(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】車両サスペンション・システムにおける熱的効果の補償
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20241003BHJP
F16F 9/19 20060101ALI20241003BHJP
F16F 9/46 20060101ALI20241003BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20241003BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60G17/015 A
F16F9/19
F16F9/46
F16F15/02 A
F16F15/023 A
(21)【出願番号】P 2021537125
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 IB2019061185
(87)【国際公開番号】W WO2020136527
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】102018000020989
(32)【優先日】2018-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】521275932
【氏名又は名称】マレリ サスペンション システムズ イタリー ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ、ワルテル
(72)【発明者】
【氏名】コンティ、ピエロ アントーニオ
(72)【発明者】
【氏名】コット、ファビオ
(72)【発明者】
【氏名】ディ ビットーリオ、マルコ
(72)【発明者】
【氏名】グレコ、ジョルダーノ
(72)【発明者】
【氏名】マルチェッティ、シモーネ
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-175125(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002620(WO,A1)
【文献】特開2002-195338(JP,A)
【文献】特表2017-526875(JP,A)
【文献】特開平08-104122(JP,A)
【文献】特開2002-274138(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0166027(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105189156(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/015
F16F 9/19
F16F 9/46
F16F 15/02
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブ又はセミアクティブ・サスペンション・システムにおいて、車両のショック・アブソーバの動作温度の変動を補償するために、前記ショック・アブソーバの減衰特性を制御するための方法であって、前記サスペンション・システムは、
複数の調整可能な減衰ショック・アブソーバであって、各ショック・アブソーバが、ダンピング液を含んでいる圧力チャンバであって、前記圧力チャンバの内側でピストンが摺動可能であり、前記ピストンの位置が下側圧力チャンバと上側圧力チャンバとを画定する、圧力チャンバと、前記上側圧力チャンバと連通しているバイパス・チャンバと、前記圧力チャンバと前記バイパス・チャンバとの間の前記ダンピング液の通過を制御するように構成された制御弁とを含む、複数の調整可能な減衰ショック・アブソーバと、
前記車両のボディと、1つのショック・アブソーバがそれに関連付けられた各ホイールとの間の相対垂直加速度又は相対垂直運動を検出するためのセンサー手段と、
前記相対
垂直加速度又は前記相対
垂直運動を示す信号を受信するように適応され、前記ショック・アブソーバの所定の減衰特性を達成するために、前記ショック・アブソーバの前記制御弁のための駆動信号を発するように構成された、電子処理及び制御手段と
を備え、
前記方法は、
前記ショック・アブソーバがそれに関連付けられた前記ホイールと前記車両の前記ボディとの間の相対垂直並進速度と、前記制御弁の前記駆動信号を表す前記量との関数として、前記ショック・アブソーバの前記相対垂直
並進速度と、前記ショック・アブソーバの現在の動作状態における前記ショック・アブソーバの前記制御弁の前記駆動信号を表す量と、前記ショック・アブソーバの減衰力との間の公称関係を示す、前記ショック・アブソーバの第1の所定の基準応答モデルに従って
、前記ショック・アブソーバによって熱放散された機械力を推定する動作と、
前記車両の少なくとも1つの現在の動作状態に従って、前記ショック・アブソーバによって環境と交換された熱力を推定する動作と、
前記推定された熱放散された機械力と、前記環境と交換された前記推定された熱力との関数として、前記ショック・アブソーバの前記現在の動作温度を評価する動作と、
前記ショック・アブソーバの所定の公称減衰力に対応する前記モデルの動作点に達するように、前記制御弁の前記駆動信号を表す前記量の大きさを変動させることによって、前記ショック・アブソーバの前記減衰力と、前記ショック・アブソーバの前記動作温度と、前記制御弁の前記駆動信号を表す前記量との間の関係を示す、第2の所定のショック・アブソーバ基準モデルに従って、前記ショック・アブソーバの前記制御弁の前記駆動信号を制御する動作と
を含
み、
前記第1の所定の基準応答モデル及び前記第2の所定の基準モデルが、前記ショック・アブソーバの前記相対垂直並進速度と、前記制御弁の前記駆動信号を表す前記量と、前記ダンピング液の異なる動作温度についての前記ショック・アブソーバの前記減衰力との間の複数の公称関係を示す総合基準モデルに統合された、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記車両の少なくとも1つの現在の動作状態の関数として、前記ショック・アブソーバによって前記環境と交換された前記熱力を推定することが、周囲温度の関数として、前記ショック・アブソーバと周囲環境との熱交換を推定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記車両の少なくとも1つの現在の動作状態に従って、前記ショック・アブソーバによって前記環境と交換された熱出力を推定することが、前記車両の走行速度の関数として、前記ショック・アブソーバと前記周囲環境との前記熱交換を推定することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記車両の少なくとも1つの現在の動作状態の関数として、前記ショック・アブソーバによって前記環境と交換された前記熱出力を推定することが、前記車両の制動システムの使用状況の関数として、前記ショック・アブソーバと前記周囲環境との前記熱交換を推定することを含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記車両の少なくとも1つの現在の動作状態の関数として、前記ショック・アブソーバによって前記環境と交換された前記熱出力を推定することが、車両推進ユニットの動作温度の関数として、前記ショック・アブソーバと前記周囲環境との前記熱交換を推定することを含む、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ショック・アブソーバの前記動作温度が前記ショック・アブソーバの熱容量の関数として推定される、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の基準モデルが、前記ショック・アブソーバの相対垂直速度と、前記制御弁の前記駆動信号を表す前記量と、-40℃と120℃との間に含まれる前記ショック・アブソーバの動作温度において決定される前記ショック・アブソーバの減衰力との間の解析的関係であるか、又は前記ショック・アブソーバの相対垂直速度と、前記制御弁の前記駆動信号を表す前記量と、-40℃と120℃との間に含まれる前記ショック・アブソーバの動作温度において決定される前記ショック・アブソーバの減衰力との全単射対応における数値のマップである、請求項1から
6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ショック・アブソーバの前記制御弁の前記駆動信号を表す前記量が、前記弁の駆動電流を表す量である、請求項1から
7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ショック・アブソーバがそれに関連付けられた前記ホイールと、前記車両ボディとの間の前記相対垂直並進速度が、相対垂直加速度を示す信号の積分によって決定される、請求項1から
8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記センサー手段が、前記車両の前記ボディに結合された少なくとも3つの加速度計と、前記ショック・アブソーバがそれに関連付けられた前記車両のホイール・ハブに結合された少なくとも1つの加速度計とを含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記ショック・アブソーバがそれに関連付けられた前記ホイールと、前記車両ボディとの間の前記相対垂直並進速度が、前記ホイールに関連付けられた前記ショック・アブソーバのストロークを示す信号の導関数によって決定される、請求項1から
10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
アクティブ又はセミアクティブ・サスペンション・システムにおいて、車両のショック・アブソーバの動作温度の変動の補償のための前記ショック・アブソーバの減衰特性の制御システムであって、前記サスペンション・システムは、
複数の調整可能な減衰ショック・アブソーバであって、各ショック・アブソーバが、ダンピング液を含んでいる圧力チャンバであって、前記圧力チャンバの内側でピストンが摺動可能であり、前記ピストンの位置が下側圧力チャンバと上側圧力チャンバとを画定する、圧力チャンバと、前記上側圧力チャンバと連通しているバイパス・チャンバと、前記圧力チャンバと前記バイパス・チャンバとの間の前記ダンピング液の通過を制御するように構成された制御弁とを含む、複数の調整可能な減衰ショック・アブソーバと、
前記車両のボディと、1つのショック・アブソーバがそれに関連付けられた各ホイールとの間の相対垂直加速度又は相対垂直運動を検出するためのセンサー手段と、
前記相対
垂直加速度又は前記相対
垂直運動を示す信号を受信するように適応され、前記ショック・アブソーバの所定の減衰特性を達成するために、前記ショック・アブソーバの前記制御弁のための駆動信号を発するように構成された、電子処理及び制御手段と
を備え、
前記制御システムは、前記処理及び制御電子手段と結合された前記ショック・アブソーバの前記動作温度の前記変動を推定し、補償するための処理モジュールを備え、前記ショック・アブソーバの前記動作温度の前記変動を推定し、補償するための前記処理モジュールは、
前記ショック・アブソーバがそれに関連付けられた前記ホイールと前記車両の前記ボディとの間の相対垂直並進速度と、前記ショック・アブソーバの現在の動作状態における前記ショック・アブソーバの前記制御弁の前記駆動信号の代表的な量サイズとの関数として、前記ショック・アブソーバの前記相対垂直並進速度と、前記ショック・アブソーバの前記制御弁の前記駆動信号を表す前記量と、前記ショック・アブソーバの減衰力との間の公称関係を示す、前記ショック・アブソーバの第1の所定の基準応答モデルに従って
、前記ショック・アブソーバによって熱放散された機械力を推定するために構成された第1の推定器モジュールと、
前記車両の少なくとも1つの現在の動作状態の関数として、前記ショック・アブソーバによって環境と交換された熱力を推定するために構成された第2の推定器モジュールと、
前記推定された熱放散された機械力と、前記環境と交換された前記推定された熱力との関数として、前記ショック・アブソーバの前記現在の動作温度を評価するために構成された評価器モジュールと、
前記ショック・アブソーバの所定の公称減衰力に対応する前記モデルの動作点に達するように、前記制御弁の前記駆動信号を表す前記量の強度を変動させることによって、前記ショック・アブソーバの前記減衰力と、前記ショック・アブソーバの前記動作温度と、前記制御弁の前記駆動信号を表す前記量との間の関係を示す、第2の所定のショック・アブソーバ基準モデルに従って、前記ショック・アブソーバの前記制御弁の前記駆動信号を制御するために構成された制御器モジュールと
を含み、
前記ショック・アブソーバの動作温度における変動を推定し、補償するための前記処理モジュールが、請求項1から
11までのいずれか一項に記載の方法を実装するように構成されたことを特徴とする、制御システム。
【請求項13】
請求項
12に記載の、ショック・アブソーバの動作温度の変動を補償するための車両の前記ショック・アブソーバの減衰特性の制御システムを備える、車両のためのアクティブ又はセミアクティブ・サスペンション・システム。
【請求項14】
請求項1から
11までのいずれか一項に記載の、セミアクティブ・サスペンション・システムにおけるショック・アブソーバの動作温度の変動を補償するための車両の前記ショック・アブソーバの減衰特性の制御方法を実装するための1つ又は複数のコード・モジュールを備える、処理システムによって実行可能なコンピュータ・プログラム又はプログラムのグループ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、車両のアクティブ又はセミアクティブ・サスペンション・システムに関し、より詳細には、アクティブ又はセミアクティブ・サスペンション・システムにおける熱的効果の推定及び補償に関する。より詳細には、本発明は、特に、ショック・アブソーバの動作温度の変動を補償するために、車両のショック・アブソーバの減衰特性(damping characteristics)(「ダンピング特性」ともいう)を制御することに関する。
【背景技術】
【0002】
現今では、特に自動車分野において、例えば、路面状態、車両運転状態、ドライバによって望まれる快適さの設定、1つ又は複数のショック・アブソーバの摩耗ステータスの関数として、車両サスペンション・システムの挙動を修正するために、電子制御ユニットの制御下でそれらの減衰特性を変動させることが可能である、調整可能な減衰ショック・アブソーバ(damping shock absorber)(「ダンピングショック・アブソーバ」ともいう)がますます頻繁に使用されている。
【0003】
車両のボディの垂直運動、より一般的には、車両の垂直ダイナミクスは、路面の状態によって、及びステアリング、加速、制動、ギア比の変更など、ドライバによって与えられた操作によって影響を受けるが、ショック・アブソーバの劣化状態によっても影響を受ける。
【0004】
セミアクティブ・サスペンション・システムは、一般に、
ダンピング液(オイル)を含んでいる圧力チャンバであって、その圧力チャンバの内側でピストンが摺動可能であり、そのピストンの位置が下側圧力チャンバと上側圧力チャンバとを画定する、圧力チャンバと、流体通過ホールによって上側圧力チャンバと連通しているバイパス・チャンバと、圧力チャンバとバイパス・チャンバとの間のダンピング液の通過を制御するように構成された、一般にソレノイド・バルブである制御弁とを含むタイプの調整可能な減衰ショック・アブソーバと、
相対加速度、又はより一般的には車両ボディとホイール・ハブとの間の相対運動、並びにボディの加速度及び運動を検出するように適応され、車両の前車軸及び後車軸に配置された、センサーのセットと、
車両のダイナミクスを示す、センサーによって発せられた信号を受信し、解釈するように適応され、所定の安全条件又は駆動設定に準拠するようにショック・アブソーバの所望の減衰特性を追跡するために、システムのショック・アブソーバの制御弁の駆動信号を発するように構成された電子処理及び制御ユニットと
を含む。
【0005】
サスペンション・システムの制御論理は、車両が安全な状態で走行することを保つことに鑑みて、所定の優先度ルールに従って、路面の検出された状態、車両の横方向及び縦方向のダイナミクス、ユーザによって設定された及び/又は望まれる減衰特性モデルに応じて、複数の事前定義された制御ストラテジーのうちの1つに従って、サスペンション・システムが制御されるような、モジュラー・タイプの制御論理である。
【0006】
ショック・アブソーバの減衰特性は、ショック・アブソーバ制御ソレノイド・バルブのアクチュエータ手段の電流駆動信号を発することによって、制御ユニットによって調整され、電流駆動信号の強度は、一般に、知られているパルス幅変調(PWM:pulse width modulation)技法に従って調整される。弁駆動電流のそのような調整は、減衰力(damping force)(「ダンピング力」ともいう)特性が、各個々のショック・アブソーバについて、ホイール・ユニットと車両ボディとの間の相対並進速度(F/v)の関数として、連続的に調整されることを可能にする。そのサスペンション・システムにおいて、減衰特性(F/v)が、ショック・アブソーバの機械的パラメータ及び物理パラメータによって、並びにダンピング液の粘度特性によって決定され、ショック・アブソーバの動作点(working point)がその上に配置される単一の決定された曲線によって表される、パッシブ・サスペンション・システムと比較して、セミアクティブ・サスペンション・システムは、(サスペンション自体の振動モードの知覚できる不足減衰(under-damped)挙動に対応する)最小減衰特性と(サスペンション自体の振動モードの知覚できる過減衰(over-damped)挙動に対応する)最大減衰特性との間の動作エリアをカバーする、異なる減衰曲線(F/v)に属する動作点のクラウドを画定し、その動作エリア内に、ショック・アブソーバの機械的パラメータ及び物理パラメータとダンピング液の粘度特性とに応じて、中間安全減衰曲線が設定され、その曲線上に、システムは、制御ソレノイド・バルブの故障の場合に、いわゆるフェイルセーフ曲線を自動的に設定する。
【0007】
車両走行状態において、車両の現在の動作状態に応じて、ショック・アブソーバは、ダンピング液の粘度に影響を及ぼし、最終的に、公称設計/較正特性減衰曲線(F/v)に対するショック・アブソーバの減衰挙動の変化、又はより良くは、減衰特性(F/v)と制御ソレノイド・バルブの駆動電流との間の関係の変化を決定する、動作温度の変動を受ける。このことは、基本的に、同じ粗さの路面の場合、ソレノイド・バルブの駆動電流の平均実際値が公称状態に対して異なることを意味する。
【0008】
したがって、熱的効果による公称設計/較正性能からのあらゆる偏差を監視することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ショック・アブソーバが動作状態において受ける熱的効果を補償するために、車両のショック・アブソーバの減衰特性を制御するための方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、システムの制御ストラテジーをショック・アブソーバの現在の動作特性にリアルタイムで適応させるために、アクティブ又はセミアクティブ・サスペンション・システムにおいて、ショック・アブソーバの性能の変化を推定し、ショック・アブソーバの動作温度の変動を補償するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、これらの目的は、独立クレームにおいて言及される特徴を有する、車両のショック・アブソーバの減衰特性を制御するためのシステム及び方法によって達成される。
【0011】
特定の実施例は従属クレームにおいて表される。
【0012】
本発明のさらなる主題は、クレームに記載のコンピュータ・プログラム及びサスペンション・システムである。
【0013】
要約すれば、本発明は、車両の走行中に、各ショック・アブソーバによって熱放散された機械力、及びショック・アブソーバによって環境と交換された熱力を推定すること、並びにショック・アブソーバの現在の動作温度を評価するためにこれらの推定値を使用することの原理に基づく。
【0014】
路面の不均一の結果として生じ、各ショック・アブソーバによって放散された機械力(Pm=F*v)は、ショック・アブソーバがそれに関連付けられたホイールと車両ボディとの間の相対垂直並進速度(relative vertical translation speed)と、制御弁の駆動電流との関数として推定される。特に、熱放散された機械力は、最初にショック・アブソーバの油圧特性から始めて評価される。特に、各時点において、ショック・アブソーバがそれに関連付けられたホイールと車両ボディとの間の相対垂直変換により、ショック・アブソーバの相対速度を評価することが可能であり、ショック・アブソーバ制御弁に対する連続制御(例えばスカイフック(Skyhook)タイプ制御)が存在しているので、瞬時駆動電流も知られている。これらの2つの量から始めて、ショック・アブソーバの挙動を表すマップによって、瞬時減衰力、したがって、放散された機械力を得ることが可能である。
【0015】
ショック・アブソーバによって環境と交換された熱力は、好ましくは、以下のパラメータ、すなわち、周囲温度、車両速度、ショック・アブソーバの近傍における車両の制動システムの使用、及びショック・アブソーバの近傍における車両のエンジンの動作温度のうちの少なくとも1つの効果により、車両CANネットワーク上に存在する信号に基づいて、又はアドホック・センサー(ad hoc sensor)を与えることによって推定される。特に、環境と交換された熱力は、最初に後者の温度から始めて、拡張された実施例では、他の量から推定され、ショック・アブソーバの外側シェルに触れる空気の流れが車両速度の強い影響を受けるので、それらの量のうち、最も重要なものは車両速度である。有利には、エンジンとショック・アブソーバとの間の熱交換、又はブレーキ・ディスクとショック・アブソーバとの間の熱交換の効果を考慮に入れるために、さらなるパラメータが使用され得るが、これらの後者の効果は、それの影響がより小さく、推定の正確さを高めるために使用される。
【0016】
ショック・アブソーバの現在の動作温度は、一般式:
Tamm=f(C、Pin、Pout、t)
に従って、ショック・アブソーバによって熱放散された機械力と、ショック・アブソーバによって環境と交換された熱力との関数として、熱平衡の状態で推定され、上式で、Tambは周囲温度を表し、Cは熱容量を表し、Pinはショック・アブソーバへの機械力入力を表し、Poutは放散された熱力を表し、tは時間を表す。
【0017】
その後、得られた温度値は、公称温度特性に対するショック・アブソーバの減衰特性の偏差を補償するために使用され得る。設定された駆動電流レベルについて、公称動作値からの温度偏差に従う、ショック・アブソーバ減衰力の変化を表す基準モデルに基づいて、ショック・アブソーバ制御弁の駆動信号を制御することによって、温度補償ストラテジーが適用される。熱的効果により、ダンピング液の粘度の変動によって引き起こされた減衰力の変動は、したがって、適正な減衰力値を回復するために、現在好ましい実施例ではショック・アブソーバ制御弁の駆動電流の、ショック・アブソーバ制御弁の駆動信号のオフセットに変換される。
【0018】
ショック・アブソーバがそれに関連付けられたホイールと車両ボディとの間の相対垂直並進速度は、例えば、ホイールと車両ボディとの間の相対垂直並進速度が、ショック・アブソーバの運動又はストロークを示す信号の導関数によって決定されるように、前記変位信号に対応する量から始めて決定されるか、又は前記ホイールと車両ボディとの間の相対垂直加速度を示す信号に対応する量から始めて、それにより、ホイールと車両ボディとの間の相対垂直並進速度は前記加速度信号の積分によって決定される。後者の場合、加速度信号は、車両ボディに結合された少なくとも3つの加速度計と、車両ホイールの各ハブに結合された少なくとも1つの加速度計とを含む、センサー手段によって収集され得る。
【0019】
本発明のさらなる特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら、非限定的な実例として与えられる本発明の実施例の以下の詳細な説明からより明らかに現れるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ショック・アブソーバの動作温度の変動の補償のために構成された、アクティブ又はセミアクティブ・サスペンション・システムの制御アーキテクチャの概略表現を示す図である。
【
図2】ショック・アブソーバの動作温度の変動の推定及び補償のための処理モジュールの詳細な表現を含む、
図1のアクティブ又はセミアクティブ・サスペンション・システムの制御アーキテクチャのブロック図の別の表現を示す図である。
【
図3】ショック・アブソーバの制御弁の駆動電流に応じた、ショック・アブソーバについての相対垂直並進速度の関数としての減衰力曲線のパターンの例示的なダイヤグラムである。
【
図4】異なる熱交換パラメータに従ってショック・アブソーバにおいて放散された機械力のパターンの例示的なダイヤグラムである。
【
図5】ショック・アブソーバの動作温度に応じた、ショック・アブソーバについての相対垂直並進速度の関数としての減衰力曲線のパターンの例示的なダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1のブロック図を参照すると、本発明によるアクティブ又はセミアクティブ・サスペンション・システムの制御アーキテクチャが概略的に示されている。
【0022】
システムの制御ユニット10は、車両が安全な状態で走行することを保つことに鑑みて、所定の優先度ルールに従って、路面の検出された状態、車両の横方向及び縦方向のダイナミクス、ユーザによって設定された及び/又は望まれる減衰特性モデルに従って、複数の事前定義された制御ストラテジーのうちの1つを選択するように構成された、制御ストラテジーの処理モジュール12を備える。
【0023】
制御モジュール12は、それぞれ、車両ボディ及びホイール・ハブに結合され、車両ボディとホイール・ハブとの間の相対加速度(すなわち相対垂直加速度)又は相対運動(すなわち相対垂直運動)を検出するように適応された(一般に加速度計を含む)センサー・アセンブリ20、22に結合される。好ましくは、センサー・アセンブリ20は、ボディの動きを評価することが可能であるように車両ボディに結合された3つのセンサー、例えば、サスペンション・ドームにおいて前車軸上に配置された2つのセンサーと、後車軸上に配置された1つのセンサーとを備え、センサー・アセンブリ22は、フロント・ホイール・ハブ上に配置されたセンサーの少なくとも1つのペアを備え、好ましくは、フロント・ホイール及びリア・ホイールのハブ上に配置された、車両のホイールの数に対応するいくつかのセンサーを備える。
【0024】
制御モジュール12はまた、オンボードCANバスに結合され、オンボードCANバス上には、他のオンボード制御ユニット、一般に、モーター制御ユニット、送信制御ユニット、制動又は加速操作中のABS、EBD、ASR機能の管理のために構成された縦方向車両ダイナミクス制御ユニット、ステアリング操作管理のために構成された横方向車両ダイナミクス制御ユニット、及び一般的に「ボディ・コンピュータ」と呼ばれる、内部及び車体デバイスのための制御ユニットが通信可能に接続される。
【0025】
改善された一実施例では、全体としてのサスペンション・システムの所望の挙動(コンフォート、スポーツ)、及び/又は、例えば検出された異常状態の警告灯によるシステムの動作ステータス情報の表現を設定するためのコマンドを取得するためのユーザ・インターフェース(図示せず)も提供される。
【0026】
最後に、参照番号30は、一般に、制御モジュール12によって個々に制御される、ショック・アブソーバの減衰特性のための調整弁を示す。
【0027】
参照番号14は、制御ユニット10中に組み込まれ、制御モジュール12に結合された、ショック・アブソーバの動作温度の変動を推定し、補償するための処理モジュールを示し、処理モジュール14は、制御モジュール12から、一般にVammで示されている、それぞれのショック・アブソーバがそれに関連付けられた各ホイールと車両ボディとの間の相対垂直並進速度を示す入力信号又はデータ、及び、特に、駆動信号を表す量、好ましくは駆動電流の値の、一般にIammで示されている、ショック・アブソーバ制御弁の駆動信号を示す信号又はデータを受信する。モジュール14は、ショック・アブソーバ制御弁の駆動信号の制御信号、好ましくは駆動電流の±ΔIammのオフセット信号をもつ制御モジュール12を供給するようにさらに構成される。
【0028】
本説明の残りでは、
図2のブロック図を参照しながら、処理モジュール14についてより詳細に説明する。
【0029】
処理モジュール14は、さらに、ショック・アブソーバ(又は各個々のショック・アブソーバ若しくはショック・アブソーバのペア)の所定の複数の基準モデル、例えば、ショック・アブソーバの相対垂直並進速度と、制御弁の駆動信号を表す量と、ショック・アブソーバの減衰力との間の公称関係を示す、第1の基準応答モデル、及びショック・アブソーバの減衰力と、ショック・アブソーバの動作温度と、制御弁の駆動信号を表す前記量との間の関係を示す、第2の基準モデルを記憶するように適応されたメモリ・モジュールMと、読取り及び書込みにおいて結合される。
【0030】
第1の基準モデルは、ショック・アブソーバの制御弁の駆動信号を表す、ショック・アブソーバがそれに関連付けられたホイールのハブによってサポートされる相対垂直並進速度と、好ましくは、-40℃と120℃との間のショック・アブソーバの動作温度において、一般にF=F(I、V)として表される、ショック・アブソーバの減衰力との間の解析的関係であるか、又はショック・アブソーバの制御弁の駆動信号を表す、ショック・アブソーバがそれに関連付けられたホイールのハブによってサポートされる相対垂直並進速度と、好ましくは、-40℃と120℃との間のショック・アブソーバの動作温度において、一般にF=F(I、V)として表される、ショック・アブソーバの減衰力との1対1の対応における数値のマップであり得る。
【0031】
第2の基準モデルは、ショック・アブソーバ減衰力と、ショック・アブソーバの動作温度と、ショック・アブソーバ制御弁の駆動信号を表す量との間の解析的関係であるか、又はショック・アブソーバ減衰力と、ショック・アブソーバの動作温度と、ショック・アブソーバ制御弁の駆動信号を表す量との1対1の対応における数値のマップであり得る。
【0032】
例えば、各モデルは、ショック・アブソーバのベンチ・テスト中の、又は車両チューニング時の較正ステップにおける、上述のパラメータの実験的測定から始めて生成され得る。
【0033】
第1の基準応答モデル及び第2の基準モデルは、ショック・アブソーバの相対垂直並進速度と、ショック・アブソーバの制御弁の駆動信号を表す前記量と、ダンピング液の異なる動作温度についてのショック・アブソーバの減衰力との間の複数の公称関係を示す単一の総合基準モデルに統合され得る。
【0034】
図2のブロック図を参照しながら、少なくとも1つのショック・アブソーバ、好ましくは車両のすべてのショック・アブソーバの動作温度の変動を推定し、補償するための処理モジュール14について以下で説明する。
【0035】
処理モジュール14は、特に、駆動信号を表す量、好ましくは駆動電流の値の、一般にIammで示されている、ショック・アブソーバ制御弁の駆動信号を示す入力信号又はデータを受信するように適応された、第1の推定器モジュール50を含む。
【0036】
処理モジュール14はまた、以下のパラメータ、すなわち、周囲温度、車両速度、ショック・アブソーバの近傍における車両の制動システムの使用、及びショック・アブソーバの近傍における車両のエンジンの動作温度のうちの少なくとも1つを示す、車両のCANネットワーク又はアドホック・センサーからの入力信号又はデータを受信するように適応された、第2の推定器モジュール52を含む。
【0037】
第1の推定器モジュール50は、メモリMに記憶され、ショック・アブソーバの相対垂直並進速度と、ショック・アブソーバの制御弁の駆動信号を表す量と、25℃の標準環境温度におけるショック・アブソーバの減衰力との間の公称関係を示す、ショック・アブソーバの第1の基準応答モデルに従って、ショック・アブソーバがそれに関連付けられたホイールと車両のボディとの間の相対垂直並進速度と、ショック・アブソーバの現在の動作状態におけるショック・アブソーバの制御弁の駆動信号を表す量との関数として、ショック・アブソーバによって熱放散された機械力Pinを推定するために構成される。
【0038】
制御弁の駆動電流の強度の関数としての、ショック・アブソーバの相対垂直並進速度と、ショック・アブソーバの減衰力との間の関係のグラフ表現が
図3に示されている。
【0039】
第2の推定器モジュール52は、好ましくは、優先して環境の温度Tambから始めて、場合によっては、改善された実施例では、車両速度v、エンジンとショック・アブソーバとの間の、すなわち、エンジンの動作温度Tengineの関数としての熱交換、及びブレーキ・ディスクとショック・アブソーバとの間の、すなわち、ショック・アブソーバがそれの中に位置する隣接する環境において温度Tbrakeを生じさせる、車両の制動システムの使用、及び結果として生じる過熱に応じた熱交換を含む、他の量から、車両の少なくとも1つの現在の動作状態に応じて、ショック・アブソーバによって環境と交換された熱力Poutを推定するように構成される。
【0040】
環境と交換された熱力P
outと、それぞれ(a)車両の縦方向移動速度v、(b)環境の温度T
amb、(c)車両ブレーキの温度T
brake、(d)車両エンジンの動作温度T
engineとの間の関係の例示的なグラフ表現が
図4中のダイヤグラムに示されている。
図4は、環境と交換された熱力P
outが、どのように、車両の縦方向走行速度vとともに、例えば直線的に増加し、周囲温度T
amb及び車両のブレーキの温度T
brakeが上昇した場合、例えば直線的に減少し、(動作温度T
eを超えない)車両エンジンの動作温度T
engineが上昇した場合、最初に低下し、次いで、一定に留まるかを示す。
【0041】
評価器モジュール54は、推定器モジュール50及び推定器モジュール52の出力に結合され、第1の推定器モジュール50によって推定された熱放散された機械力Pinと、第2の推定器モジュール52によって推定された環境と交換された熱力Poutとの関数として、ショック・アブソーバの現在の動作温度Tamm(t)を評価するように構成される。
【0042】
評価器モジュール54は、一般関係式
Tamm=f(C、Pin、Pout、t)
に従って、したがって、時間とともに、ショック・アブソーバの熱容量(それの部分まで完全に、熱容量は実験的ベンチ測定及び車両測定を用いて推定される)と、ショック・アブソーバへの機械力入力と、放散された熱力との関数として、ショック・アブソーバの現在の動作温度Tamm(t)を評価する。
【0043】
評価器モジュール54は、ショック・アブソーバの現在温度の関数として、放散された熱力を推定することが可能であるように、第2の推定器モジュール52へのフィードバックにおいて供給され、メモリMに記憶されたショック・アブソーバの第2の基準モデルと連通している制御器モジュール56への入力において供給される、ショック・アブソーバの現在の動作温度Tamm(t)を示す信号又はデータを発する。評価器モジュール54は、好ましくは、ショック・アブソーバの減衰力と、ショック・アブソーバの動作温度と、制御弁の駆動電流の強度との間の関係を示す、ショック・アブソーバの基準モデルに従って、駆動電流の強度のオフセット信号±ΔIamを決定するために、ショック・アブソーバ制御弁の駆動信号を制御するように構成される。
【0044】
ショック・アブソーバの動作温度の関数としての、ショック・アブソーバの相対垂直並進速度と、ショック・アブソーバの減衰力との間の関係のグラフ表現が
図5に示されている。
【0045】
駆動電流強度のオフセット信号又はデータ±ΔIammは、制御モジュール12の入力において評価器モジュール54によって与えられるので、制御モジュール12は、したがって、ショック・アブソーバの所定の公称減衰力に対応する動作点に達するように、制御弁の駆動電流の強度を変動させることができる。
【0046】
処理モジュール14は、特に、ショック・アブソーバの動作温度の変動を補償するために、車両のショック・アブソーバの減衰特性を制御するためのプロセス(アルゴリズム)を実行するように適応された、例えばローカルに記憶された、プログラム又はコンピュータ・プログラムのグループを実行するように構成される。
【0047】
有利には、ショック・アブソーバの減衰特性を不変に維持するためにショック・アブソーバの駆動電流を周期的に又は連続的に更新するように、上記で説明したプロセス全体が、一定の時間間隔で又は連続的に繰り返される。このようにして、絶対的な運転快適さ、ドライバによって望まれる快適さ設定、及び乗員にとって知覚できる車両の動力学的性能の変更を行わないように、サスペンション・システムの挙動をショック・アブソーバの温度、すなわち動作流体の粘度の変動に(持続可能な限り)適応させることが可能である。
【0048】
ショック・アブソーバに対する熱的効果は所定の制御ダイナミクスに対して客観的に過大であるので、ショック・アブソーバに対する熱的効果が完全に回復可能でない場合、本システムは、依然として構成要素信頼度のための安全限界内で、臨界温度(例えば100℃)に達することをドライバに警告して、サスペンション・システムへの損傷を回避するためにダンパーを冷却させる機会を知らせるように設計される。
【0049】
もちろん、本発明の原理が理解されれば、製造詳細及び実施例は、添付の特許請求の範囲において定義されている本発明の範囲から逸脱することなく、非限定的な実例としてのみ、説明され、図示されたものと比較して広く変動し得る。