(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】固形化粧料及び固形化粧料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/02 20060101AFI20241003BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20241003BHJP
A61Q 1/08 20060101ALI20241003BHJP
A61Q 1/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K8/02
A61Q1/02
A61Q1/08
A61Q1/04
(21)【出願番号】P 2021180458
(22)【出願日】2021-11-04
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】592042750
【氏名又は名称】株式会社アルビオン
(74)【代理人】
【識別番号】100122541
【氏名又は名称】小野 友彰
(72)【発明者】
【氏名】児玉 達也
(72)【発明者】
【氏名】永田 裕太郎
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-120326(JP,A)
【文献】特開2019-156837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に模様を有する
固形化粧料であって、
前記模様は、同一の向きに配列された直線状の凹条の集合体によって形成された第1柄と、前記第1柄を構成する凹条とは異なる向きに配列された直線状の凹条の集合体によって形成された第2柄と、が合成された線画であ
り、
前記凹条の幅は、1μmから0.5mmであり、
前記凹条の深さは、0.05mmから0.2mmであること
を特徴とする
固形化粧料。
【請求項2】
前記第1柄を構成する凹条及び前記第2柄を構成する凹条は、直線方向に間隔をあけて破線状に配列されてなり、かつ、前記凹条の幅方向に離間配置されていることを特徴とする請求項1に記載の
固形化粧料。
【請求項3】
前記模様は、前記第1柄を構成する凹条及び前記第2柄を構成する凹条のいずれとも異なる向きに配列された直線状の凹条の集合体によって形成されたベース柄が更に合成された線画であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の
固形化粧料。
【請求項4】
同一の向きに配列された隣り合う前記凹条と凹条との間隔は、0.5mm以下であることを特徴とする請求項1乃至
請求項3のうち、いずれか1に記載の
固形化粧料。
【請求項5】
前記凹条の長さは、0.07mmから0.6mmであることを特徴とする請求項1乃至
請求項4のうち、いずれか1に記載の
固形化粧料。
【請求項6】
表面に模様を有する
固形化粧料の製造方法であって、
同一の向きに配列された直線状の凹条の集合体によって形成された第1柄と、前記第1柄を構成する凹条とは異なる向きに配列された直線状の凹条の集合体によって形成された第2柄と、が合成された線画が形成されたマスターモールドを製作する工程と、
前記マスターモールドを用いて前記模様に対応するモールド面を備える弾性モールドを製作する工程と、
前記弾性モールドを用いて化粧料を充填及び固化する工程と、
を有
し、
前記凹条の幅は1μmから0.5mmであり、前記凹条の深さは0.05mmから0.2mmであること
を特徴とする
固形化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料及び化粧料の製造方法に関し、特に、見る角度によって見える模様が変化するチェンジング模様が形成された化粧料及び化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ファンデーション、チーク、口紅などの化粧料の表面に、図形や文字等の模様が付された化粧品が知られている。その一例として、モールドを用いた型抜きによって模様を形成したり(特許文献1、特許文献2参照)、レーザー光により焼損させて模様を形成したり(特許文献3参照)、静電スクリーン印刷法により印刷用紛体を化粧料表面に転写させて模様を形成することが行われている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-326908号公報
【文献】特開2008-174474号公報
【文献】特開2000-247832号公報
【文献】特開2005-144935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の模様付き化粧料はいずれも、化粧料の表面の一部又は全部に対して予めデザインされた、変化しない1種類の模様が付されたものに過ぎなかった。そのため、従来の模様付き化粧料には、1つの化粧料に採用できる模様が全体として1種類に限定されてしまうので模様のデザイン上の制約が高く、また、模様のバリエーションに限界があるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的とするところは、見る角度を変えることによって見える模様が変化する加飾構造を有することによって、装飾性の高い化粧料及び化粧料の製造方法を提供する。特に、化粧料への応用を考慮されていなかったチェンジング技術を化粧料及びその製造方法に適用しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の化粧料は、表面に模様を有する化粧料であって、前記模様は、同一の向きに配列された直線状の凹条の集合体によって形成された第1柄と、前記第1柄を構成する凹条とは異なる向きに配列された直線状の凹条の集合体によって形成された第2柄と、が合成された線画であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の化粧料において、前記第1柄を構成する凹条及び前記第2柄を構成する凹条は、直線方向に間隔をあけて破線状に配列されてなり、かつ、前記凹条の幅方向に離間配置されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の化粧料において、前記模様は、前記第1柄を構成する凹条及び前記第2柄を構成する凹条のいずれとも異なる向きに配列された直線状の凹条の集合体によって形成されたベース柄が更に合成された線画であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の化粧料において、前記凹条の幅は、0.5mm以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の化粧料において、前記凹条の深さは、0.05mmから0.2mmであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の化粧料において、同一の向きに配列された隣り合う前記凹条と凹条との間隔は、0.5mm以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の化粧料において、前記凹条の長さは、0.07mmから0.6mmであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の化粧料の製造方法は、表面に模様を有する化粧料の製造方法であって、同一の向きに配列された直線状の凹条の集合体によって形成された第1柄と、前記第1柄を構成する凹条とは異なる向きに配列された直線状の凹条の集合体によって形成された第2柄と、が合成された線画が形成されたマスターモールドを製作する工程と、前記マスターモールドを用いて前記模様に対応するモールド面を備える弾性モールドを製作する工程と、前記弾性モールドを用いて化粧料を充填及び固化する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、見る角度を変えることによって見える模様が変化する加飾構造を有することによって、装飾性の高い化粧料及び化粧料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る基本線画を説明する図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るパターン線画及び単位パターンを説明する図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るチェンジング模様の構成例を説明する図である。
【
図4】
図3に示すチェンジング模様の見る角度を変えることによる見え方の変化を説明する図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るチェンジング模様の別の構成例を説明する図である。
【
図6】
図5に示すチェンジング模様の見る角度を変えることによる見え方の変化を説明する図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るチェンジング模様を構成する凹条に対する反射光の強弱が変化する態様を説明する図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るチェンジング模様を構成する凹条の構造を説明する図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る化粧料の製造方法のフローチャートである。
【
図10】本発明の実施形態に係る化粧料の製造方法を示す断面模式図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る化粧料の製造システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る化粧料及び化粧料の製造方法について、図面を参照して説明する。なお、本明細書において化粧品には、化粧料が容器に充填された化粧製品、仕掛品、半製品が含まれる。
【0017】
[化粧料]
化粧品1は、一例として扁平な有底筒状の容器2に充填された化粧料6の表面6a(
図10(f)参照)に、見る角度を変えることによって変化する2以上の柄が合成された線画である模様(以下、「チェンジング模様」ともいう。)が形成される加飾構造を有するものである。
【0018】
本発明の実施形態に係る化粧料、特にその化粧料の表面に形成されるチェンジング模様について、
図1乃至
図8を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る基本線画を説明する図、
図2は、本発明の実施形態に係るパターン線画及び単位パターンを説明する図、
図3は、本発明の実施形態に係るチェンジング模様の構成例を説明する図、
図4は、
図3に示すチェンジング模様の見る角度を変えることによる見え方の変化を説明する図、
図5は、本発明の実施形態に係るチェンジング模様の別の構成例を説明する図、
図6は、
図5に示すチェンジング模様の見る角度を変えることによる見え方の変化を説明する図、
図7は、本発明の実施形態に係るチェンジング模様を構成する凹条に対する反射光の強弱が変化する態様を説明する図、
図8は、本発明の実施形態に係るチェンジング模様を構成する凹条の構造を説明する図である。
【0019】
本実施形態に係る化粧料6の表面6aは、見る角度を変えることによって見える模様が変化する加飾構造を有する。より具体的には、
図4(a)及び(b)に示すように、化粧料6の表面6a(
図10(f)参照)は、見る角度によって複数の図柄38a、38b、38cの視認性が変化するチェンジング模様31aを有する。
【0020】
チェンジング模様31aは、
図3(a)乃至(c)に示す複数の図柄38a、38b、38cに係る線画35a、35b、35cが合成された線画である。チェンジング模様31aにおいて、図柄38a、38b、38cのうちの2以上が合成される領域は、
図2(a)、(b)、(e)及び(f)に示すパターン線画36(36a、36b、36c、36d)により構成されている。
【0021】
パターン線画36(36a、36b、36c、36d)は、基本線画35a、35b、35cを組み合わせて形成される。本実施形態では一例として、基本線画35(35a、35b、35c)は、
図1(a)乃至(c)に示すように、同一の向きに配列された直線状の短線32(32a、32b、32c)の集合体で形成され、角度が異なる3態様が用いられる。
【0022】
このようなチェンジング模様31aを形成するために、本実施形態では、コンピュータの画像編集ソフト等を用いて、
図1(a)乃至(c)に示す各基本線画35(35a、35b、35c)を作成し、これらの基本線画35a、35b、35cを用いていずれかの基本線画を背景に用いたり、所望の形状の図柄や文字等に形成する。
【0023】
本実施形態においては、
図1(a)に示す基本線画35aをベース柄に用い、
図1(b)に示す基本線画35bを用いて第1柄とし、
図1(c)に示す基本線画35cを用いて第2柄とする。これらの基本線画35a、35b、35cはいずれも、
図1(a)乃至(c)に示すように、短線32a、32b、32cが直線方向に一定の間隔33(d1)をあけて連続的に配列されてなる破線配列34a、34b、34cを、短線32a、32b、32cの幅方向に一定の間隔d2をあけて連続的に配列して構成される。
【0024】
本実施形態において、
図1(a)乃至(c)に示す基本線画35a、35b、35cの形成角度は互いに異なるものである。一例として、
図1(a)の基本線画35aを構成する各短線32aは、水平線を基準に反時計回りにθ1=30°傾斜(すなわち、右方向に傾斜)して形成され、
図1(b)の基本線画35bを構成する各短線32bは垂直方向に形成し、
図1(c)に示す基本線画35cを構成する各短線32cは、水平線を基準に時計回りにθ2=30°傾斜(すなわち、左方向に傾斜)して形成されている。
【0025】
本実施形態においては、
図1(a)に示すベース柄を形成する線画35aと、
図1(b)に示す第1柄を形成する線画35bと、
図1(c)に示す第2柄を形成する線画35cとを適宜組み合わせることによって、
図2(a)、(b)、(e)及び(f)に示すパターン線画36(36a、36b、36c、36d)が形成される。このパターン線画36(36a、36b、36c、36d)は、上記のように複数の短線32(32a、32b、32c)からなるパターンを連続的に配列してなるものである。
【0026】
より具体的には、
図1(a)乃至(c)に示す線画35a、35b、35cを用いて、
図2(a)に示すように3個の菱形が結合してなる単位パターン39aが形成され、この単位パターン39aが縦方向及び横方向に隙間なく配列されてパターン線画36aが形成される。
【0027】
同様に、
図2(b)に示すように、
図1(b)及び(c)に示す線画35b、35cを用いて、左方向に傾斜した菱形でなる単位パターン39bが形成され、この単位パターン39bが連続的に配列されてパターン線画36bが形成される。
【0028】
同様に、
図2(e)に示すように、
図1(a)及び(b)に示す線画35a、35bを用いて、右方向に傾斜した菱形でなる単位パターン39cが形成され、この単位パターン39cが連続的に配列されてパターン線画36cが形成される。
【0029】
同様に、
図2(f)に示すように、
図1(a)及び(c)に示す線画35a、35cを用いて、水平に倒した菱形でなる単位パターン39dが形成され、この単位パターン39dが水平方向に連続的に配列されてパターン線画36dが形成される。
【0030】
次に、上記の3態様の基本線画35a、35b、35cを用いて具体的な図柄を描いた実施形態を説明する。
図3(a)に示すように、
図1(a)の基本線画35aを用いてベース柄38aが形成される。
図3(b)に示すように、
図1(b)の基本線画35bを用いて第1柄38bが形成される。
図3(c)に示すように、
図1(c)の基本線画35cを用いて第2柄38cが形成される。
【0031】
より具体的には、
図3(a)が示すのは背景となるベース柄38aである。ベース柄38aは、各短線32aが右斜め方向に傾斜して配列された基本線画35a(
図1(a)参照)により形成され、この基本線画35aは、背景となる領域全体に対して形成される。
【0032】
また、
図3(b)が示すのは第1柄38bである。第1柄38bは、各短線32bが垂直方向に配列された基本線画35b(
図1(b)参照)により形成され、一例として外形を星形としたものである。
【0033】
さらに、
図3(c)に示すのは第2柄38cである。第2柄38cは、各短線32cが左斜め方向に傾斜して配列された基本線画35c(
図1(c)参照)により形成され、一例として外形を正五角形としたものである。
【0034】
なお、本実施形態では、第1柄38bは星形、第2柄38cは正五角形の外形を有するものを例に説明したが、本発明はこれに限定されず、様々な図形や図柄の他、文字(記号を含む。)であってもよい。
【0035】
そして、ベース柄38aに係る基本線画35a(
図3(a)参照)、第1柄38bに係る基本線画35b(
図3(b)参照)、及び、第2柄に係る基本線画35c(
図3(c)参照)が合成されることによって、
図3(d)に示すように、合成されたパターン線画としてのチェンジング模様31aが得られる。
【0036】
本実施形態では、上記のようにコンピュータの画像編集ソフトを用いて、
図3(d)に示すようなチェンジング模様31aを設計し、これに基づいて後述のマスターモールド(不図示)が製作される。
図7に示すように、マスターモールドには、チェンジング模様31aを構成する各短線32a、32b、32cが、凹条41(41a、41b、41c)によって形成される。一例として、チェンジング模様31aを構成する各短線32a、32b、32cは、レーザー加工機によってそれぞれ溝状に彫刻されることによって形成される。このようにして製作されたマスターモールドを用いて弾性モールド5を製作し、弾性モールド5を用いて化粧料6を充填及び固化させることにより、マスターモールドに形成されているチェンジング模様31aが、化粧料6の表面6aに形成される(
図9参照)。
【0037】
なお、上記のようなチェンジング模様31aを形成する化粧料6は、本実施形態においては油性固形化粧料であり、一例としては、口紅、リップグロス、リップクリーム、コンシーラー、ファンデーション、アイカラー、チークカラー等、常温において形状を維持できる種々の固形化粧料が含まれる。
【0038】
上記のような弾性モールド5を用いて化粧料6を充填及び固化させてチェンジング模様31aを表面6aに形成して、複数の図柄のチェンジング効果を十分に発揮させるために好ましい、各短線32を構成する凹条41の寸法について、
図8を参照して説明する。凹条41(短線32)の幅wは、0.5mm以下とするのが好ましい。凹条41(短線32)の幅方向における凹条41(短線32)と凹条41(短線32)の間隔d2は、0.5mm以下とするのが好ましい。更に、凹条41(短線32)の深さd3は、0.05mmから0.2mmとするのが好ましい。凹条41(短線32)の長さl(
図1(b)参照)は、一例としては0.07mmから0.6mmとするのが好ましい。
【0039】
以上のように、化粧料6の表面6aに形成されるチェンジング模様31aは、少なくとも、同一の向きに配列された直線状の凹条41bの集合体によって形成された第1柄38bと、第1柄38bを構成する凹条41bとは異なる向きに配列された直線状の凹条41cの集合体によって形成された第2柄38cと、が合成された線画である。
【0040】
そして、第1柄38bを構成する凹条41b及び第2柄38cを構成する凹条41cは、直線方向に間隔d1をあけて破線状に配列されてなり、かつ、凹条41b、41cの幅方向に離間配置される。
【0041】
また、チェンジング模様31aは、第1柄38bを構成する凹条41b及び第2柄38cを構成する凹条41cのいずれとも異なる向きに配列された直線状の凹条41aの集合体によって形成されたベース柄38aが更に合成された線画である。
【0042】
図7に示すように、チェンジング模様31aの各短線32a、32b、32cを構成する各凹条41a、41b、41cは、見る角度を変えると反射光の強弱に差が生じるため、見る角度に応じて明瞭に見える凹条41と明瞭に見えない凹条41とが存在することにより、視認性が変化する。
【0043】
このようなチェンジング効果によって、
図4(a)及び(b)に示すように、見る方向に応じて明瞭に見える図柄が変化する。すなわち、短線32cを構成する凹条41cからの反射光が弱く、短線32a及び短線32bを構成する各凹条41a、41bからの反射光が強い方向から見た場合には、
図4(a)に示すように、背景であるベース柄38aと星形の第1柄38bとが明瞭に見える。一方、短線32bを構成する凹条41bからの反射光が弱く、短線32a及び短線32cを構成する各凹条41a、41cからの反射光が強い方向から見た場合には、
図4(b)に示すように、背景であるベース柄38aと正五角形の第2柄38cとが明瞭に見える。このように、見る角度を変えることによって見える模様が変化する加飾構造を有することによって、装飾性の高い化粧料が得られる。
【0044】
本実施形態の変形例として、背景となるベース柄38aのうち、このベース柄38aに合成する図柄(38b、38c)に相当する領域に、基本線画35aを形成させない領域を設けてもよい。例えば、
図5(a)に示す例によれば、ベース柄38aのうち、ベース柄38aに重ねる第1柄38bに相当する星形領域に、基本線画35aを形成させない白抜き40を設ける。この場合、この白抜き40の領域に、
図5(b)の星型の第1柄38b(基本線画35b)を重ね、さらに
図5(c)の正五角形の第2柄38c(基本線画35c)を重ねることによって、
図5(d)に示す合成されたパターン線画としてのチェンジング模様31bを形成することが可能である。
【0045】
上記の構成によれば、短線32cを構成する凹条41cからの反射光が弱く、短線32a及び短線32bを構成する各凹条41a、41bからの反射光が強い方向から見た場合、
図6(a)に示すように、背景であるベース柄38aと星形の第1柄38bとが明瞭に見えるが、第1柄38bに相当する星形領域には基本線画35aが形成されていないので、第1柄38bに相当する星形領域では、第1柄38b(基本線画35b)のみが見えることになる。
【0046】
これに対して、上述の
図4(a)に示す第1柄38bの星形領域には白抜き40が形成されていないため、第1柄38bに相当する星形領域では、第1柄38bを形成する基本線画35bのみならず、ベース柄38aを形成する基本線画35aまでもが合成されて見られることになる。そのため、チェンジング模様31bの第1柄38b(
図6(a))の方が、チェンジング模様31aの第1柄38b(
図4(a))よりも明瞭な視認性を与えることが可能となる。
【0047】
上記実施形態においては、ベース柄38a、第1柄38b、及び、第2柄38cとから構成されるチェンジング模様31a、31bを説明したが、基本線画35の種類を更に追加することにより第3柄、第4柄等を加えて、見る角度によって変化する柄が3態様以上になるチェンジング模様としてもよいことは言うまでもない。
【0048】
また、上記実施形態においては、凹条41は短線32により構成される例を説明したが、必ずしも長さが短い必要はなく、チェンジング模様のデザインに応じて適宜設定されてもよい。
【0049】
[化粧料の製造方法]
以下、上記実施形態に係る化粧料の製造方法について
図9至
図11を参照して説明する。
図9は、本発明の実施形態に係る化粧料の製造方法のフローチャート、
図10は、本発明の実施形態に係る化粧料の製造方法を示す断面模式図、
図11は、本発明の実施形態に係る化粧料の製造システムを示す模式図である。
【0050】
[マスターモールド製作工程]
弾性モールド5を製作するためのマスターモールド(不図示)を製作する(
図9のステップS1)。具体的には、マスターモールドは、切削加工によって金型として製作され、上記チェンジング模様31a、31bに対応する繊細な形状部分は、一例としてレーザー加工機によって彫刻されることにより製作される。
【0051】
マスターモールドには、少なくとも、同一の向きに配列された直線状の凹条41bの集合体によって形成された第1柄38bと、第1柄38bを構成する凹条41bとは異なる向きに配列された直線状の凹条41cの集合体によって形成された第2柄38cと、が合成された線画が形成される。更に、マスターモールドには、凹条41b及び凹条41cのいずれとも異なる向きに配列された直線状の凹条41aの集合体によって形成されたベース柄38aが更に合成された線画が形成されてもよい。このように、マスターモールドには、化粧料6の表面6a(
図10(f)参照)に形成される所望のチェンジング模様31a、31bと同一の模様(凹条41)が形成される。
【0052】
[弾性モールド製作工程]
前記マスターモールドを用いて、弾性モールド5を製作する(
図9のステップS2)。具体的には、弾性モールド5は、前記マスターモールドを用いてコンプレッション成型されることにより製作される。
【0053】
弾性モールド5の材質は、後述の離型時に全体を撓ませることにより容易かつ綺麗に所望の形状(模様を含む。)を成形できるよう、弾性素材(一例としてシリコン樹脂、ゴムなど)を採択することが好ましい。
【0054】
弾性モールド5の表面5aには、前記マスターモールドに形成されたチェンジング模様31a、31bを構成する凹条41に対応する凸条(不図示)が形成される。弾性モールド5の表面5a(モールド面)の形状は、成形後の化粧料6の表面デザイン(化粧料6の表面6a)として所望するチェンジング模様31a、31bに対応している。なお、
図10に示す例によれば、弾性モールド5の表面5aの係合部5bは、囲繞部材3の内周面3dに当接して入り込むことができるように突出した形状としている。
【0055】
[充填工程]
図10(a)及び(b)、
図11(a)に示すように、熱可塑性樹脂製の囲繞部材3の第1開口部3b側に弾性モールド5を取り付けて、囲繞部材3の第2開口部3cから囲繞部材3の内側に化粧料6を充填する(
図9のステップS3)。以下、詳説する。
【0056】
囲繞部材3は、一定の高さで所定範囲を囲繞するように構成された任意の外周形状を備える。本実施形態において、囲繞部材3は、固化した化粧料6を内周面3dによって囲繞し保持する部材である。本発明における囲繞部材は、扁平なコンパクトに収容可能な、高さの低い枠状のものを一例に説明する。囲繞部材3は、弾性モールド5が取り付けられる時に閉塞される第1開口部3bと、後述の底面部材4が接着される時に閉塞される第2開口部3cと、を有する。最終的には、囲繞部材3は、第2開口部3c側に接着される底面部材4とともに容器2(一例として中皿)を構成する。
【0057】
囲繞部材3は、第2開口部3c側に、底面部材4との接着のための位置決め手段が設けられている。本実施形態では、
図10(a)等に示すように、囲繞部材3の外周面3eの第2開口部3c側の端部に凹部3aが設けられており、後述の底面部材4の突起4bと嵌合可能に構成されている。
【0058】
囲繞部材3は、後述の底面部材4と超音波溶着、高周波溶着、又は熱溶着などによる接着を可能とするために、熱可塑性樹脂によって構成することが好ましい。但し、囲繞部材3及び底面部材4を他の接着手段(例えば接着剤による接着など)を用いても良く、本発明では囲繞部材の材質は熱可塑性樹脂に限定されるものではない。なお、固化後の化粧料6が囲繞部材3内で回転することを防止するため、囲繞部材3を楕円形や多角形に形成してもよい。
【0059】
弾性モールド5の表面5aの係合部5bを、囲繞部材3の第1開口部3bへ、内周面3dに当接させながら入れ込むことにより、弾性モールド5に対して囲繞部材3を取り付けて(
図10(a)参照)、充填装置11のコンベア12の上流側の供給ポイントP2へ供給する(
図11(a)参照)。なお、コンベア12は、予め設定された任意の駆動条件に従って図示しない駆動手段によって駆動するようになっている。
【0060】
次に、弾性モールド5に対して取り付けられた囲繞部材3の内側に化粧料6を充填する(
図10(b)参照)。囲繞部材3の第2開口部3c側から、弾性モールド5の表面5aと囲繞部材3の内周面3dとによって囲繞される空間に、ノズル13aから供給される化粧料6を充填する。より詳しくは、予め所定温度で加熱して溶解された流動状態の油性固形化粧料としての化粧料6(バルク)が、脱気等の処理を経て充填装置11のホッパー13に入れられており、この化粧料6が、ノズル13aから一定量ずつ(すなわち、弾性モールド5の表面5aと囲繞部材3の内周面3dとによって囲繞される空間体積に対応する量)、コンベア12によって流れてくる囲繞部材3が取り付けられた弾性モールド5へ充填される(
図11(a)参照)。なお、化粧料6の流動状態を保つため、ホッパー13及びノズル13aでは所定温度による加熱が可能になっている。
【0061】
弾性モールド5及び囲繞部材3へ充填された化粧料6に対して、
図11(a)に示す充填装置11の加熱部14において、再加熱(リヒート)処理を行う。これにより、化粧料6の表面の凹凸がなくなり、滑らかな表面6b(
図10(c)参照)を得ることができる。加熱部14は、一例として電熱線などを用いればよい。熱可塑性樹脂でなる囲繞部材3が溶けないように再加熱の時間は短く設定するのが好ましい。なお、再加熱(リヒート)処理の実施は任意である。
【0062】
以上のように、流動状態の化粧料6は、大きく開口された囲繞部材3の第2開口部3cから充填されるため、弾性モールド5の隅々まで容易に化粧料6を行き渡らせることができ、品質の向上が図れ、歩留まりを向上させることができる。
【0063】
[固化工程]
図10(c)、
図11(a)に示すように、前記充填工程により充填された化粧料6を固化させる(
図9のステップS4)。
【0064】
弾性モールド5及び囲繞部材3へ充填された化粧料6(
図10(c)参照)は、
図11(a)に示す充填装置11のコンベア12によって冷却部15へ移動され、設定温度まで冷却されることにより固化される。
【0065】
図11(a)に示すように、本実施形態における固化装置としての冷却部15は、任意の冷却手段を備えており、コンベア12により移動される冷却対象物に対して冷却処理が施される。冷却部15による冷却効果を向上させるために、冷却部15による冷却領域をカバー16によって覆うのが好適である。
【0066】
なお、本実施形態においては、冷却装置としての冷却部15が充填装置11と一体的に構成した例を説明したが、充填装置11と冷却装置としての冷却部15とを別体で構成してもよいことは言うまでもない。また、本実施形態における固化工程(
図9のステップS4)は、弾性モールド5及び囲繞部材3へ充填された化粧料6が固化されるものであればよく、上記のように冷却処理を施す工程に限定されず、例えば冷却対象物を放置して室温まで冷却する放冷工程であってもよく、特に限定されない。
【0067】
冷却部15により固化された化粧料6は、
図11(a)に示すコンベア12の回収ポイントP3において、弾性モールド5及び囲繞部材3ごと搬出される。
【0068】
図10(d)に示すように、化粧料6が充填及び固化された弾性モールド5及び囲繞部材3が充填装置11から搬出された後、弾性モールド5の表面5aから、囲繞部材3及び化粧料6を取り外す。これにより、囲繞部材3の第1開口部3b側の化粧料6には、弾性モールド5の表面5aの形状に対応して成形されたチェンジング模様31a、31b付きの表面6aが現われる。一方、囲繞部材3の第2開口部3c側には、囲繞部材3の第2開口部3c側の端部と面一の平滑な表面6bの化粧料6が現われる。
【0069】
[接着工程]
固化工程(固化装置)により化粧料6が固化した後に、
図10(d)、(e)及び
図11(b)に示すように、囲繞部材3の第2開口部3cを閉塞する熱可塑性樹脂製の底面部材4を囲繞部材3に接着させる(
図9のステップS5)。接着工程は、囲繞部材3の第2開口部3c側の端部に対して、底面部材4を接着させるものである。更に好ましくは、接着工程(接着装置)は、囲繞部材3の第2開口部側3cの端部の全周に対して、底面部材4を接着させるものである。
【0070】
本実施形態における底面部材4は、囲繞部材3の第2開口部3cを閉塞するための平滑部4aを有し、囲繞部材3の外周形状に対応した形状としているが、囲繞部材3の第2開口部3cを閉塞することができる形状であれば特に限定されるものではない。最終的には、底面部材4は、囲繞部材3とともに容器2を構成する(
図10(f)参照)。
【0071】
底面部材4は、囲繞部材3の第2開口部3cとの接着の際の位置決め手段が設けられている。本実施形態では、
図10(d)に示すように、底面部材4の周縁部に突部4bが設けられており、囲繞部材3の凹部3aと嵌合可能に構成されている。
【0072】
底面部材4は、囲繞部材3と超音波溶着、高周波溶着、又は熱溶着などによる接着を可能とするために、熱可塑性樹脂によって構成することが好ましい。但し、囲繞部材3及び底面部材4を他の接着手段(例えば接着剤による接着など)を用いても良く、本発明では底面部材4の材質は熱可塑性樹脂に限定されるものではない。
【0073】
底面部材4の囲繞部材3への接着は、
図11(b)に示す接着装置17を用いて実施する。接着装置17は、主としてターンテーブル18と接着機19とを有し、ターンテーブル18は、一例として4つのステーション18a乃至18dを備え、各ステーションを図示しない駆動手段によって反時計回りに回転可能に構成されている。なお、ターンテーブル18の回転方向は反時計回りに限定されず、時計回りでもよく、また、ターンテーブル以外の搬送手段(例えばコンベア)を採用してもよい。さらに、本実施形態においてはターンテーブル18を備える接着装置17を一例として説明するが、少なくとも接着機19を備えるものであればよい。
【0074】
図11(b)の位置Aにあるステーションには、底面部材4が囲繞部材3の第2開口部3c側に嵌合された状態で、囲繞部材3が供給される(
図10(e)参照)。同様に、位置Cにあるステーションでは、底面部材4と囲繞部材3との接着処理が実行され、位置Dにあるステーションでは、接着処理済の底面部材4及び囲繞部材3(容器2。
図10(f)参照)が排出される。なお、位置Bにあるステーションは、接着処理直前の待機ゾーンとして使用される。
【0075】
ステーション18a乃至18dのそれぞれには、囲繞部材3及び底面部材4を保持可能なホルダー(不図示)が設けられている。囲繞部材3と底面部材4との接着を実施するに際しては、囲繞部材3及び底面部材4は、
図11(b)に示す位置Aにおいて各ステーションのホルダーに保持させることが好ましい。本実施形態においては、囲繞部材3と底面部材4との接着は、一例として囲繞部材3の第1開口部3bを下に向けた状態で実施する場合を説明するが、囲繞部材3の第1開口部3bを上に向けた状態で実施するようにしてもよい。
【0076】
接着装置17における処理の流れを、ある一つのステーションに注目して示した場合、以下の通りとなる。
(1)
図11(b)に示す位置Aにあるステーションのホルダーに、囲繞部材3及び底面部材4を保持させる(
図10(e)参照)。
(2)ターンテーブル18が回転し、前記ステーションは位置Bへ移動し、接着処理前の準備が完了する。
(3)ターンテーブル18が回転し、前記ステーションが位置Cへ移動すると、接着機19によって囲繞部材3及び底面部材4に対する接着処理が実行される。
(4)続いてターンテーブル18が回転し、前記ステーションが位置Dへ移動すると、図示しない排出手段により、接着された囲繞部材3及び底面部材4(容器2。
図10(f)参照)が排出スライダー20へ排出され、回収トレー21へ回収される。
(5)ターンテーブル18が回転し、前記ステーションが位置Aへ移動し,前記(1)からの処理を繰り返す。
【0077】
接着装置17における接着機19は、本実施形態においては、超音波溶着機として構成するのが好ましい。超音波溶着機は、既に知られている通り発振器、振動子、ホーンなどの所定の構成を備えていればよく、詳細な説明は割愛する。
【0078】
このような超音波溶着機によれば、底面部材4や囲繞部材3の表面における発熱は極僅かであり、熱可塑性樹脂製の囲繞部材3と底面部材4との接合部P1(
図10(e)参照)が、超音波振動による摩擦熱と加圧力によって瞬時に溶融して接着される。
【0079】
図11に示すように、所望の形状を型取り可能な弾性モールド5に対して取り付けられた熱可塑性樹脂製の囲繞部材3の内側に化粧料6を充填する充填装置11と、充填装置11により充填された化粧料6を固化させる固化装置としての冷却部15と、冷却部15により化粧料6を固化した後に、囲繞部材3の第2開口部3cを閉塞する熱可塑性樹脂製の底面部材4を囲繞部材3に接着させる接着装置17と、を有する化粧品1の製造システム10が構成される。
【0080】
なお、上記説明した充填工程(ステップS3)、固化工程(ステップS4)及び接着工程(ステップS5)に替えて、従来より広く行われているいわゆるホットバックと呼ばれる手法を採用してもよい。すなわち、有底筒状の容器(不図示)の底面に予め2つの孔(充填孔と空気孔)を設けておき、当該容器を、弾性モールド5に対して、容器の内側をモールド面に向けた状態で装着し、弾性モールド5と容器の内側面とで囲まれる内部空間に対して加熱により溶融状態とされた化粧料を容器の充填孔から充填し、その化粧料を固化した後に弾性モールド5を取り外すことによっても、モールド面に対応したチェンジング模様を有する化粧料が得られる。
【0081】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 化粧品
2 容器
3 囲繞部材
3a 凹部
3b 第1開口部
3c 第2開口部
3d 内周面
3e 外周面
4 底面部材
4a 平滑部
4b 突部
5 弾性モールド
5a 表面(モールド面)
5b 係合部
6 化粧料
6a、6b 表面
10 化粧品製造システム
11 充填装置
12 コンベア
13 ホッパー
13a ノズル
14 加熱部
15 冷却部(固化装置)
16 カバー
17 接着装置
18 ターンテーブル
18a、18b、18c、18d ステーション
19 接着機
20 排出スライダー
21 回収トレー
31a、31b チェンジング模様
32(32a、32b、32c) 短線
33 短線と短線の間隔
34(34a、34b、34c) 破線配列
35(35a、35b、35c) 基本線画
36a、36b、36e、36d パターン線画
38a 図柄(ベース柄)
38b 図柄(第1柄)
38c 図柄(第2柄)
39a、39b、39c、39d 単位パターン
40 白抜き
41(41a、41b、41c) 凹条
A~D 位置
P1 接着部
P2 供給ポイント
P3 回収ポイント
d1 直線方向における短線と短線の間隔
d2 短線の幅方向における短線と短線の間隔
d3 凹条(短線)の深さ
l 凹条(単線)の長さ
w 凹条(短線)の幅
θ1、θ2 短線の角度