(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】除染用ペースト及びそのペーストを用いた固体材料で作られた基材の除染方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/23 20060101AFI20241003BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20241003BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20241003BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61L2/23
G21F9/12 501F
G21F9/12 501B
G21F9/12 501D
G21F9/28 525D
G21F9/28 525B
C09D17/00
(21)【出願番号】P 2021530894
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 FR2019052945
(87)【国際公開番号】W WO2020115443
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-24
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴザール,アルバン
(72)【発明者】
【氏名】ベン アブデルワハブ,モハメド ニダル
(72)【発明者】
【氏名】コッソ,フィリップ
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-163848(JP,A)
【文献】特表2015-535879(JP,A)
【文献】特表2009-504403(JP,A)
【文献】特表2007-517064(JP,A)
【文献】中国特許第101717701(CN,B)
【文献】特開2015-021802(JP,A)
【文献】特表2016-521199(JP,A)
【文献】特表2019-529870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/23
G21F 9/12
G21F 9/28
C09D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分を含む、核・放射性物質・生物・化学物質除染用のペースト:
- 粘土から選択される少なくとも1つの無機粘稠剤であって、ペーストの総重量の20~70重量%を占め、ミクロンサイズ及び/又はナノサイズの粒子状である無機粘稠剤;- ペーストの重量に基づいて、0.1~8又は10重量%の少なくとも1つの繊維状の化合物
であって、50μm~10mmの長さを有する繊維状の化合物;
- 任意に、さらに以下の成分から選択される1つ以上の成分:
- 少なくとも1つの界面活性剤;
-
塩基;酸、シュウ酸水素;酸化剤、第四級アンモニウム塩;還元剤;及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化学的、生物的、核又は放射性活性除染剤;
- 無機吸着剤、リン酸塩、チタン酸塩、フェロシアン化物及びフェリシアン化物から選択される少なくとも1つの汚染種抽出剤;
- n-オクチルフェニル-N,N-ジイソブチルカルバモイルメチルホスフィンオキシド(CMPO)、リン酸トリブチル(TBP)、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDPA)、ジ-2-エチルヘキシルホスフィン酸(DHEPA)、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、第一級、第二級、及び第三級有機アミン、ジカルボライドコバルト、カリックスアレーン、ニオブ酸塩、モリブドリン酸アンモニウム(AMP)、(トリメチルペンチル)ホスフィン酸(TPPA)、並びにこれらの混合物から選択される少なくとも1つの汚染種キレート剤;
- 少なくとも1つの着色剤;
及び、残部溶媒。
【請求項2】
前記成分が以下の割合で存在することを特徴とする請求項1に記載の除染用のペースト:
- ペーストの重量に基づいて、0.1~5重量%の少なくとも1つの繊維状の化合物;- 任意に、ペーストの重量に基づいて、0.1~2重量%の少なくとも1つの界面活性剤;
- 任意に、ペースト1Lあたり0.1~10molの少なくとも1つの活性除染剤;
- 任意に、ペーストの重量に基づいて0.1~5重量%の少なくとも1つの汚染種抽出剤;
- 任意に、ペーストの重量に基づいて0.1~5重量%の少なくとも1つの汚染種キレート剤;
- 任意に、ペーストの重量に基づいて0.01~10%重量の少なくとも1つの着色剤;
及び、残部溶媒。
【請求項3】
繊維が、有機化合物の繊維及び無機化合物の繊維から選択される請求項1又は2に記載の除染用のペースト。
【請求項4】
界面活性剤が、非イオン性界面活性剤及びその混合物から選択される請求項1~
3のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項5】
汚染種抽出剤が、ゼオライト、粘土、アパタイト、チタン酸ナトリウム、フェロシアン化物及びフェリシアン化物から選択される請求項1~
4のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項6】
着色剤が、有機染料及び無機顔料から選択される請求項1~
5のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項7】
溶媒が、水、有機溶媒、及びそれらの混合物から選択される請求項1~
6のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項8】
溶媒で過飽和された請求項1~
7のいずれか一項に記載のペースト。
【請求項9】
固体材料で作られた基材を除染する方法であって、前記基材が、易動性汚染種と呼ばれる少なくとも1つの汚染種、及び/又は、その表面の1つに位置する表面汚染種と呼ばれる少なくとも1つの汚染種、及び/又は、前記表面の直下に位置する表面下の汚染種と呼ばれる少なくとも1つの汚染種、及び/又は、基材の深部の前記表面の下に位置する少なくとも1つの汚染種によって汚染されており、且つ、以下の連続した工程を含む少なくとも1つのサイクルが実施される方法:
a)請求項1~
8のいずれか一項に記載のペーストを前記表面に塗布する工程;
b)ペーストが汚染種を破壊及び/又は不活性化及び/又は吸収及び/又は可溶化し、ペーストが乾燥して前記汚染種を含む乾燥した固体の残留物を形成するのに十分な時間、少なくとも前記表面上にペーストを維持する工程;
c)前記汚染種を含む乾燥した固体の残留物を除去する工程。
【請求項10】
基材が、多孔質基材である請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
固体材料が、金属及び金属合金;ポリマー;ガラス;セメント及びセメント系材料;モルタル及びコンクリート;漆喰;レンガ;天然石又は人工石;セラミックから選択される請求項
9又は
10に記載の方法。
【請求項12】
汚染種が、化学的、生物的、核又は放射性汚染種から選択される請求項
9~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
汚染種が、細菌、真菌、酵母、ウイルス、毒素、胞子、プリオン、及び原生動物から選択される生物種である請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
ペーストが、表面1m
2あたり2,000g~50,000gの量で表面に塗布され、これは、おおよそ、表面1m
2あたり2~50mmのペーストの厚さに相当する請求項
9~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程b)の間、乾燥が1℃~50℃、相対湿度20%~80%の下で行われる請求項
9~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ペーストが、2~72時間の間、表面に維持される請求項
9~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
乾燥した固体の残留物が、1つ以上の断片の形状であり、前記断片のそれぞれが、1cm以上の大きさである請求項
9~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
乾燥した固体の残留物が、機械的方法によって固体表面から除去される請求項
9~
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記サイクルが、全てのサイクルで同じペーストを使用して、又は1つ以上のサイクルで異なるペーストを使用して、1回~10回繰り返される請求項
9~
18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
工程a)で塗布されるペーストが、溶媒で過飽和されたペーストである請求項
9~
19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の1つの目的は、汚染された固体材料で作られた基材の除染に使用するための除染用ペーストである。
【0002】
本発明はさらに、この除染用ペーストを用いた除染方法を対象とする。
【0003】
基材の除染や浄化とは、この基材から汚染因子や汚染物質を除去することを意味する。
【0004】
汚染物質又は汚染種とは、通常、普通は基材物質の一部ではなく、その存在が望ましくない物質や化合物を意味する。
【0005】
これらの汚染物質は、基材の表面に存在する場合もあれば、基材の表面のすぐ下(表面下)に存在する場合もあり、又は基材の深部に存在する場合もある。
【0006】
本発明による方法とペーストは、金属、プラスチック、ガラス状物質などの鉱物材料など、あらゆる種類の材料の除染を可能にする。
【0007】
本発明による方法とペーストは、モルタルやコンクリートなどのセメント系材料、レンガ、漆喰、天然石などの多孔質材料の基材の除染と同様に、高密度材料の基材の除染にも適用できる。
【0008】
また、本発明による方法及びペーストは、あらゆる種類の汚染物質、特に化学的、生物的、又は核や放射性汚染物質の除去を可能にする。
【0009】
したがって、本発明による方法及びペーストは、特にNRBC(核・放射性物質・生物・化学物質)の除染方法及び除染用ペーストと称することができる。
【0010】
すなわち、本発明の技術分野は、概して、基材の表面、表面のすぐ下(表面下)、又は基材の深部に存在する汚染因子、汚染物質、汚染種を除去することを目的とする、汚染された基材の除染の技術分野と定義することができる。
【背景技術】
【0011】
固体材料の除染又は浄化は、多くの分野で発生する問題であり、特に原子力産業では、例えば、有毒な化学製品を使用する一部の産業における施設の衛生管理や保守管理作業のためのみではなく、例えば、NRBC(核・放射性物質・生物・化学物質)型の事故後に必要となる可能性のある除染作業の環境においても発生する。
【0012】
様々な種類の固体材料の汚染を確認することができる:
- 特に粉塵の形態の、除染される表面に付着していない易動性汚染;
- いわゆる「表面汚染」:汚染物質が存在し、且つ、(例えば、潤滑油層内の)固体材料製の基材の表面に付着している;
- いわゆる表面下汚染:(例えば、金属の酸化物層内の)固体基材の表面から最初の(すなわち)数ミクロンに汚染物質が埋まっている;
- 多孔質材料製の基材に特有の汚染である深部(深い)汚染:汚染物質が多孔質ネットワーク内で拡散し、且つ、数ミリ、またさらには数センチの深さまで材料内に埋まっていることが認められる。
【0013】
除染作業の一環として、対象となる汚染の種類や、最終的に発生する廃棄物の出口に適合させて使用する方法が一般的である。
【0014】
したがって易動性汚染物質は、この汚染物質を簡単に吸引する方法を用いて除去することができる。また除染される表面に剥離可能なゲルを塗布し、粘着テープとして機能させて易動性汚染物質を支持体から引き剥がすことによって、易動性汚染物質を除去することができる[1]。
【0015】
これらの剥離可能なゲルは有機物であり、易動性汚染物質にしか効果がない。その結果、有機廃棄物を発生させる。また、塗布を厚くしすぎると(例えば2mm超)ゲルの流れ落ち(gel run)が発生し、形成された剥離可能なゲルの機械的特性が弱くなることがある。
【0016】
表面と表面下の汚染を処理するには、様々な方法がある:
- 切削、物理的な研磨、ショットブラスト又はシェービング、レベリング技術をベースとした機械的な方法:これらの方法は、安価で比較的簡単に実施できるが、作業者にとっては非常に面倒で大変な作業であり、材料の構造を劣化させ、大量の廃棄物を発生させる。
【0017】
- 酸性、塩基性又は酸化性の溶液を用いる化学的方法:この方法は、材料を数ミクロン腐食させることにより、その材料から汚染物質を抽出する。そのため、材料はわずかに劣化し、その汚染除去は浅い深度でのみ行われる。さらに、液体廃棄物が発生し、それを処理して回収しなければならない。これらの酸性、塩基性、酸化性の溶液は、その有効性を高め、二次廃棄物の発生量を減らすために、除染ゲル[2]やフォーム[3]に包含させてもよい。
【0018】
フォームを用いた方法は、少量の液体排出物を発生させる。
【0019】
ゲルを使用する方法は、ミリメートルサイズの固体廃棄物を発生させるが、スプレーによる塗布がうまく制御されていれば、吸い上げたり、吸引したりすることができる。実際、これらの方法では、基材に粘着しすぎる薄すぎる廃棄物の形成(薄すぎる厚さのゲルを塗布した場合)、又は非水平面上の流れ落ちの発生(厚すぎる厚さのゲルを塗布した場合)を避けるために、塗布したゲルの厚さの制御が不可欠である。
【0020】
これらのゲルは、多孔質材料を処理することができず、通常、汚染種を適切に閉じ込めることができない。
【0021】
最後に、化学的な方法は、主に表面及び表面下の除染に有効であり、基材に深く埋め込まれた汚染物質の除去にはあまり効果がない。
【0022】
- レーザーアブレーションに基づく方法[4]:この種の方法は、レーザービームと吸引システムを組み合わせて用いることにより、汚染された材料の連続層を侵食し、発生した廃棄物の回収を可能にするものである。しかし、この「レーザー」法は、コストがかなり高く、実施に制限がある。
【0023】
汚染物質は多孔質ネットワークに深く取り込まれる傾向があるため、多孔質材料の深部(深い)除染は、表面や表面下の易動性の汚染除去よりもはるかに複雑である。
【0024】
いずれにしても、表面及び表面下の汚染除去のための上記方法は、それでも深部(深い)除染に使用することができるが、一方では、その有効性は限られており、他方、非常に大量の二次廃棄物が発生するため、特に放射能除染作業の場合には、その取り扱いに問題を含む可能性がある。
【0025】
しかし、これらは多孔質材料の深部(深い)除染をするための具体的な方法である。
【0026】
第一に動電学的手法[5]がある。これは、電極を設置して電流を流すことにより、多孔質材料、特に鉄筋コンクリート内のイオン汚染を電気的に移動させることに基づいている。これらの方法は製造コストが高く、実施にはかなりのリソースが必要となる。また、処理中に過剰な電流を流すことで、インフラの劣化につながる場合がある。
【0027】
次に、文献[6]には、放射性核種で深く汚染された多孔質材料を除染する方法が記載されている。記載された方法はイオン性の核汚染に特化したものであり、原子力産業以外の分野での使用に改変される可能性については言及されていない。この文献は、2段階の方法を示す。第1段階では、多孔質材料を、多孔質内に存在する放射性核種を可溶化する可能性の高いイオン溶液に浸す。この第1段階では、流れ落ちの発生や、回収及び処理が困難な液体排出物の発生を引き起こす可能性がある。さらに施設の壁などの複雑な形状や大きな表面積を有する領域の場合、多孔質材は不均一に浸されるので、この方法の有効性は低下する可能性がある。この第1の浸漬工程に続いて、可溶化された汚染物質を抽出するために、放射性核種のキレート剤を含む有機ヒドロゲルを浸された多孔質材料に接触させる。
【0028】
文献[6]は、特に放射能除染という特殊なケースにおける、放射線照射に敏感であることができ、放射線分解ガス(特にH2)を発生させる可能性のある有機ゲル化剤にのみ言及する。
【0029】
この問題は、最終的な廃棄物の包装には受け入れられないことが判明する可能性がある。
【0030】
この文献の特許請求の範囲は、水溶液と混合する前の乾燥組成物を対象とするが、ハイドロゲルの組成、特に添加する水溶液の量の影響については何の情報もない。さらに、ハイドロゲルの塗布方法や使用方法に関する明確な指示もない。特に、この文献では、塗布したハイドロゲルの厚さの影響、このハイドロゲルを実施するための手段、及び所定の表面を処理するために必要なハイドロゲルの量については議論されていない。
【0031】
文献[7]には、多孔質材料の洗浄又は脱塩に使用される(特にモニュメント修復の状況において汚染された石を処理するために使用される)乾燥圧縮パッド組成物が記載されている。
【0032】
この乾燥組成物は、バインダー、フィラー、及びミネラルファイバーを含む。モニュメントの脱塩と洗浄という非常に限定された用途のため、非常に特殊な基準(主に安全基準)を満たす必要があり、少なくとも3つの成分を含むかなり複雑な乾燥圧縮組成物となる。
【0033】
また当該文献は、乾燥組成物、50~80重量%の溶媒、及び場合によっては可溶化剤を含む、すぐに使用できる洗浄又は脱塩用のコンプレスにも関する。
【0034】
次に、その圧縮物を処理対象の表面に貼り付ける。
【0035】
その後、圧縮物を乾燥させ、処理対象物に浸透した溶媒に可溶化した塩を圧縮物に移行させて抽出する。乾燥後、圧縮物の残留物は最終洗浄によって除去され、液体排出物が生じ、同時に吸引される。
【0036】
文献[7]の圧縮物によって達成された洗浄及び/又は脱塩の有効性は(特に実施例によって)証明されておらず、おそらく低いものである。一般的に言えば、圧縮物の使用は、まだ厳密にはモニュメントの修復の状況における石の脱塩に限定されている。
【0037】
さらに、垂直な壁の処理には特別な問題が生じることにも留意すべきである。例えば、広い面積の垂直壁をゲルや圧縮物で処理するためには、高い除染効率と粉末状ではない廃棄物をもたらすように(例えば、ゲルによる高密度基材の除染の場合)、あるいは流体移動や移流などの物理現象に基づく抽出メカニズムによって垂直の多孔質表面を除染するために、かなりの厚さの被覆が必要になる場合もある。しかしながら、文献[2]及び[7]にそれぞれ記載されているゲル及び圧縮物の組成は、これらが、かなりの厚さ(特にセンチメートル単位の厚さ)でこの垂直な壁に塗布されたときに、垂れたり、流れ落ちたりすることなく、垂直な壁に「保持」され、この壁にぴったり付着することを可能としない。
【0038】
これらのゲルや圧縮物を垂れることなく塗布することができる最大の厚さは数ミリメートルである。
【0039】
したがって以上のことから、特に上記文献[1]~[7]に記載された組成物や方法に代表される先行技術の除染、組成物、製品の欠点、欠陥、制限、不利益を有さない除染用組成物、製品、及び除染方法が必要とされている。
【0040】
特に、除染用の吸引可能なゲル及びこれらのゲルを実施する方法に関して、以下の改善を実現する除染用組成物、製品、及び除染方法が必要とされている:
【0041】
- 最終的な廃棄物の特性の改善:実際には、吸引可能なゲルは、通常、汚染種を適切に閉じ込めることができず、汚染種は最終的な廃棄物の表面に吸着されるか、又は乾燥したゲルの薄片内に機械的に閉じ込められるのみである。
【0042】
- 最終的な廃棄物のサイズの改善:実際には、表面又は表面下の汚染除去に使用される吸引可能なゲルは、ミリメートルサイズの粉末状ではない廃棄物を生成する。そのため、空気中への再浮遊を避けるためには、より大きなサイズの廃棄物をもたらすことが望まれる。
【0043】
- 方法の汎用性、信頼性、再現性の向上:実際には、吸引可能なゲルを使用する方法の有効性は、噴霧による実施に大きく依存しており、これを十分に制御する必要がある。場合によっては、ゲルの塗布が不十分な場合(特に塗布されたゲル層が薄すぎる場合)には、汚染除去が不十分となり、基材に粘着しすぎる薄すぎる固形廃棄物が形成される。この粘着しすぎる薄すぎる廃棄物は、回収することが困難であると判明した。したがって、実施が容易で、信頼性が高く、再現性があり、正確で、既知の方法よりも堅牢であり、実施中に発生する可能性のある危険性の影響を受けにくい方法が望まれる。
【0044】
- 深部(深い)研磨方法を除けば、現在のところ、効果的に物質の深部(深い)除染ができる除染用組成物及び除染方法はない。したがって、最終的な廃棄物の量を少なくしながら、そのような深部(深い)除染を可能にする組成物及び方法が望まれる。
【0045】
要約すると、現在のところ、固体材料の易動性の表面、表面下、及び深部(深い)汚染除去を同時に満足できる除染用組成物又は除染方法はない。そのため、さらに安価で信頼性が高く、実施が容易で、液体排出物を発生させず、大きなサイズ、すなわち通常は1cm超の固体廃棄物のみを発生させる、そのような組成物及びそのような方法が必要とされている。
【0046】
特に、多孔質材料の深部(深い)放射能除染に効果的な組成物及び効果的な方法が必要とされている。これらの材料は大きな表面積を有することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【文献】US-A1-2012/0121459 [1]
【文献】WO-A2-2007/039598 [2]
【文献】WO-A2-2004/008463 [3]
【文献】EP-A2-0642846 [4]
【文献】WO-A1-2010/037809 [5]
【文献】US-B2-7,737,320 [6]
【文献】FR-A1-2 967 422 [7]
【発明の概要】
【0048】
本発明によれば、この目標、及びさらに他の目標は、以下を含む(好ましくは以下からなる)除染用ペーストを用いて達成される:
【0049】
- 粘土から選択される少なくとも1つの無機粘稠剤(粘稠化剤):前記無機粘稠剤は、ペーストの総重量の20重量%~70重量%、好ましくは35重量%~70重量%、より好ましくは40重量%~65重量%、より好ましくは45重量%~55重量%を占め、前記無機粘稠剤は、ミクロンサイズ及び/又はナノサイズの粒子状である。
【0050】
- 繊維状の少なくとも1つの化合物;
任意に、さらに以下の成分から選択される1つ以上の成分:
- 少なくとも1つの界面活性剤;
- 少なくとも1つの活性除染剤;
- 少なくとも1つの汚染種抽出剤;
- 少なくとも1つの汚染種キレート剤;
- 少なくとも1つの着色剤;
及び、残部溶媒。
【0051】
有利には、前記成分は以下の割合で存在する:
- ペーストの重量に基づいて、0.1~8又は10重量%、好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは0.5~5重量%、より好ましくは1~5重量%、さらに好ましくは1~3重量%の少なくとも1つの繊維状の化合物;
【0052】
- 任意に、ペーストの重量に基づいて、0.1~2重量%の少なくとも1つの界面活性剤;
- 任意に、ペースト1Lあたり、0.1~10mol、好ましくは0.5~10mol、より好ましくは1~10mol、より好ましくは3~6molの少なくとも1つの活性除染剤;
【0053】
- 任意に、ペーストの重量に基づいて0.1~5重量%の少なくとも1つの汚染種抽出剤;
- 任意に、ペーストの重量に基づいて0.1~5重量%の少なくとも1つの汚染種キレート剤。
- 任意に、ペーストの重量に基づいて0.01~10%重量、好ましくは0.1~5%重量の少なくとも1つの着色剤;
- 及び、残部溶媒。
【0054】
ペーストの構成要素である全ての成分の重量パーセントの合計は、当然に100重量%である。
【0055】
「残部溶媒」とは、溶媒がペースト中に常に存在することを意味し、溶媒の量は、溶媒以外のペースト成分(これらの成分が、上記の必須成分であるか任意成分であるか、又は記載されているか記載されていないさらに別の任意の追加成分であるかを問わない)の量に加えたときに、全てのペースト成分の合計量が100重量%となる量であることを意味する。
【0056】
ミクロンサイズの粒子とは、これらの粒子が有する通常その最大寸法で定義される平均サイズが、0.1μm超~100μm、好ましくは1~100μm、例えば0.1μm超~4.5μm又は10μmであることを意味する。
【0057】
好ましくは、前記無機粘稠剤はミクロンサイズの粒子状でのみ見られる。
【0058】
ナノサイズの粒子とは、これらの粒子が、通常その最大寸法で定義される1~100nmの平均サイズを有することを意味する:
- 本発明によるペーストは、ペーストにその実施に適合した粘度を与える特定の粘土状無機粘稠剤の特定の量と、繊維状の少なくとも1つの化合物と、溶媒を含む溶液と、任意に、通常ペーストを使用する特定の用途に応じて選択される1つ以上の任意の成分とを含む。
【0059】
「ペースト」なる用語は、ペーストがコロイド溶液からなるゲルとは本質的に異なることを理解する当業者に周知である。
【0060】
本発明によるペーストは、通常、1s-1未満のせん断速度に対して、20℃で100Pa.s以上の粘度を有する。
【0061】
この溶液は、含まれる成分に応じて、汚染除去工程において、基材の腐食、エッチング、汚染種の可溶化、又は汚染種の除去、固定を可能にする(下記参照)。
【0062】
本発明による除染用ペーストは、先行技術には、記載又は示唆されていない。
【0063】
本発明による除染用ペーストは、シリカ及びアルミナではなく粘土から選択される特定の無機粘稠剤を含む点、及びペースト中のこの無機粘稠剤の量が吸引可能なゲル中の無機粘稠剤の量よりも多い点で、従来技術による除染用組成物、特に従来技術の吸引可能なゲルとは基本的に異なる。実際、ペースト中の無機粘稠剤の量は、20重量%~70重量%、好ましくは35重量%~70重量%、より好ましくは40重量%~65重量%、より好ましくは45重量%~55重量%である。本発明による除染用ペーストは、さらに、繊維状の少なくとも1つの化合物を含むという点で、先行技術の除染用組成物、特に先行技術の吸引可能なゲルとは基本的に異なる。
【0064】
さらに、無機粘稠剤は、好ましくはミクロンサイズの粒子の形状のみである。
【0065】
また、このミクロンサイズは、大きなサイズの固形廃棄物が生じることも促進する。
【0066】
本発明によるペーストは、上記に挙げた全てのニーズを満たし、上記に挙げた目標を達成し、先行技術の除染用組成物の問題点を解決する。
【0067】
すなわち、本発明によるペーストは、驚くべきことに、易動性汚染、表面下の汚染、及び深部(深い)汚染(例えば、多孔質材料で作られた基材の多孔質ネットワーク内に埋め込まれた汚染)を同時に除去することを可能にする。
【0068】
粘土から選択される特定の無機粘稠剤が含まれていること、特定の多量の無機粘稠剤が含まれていること、及び、好ましくはミクロンサイズの粒子の特定の形態で無機粘稠剤が存在していることにより、本発明によるペーストは、驚くべきことに、吸引可能なゲルが塗布される厚さよりもはるかに部厚な厚さで垂直な壁に塗布された場合でも、垂直な壁に流れ落ちることなく、垂れることなく保持することができる。この厚さは、特に2~5mmである。
【0069】
本発明によるペーストは、繊維状の化合物をさらに含んでいるため、この厚さは5mm超になることもある。
【0070】
(吸引可能なゲルと比較して)大きく大幅に増加した本発明によるペーストで達成できる被覆厚により、除染効果、特に腐食効果が大きくなり、より深く、表面下の除染が可能になる。
【0071】
大量の特定量の無機粘稠剤を含んでいるにも関わらず、本発明によるペーストは、一貫して、あらゆる表面に簡単に塗布することができる扱い易さを保っている。さらに、本発明によるペーストを乾燥させる際に発生する亀裂の数は、吸引可能なゲルと比較してかなり減少する。そして、吸引可能なゲルを乾燥させた後に生じる廃棄物よりもはるかに大きなサイズの、断片、粉末状ではない粒子からなる固体廃棄物が生じる。
【0072】
本発明によるゲルの乾燥後に生じる廃棄物は、通常、1cm以上、またさらには10cm以上のサイズ(サイズはその最大寸法で定義される)を有する。多くの場合、最終的な乾燥した廃棄物は、ほとんど又は全く亀裂がなく(例えば1つ、2つ)、したがって、最初に塗布した「湿潤」ゲル被覆と同じ大きさである(実施例を参照)。
【0073】
粘土を使用することで、乾燥時に組織化しやすくなり、亀裂を避けることができる。
【0074】
サイズの大きい廃棄物の中で、汚染種を化学的に吸着することができる。
【0075】
本発明によるペースト中に繊維状の化合物が存在すると、上記の少量であっても、ペーストの有利な除染及び乾燥特性を変更することなく、ペーストのより良い内部保持性が保証される。すなわち、繊維状の化合物は、例えば5mm以上、好ましくは6、7、8又は9mm以上、より好ましくは少なくとも10mm、例えば50mmまでの、さらに部厚な厚さのペーストを、垂れることなく垂直な壁に保持できることを確実にし、乾燥後には常に固体で粉末状ではない廃棄物が生じる。これは実施例4で実証されている。
【0076】
ペーストには上記の任意成分の1つ以上が含まれる必要はないことに留意すべきである。
【0077】
実際、いくつかのタイプの汚染種については、溶媒、粘稠剤、及び繊維状の化合物のみを含むペーストで、汚染種を捕捉し、捕獲し、捕まえることで、本発明による方法をうまく実施することができ、上記に挙げた効果及び利点を達成することができる。この場合、これらのタイプの汚染種に対して、粘土は粘稠剤として、また「捕捉剤(trapper)」、「固定化剤(fixer)」として作用する。
【0078】
しかし、粘土では捕捉できない他の種類の汚染種については、これらの汚染種を捕捉するために任意成分が必要となる。これらの任意成分は、汚染種抽出剤及び/又は汚染種キレート剤であってもよい。
【0079】
本発明によるペースト中の界面活性剤の存在は、ペーストのレオロジー特性に好ましい顕著な影響を与える。この界面活性剤は、ペーストの塗布後の粘度の回復、リカバリーを特に促進し、ペーストを垂直面や天井に塗布する際の広がりや流れ落ちの危険性を回避する。
【0080】
ペースト中に少なくとも1つの活性除染剤が存在することで、汚染種が、易動性、表面、表面下であるか、又は固体基材の表面の下方の深部(深い)汚染種であるかに関わらず、汚染種を除去、排除、破壊、不活性化、殺傷、抽出することが可能になる。
【0081】
ペースト中に、無機吸着剤などの少なくとも1つの汚染種抽出剤、除去剤、固定剤が存在することで、汚染種の捕獲、除去、固定が容易になり、また、最終的な乾燥固体廃棄物の起こり得る滲出(特に望ましくない滲出)の場合に、汚染種の放出を回避することが可能になる。本発明によるペーストを用いた除染作業の結果である廃棄物の処理は、大幅に容易になる。
【0082】
既に述べたように、粘土は、場合によっては、粘稠剤としても、「捕捉剤」及び「固定化剤」としても作用することがある。
【0083】
また、ペースト中に少なくとも1つの汚染種キレート剤が存在すると、汚染種の捕獲、固定、除去が容易になる。
【0084】
特に、ペースト中の、より正確にはペーストの一部を構成する溶液中の抽出剤及び/又はキレート剤の存在は、例えばセメント系材料などの材料の多孔質内に化学的に結合した汚染物質の回収の促進を可能にする。
【0085】
ペースト中の少なくとも1つの着色剤の存在は、該方法の終了時に最終的な乾燥固体残留物を、それが塗布された表面に関わらず、よりよく視覚化して識別を可能にし、したがってこの残留物の回収を容易にする。
【0086】
本発明によるペーストの有機物含有量は、通常、有機系粘稠剤を使用せず無機鉱物性粘稠剤のみを使用しているため、通常、4重量%未満、好ましくは2重量%未満であり、これは本発明によるペーストの利点である。
【0087】
この固形の鉱物性無機系粘土粒子は、粘稠剤として働き、求められるペースト状の粘度を実現する。
【0088】
有利には、無機粘稠剤は、スメクタイト、カオリナイト、パーライト、バーミキュライト、及びそれらの混合物から選択することができる。
【0089】
無機鉱物性粘稠剤の性質は、本発明によるペーストの乾燥と、得られる残留物の粒径に予期せず影響を与える。
【0090】
本発明による除染用ペーストは、繊維状の化合物を含む。
【0091】
有利には、繊維は、セルロース繊維などの有機化合物の繊維、並びにロックウール及びグラスウールなどの無機化合物の繊維から選択することができる。
繊維は、2μm~10μmの直径を有することができる。
繊維は、50μm~10mmの長さを有することができる。
【0092】
本発明によるペーストは、活性除染剤を含むことができる。
【0093】
この活性除染剤は、汚染種の性質に関わらず(汚染種が化学物質、生物、またさらには核、放射性であるか否かに関わらず)、汚染種の除去を可能にするあらゆる活性除染剤とすることができる。換言すると、この除染剤はあらゆる「NRBC」(核、生物、放射性物質、化学物質)の除染剤である(あるいは、汚染種は、有機物もしくは無機物、液体もしくは固体である)。
【0094】
したがって、本発明によるペーストは、生物もしくは化学物質、またさらには核、放射性物質の活性除染剤を含むことができる。
【0095】
活性除染剤は、表面や、場合によっては表面の下や基材の深部に存在する可能性のある汚染種を除去するために、脱脂剤や酸洗剤でもよい。
【0096】
一部の活性除染剤は、いくつかの除染機能を同時に果たす。
【0097】
生物学的除染剤は、殺生剤又は殺菌剤とも記載され、生物種、特に毒性のある生物種と接触すると、その生物種を不活性化又は破壊する可能性のあるあらゆる薬剤を意味する。
【0098】
生物種とは、細菌、真菌、酵母、ウイルス、毒素、胞子、特に炭疽菌(Bacillus anthracis)の胞子、プリオン、及び原生動物など、あらゆる種類の微生物を意味する。
【0099】
本発明によるペーストで除去、排除、破壊、不活性化される生物種は、本質的には、例えば、炭疽菌の胞子などの病原性胞子、ボツリヌス毒素やリシンなどの毒素、ペスト菌などの細菌(Yersinia pestis)、ワクシニア・ウイルス又はエボラ出血熱ウイルスなどのウイルス等の生物毒性種である。
【0100】
化学的除染剤は、化学種、特に毒性のある化学種と接触したときに、それを破壊又は不活性化する可能性のある薬剤を意味する。
【0101】
本発明によるペーストで除去、排除される化学種は、特に有毒ガス、特に神経毒ガス又は糜爛性ガスなどの有毒化学種である。
【0102】
これらの毒ガスは、特に有機リン化合物であり、サリン又はGB剤、VX剤、タブン又はGA剤、ソマン、シクロサリン、ジイソプロピルフルオロホスホン酸塩(DFP)、アミトン又はVG剤、パラチオンなどがある。その他の有毒ガスとしては、マスタードガス、H剤もしくはHD剤、ルイサイトもしくはL剤、T剤などがある。
【0103】
本発明によるペーストによって除去され得る核種及び放射性種は、例えば、特に固体沈殿物の形態の金属酸化物及び水酸化物から選択することができる。
【0104】
放射性種の場合、これは破壊又は不活性化ではなく、照射沈殿物の溶解、又は汚染を有する材料の腐食による汚染の除去、排除のみであることに留意すべきである。したがって、核汚染は、ペーストを乾燥させた後に生じる固体廃棄物に実質的に移動する。
【0105】
活性除染剤、例えば活性生物学的除染剤又は活性化学的除染剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びそれらの混合物などの塩基;硝酸、リン酸、塩酸、硫酸などの酸、シュウ酸水素ナトリウムなどのシュウ酸水素、及びそれらの混合物;過酸化物、過マンガン酸塩、過硫酸塩、オゾンなどの酸化剤、次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩、四価セリウム塩、及びそれらの混合物;ヘキサデシルピリジニウム(セチルピリジニウム)クロリドなどのヘキサデシルピリジニウム(セチルピリジニウム)塩などの第四級アンモニウム塩;還元剤;及びそれらの混合物から選択することができる。
【0106】
例えば、活性除染剤は、漂白剤(Eau de Javel)などの消毒剤でもよく、これはペーストに除染、生物学的浄化及び/又は化学的浄化の特性を与える。
【0107】
活性除染剤の一部は、上記で定義したいくつかのカテゴリーに分類される場合もある。
【0108】
したがって、硝酸は酸であり酸化剤でもある。
【0109】
殺生剤などの活性除染剤は、通常、ペースト中0.1~10mol/Lの濃度、好ましくはペースト中0.5~10mol/Lの濃度、より好ましくはペースト中1~10mol/L、さらに好ましくはペースト中3~6mol/Lの濃度で使用され、除染力(例えば生物種、特に生物毒性種の抑制力)が保証される。これは、ペーストの乾燥時間に対応しており、例えば、20℃~50℃の温度、20%~60%の相対湿度で、平均して30分~5時間で、ペーストの乾燥が保証される。
【0110】
乾燥時間に関して最も不利な温度と湿度の条件下でも有効性を最大限に実現するために、ペーストの処方は様々な濃度の活性剤に持ちこたえる。確かに注目すべき点は、除染剤、特に酸性又は塩基性の除染剤の濃度を上げるとペーストの乾燥時間は著しく長くなり、その結果、方法の有効性が向上することである。
【0111】
活性除染剤は、酸又は酸の混合物であってもよい。これらの酸は、通常、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの鉱酸から選択される。
【0112】
特に好ましい除染剤、特に生物学的除染剤は、硝酸である。
【0113】
実際、全く驚くべきことに、硝酸は生物種、特に生物毒性種を破壊し、不活性化することが見いだされた。
【0114】
特に驚くべきことに、特に抵抗力のある種であるバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)の胞子などの胞子の破壊、及び不活性化を硝酸が行うことが証明された。
【0115】
酸は、通常、温度20℃~50℃、相対湿度20%~60%で、ペーストを平均30分~5時間で乾燥させることを確実にするために、0.5~10mol/L、より好ましくは1~10mol/L、さらに好ましくは3~6mol/Lの濃度で存在することが好ましい。
【0116】
別の好ましい除染剤は、硝酸とリン酸の混合物である。その結果、本発明によるペーストは、カオリナイトなどの粘土、及び酸性水溶液の硝酸(例えば1M)とリン酸(例えば1M)から成ることができる。粘土はペーストの重量の例えば40%~60%の重量を占め、酸性水溶液はペーストの重量の例えば60%~40%の重量を占める。
【0117】
あるいは、活性除染剤、例えば活性生物学的除染剤は、塩基、好ましくは無機塩基、好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、及びそれらの混合物から選択されるものであってもよい。
【0118】
このような塩基性ペースト処方の場合、本発明によるペーストは、除染作用に加えて、基材の表面の可能性のある汚染種も除去、排除できる脱脂作用を有している。
【0119】
既に述べたように、ペーストの乾燥時間に関して最も不利な気象条件の下でも総合的な有効性を達成するために、本発明によるペーストは、塩基性除染剤の濃度を広範囲に設定することができる。
【0120】
実際に、NaOH又はKOHなどの通常、殺生剤として作用する塩基性除染剤の濃度を高めると、バチルス・チューリンゲンシスの胞子で実証されたように、生物種の阻害率を顕著に高めることができる。
【0121】
塩基は、有利には10mol/L未満、好ましくは0.5~7mol/L、より好ましくは1~5mol/L、より好ましくは3~6mol/Lの濃度で存在し、20℃~50℃の温度、20%~60%の相対湿度でペーストを平均30分~5時間で乾燥できることを確実にする。
【0122】
除染剤は、特に生物学的除染剤の場合、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましい。
【0123】
例えば、胞子阻害動態及び温度の関数としてのペーストの乾燥時間に関して、活性除染剤(特に殺生剤である場合)は、好ましくは1~5mol/Lの濃度の水酸化ナトリウムである。
【0124】
本発明によるペーストは、任意に界面活性剤又は複数の界面活性剤の混合物を含むことができ、好ましくは、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体のようなブロック共重合体、及びエトキシル化脂肪酸、並びにそれらの混合物等の非イオン性界面活性剤の一群から選択される。
【0125】
この種のペーストでは、界面活性剤は、BASF社がPLURONIC(商標)の名称で販売するブロックコポリマーが好ましい。
【0126】
PLURONICは、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体である。
【0127】
これらの界面活性剤は、ペーストのレオロジー特性、特に製品のチキソトロピー性とその回復時間に影響を与え、流れ落ちの発生を回避する。
【0128】
有利には、汚染種抽出剤は、ゼオライトなどの無機吸着剤、粘土、アパタイトなどのリン酸塩、チタン酸ナトリウムなどのチタン酸塩、並びに、フェロシアン化物及びフェリシアン化物から選択される。
【0129】
このゼオライトや粘土などの任意の抽出剤は、汚染種が放射性核種である場合に使用することができるが、この任意の抽出剤は、放射性核種以外の汚染種、例えば、有害金属や重金属などの金属の場合にも使用することができる。
【0130】
有利には、汚染種キレート剤は、n-オクチルフェニル-N,N-ジイソブチルカルバモイルメチルホスフィンオキシド(CMPO)、リン酸トリブチル(TBP)、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDPA)、ジ-2-エチルヘキシルホスフィン酸(DHEPA)、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、第一級、第二級、第三級有機アミン、ジカルボライドコバルト、カリックスアレーン、ニオブ酸塩、モリブドリン酸アンモニウム(AMP)、(トリメチルペンチル)ホスフィン酸(TPPA)、及びこれらの混合物から選択される。
【0131】
抽出剤は、キレート剤として作用する場合があり、逆もまた同様である。
【0132】
有利には、着色剤は、染料、好ましくは有機染料、及び顔料、好ましくは無機染料から選択される。
【0133】
有利には、顔料は無機顔料である。この点に関しては、文献WO-A1-2014/154817[7]を参照することができる。
【0134】
本発明によるペーストに組み込まれる無機顔料については、特に限定されない。
【0135】
通常、無機顔料は、ペースト中で安定する無機顔料から選択される。
【0136】
安定した顔料とは、通常、ペーストを少なくとも6ヶ月間保存したときに、顔料が経時的に再現性のある色の変化を示さないことを意味する。
【0137】
この顔料の色に関しては限定されず、通常、ペーストに付与される色となる。この顔料は、黒色、赤色、青色、緑色、黄色、オレンジ色、紫色、茶色などのほか、白色であってもよい。
【0138】
通常、ペーストは、それが含む顔料の色と同じ色を有する。しかし、ペーストがそれに含まれる顔料の色と異なる色を有することはあり得るが、これは意図されたものではない。
【0139】
顔料は、特にそれが白色である場合、通常、無機粘稠剤とは異なる。
【0140】
有利には、無機顔料は、乾燥後のペーストに、ペーストを塗布した表面の色とは異なる色を与えるように選択される。
【0141】
有利には、無機顔料は微粉末化された顔料であり、無機顔料の平均粒径は0.05~5μm、好ましくは0.1~1μmとすることができる。
【0142】
有利には、無機顔料は、金属及び/又はメタロイドの酸化物、金属及び/又はメタロイドの水酸化物、金属及び/又はメタロイドのオキシ水酸化物、金属のフェロシアン化物及びフェリシアン化物、金属のアルミン酸塩、及びそれらの混合物から選択される。
【0143】
好ましくは、無機顔料は、好ましくは微粉末化された酸化鉄、及びそれらの混合物から選択される。
【0144】
実際、酸化鉄は様々な色を有し、例えば、黄色、赤、紫、オレンジ、茶色、又は黒である。
【0145】
実際、酸化鉄顔料はカバー力が高く、酸や塩基に対する耐性が高いことが知られている。
【0146】
除染用ペーストに配合する場合、安定性と着色力の点で酸化鉄が最も優れた性能を提供する。例えば、酸化鉄の含有量が0.1重量%、またさらには0.01重量%であれば、ペーストの特性を変えることなく強く着色することができる。
【0147】
微粉末化された酸化鉄は、Rockwood(商標)社からFerroxide(商標)の商品名で入手できる。
【0148】
平均粒子径が0.1μmの微粉末化された赤色酸化鉄であるFerroxide(商標)212M、及び、平均粒子径が0.5μmの微粉末化された赤色酸化鉄であるFerroxide(商標)228Mが挙げられる。
【0149】
酸化鉄に加えて、及び/又は、酸化鉄の代わりに、ペーストのpHに応じて他の色の金属又はメタロイドの酸化物又は水酸化物を本発明によるペーストに組み込んでもよく、特に、オレンジ色の酸化バナジウム(V2O5)、黒色の酸化マンガン(MnO2)、青色又は緑色の酸化コバルト、及び希土類酸化物を挙げることができる。しかし、上記の理由から、酸化鉄が好ましい。
【0150】
オキシ水酸化物の中で、針鉄鉱を挙げることができる。これは鉄のオキシ水酸化物FeOOHであり、非常にカラフルである。
【0151】
金属フェロシアン化物の例としては、フェロシアン化物であるプルシアンブルーを挙げることができる。アルミン酸塩の例としては、アルミン酸コバルトであるコバルトブルーを挙げることができる。
【0152】
本発明によるペーストの溶媒は、通常、水、有機溶媒、及びそれらの混合物から選択される。
【0153】
好ましい溶媒は水であり、この場合、すなわち溶媒は水で構成されており、水を100%含む。
【0154】
本発明によるペーストは、場合によっては、いわゆる「再吸収性」ペーストと定義することができ、その場合、ペーストは、特に、溶液や溶媒で過飽和になるように処方される。このような「再吸収性」「過飽和」ペーストは、特に、深部(深く)を汚染された多孔質材料の汚染除去を可能にする。このようなペーストが多孔質の表面に沈着すると、ペーストの溶媒の一部が材料の孔に自然に浸み込み、汚染種(汚染物質)を可溶化する。
【0155】
本明細書では、ペーストの過飽和の理論的な比率は定義されていないことに留意すべきである。ペーストの過飽和は、飽和状態を維持しながら溶媒(水など)の一部を失う能力に対応する。すなわち、ペーストは、この「失われた」溶媒(例えば水)の一部に取って代わるために収縮し、溶媒(例えば水)による過飽和を示す。
【0156】
したがって、過飽和は、基本的にペーストの組成、すなわちペーストに含まれる材料の種類とその濃度に依存する。
【0157】
溶液は、多孔質材料と特異的に反応して、例えば化学的腐食や汚染物質のキレート化などにより、汚染種や汚染物質の可溶化を促進するように配合することができる。
【0158】
まずペーストを除染する固体多孔質基材の表面に接触させる。溶液によるペーストの飽和と多孔質材料が浸されることの間に、一旦、平衡が成立すると、ペーストと空気の界面で溶媒が蒸発するため、ペーストが乾燥し始める。次いで、材料に染み込んだ溶液は、毛細管の再平衡作用によりペースト中に再吸収され、同時に可溶化された汚染物質が移流により運ばれ、それにより多孔質材料の汚染除去が可能になる。
【0159】
さらに本発明は、固体材料で作られた基材を除染する方法に関する。前記基材は、易動性汚染種と呼ばれる少なくとも1つの汚染種、及び/又は、その表面の1つに位置する表面汚染種と呼ばれる少なくとも1つの汚染種、及び/又は、前記表面の直下(下方)に位置する表面下の汚染種と呼ばれる少なくとも1つの汚染種、及び/又は、基材の深部の(基材の深い位置の)前記表面の下(下方)に位置する少なくとも1つの汚染種によって、汚染されており、以下の連続した工程を含む、少なくとも1つのサイクルが実施される:
【0160】
a)上記の本発明によるペーストを前記表面に塗布する工程;
b)ペーストが汚染種を破壊及び/又は不活性化及び/又は吸収及び/又は可溶化し、ペーストが乾燥して前記汚染種を含む乾燥した固体の残留物を形成するのに十分な時間、少なくとも前記表面上にペーストを維持(保持)する工程;
c)前記汚染種を含む乾燥した固体の残留物を除去(排除)する工程。
【0161】
当該除染方法は、上記の本発明によるペーストを実施するため、特に塗布された厚さや生じた乾燥固体残留物の大きさに関して、上記の当該ペーストに固有の全ての有利な効果を有している。
【0162】
特に、ペーストの説明の文脈で既に述べたように、本発明によるペースト中に繊維状の化合物が存在すると、上記の少量であっても、ペーストの有利な除染及び乾燥特性を変更することなく、ペーストのより良い内部保持性が保証される。このように、繊維状の化合物は、例えば5mm以上、好ましくは6、7、8又は9mm以上、より好ましくは少なくとも10mm、例えば50mmまでの、さらに部厚な厚さのペーストを、垂れることなく垂直な壁に保持できることを確実にし、乾燥の終了時には常に固体で粉末状ではない廃棄物が生じる。これは実施例4で実証されている。
【0163】
本発明による方法で生じるペーストによる除染の仕組みは、除染の種類によって異なる。
【0164】
易動性の、表面又は表面下の汚染の場合、ペーストは汚染された表面上に塗布され、粘稠剤により、除染液(ペーストの溶媒)と汚染された基材との間の長時間の接触が可能になる。
【0165】
処方に添加される可能性のある除染活性物質に応じて、ペーストは、易動性の表面の汚染物質を溶解することができ、また基材を数μmにわたって腐食させて表面下の汚染物質を溶解することもできる。
【0166】
ペーストは最終的に乾燥して、汚染種を含む少なくともセンチメートルサイズの乾燥した固体残留物を生じる。
【0167】
このメカニズムは、吸引可能な除染ゲルで既知のものと同様である。しかし、本発明による方法で実施される本発明によるペーストは、粘土から選択される特定の無機粘稠剤と、繊維状の化合物を含んでおり、ゲルが塗布される厚さよりもはるかに部厚な厚さで塗布することが可能である。これらの特性、すなわち粘土から選択される無機粘稠剤、繊維状の化合物、及び塗布された部厚な厚さの真に相乗的な組み合わせは、驚くべきことに、吸引可能なゲルとは対照的に、ほとんど又は全く亀裂やひび割れがなく、したがって吸引可能なゲルの薄片よりもはるかに大きなサイズの1つ以上の断片からなる乾燥した固体残留物を得ることを可能にする。
【0168】
実際、粘土を使用することで、乾燥過程でうまく組織化されるため、亀裂やひび割れを避けることができる。
【0169】
通常、本発明による方法では、亀裂を避けることが目的であり、対照的に吸引可能なゲルを実施する方法では、亀裂を生じさせることが目的である。
【0170】
本発明による方法では、乾燥ペースト、乾燥固体残留物中の汚染種を強固に固定、固定化することが可能であり、乾燥固体残留物が浸出した場合の放出を回避することができる。
【0171】
本発明による方法は、堅牢な方法と言える信頼性が高く再現性のある方法であり、その有効性はペーストの塗布方法にあまり依存しない。すなわち、噴霧による塗布の微調整を必要とする吸引可能なゲルとは異なり、また、壁に対する向上した保持力の特性により、本発明によるペーストは、汚染された表面上に、例えばコテを用いて手作業で、又は好ましくは、モルタル又は塗装の方法で噴霧機を用いて広げることができる。
【0172】
固体材料製の基材は、多孔質基材であってもよく、好ましくは多孔質無機基材である。
【0173】
しかし、本発明によるペーストと方法の有効性は、密度の高い非多孔質及び/又は非鉱物の表面が存在する場合にも同様に良好である。
【0174】
有利には、基材は、ステンレス鋼、塗装鋼、アルミニウム、及び鉛などの金属及び金属合金;ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、特に高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリカーボネート(PC)などのプラスチック材料、又はゴムなどのポリマー;ガラス;セメント、及びセメント系材料;モルタル、及びコンクリート;漆喰;レンガ;天然石、又は人工石;セラミックから選択される少なくとも1つの固体材料でできている。
【0175】
有利には、汚染種は、既に上記に挙げた化学的、生物的、又は核や放射性汚染種から選択され、特に既に上記に挙げた毒性のある生物種から選択される。
【0176】
有利には、ペーストは、除染される表面に、表面1m2あたり2,000g~50,000gのペースト、好ましくは表面1m2あたり5,000g~10,000gのペーストの量で塗布される。これは、おおよそ、表面1m2あたり2~50mmのペーストの厚さに相当し、好ましくは表面1m2あたり5~10mmのペーストの厚さに相当する。
【0177】
有利には、上記のように、ペーストは、例えばコテを使って手作業で表面に塗布してもよいし、噴霧器を使ってもよい。
【0178】
有利には[工程b)の間]、乾燥は、1℃~50℃、好ましくは15℃~25℃の温度で、相対湿度は20%~80%、好ましくは20%~70%の下で行われる。
【0179】
有利には、ペーストは2~72時間、好ましくは2~48時間の間、表面に維持される。
【0180】
有利には、乾燥した固体の残留物は、1つ以上の断片の形状であり、前記断片のそれぞれは、1cm以上、好ましくは2cm以上、より好ましくは5cm以上の大きさ(最大寸法で定義される)を有している。
【0181】
有利には、乾燥した固体の残留物は、ブラッシングなどの機械的方法によって固体表面から除去、排除される。
【0182】
有利には、上記のサイクルは、全てのサイクルで同じペーストを使用して、又は1つ以上のサイクルで異なるペーストを使用して、例えば1回~10回繰り返すことができる。
【0183】
有利には、工程b)の間、完全に乾燥させる前のペーストを、溶液(例えば除染剤の溶液、好ましくは工程a)の間に塗布されたペーストの、このペーストの溶媒中の活性除染剤の溶液)で再湿潤させる。これにより、通常は、表面へのペーストの塗布を繰り返すことを回避し、結果として、試剤の節約と、廃棄物量の制限ができる。この再湿潤操作は、例えば1回~10回繰り返すことができる。
【0184】
有利には、工程a)で塗布されるペーストは、特に基材が多孔質の固体材料で作られている場合には、溶媒で過飽和されたペースト(上記参照)とすることができる。
【0185】
本発明による方法は、乾燥した固体の廃棄物、残留物(これは、有利には、新しい本発明によるペースト(必要に応じて、本発明による方法において再び使用することができる)を作るために再生することができる)を生じるペーストを使用することから、「再生」法と呼ばれることがある。
【0186】
乾燥した固体の廃棄物、残留物は、再生するために、溶媒と、任意に上記した1つ以上の任意成分を含む溶液に接触させることができる。それによって上記の本発明によるペーストが得られる。例えば、乾燥した固体の廃棄物、残留物は、除染剤の溶液と接触させてもよい。
【0187】
本発明による固体材料で作られた基材の汚染除去方法は、特にこの基材が多孔質固体材料で作られている場合には、本発明によるペーストの過飽和(上記参照)を効果的に制御することにより、特に基材を事前に浸す必要はない。
【0188】
要約すると、本発明による方法及びペーストは、特に、既に上記したものに加えて、以下の有利な特性を有する:
- ペーストの塗布の容易性;
- 壁、及び天井への接着性;
- 浸透性の汚染の場合、特に多孔質の表面の場合も含めて、ペーストの乾燥段階の終了時に最大の除染効率が得られること。
【0189】
通常は、乾燥時間が不活性化に必要な時間以上であることが保証されている。不活性化が困難な場合は、再湿潤を用いることができる。
【0190】
- 非常に幅広い材料の処理;
- 処理終了時に材料の機械的又は物理的劣化がない;
- 様々な気象条件の下での方法の実施;
- 廃棄物量の削減;
- 乾燥した廃棄物の回収の容易性。
【0191】
結論として、本発明によるペースト、及び特に多孔質材料の表面、表面下、深部(深い)除染方法の用途は多く、且つ様々である。特に対象となる用途の1つは、セメント系材料の放射能除染に関し、寿命がきた原子力施設の公衆衛生と解体作業で発生する廃棄物をできる限り減らすことを目的とする。
【0192】
しかし、多孔質材料の除染問題は、有害化学物質を使用する産業、NRBC(核・放射性物質・生物・化学物質)事故後の除染、歴史的モニュメントの建築保存、さらには、例えば、有害分子、重金属、微生物、アスベスト、火災後の煤粒子などで汚染された国内の現場を解体する状況など、他の活動分野でも発生する。
【0193】
本発明のさらなる特徴と利点は、添付の図面に関連した、例示的で限定的ではない以下の詳細な説明を読むことにより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【
図1】
図1は、実施例1において、容器中で調製したペースト-1の写真である。
【
図2】
図2は、実施例1において、容器中で調製したペースト-2の写真である。
【
図3】
図3A、
図3B、及び
図3Cは、垂直なモルタル壁面にペースト-3を被覆させた被覆層(
図3A)、ペースト-1を被覆させた被覆層(
図3B)、ペースト-4を被覆させた被覆層(
図3C)を示す写真である。被覆したペースト層の厚さは10mmである。
【発明を実施するための形態】
【0195】
本発明によるペーストは、室温で容易に調製することができる。
【0196】
例えば、本発明によるペーストは、好ましくは徐々に(任意の順序で連続的に、及び/又は同時に)無機粘稠剤、及び繊維状の化合物を、水、好ましくは脱イオン水などの溶媒、又は溶媒と、既に上記に挙げた成分(すなわち、界面活性剤、活性除染剤、汚染種抽出剤、汚染種キレート剤、及び着色剤)から選択される1つ以上の成分との混合物に添加することによって調製できる。
【0197】
この混合は、例えば3枚羽根のプロペラを備えた機械式撹拌機を用いて機械的に撹拌することで達成できる。回転速度は、例えば200rpmであり、撹拌期間は、例えば3分~5分である。
【0198】
無機粘稠剤及び繊維状の化合物の溶媒への添加、又は溶媒と上記の成分の混合物への添加は、粘稠剤及び繊維状の化合物を、任意の順序で連続的に又は同時に、前記混合物に単に注ぐことによって実施することができる。無機粘稠剤及び/又は繊維状の化合物を加えると、溶媒、当該無機粘稠剤、及び/又は繊維状の化合物、及び任意に上記の成分を含む混合物は、通常、機械的な撹拌下に置かれる。
【0199】
この撹拌は、例えば3枚羽根のプロペラを備えた機械式撹拌機を用いて達成できる。
【0200】
撹拌速度は、通常、溶液の粘度が高くなるにつれて徐々に上げていき、最終的には、無機粘稠剤と繊維状の化合物を全て添加したときに、例えば400~600rpmの飛散が起こらない撹拌速度に達する。
【0201】
無機鉱物性粘稠剤と繊維状化合物の添加終了後、完全に均質なペーストを得るために、例えば2~5分間、なお撹拌を維持する。
【0202】
次に、このようにして調製されたペーストは、使用する前に少なくとも1時間、放置される。
【0203】
本発明によるペーストを調製するための他のプロトコルは、上記した順序とは異なる順序でペースト成分を添加すること、及び/又は、いくつかの成分を同時に添加することによって実施できることは明らかである。
【0204】
本発明によるペーストの任意の界面活性剤は、本発明によるペーストのレオロジー特性に有利に、且つ、著しく影響することに留意すべきである。この界面活性剤は、特に、垂直面及び天井の処理中の広がり又は流れ落ちのリスクを回避する。
【0205】
このようにして調製された本発明によるペーストは、次に、固体材料で作られた基材の除染される固体表面、換言すると、汚染、例えば生物学的汚染にさらされた表面上に塗布される。この汚染は、既に上記した。特に、生物学的汚染は、上記で既に定義された1つ以上の生物種から成る場合がある。
【0206】
既に述べたように、活性除染剤、例えば生物学的活性除染剤は、除去、排除、破壊、又は不活性化される汚染種(例えば生物種)に応じて選択される。
【0207】
塩基性ペースト又は酸性ペーストを使用する場合、アルミニウムなどの軽金属の合金例外かもしれないが、除染する基材を構成する材料に制限はない。実際、本発明によるペーストは、あらゆる種類の材料、たとえ脆弱な材料であっても、損傷することなく処理することができる。
【0208】
本発明によるペーストは、通常、処理された基材の化学的、機械的又は物理的な劣化、浸食、腐食を発生させない。
【0209】
しかし、表面下の除染作業の場合は、吸引可能なゲルのように、数μmにわたって基材の腐食を制御することができる。
【0210】
したがって、本発明によるペーストは、処理された基材の完全性に有害であることは決してなく、それらの再利用さえも可能である。そのため、軍用装置などの慎重に扱うべき材料は保存され、除染後に再利用することができる。同時に、本発明によるペーストで処理されたモニュメントは全く劣化せず、その外観と構造の完全性が維持される。
【0211】
したがって、この基材物質は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム及び鉛などの金属や合金;PVC、PP、PE、特にHDPE、PMMA、PVDF、PCを挙げることができるプラスチック材又はゴムなどのポリマー;ガラス;セメント及びセメント系材料、モルタル及びコンクリート;漆喰;レンガ、天然石又は人工石;セラミックから選択することができる。
【0212】
材料が何であっても、全てのケースにおいて、本発明によるペーストの除染効率は著しい。
【0213】
処理される表面は、塗装されていてもよく、未塗装でもよい。
【0214】
本発明によるペーストを用いた処理の有効性は、数ミリの深さまで汚染された基材を含めて、通常、顕著である。
【0215】
また、除染される基材及び表面の形状、幾何学的形状、大きさについても制限はない。本発明によるペーストとそれを実施する方法は、複雑な幾何学的形状(例えば、くぼみ、角度、及び陥凹)のある大きな表面の処理を可能にする。
【0216】
本発明のペーストは、床などの水平面の基材だけではなく、壁などの垂直面、又は天井などの傾斜面もしくは張り出した面の基材の効果的な処理も確実にする。
【0217】
溶液などの液体を使用する生物学的な除染方法と比較して、ペーストを使用する本発明による除染方法は、表面積が大きく、持ち運びができず、屋外に設置されている物品の処理に特に有利である。実際、本発明による方法は、ペーストを使用しているため、環境中での化学溶液の拡散、及び汚染種の散乱を回避することによって、その場での除染を可能にする。
【0218】
本発明によるペーストは、当業者に知られている全ての塗布方法で、処理される表面に塗布して広げることができる。
【0219】
従来の方法としては、例えばコテを用いた手作業による塗布、又はモルタルもしくはコーティングのような噴霧器を用いた塗布がある。
【0220】
本発明によるペーストの粘度の復元、回復時間は十分に短いので、塗布されたペーストは、あらゆる表面、例えば壁に付着させることができる。
【0221】
処理される表面に塗布されるペーストの量は、通常2,000~50,000g/m2、好ましくは5,000~10,000g/m2である。単位面積当たりの塗布されたペーストの量と、それに伴うペーストの厚さは、乾燥速度に影響する。
【0222】
すなわち、厚さ2mm~10mmのペーストの層を処理される基材の表面に塗布又は噴霧した場合、ペーストと材料の有効接触時間は、ペーストに含まれる有効成分が汚染物と相互作用する時間である乾燥時間に相当する。
【0223】
さらに、驚くべきことに、塗布されたペースト(このペーストはさらに粘土から選択された特定の粘稠剤を含む)の量は、上記の範囲内にある場合、特に2,000g/m2以上、特に5,000~10,000g/m2の範囲内にある場合、塗布されたペーストの最小厚さに対応し(例えば、2,000g/m2以上の塗布されたペーストの量は、2,000μm(2mm)以上に対応する)、ペーストを乾燥させた後、1つ以上の大きな断片(大きさは、断片の最大寸法で定義される)の形状の乾燥した固体の残留物を生じさせることができる。各々の断片の大きさは、1cm以上、好ましくは2cm以上、より好ましくは5cm以上である。
【0224】
塗布されたペーストの量、その結果である塗布されたペーストの厚さ(好ましくは2,000g/m2以上、すなわち2,000μm)は、本発明によるペーストに使用される粘稠剤(上記参照)の特定の性質と共に、基本パラメータである。それは、ペーストの乾燥後に形成される乾燥残留物の大きさに影響を与え、その結果、ミリサイズの乾燥残留物又は粉末状の残留物ではなく、それぞれの断片が1cm以上のサイズを有する1つ以上の大きな断片の形状をした乾燥固体残留物が形成されることを保証する。得られた1つ以上の大きな断片の形状をした乾燥固体残留物は、機械的な方法で容易に除去される。
【0225】
しかし、ペーストが低濃度、典型的にはペーストの総重量の0.1%~2%の界面活性剤を含む場合、ペーストの乾燥が改善され、乾燥した残留物を支持体から剥離する能力の向上につながることにも留意すべきである。
【0226】
次に、ペーストは乾燥するのに必要な時間、処理される表面上に維持される。本発明による方法の活性段階と考えられるこの乾燥工程の間、ペーストに含まれる溶媒、すなわち、通常、ペーストに含まれる水は、乾燥した固体残留物が得られるまで蒸発する。
【0227】
乾燥時間は、上記した成分の濃度範囲内のペーストの組成によって決まるが、既に述べた通り、単位面積当たりのペーストの塗布量、すなわち塗布されたペーストの厚さによっても決まる。
【0228】
また、乾燥時間は、気象条件、すなわち固体材料で作られた基材の表面が位置する雰囲気の温度と相対湿度にも依存する。
【0229】
本発明による方法は、極めて広い気象条件、すなわち、温度Tが1℃~50℃、相対湿度RHが20%~80%の条件下で実施することができる。
【0230】
したがって、本発明によるペーストの乾燥f時間は、温度Tが1℃~50℃、相対湿度RHが20%~80%の場合、通常、1時間~48時間である。
【0231】
本発明によるペーストの処方は、特に「Pluronics(商標)」などの界面活性剤を含む場合、基材物質を汚染する汚染種を不活性化及び/又は吸収するために、及び/又は材料の表面浸食反応を十分に行うために必要な(求められる)、(殺生剤などの除染剤と、除去、排除される汚染種、例えば生物、特に生物毒性種との間の)接触時間と実質的に同等の乾燥時間を、通常、保証することに留意すべきである。
【0232】
換言すると、ペーストの処方は、汚染種(例えば、生物学的汚染種)の不活性化時間に他ならない乾燥時間を保証するものであり、これは、汚染(例えば、生物学的汚染)の阻害速度に適合している。
【0233】
あるいは、ペーストの処方は、汚染された材料の表面層を除去することができる侵食反応に必要な時間に他ならない乾燥時間を保証するものである。
【0234】
放射性汚染種の場合、汚染は照射沈殿物を溶解するか、汚染物質を有する材料を腐食することで除去される。このようにして、乾燥した固体残留物には核汚染が実際に移動する。
【0235】
通常、使用される無機フィラーの表面積は、通常、50m2/g~300m2/g、好ましくは100m2/gであり、本発明によるペーストの吸収能力により、処理される表面を構成する材料の易動性(表面)汚染及び固定汚染を捕捉することが可能になる。
【0236】
必要に応じて、汚染種、例えば生物学的汚染種は、ペースト相で不活性化される。ペーストを乾燥させた後、汚染種、例えば不活性化された生物学的汚染種は、後述の乾燥ペースト残留物を回収する際に除去される。
【0237】
ペーストの乾燥の終了時に、乾燥したペーストは、吸引可能なゲルの乾燥した残留物とは対照的に、ほとんど又は全く破壊されない乾燥した残留物を形成する。この乾燥残留物は、1つ以上の大きなサイズの断片を含む。乾燥残留物は、不活性化された汚染種を含むことができる。
【0238】
ペーストの乾燥終了時に生じた乾燥残留物は、除染された材料の表面への付着性が低い。そのため、ペーストの乾燥後に生じた乾燥残留物は、ブラッシングなどの単純な機械的方法で容易に回収することができる。しかしながら、乾燥残留物は、ガスジェット、例えば、圧縮空気ジェットによっても排出することができる。
【0239】
そのため、通常、液体を用いた洗い流しは必要なく、本発明による方法では二次的な液体排出物は生じない。
【0240】
しかし、好ましくはないが、必要に応じて、液体ジェットによって乾燥残留物を除去することも可能である。
【0241】
すなわち、本発明による方法は、第一に、溶液を用いた洗浄による汚染除去方法と比較して、化学試剤の大幅な節約を達成する。第二に、機械的に容易に回収できる乾燥残留物の形状で廃棄物が生じるため、一部から化学試剤の痕跡を除去するために通常、必要とされる水又は液体を用いた洗浄操作が通常、回避される。その結果、生じる排出物の量が削減されるが、また廃棄物の処理や処分についても明らかに大幅に簡素化される。
【0242】
本発明によるペーストの大部分である無機組成と、生じる廃棄物の量が少ないことによって、乾燥した廃棄物は事前に処理することなく、保管するか、又は排出路(「アウトレット」)に誘導することができる。
【0243】
本発明による方法の終了時に、固体廃棄物が1つ以上の大きなサイズの乾燥ペーストの形状で回収される。これは、直接梱包するなどの梱包をすることができ、その結果、既に上で示したように、生じる廃液の量が大幅に削減され、また廃棄物処理チャネル及び排出口が大幅に簡素化さる。
【0244】
さらに、原子力分野では、廃棄物を梱包する前に固体の乾燥残留物を再処理する必要がないという事実は、非常に大きな利点である。これにより、液体排出物処理プラント(LETP)の操作上の制約のために、これまで除染液では禁止されていた高性能の活性剤を使用することができる。
【0245】
したがって、ペーストには四価セリウムなどの強力な酸化剤を含むことができ、これは三価セリウムの電気分解によって容易に再生される。
【0246】
一例として、処理面積1m2あたり2,000gのペーストを塗布する一般的なケースでは、生じる乾燥廃棄物の重量は1m2あたり1,400g未満である。
【実施例】
【0247】
実施例1
本実施例では、本発明による「ペースト-1」及び「ペースト-2」と呼ばれる2つの表面、表面下、深部(深い)除染用ペーストの調製を説明する。
【0248】
ペースト-1は、以下の組成のペーストである:
- 0.8重量%(ペーストの総重量に基づく)のArbocel(商標)社製セルロースBC1000(繊維サイズ:約700μm);
- 49.6重量%(ペーストの総重量に基づく)のSigma-Aldrich(商標)社製カオリナイト;及び、
- 49.6重量%(ペーストの総重量に基づく)の脱イオン水。
【0249】
ペースト-2は、以下の組成のペーストである:
- 8重量%(ペーストの総重量に基づく)のArbocel(商標)社製セルロースBC1000(繊維サイズ:約700μm);
- 20重量%(ペーストの総重量に基づく)のSigma-Aldrich(商標)社製カオリナイト;及び、
- 72重量%(ペーストの総重量に基づく)の脱イオン水。
【0250】
合成の手順は、両ペーストとも同じである:
- 最初に、脱イオン水を専用の容器に入れて秤量する。
- 次に、カオリナイトとセルロースを,ダマのない均質な混合物が得られるまで3枚羽根の機械式撹拌機を用いて撹拌しながら徐々に加える。
【0251】
このようにして作られたペーストは、最後に数分間撹拌下に置かれる。
【0252】
図1は、調製したペースト-1の写真である。
図2は、調製したペースト-2の写真である。
【0253】
この2つのペーストはいずれも可鍛性構造を有しており、例えば施設の壁などの表面にモルタル又はコーティングのように手作業で、又は噴霧器を使って塗布することができる。
【0254】
実施例2
本実施例では、本発明によるペースト、すなわち実施例1で調製されたペースト-1が、多孔質材料の表面、表面下、及び深部(深い)除染に有効であることが実証される。
【0255】
より正確には、本実施例では、本発明による除染用ペーストを用いて、133Csで深く汚染されたガラスビーズのスタックからなる多孔質材料の除染を検討する。
【0256】
本実施例で使用する本発明による除染用ペーストは、実施例1で調製したペースト-1である。
【0257】
使用した多孔質材料は、直径9.1cmの円形結晶皿内で作製した45μm~90μmの大きさのガラスビーズのスタックである。
【0258】
こうして作製した高さ2cmのガラスビーズのスタックを、CsNO3濃度0.016MのCsNO3水溶液43.42mLに浸漬して飽和させる。当該ガラスビーズのスタック中に93mgの133Csが存在する。
【0259】
次いで、溶液で飽和したガラスビーズのスタックの上に、ペースト-1の2cmの層を設置する。次に、全体を周囲条件下で乾燥させる。1週間の乾燥の後、ペースト-1の乾燥による残留固体廃棄物をガラスビーズのスタックから分離する。その後、ガラスビーズを回収し、0.1MのNaOH溶液で洗浄する。最終的に、洗浄液を原子吸光法で分析し、ガラスビーズのスタックに残存するCsの量を測定して、この方法の有効性を調べる。洗浄液の分析により、63.2mgのCsの存在が示される。このようにして、除染工程では、ガラスビーズのスタックに存在する汚染物質(すなわち、133Cs)の68%を回収することができた。
【0260】
ペースト-1は、毛細管作用により水溶液を乾燥、及び吸収した。このようにして、汚染物質(すなわち、133Cs)は、移流によって、多孔質材料からペースト-1に吸収された。
【0261】
本実施例により、本発明による「再吸収性」ペーストが、表面、表面下、及び深部で同時に汚染された多孔質材料を除染する能力を有することが明確に示された。
【0262】
実施例3
本実施例では、本発明によるペーストを用いた除染後に生じる最終的な固体廃棄物中の汚染物質の固定を検討する。ここでは、粘土が粘稠剤として、また汚染物質の固定化剤として、両方の作用に不可欠であることが実証された。
【0263】
より正確には、本実施例では、除染作業後に得られた乾燥ペースト中の汚染物質を固定するという本発明によるペーストの能力を実証する。
【0264】
そのために、Sigma-Aldrich(商標)社が販売するカオリナイト1gを4mLのCs溶液に浸した。様々なサンプルを、様々なCs濃度、すなわち10-1M、10-2M、10-3M、及び10-5Mで作製した。サンプルを蒸発するまで乾燥させた後、24時間撹拌下で100mLに懸濁した。24時間後に溶液をろ過し,原子吸光法でCs含有量を分析し、次いで、1グラムのカオリナイトに導入されたCs量と比較した。最後に、粘土が保持するCs含有量を算出し、%で表した。結果を以下の表1にまとめる。
【0265】
【0266】
粘土に保持されるCsのパーセントは、Csの最初の添加量に依存するが、これは固定部位の飽和で説明できる。
【0267】
Cs濃度10-5で行われた試験は、存在する汚染物質の量が少ないため、核汚染の最も代表的なものと考えられる。この場合、ほとんど全ての汚染物質(すなわち、Cs)が粘土によって固定できることが観察される。
【0268】
結論として、Cs除染作業に使用されるペーストの場合、粘土は粘稠剤と汚染固定剤の両方として機能するために不可欠であることが示される。
【0269】
実施例4
本実施例では、本発明によるペーストは、かなりの厚さで塗布されても、繊維状の化合物の存在により、垂直な壁に保持できることが実証される。
【0270】
次に、2つの新しいペーストを調製した(実施例1に記載したものと同じプロトコルに従った)。
【0271】
- 本発明に従っていない「ペースト-3」の組成は以下の通りである:50重量%のSigma-Aldrich社が販売するカオリナイト、及び50重量%の脱イオン水。
【0272】
- 本発明による「ペースト-4」の組成は以下の通りである:2.4重量%のArbocel(商標)社が販売するセルロースBC1000;48.8重量%のSigma-Aldrich社が販売するカオリナイト;及び、48.8重量%の脱イオン水。
【0273】
図3A、
図3B、及び
図3Cは、垂直なモルタル壁面にペースト-3を被覆した被覆層(
図3A)、ペースト-1(実施例1に記載)を被覆した被覆層(
図3B)、及び、ペースト-4を被覆した被覆層(
図3C)を示す。被覆したペースト層の厚さは10mmである。
【0274】
図3A、3B、及び3Cで観察されるように、セルロース繊維がない場合、ペースト(この場合、本発明に従っていないペースト-3)は、部厚な厚さでは垂直面に保持されない。少量のセルロース繊維の添加(本発明によるペースト-1及びペースト-4)により、部厚な厚さ、特に少なくとも10mmのペーストを塗布した場合でも、ペーストを垂直壁に保持することができる。
【0275】
さらに、本発明によるペースト-1及びペースト-4の乾燥終了時には、塗布したものと同様の大きさの粉末状ではない固形廃棄物が生じる。この固形廃棄物には亀裂が観察されない。
【0276】
換言すると、この粉末状ではない固形廃棄物は、湿潤ペーストの被膜と同じセンチメートルサイズであり、繊維の存在が最終的な廃棄物のサイズに悪影響を及ぼさないことを示す。
【0277】
参考文献
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