(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】中空金属部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21K 21/00 20060101AFI20241003BHJP
B21J 5/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B21K21/00
B21J5/02 C
(21)【出願番号】P 2021031328
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591105074
【氏名又は名称】株式会社ニチダイ
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】森 満帆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直紀
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-051957(JP,A)
【文献】特開2013-136068(JP,A)
【文献】特開平01-245940(JP,A)
【文献】特開平09-271888(JP,A)
【文献】特開2001-334345(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02910320(EP,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0042196(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 21/00
B21J 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の筒状化又は有底筒状化を行って筒状材を成形する工程と、前記筒状材に非圧縮流動体を充填した充填材を得る工程と、前記充填材を成形した中間成形品を得る工程と、前記中間成形品から非圧縮流動体を排出して完成品を得る工程と、を有した中空金属部品の製造方法であって、
前記完成品となる中空金属部品は軸部と軸部から径方向に複数突出した部位を有した外部形状で、内部形状が該外部形状に沿ったものである場合、前記筒状材を成形する工程の前に該中間成形品を成形する際に部分的な母材の不足で破断が生じる部位を特定し、そのうえで前記筒状材を成形する工程において、母材を、完成品の外部形状に基づいて、前記中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とする中空金属部品の製造方法。
【請求項2】
前記中間成形品を得る工程において、閉塞鍛造により前記充填材を成形する際にパンチの加圧方向と異なる方向への成形速度を背圧の付与により調整する請求項1記載の中空金属部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材から筒状化又は有底筒状化を行って筒状材を成形し、ここに非圧縮流動体を充填し、非圧縮流動体を充填したまま成形した後、非圧縮流動体を排出して中空金属部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1(特開昭63-264237号公報)には、内燃機関の吸気バルブや排気バルブとして使用する中空バルブの製造に関して、それまでの、パイプ材の中空部に捨中子(以下、中子と統一表記)を挿入固定し、熱間アプセット加工の後、中子を挿入したまま弁頭部をプレス成形し、中子を除去する、あるいは、パイプ部分の中空部に金属製中子を挿入固定し、中子端をパイプ端に加熱接着しつつ該パイプ部分を熱間アプセット加工し、さらに熱間プレス成形により、中子を傘心部へ圧搾充填すると同時に傘部から首部にむけて滑らかに厚肉化する、という2手法にあった以下の課題を解決する製法が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載されたそれまでの2手法にあった課題とは、前者・後者の両方においては、パイプ材を原材料としているので材料コストが高く、バルブステム部から径が大幅に異なる傘部を成形しているので座屈防止のために加熱しながらアプセッタにより鍛造する必要があり、加工時間が長くなるとされている。
【0004】
さらに前者の課題としては、中子除去が困難であると共に中空バルブ素材の両端部をシールしなければならないので製造に時間がかかるという問題があるとされている。また、後者の課題としては、傘部の肉抜きがなされないので、重量が増すと共に、中空部に封入された傘部の冷却が不十分になるという問題があるとされている。
【0005】
そこで、特許文献1では、中実のバルブ材を、ビレットをカップ状に成形し、このカップ状のビレットの中心穴内にバルブ材より融点の低い低融点金属を充填した状態でプレスにより前方軸押出し及び据込み加工によりその径よりも小径の細長いステム部とその径よりも大径の頭部を有する中間素材を成形し、この中間素材の頭部にプレスによる据込み加工を行ってステム部と傘部を有する最終素材に成形し、低溶融金属を加熱溶解して最終素材から排出することで得ることとしている。
【0006】
また、例えば特許文献2(特開2000-15386号公報)には、中空形状を有する中空部材を鍛造によって容易に製造することを目的として、中空部を有する鍛造用粗材の中空部に、中子を挿入して鍛造することで鍛造品を成形した後、該鍛造品の内部から中子を除去する工程を有した中空部材の製造方法において、鍛造用粗材より融点が低く、鍛造用粗材の鍛造工程の鍛造温度より融点の高い材料からなる中子を挿入して鍛造して鍛造品を得た後、加熱して鍛造品の内部から中子を溶出する製造方法が開示されている。
【0007】
さらに、例えば特許文献3(特開2006-297412号公報)には、汎用プレスでは製造することの難しかった複雑形状を有する中空部品を精度よく製造することを目的として、鋼材からなる筒状部材あるいは底付筒状部材の内部に、該鋼材よりも融点の低い内部圧力保持金属を配して、該鋼材と該内部圧力保持金属が複合された鍛造用素材とし、該鍛造用素材に鍛造加工を施し所定の外部形状に成形した後、得られた成形体を該内部圧力保持金属の融点以上の温度に加熱して該内部圧力保持金属を溶融除去する製造方法が開示されている。
【0008】
また、例えば特許文献4(特許第4503129号公報)には、内部に中空部を有する軽量中空部品を、穴加工を必要とすることなく少ない加工数で、しかも小さな成形荷重をもって製造することを目的として、中空金属素材の中空内部に非圧縮性の流動体を充満封入して中実成形素材を成形し、この中実成形素材をプレス機によりプレス加工して所定外部形状に成形した後に、中空内部の非圧縮性流動体を排出するようにし、中実成形素材は、中空金属素材の開口から中空内部に前記非圧縮性の流動体を充満させた後、開口を閉塞して密封することで成形し、プレス機によるプレス加工は、成形型の中空部品の最終外周形状に対応した内周成形面を有するキャビティ内に中実成形素材を投入するとともに、パンチにより閉塞された中実成形素材の開口をさらにその上から閉塞するようにして加圧することにより、この閉塞部位の高い液密性を確保しつつ、中実成形素材の材料流動メカニズムが中空内部の側壁を外側へ均一に押圧して、その外周面をキャビティの内周成形面に忠実に沿わせるようにした製造方法が開示されている。
【0009】
以上の特許文献1~4はいずれも筒状又は有底筒状の母材に中子を挿入したまま外部形状の成形を行い、外部形状の成形後に中子を除去するという点では同じであるが、これら特許文献1~4の従来手法は、後述の発明を実施するための形態において実証するとおり、例えば軸部とこの軸部から外径方向に張り出した部位を複数有するような外部形状を有した金属部品については、中空内部形状を外部形状に沿ったものにできないといった問題が生じる。
【0010】
特許文献1~3は、外部形状の成形が主体であり、金属部品の内部を部分的に中空化できればよいので、中実製品に比べれば軽量化が図られるものの、中空空間の増加については言及されてなく、つまりさらなる軽量化の余地があった。
【0011】
一方、特許文献4には、上下パンチに形成された中実成形素材の外部形状を形成するキャビティの内周成形面に忠実に沿わせると記載されているが、要するに、特許文献1~3と同様に、非圧縮流動体が充填された中実成形素材をパンチに形成されたキャビティに沿って成形することが示されているに過ぎないので、中空の内部を外部形状に沿った形状にすることが示されているわけではない。つまり特許文献4においても、内部空間の増加については言及されてなく、つまりさらなる軽量化の余地があった。
【0012】
要するに、特許文献1~4を比較的複雑な外部形状、例えば軸部とこの軸部から外径方向に張り出した部位を複数有するような外部形状を有した金属部品、具体的には例えばギヤの中空化において適用しても、軸部の中空化ができたとしても歯の部分の中空化は、成形時における非圧縮流動体である中子の流動特性や成形の機序が究明されてなく、母材が破断したり、外部から内部に至る母材厚みに偏りが生じたりして困難であり、内部の中空空間の増加についてはいわゆる頭打ちの状況で、さらなる軽量化ができないというのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開昭63-264237号公報
【文献】特開2000-15386号公報
【文献】特開2006-297412号公報
【文献】特許第4503129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする問題は、上記特許文献1~4含めた従来のものは、単なる中空化した金属部品を得ることに特化されたものであり、中空の内部空間を外部形状に沿ったものとしてさらなる軽量化を図ることができなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、母材の筒状化又は有底筒状化を行って筒状材を成形する工程と、前記筒状材に非圧縮流動体を充填した充填材を得る工程と、前記充填材を成形した中間成形品を得る工程と、前記中間成形品から非圧縮流動体を排出して完成品を得る工程と、を有した中空金属部品の製造方法であって、前記完成品となる中空金属部品は軸部と軸部から径方向に複数突出した部位を有した外部形状で、内部形状が該外部形状に沿ったものである場合、前記筒状材を成形する工程の前に該中間成形品を成形する際に部分的な母材の不足で破断が生じる部位を特定し、そのうえで前記筒状材を成形する工程において、母材を、完成品の外部形状に基づいて、前記中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とすることとした。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、筒状材を成形する工程で、完成品の外部形状に基づいて、破断しやすい部分を特定しておき、破断しやすい部分に相当する部分について、中間成形品を得る工程で母材が破断しないような形状とするから、中間成形品を得る工程で非圧縮流動体が母材を破断する可能性を低減でき、つまり、今まで複雑形状の金属部品について中空化の余地がありながら破断を危惧して中空化を図らなかった部分について外部形状に沿った内部形状の中空空間が得られることで該中空空間が増大し、よってさらなる軽量化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の中空金属部品の製造方法を説明するための図である。
【
図2】本発明の中空金属部品の製造方法において用いられる、中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とする前の筒状材を示し、(a)は筒状、(b)は有底筒状、(c)は蓋付の有底筒状、をそれぞれ示す図である。
【
図3】中空のユニバーサルジョイントを製造する際における筒状材の母材の流動を説明するための図である。
【
図4】中空のユニバーサルジョイントを製造する際における背圧付与例を説明するための図である。
【
図5】中空のベベルギヤを製造する際における背圧付与例を説明するための図である。
【
図6】本発明の中空金属部品の製造方法における中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な筒状材形状であり、(a)(b)は中空のユニバーサルジョイントを得るにあたっての筒状材形状例を、(c)(d)は中空のベベルギヤを得るにあたっての筒状材形状例を、それぞれ示す図である。
【
図7】(a)(b)は、本発明によって得ようとする中空のユニバーサルジョイントを示す図である。
【
図8】(a)(b)は、中空のユニバーサルジョイントを従来技術によって得ようとした場合に生じる破断個所をそれぞれ示す図である。
【
図9】(a)(b)は、本発明によって得ようとする中空のベベルギヤ示す図である。
【
図10】(a)(b)(c)は、中空のベベルギヤを従来技術によって得ようとした場合に生じる破断個所、不均質な肉厚部分、をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において各用語は次のように定義する。「筒状材」とは、筒状、有底筒状、蓋付の有底筒状を含み、これらを意味する。「充填材」とは、前記筒状材に非圧縮流動体を充填した状態の中間品を意味する。「中間成形品」とは、前記充填材から完成品たる外部形状に成形した状態で未だ非圧縮流動体を排除していない中間品を意味する。「完成品」とは、前記中間成形品から非圧縮流動体を排除した完成品を意味する。
【0019】
そして、本発明において、「非圧縮流動体」とは、母材となる金属より低融点な金属、また油や水などの液体はもちろん、力を加えると変形をする樹脂やゴム、また粘土や高分子材料などの粘性体、粉体と液体の混合物など、密閉された空間内で外部からの力が加わったときにそれに追随して形状が変化し、また体積変化が小さいものを総称している。
【0020】
本発明は、発明者らの次の鋭意研究の末、なし得たものである。すなわち、母材の筒状化又は有底筒状化を行って筒状材を成形する工程と、筒状材に非圧縮流動体を充填した充填材を得る工程と、充填材を成形した中間成形品を得る工程と、中間成形品から非圧縮流動体を排出して完成品を得る工程と、を有した中空金属部品の製造方法は、上記のとおり、従来には特許文献1~4を含めて多数存在している。
【0021】
例えば
図7に示す所定径の軸部11から90°間隔で軸外径方向に4方に接続腕部12が延びた、いわゆるユニバーサルジョイント(クロスジョイントとも言う)UJにおいて、少なくとも接続腕部12の軸部11と反対側の端部12aを閉塞し、該接続腕部12の内部を外部形状に沿った形状の中空に形成しようとして、特許文献1~4のような製造方法を用いても、
図8に(a)に示すように例えば接続腕部12の軸部11とは反対の端部12aの端面が抜けてしまったり(ハッチング領域A)、
図8(b)に示すように接続腕部12がちぎれたり(ハッチング領域B)、軸部11における接続腕部12の根本位置の破断が生じたりして(ハッチング領域C)、上手く製造することができず、失敗した。
【0022】
例えば、
図9に示すベベルギヤBGにおいて、少なくとも軸部21から該軸部21の外形方向に張り出した歯部22の内部を外部形状に沿った形状の中空に形成しようとして、特許文献1~4のような製造方法を用いても、
図10(a)に示すように歯部22の歯溝における歯底円位置(ハッチング領域D)、
図10(b)に示すように歯部22の軸部11と連続する歯幅方向の端面位置(ハッチング領域E)、において破断が生じて、上手く製造することができず、失敗した。
【0023】
上記失敗の原因を究明する過程で、母材の流動性について考察した。以下、
図3を用いて、ユニバーサルジョイントUJを例としてこの考察結果について説明する。丸ビレットの中心部を断面円に切削して有底の筒状材に非圧縮材料を充填した充填材は、接続腕部12を成形しようとする位置と、隣接する接続腕部12,12を成形しようとする位置とにおいて、次のように流動することが判った。
【0024】
接続腕部12を成形しようとする位置には、母材のハッチング領域Gがそのまま軸部11の外径方向に、つまり接続腕部12となる金型内を流動する。一方、隣接する接続腕部12,12を成形しようとする位置には、母材のハッチング領域が接続腕部12,12の両方向に分散するように流動し、しだいにそれぞれの接続腕部12,12の方向に流動する。
【0025】
つまり、外部形状を成形するための金型内において母材は、一見すると均等圧力により同じように流動するのではなく、部分的に母材が不足する個所が存在することが判明した。このことから、外部から内部に至る厚みを形成する筒状材の厚みを大きくすれば上記失敗は抑制されると仮定し、厚みの大きい筒状材から特許文献1~4によりベベルギヤBGを製造した。
【0026】
厚みの大きい筒状材から特許文献1~4によりベベルギヤBGを製造した結果、確かに筒状材の厚みが大きいと部材の部分的な破断などはなかったが、
図10(c)に示すように、外部から内部に至る厚みが大きい部位(ハッチング領域F)が生じて外部形状に沿った内部形状の中空空間は形成できず、これも失敗した。つまり、本願課題のとおり、製造技術としては頭打ちとなって外部形状に沿った内部形状の中空空間を形成してさらなる軽量化を図るのは困難であった。
【0027】
なお、ここまでの失敗例に基づけば、特許文献1~4は、上記のような失敗が生じなかったというならば、「厚みが大きい」筒状材に非圧縮流動体(上記で言う中子)を充填して製造したはずであって、軸部と軸部から径方向に複数突出した部位を有する金属部品について「外部形状に沿った内部形状の中空空間」が形成されることはなかったと推測できる。
【0028】
本発明は、今まで製造技術としては頭打ちと思われていた特許文献1~4の製造方法をさらに考察して、見直し、軸部と軸部から径方向に複数突出した部位を有する金属部品について、外部形状に沿った内部形状の中空空間を形成し、さらなる軽量化を図ることを目的とし、この目的を、母材の筒状化又は有底筒状化を行って筒状材を成形する工程において、母材を、完成品の外部形状に基づいて、中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とすることで達成した。
【0029】
上記の全ての失敗例を考察すると、筒状材の内径にもよるが、中間成形品を得る工程において、成形手法を変えないならば決まった部位で母材の破断が生じることが判明し、この中間成形品を得る工程における母材の決まった部位の破断についてさらに考察すると、破断する部位では当該部位に流動しようとする母材が不足することを知見した。この知見に基づいて、筒状材を、中間成形品を得る工程において前記決まった部位で母材の不足が生じないように、母材の破断を抑制可能な形状とした。
【0030】
中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とは、具体的には、筒状材において破断を生じる、つまり母材が不足する部位に流動する予定の部分について、部分的に厚みを大きくしたり、部分的に内径寸法を小さくしたり、逆に母材のさほど流動しない低い部位に流動する予定の部位について、部分的に厚みを小さくしたり、部分的に内径寸法を大きくしたり、した筒状材形状を意味する。
【0031】
外部形状に沿った内部形状の中空空間を有したユニバーサルジョイントを完成品とした場合、例えば、筒状材を、
図6(a)に示すように、丸ビレットに正方形の穴を形成することで、母材が不足する上記のハッチング領域Hでは厚みが大きくなるから当該領域Hの母材の不足が抑制され、上記ハッチングGではこのハッチング領域Hから流動した母材が当該領域Gにおける母材の不足を抑制することができた。
【0032】
また、例えば、筒状材を、
図6(b)に示すように、丸ビレットの周面を端面における同じ長さの4弦を削除して、角を丸めた端面正方形とし、中央を所定径の円状に切削することで、外部形状が(角を丸めた)正方形、内部形状が円形とされた断面形状とすることで、母材が不足する上記のハッチング領域Hでは厚みが大きくなるから当該領域Hの母材の不足が抑制され、上記ハッチング領域Gではこのハッチング領域Hから流動した母材が当該領域Gにおける母材の不足を抑制することができた。
【0033】
外部形状に沿った内部形状の中空空間を有したベベルギヤを完成品とした場合、例えば、筒状材を、
図6(c)(d)に示すように、内径の大きい部分と、内径の小さい部分とを設けることで、例えばハッチング領域Fは外部から内部に至る厚みが大きくなる部位であるが、ここを歯部22の部位と同じような厚みとすることができた。
【0034】
したがって、中間成形品を得る工程において母材が破断する部位を特定し、筒状材の得る工程において、破断を生じる部位に流動する予定の部分の外部から内部に至る厚みや内径寸法を異ならせた形状の筒状材を母材から得ることで、この部位の破断を抑制しつつ、外部形状に沿った内部形状の中空空間に非圧縮流動体が充填された中間成形品が得られることが判明した。この後、非圧縮流動体を排出すれば、比較的、外部から内部に至る厚みの薄い外部形状に沿った内部形状の中空空間を有した中空金属部品を得ることができるのは言うまでもない。
【0035】
また、本発明は、上記の筒状材を成形する工程において、母材を、完成品の外部形状に基づいて、中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とすることに加えて、さらに中間成形品を得る工程において、閉塞鍛造により前記充填材を成形する際にパンチの加圧方向と異なる方向への成形速度を背圧の付与により調整するようにしてもよい。
【0036】
上記の失敗から知見した、破断する部位において当該部位に流動しようとする母材が不足するという現象をさらに考察すると、非圧縮流動体を充填した筒状材の軸方向の端部からパンチで高圧力をかけると、非圧縮流動体が充填された母材は軸方向には流動する空間が存在しないので、パンチによる加圧方向と異なる方向の金型内の開放空間に流動することになる。
【0037】
このとき、母材は、逃げ場のないパンチの加圧方向には流動量が少ないが、逃げ場のある金型内の開放空間に向かっては該開放空間を埋めるべく流動量が多いこととなる。流動量が少ない場合は(単位時間で見て)母材の流動速度が遅く、流動量が多い場合は(単位時間で見て)母材の流動速度が速いことになる。
【0038】
以上のことから、本発明者等は、上記破断する部位において当該部位に流動しようとする母材が「不足する」現象が、母材の流動速度の差、つまり中間成形品を得る工程においてはパンチの加圧方向と、該加圧方向と異なる方向へとの間の母材の流動速度、つまり成形速度差に起因していることを知見した。
【0039】
以上の知見から、ベベルギヤのように外部形状が複雑な金属部品であっても、母材が破断する部位を特定して、破断を生じる部位に流動する予定となる部分の外部から内部に至る厚みを増した断面形状の筒状材を得て、さらに、中間成形品を得る工程で、パンチの加圧方向と異なる方向への成形速度を背圧の付与により調整すれば、上記の失敗が生じることをさらに確実に抑制できると仮定し、この仮定を実証する試験を行った。
【0040】
試験は、次の2種類を検討した。
図4に示すように、外部形状に沿った内部形状を有した中空のユニバーサルジョイントUJを得るべく、中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とした筒状材(母材)において接続腕部12を成形する部分に、成形方向とは反対側からピストンにより成形方向とは逆の方向の力(背圧)を付与しつつ成形した。
図5に示すように、外部形状に沿った内部形状を有した中空のベベルギヤBGを得るべく、径の小さい液体流出口を形成した金型内に液体を満たし、ここに、破断部位を特定して当該部位に流動する予定の部分を、中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とした筒状材に非圧縮流動体を充填した充填材を配置して成形した。
【0041】
実験の結果、パンチの加圧方向における成形速度と、該パンチの加圧方向と異なる方向への成形速度とのバランスが図れ、破断を生じる部位(例えば
図8に示すハッチング領域A~C、例えば
図10に示すハッチング領域D,E)においてパンチの加圧方向から母材が十分かつ適切な成形速度と量で展延し、仮定どおり、上記の失敗が生じることをさらに確実に抑制でき、ベベルギヤのように外部形状が複雑な金属部品であっても、歯部の内部形状が外部形状に沿った(非圧縮流動体が充填された)中空空間を得ることができた。この後、非圧縮流動体を排出すれば、比較的、外部から内部に至る厚みの薄い外部形状に沿った内部形状の中空空間を有した中空金属部品を得ることができるのは言うまでもない。
【実施例】
【0042】
本発明の実施例について、図面を用いて説明する。本発明は、
図1に示す工程を経る。まず、目的とする中空金属部品の検討を行う(手順1、以下、#1と記す)。#1における検討とは、中空金属部品そのものの仕様や、金型仕様も含まれる。目的とする中空金属部品が決定した後、例えば材料力学的に解析したり、シミュレーションを行ったりして破断等が生じる部位の特定を行う(#2)。
【0043】
破断等が生じる部位の特定を行ったうえで、
図2(a)に示す筒状材P、同図(b)に示す有底の筒状材P、同図(c)に示す蓋Paを有した有底の筒状材P、のいずれを用いるか、そして、
図6に示したように該筒状材Pの形状を、後述の中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能なものとする(#3)。
【0044】
また、破断等が生じる部位の特定を行ったうえで、
図4及び
図5に示したような背圧による成形速度の調整が必要か否か、必要な場合は背圧付与手法について検討する(#4)。検討の結果、背圧付与が必要な場合(#5でYes)は、#4の後に、#3で筒状材の形状について検討した結果を反映させて(#6)、そのような形状の筒状材に成形する(#7)。
【0045】
#7で、後の中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状の筒状材を得た後、非圧縮流動体を該筒状材内に充填して充填材を得て(#8)、この充填材を背圧付与が可能な閉塞鍛造設備における金型に配置し(#9)、該設備を稼働して中間成形品を得る(#10)。そして、中間成形品から、非圧縮材料を排出して完成品を得て(#11)、処理は終了する。
【0046】
一方、#4で背圧付与が必要ない場合(#5でNo)、#3で筒状材の形状について検討した結果を反映させて(#12)、そのような形状の筒状材に成形する(#13)。
【0047】
#13で、後の中間成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状の筒状材を得た後、非圧縮流動体を該筒状材内に充填して充填材を得て(#14)、この充填材を閉塞鍛造設備における金型に配置し、該設備を稼働して中間成形品を得る(#15)。そして、中間成形品から、非圧縮材料を排出して完成品を得て(#16)、処理は終了する。
【0048】
このようにすることで、比較的柔軟に多くの金属部品について、外部形状に沿った内部形状の中空空間が得られることで該中空空間が増大し、よって軽量な中空金属部品を得ることができる。