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特許7565356ヒドロゲル中のヒアルロン酸ナトリウム含有量を決定する方法
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  • 特許-ヒドロゲル中のヒアルロン酸ナトリウム含有量を決定する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ヒドロゲル中のヒアルロン酸ナトリウム含有量を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20241003BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
G01N21/27 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022532594
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2020083926
(87)【国際公開番号】W WO2021110593
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】102019000022626
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】522215045
【氏名又は名称】ウビ - ケア エッセ.エッレ.エッレ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モッキ、ロベルト
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108801952(CN,A)
【文献】国際公開第2011/070948(WO,A1)
【文献】特表2005-508854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
G01N 21/00~21/10
G01N 21/17~21/61
G01N 31/00~31/22
G01N 1/00~ 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲルのヒアルロン酸含有量を決定する方法であって、前記方法は、以下の工程:
a.試薬Aとして、硫酸中の四ホウ酸ナトリウムの溶液を調製する工程と、
b.エタノール中にカルバゾールを溶解することで、試薬Bを調製する工程と、
c.水性溶液中に前記ヒドロゲルを溶解することで、試験溶液を調製する工程と、
d.前記試験溶液を超音波によって巨視的に均一な溶液を得るのに充分な期間処理する工程と、
e.水性溶液中にグルクロン酸又はグルクロン酸含有物質を溶解することで、基準ストック溶液を調製する工程と、
f.水性溶液中の基準ストック溶液の希釈液によって、0.0005w/v%~0.0100w/v%に包含される濃度で、少なくとも3つの基準溶液を調製する工程と、
g.試薬Aと、試薬Bと、基準溶液、試験溶液、水性溶液(ブランク)、及び場合により干渉用の溶液(架橋剤試料又は添加剤試料)のうちの1つとを混合することによって、試験管を調製し、各試験管を水浴上に少なくとも5分間置き、次いでそれらを室温まで冷却する工程と、
h.前記ブランク及び場合により干渉用の前記試料に対して、500~580nmに包含される波長における工程gで調製された試験管の各々の吸光度を読み取る工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
工程cの後に、以下の工程:
c2.前記試験溶液を、室温より高い温度まで、少なくとも15分間、加熱する工程
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程gにおいて、前記水浴が熱浴である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程dにおいて、超音波処理が、0.5W/kg~50W/kgの比出力で行われる、請求項1~3に記載の方法。
【請求項5】
超音波処理が、500J/kg~30kJ/kgに包含される比エネルギーで行われる、請求項1~4に記載の方法。
【請求項6】
試薬Aが、硫酸中の0.95w/v%の四ホウ酸二ナトリウムの溶液であり、試薬Bが、エタノール中の0.125w/v%のカルバゾールの溶液である、請求項1~5に記載の方法。
【請求項7】
工程cにおいて、前記試験溶液が、少なくとも二重に調製される、請求項1~6に記載の方法。
【請求項8】
工程gが、以下:
部の試薬Aを各試験管へ添加し、前記試験管内の前記試薬Aの上へ、各試料(ブランク:水溶液を1部、基準溶液:基準ストック溶液の各希釈液を1部、および、試料:各試験溶液を1部から選択されるもの積層し、前記管を振盪して、前記試料によって作成された二重相を溶解し、各試料を水浴中に少なくとも5分間置き、次いでそれらを室温まで冷却し、各管へ0.2部の試薬Bを添加し、前記管を振盪して前記二重相を溶解し、各管を温水浴中に少なくとも5分間置くこと、
の通りに実行される、請求項1~7に記載の方法。
【請求項9】
工程hの後に、ヒアルロン酸ナトリウムの含有率が、実験吸光度値を基準標準曲線で内挿することによって計算される、請求項1~8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロゲル中のヒアルロン酸ナトリウムの含有量を測定する方法を対象とする。本発明は、特に、充填剤として使用され、かつヒアルロン酸及び架橋ヒアルロン酸を含有する、ヒドロゲルを対象とする。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸はヒアルロナン又はヒアルロン酸塩(HA)とも呼ばれ、その様々な生理学的機能によって、重要なグリコサミノグリカンであると考えられている。このポリマーは、β1→3及びβ1→4グリコシド結合によって連結された、グルクロン酸(UDP-GlcUA)及びN-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)の二糖の反復から構成される(Purcell BP、Kim IL、Chuo V、Guinen T、Dorsey SM、Burdick JA.(「Incorporation of sulfated hyaluronic acid macromers into degradable hydrogel scaffolds for sustained molecule delivery.」、Biomater Sci.、2009年;第27巻:第417~281頁、Volpi N、Schiller J、Stern R、Soltes L.Role、「metabolism,chemical modifications and applications of hyaluronan.」Curr Med Chem.、2009年;第16巻:第1718~452頁)。
【0003】
他のグリコサミノグルカンとは対照的に、HAとは唯一の非硫酸化ポリマーであって、これにより分子を剛直かつ真っ直ぐにすることができる。これは、全ての哺乳動物細胞、両生類及び細菌の原形質膜において(Chen WYJ、「Abatangelo G.Functions of hyaluronan in wound repair.」、Wound Repair Regen.、1999年;第7巻:第79~893頁)、その産生生物に応じたいくつかのアイソフォームを有するヒアルロン酸合成酵素(hyaluronic acid synthases:HAS)と呼ばれる膜内在性酵素によって産生される。ヒトにおいては、HAは全ての器官に存在し、特に結合組織に豊富に存在する(Fraser JR、Laurent TC.、「Turnover and metabolism of hyaluronan.」、Ciba Found Symp.、1989年;第143巻(第41~49号):第281~5頁)。HAは硝子体液中の軟骨組織(Brewton RG、Mayne R.、「Mammalian vitreous humor contains networks of hyaluronan molecules:electron microscopic analysis using the hyaluronan-binding region(G1)of aggrecan and link protein.」、Exp Cell Res.、1992年;第198巻:第237~49頁)、関節の滑液(Engstrom-Laurent A.、「Hyaluronan in joint disease.」、J Intern Med.、1997年;第242巻:第57~606頁)、及び臍帯(Yanagishita M.、「Proteoglycans and hyaluronan in female reproductive organs.」、EXS.、1994年;第70巻:第179~90頁)において高濃度に達し、組織のホメオスタシスの維持に関与する(Fraser JR、Laurent TC、Laurent UB.、「Hyaluronan:its nature,distribution,functions and turnover.」、J Intern Med.、1997年;第242巻:第27~33頁)。
【0004】
加齢に伴い、HA産生が減少することで、結果として皮膚の脱水及び弾力性の喪失が生じ、しわのある外観に寄与することが報告されている(Gold M.、「The science and art of hyaluronic acid dermal filler use in esthetic applications.」J Cosmet Dermatol.、2009年;第8巻:第301~7頁)。HAはいくつかの化学的特性を特徴とし、異なる用途(高い吸湿性、その粘弾性の性質、高い生体適合性、非免疫原性、及び分解された場合の毒性産物の欠如)に対して魅力的である。HAの使用は、以下において結果を出している:眼科用化粧品において(De Figueiredo ES、de Macedo AC、de Figueiredo PFR、de Figueiredo RS.、「Use of hyaluronic acid in ophthalmology.」、Arq Bras Oftalmol.、2010年;第73巻:第92~5頁)、外科手術において(Kogan G、Soltes L、Stern R、Gemeiner P.、「Hyaluronic acid:a natural biopolymer with a broad range of biomedical and industrial applications.」、Biotechnol Lett.、2007年;第29巻:第17~25頁)、薬物送達システムとして(Brown MB、Jones SA.、「Hyaluronic acid:a unique topical vehicle for the localized delivery of drugs to the skin.」、J Eur Acad Dermatol Venereol.、2005年;第19巻:第308~18頁)、リウマチ学において(Greenberg DD、Stoker A、Kane S、Cockrell M、Cook JL.、「Biochemical effects of two different hyaluronic acid products in a co-culture model of osteoarthritis.」、Osteoarthritis Cartilage.、2006年;第14巻:第814~22頁)、耳鼻咽喉科において(Ramos HVL、Neves LR、Martins JRM、Nader HB、Pontes P.、「Influence of aging on hyaluronic acid concentration in the vocal folds of female rats.」、2012年;第78巻:第14~8頁)、及び泌尿器科において(Schiraldi C.、Gatta A La.、Rosa M De、「Biotechnological production and application of hyaluronan in biopolymers」;2010年、第387~412頁)。しかしながら、前述の全ての用途のうち、皮膚充填剤における皮膚科学の分野では、HAの使用はより頻繁である。そして、組織工学において、HAは、アレルギー反応又は免疫応答を引き起こすことなく生物に移植することができる組織のための、機械的及び物理的に適切な支持体として使用される(Nesti LJ、Li W-J、Shanti RM、Jiang YJ、Jackson W、Freedman BA、Kuklo TR、Giuliani JR、Tuan RS.、「Intervertebral disc tissue engineering using a novel hyaluronic acid-nanofibrous scaffold(HANFS)amalgam.」、Tissue Eng Part A.、2008年;第14巻:第1527~37頁)。
【0005】
皮膚充填剤は、以前は手術でしか達成できなかった若返りと審美的改善を低コストかつ限られた回復時間なしに実現できるため、近年急速に人気が高まっている。米国美容外科学会(American Society for Aesthetic Plastic Surgery:ASAPS)からのデータによれば、160万を超える皮膚充填剤処置が2011年に行われ、これらは神経調節物質に続き、米国で行われた2番目に人気のある非外科的美容手技となった。後者の手技は、皮膚充填剤注射と共同して行われることが多い(American Society for Aesthetic Plastic Surgery.、Cosmetic surgery national data bank statistics 2012.、http://www.surgery.org/sites/ default/files/ASAPS-2011-Stats.pdf.より利用可能、2013年9月13日に接続)。皮膚充填剤への公衆の認識及び受け入れが高まるにつれて、市場の規模も大きくなる。皮膚充填剤の主な適応症は、皺及び襞の充満、並びに疾患又は年齢に起因する軟組織損失の矯正である(Rzany B、Hilton S、Prager Wら、「Expert guideline on the use of por-cine collagen in aesthetic medicine.」、J Dtsch Dermatol Ges.、2010年;第8巻(第3号):第210~217頁)。充填剤は、頬及び顎の増大、下瞼のくぼみ(tear trough)矯正、鼻の再形成、顔面中央部のボリューム増大、口唇増大、手の若返り、及び顔面非対称の矯正を含む、ボリューム置換及び増強手技(Goldberg DJ.、「Legal ramifications of off-label filler use.」、Dermatol Ther.、2006年;第19巻(第3号):第189~193頁)に対して、ますます使用されている。
【0006】
中程度の持続時間である生分解性充填剤、例えば非架橋コラーゲン及びヒアルロン酸(HA)充填剤は、極めて迅速に身体へと再吸収されるため、これらの効果は比較的短命である。HA誘導体は、欧州及び米国の両方で最も広く使用されている生分解性充填剤であり(Zielke H、Wolber L.、Wiest L、「Rzany B.Risk profiles of different injectable fillers:results from the Injectable Filler Safety Study(IFS Study).」、Dermatol Surg.、2008年;第34巻(第3号):第326~335頁)、概して、架橋の源及び程度、並びに各生成物の濃度及び粒径に応じて、6~18ヶ月持続する効果を有する。HAは、N-アセチルグルコサミン及びグルクロン酸の直鎖ポリマー二量体であり、それらの二量体を架橋するために使用される独自の方法、それらの鎖架橋の程度及び方法、それらの粒子の均一性及びサイズ、並びにそれらの濃度が異なる(Funt D、Pavicic T.、「Dermal fillers in aesthetics:an overview of adverse events and treatment approaches.」、Clin Cosmet Investig Dermatol.、2013年:第6巻第295~316頁)。
【0007】
機械的特性を改善し、かつインビボでHAの持続時間を延長するために、架橋手順が広く行われている。一般的な方法は、異なる架橋剤を用いてHAポリマー鎖を三次元ネットワークへと共有結合的に架橋することによってヒドロゲルを形成することであり(Agerup,B.、Berg,P.、及びAkermark,C.(2005年)、「Non-animal stabilized hyaluronic acid:a new formulation for the treatment of osteoarthritis.」、BioDrugs.(2005年)、第19巻(第1号)第23~30頁;Edsman,K.、Hjelm,R.、Larkner,H.、Nord,L.I.、Karlsson,A.、Wiebensjo,A.ら、「Intra-articular duration of DurolaneTM after single injection into the rabbit knee.」、Cartilage.(2011年)、第2巻(第4号)第384~388頁)、なかでも最も一般的な方法は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、ジビニルスルホン(DVS)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)であると考えられる。架橋によって形成されたHAヒドロゲルは、多くの医学的及び審美的用途にとって重要になっている。ヒドロゲルの機械的及び物理的特性は、修飾及び架橋の程度に依存する(La Gatta,A.、Schiraldi,C.、Papa,A.、及びDe Rosa,M.(2011年)、「Comparative analysis of commercial dermal fillers based on crosslinked hyaluronan:physical characterization and in vitro enzymatic degradation.」、Polymer Degradation and Stability.(2011年)、第96巻(第4号)第630~636頁;Stocks,D.、Sundaram,H.、Michaels,J.、Durrani,M.J.、Wortzman,M.S.、及びNelson,D.B.(2011年)、「Rheological evaluation of the physical properties of hyaluronic acid dermal fillers.」、Journal of Drugs in Dermatology、第10巻(第9号)第974~980頁)。機械的特性と生体適合性とに対する修飾及び架橋の程度の関係の確立において、架橋パラメータを決定するための方法及び定義を有することは極めて重要である。
【0008】
皮膚充填剤はクラスIII医療機器として分類される。したがって皮膚充填剤は、認証機関を反映する4桁の数字を含む適切なCEマーキングを、それらの滅菌包装上に表示しなければならない。更に、これらの製品はまた、付属するリーフレット又はデジタルリーフレットへのリンクも備えていなければならない。製品指令に加えて、米国に在住する医療従事者は、これらの製品の使用を、列挙されている食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)承認の注射可能な充填剤のみに制限しなければならない。残念ながらそのようなリストはEUには存在しないが、しかしながら、そのようなリストを作成するための努力がなされている。この欠点により、何が市場において合法的に存在するのかを正確に知ることが極めて困難になっている。それにもかかわらず、医薬品と同様に、違法なHA含有製品はオンラインで購入することができ、税関、又は異なる出荷会社での定期点検中に持ち去られている。その結果、疑わしいHA含有皮膚充填剤中のHAの割合を分析する品質検査機関による要求が高まっている。
【0009】
現在のHA含有量の定量方法は、原料中に存在するHAの量を決定するための、ヨーロッパ薬局方で解説されている方法に基づく(Ph.Eur、ヨーロッパ薬局方、欧州評議会、ストラスブール、フランス、第8版、2016年)。この比色法では、カルバゾールは、HAの酸加水分解後に得られるウロン酸と相互作用し、530nmで吸収する青紫色を生成する。このアッセイは、ヒドロゲルに適用可能なほど特異的ではないと考えられる。したがって、ヒドロゲル中の直鎖状天然HAを同定及び定量するための代替方法が開発されている。これらの方法としては、フォトダイオードアレイ検出器(Photo Diode Array Detector:PDA)、光散乱、蛍光又は質量分析(mass spectrometry:MS)検出器のいずれかを用いる、HPLCベースの方法が挙げられる(S.B.Frazier、K.A.Roodhouse、D.E.Hourcade、及びL.Zhang、「Open Glycosci.」、2008年、第1巻第31~39頁;N.Volpi、F.Galeotti、B.Yang、及びR.J.Linhardt、「Nat.Protoc.」、2014年、第9巻第541~558頁)。加えて、酵素結合免疫吸着アッセイ(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)ベースの方法及び比濁法もまた開発されている(S.Haserodt、M.Aytekin、及びR.A.Dweik、「Glycobiology」、2011年、第21巻第175~183頁;N.Oueslati、P.Leblanc、C.Harscoat-Schiavo、E.Rondags、S.Meunier、R.Kapel、及びI.Marc、「Carbohydr.Polym.」、2014年、第4巻第102~108頁)。しかしながら、比濁法及びカルバゾール法のみが架橋HAの定量に適合することが報告されており、これは多くの場合、この分子が皮膚充填剤中に存在する好ましい形態である。第1の方法は、カルバゾールアッセイと同様に、他のGAGからの干渉の可能性にもまた悩まされる。したがって、疑わしいHA含有皮膚充填剤の日常的に分析するための、信頼性が高く、効率的で、低コストで、かつ容易に適用可能な架橋HAの同定並びに定量化戦略を開発することが、公衆衛生部門にとって極めて重要である。
【0010】
近年、特異的かつ選択的なHA同定及び定量法が提示されており、カルバゾールのマイクロアッセイより前の更なる抽出工程が、疑わしい違法試料を扱う際に遭遇する可能性のあった干渉問題を解決することができる(Vanhee C.、Desmedt B.、Baudewyns S.、Kamugisha A.、Vanhamme Me Bothy.、J.L.、Kovackova S.、Courselle P.、Deconinck E.、「Characterization of suspected dermal fillers containing hyaluronic acid.」、「Anal.Methods」、2017年、第9巻第4175頁)。しかしながら、この方法はかなり長く、使用されるヒドロゲルの種類及び架橋HAの種類に応じて、結果の広い変動性を依然として示す。
【0011】
信頼できる様式でヒドロゲルのHA含有量を測定することができる、ヒドロゲル中のHAを定量するための信頼できる方法が、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ヒドロゲルのHA含有量を決定するための方法であって、超音波処理工程を含む方法を、対象とする。超音波処理工程は、ヒドロゲルを溶解し、HA含有量のより信頼性の高い決定を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、例のR値及び標準曲線の式を報告する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ヒドロゲル中のHA含有量を決定するための方法であって、超音波処理工程を利用する方法を、対象とする。驚くべきことに、HAを含有する架橋ヒドロゲルを超音波処理することによって、ヒドロゲルのHA含有量を再現可能な方法で低い標準偏差により決定することが可能であることが見出された。
【0015】
水溶液中のHAを決定するために最も一般的に使用される方法は、参照により本明細書に組み込まれる、ヨーロッパ薬局方5.0の第2434~7頁に定義されている。カルバゾールとの反応によるグルクロン酸の別の決定方法は、T.Bitter及びH.M.Muirにより開示されており(「A modified Uronic Acid Carbazole Reaction」、An.Biochem.第4巻、第330~334頁(1962年))、これは参照により本明細書に組み込まれている。本発明は、ヒドロゲルに適用される、ヨーロッパ薬局方の方法及びBitterらの方法の両方に対する重要な改善を示す。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、本方法は、以下の工程を含む:
a.試薬Aとして、硫酸中の四ホウ酸ナトリウムの溶液を調製する工程。
b.エタノール中にカルバゾールRを溶解することで、試薬Bを調製する工程。
c.試験する物質を水性溶液中に溶解することによって、試験溶液を少なくとも2倍に調製する工程。
c2.場合により、試験溶液を、室温より高い温度、好ましくは75℃~85℃の温度まで、少なくとも15分間、好ましくは少なくとも2時間、より好ましくは約3時間、好ましくは連続的に撹拌しながら、加熱する工程。
d.試験溶液を超音波によって巨視的に均一な溶液を得るのに充分な期間処理する工程、
e.水性溶液中にグルクロン酸又はグルクロン酸含有物質を溶解することで、基準ストック溶液(参照ストック溶液)を調製する工程、好ましくは、グルクロン酸又はグルクロン酸含有物質の濃度は、0.05~0.15重量%の間に含まれる。
f.水性溶液中の基準ストック溶液の希釈液によって、好ましくは0.0005w/v%~0.0100w/v%に包含される濃度、好ましくは0.0010w/v%~0.0050w/v%に包含される濃度で、少なくとも3つの基準溶液(参照溶液)を調製する工程、
g.試薬Aと、試薬Bと、基準溶液、試験溶液、水性溶液(ブランク)、及び場合により干渉用の溶液(架橋剤試料又は添加剤試料)のうちの1つとを混合することによって、試験管(テストチューブ)を調製し、各試験管を水浴上に少なくとも5分間置き、次いでそれらを室温まで冷却する工程、好ましくは、水浴は沸騰水浴であり、持続時間は約15分である。
h.ブランク及び場合により干渉用の試料に対して、500~580nmに包含される波長、好ましくは約530nmの波長における吸光度を読み取る工程。
【0017】
ヒアルロン酸ナトリウムの含有率は、既知の濃度である基質から開始して得られた、実験吸光度値を基準標準曲線(参照標準曲線)で内挿することによって計算された。計算詳細:
-ブランク試料の平均吸光度値を、各試料の平均吸光度値から引く、
-架橋剤試料の平均値(利用可能な場合)を、各試料の平均吸光度値から引く、
-重み付けされた試料中のヒアルロン酸ナトリウムの含有率を、各反復の実験吸光度値を基準標準曲線で内挿して計算する。
【0018】
架橋剤及び添加剤の干渉に関しては、2つの可能性が存在する。ヒドロゲルの組成(架橋剤の種類を含む)、その分量、及び他の添加剤の存在に関する情報が利用可能である場合、したがって、添加剤及び架橋剤をヒドロゲル中に存在する量で含む溶液を調製することが可能である(干渉溶液)。他の全ての場合において、ヒドロゲルの正確な組成を知ることはできない。したがって、架橋剤及び添加剤の干渉を考慮することは不可能である。分析の最後に得られたヒアルロン酸の割合値は、おそらく、試料中のHAの有効量よりも高いであろう。
【0019】
最終生成物中のヒアルロン酸ナトリウムの含有率を、ヒドロゲルの比率(NaHA%×100)/gに基づいて計算する。各反復の割合値は±20%の許容限界に従う。モーダル値(modal value)、平均値、及び標準偏差を計算する。
【0020】
工程c2は、試験溶液を含む試料を75~85℃で3時間加熱する工程を導入する。この工程は必須ではなく、取り除くことができる。しかしながら、直後に続く超音波処理工程の効率を改善するのに役立つため好ましい。
【0021】
工程d(試料の超音波処理)は、従来技術の方法に対する最も重要な貢献を示す。実際に、超音波処理の後、試料は以前よりもはるかに均一であり、これは分析のより高い再現性に反映されることが注目されている。工程c2は有用であるが、ヒドロゲルの破壊を達成する必要はない。しかしながら、工程c2が使用されない場合、ヒドロゲルを可溶化するために、より厳しい超音波処理条件を適用する必要がある。
【0022】
好ましい実施形態では、超音波処理工程は、0.5W/kg~50W/kgの間で含まれる出力を用いて行われ、より好ましくは、超音波処理は0.1~10W/kgの比出力で行われる。超音波処理中に使用される比エネルギーに関して、これは500J/kg~30kJ/kg、好ましくは2kJ/kg~20kJ/kgに包含される。
【0023】
これらのパラメータは工程c2の性能によってもまた影響を受ける。工程c2を行う場合、より低い出力又はより低いエネルギーの超音波処理の使用が可能である。したがって、本方法が工程c2を含む場合、エネルギーの好ましい範囲は、1kJ/kg~10kJ/kgである。工程c2が行われない場合、好ましいエネルギー範囲は、3kJ/kg~30kJ/kgである。
【0024】
処理の出力及び持続時間に影響を及ぼす別の重要な因子は、架橋ヒドロゲルの化学的性質である。一般に、新しい各ゲルでは、ゲルの良好な溶解を起こす実験条件を決定するために、いくつかの試験を行う必要がある。
【0025】
工程a及び工程bは、好ましくはヨーロッパ薬局方に従って、すなわち、試薬Aでは四ホウ酸二ナトリウム0.95gを硫酸100.0ml中に溶解し、試薬Bではカルバゾール0.125gをエタノール100.0mlに溶解して行う。
【0026】
工程eにおいて、基準ストック溶液は、50.00~150.00mgのグルクロン酸又はグルクロン酸含有物質を100.00gの水中に溶解することによって調製される。グルクロン酸含有物質としては、ヒアルロン酸の使用が特に好ましい。
【0027】
実験の部
ヒドロゲルの分析
試薬Aは、四ホウ酸ナトリウム0.95gを、硫酸100.00ml中に溶解することによって調製した。
【0028】
試薬Bは、カルバゾール0.125gを、エタノール100.00ml中に溶解することによって調製した。
【0029】
約0.170gの量を水中に溶解し、追加の水で総重量を100gにすることによって、ヒドロゲルの3つの独立した試料を調製する。ヒドロゲル重量を報告する:S1:0.1723g、S2:0.1808g、S3:0.1728g。
【0030】
ヒドロゲル分散液を85℃で3時間加熱する。次いで、0.22Wに相当する30%の増幅で、超音波処理機Q500(Qsonica LLC.)により超音波処理した。超音波処理後、ヒドロゲルを水中に分散させる。
【0031】
50mgのHAを100gの水中に溶解することによって、基準溶液ストックを調製する。この溶液から、次の濃度(重量%)で5種の溶液を調製する:0.001、0.002、0.003、0.004、0.005。表1では、標準曲線から得られた、530nmにて読み取った吸光度データを報告する。平均値及び標準偏差は、標準曲線の各点の反復について計算する。
【表1】
【0032】
ブランク(グルクロン酸を含有する物質の0.000%)について得られた平均値を、標準曲線の各点について得られた平均値から引く(表2)。R値及び標準曲線の式を図1で計算する。
【表2】
【0033】
予め4℃まで冷却した各試験管に、5.0mlの新たに調製した試薬Aを添加した。各試料を、以下の通り、試験管内の試薬A上へと慎重に積層させた(ブランク:1.0mlの水R、基準溶液:1.0mlの基準ストック溶液の各希釈液、試料:1.0mlの各試験溶液)。管を穏やかに振盪して、試料により作成された二重相を溶解した。各試験管に0.20mlの試薬Bを添加した。管に再度蓋をし、シャックし(shacked)、再び正確に15分間水浴中に置いた。管を室温まで冷却した。各試料を二重の吸光度について分析し、各々を8つの反復について分析した。試料の平均吸光度値を計算した(表3)。
【表3】
【0034】
試料について得られた各吸光度値では、ブランク試料の平均吸光度値を引いた(表4)。
【表4】
【0035】
本方法の点Cにて報告されているように、秤量されたヒドロゲル中に存在し、100gの水中に希釈されたNaHAを指す割合値を、試料の各吸光度値に対する標準曲線によって得られた式から計算した。例えば、0.0513/9.9705=0.00514%。
【0036】
最終生成物中に存在するNaHAの割合を、試料の各吸光度値について(表5)、次の比率により計算した:A:100=B:x;x=B・100/A
式中、
A=試料の調製に使用したヒドロゲルの重量、
B=秤量したヒドロゲル中に存在し、水で希釈したNaHAの割合値。
B=0.00514と計算された最初の試料Sの場合、x=0.00514×100/0.1723=2.98326である。
【表5】
【0037】
モーダル値を取得し、そのモーダル値に対して許容限界(±20%)を計算する。
*±20%の許容限界を超える値。
モーダル値:2.87%。
【表6】
【0038】
許容区間内に集めた値のうち、NaHAの平均値%及び標準偏差を計算した。例えば、平均値=2.76%、標準偏差:0.16%。
なお、本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のとおり要約される。
[1].
ヒドロゲルのヒアルロン酸含有量を決定する方法であって、前記方法は、以下の工程:
a.試薬Aとして、硫酸中の四ホウ酸ナトリウムの溶液を調製する工程と、
b.エタノール中にカルバゾールを溶解することで、試薬Bを調製する工程と、
c.水性溶液中に前記ヒドロゲルを溶解することで、試験溶液を調製する工程と、
d.前記試験溶液を超音波によって巨視的に均一な溶液を得るのに充分な期間処理する工程と、
e.水性溶液中にグルクロン酸又はグルクロン酸含有物質を溶解することで、基準ストック溶液を調製する工程と、
f.水性溶液中の基準ストック溶液の希釈液によって、好ましくは0.0005w/v%~0.0100w/v%に包含される濃度、好ましくは0.0010w/v%~0.0050w/v%に包含される濃度で、少なくとも3つの基準溶液を調製する工程と、
g.試薬Aと、試薬Bと、基準溶液、試験溶液、水性溶液(ブランク)、及び場合により干渉用の溶液(架橋剤試料又は添加剤試料)のうちの1つとを混合することによって、試験管を調製し、各試験管を水浴上に少なくとも5分間置き、次いでそれらを室温まで冷却する工程と、
h.前記ブランク及び場合により干渉用の前記試料に対して、500~580nmに包含される波長、好ましくは約530nmの波長における吸光度を読み取る工程と、
を含む、方法。
[2].
工程cの後に、以下の工程:
c2.前記試験溶液を、室温より高い温度、好ましくは75~85℃の温度まで、少なくとも15分間、好ましくは少なくとも2時間、より好ましくは約3時間、好ましくは連続的に撹拌しながら、加熱する工程
を更に含む、上記項目1に記載の方法。
[3].
工程gにおいて、前記水浴が熱浴であり、前記時間が好ましくは約15分である、上記項目1又は2に記載の方法。
[4].
工程dにおいて、超音波処理が、0.5W/kg~50W/kgの比出力で行われる、上記項目1~3に記載の方法。
[5].
超音波処理が、500J/kg~30kJ/kgに包含される比エネルギーで行われる、上記項目1~4に記載の方法。
[6].
試薬Aが、硫酸中の0.95w/v%の四ホウ酸二ナトリウムの溶液であり、試薬Bが、エタノール中の0.125w/v%のカルバゾールの溶液である、上記項目1~5に記載の方法。
[7].
工程cにおいて、前記試験溶液が、少なくとも二重に調製される、上記項目1~6に記載の方法。
[8].
工程gが、以下:
好ましくは予め冷却した、5部の試薬Aを各試験管へ添加し、前記試験管内の前記試薬Aの上へ、各試料を以下の通り(ブランク:水溶液を1部、基準溶液:基準ストック溶液の各希釈液を1部、試料:各試験溶液を1部)積層し、前記管を振盪して、前記試料によって作成された二重相を溶解し、各試料を水浴中に少なくとも5分間、好ましくは沸騰水浴中に15分間置き、次いでそれらを室温まで冷却し、各管へ0.2部の試薬Bを添加し、前記管を振盪して前記二重相を溶解し、各管を温水浴中に少なくとも5分間、好ましくは沸騰水浴中に15分間置くこと、
の通りに実行される、上記項目1~7に記載の方法。
[9].
工程hの後に、ヒアルロン酸ナトリウムの含有率が、実験吸光度値を基準標準曲線で内挿することによって計算される、上記項目1~8に記載の方法。
図1