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特許7565145ナノダイヤモンドの製造方法及びナノダイヤモンド
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  • 特許-ナノダイヤモンドの製造方法及びナノダイヤモンド 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ナノダイヤモンドの製造方法及びナノダイヤモンド
(51)【国際特許分類】
   B01J 3/08 20060101AFI20241003BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20241003BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20241003BHJP
   C01B 32/26 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
B01J3/08 M
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B32/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018230222
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2020089864
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】間彦 智明
(72)【発明者】
【氏名】伊奈 智秀
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】金 公彦
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-113278(JP,A)
【文献】特開2017-95307(JP,A)
【文献】特開2016-44092(JP,A)
【文献】国際公開第2007/001031(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1785493(CN,A)
【文献】国際公開第2005/082998(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 3/08
C01B 32/25-32/28
C30B 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器容量が0.05~0.2m3であり、前記容器容量と爆薬質量の比[容器容量(m3
)/爆薬質量(kg)]が1~10となる条件で、前記容器内で前記爆薬を爆轟させるナ
ノダイヤモンド生成工程を含む、ナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項2】
前記爆薬質量が、0.07~1kgである、請求項1に記載のナノダイヤモンドの製造
方法。
【請求項3】
前記ナノダイヤモンド生成工程により得られるナノダイヤモンド粗生成物中のナノダイ
ヤモンド含有率が5~55質量%である、請求項1又は2に記載のナノダイヤモンドの製
造方法。
【請求項4】
前記爆薬の粒子径が45~2360μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の
ナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項5】
前記爆薬がトリニトロトルエンとシクロトリメチレントリニトロアミンの混合物である
、請求項1~4のいずれか1項に記載のナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項6】
前記ナノダイヤモンドの一次粒子のメディアン径が4.0~5.5nmであり、比表面積が360~430m2/gである、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノダイヤモンドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノダイヤモンドの製造方法及びナノダイヤモンドに関する。より詳細には、本発明は、ナノダイヤモンドの製造方法及び当該製造方法により得られるナノダイヤモンドに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノダイヤモンドは比表面積が非常に大きい超微粒子のダイヤモンドであり、高い機械的強度と電気絶縁性、及び優れた熱伝導性を有する。また、消臭効果、抗菌効果、耐薬品性も有する。そのため、研磨材、導電性付与材、絶縁材料、消臭剤、抗菌剤等として使用される。
【0003】
ナノダイヤモンドは、一般的に、爆轟法により合成される。爆轟法で得られるナノダイヤモンドは凝着体を形成している場合が多く、該凝着体を、ビーズミル等の粉砕機を用いた解砕処理に付することで粒子のメディアン径(D50)が10nm未満のいわゆる一桁ナノダイヤモンドが得られる(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-001983号公報
【文献】特開2010-126669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、爆轟法では、比表面積が300m2/g程度のナノダイヤモンドを製造することは比較的容易であったものの、比表面積がさらに大きい、例えば320m2/g程度以上のナノダイヤモンドを製造することは困難であった。
【0006】
従って、本発明の目的は、比表面積が大きいナノダイヤモンドを得ることが可能なナノダイヤモンドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、爆轟法において、容器容量と爆薬質量の比[容器容量(m3)/爆薬質量(kg)]が特定範囲内となる条件で上記容器内で上記爆薬を爆轟させるナノダイヤモンド生成工程を含むナノダイヤモンドの製造方法によれば、比表面積が大きいナノダイヤモンドを得ることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、容器容量と爆薬質量の比[容器容量(m3)/爆薬質量(kg)]が10以下となる条件で、上記容器内で上記爆薬を爆轟させるナノダイヤモンド生成工程を含む、ナノダイヤモンドの製造方法を提供する。
【0009】
上記容器容量は、0.05~10m3であることが好ましい。
【0010】
上記爆薬質量は、0.07~1kgであることが好ましい。
【0011】
上記ナノダイヤモンド生成工程により得られるナノダイヤモンド粗生成物中のナノダイヤモンド含有率は5~55質量%であることが好ましい。
【0012】
上記爆薬の粒子径は、45~2360μmであることが好ましい。
【0013】
上記爆薬は、トリニトロトルエンとシクロトリメチレントリニトロアミンの混合物であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、メディアン径が4.0~5.5nmであり、比表面積が320~500m2/gである、ナノダイヤモンドを提供する。
【0015】
上記ナノダイヤモンドは、爆轟法ナノダイヤモンドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のナノダイヤモンドの製造方法によれば、比表面積が大きいナノダイヤモンドを得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のナノダイヤモンドの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のナノダイヤモンドの製造方法は、爆轟法によって、ナノダイヤモンドを生成させる工程(ナノダイヤモンド生成工程)を含む。なお、本明細書において、本発明のナノダイヤモンドの製造方法を、単に「本発明の製造方法」と称する場合がある。本発明の製造方法は、ナノダイヤモンド生成工程以外に、精製工程、酸素酸化工程、水素化工程等の他の工程を含んでいてもよい。上記精製工程としては、例えば、酸処理工程、酸化処理工程、アルカリ過水処理工程、乾燥工程等が挙げられる。
【0019】
図1は、本発明の製造方法の一実施形態を示す工程図である。図1に示す本発明の製造方法の一実施形態は、ナノダイヤモンド生成工程S1と、酸処理工程S2と、酸化処理工程S3と、アルカリ過水処理工程S4と、乾燥工程S5とを少なくとも含む。
【0020】
(ナノダイヤモンド生成工程)
ナノダイヤモンド生成工程では、爆轟法によって、ナノダイヤモンドを生成させる。具体的には、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において特定の組成の気体と使用爆薬とが共存する状態で、容器を密閉する。ナノダイヤモンド生成工程では、次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってナノダイヤモンドが生成する。ナノダイヤモンドは、爆轟法により得られる生成物にて先ずは、隣接する一次粒子ないし結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体となる。
【0021】
ナノダイヤモンド生成工程では、容器容量と爆薬質量の比[容器容量(m3)/爆薬質量(kg)]が10以下となる条件で、上記容器内で上記爆薬を爆轟させる。上記比が10以下であることにより、爆轟後の放熱が遅くなるため、生成するナノダイヤモンド粗生成物の表面のグラファイト化が進み、その結果、メディアン径が小さく且つ比表面積が大きいナノダイヤモンドを生成させることができる。また、上記比は、好ましくは0.5~10、より好ましくは1~7、さらに好ましくは3.5~5.5である。上記比が0.5以上であると、一次粒子の粒度分布が狭く、より粒子径の均一なナノダイヤモンドが得られる。また、生成するナノダイヤモンド粗生成物中のナノダイヤモンド含有率が高くなる。
【0022】
上記容器容量(容積)は、0.05~10m3が好ましく、より好ましくは0.07~0.2m3である。上記容器容量が0.05m3以上であると、ナノダイヤモンドの生産性に優れる。上記容器容量が10m3以下であると、爆轟後の放熱速度を遅くし、生成するナノダイヤモンド粗生成物の表面のグラファイト化を促進することで生成するナノダイヤモンドの粒子径を小さく抑えることができる。また、上記容器は例えば鉄製である。
【0023】
上記爆薬質量は、0.07~1kgが好ましく、より好ましくは0.07~0.2kgである。上記爆薬質量が0.07kg以上であると、ナノダイヤモンドの生産性に優れる。
【0024】
上記爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、例えば40/60~60/40の範囲とされる。
【0025】
上記爆薬の粒子径は、45~2360μmであることが好ましく、より好ましくは45~1700μm、さらに好ましくは75~90μmである。本発明の製造方法によれば、上記粒子径が45μm以上である爆薬を用いた場合であっても、粒子径が小さく且つ比表面積が大きいナノダイヤモンドを生成させることができる。なお、上記爆薬の粒子径は、小角X線散乱測定法ふるい通過法(%)によって測定することができる。
【0026】
爆轟時の圧力は、例えば18~35.4GPaであり、好ましくは24.4~29.3GPa、より好ましくは24.4~25.5GPaである。上記圧力が18GPa以上であると、生成したナノダイヤモンド粗生成物表面のグラファイト化を遅くし、ナノダイヤモンド含有率が高くなる傾向がある。
【0027】
ナノダイヤモンド生成工程では、次に、室温において24時間程度放置することにより放冷し、容器及びその内部を降温させる。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上述のようにして生成したナノダイヤモンドの凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ナノダイヤモンド粗生成物を回収する。以上のような爆轟法によって、ナノダイヤモンド粒子の粗生成物を得ることができる。また、以上のようなナノダイヤモンド生成工程を必要回数行うことによって、所望量のナノダイヤモンド粗生成物を取得することが可能である。
【0028】
上記ナノダイヤモンド生成工程により得られるナノダイヤモンド粗生成物中のナノダイヤモンド含有率は、10~55質量%であることが好ましく、より好ましくは13~50質量%、さらに好ましくは15~40質量%である。本発明の製造方法によれば、メディアン径が小さく且つ比表面積が大きいナノダイヤモンドを生成させることができ、且つナノダイヤモンド含有率が10質量%以上のナノダイヤモンド粗生成物を得ることができ、生産効率に優れる。
【0029】
(酸処理工程)
酸処理工程では、原料であるナノダイヤモンド粗生成物に例えば水溶媒中で強酸を作用させて金属酸化物を除去する。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物には金属酸化物が含まれやすく、この金属酸化物は、爆轟法に使用される容器等に由来するFe、Co、Ni等の酸化物である。例えば水溶媒中で強酸を作用させることにより、ナノダイヤモンド粗生成物から金属酸化物を溶解・除去することができる(酸処理)。この酸処理に用いられる強酸としては、鉱酸が好ましく、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、王水が挙げられる。上記強酸は、一種を用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。酸処理で使用される強酸の濃度は例えば1~50質量%である。酸処理温度は例えば70~150℃である。酸処理時間は例えば0.1~24時間である。また、酸処理は、減圧下、常圧下、又は加圧下で行うことが可能である。このような酸処理の後、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行う。沈殿液のpHが例えば2~3に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行うのが好ましい。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物における金属酸化物の含有量が少ない場合には、以上のような酸処理を省略してもよい。
【0030】
(酸化処理工程)
酸化処理工程は、酸化剤を用いてナノダイヤモンド粗生成物からグラファイトを除去する工程である。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物にはグラファイト(黒鉛)が含まれるが、このグラファイトは、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素のうちナノダイヤモンド結晶を形成しなかった炭素に由来する。例えば上記の酸処理を経た後に、水溶媒中で酸化剤を作用させることにより、ナノダイヤモンド粗生成物からグラファイトを除去することができる。また、酸化剤を作用させることにより、ナノダイヤモンド表面にカルボキシル基や水酸基などの酸素含有基を導入することができる。
【0031】
この酸化処理に用いられる酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、過塩素酸、硝酸、これらの混合物や、これらから選択される少なくとも1種の酸と他の酸(例えば硫酸等)との混酸、これらの塩が挙げられる。中でも、混酸(特に、硫酸と硝酸との混酸)を使用することが、環境に優しく、且つグラファイトを酸化・除去する作用に優れる点で好ましい。
【0032】
上記混酸における硫酸と硝酸との混合割合(前者/後者;質量比)は、例えば60/40~95/5であることが、常圧付近の圧力(例えば、0.5~2atm)の下でも、例えば130℃以上(特に好ましくは150℃以上。なお、上限は、例えば200℃)の温度で、効率よくグラファイトを酸化して除去することができる点で好ましい。下限は、好ましくは65/35、より好ましくは70/30である。また、上限は、好ましくは90/10、より好ましくは85/15、さらに好ましくは80/20である。上記混合割合が60/40以上であると、高沸点を有する硫酸の含有量が高いため、常圧付近の圧力下では、反応温度が例えば120℃以上となり、グラファイトの除去効率が向上する傾向がある。上記混合割合が95/5以下であると、グラファイトの酸化に大きく貢献する硝酸の含有量が多くなるため、グラファイトの除去効率が向上する傾向がある。
【0033】
酸化剤(特に、上記混酸)の使用量は、ナノダイヤモンド粗生成物1質量部に対して例えば10~50質量部、好ましくは15~40質量部、より好ましくは20~40質量部である。また、上記混酸中の硫酸の使用量は、ナノダイヤモンド粗生成物1質量部に対して例えば5~48質量部、好ましくは10~35質量部、より好ましくは15~30質量部である。また、上記混酸中の硝酸の使用量は、ナノダイヤモンド粗生成物1質量部に対して例えば2~20質量部、好ましくは4~10質量部、より好ましくは5~8質量部である。
【0034】
また、酸化剤として上記混酸を使用する場合、混酸と共に触媒を使用してもよい。触媒を使用することにより、グラファイトの除去効率を一層向上させることができる。上記触媒としては、例えば、炭酸銅(II)等が挙げられる。触媒の使用量は、ナノダイヤモンド粗生成物100質量部に対して例えば0.01~10質量部程度である。
【0035】
酸化処理温度は例えば100~200℃である。酸化処理時間は例えば1~24時間である。酸化処理は、減圧下、常圧下、又は加圧下で行うことが可能である。
【0036】
(アルカリ過水処理工程)
上記酸処理工程を経た後であっても、ナノダイヤモンドに除去しきれなかった金属酸化物が残存する場合は、一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとる。このような場合には、ナノダイヤモンドに対して水溶媒中でアルカリ及び過酸化水素を作用させてもよい。これにより、ナノダイヤモンドに残存する金属酸化物を除去することができ、凝着体から一次粒子の分離を促進することができる。この処理に用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ過水処理において、アルカリの濃度は例えば0.1~10質量%であり、過酸化水素の濃度は例えば1~15質量%であり、処理温度は例えば40~100℃であり、処理時間は例えば0.5~5時間である。また、アルカリ過水処理は、減圧下、常圧下、又は加圧下で行うことが可能である。
【0037】
(乾燥工程)
上記アルカリ過水処理工程の後、乾燥工程を設けることが好ましい。例えば、上記アルカリ過水処理工程を経て得られたナノダイヤモンド含有溶液から噴霧乾燥装置やエバポレーター等を使用して液分を蒸発させた後、これによって生じる残留固形分を乾燥用オーブン内での加熱乾燥によって乾燥させる。加熱乾燥温度は、例えば40~150℃である。このような乾燥工程を経ることにより、粉体としてナノダイヤモンド凝着体(ナノダイヤモンド粒子の凝着体)が得られる。
【0038】
(酸素酸化工程)
上記精製工程を経たナノダイヤモンドの粉体について、ガス雰囲気炉を使用して、酸素を含有するガス雰囲気下にて加熱する酸素酸化工程を行ってもよい。酸素酸化工程では、具体的には、ガス雰囲気炉内にナノダイヤモンド粉体が配され、当該炉に対して酸素含有ガスが供給ないし通流され、加熱温度として設定された温度条件まで当該炉内が昇温されて酸素酸化処理が実施される。この酸素酸化処理の温度条件は、例えば250~500℃である。作製されるナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子についてネガティブのゼータ電位を実現するためには、この酸素酸化処理の温度条件は、比較的に高温であるのが好ましく、例えば400~450℃である。また、酸素酸化工程で用いられる酸素含有ガスは、酸素に加えて不活性ガスを含有する混合ガスであってもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素、ヘリウムが挙げられる。当該混合ガスの酸素濃度は、例えば1~35体積%である。
【0039】
(水素化工程)
作製されるナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子についてポジティブのゼータ電位を実現するためには、上記酸素酸化工程の後に水素化工程を行うことが好ましい。水素化工程では、酸素酸化工程を経たナノダイヤモンドの粉体について、ガス雰囲気炉を使用して、水素を含有するガス雰囲気下にて加熱する。具体的には、ナノダイヤモンド粉体が内部に配されているガス雰囲気炉に対して水素含有ガスが供給ないし通流され、加熱温度として設定された温度条件まで当該炉内が昇温されて水素化処理が実施される。この水素化処理の温度条件は、例えば400~800℃である。また、水素化工程で用いられる水素含有ガスは、水素に加えて不活性ガスを含有する混合ガスであってもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素、ヘリウムが挙げられる。当該混合ガスの水素濃度は、例えば1~50体積%である。作製されるナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子についてネガティブのゼータ電位を実現するためには、このような水素化工程を行わずに後述の解砕工程を行ってもよい。
【0040】
このような本発明の製造方法により、例えば、一次粒子のメディアン径が4.0~5.5nmであり、比表面積が320~500m2/gである、ナノダイヤモンドを得ることができる。なお、本明細書において、上記一次粒子のメディアン径が4.0~5.5nmであり、比表面積が320~500m2/gである、ナノダイヤモンドを「本発明のナノダイヤモンド」と称する場合がある。
【0041】
本発明のナノダイヤモンドは、一次粒子のメディアン径(D50)が4.0~5.5nmであり、好ましくは4.2~5.2nm、より好ましくは4.4~5nmである。なお、ナノダイヤモンドの一次粒子のメディアン径は、小角X線散乱測定法や動的光散乱法によって測定することができる。
【0042】
本発明のナノダイヤモンドは、比表面積が320~500m2/gであり、好ましくは340~450m2/g、より好ましくは350~430m2/gである。なお、ナノダイヤモンドの比表面積は、BET法により測定できる。例えば、ナノダイヤモンドの再分散液について、商品名「BELSORP-max」(日本ベル(株)製)を用いて測定することができる。
【0043】
上記精製工程、酸素酸化工程、あるいは水素化工程等を経て精製された後であっても、爆轟法ナノダイヤモンドは、一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとる傾向が強い。この凝着体から多くの一次粒子を分離させるため、上記精製工程、酸素酸化工程、あるいは水素化工程の後に解砕工程を行ってもよい。具体的には、まず、酸素酸化工程又はその後の水素化工程を経たナノダイヤモンドを純水に懸濁し、ナノダイヤモンドを含有するスラリーが調製される。スラリーの調製にあたっては、比較的に大きな集成体をナノダイヤモンド懸濁液から除去するために遠心分離処理を行ってもよいし、ナノダイヤモンド懸濁液に超音波処理を施してもよい。そして、当該スラリーが湿式の解砕処理に付される。解砕処理は、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル等を使用して行うことができる。これらを組み合わせて解砕処理を実施してもよい。効率性の観点からはビーズミルを使用するのが好ましい。
【0044】
粉砕装置又は分散機であるビーズミルは、例えば、円筒形状のミル容器と、ローターピンと、遠心分離機構と、原料タンクと、ポンプとを具備する。ローターピンは、ミル容器と共通の軸心を有してミル容器内部で高速回転可能に構成されている。遠心分離機構は、ミル容器内の上部に配されている。解砕工程におけるビーズミルによるビーズミリングでは、ミル容器内にビーズが充填され且つローターピンが当該ビーズを撹拌している状態で、ポンプの作用によって原料タンクからミル容器の下部に原料としての上記スラリー(ナノダイヤモンド凝着体を含む)が投入される。スラリーは、ミル容器内でビーズが高速撹拌されている中を通ってミル容器内の上部に到達する。この過程で、スラリーに含まれているナノダイヤモンド凝着体は、激しく運動しているビーズとの接触によって粉砕ないし分散化の作用を受ける。これにより、ナノダイヤモンドの凝着体(二次粒子)から一次粒子への解砕が進む。ミル容器内の上部の遠心分離機構に到達したスラリーとビーズは、稼働する遠心分離機構によって比重差を利用した遠心分離がなされ、ビーズはミル容器内に留まり、スラリーは、遠心分離機構に対して摺動可能に連結された中空ラインを経由してミル容器外に排出される。排出されたスラリーは、原料タンクに戻され、その後、ポンプの作用によって再びミル容器に投入される(循環運転)。このようなビーズミリングにおいて、使用される解砕メディアは例えばジルコニアビーズであり、ビーズの直径は例えば15~500μmである。ミル容器内に充填されるビーズの量(見掛け体積)は、ミル容器の容積に対して例えば50~80%である。ローターピンの周速は例えば8~12m/分である。循環させるスラリーの量は例えば200~600mlであり、スラリーの流速は例えば5~15L/時間である。また、処理時間(循環運転時間)は例えば30~300分間である。解砕工程においては、以上のような連続式のビーズミルに代えてバッチ式のビーズミルを使用してもよい。
【0045】
このような解砕工程を経ることによって、コロイド粒子として分散するナノダイヤモンドの一次粒子を含有するナノダイヤモンド分散液を得ることができる。
【0046】
解砕工程を経たスラリーについては、粗大粒子を除去するための分級操作を行ってもよい。例えば分級装置を使用して、遠心分離を利用した分級操作によってスラリーから粗大粒子を除去することができる。これにより、ナノダイヤモンドの一次粒子がコロイド粒子として分散する黒色透明のナノダイヤモンド分散液が得られる。
【0047】
解砕工程を経たナノダイヤモンド、又は、解砕工程と分級操作を経たナノダイヤモンドについては、乾燥工程を行ってもよい。当該乾燥工程では、具体的には、ナノダイヤモンドを含有する上記分散液を乾燥処理に付して、ナノダイヤモンドの乾燥粉体を得る。乾燥処理の手法としては、例えば、噴霧乾燥装置を使用して行う噴霧乾燥や、エバポレーターを使用して行う蒸発乾固が挙げられる。
【0048】
ナノダイヤモンド分散液は、ナノダイヤモンド粒子及び分散媒を含有する。ナノダイヤモンド分散液に含有されるナノダイヤモンド粒子は、本発明の製造方法により得られるナノダイヤモンドに由来するナノダイヤモンド一次粒子又はナノダイヤモンド二次粒子であり、分散媒中にて互いに離隔してコロイド粒子として分散している。ナノダイヤモンド粒子のメディアン径は、例えば60nm以下であり、好ましくは30nm以下、より好ましくは28nm以下、さらに好ましくは25nm以下、さらに好ましくは22nm以下、特に好ましくは20nm以下である。また、ナノダイヤモンド粒子を構成するナノダイヤモンド一次粒子のメディアン径は、例えば5.5nm以下であり、好ましくは5.2nm以下、より好ましくは5nm以下である。例えば、ナノダイヤモンド含有透明部材を形成する際に透明樹脂等にナノダイヤモンドを添加ないし供給するための材料としてナノダイヤモンド分散液を用いる場合、ナノダイヤモンド粒子のメディアン径が小さいほど、当該透明部材において高い透明性を実現する観点で好ましい傾向にある。一方、ナノダイヤモンド粒子のメディアン径の下限は、例えば1nmである。上記分散液中のメディアン径は、動的光散乱法によって測定することができる。
【0049】
また、ナノダイヤモンド分散液中のナノダイヤモンド粒子の比表面積は、好ましくは320~500m2/g、より好ましくは340~450m2/g、さらに好ましくは350~430m2/gである。なお、ナノダイヤモンドの比表面積は、BET法により測定できる。例えば、ナノダイヤモンドの再分散液について、商品名「BELSORP-max」(日本ベル(株)製)を用いて測定することができる。
【0050】
ナノダイヤモンド分散液に含有される分散媒は、ナノダイヤモンド分散液においてナノダイヤモンド粒子を適切に分散させるための媒体である。分散媒としては、ナノダイヤモンドが溶解性を示し得る溶媒が好ましく、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。分散媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。ナノダイヤモンド粒子の分散性の観点からは、分散媒は、水、又は、水を50質量%以上含む水系分散媒であることが好ましい。
【0051】
以上のような構成のナノダイヤモンド分散液は、ナノダイヤモンドを含有する複合材料を作製する際のナノダイヤモンド供給材料として使用することができる。そして、本発明の製造方法は、例えばこのようなナノダイヤモンド分散液の調製に用いることが可能なナノダイヤモンド粒子を製造することができる。
【0052】
本発明の製造方法は、爆轟法によるナノダイヤモンド生成工程を含み、当該ナノダイヤモンド生成工程では、容器容量と爆薬質量の比[容器容量(m3)/爆薬質量(kg)]が10以下となる条件で、上記容器内で上記爆薬を爆轟させる。本発明の製造方法における爆轟では、上記比、すなわち爆薬質量に対する容器容量が小さいことを特徴としており、このような条件下で爆轟を行うことにより、爆轟後の放熱が遅くなるため、生成するナノダイヤモンド粗生成物の表面のグラファイト化が進み、その結果、ナノダイヤモンド部分の径、すなわち精製工程後のナノダイヤモンド粒子の径が小さくなり、そして比表面積が大きくなる。
【実施例
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
実施例1
下記工程を経て、ナノダイヤモンド及びナノダイヤモンド分散液を製造した。
(ナノダイヤモンド生成工程)
ナノダイヤモンド生成工程では、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置して容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は0.2m3である。爆薬としては、TNTとRDXとの混合物0.2kgを使用した。当該爆薬におけるTNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、60/40である。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた。次に、室温での24時間の放置により、容器及びその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上記爆轟法で生成したナノダイヤモンド粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ナノダイヤモンド粗生成物を回収した。
【0055】
(酸処理工程)
次に、上記ナノダイヤモンド生成工程を複数回行うことによって取得されたナノダイヤモンド粗生成物に対して酸処理を行った。具体的には、当該ナノダイヤモンド粗生成物200gに6Lの10質量%塩酸を加えて得られたスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この酸処理における加熱温度は85~100℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体と煤を含む)の水洗を行った。沈殿液のpHが低pH側から2に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0056】
(酸化処理工程)
次に、酸化処理を行った。具体的には、酸処理後のデカンテーションを経て得た沈殿液(ナノダイヤモンド凝着体を含む)に、6Lの98質量%硫酸水溶液と1Lの69質量%硝酸水溶液とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で48時間の加熱処理を行った。この酸化処理における加熱温度は140~160℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0057】
(乾燥工程)
次に、酸化処理後のデカンテーションを経て得た沈殿液(ナノダイヤモンド凝着体を含む)について乾燥処理に付して乾燥粉体を得た。乾燥処理の手法としては、エバポレーターを使用して行う蒸発乾固を採用した。このようにして、実施例1のナノダイヤモンド粉体を得た。
【0058】
(解砕処理)
次に、解砕処理を行った。具体的には、まず、上記乾燥工程を経たナノダイヤモンド粉体0.3gと純水29.7mlとを50mlのサンプル瓶に加えて混合し、スラリーを得た。次に、3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて当該スラリーのpHを11に調整した。これによって、1質量%の固形分を含有してpHが11のスラリー30mlを調製した。次に、超音波照射器(商品名「超音波洗浄機 AS-3」、アズワン(AS ONE)社製)を使用して、当該スラリーに対して1時間の超音波照射を行った。この後、ビーズミリング装置(商品名「並列四筒式サンドグラインダー LSG-4U-2L型」、アイメックス(株)製)を使用してビーズミリングを行った。具体的には、100mlのミル容器であるベッセル(アイメックス(株)製)に対して超音波照射後のスラリー30mlと直径30μmのジルコニアビーズとを投入して封入し、装置を駆動させてビーズミリングを実行した。このビーズミリングにおいて、ジルコニアビーズの投入量はミル容器の容積に対して例えば33%であり、ミル容器の回転速度は2570rpmであり、ミリング時間は1時間である。
【0059】
次に、上記解砕処理を経たスラリーあるいは懸濁液について、遠心分離装置を使用して遠心分離処理を行った。この遠心分離処理における遠心力は20000×gとし、遠心時間は10分間とした。次に、当該遠心分離処理を経たナノダイヤモンド含有溶液の上清10mlを回収した。このようにして、ナノダイヤモンドが純水に分散する実施例1のナノダイヤモンド分散液を得た。
【0060】
実施例2、3、及び比較例1
ナノダイヤモンド生成工程において、表1に示す容量の容器及び表1に示す質量の爆薬を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ナノダイヤモンド粗生成物、ナノダイヤモンド粉体、及びナノダイヤモンド分散液を得た。
【0061】
実施例及び比較例で得られたナノダイヤモンド粗生成物、ナノダイヤモンド粉体、及びナノダイヤモンド分散液について以下の通り評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(1)一次粒子のメディアン径
乾燥工程後に得られたナノダイヤモンド粉体について、X線回析装置(商品名「SmartLab」、(株)リガク製)を使用して小角X線散乱測定を行い、粒子径分布解析ソフト(商品名「NANO-Solver」、(株)リガク製)を使用して、散乱角度1°~3°の領域についてナノダイヤモンドの一次粒子経を見積もった。この見積もりにおいては、ナノダイヤモンド一次粒子が球形であり且つ粒子密度が3.51g/cm3であるとの仮定をおいた。
【0063】
(2)比表面積
ナノダイヤモンド分散液について、自動比表面積/細孔分布測定装置(商品名「BELSORP-max」、日本ベル(株)製)を使用して測定した。
【0064】
(3)ナノダイヤモンド含有割合
ナノダイヤモンド粗生成物について、下記式に従って算出した。
ナノダイヤモンド含有割合[質量%]=乾燥工程後の乾燥粉体質量/ナノダイヤモンド生成工程後のナノダイヤモンド粗成生物質量×100
【0065】
【表1】
【符号の説明】
【0066】
S1 ナノダイヤモンド生成工程
S2 酸処理工程
S3 酸化処理工程
S4 アルカリ過水処理工程
S5 乾燥工程
図1