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  • 特許-人工毛髪用繊維 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】人工毛髪用繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/10 20060101AFI20241003BHJP
   A41G 3/00 20060101ALI20241003BHJP
   D01F 6/48 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D01F1/10
A41G3/00 A
D01F6/48 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022571905
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2021038937
(87)【国際公開番号】W WO2022137766
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2020214636
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【弁理士】
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】村岡 喬梓
(72)【発明者】
【氏名】相良 祐貴
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/121054(WO,A1)
【文献】特公昭48-040689(JP,B1)
【文献】特開2007-284810(JP,A)
【文献】国際公開第2006/093009(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/221773(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
A61F 2/00
A61F 2/02 - 2/80
A61F 3/00 - 4/00
A61L 15/00 - 33/18
D01F 1/00 - 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂と微粒子と、を含み、
前記微粒子全体に対する、粒子径2μm未満の微粒子の含有量Cと、粒子径2μm以上5μm未満の微粒子の含有量Cとの差|C-C|が、70質量%以下であり、
粒子径5μm以上の微粒子の含有量Cが、25質量%未満であり、
前記微粒子が、有機微粒子を含む
人工毛髪用繊維。
【請求項2】
前記粒子径2μm未満の微粒子の前記含有量Cが、前記微粒子全体に対して、10~80質量%であり、
前記粒子径2μm以上5μm未満の微粒子の前記含有量Cが、前記微粒子全体に対して、20~90質量%である、
請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
前記微粒子が、有機微粒子である、
請求項1又は2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
前記微粒子の含有量が、前記合成樹脂100質量部に対して、0.5~5.0質量部である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
前記合成樹脂が、
粘度平均重合度450~1700である非架橋塩化ビニル系樹脂90~99質量部と、
粘度平均重合度700~2300である架橋塩化ビニル系樹脂10~1質量部と、を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等の人工毛髪に用いられる繊維(以下、単に「人工毛髪用繊維」という。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル系繊維は、優れた強度、伸度などを有しており、頭髪装飾品を構成する人工毛髪用繊維として、多く使用されている。このような人工毛髪用繊維には、合成樹脂繊維を人毛に近づけるために、その外観などについて種々の工夫が施されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、きらめきのない自然な外観などを目的として、繊維の断面形状を亀甲形としたうえで、その断面の各辺にくぼみをつけることで低光沢化を図ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実公昭60-14729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような方法で低光沢化を図ったとしても、太陽光などの光ものとでは人毛の質感には至っておらず、合成樹脂繊維であることが分かり易いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、より一層の低光沢化を図りつつ、従来よりも合成樹脂繊維であることが分かり難い人工毛髪用繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、所定の粒子径分布を有する微粒子を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
合成樹脂と微粒子と、を含み、
前記微粒子全体に対する、粒子径2μm未満の微粒子の含有量Cと、粒子径2μm以上5μm未満の微粒子の含有量Cとの差|C-C|が、70質量%以下であり、
粒子径5μm以上の微粒子の含有量Cが、25質量%未満である、
人工毛髪用繊維。
〔2〕
前記粒子径2μm未満の微粒子の前記含有量Cが、前記微粒子全体に対して、10~80質量%であり、
前記粒子径2μm以上5μm未満の微粒子の前記含有量Cが、前記微粒子全体に対して、20~90質量%である、
〔1〕に記載の人工毛髪用繊維。
〔3〕
前記微粒子が、有機微粒子である、
〔1〕又は〔2〕に記載の人工毛髪用繊維。
〔4〕
前記微粒子の含有量が、前記合成樹脂100質量部に対して、0.5~5.0質量部である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
〔5〕
前記合成樹脂が、
粘度平均重合度450~1700である非架橋塩化ビニル系樹脂90~99質量部と、
粘度平均重合度700~2300である架橋塩化ビニル系樹脂10~1質量部と、を含有する、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より一層の低光沢化を図りつつ、従来よりも合成樹脂繊維であることが分かり難い人工毛髪用繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】変角光度計による人工毛髪用繊維の光沢度特性の測定の一態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
〔人工毛髪用繊維〕
本実施形態の人工毛髪用繊維は、合成樹脂と微粒子と、を含み、微粒子全体に対する、粒子径2μm未満の微粒子の含有量Cと、粒子径2μm以上5μm未満の微粒子の含有量Cとの差|C-C|が、70質量%以下であり、粒子径5μm以上の微粒子の含有量Cが、25質量%未満である。
【0013】
本実施形態においては、上記のような粒子径分布を有する微粒子を用いることにより、多方向から照射された光に対して全体的に低い光沢度を有し、一方で、多方向から光を照射したときに一定以上の光沢度を返すことのできる角度幅を広くすることができる。
【0014】
ここで、多方向から照射された光に対して全体的に低い光沢度を有するとは、例えば、変角光度計などによって、入射光と反射光を変角して光の反射を見たときにその最大の光沢度が低いことを意味する。これによって、人工毛髪用繊維はどの角度から見ても過度な光沢を有することなく、自然な光沢感を有することができる。なお、以降において、入射光と反射光を変角して光の反射を見たときの最大光沢度を「ピークトップ光度」ともいう。
【0015】
また、多方向から光を照射したときに一定以上の光沢度を返す角度幅が広いとは、例えば、変角光度計などによって、入射光と反射光を変角して光の反射を見たときに、所定の光沢度を返すような角度(受光角の幅)が広いことを意味する。これによって、人工毛髪用繊維はどの角度から見てもある程度の光沢を有する。一定の角度に対してのみ所定の光沢度を返すような人工毛髪用繊維は合成樹脂繊維であることが分かりやすいが、これと比較して、広い角度に対して所定の光沢度を返すことのできる人工毛髪用繊維の方は、より人毛に近い光沢度特性を有するため、人毛により近い質感を再現することができる。なお、以降において、入射光と反射光を変角して光の反射を見たときに、ピークトップ光度の半分以上の光沢度を返す角度を「半値幅」ともいう。
【0016】
以下、本実施形態の人工毛髪用繊維の構成について、詳説する。
【0017】
〔合成樹脂〕
合成樹脂としては、特に制限されないが、例えば、塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂が挙げられる。このなかでも、好ましくは塩化ビニル系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂であり、より好ましくは塩化ビニル系樹脂である。このような繊維を用いることにより、加工性や、触感などの品質がより向上し、製造コストがより低下する傾向にある。本実施形態の人工毛髪用繊維は、1種の合成樹脂からなるものであってもよいし、2種以上の異なる材質の合成樹脂を混合して用いてもよい。
【0018】
塩化ビニル系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂、各種のコポリマー樹脂が挙げられる。塩化ビニル系樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。このような繊維を用いることにより、加工性や、触感などの品質がより向上する傾向にある。本実施形態の人工毛髪用繊維は、1種の繊維からなるものであってもよいし、2種以上の異なる材質の繊維を混合して用いてもよい。
【0019】
本実施形態においては、塩化ビニル系樹脂は、非架橋塩化ビニル系樹脂であっても、架橋塩化ビニル系樹脂であってもよく、非架橋塩化ビニル系樹脂と架橋塩化ビニル系樹脂の両方を含むことが好ましい。
【0020】
(非架橋塩化ビニル系樹脂)
非架橋塩化ビニル系樹脂は、ホモポリマー樹脂であってもコポリマー樹脂であってもよい。非架橋塩化ビニル系樹脂におけるコポリマー樹脂としては、特に制限されないが、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー樹脂、塩化ビニル-プロピオン酸ビニルコポリマー樹脂等の塩化ビニルとビニルエステル類とのコポリマー樹脂;塩化ビニル-アクリル酸ブチルコポリマー樹脂、塩化ビニル-アクリル酸2エチルヘキシルコポリマー樹脂等の塩化ビニルとアクリル酸エステル類とのコポリマー樹脂;塩化ビニル-エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル-プロピレンコポリマー樹脂等の塩化ビニルとオレフィン類とのコポリマー樹脂;塩化ビニル-アクリロニトリルコポリマー樹脂が挙げられる。
【0021】
これらのなかでも、塩化ビニル系樹脂と塩素化塩化ビニル樹脂の混合物、塩化ビニル-アクリロニトリルコポリマーが好ましい。このような樹脂を用いることにより、加工性や、滑り性や触感などの品質がより向上する傾向にある。
【0022】
非架橋塩化ビニル系樹脂の粘度平均重合度Vは、好ましくは450~1700であり、より好ましくは550~1600であり、さらに好ましくは650~1500である。粘度平均重合度Vが450以上であることにより、人工毛髪用繊維の強度がより向上する傾向にある。また、粘度平均重合度Vが1700以下であることにより、繊維が切れにくくなり生産性がより向上する傾向にある。
【0023】
粘度平均重合度は、樹脂200mgをニトロベンゼン50mLに溶解させ、このポリマー溶液を30℃の恒温槽中、ウベローデ型粘度計を用いて比粘度を測定し、JIS-K6721により算出することができる。
【0024】
非架橋塩化ビニル系樹脂の含有量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、好ましくは90~99質量部であり、より好ましくは95~97質量部である。非架橋塩化ビニル系樹脂の含有量が99質量部以下であることにより、人工毛髪用繊維の光沢度特性がより向上する傾向にある。非架橋塩化ビニル系樹脂の含有量が90質量部以上であることにより、人工毛髪用繊維の紡糸性がより向上する傾向にある。
【0025】
(架橋塩化ビニル系樹脂)
架橋塩化ビニル系樹脂の「架橋」とは、重合鎖内に分岐点を有し、非直鎖状を有することを意味する。一方で、上記非架橋塩化ビニル系樹脂の「非架橋」とは、重合鎖内に分岐点を有さず、直鎖状を有することを意味する。
【0026】
このような架橋塩化ビニル系樹脂は、重合の際に、多官能性モノマーを添加して重合することにより得られる。この際、使用される多官能性モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、ビスフェノールA変性ジアクリレートなどのジアクリレート化合物が挙げられる。架橋塩化ビニル系樹脂は、架橋構造を有し、テトラヒドロフランに不溶な塩化ビニルを主成分とするゲル分とテトラヒドロフランに可溶なポリ塩化ビニル成分との混合物である。
【0027】
架橋塩化ビニル系樹脂のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度Vは、好ましくは700~2300であり、より好ましくは1000~2200であり、さらに好ましくは1300~2100である。テトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度Vが上記範囲内であることにより、人工毛髪用繊維の編み込み性や紡糸性がより向上する傾向にある。
【0028】
なお、架橋塩化ビニル系樹脂のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度は次のように測定される。架橋塩化ビニル系樹脂1gをテトラヒドロフラン60mLに添加し約24時間静置する。その後超音波洗浄機を用いて樹脂を十分に溶解させる。テトラヒドロフラン溶液中の不溶分を、超遠心分離機(3万rpm×1時間)を用いて分離し、上澄みのTHF溶媒を採取する。その後、THF溶媒を揮発させ、非架橋塩化ビニル系樹脂と同様な方法で粘度平均重合度を測定する。
【0029】
非架橋塩化ビニル系樹脂の粘度平均重合度Vと架橋塩化ビニル系樹脂のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度Vとの差|V-V|は、好ましくは600~1850であり、より好ましくは800~1500である。粘度平均重合度の差が600以上であることにより光沢度特性がより向上する傾向にある。また、粘度平均重合度の差が1850以下であることにより紡糸性がより向上する傾向にある。
【0030】
架橋塩化ビニル系樹脂の含有量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、好ましくは1~10質量部であり、より好ましくは3~5質量部である。架橋塩化ビニル系樹脂の含有量が1質量部以上であることにより、人工毛髪用繊維の光沢度特性がより向上する傾向にある。架橋塩化ビニル系樹脂の含有量が10質量部以下であることにより、人工毛髪用繊維の紡糸性がより向上する傾向にある。
【0031】
また、ナイロン系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・10、ナイロン6・12、またはこれらの共重合体が挙げられる。ナイロン系樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
このなかでも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6とナイロン66の共重合体が好ましい。このような樹脂を用いることにより、加工性や、滑り性や触感などの品質がより向上する傾向にある。
【0033】
〔微粒子〕
本実施形態の人工毛髪用繊維は、所定の粒子径分布を有する微粒子を含む。
【0034】
微粒子としては、特に制限されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ナイロン樹脂、これら樹脂を構成するモノマーの共重合樹脂などの有機微粒子;シリカ、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、燐酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリナイト、タルク、マイカなどの無機微粒子が挙げられる。なお、有機微粒子は架橋樹脂であってもよい。また、無機微粒子は表面処理されたものであってもよい。これら微粒子は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
このなかでも、有機微粒子が好ましく、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂、及びナイロン樹脂がより好ましい。このような微粒子を用いることにより、ピークトップ光度がより低下し半値幅がより拡大するため、低光沢化でかつ人毛に近い光沢度特性を有する人工毛髪用繊維が得られる傾向にある。
【0036】
微粒子の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは0.3~10質量部であり、さらに好ましくは0.5~5.0質量部である。微粒子の含有量が上記範囲内であることにより、ピークトップ光度がより低下し半値幅がより拡大するため、低光沢化でかつ人毛に近い光沢度特性を有する人工毛髪用繊維が得られる傾向にある。
【0037】
粒子径2μm未満の微粒子の含有量Cは、微粒子全体に対して、好ましくは10~80質量%であり、より好ましくは20~70質量%であり、さらに好ましくは30~60質量%である。含有量Cが上記範囲内にあることにより、ピークトップ光度がより低下し半値幅がより拡大するため、低光沢化でかつ人毛に近い光沢度特性を有する人工毛髪用繊維が得られる傾向にある。
【0038】
粒子径2μm以上5μm未満の微粒子の含有量Cは、微粒子全体に対して、好ましくは20~90質量%であり、より好ましくは30~80質量%であり、さらに好ましくは40~70質量%である。含有量Cが上記範囲内にあることにより、ピークトップ光度がより低下し半値幅がより拡大するため、低光沢化でかつ人毛に近い光沢度特性を有する人工毛髪用繊維が得られる傾向にある。
【0039】
粒子径5μm以上の微粒子の含有量Cは、微粒子全体に対して、25質量%未満であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは5.0質量%以下である。また、粒子径5μm以上の微粒子は含まれなくてもよい。含有量Cが上記範囲内にあることにより、ピークトップ光度がより低下し半値幅がより拡大するため、低光沢化でかつ人毛に近い光沢度特性を有する人工毛髪用繊維が得られる傾向にある。また、これに加えて、含有量Cが上記範囲内にあることにより、人工毛髪用繊維が白っぽくなったりすることを抑制でき、色味がより向上する傾向にある。
【0040】
含有量Cと含有量Cの差|C-C|は、70質量%以下であり、好ましくは1~60質量%であり、より好ましくは1~50質量%であり、さらに好ましくは1~40質量%であ、よりさらに好ましくは1~30質量%であり、さらにより好ましくは1~20質量%であり、特に好ましくは1~10質量%である。差|C-C|が上記範囲内にあることにより、粒子径5μm未満においてブロードな粒子径分布を有する微粒子を構成することができる。これにより、ピークトップ光度がより低下し半値幅がより拡大するため、低光沢化でかつ人毛に近い光沢度特性を有する人工毛髪用繊維が得られる傾向にある。
【0041】
含有量Cと含有量Cの合計量は、好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上であり、よりさらに好ましくは90質量%以上であり、さらにより好ましくは95質量%以上である。含有量Cと含有量Cの合計量が上記範囲内にあることにより、微粒子のピークトップ光度がより低下し半値幅がより拡大するため、低光沢化でかつ人毛に近い光沢度特性を有する人工毛髪用繊維が得られる傾向にある。
【0042】
上記のような粒子径分布は、粒子径ごとに微粒子を分級して、所定の粒子径を有する微粒子を一部除いたり、あるいは、所定の粒子径を有する微粒子を混合したりすることにより、調整することができる。
【0043】
〔その他の添加剤〕
本実施形態の人工毛髪用繊維には、必要に応じて、その他の添加剤を用いてもよい。その他の添加剤は、人工毛髪用繊維の表面に付着したものであっても、繊維を構成する樹脂組成物に混合されたものであってもよい。
【0044】
その他の添加剤としては、特に制限されないが、例えば、難燃剤、熱安定剤、滑剤が挙げられる。なお、熱安定剤又は滑剤として上記特定化合物に相当する化合物が人工毛髪用繊維の表面に付着する場合には、その量は、上述の特定化合物の合計含有量に制限されるものとする。
【0045】
(難燃剤)
難燃剤としては、従来公知のものであれば特に制限されないが、例えば、臭素化合物、ハロゲン化合物、リン含有化合物、リン-ハロゲン化合物、窒素化合物、金属水酸化物-リン-チッソ化合物がある。それらの中でも、臭素系難燃剤である臭素化合物と、リン系難燃剤であるリン含有化合物、窒素系難燃剤である窒素化合物が好ましい。
【0046】
難燃剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、好ましくは3~30質量部であり、より好ましくは10~20質量部である。
【0047】
(熱安定剤)
熱安定剤としては、従来公知のものであれば特に制限されないが、例えば、錫系熱安定剤、Ca-Zn系熱安定剤、ハイドロタルサイト系熱安定剤、エポキシ系熱安定剤、β-ジケトン系熱安定剤が挙げられる。このなかでも、Ca-Zn系熱安定剤とハイドロタルサイト系熱安定剤が好ましい。このような熱安定剤を用いることにより、人工毛髪製品の製品寿命を延ばし、繊維の変色が抑制されるほか、繊維を形成する際の組成物の熱分解を抑制することができる。熱安定剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0048】
錫系熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、ジメチルスズメルカプト、ジメチルスズメルカプタイド、ジブチルスズメルカプト、ジオクチルスズメルカプト、ジオクチルスズメルカプトポリマー、ジオクチルスズメルカプトアセテートなどのメルカプト錫系熱安定剤、ジメチルスズマレエート、ジブチルスズマレエート、ジオクチルスズマレエート、ジオクチルスズマレエートポリマーなどのマレエート錫系熱安定剤、ジメチルスズラウレート、ジブチルスズラウレート、ジオクチルスズラウレートなどのラウレート錫系熱安定剤が挙げられる。
【0049】
Ca-Zn系熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどがある。
【0050】
ハイドロタルサイト系熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、マグネシウム及び/又はアルカリ金属とアルミニウムあるいは亜鉛とからなる複合塩化合物、マグネシウム及びアルミニウムからなる複合塩化合物、また、これら複合塩化合物の結晶水を脱水した化合物が挙げられる。
【0051】
エポキシ系熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などがある。
【0052】
βジケトン系熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、ステアロイルベンゾイルメタン、ジベンゾイルメタンなどがある。
【0053】
熱安定剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~5.0質量部であり、より好ましくは1.0~3.0質量部である。熱安定剤の含有量が上記範囲内であることにより、人工毛髪製品の製品寿命が延長され、繊維の変色が抑制されるほか、繊維を形成する際の組成物の熱分解が抑制される傾向にある。
【0054】
(滑剤)
滑剤としては、従来公知のものであれば特に制限されないが、例えば、金属石鹸系滑剤、高級脂肪酸系滑剤、エステル系滑剤、高級アルコール系滑剤が挙げられる。このような滑剤を用いることにより、手触り以外にも、組成物の溶融状態、ならびに組成物と押出し機内の、スクリュー、シリンダー、ダイスなどの金属面との接着状態を制御するためにも有効である。滑剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0055】
金属石鹸系滑剤としては、特に制限されないが、例えば、Na、Mg、Al、Ca、Baなどのステアレート、ラウレート、パルミテート、オレエートなどの金属石鹸が例示される。
【0056】
高級脂肪酸系滑剤としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸、またはこれらの混合物などが例示される。
【0057】
高級アルコール系滑剤としては、ステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどが例示される。
【0058】
エステル系滑剤としては、アルコールと脂肪酸からなるエステル系滑剤やペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールと高級脂肪酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、またはこれらの混合物などのペンタエリスリトール系滑剤やモンタン酸とステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコールとのエステル類のモンタン酸ワックス系滑剤が例示される。
【0059】
滑剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、好ましくは0.2~5.0質量部であり、より好ましくは1.0~4.0質量部である。滑剤の含有量が上記範囲内であることにより、紡糸時におけるダイ圧上昇や、糸切れ、ノズル圧力の上昇などを抑制でき、生産効率がより向上する傾向にある。
【0060】
また、添加剤としては、上記の他に、加工助剤、艶消し剤、可塑剤、強化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤、難燃剤、顔料、着色改善剤、導電性付与剤、香料等などを使用することができる。
【0061】
(ピークトップ光度)
本実施形態の人工毛髪用繊維のピークトップ光度は、好ましくは60以下であり、より好ましくは40~58であり、さらに好ましくは45~56である。入射光と反射光を変角して光の反射を見たときの最大光沢度であるピークトップ光度が60以下であることにより、多方向から照射された光に対して全体的に光沢度が低い傾向にある。なお、ピークトップ光度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0062】
(半値幅)
本実施形態の人工毛髪用繊維の半値幅は、好ましくは6°以上であり、より好ましくは7~20°であり、さらに好ましくは8~15°である。多方向から光を照射したときに一定以上の光沢度を返す角度幅である半値幅が6°以上であることにより、人毛に近い光沢度特性を有する人工毛髪用繊維が得られる傾向にある。なお、半値幅は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0063】
〔人工毛髪用繊維の製造方法〕
本実施形態の人工毛髪用繊維の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、上記合成樹脂と、微粒子と、必要に応じて添加剤とを含む組成物を紡糸して合成樹脂繊維を得る工程を有する方法が挙げられる。
【0064】
(組成物の調製)
また、紡糸する組成物は、合成樹脂と、微粒子と、必要に応じて用いる添加剤とを、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンブレンダーなどを使用して混合し、得られたパウダーコンパウンドを溶融混合することで得られたペレットコンパウンドであってもよい。
【0065】
パウダーコンパウンドの製造方法は、ホットブレンドでもコールドブレンドでもよく、製造条件として通常の条件を使用できる。組成物中の揮発分を減少する観点からは、ブレンド時のカット温度を105℃~155℃まで上げたホットブレンドを使用することが好ましい。
【0066】
また、ペレットコンパウンドの製造には、例えば、単軸押出し機、異方向2軸押出し機、コニカル2軸押出し機、同方向2軸押出し機、コニーダー、プラネタリーギアー押出し機、ロール混練り機などの混練り機を使用することができる。
【0067】
ペレットコンパウンドを製造する際の条件は、特に限定はされないが、組成物の熱劣化を防ぐため樹脂温度を185℃以下になるように設定することが好ましい。またペレットコンパウンド中に少量混入しうるスクリューの金属片や保護手袋についている繊維を取り除くため、スクリューの先端付近にメッシュを設置することもできる。
【0068】
ペレットコンパウンドの製造にはコールドカット法を採用できる。コールドカットの際に混入し得る切り粉(ペレット製造時に生じる微粉)などを除去する手段を採用することが可能である。また、長時間使用しているとカッターが刃こぼれをおこし、切り粉が発生しやすくなるため、適宜交換することが好ましい。
【0069】
(紡糸工程)
紡糸工程では、上記のようにして得られた組成物、例えばペレットコンパウンドを、シリンダー温度150℃~190℃、ノズル温度180±15℃の範囲で、押出し、溶融紡糸することができる。この際に用いるノズルの断面形状は、作製する人工毛髪用繊維の断面形状に応じて適宜設定することができる。
【0070】
また、ノズルから溶融紡糸された未延伸の合成樹脂繊維は、加熱円筒(加熱円筒温度250℃)に導入されて瞬間的に熱処理され、ノズル直下約4.5mの位置に設置した引取機にて巻き取ることができる。この巻き取りの際、該未延伸糸の繊度が所望の太さとなるように引取速度を調節することができる。
【0071】
なお、合成樹脂組成物を未延伸の糸にする際には、従来公知の押出し機を使用できる。例えば単軸押出し機、異方向2軸押出し機、コニカル2軸押出し機などを使用できる。
【0072】
(延伸及び熱処理)
上記のようにして得られた未延伸の合成樹脂繊維に対して、延伸処理を施したり熱処理を施したりすることができる。一例として、未延伸の合成樹脂繊維を延伸機(空気雰囲気下105℃)で3倍に延伸後、熱処理機(空気雰囲気下110℃)を用いて0.75倍で熱処理を施し(繊維全長が処理前の75%の長さに収縮するまで熱収縮させて)、繊度が58~62デニールになるようにし、人工毛髪用繊維を作製することができる。
【0073】
(ギア加工)
またさらに、上記のようにして得られた人工毛髪用繊維は、必要に応じて、ギア加工されていてもよい。ギア加工とは、2つの噛み合う高温のギアの間に繊維束を通すことによって捲縮を施す方法であり、使用するギアの材質、ギアの波の形、ギアの端数などは特に限定されない。繊維材質、繊度、ギア間の圧力条件等によってクリンプの波形状は変化しうるが、ギア波形の溝の深さ、ギアの表面温度、加工速度によってクリンプの波形状をコントロールできる。
【0074】
ギア加工条件には、特に制限はないが、好ましくは、ギア波形の溝の深さは0.2mm~6mm、より好ましくは0.5mm~5mm、ギアの表面温度は30~100℃、より好ましくは40~80℃、加工速度は0.5~10m/分、より好ましくは1.0~8.0m/分である。
【0075】
〔人工毛髪用繊維を用いた製品〕
本実施形態の人工毛髪用繊維は、ヘアウィッグ、ヘアピース、ブレード、エクステンンョンヘアー等の頭飾品として好適に用いることができる。
【実施例
【0076】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
1.合成樹脂繊維の準備
下記表1に示す割合で、非架橋塩化ビニル系樹脂、架橋塩化ビニル系樹脂、及び微粒子を配合した塩化ビニル系樹脂組成物をブレンダーで混合し、シリンダー温度130~170℃の範囲において、直径40mmの押出機を使用し、コンパウンドを行い、ペレットを作製した。そして、得られたペレットを押出機で溶融紡糸した。
【0078】
その後、ノズル直下に設けた加熱円筒で約0.5~1.5秒熱処理し、150dtexの繊維とした。次に、溶融紡糸した繊維を100℃の空気雰囲気下で300%に延伸する工程、そして、延伸した繊維に120℃の空気雰囲気下で繊維全長が処理前の75%の長さに収縮するまで熱収縮する工程を順次経て、67dtexの人工毛髪用繊維を得た。得られた人工毛髪用繊維を用いて各評価を行った結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

(微粒子)
ガンツパールGM-0105(アイカ工業社)
ガンツパールGM-0205S(アイカ工業社)
ガンツパールGM-0449S-2(アイカ工業社)
ガンツパールGM-0801S(アイカ工業社)
MX-80H3wT(綜研化学社、平均粒径0.8μm)
(合成樹脂)
非架橋塩化ビニル系樹脂(大洋塩ビ社製、製品名TH1000)
架橋塩化ビニル系樹脂(信越化学社製、製品名GR800T)
【0080】
2.評価方法
2.1.光沢度特性
上記のようにして得られた人工毛髪用繊維の光沢度を、株式会社村上色彩技術研究所製の変角光度計(ゴニオフォトメーター)GP-700を用いて測定した。図1に変角光度計の概略図を示す。まず、基準繊維(デンカ株式会社製、ポリアミド系人工毛髪用繊維 Luxeena、色相#613T)を試料台にセットし、感度調整ダイヤル値(COARSE)を718に設定し、感度調整ダイヤル値(FINE)を737に設定し、入射角を45°に設定し、受光角45°における反射光強度が装置の検出限界の80%となるように、入射光の強度、検出器のゲイン等を調整した。
【0081】
その後、上記のようにして得られた人工毛髪用繊維(評価用繊維)を試料台にセットし、受光角を10°から80°に変化させて反射光強度を測定した。そして、装置の検出限界に対する反射光強度の最大値をピークトップ光度[単位:%]として得た。
(評価基準)
◎:ピークトップ光度が55以下
○:ピークトップ光度が55超過~60以下
×:ピークトップ光度が60超過
【0082】
また、ピークトップ光度の50%以上の強度となる反射光強度が得られる受光角の幅を半値幅[単位:°]として得た。
(評価基準)
◎:半値幅が9°以上
○:半値幅が7°以上9°未満
△:半値幅が6°以上7°未満
×:半値幅が5°未満
【0083】
2.2.色味
上記のようにして得られた人工毛髪用繊維の糸束の色味を、分光測色機(COLOR-7X/クラボウ,D-65光源,測定面積5mm×12mm角)にて測定し得られたL値から色味を評価した。
(評価基準)
◎:L値が20未満
○:L値が20以上22未満
△:L値が22以上25未満
×:L値が25以上
【0084】
2.3.触感
溶融紡糸後の繊維の毛束を触覚で判断し、次のように3段階評価した。具体的には、触感の判定の際、デンカ社製の塩化ビニル系繊維F-GMを基準サンプルとして、以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:基準サンプルより柔らかい
〇:基準サンプルと同等
△:基準サンプルより硬い
【0085】
2.4.紡糸性
溶融紡糸により未延伸糸ができる間で、糸切れの発生状況を目視観察し、次の評価基準により紡糸性を評価した。
(評価基準)
〇:糸切れが1回以下/1時間
△:糸切れが2~3回/1時間
×:糸切れが4回以上/1時間
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等の人工毛髪に用いられる人工毛髪用繊維として産業上の利用可能性を有する。
図1