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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】建物の建て替え方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20241003BHJP
   E04G 23/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E04G23/02 C
E04G23/06 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021152719
(22)【出願日】2021-09-18
(65)【公開番号】P2023044695
(43)【公開日】2023-03-31
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】猫本 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】東 直樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 征晃
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-055106(JP,A)
【文献】特開2010-090674(JP,A)
【文献】特開平08-158384(JP,A)
【文献】特開平11-286952(JP,A)
【文献】特開平11-148236(JP,A)
【文献】特開2014-111891(JP,A)
【文献】特開2004-339816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04G 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通路階を有する建物の建て替え方法であって、
前記通路階に、新設する杭の位置を囲んで鉄筋コンクリート造の壁支保工を構築する工程と、
前記壁支保工で囲まれた内側に杭を新設する工程と、を備えることを特徴とする建物の建て替え方法。
【請求項2】
通路が設けられた通路階を有する既存建物を新築建物に建て替える方法であって、
前記既存建物の通路階の直上階に作業床を構築するとともに、前記通路階のうち前記新築建物の杭を新設する位置を囲んで鉄筋コンクリート造の壁を壁支保工として構築し、前記通路階の下階において前記通路階の壁支保工の直下となる位置に、鉄筋コンクリート造あるいは鋼製の壁支保工を構築する第1工程と、
前記既存建物の前記作業床よりも上の部分を解体するとともに、前記通路階において前記壁支保工を残して前記既存建物の立ち上がり躯体を解体する第2工程と、
前記作業床の上から前記壁支保工に囲まれた内側に前記新築建物の杭を新設する第3工程と、
前記既存建物の通路階から下方に向かって、順次、前記既存建物を解体し、前記新設した杭の上に新築建物を構築する第4工程と、を含むことを特徴とする建物の建て替え方法。
【請求項3】
前記第1工程では、前記既存建物の下層に流動化土を充填することを特徴とする請求項2に記載の建物の建て替え方法。
【請求項4】
前記第3工程では、前記壁支保工で囲まれた既存躯体を解体し、その後、前記杭を新設することを特徴とする請求項2または3に記載の建物の建て替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物を新築建物に建て替える、建物の建て替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、既存建物を解体して同じ場所に新築建物を構築する、建物の建て替え方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
特許文献1には、地下通路を含む既存建物を、地下通路の通行を確保した状態で新規建物に建て替える建て替え方法が示されている。具体的には、既存の地下通路の内側に、吊り支持可能な強度を有する通路枠部材を組み立てて、その内空部を地下通路空間として確保し、地下通路より上方に設けられる新規建物の地上部を支持できるように構真柱を地中に打設し、地下通路の上方に位置する既存建物部分の撤去を行い、構真柱に荷重を支持させる状態に地上部の建設を進めると共に、地上部に反力をとって通路枠部材を吊り支持し、通路枠部材の下方に残る既存建物部分を撤去して新規建物に建て替える。
【0003】
特許文献2には、既存建物の既存地下外壁ならびに既存地下外壁に接合された一部の柱および梁を残して、既存建物を下端部まで解体するステップと、既存地下躯体の下端部から上方に向かって、既存地下外壁よりも内側の部分を解体しながら、既存地下外壁の内側に埋戻しを行うステップと、を備える、建物の建て替え方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-90674号公報
【文献】特開2018-21320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、既存建物の一部を利用しながら建物の建て替え工事を行うことができる、建物の建て替え方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の建物の建て替え方法は、通路階(例えば、後述の地下1階30)を有する既存建物(例えば、後述の既存建物1)の建て替え方法であって、前記通路階に、新設する杭(例えば、後述の杭4)の位置を囲んで鉄筋コンクリート造の壁支保工(例えば、後述の壁支保工33)を構築する工程(例えば、後述のステップS1)と、前記壁支保工で囲まれた内側に杭を新設する工程(例えば、後述のステップS3)と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、既存建物を建て替える際に、通路階に鉄筋コンクリート造の壁支保工を構築する。これにより、壁支保工で既存建物の通路階よりも上の部分を支持して、通路階の既存柱や既存壁を撤去できるから、既存建物の一部を利用し、建物利用者の安全性および利便性を確保しながら、建物の建て替え工事を行うことができる。
また、通路階の既存躯体が負担していた鉛直荷重を少数の壁支保工で負担するので、施工コストを低減できる。
また、壁支保工で囲まれた内側に新設杭を構築するので、杭の打設工事で生じる騒音や振動が壁支保工の外側に及ぼす影響を少なくできる。
【0008】
第2の発明の建物の建て替え方法は、通路(例えば、後述の通路A~C)が設けられた通路階(例えば、後述の地下1階30)を有する既存建物(例えば、後述の既存建物1)を新築建物(例えば、後述の新築建物3)に建て替える方法であって、前記既存建物の通路階の直上階(例えば、後述の1階)に作業床(例えば、後述の補強床32)を構築するとともに、前記通路階のうち前記新築建物の杭(例えば、後述の杭4)を新設する位置を囲んで鉄筋コンクリート造の壁を壁支保工(例えば、後述の壁支保工33)として構築し、前記通路階の下階において前記通路階の壁支保工の直下となる位置に、鉄筋コンクリート造あるいは鋼製の壁支保工(例えば、後述の壁支保工34)を構築する第1工程(例えば、後述のステップS1)と、前記既存建物の前記作業床よりも上の部分(例えば、後述の既存地上躯体2)を解体するとともに、前記通路階において前記壁支保工を残して前記既存建物の立ち上がり躯体(例えば、後述の既存柱31)を解体する第2工程(例えば、後述のステップS2)と、前記作業床の上から前記壁支保工に囲まれた内側に前記新築建物の杭を新設する第3工程(例えば、後述のステップS3)と、前記既存建物の通路階から下方に向かって、順次、前記既存建物を解体し、前記新設した杭の上に新築建物を構築する第4工程(例えば、後述のステップS4)と、を含むことを特徴とする。
【0009】
通路階の立ち上がり躯体には、既存柱や既存壁が含まれる。
この発明によれば、既存建物を新築建物に建て替える際に、通路階に鉄筋コンクリート造の壁支保工を構築する。これにより、壁支保工で既存建物の通路階よりも上の部分を支持して、通路階の既存柱や既存壁を撤去できるから、既存建物の一部を利用し、建物利用者の安全性および利便性を確保しながら、建物の建て替え工事を行うことができる。
また、通路階の既存躯体が負担していた鉛直荷重を少数の支保工で負担するので、施工コストを低減できる。
また、壁支保工で囲まれた内側に新設杭を構築するので、杭の打設工事で生じる騒音や振動が壁支保工の外側に及ぼす影響を少なくできる。
【0010】
第3の発明の建物の建て替え方法は、前記第1工程では、前記既存建物の下層に流動化土(例えば、後述の流動化土M)を充填することを特徴とする。
【0011】
ここで、既存建物の下層とは、例えば、地下水位よりも下側の部分である。
この発明によれば、既存建物の下層に流動化土を充填したので、既存建物の下層を補強して、既存建物の解体時における上層の荷重を確実に支持できる。
【0012】
第4の発明の建物の建て替え方法は、前記第3工程では、前記壁支保工で囲まれた既存躯体(例えば、後述の各階の床スラブ35~38)を解体し、その後、前記杭を新設することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、壁支保工で囲まれた既存躯体を解体することで、壁支保工で囲まれた内側に、作業床から鉛直方向下方に延びる空間を確保できる。よって、作業床の上からこの壁支保工に囲まれた空間内に、新設杭を容易に打設できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、既存建物の一部を利用しながら建物の建て替え工事を行うことができる、建物の建て替え方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る建物の建て替え方法が適用される既存建物1の縦断面図である。
図2図1のI-I断面図である。
図3】既存建物を新築建物に建て替える手順のフローチャートである。
図4】既存建物を新築建物に建て替える手順の説明図(その1)である。
図5図4のII-II断面図である。
図6】既存建物を新築建物に建て替える手順の説明図(その2)である。
図7図6のIII-III断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る建物の建て替え方法が適用される既存建物1の縦断面図である。図2は、図1の既存建物1のI-I断面図である。
既存建物1は、地下3階までの鉄筋コンクリート造の既存地下躯体10と、既存地下躯体10の上に構築された既存地上躯体2と、を有している。既存地下躯体10は、基礎11と、地下3階立上がり12、地下2階立上がり13、および地下1階立上がり14を備える。地下1階30は、立上がり躯体である既存柱31同士の間に、例えば通路A、B、Cが確保された通路階である。
以下、地下n階立上がりとは、地下n階柱、地下n階壁、地下(n-1)階梁、および地下(n-1)階床を含む。
基礎11は、基礎梁(地中梁)20、耐圧盤21、および地下3階床スラブ22を備える。基礎梁20、耐圧盤21、および地下3階床スラブ22で囲まれた空間は、ピット23となっている。また、地下水位Wは、地下3階床スラブ22のレベルとなっている。
【0017】
以上の既存建物1を解体して新築建物3に建て替える手順について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、図4および図5に示すように、通路階である地下1階30の直上階である1階の床面に鉄筋コンクリートを打設して作業床としての補強床32を構築し、1階の床および梁を一体化する。また、地下1階30のうち新築建物3の杭4を新設する位置を囲んで、鉄筋コンクリート造の壁である壁支保工33を構築する。また、地下1階30の下階において、壁支保工33の直下となる位置に、鋼製の壁である壁支保工34を構築する。この鋼製の壁支保工34は、鋼材およびジャッキからなる複数の支柱と、これら支柱の表面に取り付けた鋼板と、を含んで構成される。また、既存建物1のうち地下水位Wよりも低いピット23に、流動化土Mを充填する。
【0018】
ステップS2では、図6および図7に示すように、既存建物1の補強床32よりも上の部分つまり既存地上躯体2を解体する。また、通路階である地下1階30において壁支保工33を残して立ち上がり躯体である既存柱31を解体する。これにより、通路階である地下1階30において、引き続き、通路A~Cが確保される。
ステップS3では、図6および図7に示すように、補強床32の上から壁支保工33、34に囲まれた内側に新築建物3の杭4を新設する。具体的には、各階の壁支保工33、34で囲まれた部分つまり各階の床スラブ22、36~38を解体して、補強床32から鉛直方向下方に延びる空間を形成し、この空間を通して新築建物3の杭4を新設する。
ステップS4では、既存建物1の地下1階30から下方に向かって、順次、既存建物1を解体し、新設した杭4の上に新築建物3を構築する。
【0019】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)既存建物1を新築建物3に建て替える際に、通路階である地下1階30に鉄筋コンクリート造の壁支保工33を構築する。これにより、壁支保工33で既存建物1の1階床よりも上側の部分を支持して、地下1階30の既存柱31を撤去できるから、既存建物1の地下1階30を通路として利用し、建物利用者の安全性および利便性を確保しながら、建物の建て替え工事を行うことができる。具体的には、既存建物1の解体工事中であっても、地下1階30の通路A~Cを確保できる。
また、地下1階30の既存柱31が負担していた鉛直荷重を少数の壁支保工33で負担するので、施工コストを低減できる。
また、壁支保工33、34で囲まれた内側に新設の杭4を構築するので、杭の打設工事で生じる騒音や振動が壁支保工の外側に及ぼす影響を少なくできる。
【0020】
(2)既存建物1の下層のピット23に流動化土Mを充填したので、既存建物1の下層を補強して、既存建物1の解体時における上層の荷重を確実に支持できる。
(3)壁支保工33、34で囲まれた各階の床スラブ22、36~38を解体することで、壁支保工33、34で囲まれた内側に、補強床32から鉛直方向下方に延びる空間を確保できる。よって、補強床32の上から、この壁支保工33、34に囲まれた空間内に、新設の杭4を容易に打設できる。
【0021】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0022】
1…既存建物 2…既存地上躯体 3…新築建物 4…新設の杭
10…既存地下躯体 11…基礎 12…地下3階立上がり
13…地下2階立上がり 14…地下1階立上がり
20…基礎梁 21…耐圧盤 22…地下3階床スラブ 23…ピット
30…地下1階(通路階) 31…既存柱 32…補強床(作業床)
33…鉄筋コンクリート造の壁である壁支保工
34…鋼製の壁である壁支保工 36…地下2階床スラブ
37…地下1階床スラブ 38…1階床スラブ M…流動化土

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7