IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 飛島建設株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社藤崎商会の特許一覧

<>
  • 特許-カバー部材 図1
  • 特許-カバー部材 図2
  • 特許-カバー部材 図3
  • 特許-カバー部材 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】カバー部材
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20241003BHJP
   E21F 17/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E21D9/00 C
E21F17/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022017644
(22)【出願日】2022-02-08
(65)【公開番号】P2023115437
(43)【公開日】2023-08-21
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511110599
【氏名又は名称】株式会社藤崎商会
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221615
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】筒井 隆規
(72)【発明者】
【氏名】松田 浩▲朗▼
(72)【発明者】
【氏名】片山 典信
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-090032(JP,A)
【文献】特開2014-089211(JP,A)
【文献】特開2021-173002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0145658(US,A1)
【文献】特開平05-099670(JP,A)
【文献】特開2021-042971(JP,A)
【文献】特開2018-179651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/00
E21F 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削中のトンネル内壁面に、測量用ターゲットが設置され、該測量用ターゲットに向けてトンネル抗口側に設置された測量機から測定波が発射され、前記測量用ターゲットからの前記測定波の反射波を検知してトンネルの掘削により生じたトンネル内空の変位情報を得るトンネル内壁面の変位計測装置であって、
前記トンネル内壁面の変位計測装置は、トンネル切羽を発破することにより生ずる発破飛散物から前記測量用ターゲットを覆って保護するカバー部材を有し、
該カバー部材は、トンネル坑口側に、トンネル坑口側から発射される前記測定波が測定可能な測定波測定可能開口部が形成されてなると共に、前記測量用ターゲットを非接触状態にして覆う構造とされ、
前記測量用ターゲットを非接触状態にして覆う構造は、カバー部材の上面がトンネル掘削方向と平行方向に延出して略長方形状をなし、トンネル坑口側の端面からトンネル切羽側の端面に向かって下り傾斜面に形成されると共に、該上面の幅方向端面から下方に折曲する両側面はトンネル坑口側の端部からトンネル切羽側の端部に向かって下り傾斜の斜辺を有する三角形状に構成され、前記構成の上面と両側面によって発破で飛散する発破飛散物を受け流し可能に構成されてカバー部材の破損を抑える構造とされ、かつ覆ってある測量用ターゲットの破損を防ぐ構造とされ、前記測定波測定可能開口部の開口形状は略台形状となるよう、前記両側面は前記略長方形状をなす上面の両端面から外側に拡げて下方に折曲形成された、
ことを特徴とするトンネル内壁面の変位計測装置。
【請求項2】
前記測量用ターゲットは、掘削中のトンネル内壁面に複数個取り付けられる、
ことを特徴とする請求項1記載のトンネル内壁面の変位計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば山岳トンネル建設工事における内空変位計測に用いられるカバー部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル建設工事では、地山挙動の把握を目的に、トンネル内空の変位計測が日常管理として実施されている。内空変位計測の計測点は一断面あたり5点を基本とし、10m間隔(土被りや施工進行によっては20~30m)で計測点を設置し計測されている。また、計測頻度は、掘削直後は1日2回以上の計測が必要とされている。この計測において、従来は、計測点に測量用反射シート(簡易ターゲット)を設置し、それをトータルステーションを使用し、手動にて行っていた。
【0003】
また近年では、より詳細に地山の挙動を把握する目的で、内空変位計測の頻度を基準より増やすことが実施されている。しかしながら、計測頻度を増やすと、手動にて行っていることから計測の労力が増加するとの課題があった。そのため、この課題に対する対策として、測量用反射シートではなく測量用プリズムと、自動視準トータルステーションを使用した、自動計測が採用されている。
【0004】
その一方で、自動計測では測量用プリズムが必須となるが、掘削時に使用する発破や飛び石などの飛散物による損傷が懸念されており、計測時以外は取り外し、計測時に取り付けるような取り組みがなされている。
この工夫により、発破や飛び石などの飛散物による損傷のリスクは無くなるものの、測量用プリズムを設置する労力が計測ごとに発生するとの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-99670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かくして、本発明は前記従来の課題に対処すべく創案されたものであって、トンネル施工において破損原因物、例えば発破による発破飛散物から測量用ターゲット等を保護対象物として保護し、発破毎に前記保護対象物の取り外しを必要とせず取り付けた状態で発破による掘削を行うことができ、もって計測位置を一定とすることができるためトンネル内空の正確な変位計測を行うことを可能とし、また吹付けコンクリートなどの飛沫が保護対象物に付着することによる保護対象物表面の汚損を防止し、さらには、切羽近傍箇所に前記保護対象物を設置することができるため掘削後早期から変位計測を可能とし、これによりトンネル施工期間の短縮し効率よく施工作業を行うことができるカバー部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
掘削中のトンネル内壁面に、測量用ターゲットが設置され、該測量用ターゲットに向けてトンネル抗口側に設置された測量機から測定波が発射され、前記測量用ターゲットからの前記測定波の反射波を検知してトンネルの掘削により生じたトンネル内空の変位情報を得るトンネル内壁面の変位計測装置であって、
前記トンネル内壁面の変位計測装置は、トンネル切羽を発破することにより生ずる発破飛散物から前記測量用ターゲットを覆って保護するカバー部材を有し、
該カバー部材は、トンネル坑口側に、トンネル坑口側から発射される前記測定波が測定可能な測定波測定可能開口部が形成されてなると共に、前記測量用ターゲットを非接触状態にして覆う構造とされ、
前記測量用ターゲットを非接触状態にして覆う構造は、カバー部材の上面がトンネル掘削方向と平行方向に延出して略長方形状をなし、トンネル坑口側の端面からトンネル切羽側の端面に向かって下り傾斜面に形成されると共に、該上面の幅方向端面から下方に折曲する両側面はトンネル坑口側の端部からトンネル切羽側の端部に向かって下り傾斜の斜辺を有する三角形状に構成され、前記構成の上面と両側面によって発破で飛散する発破飛散物を受け流し可能に構成されてカバー部材の破損を抑える構造とされ、かつ覆ってある測量用ターゲットの破損を防ぐ構造とされ、前記測定波測定可能開口部の開口形状は略台形状となるよう、前記両側面は前記略長方形状をなす上面の両端面から外側に拡げて下方に折曲形成された、
ことを特徴とし、
または、
前記測量用ターゲットは、掘削中のトンネル内壁面に複数個取り付けられる、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トンネル施工において破損原因物、例えば発破による発破飛散物から測量用ターゲット等を保護対象物として保護し、発破毎に前記保護対象物の取り外しを必要とせず取り付けた状態で発破による掘削を行うことができ、もって計測位置を一定とすることができるためトンネル内空の正確な変位計測を行うことを可能とし、また吹付けコンクリートなどの飛沫が保護対象物に付着することによる保護対象物表面の汚損を防止し、さらには、切羽近傍箇所に前記保護対象物を設置することができるため掘削後早期から変位計測を可能とし、これによりトンネル施工期間の短縮し効率よく施工作業を行うことができるとの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】保護対象物(例えば測量用プリズム2)を配置した対象トンネルの構成を示した概略構成図(1)である。
図2】保護対象物(例えば測量用プリズム2)を配置した対象トンネルの構成を示した概略構成図(2)である。
図3】保護対象物(例えば測量用プリズム2)を配置した対象トンネルの構成を示した概略構成図(3)である。
図4】保護対象物(例えば測量用プリズム2)をカバー部材で覆った状態を示した実施例図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
本発明のトンネル内壁面の変位計測装置は、例えばトンネル形成途中箇所で用いられる装置である。発破により掘削されたトンネル内壁面には、測量用ターゲットが複数設置され、その測量用ターゲットに向けて測定波を発射し、前記測定波からの反射波を測量機1(例えばトータルステーションなど)が検知して計測するものである。そして、前記検知した反射波を計測し、これら計測値を演算することにより、トンネルの掘削により生じたトンネル内空の変位情報を得ることができるのである。
【0011】
図1(a)は、例えば山岳トンネル建設工事において、トンネルの内空変位を計測する際に測量用ターゲットを配置する設置箇所を示した図である。また、図1(b)は、測量用ターゲットを配置した対象トンネルを側面側から示した概略構成図である。
【0012】
前記測量用ターゲットとしては、例えば測量用プリズム2が挙げられる。背景技術の欄で説明した通り、内空変位計測の計測点は一断面あたり5点を基本とし、10m間隔(土被りや施工進行によっては20~30m)で計測点を設置し計測する。また、計測頻度は、掘削直後は1日2回以上の計測が必要となる。
【0013】
なお、トンネル内空変位の計測においては、前記測量用プリズム2の設置箇所(計測点)については、一断面あたり5点を基本としているが、対象トンネルの地山条件、立地条件等の諸条件や施工方法により、一断面あたり3点とすることもできる。
【0014】
図1(b)に示されるとおり、測量機1としてのトータルステーションは、切羽面から50~100m程度離れた坑口側に設置されている。そして上述のとおり、測量機1は測量用プリズム2が該測量機1から発射された測定波を反射し、前記測量機1がこの反射された反射波を検知することによりトンネル内空変位を計測することができる。
【0015】
ここで、トンネル内空変位の計測、特に掘削直後の内空変位等の初期値の計測は、切羽に近い位置、例えば切羽から3m付近でできるだけ早期に行うことが必要となる。測定開始が遅れれば変位(地山と支保工の挙動)が進行し、それだけ得られる情報量が少なくなるためである。さらに、変位計測の断面位置および頻度を揃えることは、適切な管理基準の設定を検討するために必要な情報を得たり、トンネルの設計や施工に反映させたりするために重要となる。
【0016】
従来は、測量用プリズム2を設置したとしても、掘削時に使用する発破や飛び石などの発破飛散物による損傷が懸念されるため、計測時以外は前記測量用プリズム2を外し、計測時の度に前記測量用プリズム2を取り付ける作業を行っていた。そのため、測量用プリズム2を設置する労力が計測ごとに発生し、また掘削直後に計測を行うことが困難となっていた。
【0017】
本発明に係るトンネル内壁面の変位計測装置は、該トンネル内壁面に保護対象物としての測量用ターゲット(測量用プリズム2)が複数設置され、該測量用プリズム2毎にカバー部材3で覆った構成としている。すなわち、測量用プリズム2の坑口側に開口する部位以外の周囲を測量用プリズム2に接することなくカバー部材3で覆うことで、測量用プリズム2が破損する原因である破損原因物から測量用プリズム2を保護すると共に、前記トンネル形成途中箇所に取り付けた前記測量用プリズム2の取り外しを必要としないのである。
【0018】
ここで破損原因物としては、バックホウなどの施工機械や発破による掘削後に生じる発破飛散物などが考えられる。例えば、トンネル坑内で作業する重機が測量用プリズム2と接触して破損させてしまう場合や、ベルトコンベアや運搬車などが跳ね上げた小石等の跳ね上げ物が測量用プリズム2と衝突して破損させてしまう場合などがある。以下の実施形態では、特に掘削後に生じる発破飛散物について詳述する。
【0019】
前記カバー部材3は、坑口側に測定波測定可能開口部4が形成されている。図4(a)(b)は、トンネル内壁面に測量用プリズム2を設置し、前記測量用プリズム2をカバー部材3にて非接触で覆った状態を示した実施例である。図4(a)(b)から理解されるとおり、カバー部材3は坑口側が開口した形状、すなわち測定波測定可能開口部4が形成されており、一方で切羽側は開口しておらずトンネル内壁面と当接した閉じた形状となっている。またカバー部材3の形状は、測定波測定可能開口部4の開口端部から切羽側に向かって緩やかな下り傾斜となっている。これにより、切羽側から飛散してくる発破飛散物を受け流しカバー部材3の破損を最小限に抑えることができ、もって測量用プリズム2の破損を防ぐこととなる。ここで、前記カバー部材3の具体的な形状については何ら限定されないが、前記測定波測定可能開口部4を設けること及びそれ以外の箇所では測量用プリズム2の外観を覆っていることが重要である。また、カバー部材3の材質についても何ら限定されないが、飛散する発破飛散物が衝突しても破損しない材質であることが必要である。
【0020】
一般に金属部材で作製されると思われるが、その場合測量用プリズム2の外観を覆うように成形するためには立体的に曲げる際に、その曲げた箇所が角度を持って曲げられることとなる。よってカバー部材3は図4に示すような形状、すなわち、前記カバー部材3の設置状態において測量用プリズム2を覆う3面のうち、トンネル内空側となる面(上面)が略矩形状で、その両側面が略三角形状となっており、前記両側面が略三角形状となっているため、前記略矩形状の面は、長手方向の一端部(設置状態においてトンネル掘削方向の坑口側となる端部)から長手方向の他端部(設置状態でトンネル掘削方向の切羽側となる端部)に向かって下り傾斜となる形状になることが多い。さらに、前記測定波測定可能開口部4の開口形状が略台形状となるように、前記両側面が前記略矩形状の面から外側にやや広がるよう形成してもよい。
【0021】
そして、前記カバー部材3は、測量用プリズム2に接することなく例えばトンネル内壁面のコンクリート部分にボルトなどの連結具によって取り付けられる。図4においては、カバー部材3の両側面側2箇所を連結具によって固定されている。しかし、この固定方法に限定されず、測定波測定可能開口部4の反対側の箇所も固定し、都合3箇所でより強固に固定することができる。このように、カバー部材3を壁面に固定する固定箇所や固定数は何ら限定されるものではなく、発破による掘削で測量用プリズム2が破損せず、保護できる固定方法であればよい。さらに、カバー部材3の取付けは、連結具を用いて固定する他に、支保工に磁石などで固定する方法や溶接する方法などが考えられる。
【0022】
以上からトンネル内壁面に測量用プリズム2を設置した状態で発破による掘削することができ、発破・飛び石などの発破飛散物から測量用プリズム2を保護しつつ、坑口側に配置されているトータルステーション等の測量機によりトンネル内空の変位を計測することができるのである。すなわち、従来は発破の都度、測量用プリズム2の破損を防ぐため逐一トンネル内壁面から取り外す必要があったが、カバー部材3で測量用プリズム2を覆うことにより破損を防止し、かつカバー部材3には測定波測定可能開口部4が形成され、坑口側が開口した形状であるためトータルステーションからの測定波を遮断、妨害することなく変位計測を行うことが可能となる。
【0023】
特に、本発明によれば発破による掘削直後であっても、切羽近傍に測量用プリズム2を取り付けることができ、さらには取り外す必要がないため迅速に変位計測を行うことができ、計測開始が遅延せず同じ位置および条件下で一定の計測が行えるのである。そのため、得られた正確な情報により適切な管理基準の設定を検討することができ、もってプリズム再設置等の労力を削減しつつ正確な情報が得られるのでより安全に施工を進めることができる。
【0024】
次に、トンネル内壁面の変位計測装置を用いた変位計測の一実施例について図1乃至図3に基づいて説明する。
トンネル形成途中箇所の発破による掘削後、一断面あたり5点の計測点に測量用プリズム2を設置する。本実施例では、トンネル内壁面の天端部付近に1点、左右の側壁部に上下2点ずつの計5点に測量用プリズム2が設置されている。なお、計測点の数においては掘削工法および想定される地山挙動を考慮して設定されるものであり、本実施例の5点の計測点に限定されるものではない。
【0025】
そして、設置された測量用プリズム2ごとにカバー部材3を例えばボルトなどの連結具によって取り付ける。この際、前記カバー部材3の開口した面、すなわち測定波測定可能開口部4が形成された面がトンネルの坑口側を向くように取り付けられる。
【0026】
その後、坑口側に設けられたトータルステーションから測定波を発射し、前記測量用プリズム2が該測定波を反射する。この反射された反射波をトータルステーションにおける測量機1が検知し、計測演算してトンネル内空の変位を取得する。なお、計測の頻度は、掘削直後は1日2回以上の計測が行われる。
【0027】
この様に、前記測量用プリズム2はカバー部材3で覆われた状態でも測定波を反射波として反射することができる。すなわち 、前記カバー部材3には測定波測定可能開口部4が形成されているため、計測のたびにカバー部材3を取り外す必要がなく、計測が可能となる。
【0028】
そして計測を行った後、発破により生じたズリを所定の方法により外に運び出す。そして、掘削した切羽が崩れるのを防止するため切羽付近では吹付けコンクリートを切羽面などに吹き付けて切羽面等の保護施工を行う。その際、測量用プリズム2の表面が吹き付けコンクリートの飛沫などで汚損されると測量機1としてのトータルステーションの反射波が生じないなどの問題が生じ、ひいては変位計測に悪影響を及ぼすこととなる。
【0029】
従来では、測量用プリズム2の表面に吹き付けコンクリート等の飛沫が付着してしまうことが多々生じており、これに対処するため、吹付けコンクリートを吹き付け施工する度に測量用プリズム2を取り外したり、あるいは測量用プリズム2に付着した飛沫の汚れを除去したりするなど手間と時間がかかっていた。本発明は、それぞれの測量用プリズム2にカバー部材3が取り付けて形成されているため、吹付けコンクリートを施工したとしても前記測量用プリズム2の汚損を防止することができる。さらに、発破や大型重機の作業などで生じる粉塵が該測量用プリズム2に付着し、汚損することを防止する役割もある。これにより、従来の課題を解消することができ、これが作業時間の大幅短縮にもつながる結果となる。
【0030】
その後、再度発破によりトンネル掘削を行うが、従来は変位計測を行った後は測量用プリズム2をトンネル内壁面から取り外す作業が行われていた。これに対し、本発明は測量用プリズム2をそのまま設置した状態で、該測量用プリズム2を覆うようにしてカバー部材3が取り付けられているため、取り外すことなく発破を行うことができる。
【0031】
従来のように測量用プリズム2を計測時以外は取り外す必要がないため、労力を削減することができ、発破毎の測量用プリズム2の着脱時間を削減できるため施工時間の短縮を図ることができる。
【0032】
そして、測量用プリズム2を設置した計測地点から10~20m程度の間隔をあけて、次の計測地点の測量用プリズム2を設置することとなる(図1(b)参照)。なお、計測地点の間隔は対象トンネルの地山条件、例えば地山が脆弱な場合等は数m間隔で設置される。
【0033】
前述と同様にして、次の計測地点の測量用プリズム2にも該測量用プリズム2ごとにカバー部材3を取り付ける。この際においても、前記カバー部材3の開口した面、すなわち測定波測定可能開口部4が形成された面がトンネルの坑口側を向くように取り付けられる。そして、坑口側に設けられたトータルステーションから測定波を発射し、前記測量用プリズム2が該測定波を反射し、この反射波をトータルステーションが検知してトンネル内空の変位を演算し、計測する(図2参照)。
なお、トータルステーションは切羽から50~100mの距離に設置され、切羽からの距離が100mを超えないようにトータルステーションは盛替えされる。
【0034】
そして掘削の進行に応じて、発破や飛び石などの発破飛散物の影響が無くなった地点においてはカバー部材3が取り外される。すなわち、図3から理解されるとおり、トータルステーションより坑口側に設置されている測量用プリズム2はカバー部材3が取り外され、切羽とトータルステーションの間の測量用プリズム2にはカバー部材3が取り付けられる。
【0035】
なお、トンネル内空の変位が収束したか否かを判定するため、カバー部材3が取り外された測量用プリズム2もそのままトンネル内壁面に設置した状態にしておく。これにより、トータルステーションを水平方向に180度回転させることにより、坑口方向のトンネル内空の変位を計測することができる。また、取り外されたカバー部材3は、再度新しく設置された測量用プリズム2に使用することが出来、測量用プリズム2と同数のカバー部材3を用意する必要がないためコストの削減につながる。そして、トンネル内空の変位が収束したのを確認した後、覆工コンクリートを施工することとなる。
【0036】
ところで、トータルステーションより坑口側に設置されている測量用プリズム2においてもカバー部材3を取り外さず、取り付けたままの状態にしておくこともある。この際、トータルステーションはトンネルの奥側から坑口側に向かって、すなわち、今まで説明した計測手順と逆方向に向けて測量波を発射し、変位を計測する必要が生じる。その場合は、測定波測定可能開口部4をトンネルの奥側に向けてカバー部材を取り付けることもある。これにより、ズリを坑口から搬出する際にベルトコンベアや運搬車などから生じる飛び石などの飛散物から測量用プリズム2、特にトンネル内壁面の左右側壁部に設置された測量用プリズム2を保護することができる。
【0037】
この手順を繰り返し行うことでトンネル内空の変位計測の情報を正確にかつ迅速に得ることが可能となる。そして、変位計測の情報に基づいて対象トンネルの施工に反映させることで適切な覆工作業ができるのである。
【0038】
なお、上記実施例では、カバー部材3による保護対象物を測量用ターゲット(例えば、測量用プリズム2)としたが、カバー部材3は、トンネル形成途中箇所で、トンネル掘削方向の一方側に開口部が形成され、かつ、トンネル内壁面に設置される保護対象物に対して非接触でその保護対象物を覆うようにトンネル内壁面に取り付けられて、破損原因物から前記保護対象物を保護する構成であれば、保護対象物は何ら限定されない。例えば、上述のようなトンネル内壁面の変位計測装置による変位計測結果を作業員が視認し易くする、いわゆる見える化を目的として、トンネル内壁面の測量用ターゲット付近に、その測量用ターゲットに対応した計測結果に基づき所定の変位レベルに応じた色や画像を表示する表示手段(例えばモニター)を設置する場合には、その表示手段も保護対象物とし、カバー部材3を適用すること等も可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 測量機
2 測量用プリズム
3 カバー部材
4 測定波測定可能開口部
図1
図2
図3
図4