(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】梁接合部鋼管壁板厚選定システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/13 20200101AFI20241003BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20241003BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241003BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20241003BHJP
【FI】
G06F30/13
E04B1/24 L ESW
E04B1/58 508S
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2021007116
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】307042385
【氏名又は名称】ミサワホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】谷 雅一
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-028997(JP,A)
【文献】特開2017-214771(JP,A)
【文献】特開2010-216137(JP,A)
【文献】特開2020-133218(JP,A)
【文献】特開2020-159136(JP,A)
【文献】国際公開第2020/103234(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 - 30/28
E04B 1/24
E04B 1/58
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の構造設計において、柱と大梁との梁端接合部の柱側の鋼管壁に使用する部材の板厚を選定するためのコンピューターによる梁接合部鋼管壁板厚選定システムであって、
前記梁端接合部の降伏曲げ耐力から算出した、大梁のウェブをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚をtcf1、前記梁端接合部の降伏曲げ耐力から算出した、箱形断面柱のときの特定条件下での鋼管壁の板厚をtcf2、前記梁端接合部の最大曲げ耐力から算出した、大梁のウェブをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚をtcf3、として、
コンピューターは、前記鋼管壁の板厚を指定する指定板厚を設定され、かつ、前記tcf1、tcf2及びtcf3を計算するために必要な建物に使用する部材の仕様データを設定されたとき、前記指定板厚が、前記tcf1、tcf2及びtcf3に基づき計算される前記鋼管壁の板厚としての強度基準を満たすか否かを示す適否情報を出力する機能を有する梁接合部鋼管壁板厚選定システム。
【請求項2】
前記コンピューターは、設定された前記仕様データに基づき、tcf1、tcf2及びtcf3を算出し、さらに前記強度基準を算出し、当該算出した強度基準と前記指定板厚とを比較して前記適否情報を出力する機能を有する請求項1に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定システム。
【請求項3】
前記強度基準を、前記鋼管壁の板厚が、tcf1の値及びtcf2の値のうちより小さい値と、tcf3の値とを比較して大きい方の値以上であることとする請求項1又は請求項2に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定システム。
【請求項4】
前記コンピューターは、前記指定板厚を前記鋼管壁の板厚として選択した場合について、前記梁端接合部の他の階層で使用する柱の板厚に対比した前記鋼管壁の重量の増分を示す情報を出力する機能を有する請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定システム。
【請求項5】
建物の構造設計において、柱と大梁との梁端接合部の柱側の鋼管壁に使用する部材の板厚を選定するための梁接合部鋼管壁板厚選定システムとしてコンピューターを機能させるための梁接合部鋼管壁板厚選定プログラムであって、
前記梁端接合部の降伏曲げ耐力から算出した、大梁のウェブをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚をtcf1、前記梁端接合部の降伏曲げ耐力から算出した、箱形断面柱のときの特定条件下での鋼管壁の板厚をtcf2、前記梁端接合部の最大曲げ耐力から算出した、大梁のウェブをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚をtcf3、として、
コンピューターに、前記鋼管壁の板厚を指定する指定板厚を設定され、かつ、前記tcf1、tcf2及びtcf3を計算するために必要な建物に使用する部材の仕様データを設定されたとき、前記指定板厚が、前記tcf1、tcf2及びtcf3に基づき計算される前記鋼管壁の板厚としての強度基準を満たすか否かを示す適否情報を出力するよう機能させる梁接合部鋼管壁板厚選定プログラム。
【請求項6】
前記コンピューターに、設定された前記仕様データに基づき、tcf1、tcf2及びtcf3を算出し、さらに前記強度基準を算出し、当該算出した強度基準と前記指定板厚とを比較して前記適否情報を出力するよう機能させる請求項5に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定プログラム。
【請求項7】
前記強度基準を、前記鋼管壁の板厚が、tcf1の値及びtcf2の値のうちより小さい値と、tcf3の値とを比較して大きい方の値以上であることとする請求項5又は請求項6に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定プログラム。
【請求項8】
前記コンピューターに、前記指定板厚を前記鋼管壁の板厚として選択した場合について、前記梁端接合部の他の階層で使用する柱に対比した前記鋼管壁の重量の増分を示す情報を出力するよう機能させる請求項5から請求項7のうちいずれか一項に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁接合部鋼管壁板厚選定システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで建物の構造設計する際に、大梁端接合部に使用する鋼管壁(接合部パネル)の板厚は、下階の柱と同じ板厚とし、大梁端接合部の曲げ耐力にウェブを考慮していなかった。
【0003】
特許文献1には、コンピューターを用いて、梁の断面を、登録された各種断面の中から選定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、大梁のウェブ耐力を無視した曲げ耐力計算では、すべての場合に安全になるとは限らず、また、本来期待できる耐力を無視するため、必要以上の板厚になりコストが高くなっているケースもあった。
一方、「鋼構造接合部設計指針(日本建築学会)」では、鋼管壁の板厚に応じた大梁曲げ耐力の計算式が示されているが、一般式のため検討に時間がかかる。
なお、特許文献1に記載の技術は、梁端接合部の鋼管壁の板厚を選定できるものではない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、建物の構造設計において、柱と大梁との梁端接合部の柱側の鋼管壁に使用する部材の板厚を選定するにあたり、曲げ耐力(降伏曲げ耐力、最大曲げ耐力)でウェブをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚を基準にして、適正な板厚になっているか否かを迅速に判定することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、例えば
図1~3、表I等に示すように、建物の構造設計において、柱51と大梁52との梁端接合部50の柱側の鋼管壁53に使用する部材の板厚tcfを選定するためのコンピューター2(2及び3)による梁接合部鋼管壁板厚選定システム1であって、
前記梁端接合部50の降伏曲げ耐力から算出した、大梁52のウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁53の板厚をtcf1、前記梁端接合部50の降伏曲げ耐力から算出した、箱形断面柱のときの特定条件下での鋼管壁53の板厚をtcf2、前記梁端接合部50の最大曲げ耐力から算出した、大梁52のウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁53の板厚をtcf3、として、
コンピューター2(2及び3)は、前記鋼管壁53の板厚を指定する指定板厚tcf(表I)を設定され、かつ、前記tcf1、tcf2及びtcf3を計算するために必要な建物に使用する部材の仕様データ(表I参照)を設定されたとき、前記指定板厚tcf(表I)が、前記tcf1、tcf2及びtcf3に基づき計算される前記鋼管壁53の板厚としての強度基準(式(6))を満たすか否かを示す適否情報61(表I)を出力する(S7,S8)機能を有する。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、曲げ耐力(降伏曲げ耐力(式(3))、最大曲げ耐力(式(5))の計算で大梁のウェブをすべて有効とするため、安全であり、また、本来期待できる耐力を考慮するため、必要以上の板厚になることを抑え、重量増によりコストが高くなることを抑えることができる。
また、コンピューター2に必要な情報を設定することで、コンピューター2は、指定板厚tcf(表I)がtcf1、tcf2及びtcf3に基づき計算される鋼管壁53の板厚としての強度基準(式(6))を満たすか否かを示す適否情報61を出力し(S7,S8)、適正な板厚になっているか否かを判定する。
したがって、曲げ耐力(降伏曲げ耐力、最大曲げ耐力)でウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁53の板厚を基準にして、適正な板厚になっているか否かを迅速に判定することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、例えば
図3に示すように、請求項1に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定システムにおいて、
前記コンピューター2(2及び3)は、設定された前記仕様データに基づき、tcf1、tcf2及びtcf3を算出し(S4)、さらに前記強度基準を算出し(S5)、当該算出した強度基準と前記指定板厚とを比較して(S6)前記適否情報61を出力する(S7,S8)機能を有する。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、コンピューター2(2及び3)は、設定された仕様データに基づき、tcf1、tcf2及びtcf3を算出し(S4)、さらに強度基準を算出し(S5)、当該算出した強度基準と指定板厚とを比較して(S6)適否情報61を出力し(S7,S8)、適正な板厚になっているか否かを判定する。
したがって、曲げ耐力(降伏曲げ耐力、最大曲げ耐力)でウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁53の板厚を基準にして、適正な板厚になっているか否かを迅速に判定することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、例えば
図3に示すように、請求項1又は請求項2に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定システムにおいて、
強度基準を、鋼管壁53の板厚tcf(表I)が、tcf1の値及びtcf2の値のうちより小さい値と、tcf3の値とを比較して大きい方の値以上であることとする(式(6)、S6)。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、曲げ耐力(降伏曲げ耐力、最大曲げ耐力)の計算で大梁のウェブ52aをすべて有効とするため、安全であり、また、tcf1の値及びtcf2の値のうちより小さい値と、tcf3の値とを比較して大きい方の値以上であることを強度基準とするので、必要以上の板厚になることを抑え、重量増によりコストが高くなることを抑えることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、例えば表I、
図3に示すように、請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定システムにおいて、
前記コンピューター2(2及び3)は、前記指定板厚tcf(表I)を前記鋼管壁53の板厚として選択した場合について、前記梁端接合部50の他の階層で使用する柱51の板厚に対比した前記鋼管壁53の重量の増分62(表I)を示す情報を出力する(S9)機能を有する。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、指定板厚tcf(表I)を鋼管壁53の板厚として選択した場合について、梁端接合部50の他の階層で使用する柱51の板厚に対比した鋼管壁53の重量の増分62が分かるので、重量の増分のより小さい鋼管壁53の選定の機会を与えることができ、重量増、コスト増を抑えることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、例えば
図1~3、表I等に示すように、建物の構造設計において、柱51と大梁52との梁端接合部50の柱側の鋼管壁53に使用する部材の板厚tcfを選定するための梁接合部鋼管壁板厚選定システム1としてコンピューターを機能させるための梁接合部鋼管壁板厚選定プログラムであって、
前記梁端接合部50の降伏曲げ耐力から算出した、大梁52のウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁53の板厚をtcf1、前記梁端接合部50の降伏曲げ耐力から算出した、箱形断面柱のときの特定条件下での鋼管壁53の板厚をtcf2、前記梁端接合部50の最大曲げ耐力から算出した、大梁52のウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁53の板厚をtcf3、として、
コンピューター2(2及び3)に、前記鋼管壁53の板厚を指定する指定板厚tcf(表I)を設定され、かつ、前記tcf1、tcf2及びtcf3を計算するために必要な建物に使用する部材の仕様データ(表I参照)を設定されたとき、前記指定板厚tcf(表I)が、前記tcf1、tcf2及びtcf3に基づき計算される前記鋼管壁53の板厚としての強度基準(式(6))を満たすか否かを示す適否情報61(表I)を出力する(S7,S8)よう機能させる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、曲げ耐力(降伏曲げ耐力(式(3))、最大曲げ耐力(式(4))の計算で大梁のウェブをすべて有効とするため、安全であり、また、本来期待できる耐力を考慮するため、大梁52が必要以上の梁せい又は板厚になることを抑え、重量増によりコストが高くなることを抑えることができる。
また、コンピューター2に必要な情報を設定することで、コンピューター2は、指定板厚tcf(表I)がtcf1、tcf2及びtcf3に基づき計算される鋼管壁53の板厚としての強度基準(式(6))を満たすか否かを示す適否情報61を出力し(S7,S8)、適正な板厚になっているか否かを判定する。
したがって、曲げ耐力(降伏曲げ耐力、最大曲げ耐力)でウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁53の板厚を基準にして、適正な板厚になっているか否かを迅速に判定することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、例えば
図3に示すように、請求項5に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定プログラムにおいて、
前記コンピューター2(2及び3)に、設定された前記仕様データに基づき、tcf1、tcf2及びtcf3を算出し(S4)、さらに前記強度基準を算出し(S5)、当該算出した強度基準と前記指定板厚とを比較して(S6)前記適否情報61を出力する(S7,S8)よう機能させる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、コンピューター2(2及び3)は、設定された仕様データに基づき、tcf1、tcf2及びtcf3を算出し(S4)、さらに強度基準を算出し(S5)、当該算出した強度基準と指定板厚とを比較して(S6)適否情報61を出力し(S7,S8)、適正な板厚になっているか否かを判定する。
したがって、曲げ耐力(降伏曲げ耐力、最大曲げ耐力)でウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁53の板厚を基準にして、適正な板厚になっているか否かを迅速に判定することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、例えば
図3に示すように、請求項5又は請求項6に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定プログラムにおいて、
強度基準を、鋼管壁53の板厚tcf(表I)が、tcf1の値及びtcf2の値のうちより小さい値と、tcf3の値とを比較して大きい方の値以上であることとする(式(6)、S6)。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、曲げ耐力(降伏曲げ耐力、最大曲げ耐力)の計算で大梁のウェブ52aをすべて有効とするため、安全であり、また、tcf1の値及びtcf2の値のうちより小さい値と、tcf3の値とを比較して大きい方の値以上であることを強度基準とするので、必要以上の板厚になることを抑え、重量増によりコストが高くなることを抑えることができる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、例えば表I、
図3に示すように、請求項5から請求項7のうちいずれか一項に記載の梁接合部鋼管壁板厚選定プログラムにおいて、
前記コンピューター2(2及び3)に、前記指定板厚tcf(表I)を前記鋼管壁53の板厚として選択した場合について、前記梁端接合部50の他の階層で使用する柱51の板厚に対比した前記鋼管壁53の重量の増分62(表I)を示す情報を出力する(S9)よう機能させる。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、指定板厚tcf(表I)を鋼管壁53の板厚として選択した場合について、梁端接合部50の他の階層で使用する柱51の板厚に対比した鋼管壁53の重量の増分62が分かるので、重量の増分がより小さい鋼管壁53の選定の機会を与えることができ、重量増、コスト増を抑えることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、曲げ耐力(降伏曲げ耐力、最大曲げ耐力)でウェブをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚を基準にして、適正な板厚になっているか否かを迅速に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る梁接合部鋼管壁板厚選定システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】梁端接合部のモデルを示し、大梁の長手方向に見た図(a)及び、大梁の長手方向に直交する水平方向に見た図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る梁接合部鋼管壁板厚選定システムが実行する処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0026】
〔システムの概要〕
本実施形態の梁接合部鋼管壁板厚選定システム1は、パーソナル・コンピューター(以下「PC」という。)2単独により又はネットワークサーバ3との連携により構成される。
PC2は、CPU(Central Processing Unit)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、記憶部24、入力部25、表示部26、通信部27等を備える。
PC2としては、ノート型、タブレット型、スマートフォンその他のいずれの形態のものでもよく、ハードウエア形態は問わない。
【0027】
CPU21は、ROM22から梁接合部鋼管壁板厚選定プログラムを読み出してRAM23に展開し、入力部25からの入力に応じて、梁接合部鋼管壁板厚選定プログラムに従った演算処理を実行する。
記憶部24は、例えば、不揮発性の半導体メモリ(いわゆるフラッシュメモリ)やハードディスクドライブ等により構成される。記憶部24には各種データが記憶される。
入力部25は、キーボード、マウス又はタッチセンサー等の各種操作入力装置に相当する。
表示部26は、例えば液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、ELディスプレイ等の映像表示装置が相当する。
通信部27は、例えばLAN(Local Area Network)カード等の通信制御カードで構成され、LAN、WAN(Wide Area Network)、インターネット等の通信ネットワーク4に接続された外部の装置(例えばネットワークサーバ3、その他のコンピューター)との間で各種データの送受信を行う。
梁接合部鋼管壁板厚選定システムを稼働させるために必要なデータベースは、PC2単独のシステムの場合は記憶部24に構築され、ネットワークサーバ3との連携によるシステムの場合はネットワークサーバ3に構築される。後者の場合でも、データによっては記憶部24に記憶される。また、記憶部24はネットワークサーバ3からダウンロードしたデータの記憶に使用される。
また、ネットワークサーバ3との連携によるシステムの場合は、演算処理をCPU21に代え、ネットワークサーバ3が行うように適宜に実施し得る。
【0028】
〔梁端接合部の耐力計算〕
本実施形態の梁接合部鋼管壁板厚選定システム1(CPU21)は、以下に説明する計算方法に従う。
「鋼構造接合部設計指針(2012)(日本建築学会) 4章 柱梁接合部 4.2 溶接による柱梁接合部の設計 4.2.1 柱梁接合部の耐力」を参照して、以下のように梁端接合部の耐力計算を行う。
梁端接合部の降伏曲げ耐力の算定において、鋼管壁の板厚は、鋼構造接合部設計指針の(4.4.a)式の変形により、下記式(1)となる。なお、式中の記号は、鋼構造接合部設計指針に従う。箱型断面の場合の各部寸法の記号を
図2に引用する。
図2に示す柱51と大梁52との梁端接合部50の柱側の鋼管壁53に使用する部材の板厚tcfを、本システム1を用いて選定する。
【0029】
【0030】
このとき、梁ウェブ52aをすべて有効とするため、梁ウェブ52aの有効部分の長さは、それぞれ梁ウェブせい(dw)の上下半分ずつの長さであり、下記式(2)の通りとする。
【0031】
【0032】
式(1)に式(2)を代入することにより、梁ウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚は、下記式(3)となる。
【0033】
【0034】
以上のように、梁端接合部の降伏曲げ耐力から算出した、大梁のウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚をtcf1とする。
【0035】
又は、(4.4.a)式における条件式の変形により、必要な鋼管壁の板厚は、下記式(4)でもよいことになる。
【0036】
【0037】
以上のように、梁端接合部の降伏曲げ耐力から算出した、箱形断面柱のときの特定条件下での鋼管壁の板厚をtcf2とする。
【0038】
さらに、梁端接合部の最大曲げ耐力の算定において、梁ウェブ52aをすべて有効とするため、梁ウェブ接合部の無次元化曲げ耐力は1(m=1)となり、必要な鋼管壁の板厚は、鋼構造接合部設計指針の(4.8.b)式の変形により、下記式(5)となる。
【0039】
【0040】
以上のように、梁端接合部の最大曲げ耐力から算出した、大梁のウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁の板厚をtcf3とする。
【0041】
よって、梁ウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁53の板厚tcfは、式(3)と式(4)で求まる値の最小値と、式(5)で求まる値との最大値以上、すなわち式(6)の通りとすればよいことになる。
【0042】
【0043】
すなわち、強度基準を、「鋼管壁の板厚が、tcf1の値及びtcf2の値のうちより小さい値と、tcf3の値とを比較して大きい方の値以上であること」とする。
【0044】
〔入力例及び出力結果例〕
表Iに、本実施形態の梁接合部鋼管壁板厚選定システム1において、入力されるデータ例と、これに応じた出力結果例を示す。但し、表示部26に表示される入力フォームの形式及び出力結果の形式はこれに限られず、任意の形式で実施してよい。
【0045】
【0046】
表Iは、大梁52に使用される建材のうち系列「細幅」のシリーズ150~600について、鋼管壁(接合部パネル)等との組み合わせ条件を変えて計算したものである。最左欄から右方に項目を確認すると次の通りである。
【0047】
系列名、シリーズ名、大梁せい(Db)、大梁ウェブ52aの厚さ(tbw)、大梁フランジ52bの厚さ(tbf)、ダイアフラム54の厚さ(td)、鋼管壁(接合部パネル)53の幅(Bc)、鋼管壁53の厚さ(tcf)、大梁ウェブ52aの降伏強さ(Fwy)、大梁ウェブ52aの有孔長さ(hm)、角型鋼管の降伏強さ(Fcy)、鋼管壁53の降伏領域の幅(bj)、鋼管壁53の塑性領域の高さ(dj)
以上が入力データである。厚さtcfは、指定板厚に相当する。
【0048】
続いて、鋼管壁53の上記式(3)による必要厚(tcf1)、鋼管壁53の上記式(4)による必要厚(tcf2)、鋼管壁53の上記式(5)による必要厚(tcf3)
これらは、入力データと上記各式(3)~(5)により計算される。
【0049】
次の判定の欄は、上記式(6)により判断した適否情報61に対応し、表Iでは「OK」or「NG」で表示している。
【0050】
続いて、鋼管壁53の単位重量(kg/m)、梁端接合部一か所あたりの鋼管壁53の重量(t/か所)、同じく梁端接合部一か所あたりで鋼管壁53と同幅で各厚さ(9,12,16,19,22(mm))の柱51に対する鋼管壁53の重量増分62(t/か所)
【0051】
次に、表Iの見方について例を挙げて補足説明する。
例えば、シリーズ200の一行目に注目すると、幅(Bc)が200(mm)、厚さ(指定板厚)tcfが12(mm)の鋼管壁(接合部パネル)が設定されている。この行での条件では、tcf1が10.03(mm)、tcf2が13.88(mm)、tcf3が6.63と計算される。
上記式(6)に当てはめる。tcf1とtcf2とで小さい方(最小値)は、10.03(mm)である。
この10.03(mm)と、tcf3とで大きい方(最大値)は、10.03(mm)である。
したがって、指定板厚tcf=12(mm)は、10.03(mm)以上であるので、指定板厚が、tcf1、tcf2及びtcf3に基づき計算される鋼管壁の板厚としての強度基準を満たす。そのため、適否情報61として「OK」が出力されている。
また、単位重量67(kg/m)と、幅(Bc)=200(mm)、厚さ(指定板厚)tcf=12(mm)に基づき計算して、梁端接合部一か所あたりの鋼管壁53の重量が0.011(t/か所)となる。
さらに、この鋼管壁53と同幅の200(mm)で厚さが9(mm)の柱に対して、この鋼管壁53の重量増分62は0.003(t/か所)となる。
【0052】
〔処理動作〕
次に、本実施形態の梁接合部鋼管壁板厚選定システム1を、その処理動作に沿って説明する。
図3のフローチャートを参照する。
大梁仕様データが設定される(ステップS1)。ここで、大梁仕様データは、tcf1、tcf2及びtcf3を計算するために必要な建物に使用する部材の仕様データのうち、大梁に関するものである。すなわち、大梁仕様データは、上記式(3)~(5)に記載されるものであるから、表I中のDb,tbw,tbf,Fwyが相当する。大梁仕様データの設定は、入力部25から各値を入力することによって行ってもよいし、大梁の品種を特定するコードを入力することによって設定してもよい。大梁の品種を特定するコードが入力されたとき、CPU21は、データベースを参照して、同コードに紐づけられている大梁仕様データを読み出して大梁仕様データを設定する。
【0053】
また、鋼管壁(接合部パネル)仕様データが設定される(ステップS2)。ここで、鋼管壁(接合部パネル)仕様データは、tcf1、tcf2及びtcf3を計算するために必要な建物に使用する部材の仕様データのうち、鋼管壁(接合部パネル)に関するものである。すなわち、鋼管壁(接合部パネル)仕様データは、上記式(3)~(5)に記載されるものであるから、表I中のFcy,bj,djが相当する。鋼管壁(接合部パネル)仕様データの設定は、入力部25から各値を入力することによって行ってもよいし、鋼管壁(接合部パネル)の品種を特定するコードを入力することによって設定してもよい。鋼管壁(接合部パネル)の品種を特定するコードが入力されたとき、CPU21は、データベースを参照して、同コードに紐づけられている鋼管壁(接合部パネル)仕様データを読み出して鋼管壁(接合部パネル)仕様データを設定する。なお、鋼管壁(接合部パネル)の塑性領域の高さdjについては、大梁せい(Db)とダイアフラム54の厚さ(td)との組み合わせに応じた設定としてもよい。
【0054】
また、鋼管壁(接合部パネル)の板厚を指定する指定板厚が設定される(ステップS3)。指定板厚は表I中のtcfが相当する。指定板厚tcfの設定は、入力部25から値を入力することによって行ってもよいし、CPU21が表示部26に選択可能な候補を表示し、入力部25により選択させるようにしてもよい。
なお、上記ステップS1からS3の順序は問わない。
【0055】
ステップS1からS3の後、CPU21は、ステップS1,S2で設定された仕様データに基づき、tcf1、tcf2及びtcf3を算出する(ステップS4)。
次に、CPU21は、強度基準(上掲の例で10.03(mm)以上)を算出し(ステップS5)、当該算出した強度基準と指定板厚(上掲の例で12(mm))とを比較して(S6)、適否情報61(上掲の例で「OK」)を表示部26に出力する(S7、S8)。なお、適否情報は0か1の信号であるので、表示部26での表示形式、表現方法は問わない。
【0056】
また、CPU21は、ステップS3の指定板厚tcfを鋼管壁53の板厚として選択した場合について、梁端接合部50の他の階層(下の階層又は上の階層)で使用する柱51の板厚に対比した鋼管壁53の重量の増分62を示す情報を表示部26に出力する(ステップS9)。
【0057】
以上説明した本実施形態の梁接合部鋼管壁板厚選定システムによれば、曲げ耐力(降伏曲げ耐力、最大曲げ耐力)でウェブ52aをすべて有効とするために必要な鋼管壁53の板厚を基準にして、適正な板厚になっているか否かを迅速に判定することができる。
また、本実施形態の梁接合部鋼管壁板厚選定システムによれば、指定板厚tcf(表I)を鋼管壁53の板厚として選択した場合について、梁端接合部50の他の階層で使用する柱51の板厚に対比した鋼管壁53の重量の増分62が分かるので、重量の増分のより小さい鋼管壁53の選定の機会を与えることができ、重量増、コスト増を抑えることができる。
【0058】
以上の実施形態にあっては、設定された仕様データに基づく各種算出(S4-S6)を、CPU21が計算することで行ったが、コンピューター2において設定された仕様データ(又はこれに代わるコード)をコンピューター2からネットワークサーバ3に送信し、ネットワークサーバ3が各種算出(S4-S6)を実行し、結果表示(S7,S8,S9)を出力するための情報をネットワークサーバ3からコンピューター2に得てもよい。
また、以上の実施形態にあっては、設定された仕様データに基づく各種算出(S4-S6)を、仕様データから計算することで行ったが、設定された仕様データと同一の仕様データに基づき過去に実行しデータベースに記録された計算結果をデータベースから読み出すことで行ってもよい。設定された仕様データと同一の仕様データについてデータベースに記録された適否情報及び重量の増分を示す情報のみを読み出すことで、途中の算出過程(S4-S6)を省き、適否情報の表示(S87,S8)及び重量の増分を示す情報の表示(S9)を行ってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 梁接合部鋼管壁板厚選定システム
2 パーソナル・コンピューター
3 ネットワークサーバ
4 通信ネットワーク
21 CPU
50 梁端接合部
51 柱
52 大梁
52a 大梁ウェブ
52b 大梁フランジ
53 鋼管壁(接合部パネル)
54 ダイアフラム
61 適否情報
62 重量増分
tcf 鋼管壁(接合部パネル)の板厚