(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】二液硬化型熱伝導性グリース用組成物、熱伝導性グリース、および電子機器
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20241003BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09K5/14 101E
H01L23/36 D ZAB
(21)【出願番号】P 2022528839
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2021020817
(87)【国際公開番号】W WO2021246397
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2020098753
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真洋
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/080256(WO,A1)
【文献】特開2005-170971(JP,A)
【文献】特開2007-099821(JP,A)
【文献】特開2013-124257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
C08K
C08L
C09K 5/14
C10M
C10N
F21V 29/503
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一剤と、第二剤と、を備え、
前記第一剤が、液状樹脂(A-1)100重量部と、平均粒径が15~100μmの金属アルミニウム(B-1)140重量部~560重量部と、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、及び窒化ホウ素からなる群より選択され、平均粒径が0.3~10μmの範囲に含まれる一又は複数の熱伝導性フィラー(C-1)と、ヒドロシリル付加反応用触媒(D-1)と、を含み、
前記第二剤が、液状樹脂(A-2)100重量部と、平均粒径が15~100μmの金属アルミニウム(B-2)140重量部~560重量部と、酸化アルミニウム、窒化アルミ、及び窒化ホウ素からなる群より選択され、平均粒径が0.3~10μmの範囲に含まれる一又は複数の熱伝導性フィラー(C-2)と、を含み、
前記熱伝導性フィラー(C-1)又は前記熱伝導性フィラー(C-2)の少なくとも一方が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種以上の、平均粒径が0.3~1.5μmの第1熱伝導性フィラー(C-1-1)又は第1熱伝導性フィラー(C-2-1)を、含む、
二液硬化型熱伝導性グリース用組成物。
【請求項2】
前記液状樹脂(A-1)が、分子中に2個以上のアルケニル基を有し、25℃、せん断速度10s
-1における粘度が50~3000mPa・sであるポリオルガノシロキサン(A-1-1)を含み、
前記ヒドロシリル付加反応用触媒(D-1)が、白金化合物触媒を含む、
請求項1に記載の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物。
【請求項3】
前記液状樹脂(A-2)が、分子中に2個以上のアルケニル基を有し、25℃、せん断速度10s
-1における粘度が50~3000mPa・sであるポリオルガノシロキサン(A-2-1)、及び
分子中に3個以上のSi-H基を有するポリオルガノシロキサン(A-2-2)を含む、
請求項1又は2に記載の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物。
【請求項4】
前記第一剤及び前記第二剤に含まれる、前記液状樹脂(A-1)及び前記液状樹脂(A-2)のアルケニル基のモル数の総和と、前記第二剤に含まれる前記液状樹脂(A-2)のSi-H基のモル数との比が、0.1~5.0である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物。
【請求項5】
前記第一剤および前記第二剤の、25℃、せん断速度10s
-1における粘度が、20Pa・s~300Pa・sである、
請求項1~4のいずれか一項に記載の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物が有する、第一剤と第二剤を硬化させてなる、
熱伝導性グリース。
【請求項7】
熱伝導率が、0.5W/mK以上であり、かつ
厚み1mmあたりの絶縁破壊電圧が、1kV以上である、
請求項6に記載の熱伝導性グリース。
【請求項8】
発熱体と金属筐体とが、請求項6又は7に記載の熱伝導性グリースを介して配置された、
電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二液硬化型熱伝導性グリース用組成物、熱伝導性グリース、および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンのCPU(中央処理装置)等の発熱性電子部品の小型化、高出力化に伴い、それらの電子部品から発生する単位面積当たりの熱量は非常に大きくなってきている。それらの熱量はアイロンの約20倍の熱量にも達する。この発熱性の電子部品を長期にわたり故障しないようにするためには、発熱する電子部品の冷却が必要とされる。冷却には金属製のヒートシンクや筐体が使用され、さらに発熱性電子部品からヒートシンクや筐体などの冷却部へ効率よく熱を伝えるために熱伝導性材料が使用される。この熱伝導性材料を使用する理由として発熱性電子部品とヒートシンク等を熱伝導性材料がない状態で接触させた場合、その界面には微視的にみると、空気が存在し熱伝導の障害となる。したがって、界面に存在する空気の代わりに熱伝導性材料を発熱性電子部品とヒートシンク等の間に存在させることによって、効率よく熱を伝えることが行われている。
【0003】
熱伝導性材料としては、熱硬化性樹脂に熱伝導性粉末を充填し、シート状に成形した熱伝導性パッドや熱伝導性シート、流動性のある樹脂に熱伝導性粉末を充填し塗布や薄膜化が可能な熱伝導性グリース、発熱電子部品の作動温度で軟化又は流動化する相変化型熱伝導性材料などがある。
【0004】
近年、SiCやGaNパワー半導体による高速化、小型化に伴い、素子の温度が200℃以上となってきており、熱伝導性材料としても高熱伝導のニーズが大きく、また使用厚みを小さくできる観点より熱伝導性グリースの使用が増えてきている。
【0005】
しかし、熱伝導率を向上させるため、熱伝導率の大きい導電フィラーである金属アルミニウム粉、銅粉末、銀粉末等を多量に混合すると、熱伝導性グリースの熱伝導率は向上できるが、絶縁性が悪化してしまい、絶縁性が要求される電子機器の用途には使用できない。また、絶縁フィラーであるアルミナ、窒化アルミ、シリカ等の粉末を熱伝導率向上のため多量に混合すると、絶縁性は確保できるが、熱伝導性グリースの粘度が大幅に上昇していまい、使用時の塗布が難しくなる。
【0006】
特許文献1では、低熱抵抗化のため、平均粒径の異なる2種類の微粉アルミニウム粉と微粉アルミナを必須成分として含む熱伝導性グリースの記載があり、また特許文献2では金属アルミニウム、窒化アルミおよび酸化亜鉛を必須成分として含む熱伝導性グリースが提案されているが、絶縁性の有無には触れられていない。一方、特許文献3では液状シリコーンに対する金属粉末の配合量と、酸化亜鉛粉末の配合量を最適化することにより、熱伝導性とともに電気絶縁性に優れた熱伝導性シリコーングリース組成物が得られることが記載されている。しかし、酸化亜鉛粉末は比表面積が大きく、液状シリコーンに高充填すると粘度が上昇してしまい、塗布面で悪くなる課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-170971号公報
【文献】特開2010-248669号公報
【文献】特開2007-099821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとしている課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、低粘度で塗布性に優れ、高熱伝導性と電気絶縁性を両立した二液硬化型熱伝導性グリース用組成物、熱伝導性グリース、およびそれを用いた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、二液硬化型の熱伝導性グリース用組成物において、特定の平均粒径の金属アルミニウム粉と、特定の平均粒径の熱伝導性フィラーとを、適切な混合比で混合することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
第一剤と、第二剤と、を備え、
前記第一剤が、液状樹脂(A-1)100重量部と、平均粒径が15~100μmの金属アルミニウム(B-1)140重量部~560重量部と、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、及び窒化ホウ素からなる群より選択され、平均粒径が0.3~10μmの範囲に含まれる一又は複数の熱伝導性フィラー(C-1)と、ヒドロシリル付加反応用触媒(D-1)と、を含み、
前記第二剤が、液状樹脂(A-2)100重量部と、平均粒径が15~100μmの金属アルミニウム(B-2)140重量部~560重量部と、酸化アルミニウム、窒化アルミ、及び窒化ホウ素からなる群より選択され、平均粒径が0.3~10μmの範囲に含まれる一又は複数の熱伝導性フィラー(C-2)と、を含み、
前記熱伝導性フィラー(C-1)又は前記熱伝導性フィラー(C-2)の少なくとも一方が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種以上の、平均粒径が0.3~1.5μmの第1熱伝導性フィラー(C-1-1)又は第1熱伝導性フィラー(C-2-1)を、含む、
二液硬化型熱伝導性グリース用組成物。
〔2〕
前記液状樹脂(A-1)が、分子中に2個以上のアルケニル基を有し、25℃、せん断速度10s-1における粘度が50~3000mPa・sであるポリオルガノシロキサン(A-1-1)を含み、
前記ヒドロシリル付加反応用触媒(D-1)が、白金化合物触媒を含む、
〔1〕に記載の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物。
〔3〕
前記液状樹脂(A-2)が、分子中に2個以上のアルケニル基を有し、25℃、せん断速度10s-1における粘度が50~3000mPa・sであるポリオルガノシロキサン(A-2-1)、及び
分子中に3個以上のSi-H基を有するポリオルガノシロキサン(A-2-2)を含む、
〔1〕又は〔2〕に記載の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物。
〔4〕
前記第一剤及び前記第二剤に含まれる、前記液状樹脂(A-1)及び前記液状樹脂(A-2)のアルケニル基のモル数の総和と、前記第二剤に含まれる前記液状樹脂(A-2)のSi-H基のモル数との比が、0.1~5.0である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物。
〔5〕
前記第一剤および前記第二剤の、25℃、せん断速度10s-1における粘度が、20Pa・s~300Pa・sである、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物。
〔6〕
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物が有する、第一剤と第二剤を硬化させてなる、
熱伝導性グリース。
〔7〕
熱伝導率が、0.5W/mK以上であり、かつ
厚み1mmあたりの絶縁破壊電圧が、1kV以上である、
〔6〕に記載の熱伝導性グリース。
〔8〕
発熱体と金属筐体とが、〔6〕又は〔7〕に記載の熱伝導性グリースを介して配置された、
電子機器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低粘度で塗布性に優れ、高熱伝導性と電気絶縁性を両立した二液硬化型熱伝導性グリース用組成物、熱伝導性グリース、およびそれを用いた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
〔二液硬化型熱伝導性グリース用組成物〕
本実施形態の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物は、第一剤と、第二剤と、を備える。第一剤は、液状樹脂(A-1)100重量部と、平均粒径が15~100μmの金属アルミニウム(B-1)140重量部~560重量部と、酸化アルミニウム、窒化アルミ、及び窒化ホウ素からなる群より選択され、平均粒径が0.3~10μmの範囲に含まれる一又は複数の熱伝導性フィラー(C-1)と、ヒドロシリル付加反応用触媒(D-1)と、を含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。また、第二剤は、液状樹脂(A-2)100重量部と、平均粒径が15~100μmの金属アルミニウム(B-2)140重量部~560重量部と、酸化アルミニウム、窒化アルミ、及び窒化ホウ素からなる群より選択され、平均粒径が0.3~10μmの範囲に含まれる一又は複数の熱伝導性フィラー(C-2)と、を含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。
【0014】
さらに、本実施形態において、第一剤に含まれる熱伝導性フィラー(C-1)又は第二剤に含まれる熱伝導性フィラー(C-2)の少なくとも一方は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種以上の、平均粒径が0.3~1.5μmの第1熱伝導性フィラー(C-1-1)又は第1熱伝導性フィラー(C-2-1)を、含む。第一剤に含まれる平均粒径が0.3~1.5μmの熱伝導性フィラーを第1熱伝導性フィラー(C-1-1)といい、第二剤に含まれる平均粒径が0.3~1.5μmの熱伝導性フィラーを第1熱伝導性フィラー(C-2-1)という。
【0015】
第一剤の、25℃、せん断速度10s-1における粘度は、好ましくは20~300Pa・sであり、より好ましくは20~250Pa・sであり、さらに好ましくは20~200Pa・sであり、よりさらに好ましくは20~150Pa・sである。第一剤の粘度が20Pa・s以上であることにより、熱伝導性グリースを縦置きで使用する場合であっても、硬化反応までの間、熱伝導性グリースのたれ落ちを抑制することができ取り扱い性がより向上する傾向にある。また、第一剤の粘度が300Pa・s以下であることにより、第一剤及び第二剤をスタティックミキサーで混合したときの塗布性がより向上する傾向にある。
【0016】
第二剤の、25℃、せん断速度10s-1における粘度は、好ましくは20~300Pa・sであり、より好ましくは20~250Pa・sであり、さらに好ましくは20~200Pa・sであり、よりさらに好ましくは20~150Pa・sである。第二剤の粘度が20Pa・s以上であることにより、熱伝導性グリースを縦置きで使用する場合であっても、硬化反応までの間、熱伝導性グリースのたれ落ちを抑制することができ取り扱い性がより向上する傾向にある。また、第二剤の粘度が300Pa・s以下であることにより、第一剤及び第二剤をスタティックミキサーで混合したときの塗布性がより向上する傾向にある。
【0017】
また、第一剤と第二剤とを混合した時の、25℃、せん断速度10s-1における粘度は、好ましくは20Pa・s~300Pa・sであり、より好ましくは20Pa・s~250Pa・sであり、さらに好ましくは20Pa・s~200Pa・sであり、よりさらに好ましくは20Pa・s~150Pa・sである。
【0018】
以下、第一剤と第二剤に含まれる各成分について詳説する。
【0019】
(液状樹脂(A-1)及び(A-2))
液状樹脂(A-1)及び(A-2)としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂が挙げられる。これらの中では、耐熱性、柔軟性の点でシリコーン樹脂が好ましい。液状樹脂(A-1)及び(A-2)は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なお、「液状」とは、常温常圧下において、樹脂単独で流動性を有する液体状態であることをいう。
【0020】
シリコーン樹脂としては、常温で液状である付加反応型のシリコーン樹脂が好ましい。付加反応型のシリコーン樹脂としては、特に制限されないが、例えば、分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン、分子中に3個以上のSi-H基を有するポリオルガノシロキサンが挙げられる。なお、ポリオルガノシロキサンが有するアルケニル基としては、ビニル基が好ましい。
【0021】
第一剤は、液状樹脂(A-1)として、これらポリオルガノシロキサンの一方を含むことが好ましく、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンを含むことがより好ましい。これにより、第一剤内でヒドロシリル付加反応用触媒(D-1)による、アルケニル基とSi-H基の付加反応が生じない。また、第二剤は、液状樹脂(A-2)として、これらポリオルガノシロキサンの一方を含むことが好ましく、Si-H基を有するポリオルガノシロキサンを含むことがより好ましく、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサン及びSi-H基を有するポリオルガノシロキサンを共に含むことがさらに好ましい。
【0022】
アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンにおいて、アルケニル基の結合位置は特に制限されず、ポリオルガノシロキサンの側鎖及び/又は末端に結合することができる。アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンにおけるアルケニル基の数は、2以上であれば特に制限されないが、好ましくは2~10であり、より好ましくは2~5である。アルケニル基の数が上記範囲内であることにより、得られる熱伝導性グリースの高温における硬度変化がより抑制され、また粘度が減少することにより塗布性がより向上する傾向にある。
【0023】
さらに、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンのアルケニル基含有量は、好ましくは0.10~2.0mol/kgであり、より好ましくは0.10~1.0mol/kgであり、さらに好ましくは0.10~0.6mol/kgである。アルケニル基含有量が上記範囲内であることにより、得られる熱伝導性グリースの高温における硬度変化がより抑制され、また粘度が減少することにより塗布性がより向上する傾向にある。なお、ポリオルガノシロキサンがアルケニル基としてビニル基を有する場合には、アルケニル基含有量は、ビニル基含有量ともいう。
【0024】
Si-H基を有するポリオルガノシロキサンにおいて、Si-H基の結合位置は特に制限されず、ポリオルガノシロキサンの側鎖及び/又は末端に結合することができる。Si-H基を有するポリオルガノシロキサンにおけるSi-H基の数は、3以上であれば特に制限されないが、好ましくは3~60であり、より好ましくは10~50であり、さらに好ましくは25~45である。Si-H基の数が上記範囲内であることにより、得られる熱伝導性グリースの高温における硬度変化がより抑制され、また粘度が減少することにより塗布性がより向上する傾向にある。
【0025】
さらに、Si-H基を有するポリオルガノシロキサンのSi-H基含有量は、好ましくは1.0~15mol/kgであり、より好ましくは3.0~12mol/kgであり、さらに好ましくは5.0~10mol/kgである。Si-H基含有量が上記範囲内であることにより、得られる熱伝導性グリースの高温における硬度変化がより抑制され、また粘度が減少することにより塗布性がより向上する傾向にある。
【0026】
側鎖にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンは、例えば、下記式(1)で表される構成単位を有していてもよい。また、側鎖にSi-H基を有するポリオルガノシロキサンは、例えば、下記式(2)で表される構成単位を有していてもよい。
【化1】
【0027】
上記式(1)及び(2)において、Rは、各々独立して、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3-トリフロロプロピル基、2-(パーフロロブチル)エチル基、2-(パーフロロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基などを示す。
【0028】
このなかでも、Rとしては、アルキル基及びアリ-ル基が好ましく、メチル基、フェニル基、炭素数6~18のアルキル基がより好ましい。
【0029】
上記式(1)及び(2)において、nは、構成単位の繰り返し数を示す。nは、ポリオルガノシロキサンが側鎖に有するアルケニル基又はSi-H基の数と同程度とすることができる。
【0030】
上記の中でも、液状樹脂(A-1)は、分子中に2個以上のアルケニル基を有し、25℃、せん断速度10s-1における粘度が50~3000mPa・sであるポリオルガノシロキサン(A-1-1)を含むことが好ましい。また、液状樹脂(A-2)は、少なくとも分子中に2個以上のアルケニル基を有し、25℃、せん断速度10s-1における粘度が50~3000mPa・sのポリオルガノシロキサン(A-2-1)と、両末端または側鎖に少なくとも3個以上のSi-H基を有するポリオルガノシロキサン(A-2-2)を含むことが好ましい。これにより、第一剤と第二剤とを混合することにより、ヒドロシリル化反応がより効果的に進行し、架橋結合を有する3次元網目構造を有する架橋硬化物が得られる。
【0031】
ポリオルガノシロキサン(A-1-1)及び(A-2-1)の25℃、せん断速度10s-1における粘度は、それぞれ、好ましくは50~3000mPa・sであり、より好ましくは50~1000mPa・sであり、さらに好ましくは50~500mPa・sである。ポリオルガノシロキサン(A-1-1)及び(A-2-1)の粘度が50mPa・s以上であることにより、得られる熱伝導性グリースの高温における硬度変化がより抑制される傾向にある。また、ポリオルガノシロキサン(A-1-1)及び(A-2-1)の粘度が3000mPa・s以下であることにより、得られる熱伝導性グリースの粘度が減少し、塗布性がより向上する傾向にある。
【0032】
また、ポリオルガノシロキサン(A-2-2)の25℃、せん断速度10s-1における粘度は、好ましくは10~1000mPa・sであり、より好ましくは10~500mPa・sであり、さらに好ましくは10~200mPa・sである。ポリオルガノシロキサン(A-2-2)の粘度が10mPa・s以上であることにより、得られる熱伝導性グリースの高温における硬度変化がより抑制される傾向にある。また、ポリオルガノシロキサン(A-2-2)の粘度が1000mPa・s以下であることにより、得られる熱伝導性グリースの粘度が減少し、塗布性がより向上する傾向にある。なお、第一剤がSi-H基を有するポリオルガノシロキサンを含む場合、そのポリオルガノシロキサンの粘度についても上記ポリオルガノシロキサン(A-2-2)と同様とすることができる。
【0033】
液状樹脂(A-1)及び(A-2)に含まれる各成分の粘度は、粘度計を用いて、常法により測定することができる。
【0034】
液状樹脂(A-1)又は(A-2)の含有量は、第一剤又は第二剤の総量に対して、それぞれ、好ましくは2.0~25質量%であり、より好ましくは4.0~18質量%であり、さらに好ましくは6.0~13質量%である。液状樹脂(A-1)又は(A-2)の含有量が上記範囲内であることにより、得られる熱伝導性グリースの高温における硬度変化がより抑制され、また粘度が減少することにより塗布性がより向上する傾向にある。
【0035】
さらに、ポリオルガノシロキサン(A-1-1)又は(A-2-1)の含有量は、液状樹脂(A-1)又は(A-2)の総量に対して、それぞれ、好ましくは70~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%である。ポリオルガノシロキサン(A-1-1)又は(A-2-1)の含有量が上記範囲内であることにより、得られる熱伝導性グリースの高温における硬度変化がより抑制され、また粘度が減少することにより塗布性がより向上する傾向にある。
【0036】
第二剤がアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン及びSi-H基を有するポリオルガノシロキサンを共に含む場合において、第二剤におけるSi-H基を有するポリオルガノシロキサンの含有量は、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンとSi-H基を有するポリオルガノシロキサンの合計100重量部に対して、好ましくは0.5~15重量部であり、より好ましくは1.5~10重量部であり、さらに好ましくは2.5~5.0重量部である。
【0037】
また、第一剤および第二剤に含まれる、液状樹脂(A-1)及び液状樹脂(A-2)のアルケニル基のモル数の総和と、第二剤に含まれる、液状樹脂(A-2)のSi-H基のモル数との比は、好ましくは0.1~5.0であり、より好ましくは1.0~4.0であり、さらに好ましくは1.5~3.5である。上記比が0.1以上であることにより、熱伝導性グリースの硬化性がより向上する傾向にある。また、上記比が5.0以下であることにより、熱伝導性グリースの脆化がより抑制され、好適な弾性体が得られる傾向にある。
【0038】
(金属アルミニウム(B-1)及び(B-2))
金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)の平均粒径は、それぞれ、15~100μmであり、好ましくは20~80μmであり、より好ましくは20~60μmであり、さらに好ましくは20~40μmである。金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)の平均粒径が15μm以上であることにより、得られる熱伝導性グリースの熱伝導率を向上することができる。また、金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)の平均粒径が100μm以下であることにより、得られる熱伝導性グリースの貯蔵安定性がより良好となり、液状樹脂(A-1)及び(A-2)と金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)との分離がより抑制される。
【0039】
金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)の平均粒径は、メジアン径であり、実施例に記載の方法により測定することができる。また、金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0040】
また、金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)は、それぞれ、1種単独で用いても、平均粒径の異なるものを2種以上用いてもよい。金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)を、それぞれ複数種用いる場合には、そのいずれもが、上記範囲に含まれるものとする。したがって、例えば、平均粒径が15μm未満の金属アルミニウムと平均粒径が100μm超過の金属アルミニウムとを混合したとしても、その混合後の金属アルミニウムは、本実施形態の金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)には該当しない。
【0041】
金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)の形状としては、特に制限されないが、例えば、球状、不定形状などが挙げられる。このなかでも、球状が好ましい。このような形状を有することにより、金属アルミニウム(B-1)及び(B-2)の充填量を向上しつつ、粘度がより下がる傾向にある。
【0042】
金属アルミニウム(B-1)又は(B-2)の含有量は、液状樹脂(A-1)又は(A-2)100重量部に対して、それぞれ、140~560重量部であり、好ましくは200~500重量部であり、より好ましくは200~400重量部である。金属アルミニウム(B-1)又は(B-2)の含有量が140重量部以上であることにより、得られる熱伝導性グリースの熱伝導率がより向上する。また、金属アルミニウム(B-1)又は(B-2)の含有量が560重量部以下であることにより、熱伝導性グリースの絶縁性がより向上する。
【0043】
さらに、金属アルミニウム(B-1)又は(B-2)の体積割合は、熱伝導性フィラー(C-1)と金属アルミニウム(B-1)との総和、又は、熱伝導性フィラー(C-2)と金属アルミニウム(B-2)との総和に対して、それぞれ、好ましくは5~70体積%であり、より好ましくは15~50体積%であり、さらに好ましくは20~40体積%である。金属アルミニウム(B-1)又は(B-2)の体積割合が上記範囲内であることにより、熱伝導性グリースの熱伝導率がより向上し、また、粘度がより低下し、塗布性がより向上する傾向にある。
【0044】
(熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2))
熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)は、酸化アルミニウム、窒化アルミ、及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種以上である。熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)は、それぞれ、材質の異なるものを1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。このなかでも、少なくとも酸化アルミニウムを含むことが好ましい。このような熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)を用いることにより、熱伝導性フィラー(C-1)及び/又は(C-2)が金属アルミニウム(B-1)及び/又は(B-2)の隙間に入り込み、得られる熱伝導性グリースの熱伝導率がより向上する。
【0045】
熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)の平均粒径は、それぞれ、0.30~10μmであり、好ましくは0.40~7.0μmである。熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)の平均粒径が上記範囲内であることにより、熱伝導性フィラー(C-1)及び/又は(C-2)が金属アルミニウム(B-1)及び/又は(B-2)の隙間に入り込み易くなる。また、熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)の平均粒径が0.30μm以上であることにより、熱伝導性グリースの粘度が低くなり塗布性がより向上する。また、熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)の平均粒径が10μm以下であることにより、金属アルミニウム(B-1)及び/又は(B-2)の隙間に入り込み高充填化が可能となるため、熱伝導性グリースの熱伝導率がより向上する。
【0046】
熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)は、それぞれ、1種単独で用いても、平均粒径あるいは材質の異なるものを2種以上用いてもよい。熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)をそれぞれ複数種用いる場合には、そのいずれもが、上記範囲に含まれるものとする。したがって、例えば、平均粒径が0.30μm未満の酸化アルミニウムと平均粒径が10μm超過の酸化アルミニウムとを混合したとしても、その混合後の酸化アルミニウムは、本実施形態の熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)には該当しない。
【0047】
熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)の平均粒径は、メジアン径であり、実施例に記載の方法により測定することができる。また、熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0048】
さらに、熱伝導性フィラー(C-1)は、平均粒径が0.30~1.5μmの第1熱伝導性フィラー(C-1-1)、平均粒径が1.6~3.5μmの第2熱伝導性フィラー(C-1-2)、及び平均粒径が3.7~10μmの第3熱伝導性フィラー(C-1-3)の少なくともいずれかを含んでいてもよい。このなかでも、第1熱伝導性フィラー(C-1-1)を含むことが好ましく、第1熱伝導性フィラー(C-1-1)、第2熱伝導性フィラー(C-1-2)、及び第3熱伝導性フィラー(C-1-3)を含むことがより好ましい。これにより、熱伝導性グリースの粘度が低くなり塗布性がより向上するとともに、熱伝導率がより向上する傾向にある。
【0049】
また、熱伝導性フィラー(C-2)は、平均粒径が0.30~1.5μmの第1熱伝導性フィラー(C-2-1)、平均粒径が1.6~3.5μmの第2熱伝導性フィラー(C-2-2)、及び平均粒径が3.7~10μmの第3熱伝導性フィラー(C-2-3)の少なくともいずれかを含んでいてもよい。このなかでも、第1熱伝導性フィラー(C-2-1)を含むことが好ましく、第1熱伝導性フィラー(C-2-1)、第2熱伝導性フィラー(C-2-2)、及び第3熱伝導性フィラー(C-2-3)を含むことがより好ましい。これにより、熱伝導性グリースの粘度が低くなり塗布性がより向上するとともに、熱伝導率がより向上する傾向にある。
【0050】
なお、本実施形態においては、第一剤に含まれる熱伝導性フィラー(C-1)又は第二剤に含まれる熱伝導性フィラー(C-2)の少なくとも一方が、第1熱伝導性フィラー(C-1-1)又は第1熱伝導性フィラー(C-2-1)を含む。第一剤及び/又は第二剤が第1熱伝導性フィラーを含むことにより、熱伝導性グリースの粘度が低くなり塗布性がより向上するとともに、熱伝導率がより向上する。
【0051】
第1熱伝導性フィラー(C-1-1)又は(C-2-1)の含有量は、液状樹脂(A-1)又は(A-2)100重量部に対して、それぞれ、好ましくは10~400重量部であり、より好ましくは50~300重量部であり、さらに好ましくは100~250重量部である。第1熱伝導性フィラー(C-1-1)又は(C-2-1)の含有量が上記範囲内であることにより、熱伝導性グリースの粘度が低くなり塗布性がより向上するとともに、熱伝導率がより向上する傾向にある。
【0052】
第2熱伝導性フィラー(C-1-2)又は(C-2-2)の含有量は、液状樹脂(A-1)又は(A-2)100重量部に対して、それぞれ、好ましくは50~700重量部であり、より好ましくは100~500重量部であり、さらに好ましくは150~450重量部である。第2熱伝導性フィラー(C-1-2)又は(C-2-2)の含有量が上記範囲内であることにより、熱伝導性グリースの粘度が低くなり塗布性がより向上するとともに、熱伝導率がより向上する傾向にある。
【0053】
第3熱伝導性フィラー(C-1-3)又は(C-2-3)の含有量は、液状樹脂(A-1)又は(A-2)100重量部に対して、それぞれ、好ましくは200~900重量部であり、より好ましくは300~800重量部であり、さらに好ましくは400~700重量部である。第3熱伝導性フィラー(C-1-3)又は(C-2-3)の含有量が上記範囲内であることにより、熱伝導性グリースの粘度が低くなり塗布性がより向上するとともに、熱伝導率がより向上する傾向にある。
【0054】
熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)の形状としては、特に制限されないが、例えば、球状、不定形状などが挙げられる。このなかでも、球状が好ましい。このような形状を有することにより、熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)の充填量を向上しつつ粘度がより下がる傾向にある。
【0055】
熱伝導性フィラー(C-1)又は(C-2)の含有量は、液状樹脂(A-1)又は(A-2)100重量部に対して、それぞれ、好ましくは300~1800重量部であり、より好ましくは400~1700重量部であり、さらに好ましくは700~1500重量部であり、よりさらに好ましくは800~1250重量部である。熱伝導性フィラー(C-1)又は(C-2)の含有量が300重量部以上であることにより、金属アルミニウム(B-1)及び/又は(B-2)の隙間を埋めることができ、得られる熱伝導性グリースの熱伝導率がより向上する傾向にある。また、熱伝導性フィラー(C-1)又は(C-2)の含有量が1800重量部以下であることにより、得られる熱伝導性グリースの粘度がより低下し、塗布性がより向上する傾向にある。
【0056】
(ヒドロシリル付加反応用触媒(D-1))
ヒドロシリル付加反応用触媒(D-1)としては、特に制限されないが、例えば、白金化合物触媒、ロジウム化合物触媒、パラジウム化合物触媒が挙げられる。このなかでも、白金化合物触媒が好ましい。このようなヒドロシリル付加反応用触媒(D-1)を用いることにより、液状樹脂(A-1),(B-1)の硬化性がより向上する傾向にある。
【0057】
白金化合物触媒としては、特に制限されないが、例えば、単体の白金、白金化合物、白金担持無機粉末が挙げられる。白金化合物としては、特に制限されないが、例えば、塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金配位化合物等が挙げられる。また、白金担持無機粉末としては、特に制限されないが、例えば、白金担持のアルミナ粉末、白金担持のシリカ粉末、白金担持のカーボン粉末が挙げられる。また、白金化合物触媒は、第一剤を調製する際に単独で配合してもよいし、他の成分、例えば液状樹脂(A-1)と予め混合した状態で配合してもよい。
【0058】
ヒドロシリル付加反応用触媒(D-1)の含有量は、液状樹脂(A-1)及び(A-2)の総和100重量部に対して、好ましくは0.1~500ppmであり、より好ましくは1.0~400ppmであり、さらに好ましくは10~200ppmである。ヒドロシリル付加反応用触媒(D-1)の含有量が上記範囲内であることにより、液状樹脂(A-1),(B-1)の硬化性がより向上する傾向にある。
【0059】
(その他の添加剤(E-1)及び(E-2))
第一剤および第二剤は、上記成分に加え、必要に応じて、上記液体樹脂(A-1)及び(A-2)以外のオルガノシラン、着色剤等、反応遅延剤等の添加剤(E-1)及び(E-2)をそれぞれ含有してもよい。
【0060】
上記オルガノシランとしては、特に制限されないが、例えば、下記一般式(3)で表されるオルガノシランが挙げられる。このようなオルガノシランを用いることにより、上記熱伝導性フィラー(C-1)及び(C-2)に対する液体樹脂(A-1)及び(A-2)の濡れ性がより向上し、粘度が低下するとともに熱伝導性がより向上する傾向にある。
R1
aR2
bSi(OR3)4-(a+b) (3)
(R1は、各々独立して、炭素数1~15のアルキル基であり、R2は、各々独立して、炭素数1~8の飽和又は不飽和の一価の炭化水素基であり、R3は、各々独立して、炭素数1~6のアルキル基であり、aは1~3であり、bは0~2であり、a+bは1~3である。)
【0061】
式(3)中、R1は、各々独立して、炭素数1~15のアルキル基であり、特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。このなかでも、R1は、好ましくは炭素数6~12のアルキル基である。
【0062】
R2は、炭素数1~8の飽和又は不飽和の一価の炭化水素基であり、特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3-トリフロロプロピル基、2-(パーフロロブチル)エチル基、2-(パーフロロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基などが挙げられる。
【0063】
R3は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの炭素数1~6の1種もしくは2種以上のアルキル基であり、好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0064】
aは、1~3の整数であり、好ましくは1である。また、bは、0~2の整数であり、好ましくは0である。さらに、a+bは1~3の整数であり、好ましくは1である。
【0065】
第一剤又は第二剤に含まれるオルガノシランの含有量は、金属アルミニウム(B-1)又は(B-2)と熱伝導性フィラー(C-1)又は(C-2)との合計量100重量部に対して、それぞれ、好ましくは0.01~10重量部であり、より好ましくは0.1~5.0重量部である。オルガノシランの含有量が上記範囲内であれば、濡れ性を効果的に向上させることができる。
【0066】
第一剤又は第二剤に含まれる着色剤の含有量は、第一剤又は第二剤の合計100重量部に対して、それぞれ、好ましくは0.05~0.2重量部である。
【0067】
反応遅延剤としては、特に制限されないが、例えば、1-エチニル-1-シクロヘキサノールが挙げられる。
【0068】
反応遅延剤の含有量は、第一剤又は第二剤の合計100重量部に対して、それぞれ、好ましくは0.05~0.2重量部である。
【0069】
〔熱伝導性グリース〕
本実施形態の熱伝導性グリースは、上記二液硬化型熱伝導性グリース用組成物が有する、第一剤と第二剤を硬化させてなるものである。「硬化」には、第一剤と第二剤を半硬化させたものも含まれる。例えば、予め部分的にヒドロシリル化反応を進ませた状態の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物を熱伝導性グリースとして使用することもできる。
【0070】
熱伝導性グリースの25℃における熱伝導率は、好ましくは0.5W/mK以上であり、より好ましくは1.0W/mK以上であり、さらに好ましくは2.0W/mK以上である。熱伝導率が0.5W/mK以上であることにより、電子部品に対して良好な放熱性を得ることができる。熱伝導率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0071】
また、熱伝導性グリースの厚み1mmあたりの絶縁破壊電圧は、好ましくは1.0kV以上であり、より好ましくは1.5kV以上である。絶縁破壊電圧が1.0kV以上であることにより、十分な電気絶縁性が確保される。絶縁破壊電圧はJIS C2110に準拠して測定することができる。
【0072】
〔電子機器〕
本実施形態の電子機器は、発熱体と金属筐体とが、上記熱伝導性グリースを介して配置されたものである。
【0073】
ここで、発熱体としては、特に制限されないが、例えば、モーター、電池パック、車載電源システムに用いられる回路基板、パワートランジスタ、マイクロプロセッサ等の発熱する電子部品等が挙げられる。このなかでも、車載用の車載電源システムに用いられる電子部品が好ましい。また、金属筐体としては、特に制限されないが、例えば、放熱や吸熱を目的として構成されたヒートシンクなどが挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を更に詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
<A:液状樹脂>
a-1:ビニル基含有ポリオルガノシロキサン(エルケム シリコーンズ社製:製品名「621V100」、25℃、せん断速度10s-1における粘度:100mPa・s、ビニル基含有量:0.33mol/kg、分子中の平均ビニル基数:2個)
a-2:SiH基含有ポリオルガノシロキサン(エルケム シリコーンズ社製:製品名「626V25H7」、25℃、せん断速度10s-1における粘度:25mPa・s、Si-H基含有量:7mol/kg、分子中の平均Si-H基数:36個)
【0076】
<B:金属アルミニウム>
b-1:平均粒径:25μm、球状、ヒカリ素材工業社製、製品名「Al-99.7%(-38μm)」
b-2:平均粒径:20μm、球状、東洋アルミニウム社製、製品名「TFH-A20P」
b-3:平均粒径:48μm、球状、ヒカリ素材工業社製、製品名「Al-99.7%(-63μm)」
b-4:平均粒径:66μm、球状、ヒカリ素材工業社製、製品名「Al-99.7%(-150μm)」
【0077】
<C:熱伝導性フィラー>
c-1:酸化アルミニウム、平均粒径:5μm、球状、住友化学社製、製品名「AA-5」
c-2:酸化アルミニウム、平均粒径:2μm、球状、住友化学社製、製品名「AA-2」
c-3:酸化アルミニウム、平均粒径:0.5μm、球状、住友化学社製、製品名「AA-0.5」
c-4:窒化アルミニウム、平均粒径:5μm、球状、MARUWA社製、製品名「A-05-F」
c-5:窒化アルミニウム、平均粒径:1μm、球状、MARUWA社製、製品名「A-01-F」
c-6:窒化ホウ素、平均粒径:5μm、鱗片状、デンカ社製、製品名「HGP」
c-7:酸化亜鉛、平均粒径:0.5μm、球状、本荘ケミカル社製、製品名「酸化亜鉛1種」
【0078】
<D:ヒドロシリル付加反応用触媒>
白金化合物触媒:エルケム社製、製品名「シリコリース キャタ 12070」
【0079】
<E:オルガノシラン>
e-1:n-デシルトリメトキシシラン(ダウ東レ社製、製品名「Z-6210」)
【0080】
〔実施例1~10及び比較例1~3〕
各原料を、2Lトリミックス装置に表1~表3に示す割合で配合し、常温にて減圧混練し、各熱伝導性グリース用組成物の第一剤および第二剤をそれぞれ調製した。なお、表中における各成分の量に関する記載は、特に断りがない限り、重量部を意味する。
【0081】
(平均粒径の測定)
金属アルミニウムBおよび熱伝導性フィラーCの平均粒径は、島津製作所製「レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-20」を用いて測定を行った。評価サンプルは、ガラスビーカーに50mLの純水と測定する金属アルミニウムB又は熱伝導性フィラーCを5g添加して、スパチュラを用いて撹拌し、その後超音波洗浄機で10分間、分散処理を行って調製した。分散処理を行った金属アルミニウムB又は熱伝導性フィラーCの分散液を、スポイトを用いて、装置のサンプラ部に一滴ずつ添加して、吸光度が安定したところで測定を行った。なお、平均粒径としては、D50(メジアン径)を採用した。
【0082】
(粘度の測定)
ポリオルガノシロキサンa-1,a-2、第一剤、第二剤、および熱伝導性グリースの各粘度は、回転式レオメータ「HANKE MARSIII」(Thermo FisherScientific社製)を用いて測定した。粘度は、直径35mmφのパラレルプレートを用い、ギャップ0.5mm、温度25℃、せん断速度10s-1の条件で得られた値を用いた。また、第一剤と第二剤をスタティックミキサーで1:1の体積比で混合して得られた熱伝導性グリースの粘度、すなわち第一剤と第二剤の混合粘度も上記と同様に測定した。
【0083】
〔塗布性の評価〕
第一剤および第二剤を、2液型のシリンジ(容量25cc×2、MIX PAC社製)にそれぞれ充填し、ハンドガン、スタティックミキサーを取り付けて25℃にて吐出した。その吐出の状態に基づいて、第一剤および第二剤を混合した時の塗布性を評価した。評価基準を以下に示す。
○:スタティックミキサーより容易に吐出可能
△:スタティックミキサーより吐出可能だが、ある程度の力(およそ10Kgf)が必要であった
×:スタティックミキサーより吐出不可能
【0084】
〔熱伝導率の評価〕
熱伝導性グリースの熱伝導率は、樹脂材料熱抵抗測定装置(株式会社日立テクノロジー社製)を用い、ASTM D5470に準拠した方法により測定した。具体的には、第一剤及び第二剤をスタティックミキサーで1:1の体積比で混合して得られた混合物を、厚み0.2mm、0.5mm及び1.0mmで面積10mm×10mmの銅治具に挟み込み、それぞれの厚みの熱抵抗値を測定した。熱抵抗値(℃/W)を縦軸とし、熱伝導性樹脂組成物の厚さ(mm)を横軸として得られる直線の傾きLより、以下の式より熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を算出した。
熱伝導率 (W/mK)=10/L
【0085】
〔絶縁破壊電圧の評価〕
絶縁破壊電圧のサンプルとして、第一剤および第二剤をスタティックミキサーで体積比1:1で混合後、厚み1mmの状態で成形し24時間保持して硬化反応を進行させ、熱伝導性グリース硬化体を得た。次に、得られた熱伝導性グリース硬化体を50mm角に打ち抜き、25mmφの分銅を熱伝導性グリース硬化体に乗せ、JIS C2101に準拠した方法で、前記分銅に0kVから0.2kV(DC)ごとに電圧を印加した。各電圧で20秒間保持できたら、その電圧はクリアと判定し、クリアの最大値を絶縁破壊電圧とした。
【0086】
【表1】
※1:B成分とC成分の総和に対する含有量(ppm)
【0087】
【表2】
※1:B成分とC成分の総和に対する含有量(ppm)
【0088】
【表3】
※1:B成分とC成分の総和に対する含有量(ppm)
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の二液硬化型熱伝導性グリース用組成物は、第一剤と第二剤を混合して硬化させることで熱伝導性グリースを構成するための組成物であり、発熱体と金属筐体とを熱的に結合して用いる熱伝導性グリースの材料として産業上の利用可能性を有する。