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特許7565281負極材料、負極片、電気化学装置及び電子装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】負極材料、負極片、電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/583 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M4/583
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021539889
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 CN2020081305
(87)【国際公開番号】W WO2021189338
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-07-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】▲リョウ▼ 群超
(72)【発明者】
【氏名】崔 航
(72)【発明者】
【氏名】謝 遠森
(72)【発明者】
【氏名】王 超
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】山本 章裕
【審判官】渡辺 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-149224(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101339987(CN,A)
【文献】特表2020-507547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の上に位置する活物質層とを含む負極片であって、
前記活物質層が負極材料とバインダーと導電剤とを含み、
前記負極材料がケイ素系材料粒子と炭素材料粒子を含み、
前記活物質層における前記ケイ素系材料粒子の質量分率が5%~30%であり、前記活物質層における前記バインダーの質量分率が0.5%~10%であり、前記活物質層における前記導電剤の質量分率が0.5%~5%であり、
前記炭素材料粒子のラマンスペクトルにおいて、シフト範囲が1255~1355cm-1と1575~1600cm-1であるピークをそれぞれDピークとGピークとし、前記ケイ素系材料粒子のラマンスペクトルにおいて、シフト範囲が1255~1355cm-1と1575~1600cm-1であるピークをそれぞれDピークとGピークとし、前記炭素材料粒子の散乱ピーク強度比D/GがAであり、前記ケイ素系材料粒子の散乱ピーク強度比D/GがBであり、0.15≦A≦0.9、0.8≦B≦2.0、0.2<B-A<1.8であり、
前記炭素材料粒子のDn50/Dv50の値はEであり、前記ケイ素系材料粒子のDn50/Dv50の値はFであり、F>Eであり、
前記炭素材料粒子の平均球形度はHであり、前記ケイ素系材料粒子の平均球形度はIであり、0.1<I-H≦0.3であり、
前記炭素材料粒子の粒子径範囲は0.01μm~80μmであり、前記ケイ素系材料粒子の平均粒子径は0.1μm~30μmであり、
前記ケイ素系材料粒子の表面には、炭素含有被覆層を含み、
前記ケイ素系材料粒子はSiO を含み、0.5≦x≦1.6であり、前記炭素材料粒子はグラファイトを含む、負極片。
【請求項2】
前記炭素材料粒子のDn50/Dv50の値であるEは0.1~0.65であり、及び/又は、前記ケイ素系材料粒子のDn50/Dv50の値であるFは0.3~0.85である、請求項1に記載の負極片。
【請求項3】
前記炭素材料粒子の平均球形度であるHは0.6~0.8である、請求項1に記載の負極片。
【請求項4】
前記ケイ素系材料粒子の平均球形度であるIは0.8~1.0である、請求項1に記載の負極片。
【請求項5】
正極片と、
請求項1~4のいずれか1項に記載の負極片と、
前記正極片と前記負極片との間に設置されるセパレータと、
を含む電気化学装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電気化学装置を含む電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子技術分野に関し、特に負極材料、負極片、電気化学装置及び電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケイ素系材料は、理論比容量が4200mAh/gと大きく、次世代の電気化学装置(例えばリチウムイオン電池)への適用が期待されている負極材料である。しかしながら、ケイ素系材料は、充放電中に体積が約300%膨張し、導電性が悪い。そのため、工業業界には、通常、ケイ素系材料とグラファイト材料とを規定の比例で混合して使用する。しかし、それにもかかわらず、エネルギー密度と動力学に対する人々の日に日に増えているニーズを満たすことは困難である。
【0003】
現在、研究者は、主に、ケイ素系材料の界面安定性と導電性を改善することで、負極動力学を向上し、サイクル中の電極組立体の膨張を低減する。しかし、今までの改善効果が満足であることは言えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術の欠点に鑑み、本発明は、ケイ素系材料と炭素材料の表面特徴、粒子分布及び形態の関係を限定することで、電気化学装置のレート特性を著しく改善するとともに、電気化学装置のサイクル特性と変形率を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ケイ素系材料と炭素材料を含む負極材料であって、前記炭素材料のラマンスペクトルにおいて、シフト範囲が1255~1355cm-1と1575~1600cm-1であるピークをそれぞれDピークとGピークとし、前記ケイ素系材料のラマンスペクトルにおいて、シフト範囲が1255~1355cm-1と1575~1600cm-1であるピークをそれぞれDピークとGピークとし、前記炭素材料の散乱ピーク強度比D/GがAであり、前記ケイ素系材料の散乱ピーク強度比D/GがBであり、0.15≦A≦0.9、0.8≦B≦2.0、0.2<B-A<1.8である負極材料を提供する。
【0006】
前記負極材料において、前記炭素材料のDn50/Dv50の値はEであり、前記ケイ素系材料のDn50/Dv50の値はFであり、F>Eである。
【0007】
前記負極材料において、前記炭素材料のDn50/Dv50の値であるEは0.1~0.65であり、及び/又は、前記ケイ素系材料のDn50/Dv50の値であるFは0.3~0.85である。
【0008】
前記負極材料において、前記炭素材料の平均球形度はHであり、前記ケイ素系材料の平均球形度はIであり、0.1<I-H≦0.3である。
【0009】
前記負極材料において、前記炭素材料の平均球形度であるHは0.6~0.8である。
【0010】
前記負極材料において、前記ケイ素系材料の平均球形度であるIは0.8~1.0である。
【0011】
前記負極材料において、前記ケイ素系材料はSiOを含み、0≦x≦2、0≦y≦1、0≦z≦0.5であり、Mはリチウム、マグネシウム、チタン及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、前記炭素材料はグラファイトを含む。
【0012】
本発明は、集電体と、前記集電体の上に位置し、前記のいずれかの負極材料を含む活物質層と、を含む負極片をさらに提供する。
【0013】
本発明は、正極片と、前記した負極片と、前記正極片と前記負極片との間に設置されるセパレータと、を含む電気化学装置をさらに提供する。
【0014】
本発明は、前記電気化学装置を含む電子装置をさらに提供する。
【0015】
本発明は、負極材料中のケイ素系材料及び炭素材料に対して、適切なラマンスペクトル強度を有するものを選択することにより、電気化学装置のサイクル特性、変形率及びレート特性を著しく改善する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の負極片の模式図である。
図2図2は、本発明の電気化学装置の電極組立体の模式図である。
図3図3は、本発明の実施例3におけるケイ素系材料であるSiOのラマンスペクトル図である。
図4図4は、本発明の実施例3における炭素系材料であるグラファイトのラマンスペクトル図である。
図5図5は、本発明の実施例3と比較例1の放電レート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の実施例は、当業者が本発明をより全面的に理解できるが、本発明を制限するものではない。
【0018】
ケイ素系材料(例えば、ケイ素酸素材料)は、次世代の高比容量負極材料として、電極組立体のエネルギー密度を著しく向上し得るが、導電性が悪いとともに、リチウム放出の過程に体積の膨張と収縮が大きく、純グラファイト負極と比較して、負極片の構造の安定を維持するように、導電性が悪いバインダーをより多く添加する必要がある。実際に適用する時、通常、負極材料として、ケイ素系材料に、炭素材料(例えば、グラファイト)を一定の割合で混合したものを使用する。しかし、混合した負極材料は、依然として、導電性が悪く、体積膨張が大きいという問題があり、ケイ素系材料のさらなる大規模な適用を妨げる。また、混合した負極材料の特性は、ケイ素系材料と炭素材料との両方によって決められるものであるため、ケイ素系材料のみを改善することで、負極の電気特性を極限まで発揮できない。しかし、現在、主に、ケイ素系材料の界面安定性と導電性を改善することで、負極の動力学とサイクル特性が改善されており、ケイ素系材料と炭素材料との間の表面被覆、形態、及び粒子径の合理的なマッチングは無視されている。
【0019】
本発明は、ケイ素系材料と炭素材料(例えば、グラファイト)との合理的なマッチングから、ケイ素系材料粒子と炭素材料粒子の表面構造特徴、粒子分布、及び形態の関係を限定して、電気化学装置のサイクル特性、変形率及びレート特性を著しく改善する。
【0020】
本発明のある実施例は、ケイ素系材料と炭素材料を含む負極材料を提供する。ある実施例において、ケイ素系材料はケイ素酸素粒子材料である。ある実施例において、ケイ素系材料はSiOを含み、0≦x≦2、0≦y≦1、0≦z≦0.5であり、Mは、リチウム、マグネシウム、チタン、及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。ある実施例において、ケイ素系材料は、シリコン、酸化ケイ素(SiO、0.5≦x≦1.6)、Si/C複合材、及びシリコン合金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。ある実施例において、負極材料における炭素材料はグラファイト及び/又はグラフェン等を含む。
【0021】
ある実施例において、炭素材料のラマンスペクトルには、シフト範囲が1255~1355cm-1と1575~1600cm-1であるピークをそれぞれDピークとGピークとし、炭素材料の散乱ピーク強度比D/GがAであり、ケイ素系材料のラマンスペクトルには、シフト範囲が1255~1355cm-1と1575~1600cm-1であるピークをそれぞれDピークとGピークとし、ケイ素系材料の散乱ピーク強度比D/GがBである。炭素材料とケイ素系材料のラマン散乱ピーク強度比は、0.2<B-A<1.8を満たし、かつ、0.15≦A≦0.9、0.8≦B≦2.0である。炭素材料とケイ素系材料のラマン散乱ピーク強度比が0.2<B-A<1.8を満たすと、負極材料のサイクル特性及び動力学が最高レベルに達す。ケイ素系材料粒子と炭素材料粒子とのラマン散乱ピーク強度の差が0.2未満であると、ケイ素系材料のラマン散乱ピーク強度比D/Gが低すぎる、又は、炭素材料のラマン散乱ピーク強度比D/Gが高すぎるという問題がある。このとき、ケイ素系粒子表面の被覆層におけるSP2混成構造の比例が大きくなり、リチウムイオンの拡散を妨げ、分極が大きくなり、金属リチウムが析出し、安全リスクが生じる。そして、グラファイト粒子は、電解液との濡れ性が悪く、リチウムイオンが溶媒から脱離して炭素材料の表面に移動するレートに影響を与える。このようなグラファイトとケイ素系材料で複合してなる負極材料は、動力学が低下し、サイクル中の電極組立体の分極が大きくなり、サイクル特性も悪くなる。ケイ素系材料と炭素材料とのラマン散乱ピーク強度の差が1.8超であると、ケイ素系材料のラマン散乱ピーク強度比D/Gが高すぎる、又は、炭素材料のラマン散乱ピーク強度比D/Gが低すぎるという問題がある。このとき、ケイ素系粒子表面の炭素被覆層の無秩序度が大きくなり、その電子の導電率が低下する。そして、炭素材料の表面に欠陥の多い厚すぎるアモルファスカーボン被覆層を被覆することによって、負極材料の比容量が低下し、電気化学装置のエネルギー密度と初回効率に影響を与える。そのため、このようなグラファイトとケイ素系材料で複合してなる負極材料は、動力学とサイクル特性が低下し、エネルギー密度も低下する。
【0022】
ある実施例において、ケイ素系材料の粒子表面には、炭素含有被覆層を含む。炭素含有被覆層は、ラマン散乱ピークの強度比であるI1330/I1580が0.8~2.0である。ある実施例において、炭素含有被覆層の厚さは0.5nm~50nmである。ある実施例において、ケイ素系材料の炭素含有被覆層の質量は、ケイ素系材料と炭素含有被覆層との合計質量の0.1%~10%を占める。
【0023】
ある実施例において、ケイ素系粒子の平均粒子径は0.1μm~30μmである。ケイ素系材料の平均粒子径が小さすぎると、ケイ素系材料は凝集しやすく、かつ、比表面積が大きいから、SEI膜を形成するためにより多くの電解液を消費する。ケイ素系材料の平均粒子径が大きすぎると、ケイ素系材料の体積膨張を抑制することに不利であり、活物質層の導電性の劣化を招きやすい。なお、ケイ素系材料の平均粒子径が大きすぎると、負極片の強度を低減させる。ある実施例において、ケイ素系材料粒子の比表面積は1.0m/g~15m/gである。
【0024】
ある実施例において、炭素材料(例えば、グラファイト)粒子の表面には、厚さが5nm~500nmであるアモルファスカーボン被覆層が存在する。ある実施例において、炭素材料(例えば、グラファイト)粒子のラマン散乱ピークの強度比であるI1330/I1580が0.2~0.9である。ある実施例において、炭素材料(例えば、グラファイト)粒子の粒子径範囲は0.01μm~80μmであり、比表面積は30m/g未満である。ある実施例において、炭素材料(例えば、グラファイト)粒子は、二次粒子でもよく、又は、二次粒子が70%以上を占める二次粒子と一次粒子との混合体でもよい。ある実施例において、炭素材料(例えば、グラファイト)粒子のOI値は、炭素材料のXRD回折ピークのうち(004)ピークと(110)ピークとのピーク強度の比であり、OI値は、1~30である。
【0025】
ある実施例において、炭素材料のDn50/Dv50の値はEであり、ケイ素系材料のDn50/Dv50の値はFであり、F>Eである。ここで、Dn50は、レーザー散乱粒度分布計を用いて測定して得る粒子数基準分布が50%累積するときの粒子の直径であり、Dv50は、レーザー散乱粒度分布計を用いて測定して得る体積基準分布が50%累積するときの粒子の直径である。Dn50/Dv50は、粒子分布の集中度を表し、Dn50/Dv50の値が1に近いほど、粒子寸法分布が集中する。ある実施例において、ケイ素系材料のDn50/Dv50の値は炭素材料のDn50/Dv50の値より大きいと、電気化学装置のサイクル特性とレート特性がより良い。ケイ素系材料のリチウム吸蔵による膨張は、炭素材料(例えば、グラファイト)よりはるかに大きいので、ケイ素系材料の膨張による応力を低減するために、ケイ素系材料の平均粒子径は炭素材料の粒子より小さくし、そして、負極片の活物質がケイ素系材料と炭素材料を含むと、ケイ素系材料粒子の分布は炭素材料粒子の分布より集中することは、ケイ素系材料粒子を炭素材料粒子で堆積する隙間に分散しやすく、ケイ素系材料の膨張が負極片の全体的な膨張に与える影響を最小限に抑えるためである。
【0026】
ある実施例において、ケイ素系材料のDn50/Dv50の値であるFが0.3~0.85である。同様の炭素材料をマッチングする場合、ケイ素系材料のDn50/Dv50の値が大きいほど、膨張特性がより良い。これは、ケイ素系材料粒子の分布集中度が悪いと、大きすぎる又は小さすぎる粒子が多くなり、そして、粒子が多すぎると、電解液との接触面積が大きくなり、より多くの固体電解質界面膜(SEI、solid electrolyte interface)が生成され、電解液及び電極組立体における有限の可逆性リチウムを消費するためである。ケイ素系材料の粒子が大きすぎると、リチウム吸蔵による膨張の過程に生じる応力が増加し、ケイ素系材料の粒子が破裂し、新しい界面が露出して電解液と反応し、可逆性リチウムが消費され、電気化学装置のサイクル特性が悪くなることだけではなく、大きな粒子はリチウムイオンの拡散経路を増加させ、濃度分極を増加させ、電気化学装置のレート特性に影響を与えることもある。
【0027】
ある実施例において、炭素材料のDn50/Dv50の値であるEが0.1~0.65である。炭素材料のDn50/Dv50の値が0.1未満であると、炭素材料には小さな粒子と大きな粒子が多く存在しすぎる。小さな粒子が多すぎると、炭素材料の比表面積が大きくなりすぎて、電気化学装置の初回効率が低下する。大きな粒子が多すぎると、リチウムイオンの伝達距離が長くなり、電気化学装置の膨張特性とレート特性が悪くなる。炭素材料のDn50/Dv50の値が0.65超であると、炭素材料の粒子径の分布が集中しすぎて、炭素材料の負極片への堆積が困難となり、結果として、電気化学装置の膨張が大きくなり、電気的接触が悪くなり、サイクル特性も悪くなり、加工コストが著しく増加する。
【0028】
ある実施例において、炭素材料の平均球形度はHであり、ケイ素系材料の平均球形度はIであり、0.1<I-H≦0.3である。球形度は、粒子の最短直径と最長直径との比であり、自動静止画像分析器により測定することができる。球体の球形度は1である。ある実施例において、ケイ素系材料の平均球形度であるIが0.8~1.0である。ケイ素系材料の球形度の低減につれて、電気化学装置の容量維持率が低下し、変形率が向上する。これは、ケイ素系材料は、リチウムを吸蔵する過程で大きな体積膨張を生じ、膨張による応力によってケイ素系材料粒子表面が破裂し、露出された新しい界面が電解液と接触し、より多くのSEIが生成されて、電解液によるケイ素系材料の腐食が促進される。球形度が高いケイ素系材料は、膨張による応力を効率的に均一に分散し、表面割れの生成を抑制し、ケイ素系材料への腐食の速率を低減することができる。
【0029】
ある実施例において、炭素材料の平均球形度であるHが0.6~0.8である。炭素材料(例えば、グラファイト)の球形度は高すぎると、又は、低すぎると、電気化学装置の電気化学特性に影響を与える。炭素材料の球形度が高すぎると、ケイ素系材料粒子を炭素材料粒子の隙間に固定できず、膨張収縮の過程にケイ素系材料の粒子の移動が大きくなって、電気化学装置の変形が大きくなり、容量減衰が生じる。一方、炭素材料の球形度が低すぎると、異方性が増加し、リチウムイオンの吸蔵速度を低減し、電気化学装置の動力学に影響を与える。
【0030】
図1のように、本発明のある実施例は、集電体1と活物質層2を含む負極片を提供する。活物質層2は集電体1の上に位置する。図1には、活物質層2を集電体1の一側に位置するように示すが、これは単なる例示であり、活物質層2は集電体1の両側に位置してもよい。ある実施例において、負極片の集電体は、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔、及び炭素系集電体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。ある実施例において、活物質層2は前記負極片のいずれかを含む。ある実施例において、活物質層におけるケイ素系材料の質量分率が5%~30%である。
【0031】
ある実施例において、活物質層はバインダーと導電剤をさらに含む。ある実施例において、バインダーは、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリアニリン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリシロキサン、ポリスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリフルオレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み得る。ある実施例において、活物質層におけるバインダーの質量分率が0.5%~10%である。ある実施例において、導電剤は、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長カーボンファイバー、ナノカーボンファイバー、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、導電性グラファイト、及びグラフェンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。ある実施例において、活物質層における導電剤の質量分率が0.5%~5%である。ある実施例において、活物質層の厚さは50μm~200μmであり、活物質層の片面圧縮密度は1.4g/cm~1.9g/cmであり、活物質層の空隙率は15%~35%である。
【0032】
図2のように、本発明のある実施例は、正極片10と、負極片12と、正極片10と負極片12との間に設置されるセパレータ11を含む電気化学装置を提供する。正極片10は、正極集電体と正極集電体の上に塗工される正極活物質層を含み得る。ある実施例において、正極活物質層は、正極集電体の一部の区域に塗工されてもよい。正極活物質層は、正極活物質、導電剤、及びバインダーを含み得る。正極集電体は、Al箔を使用することができ、同様に、当業界で通常使用される他の正極集電体を使用することもできる。正極片の導電剤は、導電性カーボンブラック、シートグラファイト、グラフェン、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み得る。正極片のバインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン-アクリレート共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリヘキサフルオロプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み得る。正極活物質は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、及びニッケルコバルトマンガン酸リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。前記正極活物質は、ドープ又は被覆された正極活物質を含み得る。
【0033】
ある実施例において、セパレータ11は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、及びアラミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。例えば、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、及び超高分子量ポリエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。特に、ポリエチレンとポリプロピレンは、短絡防止効果に優れ、シャットダウン効果により電池の安定性を向上させることができる。ある実施例において、セパレータの厚さは約5μm~500μmの範囲にある。
【0034】
ある実施例において、セパレータの表面は、前記セパレータの少なくとも一方の表面に設置される多孔質層をさらに含んでもよい。多孔質層は、無機粒子とバインダーを含む。無機粒子は、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO)、二酸化ハフニウム(HfO)、酸化スズ(SnO)、二酸化セリウム(CeO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化イットリウム(Y)、炭化ケイ素(SiC)、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び硫酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。ある実施例において、セパレータの孔は、直径が約0.01μm~1μmの範囲にある。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリヘキサフルオロプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。セパレータの表面の多孔質層は、セパレータの耐熱性、耐酸化性、及び電解質の濡れ性を向上させ、セパレータと極片との間の接着性を高めることができる。
【0035】
ある実施例において、負極片12は、前記した負極片である。
【0036】
本発明のある実施例において、電気化学装置の電極組立体は巻取り式電極組立体、又は積層式電極組立体である。
【0037】
ある実施例において、電気化学装置はリチウムイオン電池を含むが、これに限定されない。ある実施例において、電気化学装置は電解液を含んでもよい。ある実施例において、電解液は、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、プロピオン酸プロピル(PP)からなる群より選ばれる少なくとも2種を含む。また、電解液は、電解液の添加剤としてのビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びジニトリル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含む。ある実施例において、電解液はリチウム塩をさらに含む。
【0038】
本発明のある実施例において、リチウムイオン電池を例示として、正極片、セパレータ、負極片を順に巻き取って、又は積層して、電極組立体になる。その後、例えばアルミラミネートフィルムに入れて封止し、電解液を注入し、化成し、封止して、リチウムイオン電池を調製する。そして、調製したリチウムイオン電池に対して、特性測定とサイクル測定を行う。
【0039】
当業者は、前記説明した電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)の調製方法が単なる実施例であることを理解できる。本発明に開示された内容から逸脱しなければ、当技術分野で通常使用される他の方法を使用することができる。
【0040】
本発明の実施例は、前記電極組立体を含む電子装置、又は、前記電気化学装置を含む電子装置をさらに提供する。ある実施例において、電子装置は、携帯電話、タブレット、充電等の充電電池を使用する任意の電子装置を含むことができる。
以下、本発明をよりよく説明するために、いくつの具体的な実施例と比較例を挙げる。ここで、リチウムイオン電池を例示として挙げる。
【0041】
実施例1
負極片の調製:集電体として、厚さが10μmである銅箔を用いて、活性材料として、SiO(0.5≦x≦1.6)とグラファイトを用いて、SiOとグラファイトのD/G値は表1に示し、その中、活性材料に対するSiOの質量比が10%であり、バインダーとして、ポリアクリル酸を用いる。活性材料、導電性カーボンブラック、バインダーを95:1.2:3.8の質量比で混合して水に分散されてスラリーを形成し、撹拌、銅箔への塗工、乾燥、冷間圧延、裁断を経て、負極片を得た。
【0042】
正極片の調製:正極活物質であるLiCoO、導電性カーボンブラック、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を96.7:1.7:1.6の質量比でN-メチルピロリドン溶媒系に十分に撹拌して均一に混合した後、アルミ箔に塗工して、乾燥、冷間圧延を経て、正極片を得た。
【0043】
電池の調製:ポリエチレン多孔質重合体フィルムをセパレータとして、正極片、セパレータ、負極片を順に積層し、セパレータが正極板と負極板の中間に介在させて隔離の役割をするように位置し、巻き取って電極組立体を得た。電極組立体を外装であるアルミラミネートフィルムに入れ、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)を含む電解液を注入し、封止し、化成、脱気、トリミング等のプロセスを経て、リチウムイオン電池を得た。
実施例2~17と比較例1~10において、SiO粒子とグラファイト粒子の表面構造、粒子分布と形態の違いを除いて、正極片、負極片、リチウムイオン電池の調製はそれぞれ実施例1と同じであり、パラメータの違いを相応的な表に示す。
【0044】
実施例と比較例の各パラメータの測定方法は以下の通りである。
【0045】
球形度の測定:Malvern自動画像式粒度分布測定装置を使用して特定の数(5000を超える)の分散粒子のイメージをキャプチャし、処理してから、形態学的に指示したラマン分光法(MDRS)により、粒子のミクロ構造と形態を正確に分析して、すべての粒子の最長直径と最短直径を得て、最長直径に対する最短直径の比の値を計算して球形度を得た。
【0046】
比表面積の測定:一定の低温で、異なる相対圧力での気体の固体表面への吸着量を測定した後、Brunauer-Emmett-Teller吸着理論とその公式に基づいて、試料の単分子層吸着量を算出して、固体の比表面積を算出した。
【0047】
BET公式:
【数1】
Wは相対圧力で固体サンプルが吸着した気体の質量である。
Wmは単分子層で吸着された気体の飽和吸着量である。
勾配は(c-1)/(WmC)であり、バイアスは1/WmCであり、総比表面積は(Wm*N*Acs/M)である。
比表面積はS=St/mであり、mはサンプルの質量であり、Acsは各N2分子が占める平均面積16.2Aである。
【0048】
粉末サンプル1.5~3.5gを秤量し、TriStarII3020の測定用サンプル管に入れ、200℃で120分間脱気した後、測定を行った。
【0049】
粒度の測定:50mlのクリーンビーカーに粉末サンプル約0.02gを添加し、脱イオン水約20mlを加え、さらに、数滴の1%の界面活性剤を滴下し、粉末を完全に水中に分散させ、120Wの超音波洗浄機で5分間超音波処理し、MasterSizer 2000により、粒度分布を測定し、レーザー散乱粒度分布計を用いて測定して得た体積基準分布が50%累積するときの粒子の直径であるDv50及び粒子数基準分布が50%累積するときの粒子の直径であるDn50によって、Dn50/Dv50の比を算出した。
【0050】
X線回折(XRD)の測定:サンプル1.0-2.0gを秤量し、ガラスサンプルホルダーの溝に注いで、ガラス板で圧縮して平らにした後、JIS K 0131-1996「X線回折分析通則」に従い、X線回折装置(ブルカー、D8)を使用して測定を行った。測定電圧を40kV、電流を30mA、走査角度範囲を10-85°、走査ステップ幅を0.0167°、各走査ステップ幅で設定された時間を0.24sに設定した。グラファイトのXRD回折ピークのうち(004)ピークと(110)ピークとのピーク強度の比を算出することにより、グラファイトのOI値を得た。
【0051】
初回効率の測定:負極材料と、導電性カーボンブラックと、バインダーであるポリアクリル酸(PAA)とを、80:10:10の質量比で脱イオン水に加え、撹拌してスラリーを形成し、ドクターブレードにより塗工し、厚さが100μmの塗工層を形成し、真空乾燥箱で85℃にて12時間乾燥させた後、乾燥環境で打ち抜き機を使用して、直径が1cmでありウェーハに切り出し、グローブボックスで金属リチウム片を対極として、ceglard複合膜をセパレータとして選択し、電解液を加えて、ボタン式電池に組み立てた。ランド(LAND)シリーズ電池測定システムにより、電池の充放電特性の測定を行った。
【0052】
まず、0.05Cで0.005Vまで放電し、5分間静置した後、50μAで0.005Vまで放電し、さらに、5分間静置した後、10μAで0.005Vまで放電し、材料の初回リチウム吸蔵容量を得た。そして、0.1Cで2Vまで充電し、初回リチウム放出容量を得た。最終、初回リチウム吸蔵容量に対する初回リチウム放出容量の比は、材料の初回効率である。
【0053】
電池のサイクル特性の測定:25℃/45℃の測定温度で、0.7Cで4.4Vまで定電流充電し、さらに、0.025Cまで定電圧充電し、5分間静置した後、0.5Cで3.0Vまで放電した。このステップで得られた容量を初期容量とし、0.7C充電/0.5C放電でサイクル測定を行った。各ステップの容量と初期容量との比により、容量減衰曲線を取得した。25℃で容量維持率が90%となるまでのサイクル数を、電池の室温サイクル特性とし、45℃で容量維持率が80%となるまでのサイクル数を、電池の高温サイクル特性とし、前記二つ状況でのサイクル数を比較することにより、材料のサイクル特性を得た。
【0054】
レート特性の測定:25℃で、0.2Cで3.0Vまで放電し、5分間静置して、0.5Cで4.45Vまで充電し、0.05Cまで定電圧充電した後、5分間静置して、放電レートを調整し、それぞれ0.2C、0.5C、1C、1.5C、2.0Cで、放電の測定を行い、それぞれ放電容量を得て、各レートで得られた容量と0.2Cで得られた容量とを比較して、2Cと0.2Cでの比を比較することでレート特性を得た。
【0055】
変形率の測定:半分充電時の新品電池部分の厚さをマイクロメーターで測定し、25℃で400cls又は45℃で200clsをした時、電極組立体が満充電となる状態で、このときの電池の厚さをマイクロメーターでさらに測定し、それを初期半分充電時の新品電池部品の厚さと比較し、このときの変形率を得た。
【0056】
以下、各実施例と比較例のパラメータ設定と特性結果を説明する。表1は、実施例1~3と比較例1~2におけるSiOが異なるラマン散乱強度D/Gを有する場合の比較を示し、表2は、対応する全電池の特性の比較を示す。
【0057】
【表1】
ここでの比容量は、電圧を2.0Vになるまでリチウム放出して得られた容量である(以下同様)。
【0058】
実施例1~3と比較例1~2において、異なるD/G強度のSiOを同じグラファイトにマッチングした。表1から、SiOのD/G強度の向上は、比表面積に少しい影響を与え、他のパラメータは基本的に同じレベルであることがわかる。図3は、本発明の実施例3におけるケイ素系材料であるSiOのラマンスペクトル図を示す。図4は、本発明の実施例3における炭素系材料であるグラファイトのラマンスペクトル図を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1~3と比較例1、2の電気特性結果から、グラファイト粒子とケイ素系材料粒子のラマン散乱強度の差(B-A)は0.2~1.8の範囲を満たさない場合、電気化学装置の電気化学特性が著しく悪くなることがわかる。ケイ素系材料粒子のラマン散乱ピーク強度比D/Gの値が2.0より大きい場合、ケイ素系材料を被覆する炭素材料の無秩序度が大きくなり、結果として、ケイ素系材料粒子の電子の導電性が低下し、電気化学装置の動力学特性に影響を与える。ケイ素系材料粒子のラマン散乱ピーク強度比D/Gの値が小さすぎる場合、炭素材料被覆層におけるSP2混成構造の比例が大きくなり、リチウムイオンの拡散を妨げ、分極が大きくなり、金属リチウムが析出し、安全リスクが生じる。比較例2の変形率が低いのは、容量減衰が早く、負極材料が吸蔵するリチウムが少ないためである。図5は、実施例3と比較例1の放電レート図を示す。実施例3の電気化学装置のレート特性は、比較例1の電気化学装置のレート特性よりも明らかに優れていた。
【0061】
表3は、実施例4~6と比較例3~4におけるグラファイトが異なるラマン散乱強度D/Gを有する場合の比較を示し、表4は、対応する全電池の特性の比較を示す。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例4~6と比較例3~4は、異なるラマン散乱強度D/Gを有するグラファイトを用いて、その他の条件は、ほぼ同じであった。
【0064】
【表4】
【0065】
実施例4~6と比較例3~4の電気特性結果から、以下のことがわかる。グラファイト粒子とケイ素系材料粒子のラマン散乱ピーク強度の差(B-A)は0.2<B-A<1.8を満たしても、グラファイト粒子のラマン散乱ピークの強度比D/Gが小さすぎる(0.15未満)と、グラファイト粒子の表面がアモルファスカーボンに被覆されておらず、電解液との濡れ性が悪く、電気化学装置の動力学特性が悪くなり、そして、グラファイト粒子のラマン散乱ピークの強度比D/Gが0.9超であると、グラファイト粒子の表面が厚すぎて欠陥の多いアモルファスカーボン被覆層に被覆され、結果として、負極材料の初回効率と比容量が低下する。また、厚すぎるアモルファスカーボンが一部のリチウムイオンを消費し、電気化学装置の容量減衰が加速される。
【0066】
表5は、実施例7~9と比較例5におけるSiOが異なるDn50/Dv50を有する場合の比較を示し、表6は、対応する全電池の特性の比較を示す。
【0067】
【表5】
【0068】
Dn50/Dv50とDv50とは、直接な関係がない。Dn50/Dv50は、粒子分布の集中度を示すが、Dv50は、体積が50%まで達す時の粒子径を示す。実施例7~9と比較例5において、SiOのDn50/Dv50値のみは異なり、他のパラメータは有意な差がなかった。
【0069】
【表6】
【0070】
Dn50/Dv50は、粒子分布の集中度を表し、その値が1に近いほど、粒子寸法分布が集中する。実施例7~9と比較例5の電気特性結果から、SiOのDn50/Dv50の値がグラファイトのDn50/Dv50の値より大きい場合、電気化学装置の特性が良い。これは、ケイ素系材料のリチウム吸蔵による膨張が、グラファイトよりはるかに大きいので、ケイ素系材料の膨張による応力を低減するために、ケイ素系材料の平均粒子径はグラファイトの平均粒子径より小さくし、そして、負極片の活物質がケイ素系材料粒子とグラファイト粒子との複合体からなるものであると、ケイ素系材料粒子の分布はグラファイト粒子の分布より集中することは、ケイ素系材料粒子をグラファイト粒子の隙間に分散しやすく、ケイ素系材料の膨張が負極片の全体的な膨張に与える影響を最小限に抑えるためである。また、同様のグラファイトをマッチングする場合、SiOのDn50/Dv50の値が大きいほど、電気化学装置のサイクル特性及び膨張特性がより良い。これは、ケイ素系材料粒子の分布集中度が悪いと、大きすぎる又は小さすぎる粒子が多くなり、そして、粒子が小さすぎると、電解液との接触面積が大きくなり、より多くのSEIが生成され、電解液及び電極組立体における有限の可逆性リチウムを消費するためである。粒子が大きすぎると、リチウム吸蔵による膨張の過程に生じる応力が増加し、粒子が破裂し、新しい界面が露出して電解液と反応し、可逆性リチウムが消費され、サイクル特性が悪くなることだけではなく、大きなケイ素系材料粒子はリチウムイオンの拡散経路を増加させ、濃度分極を増加させ、電気化学装置のレート特性に影響を与えることもある。
【0071】
表7は、実施例10~12と比較例6~7におけるグラファイトが異なるDn50/Dv50を有する場合の比較を示し、表8は、対応する全電池の特性の比較を示す。
【0072】
【表7】
【0073】
実施例10~12と比較例6~7において、グラファイトのDn50/Dv50の値のみが異なり、他のパラメータは有意な差がなかった。
【0074】
【表8】
【0075】
実施例10~12と比較例6~7の電気特性結果から、SiOのDn50/Dv50の値がグラファイトのDn50/Dv50の値より大きい場合、電気化学装置の特性が良い。なお、グラファイト粒子のDn50/Dv50の値が0.1未満であると、グラファイト粒子には小さな粒子と大きな粒子が多く存在しすぎる。小さな粒子が多すぎると、炭素材料の比表面積が大きくなりすぎて、電気化学装置の初回効率が低下する。大きな粒子が多すぎると、リチウムイオンの伝達距離が長くなり、電気化学装置の膨張特性とレート特性が悪くなる。グラファイト粒子のDn50/Dv50の値が0.65超であると、グラファイトの粒子径の分布が集中しすぎて、グラファイトの負極片への堆積が困難となり、結果として、電気化学装置の膨張が大きくなり、電気的接触が悪くなり、サイクル特性も悪くなり、加工コストが著しく増加する。
【0076】
表9は、実施例13~15と比較例8におけるSiOが異なる球形度を有する場合の比較を示し、表10は、対応する全電池の特性の比較を示す。
【0077】
【表9】
【0078】
実施例13~15と比較例8において、SiOの球形度のみが異なり、マッチングするグラファイトが同じであり、他のパラメータはあまり違わなかった。
【0079】
【表10】
【0080】
実施例13~15と比較例8から、SiOの球形度の低減につれて、電気化学装置の容量維持率が低下し、変形率が向上することがわかる。これは、SiOは、リチウムを吸蔵する過程で大きな体積膨張を生じ、膨張による応力によってケイ素系材料粒子表面が破裂し、露出された新しい界面が電解液と接触し、より多くのSEIが生成されて、電解液によるSiOの腐食が促進される。球形度が高いSiOは、リチウム吸蔵膨張による応力を効率的に均一に分散し、表面割れの生成を抑制し、表面へのSEIの堆積及び負極材料への腐食の速率を低減する。
【0081】
表11は、実施例13、16~17と比較例9~10におけるグラファイトが異なる球形度を有する場合の比較を示し、表12は、対応する全電池の特性の比較を示す。
【0082】
【表11】
【0083】
実施例13、16、17と比較例9、10において、使用されたグラファイトの球形度のみが異なり、同じSiOにマッチングし、他のパラメータはあまり違わなかった。
【0084】
【表12】
【0085】
実施例13、16~17と比較例9、10から、グラファイトの球形度は高すぎると、又は、低すぎると、電気化学装置の電気化学特性に影響を与える。グラファイトの球形度は高すぎると、ケイ素系材料粒子をグラファイト粒子の隙間に固定できず、膨張収縮の過程にケイ素系材料の粒子の移動が大きくなって、電気化学装置の変形が大きくなり、容量減衰が生じる。一方、グラファイトの球形度は低すぎると、異方性が増加し、リチウムイオンの吸蔵速度を低減し、電気化学装置の動力学に影響を与える。
【0086】
以上の説明は、本発明の好ましい実施例及び適用された技術原理の説明にすぎない。当業者は、本発明に係る開示範囲が、上記技術的特徴の特定の組み合わせによって形成される技術案に限定されず、上記開示の思想から逸脱しない場合に、上記技術的特徴又は同等の特徴を任意に組み合わせて形成されるその他の技術案も含むこと、を理解すべきである。例えば、本発明は、上述特徴を本発明で開示された同等の機能を有する技術的特徴と互いに置き換えられて形成される他の技術案を含む。
図1
図2
図3
図4
図5