(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】カルノシン酸含有固体組成物及びカルノシン酸の溶出促進方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/192 20060101AFI20241003BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241003BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241003BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241003BHJP
A61K 36/53 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K47/18
A61K9/20
A61K9/48
A61K36/53
(21)【出願番号】P 2020208856
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】足立 知基
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第96/034534(WO,A1)
【文献】特開2013-032316(JP,A)
【文献】特表2010-510270(JP,A)
【文献】特表2008-504307(JP,A)
【文献】特表2020-524130(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0050807(US,A1)
【文献】Joint Supplement,Mintel GNPD [online],2000年04月,ID#10066213,[令和6年4月19日検索]、インターネット<https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/10066213>
【文献】Magnesium Supplement,Mintel GNPD [online],2016年03月,ID#3894041,[令和6年4月19日検索]、インターネット<https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/3894041>
【文献】医食同源ドットコム 232夜間Diet酵素 120粒,ヤマダウェブコム[online],[令和6年4月19日検索]、インターネット<https://www.yamada-denkiweb.com/9577717014/>
【文献】POCHI KDヘルス,ポチ[online],[令和6年4月19日検索]、インターネット<https://www.pochi.co.jp/item/53140.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルノシン酸を含有する固体組成物に、アルギニンを添加することを特徴とする、カルノシン酸の溶出促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルノシン酸の溶出性が改善されたカルノシン酸含有固体組成物及びカルノシン酸の溶出促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シソ科ハーブであるローズマリーは肉料理の香辛料として使用され、また、アロマセラピーの材料としても使用されるなど、ハーブの中でも知名度が高い。さらには、健康にも効果があると言われ諸外国でもよく知られている。
カルノシン酸はローズマリーの主要な有効成分の一つであり、抗酸化作用、記憶力を改善する作用、炎症抑制作用、脳虚血による障害抑制作用等の報告がなされている。そのため、カルノシン酸を含むサプリメント等、経口用のカルノシン酸含有組成物が数多く開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、カルノシン酸を含む抽出物の経口投与による認知の健康・機能を高めたり維持するための方法が開示されている。
また、特許文献2では、カルノシン酸を有効成分として含有する血管新生抑制剤について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-524484号公報
【文献】特開2010-90036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなカルノシン酸の作用効果を効率良く迅速に発揮させるためには、体内における素早い吸収性が求められる。しかし、カルノシン酸を含有する固体組成物は、胃液中でのカルノシン酸の溶出性が低いという問題があり、この溶出性の低さがカルノシン酸の素早い吸収を妨げる要因となっている。
【0006】
そこで、本発明は、胃液中でのカルノシン酸の溶出性に着目し、それを高めることでカルノシン酸を効率良く迅速に体内に吸収させることを目的とする。すなわち、本発明の課題は、カルノシン酸の溶出性が改善されたカルノシン酸含有固体組成物及びカルノシン酸の溶出促進方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、カルノシン酸にアルギニンを添加することにより、胃液中でのカルノシン酸の溶出性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のカルノシン酸含有固体組成物及びカルノシン酸の溶出促進方法を提供するものである。
[1]カルノシン酸と、アルギニンと、を含有することを特徴とする、経口用のカルノシン酸含有固体組成物。
[2]カルノシン酸とアルギニンの質量比が5:1~1:5であることを特徴とする、[1]に記載のカルノシン酸含有固体組成物。
[3]剤形が、錠剤又はカプセル剤であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のカルノシン酸含有固体組成物。
[4]カルノシン酸を含有する固体組成物に、アルギニンを添加することを特徴とする、カルノシン酸の溶出促進方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、経口投与された際に、カルノシン酸の溶出性が改善されたカルノシン酸含有固体組成物及びカルノシン酸の溶出促進方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1と、比較例1及び参考例1、2の錠剤について、人工胃液中におけるカルノシン酸溶出量の経時変化を示すグラフである。
【
図2】実施例1、2と、比較例1及び参考例3の錠剤について、人工胃液中におけるカルノシン酸溶出量の経時変化を示すグラフである。
【
図3】実施例3~6と、比較例1の錠剤について、人工胃液中におけるカルノシン酸溶出量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、有効成分であるカルノシン酸にアルギニンを添加した固体組成物とすることにより、経口投与された際に、胃液中でのカルノシン酸の溶出性が改善し、その溶出量が増大することで、カルノシン酸の吸収性を向上させることが可能となるカルノシン酸含有固体組成物及びカルノシン酸の溶出促進方法である。
【0012】
以下、本発明に係るカルノシン酸含有固体組成物及びカルノシン酸の溶出促進方法の実施態様について、詳細に説明する。
なお、本実施態様に記載するカルノシン酸含有固体組成物及びカルノシン酸の溶出促進方法については、本発明を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0013】
[カルノシン酸含有固体組成物]
本発明のカルノシン酸含有固体組成物は、有効成分であるカルノシン酸と、アルギニンとを含有する固体組成物であり、経口投与に係る用途に供されるものである。
ここで、本発明のカルノシン酸含有固体組成物の用途としては、例えば、ヒトに対する経口投与に係る医薬品、食品などのほか、動物用薬品、飼料などが挙げられる。より具体的には、加工食品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品など)、サプリメント、病者向け食品(病院食、病人食、介護食など)、菓子、油脂類、乳製品、レトルト食品、レンジ食品、冷凍食品、調味料、健康補助食品などが挙げられる。
【0014】
以下、本発明のカルノシン酸含有固体組成物を構成する各成分について詳しく説明する。
<カルノシン酸>
カルノシン酸とは、ロスマリヌス・オフィキナリス(Rosmarinusofficinalis)(ローズマリー)及びサルビア・オフィキナリス(Salviaofficinalis)(セージ)中に豊富に存在するポリフェノール化合物の一つである。ここで、ポリフェノールとは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ植物成分の総称である。
上述のとおり、本発明におけるカルノシン酸は有効成分であり、抗酸化作用、記憶力を改善する作用、炎症抑制作用、脳虚血による障害抑制作用等の効果を有する成分である。
【0015】
本発明に用いるカルノシン酸としては、上述したローズマリーやセージ等、カルノシン酸を含有する原料から抽出分離する方法など、公知の製造方法により製造されたものを用いることができる。また、例えば、シグマアルドリッチ社等より提供されている市販の製品を用いるものとしてもよい。
【0016】
本発明のカルノシン酸含有固体組成物におけるカルノシン酸の含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、0.01質量%以上95質量%以下である。下限値としては、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、特に好ましくは3.0質量%以上である。一方、上限値としては、好ましくは80質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
カルノシン酸の含有量を上記範囲とすることで、カルノシン酸の有効成分としての作用を十分に発揮することができる。
【0017】
<アルギニン>
アルギニン(2-アミノ-5-グアニジノペンタン酸)は、天然に存在する塩基性アミノ酸の一種で、タンパク質を構成するアミノ酸としては最も塩基性が高いことが知られている。
【0018】
本発明に用いるアルギニンとしては、ゼラチンや脱脂大豆などの酸加水分解物から抽出分離する方法、オルニチンを原料とする化学合成法、Brevibacterium flavumの2-チアゾールアラニン耐性+グアニン要求株等を用いた発酵法等、公知の製造方法により製造されたものを制限なく用いることができる。なお、好ましくは発酵法により製造されたものである。
また、本発明に用いるアルギニンは、上記公知の製造方法に従って製造して用いてもよいが、例えば、協和発酵バイオ株式会社等より提供されている市販の製品を用いてもよい。
さらに、アルギニンは、D-体、L-体及びDL-体のいずれをも用いることができる。また、これらのアルギニン類は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0019】
本発明のカルノシン酸含有固体組成物におけるアルギニンの含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、0.1質量%以上60質量%以下である。下限値としては、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、特に好ましくは5.0質量%以上である。これにより、カルノシン酸の溶出性を改善することが可能となる。一方、上限値としては、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。これにより、カルノシン酸含有固体組成物において、アルギニン以外の成分を効果的に含有させることが可能となる。
【0020】
また、アルギニンは、吸湿性が高いため、保存状態によっては吸湿するという問題がある。このため、カルノシン酸含有固体組成物の剤形を錠剤とした場合、アルギニンを高含有で配合すると錠剤の割れなどが生じることがある。カルノシン酸含有固体組成物の吸湿性を抑制するという観点で見れば、アルギニンの含有量を5質量%以下に調整することが好ましい。
【0021】
本発明のカルノシン酸含有固体組成物において、カルノシン酸とアルギニンの質量比(カルノシン酸:アルギニン)は、特に制限されないが、例えば10:1~1:5であり、好ましくは5:1~1:5であり、より好ましくは4:1~1:3であり、更に好ましくは3:1~1:2である。
カルノシン酸とアルギニンの質量比を上記範囲とすることで、カルノシン酸の溶出性を十分に改善することができる。
【0022】
<シクロデキストリン>
本発明のカルノシン酸含有固体組成物は、シクロデキストリンを含有することが好ましい。シクロデキストリンを含有することにより、カルノシン酸の溶出性を一層高めることができる。
【0023】
シクロデキストリンとは、数分子のD-グルコースが、α―1,4グリコシド結合によって結合し、環状構造をとった環状オリゴ糖の一種である。D-グルコースが6分子結合したものをα-シクロデキストリン(α-CD)、7分子結合したものをβ-シクロデキストリン(β-CD)、8分子結合したものをγ-シクロデキストリン(γ-CD)という。特に好ましくはγ-CDである。
シクロデキストリンの環状構造の内部は比較的小さな分子を包接できる程度の大きさの空孔となっている。外側が親水性、内側が疎水性の物性を有することから、内腔にさまざまな分子を包接させたり、または放出させることができることが知られている。食品、医薬品分野、家庭用品、化学、工業、農業、環境など多岐にわたる分野において、広くこの包接技術が用いられている。
なお、本発明のカルノシン酸含有固体組成物において、シクロデキストリンは、カルノシン酸を包接させたものでもよく、単純混合により含有させたものでもよい。
【0024】
また、本発明で用いるα-CD、β-CD、γ-CDとしては、例えば、ワッカ-(WACKER)社等より提供されている市販の製品を使用することができる。
【0025】
本発明のカルノシン酸含有固体組成物におけるシクロデキストリンの含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、0.1質量%以上60質量%以下である。下限値としては、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、特に好ましくは5.0質量%以上である。一方、上限値としては、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。シクロデキストリンの含有量を上記範囲とすることにより、カルノシン酸の溶出性を一層向上しつつ、カルノシン酸やアルギニンの含有量を向上することができる。
【0026】
<アルカリ成分>
本発明のカルノシン酸含有固体組成物は、アルギニン以外のアルカリ成分を含有することが好ましい。アルギニン以外のアルカリ成分を含有することにより、カルノシン酸の溶出性を一層高めることができる。
【0027】
本発明におけるアルカリ成分とは、水溶液中でアルカリ性を示す成分のことである。
本発明で用いられるアルカリ成分としては、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどの炭酸水素塩や炭酸塩等が挙げられる。また、本発明で用いられるアルカリ成分は、無機塩に限定されるものではなく、例えば、塩基性アミノ酸(但し、アルギニンを除く。)なども挙げられる。
【0028】
本発明のカルノシン酸含有固体組成物におけるアルカリ成分の含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、0.1質量%以上60質量%以下である。下限値としては、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、特に好ましくは5.0質量%以上である。一方、上限値としては、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0029】
アルギニンを含むアルカリ成分の総含有量は、特に制限されないが、例えば、0.1質量%以上80質量%以下である。下限値としては、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、特に好ましくは5.0質量%以上である。一方、上限値としては、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0030】
<その他の成分>
本発明のカルノシン酸含有固体組成物は、カルノシン酸、アルギニンなどの上記成分に加え、その他の成分を含有するものとしてもよい。ここで、その他の成分は、経口投与において適した成分であれば特に限定されない。
本発明のカルノシン酸含有固体組成物は、例えば、賦形剤、滑沢剤、流動化剤、崩壊剤、結合剤、界面活性剤、光沢剤、甘味料、香料、着色料、保存料などを含有することができる。
以下、その他の成分の具体例について例示する。なお、以下の例示は、その他の成分の一例を示すものであって、これに限定されるものではない。
【0031】
賦形剤としては、例えば、結晶セルロース、乳糖、白糖、ブドウ糖、D-マンニトール、粉末還元麦芽糖水あめ、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、D-ソルビトール、マルトース、デンプン及びデンプン誘導体、アスパルテーム、グリチルリチン酸及びその塩、サッカリン及びその塩、ステビア及びその塩、スクラロース、アセスルファムカリウム、リン酸水素カルシウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、デキストリン、デンプン及びデンプン誘導体、グァーガム、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸及びその塩、プルラン、カラギーナン、ゼラチン、寒天、カルボキシビニルポリマー、カルメロースナトリウム、デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。これらの賦形剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて任意の配合量で用いることができる。
【0032】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油等が挙げられ、その中でもステアリン酸カルシウムが好ましい。これらの滑沢剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて任意の配合量で用いることができる。
【0033】
流動化剤としては、例えば、微粒二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、タルクなどが挙げられる。
【0034】
崩壊剤としては、例えば、部分アルファ化デンプン、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、これらの崩壊剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて任意の配合量で用いることができる。
【0035】
本発明のカルノシン酸含有固体組成物は、経口投与を伴う用途に利用するために適した形態に成形するものとしてもよい。このような形態としては、例えば、医薬品、医薬部外品、食品、動物用薬品、飼料など、経口投与を伴う用途に好適に利用される形態であれば、特に制限されない。より具体的には、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉末、丸剤、トローチ剤などの固体製剤や、経口ゼリー剤、経口フィルム剤などが挙げられる。
特に、本発明においては、カルノシン酸含有固体組成物を経口用の固体製剤として成形する際、剤形は錠剤あるいはカプセル剤とすることが好ましい。これにより、カルノシン酸含有固体組成物を成形した際に、有効成分であるカルノシン酸の含有量を高めた固体製剤を得ることができるとともに、カルノシン酸を含有した固体組成物からなる固体製剤中からカルノシン酸を効果的に溶出させるという本発明の効果をより一層高めることが可能となる。
【0036】
[カルノシン酸の溶出促進方法]
本発明のカルノシン酸の溶出促進方法は、カルノシン酸を含有する固体組成物に、アルギニンを添加することを特徴とする。なお、カルノシン酸を含有する固体組成物、アルギニン及びその添加量等についての説明は、上記の[カルノシン酸含有固体組成物]に記載したとおりである。
【実施例】
【0037】
以下、本発明のカルノシン酸含有固体組成物に係る実施例を示し、更に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
まず、本発明のカルノシン酸含有固体組成物に係る実施例を示し、本発明のカルノシン酸含有固体組成物においてアルギニンを含有することによる効果について説明する。
【0039】
本発明に係るカルノシン酸及びアルギニンを含有するカルノシン酸含有固体組成物を錠剤として成形し、実施例1とする。また、実施例1に示したカルノシン酸含有固体組成物のうち、アルギニンを含まないものを成形した錠剤を比較例1とし、アルギニンの代わりに別の成分を用いたものを成形した錠剤を参考例1、2とする。
【0040】
(試験試料の作製)
実施例1の錠剤は、表1に示した組成(質量%)に従い、以下のとおり作製した。
[実施例1]
表1に示す原材料をポリ袋内に入れ約1分間混合して混合物とした。また、この混合物を、単発打錠機(GTP-2、Gamlen Tableting Ltd製)を用い、打錠圧約500kgfで成形し、錠剤径6mm、錠剤重量100mgの錠剤を実施例1として得た。
【0041】
【0042】
比較例1及び参考例1、2の錠剤については、表1に示した組成(質量%)に従い、実施例1と同様の製法により成形した錠剤を得た。
[比較例1]
比較例1の錠剤は、実施例1における原材料のうち、アルギニン(L-アルギニン)を含有しないものとし、その他の原材料の成分及び含有量は表1に記載のとおりとした錠剤を得た。
[参考例1、2]
参考例の錠剤は、実施例1における原材料のうち、アルギニンを別の成分に変更して得られた錠剤である。上述したとおり、アルギニンは高い塩基性を示すものであることから、アルギニンに代えてアルカリ性を示す他の成分を用いて、参考例1、2とした。
参考例1の錠剤は、実施例1における原材料のうち、アルギニンに代えて、アルカリ性を示す成分として重炭酸ナトリウム(以下、「重炭酸Na」と示す)を用い、参考例2の錠剤は、実施例1における原材料のうち、アルギニンに代えて、炭酸カルシウムを用い、その他の原材料の成分及び含有量は表1に記載のとおりとした錠剤を得た。
【0043】
なお、表1に示す原材料の詳細は下記の通りである。
・ローズマリーエキスパウダー(カルノシン酸60質量%含有品)
・アルギニン(L-アルギニン協和:協和発酵バイオ株式会社)
・ステアリン酸カルシウム(食品添加物ステアリン酸カルシウム:堺化学工業株式会社)
・部分アルファ化デンプン(PCS FC-30:旭化成株式会社)
・微粒二酸化ケイ素(サイロページ720:富士シリシア化学株式会社)
・結晶セルロース(セオラスUF-F702:旭化成株式会社)
・重炭酸ナトリウム(重炭酸ナトリウム 食品添加物(Pグレード):株式会社トクヤマ)
・炭酸カルシウム(食品用ホタテ末:株式会社エヌ・シー・コーポレーション)
【0044】
(溶出試験)
上記実施例1、比較例1及び参考例1、2の錠剤を用い、日本薬局方に定める溶出試験法(パドル法)に準じて人工胃液(pH1.6)に対する溶出試験を実施した。試験開始後、人工胃液中に溶出するカルノシン酸の量の経時変化について、後述する測定方法により、測定を行った。
【0045】
(カルノシン酸溶出量の測定)
カルノシン酸の溶出量については、In Situ型光ファイバーUVモニタリングシステム(Rainbow、Paion社製)を用いて測定した。
(測定条件)
・溶出試験器にUVプローブを挿入して、280nm波長を経時的に検出し、検量線法で定量した。
【0046】
(結果)
図1は、本発明に係る実施例1と、比較例1及び参考例1、2の錠剤について、人工胃液中におけるカルノシン酸溶出量の経時変化を示すグラフである。なお、
図1の縦軸はカルノシン酸の溶出量(単位:μg/mL)、横軸は時間(単位:分)である。
図1に示すように、カルノシン酸含有固体組成物中にアルギニンが添加されていない比較例1では、10分後のカルノシン酸溶出量は約0.5μg/mLであった。また、30分後のカルノシン酸溶出量は約0.9μg/mLであり、60分後では約1.5μg/mLであった。
一方、カルノシン酸含有固体組成物中にアルギニンを添加した実施例1では、10分後のカルノシン酸溶出量は約6.3μg/mLであった。また、30分後のカルノシン酸溶出量は約9.7μg/mLであり、60分後では約11.9μg/mLであった。
【0047】
この結果から、比較例1と実施例1における60分後のカルノシン酸溶出量を比較すると、比較例1の値(約1.5μg/mL)に対し、実施例1では、その約8倍の値(約11.9μg/mL)までカルノシン酸の溶出性が改善することが示された。
【0048】
また、参考例1、2に示すように、アルギニンに代えてアルカリ性を示す成分として知られる重炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウムを用いた場合、比較例1よりはカルノシン酸の溶出性が改善されることが見てとれる一方、実施例1と比較した場合には、カルノシン酸の溶出性改善が低いことが分かる。したがって、カルノシン酸含有固体組成物にアルギニンを添加することが、カルノシン酸の溶出性の改善に特に顕著な効果を奏することが示された。
【0049】
次に、本発明のカルノシン酸含有固体組成物に係る別の実施例を示す。
本発明のカルノシン酸含有固体組成物において、カルノシン酸以外に含有するものは、アルギニンだけに限定されるものではない。例えば、アルギニンと併せて他の成分を更に組み合わせることで、カルノシン酸の溶出性をより改善させるものとしてもよい。このような成分の一例としては、γ-CDなどが挙げられる。
【0050】
[実施例2]
実施例2の錠剤としては、アルギニンと併せてγ-CDを含有するカルノシン酸含有固体組成物を成形した錠剤を用いる。
[参考例3]
参考例3の錠剤としては、アルギニンに代えてγ-CDを含有するカルノシン酸含有固体組成物を成形した錠剤を用いる。
【0051】
実施例2及び参考例3の錠剤については、表2に示した組成(質量%)に従い、実施例1と同様の製法により成形した錠剤を得た。
【0052】
【0053】
なお、表2に示す原材料の詳細は下記の通りである。
・γ-シクロデキストリン(カバマックスW8:Wacker Chemical Corporation)
その他の原材料の詳細については、表1と同様であるため、説明を省略する。
【0054】
実施例2及び参考例3の錠剤を用い、上述した溶出試験により、人工胃液中におけるカルノシン酸の溶出量を測定した。
【0055】
図2は、本発明に係る実施例2及び参考例3の錠剤について、人工胃液中におけるカルノシン酸溶出量の経時変化を示すグラフである。また、
図2には、比較のために、上記実施例1及び比較例1の錠剤を用いた場合の測定結果についても示している。
【0056】
図2から、カルノシン酸含有固体組成物としてアルギニンとγ-CDとを含有させたもの(実施例2)とすることにより、カルノシン酸の溶出性がより改善されることが示された。また、実施例2の結果と、参考例3及び実施例1の結果とを比較することで、アルギニンとγ-CDの組み合わせ(実施例2)は、アルギニン単独(実施例1)やγ-CD単独(参考例3)とした場合から想定し得るよりも高い効果が得られることが示された。
【0057】
次に、本発明のカルノシン酸含有固体組成物に含有するアルギニンの含有量を変化させた場合における実施例を示す。
【0058】
[実施例3~6]
実施例3~6として、本発明のカルノシン酸含有固体組成物におけるアルギニンの含有量をそれぞれ2質量%、4質量%、8質量%、10質量%とした錠剤を用いた。
【0059】
実施例3~6の錠剤については、表3に示した組成(質量%)に従い、実施例1と同様の製法により成形した錠剤を得た。なお、表3に示す原材料の詳細については、表1及び表2と同様であるため、説明を省略する。
【0060】
【0061】
実施例3~6の錠剤を用い、上述した溶出試験により、人工胃液中におけるカルノシン酸の溶出量を測定した。
【0062】
図3は、本発明に係る実施例3~6の錠剤について、人工胃液中におけるカルノシン酸溶出量の経時変化を示すグラフである。また、
図3には、比較のために、上記比較例1の錠剤を用いた場合の測定結果についても示している。
【0063】
図3から、カルノシン酸含有固体組成物におけるアルギニンの含有量を増加させることで、カルノシン酸の溶出性がより改善するという効果が示された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のカルノシン酸含有固体組成物及びカルノシン酸の溶出促進方法は、カルノシン酸の溶出性の改善に利用することができる。
また、本発明のカルノシン酸含有固体組成物は、経口投与を伴う用途に活用することができ、例えば、医薬品、医薬部外品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品など)、サプリメント、動物用薬品、飼料等、さまざまな分野において好適に利用することができる。