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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】直動案内ユニット
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/06 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
F16C29/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021100500
(22)【出願日】2021-06-16
(65)【公開番号】P2022191958
(43)【公開日】2022-12-28
【審査請求日】2024-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊道
(72)【発明者】
【氏名】岩田 保
(72)【発明者】
【氏名】山田 和希
(72)【発明者】
【氏名】大辻 康博
(72)【発明者】
【氏名】山崎 隼弥
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-053518(JP,U)
【文献】特開2004-052792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/00-31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に互いに平行に延びる一対の第1軌道溝を有するレールと、
前記レールに相対移動可能に跨架し、かつ、前記一対の第1軌道溝のそれぞれに対向する一対の第2軌道溝を有するスライダと、
複数の転動体と、を備え、
前記レールと前記スライダとによって、前記複数の転動体がその内部を循環する環状路が形成されている、直動案内ユニットであって、
前記環状路は、
前記第1軌道溝と前記第2軌道溝とから形成される軌道路と、
前記スライダ内に形成され、前記軌道路と並行する第1循環路と、
前記スライダ内に形成され、前記軌道路と前記第1循環路とを接続する2つの第2循環路と、を含み、
前記直動案内ユニットにおいて、前記スライダの前記第2軌道溝は、前記スライダのケーシングに形成されており、
前記第2軌道溝は、前記スライダの長さ方向に延びる第1軌道面と、前記第1軌道面と対向して前記スライダの長さ方向に延びる第2軌道面と、を有し、
前記第1軌道面は、前記ケーシングの一方端から他方端まで長さ方向にわたって同一の曲率および同一幅で直線的に延在し、
前記第2軌道面は、
前記ケーシングの長さ方向における中央部を含む第1部分と、
前記ケーシングの長さ方向における両端部を含み、前記第1部分と壁面形状が異なる第2部分と、を含み、
前記第1部分において、前記第1軌道面と前記第2軌道面とは互いに対称に形成されたゴシックアーチ溝を形成しており、
前記第2部分において、前記第2軌道面は、前記第1軌道面と対称である位置よりも後退した面を有している、
直動案内ユニット。
【請求項2】
前記第2部分における前記第1軌道面および前記第2軌道面は、
前記第1部分における前記第1軌道面および前記第2軌道面よりも、それぞれ、後退した面とされている、
請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記第2部分は、前記ケーシングの端から3mm~6mmの領域である、請求項1または請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記第1部分において、
前記第1軌道溝を構成する第3軌道面および第4軌道面と前記転動体との接触角θは、前記第2軌道溝を構成する前記第1軌道面および前記第2軌道面と前記転動体との接触角θよりも大きい、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記接触角θは、前記接触角θよりも、2°から10°大きい、請求項に記載の直動案内ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
直動案内ユニットにおいては、レールとスライダのそれぞれに転動溝が設けられ、レールの転動溝とスライダの転動溝とが対向して形成される経路の中を、転動体が転走する。従来、転動溝を構成する壁面の形状が検討されている。例えば特許文献1には、スライダに形成されるゴシックアーチ溝に関して、軸方向の中央部と両端部とで壁面の形状が異なるものとすることが記載されている。特許文献1の直動案内ユニットにおいて、スライダの中央部では、ゴシックアーチ溝の上下軌道面の両方がボールと接触するボール転動面とされている。一方、スライダの両端部においては、上下軌道面のうちの一方のみにボールが接触するように、スライダのゴシックアーチ溝の頂点が、レールの転動溝の頂点に対してオフセットされている。
【0003】
特許文献2には、直動案内ユニットにおいて、スライダのエンドキャップ内に形成される方向転換路を構成する壁面の形状を連続的に変化させることが記載されている。具体的には、方向転換路への進入部では円形断面の壁面として接触角0°、方向転換路の中央部では外周壁面との接触角を60°とし、方向転換路の出口付近では接触角を45°とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平2-53518号公報
【文献】特許第3964926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直動案内ユニットは様々な設置態様で使用される。ところが、設置の向きによっては摺動の不具合が生じやすくなることがあった。そこで、本発明は、直動案内ユニットの設置態様に関わらず、特に、直動案内ユニットを横置きする場合にも、摺動における不具合の発生が抑制される直動案内ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った直動案内ユニットは、長手方向に互いに平行に延びる一対の第1軌道溝を有するレールと、前記レールに相対移動可能に跨架し、かつ、前記一対の第1軌道溝のそれぞれに対向する一対の第2軌道溝を有するスライダと、複数の転動体と、を備え、前記レールと前記スライダとによって、前記複数の転動体がその内部を循環する環状路が形成されている。前記直動案内ユニットにおいて、前記環状路は、前記第1軌道溝と前記第2軌道溝とから形成される軌道路と、前記スライダ内に形成され、前記軌道路と並行する第1循環路と、前記スライダ内に形成され、前記軌道路と前記第1循環路とを接続する2つの第2循環路と、を含む。前記直動案内ユニットにおいて、前記スライダの前記第2軌道溝は、前記スライダのケーシングに形成されており、前記第2軌道溝は、前記スライダの長さ方向に延びる第1軌道面と、前記第1軌道面と対向して前記スライダの長さ方向に延びる第2軌道面と、を有する。前記第2軌道面は、前記ケーシングの長さ方向における中央部を含む第1部分と、前記ケーシングの長さ方向における両端部を含み、前記第1部分と壁面形状が異なる第2部分と、を含む。前記第1部分において、前記第1軌道面と前記第2軌道面とは互いに対称に形成されたゴシックアーチ溝を形成している。前記第2部分において、前記第2軌道面は、前記第1軌道面と対称である位置よりも後退した面を有している。
【発明の効果】
【0007】
上記直動案内ユニットによれば、直動案内ユニットの設置態様に関わらず摺動における不具合の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1における直動案内ユニットの構造を示す斜視図である。
図2図2は、実施の形態1における直動案内ユニットの構造を示す断面図である。
図3図3は、実施の形態1におけるスライダの構造を示す分解斜視図である。
図4図4は、実施の形態1におけるスライダのケーシングを示す斜視図である。
図5図5は、図4におけるA-A断面図である。
図6図6は、図5の一部を拡大して示す図およびその断面の一部を拡大する模式図である。
図7図7は、本開示にかかるスライダのケーシングの端部形状の変形例を示す模式図である。
図8図8は、図3から一部の構造を除き、一部を拡大して示す図である。
図9図9は、実施の形態1のケーシングの端部における断面模式図である。
図10図10は、実施の形態1のケーシングの中央部における断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示の直動案内ユニットは、長手方向に互いに平行に延びる一対の第1軌道溝を有するレールと、前記レールに相対移動可能に跨架し、かつ、前記一対の第1軌道溝のそれぞれに対向する一対の第2軌道溝を有するスライダと、複数の転動体と、を備え、前記レールと前記スライダとによって、前記複数の転動体がその内部を循環する環状路が形成されている。前記直動案内ユニットにおいて、前記環状路は、前記第1軌道溝と前記第2軌道溝とから形成される軌道路と、前記スライダ内に形成され、前記軌道路と並行する第1循環路と、前記スライダ内に形成され、前記軌道路と前記第1循環路とを接続する2つの第2循環路と、を含む。前記直動案内ユニットにおいて、前記スライダの前記第2軌道溝は、前記スライダのケーシングに形成されており、前記第2軌道溝は、前記スライダの長さ方向に延びる第1軌道面と、前記第1軌道面と対向して前記スライダの長さ方向に延びる第2軌道面と、を有する。前記第2軌道面は、前記ケーシングの長さ方向における中央部を含む第1部分と、前記ケーシングの長さ方向における両端部を含み、前記第1部分と壁面形状が異なる第2部分と、を含む。前記第1部分において、前記第1軌道面と前記第2軌道面とは互いに対称に形成されたゴシックアーチ溝を形成している。前記第2部分において、前記第2軌道面は、前記第1軌道面と対称である位置よりも後退した面を有している。
【0010】
直動案内ユニットの設置姿勢の一つとして、レールの両側にあるボール循環経路が、互いに上下に位置するように設置する姿勢がある。この姿勢を、横置きや横向き姿勢という。従来、直動案内ユニットを横置きする場合、スライダの摺動不良が生じることがあった。スライダの摺動不良が分析され、次の事象が原因の一つとなることが見出された。すなわち、直動案内ユニットを横置きする場合、転動体の軌道路および循環路が水平方向に延びるのに対して、それらを接続する方向転換路は鉛直方向に延在する。このため、上方に位置する循環路から方向転換路に進入した転動体は、方向転換路の中で自重落下する。自重落下によって転動体は加速する。この加速した転動体が負荷域である軌道路に次々と進入すると、転動体同士の適正な間隔が失われてしまう。これらによって、軌道路内で転動体の競り合いや転動体の詰まりが生じ、スライダの摺動不良につながると考えられた。
【0011】
そこで、軌道路における転動体の競り合いを抑制することが検討された。そして、方向転換路から軌道路に進入する位置に、転動体の転走を調整する走行調整部分を設けて、走行調整部分を転走する転動体と軌道路を転走する転動体との間に速度差を生み出すことが着想された。検討の結果、走行調整部分では転動体と軌道とを2点接触(以下、サーキュラー接触ということもある。)とし、他の軌道部分では4点接触(以下、ゴシック接触ということもある。)させることが構想された。そして、具体的な構成として、スライダのケーシングに形成されるゴシックアーチ溝において、ケーシング中央部では上下軌道面が対称なゴシックアーチ溝とし、ケーシング両端部では上下軌道面の一方を除去加工して他方面よりも後退した面を形成することが見出された。
【0012】
本開示の直動案内ユニットは、軌道路の端部において、軌道面の一部が逃げ面とされており、転動体は軌道面に対してサーキュラー接触しながら転走する。一方、軌道路の端部以外では、転動体は軌道面に対してゴシック接触しながら転走する。ゴシック接触部における転動体の転走速度は、サーキュラー接触部における転走速度よりも相対的に速い。このため、軌道路の端部を転走する転動体と、その先を走行する転動体との間に適切な間隔が確保され、転動体同士の衝突、競り合いが防止される。
【0013】
本開示の直動案内ユニットによれば、直動案内ユニットの設置方向によらず、特に、直動案内ユニットを横置きした場合でも摺動不良が生じ難く、直動案内ユニットのスムーズな動作が実現される。また、本開示の直動案内ユニットは、ケーシングに形成される軌道溝の一部を除去加工するというシンプルな方法によって作製が可能である。このため、複雑な手法によることがなく、品質の安定した直動案内ユニットを合理的なコストで作成することが可能である。
【0014】
前記の直動案内ユニットにおいて、前記第1軌道面は、前記ケーシングの長さ方向にわたって同じ形状であるものとできる。この構成は、ケーシングにおける上下2つの軌道面のうちの一方のみを加工することにより得られる。このため、摺動安定性に優れるとともに、品質のぶれが少ない直動案内ユニットを合理的なコストで提供できる。
【0015】
前記の直動案内ユニットにおいて、前記第2部分における前記第1軌道面および前記第2軌道面は、前記第1部分における前記第1軌道面および前記第2軌道面よりも、それぞれ、後退した面とされてもよい。第2部分(両端部分)は第1部分(中央部分)よりも上下軌道面ともに後退した面とするとともに、第2部分において第2軌道面は第1軌道面よりも後退した面とすることによって、第2部分において転動体をサーキュラー接触させる効果がより高くなる。
【0016】
前記の直動案内ユニットにおいて、前記第2転走面の前記第2部分は、前記ケーシングの端から3mm~6mmの領域であるものとできる。この構成によれば、摺動安定性に優れるという効果を得られるとともに、転動体が軌道路に対してゴシック接触しながら転走する負荷領域を充分確保することができるため、直動案内ユニットの走行安定性に優れる。
【0017】
前記の直動案内ユニットにおいて、前記第1部分において、前記第1転走溝を構成する第3軌道面および第4軌道面と前記転動体との接触角θは、前記第2転走溝を構成する前記第1軌道面および前記第2軌道面と前記転動体との接触角θよりも大きいものとできる。すなわち、θ>θである。この構成によれば、第2部分を転走する転動体と第1部分を転走する転動体の速度差を確実に生じさせることができる。このため、転走する転動体の間隔が確実に生じることとなり、転動体の競り合い等に起因する摺動不良を抑制する効果が高い。
【0018】
前記の直動案内ユニットにおいて、前記接触角θは、前記接触角θよりも2°から10°程度大きいものとできる。この構成によれば、転動体の転走を調整して転動体同士の間隔を保ち、かつ、転動体の走行を妨げることがなく、直動案内ユニットのスムーズな動作を実現できる。
【0019】
[実施形態の具体例]
次に、本開示の直動案内ユニットの具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。なお、理解容易のために、図面において一部の構成をデフォルメして記載していることがある。各図面は必ずしも実際の寸法を反映するものではない。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本開示の一実施形態における直動案内ユニット1の構造を示す斜視図である。図1において、X軸は直動案内ユニット1の幅方向、Y軸方向は直動案内ユニット1(レール10)の長さ方向、Z軸は直動案内ユニット1の厚み方向である。図2は、図1の直動案内ユニット1をZ軸に直交する平面において切断した状態を示す断面図である。
【0021】
図1図2を参照して、直動案内ユニット1は、レール10と、スライダ100と、転動体である複数のボール200と、を備える。直動案内ユニット1は、ボール200が無限循環する環状路400を有する。環状路400は、レール10とスライダ100とが対向して形成される軌道路102と、軌道路102と並行し、スライダ100内に形成される第1循環路としての循環路103と、第2循環路としての2つの方向転換路104と、から構成される。具体的な寸法は制限されないが、一例として、実施の形態1においては、環状路の長さは約100mmである。また、ボール200の直径は3mmであり、環状路32個のボール200が封入されている。環状路の長さやボールの大きさ、数はこれらに制限されず、例えば、環状路は20~1000mm程度とすることができ、ボール(転動体)として例えば直径が0.4~13mm程度のものを10~60個程度、用いることができる。
【0022】
図1を参照して、レール10には、直動案内ユニット1を取り付ける相手部材を固定するための取り付け孔11が形成されている。レール10には、長さ方向の両側面に一対の第1軌道溝21が形成されている。第1軌道溝21は、レール10の長さ方向に形成された凹溝である。第1軌道溝21の凹形状は、レール10の全長にわたって同一である。つまり、第1軌道溝21を構成する側壁の形状および角度、溝の深さは、第1軌道溝21の全長にわたって一定である。第1軌道溝21は、第3軌道面としての上側軌道面212と、第4軌道面としての下側軌道面211と、を含む。下側軌道面211、上側軌道面212の、長さ方向に垂直な断面を見るときの壁面の断面形状は、それぞれ円弧の一部をなす曲線である。下側軌道面211、上側軌道面212の壁面形状は、転動体200との接触角を考慮して決めることができる。実施の形態1においては、下側軌道面211および上側軌道面212と転動体200との接触角θ図10)が52°となるよう設定されている。下側軌道面211と上側軌道面212の間には、保持バンド150(図8)を収容する、保持バンド溝221が設けられている。
【0023】
スライダ100は、レール10に跨架されている。レール10とスライダ100は互いに摺動自在である。スライダ100は、上部と、上部の両側から垂下した袖部と、から構成される。スライダ100の上部には、ワークや機器等の相手部材を取付るための取付け用のねじ穴である穴101が複数形成されている。
【0024】
図2を参照して、スライダ100の内部には、循環路103と、循環路103の両端にそれぞれ連続する2つの方向転換路104とが形成されている。また、スライダ100のケーシング110において、レール10と対向する面に、第2軌道溝22(図4)が形成されている。レール10の第1軌道溝21と、スライダ100の第2軌道溝22とが対向して、それらの間に軌道路102が形成される。軌道路102および循環路103はいずれも、レール10の長さ方向に沿う直線状の管路である。方向転換路104は、弧状の管路である。方向転換路104は、軌道路102と循環路103とを連結する。軌道路102、循環路103およびそれらを連結する方向転換路104によって、無端の環状路400が形成される。直動案内ユニット1は、環状路に封入されたボール200が環状路の中を無限循環する、無限循環式の直動案内ユニットである。スライダ100がレール10の上を移動するとき、ボール200が転動することによって、スライダ100はレール10上を摺動する。
【0025】
図3は、スライダ100とその関連部品の構造を示す分解斜視図である。図3を参照して、スライダ100は、ケーシング110と、ケーシング110の長さ方向両端面に取付られたエンドキャップ120と、ケーシング110とエンドキャップ120の間に挿入されたスペーサ130と、エンドキャップ120の外側の端面に装着されたエンドシール140と、を有する。固定用ボルト61が、エンドシール140の貫通穴143、エンドキャップ120の貫通穴123、スペーサの貫通穴133に挿通されて、ケーシング110のねじ穴113に挿入されることによって、ケーシング110、スペーサ130、エンドキャップ120、エンドシール140が互いに固定される。
【0026】
エンドキャップ120は、方向転換路104の外周壁面である、外周壁125を含む。外周壁125は、スペーサ130の内周壁132と対向して、方向転換路104を形成する。外周壁125の上部には、位置決めのための凹部124が形成されている。凹部124は、スペーサ130の突部136と嵌合する。凹部124とスペーサ130の突部136とが組み合わされて、エンドキャップ120とスペーサ130とが密着すると、弧状の経路である方向転換路104が形成される。外周壁125は、その内方端(軌道路102に連続する端)に、軌道路102に沿う方向に突出するすくい爪126を有する。すくい爪126は、レール10の第1軌道溝21(図1)に適合する。
【0027】
エンドキャップ120は、スペーサ130と対向する側の面に、スペーサ130に向かって突出する突出部127を有する。突出部127が、スペーサ130の貫通穴137を貫通し、ケーシング110の穴117に嵌合することによって、エンドキャップ120、スペーサ130、ケーシング110の位置決めを容易にできる。
【0028】
エンドキャップ120は、エンドシール140と対向する側の面に、保持バンド150が嵌合する保持バンド溝128が形成されている。保持バンド150は、スライダ100をレール10から取りはずしたときに、ボール200が脱落しないように保持するためのバンドである。
【0029】
エンドキャップ120には、油孔121および油孔121に連通する油溝122が形成されている。エンドシール140のグリース注入口141から注入された潤滑剤は、エンドキャップ120の油孔121および油溝122を通り、スペーサ130の油溝134を通じて、環状路400に供給されうる。グリース注入口141は、止栓81あるいはグリースニップル82で封止される。
【0030】
スペーサ130は、大略的には、上方に位置しスライダ100の幅方向にわたって延在するスペーサ板131と、スペーサ板131の下方に位置し、環状路の一部を構成する脚部139と、からなる。スペーサ130の脚部139は、方向転換路104の内周壁面である、内周壁132を含む。内周壁132の上部には、突部136が形成されている。突部136は、エンドキャップ120の凹部124に対応する形状である。突部136によって、スペーサ130とエンドキャップ120とを組み合わせる時に位置決めを容易にできる。突部136の中央には油溝134が設けられている。
【0031】
図4は、ケーシング110を取り出して示す斜視図である。図5は、図4のA-A断面で切断した状態を示す、ケーシング110の断面斜視図である。図6は、図5の一部拡大図である。図5図6を参照して、ケーシング110の袖部の内側には、長さ方向に沿って第2軌道溝22が形成されている。第2軌道溝22は、第2軌道面としての下側軌道面23と、第1軌道面としての上側軌道面24との2つの面から構成される。下側軌道面23、上側軌道面24の、長さ方向(Y軸方向)に垂直な断面を見るときの壁面の断面形状は、それぞれ独立した円弧の一部をなす曲線である。下側軌道面23と上側軌道面24とが組み合わされて、ゴシックアーチ溝が形成されている。
【0032】
上側軌道面24の形状は、その長さ方向にわたって同じである。すなわち、ケーシング110の一方端である第1端s1から他方端である第2端s2まで、上側軌道面24を規定する壁面の曲率、壁面の幅は同じである。
【0033】
一方、下側軌道面23は、ケーシング110の長さ方向における中央部を含む第1部分としての中央部23aと、長さ方向における両端部を含む第2部分としての2つの端部23bと、を含む。中央部23aにおける下側軌道面23と、端部23bにおける下側軌道面23とは、壁面の形状が異なる。
【0034】
図6(b)は、中央部23aにおける、第2軌道溝22の長さ方向に垂直な断面を模式的に示す。図6(a)、図6(b)を参照して、下側軌道面23の中央部23aを規定する壁面230aの、長さ方向に垂直な断面における壁面の断面形状は、上側軌道面24を規定する壁面の曲率、壁面の幅と同じである。すなわち、中央部23aにおいて、上側軌道面24と壁面230aとは、点P8を頂点するゴシックアーチ溝を構成している。中央部23aにおいて、第2軌道溝22は、点P8を通るXY平面(1点鎖線で示す)に関して互いに対称である上側軌道面24と壁面230aとから構成されるゴシックアーチ溝である。
【0035】
図6(c)は、端部23bにおける第2軌道溝22の長さ方向に垂直な断面を模式的に示す。端部23bを規定する壁面230bは、壁面230aを除去加工することによって形成された壁面である。壁面230bは、壁面230aに対して後退した壁面とされている。壁面230bの、長さ方向に垂直な断面を見るときの壁面の断面形状は、円弧の一部をなす曲線である。端部23bにおいて、上側軌道面24と壁面230bとは、点P8´を頂点するゴシックアーチ溝を構成している。両端部23bにおいて、第2軌道溝22は、上側軌道面24と、点P8´を通るXY平面(1点鎖線で示す)に関して上側軌道面24と対称である位置よりも後退した位置にある下側軌道面230bと、から構成されるゴシックアーチ溝である。
【0036】
端部23bのケーシング110長さ方向の寸法は、直動案内ユニットの全体の寸法や所望の特性に合わせて適宜設定でき、例えば3mm~6mmとすることができる。ケーシング110の両端部に数mmの除去加工部を設けることで、転動体同士の競り合いや衝突の発生を効果的に防止できる。また、両端部23bは、中央部23aに対して3~5μm程度の深さで除去加工することができる。すなわち、壁面230bは壁面230aに対して3~5μm程度、後退したものとできる。
【0037】
(変形例)
実施の形態1では、上側軌道面24の形状はその長さ方向にわたって同じであり、下側軌道面23の形状が中央部23aと両端部23bとで異なるものとされている。しかしながら、本開示はこの態様に限定されない。図7は変形例を示す。図7(a)を参照して、下側軌道面23(230a、230b)の形状はその長さ方向にわたって同じとし、上側軌道面24の形状を、中央部23aと両端部23bとで異なるものとしてもよい。この時、両端部23bにおける上側軌道面240は、中央部23aにおける上側軌道面24の表面よりも後退したものとできる。また、図7(b)を参照して、両端部23bにおいて、下側軌道面23および上側軌道面24の両方を除去加工し、中央部23aにおける下側軌道面23および上側軌道面24よりも後退した面とした上で、下側軌道面23および上側軌道面24の一方を他方よりも後退した面としてもよい。図7(b)の例では、上側軌道面240よりも下側軌道面230bがより深く除去加工され、後退した面となっている。
【0038】
図8は、直動案内ユニット1から、スライダ100の袖部の片側、転動体200および関連部品を取り出し、断面を示す図である。図8におけるX軸方向が鉛直方向に配置される状態が、直動案内ユニットの横置き姿勢である。直動案内ユニットが横置き姿勢で設置され、レールに対してスライダ100がY軸正方向に動くとき、転動体200は環状路の中を時計回り(図8に示された断面を正面に見て時計回り)に公転する。この時、ケーシング110の第2端s2に接続する方向転換路104内では、循環路103から方向転換路104に進入した転動体200が自由落下する。自由落下によって加速した転動体200が、軌道路102に進入する。
【0039】
図9は、図8における矢印Bに相当する位置、すなわち端部23bにおける、レール10、転動体200およびケーシング110を示す模式図である。図9を参照して、レール10の第1軌道溝21は、第3軌道面としての上側軌道面212と、第4軌道面としての下側軌道面211と、を含む。下側軌道面211、上側軌道面212の、長さ方向に垂直な断面を見るときの壁面の断面形状は、それぞれ円弧の一部をなす曲線である。下側軌道面211と上側軌道面212とは、互いに対称に形成されている。下側軌道面211と上側軌道面212の間には、保持バンド150(図8)を収容する、保持バンド溝221が設けられている。
【0040】
図9を参照して、レール10に設けられた第1軌道溝21と、ケーシング110の第2軌道溝22とが対向している。転動体200は、力のバランスをとるため、レール10およびケーシング100に対してサーキュラー接触する。具体的に、レール10と転動体200は、レール10の下側軌道面211における点P2で接触し、ケーシング110と転動体200は、ケーシング110の上側軌道面24における点P1において接触する。
【0041】
図10は、図8における矢印Cに相当する位置、すなわち中央部23aにおける、レール10、転動体200およびケーシング110を示す模式図である。レール10の第1軌道溝21の形状は、レール10の長さ方向にわたって同一である。このため、レール10の下側軌道面211および上側軌道面212の形状は、図9に示す形状と同一である。一方、ケーシング110の下側軌道面230aと上側軌道面24は、互いに対称な形状を有する。このことから、転動体200は、レール10およびケーシング200に対してゴシック接触する。具体的に、レール10と転動体200は、下側軌道面211における点P14および上側軌道面212における点P13において接触する。ケーシング100と転動体200は、上側軌道面24における点P11および下側軌道面230aにおける点P12において接触する。
【0042】
レール10と転動体200との接触角θは適宜選択できるが、一例として、実施の形態1においては52°である。ケーシング110と転動体200との接触角θは適宜選択できるが、一例として、実施の形態1においては48°である。ここで、接触角θは接触角θよりも大きいことが好ましい。接触角θを接触角θよりも大きくすることによって、転動体200の公転速度を大きくできる。
【0043】
図8,9,10を参照して、方向転換路104から軌道路102に進入する転動体200は、まず軌道路102の端部23bを転走する。端部23bでは、転動体200はサーキュラー接触しながら転走する。続いて、転動体200が中央部23aに進入すると転動体200はゴシック接触にて転走する。ここで、ゴシック接触で転走する転動体の公転速度は、サーキュラー接触である場合よりも相対的に速い。さらに、中央部23aでは、接触角θを接触角θよりも大きくすることによって、転動体200の公転速度がさらに大きくなる。これらの構成によって、軌道路102の端部23bを転走する転動体200と、先行する転動体200との間に速度差が生じる。このため、転動体200の間に間隔が生じ、転動体同士の衝突や競り合いの発生が防止される。
【0044】
本開示の直動案内ユニットにおけるケーシングの軌道溝(第2軌道溝22)は、切削等の従来方法によってケーシングの軌道溝を形成した後、両端を除去加工することによって製造できる。ケーシング両端において、上下軌道面のうち一方のみを除去加工してもよい。また、上下軌道面ともに除去加工を実施し、さらに上下軌道面の一方を他方より多く除去してもよい。本開示の直動案内ユニットは、ケーシングの一部を除去加工することによってサーキュラー接触部分を作り出すこと、また、ゴシック接触部においてレール側の接触角をスライダ側の接触角よりも大きくすること、という2つの特徴を有しうる。本開示の直動案内ユニットによれば、複雑な加工方法を用いることなく、直動案内ユニットの設置姿勢によらず摺動安定性に優れた直動案内ユニットを得ることができる。
【0045】
(実施例)
実施の形態1として示した直動案内ユニットを作製し、横置きにて動作させる。この直動案内ユニットにおいて、スライダを2mm/sで動かすとき、ケーシング端部ではサーキュラー接触となるため、転動体の公転速度は1mm/sとなる。また、ケーシング中央部ではゴシック接触となり、かつレール側の接触角(52°)とケーシング側の接触角(48°)に差があることから、転動体の公転速度は1.04mm/sとなる。このとおり、ケーシング端部と中央部の転動体の公転速度に差が生じ、転動体の間に隙間が生じることが確認された。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
1 直動案内ユニット、10 レール、21 第1軌道溝、22 第2軌道溝、100 スライダ、101 ねじ穴、102 軌道路、103 循環路、104 方向転換路、110 ケーシング、120 エンドキャップ、121 油孔、122 油溝、123 貫通穴、124 凹部、125 外周壁、126 すくい爪、127 突部、128 保持バンド溝、130 スペーサ、131 スペーサ板、132 内周壁、136 突部、139 脚部、140 エンドシール、150 保持バンド、200 ボール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10