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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】二次電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20241003BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20241003BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20241003BHJP
   H01M 10/623 20140101ALI20241003BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20241003BHJP
   H01M 10/633 20140101ALI20241003BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20241003BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241003BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H01M10/48 301
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/623
H01M10/6571
H01M10/633
H01M10/651
H01M10/052
H01M10/058
H01M10/0568
H01M10/0569
H02J7/04 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020145212
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040473
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川治 純
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 渉太
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 耕平
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/169065(WO,A1)
【文献】特開2003-272712(JP,A)
【文献】特開2016-091613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42-10/48
H01M 10/60-10/667
H01M 10/05-10/0587
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池と、該リチウムイオン二次電池の充放電を制御する充放電制御装置と、を有する二次電池システムであって、
前記充放電制御装置は、
前記リチウムイオン二次電池の温度を予め設定された閾値以上の温度まで上昇させる加温制御と、
前記リチウムイオン二次電池が前記閾値以上の温度まで加温された加温状態で、前記リチウムイオン二次電池の正極又は負極にリチウムイオンを補充する補充制御、および、前記リチウムイオン二次電池を過放電状態にする過放電制御の少なくとも一方の制御と、を実行し、
前記補充制御後又は前記過放電制御後に、前記リチウムイオン二次電池の温度を使用温度まで下げる処理を実行し、
前記リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、容量回復極とを備えた三極式セルを有し、
前記充放電制御装置は、前記容量回復極と前記正極、あるいは、前記容量回復極と前記負極とを接続し、前記容量回復極の電位を前記正極又は前記負極の電位よりも高くする電流制御により、前記容量回復極から前記リチウムイオンを放出させ、該リチウムイオンを前記正極又は前記負極に補充することを特徴とする二次電池システム。
【請求項2】
リチウムイオン二次電池と、該リチウムイオン二次電池の充放電を制御する充放電制御装置と、を有する二次電池システムであって、
前記充放電制御装置は、
前記リチウムイオン二次電池の温度を予め設定された閾値以上の温度まで上昇させる加温制御と、
前記リチウムイオン二次電池が前記閾値以上の温度まで加温された加温状態で、前記リチウムイオン二次電池の正極又は負極にリチウムイオンを補充する補充制御、および、前記リチウムイオン二次電池を過放電状態にする過放電制御の少なくとも一方の制御と、を実行し、
前記補充制御後又は前記過放電制御後に、前記リチウムイオン二次電池の温度を使用温度まで下げる処理を実行し、
前記充放電制御装置は、前記加温状態における前記リチウムイオン二次電池の電池温度T を、前記リチウムイオン二次電池が有する電解質の揮発温度T よりも低い温度(T <T )に制御することを特徴とする二次電池システム。
【請求項3】
記加温状態における前記リチウムイオン二次電池の電池温度Tが60℃以上であることを特徴とする請求項に記載の二次電池システム。
【請求項4】
前記電解質の揮発温度Tが100℃以上であることを特徴とする請求項に記載の二次電池システム。
【請求項5】
前記電解質がイオン液体及び溶媒和イオン液体のいずれかを含むことを特徴とする請求項に記載の二次電池システム。
【請求項6】
前記電解質がグライム化合物を含むエーテル系溶媒、あるいは、スルホラン及びスルホラン誘導体の少なくともいずれか一つの溶媒と、リチウム塩と、を含むことを特徴とする請求項に記載の二次電池システム。
【請求項7】
充放電制御によりリチウムイオン二次電池の性能を回復させる電池性能回復方法であって、
ヒータ加熱又は自己発熱により、前記リチウムイオン二次電池の温度を予め設定された閾値以上の温度まで上昇させる加温工程と、
前記リチウムイオン二次電池が前記閾値以上の温度まで加温された加温状態で、前記リチウムイオン二次電池の正極又は負極にリチウムイオンを補充する補充制御、および前記リチウムイオン二次電池を過放電状態にする過放電制御の少なくとも一方を行う回復工程と、
前記回復工程の後に、前記リチウムイオン二次電池の温度を使用温度まで下げる冷却工程と、
を含み、
前記回復工程では、
前記リチウムイオン二次電池が正極と、負極と、容量回復極とを備えた三極式セルを有している場合には、前記容量回復極と前記正極、あるいは、前記容量回復極と前記負極とを接続し、前記容量回復極の電位を前記正極又は前記負極の電位よりも高くする電流制御を行うことを特徴とするリチウムイオン二次電池の電池性能回復方法。
【請求項8】
充放電制御によりリチウムイオン二次電池の性能を回復させる電池性能回復方法であって、
ヒータ加熱又は自己発熱により、前記リチウムイオン二次電池の温度を予め設定された閾値以上の温度まで上昇させる加温工程と、
前記リチウムイオン二次電池が前記閾値以上の温度まで加温された加温状態で、前記リチウムイオン二次電池の正極又は負極にリチウムイオンを補充する補充制御、および前記リチウムイオン二次電池を過放電状態にする過放電制御の少なくとも一方を行う回復工程と、
前記回復工程の後に、前記リチウムイオン二次電池の温度を使用温度まで下げる冷却工程と、
を含み、
前記加温状態での前記リチウムイオン二次電池の電池温度をT 、前記リチウムイオン二次電池が有する電解質の揮発温度をT とした際に、T <T となるように制御することを特徴とするリチウムイオン二次電池の電池性能回復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用中の性能回復機構を有する二次電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、非水電解質二次電池の一つであり、エネルギ密度が高いため、携帯機器のバッテリーや、近年では電気自動車のバッテリーとしても用いられている。ただし、リチウムイオン電池は、使用に伴い劣化し、電池容量が減少することが知られている。
【0003】
リチウムイオン電池では、正極の活物質としてリチウム金属酸化物、負極の活物質とし黒鉛などの炭素材が用いられるのが一般的である。リチウムイオン電池の正極および負極は、微小な活物質粒子群にバインダ(結着剤)や導電剤等を加えてスラリー(混合体)化した後、金属箔に塗布して形成する。
【0004】
充電時には、正極の活物質から放出されたリチウムイオンが負極の活物質に吸蔵され、放電時には負極の活物質に吸蔵されたリチウムイオンが放出され正極の活物質に吸蔵される。このように、リチウムイオンが電極間を移動することで電極間に電流が流れる。
【0005】
このようなリチウムイオン電池では、(1)正極活物質の電気的な孤立、(2)負極活物質の電気的な孤立、及び(3)電極間を往来するリチウムイオンの固定化、によって容量が減少する。(3)については、負極と電解液の間の界面で形成される被膜成分(SEI;Solid Electrolyte Interphase)にリチウムイオンが取り込まれ、移動度を失うことで生じるといわれている。
【0006】
これらの要因のうち、上記(3)による容量減少分については、内部にリチウムを含む第3の電極を備えたリチウムイオン電池を作製し、第3の電極から正極または負極にリチウムイオンを補充することによって容量減少分を回復させることが可能である。以後、容量回復を目的の一つとして設置した第3の電極を容量回復極と呼ぶ。
【0007】
また、上述のSEIを電気化学的に酸化し、分解除去することで容量ないし電池出力を回復させることが可能である。
【0008】
これらの技術に関連して、特許文献1ないし3があげられる。
特許文献1には、「リチウムイオン電池の容量回復方法として、劣化原因がリチウムイオンの減少であるか否かを判定し、リチウムイオンの減少量を算出し、リチウムイオン補充用電極と正極又は負極とを接続してリチウムイオン補充用電極から減少量に相当するリチウムイオンを放出させ、リチウムイオン電池にリチウムイオンを補充して電池容量を回復させる。」と記載されている。
【0009】
特許文献2には、「劣化したリチウムイオン電池の性能を回復させる方法、及び電池性能の回復手段を備える電源システムを提供するために、劣化したリチウムイオン電池の負極の電位を正極の電位よりも上昇させた後、負極の電位を正極の電位よりも低下させる工程を少なくとも1サイクル以上実施する電池の再生方法にある。また、リチウムイオン電池の負極の電位を正極の電位よりも上昇させた後、負極の電位を正極の電位よりも低下させる手段を備えた電源システムを提供する」ことが開示されている。
【0010】
特許文献3の[要約]には、「[課題]バッテリーの劣化を防止、または劣化を回復させるとともに、バッテリーの充放電性能を最大限に引き出し、バッテリーの充放電性能を長時間維持する。[解決手段]リチウムイオン二次電池などのバッテリーにおいて、様々な異常の発生や、劣化の原因は電極表面に生成される反応生成物である。具体的には、反応生成物が形成される電流とは逆方向に電流が流れるような信号(逆パルス電流)を加えて、その反応生成物を溶解する。」と記載され、負極表面の被膜分解によるリチウムイオン二次電池の容量回復方法の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2012/124211号
【文献】特開2012-169094号公報
【文献】特開2014-187002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
容量回復極を用いた容量回復の一般化によりリチウムイオン電池の寿命は大きく伸びると予測される。それに伴い電池の中古市場の立ち上がりが期待されるが、このような電池性能回復技術を実用の電池システムに適用するには、回復のための電気化学的な反応を早める必要がある。
【0013】
第3の電極(容量回復極)を用いて電池内にリチウムイオンを供給する際、電池内の電解液中のリチウムイオン拡散速度を速める必要がある。これは拡散速度が遅いと、回復に要する時間がかかるだけでなく、大型電池セル内で回復状態に分布(むら)が生じ、かえって電池性能を悪化させる懸念がある。
【0014】
また、負極表面の被膜を分解・除去するために過放電を実施する際、被膜分解反応が遅いと、負極ないし正極の活物質にダメージを与え、これもかえって電池性能を悪化させることにつながる。そのため、回復速度を高めるための機能付与が必要である。ただし、前術の特許文献1から3については、回復速度を高める施策については特段開示されていない。
【0015】
以上を鑑み、本発明は、第3電極からリチウムイオンを補充することで容量を回復するリチウムイオン電池ないし、正極と負極の間で過放電を実行することで負極表面の被膜を除去し、電池性能を回復させるリチウムイオン電池を用いた二次電池システムにおいて、回復のための電気化学的な処理速度を高め、二次電池システムでの短時間回復、長寿命化を促進する手法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題を解決するために、本発明を以下のように構成した。
【0017】
すなわち、リチウムイオン二次電池と、該リチウムイオン二次電池の充放電を制御する充放電制御装置と、を有する二次電池システムであって、前記充放電制御装置は、前記リチウムイオン二次電池の温度を予め設定された閾値以上の温度まで上昇させる加温制御と、前記リチウムイオン二次電池が前記閾値以上の温度まで加温された加温状態で、前記リチウムイオン二次電池の正極又は負極にリチウムイオンを補充する補充制御、および、前記リチウムイオン二次電池を過放電状態にする過放電制御の少なくとも一方の制御と、を実行することを特徴とする。また、その他の手段は、発明を実施するための形態の中で説明する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加熱機構により、意図的にリチウムイオン二次電池セルの温度を高めた状態で、電流制御装置を用いた電池回復処理を施すことで、回復処理速度を高め、二次電池システムの短時間回復、長寿命化を実現することができる。尚、以降では、第3の容量回復極を有するリチウムイオン電池セルを三極式セル、第3の容量回復極を有さないリチウムイオン電池セルを二極式セルとも呼ぶ。
【0019】
本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】容量回復極を有するリチウムイオン電池のセル(三極式セル)の断面の一例を、概念的に示す図である。
図2図1のセルの発電要素の断面の一例を、概念的に示す図である。
図3】容量回復極を含まないリチウムイオン電池のセル(二極式セル)の断面の一例を、概念的に示す図である。
図4図3のセルの発電要素の断面の一例を、概念的に示す図である。
図5】三極式セルを有する電池パックとそこに接続された充放電制御装置の構成例を、概念的に示す図である。
図6】二極式セルを有する電池パックとそこに接続された充放電制御装置の構成例を、概念的に示す図である。
図7】電池パック内に内蔵された加熱機構を用いて電池セルを加熱、回復処理を実施する工程でのセル温度と回復電流のパターン例を、概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下においては「実施形態」と表記する)を、適宜、図面を参照して説明する。
【0022】
ただし、本発明の実施形態である、回復機構を有するリチウムイオン二次電池と、前記二次電池に電圧を印加する外部電源と、前記二次電池を加温する加熱機構と、前記加熱機構により前記二次電池を加温した状態で電池容量および出力を回復させるための電流制御装置を直ちに説明するのは、理解が容易ではない点もある。そのため、まず、<リチウムイオン電池のセルの構造>、<電流制御装置>を先に説明する。そして、その後で本発明の実施形態である二次電池システムについて説明する。
【0023】
<リチウムイオン電池のセルの構造>
図1および図2を参照して、三極式セルの構造について説明する。
【0024】
図1は、容量回復極を有するリチウムイオン電池のセルの断面の一例を、概念的に示す図である。なお、図1は、後記する図2の紙面の左側から見た図である。
【0025】
図1において、セル(電池セル、二次電池)100は、電極占有部分1と、正極端子(タブ)2と、負極端子(タブ)3と、容量回復極端子(タブ)4と、セパレータ5と、外装材6とを備えている。
外装材6は、ラミネートフィルム、もしくは、それに類する素材で構成されている。
【0026】
前記したように、図1は、後記する図2の紙面の左側から見た図であって、電極占有部分1とは、図2における容量回復極15、負極12、正極11に対応する部分が重なって見える領域を表記している。
【0027】
図2は、図1のセルの蓄電要素(蓄電機構の構成要素)の断面の一例を、概念的に示す図である。
【0028】
図2において、セルの蓄電要素は、正極11と負極12と容量回復極15とセパレータ5を備えている。なお、電池としての電解液は、正極11、負極12、容量回復極15、セパレータ5等の微孔に含侵されている。そのため、電解液は、図2図1には表記されていない。
【0029】
また、図2において、蓄電要素は、正極11と負極12とがセパレータ5を挟んで交互に配置されている。また、容量回復極15は、電極としては最も外側に配置されている。
【0030】
なお、容量回復極15の外側にも、セパレータ5が配置されている。セパレータ5は、例えば、ポリプロピレンが用いられる。ただし、セパレータ5としてポリプロピレン以外にも、ポリエチレンなどのポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などを用いることもできる。
【0031】
正極11、負極12、および容量回復極15は、それぞれ、適切な金属の集電箔に、適切な電極活物質、導電剤、結着剤などの混合体を塗布して作製されたものである。
【0032】
本発明の対象とするリチウムイオン電池のセルでは、材質、形状、製造方法などに制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。
【0033】
《正極11、容量回復極15》
正極11、および容量回復極15の集電箔には、厚さが10~100μmのアルミニウム箔、厚さが10~100μm、孔径0.1~10mmのアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板などのいずれかが用いられる。また、前記の材質も、アルミニウムの他に、ステンレス鋼、チタンなども適用可能である。
【0034】
正極11、および容量回復極15の電極活物質は、反応種を内部に含むものが望ましい。リチウムイオン電池の反応種は、リチウムイオンである。この場合、電極活物質は、リチウムイオンを可逆的に挿入脱離可能なリチウム含有化合物を含んでいる。
【0035】
正極11、および容量回復極15の電極活物質の種類は、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン置換コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウムなどのリン酸遷移金属リチウム、LiNiCoMn(ここで、w、x、y、zは0または正の値)が挙げられる。
【0036】
また、正極11、および容量回復極15の電極活物質として、前記の材料が一種単独、または、二種以上含まれていてもよい。
【0037】
正極11と容量回復極15は、同じ構成を用いてもよい。正極11と容量回復極15とで同じ構成を用いることにより、製造コストを低減できる。
【0038】
《負極12》
負極12の集電箔には、厚さが10~100μmの銅箔、厚さが10~100μm、孔径0.1~10mmの銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板などが用いられる。
また、材質も銅の他に、ステンレス鋼、チタンなども適用可能である。
【0039】
負極12の電極活物質は、リチウムイオンを可逆的に挿入脱離可能な物質を含んでいる。負極12の電極活物質の種類は、例えば、天然黒鉛や、天然黒鉛に乾式のCVD法もしくは湿式のスプレー法によって被膜を形成した複合炭素質材料、エポキシやフェノール等の樹脂材料もしくは石油や石炭から得られるピッチ系材料を原料として焼成により製造される人造黒鉛、シリコン(Si)、シリコンを混合した黒鉛、難黒鉛化炭素材、チタン酸リチウムLiTi12などを用いることができる。
負極活物質として前記の材料が、一種単独、または、二種以上含まれていてもよい。
【0040】
《電解液》
発電要素(発電機構の構成要素)には、正極11、負極12、容量回復極15、セパレータ5のほかに電解液がある。正極11、負極12、容量回復極15、セパレータ5は多孔質の材質で形成され、電解液が含侵されている。そのため、図2あるいは図1には、電解液が表記されていない。
【0041】
リチウムイオン電池の場合、電解液は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)等の非プロトン性有機系溶媒などを用いることができる。
【0042】
あるいは、前記の2種以上の混合有機化合物の溶媒に、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、ヨウ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、LiB[OCOCF、LiB[OCOCFCF、LiPF(CF、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF等のリチウム塩を溶解した電解液が挙げられる。
【0043】
あるいは、前記の2種以上の混合リチウム塩を溶解した電解液が挙げられる。
前述の電解液の構成溶媒は一般的に揮発性が高く、電解液の揮発温度は25℃未満であることが多い。これに加え、本発明の実施形態の一つでは、揮発温度を高めたリチウムイオン伝導性の液体を用いることもできる。具体的には、イオン液体、および、溶媒和イオン液体を挙げることができる。
【0044】
イオン液体はカチオンおよびアニオンで構成される。イオン液体としては、カチオン種に応じ、イミダゾリウム系、アンモニウム系、ピロリジニウム系、ピペリジニウム系、ピリジニウム系、モルホリニウム系、ホスホニウム系、スルホニウム系などに分類される。
【0045】
イミダゾリウム系イオン液体を構成するカチオンには、例えば、1-etyl-3-methylimidazoriumや1-butyl-3-methylimidazorium(BMI)などのアルキルイミダゾリウムカチオンなどがある。アンモニウム系イオン液体を構成するカチオンには、例えば、N,N-diethyl-N-methyl-N-(2-methoxyethyl)ammonium(DEME)やtetraamylammoniumなどのほかに、N,N,N-trimethyl-N-propylammoniumなどのアルキルアンモニウムカチオンがある。ピロリジニウム系イオン液体を構成するカチオンには、例えば、N-methyl-N-propylpyrrolidinium(Py13)や1-butyl-1-methylpyrrolidiniumなどのアルキルピロリジニウムカチオンなどがある。ピペリジニウム系イオン液体を構成するカチオンには、例えば、N-methyl-N-propylpiperidinium(PP13)や1-butyl-1-methylpiperidiniumなどのアルキルピペリジニウムカチオンなどがある。ピリジニウム系イオン液体を構成するカチオンには、例えば、1-butylpyridiniumや1-butyl-4-methylpyridiniumなどのアルキルピリジニウムカチオンなどがある。モルホリニウム系イオン液体を構成するカチオンには、例えば、4-ethyl-4-methylmorpholiniumなどのアルキルモルホリニウムなどがある。ホスホニウム系イオン液体を構成するカチオンには、例えば、tetrabutylphosphoniumやtributylmethylphosphoniumなどのアルキルホスホニウムカチオンなどがある。スルホニウム系イオン液体を構成するカチオンには、例えば、trimethylsulfoniumやtributhylsulfoniumなどのアルキルスルホニウムカチオンなどがある。これらカチオンと対になるアニオンとしては、例えば、bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(TFSI)、bis(fluorosulfonyl)imide、tetrafluoroborate(BF4)、hexafluorophosphate(PF6)、bis(pentafluoroethanesulfonyl)imide(BETI)、trifluoromethanesulfonate(トリフラート)、acetate、dimethyl phosphate、dicyanamide、trifluoro(trifluoromethyl)borateなどがある。これらのイオン液体を単独または複数組み合わせて使用してもよい。
【0046】
イオン液体に電解質塩を含めてもよい。電解質塩として、溶媒に均一に分散できるものを使用できる。カチオンがリチウム、上記アニオンからなるものがリチウム塩として使用することができ、例えば、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF4)、リチウムヘキサフルオロフォスファート(LiPF6)、リチウムトリフラートなどが挙げられるが、これに限られない。これらの電解質塩を単独または複数組み合わせて使用してもよい。
【0047】
エーテル系溶媒は、溶媒和電解質塩と溶媒和イオン液体を構成する。エーテル系溶媒として、イオン液体に類似の性質を示す公知のグライム化合物(R-O(CH2CH2O)n-R’(R、R’は飽和炭化水素、nは整数)で表される対称グリコールジエーテルの総称)を利用できる。イオン伝導性の観点から、テトラグライム(テトラエチレンジメチルグリコール、G4)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル、G3)、ペンタグライム(ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、G5)、ヘキサグライム(ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル、G6)を好ましく用いることができる。また、エーテル系溶媒として、クラウンエーテル((-CH2-CH2-O)n(nは整数)で表わされる大環状エーテルの総称)を利用できる。具体的には、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6などを好ましく用いることができるが、これに限らない。これらのエーテル系溶媒を単独または複数組み合わせて使用してもよい。溶媒和電解質塩と錯体構造を形成できる点で、テトラグライム、トリグライムを用いることが好ましい。
【0048】
今回の内容において、テトラグライムが好ましい理由は、リチウムイオンに対し、還元安定性に優れる配位構造をとるためである。
【0049】
溶媒和電解質塩としては、LiFSI、LiTFSI、LiBETI等のリチウム塩を利用できるが、これに限らない。半固体電解質溶媒として、エーテル系溶媒および溶媒和電解質塩の混合物を単独または複数組み合わせて使用してもよい。
【0050】
半固体電解質溶媒の還元電位は前記負極活物質の還元電位よりも0.5V以上、好ましくは0.2V以上低いことが望ましい。
【0051】
半固体電解液における主溶媒の重量比率は特には限定されないが、電池安定性および高速充放電の観点から半固体電解液中の溶媒の総和に占める主溶媒の重量比率は30%~70%、特に40%~60%、さらには45%~55%であることが望ましい。
【0052】
<低粘度有機溶媒>
低粘度有機溶媒は、半固体電解質溶媒の粘度を下げ、イオン伝導率を向上させる。半固体電解質溶媒を含む半固体電解液の内部抵抗は大きいため、低粘度有機溶媒を添加して半固体電解質溶媒のイオン伝導率を上げることにより、半固体電解液の内部抵抗を下げることができる。低粘度有機溶媒は、例えばエーテル系溶媒および溶媒和電解質塩の混合物の25℃における粘度140Pa・sより粘度の小さい溶媒であることが望ましい。低粘度有機溶媒として、炭酸プロピレン(PC)、リン酸トリメチル(TMP)、ガンマブチルラクトン(GBL)、炭酸エチレン(EC)、リン酸トリエチル(TEP)、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFP)、メチルホスホン酸ジメチル(DMMP)等が挙げられる。これらの低粘度有機溶媒を単独または複数組み合わせて使用してもよい。低粘度有機溶媒に上記の電解質塩を溶解させてもよい。
【0053】
今回の内容において、炭酸プロピレンがよい理由は、リチウムグライム錯体塩の粘度を下げて高イオン伝導度化し、還元安定性に優れるリチウムグライム錯体構造を乱さないために、電池の内部抵抗を下げ、高容量な電池を作製することができるからである。
【0054】
また、エーテル系化合物以外に、溶媒和イオン液体を形成する溶媒としてスルホラン及び/又はスルホラン誘導体を挙げることができる。スルホラン及び/又はその誘導体を含む溶媒和イオン液体を用いると、スルホラン及び/又はその誘導体とリチウムイオンとで固有の配位構造をとるため、半固体電解質層中でのリチウムイオンの輸送速度が速くなる。したがって、粘度を高くするにつれて二次電池の入出力特性が低下するエーテル系溶媒及び電解質塩を有する溶媒和イオン液体とは異なり、溶媒和イオン液体の粘度を高くしても、溶媒和イオン液体を有する二次電池の入出力特性の低下を抑制することができる。
【0055】
スルホランの誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子に結合する水素原子がフッ素原子やアルキル基等により置換されたものが挙げられる。具体例として、フルオロスルホラン、ジフルオロスルホラン、メチルスルホラン等の材料群から適宜選択して用いることができる。
【0056】
これら溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、ヨウ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、LiB[OCOCF、LiB[OCOCFCF、LiPF(CF、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF等のリチウム塩を溶解した電解液が挙げられる。あるいは、前記の2種以上の混合リチウム塩を溶解した電解液が挙げられる。
【0057】
図1に示すように、正極(11:図2)、負極(12:図2)、および容量回復極(15:図2)の集電箔には、それぞれの端子としての金属のタブ(2,3,4:図1)が接続されている。タブ部分だけがラミネートフィルムの外部に露出するように外装材6を封止する。この構造により、タブの部分から、リチウムイオン電池のセル100の外部に電気的な接続が可能となる。
【0058】
図3および図4を参照して、二極式セルの構造について説明する。
図3は、二極式セルの断面の一例を、概念的に示す図である。なお、図3は、後記する図4の紙面の左側から見た図である。
【0059】
図3において、セル(電池セル、二次電池)300は、電極占有部分1と、正極端子(タブ)2と、負極端子(タブ)3と、セパレータ5と、外装材6とを備えている。
外装材6は、ラミネートフィルム、もしくは、それに類する素材で構成されている。
【0060】
前記したように、図3は、後記する図4の紙面の左側から見た図であって、電極占有部分1とは、図4における負極12、正極11に対応する部分が重なって見える領域を表記している。
【0061】
二極式セルに用いることのできる正極、負極、電解質材料はすべて三極式セルと同じである。
【0062】
<三極式セルを有する二次電池システム>
図5は、容量回復極を有する電池パック500に接続された充放電制御装置550の構成例を、概念的に示す図である。なお、充放電制御装置550は、電池パック500の状態を把握する計測器を兼ねている。
【0063】
図5において、電池パック500は、正極端子2、および負極端子3に加え、容量回復極端子4を有している。電池パック500は、図1、2で示した三極式セルである電池セルを複数集積し、用途に応じて直列ないし並列接続した電池モジュールを複数搭載しており、さらに必要に応じて電池セルを加熱するための電池加熱部520からなる。電池加熱部520は、通電により電池セル・モジュール510を加温するヒータを有している。電池加熱部520は、電池パック500内に設けられており、電流制御部555によって通電制御される。
【0064】
充放電制御装置550は、電流計551(電流センサ、電流計測手段)と、電圧計552(電圧センサ、電圧計測手段)と、容量回復極用電圧計558(電圧センサ)と、抵抗553と、電源554と、電流制御部555と、充放電切替スイッチ556と、容量回復スイッチ557と、正負極切替スイッチ559と、を備えている。
【0065】
なお、電池パック500は、複数個のセルを含むものであってもよい。また、電池パック500は、複数個のセルを含む電池モジュールを複数個含む構成であってもよい。本明細書において、「二次電池」は、リチウムイオン電池のセル、電池モジュール、または電池パックを含む概念である。
【0066】
図5において、電池パック500の正極端子2、負極端子3、および容量回復極端子4の各端子は、それぞれ充放電制御装置550に接続されている。
【0067】
容量回復スイッチ557は、電池パック500の負極端子3、および容量回復極端子4のいずれかを、充放電切替スイッチ556を介して、抵抗553、および電源554のいずれかと接続するように配置されている。なお、電源554は充電用であり、抵抗553は放電用である。
【0068】
正負極切替スイッチ559は、電池パック500の正極端子2、および負極端子3のいずれかを、抵抗553もしくは電源554のいずれかと接続するように配置されている。
【0069】
電流計551は、電池パック500の正極端子・負極端子間、または正極端子・容量回復極端子間、または負極端子・容量回復極端子間に流れる電流を測定し、結果を電流制御部555に出力する。
【0070】
電圧計552は、正極・負極間の電圧を測定し、結果を電流制御部555に出力する。
電圧計558は、容量回復極の電圧を、正極もしくは負極を基準として測定し、結果を電流制御部555に出力する。
【0071】
電流制御部555は、電圧計552、電圧計558、電流計551の情報を基に、充放電切替スイッチ556、容量回復スイッチ557、正負極切替スイッチ559を適正に切り替え制御する。
【0072】
充放電制御装置550は、電流制御部555によって、充放電切替スイッチ556、容量回復スイッチ557、正負極切替スイッチ559を切り替えながら、計測の工程と充電の工程を実施する。
【0073】
なお、図5では、実線の配線で電圧計558を正極端子・容量回復極端子間に接続していることを示している。また、破線の配線を選択することで、電圧計558は、負極端子・容量回復極端子間の電圧を測定する。あるいは、また負極端子・容量回復極端子間および正極端子・容量回復極端子間の双方に電圧計を設置してもよい。
【0074】
また、後記する本発明の実施形態において用いる充放電制御装置550(計測器を兼ねる)は、図5の構成に限定されるものではなく、電池パック500の正極端子と、負極端子と、容量回復極端子と、から選択される任意の2つの端子を接続できる回路構成であればよい。
【0075】
図5に示す充放電制御装置550は、電池セル・モジュール510内の電池セルの温度を予め設定された閾値以上の回復処理温度まで上昇させる加温制御と、電池セルが回復処理温度まで加温された状態で、回復処理として、電池セルの正極又は負極にリチウムイオンを補充する補充制御を行う。図5において、電池の劣化状態に従い、容量回復極と正極、あるいは容量回復極と負極を接続し、容量回復極側の電位が高まるように電流制御することで、容量回復極からリチウムイオンを放出して拡散させ、そのリチウムイオンが正極または負極に移動して補充され、容量が回復する。例えば、図5では容量回復極端子4と正極端子2が接続されており、この状態で電流を流すと正極側にリチウムイオンが補充される。
【0076】
<二極式セルを有する二次電池システム>
図6は、容量回復極を含まず、過放電により負極上の被膜を分解・除去する機構を有する二次電池システムとして、電池パック500に充放電制御装置550が接続された構成例を、概念的に示す図である。なお、充放電制御装置550は、電池パック500の状態を把握する計測器を兼ねている。容量回復極およびそれに接続するタブがないこと以外、基本的な構成は図5と同様である。
【0077】
図6に示す充放電制御装置550は、電池セルの温度を予め設定された閾値以上の回復処理温度まで上昇させる加温制御と、回復処理として、電池セルを過放電状態にする過放電制御を行う。充放電制御装置550は、正極の正極電位をEp、負極の負極電位をEnとしたときに、Ep-Enが電池動作の下限電圧を下回る過放電状態に制御する。
【0078】
図6において、通常、正極電位は負極電位に対して十分高く設定されている。例えば、正極にLiNiCoMn、負極に黒鉛を用いた二極式電池セルでは、負極電位(En)に対する正極電位(Ep)の値、すなわち、電池電圧(Ep-En)は2.5~4.5Vの範囲となり、寿命や安全性の観点で、例えば2.5~4.2Vの範囲をとることが多い。ここで、電池動作の下限電圧が2.5V以下となり、過放電状態となると、負極電位が相対的に高まり、負極電位が負極表面の被膜を分解する電位まで高まると、被膜が分解され、出力特性が回復される。つまり、被膜分解による電池性能回復が生じる。
【0079】
上述の過放電状態のうち、Ep-En<0以下すなわち正極電位に対して負極電位が高まると上述の分解が進行しやすくなる。特に、-2<Ep-En<0.1とすることで反応が進行しやすくなる。Ep-En<-2となると、正極および負極活物質構造が破壊されやすくなり、かえって寿命が低下する。
【0080】
また、前記電源制御装置において、過放電電流はパルス状に印加することができる、その印加時間は特に限定されないが、0.1~30秒を挙げることができる。0.1秒よりも短いと効果が弱く、30秒より長いと、正極および負極活物質構造が破壊されやすくなり、かえって寿命が低下する。
【0081】
なお、上記した過放電制御は、二極式セルに限定されるものではなく、上述の三極式セルにおいて行うこともできる。つまり、三極式セルを有する二次電池システムにおいては、加温状態で、回復処理として、リチウムイオンの補充制御と、過放電制御の少なくとも一方を実行することができる。
【0082】
<実施形態について>
以上、三極式セルおよび二極式セルと電流制御装置を用いた電池性能の回復方法について説明した。次に、以上の説明を基にして、順に、本発明の実施形態について説明する。
【0083】
≪第一の実施形態:電池セルを加熱した状態での電池性能回復≫
本発明の第1実施形態に係る二次電池システムにおける電池性能の回復方法について、図5ないし図7を参照して説明する。
【0084】
本発明の実施形態のひとつの二次電池システムでは、図5および6に示した通り、電池パック内に隣接した電池加熱部520を有する。電池加熱部520には、PTヒータに代表される、通電による電気エネルギを発熱エネルギに変換するヒータを用いることができる。回復を効率的に進めるために、一時的に電池セルの電池温度を、通常使用状態における温度よりも高めて、前述の通り、電流制御部555からの通電により、電池性能の回復を進める。
【0085】
加熱及び電流制御部による回復のための電流印加パターンを図7に示す。図7(a)は、時間経過に対するリチウムイオン二次電池の温度、図7(b)は、電流制御部から印加される性能回復のための電流値の値を示す。
【0086】
本発明の実施形態のひとつの二次電池システムでは、電池の通常使用中の温度(Tamb)に対し、電池加熱部520のヒータを用いて電池セルを加温し(加温工程)、電池セルの電池温度を高め、予め設定された閾値以上の温度、つまり、回復処理を促進するために適した回復処理温度(T)に到達した加温状態において、電流制御装置から(b)のようにパルス状の電流を印加することで回復処理を進行させる(回復工程)。
【0087】
ここで電池温度を高めることで、回復にかかるリチウムイオン拡散や被膜分解反応が促進され、短時間での回復処理が実現できる。また、電池内部でのリチウムイオン拡散が促進されることで電池の面内方向ないし厚み方向でのリチウムイオンの分布が均一化されるため、回復処理も電池内で均一化し、結果として長寿命となることが期待できる。ただし、常に電池セルの温度を通常使用温度よりも高い状態に保つと、電池内での劣化反応が継続的に進行するおそれがある。したがって、回復処理後は加熱処理をやめ、リチウムイオン電池の温度を通常使用温度(Tamb)まで下げることが望ましい。温度を下げる方法については特に限定されないが、自然放冷の他、冷媒や空気を用いた強制冷却で温度を下げることもできる。
【0088】
図7に示す例では、電池セルの充放電による自己発熱と、ヒータによる外部加熱により、通常使用温度から回復処理温度Tまで加温されると、回復処理として、電流回復電流値IRが時間τだけパルス状に供給される。そして、すぐに通常使用温度Tambまで電池セルの温度が下げられる。
【0089】
最適な通常使用温度Tambについては、特に限定されるものでないが、電池内部の劣化を抑制するという観点で、40℃未満であることが望ましく、さらに、25℃未満であることが望ましい。電池を使用する外気温の影響で通常使用温度Tambが10℃未満となることもあり、電池自体の出力性能を低下させる要因となるが、本実施形態の回復処理には特に影響はない。
【0090】
最適な回復処理温度Tについても特に限定されるものではない。リチウム拡散性や被膜分解反応速度の促進という観点から、40℃以上であることが望ましく、60℃以上であるとさらに加速されるため望ましい。80℃以上となると反応速度が増すものの、電池を構成する部材そのものへの悪影響も懸念される。特に電解質の耐熱性が低い材料であると、回復処理温度Tへ加熱することで電解質が揮発、ないし、電気化学的に分解されやすくなる。そのため、耐熱性の高い電解質材料を用いることで本発明の実施形態の二次電池システムの効果が得られやすい。回復処理温度Tへの加熱時に、電解質が揮発して電池膨れが生じると回復処理が適切に進行しないため、電解質の揮発温度が高いことが望まれる。具体的には回復処理温度Tよりも高い揮発温度Tを示すことが望ましく、より望ましくは100℃を超える揮発温度を有することが望ましい。具体的な材料としては前述のイオン液体、溶媒和イオン液体を用いた電解質を用いることができる。揮発温度については様々な方法で評価が可能であるが、ここでは、ひとつの定義方法として、熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA)において、電解質を加熱しながら重量を評価し、重量減少量が初期の2%となる値として定義することができる。
【0091】
また、リチウムイオン電池セルの温度を回復処理温度T以上に高める手段として、内蔵の加熱部ではなく、リチウムイオン電池セルの充放電に伴う自己発熱を利用してもよい。リチウムイオン電池の正極と負極の間でやり取りされる通常の充電、放電反応では、電池内部の抵抗(Rcell)、充放電電流(Ibat)に従い、Ibatcell で表わされるジュール発熱が発生する。例えば、リチウムイオン電池セルへの急速充電や外部電源への大電流放電時の自己発熱で電池温度が回復処理温度Tを超える際に回復処理を進めることでも同様の効果が得られる。
【0092】
回復機能を有するリチウムイオン電池セルは、前述の三極式セル(図1、2、5)でもよいし、二極式セル(図3、4、6)でもよい。電流制御部555は、加温状態における電池セルの電池温度Tを、電池セルが有する電解質の揮発温度Tよりも低い温度(T<T)に制御する。
【0093】
<その他の補足>
《ポリマー固体電解質との併用》
図1および図2において、リチウムイオン電池(二次電池)の電解液は、液体であり、これを正極と負極の間に配置したセパレータに含侵させる構造として説明した。ただし、本発明の実施形態の二次電池システムでは、セパレータ部を他の固体状材料を用いてもよい。固体電解質は、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド等のイオン伝導性ポリマーがあげられ、これに前記の電解液を含侵させてもよい。また、セパレータおよびイオン伝導性ポリマーの片面および両面に酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化セリウムなどの酸化物粒子を樹脂で結着したものを塗布していても同様の効果を発揮する。
【0094】
《実施例》
以下、本発明の実施形態にかかる実施例を示す。
比較例1ないし2、実施例1から6は、三極式セルを用いた容量回復型の二次電池システムに関するものである。比較例1では、揮発温度が20℃のカーボネート溶媒適用の有機電解質を用いた。具体的にはカーボネート系溶媒に1Mの濃度で LiPFを溶解させたものを用いた。溶媒組成は、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)= 1:2とした。正極にLiNi1/3Co1/3Mn1/3、負極に黒鉛を用いたラミネートセルを作製した。Al集電箔の両面に正極材を塗工し、Cu集電箔の両面に負極材を塗工し、対向する負極/正極容量比が1.3となるようにした。所定の形状に正極と負極を打ち抜いた後、ポリオレフィン素材の多孔質基材をセパレータとして間に介在させて正極、負極を積層した。そして、その積層体の両側から、正極と同じ材料からなる電極層を回復極として配置し、ラミネート型電池を試作した。
【0095】
そのラミネート型電池に対し、外部環境45℃、1CAの条件でサイクル試験を施した。エージング後の容量を0.2CAで測定後(Q)、500サイクルの充放電試験後の0.2CAでの容量(Q)を測定した。劣化を示す指標として、Q/Qを百分率で示したものを容量維持率とした。比較例1では、500サイクル後のQ/Qは80.0%であった。続いて、劣化した20%のうち、想定回復量を10%分の容量とし、10時間かけて回復させるための電流を回復極と正極との間に印加し、回復極から正極へ10%の容量に相当するリチウムイオンを流す操作を施した。再生処理は25℃で実施した。
【0096】
容量回復操作後、再び0.2CAでの容量を測定し、これをQとし、Qとの比(Q/Q)を容量回復の効果指標とした。比較例1ではQ/Q=83.5%となった。すなわち、想定回復量の35%分だけ、実際に回復したことを意味する。想定回復量通りに回復しない理由はいくつか存在するが、そのうちの一つは、電解質内部のイオン抵抗が高く、回復するための過電圧が高く、適切に回復極から正極へリチウムイオンが移動しなかったことに由来する。
【0097】
これに対し、実施例1では電池パックに取り付けたヒータから電池を加熱し、電池セル温度が回復処理温度T(60℃)を超えた際に再生のための電流を印加するものである。Q/Q=80.0%に対し、Q/Q=85.0%となり、比較例1に対して効率的に容量が回復できたことがわかる。これは、電池セル内のリチウムイオンの拡散が促進されるため、容量回復極から正極へのリチウムイオンの移動が円滑に進行したことを意味しており、円滑にリチウムイオンの移動が進行できるため、再生に係る電流量を高めて、再生に要する時間を短縮することが可能となる。
【0098】
実施例2は、ヒータで加熱する替わりに、急速充電時の自己発熱により電池セル温度が60℃を超えた際に、電流制御装置から再生のための電流が印加される機構の二次電池システムである。実施例2では再生処理前に室温まで降温した後、SOCを50%に調整し、5C、ΔSOC=10%で充放電を繰り返し、内部発熱により電池温度が60℃を超えた時点で、再生処理を施した。温度が60℃を下回った場合は、再度5C充放電を繰り返し、内部温度が60℃を超えた際に再生処理を施し、トータルでの積算電流が10時間になるまで繰り返したのちQrを測定した。Q/Q=85.1%となり、比較例1に対して効率的に容量が回復できており、実施例1と同様の効果が得られる。
【0099】
実施例3から5は、電池セルの上昇に対して高い耐久性を示す電解質材料として、LiG4TFSI系電解質、LiTFSI-スルホラン(SL)系電解質、LiTFSI-EMI-TFSI系電解質を示す。ヒータで加熱した際のQ/Qはそれぞれ、85.6%、87.5%、87.2%となり、実施例2に比べてより高い効果が得られる。これら電解質の揮発温度は高く、ヒータによる加熱に対しても電解質自体の劣化が少ないため、高温での再生処理前後での電池劣化は少なく、結果として長寿命な二次電池システムを得ることができる。
【0100】
比較例2では、電解質に有機電解質を用い、回復処理温度を80℃まで高めたものであり、この際のQ/Q=75.1%となった。比較例2では、回復処理温度が高いため、回復処理速度は早まると予想される一方、電解質が有機電解質であり、揮発温度が20℃であるため、有機電解質の揮発、電気化学的な分解が促進される。再生処理後の容量比が減少しているのは、高温処理による材料ダメージによって、再生処理による効果が打ち消されることを意味する。
【0101】
一方、実施例6では比較例2と同様に80℃での再生処理を進めているが、電解質の揮発温度が105℃であり、電解質揮発を抑制できているため、高温処理による材料ダメージが少なく、寿命改善効果が得られる。この際のQ/Qは88.0%となる。
【0102】
【表1】
【0103】
表2に示す比較例3ないし4、実施例7から12は、二極式セルを用いた二次電池システムに関わるものである。回復処理温度や電解質材料が回復効果、システム寿命に与える影響は、比較例1ないし2、実施例1から6に記載のものと同様である。ここでは、用いる電極として、正極及び負極のみからなるラミネートセルを用いた。容量回復極を用いない点を除き、電極構成は、上述の三極式セルと同様とした。
【0104】
作成直後の抵抗値をRとして測定した後、50℃で4週間保存した後の抵抗値Rを測定し、抵抗上昇率としてR/Rを算出した。ここへ、負極と正極の間に過放電電圧を印加した。本セルの充放電下限値は2.5Vであるのに対し、正極と負極の電位差が0 Vとなるように定電位操作を施し、負極表面の被膜除去を試みた。その後、抵抗値Rを測定し、回復処理後の抵抗比としてR/Rを求めた。ここで、R/R<R/Rとなれば、回復処理の効果が出たことを意味する。
【0105】
実施例1では、R/RがR/Rと同じであり、室温での回復処理では効果が表れないことがわかる。これは、室温で過放電状態とした場合に、想定している負極表面の被膜除去反応が適切に進行しないことを意味している。一方、過放電処理時の温度を60℃とした実施例7から11では、R/R<R/Rとなり、高温での処理により負極表面の被膜が除去され、抵抗低減効果が得られることがわかる。
【0106】
有機電解質を用いた電池に対して回復処理温度T80℃での比較例4ではR/R>R/Rとなり、高温での処理により抵抗が却って悪化する傾向にあった。一方、電解質を高耐熱のグライム電解質に置き換えたものでは、高温での処理の効果が表れ、R/R<R/Rとなった。
【0107】
【表2】
【0108】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、前記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。さらに、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0109】
1・・・電極占有部分、11・・・正極、111・・・正極合剤層、112・・・正極集電箔、12・・・負極、121・・・負極合剤層、122・・・負極集電箔、100,300・・・セル(電池セル、二次電池セル、二次電池)、2・・・正極端子(タブ)、3・・・負極端子(タブ)、500・・・電池パック、510・・・電池セル・モジュール、520・・・電池加熱部、550・・・充放電制御装置(電流制御装置)、551・・・電流計、552,558・・・電圧計、553・・・抵抗、554・・・電源(外部電源)、555・・・制御部(電流制御部)、556・・・充放電切替スイッチ(スイッチ)、557・・・容量回復スイッチ(スイッチ)、559・・・正負極切替スイッチ(スイッチ)、4・・・容量回復極端子(タブ)、5・・・セパレータ、6・・・外装材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7