(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】セラミックス粉末の製造方法、セラミックス粉末及びセラミックス緻密質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/626 20060101AFI20241003BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20241003BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/126 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B35/626 700
C04B35/50
H01M8/12 101
H01M8/126
(21)【出願番号】P 2019050090
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2022-01-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 理子
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-226531(JP,A)
【文献】特開2004-043216(JP,A)
【文献】特開2001-196056(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2003-0090983(KR,A)
【文献】特開平01-172221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/626
C04B 35/50
H01M 8/12
H01M 8/126
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉末の製造方法であって、
前記セラミックス粉末の原料を含む原料液を噴霧熱分解法で熱分解してフレーク状のセラミックス粒子を含む前記セラミックス粉末を合成する熱分解工程、
を備え、
前記セラミックス粉末は、ガドリニウム添加セリア又はランタン添加セリアであり、
前記原料液は、
前記原料として、
前記セラミックス粉末がガドリニウム添加セリアであるとき、セリウム(Ce)の塩又は酸化物若しくはこれらの水和物と、ガドリウム(Gd)の塩又は酸化物若しくはこれらの水和物と、前記セラミックス粉末がランタン添加セリアであるとき、セリウム(Ce)の塩又は酸化物若しくはこれらの水和物と、ランタン(La)の塩又は酸化物若しくはこれらの水和物と、
アルコール性水酸基を2以上備え、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分枝状アルキル基を有する多価アルコールであって少なくとも一つのアルコール性水酸基から選択される、酸触媒の存在下で分子内又は分子間での脱水反応を生じる脱水性有機化合物と、
硝酸又は硫酸である酸と、
を含有する、方法。
【請求項2】
前記酸は、硝酸である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱分解工程後に、前記セラミックス粉末を焼成する工程、を備える、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記セラミックス粉末は、固体酸化物形燃料電池のイオン導電性材料である、請求項1~
3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
噴霧熱分解法によって得られるセラミックス粉末であって、
前記セラミックス粉末は、
セリウム(Ce)に対して、ガドリニウム(Gd)又はランタン(La)が添加されたガドリニウム添加セリア又はランタン添加セリアであり、
噴霧熱分解及びその後の焼成後のままで比表面積が10m
2/g以上であるフレーク状粒子を含有する、セラミックス粉末。
【請求項6】
請求項5に記載のセラミックス粉末を用いてセラミックス成形体を調製する工程と、
前記セラミックス成形体を焼成する工程と、
を備える、セラミックス緻密質体の製造方法。
【請求項7】
請求項
5に記載のセラミックス粉末を焼結して得られる、セラミックス緻密質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、セラミックス粉末の製造方法、セラミックス粉末及びセラミックス緻密質体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスの緻密質体を焼成により得ようとする場合、緻密質体の原料となるセラミックス粉末を所望の3次元形状に成形した成形体を焼結プロセスによって緻密化することが一般的である。焼結プロセスは、熱活性化過程であるため、焼成温度が高い程、また、焼成時間が長いほど、成形体における緻密化が促進される。一方、同じ焼成条件であれば、セラミックス粉末を構成するセラミックス粒子の粒径が小さいほど緻密化が促進される。セラミックス粒子の粒径が小さいほどその比表面積が大きいからである。
【0003】
ここで、セラミックス粉末の合成方法として噴霧熱分解法がある。噴霧熱分解法は、セラミックス原料溶液等を微細な液滴としてガス流を伴って加熱炉に供給して、加熱炉内で液滴中のセラミックス原料からセラミックスを合成して、セラミックス粒子を合成するものである(特許文献1等)。
【0004】
また、焼結の促進には、セラミックス化合物の拡散を促進する焼結助剤をセラミックス粉末に添加して用いることも有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
噴霧熱分解法では、粒径の小さいセラミックス粒子を合成することができる。しかしながら、噴霧熱分解法によって合成されるセラミックス粒子は概して直径1μm程度の球状である。球状体は、粒径や体積に対する表面積は最小である。したがって、噴霧熱分解法によって得られる球状粒子は、粒径や体積を考慮すると、緻密化促進効率は高いとはいえず、噴霧熱分解法は、緻密質体のセラミックス原料の製造方法としては、必ずしも有効な方法とはいえなかった。
【0007】
また、球状等のセラミックス粒子を、例えば、ボールミルによって粉砕することも可能であるが、粉砕工程で不純物が混入することがあり、セラミックス緻密質体において不純物が問題となる場合があった。
【0008】
さらに、焼結助剤を用いる方法では、焼結後に助剤が不純物として残存して、セラミックス緻密質体の機能を阻害する場合もあった。
【0009】
本明細書は、セラミックス緻密質体の製造に適したセラミックス粉末の合成方法、セラミックス粉末及びセラミックス緻密質体の製造方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、噴霧熱分解法において、セラミックス原料を含む原料液にグリコールなどの化合物を脱水反応が生じるように含有させることで、熱分解工程において発生する水蒸気、ガス及び脱水後の化合物の熱分解により、球状粒子の合成が妨げられ、比表面積が大きいフレーク状の粒子を合成できることを見出した。こうした知見に基づき、本明細書の開示は、以下の手段を提供する。
【0011】
[1]セラミックス粉末の製造方法であって、
セラミックス粉末の原料となる金属原子化合物を含む原料液を噴霧熱分解法で熱分解してセラミックス粉末を合成する熱分解工程、
を備え、
前記原料液は、さらに、少なくとも一つのアルコール性水酸基を有し酸の存在下で分子内又は分子間での脱水反応を生じる脱水性有機化合物と、前記脱水反応を触媒できる酸と、を含有する、方法。
[2]前記熱分解工程後に、前記セラミックス粉末を焼成する工程、を備える、[1]に記載の方法。
[3]前記脱水性有機化合物は、多価脂肪族アルコール、ポリアルキレングリコール及びヒドロキシ酸からなる群から選択される1種又は2種以上を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記酸は、硝酸を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記原料液を、前記脱水性有機化合物及び/又前記酸は、前記セラミックス粉末がフレーク状のセラミックス粒子を含んで生成するように調製する、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記セラミックス粉末は、固体酸化物形燃料電池のイオン導電性材料である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記セラミックス粉末は、希土類元素添加セリア系酸化物を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の方法によって製造される、セラミックス粉末。
[9] 噴霧熱分解法によって得られるセラミックス粉末であって、
前記セラミックス粉末は、噴霧熱分解及びその後の焼成後のままで比表面積が10m2/g以上であるフレーク状粒子、含有する、セラミックス粉末。
[10][8]又は[9]に記載のセラミックス粉末を用いてセラミックス成形体を調製する工程と、
前記セラミックス成形体を焼成する工程と、
を備える、セラミックス緻密質体の製造方法
[11][8]又は[9]に記載のセラミックス粉末を焼結して得られる、セラミックス緻密質体。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】噴霧熱分解法によって得られたガドリニウム添加セリア粉末(実施例及び比較例)の焼成前のSEM観察結果を示す図である。
【
図3】噴霧熱分解法によって得られたガドリニウム添加セリア粉末(実施例及び比較例)の焼成後のSEM観察結果を示す図である。
【
図4】実施例及び比較例の噴霧熱分解法によって得られたガドリニウム添加セリア粉末及びを用いた緻密質成形体の相対密度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書の開示は、噴霧熱分解法を利用したセラミックス粉末の製造方法及びセラミックス粉末並びにセラミックス緻密質体の製造方法及びセラミックス緻密質体に関する。
【0014】
本明細書に開示されるセラミックス粉末の製造方法(以下、本製造方法ともいう。)によれば、従来、噴霧熱分解法によっては得られなかった形態であるフレーク状のセラミックス粒子を得ることができる。
【0015】
本製造方法によれば、粉砕しなくてもフレーク状を有するセラミックス粒子を含んでいるため、比表面積が大きくなりやすく、焼結性に優れたセラミックス粉末となっている。また、熱分解工程後のままで、不純物の導入のおそれがなく高純度で機能阻害のないセラミックス粉末を得ることができる。なお、本製造方法によれば、球状のセラミックス粒子も同時に合成されうる。本製造方法によれば、粉砕しなくても表面積の大きいセラミックス粒子を得ることができる。本製造方法によれば、例えば、固体酸化物形燃料電池の固体電解質などに用いるイオン導電性材料の製造に好適である。
【0016】
本明細書に開示されるセラミックス粉末(以下、本セラミックス粉末ともいう。)は、例えば、本製造方法によって製造され得る。本セラミックス粉末は、粉砕されていない状態であって、例えば、最大差し渡し径が1μm以下のフレーク状粒子を含むことができる。本セラミックス粉末は、また例えば、上記フレーク状粒子を主成分として含有することができる。ここで、フレーク状粒子とは、薄片や破片の形態を有する粒子をいう。フレーク状粒子には、球状粒子を含まない。
【0017】
また例えば、本セラミックス粉末は、最大差し渡し径が1μm以下のフレーク状粒子と最大差し渡し径が100nm以下のフレーク状粒子と、を含有することができる。また例えば、本セラミックス粉末は、これらのフレーク状粒子を主成分として含有することができる。本セラミックス粉末は、比表面積が大きいため焼結性に優れるとともに、粉砕処理をしていないため、粉砕処理に用いる容器やボールから混入する不純物の混入が回避又は抑制されている。このため、固体酸化物形燃料電池のイオン導電性材料、構造材料などの高機能セラミックス成形体の製造用に好適である。
【0018】
本明細書に開示されるセラミックス緻密質体の製造方法(本セラミックス緻密質体の製造方法ともいう。)によれば、緻密性に優れるセラミックス緻密質体を製造することができる。例えば、助剤を用いなくても緻密性に優れるセラミックス緻密質体を製造できる。また、純度に優れるセラミックス緻密質体を製造することができる。
【0019】
本明細書に開示されるセラミックス緻密質体(以下、本セラミックス緻密質体ともいう。)によれば、緻密性や純度に優れており、例えば、固体酸化物形燃料電池の固体酸化物形燃料電池の固体電解質や構造材料として好適である。
【0020】
以下、本明細書の開示について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
(セラミックス粉末の製造方法)
本製造方法は、セラミックス粉末の原料となる(a)金属原子化合物を含む原料液を噴霧熱分解法で熱分解してセラミックス粉末を合成する熱分解工程、を備え、前記原料液は、さらに、少なくとも一つのアルコール性水酸基を有し酸の存在下で分子内又は分子間での脱水反応を生じる(b)脱水性有機化合物と、前記脱水反応を触媒できる(c)酸と、を含有することができる。
【0022】
(熱分解工程)
本製造方法は、噴霧熱分解法による熱分解工程を実施してセラミックス粉末を製造する。噴霧熱分解法は、セラミックス粉末合成に係る技術分野において周知の技術であり、得ようとする粉末の原料を含む溶液又は分散液を、適切な手段で液滴とし、この液滴を加熱することで、液体を蒸発させて、少なくとも部分的に原料を熱分解するとともに粒子化する方法である。
【0023】
(a)金属原子化合物
熱分解工程に供する原料液は、製造しようとするセラミックス粉末の原料となる金属原子化合物を含有している。金属原子化合物は、セラミックス粉末のセラミックスの構成金属原子を含む化合物であり、必要に応じて1種又は2種以上を用いる。金属原子化合物としては、例えば、金属原子と、硝酸、酢酸等の各種酸との塩や、金属原子の水酸化物、金属原子の酸化物、金属原子の各種アルコキシド等が挙げられる。例えば、希土類元素が添加されたセリアを得ようとする場合、Ceと希土類元素とを、得ようとする希土類元素の含有量となるように、Ce:希土類元素のmol比が調整される。金属原子化合物は、水和物等であってもよい。
【0024】
例えば、固体酸化物形燃料電池の固体電解質や空気極材料のイオン導電性材料となる希土類元素添加セリア系酸化物を合成対象とすることができる。ここで希土類元素としては、セリウム(Ce)以外の希土類であって、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)、ジルコニア(Zr)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)等が挙げられる。また、Caなどの第2族金属元素が添加セリア径酸化物も固体酸化物形燃料電池のイオン導電性材料として有用である。
【0025】
(b)脱水性有機化合物
原料液には、少なくとも一つのアルコール性水酸基を有し酸の存在下で分子内又は分子間での脱水反応を生じる脱水性有機化合物も含有している。脱水性有機化合物の脱水反応により、分子内及び/又は分子間の脱水縮合が生じて、水の生成・蒸発とともに縮合化合物が生成され、さらに、縮合化合物が加熱により熱分解されることで、フレーク状の粒子が生成されるものと考えられる。原料液には、硝酸セリウム(六水和物であってもよい。)、酸化ガドリニウムの硝酸溶液、硝酸サマリウム(六水和物であってもよい。)、硝酸ランタン(六水和物であってもよい。)、硝酸ガドリニウム(六水和物であってもよい。)等を適宜用いることができる。
【0026】
脱水性有機化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アルコール性水酸基を2以上備える多価アルコール、ポリアルキレングリコール、ヒドロキシ酸等が挙げられる。脱水性有機化合物としては、1種又は2種以上を組みあわせて用いることができる。
【0027】
多価アルコールとしては、特に限定するものではないが、グリコール、トリオール等の多価アルコールであって、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分枝状アルキル基を有する多価アルコールが挙げられる。アルキル基の炭素数は、また例えば、2以上6以下であり、また例えば、2以上5以下であり、また例えば2以上4以下であり、また例えば、2以上3以下である。多価アルコールは、また例えば、2価又は3価である。こうした多価アルコールとしては、典型的には、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0028】
ポリアルキレングリコールとしては、特に限定するものではないが、繰り返し数が2以上5以下、アルキレン鎖が、2以上4以下程度のポリアルキレングリコールが挙げられる。典型的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0029】
ヒドロキシ酸としては、特に限定するものではないが、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。
【0030】
原料液における脱水性有機化合物の含有量は特に限定するものではないが、例えば、原料液中のセラミックス粉末を意図する金属原子の総モル数の1倍モル以上、また例えば、同2倍モル以上、また例えば、同3倍モル以上、また例えば、同4倍モル以上である。また、同10倍モル以下、同8倍モル以下、同6倍モル以下、同5倍モル以下である。脱水性有機化合物の金属原子の総モル数に対する含有量の範囲は、特に限定するものではないが、例えば、これらの下限と上限とを適宜組みあわせることができる。例えば、当該範囲は、同1倍モル以上10倍モル以下であり、同2倍モル以上8倍モル以下であり、同3倍モル以上同7倍モル倍以下であり、同4倍モル以上同6倍モル以下である。
【0031】
(c)酸
酸としては、脱水性有機化合物の脱水反応を触媒できる酸であれば、特に限定するものではないが、例えば、硝酸、硫酸などの酸触媒が挙げられる。原料液における酸濃度は、特に限定するものではないが、結果として、生成セラミックス粒子のフレーク化が生じればよく、例えば、0.1質量%以上10質量%以下、また例えば、0.2質量%以上5質量%以下、また例えば、0.3質量%以上3質量%以下などとすることができる。
【0032】
原料液の媒体としては、特に限定するものではないが、水、有機溶媒、これらの混液とすることができる。純度、酸の溶解性等の観点から、水又は水と水と有機溶媒(水と相溶する)との混液が挙げられる。また、原料液の媒体は、水を主成分とすることが好ましい。すなわち、水を50体積%以上含むことが好ましく、より多く水を含むことが好ましい。
【0033】
熱分解工程では、こうした原料液を、適当な液滴形成手段によって液滴とし、原料液の液滴を加熱して連続的に乾燥及び少なくとも部分的に熱分解してセラミックス粒子を合成することができる。熱分解工程に用いる噴霧熱分解装置の一例の概要を
図1に示す。
【0034】
熱分解工程では、原料液中の媒体の蒸発、金属原子化合物の熱分解、脱水性有機化合物の分子内及び/又は分子間脱水反応と脱水化合物の生成・熱分解・ガスの発生が進行して、粒子の球状化が抑制され、又は、球状粒子が分解される。これにより、フレーク状粒子が生成されることになる。
【0035】
熱分解工程で用いる液滴化手段2は、特に限定しないで、公知の噴霧熱分解法に適用されている手段を用いることができる。したがって、特に限定しないで、スプレーノズル、超音波霧化手段、静電霧化手段等を適宜選択して用いることができる。
図1においては、液滴化手段2として超音波霧化手段を備えている。
【0036】
また、熱分解工程では、各種熱源6を利用した加熱炉4を用いることができる。加熱炉4についても特に限定しないで公知の噴霧熱分解法に適用される赤外線加熱炉、マイクロ波加熱炉、抵抗加熱炉などの各種の加熱炉を適宜用いることができる。
図1においては、加熱炉4として抵抗加熱炉を備えている。
【0037】
熱分解工程における加熱温度は、特に限定するものではないが、例えば、一定温度であってもよいが、加熱炉の導入部から排出部までの間を、徐々に昇温する形態を採ることができる。典型的には、液滴の乾燥から熱分解を意図した温度設定とすることができる。液滴の乾燥のためには、おおよそ、200℃~600℃程度の温度を設定することができる。また、例えば、熱分解のためには、600℃~1600℃程度の温度を設定することができる。
【0038】
例えば、加熱炉全体で、200℃~800℃、また例えば、200℃~1000℃の範囲で加熱するような加熱形態とし、これらの温度範囲を、2以上の、より好ましくは3以上の、さらに好ましくは4以上の異なる温度(例えば、200℃、400℃、800℃及び1000℃など)に制御した熱源を配置して加熱することが好ましい。
【0039】
また、ガスについては、特に限定するものではないが、例えば、酸化物セラミックス生成の観点からは、酸素を含んだ酸化性ガス、典型的には空気を用いることができる。その流量は、公知の噴霧熱分解法に準じて設定することができるが、例えば、1L/分~10L/分、また、例えば、2L/分~8L/分の範囲で適宜設定することができる。
【0040】
熱分解工程における温度条件やガス流通条件によって、得られる粒子の特性を適宜制御することができる。すなわち、粒子における金属原子化合物の熱分解程度、セラミックスの結晶性(単斜晶、正方晶、立方晶)、セラミックスの焼結程度や熱収縮程度、結晶粒の成長程度、フレーク状粒子の生成程度等を制御することができる。
【0041】
熱分解工程で得られた粒子は、公知の捕捉手段8で適宜捕捉される。こうした捕捉手段8も、噴霧熱分解法において一般的に用いられる捕捉手段を適宜採用することができる。
図1の噴霧熱分解装置においては、捕捉手段8としてフィルターを用いている。
【0042】
(焼成工程)
熱分解工程後に、熱分解工程で生成したセラミックス粉末を焼成する工程、を備えることができる。焼成工程を実施することで、セラミックスの結晶性や結晶型、粒子の大きさ(差し渡し径やその分布)、比表面積などの粒子特性、さらには、それ自体の収縮率等を調整することができる。
【0043】
焼成工程は、例えば、熱分解工程で得られたセラミックス粒子を加熱してセラミックスの結晶化を促進する結晶化工程として実施してもよいし、脱水性有機化合物を完全に熱分解ないし焼失させる及び/又は粒成長させる工程として実施してもよい。また、焼成工程は、一層小さいフレーク状粒子を生成させる工程としても実施できる。本製造方法によれば、噴霧熱分解によりフレーク状粒子として取得できるため、焼成工程でフレーク状粒子内において粒成長が生じると、さらに、フレーク状粒子から、粒成長によってさらに小径の粒子が分離される傾向がある。さらには、脱水性有機化合物をある程度残留させたり、セラミックスの結晶性や焼結程度を抑制して、焼結体取得時における収縮率を確保しておくなどの調整が可能となる。
【0044】
例えば、結晶化工程を実施する場合には、得ようとするセラミックスの結晶形態に合わせて焼成温度を設定することができる。例えば、蛍石構造の立方晶セリアを主要な結晶形とする場合には、400℃以上1000℃以下程度することができる。また例えば、600℃以上1000℃以下程度とすることができ、また例えば、700℃以上900℃以下とすることができる。また、焼成時間も適宜設定できるが、例えば、1時間から3、4時間以下程度、典型的には2、3時間以内とすることができる。
【0045】
本製造方法によれば、酸の存在下、脱水性有機化合物の脱水反応、水の蒸発、脱水化合物の熱分解、ガスの発生等により、フレーク状のセラミックス粒子が生成される。すなわち、噴霧熱分解後のままで粉砕されていない状態で、平均差し渡し径が2μm以下のフレーク状の粒子を含むセラミックス粉末を生成する。フレーク状粒子のほかに、従来の球状粒子も生成することもある。
【0046】
本セラミックス粉末におけるフレーク状粒子の厚み(平均値)は、例えば、10nm~50nmであり、また例えば、20nm~40nmである。厚みは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)観察(観察倍率は50,000~100,000倍)において、本セラミックス粉末において、フレーク粒子の厚みを観察できる部分から、その厚みを1個のフレーク状粒子につき、5~10個所測定し、全体として、5個のフレーク状粒子について測定した厚みの平均値として取得できる。
【0047】
こうした本セラミックス粉末によれば、比表面積が大きく、焼結しようとするときに優れた焼結性を発揮することができる。また、粉砕工程を実施しなくても比表面積が大きいため、粉砕によるジルコニアなどの不純物の混入を抑制又は回避でき、例えば、ジルコニアなどの本セラミックス粉末以外の不純物の総含有量又はジルコニア含有量を、SEM/EDXによる測定により、例えば、2000ppm以下、また例えば、1500ppm以下、また例えば、1000ppm以下である。
【0048】
本セラミックス粉末は、例えば、その比表面積が、例えば、10m2/g以上、また例えば、12m2/g以上、また例えば、14m2/g以上、また例えば、15m2/g以上、また例えば、16m2/g以上、また例えば、17m2/g以上、また例えば、18m2/g以上のセラミックス粉末を得ることができる。本セラミックス粉末は、熱分解後において粉砕されていない状態でかかる比表面積を有することができる。本セラミックス粉末の比表面積は、ガス吸着法(3点)によりBETの式から算出することができる。特に、本セラミックス粉末は、熱分解及びその後の焼成後において、10m2/g以上、また例えば、12m2/g以上、また例えば、14m2/g以上、また例えば、15m2/g以上の比表面積を有することができる。本セラミックス粉末は、粉砕されていなくてもかかる比表面積を有することができ、純度の点においても極めて有利である。
【0049】
なお、本製造方法においては、熱分解工程後のいずれかの段階で、得られたセラミックス粒子の凝集状態を解除するための粒子の解砕工程を実施してもよい。こうした解砕工程は、通常の粉砕のほか、液相中での超音波破砕であってもよい。
【0050】
(セラミックス粉末)
本セラミックス粉末は、本製造方法によって製造されうる。既述のとおり、本セラミックス粉末は、その粒子形状等において特徴を有する。本セラミックス粉末は、従来の噴霧熱分解法によっては取得できなかった形状の粒子を含んでいる。なお、本セラミックス粉末は、本製造方法によって初めて取得されたものであり、新規な粒子形状を含んでおりそれ自体新たなセラミックス粉末である。
【0051】
本セラミックス粉末は、例えば、固体酸化物形燃料電池のイオン導電性材料用である。固体酸化物形燃料電池の固体電解質には高い緻密性が要請されるが、本セラミックス粉末であれば、焼結により高い緻密性を確保することができるほか、高い純度も確保できる。イオン導電性材料用である場合、本セラミックス粉末は、ガドリニウム、サマリウム、ジルコニウムなどの希土類元素が添加されたセリア系酸化物である。
【0052】
(セラミックス緻密質体の製造方法及び本セラミックス緻密質体)
本セラミックス緻密質体の製造方法は、本セラミックス粉末を用いてセラミックス成形体を調製する工程と、前記セラミックス成形体を焼成する工程と、を備えている。本製造方法によれば、緻密性に優れるセラミックス緻密質体を得ることができる。本セラミックス緻密質体の製造方法は、セラミックス粉末を固体酸化物形燃料電池の固体電解質用のイオン導電性材料とする場合、例えば、固体酸化物形燃料電池の固体電解質の製造方法としても実施できるほか、本製造方法を全工程の一部である固体酸化物形燃料電池の固体電解質の製造工程として含む、固体酸化物形燃料電池の製造方法としても実施できる。
【0053】
本セラミックス粉末を用いたセラミックス成形体の調製工程は、本セラミックス粉末のみ、又は本セラミックス粉末と他のセラミックス粉末と、必要に応じて公知のバインダーや分散媒を用いて、公知の方法で焼成のためのセラミックス成形体を調製する工程である。例えば、固体酸化物形燃料電池の固体電解質のためのセラミックス成形体の場合には、他のセラミックス粉末として空気極材料であるセラミックス粉末を混合することができる。
【0054】
セラミックス成形体の焼成工程は、セラミックス成形体体を焼成して本セラミックス粉末を焼結させるようにする。焼成工程における温度条件は、本セラミックス粉末の種類等に応じて適宜決定される。希土類元素添加セリア系酸化合物の場合には、例えば、1200℃~1600℃、また例えば、1300℃~1500℃などとすることができる。また、セラミックス粉末の種類等に応じて、雰囲気ガスを適宜選択できるが、セラミックス粉末等が酸化物の場合には、空気などの酸化性雰囲気で焼成することができる。
【0055】
本セラミックス緻密質体の製造方法によって得られた本セラミックス緻密質体は、例えば、希土類添加セリア系金属酸化物セラミックスを含有する緻密質体であるとき、1300℃で2時間保持したときの相対密度が75%以上、1350℃で2時間保持焼成したときの相対密度が80%以上、1400℃で2時間保持焼成したときの相対密度が85%以上、1500℃で2時間保持焼成したときの相対密度が90%以上など、高い相対密度を相対的に低い焼成温度で取得することができる。なお、本セラミックス緻密質体の相対密度は、アルキメデス法により測定することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0057】
本実施例では、固体酸化物型燃料電池の固体電解質用のガドリニウム添加セリア((Ce0.9Gd0.1)O2-x、GDC)及びランタン添加セリア((Ce0.8La0.2)O2-x、LDC)を噴霧熱分解法で合成し、焼成することにより取得した。
【0058】
[1]GDC用原料液
酸化ガドリニウムを硝酸50ccに溶解した後、Ce:Gd=9:1の組成比となるように、硝酸セリウム六水和物をイオン交換水に溶解し、全カチオンのN倍のモル数(N=0.5、1、3、5)のエチレングリコールを添加し、500mLの原料溶液を作製した。なお、原料溶液の濃度は、全カチオンのモル数で、0.4mol/Lとした(実施例試料1~9)。
【0059】
[2]LDC用原料液
Ce:La=8:2の組成比となるように、硝酸セリウム六水和物と硝酸ランタン六水和物をイオン交換水に溶解し、全カチオンの5倍のモル数のエチレングリコールを添加し、500mLの原料溶液を作製した(実施例試料10、11、比較例試料6、7)。なお、原料溶液の濃度は、全カチオンのモル数で、0.4mol/Lとした。なお、一部の溶液(実施例試料10、11)には、原料溶液中に硝酸50ccを含有するようにした。
【0060】
さらに、比較例の原料溶液として、エチレングリコールを含有しない以外は実施例と同様の組成のGDC用原料液(比較例試料1、2;硝酸を含有する。)とし、エチレングリコールと過剰の硝酸を含有しない以外は実施例と同様の組成のLDC用原料液(比較例試料4、5)とした。なお、過剰の硝酸を含有しない以外は実施例と同様の組成のLDC用原料液(比較例試料6、7;エチレングリコールは5倍モル量含有する)とした。
【0061】
そのほか、市販GDC(固相法による)を、比較例試料3とした。
【0062】
[3]噴霧熱分解条件
噴霧熱分解は、噴霧熱分解装置(オーエヌ総合電機株式会社製)を用いた。本装置は、塩化ビニル樹脂製の霧化器、アルミナ製の反応管(内径20mmφ、外径25mmφ、長さ1500 mm)およびガラス製の捕集器から構成されている。また、反応管部分には4つの独立した加熱炉(カンタルヒーター)が具備されている。捕集器内にはメンブレンフィルター(142mmφ、孔径:0.45μm、オムニポアJHWP14225)をセットすることで合成した粒子を捕集するように構成されている。
【0063】
噴霧熱分解合成条件は、反応管の温度は霧化器に近い側から200℃、400℃、800℃、1000℃とし、結露防止の目的で捕集器はマントルヒーターを用いて100℃に保温した。超音波霧化器水浴温度は30℃とし、溶液容器温度は27℃とした。合成中のキャリアガス流量は3.0L/minとした。なお、キャリアガスにはAirを用いた。
【0064】
[4]焼成条件
噴霧熱分解によって得られた各種粉末につき、800℃で2時間又は4時間焼成した(実施例試料2、4、6、8、9、11、比較例試料2、5、7)。なお、実施例試料1、3、5、7及び10並びに比較例試料1、3、4及び6については焼成を行わなかった。
【0065】
実施例試料及び比較例試料について、BET法(3点)による比表面積の測定結果を以下の表に示す。比表面積の測定は、JIS R1626「ファインセラミックス粉末の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」によって行った。なお、表中、GDC-0.5EG-Nは、エチレングリコールをGDCに対して0.5倍のモル数を含み、硝酸を過剰に含有していることを意味している。
【0066】
【0067】
表1に示すように、実施例試料1~9及び比較例試料1~3の結果から、エチレングリコール量の添加量が増大すると熱分解後と熱分解及び焼成後の比表面積が増大するとともに、焼成後の比表面積の低下が抑制され、結果として、焼成後も高い比表面積を有していることがわかった。また、エチレングリコールの添加量がGDCの金属元素のモル数に対して0.5~5倍の範囲は、熱分解後においても、熱分解と焼成の後においても、優れた比表面積を有していることがわかった。これに対して、従来の噴霧熱分解法では、熱分解後においては、市販GDC(比較例3)よりも高い比表面積を有するものの焼成による粒成長などによって非表面積が急激に低下してしまう傾向が観察された。
【0068】
また、実施例試料10~11及び比較例4~7の結果から、エチレングリコールと硝酸とを含有することが、熱分解及び焼成後の優れた比表面積の確保に有用であることがわかった。
【0069】
また、噴霧熱分解後焼成前の実施例試料7、比較例試料1及び比較例試料3のSEM観察結果を
図2に示し、同焼成後(800℃、4時間)の実施例試料9及び比較例試料2並びに対照としての比較例試料3(市販GDC)のSEM観察結果を
図3に示す。
【0070】
図2に示すように、実施例試料7では、フレーク状のセラミックス粒子が生成していることがわかった。これに対して、比較例試料1では、従来の噴霧熱分解法と同様、真球に近い球状の粒子となっていた。また、固相法による市販品GDCは、粉砕によって得られる形状の粒子が観察された。
【0071】
また、
図3に示すように、焼成後の実施例試料9では、焼成前に比較して粒子が小さくなっている傾向が観察されたが、フレーク状を維持していた。実施例のフレーク状粉末は、焼成による粒成長に伴い、さらに、焼成前のフレーク状粒子が一層細かいフレーク状粒子に分離することがわかった。
【実施例2】
【0072】
実施例1で得た実施例試料3と比較例試料2及び3の各GDC粉体を、金型を用いて一軸プレス(29.4MPa)後、種々の温度で2時間焼成して常圧焼結した際の焼結体の相対密度をアルキメデス法にて測定した。結果を
図4に示す。
図4に示すように、相対密度は焼成温度の増加とともに増加するが、本技術で合成したGDC粉体は、従来法で作製したGDC、および市販のGDCよりも高い相対密度を示し、焼結性が向上した粉体であることが分かった。