様に、
図3(b)に示すように、波長300~800nm領域の白色シリコーンゴム板の吸収率も、グレーシリコーンゴム板、ピンクシリコーンゴム板、黄色シリコーンゴム板、緑色シリコーンゴム板の吸収率よりも低い。
【0025】
図3及び
図4から明らかなように、太陽光の地表に届く波長領域である波長300~800nm領域において、白色シリコーンゴム板は、他の色相のシリコーンゴム板に比較して、高い反射率を有し、低い透過率及び吸収率を有する。
【0026】
図3及び
図4に示す白色シリコーンゴム板は、白色粉末として酸化チタンを配合したものであり、白色粉末として、下記表1に示す白色粉末を配合したシリコーンゴム板について
図2及び
図3と同様にして、波長300~2000nm領域の反射率、透過率、吸収率を調査した結果を
図5に示す。
【0027】
【0028】
図5から明らかなように、種々の白色粉末を配合した白色シリコーン板は、
図3及び
図4に示す他の色相のシリコーンゴム板に比較して、高い反射率を有し、低い透過率及び吸収率を有するものである。
【0029】
このことから、
図1に示すように、無線タグ10の外周面を白色粉末24pを含有する白色樹脂から成る下部保護層24aと上部保護層24bとで被覆することにより、太陽光が無線タグ10に照射されたとき、下部保護層24a及び上部保護層24bが太陽光を透過・吸収することなく反射して、無線タグ10のインレット部20の上昇を抑制することができ、周囲温度に可及的に近い温度データをアンテナ14からリーダーに無線送信できる。このことは、日光が照射されている無線タグ10の表面温度を非接触式のリーダーライターで測定したところ35℃であった。一方、下部保護層24aと上部保護層24bとで被覆されてない従来の無線タグに、日光を照射したところ、その表面温度を同様にして測定したところ、42℃と昇温されており、従来の無線タグの躯体温度は無線タグ10よりも高温となっていることからも明らかである。
【0030】
図1及び
図2に示す無線タグ10では、インレット部20を白色樹脂から成る下部保護層24aと上部保護層24bとで被覆していたが、
図6に示すように、インレット部20を被覆する白色粒子が非含有のシリコーン樹脂等の樹脂から成る下側保護層22aと上側保護層22bの周面を、白色樹脂から成る白色樹脂被膜24で被覆した無線タグ10でもよく、
図7に示すように、白色樹脂被膜24で被覆されたインレット部20を、白色粒子非含有のシリコーン樹脂等の樹脂から成る下部保護層22aと上部保護層22bとで保護した無線タグ10でもよい。また、
図8に示すように、インレット部20を白色樹脂被膜24のみで被覆した無線タグ10でもよい。
【0031】
図1~
図8に示す無線タグ10としては、リーダーからの電波により起電して半導体素子12を駆動し、温度センサーで測定した温度データをリーダーに送信するパッシブタイプでもよく、内蔵する電池により半導体素子12を駆動し、温度センサーで測定した温度データをリーダーに送信するアクティブタイプでもよく、通常はパッシブタイプであってもよく、リーダーからの電波で内蔵の電池を用いるセミアクティブタイプであってもよい。
【0032】
図1~
図8示す無線タグ10は、例えば、マンゴーの温室栽培に用いられる。マンゴーの温室栽培では、マンゴーの栽培に適した温度となるように温室内の温度管理がなされているが、温室内の温度を一定に保持することは容易ではなく温度のバラツキがどうしても生じる。一方、マンゴーの成熟には、所定温度以上の積算温度が目安となることから、マンゴーの収穫時期は個々のマンゴーで異なる。このため、
図9に示すように個々のマンゴー32の近傍に孔26に挿通された紐30により無線タグ10を吊り下げ、所定のマンゴー32の周辺温度を測定した温度データをリーダー28に送信し、マンゴー32の積算温度を計算して収穫時期を決定することができる。無線タグ10は、太陽光の照射の影響を排除し、マンゴー32の近傍温度に可及的に近い温度データをリーダー28に無線送信できる。リーダー28に送信された温度データは、リーダー28からパーソナルコンピューター等に送信されて積算温度が計算され、個々のマンゴー32の収穫時期が決定される。
尚、温度データに、必要に応じて光センサーによる受光時間及び/受光波長の光データ、及び/又は湿度センサーによる湿度データを加えて収穫時期を決定してもよい。
【0033】
図9に示すように個々のマンゴー32の周辺温度を正確に測定するには、無線タグ10の表面に埃等が付着して汚れていると、太陽光の光が汚れに吸収され無線タグ10の躯体温度を上昇させるおそれがある。このため、無線タグ10の外周面を、
図10に示すように、親水性被膜34で覆うことにより、無線タグ10の温度上昇を抑制しつつ防汚効果も得られ好ましい。この親水性被膜34としては、親水性シランカップリング剤、ポリシラザン、酸化チタン、ポリエーテル変性シリコーン、スルホベタイン高分子、などが挙げられる。特にスルホベタイン高分子が好ましい。
スルホベタイン高分子を含有する親水性被膜34は、無線タグ10の白色樹脂層24の表面に、スルホベタイン高分子が吸着、反応、又は結合されたものである。
尚、必要に応じて水溶性電解質が遊離のスルホベタイン高分子とイオン化したスルホベタイン高分子電解質塩が吸着、反応、又は結合されていてもよい。
【0034】
スルホベタイン高分子は、下記化学式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基であり、n1~n2は2~6の数である)、及び/又は、下記化学式(2)
【化2】
(式(2)中、R
2は水素原子又はメチル基であり、n3、n5、n6及びn8は2~6の数であり、n4
a及びn7
aはいずれも0、又はn4
a及びn7
aが1でn4
b及びn7
bは1~3の数である)で表されるスルホベタイン基を有する繰返単位のみで構成される重合体、若しくは前記化学式(1)及び/又は(2)で表されるスルホベタイン基を有する繰返単位と、下記化学式(3)
【化3】
(式(3)中、R
3は水素原子又はメチル基であり、n9は2~6の数であり、n10は0~1の数であり、R
4はアジド基、スルホ基、アルコキシシリル基、及び水酸基から選ばれる何れかの活性官能基である)で表される活性官能化基を有する繰返単位、又は下記化学式(4)
【化4】
(式(4)中、R
5は水素原子又はメチル基であり、R
6はカルボキシル基、エチレングリコール基又はエチレングリコールオリゴマー、アクリル基及びメタクリル基から選ばれる何れかの官能基である)で表される繰返単位とのランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、若しくはグラフト共重合体であることが好ましい。
【0035】
無線タグ10に形成されるスルホベタイン高分子を含有する親水性被膜34を、無線タグ10の白色樹脂層24と同一樹脂からなる樹脂板の一面に形成して、屋外に14日間晒した後、樹脂板の表面の親水化処理表面の親水性を液滴下法で測定したところ、その液滴の接触角が5°以下である良好な親水性を呈している。接触角が5°以下と低いと高い親水性によって水に濡れてもはじかず、親水性被膜34の全面を濡らすように水膜が拡がるようになる。その結果、良好な親水性を有する無線タグ10の表面には、雨水による汚れや埃が付着し難く、例え汚れや埃が付着しても風や簡易な水洗等で簡単に剥がれ易くなる。このように優れた親水性と耐久性とを有する親水性被膜34が形成された無線タグ10は、屋外で長時間使用されても埃や雨水による汚れを防ぐことができ、無線タグ10のメンテナンスの容易化を図ることができる。
【0036】
無線タグ10の白色樹脂層24の表面にスルホベタイン高分子を含有する親水性被膜34を形成するには、先ず、スルホベタイン高分子の少なくとも一部が溶解した親水性水溶液を準備した後、無線タグ10の白色樹脂層24の表面に、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式処理を施して、スルホベタイン高分子と反応又は結合する官能基を生成させ、次いで、準備した親水性水溶液を付し、スルホベタイン高分子と官能基と反応又は結合させることにより、親水性被膜34を形成できる。その後、表面に親水性被膜が形成された無線タグ10を水洗する。
【0037】
無線タグ10の白色樹脂層24の表面に施す、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式処理に代えて、白色樹脂層24の表面に側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基及び/又はアミノ基を有するシランカップリング剤から成る分子接着剤を塗布して、白色樹脂層24の表面を分子接着剤が吸着、反応又は結合した修飾面とした後、この修飾面に遊離のスルホベタイン高分子と反応又は結合する官能基を生成する表面処理を施し、その後、この表面処理面に準備した親水性水溶液を付し、スルホベタイン高分子と官能基と反応又は結合させることにより、親水性被膜34を形成できる。
【0038】
ここで、分子接着剤として、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤を用いたとき、無線タグ10の白色樹脂層24の表面に、シランカップリング剤が吸着、反応又は結合した形成した修飾面に、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式処理を含むことが好ましい。側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤で修飾された無線タグ10の白色樹脂層24の表面に、スルホベタイン高分子と反応又は結合する官能基を多数生成でき好ましい。
【0039】
また、無線タグ10の白色樹脂層24の表面に、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式処理を施してから分子接着剤を塗布することにより、乾式処理面に生じた官能基又は遊離基と、分子接着剤のシランカップリング剤の側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基及び/又はアミノ基とが反応又は結合することにより、無線タグ10の白色樹脂層24の表面と分子接着剤とを強固に結合させることができ好ましい。
更に、スルホベタイン高分子と官能基と反応又は結合させ後に、表面に親水性被膜34が形成された無線タグ10を水洗する。
【0040】
分子接着剤として、側鎖及び/又は末端に官能基としてのビニル基を有するシランカップリング剤と、側鎖及び/又は末端に官能基としてのアミノ基を有するシランカップリング剤とが混合されているものを用いた場合、無線タグ10の白色樹脂層24の表面にシランカップリグ剤が吸着、反応又は結合して形成された修飾面に、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマ照射処理、電子線照射処理及び放射線照射処理から選ばれる少なくとも何れかの乾式処理を施すことにより、無線タグ10の表面に十分な親水性を付与でき好ましい。
【0041】
上述したシランカップリング剤としては、ビニル基及び/又はアミノ基の官能基を有し、且つ同一分子内にシラノール基、メトキシ基、エトキシ基、アジド基、イソシアネート基及びエポキシ基からなる官能基のうち少なくとも1種を有するものを好適に用いることができる。
【0042】
無線タグ10を浸漬する親水性水溶液として、溶性電解質の溶解水溶液に遊離のスルホベタイン高分子の少なくとも一部を溶解させたものを用いて、遊離のスルホベタイン高分子及び/又はスルホベタイン高分子電解質塩と官能基とを反応又は結合させることにより、無線タグ10の表面に親水性被膜34を形成できる。この場合、表面に親水性被膜が形成された無線タグ10を水洗し、無線タグ10の表面に付されている水溶性電解質及び/又はスルホベタイン高分子電解質塩の脱塩をすることにより、親水性被膜34から電解質成分を十分に除去でき、無線タグ10の使用中に雨水により親水性被膜34からスルホベタイン高分子が溶出する事態を防止でき好ましい。
【0043】
以上の説明は、アンテナ14と、温度センサーを備えた半導体素子12と、アンテナ14とを電気的に接続する導電パターン16とが封止されている樹脂封止部18とから成るインレット部20と、インレット部20を覆う保護層22と、保護層22を被覆する、太陽光を反射する白色粉末24aを含有する白色樹脂層24とで形成されている無線タグ10について説明してきたが、太陽光を反射する白色粉末24aを含有する白色樹脂層24を保護層22に兼ねていてもよい。
また、温度センサーが内包されている部分の温度上昇を防止すべく、温度センサーの内包部分の外周面を覆うように白色樹脂層24を形成してもよい。
尚、無線タグ10に、光センサーによる受光時間及び/受光波長の光データを得ることができる光センサー、及び/又は湿度センサーを設け、アンテナ24から温度データに加えて、受光時間及び/受光波長の光データ、及び/又は湿度データを必要に応じてリーダー28に送信できるようにしてもよい。
【実施例1】
【0044】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例1
(1)
図1に示す無線タグ10として、下記シリコーン樹脂を用いて金型を用いた圧縮成形にて、インレット部20と同等の大きさの凹部がある形状に成形した種々の色彩の下部保護層と上部保護層とを作成した。
「白色」:シリコーン樹脂に対して、白色顔料である平均粒径(重量平均法)0.1~10μmの酸化チタンが2質量部配合されている白色シリコーン樹脂。
「黄色」:シリコーン樹脂に対して、黄色顔料であるクロム酸鉛が2質量部配合されている黄色シリコーン樹脂。
「緑色」:シリコーンゴムに対して、緑色顔料である銅炭酸塩が2質量部配合されている黄色シリコーン樹脂。
「グレー」:シリコーンゴムに対して、白色顔料である酸化チタンが0.3質量部配合および黒色顔料であるカーボンブラックが0.1重量部配合されているグレーシリコーン樹脂。
「ピンク」:シリコーンゴムに対して、ピンク顔料であるアゾ系が2質量部配合されているピンクシリコーン樹脂。
(2)種々の色彩の下部保護層と上部保護層との内面の凹部以外の箇所にコロナ放電処理を行い、処理した下部保護層と上部保護層との間にインレット部20を挟み込み、各凹部内にインレット部20を挿入し、加熱加圧にてインレット部20を下部保護層と上部保護層との接着封止を行い、無線タグ10を作成した。
(3)インレット部20の外周面が種々の色彩の下部保護層と上部保護層とで被覆された無線タグ10による温度測定を、日光が照射されることのない室内において実施した。その際に、リーダーはタカヤ株式会社製の据え置き型(UHFリーダーライター(商品名)、UTR-SU01-3CH(製品型番))を用い、基準温度計として株式会社ティアンドデイ社製の「おんどとり」(商品名)を用いた。その結果を表2に示す。尚、基準温度計で測定した室内温度は25.6℃で一定していた。
【0046】
【0047】
表2から明らかなように、日光の影響のない室内では表面の色相が異なる無線タグ10によって測定された温度のバラツキは殆どなかった。
【0048】
実施例2
実施例1で用いた色違いの無線タグ10及び基準温度計を用いて、太陽の出ている状態下で日陰となる場所での温度測定を実施した。その結果を下記表3に示す。日陰での照度は、10190ルックス(lx)であった。
【0049】
【0050】
表3から明らかなように、表面が白色の無線タグ10で測定された温度が、基準温度との温度差が最も小さかった。また、白色の無線タグ10は、日光の影響を多少なりとも受ける日陰であっても、日光の影響を受けない室内での結果(実施例1)と略同等な温度差であった
【0051】
実施例3
実施例2で用いた色違いの無線タグ10及び基準温度計を用いて、実施例2と同日に太陽の出ている状態下で日向となる場所での温度測定を実施した。その結果を下記表4に示す。日向での照度は、測定範囲(99999ルックス(lx))を超えていた。
【0052】
【0053】
表4から明らかなように、太陽に直射される状態においても、表面が白色の無線タグ10で測定された温度は基準温度との温度差が最も小さかった。
【0054】
実施例4
実施例1で用いた無線タグ10の下部保護層と上部保護層として、表1に示した種々の白色粉末を配合したシリコーン樹脂で成形したものを用いた。次いで、太陽の出ている状態下において、無線タグ10を日向となる場所に設置し、基準温度計を日陰に設置して温度測定を実施した。その結果を下記表5に示す。
【0055】
【0056】
表5から明らかなように、配合する白色粉末を変更しても、日向に設置された表面が白色の無線タグ10で測定された温度と日陰に設置された基準温度計で測定された基準温度との温度差は同程度であった。
【0057】
実施例5
(親水性処理)
実施例1で用いた白色シリコーン樹脂で形成した白色シリコーンゴム板と、実施例1で用いたグレーシリコーン樹脂で形成したグレーシリコーンゴム板とを用い、各ゴム板の表面に下記のスルホベタイン高分子を含有する親水性被膜を形成する親水化処理を施した。
親水化処理は、先ず、1.0質量%のスルホベタイン溶液を準備した。このスルホベタイン溶液には、80℃の水に下記のスルホベタイン高分子の少なくとも一部が溶解されている。
また、白色シリコーンゴム板とグレーシリコーンゴム板との各々を、一面に積算光量が600mj/cm2となるように波長220~410nmの紫外線を照射してから、準備した80℃の1.0質量%のスルホベタイン溶液に1分間浸漬した後、イオン交換水で洗浄し乾燥した。
【0058】
(親水性評価)
親水性処理を施した各ゴム板を屋外に14日間放置し、自動接触角計(協和界面科学株式会社製、品番DM-501)を用いて液滴法による接触角の経時変化を測定した。親水性処理を施した各ゴム板の親水処理面の液滴の接触角は、14日間を通して測定不可の5°以下であり、良好な耐候性を有する親水性を呈した。
【0059】
実施例6
実施例1で用いた白色シリコーン樹脂(酸化チタン配合)を被覆した無線タグ10に実施例5にて行った親水性処理を施した。次いで、太陽の出ている状態下において、親水性処理を行った白色シリコーンで被膜した無線タグ10と親水性処理を行っていない白色シリコーンで被膜した無線タグ10を日向となる場所に設置し、基準温度計を日陰に設置して温度測定を実施した。その結果を下記表6に示す。
【0060】
【0061】
表6から明らかなように、親水性処理の有無によらず、日向に設置された白色シリコーン樹脂で被膜した無線タグ10の測定された温度は同程度であり、親水性処理は無線タグ10の温度上昇の抑制には影響しないことが分かった。従って、白色シリコーン樹脂で被膜した無線タグ10に親水性処理を施すことにより、無線タグ10の温度上昇を抑制しつつ防汚効果も得られる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る温度センサー機能付き無線タグによれば、太陽光が照射される日向に設置された場合でも、周囲温度に可及的に近い温度データを無線送信できるから、日光に晒されることが多い農業用として用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
10:無線タグ、11:基板、12:半導体素子、14:アンテナ、16:導電パターン、18a:保護層、18b,18c:粘着層、20:インレット部、22a:白色粉末非含有の下部保護層、22b:白色粉末非含有の下部保護層、24:白色樹脂被膜、24a:白色粉末含有の下部保護層、24b:白色粉末含有の下部保護層、24p:白色粉末、26:孔、28:リーダー、30:紐、32:マンゴー、34:親水性被膜
【要約】
【課題】太陽光が照射される日向に設置された場合でも、少なくとも温度センサーの内包部分の温度上昇を抑制できる温度センサー機能付き無線タグを提供する。
【解決手段】温度センサーを備えた半導体素子12を具備する無線タグ10であって、無線タグ10の外方のリーダーからの無線指示を受信又は前記リーダーへの無線を発信するアンテナ14と、アンテナ14が受信した前記リーダーからの無線指示により前記温度センサーで測定した温度データをアンテナ14から前記リーダーに無線送信する半導体素子12と、半導体素子12及びアンテナ14を電気的に接続する導電パターン16とが内包されており、無線タグ10に太陽光が照射されたとき、前記太陽光を反射して少なくとも前記温度センサーの内包部分の温度の上昇を抑制できるように、前記温度センサーの内包部分の外周面が白色粉末24pを含有する白色樹脂で覆われていることを特徴とする。
【選択図】
図1