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▶ オットー・ボック・ヘルスケア・プロダクツ・ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】人工膝関節を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/62 20060101AFI20241003BHJP
   A61F 2/70 20060101ALI20241003BHJP
   A61F 2/64 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61F2/62
A61F2/70
A61F2/64
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021568622
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2020065465
(87)【国際公開番号】W WO2020245261
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】102019115098.1
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506153712
【氏名又は名称】オットー・ボック・ヘルスケア・プロダクツ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ザイフェルト、ディルク
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-2122(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0305716(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/62
A61F 2/70
A61F 2/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方側(11)及び後方側(12)を有する上部(10)と、膝軸(15)を中心に旋回可能に前記上部(10)に支承され、前方側(21)及び後方側(22)を有する下部(20)と、前記下部(20)に配置された足部(30)と、少なくとも1つのセンサ(25、51、52、53、54)と、前記少なくとも1つのセンサ(25、51、52、53、54)と接続された制御装置(60)と、前記制御装置(60)と結合され、前記制御装置(60)によって、遊脚期での前記上部(10)の前記後方側(12)と前記下部(20)の前記後方側(22)との間で達成可能な膝角度(KAmax)を調整可能にするアクチュエータ(40)と、を備える人工膝関節(1)を制御する方法において、
立脚期での患者の対側の足部若しくは足(33)に対する前記足部(33)の高低差(ΔH)の乗り越え、又は歩行時での前記足部(30)の直前の立脚期に対する前記足部(30)の高低差(ΔH)の乗り越えが、前記少なくとも1つのセンサ(25、51、52、53、54)のセンサデータに基づいて結論付けられ、前記遊脚期で前記達成可能な膝角度(KAmax)が調節されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記高低差(ΔH)が重力方向(G)とは逆方向に増加する場合、前記達成可能な膝角度(KAmax)が減少することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高低差(ΔH)が、股関節、及び/又は装着脚の前記膝軸の軌道から算定又は推定されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記高低差(ΔH)が、装着脚の股関節の垂直経路、前記膝軸(15)の垂直経路、及び/又は前記足部(30)の垂直経路により算定又は推定されることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記高低差(ΔH)が、装着脚の股関節角度(HA)若しくは空間内の前記上部(10)の向き、及び/又はその時間プロファイルにより算出されることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記高低差(ΔH)が、装着脚の膝角度の時間プロファイルにより算出されることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記高低差(ΔH)が、股関節、又は装着脚の前記膝軸(15)の水平運動と股関節角度(HA)又は空間内の前記上部(10)の向きとの比率から算定又は推定されることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記高低差(ΔH)が、算出された膝角度(KAD)と算出された股関節角度(HA)とから算定されることを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記達成可能な膝角度(KAmax)は、調節可能な機械的若しくは液圧的伸展ストッパ(45)又は膝伸展に抗する運動抵抗の変化により調整されることを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記達成可能な膝角度(KAmax)のための特性量として、空間内における前記下部(20)の向きが使用されることを特徴とする、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記高低差(ΔH)が前記人工膝関節(1)の膝角度センサ(25)で測定された膝角度(KAD)から、並びに/又は空間位置センサ(51、52)により測定された前記上部(10)及び/若しくは下部(20)の空間位置から算出又は推定されることを特徴とする、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記遊脚期で前記達成可能な膝角度(KAmax)が調整され、かつ前記下部(20)及び/若しくは上部(10)が予め定められた空間位置及び/若しくは運動に達するまで、踝関節角度(AA)及び/若しくは前記足部(30)への力導入点(PF)に達するまで、並びに/又は所定期間にわたって、維持されることを特徴とする、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
最小股関節角度(HA)及び運動逆転に達した後、初期接地、前記下部(20)への軸力(FA)、及び/又は踝関節角度(AA)の変化の検出まで、空間内における前記下部(20)の向きが一定に保たれることを特徴とする、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
坂上り、階段上り、又はその他の歩行時の高低差の乗り越えが、前記上部の向きの時間プロファイル、及び/又は前記上部の向きと前記膝軸(15)の並進水平運動との比率により検出され、かつ前記達成可能な膝角度(KAmax)が前記時間プロファイル及び/又は前記比率にもとづいて調節されることを特徴とする、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記下部(20)の運動方向逆転後の前記遊脚期における屈曲抵抗が、平地歩行時よりも高いレベルに調整されることを特徴とする、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
坂上り、階段上り、又は歩行時のその他の高低差(ΔH)の乗り越えを認識した場合、最大限達成可能な膝角度(KAmax)を5°~20°減少させることを特徴とする、請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
膝関節の伸展運動に抗する運動抵抗を前記遊脚期において連続的に減少させることを特徴とする、請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記高低差(ΔH)が、前記達成可能な膝角度(KAmax)のための特性量として使用され、前記特性量にもとづいて前記アクチュエータ(40)を作動又は作動停止させることを特徴とする、請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方側及び後方側を有する上部と、膝軸を中心に旋回可能に上部に支承され、前方側及び後方側を有する下部と、下部に配置された足部と、遊脚期の終わりに上部の後方側と下部の後方側との間で達成可能な膝角度を調整可能にするアクチュエータと、を備える人工膝関節を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工膝関節は、義肢、装具、外骨格に使用される。人工膝関節は、膝軸を中心に相対して旋回可能に支承されている上部と下部を有する。最も単純なケースでは、膝関節は、例えばボルト、又は旋回軸上に配置された2つの軸受箇所が個々の膝軸を形成する単軸膝関節として形成されている。下部に相対する上部の固定された回転軸を形成するのではなく、滑り面又は回旋面、あるいは関節的に互いに接続された複数のリンクを有する膝関節もある。ばね装置及びダンパを有するいわゆる4軸膝関節は、先行技術において比較的頻繁に記載されてきた。さらに、5軸及び6軸の膝関節もある。装具及び外骨格では、人工膝関節の多軸形態は例外である。
【0003】
義肢膝関節は、大腿ソケットを固定するための上連結手段又は上部を患者に固定するための別の装置、及び例えば下腿チューブ若しくは義足などの下部を固定するための固定装置が全部そろったモジュールとして製造及び出荷されることが多い。装具及び外骨格の場合、人工膝関節を患者に固定するための固定装置は、例えば、レール又は外部のフレーム構造に配置されているベルト、カフ又はシェルの形で上部及び下部に直接配置することができる。
【0004】
伸展運動及び/又は屈曲運動に影響を及ぼすために、例えばダンパ又は駆動装置の形で、上部と下部との間にアクチュエータを配置することが知られている。
【0005】
独国特許出願公開第102013011080号明細書は、上部、及び上部に関節的に支承された下部を有する下肢の整形外科技術関節装置を制御する方法に関するものであり、上部と下部との間に変換装置が配置され、変換装置により、下部に相対する上部の旋回中に、相対運動から機械的動作が変換され、少なくとも1つのエネルギー蓄積器に蓄積される。エネルギーは、相対運動を支援するために、時間をずらして関節装置に再び供給され、貯蔵されたエネルギーが再変換され、相対運動の支援中、機械的動作の供給がコントロール下で行われる。変換装置に加えて、歩行中の抵抗にダンパ装置を介して屈曲方向と伸展方向の両方で影響を及ぼすことができるように調節可能に形成された液圧ダンパ又は空気圧ダンパの形の別個のダンパを設けることができる。
【0006】
米国特許第5,181,931号明細書は、上部及び下部と調整可能な機械的伸展ストッパとを有する整形外科技術装置の2つの部分間の旋回接続に関する。
【0007】
欧州特許第2240124号明細書は、上連結手段が配置された上部と、整形外科技術コンポーネントのための連結手段を有する旋回可能に上部に支承された下部と、伸展運動を制限するためのストッパとを有する整形外科技術膝関節に関する。ストッパは変位可能に形成され、調節装置と結合され、調節装置もまた制御装置と結合され、制御装置は、センサデータに依存して調節装置を作動させ、ストッパの位置を、歩行のために伸展ストッパが前方に変位し、立ち止まるために元の位置に戻されるように変化させる。
【0008】
人工膝関節は、設計上最大限達成可能な伸張で180°の膝角度を有し、過伸展、すなわち180°より大きい後方側の角度は、通常企図されない。上部に対する下部の後方への旋回は膝屈曲と呼ばれ、前方への旋回は伸展と呼ばれる。初期接地時、立脚期の初めに遊脚期の終わりに足が床に着地する。平地歩行時、大抵の場合、踵が接地し、すなわち足はまず踵で着地する。人工膝関節が伸張した真っ直ぐな位置にとどまる場合、これは骨盤へ直接力を通し、そのことが非常に不快に感じられる。したがって、義肢又は装具において、自然な歩行と同様に、踵接地後に膝関節が膝軸を中心に、場合によっては液圧ダンパにより抵抗力に逆らって曲がるいわゆる立脚期屈曲が可能にされるか、又は実行される。遊脚期の終わりに、立脚期屈曲を開始するか、又は立脚期屈曲の開始に寄与するべく、伸展ストッパにより人工膝関節を特定の膝角度で停止させることができる。最初の踏みだし時、遊脚期の終わりに脚が完全に伸張しない、すなわち設計上最大限に提供される膝角度に調整されるのではなく、達成可能な膝角度が減少するという伸展ストッパの調整は、予備屈曲(Vorflexion)と呼ばれ、歩行挙動に有利な作用を及ぼし、安定した歩行が可能になる。平地歩行のための伸展ストッパの典型的な値は、約176°の膝角度である。
【0009】
平地歩行とは異なる歩行状況では、平地での歩行に適合させた制御では十分でないことが多く、そのような特殊な状況でユーザの邪魔になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】独国特許出願公開第102013011080号明細書
【文献】米国特許第5,181,931号明細書
【文献】欧州特許第2240124号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明の課題は、人工膝関節のユーザが歩行の特殊な状況によりよく対処することを可能にする方法を提供することである。
【0012】
本発明によれば、上記課題は、主請求項の特徴を有する方法によって解決される。本発明の有利な実施形態及び発展形態は、従属請求項、以下の説明、及び図に開示されている。
【0013】
前方側及び後方側を有する上部と、膝軸を中心に旋回可能に上部に支承され、前方側及び後方側を有する下部と、下部に配置された足部と、少なくとも1つのセンサと、少なくとも1つのセンサと接続された制御装置と、制御装置と結合され、遊脚期の終わりに上部の後方側と下部の後方側との間で達成可能な膝角度を調整可能にするアクチュエータと、を備える人工膝関節を制御する本発明による方法は、立脚期での患者の対側の足若しくは足部に対する、又は足部の直前の立脚期に対する足部の乗り越えるべき高低差が少なくとも1つのセンサのセンサデータから推論され、かつ遊脚期で達成可能な膝角度が、殊に遊脚期において、特に算出又は推定される高低差に依存して調節されることを企図する。達成可能な膝角度、特に遊脚期伸張において達成可能な膝角度は、アクチュエータによって調整され、かつ可変であるという点で、設計上最大限に提供される膝角度とは異なるのに対して、設計上最大限に提供される膝角度とは、通常、伸張した、180°の膝角度で最大限に伸展した脚を意味する。設計上最大限に提供される膝角度は、人工膝関節のコンポーネントの設計と配置によって指定される。
【0014】
高低差の乗り越えとは、坂上り、階段上りである一方で、物理的な高低差の乗り越えであり得る。ただし、物理的な上りや高低差が存在しなくても、足を相応に位置決めすることが利用者の意図であることも可能である。階段上りとは、1つ又は複数の段差及び/又は段部の乗り越えであり得る。すなわち、これは、段部に登ること、例えば縁石を乗り越えたり、階段、すなわち複数の連続する段を登ることであり得る。
【0015】
遊脚期の終わりの初期接地、例えば初期踵接地時に、脚が完全に伸張していない、すなわち設計上最大限に提供される膝角度に調整されず、いわゆる予備屈曲を提供するために達成可能な膝角度が減少するようにした伸展ストッパの調整は、歩行挙動に有利な作用を及ぼし、安定した歩行が可能になる。坂上り又は階段上り、又はその他の、人工膝関節のユーザによって意図される高低差の乗り越えは平地での歩行挙動とは異なる。平地を普通に歩行する場合、対側及び同側の足は、最初の踏み出し中に股関節に対して同じ垂直距離を有する。それとは対照的に、高低差を乗り越える場合、高低差を補償するために先行足と股関節との間の垂直距離を短くする必要がある。生理学的歩行では、これは、先行脚の側で顕著な股関節屈曲を開始し、脚を相応に予め曲げた姿勢で着地することにより行われる。さらに、とりわけ高低差が比較的大きく、歩幅が小さい場合、体の重心は、まず立脚にとどまり、先行足が最初に着地して初めて体重が移動される。平地を歩行する場合、装着された、すなわち義肢であれ、装具であれ、又は外骨格であれ人工膝関節を装備した脚の歩幅は非装着脚の歩幅と同じである。平地歩行では、体の重心は立脚と遊脚との間で実質的に均一に移動する。
【0016】
歩行時にユーザによって意図される坂上り、又は階段上り、あるいはその他の歩行時の高低差の乗り越え時に、重心又は骨盤は前方に均一に移動せず、むしろ、人工膝関節のユーザは、いわゆるステップ前傾姿勢(Schrittvorlage)にほとんど寄与しない後脚で立つ。ほぼ完全なステップ前傾姿勢は、遊脚期の脚、すなわち、持ち上げられ、立脚より高いレベルで着地される、又はされるべき脚により行われる。立脚期で患者の対側の足、又は足部に対する装着側、すなわち人工膝関節を備える側の足部の算出又は推定される高低差に依存して、人工膝関節の達成可能な膝角度が調節される。平地歩行より大きい予備屈曲、したがってより小さい達成可能な膝角度の場合、坂上り及び階段上りがはるかに容易になることがわかった。膝関節を伸ばして、又はごくわずかに前に屈曲しての着地とは対照的に、同じ高低差で、関節を大きく前に屈曲して着地した場合に足の力の作用点と股関節との間の水平レバーアームが短くなり、さらに、体の重心を中心とした必要な股関節伸張モーメントが装着脚により運ばれる。体の重心は、伸ばした脚の全長にわたってではなく、脚長さが短くなることで、わずかなレバーの分だけ持ち上げさえすればよい。これにより、坂上り又は階段上り時に全体としてより調和のとれた運動を達成することが可能である。立脚側の足の底屈の増加や上半身の前傾の増加などの荷重のかかる補償メカニズムを減らすことができる。歩幅と対側との関係が改善され、それにより歩行パターンがより対称的で自然になる。これに加えて、受動足及び足部に装着される場合、足は、より有利な向きで床に着地する。達成可能な膝角度は、設計上最大限に提供される角度より5°~30°小さくされることが有利である。特に可動の踝関節との、例えば地面の傾斜への踝角度の適合との関連で、しかし立脚期における伸張運動を能動的に支援する場合も、達成可能な膝角度を、特に、特に大きい高低差を乗り越える場合に、この範囲を超えて低減することが有利であり得る。
【0017】
坂上り、階段上り、又はその他の、ユーザにより意図される高低差の乗り越えを高低差の算出又は推定によって推論することができる。殊に、対側の脚の足又は足部と、遊脚期にある先行足又は足部との間の高低差が制御のために考慮される。別の可能性は、同側の足が遊脚期で乗り越える高低差を考慮することである。
【0018】
達成可能な膝角度、特に遊脚期伸展において達成可能な膝角度を、特に、ステップの遊脚期中に適合させることができる。したがって、適合は、殊に、達成可能な膝角度がその後に続く初期接地及び/又はそれに続く立脚期に合わせて調整されるように行われる。しかし、達成可能な膝角度がすでに先行立脚期又は先行ステップで調節されること、特に先行ステップにおいて坂上り、階段上り、及び/又は高低差を乗り越える意図が認識され、この情報にもとづいて、それに続くステップのために達成可能な膝角度が適合されることも可能である。例えば、連続する複数のステップのために、坂上り、階段上り、及び/又は高低差乗り越えの意図が認識されて初めて、達成可能な膝関節が調節されることも可能である。さらに、例えば、複数の連続するステップが坂上りで実行される場合に達成可能な膝角度が複数の連続するステップにわたって変わらず、異なる状況が認識されて初めて調節が行われることが可能である。
【0019】
立脚終期では、屈曲抵抗が小さい場合に膝屈曲を可能にし、及び/又は特に高低差の乗り越えの逆推論を可能にするセンサデータに依存して膝屈曲を開始することができ、遊脚期で達成可能な膝角度が調節される。
【0020】
本発明の一発展形態は、上へ登る場合、すなわち、高低差が重力方向とは逆方向に増加する場合、達成可能な膝角度が減少することを企図する。立脚の足と遊脚の足との高低差が大きければ大きいほど、達成可能な膝角度が小さく調整される。したがって、比較的高い段差、又は比較的急峻な地形では、伸展はより早期に停止される。これは、逆に、平らな段差又は小さい上り勾配では、達成可能な膝角度はそれほど大きく低減されないことを意味し、それによって前進運動が容易になる。高低差に対する達成可能な膝角度の適合は、連続的に及び/又は複数の別々のステップで行うことができる。これに加えて、達成可能な膝角度が、特定の高低差から減少しなくなることが可能である。特に、膝角度を高低差及び/又は歩高に適合させることにより、通常は脚筋肉の完全な機能が利用可能でない人工膝関節のユーザの装着側又は同側への荷重を低減することが可能である。
【0021】
達成可能な膝角度のための特性量としての乗り越えるべき高低差は、股関節、膝軸、及び/又はそれぞれ同側の足部の軌道により検出及び/又は算出することができる。その際、軌道は、空間内の点の位置の時間プロファイルを表す。人工関節と接続され、例えば、上部若しくは下部に、又は膝軸に位置決めされる点の並進経路、したがって垂直成分も、例えば二重積分によって算出された加速度値から決定することができる。積分の初期条件は、例えば、運動学的モデルにより決定され、積分の開始は、有利には、立脚後期にある。運動学的モデルのために必要なセグメント長を測定して、アクチュエータのための制御信号を計算するために必要な制御装置に保存できる。運動学的チェーンにより、点の軌道曲線から、相対自由度とセグメント長を介して、例えば股関節の軌道曲線、膝軸の軌道曲線、又は足部の軌道曲線などの他の軌道曲線を推論することができる。自由度とセグメント長が既知であるか、又は制御装置に保存され、それにより非装着の対側の脚の運動データ又は他のデータを決定のために使用する必要がない。例えば、下部の加速度と向きは慣性センサ(Initialsensor)により決定され、膝角度センサにより下部と上部との間の角度が決定され、加速度データと運動学的チェーンの積分により、股関節の軌道、速度、及び加速度が決定される。高低差の乗り越えのための指標として、特に速度と加速度、殊に垂直成分が考えられ得る。高低差を乗り越える場合、体の重心、したがって股関節が持ち上げられる。その一方で、膝は特に素早く前方及び上方に動かされる。これに代えて、又はこれに加えて、進んだ距離、1つ又は複数の点、特に下部及び/又は膝軸の速度及び/又は加速度、特に水平成分と垂直成分の比率を、高低差の乗り越えを推論するために考慮することができる。
【0022】
対側の立脚期では、足が床にあるとき、そこでの速度が0、特に水平速度成分であると考えることができるので、股関節の軌道は、これに代えて、又はこれに加えて、対側の1つ又は複数の角度測定及び既知のセグメント長から決定することができる。その場合、股関節の前方移動と股関節の持ち上げ全体が角度測定と対側の既知の脚長さにより算定可能である。
【0023】
立脚期の対側足と遊脚期の同側足又は足部の高低差は、装着される同側脚の股関節の垂直経路、膝軸の垂直経路、及び/又は足部の垂直経路により算定又は推定することができ、達成可能な膝角度のための特性量として用いることができる。上述のように、装着脚の股関節の垂直経路は、例えば、人工膝関節と固定的に接続されている、例えば上部若しくは下部、又は膝軸に位置決めされている点の算出された加速度値から算出することができる。この点の軌道曲線は、二重積分によって決定できる。運動学的チェーンにより、そこから股関節の軌道曲線を相対自由度とセグメント長の関数として決定できる。
【0024】
自由度とセグメント長は既知であり、記憶され、かつ制御装置で利用可能であり、それによりそこから非装着の対側の脚の運動データ又は他のデータを使用する必要がなく、股関節の垂直経路を算定することができる。膝軸の垂直経路は、上記のように、人工膝関節又はそれに配置された、例えば義肢用ソケットのコンポーネント上の固定点の加速度の二重積分によって算出することができ、足部の垂直経路についても同じことが言える。
【0025】
股関節及び/又は胴の運動は、股関節又は胴に取り付けられたセンサ、例えば加速度を検出する慣性センサにより直接検知することもできる。加速度から、速度と軌道を二重積分によって算出することができる。
【0026】
本発明の一発展形態は、達成可能な膝角度のための特性量として、高低差が装着脚の股関節角度又は空間内の上部の向き、場合によってはこれらの時間プロファイルにより算出されることを企図する。空間内の上部の向きについては、上部に慣性角度センサを配置でき、それにより上部の空間位置を直接測定することができる。例えば、慣性角度センサ又はIMU(inertial measurement unit)を人工膝関節の中又は上に配置することができる。通常、膝角度センサも義肢膝関節又は他の人工膝関節に配置され、それにより空間内の下部の向きと膝角度から一緒に股関節角度、空間内の上部の向きを算出することができる。
【0027】
空間内の向きは、実質的に不変の基準方向、例えば重力方向又は水平線に対して方向合わせされる。このために、患者の対側の非装着の側にはセンサの必要がない。
【0028】
股関節角度は、胴と上部又は大腿との間の相対角度として直接測定することができる。あるいは、空間内の胴の向きを想定することができるか、又はIMUを用いて測定することができ、かつ上部又は大腿の向きと一緒に股関節角度を決定することができる。特に、股関節角度の推移及び/又は垂直中立位置に対する上部の向きの対称性は、例えば比率又は差として、移動角度範囲及び/又は高い屈曲速度は、乗り越えるべき高低差を検出及び/又は検知するための指標として考慮に入れることができる。上部が大きく屈曲させられる、大きい角度範囲にわたって移動される、及び/又は特に急速な股関節屈曲が行われる場合、重力とは逆方向の高低差を想定することができる。その際、認識のための閾値及び量は、時間的角度推移への歩行速度の影響を乗り越えるべき高低差の影響から区別するために、歩行速度に関連付けることができる。
【0029】
方法の一発展形態は、装着脚と非装着脚との間の乗り越えるべき高低差が、装着脚の股関節又は膝軸の並進水平運動と、股関節角度又は空間内の上部の向きとの関係から検出、算定及び/又は推定されることを企図する。高低差を計算するために、義肢又は装具上の点の並進運動、例えば膝軸の運動を、例えば、測定された線形加速度と適切な初期条件との二重積分によって、並びに股関節までの運動学的チェーンの絶対角度及び相対角度によって算定することができる。積分の初期条件は、運動学的モデルにより決定され、積分の開始は、有利には、立脚後期にある。純粋な剛体運動が想定される場合、例えば、足部の回旋中心(Abrollpunkt)とその時間プロファイルを荷重と位置又は場所の関数として定式化することもできる。運動学的モデルのために必要なセグメント長を測定して、アクチュエータのための制御信号を計算するために必要な制御装置に保存できる。股関節の並進運動又は股関節の水平運動により、その運動を評価し、歩行挙動や歩行状況についての逆推理を得ることが可能である。股関節の運動の水平成分は、立脚により生成される前進の割合を表す。股関節角度又は上部の向きは、遊脚側の位置決めを制御する。運動の両方の態様が互いに整合され、したがって上り坂を進んでいるのか、階段を上っているのかを認識するのに適している。立脚と遊脚の運動を整合させることにより、装着脚の達成されるべき遊脚運動を推論することができる。上部が股関節の水平方向の運動と比べて特に大きく又は急速に屈曲させられる場合、重力の逆方向に乗り越えるべき高低差を推論することができる。あるいは、水平股関節運動と水平膝軸運動との関係、及び水平膝軸運動と上部の向き又は股関節角度の関係を考慮に入れることもできる。その場合、すべての量を、装着側のセンサデータから完全に導き出すことができる。
【0030】
本発明の一発展形態は、高低差を算出された膝角度から、例えば膝角度センサにより直接測定することによって、並びに/又は上部及び/若しくは下部、若しくは大腿及び/若しくは下腿の空間方位の比率から算出又は推定されることを企図する。股関節角度が利用可能である場合は、高低差を算定するためにこれを考慮することができる。股関節角度は、上半身の想定される向き、及びIMUによる空間内の上部又は大腿の検知された向きにより算定又は推定することができ、あるいは、上半身、例えば装具又は外骨格における空間位置センサによりIMUによる上部の向きと組み合わせて検知することができる。高低差は、時間プロファイルから、上部若しくは下部の向きに対する膝角度の比率から、並びに/又は上部及び下部の相対する向きの比率から算出又は推定することができる。時間プロファイルとセグメントの動き、例えば特に急速な、顕著な、又は持続する屈折又は跳ね上がりは、利用者の意図及び乗り越えるべき高低差に関する情報を提供する。これにより、遊脚期において、坂上り、階段上り、又はその他の高低差の乗り越えが行われるのかどうかを認識することが可能であり、それにより達成可能な、特に遊脚期における膝角度が設定及び調整される。
【0031】
達成可能な膝角度は、調節可能な機械的伸展ストッパにより調整することができる。機械的ストッパは、さまざまなアクチュエータを介して、例えばモータ駆動のエンドストッパにより、偏心輪を回転させることによって、ストッパを縦方向に変位させることによって、緩衝器を補強することによって、又は他の方法で調節できる。達成される膝角度に応じてバルブを閉じることにより、液圧又は空気圧により伸展ストッパを調節することも可能であり、それにより伸展チャンバから屈曲チャンバ又は補償容器に流体が流れることができなくなる。クッションを補強することによって、例えば、ストッパ緩衝器を液圧流体又は空気圧流体で満たすことによって、伸展ストッパを補強することも可能である。ストッパは、駆動装置、例えばモータをブロックすることによって形成することができ、調節は、所望の膝角度に達した後にモータをブロックすることによって行われる。あるいは、伸展ストッパの調整を、磁気レオロジ流体、及び磁場の活性化又は不活性化により行うことができる。機能的な電気刺激を適用した場合、膝を曲げる筋肉を動作させることにより停止を実現することができる。上記のすべての手法において、物理的遮断を伸張方向にもたらすことは必ずしも必要でない。所望の膝角度で、及び/又はその前に伸展運動を停止させること、及び/又は、例えば予測制御によって達成可能な膝角度を超えないように伸展運動を減速させることで十分である。上記のアクチュエータによって、制御された伸張(Steck)運動及び/又は屈曲運動を達成するために、屈曲又は伸張に対する膝関節の抵抗を制御することも可能である。さらに、特に遊脚期の終わりに所望の程度の膝屈曲を達成するために、関節を例えばモータ、ポンプ、スプリング、スプリングアキュムレータのアクチュエータを用いて、電気刺激、又は力に抗して運動を生成することができる他のアクチュエータによって、能動的に伸ばすこと、及び/又は曲げることが可能である。
【0032】
本発明の一発展形態は、達成可能な膝角度のためのさらなる特性量、空間内の下部の向きが使用されることを企図する。生理学的な階段上り、又は坂上りでは、下腿は、遊脚期の終わり、及び初期接地時に垂直線に対して比較的狭い角度範囲にとどまる。したがって、達成可能な膝角度を、坂上り又は階段上り、あるいは障害物、又は遊脚期の終わり及び/又は初期接地時の高低差の乗り越え時に下部の特定の向きが達成されるように適合させることができる。これに加えて、初期接地時の下腿の向きから、坂上り、階段上り、障害物や高低差の乗り越えが行われることを推論することができる。初期接地時の空間内の上部の向きは、達成されるべき歩高に依存するのに対して、空間内の下部の向きはわずかに変化するだけである。算出された歩高にもとづいて、初期接地時に達成されるべき下部の向きを指定することができ、対応する達成可能又は達成されるべき膝角度を上部の向きに依存して計算することができる。
【0033】
達成されるべき下部の向きは、歩高の他に、歩行速度及び/又は歩幅に依存し得る。歩行速度及び歩幅とともに、利用者により導入される股関節モーメント、先行脚のステップ前傾姿勢、ステップ持続時間、並びに義足若しくは足部の力の作用点及び/又はその時間プロファイルが変化する。したがって、達成可能な膝角度をそれに対応して適合させることが有利である。特に、歩行速度が遅い場合に達成可能な膝角度を小さくすることが有利である。歩行速度と歩幅は、センサデータ、特に空間内のセグメントの向きとその時間的変化、及び加速度を検出する慣性センサにより検知することができる。加速度から、積分により速度と位置を算出することができる。歩幅は、特に股関節及び/又は膝軸の水平方向運動から導き出すことができる。これに代えて、又はこれに加えて、歩幅は、立脚終期の終わりに装着脚の前傾から導き出すことができる。
【0034】
この方法の一発展形態は、人工膝関節における膝角度センサで測定された膝角度と、人工膝関節に配置された空間位置センサにより測定された上部又は下部の空間位置とから高低差が算出又は推定されることを企図する。これにより、遊脚期において、坂上りか、階段上りかを認識することが可能であり、それにより遊脚期においてすでに予備屈曲の増加と到達可能な膝角度の減少が設定及び調整される。高低差は、膝角度、空間内の上部の向き、及び空間内の下部の向きの3つの特性量から算出でき、これに代えて、高低差は、3つの特性量のうちの2つから、例えば2つの空間向き、あるいは、上部又は下部の空間向きに関連した膝角度から算出することができる。
【0035】
本発明の一発展形態は、装着される同側脚の遊脚期において達成可能な膝角度が調整され、かつ下部及び/若しくは上部の予め定められた空間位置及び/若しくは運動、空間内の下部及び/若しくは上部の予め定められた回転及び/若しくは回転速度、踝関節角度、足部への予め定められた力導入点、足部への予め定められた力、足部、膝軸若しくは股関節軸への所定のモーメント、床反力ベクトルの位置、足部への所定の加速度に達するまで、並びに/又は予め設定された期間にわたって、維持されることを企図する。例えば、下部、したがって下腿の予め定められた空間位置又は回転に達した後、特に下腿の運動の逆転、及び/又は遊脚期の終わりと比較した下腿の後傾の十分な減少の後にはじめて、十分な荷重とロールオーバ運動(Ueberrollbewegung)が生じ、それにより達成可能な膝角度を大きくすることができ、かつ膝関節を引き続き伸張することが許されると結論付けることができる。例えば、着床後に下部又は下腿の空間位置が変化した場合に、最大膝角度の維持を制御することができる。足部が床と接触した後、例えば空間位置センサにより、特定角度、例えば5°の下部又は下腿の前方回転が検出された場合、膝関節のロックを解除し、伸展を可能にすることができる。
【0036】
上部についても同様であり、上部は、坂上り又は階段上り時に歩行周期の終わりの股関節屈曲相の終わりに空間内の特定の向きに達する。踝関節角度により、回旋挙動(Abrollverhalten)、地面の局所的な傾斜、及び踝関節上の重心の位置決めに関するデータを取得でき、そこからステップ推移に関して逆推理することができる。角度センサの代わりに、力センサを足部と下部に配置することができ、力センサは、足部への力導入点の位置、並びに床反力の位置及び大きさを検知することができる。踵接地からつま先荷重までの力の導入及び床反力の推移によって、又はつま先への初期接地時の踵からつま先への動きの過程において、進行、したがってそれぞれとられた運動の段階を算出又は推定することができる。初期接地の衝撃を足部及び/又は下部における加速度センサにより検知することができ、それにより足の着地を推論することができる。さらに、股関節伸張モーメント、とりわけ伸展モーメントから、達成されるべき前進運動が推論され、膝伸展を可能にすることができる。特に、減少した膝角度は、荷重伝達の段階及び/又は初期回旋相(Abrollphase)で維持されることが可能である。
【0037】
これに代えて、又はこれに加えて、膝関節の伸張運動の増加を通じて安全性を向上させるために、予め定められた時間後に伸展ストッパを変化させることができる。一定期間の経過後、運動の進行又は運動パターンの変化が起こったと考えられ、それにより膝関節の伸展によって安全性を高めることが望ましい。例えば、人工膝関節のユーザが階段で立ち止まるか、又は坂上りで休憩する可能性があり、そのために、例えば膝関節を最大限に伸展させることが有利である。
【0038】
本発明の一発展形態は、遊脚期に続く立脚期で膝伸展運動が可能にされることを企図する。伸展運動は、膝角度及び/若しくは膝角速度、空間内の上部及び/若しくは下部の向き、踝角度、並びに/又は床反力のポジション、位置、及び大きさに依存して制御することができる。膝伸展運動により一定の、又は膝角度と結合された伸張抵抗を調整することができる。伸張抵抗のレベルと経過は、歩高、歩幅、歩行速度、膝屈曲、及び/又は足が着地したときの足の力の作用点及び/又は地面の局所的な傾斜に依存し得る。膝の伸張に抗する抵抗は、特に踵からつま先への動き及び膝伸張運動の過程で、デグレッシブ、直線的、又はプログレッシブに増加し得る。伸張運動は、膝伸張速度がコントロールされるように、特に一定に保たれるか、又は事前に定義された値を超えないように制御することができる。あるいは、伸張運動は、膝伸張中に下部がほぼ一定の向きを有し、したがって大腿が膝軸を介して回旋し、下部の後方回転が制限され、又は下部の定義された前方回転が達成されるように制御することができる。生理学的歩行では、典型的には、下腿のわずかな前方回転が生じる。生理学的歩行から逸脱する足又は足部の挙動、例えば背屈の可能性がないことによって、生理学的歩行から逸脱して、低速の前方回転、例えばほぼ停止する下部とは異なる下部運動の経過を達成することが有意義であり得る。足の力の作用点は、力センサにより決定することができ、力の作用点が伸展運動中にコントロールされ、殊に、足の中央領域にとどまり、踵の方向、又はつま先の方向に過度に早期に移らないように伸張運動を制御することができる。その場合、比較的速い膝伸張は、力の作用点が踵の方向に、かつつま先の方向にはそれほど速くなく移動することをもたらし、比較的遅い膝伸張は、つま先の方向の作用点の移動をもたらす。足をつま先で着地した場合、膝軸周りの床反力のレバーアームが大きくなるため、踵で踏み出した場合よりも高い伸張抵抗を提供するという利点がある。足が着地したときの歩行速度が速い、及び/又は膝角度が小さい場合、膝関節をより速く伸張することを可能にし、それにより足が最適な踵からつま先への動きを実行できるようにすることが目的に合っている。局所的な地面の傾きは、踝関節角度により決定することができ、それにもとづいて、伸張運動の制御を適合させることができる。立脚期伸展の終わりの伸張ストッパは、有利には、伸張運動が穏やかに制動されるように設計されている。アクティブな膝関節の場合、伸張運動を能動的に支援することが可能である。インターフェースによって、制御パラメータを適合させること、そしてそれにより立脚期伸張での挙動に自分で影響を及ぼすことを利用者に可能にすることができる。利用者の運動スタイル、足部及び/又は靴の特徴に適応するために、伸張挙動を制御によってステップごとに適合させることも可能である。
【0039】
本発明の一発展形態は、最小股関節角度、大腿の運動逆転に達した後、すなわち、股関節角度の拡大後に、空間内の下部の向きが、初期接地、下部への軸力及び/又は踝関節角度の変化の検出まで、一定に保たれることを企図する。初期接地は、例えば、足が床に着地したか、又は物体若しくは障害物にぶつかった場合に起きる可能性があり、及び運動挙動の変化によって、加速挙動の把握により検出することができる。最大股関節曲げ後に装着脚の足部が降ろされた場合、伸展抵抗及び屈曲抵抗を適合させることにより、又は駆動装置を有するアクティブシステムによって空間内の下部の向きを例えば着地又は回旋が検出されるまで、一定に例えば垂直線に対して垂直又は平行に保つことができる。着地は、例えば、下部への軸力又はモーメント、下部の加速度を検出することによって、あるいは股関節角度の時間プロファイルによって検出することができる。離地運動(Absetzbewegung)の一時停止は、足が着地し、装着脚を介して次の段への患者の持ち上げが行われることを逆推理させることができる。下部の向きの他に、最小股関節角度に達した後の空間内の股関節から足又は足部(脚腱)への接続線の向きを、足の着地が検出されるまで制御することができ、特に一定に保つことができる。大腿の運動の逆転後に、股関節伸張が行われる場合、脚腱の向きを、膝関節がアクチュエータによって能動的に伸張されることにより、例えば一定に保つことができる。股関節伸張の過程で、足又は足部が股関節に対して同じ、又はほぼ同じ水平方向距離を維持するように、すなわち歩幅が離地運動において一定に保たれるように膝角度を制御することもできる。
【0040】
殊に遊脚の運動を調和のとれた関係で立脚の運動に運ぶために、膝角度、下部の向き、及び/又は脚腱の向きを、並進股関節運動、特に水平股関節運動に依存して制御することも可能である。例えば、股関節が前方に大きく動かされる場合に膝角度を拡大することができる。第1の最大股関節屈曲に達した後に股関節を新たに大きく屈曲させる場合に膝伸張が達成されることも可能であり、ステップは、遊脚の側で、すなわち遊脚後期において前方に延長される。
【0041】
本発明の一発展形態は、坂上り、階段上り、又はそれに類することが、上部の向きの時間プロファイル、及び/又は上部の向きと膝軸の並進水平運動との関係により検出され、達成可能な膝角度が、上記プロファイル及び/又は上部の向きと膝軸の運動との関係にもとづいて調節されることを企図する。膝軸の水平運動は、既知の上部長さ又は大腿長さと、上部の向きの時間に対する推移とから股関節軸の水平運動と一緒に算定することができる。
【0042】
本発明の一発展形態は、下部の運動方向逆転、すなわち膝運動後の装着脚の遊脚期における屈曲抵抗が平地歩行時よりも高いレベルに調整されることを企図する。装着脚の遊脚期において、まず、屈曲運動、すなわち膝角度の減少が開始する。次に、膝軸が高いレベルに持ち上げられた後に、下部又は下腿が前方に移動する場合、すなわち、膝運動が屈曲から伸張に変わる場合、安全上の理由から、例えば、障害物又は階段にぶつかった場合のつまずきを回避するため、及び特に膝関節の膝軸を中心とした意図しない屈曲を阻止するために、屈曲運動に抵抗が加えられることが有利である。
【0043】
有利には、坂上り又は階段上り又はそれに類するものを認識した場合に、最小限達成可能な膝角度を定義するために、遊脚期膝角度を5°~20°低減することができる。
【0044】
本発明の一発展形態は、坂上り又は階段上り又はそれに類するものを認識した場合に、遊脚期において最小限達成可能な膝角度を平地歩行よりも小さくすることを企図する。平地歩行時、遊脚期の終わりに膝伸張の適時の達成を得るために、膝屈曲は、典型的には、制限されるか、又は曲げ方向の抵抗によって低減される。坂上り、階段上り、又はそれに類するものでのわずかな最小膝角度によって、下部は引き続き上部に向かって揺動し、上部に接近し、それにより完全に揺動したときの体の持ち上がりが増加する。有利には、そのために、乗り越えるべき高低差が増加したときに最小膝角度が低減される。低減の典型的な値は、5°~20°である。
【0045】
本発明の一発展形態は、坂上り、階段上り、又は立脚期、殊に立脚終期の高低差の乗り越えを意図する場合に、わずかな屈曲抵抗で膝屈曲を可能にする、及び/又は膝屈曲が開始されることを企図する。立脚期、したがって足の着床時、又は荷重下での膝屈曲の開始は、足が着床を失う前に膝関節が曲げられる生理学的歩行に相当する。したがって、膝屈曲の開始は、典型的には足の踵からつま先への動き中に行われる。立脚期の終わりに全荷重又は部分荷重がかかった状態での屈曲は、前遊脚期又はプレスイングと呼ばれる。膝関節の簡単な屈曲を可能にするために、この目的で屈曲方向の運動抵抗が立脚期、殊に立脚終期に低減されるか、又は低いレベルに保たれる。あるいは、膝関節の動作時に屈曲運動を荷重下で開始及び/又は支援することができる。殊に、屈曲方向の運動抵抗の低減、又は屈曲運動の開始はセンサデータにもとづいて行われる。さらに、達成可能な膝角度、特に遊脚期伸展で達成可能な膝角度が、坂上り、階段上り、又は高低差の乗り越えをそれに続く遊脚期及び/又はそれに続く立脚期で支援するように適合される。利用者が膝屈曲及び遊脚期の開始のための自然な運動経過を維持でき、坂上り、階段上り、又は高低差の乗り越えのために、遊脚期屈曲を開始するための特別な運動経過を実行する必要がないことが有利である。
【0046】
本発明の一発展形態は、達成可能な膝角度が、坂上り、階段上り、又は高低差の乗り越えを意図する場合に遊脚期で調整されることを企図し、利用者は膝屈曲運動を開始する前に義肢、装具又は外骨格の荷重を解放する。膝屈曲の開始は、例えば、同側の荷重が解放された場合、及び/又は同側の荷重が解放された後に、膝関節が屈曲方向の運動抵抗を低減することにより行うことができ、利用者は、股関節屈曲、又は股関節伸張とそれに続く股関節屈曲との組み合わせを行う。運動抵抗を低減するために、部分荷重又は全荷重の他に、例えば股関節伸張、特に急速な股関節伸張などのさらなる運動が必要である可能性もある。別の可能性は、膝屈曲が膝関節の動作時に支援されるか、又は能動的に開始されることである。
【0047】
方法の一発展形態は、達成されるべき膝角度を、意識的に、かつ検知又は推定された高低差とは無関係に調整可能及び/又は一時的に変化させ得ることを企図する。インターフェースによって、利用者、例えば整形外科技術者、療法士、又はエンドユーザにより制御パラメータの調整を行うことができる。利用者は、例えば、手動で相応の値を入力することによって、又は相応の調整を行うことによって、達成可能な膝角度を増加及び/又は減少させるように調整することができる。その際、利用者の調整を他の制御パラメータに重ねることができ、それにより制御器は、例えば引き続き比較的大きい高低差の場合により小さい達成可能な膝角度を調整するが、どちらの場合も標準調整と比べて大きい、達成可能な膝角度が調整される。減少した達成可能な膝角度を一時的に完全に無効にすることを利用者に可能にすることもできる。
【0048】
システムが歩行データにもとづいて達成可能な膝角度を制御するためのパラメータの適合又は決定を、進行中の自動適応的適合によって、又は意識的にアクティブ化され、調整が行われた後に再び非アクティブ化される調整モードによって行うことも可能である。
【0049】
本発明の一発展形態は、乗り越えるべき高低差が地面及び/又は地面輪郭との距離を決定することにより検出及び/又は検知されることを企図する。地面及び/又は地面との距離は、非接触で、例えば下腿部及び/又は足部に取り付けられたセンサ系により、特に光学的に、ライダ、レーダ及び/又は赤外線測定によって、及び/又は超音波測定によって測定することができる。地面の複数の点の測定から、地面輪郭、したがって乗り越えるべき高低差の高さを推論することができる。これに代えて、又はこれに加えて、床に対する相対速度が、特にドップラー効果を利用することによって、又は検知された距離の時間導関数によって測定することができる。達成すべき膝角度、特に遊脚期の終わりに達成すべき膝角度は、検知された高低差に依存して調整される。
【0050】
本発明の一発展形態は、遊脚期、特に遊脚期の終わり、及び/又は立脚期中、特に初期接地中、及び/又は荷重応答期中の膝関節の屈曲に対する抵抗が、平地歩行時よりも高いレベルに調整されることを企図する。装着脚の遊脚期において、まず、屈曲運動、すなわち膝角度の減少が開始する。次いで、膝軸が高いレベルに持ち上げられた後に、膝伸張が生じる場合、膝軸を中心とした膝関節の意図しない屈曲を阻止する抵抗を屈曲運動に加えることが有利である。これは、特に、屈曲方向と伸張方向の抵抗を互いに独立して調整できるシステムで有利である。そうでない場合、最大膝角度に達した場合に、足の離地、及び/又は初期接地時に屈曲抵抗を、特に平地歩行時よりも高いレベルに増加させることができる。その際、膝関節の屈曲が完全に阻止されるように屈曲抵抗を高めることができる。
【0051】
初期接地時の屈曲抵抗を、コントロールされた膝屈曲が可能になるように形成することもできる。屈曲抵抗は、特に、屈曲レートがコントロールされるように、及び/又は屈曲抵抗を増加させることによって最大屈曲角度が制限されるように適合される。膝屈曲を、測定された膝角度又は空間内の下部の測定された向きにより直接制御することができ、それにより下部の前傾が所定の値に達するか、又は所定の値を超えない。抵抗のレベル及び許容される膝屈曲の程度は、乗り越えるべき高低差、歩行速度、歩幅、及び/又は回旋中の足における力の作用点の推移に依存することもでき、それによりあらゆる状況に対して最大限の安全性と支援が得られる。
【0052】
以下、添付の図をもとにして実施例を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】義肢脚の模式図である。
図2】高低差を乗り越えるときの異なった段階と状況の図である。
図3】角度を有する着用された義肢の図である。
図4】坂上りの経過図である。
図5】段差の乗り越えの経過図である。
図6】平地歩行時の踝関節軸、膝関節軸、及び大転子の軌道の図である。
図7】坂上り時の踝関節軸、膝関節軸、及び大転子の軌道の図である。
図8a】高低差の図である。
図8b】高低差の図である。
図9】異なった接地状況の図である。
図10】坂上り時の膝角度の高低差への依存の図である。
図11】段差を乗り越えるときの膝角度の高低差への依存の図である。
図12】相対時間に対する異なった高低差の膝角度推移の図である。
図13】歩行周期にわたる大腿の向きの推移の図である。
図14】大腿の向きと股関節の水平移動の関係の図である。
図15】歩高を推定するための可能な補助量の図である。
図16】歩行周期にわたる膝角度推移KA(単位:°)の図である。
図17】立脚期伸展の異なった制御推移の図である。
図18】歩行周期の各相にわたる2つの異なった膝角度推移の図である。
図19】受動制御の場合の抵抗推移を示す図である。
図20図19の変形形態の図である。
図21】大腿角度に対する下腿角度の推移の図である。
図22】大腿角度に対する膝角度の推移の図である。
図23】脚腱の定義の図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は、義肢脚に適用される人工膝関節1の模式図を示し、人工膝関節は、義肢脚に適用する代わりに、相応に形成された人工膝関節1を装具又は外骨格に使用することもできる。次に、天然の関節を置き換える代わりに、それぞれの人工膝関節が、天然の関節の内側及び/又は外側に配置される。図示される実施例では、人工膝関節1は、前方若しくは歩行方向に位置する側、又は前方側11と、前方側11の対側に位置する後方側12を有する上部10を備える義肢膝関節の形態で形成されている。下部20は、旋回軸15を中心に旋回可能に上部10に支承されている。下部20も、前方側21又は前側及び後方側22を有する。図示される実施例では、膝関節1は、単中心膝関節として形成され、基本的に、多中心膝関節を相応に制御することも可能である。下部20の遠位端には足部30が配置され、足部は、足関節が動かない剛性の足部30として、又は自然な運動経過に近づけた運動経過を可能にするために旋回軸35を備えて下部と接続され得る。
【0055】
膝角度KAは、上部10の後方側12と下部20の後方側22との間で測定される。膝角度KAは、旋回軸15の領域に配置することができる膝角度センサ25により直接測定することができる。慣性角度センサ51は上部10に配置され、このセンサは、例えば垂直方向下方を指す重力Gなどの一定の力方向に対して上部10の空間位置を測定する。義肢脚の使用中に下部の空間位置を検知するために、慣性角度センサ52も下部20に配置されている。
【0056】
慣性角度センサ53に加えて、下部20に作用する軸力FAを検知することができる力センサ又はモーメントセンサ54を下部20又は足部30に配置することができる。
【0057】
上部10に相対する下部20の旋回運動に影響を及ぼすために、上部10と下部20との間にアクチュエータ40が配置されている。アクチュエータ40は、パッシブダンパ、駆動装置、又はいわゆるセミアクティブアクチュエータ40として形成することができ、このアクチュエータにより、運動エネルギーを蓄積し、運動を制動するため、又は支援するために後の時点で再び的確に放出することが可能である。アクチュエータ40は、リニア又はロータリアクチュエータとして形成することができる。アクチュエータ40は、例えば有線で、又はワイヤレス接続により制御装置60と接続され、制御装置もまたセンサ25、51、52、53、54のうちの少なくとも1つと結合されている。制御装置60は、センサから伝送される信号をプロセッサ、計算ユニット、又はコンピュータにより電子的に処理する。制御装置は、電気エネルギー供給部と少なくとも1つの記憶ユニットを有し、記憶ユニットにはプログラムとデータが記憶され、かつデータを処理するための主記憶装置が格納されている。センサデータの処理後、アクチュエータ40が作動又は作動停止される作動又は作動停止コマンドが出力される。例えば、アクチュエータ40を作動させることにより、減衰挙動を変更するためにバルブを開くか、又は閉じることができる。
【0058】
義肢膝関節1の上部10には、大腿断端を収容するために用いられる義肢用ソケットが取り付けられている。義肢脚は大腿断端を介して股関節と接続され、上部10の前方側で股関節角度HAが測定され、この股関節角度は、股関節を通る垂直線及び上部10の長手方向延在と、股関節と膝関節軸15との間の接続線との間の前方側11に提供される。大腿断端が持ち上げられ、股関節が屈曲されると、例えば座る場合に股関節角度HAが減少する。逆に、股関節角度HAは、伸展時、例えば立ち上がるか、又はそれに類する運動経過の場合に増加する。
【0059】
平地歩行時の歩行周期中に足部30はまず踵で着地し、踵又は足部30の踵部の最初の接触はヒールストライクと呼ばれる。続いて底屈が、足部30が床に完全に載るまで行われ、その際、通常、下部10の長手方向延在は、踝関節軸35を通る垂直線の後ろにある。次いで、平地歩行中、体の重心が前方に移動し、下部20が前方に旋回し、踝角度AAが減少し、つま先の荷重が増加する。床反力ベクトルは、踵からつま先に向かって前方に移動する。立脚期の終わりに、つま先離れ、又はいわゆるトーオフが行われ、その後、遊脚期が続き、この遊脚期において、平地歩行時に足部30が膝角度KAの減少下で重心、又は同側の股関節の後ろに移動し、次いで、最小膝角度KAに達した後、前方へ回転され、次いで、通常、最大限に伸張された膝関節1で再び踵接触に達する。したがって、力導入点PFは、立脚期中に踵からつま先に移動し、図1に模式的に示されている。
【0060】
平地歩行は、坂上り、階段上り、又はその他の高低差乗り越えとは区別される。人間の歩行は、実質的に、両足の協調運動によって決まる。歩きの実行のために、例えば立脚が体の重心の運動を引き継いで前進を生成する必要があるのに対して、遊脚は、対側の足の位置決めを、バランスが保たれて効率的な体重移動が可能になるように行う。したがって、両側又は両脚の運動は機能的に結合されており、種々異なる運動において観察できる。運動の機能的結合はモデル化することによりシミュレートされ、同側及び対側のコンポーネントの機能的結合を、個々のセグメントの場合によっては欠落する情報を他のセグメントの挙動又は状態から決定するために使用することができる。この方法は、脚の運動を理解若しくは制御するため、並びに意図の認識に関して、及び目標値推移及び目標量を導出するべく使用するために、装着された同側のそれぞれのセグメントの結合が使用されることを企図する。本発明は、対側にセンサ系なしで、運動及び意図された運動を分析し、この評価にもとづいて制御を生成することを企図する。両側装着では、義肢、装具、若しくは外骨格に配置されたセンサによって、又は筋活動若しくはそれに類するものの生体信号を介して、それぞれの対側の運動を得ることが可能であるのに対して、片側装着ではこの可能性はない。この場合、追加のセンサは、装着されない対側に配置される必要があり、そのことによって、システム全体がはるかに複雑になるだろう。したがって、モデルによって、同側にある測定量から欠落している量を決定し、それにより対側での機器の取付けが省略されることが企図される。同側のみにセンサを設けることでも、遊脚期にある対側の脚の運動、すなわち並進膝運動又は股関節運動に関する情報を、対側のこれらの量の細かい計算なしに取得することが可能である。人工膝関節を収容する整形外科技術装置におけるセンサにより、装着された、同側の整形外科技術装置の状態が検出され、任意的に対側の個々の量がこれらのセンサ値から導き出される。モデルを用いて、測定データから対側の運動量が推定される。機械的モデルの場合、境界条件と強制条件はそれぞれの歩行状況に依存し得る。アクチュエータを制御するために、測定データ、すなわちセンサ値と推定量の両方が使用され、アクチュエータを作動又は作動停止するために使用される。
【0061】
同側の脚の運動は、技術的な観点から十分に決定されなければならず、そのために、膝に被さる整形外科技術装置の場合、例えば下部に、絶対角度及び水平加速度を検出する慣性角度センサ52、及び上部10と下部20との間の膝角度KAを検出するための角度センサ25で十分である。例えば、対側の脚角度を推定するために、同側の脚運動が検出され、そこから股関節の並進を計算し、股関節の並進から対側の脚の運動を推論する。股関節の並進運動を検知するために、装着側の、すなわち整形外科技術装置上の点の並進運動、例えば膝軸の運動が考慮される。例えば、膝軸の並進運動は、特に、測定された線形加速度と適切な初期条件との二重積分によって算出される。さらなる過程で、絶対角度と相対角度により運動学的チェーンが股関節まで追跡される。積分の初期条件は、運動学的モデルにより決定することができ、積分の開始は、有利には立脚後期にある。center of rotation(COR)とも呼ばれる足部の回旋中心は、荷重と位置の関数として定式化でき、計算に含めることができる。計算に必要なセグメント長が測定され、システムに保存されるか、又は統計値にもとづいて推測される。特に義肢補装具がカスタムメイドであることが多いため、義肢システムを組み立てる際にコンポーネントを選択するためにこれらを必ず把握する必要があることから、個々のセグメント長は既知である。あるいは、セグメント長は、例えば膝床寸法などの特徴的な長さ、又はスケーリングによる切断高さなどの切断の特徴から人体測定モデルにより十分な精度で計算できる。したがって、整形外科技術システムの固定点、例えば旋回軸の位置の測定された加速度から、この点の軌道を二重積分によって決定することができる。次に、股関節軌道は、相対自由度とセグメント長の関数として、運動学的チェーンにより決定される。股関節の並進運動は、意図された運動を評価するためのすでに優れた尺度であり、特に股関節運動の水平成分は、立脚により生成される前方進行の割合を表す。遊脚運動と立脚運動の調和にもとづいて、同側の遊脚運動と股関節並進との関係が運動の分類と義肢挙動の制御を可能にする。どのような運動が行われるのか、又は意図されるのかを認識するために、特に上部の向きと股関節並進、又は膝軸の並進と股関節並進の組み合わせが適しているが、それはこれらの量が整形外科技術装置のセンサによって完全に検知できるからである。
【0062】
ヒールストライク時の股関節と着地点との間の脚角度を重力方向との関係で測定して、対側の脚角度を推定できるようにするために、2つの推測、すなわち、対側の足が着床し、したがって足と床との相対運動が0に等しいことと、両脚支持期における少なくとも1つの時点に、すなわち両足又は両足部が床に着いている場合に対側の慣性脚角度を決定できることが推測される。これについて対側の脚角度が義肢側の負の脚角度に対応するという推測が可能であろう。この初期条件を出発点として、対側の脚角度の位置変化は、セグメント長と股関節の相対的な並進とから三角関数により計算できる。立脚期の対側の脚角度と、遊脚期の空間内の同側の上部の向きとを関係づける場合、この関係は、利用者が歩行時に装着側で坂上りするのか、階段上りするのか、又はその他の高低差ΔHを乗り越えることを意図するのかに関する情報を提供できる。そのような意図された歩行挙動に典型的であるのは、遊脚中期における同側上部の角度が大きく後傾し、立脚期にある対側の前傾姿勢が比較的小さいということである。言い換えれば、対側はほぼ垂直のままであり、すなわち、並進股関節運動が小さいのに対して、上部又は大腿は大きく持ち上げられて屈曲する。
【0063】
遊脚期の終わりに坂上りを歩く場合に人工膝関節1が屈曲位置で停止する場合、そのような予備屈曲の程度は、装着側が床と接触する場合に同側及び対側の脚角度が互いに調和する関係になるように決定することができる。次に、アクチュエータ40の目標値の形式の屈曲抵抗及び伸展抵抗が、遊脚期における整形外科技術装置に、立脚期の対側の脚角度と遊脚期の同側の脚角度との間に調和のとれた関係が生じるように調整される。アクチュエータ40の目標値、したがって屈曲抵抗及び伸展抵抗も、最大限達成可能な膝角度KAmaxが、同側の足部の算出又は推定された高低差ΔHに依存して調節されるように調整され、患者の対側の足又は足部との高低差ΔHがプロットされる。
【0064】
坂上り、階段上り、又は高低差ΔHを乗り越えての障害物越えが認識される場合、上部10に相対する下部20の最大伸展が制限され、それにより最大限達成可能な膝角度KAmaxが低減される。下部20は、下部20の特定角度で停止される。図2において、そのような制御が、整形外科技術装置の3つの状態をもとにして示されている。高低差ΔHを乗り越えるときに下部20が平地歩行のときと変わらず最大限に伸展され、それにより達成可能な膝角度KAmaxが約180°である場合、足部30’をかなり前方に、かつ大きい足底角度で着地させることとなり、患者は、股関節を脚腱長さにわたって着地点を中心に回転させなければならず、このことは非生理的な運動経過につながる。これに対して、本発明によれば、例えば慣性角度センサ52によって検出することができる、特定の最大膝角度での、又は下部の特定の向きでの下部20の伸展は、最大伸展に達する前にすでに停止されることが企図され、それにより足部30’’は、段部若しくは段上で伸展運動の終わり、又は検知若しくは推定される高低差ΔHの運動の終わりにある。続いて、さらなる運動過程において、大腿又は上部10が下ろされ、下部20の向きが好ましくは一定に保たれ、すなわち下部20の空間位置は、足部30’’’が床に触れるまで変わらない。これは、例えば、軸力の発生にもとづいて、軸力センサ54によって検出することができる。このような軸力FAが検出された場合、遊脚期が終わり、高低差ΔHを乗り越えるために、股関節角度HAが増加するとともに膝角度KAも増加し、少なくとも減少しないと考えられ、それにより可変の膝角度の調整と接地時の予備屈曲にもとづいて有効脚腱長さが短くされ、高低差ΔHを乗り越えるために必要なエネルギー消費量が少なくなる。
【0065】
例えば対側の前傾姿勢の減少をもとにして、又は上部10の検出された最大空間位置をもとにして検知することができる、乗り越えるべき高低差ΔHが大きければ大きいほど、最大限達成可能な膝角度KAmaxが減少し、すなわち、予備屈曲が増加し、伸展ストッパが前にずらされる。伸展ストッパは、機械的ストッパのモータ調節によって、又はアクチュエータ40内の液圧的若しくは空気圧的制御器におけるバルブを適切に開閉することによって前にずらすことができる。
【0066】
膝軸の垂直経路、すなわち重力方向Gに対する高低差は、股関節の垂直経路が既知であるか、又は推定値として決定される場合、上部10の絶対角度から算定することができる。足部の垂直経路は、空間内の上部10の向きと、膝角度センサ25により検知可能である相対角度又は膝角度KAとの組み合わせから算定又は推定することができる。膝角度センサ25は、検知された膝角度KADを決定することを可能にし、セグメント長と関連する股関節角度に関するセンサデータが存在する場合に、高低差ΔHを算定するために用いられる。達成可能な膝角度KAmaxは、同側脚の遊脚期に調整され、下部及び/又は上部の予め定められた空間位置に到達するまで維持される。同様に、達成可能な膝角度KAmaxに関する調整は、踝関節角度AAを監視して、予め定められた踝関節角度AAに達するまで維持することができ、踝関節角度は、例えば、足部30が中立位置にある立脚期の終わりに足部30を持ち上げた後に調整される角度として設定される。次いで、足部30が着地した場合、踝関節角度AAが変化するが、このことは、最大限達成可能な膝角度KAmaxの変化が可能になったことのしるしである。あるいは、力導入点の位置は、足部分の長手方向延在に沿う力推移を検知することにより決定することができ、この位置に依存して、特定の時点までそれ以上の伸展をブロックし、そうして初めて膝関節1の伸張を可能にするために、アクチュエータ40を相応に制御することができる。これに代えて、又はこれに加えて、最大伸展を制限する特定の期間をタイマにより設定することができる。
【0067】
最小股関節角度HAの達成は、空間内の上部10の向きを監視することによって認識することができる。大腿又は上部10が最大に屈曲している場合、上部10の長手方向延在が重力方向Gに相対して最大の傾きである。続いて、上部10が股関節を中心に下向きに旋回し、上部10の長手方向延在が重力方向Gに近づくと、最小股関節角度HAに到達し、運動の逆転が起こる。運動の逆転を検出した後、最大膝角度又は例えば空間内の下部20の向きを、例えば軸力FAを検出することによって、又は踝関節角度KAの変化によって足部30の着地が検知されるまで維持することができる。足部30を角度の付いた脚で正しい向きで着地させるために、最大限達成可能な膝角度KAmaxを伸展抵抗の変更により調整する間、さらなる運動経過のために、同側の遊脚期における屈曲抵抗が、下部20の運動逆転後に垂直方向に、すなわち下部が下がる場合に、高いレベルに、平地歩行時の屈曲抵抗よりも大きいレベルに保たれるならば有利であり、それにより坂上り、階段上り、又はそれに類するものにおける整形外科技術装置のユーザの体の持ち上がりが容易になり、膝関節1の意図しない屈曲及び曲がりが回避される。
【0068】
図3において、相互のそれぞれの関係を明確にするためにそれぞれの角度及び空間内の向き、並びにそれぞれの関連量が示される。引力の方向又は重力の方向が矢印gで示され、引力の向きは、実質的に垂直の向きに相当する。空間内の上部10の向きは、角度φによって定義され、空間内の下部20の向きは、それぞれ重力方向gから測定された角度φによって表される。股関節角度HAは、胴の長手方向の向きと上部10の長手方向の向きとの間でg方向で前側で測定され、膝角度KAは、上部10の長手方向延在と下部20の長手方向延在との間で膝軸15を中心に測定される。
【0069】
図4は、坂上りの場合の運動経過の図である。
【0070】
運動経過は、上部10、下部20、及び義足30を有する装着脚についてtで始まり、この場合、義足30は、まだ床に接触しており、立脚期の終わりにある。非装着の対側の脚は完全に床に着地し、わずかに屈曲している。時点tでは、装着脚が持ち上げられ、最小膝角度KAで最大限に屈曲した位置にある。時点tでは、足部30が床の方向に動かされて下げられ、下部20は、立脚期伸展運動の終わりにあり、例えばブレーキを作動させることによって、減衰レートの上昇によって、又は達成可能な膝角度を変化させる伸展ストッパの調節によって制動される。時点tでは、装着脚の足部30が、屈曲した膝関節1で着地し、対側の、非装着脚が解放され、前方に動かされる。同時に、装着脚の立脚期伸展が行われ、このことが時点tの相で終了する。続いて、体の重心が膝旋回軸15を介して歩行方向で前方に移動する。下部20は、膝関節が伸展した場合、床側の支持点又は回転中心を中心として前方回転を実行し、図示された例では義足30の足先の領域に配置される。続いて、運動周期が再開される。
【0071】
図5は、段差を乗り越えるときの対応する運動経過を示し、段差を乗り越える場合、図5にtとして示され、図4の経過では時間tとt4との間に位置する別の運動ステップが示される。図5の時点tでは、非装着の、対側の脚が持ち上げられ、乗り越えるべき段差のすぐ上の高さにあり、対側の膝が義肢膝関節1の膝軸15の前にまだ動かされていない。
【0072】
図6において、踝関節軸35の高さにある踝関節Aの軌道、膝関節軸15の高さにある膝Kの軌道、及び股関節の領域にある大腿骨の重要な点としての転子Trの軌道がプロットされている。矢状面における上部10と下部20の向きは、それぞれ実線で示された軌道間に示されている。これらの軌道と向きとは平地歩行を表し、矢印方向は前方運動を示す。遊脚期の開始時、Toe-off TOにおいて、踝関節Aは、真っすぐに無荷重で立つ状態に対してわずかに持ち上げられている。Toe-off後に、膝関節Kが前へ運ばれ、わずかに持ち上げられ、それにより鞭効果(Peitscheneffekt)が生じ、この鞭効果において、踝関節Aが持ち上げられ、大転子がほぼ変わらないレベルにとどまる。さらに前方に移動すると、膝関節Kがさらに持ち上げられ、前方に移動し、踝関節Aは、歩行周期の約40%の後に、膝関節Kが最大限に伸展した位置になるまで膝関節を追い越し、これは踵接地又はヒールストライク時に起こる。この歩行段階は、実線と初期接地のための参照符号ICとで示される。足の弾力性により、踝関節軸はやや沈み、脚は足30又は踝関節軸35を中心に歩行方向で前方に回旋し、立脚期屈曲であるため膝関節がわずかに曲がる。歩行周期の約70%で、大転子が膝関節軸を追い越し、股関節が膝関節の前に運ばれ、前方運動が開始される。個々のそれぞれの破線は、歩行周期の10分の1を示す。
【0073】
図7は、例えば傾斜路上での坂上りのときの踝A、膝K、及び大転子Trの軌道を示す。異なった軌道をもとにして、踝関節Aについては同じ軌道形状であるが、これは上方へ傾いていることが認識できる。初期接地時の下腿の向きは、平地歩行時のものとは異なり、上部に対する下部の向きも異なり、すなわち平地歩行での最大伸展位置とは対照的に曲がっている。すべての軌道は、始まったときより高いレベルで終わるが、これは坂上りという事情の性質によるものである。
【0074】
図8をもとにして、対側の、非装着脚と装着脚の同側の足部30との間の歩高を定義することができる。例えば、床から股関節の目立つ点、例えば大転子までの距離Hは、立脚の高さに設定され、距離Hは、先行側の、図示された例では装着側(vorsorgten Seite)の床と股関節又は大転子との間の距離である。その場合、高低差ΔHは、H1とH2との差から求められる。傾斜路上の歩行の場合の高低差ΔHの定義についても同じことが言える。図8bは、乗り越えられる高さが同側から同側に測定される高低差ΔHの定義、すなわち装着脚の持ち上げから再着地までの高低差を示し、これは装着脚のToe-offと初期接地との間の高低差に相当する。
【0075】
図9において、高低差を乗り越えるべき場合の患者の膝関節が伸展した脚の接地と比較した膝関節が屈曲した装着脚の接地が意味する違いが明らかにされる。左の図では、予備屈曲した接地が示され、右の図では、膝角度KAが膝角度KAで予備屈曲した接地の時よりも大きい伸張した接地が示される。予備屈曲にもとづいて、ステップ前傾姿勢Lは、脚が伸張した接地のときより小さい。歩行を進めるために体の重心COMを前方に動かす必要がある。そのために体の重心を動かすべく質量重心COMと着地点からの垂直線との間の距離として、レバーL*1が使用される必要がある。レバーL*1が小さければ小さいほど、患者が大腿筋肉と股関節伸筋によりかける労力が少なくなる。ステップ前傾姿勢L>である右の図では、ユーザが事前に屈曲している場合でもレバーL*2もはるかに大きく、それにより高低差を乗り越えるために必要な力がはるかに大きくなる。右の図のように伸張した接地では、高低差ΔHは、予備屈曲された接地と比べて大きいステップ前傾姿勢Lにより達成される必要がある。通常の補償は、上半身の前傾によって行われ、それにより接地点と質量重心COMとの間のレバーLを小さくするよう努力される。さらに、後行立脚の底屈が増加するが、これは図には見て取れない。
【0076】
図10において、膝角度KAの高低差ΔH又は歩高への依存性が示される。歩高又は乗り越えるべき高低差ΔHが大きければ大きいほど、特に、接地時の下腿の向きがそれぞれ同じであるべき場合に膝角度KAが小さくなる。図11において、この状況は段差を乗り越える場合について示され、図10においては傾斜路上の坂上り時である。
【0077】
図12は、異なる高低差ΔHに対する膝角度推移を示す。ΔH=0である平地歩行時に、Toe-off TOの後に、膝角度KAが最小膝角度まで減少する。続いて、足が前方に運ばれ、膝角度KAがヒールストライク又は初期接地ICにおいてほぼ完全に伸張するまで増加する。立脚期屈曲を行うことができるようにするために、予備屈曲が調整される。立脚期屈曲は、時点t/T=1.05まで増加し、その後、t/T=1.4の最大伸展まで減少し、これはロールオーバ(Rollover)にほぼ相当する。続いて、立脚期の終わりに、遊脚期を開始するための予備屈曲が行われる。高低差ΔHが増加した場合、踵接地又は初期接地IC時に予備屈曲が高低差ΔHとともに上昇することが認識でき、立脚期屈曲は、場合によっては高低差ΔHの増加とともに減少するか、又は停止させることができる。膝角度KAは、歩行周期の割合によって無次元時間に対してプロットされ、細分化はそれぞれ、歩行周期の10%に相当する。
【0078】
図13は、歩行周期のそれぞれの割合に細分化したステップ周期に対する大腿の向きφの推移を単位°で示し、第1の初期接地又はヒールストライクICから第2の初期接地IC2又はヒールストライクまでがプロットされている。破線は、平地歩行の場合の大腿の向きφの推移を示し、実線は、ΔH>0での坂上り又は登りの場合を示す。登りを認識するために、より大きいΔφT1で表されるT~Tでの股関節屈曲の増加の期間における運動範囲がより大きいか、若しくは旋回がより大きいことによる大腿の向きφの推移から、ΔφT2の形式のT~Tのより大きい股関節屈曲から、又は股関節伸展と股関節屈曲の比率
【0079】
【数1】
【0080】
により、又は屈曲と、動きのレンジとの比率
【0081】
【数2】
【0082】
により、高低差ΔHを推論することができる。次に、計算又は推定から、減衰及び/又はストッパを適合させるために制御装置から対応する調節コマンドが生じる。
【0083】
図14は、ΔHの異なる高低差に対する股関節又は大転子Xの水平経路に対する大腿の向きφの関係を示す。ΔHでの平地歩行時に運動範囲が比較的小さくなり、高低差ΔHが増加すると、大腿の向きφTが次第に増加し、ステップ長が短くなるか、又は股関節の水平経路が短くなる。このような関係から、登り又は坂上りであるのかどうか、及び伸展ストッパ又は減衰装置の調節が行われるべきかどうか、どの程度行われるべきかを導き出すことができる。次に、例えば、制御ユニットに記憶されたこの比率の閾値に達した場合に伸展ストッパ又は減衰装置の調節を遊脚期において行うことができる。
【0084】
図15は、歩高又は乗り越えるべき高低差ΔHの推定のための可能な補助量、すなわち股関節の水平経路Xに対する大腿の向きφの関係を示す。上昇する傾斜Kは、上昇する歩高ΔHを示し、歩高ΔHが大きくなればなるほど、股関節、例えば大転子の水平経路Xに対する大腿の向きφの関係の傾斜も大きくなる。
【0085】
図16において、Toe-off TOで始まり、1のヒールストライクHS又は初期接地IC、1.6の第2Toe-off TOであるステップ周期にわたる膝角度推移KAが単位°で示される。異なった歩行期において、抵抗又はストッパの制御により異なった目標が追求される。領域Aにおいて、遊脚期伸展のコントロールされた制動が行われ、又は膝関節の能動的な伸長がそれぞれ所望の予備屈曲角度まで行われる。相Bにおいて、立脚期屈曲のコントロールが行われ、例えば屈曲は過度に大きい立脚期屈曲を制限又は回避するために高い屈曲抵抗下で行われる。ロールオーバ挙動及び伸張挙動に影響を及ぼすことができるようにするため、相Cにおいて、立脚期伸展に、例えば伸張レートにより影響が及ぼされる。相Dにおいて、ロールオーバが発生して最大膝角度に達した場合に伸展ストッパへの激しい打ち当たりを回避するために、立脚期伸展が制動される。
【0086】
アクティブ又はセミアクティブなアクチュエータに統合できるエネルギー蓄積器の適用例は、選択された歩行相におけるエネルギー蓄積器の使用を企図する。運動エネルギーは、特に立脚期伸展中、すなわち相C及び相D中、これらの相内の特に相Dに相当する立脚期伸展の制動中に蓄積することができる。特に遊脚期の開始直後、遊脚期屈曲を支援するために、蓄積されたエネルギーが再び放出される。運動エネルギーが相Dにおいて立脚期伸展中に蓄積されることも可能であり、運動エネルギーは、相Aにおいて遊脚期伸展中に、その特に立脚期伸展の第2半部において再び放出される。これにより、足の正しい位置決めが支援される。基本的に、運動エネルギーを他の運動段階で蓄積し、他の運動段階で再び放出することも可能である。蓄積された全運動エネルギーをすぐに再び放出する必要はなく、蓄積されたエネルギー量を、例えば、ステップの複数の運動相にわたって、又は異なる若しくは同じ運動相における複数のステップにわたって合計することもできる。
【0087】
図17は、下腿角度φに対する立脚期伸展の異なった制御推移を示す。膝伸展を、Aによる推移では、膝伸展運動中の下腿又は下部10がほぼ一定の向きを維持するように制御することができる。あるいは、推移Bによれば、下部20及び下肢のある程度の前方回転を可能にすることができ、前方回転速度を規定量に設定することができる。推移Cは、ある程度の逆回転又は逆方向の回転速度を企図する。すべての3つの制御変形形態は、場合によっては、歩行速度、歩高、歩幅、及び膝屈曲の程度に依存し得る。下腿角度φは、再び、歩行周期の相に対して初期接地ICからToe-off TO時の遊脚期の開始までプロットされる。
【0088】
図18は、2つの異なった膝角度推移KAを、同様に歩行周期の相に対して示し、ここでは、初期接地IC後の相が20度の比較的剛直した(starr)予備屈曲で行われる。実線の曲線Aによる推移に対して、立脚相屈曲が禁止され、破線Bの推移は、30度へのさらなる立脚期屈曲を可能にするが、立脚期屈曲の程度はコントロールされ、最大膝屈曲が制限される。2つの変形形態の適用は、歩行速度、歩高、歩幅、及び足部の力作用点の推移に依存して行うことができる。
【0089】
図19は、受動的制御及び立脚期屈曲の禁止時の可能な抵抗推移を3つのグラフで示す。上図は、膝角度推移KAを示し、中央図は屈曲抵抗Rflexを示し、下図は伸展抵抗Rextを示し、それぞれToe-off 1~Toe-off 2の歩行周期にわたって初期接地IC又はヒールストライクが1.0である。すべての3つの曲線は、歩行周期の割合によって無次元時間にわたってプロットされる。初期接地ICの前に、屈曲抵抗Rflexを最大値に増加させ、それにより足部の初期接地IC時に最大屈曲抵抗になる。相Aにおける増加は、遊脚期伸展中に行われ、膝関節は、初期接地IC時にブロックされる。初期接地IC後、相Bにおいて、例えば立脚相伸展が起こったときなど、立脚相伸展に対する屈曲抵抗Rflexは再び低減され、次いで、立脚期の終わりに遊脚期を開始するために伸展抵抗の急速な低下が可能にされる。伸展抵抗は、相Cにおいて、膝関節を所定の膝角度KAで停止させるために、遊脚期伸展中に、初期接地ICの前に増加される。伸展運動を完全にブロックする必要はない。抵抗を次第に大きくすることにより、関節を十分に停止させるために伸展運動を十分に小さくすることができる。続いて、伸展抵抗を、場合によっては、歩行速度、歩高、歩幅、存在する膝屈曲、及び床反力ベクトルの推移に依存して減少させる。続いて、伸展抵抗Rextは、立脚期伸展運動中にコントロールされて、例えば膝関節の目標伸張レートに調節することによって、又は下腿角度φに依存して増加される。最後に、立脚期伸展は、伸張への激しい打ち当たりを回避するため、又は所望の膝角度KAに達した場合に、相Fにおいて、さらに増加させることによって停止させられる。
【0090】
図20は、実質的に図19に対応するが、歩行周期の過程にわたる膝角度KA及びそれぞれの抵抗の両方について異なる推移を示す。図19の推移とは異なり、屈曲抵抗Rflexは、初期接地ICの前に最大値に増加するのではなく、最大値の後に、立脚期屈曲において制動するべく、初期接地ICの後に相Bにおいて、コントロールされた立脚期屈曲を可能にするために屈曲抵抗Rflexが増加するまで低い値に低減される。相Bにおける増加は、立脚期屈曲の屈曲レート又は程度をコントロールするために用いられる。屈曲抵抗Rflexの上昇の程度は、必要とされる最大屈曲角度に依存する。続いて、屈曲抵抗は、図19の相Bと同様に、相Cで再び減少する。伸展抵抗Rextは、図19の推移について説明したように調節される。
【0091】
図21は、高低差ΔHが0に等しい、破線での平地歩行の場合の大腿角度φに対する下腿角度φの推移を示す。この場合も歩行の特徴的な点がToe-off TOと初期接地ICで示されている。実線は、高低差ΔHが0より大きい、坂上り又は障害物を乗り越える場合の大腿角度φに対する下腿角度φの関係を示す。細分化はそれぞれ、歩行周期の10パーセントに相当する。曲線のさまざまな推移をもとにして、乗り越えられた、又は乗り越えられるべき高低差ΔHの大きさを推定することができる。特に、曲線推移から、歩行周期の80%後、すなわちToe-off TO後の2つのストリップ後、又は0.8で、ΔHが0に等しい平地歩行のために、高低差ΔHが0よりも大きい坂上り歩行又は登りの場合よりもはるかに急峻な上昇が生じる。異なる高低差ΔHについて異なった推移を検知又は記憶することができ、次に、これらは、それぞれの歩行状況に適合させるためのストッパ及び抵抗を相応に調節できるようにするために制御装置に利用可能になる。
【0092】
図22は、破線でΔHが0に等しい平地歩行の場合の、実線でΔHが0より大きい障害物の乗り越え又は坂上りの場合の大腿角度φに対する膝角度KAの関係を示す。Toe-off時の0.6のステップ周期でも、歩行周期の0.8の範囲において、曲線推移の著しい違いが生じ、この違いにより、比較アルゴリズムを用いて、高低差ΔHを推定することができ、抵抗又はストッパの相応の適合を制御器により行うことができる。
【0093】
図23において、同側の、装着脚の脚腱の定義、及び対側の、非装着脚の脚腱の定義が行われる。脚腱は股関節回転中心を通り、踝関節への線を形成する。図23からわかるように、脚腱の長さ及び脚腱の向きφは、運動時に、特に異なった傾斜の場合も変化する。乗り越えるべき高低差ΔHは、脚腱の長さ及び/又は向きの変化の推移により推定及び予測又は検知することができる。次に、そのことから、それぞれの制御コマンドが導出される。重力方向G及び対側の脚腱φLkに相対する同側の脚腱φLiのそれぞれの向きがそれぞれ記入される。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、そのまま、付記しておく。
[1] 前方側(11)及び後方側(12)を有する上部(10)と、膝軸(15)を中心に旋回可能に前記上部(10)に支承され、前方側(21)及び後方側(22)を有する下部(20)と、前記下部(20)に配置された足部(30)と、少なくとも1つのセンサ(25、51、52、53、54)と、前記少なくとも1つのセンサ(25、51、52、53、54)と接続された制御装置(60)と、前記制御装置(60)と結合され、前記制御装置(60)によって、遊脚期での前記上部(10)の前記後方側(12)と前記下部(20)の前記後方側(22)との間で達成可能な膝角度(KA max )を調整可能にするアクチュエータ(40)と、を備える人工膝関節(1)を制御する方法において、
立脚期での患者の対側の足(33)若しくは足部(30)に対する、又は歩行時での前記足部(30)の直前の立脚期に対する、前記足部(30)の高低差(ΔH)の乗り越えが前記少なくとも1つのセンサ(25、51、52、53、54)のセンサデータに依存して推論され、かつ前記遊脚期で達成可能な前記膝角度(KA max )が調節されることを特徴とする、方法。
[2] 高低差(ΔH)が重力方向(G)とは逆方向に増加する場合、前記達成可能な膝角度(KA max )が減少することを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3] 前記高低差(ΔH)が胴、骨盤、股関節、及び/又は装着脚の膝軸の軌道から算定又は推定されることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記高低差(ΔH)が、装着脚の股関節の垂直経路、前記膝軸(15)の垂直経路、及び/又は前記足部(30)の垂直経路により算定又は推定されることを特徴とする、[1]から[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5] 前記高低差(ΔH)が、装着脚の股関節角度(HA)若しくは空間内の前記上部(10)の向き、及び/又はその時間プロファイルにより算出されることを特徴とする、[1]から[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] 前記高低差(ΔH)が、装着脚の前記膝角度の時間プロファイルにより算出されることを特徴とする、[1]から[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7] 前記高低差(ΔH)が、胴、骨盤、股関節、又は装着脚の前記膝軸(15)の水平運動と股関節角度(HA)又は空間内の前記上部(10)の向きとの関係から算定又は推定されることを特徴とする、[1]から[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8] 前記高低差(ΔH)が、算出された膝角度(KAD)と算出された股関節角度(HA)とから算定されることを特徴とする、[1]から[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9] 前記達成可能な膝角度(KA max )は、調節可能な機械的若しくは液圧的伸展ストッパ(45)又は膝伸展に抗する運動抵抗の変化により調整されることを特徴とする、[1]から[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10] 前記達成可能な膝角度(KA max )のための特性量として、空間内の前記下部(20)の向きが使用されることを特徴とする、[1]から[9]のいずれか1項に記載の方法。
[11] 前記高低差(ΔH)が前記人工膝関節(1)の膝角度センサ(25)で測定された膝角度(KAD)から、並びに/又は空間位置センサ(51、52)により測定された前記上部(10)及び/若しくは下部(20)の空間位置から算出又は推定されることを特徴とする、[1]から[10]のいずれか1項に記載の方法。
[12] 前記遊脚期で前記達成可能な膝角度(KA max )が調整され、かつ前記下部(20)及び/若しくは上部(10)が予め定められた空間位置及び/若しくは運動に達するまで、踝関節角度(AA)及び/若しくは前記足部(30)への力導入点(PF)に達するまで、並びに/又は所定期間にわたって、維持されることを特徴とする、[1]から[11]のいずれか1項に記載の方法。
[13] 最小股関節角度(HA)及び運動逆転に達した後、初期接地、前記下部(20)への軸力(FA)、及び/又は踝関節角度(AA)の変化の検出まで、空間内の前記下部(20)の向きが一定に保たれることを特徴とする、[1]から[12]のいずれか1項に記載の方法。
[14] 坂上り、階段上り、又はその他の歩行時の高低差の乗り越えが、前記上部の向きの時間プロファイル、及び/又は前記上部の向きと前記膝軸(15)の並進水平運動との関係により検出され、かつ前記達成可能な膝角度(KA max )が前記時間プロファイル及び/又は前記関係にもとづいて調節されることを特徴とする、[1]から[13]のいずれか1項に記載の方法。
[15] 前記下部(20)の運動方向逆転後の前記遊脚期における屈曲抵抗が、平地歩行時よりも高いレベルに調整されることを特徴とする、[1]から[14]のいずれか1項に記載の方法。
[16] 坂上り、階段上り、又は歩行時のその他の高低差(ΔH)の乗り越えを認識した場合、最大限達成可能な膝角度(KA max )を10°~25°減少させることを特徴とする、[1]から[15]のいずれか1項に記載の方法。
[17] 膝関節の伸展運動に抗する運動抵抗を前記遊脚期において連続的に減少させることを特徴とする、[1]から[16]のいずれか1項に記載の方法。
[18] 前記高低差(ΔH)が、前記達成可能な膝角度(KA max )のための特性量として使用され、前記特性量にもとづいて前記アクチュエータ(40)を作動又は作動停止させることを特徴とする、[1]から[17]のいずれか1項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23