(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】筒状体及び筒状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/10 20060101AFI20241003BHJP
B29C 43/12 20060101ALI20241003BHJP
B29C 70/44 20060101ALI20241003BHJP
B62D 29/04 20060101ALI20241003BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20241003BHJP
B29L 22/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B29C70/10
B29C43/12
B29C70/44
B62D29/04 A
B29K105:08
B29L22:00
(21)【出願番号】P 2021047902
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】302019599
【氏名又は名称】ミズノ テクニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 誠
(72)【発明者】
【氏名】加島 匠
(72)【発明者】
【氏名】矢野 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 力
(72)【発明者】
【氏名】奥山 智仁
(72)【発明者】
【氏名】柴原 多衛
(72)【発明者】
【氏名】元木 正紀
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170801(WO,A1)
【文献】特開昭63-084932(JP,A)
【文献】特開2013-179948(JP,A)
【文献】特開2006-130875(JP,A)
【文献】特表2008-501555(JP,A)
【文献】特開2007-030421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/10
B29C 43/12
B29C 70/44
B62D 29/04
B29K 105/08
B29L 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の構造材として使用されるとともに、外周面に軸方向に延びる角部が形成された繊維強化樹脂製の筒状体であって、
強化繊維からなる織物に樹脂が含浸されてなる複数層の織物層と、一方向に配向された強化繊維に樹脂が含浸されてなる一方向材層とを備える筒状積層体として構成され、
前記一方向材層では、前記筒状積層体の軸線に沿う方向に強化繊維が配向され、
前記一方向材層は、前記織物層の最外層の外側及び最内層の内側に積層されていることを特徴とする筒状体。
【請求項2】
前記織物層は、前記織物の経糸又は緯糸が、前記筒状積層体の軸線に沿う方向に配向されている層を含むことを特徴とする請求項1に記載の筒状体。
【請求項3】
前記筒状積層体は、対向して配置されるとともに互いに平行に延びる一対の側壁を有し、
前記一対の側壁のうちの一方の側壁における前記一方向材層は、他方の側壁における前記一方向材層より引張強度の高い強化繊維が配向されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の筒状体。
【請求項4】
車両の構造材として使用されるとともに、外周面に軸方向に延びる角部が形成された繊維強化樹脂製の筒状体の製造方法であって、
強化繊維に樹脂が含浸されてなる成形基材を芯材の周囲に配置する成形基材配置工程と、
前記成形基材を加熱する成形工程と
を備え、
前記成形基材配置工程は、一方向に配向された強化繊維に樹脂が含浸されてなる前記成形基材としての一方向材を配置する第1工程と、前記第1工程に続いて、強化繊維からなる織物に樹脂が含浸されてなる前記成形基材としての織物材を複数枚配置する第2工程と、前記第2工程に続いて、前記一方向材を配置する第3工程を備え、
前記第1工程及び前記第3工程では、前記芯材の軸線に沿う方向に強化繊維が配向されるように前記一方向材を配置することを特徴とする筒状体の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程では、少なくとも一枚の前記織物材の経糸又は緯糸が、前記芯材の軸線に沿う方向に配向されるように配置することを特徴とする請求項4に記載の筒状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製の筒状体及び筒状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂製の筒状体は、軽量でありながら強度に優れていることから、自動車、航空機等に向けた構造材や、ゴルフクラブシャフト、テニスラケット等のスポーツ用品として広く使用されている。筒状体の中でも、例えば、径方向断面が多角形状の角パイプは、径方向断面が丸形状の丸パイプに比べて断面二次モーメントが大きい。そのため、曲げ剛性に優れており、構造材として有用である。
【0003】
こうした角パイプとして、強化繊維を一方向に配向してなる繊維強化樹脂シートである一方向材を芯材の周囲に複数層積層して加熱硬化させて成形したものが知られている。角パイプに要求される特性に応じて、強化繊維の配向方向を適宜調整しながら一方向材を複数層積層する。角パイプの曲げ剛性は、角パイプの軸線に沿う方向に配向された強化繊維によって向上させることができ、構造材としての強度を得ることができる。
【0004】
その一方で、角パイプを一方向材で成形すると、角パイプの角部に大きなボイドが発生し易いといった問題が生じる。これは、角パイプの成形時に、軸線に直交する方向に配向された強化繊維が角部に沿って賦形し難く、強化繊維が突っ張ったような状態になることによる。その結果、複数層の一方向材の間に空洞が発生し易くなる。そして、成形時の加熱によって空洞の容積が大きくなったり、複数の空洞が繋がったりして、成形品中にボイドとして出現する。そのため、ボイドを起点とする破断が生じ易くなって、角パイプとしての強度が低下してしまうことになる。また、角部で樹脂量が多くなり、角パイプ全体での樹脂量の偏りが発生することもある。
【0005】
これに対して、車両、航空機等の構造材として、強化繊維からなる織物に樹脂が含浸されてなる繊維強化樹脂シートで成形することが知られている。繊維強化樹脂シートとしての織物材では、経糸及び緯糸が交差している部分で強化繊維がクリンプしているため、曲面状の部分に沿い易い。そのため、繊維強化樹脂シートとして織物材を使用すると、複雑な形状のものを成形する際に有利である。
【0006】
特許文献1には、自動車の車体に取り付けられる樹脂製の燃料タンクに係る発明が記載されている。燃料タンクは、織物材を積層して成形された繊維強化層を備えている。繊維強化層を備えることにより、燃料タンクを軽量化しつつ高い剛性を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明者らは、角パイプを織物材で成形すれば、角部でのボイドの発生を抑制することができて、曲げ剛性の低下を抑制することができると考えた。自動車用のルーフ等を補強するための構造材として角パイプを使用することを想定して、角パイプを織物材で成形した。その結果、織物材で成形された角パイプでは角部でのボイドの発生が抑制されて、一方向材で成形した場合に比べて曲げ剛性が向上することが確認できた。
【0009】
しかし、曲げ剛性が向上する一方で、角パイプの破断時に課題が生じる知見が得られた。これは、角パイプに大きな曲げ荷重が掛かって角パイプが破断し始めると、角パイプが完全に分断されてしまうといった現象が生じることである。この現象を、自動車が電柱に衝突したような場合で想定すると、衝突時の衝撃によって構造材としての角パイプに大きな曲げ負荷が掛かると、角パイプが曲げ負荷に耐え切れずに完全に分断してしまう。その結果、分断した角パイプが予期せぬ箇所に突き刺さる等、好ましくない事態が起こり得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の筒状体は、車両の構造材として使用されるとともに、外周面に軸方向に延びる角部が形成された繊維強化樹脂製の筒状体であって、強化繊維からなる織物に樹脂が含浸されてなる複数層の織物層と、一方向に配向された強化繊維に樹脂が含浸されてなる一方向材層とを備える筒状積層体として構成され、前記一方向材層では、前記筒状積層体の軸線に沿う方向に強化繊維が配向され、前記一方向材層は、前記織物層の最外層の外側及び最内層の内側に積層されている。
【0011】
ここで、「外周面に軸方向に延びる角部が形成された繊維強化樹脂製の筒状体」における「角部」を以下のように定義する。すなわち、筒状体の外周面に複数の平面が形成されている場合、径方向断面形状において、隣り合う平面を構成する直線同士が交わる交点が角部であり、この角部が軸方向に延びて形成されている部分が筒状体の「角部」を構成する。また、筒状体の外周面に平面と曲面が形成されている場合、径方向断面形状において、平面を構成する直線と曲面を構成する曲線とが交わる交点であって、径方向断面における接線の傾きが非連続的に変化する部分が角部であり、この角部が軸方向に延びて形成されている部分が筒状体の「角部」を構成する。さらに、筒状体の外周面に複数の曲面が形成されている場合、径方向断面形状において、隣り合う曲面を構成する曲線同士が交わる交点であって、径方向断面における接線の傾きが非連続的に変化する部分が角部であり、この角部が軸方向に延びて形成されている部分が筒状体の「角部」を構成する。以下、同様である。なお、「角部」には、面取りされてR形状をなすものも含む。面取りされた部分とは、筒状体の外周面の平面や曲面に比べて曲率の小さなR形状をなす。
【0012】
上記の構成によれば、筒状体には、強化繊維からなる織物に樹脂が含浸されてなる織物層が複数層積層されている。織物層では、経糸及び緯糸が交差している部分で強化繊維がクリンプしているため、強化繊維が筒状体の角部の形状に沿い易い。そのため、複数層の織物層の間にボイドの発生が抑制されている。曲げ剛性に優れた筒状体が得られる。
【0013】
また、織物層の内外には、一方向に配向された強化繊維に樹脂が含浸されてなる一方向材層が積層されている。そのため、筒状体に曲げ負荷が掛かった場合であっても、筒状体が完全に分断することが抑制される。曲げ剛性に優れるとともに、完全に分断することが抑制された筒状体が得られる。
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明の筒状体の製造方法は、車両の構造材として使用されるとともに、外周面に軸方向に延びる角部が形成された繊維強化樹脂製の筒状体の製造方法であって、強化繊維に樹脂が含浸されてなる成形基材を芯材の周囲に配置する成形基材配置工程と、前記成形基材を金型内で加熱する成形工程とを備え、前記成形基材配置工程は、一方向に配向された強化繊維に樹脂が含浸されてなる前記成形基材としての一方向材を配置する第1工程と、前記第1工程に続いて、強化繊維からなる織物に樹脂が含浸されてなる前記成形基材としての織物材を配置する第2工程と、前記第2工程に続いて、前記一方向材を配置する第3工程を備え、前記第1工程及び前記第3工程では、前記芯材の軸線に沿う方向に強化繊維が配向されるように前記一方向材を配置する。
【0015】
上記の構成によれば、成形基材配置工程では、強化繊維からなる織物に樹脂が含浸されてなる織物材を配置する。織物材では、経糸及び緯糸が交差している部分で強化繊維がクリンプしているため、芯材又は金型に角部が形成されていても、強化繊維が金型の内面形状に沿い易い。角部での賦型性が良好であり、角部でのボイドの発生が抑制された筒状体を成形することができる。曲げ剛性に優れた筒状体が得られる。
【0016】
また、成形基材配置工程の第1工程及び第3工程では、一方向材を配置して、織物材の内外に一方向材層を積層する。一方向材は、芯材の軸線に沿う方向に強化繊維が配向されるように積層する。そのため、成形された筒状体では、最内層及び最外層に一方向材層が形成されている。一方向材層が形成されていることにより、曲げ負荷が掛かった場合であっても、筒状体が完全に分断することが抑制される。曲げ剛性に優れるとともに、完全に分断することが抑制された筒状体を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、曲げ剛性に優れるとともに、完全に分断することが抑制された筒状体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態の筒状体である角パイプの斜視図。
【
図3】(a)~(c)は角パイプの変更例について説明する図。
【
図6】3点曲げ試験の結果について示す写真であり、(a)は実施例1の角パイプの写真、(b)は比較例2の角パイプの写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した筒状体の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の筒状体は、径方向断面が長方形状の角パイプ1である。車両の構造材としての筒状体には、例えば、径方向断面が矩形状の角パイプに限らず、径方向断面が丸形状の丸パイプや、異形状の異形パイプが存在する。また、直状に延びる筒状体だけでなく、湾曲して延びるような筒状体や、一部が屈曲して延びるような筒状体が存在する。
【0020】
本発明の筒状体は、上述のとおり、外周面に軸方向に延びる角部が形成された筒状体である。すなわち、本発明の筒状体には、丸パイプは含まれないが、角パイプ、異形パイプは含まれる。また、直状に延びる筒状体だけでなく、湾曲して延びるような筒状体や、一部が屈曲して延びるような筒状体も含まれる。本実施形態では、便宜上、径方向断面が長方形状で直状に延びる角パイプ1について説明する。
【0021】
本実施形態の角パイプ1は、径方向の長さの長い長側壁2と、径方向の長さの短い短側壁3を有している。長側壁2と短側壁3との境界部分には、角パイプ1の軸線に沿う方向に延びる角部4が形成されている。
【0022】
角パイプ1は、軸方向の長さが約700mm、長側壁2の径方向の長さが約50mm、短側壁3の径方向の長さが約30mmである。角パイプ1の長側壁2及び短側壁3の厚みtは、同程度である。その厚みtは、約0.8~3.0mm程度であることが好ましく、約1.2~2.2mm程度であることが好ましい。長側壁2及び短側壁3の厚みtがこの範囲であると、軽量でありながら、車両の構造材として必要な強度を備えることができる。
【0023】
図1に示すように、角パイプ1は、内層側から順に、内側一方向材層11、織物層12、外側一方向材層13が積層された筒状積層体として構成されている。内側一方向材層11、織物層12、外側一方向材層13は、繊維強化樹脂材料である成形基材から形成されている。内側一方向材層11及び外側一方向材層13は、一方向に配向された強化繊維に樹脂が含浸されてなる成形基材から形成されている。織物層12は、強化繊維からなる織物に樹脂が含浸されてなる複数枚の成形基材から形成されている。
【0024】
成形基材を構成する繊維強化樹脂材料の材質は特に限定されない。強化繊維、樹脂とも従来公知のものを使用することができる。強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等が挙げられる。また、樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。成形基材は、市販されている一方向材、織物材を適宜選択して使用することができる。
【0025】
内側一方向材層11及び外側一方向材層13では、強化繊維が角パイプ1の軸線に沿う方向に配向されている。内側一方向材層11を形成する一方向材の積層数は特に限定されないが、1層以上であればよい。同様に、外側一方向材層13を形成する一方向材の積層数も特に限定されないが、1層以上であればよい。
【0026】
角パイプ1の長側壁2及び短側壁3の厚みtに対する内側一方向材層11の厚みの割合は、例えば、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。同様に、角パイプ1の長側壁2及び短側壁3の厚みtに対する外側一方向材層13の厚みの割合は、例えば、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。内側一方向材層11及び外側一方向材層13の厚みの割合がこの範囲であると、角パイプ1に適度な曲げ剛性を付与することができるとともに、曲げ負荷が掛かった時に角パイプ1が完全に分断されることを抑制することができる。また、内側一方向材層11及び外側一方向材層13の厚みは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0027】
織物層12は、複数層が積層された積層構造を有している。織物層12を構成する織物は特に限定されない。平織、綾織、朱子織等、従来公知の織物から適宜選択することができる。複数層の織物層12では、織物層12を構成する織物がすべて同じ織り方であってもよく、異なる織り方のものの組み合わせであってもよい。
【0028】
織物層12では、織物を形成する強化繊維が経糸、緯糸となって織られており、経糸及び緯糸は、互いに直交する方向に延びている。織物層12では、経糸又は緯糸が、角パイプ1の軸線に沿う方向に配向されていてもよく、軸線に対して交差する方向に配向されていてもよい。また、複数層の織物層12では、すべての層で、経糸及び緯糸が同じ方向に延びるように積層されていてもよく、少なくとも一層で、異なる方向に延びるように積層されていてもよい。経糸又は緯糸が軸線に沿う方向に配向されていると、角パイプ1の曲げ剛性を向上させることができる。また、軸線に対して交差する方向、例えば、軸線に対して45゜を成す方向に配向されていると、角パイプ1の詰り剛性を向上させることができる。本実施形態の角パイプ1は、複数層の織物層12の一部の層で、経糸又は緯糸が、角パイプ1の軸線に沿う方向に配向されている。
【0029】
織物層12を形成する織物材の積層数は特に限定されない。例えば5層以上15層以下であることが好ましい。織物材の積層数がこの範囲であると、角パイプ1に適度な曲げ剛性を付与することができるとともに、角パイプ1を軽量化することができる。
【0030】
内側一方向材層11、織物層12、及び外側一方向材層13を構成する強化繊維は、引張弾性率が70GPa以上であることが好ましく、200GPa以上であることがより好ましい。繊維強化樹脂材料を構成する強化繊維がガラス繊維、アラミド繊維である場合には、引張弾性率が70GPa以上の高強度ガラス繊維、高強度アラミド繊維であることが好ましい。また、200GPa以上の引張弾性率が得られる点から、強化繊維が炭素繊維であることが好ましい。
【0031】
また、強化繊維の引張強度は、3000MPa以上であることが好ましく、3500MPa以上であることがより好ましい。繊維強化樹脂材料を構成する強化繊維がガラス繊維、アラミド繊維である場合には、引張強度が3000MPa以上の高強度ガラス繊維、高強度アラミド繊維であることが好ましい。また、3500MPa以上の引張強度が得られる点から、強化繊維が炭素繊維であることが好ましい。
【0032】
引張弾性率及び引張強度がこの範囲であると、引張強度に優れた角パイプ1が得られる。強化繊維の引張弾性率は、内側一方向材層11、織物層12、及び外側一方向材層13で同等であってもよく、異なっていてもよい。また、強化繊維の引張強度も、内側一方向材層11、織物層12、及び外側一方向材層13で同等であってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
本実施形態の角パイプ1は、径方向断面が長方形状であるため、対向する側壁は互いに平行に延びている。この場合、対向する一対の側壁のうち、一方の側壁と他方の側壁とで、強化繊維の引張弾性率、引張強度が異なるようにしてもよい。この場合の対向する側壁とは、例えば、車両の衝突時の曲げ負荷により、角パイプ1の軸線に沿う方向に配向された強化繊維が圧縮する側と引っ張られる側に配置される。引張側での引張強度を圧縮側での引張強度より高くすることで、角パイプ1の分断をより抑制することができる。
【0034】
<角パイプ1の製造方法について>
次に、角パイプ1の製造方法について説明する。以下では、炭素繊維に熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が含浸された成形基材により角パイプ1を製造する場合について説明する。
【0035】
図2に示すように、本実施形態の角パイプ1の製造方法は、金型50の内部に芯材としてのバッグ40が配置され、バッグ40の内部に過熱水蒸気を循環させる成形システムSを使用するハイドロフォーミング法による。
【0036】
本実施形態の成形システムSは、冷水循環装置20、温調循環装置30、バッグ40、及び金型50を備えている。成形システムSは、成形システムSを構成する装置間で、流体としての水を、状態変化させながら流通させるように構成されている。角パイプ1は、成形基材を金型50のキャビティ内に複数層積層し、金型50内で加熱硬化させて成形される。
【0037】
冷水循環装置20の内部には水が貯留されている。冷水循環装置20には供給ポンプ21が内蔵されており、供給ポンプ21の供給圧により冷水循環装置20から温調循環装置30に水が供給される。
【0038】
温調循環装置30は、加熱装置31、加圧ポンプ32、及び温度センサ33を備えている。加熱装置31では、冷水循環装置20から供給された水を100℃以上に加熱して、過熱水蒸気を生成する。加圧ポンプ32は、加熱装置31で生成された過熱水蒸気をバッグ40に供給する際の供給圧を調節する。加圧ポンプ32には、過熱水蒸気の供給圧を調節する図示しない圧力調節手段が設けられている。温度センサ33は、加熱装置31で生成された過熱水蒸気の温度を検出する。
【0039】
バッグ40は、成形に先立って金型50の内部に配置される。金型50は、型締めによって角パイプ1の外殻形状を形成し、成形時には成形基材が配置される。また、成形時には、バッグ40の内部に、加熱装置31で生成された過熱水蒸気が加圧ポンプ32を介して供給されるとともに、温調循環装置30との間で過熱水蒸気が循環される。そのため、バッグ40は、耐熱性及び可撓性に優れた合成樹脂で筒状に形成されている。
【0040】
角パイプ1の製造方法は、金型50のキャビティ内に繊維強化樹脂製の成形基材を配置する成形基材配置工程、金型50内にバッグ40を配置して型締めする型締め工程、成形システムSにより成形基材を加熱して角パイプ1を成形する成形工程、成形システムSを終了する終了工程、及び角パイプ1を取り出す後工程を備えている。
【0041】
成形基材配置工程では、下型のキャビティ内に成形基材を配置する。このとき、まず、角パイプ1の外側一方向材層13を形成する一方向材を配置する。一方向材は、金型50のキャビティの長手方向に強化繊維が沿うようにして配置する。つまり、芯材となるバッグ40の軸線に沿う方向に強化繊維が配向されるように配置する。続いて、角パイプ1の織物層12を形成する織物材を複数枚配置する。織物材は、複数枚の織物材のうち、少なくとも一枚の織物材の経糸又は緯糸が、キャビティの長手方向に沿うようにして配置する。続いて、角パイプ1の内側一方向材層11を形成する一方向材を配置する。一方向材は、金型50のキャビティの長手方向に強化繊維が沿うようにして配置する。本実施形態では、外側一方向材層13を形成する一方向材を配置する工程が、請求項で言う第1工程である。また、織物層12を形成する織物材を複数枚配置する工程が、請求項で言う第2工程である。そして、内側一方向材層11を形成する一方向材を配置する工程が、請求項で言う第3工程である。
【0042】
型締め工程では、下型のキャビティ内に配置された成形基材の上にバッグ40を配置して、バッグ40の周囲を成形基材で包み込むようにする。下型の上に上型を取り付けて型締めする。
【0043】
成形工程に先立って、成形システムSを起動する。成形システムSの供給ポンプ21及び加圧ポンプ32をONにするとともに、加熱装置31における冷水循環装置30側の流体通路に設けられた排出口31aを開放する。このとき、加熱装置31での加熱は行わない。供給ポンプ21の供給圧によって冷水循環装置30内の水が加熱装置31に供給されるとともに、加圧ポンプ32の供給圧によって加熱装置31内の水がバッグ40内に供給される。また、バッグ40の水は、加熱装置31を介して冷水循環装置20へ戻る。これにより、冷水循環装置20、温調循環装置30、金型50内のバッグ40との間で流体が循環する第1ルートR1が形成される。冷水循環装置20から供給された水は第1ルートR1で循環することにより、成形前に、温調循環装置30の内部やバッグ40の内部、或いは、冷水循環装置20、温調循環装置30、及びバッグ40を繋ぐ流体通路の内部が水で充填される。これにより、流体通路等の内部に存在していた空気が排除される。
【0044】
成形工程では、供給ポンプ21をOFFにするとともに、加熱装置31における冷水循環装置20側の流体通路に設けられた排出口31aを閉塞する。これにより、加熱装置31内の流体が加圧ポンプ32の供給圧によってバッグ40内に供給され、温調循環装置30と金型50内のバッグ40との間で流体が循環する第2ルートR2が形成される。成形工程は、第2ルートR2を選択して行う。
【0045】
成形工程では、まず、第2ルートR2上の加圧ポンプ32をOFFにする。この状態で加熱装置31での加熱を開始し、加熱装置31内の水から所定温度、所定圧力の過熱水蒸気を生成する。過熱水蒸気の温度は、繊維強化樹脂製の成形基材を構成する熱硬化性樹脂の熱硬化温度より少し高い温度とされている。
【0046】
加熱装置31内の過熱水蒸気が所定温度に達したら、加圧ポンプ32をONにして、過熱水蒸気をバッグ40内へ供給するとともに、第2ルートR2を介して過熱水蒸気を循環させる。過熱水蒸気が供給されたバッグ40では、過熱水蒸気の圧力によって内圧が高まって、成形基材を金型50のキャビティの内面に押し付ける。また、過熱水蒸気の熱によって成形基材を構成するエポキシ樹脂が熱硬化を始める。
【0047】
加熱装置21内の過熱水蒸気の温度は、一定時間ごとに温度センサ33で検出された過熱水蒸気の温度を検出値に基づいて調節される。検出値が過熱水蒸気の目標値より低いと判断された場合には、加熱装置31での加熱を続行する。検出値が目標値より高いと判断された場合には、一時的に第1ルートR1を選択して冷水循環装置20から温調循環装置30への水の供給によって過熱水蒸気の温度を調節する。
【0048】
成形工程により、金型50内では、成形基材を構成するエポキシ樹脂が熱硬化して角パイプ1が成形される。過熱水蒸気による高い圧力によって成形基材が金型50のキャビティ内面に押し付けられるため、複数層の成形基材の間に隙間が形成することが抑制される。成形された角パイプ1にボイドが発生することが抑制される。
【0049】
成形システムSを終了する終了工程では、成形システムSでの第1ルートR1を選択する。供給ポンプ21及び加圧ポンプ32をONにするとともに、加熱装置31における冷水循環装置20側の流体通路に設けられた排出口31aを開放する。加熱装置31、バッグ40、及び第2ルートR2の流体通路内に存在する過熱水蒸気は、加熱装置31の排出口31aから排出されて、冷水循環装置20に運ばれる。過熱水蒸気は、冷水循環装置20までの流体通路内で徐々に排熱して温度が低下し、冷水循環装置20では、冷水循環装置20内の水と適宜混合して外部に排出される。
【0050】
後工程では、金型50を型開きして、金型50の内部から、バッグ40とともに角パイプ1を取り出す。必要に応じて、角パイプ1の内部からバッグ40を取り除くか、或いは、角パイプ1の両端縁でバッグ40を切り落とすことにより、角パイプ1が得られる。
【0051】
<角パイプ1の作用について>
次に、本実施形態の筒状態である角パイプ1の作用について説明する。
角パイプ1は、径方向断面が長方形状である。長側壁2と短側壁3との境界部分には、角パイプ1の軸線に沿って延びる角部4が形成されている。
【0052】
角パイプ1の中間層には、成形基材としての複数層の織物材からなる織物層12が形成されている。本実施形態の角パイプ1の織物層12は、複数層のうちの一部の層で、織物材を構成する強化繊維が、角パイプ1の軸線に沿う方向と軸線に直交する方向に配向されている。この層では、角パイプ1の軸線に直交する方向に配向される強化繊維が、織物材由来であるため、角パイプ1の角部4では、強化繊維が角部4の形状に沿うように賦形されている。そのため、複数の織物材の積層間に空隙が生じることが抑制されて、角パイプ1の角部4のボイドが抑制されている。また、角部4での賦形性が良好であるため、織物材を構成する樹脂が角部4に溜まることが抑制され、角パイプ1全体での樹脂量の偏りが抑制されている。
【0053】
角パイプ1の内層及び外層には、成形基材としての一方向材からなる内側一方向材層11及び外側一方向材層13が形成されている。内側一方向材層11及び外側一方向材層13では、一方向材を構成する強化繊維が、角パイプ1の軸線に沿う方向に配向されている。そのため、角パイプ1に曲げ剛性が付与されて、曲げ負荷に対して強度が向上している。また、角パイプ1の内外層に一方向材が積層されているため、大きな曲げ負荷が掛かったときに角パイプ1が破断し始めたとしても、一方向材の存在によって完全な分断が抑制される。
【0054】
次に、本実施形態の角パイプ1及びその製造方法の効果について説明する。
(1)本実施形態の角パイプ1は、車両の構造材として使用される筒状体である。そして、角パイプ1の側壁の厚み方向中間部分には、織物材からなる織物層12が複数層積層されている。
【0055】
そのため、強化繊維が角パイプ1の角部4の形状に沿い易く、角部4でのボイドの発生が抑制されている。これにより、ボイドが角パイプ1の破断の起点になることが抑制される。角パイプ1の曲げ剛性を向上させることができる。
【0056】
(2)織物層12の内外には、一方向材からなる内側一方向材層11及び外側一方向材層13が積層されている。内側一方向材層11及び外側一方向材層13では、強化繊維が角パイプ1の軸線に沿う方向に延びている。
【0057】
そのため、角パイプ1の曲げ剛性を向上させることができる。また、一方向材層11,13が織物層12の内外に積層されていることで、角パイプ1に対して強い曲げ負荷が掛かっても、角パイプ1が完全に分断することが抑制される。これにより、車両の衝突時等に車両構造材としての筒状体が分断した場合に、分断した角パイプが予期せぬ箇所に突き刺さるといった事態を回避することができる。
【0058】
(3)織物層12を備えていることにより、角パイプ1の角部4での賦型性が良好になり、角部4での過度な樹脂だまりの発生が抑制される。均質で安定した性状の角パイプ1が得られる。
【0059】
(4)本実施形態の角パイプ1では、織物層12の一部の層で、経糸又は緯糸が、角パイプ1の軸線に沿う方向に配向されている。
そのため、強化繊維が角パイプ1の軸線に沿う方向に配向された織物層12によって、曲げ剛性が向上する。
【0060】
(5)角パイプ1の製造方法は、成形基材をバッグ40の周囲に配置する成形基材配置工程と、成形基材を金型50内で加熱する成形工程とを備えている。成形基材配置工程は、織物材を金型50のキャビティ内に配置している。
【0061】
そのため、角パイプ1の軸線に沿う方向に強化繊維が配向された成形基材と、軸線に直交する方向に強化繊維が配向された成形基材とを位置合わせする必要がない。一方向材のみで角パイプ1を成形する場合に比べて、強化繊維の位置合わせを容易に行うことができる。
【0062】
(6)成形基材配置工程では、成形基材としての織物材を配置している。
そのため、しなやかな織物により、強化繊維がキャビティ内の角部に沿い易い。角部での賦型性が良好となり、角パイプ1の角部4でのボイドの発生を抑制することができる。
【0063】
(7)織物材では、経糸と緯糸が織られて一枚の成形基材として形成されている。
そのため、一方向材を積層する場合に比べて、直交する強化繊維の層間での滑りが抑制される。成形基材配置工程を簡略化することができる。
【0064】
(8)本実施形態では、ハイドロフォーミング法により角パイプ1を成形している。
そのため、角パイプ1の成形に必要な温度が得られるだけでなく、バッグ40内に過熱水蒸気に基づく高い圧力を付与することができる。成形基材をより強い押圧力で金型50の内面に押し付けることができる。これにより、複数層の成形基材の層間に隙間が発生することが抑制され、角パイプ1にボイドが発生することが抑制される。曲げ剛性に優れた角パイプ1を製造することができる。
【0065】
(9)温調循環装置30は、過熱水蒸気を生成する加熱装置31と過熱水蒸気の温度を検出する温度センサ33を備えている。温度センサ33で過熱水蒸気の温度を検出して、その検出値に基づいて、加熱装置31内の過熱水蒸気の温度を調節している。
【0066】
そのため、成形温度、成形圧力の変動が抑制された状態で、所望の温度、圧力の過熱水蒸気を常にバッグ40内に供給することができる。
(10)上記実施形態の成形システムSは、温調循環装置30との間で流体を循環させる冷水循環装置20を備えている。
【0067】
そのため、成形開始時には、温調循環装置30を介して冷水循環装置20とバッグ40との間で水を循環させることができるため、成形前に、各装置の内部や流体通路の内部を水で充填することができる。また、成形終了時には、成形工程で発生させた過熱水蒸気を、冷水循環装置20内の水とともに外部へ排出させることができる。このように、成形開始時の流体の供給や、成形終了時の流体の排出を容易に行うことができる。
【0068】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0069】
・上記実施形態では、筒状体として径方向断面が長形状の角パイプ1について説明したが、筒状体の形状はこれに限定されない。
図3(a)に示すように、径方向断面が台形状であってもよい。
図3(b)に示すように、径方向断面が不定形な五角形状であってもよい。また、
図3(c)に示すように、側壁の一部が曲面で構成され、径方向断面が直線と曲線が連接された形状であってもよい。他に、警報以降断面が多角形であってよい。
【0070】
筒状体の径方向断面において、角部4の角度が鋭角や、鋭角に近いほど、中間層に織物層12を積層している効果が出やすい。つまり、鋭角であったり、鋭角に近いほど、一方向材で成形した筒状体では、角部4にボイドが形成されやすい一方、織物材で成形することによりボイドの発生を抑制する効果が顕著となる。
【0071】
・角パイプ1の製造方法は、ハイドロフォーミング法に限定されない。例えば、芯材としてのマンドレルに、成形基材を複数層巻き付け、金型内で加熱硬化させる方法で行ってもよい。この場合、まず、内側一方向材層11となる一方向材をマンドレルに巻き付ける。続いて、内側一方向材層11となる一方向材の外側に、織物層12となる織物材を複数層巻き付ける。続いて、織物層12となる織物材の外側に、外側一方向材層13となる一方向材を巻き付ける。これを金型内に配置して型締めし、所定温度で所定時間加熱硬化させる。金型内から取り出してマンドレルを脱芯すると筒状体が得られる。
【0072】
この場合、内側一方向材層11となる一方向材を巻き付ける工程が、請求項で言う第1工程である。また、織物層12となる織物材を複数層巻き付ける工程が、請求項で言う第2工程である。そして、外側一方向材層13となる一方向材を巻き付ける工程が、請求項で言う第3工程である。
【0073】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)金型のキャビティ内に繊維強化樹脂製の成形基材を配置する成形基材配置工程と、前記金型の内部にバッグを配置して型締めする型締め工程と、前記バッグに過熱水蒸気を供給して、前記バッグからの熱及び圧力によって前記成形基材を前記金型の内面に押し当てながら加熱する成形工程を備えていることを特徴とする筒状体の成形方法。
【0074】
(ロ)加熱装置内で水を加熱して過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成工程を備え、前記成形工程では、前記加熱装置と前記バッグとの間で過熱水蒸気を循環させることを特徴とする前記(イ)に記載の中空成形品の成形方法。
【実施例】
【0075】
本発明の筒状体の実施例について説明する。
<筒状体の成形>
(実施例1)
上記ハイドロフォーミング法に従って筒状体としての角パイプ1を成形した。角パイプ1は、径方向断面が28mm×48mmの長方形状であり、長さが700mmの直状筒体である。内側一方向材層11及び外側一方向材層13の一方向材は、強化繊維の配向方向が角パイプ1の軸線に沿う方向となるように、それぞれ1層積層した。一方向材は、炭素繊維にエポキシ樹脂が含浸されたシート状基材であるシートプリプレグ(P3252S-10、東レ株式会社製)を使用した。
【0076】
織物層12の織物材は、角パイプ1の外側から順に、強化繊維の配向方向が角パイプ1の軸線に対して±45°で交差するように2層、角パイプ1の軸線に対して0°/90°となる方向となるように1層、角パイプ1の軸線に対して±45°で交差するように2層積層した。いずれの層の織物材も、炭素繊維にエポキシ樹脂が含浸されたシート状基材であるシートプリプレグ(F6343B-05P、東レ株式会社製)を使用した。
【0077】
内側一方向材層11、織物層12、及び外側一方向材層13の各層の成形基材の種類、側壁の厚みt(mm)、角パイプ1の軸線に対する強化繊維の配向角度(゜)は表1に示したとおりである。角パイプ1の側壁の厚みtは1.55mmであった。このようにして得られた角パイプ1を実施例1とした。
【0078】
【表1】
(比較例1)
成形基材としてすべて一方向材を使用した以外は、実施例1の角パイプ1と同様に成形した。一方向材は、強化繊維の配向方向が角パイプ1の軸線に対して沿う方向、直交する方向、45°交差する方向となるように、14層積層した。一方向材は、すべて、炭素繊維にエポキシ樹脂が含浸されたシート状基材であるシートプリプレグ(P3252S-10、東レ株式会社製)を使用した。各層の成形基材の種類、側壁の厚みt(mm)、角パイプ1の軸線に対する強化繊維の配向角度(゜)は表2に示したとおりである。角パイプ1の側壁の厚みtは1.60mmであった。このようにして得られた角パイプ1を比較例1とした。
【0079】
【表2】
(比較例2)
成形基材としてすべて織物材を使用した以外は、実施例1の角パイプ1と同様に成形した。織物材は、強化繊維の配向方向が角パイプ1の軸線に対して0゜及び90゜となる方向、±45゜となる方向に、7層積層した。織物材は、すべて、炭素繊維にエポキシ樹脂が含浸されたシート状基材であるシートプリプレグ(F6343B-05P、東レ株式会社製)を使用した。各層の成形基材の種類、側壁の厚みt(mm)、角パイプ1の軸線に対する強化繊維の配向角度(゜)は表3に示したとおりである。角パイプ1の側壁の厚みtは1.80mmであった。このようにして得られた角パイプ1を比較例2とした。
【0080】
【表3】
<曲げ剛性の評価>
実施例1、比較例1,2の角パイプ1について、3点曲げ試験を行って曲げ剛性を評価した。3点曲げ試験は、JIS K 7074に準じて行った。
【0081】
図4に示すように、角パイプ1を、2箇所の支点61、62で支えた。支点61、62の間の距離は500mmに設定した。角パイプ1は、長側壁2が上下方向に沿うように支持した。角パイプ1の長手方向中央位置の上部から圧子63で押圧し、角パイプ1に対する曲げ負荷(N)と角パイプ1のたわみ量(mm)を測定した。測定は、角パイプ1が破断し始めたのちも続けて、角パイプ1が最終的に分断されるか否かを確認した。
【0082】
実施例1、比較例1、2の各角パイプ1の曲げ荷重(N)に対するたわみ(mm)曲線を、
図5に示した。また、曲げ剛性の評価後の実施例1、比較例2の角パイプ1の外観写真を
図6に示した。
図6(a)が実施例1の角パイプ1の外観、
図6(b)が比較例2の角パイプ1の外観である。
【0083】
図5の結果より、成形基材としてすべて一方向材を使用した比較例1の角パイプ1は、他の角パイプ1に比べて曲げ剛性が低かった。また、成形基材としてすべて織物材を使用した比較例2の角パイプ1は、比較例1の角パイプ1に比べて曲げ剛性が高かった。しかし、たわみ量が一定値になると、曲げ荷重が一気にゼロになった。このとき、
図6(b)に示すように、比較例2の角パイプ1は完全に分断された状態となっていた。
【0084】
一方、成形基材として織物層12の内外に一方向材層11、13が積層された実施例1の角パイプ1では、比較例1の角パイプ1より曲げ剛性は高いものの、比較例2の角パイプ1より曲げ剛性は低かった。これは、比較例2の角パイプ1の側壁の厚みtが1.80mmであるのに対し、実施例1の角パイプ1の側壁の厚みtが1.55mmと薄いことによると考えられる。この点、曲げ荷重をそれぞれの側壁の厚みtで割った値で比較すると、実施例1の角パイプ1は、比較例2の角パイプ1と同等の曲げ剛性であることがわかった。
【0085】
また、実施例1の角パイプ1は、たわみ量が一定以上になって曲げ荷重が低下しても、一気にゼロにはならず、一定の曲げ荷重で推移した。このとき、
図6(a)に示すように、実施例1の角パイプ1は完全に分断されず、破断箇所を跨いで繋がった状態が維持されていた。
【符号の説明】
【0086】
1…角パイプ(筒状体、筒状積層体)
2…短側壁
3…長側壁
4…角部
11…内側一方向材層
12…織物層
13…外側一方向材層