(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】鉛含有電解液からの金属回収
(51)【国際特許分類】
C25C 1/18 20060101AFI20241003BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20241003BHJP
C25C 1/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C25C1/18
C25C1/12
C25C1/20
(21)【出願番号】P 2022506755
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 US2020043835
(87)【国際公開番号】W WO2021021786
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-11-09
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522044504
【氏名又は名称】アクア メタルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】モハンタ,サマレシュ
(72)【発明者】
【氏名】レイル,ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】タエッカー,ベンジャミン ソル
(72)【発明者】
【氏名】ホーク,ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ドーハティ,ブライアン ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】リャオ,ジャーチー
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特公昭51-026364(JP,B1)
【文献】特開昭51-067267(JP,A)
【文献】特開昭52-053719(JP,A)
【文献】特開2017-002376(JP,A)
【文献】特開2017-203182(JP,A)
【文献】特表2017-504930(JP,A)
【文献】特表2007-532772(JP,A)
【文献】国際公開第2008/039192(WO,A1)
【文献】英国特許出願公開第02368349(GB,A)
【文献】中国特許出願公開第109055983(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00 - 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を処理する方法であって、
前記電解液を、アノード、および少なくとも0.1m
2/gの表面積を有する高表面積カソードを有する電解研磨反応器に供給することと、
前記電解液は、第1の金属イオンおよび第2の金属イオンを含み、前記第1の金属は前記第2の金属より貴であり、前記第1の金属イオンは、前記第2の金属イオンより低濃度で前記電解液中に存在し、前記電解液中の前記第1の金属の濃度は、10mg/l以下であり、前記電解液中の前記第2の金属の濃度は、少なくとも20g/Lであり、前記第2の金属イオンは鉛イオンであ
り、前記電解液は、アルカンスルホン酸を含むことと、
前記高表面積カソードの電極電位を制御して、前記第2の金属イオンの存在下で前記第1の金属イオンを
優先的に還元し、したがって前記第2の金属を含みかつ前記第1の金属が実質的に枯渇した前処理電解液を生成することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記高表面積カソードは、貫流カソードとして構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高表面積カソードは、カーボンフェルト、織布または不織布カーボンクロス
、発泡ガラス状カーボン、膨張黒鉛、カーボンナノチューブ、またはグラフェンを含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の金属は、銀または銅である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
電気化学的生成反応器で前記前処理電解液中の前記第2の金属イオンを還元するステップをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記高表面積カソードは、カーボンフェルト、織布または不織布カーボンクロス
、発泡ガラス状カーボン、膨張黒鉛、カーボンナノチューブ、またはグラフェンを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の金属は、銀または銅であり、前記第2の金属は、鉛である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
電気化学的生成反応器で前記前処理電解液中の前記第2の金属イオンを還元するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
鉛富化電解液を処理する方法であって、
前記鉛富化電解液を、アノード、および貫流カソードとして構成される高表面積カソードを有する電解研磨反応器に供給することであって、前記高表面積カソードは、少なくとも0.1m
2/gの表面積を有する、供給することと、
前記鉛富化電解液は、
アルカンスルホン酸と、鉛のものより高い電極電位を有する少なくとも1つの他の金属イオン
とを含み、前記鉛富化電解液は、少なくとも20g/Lの鉛イオン濃度を有し、前記鉛富化電解液は、10mg/L未満の濃度で前記他の金属イオンを有することと、
前記高表面積カソードに500mA以下の低電流を印加するか、またはその電極電位を制御して、前記高表面積カソード上で前記他の金属イオンを
優先的に還元し、したがって前処理鉛富化電解液および前記他の金属がめっきされたカソードを生成することと
を含む、方法。
【請求項10】
電気化学的生成反応器で前記前処理鉛富化電解液中の鉛イオンを還元して金属鉛を生成するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記鉛富化電解液は、少なくとも50g/Lの鉛イオン濃度を有し、前記鉛富化電解液は、10mg/L未満の濃度で前記他の金属イオンを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記鉛富化電解液は、少なくとも100g/Lの鉛イオン濃度を有し、前記鉛富化電解液は、10mg/L未満の濃度で前記他の金属イオンを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記高表面積カソードは、カーボンフェルト、織布または不織布カーボンクロス
、発泡ガラス状カーボン、膨張黒鉛、カーボンナノチューブ、またはグラフェンを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記アノードは、RuO
2またはIrO
2でコーティングされたチタンを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの他の金属イオンは、銅イオンまたは銀イオンである、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記低電流は、4mA/cm
2以下の電流密度を生成する、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記低電流は、3mA/cm
2以下の電流密度を生成する、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記低電流は、2mA/cm
2以下の電流密度を生成する、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記前処理鉛富化電解液中の前記少なくとも1つの他の金属イオンの濃度は、10ppb以下である、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記前処理鉛富化電解液中の前記少なくとも1つの他の金属イオンの濃度は、5ppb以下である、請求項9に記載の方法。
【請求項21】
前記鉛富化電解液を前記電解研磨反応器に供給するステップは、電気化学的生成反応器で前記前処理鉛富化電解液中の鉛イオンを還元して金属鉛を生成するステップと同時に行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項22】
前記前処理鉛富化電解液から電気化学的に生成された鉛は、少なくとも99.99%の純度を有する、請求項
21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2019年8月1日に出願された同時係属中の米国仮出願第62/881,743号の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本開示は、特に、例えば、鉛イオン含有電解液からの銅および銀の除去および/または回収に関する場合の、電解液から様々な金属を回収するための組成物、方法、および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
背景の説明は、本開示の理解に有用であり得る情報を含む。これは、本明細書で提供される情報のいずれかが、特許請求される本発明の先行技術であるかもしくはそれに関連すること、または具体的もしくは黙示的に参照されるいずれかの刊行物が先行技術であることの承認ではない。
【0004】
本明細書中のすべての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願各々が、具体的かつ個別に示されて参照により組み込まれるのと同じ程度に、参照により組み込まれる。組み込まれた参考文献中の用語の定義または使用が、本明細書で提供されるその用語の定義に一致しないか、または反する場合、本明細書で提供されるその用語の定義が適用され、参考文献中のその用語の定義は適用されない。
【0005】
鉛蓄電池からの鉛の回収および精錬において、製錬操作から離れ、より環境に優しい解決策を使用するための様々な努力が行われてきた。例えば、(OlperおよびFracchiaに対する)米国特許第4,927,510号は、脱硫プロセス後の電池スラッジからの、実質的にすべての鉛の純金属形態での回収を教示する。残念ながら、そのような方法は、環境上問題のあるフッ素含有電解液の使用を必要とする。フッ素含有電解液に関連する困難の一部を克服するために、(MasanteおよびSerracaneに対する)米国特許第5,262,020号ならびに(Gernonに対する)米国特許第5,520,794号に記載されているように、脱硫した鉛活物質がメタンスルホン酸に溶解された。しかしながら、硫酸鉛はメタンスルホン酸にかなり難溶であるため、上流脱硫が必要であり、残留不溶性物質は、典型的には経済的に魅力のないプロセスまで全収率を低下させる。硫酸鉛に関連する態様の少なくとも一部を改善するために、(Fassbenderらに対する)国際特許出願公開第2014/076544号に記載されているように、酸素および/もしくはメタンスルホン酸第二鉄が添加され得るか、または(Fassbenderらに対する)国際特許出願公開第2014/076547号に教示されているように、混合酸化物が生成され得る。しかしながら、改善された収率にもかかわらず、いくつかの欠点がそれでも残る。とりわけ、これらのプロセスにおける溶媒の再利用はしばしば、さらなる努力を必要とし、残留硫酸塩は依然として、廃棄物として失われる。さらに、(電解鉛回収では珍しくない)プロセスの異常事態または停電の間に、従来の電解回収操作では、カソードが除去され、鉛が剥離しない限り、めっきされた金属鉛は溶解して電解液中に戻ることになり、バッチ操作を良くても問題のあるものにする。
【0006】
上述の問題の大部分は、鉛ペーストを脱硫し、脱硫の前または後に二酸化鉛を還元する統合プロセスで克服され、WO 2016081030およびWO 2016183428に記載されているように、アルカンスルホン酸電解液に可溶な鉛イオン種が生じる。有利には、そのようなプロセスは、移動カソード上での比較的高純度の鉛の連続生成を可能とする。しかしながら、鉛より貴な金属(例えば、銅、銀)は、典型的にはそのようなプロセスの電解液中に存在し、これらの金属の共めっき(co-plating)は、そのようなプロセスで達成することができる純度を制限することになる。残念ながら、鉛より貴な金属の選択的回収は、これらの金属が、通常、鉛と比べて非常に低い濃度で存在するため、しばしば問題になる。例えば、典型的には、鉛電解液は、20~200g/lの鉛イオン濃度を有し得る一方で、銀イオンおよび銅イオンは、それぞれ約5mg/lおよび8mg/lで存在する。
【0007】
このように、電解液から鉛を回収するシステムおよび方法が知られているが、少量の銀および/または銅などのより貴な金属は、電気化学的に生成される金属鉛の純度を低下させる場合がある。したがって、鉛純度を高め、かつ/またはプロセス電解液から低濃度の有価金属を回収する、改善されたシステムの必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0008】
発明者らは、かなりの量の鉛イオンを含む電解液からの、有価金属、特に銅および銀の除去および/または回収を可能とする様々な装置、システム、および方法を発見した。
【0009】
発明の主題の一態様では、発明者らは、鉛富化電解液を、アノードおよび高表面積カソードを有する電解研磨反応器に供給するステップを含む、鉛富化電解液を処理する方法を企図する。企図される方法では、鉛富化電解液は、鉛のものより高い電極電位を有する少なくとも1つの他の金属イオン(例えば、銅および/または銀)を含む。別のステップでは、低電流が高表面積カソードに印加されて、高表面積カソード上で他の金属イオンを還元し、したがって前処理鉛富化電解液を生成する。
【0010】
最も典型的には、前処理鉛富化電解液中の鉛イオンは、次いで、電気化学的生成反応器で還元されて金属鉛を生成し得る。いくつかの実施形態では、鉛富化電解液は、少なくとも20g/L、または少なくとも50g/L、または少なくとも100g/Lの鉛イオン濃度を有する一方で、鉛富化電解液は、銅および/または銀の10mg/l未満の金属イオン濃度を有する。
【0011】
電極に関して、高表面積カソードは、カーボンフェルト、発泡ガラス状カーボン、カーボンクロス、膨張黒鉛、カーボンナノチューブ、またはグラフェンを含むことが企図される。好ましくは、高表面積カソードは、貫流カソードとして構成される。最も典型的には、アノードは、チタンまたは他の好適な材料を含む。最も典型的には、100cm2のセルについて、低電流は、400mA未満、または300mA未満、または200mA未満の電流であるが、好ましい態様では、低電流は、4mA/cm2以下、または3mA/cm2以下、または2mA/cm2以下の電流密度を生成する。異なる視点から見ると、電極電位の制御は、比較的高い濃度のより卑な金属の存在下で、選択されたより貴な金属イオンを優先的に還元するために用いられる。
【0012】
さらなる態様では、前処理鉛富化電解液中の少なくとも1つの他の金属イオンの濃度は、10ppb以下、または5ppb以下、または1ppb以下である。加えて、鉛富化電解液を電解研磨反応器に供給するステップは、電気化学的生成反応器で前処理鉛富化電解液中の鉛イオンを還元し、したがって金属鉛を連続的に生成するステップと同時に行われ得ることが企図される。最も典型的には、前処理鉛富化電解液から電気化学的に生成された鉛は、少なくとも99.99%、または少なくとも99.999%、または少なくとも99.9999%、または少なくとも99.99999%の純度を有する。
【0013】
様々な目的、特徴、態様、および利点は、同様の符号が同様の構成要素を表す添付の図面と共に以下の好ましい実施形態の詳細な説明からより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】カソードで起こる反応に関する選択されたイオンの半電池電位を概略的に示す。
【
図2】発明の主題による電解槽の例示的なラボスケールの構成を概略的に示す。
【
図3】発明の主題による電解槽の例示的なラボスケールの構成の写真である。
【
図4】発明の主題による電解槽でのAg/Cu濃度対電流の例示的結果を示すグラフである。
【
図5】発明の主題による電解槽を使用したAg/Cu回収の例示的結果を示すグラフである。
【
図6】本明細書に提示される方法に関連する様々な計算を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
発明者らは、鉛イオン含有電解液を前処理して、所与の電解液中の鉛より貴な金属(すなわち、所与の電解液中でより正の電極電位を有する金属)の金属イオン含有量を還元することができることをここに発見した。したがって、そのような前処理電解液は、非常に高い純度の金属鉛の電気化学的生成を行うことができるであろう。さらに、鉛より貴な金属の除去は、有価物、特に銅および銀の回収も可能とするであろう。
図1は、カソードで起こるそれらの反応に関する選択されたイオンの半電池電位を例示的に示す。
【0016】
例えば、発明の主題の1つの好ましい態様では、鉛富化電解液は、アルカンスルホン酸(好ましくはメタンスルホン酸)を含み、鉛イオンは、約20~200g/Lの濃度で電解液中に存在する。最も典型的には、鉛富化電解液は、約5~10mg/Lの濃度の銅イオン、および約3~8mg/Lの濃度の銀イオンをさらに含むであろう。鉛富化電解液は次いで、アノード、および貫流電極として構成される高表面積カソードを含む電解研磨反応器に供給され、銅および銀が、低電流密度(例えば、5mA/cm2未満)の低電流(例えば、500mA未満)を使用して高表面積カソード上にめっきされる。もちろん、銅および銀は、以下でより詳細に記載されるように、別々にまたは共にめっきされ得ることが理解されるべきである。
【0017】
好適な電解研磨反応器に関して、反応器は、典型的には、鉛富化電解液の連続処理を可能とするように構成されることが企図される。したがって、好適な電解研磨反応器は、1回貫流反応器、またはそこから鉛富化電解液が再循環されるサージタンクを含む貫流反応器として構成され得る。より好ましくない態様では、電解研磨反応器はまた、バッチ式で動作して鉛富化電解液を前処理するように構成され得る。特定の構成に関係なく、典型的には、電解研磨反応器のカソードは、高表面積(例えば、0.2~0.8m2/g)のカソードを含むことが好ましい。大抵の場合、そのような高表面積カソードは、(活性)カーボンフェルト、黒鉛フェルト、発泡ガラス状カーボン、膨張黒鉛、カーボンナノチューブ、および/またはグラフェンを含むことになり、(最も典型的には、カソードの厚さを横切って)カソードを通過する鉛富化電解液の流れを可能とする多孔性を有することになる。したがって、企図される高表面積カソードは、少なくとも0.1m2/g、または少なくとも1.0m2/g、または少なくとも10m2/g、または少なくとも50m2/g、または少なくとも100m2/g、または少なくとも200m2/g、少なくとも500m2/g、少なくとも1,000m2/g、またはさらに高い表面積を有し得る。例えば、好適な高表面積カソードは、(電解液の流入と退出との間で測定した場合に)少なくとも1mm、または少なくとも2mm、または少なくとも3mm、または少なくとも5mm、または少なくとも10mm、または少なくとも25mm、または少なくとも50mm、またはさらに大きい最小長の貫流経路を有するであろう。高表面積カソードは、高表面積カソードの厚さの少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも40倍、または少なくとも100倍の高さおよび/または幅を有することが一般にさらに好ましい。したがって、異なる視点から見ると、企図される高表面積カソードは、一般に厚いシートとして構成されることになり、電解液の流れは、高表面積カソードの厚さを横切ることになる。
【0018】
容易に理解されるように、カーボンフェルトまたは他の高表面積材料は、ステンレス鋼メッシュなどの導電性キャリアに結合され得る。
図2は、それらの間に入口および出口が配置された2つのエンドプレートを有し、通気口、および黒鉛フェルトが導電的に取り付けられたステンレス鋼メッシュを備える電解研磨反応器の例示的概略図を示す。出口プレートは、イリジウムでコーティングされたチタンメッシュアノードをさらに含み得る。
図3は、さらに以下でより詳細に記載される実験で使用された、
図2によるパイロットセルの写真である。
【0019】
最も典型的には、研磨反応器は、鉛富化電解液中の少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%の銅および/または銀が、鉛還元反応器の下流においてカソードでの連続的な鉛回収を可能とする流量で、貫流カソード上に析出するように構成されるであろう。したがって、研磨反応器は、(典型的には並列で動作する)複数の電解槽を有し得る。しかしながら、他の実施形態では、1つ以上の研磨反応器はまたバッチ式に動作して、鉛還元反応器(単数または複数)に供給するのに必要な流量と異なる流量に適応し得る。
【0020】
動作中、特に比較的低い電流が、対応する低電流密度で使用される場合、銅および銀などのより貴な金属は、高表面積カソードの上および中に析出することになる。したがって、特定の動作条件に依存して、金属は、電流を制御することによって(優先的に)析出し得るか、または共析し得、特定の金属および電解液系での特定の電極電位は、析出のタイプを決定することになる。しかしながら、容易に理解されるように、より貴な金属は、鉛濃度がより貴な金属より著しく高い場合、典型的には金属鉛と共析することになる。例えば、銅イオンおよび銀イオンが金属銅および金属銀に還元される場合、特に鉛イオンが20g/L超、または50g/L超、または100g/L超の濃度で存在する場合には、鉛も共析することになる。
【0021】
もちろん、電解液の性質はかなり異なり得、アルカンスルホン酸、硫酸、フルオロホウ酸、または強塩基(例えば、KOH、NaOHなど)を含むものを含むすべての既知の電解液が、本明細書での使用に適していると見なされることが理解されるべきである。さらに、好適な電解液は、様々な他のイオン種、最も典型的には鉛蓄電池のリサイクルで見られる金属イオンを含み得る。結果として、電解液の前処理は、鉛蓄電池のリサイクルから鉛を回収する任意の電解プロセスと共に実装され得ることが企図される。鉛イオンは、概して、10~20g/L、または20~50g/L、または50~100g/L、または100~200g/L、またはさらに高い濃度で電解液中に存在することになる。その一方で、より貴な金属は、概して、1g/L以下、または500mg/L以下、または200mg/L以下、または100mg/L以下、または50mg/L以下、または25mg/L以下、または10mg/L以下の個々の濃度で存在することになる。
【0022】
電解研磨反応器に関して、具体的な寸法は、典型的には、処理される電解液の体積、および/または動作のタイプ(例えば、1回貫流、再循環、バッチ処理など)によって決定されることが企図される。例えば、研磨反応器は、約50~200mL/分、または約200~500mL/分、または約500~5,000mL/分、または約5~50L/分、およびさらに高い電解液流量を有するように構成され得る。結果として、カソード作用面積は、50~200cm2、または200~2,000cm2、または2,000~20,000cm2、およびさらに高いものであり得る。さらに、電解研磨反応器は、2つ以上の高表面積カソードを有してよく、それらは、(第1の前処理電解液を第2のカソードに提供するために)直列に、または並列に配置され得ることに留意すべきである。複数のカソードの使用は、連続動作が、電解液の流れを別のカソードに迂回させながら1つのカソードを除去する必要がある場合に特に有利である。
【0023】
最も典型的には、電解研磨反応器の動作は、連続的な方法であるか、または少なくともカソード中の金属蓄積による背圧が所定のレベルに達する点(もしくは高表面積が所定の程度減少する点)までである。最も典型的には、特定のより貴な金属に依存して、電流および電流密度は、少なくともある程度変動することになる。しかしながら、電流および電流密度は、より貴な金属が優先的に析出し、カソード上の鉛の形成が減少するように、できるだけ実行可能に低いことが一般に好ましい。したがって、好ましい電流は、多くの場合、500mA以下、または400mA以下、または350mA以下、または300mA以下、または250mA以下、または200mA以下、または150mA以下であり、さらに低い場合もある。結果として、高表面積カソードの電流密度は、典型的には、5mA/cm2以下、4mA/cm2以下、3.5mA/cm2以下、3mA/cm2以下、2.5mA/cm2以下、2mA/cm2以下、またはさらに低いものとなる(mA/cm2での密度は、実際の電極表面ではなく高表面材料の外形寸法を使用して計算された)。最も典型的には、鉛含有電解液中の非鉛金属の残量は、500ppb未満、もしくは300ppb未満、もしくは200ppb未満、もしくは100ppb未満、もしくは50ppb未満、もしくは25ppb未満、もしくは10ppb未満であるか、または当該技術分野で周知の標準的な検出方法を使用した検出限界未満でさえあり得る。したがって、電解液は、電解液中の非鉛金属の1つ以上が実質的に枯渇している(例えば、100ppb未満または25ppb未満である)場合がある。
【0024】
さらに企図される態様では、より貴な金属の1つ以上はまた、イオン交換プロセスを使用して回収され得る。例えば、イオン交換による銅の除去が望まれる場合、銅選択性キレート樹脂が用いられ得る(例えば、DOWEX(商標)M4195)。そのような樹脂の使用は、典型的には電解研磨反応器の上流である。同様に、銀イオンは、銀選択性イオン交換樹脂(例えば、Chelex-100)を使用して除去され得る。そのような吸着性の方法は、典型的には、鉛富化電解液が樹脂を通った後に電解研磨反応器中に連続的に流れることができるように、オンラインで実装されることになる。その一方で、イオン交換樹脂はまた、貫流カソードでの還元が終了または中断した場合に銅および/または銀の突破を減少させるために、研磨反応器の下流に配置され得る。
【0025】
非鉛イオン除去の特定の方法に関係なく、金属は、価値のある生成物として回収されることが一般に好ましい。最も典型的には、価値のある生成物は、鉛が、鉛富化電解液中のその圧倒的な存在により、回収される金属の主成分となるため、さらに精製され得る。鉛は、他の金属と比べて非常に低い融点を有するため、鉛は、任意の熱的方法によって他の金属から除去され得る。あるいは、鉛はまた、カソード材料から好適な電解液(例えば、硫酸、フルオロホウ酸、またはメタンスルホン酸)に(電気)化学的に溶解されてもよい。
【0026】
さらに企図される態様では、本明細書に提示されるプロセスは、鉛材料の溶媒/電解液ベースのリサイクルプロセス、特に鉛電池リサイクルプロセスに特に適していることが、特に認識されるべきである。そのようなリサイクルプロセスは、鉛ペーストの上流脱硫、二酸化鉛を除去または変換するための(脱硫または非脱硫)鉛ペーストの処理、鉛ペーストの熱処理、ならびに洗浄および/または乾燥ステップなどの、様々な構成要素を有し得る。電解液の前処理と統合するのに適した例示的プロセスとしては、WO 2015/077227、WO 2016/081030、WO 2016/183428、およびUS 62/860,928に記載されたものが挙げられ、すべて参照により本明細書に組み込まれる。したがって、発明者らは、1つ以上の鉛還元反応器に流体的にかつ上流に結合された、本明細書に提示されるような1つ以上の研磨反応器を特に企図し、研磨反応器(単数または複数)および鉛還元反応器(単数または複数)は、電解液が研磨反応器から鉛還元反応器に流れることができるように同時に動作し得る。
【0027】
さらに、上記の説明は、鉛イオン含有電解液からの銀および/または銅の除去/回収に主に注目しているが、本明細書に提示される装置および方法は、電解液が、別のより卑な金属のものより低い(多くの場合、実質的に低い)濃度で、より貴な(正の電位の)金属を含有する任意の状況にもより広く適用され得ることが理解されるべきである。これらの場合、電極電位の制御と高表面カソード(好ましくは、貫流カソード)の使用との組み合わせは、より卑な金属の存在下におけるカソードでのより貴な金属の優先的還元を有利に可能とすることが理解されるべきである。したがって、異なる視点から見ると、選択された非鉛金属(例えば、銀)が、鉛含有電解液から除去および還元され得る一方で、他の非鉛金属(例えば、銅)は、鉛含有電解液中に残る。
【0028】
実施例
以下の実施例は、発明の主題の態様を説明するために提供され、決して発明を限定するものと解釈されるべきではない。特に記述がない限り、鉛富化電解液は、脱硫鉛ペーストをメタンスルホン酸に溶解することから得られた。大抵の場合、鉛イオン濃度は20~200mg/Lであり、約5.2mg/Lの銀、および約8mg/Lの銅を含有した。
【0029】
電解研磨反応器を、
図2および
図3に例示的に示すような、ベンチスケールの貫流電解装置として構成した。アノード材料は、イリジウムでコーティングされたチタンメッシュであり、カソードは、黒鉛フェルトに導電的に結合されたステンレス鋼メッシュであった。黒鉛フェルトは、100mL/分の流量を用いて
図2に示すような貫流カソードとして使用される100cm
2の作用表面を有していた。鉛富化電解液を、電極での金属蓄積による背圧が流れを制限するまで、約6~8時間/日、シングルパス閉鎖系のセルを通して送った。供給溶液および排出溶液を、銅濃度および銀濃度について検査した。金属の電解回収を、表1に示すような対応する金属へのイオンの還元のための考慮事項/パラメータを使用して、好適な電流で行った。より具体的には、表1は、カソードでの反応の例示的な電極電位を示し、表2は、アノードでの反応の例示的な電極電位を示す。表3は、例示的な前処理反応に使用された電池電位を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0030】
図4の結果から分かるように、銀は、200mAの電流(および約2.0mA/cm
2の電流密度)で選択的にめっきされ、銅は、約350mAの電流(および約3.5mA/cm
2の電流密度)で完全に回収された。時間経過または回収を見ると、銅レベルおよび銀レベルは、約200g/Lの鉛イオンの存在下で約5200ppbの銀イオンおよび約8000ppbの銅イオンを含有する溶液を使用して、実行時間の最初の53時間で検出限界を下回った。
図5から分かるように、55時間の実行時間後、流出液中の銅濃度は著しく上昇したが、銀濃度は供給濃度以下のままであった。カソード中の金属を分析すると、鉛、銅、および銀の共析が観察され、約80%の金属が鉛であり、12%の金属が銅であり、8%の金属が銀であった。
図6は、本明細書で使用されたさらなる式および計算を提供する。最後に、本明細書のプロセスは、鉛蓄電池のリサイクルだけでなく、一次鉛の生産および鉛めっきにおけるすべてのプロセスに適していることに留意すべきである。
【0031】
本明細書における値の範囲の列挙は、単に範囲内にある各別個の値を個々に指す簡単な方法として機能することを意図する。本明細書に別の指示がない限り、各個々の値は、本明細書に個々に列挙されたかのように明細書に組み込まれる。本明細書に記載されたすべての方法は、本明細書に別の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で行われ得る。本明細書の特定の実施形態に関して提供されたあらゆる例、または例示的な文言(例えば、「など」)の使用は、単に本開示の全範囲をより良く明らかにすることを意図し、別に特許請求される発明の範囲に限定を課すものではない。明細書中の文言は、特許請求される発明の実施に不可欠な特許請求されていないいずれかの要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0032】
すでに記載されたもの以外のさらに多くの修正が、本明細書で開示された概念の全範囲から逸脱することなく可能であることが当業者には明らかであろう。したがって、開示された主題は、添付の特許請求の範囲以外で制限されるべきではない。さらに、明細書および特許請求の範囲の両方の解釈において、すべての用語は、文脈と一致するできるだけ広い方法で解釈されるべきである。特に、用語「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」は、要素、構成要素、またはステップを非限定的に指すものと解釈されるべきであり、言及された要素、構成要素、またはステップが、存在するか、または利用されるか、または明示的に言及されていない他の要素、構成要素、もしくはステップと組み合わされてよいことを示す。明細書および特許請求の範囲が、A、B、C…およびNからなる群から選択されるものの少なくとも1つを指す場合、文章は、A+NまたはB+Nなどではなく、群からの1つの要素のみを要求するものと解釈されるべきである。