(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】インスリンプレミックスの配合物と製品、それを調製する方法、及びそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/28 20060101AFI20241003BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241003BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241003BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241003BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241003BHJP
C07K 14/62 20060101ALI20241003BHJP
A61M 5/14 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K38/28
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/22
C07K14/62 ZNA
A61M5/14
(21)【出願番号】P 2021565139
(86)(22)【出願日】2020-05-04
(86)【国際出願番号】 US2020031322
(87)【国際公開番号】W WO2020227214
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-05-01
(32)【優先日】2019-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591013229
【氏名又は名称】バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
(73)【特許権者】
【識別番号】512107787
【氏名又は名称】バクスター ヘルスケア エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ・チョン・タク・ワン
(72)【発明者】
【氏名】サラ・エリザベス・リー
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-161702(JP,A)
【文献】国際公開第2010/122385(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/191464(WO,A1)
【文献】特表2016-523807(JP,A)
【文献】特開昭56-147751(JP,A)
【文献】特表2017-502052(JP,A)
【文献】特表2012-521980(JP,A)
【文献】特開平08-012593(JP,A)
【文献】加藤太一郎,緩衝液のイロハ,生物工学会誌,2017年,第95巻, 第8号,pp. 476-479
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38
A61K 47/
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
Google
Pubmed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物であって、
i)全配合物の
0.09~
5.5U/mLのインスリン、
ii)水、及び
iii)一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムの混合物であって、配合物の体積で
0.09mM~
22.0mMの量の混合物
を含み、
前記インスリンプレミックス配合物が
6.435~
7.272のpH値を有する、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項2】
前記インスリンプレミックス配合物が少なくとも1つの張度調整剤をさらに含む、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項3】
前記張度調整剤は塩化ナトリウムである、請求項2に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項4】
前記塩化ナトリウムは前記配合物の
0.72~
1.10重量%である、請求項3に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項5】
インスリンプレミックス配合物が無菌である、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項6】
全配合物の
0.45~
5.5U/mLのインスリンを含む、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項7】
全配合物の
0.45~
2.2U/mLのインスリンを含む、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項8】
全配合物
の1.0U/mL
±10%のインスリンを含む、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項9】
前記インスリンプレミックス配合物が
6.534~
7.07のpH値を有する、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項10】
前記インスリンプレミックス配合物が6.8±1%のpH値を有する、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項11】
前記混合物は、一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムとのモル比が
11~
0.09である、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項12】
前記インスリンプレミックス配合物
における、フェノール、クレゾール、メタクレゾール、パラベン、その他の添加された防腐剤、添加された亜鉛、及び添加されたグリセロール
の量が3.0重量%未満である、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項13】
新たに調製し、2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存した後、23℃~27℃の室温で30日間保存し、保存中は実質的に光に曝露されない場合、検出に波長214nmのUVを使用する逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定したとき、前記インスリンプレミックス配合物は、総インスリンピーク面積に対するピーク面積のパーセンテージに基づいて、A-21デサミドインスリン不純物が総インスリンの
5.5重量%以下である、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項14】
新たに調製し、2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存した後、23℃~27℃の室温で30日間保存し、保存中は実質的に光に曝露されない場合、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で測定した総インスリンピーク面積に対するピーク面積のパーセンテージに基づいて、前記インスリンプレミックス配合物は、総インスリンピーク面積に対するピーク面積のパーセンテージに基づいて、インスリン二量体、六量体、及び他の高分子量タンパク質(HMWP)の合計が総インスリンの
3.3重量%以下である、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項15】
モノマー形態のインスリンが総インスリンの95重量%を超える、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項16】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物であって
、
i)水、
ii)全配合物の
0.09~
5.5U/mLのインスリン、
iii)塩化ナトリウム、及び
iv)一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムの混合物
を含み、
前記インスリンプレミックス配合物が
6.435~
7.272のpH値を有する、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項17】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造する方法であって、水及び
0.09~
5.5U/mLのインスリンを含む組成物のpHを
6.435~
7.272のpH値に調整することを含み、さらに、可撓性容器を滅菌し、前記薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を前記滅菌された可撓性容器に無菌的に充填することを含む方法。
【請求項18】
pHの調整前、調整中、及び/又は調整後に前記組成物に少なくとも1つのバッファーを添加し、均質になるまで組成物を混合することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記pHの調整が、前記組成物に少なくとも1つの張度調整剤を添加し、均質になるまで組成物を混合することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
可撓性容器を含み、さらに前記可撓性容器内に薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を含む、薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品であって、前記インスリンプレミックス配合物は、前記可撓性容器に滅菌充填されており、前記インスリンプレミックス配合物は、水及び全配合物の
0.09~
5.5U/mLのインスリンを含み、前記インスリンプレミックス配合物は、
6.435~
7.272のpH値を有する、薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品。
【請求項21】
前記可撓性容器
が1.0~1000.0mLの容積を有する、請求項20に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品。
【請求項22】
前記可撓性容器は、前記インスリンプレミックス配合物に接触する内面層を有し、前記内面層は、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、コポリマー、及び変性ポリマー若しくはコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つのプラスチック材料を含む、請求項20に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品。
【請求項23】
可撓性容器を含み、さらに前記可撓性容器内に薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を含む、薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品であって、前記薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、水及び全配合物の
0.09~
5.5U/mLのインスリンを含み、前記インスリンプレミックス配合物は、
6.435~
7.272のpH値を有し、
2℃~8℃の冷蔵温度で少なくとも1か月間保存し、保存中は実質的に光に曝露されない場合、検出に波長214nmのUVを使用する逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定したインスリンモノマーのピーク面積に基づいて、前記インスリンプレミックス製品におけるインスリンモノマーの損失が
8.8重量%以下である、薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品。
【請求項24】
前記インスリンプレミックス製品は、2℃~8℃の冷蔵温度で少なくとも1か月間保存している間、前記可撓性容器へのインスリンの吸着又は吸収
はない、請求項23に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品。
【請求項25】
2℃~8℃の冷蔵温度で少なくとも1か月間保存し、保存中は実質的に光に曝露されない場合、検出に波長214nmのUVを使用する逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定したとき、前記薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、総インスリンピーク面積に対するピーク面積のパーセンテージに基づいて、A-21デサミドインスリン不純物が総インスリンの
5.5重量%未満である、請求項23に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品。
【請求項26】
一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムの前記混合物の量は、配合物の体積で
0.09mM~
11.0mMである、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項27】
一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムの前記混合物の量は、配合物の体積で
2.7mM~
7.7mMである、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項28】
一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムの前記混合物の量は、配合物の体積
で5.0mM
±10%である、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項29】
前記インスリンプレミックス配合物は添加された界面活性剤を含まない、請求項1に記載の薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物。
【請求項30】
前記少なくとも1つのバッファーは、一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムの混合物を含み、前記混合物の量は配合物の体積で
0.09mM~
22.0mMである、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、2019年5月6日に出願された、「インスリンプレミックスの配合物と製品、それを調製する方法、及びそれを使用する方法」と題される米国仮特許出願第号62/843,881号、及び2019年6月17日に出願された、「インスリンプレミックスの配合物と製品、それを調製する方法、及びそれを使用する方法」と題される米国仮特許出願第62/862,573号の優先権及び利益を主張し、それぞれの内容全体を参照により本明細書に組み込み、依拠する。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる配列表を含む。
【0003】
本開示は、一般に、低濃度のA-21デサミドインスリン不純物を含む、約0.1単位/mL~約10.0単位/mLのインスリンを含む薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物に関する。本開示はまた、そのようなインスリンプレミックス配合物を作製及び使用する方法に関する。薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、無菌の医薬インスリンプレミックス製品を形成するために、容器、好ましくは可撓性容器に無菌的に充填され得る。インスリンプレミックス製品は、無菌で安定しており、静脈内注入などの静脈内(IV)投与用のすぐに使用できる水溶液である単回使用プレミックスとすることができる。本開示はまた、そのようなインスリンプレミックス製品を作製及び使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
インスリンは、個体の膵島のベータ細胞によって産生される主要なポリペプチドホルモンである。インスリンは、グリコーゲン、タンパク質、脂肪の分解を抑制しながら、ブドウ糖、アミノ酸、脂肪酸の細胞への取り込み、利用、保存を制御する役割を果たす。ヒトインスリンの実験式はC
257H
383N
65O
77S
6であり、分子量は約5808Da、等電点(pI)は約5.3である。これは、21アミノ酸のA鎖(配列番号1)と30アミノ酸のB鎖(配列番号2)の二量体であり、ジスルフィド結合によって互いに結合される。ヒトインスリンの配列を
図1に示す。
【0005】
健康な個体では、基礎ブドウ糖レベルは一定のままである傾向がある。個体の膵臓によるインスリンの分泌は、血糖値と厳密に関連している。したがって、血糖値とインスリンレベルは、グルコース濃度の変化を最小限に抑えるように調整され、ブドウ糖の比較的正常な生成と利用が維持される。
【0006】
しかしながら、真性糖尿病などの代謝障害を有する個体では、個体は、インスリンを産生する能力が低下しているか、又は全く能力がないか、又はインスリン抵抗性を有し得る。したがって、インスリンを使用した血糖コントロールは、真性糖尿病患者の血糖値の管理の基本である。
【0007】
さらに、集中治療室(ICU)の重症の個体では、真性糖尿病の病歴がなくても、インスリン投与は、個体の肝臓及び筋肉組織におけるインスリン抵抗性によって引き起こされる一般的な所見である高血糖を管理するために重要である。インスリン抵抗性は、一般に、脳、赤血球、及び創傷治癒にブドウ糖を供給するために、手術、外傷、又は敗血症から生じるストレスに対する適応反応であると考えられている。ICU患者の血糖値が制御されていない場合、一時的及び永続的な患者への危害、長期入院、医学的介入の必要性、さらには患者の死亡など、深刻な有害な医学的影響が発生する可能性がある。例えば、2005年のUSP MedMarx年次報告書は、インスリンに関連する深刻な有害な医療過誤を報告した。ある患者は腎臓移植を受けるために病院に入院した。インスリン注入が予定され、術前に開始された。術後、患者はインスリン注入なしでICUに受け入れられた。患者の血糖レベルは443mg/dLに上昇し、他の重大な電解質異常が記録された。これにより、患者は透析を再開してICU滞在を延長された。
【0008】
したがって、現在、病院では、血糖値を約80~150mg/dLの間で安定させるために、すべてのICU患者にインスリンを静脈内投与することが一般的な慣行である。血糖値が安定した後、インスリンの維持投与がしばしば行われる。
【0009】
インスリンは、患者(ICU患者を含む)の血糖値を制御するためにインスリンスライディングスケールガイドラインに従って計算された速度で滴定された、約0.01~10.0単位/mLなどの低濃度で、医学的監督下でのみ患者に静脈内投与することができる。投与量は、患者の代謝ニーズ、血糖モニタリング結果、及び血糖コントロールの目標に基づいて個別化する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ますます増える糖尿病を有するアメリカ人及び多数のICU患者のため、インスリンは、病院で最も広く使用されている薬物の1つである。しかし、病院でのインスリンの投与、特に静脈内(IV)注入による投与に関連する投薬過誤の長い歴史がある。2007年、USP MedMarx Annual Reportは、インスリンが暦の2005年で最も多くの医療過誤に関連した製品であり、報告されたすべての有害な医療過誤の11%以上に相当する最も多くの有害な医療過誤を示した。
【0011】
インスリンの医療過誤に寄与する主要な要因の1つは、病院でのインスリンの調剤又は投与中のインスリンの誤った投与量である。現在、様々なタイプ及びブランドの濃縮インスリンの市販製品が、100単位/mL、200単位/mL、500単位/mLなどの様々な濃度で市場に出回っている。ただし、単回使用で、無菌で安定し、約0.01~10.0単位/mLのインスリンのすぐに使用できるIV注入システムはない。約0.01~10.0単位/mLのインスリンを含むIV注入システムは、濃縮インスリンの市販製品を張度調整液で希釈することにより、病院で準備する必要がある。これには、患者への注入を開始する直前に、少量のバイアル容器から張度調整液又は希釈剤を保持する可撓性プラスチック容器にインスリンを移すことによって、IV注入システムを準備することが含まれることがしばしばある。さらに、この調製物は、室温で約24~48時間しか安定していない。この準備プロセスでは、誤連絡、誤ったタイプのインスリンの使用、測定エラー、相互汚染、及び光、空気、高温への曝露によるインスリン分解が原因で、医療過誤が発生する。このインスリンのIV注入システムの院内準備の慣行は、間違った投与量又は間違ったタイプのインスリンなどのインスリンの医療過誤に大きく寄与する。インスリンの医療過誤が大量に報告されているため、インスリン投与ガイドラインでは、0.01~10.0単位/mL(U/mL)のインスリンを含むすべてのIV注入システムを薬局で準備する必要があることを推奨している。
【0012】
したがって、IV注入のために、単回使用で、無菌で安定し、すぐに使用できる、0.1~10.0U/mLのインスリンのプレミックス製品が必要とされる。
【0013】
さらに、Handbook on Injectable Drugs(20th Edition、ASHP’s Guide to IV Compatibility and Stability、page 768)によると、ガラスやプラスチック(ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリエチレン(PE)、その他のポリオレフィンを含む)、チューブ、フィルターなどの静脈内注入液容器の表面へのインスリンの吸着が実証されている。様々な試験方法、機器、及び手順を使用して様々な結果が報告されているが、注入器具全体で最大約80%の損失範囲の推定値がある。約20%~30%の吸着の推定値が一般的である。
【0014】
Handbook on Injectable Drugs(20th Edition、ASHP’s Guide to IV Compatibility and Stability)によると、インスリンの吸着を減らすために、過去に様々なアプローチが試みられた。1つのアプローチは、注入溶液にヒトアルブミンを追加することである。しかし、ヒトアルブミンが吸着を防ぐ程度は不明である。ビタミン、電解質、薬物などの他の添加物も同様の効果があることが示唆された。吸着を回避又は最小化するための他の推奨されるアプローチには、インスリン溶液に少量の患者の血液を添加すること、及び投与前にIV注入セットを飽和させるためにインスリン溶液で投与器具を保存又は洗い流すことが含まれる。
【0015】
しかし、Handbook on Injectable Drugs(20th Edition、ASHP’s Guide to IV Compatibility and Stability)によると、インスリン吸着の損失防止のありなしにかかわらず、ある量のインスリンを注入溶液に添加して、その量のどれくらいが実際に患者に与えられたかを正確に知ることは不可能であるように思われる。したがって、治療に対する患者の反応を監視し、その反応に基づいて適切な調整を行うことが最も重要である。
【0016】
したがって、IV注入のために、単回使用で、無菌で安定し、すぐに使用できる、0.1~10.0U/mLのインスリンのプレミックス製品であって、IV注入可撓性容器に吸着又は吸収されないものが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
出願人は、低濃度のA-21デサミドインスリン不純物を含む約0.1単位/mL~約10.0単位/mLのインスリンを含む、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を調製した。例えば、インスリンプレミックス配合物は、低濃度インスリン配合物での使用に調整されたUSPインスリンモノグラフに提供されているような適切な逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又はUHPLC法を使用して測定される場合、総インスリンの約5.0重量%未満、より好ましくは約4.0重量%未満のA-21デサミドインスリン不純物を含み得る。
【0018】
インスリンプレミックス配合物は、少なくとも1つの張度調整剤及び少なくとも1つのバッファーをさらに含み得る。インスリンプレミックス配合物は、個体の体液又は血液と等浸透圧である。配合物の浸透圧は、好ましくは、個体の体液又は血液の等浸透圧範囲であり、約280~約320mOsmo/kgである。本開示はまた、そのようなインスリンプレミックス配合物を作製及び使用する方法に関する。薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、無菌的に可撓性容器に充填されて、医薬インスリンプレミックス製品を形成し得る。インスリンプレミックス製品は、無菌で安定しており、静脈内注入などの静脈内投与用のすぐに使用できる水溶液である単回使用プレミックスとすることができる。本開示はまた、そのようなインスリンプレミックス製品を作製及び使用する方法に関する。例えば、インスリンプレミックス製品は、真性糖尿病を患う個体、又はインスリンを処方された集中治療室(ICU)の個体などの代謝障害を有する個体の血糖コントロールに使用することができる。
【発明の効果】
【0019】
出願人は、このインスリンプレミックス製品は、添加された防腐剤、添加された亜鉛、添加された界面活性剤、又はその他の添加された安定化賦形剤がなくても、新たに調製されたとき、及び2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存した後、さらに室温(23℃~27℃)で30日間保存する貯蔵寿命の間、予想外に安定していることを発見した。出願人は、亜鉛、防腐剤、又は界面活性剤をこのインスリンプレミックス製品に添加しなかった。対照的に、現在市場で入手可能な濃縮インスリンの市販製品は、亜鉛を添加し、防腐剤を添加し、そしてグリセロール/グリセリンを添加している。濃縮インスリンの市販製品の1つには、添付文書によると21μg/mLの亜鉛、3mg/mLのメタクレゾール、16mg/mLのグリセリンが含まれている。それに対して、本明細書に開示されるインスリンプレミックス製品は、本質的に、メタクレゾール、グリセロール、又は添加亜鉛を含まない。インスリンプレミックス製品の亜鉛含有量は、インスリンの原料に由来する0.13~0.16μg/mLと測定され、市販製品よりも大幅に低くなっている。
【0020】
インスリンプレミックス配合物及び製品は、好ましくは約6.5~7.2のpH値、より好ましくは約6.6~7.0のpH値を有する。インスリンプレミックスのpH値は、その貯蔵寿命の終わりまで6.5~7.2で安定する。
【0021】
出願人は、このインスリンプレミックス配合物が、新たに調製されたとき、及びその貯蔵寿命の終わりまで、予想外に低濃度のA-21デサミドインスリン不純物を有することを発見した。インスリンプレミックス製品は、新たに調製されたとき、及びその貯蔵寿命の終わりまで、インスリン二量体、六量体、又は他の高分子量タンパク質(HMWP)をさらに本質的に含まないか、又は非常に低濃度である。インスリン二量体、六量体又は他の高分子量タンパク質(HMWP)の総濃度は、低濃度インスリン配合物での使用に調整されたUSPインスリンモノグラフに提供されているような適切なサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法を使用して測定した場合、好ましくは総インスリンの約4.0重量%以下、約3.0重量%以下、2.0重量%以下、より好ましくは約1.7重量%以下、さらには1.1重量%以下である。
【0022】
出願人はさらに、プレミックス製品中のインスリンが予想外に一般的な可撓性容器に付着せず、これにより、可撓性容器への吸着又は吸収によるインスリン損失が最小限に抑えられ、したがって投与のためのインスリン投与量の精度が大幅に改善されることを発見した。
【0023】
さらに、本明細書に開示及び調製されるインスリンプレミックス製品は、単回使用のプレミックスであり、さらなる希釈を必要とせずに、それを必要とする個体にすぐに静脈内投与することができる。したがって、本明細書に開示されるインスリンプレミックス製品は、インスリン注入開始直前に、薬局又は病院で濃縮インスリンの市販製品から希釈された0.1~10.0単位/mLの濃度のインスリンを有するインスリンIV注入システムを調製する必要性を排除する。その結果、インスリンプレミックス製品は、インスリンの調剤と投与における医療過誤を大幅に減らし、全国の病院でインスリンを使用する際の安全性と効率を劇的に改善する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、21アミノ酸のA鎖(配列番号1)及び30アミノ酸のB鎖(配列番号2)を有するヒトインスリンの配列を示す。
【
図2】
図2は、本明細書に開示されるインスリンプレミックス製品用の可撓性プラスチック容器の特性を示す。
【
図3】
図3は、本開示による、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を作製する方法の実施形態の非限定的な例のフローチャートである。
【
図4】
図4は、本明細書に開示される例1の実験的研究の試験結果を示す。
図4は、5±3℃及び25±2℃で最大25.5か月(110週間)、40±2℃で最大24週間における、ガラスアンプル(サンプルID:Glass-PBS-2mM)及びPL2501GALAXY(登録商標)容器(サンプルID:PL2501-PBS-2mM)でのPBS(リン酸バッファー)配合物によるインスリン(1.0単位/mL)のインスリン濃度の変化を示す。
【
図5】
図5は、本明細書に開示される例1の実験的研究の試験結果を示す。
図5は、5±3℃及び25±2℃で最大25.5か月(110週間)、40±2℃で最大24週間における、ガラスアンプル(サンプルID:Glass-Arginine-2mM)及びPL2501GALAXY(登録商標)容器(サンプルID:PL2501-Arginine-2mM)でのアルギニン配合物によるインスリン(1.0単位/mL)のインスリン濃度の変化を示す。
【
図6】
図6は、本明細書に開示される例1の実験的研究の試験結果を示す。
図6は、5±3℃及び25±2℃で最大25.5か月(110週間)、40±2℃で最大24週間における、ガラスアンプル(サンプルID:Glass-PBS-2mM-(KCl-4mM))及びPL2501GALAXY(登録商標)容器(サンプルID:PL2501-PBS-2mM-(KCl-4mM))でのPBS(リン酸バッファーとKCl)配合物によるインスリン(1.0単位/mL)のインスリン濃度の変化を示す。
【
図7A】
図7Aは、本明細書に開示される例1の実験的研究の試験結果を示す。
図7Aは、5±3℃保存における、ガラスアンプル(サンプルID:Glass-PBS-2mM)及びPL2501GALAXY容器(PL2501-PBS-2mM)でのPBS(リン酸バッファー)配合物による組換えヒトインスリン(1.0単位/mL)の実験結果を示す。
【
図7B】
図7Bは、本明細書に開示される例1の実験的研究の試験結果を示す。
図7Bは、5±3℃保存における、ガラスアンプル(サンプルID:Glass-PBS-2mM)及びPL2501GALAXY容器(PL2501-PBS-2mM)でのPBS(リン酸バッファー)配合物による組換えヒトインスリン(1.0単位/mL)の実験結果を示す。
【
図8A】
図8Aは、本明細書に開示される例1の実験的研究の試験結果を示す。
図8Aは、5±3℃保存における、ガラスアンプル(サンプルID:Glass-Arginine-2mM)及びPL2501GALAXY容器(PL2501-Arginine-2mM)でのアルギニン配合物による組換えヒトインスリン(1.0単位/mL)の実験結果を示す。
【
図8B】
図8Bは、本明細書に開示される例1の実験的研究の試験結果を示す。
図8Bは、5±3℃保存における、ガラスアンプル(サンプルID:Glass-Arginine-2mM)及びPL2501GALAXY容器(PL2501-Arginine-2mM)でのアルギニン配合物による組換えヒトインスリン(1.0単位/mL)の実験結果を示す。
【
図9A】
図9Aは、本明細書に開示される例1の実験的研究の試験結果を示す。
図9Aは、5±3℃保存における、ガラスアンプル(サンプルID:Glass-PBS-2mM-(KCl-4mM))及びPL2501GALAXY容器PL2501-PBS-2mM-(KCl-4mM))でのPBSとKCl配合物による組換えヒトインスリン(1.0単位/mL)の実験結果を示す。
【
図9B】
図9Bは、本明細書に開示される例1の実験的研究の試験結果を示す。
図9Bは、5±3℃保存における、ガラスアンプル(サンプルID:Glass-PBS-2mM-(KCl-4mM))及びPL2501GALAXY容器PL2501-PBS-2mM-(KCl-4mM))でのPBSとKCl配合物による組換えヒトインスリン(1.0単位/mL)の実験結果を示す。
【
図10】
図10は、本明細書に開示される例2の実験的研究の試験結果を示す。
【
図11】
図11は、本明細書に開示される例2の実験的研究の試験結果を示す。
【
図12】
図12は、本明細書に開示される例2の実験的研究の試験結果を示す。
【
図13】
図13は、本明細書に開示される例2の実験的研究の試験結果を示す。
【
図14】
図14は、本明細書に開示される例2の実験的研究の試験結果を示す。
【
図15】
図15は、本明細書に開示される例2の実験的研究の試験結果を示す。
【
図16】
図16は、本明細書に開示される例2の実験的研究の試験結果を示す。
【
図17】
図17は、本明細書に開示される例2の実験的研究の試験結果を示す。
【
図18】
図18は、本明細書に開示される例3の実験的研究の試験結果を示す。
【
図19】
図19は、本明細書に開示される例3の実験的研究の試験結果を示す。
【
図20】
図20は、本明細書に開示される例4の実験的研究の試験結果を示す。
【
図21】
図21は、本明細書に開示される例4の実験的研究の試験結果を示す。
【
図22】
図22は、本明細書に開示される例4の実験的研究の試験結果を示す。
【
図23】
図23は、本明細書に開示される例4の実験的研究の試験結果を示す。
【
図24】
図24は、本明細書に開示される例4の実験的研究の試験結果を示す。
【
図25】
図25は、本明細書に開示される例4の実験的研究の試験結果を示す。
【
図26】
図26は、本明細書に開示される例5の実験的研究の試験結果を示す。
【
図27】
図27は、本明細書に開示される例5の実験的研究の試験結果を示す。
【
図28】
図28は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図29】
図29は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図30】
図30は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図31】
図31は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図32】
図32は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図33】
図33は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図34】
図34は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図35】
図35は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図36】
図36は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図37】
図37は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図38】
図38は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図39】
図39は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図40】
図40は、本明細書に開示される例6の実験的研究の試験結果を示す。
【
図41】
図41は、本明細書に開示される例7の実験的研究の試験結果を示す。
図41は、インスリンとA-21デサミドインスリン不純物の分離、及びインスリンプレミックス配合物サンプルの1つについてのその含有量の定量化のためのA-21デサミドインスリン不純物のピーク面積を示す逆相HPLCクロマトグラムを示す。この画像は、説明のみを目的として提供される。異なるHPLCシステム、カラム、移動相分離などが使用される場合、ピーク保持時間がシフトする可能性があることが当業者には理解される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
いくつかの定義が以下に提供される。ただし、定義は以下の「実施形態」の節にある場合があり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の節における開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0026】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「プレミックス」という用語は、さらなる希釈を必要とせずに、静脈内注入を含む、患者への直接投与に適したすぐに使用できる水溶液である。好ましくは、プレミックス溶液は、滅菌溶液として供給され、本明細書に記載されるように、その貯蔵寿命にわたって安定である。
【0027】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「滅菌」という用語は、細菌又は他の生きている微生物を含まないことを意味すると理解される。
【0028】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「等浸透圧」という用語は、個体の体液又は血液と同じ浸透圧、典型的には約280~約320mOsm/kgを有することを意味すると理解される。
【0029】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「新たに調製」という用語は、サンプルが製造されてから30日以内であって、2℃~8℃の冷蔵温度で保存されている間を意味すると理解される。
【0030】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「インスリンプレミックス製品は安定している」という用語は、インスリン濃度が新たに調製されたときの元の濃度の±10%以内であり、逆相HPLCで測定したA-21デサミドインスリン不純物が総インスリンの約4.0重量%未満であり、SECで測定した高分子量タンパク質(HMWP)の含有量が総インスリンの約2.0重量%未満であり、pHが約6.5~7.2の範囲内でることを意味すると理解される。
【0031】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、インスリンプレミックス配合物又は製品の「貯蔵寿命」という用語は、2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存され、続いて23℃~27℃の室温で30日間保存され、保存期間全体を通して実質的に光に曝露されないことを意味すると理解される。
【0032】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「グリセロール」及び「グリセリン」という用語は置換可能である。
【0033】
本明細書の開示に適したインスリンの非限定的な例には、ヒトインスリン、組換えヒトインスリン、ヒトインスリン類似体、インスリン誘導体、活性インスリン代謝産物、又はそれらの組み合わせが含まれる。
【0034】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、「組換えヒトインスリン」は、天然のヒトインスリンと構造的に同一であり、組換えDNA技術によって産生される。一実施形態では、組換えヒトインスリンは、微生物合成アプローチによって製造される。別の実施形態において、組換えヒトインスリンは、生産生物としてピキアパストリス(酵母)を利用する組換えDNA技術によって製造される。
【0035】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「インスリン類似体」は、天然に存在するインスリン、すなわちヒトインスリン又は動物のインスリンの類似体であり、これらは、天然に存在する対応する、そうでなければ同一の、インスリンから、少なくとも1つの天然に存在するアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換すること、及び/又は少なくとも1つのアミノ酸残基を付加又は除去することによって異なる。付加及び/又は置換されたアミノ酸残基はまた、自然に発生しないものであり得る。
【0036】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「張度調整剤」は、投与時の注射部位での浸透圧ショックを防ぎ、それによって局所刺激を低減するために注射可能な調製物に添加される賦形剤である。張度調整に使用される典型的な賦形剤には、生理食塩水、グリセリン、マンニトール、デキストロース、及びトレハロースが含まれる。張度は、主に溶液に溶解した粒子の数に依存する束一的性質である。したがって、添加される張度調整剤の量は、特定の処方に依存する。通常、280~320mOsm/kgの浸透圧は等浸透圧と見なされる。
【0037】
本明細書で表されるすべてのパーセンテージは、別途断りのない限り、組成物の総重量に対する重量によるものである。本明細書でpHを参照する場合、値は標準装置で約25℃で測定されたpHに対応する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「約」、「ほぼ」及び「実質的に」は、例えば、基準数の-10%~+10%の範囲、好ましくは基準数の-5%%~+5%、より好ましくは基準数の-1%~+1%、最も好ましくは基準数の-0.1%~+0.1%の範囲の数を指すと理解される。
【0039】
本明細書のすべての数値範囲は、範囲内のすべての整数又は分数を含むと理解されるべきである。さらに、これらの数値範囲は、その範囲内の任意の数又は数の部分集合に向けられた請求項のサポートを提供するものとして解釈されるべきである。例えば、1~10の開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートすると解釈されるべきである。
【0040】
本開示及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかに別に意味しない限り、複数の対象を含む。したがって、例えば、「構成要素」への言及は、2つ以上の構成要素を含む。
【0041】
「含む」という用語は、排他的ではなく包括的に解釈されるべきである。同様に、「備える」及び「有する」という用語は、そのような構成が文脈から明らかに禁止されていない限り、すべて包括的であると解釈されるべきである。さらに、この点に関して、これらの用語は、述べられた特徴の存在を指定するが、追加の又はさらなる特徴の存在を排除するものではない。
【0042】
それにもかかわらず、本明細書に開示される組成物及び方法は、本明細書に具体的に開示されていない要素を持たない場合がある。したがって、「含む」という用語を使用する実施形態の開示は、(i)特定された構成要素又はステップ、及び追加の構成要素又はステップを有する実施形態の開示、(ii)特定された構成要素又はステップから「本質的になる」実施形態の開示、及び(iii)特定された構成要素又はステップ「からなる」実施形態の開示である。本明細書に開示される任意の実施形態は、本明細書に開示される任意の他の実施形態と組み合わせることができる。
【0043】
「X及び/又はY」の文脈で使用される「及び/又は」という用語は、「X」、又は「Y」、又は「X及びY」として解釈されるべきである。同様に、「X又はYの少なくとも1つ」は、「X」、又は「Y」、又は「XとY」として解釈されるべきである。例えば、「一塩基性リン酸ナトリウム又は二塩基性リン酸ナトリウムの少なくとも1つ」は、「一塩基性リン酸ナトリウム」、又は「二塩基性リン酸ナトリウム」、又は「一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムの両方」として解釈されるべきである。
【0044】
本明細書で使用される場合、「例えば」及び「など」という用語は、特に用語のリストが後に続く場合、単に例示的であり、排他的又は包括的であると見なされるべきではない。
【0045】
「対象」又は「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトである。本明細書で使用される場合、「有効量」は、不足を防止し、個体の疾患又は病状を治療し、あるいは、より一般的には、症状を軽減し、疾患の進行を管理し、又は個体に栄養的、生理学的、若しくは医療的利益を提供する量である。
【0046】
「治療」という用語は、予防的治療(標的となる病的状態又は障害の発症を予防及び/又は遅らせる)及び治癒的、治療的若しくは疾患修正的治療(診断された病的状態又は障害の治癒、減速、症状の軽減、及び/又は進行の停止を行う治療手段を含む)の両方を含み、並びに、病気にかかるリスクがある、又は病気にかかった疑いのある患者、及び病気であるか病状に苦しんでいると診断された患者の治療を含む。「治療」という用語は、対象が完全に回復するまで治療されることを必ずしも意味するものではない。「治療」という用語はまた、疾患に罹患していないが、不健康な状態の発症に影響を受けやすい可能性がある個体の健康の維持及び/又は促進を指す。「治療」という用語はまた、1つ又は複数の主要な予防的又は治療的手段の相乗又は増強を含むことを意図している。非限定的な例として、治療は、患者、介護者、医師、看護師、又は別の医療専門家によって実行することができる。
【0047】
本明細書で使用される「単位剤形」という用語は、ヒト及び動物の対象のための単一剤形として適切な物理的に別個の単位を指し、各単位は、薬学的に許容される希釈剤、担体又はビヒクルと組み合わせて、所望の効果を生み出すのに十分な量で、本明細書に開示される所定量の組成物を含む。単位剤形の仕様は、使用する特定の化合物、達成される効果、及び宿主内の各化合物に関連する薬力学に依存する。
【0048】
本明細書で使用される「mM」という用語は、mmol/Lである水溶液のモル濃度単位を指す。例えば、1.0mMは1.0mmol/Lに相当する。
【0049】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、対象に投与されたときに実質的な有害なアレルギー反応又は免疫反応を引き起こさない物質を指す。
【0050】
特定の成分に関して使用される「実質的にない」、「本質的に含まない」又は「実質的に含まない」という用語は、存在する成分のいずれかが約3.0重量%未満、例えば約2.0重量%未満、約1.0重量%未満、好ましくは約0.5重量%未満、又はより好ましくは約0.1重量%未満を構成することを意味する。
【0051】
実施形態
本開示は、一般に、約0.1~1.0U/mLのインスリンを含む、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物に関する。インスリンプレミックス配合物は、可撓性容器に無菌的に充填して、薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品を形成することができる水溶液である。インスリンプレミックス製品は、好ましくは、無菌で、安定で、すぐに使用できる水溶液である。インスリンプレミックス製品は、好ましくは単回使用製品である。インスリンプレミックス製品は、好ましくは透明で無色である。インスリン製品は、血糖コントロールの改善された治療のためにそれを必要とする個体に投与することができる。個体は哺乳動物、好ましくは成人及び子供を含むヒトであり得る。個体は、集中治療室(ICU)の個体又はI型やII型糖尿病などの真性糖尿病を有する個体を含む、代謝障害を有する個体であり得る。
【0052】
本開示の一態様は、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物である。薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、配合物の体積に対して約0.1~10.0U/mL、好ましくは約0.5~5.0U/mL、より好ましくは約0.5~2.0U/mL、最も好ましくは約1.0U/mLの濃度のインスリンを含み得る。本明細書に開示されるプレミックス配合物中のインスリンの濃度は、好ましくは、患者に直接投与するための最終濃度であり、好ましくは、インスリンプレミックス配合物にまだ含まれていない追加の成分によるさらなる希釈又は添加を必要としない。
【0053】
インスリンの非限定的な例には、ヒトインスリン、組換えヒトインスリン、ヒトインスリン類似体、インスリン誘導体、活性インスリン代謝産物、又はそれらの組み合わせが含まれ得る。薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、水溶液を形成するための水を含み得る。
【0054】
インスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、新たに調製されたときに安定であり得、好ましくは2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存した後、室温(23℃~27℃)で30日間保存する貯蔵寿命(保存期間全体を通して実質的に光に曝露されない)を有する。
【0055】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、新たに調製されたとき及びその貯蔵寿命の終わりまで、好ましくは約6.5~7.2、より好ましくは約6.6~7.0、最も好ましくは約6.8のpH値を有し得る。出願人は、インスリンプレミックス配合物のpH値が、配合物の安定性に影響を与える主要な要因の1つであることを発見した。出願人は、本明細書に開示される約6.5~7.2、好ましくは約6.6~7.0のpH値を有するインスリンプレミックス配合物が、新たに調製されたとき、及びその貯蔵寿命の間、可撓性容器又はガラス容器のいずれかに保存されたときに予想外に高い安定性を示すことを見出した。さらに、出願人は、100.0U/mLインスリンなどの濃縮インスリン製品のUSPモノグラフで公開されているpH範囲(約7.0~7.8)は、約0.1~10.0U/mLなどの低インスリン濃度でのインスリンプレミックス配合物の好ましいpH範囲ではないことを発見した。2つの異なる濃度の製品のpH範囲は重複するが、インスリンプレミックス配合物(約0.1~10.0U/mLインスリン)の理想的なpHは、市販の濃縮インスリン溶液(100.0U/mL)のpHよりも低いことが好ましい。
【0056】
インスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、好ましくは、低濃度の不純物を有する。例えば、インスリンプレミックス配合物は、新たに調製されたとき及びその貯蔵寿命の終わりまで、総インスリンの約8.0重量%未満、好ましくは約5.0重量%未満、より好ましくは約4.0重量%未満のA-21デサミドインスリン不純物を有する。A-21デサミドインスリン不純物は、新たに調製されたとき、インスリンプレミックス配合物において、総インスリンの約5.0重量%未満、好ましくは約4.0重量%未満、より好ましくは約3.0重量%未満、最も好ましくは約2.5重量%未満、さらに2.0重量%未満であり得る。A-21デサミドインスリン不純物の量は、低濃度インスリン配合物での使用に調整された、USPインスリンモノグラフに記載されているような適切な逆相HPLC又はUHPLC法を使用して測定される。当業者には、A-21デサミドインスリン不純物の重量パーセントは、HPLCクロマトグラムの総インスリンピーク面積に対するA-21デサミドインスリン不純物のピーク面積のパーセンテージに基づいて計算することができることが理解される。
【0057】
インスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、新たに調製されたとき及びその貯蔵寿命の終わりまで、好ましくはインスリン二量体、六量体、又は任意の他の高分子量タンパク質(HMWP)を本質的に含まないか、又は非常に低濃度である。一実施形態では、新たに調製されたとき及びその貯蔵寿命の終わりまで、インスリン二量体、六量体及び他の任意のHMWPの総量は、総インスリンの約4.0重量%未満、約3.0重量%未満、好ましくは約2.0重量%未満、最も好ましくは約1.7重量%未満、さらには約1.1重量%未満である。インスリン二量体、六量体、又はその他のHMWPの総量は、低濃度インスリン配合物での使用に調整された、USPインスリンモノグラフに記載されているような適切なサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法を使用して測定される。
【0058】
インスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、新たに調製されたとき及びその貯蔵寿命の終わりまで(実質的に光に曝露されない)、好ましくは、総インスリンの約90重量%を超える、好ましくは約95重量%を超える、より好ましくは約98重量%を超える、最も好ましくは約99重量%を超えるモノマー形態のインスリンを有する。
【0059】
インスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、好ましくは、個々の未知の関連物質の濃度が低い。一実施形態では、インスリンプレミックス配合物は、新たに調製されたとき及びその貯蔵寿命の終わりまで、総インスリンの約5.0重量%未満、好ましくは約4.0重量%未満、より好ましくは約3.0重量%未満の総未知の関連物質を有する。総未知の関連物質は、新たに調製されたとき、逆相HPLCによって測定した場合、好ましくは、総インスリンの約2.0重量%未満、又はさらに約1.5重量%未満である。インスリンプレミックス配合物は、好ましくは、目視で確認できる粒子を本質的に含まない。
【0060】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、少なくとも1つの張度調整剤をさらに含み得る。少なくとも1つの張度調整剤は、塩化ナトリウム(NaCl)及びデキストロースの一方又は両方であり得る。一実施形態では、少なくとも1つの張度調整剤は、好ましくは塩化ナトリウムである。塩化ナトリウムの濃度は、好ましくは全配合物の約0.8重量%~1.0重量%、より好ましくは約0.855重量%~0.945重量%、最も好ましくは約0.9重量%である。別の実施形態では、少なくとも1つの張度調整剤は、好ましくはデキストロースである。デキストロースの濃度は、好ましくは約4.0%~11.0%である。一実施形態では、少なくとも1つの張度調整剤は、好ましくは、配合物の約5.0重量%のデキストロースである。さらに別の実施形態では、少なくとも1つの張度調整剤は、好ましくは、配合物の約5.51重量%のデキストロースである。さらに別の実施形態では、少なくとも1つの張度調整剤は、好ましくは、配合物の約10.0重量%のデキストロースである。
【0061】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、少なくとも1つのバッファーをさらに含み得る。少なくとも1つのバッファーは、好ましくは、一塩基性リン酸ナトリウム(一水和物)、二塩基性リン酸ナトリウム(無水)、三塩基性リン酸ナトリウム、クエン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、トリプトファン、マレイン酸塩、炭酸塩及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0062】
少なくとも1つのバッファーの濃度の非限定的な例は、配合物の総体積で約0.1~50.0mM、好ましくは約1.0~10.0mM、より好ましくは約3.0~7.0mM、最も好ましくは約5.0mMの濃度である。
【0063】
少なくとも1つのバッファーの非限定的な例は、好ましくは、一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムの組み合わせである。一塩基性リン酸ナトリウム対二塩基性リン酸ナトリウムのモル比は、約1:0.1~約1:10、好ましくは約1:1~約1:5、より好ましくは約1:1~約1:4であり得る。一実施形態では、一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムのモル比は約2.1:2.9である。別の実施形態において、一塩基性リン酸ナトリウム対二塩基性リン酸ナトリウムのモル比は、約1:3.44である。
【0064】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、アルギニン、グリシン、及びリシンなどのアミノ酸のうちの1つ又は複数、並びに塩化カリウムなどの1つ又は複数のカリウム塩をさらに含み得る。インスリンプレミックス配合物中の各賦形剤の濃度は、配合物の体積で約0.1mM~約10.0mM、好ましくは約1.0mM~約5.0mMである。
【0065】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、配合物の体積で約0.1~10.0mg/mL、好ましくは約0.5~5.0mg/mL、より好ましくは約0.5~2.0mg/mLのアルブミンなどの犠牲タンパク質をさらに含み得る。
【0066】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、フェノール、クレゾール、メタクレゾール、ソルビン酸塩、パラベン、及び静脈内投与に適した他の任意の添加防腐剤などの防腐剤の1つ又は複数を含み得る。
【0067】
好ましくは、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、フェノール、クレゾール、メタクレゾール、パラベン、又は他の添加された防腐剤を実質的に含まない。
【0068】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、ポリエチレングリセロール、アルキルカルボキシレート-脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ホスファチジルコリン(レシチン)、ポリソルベート、モノラウリン酸ソルビタン及び静脈内投与に適したその他の界面活性剤などの界面活性剤の1つ又は複数を含み得る。
【0069】
好ましくは、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、添加された界面活性剤を実質的に含まない。
【0070】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、ビタミンE、ビタミンC、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、亜硫酸塩、及び静脈内投与に適した他の任意の抗酸化剤などの抗酸化剤の1つ又は複数を含み得る。
【0071】
好ましくは、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、添加された抗酸化剤を実質的に含まない。
【0072】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、添加された亜鉛を含み得る。好ましくは、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、配合物の約0.30μg/mL未満、好ましくは約0.21μg/mL未満、より好ましくは0.16μg/mL未満の亜鉛を含む。
【0073】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、好ましくは、0.21μg/mL未満の亜鉛を含む。
【0074】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、好ましくは、0.16μg/mL未満の亜鉛を含む。
【0075】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、好ましくは、添加された亜鉛を実質的に含まない。
【0076】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、好ましくは、亜鉛を実質的に含まない。
【0077】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、好ましくは、添加された亜鉛、添加された防腐剤、添加されたグリセロール、及び添加された界面活性剤を本質的に含まない。さらに、出願人は、本明細書に開示されるインスリンプレミックス製品は、添加された亜鉛、添加された防腐剤、添加されたグリセロール、又は添加された界面活性剤がなくても、その貯蔵寿命(約5℃で24か月間保存され、続いて約25℃で30日間保存され、保存期間全体を通して実質的に光に曝露されない)にわたって、予想外に安定していることを発見した。一実施形態では、亜鉛、防腐剤、グリセロール又は界面活性剤は、インスリンプレミックス配合物に添加されない。本明細書に開示及び調製されるインスリンプレミックス配合物中の亜鉛の含有量は、インスリン原料に由来する約0.13~0.16μg/mLであり得る。対照的に、市販の濃縮インスリン製品には、亜鉛、防腐剤(メタクレゾールなど)、及びグリセロールが添加されている。例えば、濃縮インスリンの市販製品の1つには、21μg/mLの亜鉛、3mg/mLのメタクレゾール(防腐剤)、及び16mg/mLのグリセロールが含まれている。
【0078】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、グリセロール/グリセリンを含み得る。
【0079】
好ましくは、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、添加されたグリセロール/グリセリンを実質的に含まない。
【0080】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、添加された防腐剤、添加された抗酸化剤、添加された亜鉛、添加された界面活性剤、その他の添加された安定化賦形剤がなくても、新たに調製されたとき、及び2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存した後、さらに23℃~27℃の室温で30日間保存する貯蔵寿命の間、予想外に安定している。したがって、本明細書に開示及び調製される薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、添加された防腐剤、添加された抗酸化剤、添加された亜鉛、添加された界面活性剤又は他の添加された安定化賦形剤を必要としない場合がある。しかしながら、いくつかの実施形態において、防腐剤、抗酸化剤、亜鉛、界面活性剤又は任意の他の添加された安定化賦形剤などの1つ以上の賦形剤は、インスリンプレミックス配合物に添加され得る。
【0081】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物の非限定的な例は、好ましくは、IV注入に適した一般的な可撓性容器に吸着又は吸収されない。したがって、本明細書に開示されるインスリンプレミックス配合物は、IV注入に適した一般的な可撓性容器である可撓性容器への吸収が本質的にないか又は低いため、インスリン損失を防ぐことができる。
【0082】
可撓性容器の非限定的な例は、インスリン溶液に接触する内面を有する可撓性プラスチック容器であり得る。ここで、内面は、プラスチック材料、又はプラスチック材料の層から作製され得る。インスリン溶液に接触する内面に好ましいプラスチック材料には、ポリエチレン(PE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、塩化ポリビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、コポリマー、及び変性ポリマー若しくはコポリマーが含まれる。例えば、可撓性容器の内面は、可撓性PE又はLLDPE製であり得る。一般的な可撓性容器の内面の非限定的な例の特徴は、
図2に記載されている。
【0083】
一実施形態では、可撓性容器は、GALAXY(登録商標)PL2501などの静脈内薬物注入を目的とした100mLのGALAXY(登録商標)単回投与の可撓性容器である。GALAXY(登録商標)可撓性容器は、単一のポリマー層又は互いに結合されている複数の層から作られるか、又は共押出しされ得る。これらのフィルム層は、ポリオレフィン、ポリエーテル、及びポリアミド(例えば、ナイロン)などのポリマーを含むことができるが、これらに限定されない。GALAXY(登録商標)可撓性容器の内面は、ポリエチレン(PE)又はPEの層であり、バッグ内の薬液と接触する。
【0084】
別の実施形態において、出願人は、本明細書に開示されるインスリンプレミックス配合物は、試験した可撓性容器のタイプに関係なく、アルギニン、リジン、グリシンなどのアミノ酸、アルブミンなどの犠牲タンパク質、又はKClなどのカリウム塩の添加の有無にかかわらず、予想外に、可撓性容器の内面に吸着又は吸収されないことを見出した。したがって、本明細書に開示されるインスリンプレミックス配合物は、可撓性容器へのインスリンの吸着又は吸収によるインスリン損失を大幅に減らすことができ、したがって、病院でそれを必要とする患者へのインスリンの投与における医療過誤を減らすことができる。
【0085】
いくつかの実施形態において、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、水酸化ナトリウム(NaOH)及び塩酸(HCl)などのpH調整剤をさらに含み得る。
【0086】
本開示の別の態様は、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法である。この方法の非限定的な例は、好ましくは、1)インスリンを水に添加し、均質になるまで混合して水溶液を形成することを含み、インスリンの濃度は、約0.1~10.0U/mLである。
【0087】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、水溶液のpHを約6.5~7.2に調整することをさらに含む。
【0088】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、少なくとも1つの張度調整剤を水に添加し、均質になるまで混合することをさらに含む。
【0089】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、
図3に示される方法である。この方法のいくつかの実施形態は、図示のステップのすべてを含むが、この方法の他の実施形態は、図示のステップの1つ又はすべてを省略し、特に明記しない限り、各ステップは任意である。本開示は、
図3に示される方法の特定の実施形態に限定されない。
【0090】
一実施形態では、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法は、以下を含む:1)最終容量を指定し、室温で容器を最終容量の約70%~99%、好ましくは最終容量の約90%まで水で満たす;2)酸又は酸性緩衝剤を使用してpHを約2.0~5.0に調整する;3)インスリンを添加し、全配合物の約0.1~10.0U/mLの濃度に溶解するまで混合する;4)必要に応じて、pHを試験し、NaOH及び/又はHClを使用して、好ましくは約6.5~7.2、より好ましくは約6.6~7.0、最も好ましくは約6.8に調整する;5)得られた溶液を水で最終容量にし、均質になるまで混合する;6)溶液を滅菌濾過して、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を形成する。
【0091】
張度調整剤の非限定的な例には、塩化ナトリウム(NaCl)、デキストロース、及びそれらの組み合わせが含まれる。一実施形態では、張度調整剤は、好ましくはNaClである。NaClの濃度は、好ましくは、全配合物の約0.8重量%~1.0重量%、より好ましくは約0.855重量%~0.945重量%、最も好ましくは約0.9重量%である。別の実施形態では、張度調整剤は好ましくはデキストロースであり、デキストロースの濃度は、全配合物の約4.0重量%~11.0重量%、例えば、約5.0重量%、約5.51重量%、又は約10重量%である。
【0092】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、少なくとも1つのバッファーを添加し、均質になるまで混合することをさらに含む。これに関して、方法のいくつかの実施形態は、バッファーを添加することを含まない場合があるが、好ましい実施形態は、少なくとも1つのバッファーを添加することを含む。少なくとも1つのバッファーの濃度は、配合物の体積で、好ましくは約0.1mM~約20.0mM、好ましくは約1.0mM~約10.0mM、より好ましくは約3.0mM~約7.0mM、最も好ましくは約5.0mMである。
【0093】
少なくとも1つのバッファーの非限定的な例は、一塩基性リン酸ナトリウム(一水和物)、二塩基性リン酸ナトリウム(無水)、三塩基性リン酸ナトリウム、クエン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、トリプトファン、マレイン酸塩、炭酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、少なくとも1つのバッファーは、一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムの組み合わせである。総一塩基性リン酸ナトリウム対二塩基性リン酸ナトリウムのモル比は、好ましくは約1:0.1~約1:10、より好ましくは約1:1~約1:5、そして最も好ましくは約1:1~1:4である。一実施形態では、一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムのモル比は好ましくは約2.1:2.9である。別の実施形態において、一塩基性リン酸ナトリウム対二塩基性リン酸ナトリウムのモル比は、好ましくは約1:3.44である。
【0094】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、水溶液をフィルターに通すことを含むがこれに限定されない、当技術分野における既知の方法による医薬品の無菌製造及び容器充填及び密封技術を含み得る。
【0095】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、亜鉛の添加を排除し得る。
【0096】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、フェノール、クレゾール、メタクレゾール、パラベン又は他の任意の添加された防腐剤などの任意の防腐剤の添加を排除し得る。
【0097】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、任意の界面活性剤の添加を排除し得る。
【0098】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、任意のグリセロール/グリセリンの添加を排除する。
【0099】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、亜鉛の添加、任意の防腐剤の添加、任意の界面活性剤の添加、又はグリセロールの添加を排除する。さらに、出願人は、本明細書に開示される薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、添加された亜鉛、添加された防腐剤、添加されたグリセロール、又は添加された界面活性剤がなくても、実質的に光に曝露されることなく、約5℃で24か月間保存され、続いて約25℃で30日間保存される間、予想外に安定していることを発見した。対照的に、現在市場で入手可能な濃縮インスリンの市販製品は、亜鉛、防腐剤(例えば、メタクレゾール)及びグリセロールを添加している。例えば、濃縮インスリンの市販製品の1つには、21μg/mLの亜鉛、3mg/mLのメタクレゾール(防腐剤)、16mg/mLのグリセリンが含まれている。
【0100】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、水溶液のpH値を調整するための酸として塩酸(HCl)を使用する。
【0101】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、水溶液のpHを調整するための酸性緩衝剤として一塩基性リン酸ナトリウムを使用する。
【0102】
一実施形態では、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造する方法は、
図3に示すように、インスリンを添加する前に、酸性緩衝剤として一塩基性リン酸ナトリウムを使用して、水溶液のpHを約2.0~5.0に調整する。出願人は、
図3に示される方法における異なる成分の添加及び混合手順が、インスリンの安定性に悪影響を与えることなく、混合時間を短縮し、インスリンの完全かつ迅速な溶解を確実にし、NaOH及び/又はHClを使用するpH調整を最小限にし、デサミドインスリン不純物などの不純物の形成を低減できることを見出した。インスリンは酸性水溶液に溶解度が高く、早く溶ける。さらに、インスリンはpH塩基性水溶液中で不安定である。したがって、水溶液は、好ましくは、最初に、溶液のpH値を約2.0~5.0に下げ、したがってインスリンの完全かつ迅速な溶解を確実にするように調整される。したがって、本明細書に開示される添加及び混合手順は、混合時間を短縮し、インスリンの安定性を確保し、不純物の形成を低減することができる。
【0103】
図3に示されるような薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法におけるこれらのステップの少なくとも一部は、任意選択で、約2~8℃、例えば約5℃で、又は追加的若しくは代替的に、大気条件、すなわち、約25℃の温度及び約1.0気圧の圧力で実施することができる。好ましくは、混合は、泡立ちを最小限にするために、混合のいくつか又はすべてのステップについて一定の低速攪拌で実行される。好ましくは、各成分は、次の成分を添加する前に完全に均質になるまで混合される。
【0104】
さらに、この点に関して、上記に開示された特定の混合手順と共に低速攪拌は、混合中の泡の形成を最小限に抑え、したがって泡へのインスリンの捕捉を防ぎ、したがって、インスリンプレミックス配合物中のインスリン濃度の改善された精度を達成する。
【0105】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を製造するための方法の非限定的な例は、好ましくは、インスリンプレミックス配合物を、例えば、約5℃の温度で最大約24か月間、続いて約25℃で最大約30日間、容器に保存することをさらに含む。保存温度は0℃以上であることが好ましい。保存時のインスリンは、好ましくは、光への曝露から保護される。本明細書に開示されるインスリンプレミックス配合物は、そのような保存によって実質的に不変(例えば、外観、色、pH、インスリン濃度、及び/又は不純物)であり得る。したがって、本明細書に開示される方法によって調製される薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、好ましくは、容器に無菌的に充填された場合、約2~8℃で約24か月間、続いて約25℃で約30日間の貯蔵寿命を有する。容器は、ガラス容器又はプラスチックボトル又はバッグなどの可撓性容器であり得る。
【0106】
本開示の別の態様は、約0.1~10.0U/mLのインスリンを含む、薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品である。
【0107】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品の非限定的な例は、本明細書で上記に開示され調製されるような薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物、及び可撓性容器アセンブリであってインスリンプレミックス配合物が無菌的に充填される可撓性容器アセンブリを含む。
【0108】
可撓性容器アセンブリの非限定的な例は、可撓性容器及び任意選択で1つ又は複数のポートアセンブリを含み得る。
【0109】
可撓性容器の非限定的な例は、約1.0mL~1000.0mL、好ましくは約10.0~500mL、より好ましくは約50.0~300.0mL、最も好ましくは約100.0mLの容量を有し得る。可撓性容器は、可撓性プラスチック容器であり得る。可撓性容器は、インスリンプレミックス配合物に接触する内面を有し、内面は、好ましくは、プラスチック材料又はプラスチック材料の層から作製され得る。プラスチック材料は、好ましくは、ポリエチレン(PE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、塩化ポリビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、コポリマー、及び変性ポリマー若しくはコポリマーの群から選択される。例えば、可撓性容器の内面は、PEであり得る。一実施形態では、可撓性容器は、ポリエチレン(PE)で作られた内面を有する100mLのGALAXY(登録商標)単回投与可撓性容器(PL2501)である。適切な可撓性容器の非限定的な例の特徴が
図2に示されている。
【0110】
本開示の別の態様は、可撓性容器アセンブリ内に薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を含む薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品であり、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物は、本明細書で上記に開示され、調製される。
【0111】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品の非限定的な例は、可撓性容器アセンブリ内で約0.1~10.0U/mL、好ましくは約0.5~5.0U/mL、より好ましくは約0.5~2.0U/mL、最も好ましくは約1.0U/mLのインスリンを含み得る。
【0112】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品の非限定的な例は、好ましくは、少なくとも1つの張度調整剤をさらに含む。
【0113】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品の非限定的な例は、好ましくは、少なくとも1つのバッファーをさらに含む。
【0114】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品の非限定的な例は、好ましくは、約6.5~7.2、好ましくは6.6~7.0、より好ましくは約6.8のpH値を有する。
【0115】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品の非限定的な例は、好ましくは、新たに調製されたとき、及び製品の貯蔵寿命を通して、総インスリンの約8.0重量%未満、より好ましくは約5.0重量%未満、最も好ましくは約4.0重量%未満のA-21デサミドインスリン不純物を有する。A-21デサミドインスリン不純物は、インスリンプレミックス製品において、新たに調製されたとき、総インスリンの約4.0重量%未満、より好ましくは約3.0重量%未満、最も好ましくは約2.5重量%未満、さらには約2.0重量%未満であることが好ましい。本明細書に開示されるA-21デサミドインスリン不純物の含有量は、濃度配合物での使用に適合された、USPモノグラフに提供されるような適切な逆相HPLC法を使用して測定される。
【0116】
好ましくは、本明細書に開示及び調製される薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品は、添加された亜鉛、添加された防腐剤、又は添加された界面活性剤を本質的に含まず、改善された安定性及び低い不純物の濃度を有し得る。
【0117】
いくつかの実施形態では、可撓性容器アセンブリは、可撓性容器、好ましくは、任意選択で1つ又は複数のポートアセンブリを含み得る。
【0118】
いくつかの実施形態では、可撓性容器は、約1.0~1000.0mL、好ましくは約10.0~500.0mL、50.0~300.0mL、より好ましくは約100.0mLの容量を有し得る。可撓性容器は、インスリンプレミックス溶液に接触する内面層を有し得、内面層は、PE、LLDPE、PVC、PP、コポリマー、及び変性ポリマー若しくはコポリマーを含むプラスチック材料から作られる。例えば、可撓性容器は、PE内面を有する100mLのGALAXY(登録商標)単回投与可撓性容器(PL2501)である。適切な可撓性容器の非限定的な例の特徴が
図2に示されている。
【0119】
好ましくは、本明細書に開示及び調製されるような薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品中のインスリンは、本明細書に上記に開示される可撓性容器に吸着又は吸収されない。文献でよく知られているように、インスリンは、ガラス製品の容器を含む容器、特にポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)の容器などの可撓性プラスチック容器に結合する傾向がある。インスリン含有溶液をプラスチック容器に入れると、プラスチックに結合する割合は約5%~約80%の範囲であると報告されている。しかしながら、出願人は、予想外のことに、本明細書に開示され、調製された薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品中のインスリンが、PE及びPVC容器を含む試験された一般的な可撓性容器のいずれにも吸着又は吸収されないことを見出した。試験された適切な可撓性容器の非限定的な例の特徴が
図2に示されている。
【0120】
本開示の別の態様は、薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品を製造する方法である。この方法は以下を含む:1)インスリンを水に添加し、均質になるまで混合して、約0.1~10.0U/mLの濃度のインスリンの水溶液を形成する;2)水溶液のpHを約6.5~7.2に調整する;3)可撓性容器アセンブリを滅菌する;4)水溶液を可撓性容器アセンブリに無菌的に充填する。
【0121】
薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品を製造するための方法の非限定的な例は、以下を含み得る:1)本明細書で上記に開示された薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を調製するための方法における上記に開示されたすべてのステップ;2)可撓性容器アセンブリを滅菌する;3)上記に開示され、調製された薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物を滅菌された可撓性容器アセンブリに無菌的に充填する。
【0122】
可撓性容器アセンブリの非限定的な例は、可撓性容器を含み得る。一実施形態では、可撓性容器アセンブリは、少なくとも1つのポートアセンブリをさらに含み得る。
【0123】
可撓性容器の非限定的な例は、インスリン溶液に接触する内面を有する可撓性プラスチック容器であり得、内面は、プラスチック材料又はプラスチック材料の層で作られることができる。インスリン溶液に接触する内面に好ましいプラスチック材料には、ポリエチレン(PE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、塩化ポリビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、コポリマー、及び変性ポリマー若しくはコポリマーが含まれる。例えば、可撓性容器の内面は、可撓性PE又はLLDPEで作られることができる。一般的な可撓性容器の内面の非限定的な例の特徴は、
図2に記載されている。
【0124】
一実施形態では、可撓性容器は、GALAXY(登録商標)PL2501などの静脈内薬物注入を目的とした100mLのGALAXY(登録商標)単回投与の可撓性容器である。GALAXY(登録商標)可撓性容器は、単一のポリマー層又は互いに結合されている複数の層から作られるか、又は共押出しされ得る。これらのフィルム層は、ポリオレフィン、ポリエーテル、及びポリアミド(例えば、ナイロン)などのポリマーを含むことができるが、これらに限定されない。GALAXY(登録商標)可撓性容器の内面は、ポリエチレン(PE)又はPEの層であり、バッグ内の薬液と接触する。
【0125】
別の実施形態において、出願人は、本明細書に開示されるインスリンプレミックス配合物は、試験した可撓性容器のタイプに関係なく、アルギニン、リジン、グリシンなどのアミノ酸、アルブミンなどの犠牲タンパク質、又はKClなどのカリウム塩の添加の有無にかかわらず、予想外に、可撓性容器の内面に吸着又は吸収されないことを見出した。したがって、本明細書に開示されるインスリンプレミックス配合物は、可撓性容器へのインスリンの吸着又は吸収によるインスリン損失を大幅に減らすことができ、したがって、病院でそれを必要とする患者へのインスリンの投与における医療過誤を減らすことができる。
【0126】
別の実施形態では、可撓性容器に保存された場合の薬学的に許容されるインスリン配合物のインスリン損失は、総インスリンの約8.0重量%未満、好ましくは約7.0重量%未満、より好ましくは約6.0重量%未満、最も好ましくは約5.0重量未満、さらには約4.0重量%未満、約3.0重量%未満、又は約2.0重量%未満である。ここで、インスリン損失は、可撓性容器へのインスリンの吸着又は吸収とインスリンの分解の組み合わせによるものであり、保存条件は、2℃~8℃の冷蔵温度で1か月、3か月、6か月、12か月、又は24か月である。
【0127】
別の実施形態では、可撓性容器に保存された場合の薬学的に許容されるインスリン配合物のインスリン損失は、総インスリンの約8.0重量%未満、好ましくは約7.0重量%未満、より好ましくは約6.0重量%未満、最も好ましくは約5.0重量%未満、さらには約4.0重量%未満である。ここで、インスリン損失は、可撓性容器へのインスリンの吸着又は吸収とインスリンの分解の組み合わせによるものであり、保存条件は、2℃~8℃の冷蔵温度で24か月、続いて23℃~27℃の室温で1か月である。
【0128】
さらに別の実施形態では、可撓性容器に保存された場合の薬学的に許容されるインスリン配合物のインスリン損失は、総インスリンの約5.0重量%未満、好ましくは約4.0重量%未満、より好ましくは約3.0重量%未満、最も好ましくは約2.0重量%未満、さらには約1.0重量%未満である。ここで、インスリン損失は、可撓性容器へのインスリンの吸着又は吸収とインスリンの分解の組み合わせによるものであり、保存条件は、2℃~8℃の冷蔵温度で1か月、3か月、6か月、及び12か月である。
【0129】
さらに別の実施形態では、可撓性容器に保存された場合、薬学的に許容されるインスリン配合物中のインスリンは、本質的に、可撓性容器に吸着又は吸収されない。
【0130】
さらに別の実施形態では、可撓性容器に保存された場合の薬学的に許容されるインスリン配合物のインスリン損失は、総インスリンの約8.0重量%未満、好ましくは約7.0重量%未満、より好ましくは約6.0重量%未満、最も好ましくは約5.0重量%未満、さらには約4.0重量%未満、約3.0重量%未満、約2.0重量%未満、又は約1.0重量%未満である。ここで、インスリン損失は、可撓性容器へのインスリンの吸着及び/又は吸収のみによるものであり、保存条件は、2℃~8℃の冷蔵温度で1か月、3か月、6か月、12か月、又は24か月である。
【0131】
別の実施形態では、可撓性容器に保存された場合の薬学的に許容されるインスリン配合物のインスリン損失は、総インスリンの約8.0重量%未満、好ましくは約7.0重量%未満、より好ましくは約6.0重量%未満、最も好ましくは約5.0重量%未満、さらには約4.0重量%未満、約3.0重量%未満、又は約2.0重量%未満である。ここで、インスリン損失は、可撓性容器へのインスリンの吸着及び/又は吸収のみによるものであり、保存条件は、2℃~8℃の冷蔵温度で24か月、続いて23℃~27℃の室温で1か月である。
【0132】
本明細書の開示において、様々な保存条件と期間での可撓性容器へのインスリンの吸収及び/又は吸着のパーセンテージは、以下のステップによって計算される:1)製造後、可撓性容器に充填する前に、製造タンク内のインスリンプレミックス配合物のインスリン濃度を測定する(タンク放出インスリン濃度);2)様々な保存条件と期間で可撓性容器内のインスリン濃度を測定する;3)様々な保存条件と期間で可撓性容器内のA-21デサミド不純物の濃度と他のインスリン関連物質の濃度を測定する;4)タンク放出インスリン濃度を、様々な保存条件と期間での可撓性容器内のインスリン、A-21不純物及び他のインスリン関連物質の濃度から差し引いて、可撓性容器に吸着及び/又は吸収されたインスリン濃度を得る;5)様々な保存条件と期間で可撓性容器に吸着及び/又は吸収されたインスリン濃度を、タンク放出インスリン濃度で割る。
【0133】
本開示の別の態様は、集中治療室(ICU)に入院する前の真性糖尿病の病歴の有無にかかわらず、ICU内の個体の血糖コントロールのための方法である。この方法は、有効量の薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品を個体に投与することを含み、ここで、薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品は、上記に開示され、調製された通りである。個体は哺乳動物であり得、好ましくはそれを必要とする成人及び子供を含むヒトであり得る。
【0134】
有効量の薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品を投与するための方法の非限定的な例は、非経口投与を含み得る。
【0135】
非経口投与の非限定的な例は、好ましくは、IV注射及びIV注入などの静脈内投与を含み得る。
【0136】
好ましくは、静脈内投与は、約25℃などの室温での静脈内注入である。
【0137】
本開示の別の態様は、代謝障害を有する個体を治療する方法である。この方法は、有効量の薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品を個体に投与することを含み、ここで、薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品は、上記に開示され、調製された通りである。代謝障害の非限定的な例は、好ましくは、I型及びII型糖尿病などの真性糖尿病を含み得る。
【0138】
有効量の薬学的に許容されるインスリンプレミックス製品の投与の非限定的な例は、非経口投与を含み得る。
【0139】
非経口投与の非限定的な例は、好ましくは、IV注射及びIV注入などの静脈内投与を含み得る。
【0140】
好ましくは、静脈内投与は、約25℃などの室温での静脈内注入である。
【0141】
好ましくは、静脈内投与は、救命救急ユニットの個体における血糖制御のために、又は真性糖尿病を含む代謝障害を有する個体の治療のために、低血糖症と低カリウム血症を回避するため血糖とカリウム濃度を監視する医学的監督下にある。
【0142】
好ましくは、インスリンプレミックス配合物又は製品の静脈内(IV)投与は、上記のIV投与前に、本明細書に開示され、調製された約50.0~5000.0mLの薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物でIV投与セット及び/又はプラスチックチューブを洗い流すステップをさらに含む。洗い流すステップは、IV投与セット又はプラスチックチューブへのインスリンの吸着又は吸収によるインスリン損失を最小限に抑えるためである。
【実施例】
【0143】
以下の非限定的な例は、ICUにおける個体の血糖コントロールのために、又はI型及びII型糖尿病を含む代謝障害を有する個体の治療のために、薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物又は製品を使用するという概念をサポートする。
【0144】
例1
様々なインスリンプレミックス配合物の安定性に対するバッファー及び保存条件の影響を調査した。組換えヒトインスリンは、微生物合成アプローチによって製造された。試験品と対照品は、約5℃と約25℃の両方で最大25.5か月間(110週間)、約40℃で最大24週間保存された。
【0145】
サンプルは、1.0U/mLインスリンバッチのそれぞれ8.0リットルについて、以下の混合手順において
図3に示される方法に従って調製された:(1)ガラスビーカーに約6.4リットル(80%充填)の蒸留水を入れる;(2)0.3gの組換えヒトインスリンを添加すると、曇りが現れる;(3)0.1NのHClを徐々に添加し、pHを約3.0に調整し、インスリンが完全に溶解するまでゆっくりと攪拌する;(4)0.1NのNaOHを滴下して、pHを約7.4に調整する;(5)残りの賦形剤を添加し、溶解するまで攪拌する;(6)蒸留水を8.0Lに添加する。
【0146】
調製したサンプルを、約7.4(目標)のpHでオートクレーブ処理した50mLアンプルに滅菌充填する。この研究のすべての対照品には、それぞれ1リットルあたり9.0gのNaClと0.037gの組換えヒトインスリン(27.1U/mg)、pHを調整するために必要に応じてNaOHとHCl、及び次の成分が含まれる。
1.サンプルID:Glass-PBS-2mM、1リットルあたりの配合は以下のとおりである:
Na2HPO4=0.23g;NaH2PO4.H2O=0.055g(最終溶液中の2mMリン酸バッファー)
2.サンプルID:Glass-Arginine-2mM、1リットルあたりの配合は以下のとおりである:
L-アルギニン=0.35g(最終溶液中の2mMのアルギニン)
3.サンプルID:Glass-PBS-2mM-(KCl-4mM)、1リットルあたりの配合は以下のとおりである:
KCl=0.30g;Na2HPO4=0.23g(最終溶液で2mM);NaH2PO4.H2O=0.055g(最終溶液中の2mMのリン酸バッファー;及び4mMのKCl)
【0147】
研究用の試験品は、目標pH7.4で100mLのGALAXY(登録商標)単回使用可撓性容器(PL2501)に無菌的に充填され、それぞれ次の成分が含まれる。
1.サンプルID:PL2501-PBS-2mM。1リットルあたりの配合は、サンプルID Glass-PBS-2mMと同じである。
2.サンプルID:PL2501-Arginine-2mM。1リットルあたりの配合は、サンプルID Glass-Arginine-2mMの配合と同じである。
3.サンプルID:PL2501-PBS-2mM-(KCl-4mM)。1リットルあたりの配合は、サンプルID Glass-PBS-2mM-(KCl-4mM)の配合と同じである。
【0148】
試験結果は記録され、
図4~6及び
図7A~9Bに示される。
図7A及び7Bは2つの部分に分割された1つの図であり、
図7Bは
図7Aの継続部分である。
図7A及び7Bは、110週間にわたって室温(5±3℃)で保存した場合の、ガラスアンプル中の2mMのリン酸バッファーを含む1.0U/mLインスリンの保存安定性とPL2501GALAXY(登録商標)容器内の保存安定性の比較を示している。同様に、
図8A及び8Bは2つの部分に分割された1つの図であり、
図8Bは
図8Aの継続部分であり、110週間にわたって室温(5±3℃)で保存した場合の、ガラスアンプル中の2mMのアルギニンを含む1.0U/mLインスリンの保存安定性とPL2501GALAXY(登録商標)容器内の保存安定性の比較を示している。
図9A及び9Bは2つの部分に分割された1つの図であり、
図9Bは
図9Aの継続部分であり、110週間にわたって室温(5±3℃)で保存した場合の、ガラスアンプル中の2mMのリン酸バッファーと4mMのKClを含む1.0U/mLインスリンの保存安定性とPL2501GALAXY(登録商標)容器内の保存安定性の比較を示している。
【0149】
試験結果には、当技術分野で知られている適切な標準的な方法によって分析された、5±3℃及び25±2℃の保存温度で最大約25.5か月間(110週間)、結果として40±2℃で最大24週間における、インスリン濃度、関連物質、高分子量タンパク質(HMWP)、機器粒子状物質が含まれる。
【0150】
実験データは、この研究で試験された1.0単位/mLのすべてのインスリンプレミックス配合物(リン酸(PBS)配合物(
図4、
図7A及び7B)、アルギニン配合物(
図5、
図8A及び8B)、及びPBSとKCl配合物(
図6、
図9A及び9B)を含む)が、PL2501GALAXY(登録商標)容器内で2℃~8℃の冷蔵温度で保存された場合、最大約25.5(110週間)安定であったことを実証した。PL2501GALAXY(登録商標)容器内で2℃~8℃の冷蔵温度で保存した場合、110週間にわたってインスリン濃度の変化は3つの配合物すべてにおいて10%未満であった。A-21デサミドインスリン不純物の含有量は、逆相HPLCで測定した場合、5℃で保存された110週間にわたって、この研究で試験された3つの配合物すべてにおいて4.0%未満であった。アルギニン配合物のpHは研究の過程で変動したことが分かった。110週間にわたるpH値の変化は、アルギニン配合物の方が、PBS配合物又はPBSとKCl配合物よりもそれぞれ有意であった。これらの実験データは、バッファーシステムがインスリンプレミックス配合物の長期的なpH安定性を改善することを示唆している。
【0151】
USP34/NF29は、インスリンヒト注射に適用される限界は、各mLの米国インスリンヒト単位において95.0%~105.0%の効力であると述べている。USP制限内の高分子量タンパク質(HMWP)は、総インスリンの1.7重量%以下であり、PL2501GALAXY(登録商標)容器で5±3℃で約25.5か月間保存した後、3つの配合物すべてが制限内にあった。
【0152】
例2
公称保存(約5℃)及び加速保存(約25℃)における1.0単位/mL濃度でのインスリン配合物の安定性に対するpHの影響を調査した。この研究で使用されたインスリンは、通常のヒトインスリンと構造的に同一のポリペプチドホルモンであり、生産生物としてピキアパストリス(酵母)を利用して、組換えDNA技術によって製造された。
【0153】
この研究に使用される設計された配合物は、以下に示されている:1.0U/mLのインスリン;0.9%のNaCl;2.1mMの一塩基性リン酸ナトリウム;2.9mMの二塩基性リン酸ナトリウム;及び記載されている成分の濃度要件を満たすための水。サンプル調製は、以下の混合手順を含む、本明細書の
図3に示される方法に従った:1)ガラスビーカーを最終バッチ体積の90%まで充填する;2)NaClを添加し、溶解するまで混合して、全配合物の0.9重量%の塩溶液を形成する;3)2.1mMの一塩基性リン酸ナトリウムを添加し、溶解するまで混合する;4)1.0U/mLの量のインスリンを添加し、溶解するまで混合する;5)2.9mMの量の二塩基性リン酸ナトリウムを添加し、溶解するまで混合する;6)必要に応じてNaOH及び/又はHClを使用してpHを調整する。
【0154】
試験品は、それぞれ6.5、6.8、7.0及び7.2の4つの設計されたpH値(サンプルの実際に測定されたpHは6.44、6.79、6.97及び7.22であった)でのインスリン注射製品の単位から構成された。対照品は、混合タンクから直接取り出されてガラス容器に保存されたサンプルと、ガラスアンプルに保存された濾過溶液のサンプルの両方であった。試験品(GALAXY(登録商標)バッグ)は配合物名に「T」で示され、対照品(ガラスアンプル内)は配合物名に「C」で示される。配合物名の下2桁は、溶液のpHを示す。
【0155】
試験品は、加速安定性データを提供するために、公称製品保存条件(約5℃)、及び高温条件(約25℃)で長期間保存された。試験品の複製ユニットを長期保存から取り出し、試験時間スケジュールに従って定期的に試験した。対照溶液は混合タンクから直接取り出された。
【0156】
試験結果は、
図10~13(約25℃での加速保存)及び
図14~17(約5℃での公称保存)に示されている。
【0157】
亜鉛含有量:この研究中に、亜鉛の総含有量がサンプルの1つについて測定された。インスリンプレミックス配合物の調製プロセス中、どの配合物にも亜鉛は添加されなかった。配合物中の亜鉛含有量(ある場合)は、インスリン原料に由来する。インスリン原料に存在するものを除いて、亜鉛は配合物に添加されなかった。インスリンプレミックス配合物中の亜鉛の含有量は非常に低く、約0.13~0.16μg/mLと測定された。対照的に、市販の濃縮インスリン製品の1つの亜鉛含有量は、添付文書によると約21μg/mLである。したがって、インスリンプレミックス配合物には、インスリン原料に由来する亜鉛が0.16μg/mL以下であり、本質的に添加された亜鉛を含まない。インスリンプレミックス配合物中の亜鉛含有量は、市販の濃縮インスリン製品の亜鉛含有量よりもはるかに低かった。
【0158】
目視検査:すべての試験品は、25℃での6か月間の保存又は5℃での24か月間の保存を通して目視検査に合格した。試験品のいずれについても、目視で確認できる粒子、色の変化、又は透明度の変化は観察されなかった。
【0159】
pH値:約25℃(±2℃)の室温での6か月間の保存を通して、又は約5℃(±3℃)の冷蔵温度での24か月間の保存を通して、いずれのインスリン配合物についてもpH値に有意な変化はなかった。
【0160】
浸透圧:すべてのインスリン配合物のすべての試験間隔での浸透圧値は、293~298mOsm/kgの間であった。約25℃の室温での6か月間の保存を通して、又は約5℃の冷蔵温度での24か月間の保存を通して、どのインスリン配合物でも浸透圧に有意な変化はなかった。
【0161】
機器粒子状物質:試験されたすべてのユニットは、現在の100mL小容量注入(SVI)溶液についてのUSP機器粒子制限内であった。10μmを超える粒子状物質(PM)は60カウント/mL以下であり、25μmを超えるPMは6カウント/mL以下であった(PM≧10μmの場合:60カウント/mL以下(NMT)、PM≧25μmの場合:6カウント/mL以下(NMT))。
【0162】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による高分子量タンパク質:約25℃の室温での6か月間の保存を通して、又は約5℃の冷蔵温度での24か月間の保存を通して、いずれのインスリン配合物についても、総インスリンの1.7重量%の定量限界を超える二量体又は凝集体は存在しなかった。
【0163】
加速保存(25℃)のアッセイ:すべての配合物のすべての試験間隔でのインスリンアッセイ値は、0.91~1.01U/mLの間であった。したがって、アッセイ値は、25℃で6か月間保存しても、目標の1.0U/mL濃度の90~110%以内に留まった。この保存条件では、各配合物のアッセイ値が全体的に減少した。
【0164】
公称保存(5℃)のアッセイ:すべての配合物のすべての試験間隔でのインスリンアッセイ値は、0.92~1.02U/mLの間であった。したがって、アッセイ値は、5℃で24か月間保存しても、目標の1.0U/mL濃度の90~110%以内に留まった。この保存条件では、どの配合物でもアッセイ値に識別可能な傾向はなかった。
【0165】
逆相HPLCによって測定された加速保存(25℃)の関連物質:すべての配合物について、A-21デサミドインスリン不純物の濃度は保存中に増加したが、約25℃で2か月間保存した後は、総インスリンの4.0重量%未満であり、A-21不純物の制限内であった。A-21デサミドインスリン不純物は、約25℃で6か月間保存すると、7~9%に増加した。他の個々の関連物質は、この保存条件を通して総インスリンの0.7重量%以下であり、増加傾向は観察されなかった。
【0166】
逆相HPLCによって測定された公称保存(5℃)の関連物質:すべての配合物について、A-21デサミドインスリン不純物は、6.5~7.2のpH範囲で配合物を24か月間保存した後、総インスリンの1.0重量%未満であり、A-21不純物の4.0%の制限内であった。他の個々の関連物質は、この保存条件を通して総インスリンの0.6重量%以下(合計で1重量%以下)であり、増加傾向は観察されなかった。
【0167】
したがって、実験結果は、約6.5~7.2のpHを有する得られたインスリンプレミックス配合物が、新たに調製されたとき、及び約5℃で最大24か月間、そして驚くべきことに約25℃で30日間又は最大2か月間の保存中にも、予想外に安定することを示した。すべての試験サンプルは、新たに調製したとき、約5℃で保存した場合は24か月間、約25℃で保存した場合は2か月間、総インスリンの4.0重量%未満のA-21デサミドインスリン不純物要件を満たした。その結果、実験結果は、この研究で調製されたpH6.5~7.2のインスリンプレミックス配合物がすべて約5℃で24か月間安定であることを明確に示した。さらに、この研究で調製されたpH6.5~7.2のインスリンプレミックス配合物はすべて、約25℃での保存で30日間、さらには最大2か月間安定であった。
【0168】
例3
インスリンプレミックス配合物を調製するための混合タンクへのインスリン添加の異なる手段を調査するための研究が実施された。以下の実験的要因が考慮された:1)様々なpH値の0.9wt%のNaCl水溶液へのインスリン溶解度;2)インスリン濃度に関連する泡の生成と散逸;3)泡の生成に関連するインスリンの添加;4)インスリンを完全に事前に溶解することなく、インスリンを固体又は未溶解のインスリンを含むスラリーとして混合タンクに直接添加することの実現可能性。
【0169】
この研究に使用されるインスリンは、生産生物としてピキアパストリス(酵母)を使用して製造された組換えヒトインスリンである。出願人は、発泡が発生したとき、及び異なる混合手順が使用されたときに、潜在的な均質性の問題がバッチタンクに存在する可能性があることを発見した。この研究では、溶解の懸念を軽減して混合時間を短縮し、得られた製品の安定性を向上させるために実装できる様々なインスリン添加手順を評価した。
【0170】
インスリン溶解度限界研究:
7.7gのインスリン原薬を、0.9重量%のNaCl及び0.32g/Lの二塩基性リン酸ナトリウムを含む水溶液(pH塩基性溶液)に添加した。添加されたインスリンが完全に溶解した場合、理論的に計算された合計濃度は700U/mLになる。添加及び混合後、大量の未溶解インスリンがあり、実際のインスリン濃度は試験されていない。同様に、7.7gのインスリン原薬を、理論的に計算された総濃度が700U/mLになるように水溶液に添加したが、0.01Nの量のHClを添加した。添加後、上澄み液を濾過し、インスリン濃度を分析して、pH酸性溶液中のインスリンの溶解限度を決定した。この一連の実験により、潜在的なインスリン添加ビヒクルとしての使用について検討されたインスリンスラリー(塩基性pH条件)及びインスリン濃縮物(酸性pH条件)が得られた。
【0171】
インスリン添加:溶解手順全体を通してのインスリン濃度値の変動性は、インスリンの一部が溶解されていない状態でインスリンがスラリー(塩基性pH)として添加されたバッチにおいてより大きいように思われる。インスリンがスラリーとして添加された0.01NのHCl(酸性pH)のバッチは、目視で確認できる溶解に達するまでの時間が短くなった。したがって、混合タンクにインスリンを添加する両方の手段が実行可能である一方で、酸性のpHのルートは、インスリンのより速い溶解をもたらし、したがって混合時間を短縮するであろう。
【0172】
実験結果は、0.01N塩酸におけるインスリンの溶解限度が約637U/mLであることを示し、これは、酸性条件下で調製されたインスリン濃縮物の最大濃度を表す。水(中性pH条件)又は二塩基性リン酸ナトリウム(塩基性pH条件)へのインスリンの溶解度は測定されなかったが、目視できるほど0.01NのHCl溶液よりもはるかに低くなる。実験結果から、インスリンが酸性溶液にはるかに速く溶解することは明らかである。溶解限度未満の濃縮物として、又は溶解していないインスリンを含むスラリーとして、バッチへのインスリンの添加が可能である。したがって、インスリンを溶液に素早く溶解し、混合時間を短縮し、製品の安定性を実現するため、最終的なインスリンプレミックス製品を製造する方法として、粉末形態のインスリンを添加する前に、水溶液のpHを約2.0~5.0に調整するステップが選択された。
【0173】
泡の生成及び消散:
試験溶液は、約5℃で保存された3000mLのインスリン配合物試験溶液であった。試験溶液は、インスリン濃度試験のために、泡が存在しない状態で、容器内の異なる場所から6回サンプリングした。次に、この同じ試験溶液をオーバーヘッドミキサーで600rpmで5分間混合して泡を生成し、次に上記のようにインスリン濃度試験のためにサンプリングした。同じ試験溶液を再び600rpmでさらに5分間混合して泡を生成し、上記のようにインスリン濃度試験のためにサンプリングした。
【0174】
試験溶液の3つの200mL部分とし、各部分を、以下の条件下でインスリン濃度及び関連物質について分析した:1)泡なし;2)泡が生成された直後(600rpmで5分間);3)生成された泡(600rpmで5分間)が完全に消散した後。
【0175】
試験結果は、
図18~19に示される。インスリン配合物で泡が生成されたとき、インスリンの一部が泡に取り込まれた。泡のない状態から泡の状態までのインスリン濃度の差は、わずか約-1%であった(
図18~19)。より多くの泡が生成されたとき、その差は約-4%であった。インスリン配合物で泡が生成されたとき、測定されたインスリンは約2%少なかった(
図19)が、インスリンクロマトグラフィープロファイル(デサミドのパーセンテージ)は、有意に変化しなかった。泡が消えると、インスリン濃度は初期(泡なし)の値に戻るように見える。
【0176】
実験結果は、測定されたインスリン濃度が、配合物のクロマトグラフィープロファイルに影響を与えることなく、インスリン配合物における泡の生成の結果として減少することを示した。測定されたインスリン濃度は、泡の生成が完全に落ち着いた後、初期値に戻る。ただし、泡が消えるまで待つと、製造プロセスに時間がかかるため、あまり望ましくない。
【0177】
上記のように、固体、未溶解のインスリンを含むスラリー、又はインスリンが完全に溶解した濃縮物としてのバッチへのインスリンの添加はすべて実行可能である。より速いインスリン溶解を確実にするために、インスリンを添加する前に、最初に水溶液のpHを約2.0~5.0に調整することが望ましい。混合手順は、インスリンの水溶液への迅速な溶解と泡の減少にとって重要である。インスリンを添加する前に水溶液のpHを約2.0~5.0に調整すると、プロセス中の泡の形成が最小限に抑えられ、総混合時間が短縮され、最終製品のインスリン濃度の安定性がさらに確保される。さらに、混合プロセス中の泡の形成を最小限に抑えるために低速混合を使用することが有利である。
【0178】
例4
IV注入に適した様々なタイプの可撓性容器へのインスリン吸収/吸着を調査するために研究が行われた。この研究では、様々なタイプの可撓性容器へのインスリンの吸収/吸着に対する、pHと様々な賦形剤(アルギニン、グリシン、リジン、及びヒトアルブミン血清)の添加の影響をさらに決定した。
【0179】
インスリン配合物(1.0単位/mL)を様々なタイプの可撓性容器及びガラスアンプルに充填して、目視検査、pH値、インスリン濃度、及び不純物に関する変化を評価した。この研究では、様々なpH値での可撓性容器へのインスリンの吸着又は吸収に対する様々な賦形剤の影響をさらに評価した。
【0180】
この研究における対照品は、ガラスアンプルに充填されたプレミックスインスリン配合物であった。各配合物の約5~10アンプルを作製した。試験品は、様々なタイプの100mL可撓性バッグに充填されたインスリンプレミックス配合物であった。試験された様々なバッグタイプの説明が
図2に示されている。
【0181】
1.0mg/mLのヒトアルブミンスパイクがあり又はなしで、1.0U/mLでのインスリンプレミックス注射のための配合物サンプルは、
図3に示される混合手順に従って調製された。様々なプラスチック容器内のインスリン濃度は、インスリンプレミックス配合物が可撓性容器に充填されてから1週間以内に測定された。実施されたすべての試験の実験結果は、
図20~22に要約されている。
【0182】
pH値:プレミックスインスリン配合物、1.0U/mLのプレミックスインスリン配合物(アルブミンスパイクあり又はなし)を有する可撓性容器のいずれにおいても、タンクサンプルからのpHの変化は観察されなかった。
【0183】
アッセイ及び関連物質:インスリンアッセイの結果を
図20~22に示す。タンクサンプルと比較した総インスリンのパーセンテージの変化は比較的小さく、すべてのサンプルを含むすべての可撓性容器で同程度であった。インスリンプレミックス配合物へのアルブミンの添加は、アルブミンを含まない配合物と比較してインスリン濃度に有意差をもたらさなかった。PVC容器を含むすべての容器のインスリン損失は類似しており、比較的小さく、対照品(タンクからのサンプル)からのインスリン濃度の±5%以内であった。この研究の実験結果は、この研究で調製されたインスリンプレミックス配合物又は製品中のインスリンが、予想外のことに、アルブミンの添加に関係なく、試験された可撓性容器のいずれにも吸着又は吸収されないことを明確に示した。
【0184】
文献でよく知られているように、インスリンは、ガラス製品の容器を含む容器、特にポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)の容器などの可撓性プラスチック容器に結合する傾向がある。インスリン含有溶液をプラスチック容器に入れると、プラスチックに結合する割合は約5%~約80%の範囲であると報告されている。
【0185】
しかしながら、出願人は、驚くべきことに、本明細書に開示され、調製される薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物又は製品のいずれか中のインスリンが、予想外のことに、PE及びPVC容器を含むIV注入に適した一般的な可撓性容器に吸着又は吸収されないことを見出した。試験した可撓性容器の特性を
図2に示す。インスリン溶液に接触する内面のプラスチック材料には、PE LLDPE、PVC、PP、コポリマー、及び修飾ポリマー若しくはコポリマーが含まれる。実験結果は、本明細書に開示され、調製された薬学的に許容されるインスリンプレミックス配合物又は製品のいずれか中のインスリンが、予想外のことに、試験された内側インスリン接触表面のプラスチック材料のタイプに関係なく、可撓性容器に吸着又は吸収されないことを示した。
【0186】
可撓性容器へのインスリン吸着及び安定性に対するpH及び様々な賦形剤の添加の効果:さらに、この研究において、可撓性容器へのインスリンの吸着/吸収と安定性に関するpHと様々な添加剤の添加についても、可撓性容器の約40℃で4週間の保存にわたって調査した。実験結果を
図23~25に示す。
図23~25の実験データから、インスリンプレミックス配合物のpHは、可撓性容器への吸着/吸収又は保存中の分解によるインスリン損失に大きく影響することは明らかである。pHが高いほど、インスリン損失の量が多くなる。さらに、アルギニン、リジン、グリシンなどの様々な賦形剤の添加は、約40℃で4週間の保存にわたって、可撓性容器へのインスリンの吸着/吸収、又は可撓性容器内のインスリンの安定性に有意な影響を与えなかった。
【0187】
例5
インスリンの溶解度及びインスリンプレミックス配合物中のインスリンの安定性に対する成分の添加及び混合手順の影響を調査するために研究が行われた。この研究には、
図3に詳述されている製造方法が使用された。
【0188】
配合物は、全配合物に基づいて約1.0U/mLのインスリン、全配合物の0.9重量%の塩化ナトリウム、及び、全配合物に基づいて総量5.0mMの一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムの組み合わせ、配合物のpH値を調整するために必要に応じて水酸化ナトリウム(NaOH)と塩化水素(HCl)、及び、記載されている成分の濃度要件を満たすための水を含む。試験した一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムのモル比はそれぞれ2.1:2.9;2.2:2.8;2.3:2.7;2.4:2.6;2.5:2.5及び2.6:2.4である。
【0189】
この研究のための試験品は、一塩基性リン酸ナトリウム対二塩基性リン酸ナトリウムの様々なモル比が添加された通常の生理食塩水中のインスリンの溶液であった。これらの試験品は、次のようにいくつかの追加順序を使用して3回作製された:
【0190】
試験品#1:18個の溶液を調製した(6つのリン酸塩比を3回)。プロトコルで指定されたものを超える2つの追加のリン酸塩比が準備され、試験された。
1.適切な容器に、18個の調製物のそれぞれについて450mLの水(最終容量の約90%)を充填した。
2.NaClを添加し、混合して溶解した(500mL溶液の目標量=18個の調製物のそれぞれについて4.5g)。pHを記録した。これらの溶液のpHは5.54~5.94の範囲であった。
3.一塩基性リン酸ナトリウム(一水和物)及び二塩基性リン酸ナトリウム(無水)を2.1:2.9;2.2:2.8;2.3:2.7;2.4:2.6;2.5:2.5;及び2.6:2.4のモル比で添加した。溶液を混合して溶解し、pHを記録した。
図26に示すように、すべての溶液のpH値は、約6.61~約6.78の範囲であった。
4.インスリンを添加し(500mL溶液の目標量=各調製物で18.74mg)、溶液を混合した。
目視検査を使用して、インスリンが溶解したかどうかを判断した。30分後、インスリンは溶解せず、溶液の調製は中止された。
【0191】
試験品#2:3つの溶液を調製した。
1.適切な容器に、450mLの水を充填した(最終容量の約90%(目標最終容量=3つの調製物のそれぞれについて500mL))。
2.NaClを添加し、混合して溶解した(500mL溶液の目標量=3つの調製物のそれぞれについて4.5g)。これらの溶液のpHは5.16~5.75の範囲であった。
3.インスリンを添加し(500mL溶液の目標量=18.74mg)、混合して溶解した。
目視検査を使用して、インスリンが溶解したかどうかを判断した。30分後、インスリンは溶解せず、溶液の調製は中止された。
【0192】
試験品#3:3つの溶液を調製した。
1.適切な容器に、450mLの水を充填した(最終容量の約90%(目標最終容量=3つの調製物のそれぞれについて500mL))。
2.NaClを添加し、溶液を混合して溶解した(500mL溶液の目標量=3つの調製物のそれぞれについて4.5g)。
3.一塩基性リン酸ナトリウム(一水和物)を各溶液に添加し(500mL溶液の目標量=3つの調製物のそれぞれについて172.5mg)、混合して溶解した。pHを測定し、約4.76~4.78であると記録した。
4.インスリンを添加し(500mL溶液の目標量=18.74mg)、混合して溶解した。目視検査を使用して、インスリンが溶解したかどうかを判断した。25分後、インスリンは溶解した。
5.二塩基性リン酸ナトリウム(無水)を溶液に添加した(500mL溶液の目標量=3つの調製物のそれぞれについて177.5mg)。それらを混合して溶解し、pHを測定した。これらの溶液のpHは約6.62~6.65と測定された。
6.溶液に水を100%容量(500mL)まで添加し、pHを測定した。最終的なpHは6.65~6.66であった。
【0193】
試験品#4:3つの溶液を調製した。
1.適切な容器に、450mLの水を充填した(最終容量の約90%(目標最終容量=3つの調製物のそれぞれについて500mL))。
2.NaClを添加し、混合して溶解した(500mL溶液の目標量=3つの調製物のそれぞれについて4.5g)。pHは6.16~6.28であった。
3.二塩基性リン酸ナトリウム(無水)を各溶液に添加し(500mL溶液の目標量=3つの調製物のそれぞれについて177.5mg)、混合して溶解した。pHは8.31~8.51であった。
4.インスリンを添加し(500mL溶液の目標量=18.74mg)、混合して溶解した。目視検査を使用して、インスリンが溶解したかどうかを判断した。10分後、インスリンは溶解した。
5.一塩基性リン酸ナトリウム一水和物を各溶液に添加し(500mL溶液の目標量=3つの調製物のそれぞれについて172.5mg)、混合して溶解した。pHは6.61~6.63であった。
6.溶液に水を100%容量(500mL)まで添加し、pHを測定した。最終的なpHは6.64~6.65であった。
【0194】
データ分析:この研究におけるインスリン溶解は、以下のように要約することができる:試験品#1において、インスリンが添加される前に、塩化ナトリウム及び両方のリン酸ナトリウム(一塩基性及び二塩基性)が組み合わされた。インスリンは、pH6.61~6.78で室温で30分間撹拌した後、溶解できなかった。試験品#2では、インスリンを塩化ナトリウムの水溶液に添加した。インスリンは、pH5.07~5.61で室温で30分間撹拌した後、溶解できなかった。試験品#3では、塩化ナトリウムと一塩基性リン酸ナトリウムを組み合わせた後、インスリンを溶液に添加した。試験品#4では、塩化ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムを組み合わせた後、インスリンを添加した。どちらの場合も、インスリンは、室温で撹拌してから30分以内にpH約4.76~4.78(試験品#3の場合は一塩基性リン酸ナトリウム)又はpH約8.31~8.51(試験品#4の場合は二塩基性リン酸ナトリウム)で溶解した。
【0195】
実験データは、インスリンが、室温(約25℃)で30分以内に、約5.0未満のpH又は約8.31~8.51のpHを有する水溶液に溶解できることを示した。ただし、インスリンはpH塩基性溶液では安定しないため、酸性溶液を使用してインスリンを溶解することが推奨される。成分の添加順序は、混合時間と、NaOH又はHClを使用したpH調整(約6.5~7.2のpH範囲内)の必要性に影響を与える。試験品#3の場合、最終生成物のpHは約6.65~6.66であり、安定な配合物を提供する6.5~7.2のpH範囲内であり、したがって、NaOH又はHClを使用したpH調整の必要性が最小限に抑えられる。
【0196】
この研究で収集されたデータに基づいて、例示的な配合物の好ましい混合順序は以下の通りである:1)タンクを最終バッチ体積の90%まで水を充填する;2)塩化ナトリウムを添加し、混合して溶解する;3)一塩基性リン酸ナトリウムを添加し、混合して溶解する;4)インスリンを添加し、混合して溶解する;5)二塩基性リン酸ナトリウムを添加し、混合して溶解する;6)必要に応じて、pHを試験し、NaOH/HClを使用して、約6.5~7.2に調整する;7)最終バッチ体積の100%に水を添加し、均質になるまで混合する。
【0197】
最小の調整で、6.5~7.2又は6.8の好ましいpH範囲の中心近くのpHを達成するために使用する一塩基性リン酸ナトリウム(一水和物)対二塩基性リン酸ナトリウム(無水)の好ましいモル比は、2.1:2.9である。この比率は、0.290:0.412(mg/mL)の一塩基性リン酸ナトリウム:二塩基性リン酸ナトリウムに相当する。(二塩基性リン酸ナトリウムとは対照的に)インスリンを添加する前に一塩基性リン酸ナトリウムを添加して、インスリン溶液のpHが好ましいpH範囲以下にとどまるようにすることが好ましい。インスリン溶液はpH塩基性媒体では安定しないため、酸性溶液を使用してインスリンを溶解することが推奨される。
【0198】
インスリンを添加する前に、HClを使用して水溶液のpH値を調整することの効果を評価するために、さらなる研究が行われた。
【0199】
この研究のための試験品は、様々な比率で一塩基性リン酸ナトリウム一水和物と二塩基性リン酸ナトリウム無水物が添加された、pH約3(3.0±0.3)の通常の生理食塩水中のインスリンの溶液であった。この研究の対照品は、リン酸塩を添加していない通常の生理食塩水中のインスリン溶液であった。
【0200】
通常の生理食塩水中のインスリンのpH約3(3.0±0.3)のストック溶液を調製し、より小さな部分に等分した。一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムを様々な比率でこれらの分量に添加して、試験品を得た。混合プロセスを以下に説明される:1)適切な容器に、最終容量の約90%まで水を充填した(3つの調製物のそれぞれの90%として450mLを使用した);2)NaClを添加し、混合して溶解した(500mL溶液の目標量=3つの調製物のそれぞれについて4.5g);3)0.1NのHClを使用してpHを約3(3.0±0.3)に調整した;4)インスリンを添加し、溶解するまで混合した(500mL溶液の目標量=3つの配合物のそれぞれについて18.8mg);5)100%の容量になるまで水を添加し、均質になるまで混合した;6)溶液を5つの部分に等分した(3つの調製物のそれぞれについて100mLを目標とする;合計15の分量になった)。
図27に従ってリン酸塩を添加した。
【0201】
試験品及び対照品として調製された溶液についてpHを測定した。pH測定の結果を
図27に示す。6.8の目標pH値からの差を、試験品及び対照品の平均のそれぞれについて計算した(n=3)。差を
図27を示す。
【0202】
この研究の結果に基づいて、6.8の目標pHが望まれる場合、1.175:3.825mmol/Lの一塩基性リン酸ナトリウム:二塩基性リン酸ナトリウムのモル比は、その後のインスリン研究で使用するための適切な比であると予測される。リン酸塩のmg/mLに関しては、この比率は、溶液1mLあたり0.162mgの一塩基性リン酸ナトリウムと0.543mgの二塩基性リン酸ナトリウムである。この比率は、インスリンが酸性濃縮物として添加される場合に使用できる。
【0203】
例6
この例では、2つの別個の研究からのデータを組み合わせて、好ましい配合物の1つがどのように発見されるかを実証する。最初の研究は実験計画法(Design of Experiments、DOE)研究である。DOE方法論を使用して、複数の変数の影響を同時に調べ、調査対象の配合物の周囲に「知識空間」を構築できるようにする。「知識空間」が決定されると、予測モデリングを使用して、最適化された配合物を提案し、さらに研究を進めることができる。DOE研究では、pHを6.5~9の範囲で変化させ、アミノ酸安定剤を0~10mMの範囲で変化させた。リン酸バッファーの強度は5mMで一定に保たれ、NaCl濃度は0.9%で一定に保たれた。使用したアミノ酸安定剤は、グリシン、リジン、アルギニンであった。配合物挙動の予測モデルを構築するために、25個の異なる配合物を調製し、それらの分解挙動を様々な温度で研究した。
【0204】
この実施例では、25℃のデータから生成されたモデルについてさらに説明する。データを分析して、経時的なアッセイ(インスリン濃度)の低下とA-21デサミド不純物の形成の両方を最適化した。モデルが構築されると、グリッド検索が実行され、これらの各パラメーターに関して最も安定した配合物が得られると予測されるパラメーターが特定された。アッセイ損失のグリッド検索の結果を
図28に示す。A-21デサミド形成を最小化するためのグリッド検索の結果を
図29に示す。
図30及び
図31に示されるように、このモデルのために組み合わされた応答曲面も生成された。全体として、この研究は、A-21デサミド不純物の形成を減らすために、最適な目標pHが約6.5~6.9であり、pH6.8が好ましいことを示唆している。ここで開示されるA-21インスリン不純物の含有量は、逆相HPLCによって測定された。
【0205】
この実施例の第2の研究は、従来の長期的配合物の実現可能性の研究である。この研究では、配合物中の最適なpH、リン酸塩レベル、及びアルギニンレベルを決定するために、いくつかの異なる配合物を試験した。pHは7.0~7.8の範囲で、アルギニンレベルは0~5mMの範囲であり、リン酸塩レベルは2又は5mMのいずれかであった。この研究は上記のDOE研究と並行して実施されたため、理想的なpH範囲の結果はまだ未解明であった。これらの配合物に関するデータは、GALAXY(登録商標)とガラス容器の両方で約5℃で最大23か月間の長期保存、及びGALAXY(登録商標)とガラス容器の両方で約25℃で最大6か月間の保存のために収集された。pH7.0、7.4及び7.8を有する約5mMのリン酸塩及び約2mMのアルギニンを含む配合物について、約5℃で最大23か月間の長期保存の実験結果を
図32~34に示し、約25℃で最大6か月間の保存の実験結果を
図35~37に示し、保存中のインスリンプレミックス特性に対するpHの影響を例示した。
【0206】
約5℃で23か月間隔で収集された実験データは、インスリン配合物が、GALAXY(登録商標)容器及びガラス容器の両方で約5℃で貯蔵された場合、23か月間の保存時間にわたって非常に安定であることを示した。データはさらに、約7.0のpHを有する配合物が、それぞれ7.4及び7.8のpHを有する配合物よりも良好な長期安定性を示すことを示した。例えば、pH7.0の配合物のA-21デサミドインスリン不純物及び総関連物質は、それぞれpH7.4及び7.8の配合物のものよりも低かった。
【0207】
約25℃で6か月間隔で収集された実験データは、これらのサンプルが、約25℃で3か月以上保存した後に分解したことを示した。
図35~37の実験結果は、pH7.0の配合物が、約25℃で6か月の保存期間にわたってより優れた安定性を示すことを明確に示した。例えば、pH7.0を有する配合物は、それぞれpH7.4及び7.8を有する配合物よりも、HMWP、タンパク質断片化、及び関連物質の総量がはるかに少なかった。
【0208】
約5℃又は約25℃のいずれかの温度で、GALAXY(登録商標)容器に保存されたサンプルとガラス容器との間で、長期安定性に有意差はなかった。
【0209】
したがって、実験データは、インスリン配合物が、タンパク質の吸着、凝集、及び分解の欠如に関して、ガラス容器と同様にGALAXY(登録商標)容器と適合性があることを示唆している。タンパク質の断片化は、25℃の保存条件でのみ見られた。GALAXY(登録商標)容器内のすべての配合物は、約5℃で保存した場合、23か月間、初期インスリン濃度(UHPLCで測定)の95%以上を維持した。A-21デサミドのパーセンテージは、約5℃で保存した場合に最大23か月間、試験したすべての配合物において、逆相HPLCで測定した場合、総インスリンの3.0重量%未満であった。インスリンの効力は、約5℃で保存された冷蔵サンプルについて、この23か月の研究を通じて、1.0U/mLに維持された。
【0210】
さらに、
図38~39の実験データは、アルギニンレベルがこの研究で使用された範囲のインスリンプレミックス配合物の安定性に意味のある影響を与えないことを示した。この研究の結果に基づくと、アルギニン賦形剤は配合物の安定性を大幅に向上させることはない。したがって、アルギニンはこれらの配合物の安定化には必要ないと見なされる。
【0211】
例7
2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間、続いて23℃~27℃の室温で30日間の保存にわたるインスリンプレミックス配合物の長期安定性を調査するために研究が行われた。
【0212】
配合物は、全配合物に基づいて約1.0U/mLのインスリン、全配合物の約0.9wt%の塩化ナトリウム、一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムのモル比2.1:2.9、総量約5.0mMの組み合わせ、及び配合物のpH値を約6.8に調整するために必要に応じて水酸化ナトリウム及び/又は塩化水素を含む。製品サンプルの合計3つの異なるバッチが製造され、異なる保存条件と間隔で試験された。
【0213】
本明細書の
図3に示されるような調製方法は、以下の混合手順を含む:1)最終バッチ体積の90%までタンクを充填する;2)NaClを添加し、溶解するまで混合して、全配合物の0.9重量%の塩溶液を形成する;3)2.1mMの一塩基性リン酸ナトリウムを添加し、溶解するまで混合する;4)1.0U/mLの量のインスリンを添加し、溶解するまで混合する;5)2.9mMの量の二塩基性リン酸ナトリウムを添加し、溶解するまで混合する;6)必要に応じてNaOH及び/又はHClを使用してpHを調整し、インスリンプレミックス配合物を形成する;7)最終バッチ体積に水を加え、均質になるまで混合して、インスリンプレミックス配合物を形成する。
【0214】
総試験期間は、2℃~8℃の冷蔵温度で保存された24か月間と、それに続く23℃~27℃の室温で保存された30日間を含む。保存中のさまざまな間隔で、試験のために保存場所からサンプルを取り出した。元のサンプル(対象)、2℃~8℃で24か月間保存した後のサンプル、及び2℃~8℃で24か月間保存し、続いて23℃~27℃の室温で30日間保存した後のサンプルの実験結果を
図40に示す。
【0215】
この研究において、インスリン、A-21デサミドインスリン不純物及びインスリン関連化合物を分離し、C18カラムを使用する逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又はUHPLCによって測定した。検出は、214nmの波長のUVを使用して実行された。分析メソッドは、この分析を実行するための詳細な手順が含まれているインスリンのUSPモノグラフで提供されているものから、低濃度配合物に適合した。インスリン関連化合物の定量は、サンプル注射量のパーセント応答(ピークの曲線の下の面積)を使用して実行された。HPLCピーク面積は、HPLCソフトウェア(Empowerなど)で利用可能な標準の統合プログラムによって決定される。このようにして決定されたピーク面積は、定量を実行するために標準溶液のピーク面積と比較される。
【0216】
HPLCクロマトグラムの一例は、インスリンとA-21デサミドインスリンピークの分離、及びA-21デサミドインスリン不純物含有量の測定を説明するために
図41に提供される。この例は、説明のみを目的として提供される。異なるHPLCシステム、カラム、移動相調製物などが使用される場合、ピーク保持時間がシフトする可能性があることが当業者には理解される。
【0217】
本研究及び本明細書で開示され、調製されたA-21インスリン不純物の含有量はすべて、検出のために波長214nmのUVを使用する逆相HPLC法によって測定された曲線下のピーク面積に基づいていた。A-21デサミドインスリンピークの同定は、USPインスリンモノグラフで提供されているシステム適合性ソリューションのA-21デサミドインスリンピークの保持時間との一致に基づいて確認される。
【0218】
インスリン二量体、六量体又は任意の他の高分子量タンパク質(HMWP)の濃度もまた、USPインスリンモノグラフに提供されるものなどの適切なサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法(この研究では、低濃度のインスリン配合物で使用するために調整されている)を使用して測定された。インスリン二量体、六量体、又はその他の高分子量タンパク質(HMWP)の総濃度は、サンプルの総インスリンの1.1重量%以下であった。
【0219】
実験結果は、インスリンプレミックス配合物が、4つの異なるバッチサンプルすべてについて保存期間全体にわたって非常に安定していることを示した。例えば、
図40に示されるように、4つのバッチサンプルすべてのpH値は、保存期間全体を通して約6.8~6.9で一定に維持され、これは、6.5~7.2のpH制限内である。4つのバッチサンプルすべてのインスリン濃度の変化は、保存期間の終了まで3.0%以下であった。これは、新たに調製された元のインスリン濃度の±10%という制限内である。A-21デサミドインスリン不純物は、保存期間全体にわたって、すべての試験されたサンプルにおいて総インスリンの1.5重量%未満であった(逆相HPLCで測定)。さらに、インスリン二量体、六量体、又はその他の高分子量タンパク質(HMWP)の総濃度は、保存期間全体にわたって4つの異なるバッチサンプルすべてにおいて、SECで測定した場合、総インスリンの1.1重量%以下であった。
【0220】
さらに、
図40の試験結果はまた、製品中のインスリンが、可撓性容器であるGALAXY(登録商標)PL2501容器に本質的に吸収又は吸着されないことを示した。総インスリン損失(ロット番号2を除く)(可撓性容器へのインスリンの吸着及び/又は吸収とインスリンの分解の組み合わせによるもの)は、プレミックス製品を新たに調製したとき、総インスリンの2.0重量%未満、プレミックス製品を2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存した後、総インスリンの2重量%未満、プレミックス製品を2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存し、続いて23℃~27℃の室温で1か月間保存した後、総インスリンの5重量%未満であった。ロット番号2の総インスリン損失は、プレミックス製品を新たに調製したとき、総インスリンの4.0重量%未満、プレミックス製品を2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存した後、総インスリンの6.0重量%未満、プレミックス製品を2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存し、続いて23℃~27℃の室温で1か月間保存した後、総インスリンの7.0重量%未満であった。総インスリン損失は、可撓性容器へのインスリンの吸着及び/又は吸収とインスリンの分解の組み合わせによるものであった。
【0221】
図40の試験結果はさらに、インスリンプレミックス製品(ロット番号2を除く)の可撓性容器へのインスリンの吸着及び/又は吸収が、プレミックス製品を新たに調製したとき、2.0%未満、プレミックス製品を2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存した後、2.0%未満、プレミックス製品を2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存し、続いて23℃~27℃の室温で1か月間保存した後、3.0%未満であることを示した。ロット番号2の可撓性容器へのインスリンプレミックス製品のインスリンの吸着及び/又は吸収は、プレミックス製品を新たに調製したとき、4.0%未満、プレミックス製品を2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存した後、4.0%未満、プレミックス製品を2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存し、続いて23℃~27℃の室温で1か月間保存した後、4.0%未満であると測定された。
【0222】
ここで、放出前の生産タンク内のインスリン濃度(タンク放出インスリン濃度)は、可撓性容器に充填する前に生産タンク内でインスリンプレミックス配合物が製造されたときに測定された。様々な保存条件及び期間での可撓性容器へのインスリン吸着及び/又は吸収の濃度は、タンク放出インスリン濃度を、インスリン濃度、さまざまな保存条件と期間での可撓性容器内のA-21デサミド不純物の濃度と他のインスリン関連物質の総濃度で差し引くことによって計算された。次に、可撓性容器へのインスリンの吸着又は吸収のパーセンテージを、フレキシブル容器へのインスリンの吸着及び/又は吸収の濃度をタンク放出インスリン濃度で割ることによって計算した。
【0223】
したがって、実験結果は、本明細書に開示され、調製されるインスリンプレミックス配合物及び製品は、添加された防腐剤、添加された亜鉛、添加されたグリセロール、添加された界面活性剤、又は添加された安定化賦形剤がなくても、2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存され、続いて約23℃~27℃の室温で30日間保存される間、予想外に安定していることを明確に示した。可撓性容器へのインスリンの吸着及び/又は吸収は非常に低く、2℃~8℃の冷蔵温度で24か月間保存され、続いて約23℃~27℃の室温で1か月間保存された後、総インスリンの3.0重量%未満であった。
【0224】
本明細書に開示される現在好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正は、当業者には明らかである。そのような変更及び修正は、本主題の精神及び範囲から逸脱することなく、またその意図された利点を損なうことなく行うことができる。したがって、そのような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によってカバーされることが意図されている。
【配列表】