(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】肌状態評価方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A61B5/00 M
(21)【出願番号】P 2020164297
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 崇訓
(72)【発明者】
【氏名】沖山 夏子
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-308634(JP,A)
【文献】国際公開第2008/003146(WO,A2)
【文献】特開2019-058641(JP,A)
【文献】特開2013-212177(JP,A)
【文献】特開2014-217456(JP,A)
【文献】特開2005-000429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のむらが含まれる肌表面が撮影された肌画像を取得する肌画像取得工程と、
前記肌画像
から前記所定のむらが含まれる第一評価領域と、
当該肌画像の一部領域であって、少なくとも前記第一評価領域以外の領域の一部または全部を含み当該第一評価領域と隣接する第二評価領域と、を抽出する抽出工程と、
前記肌画像をグレースケール画像に変換する工程と、
前記グレースケール画像における前記第一評価領域の画素値のばらつきを算出する第一ばらつき算出工程と、
前記グレースケール画像における前記第二評価領域の画素値のばらつきを算出する第二ばらつき算出工程と、
前記第一ばらつき算出工程での算出結果と前記第二ばらつき算出工程での算出結果とを除法を用いて比較するばらつき比較工程と、
前記ばらつき比較工程での算出結果に基づいて前記肌表面の見かけ状態を評価する評価工程と、
を含む肌状態評価方法。
【請求項2】
前記第一ばらつき算出工程は、前記第一評価領域の特定条件の画素値を抽出し、当該抽出した特定条件の画素値のばらつきを算出する工程を含み、
前記第二ばらつき算出工程は、前記第二評価領域の特定条件の画素値を抽出し、当該抽出した前記特定条件の画素値のばらつきを算出する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の肌状態評価方法。
【請求項3】
前記第一ばらつき算出工程および第二ばらつき算出工程は、
前記特定条件として、前記所定のむらに応じた周波数成分からなるむら成分画素値を抽出する工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の肌状態評価方法。
【請求項4】
前記第一評価領域の前記肌画像に対応した前記肌表面に所定の製剤を適用していない第一状態と、前記第一評価領域の前記肌画像に対応した前記肌表面に前記所定の製剤を適用した第二状態と、を設けて前記肌画像取得工程、前記抽出工程、前記第一ばらつき算出工程、前記第二ばらつき算出工程、および、前記ばらつき比較工程を行い、
前記評価工程において、前記第一状態での前記ばらつき比較工程での算出結果と、前記第二状態での前記ばらつき比較工程での算出結果と、に基づいて前記所定の製剤を適用したことによる前記肌表面の見かけ状態の変化を評価することを特徴とする請求項1から3いずれか一項に記載の肌状態評価方法。
【請求項5】
前記第一評価領域の画素値と前記第二評価領域の画素値とを比較する比較算出工程を、備え、
前記評価工程において、前記ばらつき比較工程での算出結果と前記比較算出工程での比較結果とに基づいて前記肌表面の見かけ状態を評価することを特徴とする請求項1から4いずれか一項に記載の肌状態評価方法。
【請求項6】
所定のむらが含まれる肌表面が撮影された肌画像を取得する肌画像取得手段と、
前記肌画像
から前記所定のむらが含まれる第一評価領域と、
当該肌画像の一部領域であって、少なくとも前記第一評価領域以外の領域の一部または全部を含み当該第一評価領域と隣接する第二評価領域と、を抽出する抽出手段と、
前記肌画像をグレースケール画像に変換する手段と、
前記グレースケール画像における前記第一評価領域の画素値のばらつきを算出する第一ばらつき算出手段と、
前記グレースケール画像における前記第二評価領域の画素値のばらつきを算出する第二ばらつき算出手段と、
前記第一ばらつき算出手段での算出結果と前記第二ばらつき算出手段での算出結果とを除法を用いて比較するするばらつき比較手段と、
前記ばらつき比較手段での算出結果に基づいて前記肌表面の見かけ状態を評価する評価手段と、
を含む肌状態評価システム。
【請求項7】
作業者が操作可能な入力手段と、
前記肌画像を表示する表示手段と、
前記表示手段を表示制御する表示制御手段と、をさらに備え、
前記作業者が前記入力手段を用いて、前記表示手段に表示された前記肌画像に対し前記第一評価領域および前記第二評価領域を指定可能とし、
前記抽出手段は、前記作業者が指定した前記第一評価領域および前記第二評価領域を抽出する請求項6に記載の肌状態評価システム。
【請求項8】
前記第一評価領域の画素値と前記第二評価領域の画素値とを比較する比較算出手段を、さらに備え、
前記第一評価領域の前記肌画像に対応した前記肌表面に所定の製剤を適用していない第一状態と、前記第一評価領域の前記肌画像に対応した前記肌表面に前記所定の製剤を適用した第二状態と、に対し、前記肌画像取得手段、前記抽出手段、前記第一ばらつき算出手段、前記第二ばらつき算出手段、前記ばらつき比較手段、および、前記比較算出手段の処理を行い、
前記評価手段は、前記比較算出手段によって算出された算出結果を示す第一軸と、前記ばらつき比較手段によって算出された算出結果を示す第二軸と、を含む座標系に、前記第一状態の前記肌画像に対して前記比較算出手段によって算出された算出結果および前記ばらつき比較手段によって算出された算出結果と、前記第二状態の前記肌画像に対して前記比較算出手段によって算出された算出結果および前記ばらつき比較手段によって算出された算出結果と、をプロットしたグラフデータを生成する機能を備え、
前記表示制御手段は、前記評価手段によって生成されたグラフデータを前記表示手段に表示制御する請求項7に記載の肌状態評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌状態の評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
肌の状態を評価する指標の一つに色差がある。これは、例えば、しみやあざの有無により色差を有する肌に隠蔽力のある液状化粧品やファンデーション等の化粧料を適用し、適用前の肌の色差と、適用後の肌の色差と、を比較し、適用した液状化粧品やファンデーションの隠蔽効果を計るときなどの指標として用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の場合、色差のある肌に対し、その色差をどれだけ補正できたかという観点でのみ評価している。しかしながら、本発明者らの検討によれば、肌の美しい見た目には、肌の色差とは別に、化粧料を適用したしみやあざ等の部位が自然に見えるかという観点も重要であり、特許文献1の発明ではこの観点での評価はできていなかった。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、肌の見た目の美しさをこれまでの視差とは別の観点で評価することを可能とする技術に関する。本明細書において「肌状態の評価」とは、非医療目的で、肌表面の見かけ状態を評価することを意味し、専門家以外の評価者であっても可能な評価を含む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、所定のむらが含まれる肌表面が撮影された肌画像を取得する肌画像取得工程と、前記肌画像に対し、前記所定のむらが含まれる第一評価領域と、少なくとも前記第一評価領域以外の領域を含む第二評価領域と、を抽出する抽出工程と、前記第一評価領域の画素値のばらつきを算出する第一ばらつき算出工程と、前記第二評価領域の画素値のばらつきを算出する第二ばらつき算出工程と、前記第一ばらつき算出工程での算出結果と前記第二ばらつき算出工程での算出結果とを比較するばらつき比較工程と、前記ばらつき比較工程での算出結果に基づいて前記肌表面の見かけ状態を評価する評価工程と、を含む肌状態評価方法に関する。
【0007】
また、本発明は、所定のむらが含まれる肌表面が撮影された肌画像を取得する肌画像取得手段と、前記肌画像に対し、前記所定のむらが含まれる第一評価領域と、少なくとも前記第一評価領域以外の領域を含む第二評価領域と、を抽出する抽出手段と、前記第一評価領域の画素値のばらつきを算出する第一ばらつき算出手段と、前記第二評価領域の画素値のばらつきを算出する第二ばらつき算出手段と、前記第一ばらつき算出手段での算出結果と前記第二ばらつき算出手段での算出結果とを比較するばらつき比較手段と、前記ばらつき比較手段での算出結果に基づいて前記肌表面の見かけ状態を評価する評価手段と、を含む肌状態評価システムに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により提供される技術によれば、肌の見た目の美しさをより適切に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】肌画像を対比説明する図であり、(a)は素肌のテクスチャを強調処理した画像、(b)はある製剤(製剤A)を塗布した肌のテクスチャを強調処理した画像、(c)は他の製剤(製剤B)を塗布した肌のテクスチャを強調処理した画像である。
【
図2】本実施形態の肌状態評価方法(本方法)を示すフローチャートである。
【
図3】ステップS110およびステップS130の解析方法を示すフローチャートである。
【
図4】本実施形態による肌状態評価方法によって作成されたグラフである。
【
図5】本実施形態による肌状態評価方法によって作成されたグラフである。
【
図6】本実施形態における肌状態評価システム100のブロック図である。
【
図7】本実施形態による肌状態評価方法によって作成されたグラフである。
【
図8】本実施形態による肌状態評価方法によって作成されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
はじめに、本実施形態の概要について説明する。
本実施形態の肌状態評価方法(以下、本方法と表記する場合がある)は、肌画像取得工程、抽出工程、第一ばらつき算出工程、第二ばらつき算出工程、ばらつき比較工程および評価工程を含む。肌画像取得工程は、所定のむらが含まれる肌表面が撮影された肌画像を取得する工程である。抽出工程はこの評価対象となる肌画像に対し、上記所定のむらが含まれる第一評価領域と、少なくともこの第一評価領域以外の領域を含む第二評価領域と、を抽出する工程である。第一ばらつき算出工程は、第一評価領域の画素値のばらつきを算出する工程である。第二ばらつき算出工程は、第二評価領域の画素値のばらつきを算出する工程である。ばらつき比較工程は、第一ばらつき算出工程での算出結果と第二ばらつき算出工程での算出結果とを比較する工程である。そして評価工程は、ばらつき比較工程での比較結果に基づいて、評価対象となる肌表面の見かけ状態を評価する工程である。
【0011】
本発明者らは、しみやあざ等のように周囲の肌との間に大きさ色差がある局所領域(色むら領域)が自然に見えるか否かは、色むら領域自体の見た目のみならず、周囲の肌との間に見た目の不連続さを生じさせないことが重要であるとの知見に至った。より具体的には、毛穴や皮溝等の微細な凹凸やメラニン色素等の色素の偏在に起因する微細な色むらによって生じるテクスチャが、色むら領域の内部と色むら領域の周囲の外部とにおいて互いに類似していることが肌の美しい見た目を実現するために重要であるとの知見に至った。すなわち、特許文献1の発明によれば、ファンデーション等の製剤を肌に塗布したことで色むら領域の内部と外部(周囲の肌)とで大局的な色差が小さくなったことの評価はしてはいるが、色むら領域の内部において微細な凹凸と色むら領域の外部における微細な凹凸とが類似しているか否か、言い換えると製剤による微細なテクスチャのカバー効果の程度の評価は行っていない。
ここで、
図1(a)から(c)は被験者の肌表面に表面反射光及び内部反射光を含んだ通常の観察条件に近い画像である。
図1(a)は被験者の頬の一部を撮像した素肌画像、
図1(b)はある製剤(後述する製剤A)を塗布した同部位の肌画像、
図1(c)は他の製剤(後述する製剤B)を塗布した同部位の肌画像である。
図1(a)に示される素肌画像には大きなしみ(色むら領域)が写っている。製剤Aを塗布した
図1(b)の画像と、製剤Bを塗布した
図1(c)の肌画像は、どちらも周囲の肌との間に大局的な色差は無くなっているが、
図1(b)では毛穴の凹凸が黒点として目立っているのに対し、
図1(c)ではこの黒点が製剤Bより良好にカバーされて目立たなくなっている。このように、製剤Aを塗布した場合と製剤Bを塗布した場合とでは、一見、同じようにしみ(色むら)をカバーしているように見えるものの、肌のテクスチャを強調すると、毛穴の凹凸のカバー度合いに差があり、この差が肌の美しい見た目に影響をおよぼしている。さらに、色むら内部の毛穴の凹凸カバー度合いと色むら外部の毛穴の凹凸カバー度合い、すなわち色むら内部と色むら外部との均一性に差があると不自然な印象を与えることになり、結果的に、肌の美しい見た目ではなくなっている。本発明者らによれば、色むら領域の内部と外部の均一性の一致度という新たな指標を評価項目として採用し判断することで、肌の美しい見た目の印象と良好に整合する評価が可能になることが明らかになった。このため本方法においては、第一評価領域(例:色むら領域の内部)の画素値のばらつきと第二評価領域(例:色むら領域に隣接する周囲外部)の画素値のばらつきとを比較するばらつき比較工程により、カバーの均一さの一致度を算出する。そして評価工程では、これらの算出結果に基づいて肌表面の見かけ状態を評価する。
【0012】
以下、本方法について更に詳細に説明する。
【0013】
肌画像取得工程で取得される肌画像は、被験者の肌表面の評価対象部位を含む被験者の体の少なくとも一部が撮影された画像である。肌画像に写り込む評価対象部位は特に限定されない。所定のむらが含まれる肌表面の部位であれば、何れの部位でも評価対象になり得るが、顔画像、特に頬の少なくとも一部が写った顔画像が好ましく例示される。
ここで「所定のむら」とは、老人性色素斑、肝斑、雀卵斑、対称性真皮メラノサイトーシス、炎症後色素沈着といった皮膚の内部で産生されたメラニン色素が皮膚に沈着し生じるものに限らず、毛穴やしわ等の肌表面の凹凸に伴うむらも含まれる。
また、肌画像の取得方法としては、新規で肌を撮影した画像に限らず、既に撮影されていた画像を所定の媒体やネットワークを介して取得するものも含まれる。
さらに、取得される肌画像はRGB画像に限られず、モノクロ(グレースケール)画像、UV画像、近赤外画像、分光スペクトル画像などでもよい。また、画像取得時には、照明と撮影デバイスの一方または双方に偏光をかけてもよい。さらに、肌画像取得工程で取得した画像そのものに限らず、取得した肌画像に対しトリミングを施す、周波数フィルタをかける、グレースケールに変換するなど各種画像処理を行った画像も含まれる。
【0014】
ここで、取得される肌画像を撮影する際の環境について説明する。実際にむらを見る場面は、様々な照明条件(例えば、太陽光のもとで見る、所定の照明光のもとで見るなど)や様々なむらを見る方向(例えば、むらの正面から見る、むらの斜めから見るなど)が考えられる。これに伴い、特定の照明条件(例えば、太陽光のもとで見る)の場合の肌表面の見かけ状態を評価したい場合、特定の方向からむらを見た場合の肌表面の見かけ状態を評価したい場合、複数の条件のもと総合的な肌表面の見かけ状態を評価したい場合など、評価目的も様々な場合が考えられる。そこで、評価目的を考慮し、むらを見る場面に応じた環境で撮影した肌画像を用いる必要がある。なお、総合的な肌表面の見かけ状態を評価したい場合は、様々な撮影環境で撮影した肌画像ごとに本方法での評価を行い、その評価結果を基づき総合的な評価を行えばよい。
【0015】
抽出工程で抽出する第一評価領域は、所定のむらが含まれる領域であればよく、所定のむらのみの領域でもよいし、所定のむらの領域と当該むらのない領域でもよい。
抽出工程で抽出する第二評価領域は、少なくとも第一評価領域以外の領域が含まれればよく、第一評価領域を全く含まないものでも、第一評価領域の一部が第二評価領域として含まれるものでもよい。
また、取得した肌画像を第一評価領域と第二評価領域とに必ずしも分ける必要はなく、第一評価領域、第二評価領域とその他の領域(評価しない領域)のように分けられてもよい。
抽出工程での「抽出」とは、所定のアルゴリズムなどで自動的に各評価領域を抽出するもの、作業者が肌画像を目視し、評価領域をマウスなどの入力装置で指定し抽出するもの何れのものでもよい。
【0016】
第一ばらつき算出工程および第二ばらつき算出工程でばらつきを算出する「画素値」は画像を構成する微小領域ごとの画素強度であり、微小領域はピクセル単位でもよくまたは複数個のピクセルの集合を単位とする領域でもよい。またここでいう画素値は、画素強度と相関する演算値でもよく、例えば輝度値でもよい。画素値として何を用いるかは、評価に用いる肌画像の種類に応じて決定することができる。
また、第一ばらつき算出工程および第二ばらつき算出工程でばらつきを算出する方法としては、本実施形態では標準偏差を算出することとするが、分散を算出することでもよい。ばらつき算出工程で算出されるばらつきは、標準偏差や分散のほか歪度や尖度、これらと相関する他の指標値でもよい。
【0017】
「所定の製剤」とは、コンシーラ、ファンデーション、美白剤、紫外線防止剤など、肌に塗布する製剤が代表的に例示されるが、これに限られず、肌表面の見た目を改善する各種ビタミン剤など内服用のサプリメントでもよい。したがって、所定の製剤を適用するとは、肌表面に製剤を塗布したりサプリメントを服用したりして肌表面の見かけ状態に変化がもたらされることをいう。
【0018】
このように本実施形態によれば、肌表面の見かけ状態を様々な指標により客観的に評価することができる。
【0019】
本実施形態では、所定のむらを含む肌表面と、当該肌表面に所定の製剤を塗布した肌表面との解析結果に基づき、所定の製剤のカバー効果の評価を行う場合について説明する。なお、本実施形態の肌状態評価方法は、所定の製剤のカバー効果の評価に限らず、例えば、素肌そのものの所定のむらの見え方の評価も行える。この点については後述する。
【0020】
<肌状態評価方法>
以下に、本実施形態の肌状態評価方法について
図2から
図4を用いて説明する。
図2は、本実施形態の肌状態評価方法(本方法)を示すフローチャートである。
図3は、ステップS110およびステップS130の解析方法を示すフローチャートである。
図4は、本実施形態による肌状態評価方法によって作成されたグラフである。
【0021】
工程(ステップS100)は、被験者の第一状態の肌画像を取得する工程である。ここで、第一状態とは、所定のむら部分とその周辺部分を含んだ素肌そのものの状態(所定の製剤などを塗布していない状態)を指している。
工程(ステップS100)で取得する肌画像は、所定のむら部分とその周辺部分を含んだ素肌を撮像装置(カメラ)により撮影された画像である。撮像装置は、一般的なRGBカメラであってもよいし、モノクロカメラ又はスペクトルカメラであってもよく、撮像装置の性能や仕様は制限されない。照明数、照明角度、照度、撮影角度などの撮影環境条件についても制限はなく、所定の製剤のカバー効果を評価する際に適した画角であればそれでよい。本実施形態では、RGB画像を取得することとする。
なお、工程(ステップS100)が被験者の第一状態の肌画像に対する本方法の「肌画像取得工程」に相当する。
【0022】
工程(ステップS110)は、工程(ステップS100)で取得した第一状態の肌画像を解析する。解析内容については、
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0023】
工程(ステップS111)は、工程(ステップS100)で取得した第一状態の肌画像から第一評価領域と第二評価領域の抽出を行う。
本実施形態においては、作業者によって指定された第一評価領域は所定のむらが含まれる領域とし、例えば
図1(a)に示されるしみのような肌画像の一部領域である。第二評価領域は第一評価領域に隣接し、かつ第一評価領域を取り囲む周囲部分の領域とし、肌画像を各領域でトリミング加工することにより、評価対象領域の肌画像を抽出することができる。
なお、工程(ステップS111)が本方法の「抽出工程」に相当する。
【0024】
工程(ステップS111)で抽出した肌画像はRGB画像であり、工程(ステップS112)は、当該肌画像をグレースケール画像に変換する。
本実施形態では、撮影した肌画像についてRGB画像からグレースケール画像に変換したがこれに限らず、所定のむらの種類、特性などに応じて、R、G、Bのいずれか、またはこれらの組合せから算出される画像に変換してもよく、L*a*bなどの色変換画像に変換してもよい。
【0025】
工程(ステップS113)は、工程(ステップS112)で変換したグレースケール画像のうち、第一評価領域の肌画像の輝度値を計測し、輝度値の標準偏差を算出する。なお、輝度値の標準偏差については、標準偏差の逆数を算出するものとする。これは、標準偏差が小さい(すなわち、ばらつきが小さい)ほうが第一評価領域の肌画像が均一であることを示しており、後述するようにグラフ表示した際に評価者が把握しやすいように標準偏差の逆数を算出している。
なお、工程(ステップS113)が本方法の「第一ばらつき算出工程」に相当する。
【0026】
工程(ステップS114)は、工程(ステップS112)で変換したグレースケール画像のうち、第二評価領域の肌画像の輝度値を計測し、輝度値の標準偏差を算出する。
なお、工程(ステップS114)が本方法の「第二ばらつき算出工程」に相当する。
【0027】
工程(ステップS115)は、工程(ステップS113)で算出した第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と、工程(ステップS114)で算出した第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差とを比較する。輝度値のばらつきの少ない肌画像、すなわち肌表面がきめ細かく均一性が高い肌画像は、輝度値のばらつきが小さい傾向にある。その結果、均一性が高いほど、ばらつきの指標となる標準偏差の値の逆数は大きい値をとる傾向となる。そして第一評価領域(色むら領域)に比べてその周囲外部の領域である第二評価領域は、よりきめ細かく美しい肌であり輝度値のばらつきは小さい。したがって、第一評価領域(色むら領域)の輝度値の標準偏差の逆数と、第二評価領域(周囲領域)の輝度値の標準偏差の逆数と、の比率が1に近づくと、第一評価領域(色むら領域)と第二評価領域(周囲領域)とはテクスチャが類似することを意味し、これらの領域の境界において見た目の不自然な不連続さが生じにくいこととなる。このため本方法のばらつき比較工程では輝度値の標準偏差の逆数を第一評価領域と第二評価領域とで比較し、これにより第一評価領域(色むら領域)が自然な見た目であるか否かを評価している。本実施形態では、第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と、第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と、の均一性の一致度(類似度)を把握するために、これら2つの値(輝度値の標準偏差の逆数)の比率を算出したがこれに限らず、これら2つの値の差分でもよいし、または逆数ではなく輝度値の標準偏差同士の比率または差分を算出してもよく、これら2つの値の一致度(類似度)を把握できれば方法は問わない。
なお、工程(ステップS115)が本方法の「ばらつき比較工程」の一部に相当する。
【0028】
図2に戻り、工程(ステップS120)は、被験者の第二状態の肌画像を取得する工程である。ここで、第二状態とは、所定のむら部分とその周辺部分に所定の製剤を塗布した状態を指している。
工程(ステップS120)で取得する肌画像は、工程(ステップS100)取得した肌画像とほぼ同じ範囲の肌画像とする。したがって、所定のむら部分とその周辺部分に所定の製剤を塗布した肌を撮像装置(カメラ)により撮影された画像である。本実施形態では、所定のむら部分とその周辺部分に塗布した所定の製剤のカバー効果を評価するため、第一状態の肌画像を取得したときと同じ撮影環境条件で撮影された画像が好ましい。本実施形態では、RGB画像を取得することとする。
なお、工程(ステップS120)が被験者の第二状態の肌画像に対する本方法の「肌画像取得工程」に相当する。
【0029】
工程(ステップS130)は、工程(ステップS120)で取得した第二状態の肌画像を解析する。解析内容については、
図3のフローチャートを用いて説明する。なお、第二状態の肌画像の解析内容は、第一状態の肌画像の解析内容と同じであるため、第二状態の肌画像の解析に特有の部分だけ説明することとする。
【0030】
工程(ステップS111)は、工程(ステップS120)で取得した第二状態の肌画像から第一評価領域と第二評価領域の抽出を行う。
本実施形態においては、第一状態のときと同じ領域を第一評価領域と第二評価領域として抽出する。
なお、第二状態の肌画像の解析内容(工程(ステップS112)から工程(ステップS115))は、第一状態の肌画像の解析内容と同じであるため、説明を省略する。
【0031】
図2に戻り、工程(ステップS140)は、工程(ステップS110)で算出した、第一状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を比較することで算出された第一評価領域と第二評価領域の均一性の一致度(類似度)と、工程(ステップS130)で算出した、第二状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を比較することで算出された第一評価領域と第二評価領域の均一性の一致度(類似度)と、をグラフ表示する。
ここで、肌表面の状態(第一状態(素肌)と第二状態(所定の製剤を塗布した状態))をx軸に、第一状態での第一評価領域と第二評価領域の均一性の一致度(類似度)と第二状態での第一評価領域と第二評価領域の均一性の一致度(類似度)をy軸としてグラフ表示する。
そして、グラフから把握できるカバーのきれいさの評価結果を提示する。
なお、工程(ステップS140)が本方法の「評価工程」に相当する。
【0032】
図4は、本実施形態による肌状態評価方法によって作成されたグラフである。
図4は、第一状態として素肌、第二状態として製剤Aを塗布した場合と、製剤Bを塗布した場合の3種類のパターンを評価することで、製剤Aおよび製剤Bの個々のカバーのきれいさの評価に加え、相対的な評価を行っている。なお、塗布する製剤の種類を増やし、評価パターンを増やすことで、さらなる相対的な評価を行うことが可能となる。
図4のx軸は、肌表面の状態である。「素肌」は第一評価領域と第二評価領域に何も塗布していない状態である。「製剤A」は第一評価領域と第二評価領域に製剤Aを塗布した状態である。「製剤B」は第一評価領域と第二評価領域に製剤Aとは異なる製剤Bを何も塗布した状態である。
また、
図4のy軸の値は、上述した第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を比較することで算出された値であり、この値が1に近いほど、第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性とが一致(類似)していることを示している。すなわち、自然にカバーされていることを示している。
図4から明らかなように、製剤Aを塗布したときよりも製剤Bを塗布したときのほうが、第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性とが一致しており、所定のむらのカバーを自然に行えていることがわかる。
このように、本実施形態による肌状態評価方法を用いて評価することにより、むらのある部分の均一性とその周辺部分の均一性との一致度合い(類似度合い)を評価指標とすることにより、自然なカバーを行えているか評価できるようになる。また、本実施形態による肌状態評価方法を用いた評価結果により、当該むらに対して適した製剤はどれかを選択する指標として用いることもできる。
また、むらのある部分の均一性とその周辺部分の均一性との一致度合い(類似度合い)を評価指標とすることは、例えば、肌の質感を補正することを目的とした低隠蔽性(低カバー)のメイクアップ化粧剤のような製剤の効果を計るうえで重要な指標となる。特に、毛穴やしわのような凹凸に由来したむら部分は、その周辺部分との色差は少ないが、均一性が一致しないことによりきれいでなく見えてしまうため、製剤を塗布したことよりむらのある部分とその周辺部分との均一性が改善されたかは、自然なカバー効果を評価する上で重要な指標として期待できる。
【0033】
上述した本実施形態では、所定のむらを含む肌表面と、当該肌表面に所定の製剤を塗布した肌表面との解析結果に基づき、所定の製剤のカバー効果の評価を行う場合について説明した。以下に、素肌そのものの所定のむらの見え方の評価を行う場合について説明する。
【0034】
素肌そのものの所定のむらの見え方の評価を行う場合は、第一状態および第二状態がないため(一つの状態しかないため)、
図2に示す肌状態評価方法を示すフローチャートの工程(ステップS100)、工程(ステップS110)、および、工程(ステップ140)を行うこととなる。
また、工程(ステップS140)で提示されるグラフは、
図4に示したグラフの素肌の棒のみとなる。
そして、評価者は評価を行った所定のむらがどのくらいきれいでないか、どのくらいむら外部と一致していないかを評価することが可能となる。
ここで、被験者が1人の場合はグラフ表示することによる効果はあまりないが、例えば、被験者が複数人の場合には、グラフ表示することで相対的な評価に用いることができる。
また、例えば、第一状態は第一被験者に対し特定のむら(例えば、肝斑)を含む第一評価領域の評価と第二評価領域の評価、第二状態は第二被験者に対し第一被験者と同一の特定のむらを含む第一評価領域と第二評価領域の評価とすることで、異なる被験者が有する同一タイプのむらに対し、きれいではないか、いずれのむらのほうがきれいではないかを評価することが可能となる。
また、同一被験者に対し、第一状態は第一のむらを含む第一評価領域と、第二評価領域の評価、第二状態は第一のむらとは異なる第二のむらを含む第一評価領域の評価と、第二評価領域の評価とすることで、同一被験者が有する異なるむらに対し、きれいではないか、いずれのむらのほうがきれいではないかを評価することが可能となる。
【0035】
このように、本実施形態による肌状態評価方法は素肌そのもののむらの見え方の評価にも用いることができるため、例えば、どのようなむらを特にカバーすべきかといったメイクの際のアドバイスや製剤を選択する際のアドバイスに活用することができる。
【0036】
上述した本実施形態では、第一ばらつき算出工程および第二ばらつき算出工程で各評価領域のばらつきを算出する際に、当該評価領域の画素値を用いたが、第一ばらつき算出工程および第二ばらつき算出工程で「特定条件の画素値」を抽出し、抽出したむら成分画素値のばらつきを算出するようにしてもよい。
ここで、第一ばらつき算出工程および第二ばらつき算出工程で抽出する「特定条件の画素値」とは、所定のむらを抽出可能な解像度フィルタを用いて抽出した画素値であり、所定のむらに応じた解像度フィルタで抽出する。
このように、所定のむらに応じた周波数成分からなる画素値を抽出し、ばらつきを算出することで、所定のむら要素の均一性とその周辺部分の均一性との一致度を評価することができるため、第一評価領域および第二評価領域全体としてのきれいさを評価することができる。
なお、所定のむらに応じた周波数成分からなるむら成分画素値は、特定の閾値で分け、高周波と低周波のように2段階に分け周波数特性で抽出してもよいし、数段階に分ける多重解像度解析を適用し、その中から所定のむらに合う周波数帯の画像を抽出するようにしてもよい。
【0037】
ここで、第一ばらつき算出工程および第二ばらつき算出工程で抽出する「特定条件の画素値」についてさらに説明する。
第一ばらつき算出工程および第二ばらつき算出工程で抽出する周波数範囲をどのような値にするかは、以下の点を考慮して決定するものとする。
所定の低周波より低い周波数の場合、所定のむらの大局的な色変化は、人が見ても見過ごしてしまい、また、所定の高周波の場合、細かすぎて所定のむらを人が見ても目視できないという特性がある。そして、人が肌をどのような位置(距離)から見るか、どのような角度から肌をみるか、どのような照明のもとで肌を見るかなどによって適切な周波数範囲が異なってしまう。そこで、本実施形態では、評価目的を考慮して決定された撮影環境下で撮影された肌画像に含まれる解析対象のむらの大きさにあった周波数フィルタを用いることとする。
ここで、一般的に顔に正対して対話しながら肌を目視する場合、すなわち、肌に対し1~2メートル離れて肌を目視する場合、0.1ミリメートル以上の大きさの色むらを抽出できる周波数フィルタを撮影環境に基づき決定することとする。色むら自体のサイズを0.1ミリメートル以上としたのは、肌に対し1~2メートル離れて肌を目視した場合、0.1ミリメートルより小さいむらを認識することは難しいためである。また、取得した肌画像に含まれるむらの種類によって抽出する色むら自体のサイズの上限を特定してもよい。このようにすることで、評価すべきむらの周波数成分に対してのみ評価を行うことができる。ただし、むらはその要因(老人性色素斑なのか、しわなのかなど)によってむら自体のサイズが異なるため、上限を特定せず評価することが好ましい。
一方、肌のそばで目視にて肌をよく見た場合、20ミクロン~1センチメートルの大きさの色むらを抽出できる周波数フィルタを撮影環境に基づき決定することとする。色むら自体のサイズを20ミクロン以上としたのは、20ミクロンより小さい色むらを認識することは難しいためである。また、色むら自体のサイズを1センチメートル以下としたのは、大きいむらの場合、むらの中の色(明るさ)も不均一であり、このむらの中の色が不均一な大きさが1センチメートル程度であるからである。
【0038】
図5に、第一ばらつき算出工程および第二ばらつき算出工程で所定のむらを含む第一評価領域のばらつきを算出する際に、所定のむらに応じた周波数成分からなるむら成分画素値を抽出し、作成したグラフを示す。
図5のx軸は、
図4と同様に、肌表面の状態である。「素肌」は第一評価領域と第二評価領域に何も塗布していない状態である。「製剤A」は第一評価領域と第二評価領域に製剤Aを塗布した状態である。「製剤B」は第一評価領域と第二評価領域に製剤Aとは異なる製剤Bを何も塗布した状態である。
また、
図5のy軸の値は、上述した第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を算出する際に、所定のむらに応じた周波数成分からなるむら成分画素を抽出後、その抽出画像の輝度値の標準偏差を求め1/標準偏差として算出した値を比較することで算出された値であり、この値が1に近いほど、第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性とが一致(類似)していることを示している。すなわち、自然にカバーされていることを示している。
図5から明らかなように、製剤Aを塗布したときよりも製剤Bを塗布したときのほうが、第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性とが一致(類似)しており、所定のむらのカバーを自然に行えていることがわかる。さらに、
図4に比べ、抽出した画素値に対して均一したカバーを製剤Aも製剤Bも行えていることがわかる。
【0039】
ここで、本方法の各工程は、人がコンピュータを操作することにより実行されてもよい。例えば、工程(ステップS100)および工程(ステップS120)では、人がカメラを操作することで被験者の肌画像を撮像し、人がコンピュータを操作してその肌画像をコンピュータに取り込んでもよい。工程(ステップS110)、工程(ステップS130)および工程(ステップS140)は、人が市販のソフトウェアを操作して実行可能である。
また、本方法の各工程は、コンピュータ(例えば、後述の肌状態評価システム100)によって自動で実行されてもよい。
【0040】
<肌状態評価システム100>
以下、本方法を実現する肌状態評価システム100について説明する。
図6は、本実施形態における肌状態評価システム100のブロック図である。
本実施形態における肌状態評価システム100は、各種の処理を実行可能な情報処理端末である。なお、図示してはいないが、肌状態評価システム100は、キーボード、ポインティングデバイスなどの入力装置、演算処理装置、記憶部等を備えている。
肌状態評価システム100は、肌画像取得手段110、抽出手段120、第一ばらつき算出手段130、第二ばらつき算出手段140、ばらつき比較手段150、および、評価手段160を備えている。また、本実施形態では、肌状態評価システム100と制御信号の授受を行う手段として、入力手段170、表示制御手段180、および、表示手段190が肌状態評価システム100とは別に設けている。なお、入力手段170、表示制御手段180、および、表示手段190を肌状態評価システムに備えるようにしてもよい。
【0041】
肌画像取得手段110は、肌表面が撮影された肌画像を取得する。具体的には、肌画像取得手段110は、撮像装置(カメラ)により撮像された被験者の肌画像の画像データを、その撮像装置、可搬型記録媒体、又は他のコンピュータから通信により取り込む。また、肌画像取得手段110が肌状態評価システム100に内蔵されたカメラであってもよい。
【0042】
抽出手段120は、肌画像取得手段110で取得した肌画像データから第一評価領域と第二評価領域の抽出を行う。ここで、抽出手段120で行われる抽出は、所定のアルゴリズムなどで自動的に各評価領域を抽出するもの、作業者が肌画像を目視し、評価領域をマウスなどの入力装置で指定し抽出するもの何れのでもよい。
抽出手段120では、所定のむらが含まれる第一評価領域と、第一評価領域の周辺部分の第二評価領域とでトリミング加工することにより、評価対象領域の肌画像を抽出する。また、本実施形態において、抽出した肌画像はRGB画像であるため、抽出手段120でグレースケール画像に変換する。
【0043】
第一ばらつき算出手段130は、第一評価領域の輝度値の標準偏差の逆数を算出する。
第二ばらつき算出手段140は、第二評価領域の輝度値の標準偏差の逆数を算出する。
ばらつき比較手段150は、第一ばらつき算出手段130で算出した第一評価領域の輝度値の1/標準偏差と第二ばらつき算出手段140で算出した第二評価領域の輝度値の1/標準偏差とからカバーの均一性の一致度(類似度)を算出する。
【0044】
評価手段160は、ばらつき比較算出手段150で算出したカバーの均一性の一致度(類似度)をグラフ表示する。
ここで、肌表面の状態をx軸にする。「素肌」は第一評価領域と第二評価領域に何も塗布していない状態である。「製剤A」は第一評価領域と第二評価領域に製剤Aを塗布した状態である。「製剤B」は第一評価領域と第二評価領域に製剤Aとは異なる製剤Bを何も塗布した状態である。
また、上述した第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を比較することで算出されたカバーの均一さの一致度をy軸にする。この値が1に近いほど、第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性とが一致(類似)していることを示している。すなわち、自然にカバーされていることを示している。
このように、本実施形態による肌状態評価方法の評価結果をグラフ表示することで、作業者に評価結果をわかりやすく提示することが可能となる。
【0045】
入力手段170は、キーボード、ポインティングデバイスなど入力装置である。本実施形態では、抽出手段120が肌画像取得手段110で取得した肌画像データから第一評価領域と第二評価領域の抽出を行う際に、作業者が肌画像を目視し、評価領域を指定する際に用いる手段である。このように、作業者が評価領域を指定できる手段を設けることで、例えば、店頭などの美容スタッフが被験者(お客さん)の肌画像を撮影し、撮影したデータからお客さんが要望するむらを指定し、肌表面の見かけ状態の評価を容易に行うことができる。
【0046】
表示制御手段180は、評価手段160で提示したグラフを含む評価内容を表示手段180に表示するための制御手段である。
【0047】
表示手段190は、評価手段160で提示したグラフを含む評価内容を表示制御手段180の制御に基づき表示する装置である。
表示する装置としては、モニタのような表示装置のほか、プリンターなどの印字装置でもよい。
【0048】
本実施形態の肌状態評価システムで評価した結果は、上述した
図4と同様である。
【0049】
<その他の肌状態評価方法>
上述した肌状態評価方法は、肌状態の見かけ状態を評価する指標として、第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を比較することで算出されたカバーの均一さの均一性の一致度(類似度)を用いている。
しかし、製剤によっては、むらを自然にカバーすることに加え、きれいにカバーすることを求められているものもある。
そこで、むら部分とその周辺部分との均一性に加え、色差がどのような値であるかという量的要素を指標に加えた肌状態評価方法について説明する。
【0050】
ここでは、むら部分とその周辺部分との大局的な色差を算出した値を指標とし、むら部分とその周辺部分との均一さの一致度を示す指標と合わせて肌表面の見かけ状態を評価するものとする。
そこで、
図2に示す工程(ステップS110)で、第一状態の第一評価領域の輝度値の標準偏差の逆数および第二評価領域の輝度値の標準偏差の逆数を算出することに加え、第一状態の第一評価領域の輝度値の平均値および第二評価領域の輝度値の平均値を算出する。そして、算出した第一評価領域の輝度値の平均値と第二評価領域の輝度値の平均値とのコントラストを算出する。
同様に、
図2に示す工程(ステップS130)で、第二状態の第一評価領域の輝度値の標準偏差の逆数および第二評価領域の輝度値の標準偏差の逆数を算出することに加え、第二状態の第一評価領域の輝度値の平均値および第二評価領域の輝度値の平均値を算出する。そして、算出した第一評価領域の輝度値の平均値と第二評価領域の輝度値の平均値とのコントラストを算出する。
本実施形態では、第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と、第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値と、の状態差を把握するために、これら2つの値のコントラストを算出したがこれに限らず、これら2つの値の差分でもよいし、これら2つの値の状態差を把握できれば方法は問わない。
なお、第一評価領域の輝度値の平均値と第二評価領域の輝度値の平均値とのコントラストを算出することが本方法の「比較算出工程」に相当する。
【0051】
次に、
図2に示す工程(ステップS140)は、工程(ステップS110)で算出した、第一状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を比較することで算出された第一評価領域と第二評価領域の均一性の一致度(類似度)と、第一状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラストと、工程(ステップS130)で算出した、第二状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を比較することで算出された第一評価領域と第二評価領域の均一性の一致度(類似度)と、第二状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラストと、をグラフ表示する。
ここで、第一状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラストを「x_0」、第一状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第一状態での第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差の比較結果を「y_0」、第二状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラストを「x_1」、第二状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二状態での第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差の比較結果を「y_1」とする。
また、第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラストの値をx軸に、第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差との比較値をy軸として、第一状態の(x_0、y_0)と第二状態の(x_1、y_1)をグラフ表示する。
【0052】
図7は、本実施形態による肌状態評価方法によって作成されたグラフである。
図7は、第一状態として素肌、第二状態として製剤Aを塗布した場合と、第一状態として素肌、第二状態として製剤Bを塗布した場合の2種類のパターンを評価することで、製剤Aおよび製剤Bの個々のカバー効果の評価に加え、相対的な評価を行っている。なお、塗布する製剤の種類を増やし、評価パターンを増やすことで、さらなる相対的な評価を行うことが可能となる。
図7のx軸の値は、上述した第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラスト(むら内部の輝度値/むら外部周辺の輝度値)である。ここで、第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値との差異が小さいほど、言い換えると、コントラストが1に近いほど、第一評価領域の肌画像と第二評価領域の肌画像とに大局的な色差がないため、所定のむらをきれいにカバーしているといえる。したがって、X軸の値が大きいほどカバー力が高いことを示している。
また、
図7のy軸の値は、上述した第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差とを比較することで算出された均一性の一致度(類似度)である。そしてこの値が1に近いほど、第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性が一致していること(類似していること)を示している。
そして、第一評価領域と第二評価領域との大局的な色差がなく、かつ、第一評価領域と第二評価領域と均一性が一致していることが、きれいかつ自然なカバーであるといえる。
図7から明らかなように、製剤Aを塗布したときは、所定のむらをカバーするカバー力は高いものの、所定のむらを含む第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性があまり一致していないため不自然なカバーとなっていることがわかる。また、製剤Bを塗布したときは、所定のむらをカバーするカバー力が高いことに加え、所定のむらを含む第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性が1に近い値で一致しているため、自然なカバーも行えていることがわかる。
このように、本実施形態による肌状態評価方法を用いて評価することにより、従来のように、むらのある部分とその周辺部分との色差に加え、むらのある部分とその周辺部分との均一性の一致度合いも評価指標に用いることができ、その結果、むらに対してきれい、かつ、自然なカバーを行えているかも評価できるようになる。また、本実施形態による肌状態評価方法を用いた評価結果により、当該むらに対して適した製剤はどれかを選択する指標として用いることもできる。さらに、製剤を選択する際には、むらに対してきれいなカバーを重視するか、自然なカバーを重視するか、きれいかつ自然なカバーを重視するかは、被験者(お客さん)によって異なる可能性もある。その場合、本方法を用いれば、x軸の値とy軸の値から被験者が重視しているカバー効果の高い製剤を提案することもできる。
【0053】
図8は、第一ばらつき算出工程および第二ばらつき算出工程で所定のむらを含む第一評価領域のばらつきを算出する際に、所定のむらに応じた周波数成分からなるむら成分画素値を抽出し、作成したグラフである。なお、所定のむらに応じた周波数成分からなるむら成分画素値の抽出方法は上述の通りである。
図8のx軸の値は、
図7と同様に、上述した第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラスト(むら内部の輝度値/むら外部周辺の輝度値)である。ここで、第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値との差異が小さいほど、言い換えると、コントラストが1に近いほど、第一評価領域の肌画像と第二評価領域の肌画像とに大局的な色差がないため、所定のむらをきれいにカバーしているといえる。したがって、X軸の値が大きいほどカバー力が高いことを示している。
また、
図8のy軸の値は、上述した第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を算出する際に、所定のむらに応じた周波数成分からなるむら成分画素を抽出後、その抽出画像からなる画像の輝度値の標準偏差を求め1/標準偏差として算出した値を比較することで算出された値であり、この値が1に近いほど、第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性とが一致(類似)していることを示している。
図8から明らかなように、製剤Aを塗布したときは、所定のむらをカバーするカバー力は高いものの、所定のむらを含む第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性があまり一致していないため不自然なカバーとなっていることがわかる。また、製剤Bを塗布したときは、所定のむらをカバーするカバー力が高いことに加え、所定のむらを含む第一評価領域の均一性と第二評価領域の均一性が1に近い値で一致しているため、自然なカバーも行えていることがわかる。さらに、
図7に比べ、わずかではあるが、抽出した画素値に対して自然なカバーを製剤Aも製剤Bも行えていることがわかる。
【0054】
本発明の実施は、上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形、改良等が可能である。
【0055】
上述の実施形態では、第一評価領域の全体は肌画像に写り込んでいるものとして説明した。しかし、第一評価領域の全体が肌画像に写り込んでおらず、例えば、第一評価領域は肌画像に対し左半分の領域、第二評価領域は肌画像に対し右半分の領域のような場合でも、同様の方法で肌表面の見かけ状態を評価することは可能である。このように、取得した肌画像に対し第一評価領域の全体が必ずしも写り込んでいる必要がないため、例えば、髪の毛の生え際そばにあるむらに対する評価を行うことも可能であり、むらの位置に制限されることなく肌表面の見かけ状態を評価することが可能となる。
【0056】
上述の実施形態では、「所定のむら」は、「ひとかたまりのしみ」を例として、「ひとかたまりのしみ」を第一評価領域として説明した。しかし、「所定のむら」がそばかすのような小さな色むらの集合体の場合は、その集合体を第一評価領域として肌表面の見かけ状態を評価すればよい。このようにすることで、色むらの大きさや色むらの特徴(小さな色むらが集まって1つのむらとして認識されるような色むら)に制限されることなく肌表面の見かけ状態を評価することが可能となる。
【0057】
上述の実施形態において、工程(ステップS110)内の工程(ステップS111)で指定される第一状態の肌画像における第一評価領域と、工程(ステップS130)内の工程(ステップS111)で指定される第二状態の肌画像における第一評価領域との位置がずれると、正確な評価結果を得られない可能性がある。そこで、第一状態の肌画像における第一評価領域と第二状態の肌画像における第一評価領域の位置がずれないように、髪の毛や目など顔要素を用いて2枚の肌画像の位置合わせおよびサイズ合わせを行い、第一状態の肌画像に対して第一評価領域を指定した位置を自動的に第二状態の肌画像に対して第一評価領域を指定できるようにすることが好ましい。なお、2枚の肌画像の位置合わせを行うのに、目、鼻、口、髪、ほうれい線、など目立つ顔要素が2枚の肌画像に写り込んでいることが望ましい。
【0058】
上述の実施形態では、肌画像に対し、第一評価領域と第二評価領域とが、互いに排他的な領域である場合で説明した。しかし、肌画像全体が第二評価領域であり、第一評価領域は第二評価領域に包含される場合でもよい。また、肌画像には、第一評価領域と第二評価領域との何れにも属さない領域(評価対象とならない領域)を含んでもよい。このように、第一評価領域に所定のむらを含む条件を満たせば、肌画像に対し、第一評価領域と第二評価領域とをどのように抽出してもよいので、肌画像を撮影する際の制限を少なくすることが可能であり、また、所定のむらがある位置の制限も少なくできる。したがって、様々な位置の所定のむらに対する肌表面の見かけ状態を評価することが可能となる。
【0059】
本発明の肌状態評価方法としては、上述したように評価結果をグラフ表示したり、また、算出した値をそのまま表示したりすることに限らない。例えば、複数種類の製剤を肌に塗布し、肌表面の見かけ状態を評価した場合、グラフ表示や算出した値は出力せず、一番優れたカバー効果を発揮する製剤の種類を推奨提示するようにしてもよい。このようにすることで、算出した値や表示されたグラフの意味を理解しにくい一般ユーザでも評価結果を有効に活用することができる。なお、グラフ表示と製剤の種類の推奨提示の両方を行ってもよく、どのような情報を表示するかを選択できるようにしてもよい。
【0060】
上述した肌状態評価システムは、第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を比較することで算出されたカバーの均一さの均一性の一致度(類似度)を用いた場合について説明した。これに加え、第一状態の第一評価領域の輝度値の平均値および第二評価領域の輝度値の平均値を算出し、算出した第一評価領域の輝度値の平均値と第二評価領域の輝度値の平均値とのコントラストを算出し、むら部分とその周辺部分の大局的な色差を指標に加えてもよい。このようにすることで、むらのある部分とその周辺部分との色差に加え、むらのある部分とその周辺部分との均一性の一致度合いも評価指標とすることにより、むらに対してきれい、かつ、自然なカバーを行えているかも評価できるようになる。
この場合、
図6に示した肌状態評価システムの構成に、「比較算出手段」を加えればよい。比較算出手段は、第一状態の第一評価領域の輝度値の平均値および第二評価領域の輝度値の平均値を算出し、算出した第一評価領域の輝度値の平均値と第二評価領域の輝度値の平均値とのコントラストを算出するようにすればよい。そして、評価手段160では、算出した第一評価領域の輝度値の平均値と第二評価領域の輝度値の平均値とのコントラストも評価指標に加えて評価すればよい。さらに、評価手段160では、第一状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を比較することで算出された第一評価領域と第二評価領域の均一性の一致度(類似度)と、第一状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラストと、第二状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差を比較することで算出された第一評価領域と第二評価領域の均一性の一致度(類似度)と、第二状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラストと、をグラフ表示する。具体的には、第一状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラストを「x_0」、第一状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第一状態での第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差の比較結果を「y_0」、第二状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラストを「x_1」、第二状態での第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二状態での第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差の比較結果を「y_1」とする。
また、第一評価領域の肌画像の輝度値の平均値と第二評価領域の肌画像の輝度値の平均値とのコントラストの値をx軸に、第一評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差と第二評価領域の肌画像の輝度値の1/標準偏差との比較値をy軸として、第一状態の(x_0、y_0)と第二状態の(x_1、y_1)をグラフ表示する。
このようにして評価した結果は、
図7のグラフと同様のグラフとして提示できる。
【符号の説明】
【0061】
100 肌状態評価システム
110 肌画像取得手段
120 抽出手段
130 第一ばらつき算出手段
140 第二ばらつき算出手段
150 ばらつき比較手段
160 評価手段
170 入力手段
180 表示制御手段
190 表示手段