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特許7565136導電性皮革または導電性繊維、および導電性皮革または導電性繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】導電性皮革または導電性繊維、および導電性皮革または導電性繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/73 20060101AFI20241003BHJP
   D06M 11/79 20060101ALI20241003BHJP
   D06M 11/46 20060101ALI20241003BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20241003BHJP
   D06M 15/277 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D06M11/73
D06M11/79
D06M11/46
D06M15/643
D06M15/277
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021561100
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2019046763
(87)【国際公開番号】W WO2021106188
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-11-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510057475
【氏名又は名称】株式会社 ジャパンナノコート
(74)【代理人】
【識別番号】100148219
【弁理士】
【氏名又は名称】渡會 祐介
(72)【発明者】
【氏名】島田誠之
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/115793(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/115792(WO,A1)
【文献】特開2019-064078(JP,A)
【文献】特表2012-529127(JP,A)
【文献】特開平04-255767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 11/00
D06M 16/00
D06M 19/00 - 23/00
D06N 1/00 - 7/00
B32B 1/00 - 43/00
A41D 19/00
C14C 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シングルウォールカーボンナノチューブと、グラフェンナノ粒子と、シリカのシングルナノ粒子と、酸化スズのシングルナノ粒子と、を含み、
シリカのシングルナノ粒子と酸化スズのシングルナノ粒子との合計100質量部に対して、透過型電子顕微鏡で測定した5nm以下のシリカのシングルナノ粒子:40~60質量部、および透過型電子顕微鏡で測定した2nm以下の酸化スズのシングルナノ粒子:60~40質量部を含む第1層と、
(B)撥水剤と導電性材料を含む第2層と、
導電性皮革または導電性繊維の表面から第1層、第2層の順に備えることを特徴とする、導電性皮革または導電性繊維。
【請求項2】
表面のシート抵抗が、9.9×10Ω/□以下である、請求項1記載の導電性皮革または導電性繊維。
【請求項3】
皮革または繊維の表面に対する工程であって、
(A)シングルウォールカーボンナノチューブと、グラフェンナノ粒子と、シリカのシングルナノ粒子と、酸化スズのシングルナノ粒子と、水と、を含み、
シリカのシングルナノ粒子と酸化スズのシングルナノ粒子との合計100質量部に対して、透過型電子顕微鏡で測定した5nm以下のシリカのシングルナノ粒子:40~60質量部、および透過型電子顕微鏡で測定した2nm以下酸化スズのシングルナノ粒子:60~40質量部を含む第1層形成用分散液を、表面に塗布または表面を浸漬させ、第1層を形成する工程、
(B)撥水剤と、導電性材料と、水と、を含む第2層形成用水溶液を、表面に塗布または表面を浸漬させ、第2層を形成する工程
を、この順に含む、導電性皮革または導電性繊維の製造方法。
【請求項4】
(A)工程で、透明導電性薄膜形成用分散液を、表面に塗布または表面を浸漬させた後、圧延する、請求項3記載の導電性皮革または導電性繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性皮革または導電性繊維、および導電性皮革または導電性繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の普及により、タッチパネルでの操作が、日常で行われている。このタッチパネルを使用するため、防寒具の手袋等を着用したままで使用できるような商品が販売されている。
【0003】
しかし、これらの商品には、一般的に導電糸が使用されており、例えば金属系導電糸が使用されている場合、商品の色が導電糸を使用されている部分のみ異なるため、商品の外観を損なう上に、金属の種類によりアレルギー反応を引き起こす場合がある。また、導電糸は、一般的に摩擦に比較的強くないため、摩擦により導電性が低下する場合も多い。
【0004】
導電性を付与するための加工は、合成繊維類等には使用されている。一方、天然繊維や天然皮革といったものに、導電性加工が採用されている製品は少ない、と思われる。特に、天然皮革製品には、高級品が多いため、デザイン性の観点から、色等の風合いを変えない製品が求められている。また、スマートフォン用手袋等の商品に求められる特性の中で、商品の表面を撥水にしたいという要望があるが、撥水性を付与する表面処理剤は、商品の表面が絶縁性になることにより、商品表面の導通を阻害してしまうため、商品の表面全体に使用されている商品は普及していない。その結果、スマートフォン用手袋の場合には、指先の一部分のみを導電性にする、という使用方法が、通常である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-160582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、下地の風合いを変えずに導電性が付与され、耐摩擦性に優れる皮革または繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有することによって上記問題を解決した導電性皮革または導電性繊維、および導電性皮革または導電性繊維の製造方法に関する。
〔1〕(A)シングルウォールカーボンナノチューブと、グラフェンナノ粒子と、シリカのシングルナノ粒子と、酸化スズのシングルナノ粒子と、を含み、
シリカのシングルナノ粒子と酸化スズのシングルナノ粒子との合計100質量部に対して、透過型電子顕微鏡で測定した5nm以下のシリカのシングルナノ粒子:40~60質量部、および透過型電子顕微鏡で測定した2nm以下の酸化スズ粒子:60~40質量部を含む第1層と、
(B)撥水剤と導電性材料を含む第2層と、
を表面からこの順に備えることを特徴とする、導電性皮革または導電性繊維。
〔2〕表面のシート抵抗が、9.9×10Ω/□以下である、上記〔1〕記載の導電性皮革または導電性繊維。
〔3〕皮革または繊維の表面に対する工程であって、
(A)シングルウォールカーボンナノチューブと、グラフェンナノ粒子と、シリカのシングルナノ粒子と、酸化スズのシングルナノ粒子と、水と、を含み、
シリカのシングルナノ粒子と酸化スズのシングルナノ粒子との合計100質量部に対して、透過型電子顕微鏡で測定した5nm以下のシリカのシングルナノ粒子:40~60質量部、および透過型電子顕微鏡で測定した2nm以下酸化スズのシングルナノ粒子:60~40質量部を含む第1層形成用分散液を、表面に塗布または表面を浸漬させ、第1層を形成する工程、
(B)撥水剤と、導電性材料と、水と、を含む第2層形成用水溶液を、表面に塗布または表面を浸漬させ、第2層を形成する工程
を、この順に含む、導電性皮革または導電性繊維の製造方法。
〔4〕(A)工程で、透明導電性薄膜形成用分散液を、表面に塗布または表面を浸漬させた後、圧延する、上記〔3〕記載の導電性皮革または導電性繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明〔1〕によれば、下地の風合いを変えずに導電性が付与され、耐摩擦性に優れる皮革または繊維を提供することができる。
【0009】
本発明〔3〕によれば、下地の風合いを変えずに導電性が付与され、耐摩擦性に優れる皮革または繊維を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔導電性皮革または導電性繊維〕
本発明の導電性皮革または導電性繊維(以下、導電性皮革等という)は、(A)シングルウォールカーボンナノチューブと、グラフェンナノ粒子と、シリカのシングルナノ粒子と、酸化スズのシングルナノ粒子と、を含み、
シリカのシングルナノ粒子と酸化スズのシングルナノ粒子との合計100質量部に対して、透過型電子顕微鏡で測定した5nm以下のシリカのシングルナノ粒子:40~60質量部、および透過型電子顕微鏡で測定した2nm以下の酸化スズのシングルナノ粒子:60~40質量部を含む第1層と、
(B)撥水剤と透明導電性材料を含む第2層と、
を表面からこの順に備えることを特徴とする。第1層、第2層共に、後述する分散液により、形成することができる。
【0011】
本発明は、この構成により、下地の風合いを変えずに導電性が付与され、耐摩擦性に優れる皮革または繊維を提供することができる。
【0012】
本発明は、皮革または繊維(以下、皮革等という)上に、透明導電膜を形成する。透明導電膜は、シングルウォールカーボンナノチューブおよびグラフェンを利用し、透明度を落とさないまま、表面抵抗値を人の手と同等の10Ω/□台以下にする第1層、その上に第1層の導通性を落とさない為の撥水剤と、導電性材料である酸化スズ等を含有する第2層を形成することにより、シート抵抗を10Ω/□台に低下させずに、撥水コートである透明導電膜を形成することが可能となる。本発明は、この透明導電膜により、皮革等の風合いを変えることなく、撥水導電性を実現することができ、導電剤等を練り込んだ合成繊維や合成皮革とは異なり、天然繊維や天然皮革の多機能化に寄与することができる。
【0013】
皮革としては、特に限定されないが、天然皮革、人工皮革等が、挙げられる。皮革の厚さの一例は、0.5~2mmであり、特に、手袋用皮革は、約0.5mmである。
【0014】
繊維としては、特に限定されないが、天然繊維(綿、麻、絹等)、合成繊維等が、挙げられる。
【0015】
シングルウォールカーボンナノチューブは、特に限定されないが、シングルウォールカーボンナノチューブは、繊維径が0.5nm以下であり、アスペクト比が5以上であり、長さが10nm以下であると、好ましい。シングルウォールカーボンナノチューブの中でも、シングルウォールカーボンナノチューブが、より好ましい。上記繊維径とアスペクト比のシングルウォールカーボンナノチューブは、溶媒中で均一に分散すると共に、相互に十分な接触点を形成することができる。
【0016】
シングルウォールカーボンナノチューブの繊維径は、透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を観察して求めた質量平均粒子径である(n=50)。また、シングルウォールカーボンナノチューブのアスペクト比は、透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を観察して、(長さ/繊維径)を計算して求める(n=50)。
【0017】
また、シングルウォールカーボンナノチューブは、分散剤を使用しないで、溶媒中に分散可能なものであると、好ましい。シングルウォールカーボンナノチューブを溶媒中に分散可能なものにする処理としては、硫酸等の強酸による処理が挙げられる。また、分散剤を使用していないシングルウォールカーボンナノチューブ分散液も市販されている。
【0018】
グラフェンナノ粒子としては、平均厚さ(c軸方向)が50nm以下で、径方向(a軸方向)の径が2μm以下のグラフェンを水に単分散したものが、挙げられる。グラフェンナノ粒子の平均厚さが5nm以下の粉末は、コーティング剤から形成される薄膜に帯電防止性、耐摩耗性を付与する。グラフェンの長さの一例は、5nm~3μmである。グラフェンの平均厚さは、難燃性、均一な厚さの成膜の観点から、1~5nmであると、好ましい。ここで、グラフェンの平均厚さと長さは、透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を観察して求めた質量平均粒子径である(n=50)。
【0019】
シングルナノ粒子とは、透過型電子顕微鏡で測定した粒子径(n=50)が、10nm未満のものをいう。シングルナノ粒子100質量部に対して、5nm以下のシリカのシングルナノ粒子は、40~60質量部であり、2nm以下のシリカのシングルナノ粒子が、30~40質量部であると、好ましい。ここで、10nm以上のシリカのナノ粒子を使用すると、透明導電性薄膜付き基材の透過率の増加が低くなり、透明導電性薄膜の耐摩耗性が低くなってしまう。また、導電性が低下しやすくなる。なお、2nm以下のシリカのシングルナノ粒子が、40質量部を超えると、透明導電性薄膜形成用分散液がゲル化してしまい易い。なお、2nm以下のシリカのシングルナノ粒子は、ハンドリング性、入手しやすさの観点から、0.5nm以上であると好ましい。
【0020】
2nm以下のシリカのシングルナノ粒子は、アモルファスシリカを含むと、好ましい。アモルファスであることは、X線回折で確認する。
【0021】
シングルナノ粒子100質量部に対して、2nm以下の酸化スズのシングルナノ粒子は、第1層の導電性、透過率、耐摩耗性の観点から、60~40質量部であり、50質量部以上であると、好ましい。1次粒子の平均粒径が10nm以上の酸化錫粉末は、単体では2次凝集が起きにくいが、他の材料と混合すると、2次凝集が起きやすくなるため、好ましくない。
【0022】
第1層は、厚さが、50~300nmであると、導電性、透明性、および耐摩耗性の観点から、好ましく、50~80nmであると、皮革等への色味の影響の観点から、より好ましい。第1層の厚さが、50nm未満だと、皮革等の表面のシート抵抗が、10Ω/□台より高くなり易く、タッチパネルが反応しなくなる。300nmより厚いと、成膜時にクラックが入り、剥がれ易くなる。なお、タッチパネルの用途では、皮革等の表面のシート抵抗が、10Ω/□台になると、使用しにくくなるため、表面のシート抵抗が、9.9×10Ω/□以下であると、好ましい。
【0023】
第2層は、第1層の導通性を落とさない為の撥水剤と、透明帯電防止性を有する導電性材料を含有する。
【0024】
撥水剤としては、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂等が、挙げられ、単独で使用しても、複数を併用してもよい。フッ素樹脂としては、AGC社のアサヒガードシリーズAG-E600、シリコーン樹脂としては、信越シリコーンの水系エマルジョンPOLON-SR CONIC等が、イオン性界面活性剤等の帯電防止性を有するものと併用できる撥水剤として、好ましい。
【0025】
導電性材料としては、酸化錫粉末、イオン性界面活性剤等が、挙げられ、酸化錫単体、および、酸化錫粉末とイオン性界面活性剤との併用が、好ましい。酸化錫粉末は上述のとおりであり、イオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩が、挙げられる。イオン性界面活性剤としては、カチオンとアニオンの両極性を有する両性界面活性剤が、好ましい。
【0026】
第4級アンモニウム塩としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩が、挙げられ、市販品としては、大成ファインケミカル社の1SXシリーズが、挙げられる。
【0027】
第2層を形成するための第2層形成用分散液としては、ジャパンナノコート製分散液(品名:AS-WR)が、予め各成分が混合されているため、簡便に使用できる。
【0028】
第2層は、厚さが、20~100nmであると、撥水性、導電性の観点から、好ましい。20nm未満では、撥水性が十分ではなくなりやすく、100nmより厚いと、導電性が低下し易くなる。
【0029】
第2層は、1×1010Ω/□以下であり、かつ透明性が落ちない(目視で色合いの変化が観察されない)のであれば、本願発明の効果を奏することができる。
【0030】
〔導電性皮革または導電性繊維の製造方法〕
本発明の導電性皮革または導電性繊維の製造方法は、
皮革または繊維の表面に対する工程であって、
(A)シングルウォールカーボンナノチューブと、グラフェンナノ粒子と、シリカのシングルナノ粒子と、酸化スズのシングルナノ粒子、水と、を含み、
シリカのシングルナノ粒子と酸化スズのシングルナノ粒子との合計100質量部に対して、透過型電子顕微鏡で測定した5nm以下のシリカのシングルナノ粒子:40~60質量部、および透過型電子顕微鏡で測定した2nm以下酸化スズのシングルナノ粒子:60~40質量部を含む第1層形成用分散液を、表面に塗布または表面を浸漬させ、第1層を形成する工程、
(B)撥水剤と、導電性材料と、水と、を含む第2層形成用水溶液を、表面に塗布または表面を浸漬させ、第2層を形成する工程
を、この順に含む。
【0031】
[(A)工程]
(A)工程は、シングルウォールカーボンナノチューブと、グラフェンナノ粒子と、シリカのシングルナノ粒子と、酸化スズのシングルナノ粒子、水と、を含み、
シリカのシングルナノ粒子と酸化スズのシングルナノ粒子との合計100質量部に対して、透過型電子顕微鏡で測定した5nm以下のシリカのシングルナノ粒子:40~60質量部、および透過型電子顕微鏡で測定した2nm以下酸化スズのシングルナノ粒子:60~40質量部を含む第1層形成用分散液を、表面に塗布または表面を浸漬させ、第1層を形成する。
【0032】
第1層形成用分散液は、(A)シングルウォールカーボンナノチューブと、グラフェンナノ粒子と、シリカのシングルナノ粒子と、酸化スズのシングルナノ粒子と、水と、を含み、
シリカのシングルナノ粒子と酸化スズのシングルナノ粒子との合計100質量部に対して、透過型電子顕微鏡で測定した5nm以下のシリカのシングルナノ粒子:40~60質量部、および透過型電子顕微鏡で測定した2nm以下酸化スズのシングルナノ粒子:60~40質量部を含む。
【0033】
シングルウォールカーボンナノチューブ、グラフェンナノ粒子、シリカのシングルナノ粒子については、上述のとおりである。
【0034】
シングルウォールカーボンナノチューブは、第1層形成用分散液100質量部に対して、0.01~0.1質量部であると、好ましい。0.03~0.06質量部が、より好ましい。0.2質量部以上になると増粘、凝集しやすくなり透過率が低下する。
【0035】
グラフェンナノ粒子は、第1層形成用分散液100質量部に対して、0.001~0.1質量部であると、好ましく、0.005~0.01%質量部が、より好ましい。
【0036】
シングルナノ粒子は、シングルナノ粒子とシングルウォールカーボンナノチューブとグラフェンナノ粒子との合計100質量部に対して、18~99.5質量部であると、好ましい。シングルナノ粒子が18質量部未満では、透明導電性薄膜の密着性が低下し易く、99.5質量部を超えると、透明導電性薄膜の導電性、放熱性が低下してしまい易い。また、シリカのシングルナノ粒子は、シリカのシングルナノ粒子とシングルウォールカーボンナノチューブとグラフェンナノ粒子と酸化スズのシングルナノ粒子の合計100質量部に対して、40~60質量部であると、第1層が高導電性および高透明性となるため、より好ましい。
【0037】
水は、第1層形成用分散液100質量部に対して、99.0~99.5質量部であると、好ましい。なお、溶媒として、水以外の有機溶媒も使用可能であるが、溶媒揮発による環境汚染を抑制できる観点から、水を使用する。
【0038】
第1層形成用分散液は、例えば、各種ナノ粉末、溶媒、およびその他添加剤等を、同時にまたは別々に、必要により加熱処理を加えながら、撹拌、溶融、混合、分散させることにより得ることができる。これらの混合、撹拌、分散等の装置としては、特に限定されるものではないが、ライカイ機、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。後述する第2層形成用分散液も同様にして、得ることができる。
【0039】
第1層形成用分散液には、本発明の目的を損なわない範囲で、更に必要に応じ、添加剤等を配合することができる。
【0040】
第1層形成用分散液の市販品としては、ジャパンナノコート製AS-SCNTが、挙げられる。
【0041】
第1層形成用分散液を、皮革等の表面に塗布または表面を浸漬させる方法は、特に限定されないが、刷毛塗り、スプレーコート、ディッピング等が挙げられる。
【0042】
第1層の厚さは、上述のとおり、50~300nmであると、好ましい。皮革(厚さが0.5~2mm、特に、手袋用は0.5mm)の場合、ピックアップ率(皮革100質量%に対する第1層の質量)が60%であると、好ましい。布の場合には、ピックアップ率が、塗布浸漬後に、200~300%、圧延後に60~120%であると好ましく、100%であると、より好ましい。
【0043】
(A)工程で、透明導電性薄膜形成用分散液を、表面に塗布または表面を浸漬させた後、圧延すると、シングルウォールカーボンナノチューブおよびグラフェンが、皮革等の表面に対して水平に配向しやすくなるため、導電性向上及び透明性向上の観点から好ましい。
【0044】
[(B)工程]
(B)工程は、撥水剤と、導電性材料と、水とを含む第2層形成用水溶液を、表面に塗布または表面を浸漬させ、第2層を形成する。
【0045】
第2層形成用水溶液は、撥水剤と、導電性材料と、水とを含む。
【0046】
撥水剤、導電性材料については、上述のとおりである。なお、溶媒として、水以外の有機溶媒も使用可能であるが、溶媒揮発による環境汚染を抑制できる観点から、水を使用する。
【0047】
撥水剤は、第2層形成用分散液100質量部に対して、0.05~0.5質量部であると、好ましい。
【0048】
透明導電性材料は、第2層形成用分散液100質量部に対して、0.01~0.1質量部であると、好ましい。
【0049】
水は、第2層形成用分散液100質量部に対して、99.4~99.94質量部であると、好ましい。
【0050】
第2層形成用分散液には、本発明の目的を損なわない範囲で、更に必要に応じ、添加剤等を配合することができる。
【0051】
第2層形成用分散液の市販品としては、ジャパンナノコート製分散液(品名:AS-WR)が、挙げられる。このジャパンナノコート製分散液(品名:AS-WR)を、20倍程度に希釈して使用すると、厚さ制御等の観点から、好ましい。
【0052】
第2層形成用分散液を、皮革等の表面に塗布または表面を浸漬させる方法は、特に限定されず、第1層形成用分散液を、皮革等の表面に塗布または表面を浸漬させる方法と、同様である。
【0053】
第2層の厚さは、上述のとおり、20~100nmであると、好ましい。皮革(厚さが0.5~2mm、特に、手袋用は0.5mm)の場合、ピックアップ率(皮革100質量%に対する第1層の質量)が60%であると、好ましい。布の場合には、ピックアップ率が、塗布浸漬後に、200~300%、圧延後に60~120%であると好ましく、100%であると、より好ましい。
【実施例
【0054】
本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部、%はことわりのない限り、質量部、質量%を示す。
【0055】
実施例1の第1層形成用分散液には、ジャパンナノコート製水系帯電防止コーティング剤(品名:AS-SCNT)を用いた。このAS-SCNTは、シリカナノ粒子:0.21%、酸化スズナノ粒子:0.24%、シングルカーボンナノチューブ:0.04%、グラフェン:0.01%、残部:水からなる。比較例4では、平均粒径:6nmのシリカのナノ粒子(扶桑化学製製、品名:PL-06L)を、用いた。比較例5では、平均粒径:15nmのシリカのナノ粒子(扶桑化学製、品名:PL-1):20質量部と、水:80質量部とを混合したものを、用いた。
【0056】
第2層形成用分散液には、ジャパンナノコート製分散液(品名:AS-WR、フッ素樹脂:5質量%、シリコーン樹脂:5質量%、酸化錫0.1質量%、残部:水)の20倍希釈液を用いた。
【0057】
表面抵抗値は、ホーザン株式会社(型番:F-109)で測定した。透明性は、ガラス基材(フロートガラス)に形成した透明導電性薄膜の透過度を、佐藤商事社製ガラス透過率測定器(型番:MJ-TM110)を用いて測定した。透過率は、フロートガラス透過率からの低下率が1%未満のものを合格とした。耐摩耗性試験は、(井元製作所のラビングテスター試験器)を使用し、塗布面に、綿布を1kg荷重の条件で、20000回転に後、表面抵抗値が10の7乗台に低下しないものを、合格とした。
【0058】
〔実施例1〕
ジャパンナノコート製シリカバインダーの品名:B-30(固形分3%)と、ジャパンナノコート製酸化スズ分散液(品名:酸化スズ4%分散液)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分:1.4%、酸化スズ固形分:1.6%)15質量部に、ジャパンナノコート製CNF0.2%水分散液(品名:SCNT0.2%水分散液)20質量部を加え、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名:グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水55質量部の実施例1の第1層形成用水溶液を作製した。
【0059】
幅:50mm、長さ:100mm、厚さ:3mmのガラス基材(フロートガラス、透過率:91.6%、屈折率:1.51、表面抵抗値:1013Ω)に対して、20℃~25℃の実施例1の第1層形成用水溶液を、300cmのビーカーに入れ、ガラス基材を20秒間浸漬した後、ガラス基材を垂直に立てて、第1層形成用水溶液を流し掛け、雰囲気温度:20~25℃、湿度:50~55%の条件で、塗布した。塗布後のガラス基材を温度:20℃で10分間乾燥させ、中心厚さ:約60nmの第1層付きガラス基材を得た。
【0060】
得られた第1層付きガラス基材は、透過率:91.5%、表面抵抗値:3.21×10Ωであった。
【0061】
次に、第1層の上に、第2層形成用分散液としてのAS-WRを水で20倍希釈したものをディッピング塗布し、透過率:91.0%、表面抵抗値:5.46×10Ωの基材を得た。耐摩耗試験後の透過率は、91.0%であり、表面抵抗値は、7.32×10Ωであった。
【0062】
天然皮革(厚さ:0.5mm)を、同じ工程で処理した。処理した天然皮革の色目は変わらず、表面抵抗値は、3.64×10Ωであり、耐摩耗試験後の表面抵抗値は、5.21×10Ωと大きな低下は見られなかった。このときの第1層のピックアップ率は160%であり、第2層のピックアップ率は、160%であった。
【0063】
〔実施例2〕
ジャパンナノコート製シリカバインダー(品名:B-30(固形分3%))と、ジャパンナノコート製酸化スズ分散液(品名:酸化スズ4%分散液)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分1.2%、酸化スズ固形分1.8%)15質量部に、ジャパンナノコート製CNF0.2%水分散液(品名:SCNT0.2%水分散液)20質量部を加え、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名:グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水55質量部の実施例2の第1層形成用水溶液を作製した。
【0064】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、透過率:91.0%、表面抵抗値:8,35×10Ωであった。
【0065】
次に、第1層の上に、AS-WRを水で20倍希釈したものをディッピング塗布し、
透過率:90.5%、表面抵抗値:3.34×10Ωの基材を得た。耐摩耗試験後の透過率は、90.5%であり、表面抵抗値は、5.77×10Ωであった。
【0066】
〔実施例3〕
ジャパンナノコート製シリカバインダーの品名:B-30(固形分3%)と、ジャパンナノコート製酸化スズ分散液(品名:酸化スズ4%分散液)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分1.8%、酸化スズ固形分1.2%)15質量部に、ジャパンナノコート製CNF0.2%水分散液(品名:SCNT0.2%水分散液)20質量部を加え、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水55質量部の実施例3の第1層形成用水溶液を作製した。
【0067】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、透過率:91.5%、表面抵抗値:6.46×10Ωであった。
次に、第1層の上にAS-WRを水で20倍希釈したものをディッピング塗布し、
透過率90.9%、表面抵抗値6.77×10Ωの機材を用意した。耐摩耗試験後の透過率は90.8%であり、表面抵抗値8.77×10Ωであった。
【0068】
〔比較例1〕
ジャパンナノコート製シリカバインダーの品名:B-30(固形分3%)15質量部に、ジャパンナノコート製CNF0.2%水分散液(品名:SCNT0.2%水分散液)20質量部を加え、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水55質量部の比較例1の第1層形成用水溶液を作製した。
【0069】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、透過率:91.2%、表面抵抗値:6.37×10Ωであり、導電性が低かった。
【0070】
〔比較例2〕
ジャパンナノコート製シリカバインダーの品名:B-30(固形分3%)と、ジャパンナノコート製酸化スズ分散液(品名:酸化スズ4%分散液)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分2%、酸化スズ固形分1%)15質量部に、ジャパンナノコート製CNF0.2%水分散液(品名:SCNT0.2%水分散液)20質量部を加え、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水55質量部の比較例2の第1層形成用水溶液を作製した。
【0071】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、透過率:91.5%、表面抵抗値:8.76×10Ωであった。
【0072】
次に、第1層の上に、AS-WRを水で20倍希釈したものをディッピング塗布し、
透過率:91.2%、表面抵抗値:3.21×10Ωの基材を得た。第2層形成後の導電性が、低かった。
【0073】
〔比較例3〕
ジャパンナノコート製シリカバインダーの品名:B-30(固形分3%)と、ジャパンナノコート製酸化スズ分散液(品名:酸化スズ4%分散液)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分:1%、酸化スズ固形分:2%)15質量部に、ジャパンナノコート製CNF0.2%水分散液(品名:SCNT0.2%水分散液)20質量部を加え、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水55質量部の比較例3の第1層形成用水溶液を作製した。
【0074】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、透過率:90.3%、表面抵抗値:7.86×10Ωであった。
【0075】
次に、第1層の上に、AS-WRを水で20倍希釈したものをディッピング塗布し、
透過率:90.1%、表面抵抗値:1.56×10Ωの基材を得た。この比較例では、透過率が、低かった。また、耐摩耗性試験後の透過率:90.3%、表面抵抗値:3.36×10Ωとなり、耐摩耗性も低かった。
【0076】
〔比較例4〕
扶桑化学製シリカバインダーの品名:PL-06L(固形分6%)と、ジャパンナノコート製酸化スズ分散液(品名:酸化スズ4%分散液)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分:1.8%、酸化スズ固形分:1.2%)15質量部に、ジャパンナノコート製CNF0.2%水分散液(品名:SCNT0.2%水分散液)20質量部を加え、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水55質量部の比較例4の第1層形成用水溶液を作製した。
【0077】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、透過率:89.5%、表面抵抗値:7.46×10Ωであり、透過率と導電性が、低かった。
【0078】
〔比較例5〕
扶桑化学製シリカバインダーの品名:PL-1(固形分12%)と、ジャパンナノコート製酸化スズ分散液(品名:酸化スズ4%分散液)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分1.8%、酸化スズ固形分1.2%)15質量部に、ジャパンナノコート製CNF0.2%水分散液(品名:SCNT0.2%水分散液)20質量部を加え、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水55質量部の比較例4の第1層形成用水溶液を作製した。
【0079】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、透過率:90.7%、表面抵抗値:7.76×10Ωであった。
【0080】
次に、第1層の上に、AS-WRを水で20倍希釈したものをディッピング塗布し、
透過率90.3%、表面抵抗値1.31×10Ωの基材を得た。第2層形成後の導電性、および透過率が、低かった。
【0081】
〔比較例6〕
ジャパンナノコート製シリカバインダーの品名:B-30(固形分3%)と、10nmの酸化スズ粉末を水で分散した10nm酸化スズ分散液(固形分4%)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分1%、酸化スズ固形分2%)15質量部に、ジャパンナノコート製CNF0.2%水分散液(品名:SCNT0.2%水分散液)20質量部を加え、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水55質量部の比較例6の第1層形成用水溶液を作製した。
【0082】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、透過率:89.3%、表面抵抗値:1.86×10Ωであり、透過率および導電性が、低かった。
【0083】
〔比較例7〕
ジャパンナノコート製シリカバインダーの品名:B-30(固形分3%)と、ジャパンナノコート製酸化スズ分散液(品名:酸化スズ4%分散液)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分1.4%、酸化スズ固形分1.6%)15質量部に、ジャパンナノコート製CNF0.2%水分散液(品名:SCNT0.2%水分散液)20質量部を加え、残部が水65質量部の比較例6の第1層形成用水溶液を作製した。
【0084】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、透過率:90.3%、表面抵抗値:1.36×10Ωであり、透過率および導電性が、低かった。
【0085】
〔比較例8〕
ジャパンナノコート製シリカバインダーの品名:B-30(固形分3%)と、ジャパンナノコート製酸化スズ分散液(品名:酸化スズ4%分散液)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分1.4%、酸化スズ固形分1.6%)15質量部に、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水75質量部の比較例7の第1層形成用水溶液を作製した。
【0086】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、透過率:91.5%、表面抵抗値:3.21×10Ωであり、導電性が低かった。
【0087】
〔比較例9〕
ジャパンナノコート製シリカバインダーの品名:B-30(固形分3%)と、ジャパンナノコート製酸化スズ分散液(品名:酸化スズ4%分散液)と、水と、を混合して作製した固形分3%液(シリカ固形分1.4%、酸化スズ固形分1.6%)15質量部に、ジャパンナノコート製マルチCNF(マルチウォールカーボンナノファイバー)3%水分散液(品名:CNT3%水分散液)10質量部を加え、ジャパンナノコート製グラフェン液0.1%水分散液(品名グラフェン0.1%水分散液)10質量部を加え、残部が水65質量部の比較例9の第1層形成用水溶液を作製した。であった。
【0088】
実施例1と同様にして得られた第1層付きガラス基材は、中心膜厚約100nm,透過率:79.3%、表面抵抗値:2.86×10Ωであり、透過率が低かった。
【0089】
次に、第1層の上に、AS-WRを水で20倍希釈したものをディッピング塗布し、透過率:78.1%、表面抵抗値:1.56×10Ωの基材を得た。透過率が低いだけでなく、表面に、実施例1と同様な撥水コートをすることにより、表面抵抗値が著しく増加したことから、下地の導通性に関しては、厚みが薄くても導通性の優れるシングルナノカーボンナノチューブが優れていることがわかった。